カーテンの先
※夏になる前のお話の続きですが
今回の記事だけをお読みいただいても、お楽しみいただけます。
「買って来てみた。よくわからないけど、店員さんに聞いたら、これだけあれば緑のカーテンができるって」
悠真はそう言いながら、長い棒のようなものを何本かテーブルに立てかけ、プランターと土、ミニトマトの苗をいくつか買って来たんだと言う。
「世話が大変なんじゃないの?すぐに枯れちゃわない?」
こんな小さなベランダで、プランターから野菜が実る想像が付かない私は、怪訝な顔をする。
「やってみないとわからないよ。枯れそうになったら考えよう」
と言いながら、悠真は、プランターに土を入れ、ミニトマトの苗を植え始めた。
あれから3週間が経とうとしている。
朝の水やりが日課になったお陰で、一日中カーテンを閉めっぱなしにすることがなくなった。
梅雨空は気分まで灰色にしそうだったけれど、小さな黄色い花が咲いているのを見つけた時には、子どものように喜び、仕事中の悠真にLINEを送ったほどだ。
梅雨の間、ベランダにいることが多かった地域猫の純は、梅雨明け前に地域猫をお世話している人と話し合い、正式に我が家の家族になった。
少しずつ変わろうとする毎日に、不意に怯えるたび、悠真は一度カーテンを閉めて、「全部やろうとしなくていいから」と言って、私を抱き締めた。
「もっとミニトマトを収穫して、サーモンのカルパッチョを作ろうか」
と悠真が言うと、私より先に純が「ニャー」と返事をする。
カーテンの先にある夏は、今年も途轍もなく暑く、長いのだろう。
途方もなく穏やかで、静かな時間に、どうしようもなく生きている。
いいなと思ったら応援しよう!
応援いただけたら嬉しいです。