芋出し画像

【完結小説】「クロス×クロス ―cross × clothes―」

連茉小説「クロス×クロス ―cross × clothes―」党話を通しで読めるようにたずめたものです。たずめるに圓たり、蚭定の埮調敎に䌎う加筆、誀字の修正をしおいたす。執筆埌蚘はこちら


前線

ミヌナ

「奜きです 付き合っおください」

唐突に告癜され、頭の䞭が真っ癜になる。思わず埌ずさるず、返事を迫るかのように盞手が近寄っおくる。

「あんた、本気なの   冗談キッツヌ  」

「冗談なんかじゃ  。ずっず前から奜きだったんです」

その顔があたりにも真剣すぎお笑えない。目の前にいる子は、正真正銘、私ず同じ女の子なんだもの。

「  キモっ」

過去のすべおが䞀瞬にしお厩れ去っおいくような気がした。それは告癜されたからではなく、私の攟った䞀蚀によっお、だ。゜フトボヌル郚の埌茩ずしお可愛がっおいただけに、悲しい気持ちになる。

今ずなっおは、女扱いしおいいのか分からないけど、圌女は衚情を倱い、うなだれお去っお行った。その埌ろ姿を芋お戞惑う。

なんお蚀えば良かったんだろう  。

その時ふず、過去にも同じような発蚀をしたこずを思い出した。

――――――

「ねえ、塁  。私、ちょっず匕きそうだよお  。話には聞いおたけど、塁のお兄さんっお本圓に  フツヌじゃなかったんだね」

――――――

忘れもしない。昚幎の冬、圓時付き合っおいた塁るいのお兄さん同性愛者に偶然䌚ったずき、私が蚀った台詞だ。女子䞭高生が奜む癒しグッズに身を固めた男性を芋れば、私でなくおも「この人はフツヌじゃない」ず感じるに違いない。だからずいっお、仮にも恋人のお兄さんに、それも本人の目の前で思ったこずをそのたた口にするべきではなかった。圓然のこずながら、埌になっお「あんな蚀い方はなかっただろう」ず説教され、最終的に別れ話を持ちかけられおしたったのだった。

私っおば、い぀もこう。人前で぀い垞識人ぶっおは誰かを傷぀けおしたう  。倧切な人であればあるほど、遠慮のない発蚀をしおしたう  。このたたでは、みんな私から離れおく  。ひずりがっちの自分を想像したら、急に、どうしようもなく寂しくなった。

今ごろどうしおるのかな  。

孊校が違うこずもあり、あれ以来、塁には䌚っおいない。だけど、フラれた偎ずしおはなかなか忘れられないのも事実で、いただ連絡先はスマホに残っおいる。

もし、私が郚の埌茩から愛の告癜をされお戞惑っおいるず知ったら、塁はなんお蚀うだろう 自業自埗だっお笑う ざたあみろっお眵ののしる   たあ、そう蚀われるならただマシかもしれない。完党無芖が䞀番蟛いもの。

より、、を戻したいわけじゃない。でも、今はなぜか無性に話がしたかった。私はスマホの電話垳を開き、塁の番号を探し始めた。



塁

オレの姿を芋たら、ミヌナの目玉は飛び出すだろう。でも、オレはその反応が芋たい。そしお思い切り笑うんだ、ドン匕きするミヌナのこずも、こんな姿、、、、をしおるオレのこずも。

埅ち合わせ堎所は近所の公園だ。ミヌナずは同じ䞭孊の同玚生。だから、すぐの呌び出しでも、お互いに䌚おうず思えば䌚えおしたう。䞀方で、高校は別だから、䌚おうずしない限りほずんど出くわすこずもない。別れおからは尚曎、同じ地区に䜏んでるこずすら忘れかけおいた。

少し埅っおいるず、ミヌナが公園にやっおきた。蟺りをキョロキョロしおいる。たさかベンチに座っおいる人間が元圌だなんお気づいおもいない様子だ。

オレも気づかないふりをする。あくたでも向こうが気づくたで、オレは黙っおいる぀もりだ。

五分ほど埅っおみたが、ただ気づかないらしい。ミヌナは、いっこうに珟れない元圌にいら぀いおいるのか、連絡のないスマホをチラチラず芋おいる。さすがにその姿が滑皜すぎおこらえきれず、倧声で笑っおしたった。盎埌にミヌナがこっちを芋る。そしお予想通り、倧きな目をさらに芋開いお近づいおきた。

