小さな研究室 #01_ふだん冷凍販売していない、父のねりきりをいきなり冷凍してみた
はじめに|「小さな研究室」について
いつもこのnoteでは、全国のオンライン上生菓子を取り寄せその体験を観察したり、和菓子に関するコラムを中心に発信しています。
ですが、この「小さな研究室」は少し違います。
疑問に感じている事を小さな仮説として立て、自分たちの手で実験し、記録していく場所です。
完成された答えを見つけることが目的ではありません。
「もしかしたら、こんな可能性があるかもしれない。」
そんな小さな発見を積み重ねながら、研究・開発の姿をありのまま記録していきます。
未来の上生菓子ブランドのあり方を考えていきたいと思っています。
温かく見守っていただけると嬉しいです。
さて、記念すべき第一弾は、私が取り組んでいる冷凍上生菓子のプロジェクトにも繋がるテーマです。
今回協力してくれたのは、実家の和菓子屋で職人をしている父。
普段は冷凍販売を行っていない練り切りを、あえて冷凍してみることにしました。
さて、どんな変化が起きるのでしょうか?
1|今回の研究テーマ
ふだん冷凍販売していない練り切りを、いきなり冷凍したらどうなるのか?
冷凍上生菓子は少しずつ広がりを見せていますが、すべての和菓子屋さんが冷凍販売を前提に商品設計しているわけではありません。
そこで、こんな疑問が生まれました。
「普段は店頭販売している練り切りを、そのまま冷凍したらどうなるのだろう?」
味、食感、見た目。どこに変化が現れるのか。
今回は、そんな素朴な疑問から始まった実験です。
2|今回使用した練り切りについて
今回使用したのは、実家の和菓子屋で父が作った練り切りです。父は長年、和菓子職人として季節の上生菓子を作り続けてきました。
今回の私のプロジェクトにも賛同してくれており、「まずはやってみよう」と協力してくれました。
ただし、これは冷凍販売用に設計された商品ではありません。あくまで、普段店頭で販売しているものです。
だからこそ、よりリアルな検証になるのではないかと思いました。
3|急速冷凍と瞬間冷凍の違い
今回は「急速冷凍」で行いました。
冷凍と一言でいっても、実はいくつか種類があります。
急速冷凍
短時間で一気に温度を下げる方法です。
食品の中にできる氷の結晶を小さくすることで、細胞へのダメージを抑えます。
業務用の冷凍庫でも広く使われている方法です。
瞬間冷凍
さらに短時間で冷凍する技術の総称で、特殊な冷凍機を使用します。
急速冷凍よりも、より細胞へのダメージを抑えられることが特徴です。
最近では、高級食材や飲食店などでも導入が進んでいます。
今回の実験では、「瞬間冷凍」ではなく、「急速冷凍」を採用しています。
つまり、特別な設備ではなく、比較的導入しやすい方法でどこまで品質を保てるのかも、一つの検証ポイントです。
4|冷凍前の仮説
冷凍する前に、いくつか予想を立ててみました。
表面が乾燥するかもしれない
解凍時に水分が出るかもしれない
餡のなめらかさが変化するかもしれない
風味が弱くなるかもしれない
一方で、思っている以上に変化が少ない可能性もあります。
「冷凍=品質が落ちる」
そんな固定観念も、一度横に置いて観察してみたいと思います。
5|観察ポイント
少し話は逸れますが。
今回使用した上生菓子を少しだけご紹介させてください。
菓銘は「入梅(にゅうばい)」です。
梅雨へ季節が変わる中、熟す梅の実が雨に濡れる様子を表現しています。
こだわりは、梅の実の色を緑〜黄色〜赤と、さりげなく変化させて淡いグラデーションを作っているところです。
また、ツヤを上部にだけ付け、梅が大きく実りつつも、雨が降り注ぐ6月の梅雨入りを魅せています。

①見た目の変化
やはり気になるのは、型崩れです。
実際に冷凍してみて、水分量が変化した割には大きな型崩れは見られませんでした。
あとは、水滴です。ケースに結露が現れました。
この問題はどう解決すれば良いのでしょうか?

②表面の乾燥具合
解凍を2時間行い、試食しました。
この段階では特に乾燥は気になりませんでしたが、もし、解凍時間が3時間だったら?
結果は違っていたかもしれません。
③解凍時の水分の出方
見た目のベチャつき感はありませんでした。

入梅の雨をイメージした表現のひとつです
④食感の変化
これが1番大きなポイントとなりました。
全国のお取り寄せ上生菓子を観察して、父が造っている練り切りは比較的水分量が多いように感じています。
その水分量は冷凍したことで、顕著に食感に現れました。
「ねっとり」が最も近い表現。
舌の上でさらさら解ける食感は、非冷凍時と比べ少し鈍いような気がします。
水分量に関しては、成分の配合割合など、改善の余地がありそうです。
ここを解決できれば、急速冷凍でも食感を損なわずに冷凍販売できる可能性はあるのかなと思いました。

⑤風味の変化
甘みの変化は、非冷凍時と冷凍時問わず大きく変わらない印象でした。
水分量の変化により食感が変わっているので、風味も影響を受けると思っていましたが、そこまで感じず。
また、非冷凍時の風味を知っているからこそ、冷凍時の変化に気づきやすいかなと想像していましたが、そこまで感じなかった点も、予想外の結果でした。
⑥総合的な満足度
特殊な設備はなくとも、練り切りを冷凍販売することは十分に可能だということを感じました。
ただ、完璧ではありません。「及第点」といった具合です。
造り手は常に、お客様には最高の状態で召し上がっていただきたいと願うので、成分の配合や冷凍設備の検討は必要になってくるかもしれないと気がつきました。
6|研究室は、未完成のままで
この「小さな研究室」には、正解はありません。
失敗することもあるかもしれないし、思いがけない発見があるかもしれません。でも、その遠回りの時間そのものが、新しい和菓子の可能性を見つけるヒントになる気がしています。
父という職人と、娘である私。
世代の違う二人が、小さな実験を重ねながら未来の和菓子を考えていく。
そんな場所にしていけたらと思っています。
私は、今回、解決すべき課題が見えた気がして、とても有意義な実験となりました。
今後も、未来の和菓子を考えるにあたり、さまざまな角度から実験していきたいと思います。
皆さんなら、「冷凍した練り切り」で品質が保てるとしたら、和菓子の楽しみ方はどう広がっていくと思いますか?
本日もお読みいただきありがとうございました。
※本記事は、筆者個人による購入・試食体験および観察に基づくレビューです。味覚・価格・体験に関する感じ方には個人差があります。
※掲載している商品情報・価格・発送日数・販売状況等は購入時点の情報です。季節商品・期間限定商品などは、現在は販売終了・仕様変更・価格改定となっている可能性があります。
※記事内の内容は、和菓子の体験設計・オンライン購入体験についての個人的な考察であり、特定企業・商品を批判・評価断定する意図はありません。
※商品画像を掲載する場合は、筆者自身が撮影したものを使用しています。
和菓子屋の娘
