【特別編①】消えた陳情第28号・第29号― 鎌倉市議会で何が起きていたのか ―
2026年7月26日ズバッと鎌倉 #特別編 ①
2026年6月、鎌倉市議会は前代未聞の事態に見舞われた。




議長に対する辞職勧告、議員13人による辞任要求、そして本会議の流会―。結果として市民から提出された27件の陳情も廃案になった。
神奈川新聞をはじめ各メディアは、この一連の混乱を大きく報じた。
しかし、この混乱は突然始まったものではない。
議会運営委員会の反訳、陳情書、情報公開請求の回答、教育委員会とのやり取りなどの資料を時系列で追っていくと、一つの転換点が見えてくる。
それが、2025年9月である。
本稿では、公開資料や行政文書などをもとに、その経緯を整理していく。
◆すべての始まりは一通の告訴状だった
2025年9月4日。
鎌倉市議会議長・中沢克之氏に関する詐欺容疑の告訴状が横浜地方検察庁に提出された。
告訴人は、鎌倉市坂ノ下で「ヴィーナスカフェ」や「稲村ヶ崎温泉」を経営する吉澤治郎氏である。
告訴の内容について本稿では立ち入らないが、この告訴によって、市議会議長が刑事告訴されたという事実が公になったことは、その後の議会運営に少なからぬ影響を与えたと考えられる。
同日午前9時30分からは、鎌倉市議会9月定例会本会議が予定されていた。
その開会前、中沢議長は急きょ代表者会議を招集した。
会議では、「告訴されているのは自分ではなく会社である。」という趣旨の説明を行ったとされている。
議長として、議会内で事実関係について説明する必要があると判断したものと思われる。
しかし、この日を境に、議会ではもう一つ大きな動きが始まることになる。
◆わずか4日後に始まった制度変更
9月8日。一般質問の途中、議会運営委員会が急きょ招集された。議題となったのは、陳情配付基準の見直しである。
このタイミングは極めて異例だった。
従来の陳情配付基準は、2014年11月19日に議会運営委員会で確認されたもので、陳情が一定の基準に該当する場合には、委員会へ付託せず、全議員へ配付するという運用が定められていた。
ところが、この日提案された改正案では、その運用が大きく変更される。
従来の基準では・・・
* 法令違反や公序良俗に反するもの
* 個人や団体の名誉を毀損するおそれのあるもの
* 個人の秘密を暴露するもの
* 係争中の裁判等に関するもの
* 市職員の個別処分を求めるもの
* 議員の身分に関するもの
などについても、議会運営委員会で取り扱いを協議し、その結果として全議員配付とするかどうかを決めていた。
しかし改正後は・・・
「これらに該当する陳情については、議長・副議長が取り扱いを判断する」という形へ変更された。
つまり、従来は議会運営委員会という複数の議員による合議で決めていたものが、正副議長の判断に委ねられることになったのである。
これは議会運営の仕組みにおける、大きな変更だった。
◆改正理由として示された「個人情報保護」
議会運営委員会では、この改正理由についても説明が行われた。中沢議長は、「個人情報に関わる問題である」
との趣旨を述べたとされる。
また、長嶋竜弘議会運営委員長は、休憩中の説明として、
ある市民が個人名を含む陳情を提出しようとしており、現行制度では全議員に配付されることになるため、個人情報を保護するには基準を変更する必要がある、という趣旨の説明を行ったとされている。
議会運営委員会では・・・
「会派へ持ち帰って検討したい。」
「個人名を黒塗りにして配付する方法もあるのではないか。」といった意見も出たという。
しかし最終的には反対意見は出されず、新たな配付基準はその日のうちに確認され、9月8日から適用されることとなった。
◆市民の陳情は誰が判断するのか
今回の改正で最も大きく変わった点は、「誰が判断するか」である。
これまでは、陳情の取り扱いは議会運営委員会で協議されていた。
委員会は複数の議員によって構成されており、それぞれの意見を踏まえた上で、陳情の取り扱いが決められていた。
しかし改正後は、公開に慎重を要する内容については、まず正副議長が判断する仕組みとなった。
この制度変更は、個人情報保護を理由として説明された一方で、議会内でも「黒塗り対応で足りるのではないか」「議会運営委員会で引き続き協議すべきではないか」といった意見が出されていたことも記録されている。
制度変更そのものの是非についてはさまざまな考え方があり得る。
しかし重要なのは、この改正が議長に対する告訴が公になってからわずか4日後というタイミングで行われたことである。
この時間的な近接性について、市民が疑問を抱いたとしても不自然ではないだろう。
そして翌日―
新しい陳情配付基準が適用された翌日の9月9日。
鎌倉市議会には二通の陳情が提出された。
一つは、
「中沢克之市議会議長が詐欺容疑で告訴されたことについて調査し綱紀粛正を求める陳情」
もう一つは、
「陳情配付基準の突然の改訂に関して検証するよう求める陳情」である。
いずれも議会事務局で受付され、収受印が押され、陳情番号「第28号」、「第29号」が付された。


しかし、この二通の陳情は、その後、市議会の中から姿を消すことになる。
その一方で、同じ「陳情第28号」「陳情第29号」という番号は、まったく別の陳情に付されることになった。

なぜ、そのようなことが起きたのか。
次回は、受付されたはずの陳情第28号・第29号に何が起きたのかを、収受印のある陳情書、議会資料、告訴状などの一次資料をもとに検証していく。
(記事:鎌倉コミュニケーションズ)
