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EMPフリー計画

*「国家強靭化計画」は、日本政府の既存政策である「国土強靭化計画」と紛らわしいので、改めます。
「EMP国家耐性化計画」(通称:「EMPフリー計画」)が新名称です。さらに言いやすく「EMPフリー」として、日常お使いくだされば幸いです。

EMP耐性ライフライン18項目と省庁割り振り——EMP国家耐性化計画の始動時期を含む政策提言

マー|2026年6月


名称に関する付記

本稿は当初「国家強靭化計画(仮称)」の名称で構想されたが、内閣官房が推進する既存の国家政策「国土強靱化」と名称が酷似し混同を招く恐れがあるため、正式名称を**「EMP国家耐性化計画」**に変更した。「強靱化」を「耐性化」に置き換えることで、防災・減災を主眼とする国の既存計画とは思想の出自から異なることを明示している。

なお、日常的な呼称・通称としては**「EMPフリー計画」**を用いる。


はじめに

核EMP(電磁パルス)攻撃は、現代文明を支えるあらゆるインフラを同時に機能停止させる。 その被害を最小化し、文明を継続させるためには、何を守るかを先に決めなければならない。

本稿は、LSCP(ライフラインセミコンダクタープロジェクト)の政策設計の一環として、文明のライフラインを18項目に体系化し、現行の日本の省庁体系に割り振る試案を示す。加えて、EMP国家耐性化計画をいつ始めるべきかについての独自提言を末尾に付す。


ライフライン18項目の体系

文明のライフラインは、その性質によって四つの層に分かれる。

【第一層:物質系】(1〜6番)

# ライフライン 内容 1 水・衛生 上下水道・浄水・排水 2 食料(備蓄・流通) 生産・備蓄・流通 3 エネルギー(電力) 発電・送配電 4 エネルギー(熱・燃料) ガス・石油・LPG・薪炭 5 輸送・物流 道路・鉄道・港湾・航空 6 治水・防災インフラ ダム・堤防・砂防の制御システム

6番「治水・防災インフラ」は、従来「水・衛生」に内包されがちだが、EMP後に自動制御が落ちれば洪水・土砂災害が連鎖する。独立項目とすべき理由がここにある。

【第二層:情報・制御系】(7〜11番)

# ライフライン 内容 7 通信(民間) 電話・インターネット・放送 8 通信(政府・軍) 指揮統制通信・暗号 9 測位・時刻基準 GPS代替・原子時計・標準時 10 半導体・ICT基盤 デバイス製造・修理・部品備蓄 11 気象・環境観測 衛星・レーダー・地震計・津波警報

11番「気象・環境観測」は見落とされやすい。しかしEMPで観測網が壊滅すれば、台風・津波・噴火への対応は文字通り「盲目」になる。独立項目化を強く推奨する。

【第三層:生命・社会系】(12〜16番)

# ライフライン 内容 12 医療・救急 病院・薬品・血液・医療機器 13 金融・決済 銀行・現金・決済インフラ 14 行政・法秩序 政府継続・警察・司法 15 軍事・防衛 自衛隊・抑止・EMP攻撃能力 16 外交・諜報 EMP攻撃の帰属認定・国際交渉・同盟調整

16番「外交・諜報」は見落とされやすい。EMP攻撃を受けたとき、「誰がやったか」を誰が認定するのか。帰属認定なしには報復も交渉も始まらない。

【第四層:文明継承系】(17〜18番)

# ライフライン 内容 17 教育・知識インフラ(デジタル) 学校・図書館・研究機関のICTシステム・デジタルアーカイブ・遠隔教育基盤の耐性化と冗長化 18 農業生産基盤(スマート農業) 農業用IoT・ドローン・自動灌漑・食料生産データの耐性化と冗長化

