信長✖光秀【ダブルエンジン】全80話(第64話)~『明智光秀 × 進軍』
第64話 明智光秀 × 進軍
敵は、誰なのか
六月一日。
夜明けとともに、丹波亀山城を出陣いたし
ました。
空は澄み渡り、夏の陽射しが甲冑を照らして
おります。
兵たちの足並みも揃い、士気は高う
ございました。
誰もが、中国で羽柴秀吉を助けるものと
信じております。
私も、その一人でした。
街道を進みながら、私は馬を並べる
斎藤利三へ声を掛けます。
「利三。」
「はっ。」
「兵の様子はどうだ。」
「皆、士気も高く、疲れも見られませぬ。」
私は静かにうなずきました。
「それならばよい。」
しばらく進むと、一人の伝令が駆け
寄ってまいります。
「殿。」
「何だ。」
「先陣より報せにございます。」
私は馬を止めました。
「申せ。」
「この先の街道は、予定どおり進めます。」
私は地図へ目を落とします。
中国へ向かう道。
何度も確認した道です。
ですが、
私は、
しばらく地図から目を離せませんでした。
利三が静かに申します。
「殿。」
私はゆっくり顔を上げました。
「利三。」
「はっ。」
「兵を止めよ。」
利三は一瞬、私の顔を見つめます。
ですが、すぐに深く頭を下げました。
「承知いたしました。」
太鼓が鳴ります。
長く続いていた行軍が止まりました。
兵たちは、不思議そうに顔を見合わせています。
私は馬上から遠くを見つめました。
風が吹き抜けます。
静かな風でした。
私は目を閉じます。
殿。
長きにわたり、お仕えいたしました。
教えていただいたことも数知れません。
戦とは何か。
国とは何か。
武士とは何か。
すべて殿から学びました。
ですが、
人には、
己で決めねばならぬ時がございます。
私は静かに目を開きました。
「利三。」
「はっ。」
「進路を変える……。」
利三は何も尋ねませんでした。
ただ、力強くうなずきます。
「御意。」
その声とともに、太鼓が再び鳴り響きました。
兵たちは一斉に向きを変えます。
誰一人、その理由を知りません。
私だけが知っていました。
敵は、
毛利ではありません。
私は静かに前を見据えます。
やがて、
京の空が見えてまいりました…。
光秀の今日のつぶやき
人生には、
誰にも相談できぬ決断がある。
その一歩を踏み出した時、
人はもう、昨日までの自分には戻れない。
次回
第65話 本能寺 × 夜
運命は、いつ確定するのか
💙ここまでです。
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