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ナンに倒された夜


やっと仕事の繁忙期が過ぎた休日のお昼時、どこにも出かける気力はないけど外のご飯が食べたくて、節約を理由に数ヶ月封印してきた出前に手を出した。スマホでポチポチするだけでラーメンでもお寿司でもクレープでも何だって届けてくれるだなんて、ずいぶん育ったメタボリックな体型に拍車がかかるのは分かってるけど疲労困憊の今は仕方がない。


この度選んだのは以前から興味があったインドカレー。カレーが目当ていうよりも、人生で一度も食べたことがないナンがむしろメイン。
普段お家カレーしか食べなくてお供は米だったので、今まで出会うことがなかったナン。初めて食べるなら市販で売っている中途半端なもの(失礼)ではなくて、ちゃんと本場のカレー職人が同僚と厨房でお喋りしながら作り上げたナンに腹を捧げると心に決めていた。そしてその時がついにきた。


今回は念願のチーズナンとチョコレートナンをチョイス。初心者ならまずスタンダードなナンを選びなさいよっていう話だけど、ここはあえて飛び級してみた。正当なご意見に私は耳を貸さない捻くれ者だから。
付属したカレーは1~50辛選べる中で2辛。本場のスパイスにひよった。そんなチキンな私はもちろんチキンカレー。大食漢だけどお腹が弱い。あと健康に気を遣ってる風を装ってほうれん草のカレーも追加。色々頼んだけど私の世界ではこれで1人前。


30分くらいで届く話だったので呑気にゴロゴロしていたら、たった15分で到着。あれ?隣の家で作ってました?と思ったくらいの爆速お届けに、配達の評価レビューには文句なしで高評価をつけた。暑い中私ごときの昼食にこき使われたおじさんありがとう。でも強いて言うならドアの目の前じゃなくてドアの横に置いてほしかった。文句なし、は前言撤回。

さっそく袋から取り出すと出来立てホヤホヤなんて可愛いもんじゃない、ダチョウ倶楽部のコントかっていうくらい激アツな銀紙に包まれたナンが登場。ピザみたいに丸い状態ではなくカルツォーネのような二つ折りになっていて、見た目の感動はなかった。でも指に軽いやけどを負いながらそれを開いてみれば、チーズもチョコレートもたっぷりでまさしく悪魔の食べ物と言うに相応しいヴィジュアルで圧倒された。


その名に偽りなくチーズに溺れるナンを一口頬張ってみると、グルメ漫画のような輝かしい桃源郷が脳内再生された。なぜこれを知らずに生きてきたんだと悔やまれる。チョコの方もヘビー級の重量で『チャーリーとチョコレート工場』の映画に出てくる、太っちょなオーガスタスくらい顔にベッタベタくっつけながら豪快に食べたら、過去5年くらいの間に起こった嫌な事なんて全てぶっ飛んだ。


あいにく主役から落選したカレーをお口直しに(2辛でもピリ辛でちょうど良かった)チーズとチョコのナンを3切れずつ食べたら思いのほかお腹も心も満足して残りは夜に持ち越した。
歯磨きしてベッドにのっそり横になる。まさに食っちゃ寝。今日は何もしてない。明日も休み。これを幸せと呼ばずして何と言う。そんなことを思いながら静かに眠りについた。


2時間くらい夢の世界をさまよったところで、友人からの電話で起床。君が働いている間に私は美味いナンを食い散らかしてたんだぜと謎に「ナンマウント」をかました。そんなことくらいしか取れるマウントがない。
それはさておき、その頃から少しずつ臓器に異変を感じ始めた。

そういえば最近は暴飲暴食をしていない。どうにも毎日疲れていたため、買い物をサボって家にあるもので食いつないでいたので、暴食できるほど派手な食事はできなかった。
それが急に山盛りのチーズとチョコが詰まったナン、2辛とはいえ本格的なスパイスが効いたカレーなんて空腹に入ってきたもんだから、身体もビックリしたんだろう。
この感覚はやばい…と脳が気付いてしまってから、みぞおちの辺りがぎゅうっと痛み出してきた。


どうもお久しぶりです、胃痛さん。
久々にあなたを呼び起こしてしまいました。


昼間は幸せで満ち足りていた日本版オーガスタスは、夜には胃薬を飲んでちびまる子ちゃんの山根君と同じ顔をして丸まっていた。ドカ食いの後はいつもこんな感じで床に伏す。過去に何度も同じ経験をしているのに学習しない私は愚か者だ。でも食べたい欲求が抑えられないし、今日は調子いいから全然イケる!と毎度思っているからタチが悪い。
結局その夜は夜通し観ようと思っていた映画をやめて、仕事の日より早く寝るという休日の無駄遣いをした。


翌朝、冷えて硬くなったナンをレンジで温める。こんなに苦しい想いをしても、痛みが消えればまた食べたい欲が出てきた。日本の製薬会社さんにはいつも助けられている。私がどれだけ無茶をしても翌日にはすっかり治してくれるんだから。
さて昨日の仕切り直しだと、甘ったるいチョコレートナンを1切れ食べる。食感は少し変わってしまったけど味は美味しい。甘さの後には塩味が欲しいと今度はチーズナン。この幸せのループにキュルっと胃も鳴って、また数時間後に大暴れするための助走をつけていた。



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