メイクを落とさず、雪国へ|2.5
テレビの世界に入る前、僕が想像していた現場は、華やかの一言に尽きた。
計算された衣装、照明、画角、台詞。テレビを通して見ていたのは、すべてが調整され、完成したあとの姿だった。
しかし、実際の収録は、その何時間も前から始まっている。
朝早くNHKに入り、台本を見ながら1日の流れを確認する。注意すべき点を大人たちと話し合い、出演者同士で読み合わせをする。それからメイクをして、衣装に着替え、決められた位置につく。
リハーサルを重ね、細かな調整を終えて、ようやく本番を迎える。
途中で休憩を挟みながら、収録は夜の19時30分ごろまで続いた。
土日の2日間に詰め込まれた、密度の高い収録。終わった直後に浮かんだのは、達成感よりも、ただ疲れたという感情だった。
とはいえ、収録が終わったからといって、のんびりしている時間はない。
僕は20時36分に東京駅を出る、山形行きの最終新幹線に乗らなければならなかった。遅くとも19時45分にはNHKを出ないと間に合わない。
メイクを落とす時間がない日は、そのままの顔でNHKを飛び出した。渋谷駅まで走り、山手線に乗り込む。東京駅に着いてからも、ホームまで人の間を縫うように急いだ。
どうしても間に合いそうにない日は、タクシーで高速道路を走ったこともある。
新幹線の座席に腰を下ろすと、なんとか間に合ったという安心感と、それまで忘れていた空腹感が一気に押し寄せてきた。
収録後に、ゆっくり夕食を食べる時間などない。東京駅で急いで買った弁当が、その日の夕食だった。
せめて温かいものを食べたいと思い、マネージャーのHさんに頼んで、紐を引くと温まる牛たん弁当を買ってもらっていた。
量は少なかったけれど、あれはおいしかった。
追加で買ったお菓子まで食べ終えると、満腹感と疲労感に包まれ、気絶するように眠りに落ちる。
目を覚ましたころ、長いトンネルを抜けると雪国であった。
東京の喧騒は一切の痕跡を消し、車窓の向こうには、ただこんこんと雪の降りしきる白い静寂の世界が広がっていた。
高速で後ろへ流れていく黒い景色と、比較的緩慢な速さで落ちていく白い雪。その2つが重なり合い、奇妙な光景をつくり出している。
それを眺めているうちに、胸の奥に小さな火がともり、蝋燭の炎のように、すっと上へ伸びていった。やがて、その温かさは体全体に広がり、指先まで行き渡る。
安堵のため息とともに、体に残っていた余計な緊張が抜けていった。
窓の縁に肘を乗せ、しばらく雪を眺めていると、車内チャイムが鳴った。
荷物をまとめ、山形駅で新幹線を降りる。
改札の向こうには母親が待っていた。
ひと仕事を終えた僕は、少し大人びた表情をつくり、雪の降る夜のなかを家へ帰っていった。
