自衛隊での話~レンジャーとは何か
レンジャーとは何か。
そして、なぜ私はレンジャーになりたかったのか
陸上自衛隊には「レンジャー」という制度がある。
一般には「体力的に厳しい訓練」というイメージが強いかもしれない。
確かにそのイメージは間違っていない。
しかし、本当のレンジャー訓練は単なる根性訓練ではない。
私自身、陸上自衛隊富士学校の幹部レンジャー課程を修了し、
レンジャー資格を取得したが、
資格取得のための教育だけでなく
その後のレンジャーとしての勤務を振り返ってみると、
一番大変だったのは体力ではなく、
多岐にわたる能力を短期間で身につけることだったと感じている。
そもそもレンジャーとは何か
レンジャーとは、敵の後方地域等へ潜入し
各種の任務を担う隊員である。
例えば、
敵指揮所や重要目標への襲撃
兵站施設の破壊
敵視機関や輸送車両に対する伏撃
情報収集、通信支援
といった任務が想定される。
そのためには、敵に発見されずに
敵地に潜入する能力が必要になる。
その方法も様々で
航空機やヘリコプターからの降下
水路からの侵入
艦艇やボートによる接近
山岳地帯での隠密行動
長距離行軍
登はん
岩登り
がけ下り
など、あらゆる地形や状況に対応できなければならない。
つまりレンジャーとは、単に体力がある人ではなく、
「どんな環境においていかなる任務をも遂行できる人」
を育成するための教育なのである。
なので体力だけではない
レンジャーというと、重い荷物を背負って
長距離を歩く訓練ばかりが取り上げられる。
しかし実際には、それ以上に多くの技術を習得する必要がある。
例えば、
射撃
格闘・隠密処理
夜間行動
襲撃・伏撃技術
偵察技術
無線通信の知識
サバイバル技術
爆薬の取扱い
救急法
などである。
敵の後方に少人数で潜入した場合、誰も助けてくれない。
そこで生き残り、任務を達成するためには幅広い技術が必要になる。
レンジャー教育は、体力だけを試す教育ではなく、
「総合的な戦闘技術を身につける教育」なのだ。
レンジャーになれる人
よく、
「特別な人しかレンジャーになれないのでしょうか」
と聞かれる。
私の考えでは、陸上自衛官として勤務できる素地があるなら、
レンジャー資格を取得することは十分可能だと思う。
もちろん楽ではない。
しかし、生まれつき超人的な能力が必要なわけではない。
必要なのは、
強い志願意思
素養試験への準備
訓練を完遂するための事前訓練
である。
結局のところ、
「自分からその訓練に飛び込む覚悟があるか」
が最も重要だったように思う。
なぜ私はレンジャーになりたかったのか
私は昔からレンジャーになりたかった。
なぜかと聞かれると、正直なところ、うまく説明できない。
ただ、とにかくなりたかった。
しいて言うなら、
「どこに行っても一人で生き抜ける力が欲しかった」
からかもしれない。
食料がない。
寝る場所もない。
助けも来ない。
そんな状況でも生き残り、任務を達成する能力。
人間として極限まで鍛えられた能力に憧れていた。
だから私はレンジャーを志願した。
私が最も尊敬する人たち
レンジャー資格を取得した今、私が最も尊敬するのは誰か。
それはレンジャー徽章を付けている人だけではない。
志願したすべての人である。
素養試験で選抜されなかった人。
訓練途中で原隊復帰となった人。
そして訓練を完遂した人。
そのすべてを私は尊敬している。
なぜなら、あの訓練に自ら手を挙げて参加すること自体が並大抵のことではないからだ。
厳しいことが分かっている。
苦しいことも分かっている。
それでも挑戦する。
私はそれだけで十分に価値があると思う。
レンジャーを終えて思ったこと
レンジャー資格を取得して最初に思ったことは、
「両親に感謝しよう」
ということだった。
レンジャーを完遂するためには努力が必要である。
しかし努力だけではどうにもならない部分もある。
身体の丈夫さ。
故障しにくさ。
回復力。
そうした土台がなければ訓練を乗り越えることは難しい。
五体満足に生んで育ててくれた両親への感謝を強く感じた。
そしてもう一つ思ったことがある。
それは、
レンジャーは資格を取って終わりではない
ということだ。
レンジャー徽章を胸に付けた瞬間に、任務ができるようになるわけではない。
本当の勝負はその後である。
訓練を続けること。
学び続けること。
人を育てること。
任務を完遂できる能力を磨き続けること。
それが本当の意味でのレンジャーだと思う。
おわりに
レンジャーとは、単なる体力自慢の集団ではない。
どんな環境でも生き残り、任務を達成するための技術と精神力を身につけた者である。
そして私は今でも思う。
レンジャーで本当に試されるのは、体力ではなく意思だと。
厳しさを理解したうえで、それでも挑戦する覚悟があるか。
レンジャーとは、その覚悟を持った人たちが挑む世界なのである。
