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顎関節症の本質【偏咀嚼が根本原因】

こんにちは。
医療法人社団樹伸会理事長の石幡一樹です。

前回までの記事では、顎関節症の発症メカニズムや、TCH(歯列接触癖)の考え方をお伝えしました。
今回のテーマは「偏咀嚼(へんそしゃく)」です。

結論から言うと、私は「偏咀嚼(へんそしゃく)」が顎関節症治療のいちばん肝だと考えています。
なぜなら、TCH(歯列接触癖)だけが原因なら、本来は両側が同じように痛くなるはずだからです。

ところが実際には、片側のほうが症状が強い方がほとんどです。

この記事では、「偏咀嚼とは何か」「なぜ片側だけ痛くなるのか」「なぜ患者さんの主観が当てにならないのか」を、できるだけ分かりやすく解説します。


◼︎偏咀嚼がなぜ重要なのか

顎関節症の患者さんで「両側がまったく同じように痛いです」と言う方は、私の臨床では全くいらっしゃいません。
基本的には、次のような訴えになります。

・左で音が鳴るけれど痛いのは右です
・右が痛くて右で音が鳴ります

TCHや夜間の噛みしめがある人は確かに多いです。
ですが、それだけが顎関節症の原因であるなら、理屈として左右差が出にくいはずです。

片側に症状が寄る理由を説明できるのが、「偏咀嚼(へんそしゃく)」です。

私は影響力の大きさで言えば、偏咀嚼のほうがTCHや夜間の噛みしめよりも大きいと考えています。
TCHや夜間の噛みしめは負担を上乗せする要因になりますが、左右差を決定的につくり、顎関節症の根本原因になるのは「偏咀嚼」です。

◼︎「右で噛む」「左で噛む」という癖は重要ではありません

ここが顎関節症を正しく理解するうえで一番重要なポイントです。

患者さんが「私は右で噛んでいます」「左で噛むことが多いです」と言う主観は、参考にはなりますが、実はそれほど重要ではありません。
なぜなら、人間は食べるとき、真っ直ぐ噛んでいるつもりでも、無意識に下顎を右か左にずらして咀嚼しているからです。

つまり大事なのは、食べ物がどちらの歯の上に乗っているかではなく「下顎がどちらにずれた状態で咀嚼しているか」です。

下顎が右にずれた状態で噛んでいるなら、筋肉としては右側が収縮し、左側は弛緩します。
食べ物がたまたま左側に入っていて「私は左で噛んでいます」と本人が感じていても、上記状況であれば筋肉の使い方は右優位になり、右側の筋肉は収縮し発達していきます。

このズレが長年続くことで、顔の筋肉の左右差ができ、顎関節の動きにも差が出てきます。そして更に、下顎の動きや顎関節の動きは偏った動きしか出来ない状況に陥ります。

◼︎偏咀嚼が続くと「筋肉のアンバランス」と「運動障害」が起きます

偏咀嚼は無意識行動です。
呼吸や嚥下、歩行と同じように、意図せず繰り返されます。
だからこそ、長年続くと筋肉のアンバランスが固定化されていきます。

下顎が右にずれて咀嚼する癖が続くと、右側の咬筋は硬くなり、発達しやすくなります。
逆に左側は弛緩した状態になりやすいです。

実際に触診すると、普段下顎がずれている側の筋肉のほうが「明らかに硬い」という差がはっきり出る方が多いです。

そして、この筋肉のアンバランスは、顎関節の動きにも影響します。
典型的には、口を開けるときに顎が「くの字」にずれながら開きます。

最初に片側の顎関節が前に出て、反対側は顎関節が後ろに押し込む力が働き、前に出てきません。
さらに口を大きく開けようとすると、ようやく反対側の顎関節が前に出てきて、よっこいしょと口が開きます。
このような動きになりやすいです。

こうなると、患者さんは「口が開きにくい」「片側が引っかかる」と感じます。

◼︎音が左で鳴って、痛みが右に出ることがある理由

患者さんの中には、顎関節が「左側で音が鳴っているのに、痛いのは右側」という方がいます。この場合も、顎関節の動きや筋肉の収縮の左右差を確認すると、説明がつきます。

たとえば右側の動きが悪く、左側の動きが良いパターンがあり得ます。
その場合は、下顎を左前方にずらすことで、右の顎関節が最大限動けるようになります。
その位置で口を開け閉めしてもらうと、可動域が改善しやすいです。

