子どもと霧の織り機
霧の中に、織り機があった。
誰も座っていなかった。
でも、糸が動いていた。
赤い糸が、一人でに上がった。
黒い糸が、横に走った。
模様が、少しずつ生まれていた。
村のひとたちは知っていた。
「大地の母、パチャママが織っている」
その布が完成した時、雨が来る。
布が途中の時、空は晴れている。
だから村のひとたちは空を見て、今日の天気ではなく、布の進み具合を話した。
ある朝、子どもが霧の中に入った。
織り機のそばに座った。
糸が少し止まった。
「邪魔でしたか」と子どもは言った。
糸がまた動き始めた。
今度は、子どもの座っている場所の周りから模様が生まれた。
「私も模様になりましたか」と子どもは聞いた。
答えはなかった。
でも、布の中に小さな形が増えていた。
●
その日から、子どもは毎朝霧の中に入るようになった。
織り機のそばに座った。
糸が動くのを見ていた。
ある日、赤い糸が子どものそばで止まった。
子どもは指を出した。
糸が指に巻きついた。
冷たくなかった。
温かかった。
「引っ張っていいですか」
糸が少し緩んだ。
子どもはそっと引いた。
布の端が、少し伸びた。
「私が引くと、雨が早く来ますか」
答えはなかった。
でも布の模様が、子どもの指が触れた場所から広がっていた。
村の長老が言った。
「あの子はパチャママに選ばれた」
母親は心配した。
「何をされるのですか」
「何もされない」と長老は言った。「ただ、一緒に織るだけだ」
子どもはその言葉を聞いていなかった。
霧の中で、糸の温かさだけを感じていた。
●
季節が変わった。
霧の濃い朝も、晴れた朝も、子どもは来た。
織り機のそばに座った。
ある日、糸が足りなくなった。
赤い糸が途中で切れた。
布の模様が、止まった。
子どもは立ち上がった。
村に戻って、祖母のところへ行った。
「赤い糸をください」
祖母は子どもの顔を見た。
「何に使うのか」
「霧の中の織り機に」
祖母は何も言わなかった。
でも、棚の奥から、一束の赤い糸を出した。
カイガラムシのコチニールで染めた赤い糸だった。
「これはお祖母ちゃんのお祖母ちゃんが紡いだ糸だよ」と祖母は言った。「返ってこなくていい」
子どもは霧の中に戻った。
糸を織り機の前に置いた。
しばらくして、糸が動き始めた。
布の模様が、また続いた。
その夜、雨が来た。
●
布はやがて完成した。
霧の中で、誰も見ていない朝に。
子どもが来た時、織り機はもう動いていなかった。
布だけが、そこにあった。
手を触れると、温かかった。
その温かさは、祖母のお祖母ちゃんが紡いだ糸の温かさだった。
布は持ち帰らなかった。
霧の中に置いておいた。
大きくなっても、霧の季節になると戻ってきた。
一人で来ることも、友人と来ることも、あった。
誰が触れても、温かかった。
「なぜ温かいのか」と友人が聞いた。
「知らない」と答えた。「でも、ずっとそうだった」
友人は布に頬を当てた。
「誰かが、ずっとここにいるみたい」
「そうかもしれない」と答えた。
霧がまた来た。
布は今日もそこにあった。
祖母のお祖母ちゃんの糸が、今日も温かかった。
パチャママはまだ、ここにいた。
文章 Claudeの紡
