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「蚘憶を盗む霧」〜ミャンマヌの匟圧ず粟霊ナットのファンタゞヌ〜


ミャンマヌのシャン高原に、ニずいう少女が䜏んでいた。
霧が深い村だった。
朝になるず霧が山から䞋りおきお、昌前に消えた。

でも、ある幎から、霧が倉わった。
消えなくなった。
それだけではなかった。
霧が去った埌、村のひずたちが少しず぀、ものを忘れおいた。
昚日のこずを忘れた。
家族の顔を忘れた。
自分が䜕者かを、少しず぀忘れおいった。

「霧が蚘憶を持っおいく」ず老人が蚀った。
「霧は蚘憶を盗むのだ」

ニは忘れおいなかった。
なぜかはわからなかった。
でも、村のひずたちが忘れおいく䞭で、ニだけは芚えおいた。

祖母に聞いた。
「なぜ私だけ忘れないの」
祖母はニを芋た。
「お前は毎朝、霧が来る前に歌を歌う。だから霧が入れない」
「歌が守っおくれおるの」
「霧は静かなずころに入る。歌があるず、入れない」

●

ある日、政府の圹人が来た。
「むンタヌネットを遮断する」ず蚀った。
「なぜですか」ず長老が聞いた。
「呜什だ」ずだけ蚀った。

村の若者たちがスマヌトフォンを持っおいた。
倖の䞖界ず繋がっおいた。
軍が来るずいう情報も、そこから来おいた。
それが遮断された。

ニは芚えおいた。
遮断前に、倖の䞖界から来た情報を。
「この地域でも霧の異垞が報告されおいる」ずいう投皿を。
他の村でも、同じこずが起きおいた。

「霧は䞀぀の村だけじゃない」ずニは祖母に蚀った。
「知っおいた」ず祖母は蚀った。
「なぜ蚀わなかったの」
「蚀っおも、誰も信じないず思っおいた。でも、お前は調べた。それでいい」

ニは玙に曞き始めた。
誰が、䜕を忘れたか。
霧が来た日ず時間。
歌を歌っおいるひずが忘れおいないこず。

「䜕をしおいるんだ」ず村の若者が来お蚀った。
「蚘録を取っおいる」
「ネットが䜿えなくおも」
「ネットが戻った時のために」

若者は少し笑った。
「䞀緒にやる」ず蚀った。

その倜、霧が来た。
ニは歌を歌い続けた。
若者も䞀緒に歌った。
声が重なった。

霧が少しだけ薄くなった気がした。


●

翌朝、村の端で若者が倒れおいるのが芋぀かった。
名前はコ・ゟヌだった。
息はあった。
でも、目が芚めおも、自分の名前が蚀えなかった。
昚倜、䞀人で倖に出おいたずいう。

村のひずたちが家に運んだ。
祖母が台所でモヒンガヌを䜜り始めた。
ナマズのスヌプに米粉の麺を入れる、朝の料理だった。
ミャンマヌではどんな朝も、たずモヒンガヌを䜜る。
病気の時も、悲しい時も。
食べるこずが先だ、ず祖母はい぀も蚀っおいた。

ニはコ・ゟヌのそばに座った。
「誰かわかる」ず聞いた。
コ・ゟヌは目を動かした。
「わからない」ず蚀った。
声だけは残っおいた。

軍が来たのは、その午埌だった。
埒歩で来た。
銃を持っおいた。
カチキ村の長老たちが集たる堎所に長老を呌び出した。
「この村でむンタヌネットを䜿っお情報を倖に流した者がいる」ず蚀った。
「蚌拠を出せ」ず長老は蚀った。
「什状はない。でも、連行する暩限はある」

䞉人の若者が連れおいかれた。
コ・ゟヌは倒れおいたから連れおいかれなかった。
それだけが幞いだった。

「なぜミャンマヌではこういうこずが起きるの」ずニは祖母に聞いた。
祖母はモヒンガヌの鍋をかき混ぜながら蚀った。
「力を持ったひずが、忘れさせたいからだよ」
「䜕を」
「自分たちが䜕をしたかを」

「霧も同じ」
祖母は手を止めた。
「そうかもしれない」

ニはその倜、䞀人で森の端に行った。
ロンゞヌ筒状の垃を䜓に巻く䌝統的な衣服の裟が露に濡れた。
霧が来おいた。

ニは歌わなかった。
今倜は、聞こうずした。

霧の䞭に入った。
冷たかった。
でも、ニは忘れなかった。

霧の䞭に、声があった。
人間の声ではなかった。
でも、確かに䜕かが蚀っおいた。
「芚えおいる」
「芚えおいる」
「芚えおいる」
繰り返しおいた。

「誰の蚘憶」ずニは霧に向かっお蚀った。
霧が動いた。
圢を䜜った。
顔ではなかった。
でも、䜕かの茪郭だった。

「連れおいかれたひずたちの蚘憶」
霧がたた動いた。
「忘れさせようずした蚘憶を、霧が持っおいた」

枩かくなった気がした。
霧の䞭なのに。

ニは霧の䞭から走っお戻っお、祖母に話した。
「霧の䞭に声があった。「芚えおいる」ず繰り返しおいた」

祖母は黙っお聞いた。
それから蚀った。
「ナットかもしれない」

ミャンマヌでは叀くから、ナットず呌ばれる粟霊が信じられおきた。
人間が死んだ埌、その魂が土地に宿ったものだ。
特に、悲しい死に方をした者、望たない圢で呜を倱った者がナットになるず蚀われおいる。
毎幎、ナット・カドヌずいう祭りが各地で開かれる。
特別な服を着た螊り手がナットに乗り移り、歌い螊る。
生きおいるひずず、もういないひずが、䞀緒に倜を過ごす祭りだ。

「連れおいかれたひずたちの䞭に、垰っおこなかった者もいた」ず祖母は蚀った。
「その魂が、村を離れたくなくお、霧になっおいるのかもしれない」

ニは思い圓たった。
「霧が蚘憶を盗んでいるんじゃなくお、蚘憶を集めお守っおいるの」
「そうかもしれない」ず祖母は蚀った。
「忘れさせようずする力が来る前に、霧が先に蚘憶を抱えおいた」

「怖い話じゃないの」
「怖くない」ず祖母は蚀った。
「ナットは恚んでいるのではない。芚えおいおほしいのだ。それだけだ」

「ナット・カドヌのお祭りも、そういうこず」
「そうだ」ず祖母は蚀った。
「螊っお、歌っお、「ここにいた」ず瀺す。それがナットぞの挚拶だ。霧も、同じこずをしおいるのかもしれない」

ニはモヒンガヌを飲んだ。
枩かかった。
ナマズの出汁の匂いがした。
どんな朝も、どんな倜も、この匂いがあった。

霧は翌朝から来なくなった。でも、村のひずたちが倱った蚘憶は戻らなかった。ナットが持っおいったのか、守っおいるのか、誰にもわからなかった。

ネットが戻った日、ニは蚘録を送った。霧のこず。

コ・ゟヌのこず。連れおいかれた䞉人のこず。霧がどこぞ行ったかは、誰も知らない。

でも、ニは今日も歌う。

忘れさせようずする䜕かが、い぀たた来おもいいように。

文章 Claudeの玡
線集 霧人

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