17番と18番は、EMP後の「文明の継続と再起動」に関わる層である。

17番「教育・知識インフラ(デジタル)」は、学校・大学・図書館・研究機関が依存するICTシステム、デジタルアーカイブ、遠隔教育基盤のEMP耐性化である。EMP後にこれらが壊滅すれば、復旧に必要な技術知識へのアクセス自体が失われる。サーバー・端末・通信回線の耐性化と、オフライン参照可能なバックアップ体制の整備が課題だ。

なお、書籍・非電子記録・口承による知識と技術の継承——半導体に依存しない知の保存——はAEAの領分に属する。LSCPは「半導体依存の教育・知識インフラをどう守るか」を担い、AEAは「半導体なしでも知識を継承できる文明層をどう構築するか」を担う。

18番「農業生産基盤(スマート農業)」は、2番「食料(備蓄・流通)」と明確に役割が異なる。2番は「いま食べるものをどう確保・流通させるか」であり、18番は「食料を生産する技術基盤そのものをEMPから守るか」である。現代の農業はセンサー・ドローン・自動灌漑・営農管理システムなど半導体に深く依存している。これらが一斉に落ちれば、備蓄が尽きた時点で食料生産能力ごと失われる。

なお、在来農法・種子・土壌・手作業による農業技術の保存と継承は、半導体文明崩壊後の「ノンセミコンダクター的再起動基盤」としてAEAの領分に属する。LSCPとAEAはここで役割分担する。


省庁割り振り案

以下は現行の日本の省庁体系に基づく割り振り試案である。

# ライフライン 主管省庁 副管・連携 備考 1 水・衛生 国土交通省 環境省・厚生労働省 2 食料(備蓄・流通) 農林水産省 経済産業省 3 エネルギー(電力) 経済産業省 国土交通省・防衛省 4 エネルギー(熱・燃料) 経済産業省 農林水産省(薪炭) 5 輸送・物流 国土交通省 経済産業省・防衛省 6 治水・防災インフラ 国土交通省 環境省・気象庁 1から分離 7 通信(民間) 総務省 経済産業省 8 通信(政府・軍) 防衛省 内閣官房・総務省 9 測位・時刻基準 総務省 内閣府・防衛省 内閣府から変更 10 半導体・ICT基盤 経済産業省 文部科学省・防衛省 11 気象・環境観測 国土交通省(気象庁) 環境省・防衛省 12 医療・救急 厚生労働省 防衛省(衛生)・内閣府 13 金融・決済 金融庁+財務省 経済産業省 日銀は特別立法で位置づけ 14 行政・法秩序 内閣官房 警察庁・法務省・総務省 15 軍事・防衛 防衛省 内閣官房・外務省 16 外交・諜報 外務省 内閣情報調査室・防衛省 17 教育・知識インフラ(デジタル) 文部科学省 経済産業省・国立国会図書館※ ※特別立法で義務付け/非電子継承はAEA領分 18 農業生産基盤(スマート農業) 農林水産省 経済産業省・文部科学省 2と機能分離/在来農法はAEA領分


割り振りにおける五つの論点

論点1:経済産業省への集中

3・4・7・10の四項目が経産省に集中する。平時の「エネルギー利権・産業振興省」が、EMP後に「文明維持省」として機能できるかは疑わしい。LSCP専任の組織単位(局または庁)を経産省内に新設するか、別途「EMP国家耐性化庁(仮称)」を設けるかの選択が迫られる。

論点2:内閣官房の過負荷

14(行政継続)の主管に加え、全18項目にわたる横断的なEMP耐性化の司令塔機能まで内閣官房に担わせると、現実の処理能力を超える。LSCP専任の「EMP対策室」または「EMP国家耐性化庁(仮称)」の新設が、内閣官房過負荷の解決策でもある。

論点3:日銀・国会図書館の制度的位置

13(金融・決済)の連携先として日本銀行、17(教育・知識保存)の連携先として国立国会図書館を想定するが、いずれも省庁ではなく独立機関である。割り振り表に載せることは、現行法の下では制度的フィクションを含む。特別立法による権限・義務の明文化(例:EMP後の現金供給義務、非電子複製保存義務)が必要だ。

