30年以上悩んだ顎関節症【改善した理由】
こんにちは。
医療法人社団樹伸会理事長の石幡一樹です。
今回は、日々の診療の中で実際に経験したケースをもとに、顎関節症がどのように変化していくのかをお伝えします。
あらかじめお伝えしておきたいのは、ここでご紹介する内容はあくまで一つのケースであり、すべての方に当てはまるものではないということです。
顎関節症は原因や状態が人それぞれ異なるため、症状の出方や改善の過程にも個人差があります。
そのうえで、「こういう経過をたどる方もいる」という視点で読んでいただければと思います。
◼︎長年「顎の不調」を抱えながら生活していた方
今回お話しするのは、60代の女性の方です。
この方は、30代の頃から口を開け閉めするときに「ミシミシ」と音が鳴る状態が続いていました。
ただ、その時点では痛みがなかったため、日常生活に大きな支障はなく、特に治療を受けることもなく過ごされていました。
歯科医院で相談しても「これは治りません」と言われることが多く、「そういうものなのだろう」と受け止めていたそうです。
◼︎「治らない」と言われ続けてきた顎の不調
その後も、気になるタイミングで歯科医院を受診されていたようですが、基本的にはどこでも同じような対応だったとのことです。
「食いしばりに気をつけてください」
「マウスピースを作って様子を見ましょう」
そういった説明を受け、夜間にマウスピースを装着して過ごしていました。しかし、長くマウスピースを使い続けても症状は変わらず、それどころか、朝起きたときに、「顎がだるい」「口が開けにくい」と感じるようになったそうです。
◼︎症状が悪化したきっかけ
状況が大きく変わったのは、他院での歯科治療中の出来事でした。
神経の治療で長時間口を開けた状態が続いたことをきっかけに、それまでほとんど気になっていなかった顎の症状が一気に悪化し、痛みが出るようになったのです。
特に左側の顎の周囲の筋肉に強い痛みが出て、口も開けにくくなり、音も以前より強くなっていました。
その後、かかりつけの歯科医院や、近くの口腔外科を受診されましたが、
・食いしばりに気をつけるように指導される
・痛み止めの処方
・顎周囲のマッサージ
・開口訓練
・マウスピースの継続
といった対応が中心で、顎の動きや筋肉の状態を詳しく評価されることはなかったそうです。
そうした経過の中で、「このままではよくならないのではないか」という不安を感じ、当院を受診されたという流れでした。
◼︎初診で見えてきた「本当の原因」
初診時にお話を伺い、実際に顎の状態を確認していくと、この方の顎にはいくつかの特徴が見られました。
まず、下顎がわずかに左にずれた状態で使われており、左側の咬筋は収縮し、右側は弛緩した状態になっていました。
さらに顎関節の動きを確認すると、右側が十分に動くのに対して、左側の可動性は明らかに低下しており、口を開ける際に、顎が「くの字」を描くような動きになっていました。
これは、片側の関節だけがうまく前に出て、反対側は後ろに押し込まれている状態で、結果としてスムーズに開閉できなくなっている典型的なパターンです。
加えて、長期間使用していたマウスピースの影響もあり、
夜間は食いしばりの際に咬筋がより収縮しやすい状態が続いていました。
そのため、特に朝起きたときに、顎のだるさや開けにくさといった症状が強く出ていました。
一方で、日中はパソコン作業が多く、TCH(歯列接触癖)が重なっていたため、夕方になると
・偏頭痛
・顎周囲のだるさ
・耳鳴り
といった症状が現れる状態でした。
◼︎初診時に起きた変化
この方には、まず顎の状態を説明したうえで、実際に下顎の位置を少し調整させていただきました。
具体的には、左に偏っていた下顎を、右前方へずらした位置で開け閉めをしていただきました。
するとその場で、
「引っかかる感じがない」
「音が鳴らない」
「いつもより楽に開く」
といった変化を実感されました。
また、同じ位置で軽く咬む動作を続けていただくと、収縮していた左側の筋肉がストレッチされ、「痛みが少し引いてきた」という感覚もあったようです。
