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ささっと滞在時間20分飲み ささのや@鶯谷

会議室の蛍光灯に照らされながら、誰も本気では読んでいない資料の説明を聞き続け、気づけば時計はすっかり夜だった。

昼頃、娘からLINEが来ていた。
「夜ごはんどうする?」
早く帰れたら東京駅のBIS TOKYO丸の内にある「つるとんたん」に行こう。そう約束していたのである。

もっとも、「早く帰れたら」という条件付きの約束ほど、中年会社員にとって危ういものはない。これは「落ち着いたら飲みに行きましょう」と同じくらい信用ならない日本語である。

案の定、会議は長引いた。
しかし娘の終業時間は私より一時間遅い。尚且つ東京駅へは、私の勤務先より遠い。ならば少しだけ時間調整をしよう。そう考えた私は、帰宅途中の人間とは思えぬ軽やかさで鶯谷へ向かった。

そう、「ささのや」である。
相変わらず盛況だった。店の前には人が溢れ、外国人観光客まで焼鳥を頬張っている。今や焼鳥という食べ物は、お好み焼きやラーメンと並ぶ、日本を代表するB級グルメではなかろうか。

幸い、私の好きな立ち飲みスペースに空きがあった。狭い。暑い。隣との距離も近い。
だが、この窮屈さがいい。中年になると、不思議と高級店よりこういう場所に安心する。銀座のクラブでは背筋を伸ばしてしまうが、立ち飲み屋では自然に猫背になれる。人間、本当に落ち着ける場所とは、多少みじめなくらいがちょうどいいのではなかろうか。

熱燗を頼む。

それから、いつもの。
「ナンコツ、タン、ツクネ。塩で二本ずつ」

この店のタレ焼きはすでに焼かれたものがタレに浸けてあり、客が自分で取る方式だが、塩は注文を受けてから焼く。そのため少し待つ。

そこへ娘からLINE。

「これから会社出る」

すわ!急に忙しくなった。
ところが、それとは裏腹に追加でオニオンスライスを頼む。塩焼きは注文を受けてから焼くゆえ、まだ慌てる時間ではないのだ。酒場での時間配分は仕事より得意なのである。

もっとも、「スライス」という言葉はゴルフ場では聞きたくもないのに、酒場では自分から頼んでいるのだから都合がいい。

薄くスライスされた新玉ねぎは水気がほどよく抜け、醤油を垂らすと妙に酒を呼ぶ。熱燗を流し込むと、胃のあたりにじんわり熱が落ちていく。この感覚が好きで酒を飲んでいるのか、それとも単に現実逃避なのか、自分でもよく分からない。

若い頃の私は、酒とは人生を語るために飲むものだと思っていた。仲間と飲めば仕事論を語り、恋愛論を語り、ときには頼まれもしない人生論まで語った。

しかし現在の私は、焼鳥の提供時間を逆算しながら熱燗を飲み、「あと10分で出られるか」を真剣に考えている。人間の成長とは、案外こういうことなのかもしれない。

やがて焼物が到着した。

残り5分。

ここからが勝負である。
熱燗をおかわりし、ナンコツを齧る。コリコリというより、もはやゴリゴリである。タンは脂が適度に抜け、噛むほどに旨味が出る。ツクネは妙に丸く、妙に柔らかい。どれも「酒を飲むため」に特化した味だった。

私は焼鳥を6本、一気に流し込んだ。
もはや飲食ではない。与えられた時間の中で焼鳥と熱燗を片付ける、一種の早食い競技である。

串6本、オニオンスライス、熱燗2杯。
締めて1,480円。
この金額が実にいい。最近の東京では、洒落たカフェでサンドイッチとコーヒーを頼んでも平気で2,000円近くする。それを思えば、熱燗で身体を温め、焼鳥で腹を満たし、さらに娘との待ち合わせ時間まで調整できて1,480円。費用対効果という点では、株式投資より優秀なのではなかろうか。もっとも、私の人生において投資と呼べるものは、こういう酒場への暖簾代くらいなのであるが。

ごちそうさま、と告げて店を出る。
鶯谷から東京駅へ。

紆余曲折ありながらも、なんとか娘を待たせずに落ち合うことができた。改札越しにこちらへ手を振る娘を見ながら、私は少しだけ安心した。

もっとも、その直後に「なんか酒くさくない?」と言われたので、父親としての威厳は完全に失われたのであるが。

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