洪水調節と治水容量 (1)
洪水調節と治水容量 (1)
ダムマイスターコラム 45 号
永山ダム技術啓蒙研究所
永山 功
ダムは治水容量を利用して洪水の流量低減(ピークカット)を行う構造物である。日本のダムには,洪水吐きにゲートを持つダム(ゲート調節型ダム)とゲートを持たないダム(自然調節型ダム)があり,それぞれの流入・放流曲線を図ー 1 ,図ー 2 に示す。図中,灰色部分の面積がダムに貯留される洪水貯留量であり,これが治水容量を上回ると,所期の洪水調節ができず,いわゆる緊急放流(異常洪水時防災操作)が必要となる。


一方,河川においては,堤防を越流しないように洪水を流下させなければならず,そのために治水基準点となる地点で計画高水流量を設定し,これに基づいて堤防を整備する。この際,元々の河川の洪水流量を基本高水流量といい,基本高水流量と計画高水流量の差分を上流のダム(群)による治水に委ねている。これが(各)ダムに要求される流量低減量 $${ΔQ}$$である。
ここで,ゲート調節型ダムでは,要求される流量低減量は図ー 1 の $${ΔQ=Q_{i,max}-Q_{o,p}(=Q_{i,max}-Q_{o,max})}$$であることは明確である。しかし,自然調節型ダムでは,要求される流量低減量が図ー 2 の $${ΔQ=Q_{i,max}-Q_{o,p}}$$なのか,$${ΔQ=Q_{i,max}-Q_{o,max}}$$なのかが明確でない。なぜならば,ダム地点における洪水のピーク時の水が治水基準点に達した時に,ちょうど治水基準点の洪水がピークになっているとは限らないからである(上流の 2 つの支川にそれぞれダムがある場合を考えてみれば,容易に理解できると思う)。そこで,通常は,安全側の配慮から, $${ΔQ=Q_{i,max}-Q_{o,max}}$$を要求される流量低減量とするのだが,これを$${ΔQ=Q_{i,max}-Q_{o,p}}$$ として計画しているダムが少なからずある。筆者はこれに問題意識を抱いている。
それはさておき,ダムの治水容量$${V_F}$$の大きさはどのようにして求めるべきであろうか。一般に知られていることは,「最大流入量$${Q_{i,max}}$$がダム地点の計画高水流量$${Q_P}$$となる洪水は,ダムの治水容量を決める洪水にはならない」という事実である。これは,図ー 1 ,図ー 2 において,縦軸を 1/2 倍,横軸を 2 倍にした洪水を考えればすぐに分かる。最大流入量$${Q_{i,max}}$$は 1/2 になるが,洪水貯留量$${V_s}$$は変わらない。これから言えることは,「堤防を設計する河川技術者とダムを設計するダム技術者とでは,着目点が異なる」ということである。河川技術者は洪水のピーク流量だけを考えればよいが,ダム技術者は洪水の総流入量を考えなければならない(勿論,ピーク流量を無視してもよいということではない)。
これを,専門用語を用いて言えば,「ピーク流量の 100 年確率洪水と総流入量の 100 年確率洪水は等しくない」ということである。「最大流入量 $${Q_{i,max}}$$がダム地点の計画高水流量$${Q_P}$$となる洪水は,ダムの治水容量を定める洪水にはならない」ことは多くのダム技術者が知っているが,「ピーク流量の 100 年確率洪水と総流入量の 100 年確率洪水は等しくない」ことはあまり知られていない。しかし,このことを知っていなければ,正しいダム計画は立案できないのである。治水計画は河川技術者に任せ,ダム技術者はその後の構造設計だけを考えればよいという訳にはいかない。治水容量はダム技術者が責任をもって決めなければならない値なのである。