◼︎患者さんの反応
この変化を体験されたときの患者さんの反応は、とても印象的でした。
長年、「治らないもの」と思い込んでいた顎の不調が、その場で変わったことで、まず驚かれていました。
音が鳴らず、引っかかりもない状態を確認すると、「こうすると違うんですね」と何度も確かめるように顎を動かされていました。
鏡を見ながら動きを確認していただくと、これまで自分の顎がどう動いていたのかを初めて理解された様子で、納得された表情に変わっていきました。
そして最後に見られたのは、不安ではなく安心の表情でした。
どこに行っても変わらなかった症状に対して、「原因が分かり、方向が見えた」ことで、ようやく前に進める感覚を持たれたのだと思います。
◼︎治療の経過と変化
初診で顎の状態と原因を共有したうえで、この方には2つのことを中心に取り組んでいただきました。
一つ目は、日中のTCH(歯列接触癖)の改善です。
20分に1回、歯が接触していないかを確認し、もし当たっていれば息をフッと吐いてリセットする。
この習慣(認知行動療法)を継続していただきました。
二つ目は、顎の動きの修正です。
左に偏っていた下顎を、右前方へずらした位置で咀嚼することを意識していただきました。
これらを実践していただいた結果、2回目の来院時には、顎周囲の張り感が軽くなり、偏頭痛も和らぎ、音も気にならなくなってきたとお話しされていました。
その後は、顎の位置を安定させるために、マウスピースを併用していきました。
ただし、一般的に「歯を保護する目的」で使用されるマウスピースとは異なり、当院では患者さん一人ひとりの顎のズレに合わせて、正しい方向へ顎の動きを誘導するように設計したものを使用しています。
これにより、日中・夜間ともに正しい顎の位置を維持しながら、筋肉のアンバランスを整えていく状態をつくっていきました。
3〜4回目の通院の段階では、痛みはほぼ消失し、日常生活の中で症状を意識することはほとんどなくなっていました。
◼︎なぜ改善したのか
この方のケースを整理すると、
・長年の偏咀嚼による筋肉のアンバランス
・TCHによる持続的な負荷
・マウスピースによる負荷増強
これらが重なり、症状が悪化していました。
つまり、「どれか一つの原因」ではなく、複数の要因が重なって顎関節症が成立していた状態です。
そのため、
・負担の原因を減らす(TCHの改善)
・顎の動きを整える(偏咀嚼の修正)
・正しい位置を維持する(顎の動きを矯正するマウスピースの適切な使用)
という形で、原因に対して一つずつアプローチしたことが、改善につながったと考えています。
◼︎顎関節症は「正しく理解すれば治療できる」
この患者さんのように、長年症状があっても「治らない」と言われてきた方は少なくありません。
しかし実際には、
・原因が正しく評価されていない
・対症療法だけで終わっている
・顎の動きそのものにアプローチされていない
といったケースが多く見られます。
顎関節症は、「何をやっても変わらないもの」ではなく、正しく状態を把握し、適切な方向に整えていけば改善していくものです。
◼︎今回のケースからお伝えしたいこと
今回ご紹介したのは、あくまで一例です。
すべての方に同じ経過が当てはまるわけではありません。
ただ、顎関節症について共通して言えることがあります。
・症状には必ず理由があること
・その多くは無意識の癖にあること
・正しく理解すれば改善の道筋が見えること
原因が正しく評価されず、適切な説明を受ける機会がなければ、改善できる可能性があっても、そのまま時間が過ぎてしまいます。
だからこそ、諦めてしまう前に、一度ご自身の状態を正しく評価する機会を持っていただきたいと考えています。
今回の記事は以上です。
顎関節症や口内の悩みを持つ方のお役に立てる情報を、これからも発信してまいります。
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医療法人社団樹伸会理事長
石幡一樹
