アジサイボンボン。【子育てエッセイ】
雨の日。
息子は不機嫌。
いまいち理由はよく分かりません。
本人にもよく分かっていなかったと思います。
ただ、「つまんない」と言いながら歩いていました。
子どもの「つまんない」は便利です。
眠いも入っていますし、お腹が空いたも入っていますし、なんとなく面白くないも入っています。とりあえず全部まとめて、「つまんない」です。
道ばたのアジサイを眺めながら歩いていると、ふと思い出しました。
そういえば、お隣のおばあちゃんとアジサイの交換こをする約束をしていたのです。
お隣にはピンクのアジサイ。
我が家には紫色のアジサイ。
「今度切って交換しましょうね」
そんな話をしていました。
アジサイ界にも物々交換という文化があるようです。
帰宅して、庭のアジサイを何本か切りました。
雨粒を抱えた紫色のアジサイです。
せっかくなので、おばあちゃんに渡す前に写真を撮ろうと思いました。
そして、ふとひらめいたのです。
人は花束を持ちます。
花瓶に飾ります。
胸に花を挿すこともあります。
だったら、頭に乗せてもいいのでは?
まずは息子です。
アジサイを頭にそっと当てます。
パシャ。
「見てみ、アジサイボンボン!」
スマホを差し出しました。
息子は画面を見るなり、「ぶはっ!」と吹き出しました。
見事なアジサイアフロでした。
想像以上に似合っています。
さっきまで「つまんない」を連呼していた人とは思えません。
不機嫌はどこかへ消えていました。
すると今度は、「お母さんもやって!」と言います。
嫌な予感しかしません。
でもやります。
親というのは、子どものためなら、ときどき無茶をする生き物です。
パシャ。
私は完全にアジサイアフロおばさん……。
息子はスマホの画面を見て、お腹を抱えて笑っています。
私も見てみました。
なるほど。
これはなかなかの仕上がりです。
アジサイアフロおばさん改め、フローラルマダム爆誕です。
ポケットにあめちゃんでも入れれば、もう完成形でしょう。
商店街の福引会場あたりで、「はいはい、みんな並んでね〜」と声をかけていても違和感がありません。
さっきまで世界の終わりみたいな顔をしていた息子が、今はフローラルマダムを見て笑っています。
人間って、案外その程度なのかもしれません。
雨は止んでいません。
靴も濡れています。
帰ったら息子には宿題。
私には生乾きの洗濯物…。
現実は何も変わっていません。
それなのに、私たちはさっきより少し機嫌がよくなっていました。
私はモヤモヤすると、つい原因を探したくなります。
なぜだろう。
どうしてだろう。
何が問題なのだろう。
答えを見つければスッキリする気がして。
でも、そうならないことも結構あります。
人生にはたまに、原因分析より先にアジサイアフロが効く日があります。
撮った写真は、今でも残っています。
見るたびに思います。
雨の日を楽しんだというより、私たちはただ、アジサイを頭に乗せて笑っただけでした。
でも案外、幸せってそういうものなのかもしれません。
立派な答えが見つかった日ではなく、フローラルマダムが爆誕した日を、あとから何度も思い出したりするのです。
おしまい
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