「12億円の旅割」で岩手は本当に豊かになるのか
「12億円の旅割」で岩手は本当に豊かになるのか
岩手県が発表した「おでんせ!いわて旅割キャンペーン」。
総額約12億円、23万人泊分の宿泊支援を行うという。
もちろん、観光業界にとっては歓迎する声も多いだろう。
コロナ後、物価高、人手不足、燃料費高騰の中で、宿泊施設は厳しい状況が続いている。特に沿岸・県北地域では、観光需要の底上げは重要課題だ。
だから私は、「観光支援そのもの」を否定するつもりはない。
しかし、率直に言えば、今回の政策には強い違和感がある。
「安くする」だけで、本当に人は来続けるのか
日本の地方観光政策は、長年ほぼ同じことを繰り返している。
• 割引
• クーポン
• 補助金
• ポイント還元
• プレミアム商品券
つまり、「安くすれば人は来る」という発想だ。
確かに短期的には効果がある。
だが、その結果どうなったのか。
補助金が終わると、人も消える。
これは全国で何度も繰り返されてきた。
本当に必要なのは、
「なぜ岩手に行くのか」
という理由そのものを作ることではないのか。
岩手最大の問題は“情報発信力”
岩手には本来、全国トップクラスの観光資源がある。
• 三陸海岸
• 平泉
• 盛岡の街文化
• 温泉
• 食
• 自然
• 歴史
• 民俗文化
素材だけ見れば、弱い県ではない。
しかし決定的に弱いのは、
「見せ方」
「編集力」
「情報発信」
「物語化」
だ。
例えば海外を見ると、観光とは単なる「宿泊割引」ではない。
地域の文化をどう魅せるか、
地域の空気をどうブランド化するか、
そこに徹底的に投資している。
一方、日本の地方政策は、
「予算を配る」
↓
「一時的に人が増える」
↓
「終わる」
の繰り返しになりやすい。
12億円あれば、別の未来も作れた
12億円という数字は軽くない。
もちろん県全体予算から見れば限定的かもしれない。
だが、その使い方として本当に最適なのかは議論が必要だ。
例えば、
• 世界向け映像コンテンツ制作
• 多言語デジタル戦略
• 地域書店・文化施設連携
• 若手クリエイター支援
• 観光DX
• 二次交通整備
• 地域ブランディング
• 盛岡・三陸の国際PR
など、“未来に残る資産”へ投資する方法もあったはずだ。
補助金は、使った瞬間に消える。
しかしブランドは、積み上がれば何十年も残る。
「安売り観光県」になってはいけない
さらに危惧するのは、地方が“値引き依存”に陥ることだ。
本来、魅力がある地域は「安いから行く」のではなく、
「そこにしかない価値があるから行く」
のである。
京都が毎回半額にしなくても人が来るのは、文化資産とブランド力があるからだ。
岩手も、本来はそうなれる県だ。
むしろ今必要なのは、
「安さ」
ではなく、
「岩手でしか味わえない体験」
を磨くことではないのか。
地方行政に欠けている“編集者視点”
私は最近、岩手の観光政策や地方政策を見ていて、強く感じることがある。
それは、
「編集者がいない」
ということだ。
バラバラに存在する魅力を、
• どう繋ぐか
• どう物語化するか
• どう世界へ届けるか
という視点が弱い。
これは書店業界にもよく似ている。
ただ商品を並べるだけでは、人は来ない。
テーマを作り、
空気を作り、
「行きたい理由」を作る必要がある。
観光も同じだ。
それでも、現場は必死である
ただ忘れてはいけないのは、現場の宿泊施設や観光事業者は本当に苦しいという現実だ。
人手不足、
光熱費高騰、
設備維持費、
食材価格上昇――。
その中で、県として即効性のある支援を打ちたいという事情も理解できる。
だから問題は、
「旅割そのもの」
より、
「旅割しかないこと」
なのだと思う。
岩手は“もっと高く売れる県”である
岩手は、本来もっと高付加価値化できる県だ。
安売り競争ではなく、
• 長期滞在
• 文化体験
• 食体験
• 知的観光
• ウェルネス
• ワーケーション
• インバウンド富裕層
へ本気で舵を切れば、可能性は大きい。
そのためには、
「補助金を撒く県」から、
「地域価値を編集する県」
へ変わる必要がある。
12億円という数字は、
その問いを私たちに突きつけている気がする。
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