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babypeanuts811
元素から見る世界【Ne】何者でもないあなた
ネオンと聞いて何を思い浮かべるだろう。
おそらくネオンサインだ。
繁華街を彩る赤い光。
ネオンは、元素名がそのまま一般名詞になった数少ない例だ。
空気中にはわずかに存在する。
地球上では決して豊富ではない。
それなのに、長いあいだ大した使い道がなかった。
ネオンは希ガスである。ヘリウムやアルゴンと同じく、ほとんど他の元素と反応しない。
燃えない。
腐らない。
結びつかない。
化学者から見れば優等生だが、産業界から見れば少々扱いに困る。何もしてくれないからだ。
20世紀初頭、そんなネオンに仕事が見つかった。
放電管である。
電気を流すと鮮やかな赤橙色に光る。
それは都市の夜を彩った。
だがLEDの時代になると、
その仕事すら失われ始める。
再び無職に戻るかと思われた。
ところが21世紀になって、
ネオンは意外な場所で再評価される。
半導体工場だ。
ネオンはArFやKrFエキシマレーザーの中で、
主役のガスを支える緩衝材として使われる。
レーザーそのものではない。
だが、それがなければレーザーは安定しない。
しかも、その供給経路も独特だ。
ネオンは空気から取る。製鉄や化学工業のために空気を液化し、酸素や窒素を分離した残りのガスから生成する。しかし含有量は極めて少ない。高純度化には巨大な工業設備が必要になる。
2022年、ウクライナ戦争で半導体業界が緊張した理由もここにある。
高純度ネオンの供給網が揺らいだからだ。
誰も欲しがらなかった元素が、
最先端産業を支えていた。
ネオンは何ものでもない。
だが文明は時々、価値がないと思われていたものの価値を発見する。
ネオンとは、そんな元素である。