論点4:防衛省の実質的広域化

8・15の主管に加え、3・5・12の副管にも防衛省が入る。EMP攻撃を軍事攻撃と明確に位置づけるなら、防衛省が全18項目に対して横断的な「EMP耐性審査権」を持つべきだという議論が成立する。

論点5:測位・時刻基準の主管

内閣府(宇宙政策委員会)は調整機能が主であり実動能力がない。実質的には総務省(標準時・周波数管理)と防衛省(軍事測位)が機能を担う。主管を総務省に変更し、内閣府は政策調整に回すのが現実的だ。


EMP国家耐性化計画をいつ始めるべきか——独自提言

前提:三つの時計を同時に見る

「いつ始めるか」を論じるには、三つの時計を同時に見なければならない。

一つは脅威の時計——台湾有事ウィンドウはいつ訪れ、いつ終わるか。二つ目は中断リスクの時計——計画実施中に有事が起これば何が起きるか。三つ目は制度の時計——法整備・予算確保・省庁横断組織の立ち上げに実際どれだけかかるか。この三つを照合して最適な開始時期を導く。

脅威の時計:台湾有事ウィンドウはいつ終わるか

台湾有事の現実的なウィンドウは、多くの専門家が2027〜2030年と見積もる。北朝鮮のEMP攻撃能力はすでに「実戦的な複数の攻撃オプション」へと進化しており、2025年以降はロシアから電子戦技術の供与も進んでいる。中国については、台湾有事において日本のインフラへのHPM(高出力マイクロ波)兵器による先制打撃がすでに作戦選択肢として研究されていると見るべきだ。

以上から、台湾有事ウィンドウの終わりは2030年前後と見積もる。楽観的に見て2030年、慎重に見て2032年が「有事リスクが一段落する区切り」になる。

中断リスクの時計:実施中に有事が起これば何が起きるか

ここに致命的な論点がある。計画実施中に台湾有事が発生した場合、EMP国家耐性化計画は中断を余儀なくされる。

予算と人材は軍事対応に吸われる。省庁横断の政治的エネルギーは安全保障対応に転換される。そして最悪のシナリオは、半分だけ耐性化されたインフラが有事を迎えることだ。中途半端に改修された電力・通信システムは、完全に旧来のままのシステムより脆弱になる場合すらある。継ぎ接ぎの耐性化は、攻撃者に「どこが弱いか」を教える地図になりかねない。

「やりかけ」は「やらない」より悪い。これが台湾有事ウィンドウ中の着手を避けるべき核心的理由だ。

制度の時計:立ち上げにどれだけかかるか

参考になるのが、現在進行中の「能動的サイバー防御法」の制度化プロセスだ。2022年の国家安全保障戦略への明記から法成立(2025年5月)まで約2年半。法成立から施行(2026年10月予定)までさらに1年半。合計で約4年のリードタイムがかかっている。

これはサイバー防御という、EMP対策に比べれば技術的・法的に整理しやすい領域での話だ。EMP耐性化は物理的インフラの改修を伴う。電力・通信・水道の制御システムをEMP耐性仕様に更新するには、法整備の後にさらに10年の実装期間が必要と見積もるべきだ。

逆算:最適な開始時期は2031〜2032年度

以上の三つの時計を照合すると、次の構図が浮かぶ。

  • 台湾有事ウィンドウの終わり:2030〜2032年

  • 有事終結後の政治的安定化・国際秩序の再編に要する期間:1〜2年

  • したがって法整備着手の最適時期:2031〜2032年度

  • 法整備から施行まで:約4年(2035〜2036年)

  • 施行から実装完了まで:10年(2045〜2046年)