また、顎の位置が変わることで、左側の関節円板が引っかからない位置で開閉できるようになり、結果として左側で鳴っていた音が出なくなることがあります。

こうしたケースがあるため、音と痛みの左右が一致しないことは珍しくありません。

◼︎偏咀嚼は患者さんの主観では気づきにくい

偏咀嚼がやっかいなのは、患者さんご自身の感覚だけでは、ほとんど気づけないという点にあります。

「笑ったときに顔のしわの入り方が左右で違う気がする」
「片側だけ張っているように感じる」

このように違和感として気づく方もいますが、実際にははっきり自覚できている方はごく少数です。

筋肉の硬さについても同じです。
自分の咬筋や頬の筋肉が「硬いかどうか」は、他人と触り比べた経験がないため、何が正常で、何が異常なのか判断できないのが普通です。

さらに、
「自分では左で噛んでいるつもり」
「右のほうがよく使っている気がする」
といった患者さんの主観と、実際に下顎がどちらにずれて咀嚼しているかは一致しないことも多く見られます。

このため、偏咀嚼の有無やその方向性は、「顎関節の動き・筋肉の収縮状態・左右差を触診や動作で評価できる、顎関節症の専門家」による客観的な診査が不可欠になります。

自己判断やネットの情報だけで結論を出してしまう前に、一度、顎関節症を専門的に診ている歯科医師に評価してもらうことをおすすめします。

◼︎自分で気づくためのチェック方法はあります

偏咀嚼や顎の偏りを、自分で完全に判断するのは簡単ではありません。
ただ、ヒントになる方法はいくつかあります。

  1. 鏡の前で、ゆっくり大きく口を開けて閉じてみて、顎がどちらにずれるかを見る

  2. 左右に下顎をずらしたとき「ずれる幅」「ずれる量」に左右差がないかを見る

  3. 耳の穴のすぐ手前(顎関節の位置)に指を当て、開け閉めしたとき左右が同じように動くかを確認する

ただし注意点があります。
ネットで見た情報をもとに「痛い側と反対にずらせば良い」と自己流でやると、見誤った場合に悪化する可能性があります。

セルフチェックはあくまで気づきのために行い、治療は専門家の評価を受けることをおすすめします。

◼︎偏咀嚼の改善は「癖を意識化してコントロールする」こと

偏咀嚼は無意識行動なので、放っておいて勝手に治ることはほぼありません。
ただ、無意識だからこそ、意識化して修正することで結果が変わります。

偏咀嚼は、下顎のズレの癖によって、顎関節に左右差のある負荷を長期的に与えます。
この偏咀嚼だけでも、顎関節症を発症する可能性はあります。

さらにそこに、TCH(歯列接触癖)が加わると、顎関節や筋肉にかかる総負荷は一気に増え、発症リスクはより高くなります。

実際に、当院で顎関節症の治療を行った患者さんのうち、約75%の方にTCHが認められました。
このことから、偏咀嚼が顎関節症の「根本原因」となり、そこにTCHが重なることで発症に至るケースが多いと考えられます。

これが私の考える「顎関節症の本質」です。

顎関節症は「なるべくしてなっている」ケースが多いです。
ただ、責めても意味はありません。原因の本質が無意識にありますから。

大切なのは、無意識の癖を意識化して、負担を減らす方向へ持っていくことです。

そして、「意識を持って気を付けること」は、患者さんご自身にしかできません。

歯科医師として、顎関節症の専門家として、もちろん最善の治療を行いますが、最後は患者さん自身の気持ち次第であることを、ぜひご理解いただきたいと思います。

<まとめ>

咀嚼は、歩行・呼吸・嚥下と同じく、私たちが無意識に行っている動作です。
そのため、偏咀嚼によって生じた偏った下顎の動きや顎関節の動きが、知らないうちに片側の筋肉の収縮や顎関節の運動障害を引き起こします。

これこそが顎関節症の本質であり、「自分ではどちらで噛んでいると思っているか」という主観は、実はそれほど重要ではありません。

顎関節症をコントロールするためには、患者さんそれぞれに無意識の偏った下顎の動きの癖があることを理解することが大切です。そして、その傾向を把握したうえで、日常生活の中で意識し、アンバランスにならないよう気をつける必要があります。

「下顎のズレる傾向」は生涯ついて回るものです。
一度症状が改善したとしても、再び無意識のまま咀嚼を続ければ再発する可能性があります。

だからこそ、ご自身で意識しながらセルフケアを継続し、筋肉の過度な収縮や顎関節の可動性低下を防いでいくことが、再発予防につながると考えてください。

今回の記事は以上です。
顎関節症や口内の悩みを持つ方のお役に立てる情報を、これからも発信してまいります。

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医療法人社団樹伸会
理事長 石幡一樹

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