  • 完了目標:2045年前後

これは長い。しかし順序が重要だ。有事ウィンドウをくぐり抜けた後の日本が、「何をすべきか」を最初から明確に知っていることが、この計画の真の価値になる。

有事前にやるべきこと:「準備の準備」

ただし、2030年までの間に何もしないわけにはいかない。やるべきことは「実施」ではなく**「準備の準備」**だ。

具体的には、本稿で示した18ライフライン×省庁割り振りマトリクスの政府版策定、EMP耐性化の技術標準の研究・確定、財源設計(外為特会活用の法的根拠整備)、そして「EMP国家耐性化庁(仮称)」の設置法案の起草——これらは予算規模が小さく、有事が起きても大きく中断されない「机上の準備」として進めることができる。

有事が終わったその日から実動に入れる状態を作っておく。これが2026〜2030年の日本がすべきことだ。

提言:二段構えの始動シナリオ

第一段階(2026〜2030年:準備期):机上の完成

EMP国家耐性化計画の概念・設計・法案・財源設計・技術標準をすべて「引き出しの中」に完成させておく。内閣官房に小規模な「EMP国家耐性化準備室(仮称)」を設置し、調査研究費レベルの予算で動かす。有事が起きても中断されない規模に留める。

第二段階(2031〜2032年度:本格始動):法整備と組織立ち上げ

台湾有事終結を確認した上で、準備期に完成させた法案・組織設計を一気に実動に移す。「EMP国家耐性化計画法(仮称)」の制定、「EMP国家耐性化庁(仮称)」の設置、18ライフラインへのEMP耐性化義務付けを集中的に進める。外為特会を財源とする大規模予算をこの段階で投入する。

第三段階(2035〜2045年:実装期):ライフライン別EMP耐性化工事

18ライフラインを優先順位に従って順次EMP耐性化する。優先順位の原則は「代替不可能性の高さ」と「崩壊の連鎖速度の速さ」の積で決める。電力(3番)と政府軍通信(8番)が最優先となる。電力と政府通信が落ちれば、残りの16項目は連鎖崩壊するからだ。

なぜ「有事後」が筋なのか——歴史的論拠

日本の大型制度改革は、常に「大きな衝撃の後」に実現してきた。明治維新は黒船の後、戦後憲法は敗戦の後、阪神大震災後の危機管理体制整備、東日本大震災後の原子力規制委員会設置——いずれも「衝撃→国民的合意形成→制度化」という順序をたどっている。

台湾有事は、それが日本に直接の被害をもたらすものであれ、辛うじて回避されるものであれ、日本社会に「文明の脆弱性」を可視化する最大の衝撃になる。その衝撃を受けた後の国民的合意を背景にEMP国家耐性化計画を始動させる——これが最も確実に計画を完遂させる政治的シナリオだ。

準備は今から。始動は有事の後から。これが本稿の結論である。


結論:四つの制度的提言

第一に、ライフライン数は18が妥当である。気象・環境観測、外交・諜報、治水・防災インフラの三項目を独立化し、文明継承系を17・18番として確定することで、体系に遺漏がなくなる。

第二に、日銀・国立国会図書館については特別立法が必要である。省庁の割り振りだけでは対処できない制度的空白がここにある。

第三に、LSCP政策司令塔として「EMP国家耐性化庁(仮称)」の新設を検討すべきである。内閣官房の過負荷解消と経済産業省への集中分散の両方を同時に解決する制度的解がここにある。

第四に、EMP国家耐性化計画の本格始動は台湾有事終結後(2031〜2032年度)が筋である。計画実施中に有事が起これば予算・人材・政治的エネルギーが軍事対応に吸われ、中途半端な耐性化は「やらないより悪い」状態を生む。ただし2026〜2030年の有事ウィンドウ中は、法案・財源設計・技術標準の「机上の完成」を静かに進めておく。有事が終わったその日から実動に入れる状態を作ることが、今この瞬間の日本がすべきことだ。


本稿はLSCP(ライフラインセミコンダクタープロジェクト)の関連研究として公開するものです。 前稿:「EMP立国宣言——世界史への挑戦」

*表の見やすいGoogleドライブ版を貼っておきます。
https://docs.google.com/document/d/1CpWOPXZ1NnImAxRiDdezZcCDWl9DS4bgn0ev9u4MlDs/edit?usp=sharing

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