「あ、あの  。人違いだったら枈みたせんが  橋本塁はしもずるいさん  ですか」

「そうだよ。びっくりした」
 にやりず笑うず、ミヌナは䞀瞬ほっずしたように息を吐き出したが、すぐに眉根にしわを寄せた。

「党っ然、気づかなかった。  䜕、その栌奜。どうしちゃったのよ」

「その反応が芋たくお。あヌ、面癜かった。ミヌナを驚かせる䜜戊、倧成功」

そう。今のオレは、ミニスカヌトずハむヒヌルを穿き、頭にはロン毛のカツラ、付けた぀げず入念なメむクを斜した、いかにもな女の出で立ちをしおいる。たあ、癜昌なら野球で鍛え䞊げた肉䜓のせいですぐにバレおいただろうが、倜の倖灯䞋のお陰でなんずかごたかし通せた。

ミヌナは黙ったたた、オレを芋䞋すような目で芋おいる。笑い飛ばしお欲しかったのに、こんなにも無蚀だずさすがに気が滅入る。

「  やっぱ、匕いおんの たあ、お前は人を芋た目で刀断するようなや぀だもんな」

「  塁、倉わったね。  違うな、私が倉わっおないんだ。うん、そうだよね、きっず」

もっず銬鹿にされるかず思ったのに、意倖なこずを蚀ったので驚く。別れたオレに「今すぐ䌚いたい」だなんお連絡をよこすくらいだ、きっず䜕か思うずころがあったに違いない。

「それで 呌び出した理由っおのは」
 ミヌナの深刻そうな顔に合わせお、こっちも䞀床、呌吞を敎えおから問う。

「聞いおくれる 実はね  」

そう前眮きしたミヌナは、今日、孊校で起きた出来事を詳现に語った。話を聞いおようやく、オレに䌚いたがったこず、倉わっおないのは自分の方だず蚀ったこずに玍埗がいった。

「たさか、塁たで女装が趣味になっおるなんお想像もしおなかったけどね。  いったい䜕があったのよ お兄さんに感化されたの」

話しおすっきりしたのか、気づけばミヌナはい぀もの調子を取り戻しおいた。オレはどう答えたものか少し迷ったが結局、䞀から話すこずにする。

「えヌず、事の発端は兄ちゃんの恋人なんだ。  芚えおるず思うけど、兄ちゃんに䌚ったずき、突っかかっおきたあの女の人が、兄ちゃんの今の圌女」

ミヌナが兄ちゃんをけなしたずき「芋た目で人を刀断した䞊に冒涜がうずくするなんお、サむテヌな人間のするこずよ」ず蚀い攟った匷者である。オレ自身、あの䞀蚀には衝撃を受けた。あれほどたでに盞手を思いやる発蚀が出来る女ず䞀緒にいる兄ちゃんに察する嫉劬心ず、平気で人を傷぀ける蚀葉しか蚀えないミヌナず䞀緒にいるオレの惚めさをいっぺんに感じた瞬間でもあった。

「あれ お兄さんっお同性愛者じゃなかったの」
 聞いおいた話ず違うず思ったのか、ミヌナは銖をかしげた。オレも「うヌん」ず唞りながら応える。

「そこがよく分かんねえんだけどな。た、それはずもかく  。その圌女さんが最近、男装を趣味にし始めたんだよ。真面目そうな人だから意倖だったんだけど、どうやら真面目がゆえに兄ちゃんをもっず理解したいっお気持ちがあっおの男装らしい。そしたら、兄ちゃんも面癜がっちゃっお、こっちは女装だよ。二人ずも党然䌌合っちゃいないんだけど、男装デヌトの日、女装デヌトの日っおのを䜜っおは、同性の栌奜で出かけおるんだっおさ」

「  やっぱり倉わっおるわ」

「オレも最初はそう思っおたよ。でも、その二人がめっちゃ楜しそうにしおるわけ。そんな姿を芋たら、䜕だかオレもやっおみたくなっちゃっお。䞀皮の倉身願望っおや぀」

「あヌ、それで今日の、この栌奜なのね  。その  どんな感じなの 男の塁が女に倉装するっお蚀うのは」

「䜕だか自分じゃなくなったみたいに感じるな、特に鏡を芋たずきは。同時に、芋た目倉わっおも、オレはオレなんだなずも思う。うヌん、ずにかく䞍思議な感芚で、これがたたやみ぀きになるっお蚀うか」

「そうなんだ  」
 ミヌナはそういうず、しばらく黙り蟌んだ。

気づけばオレは、女の栌奜をしおいるこずを忘れ、足を広げた状態で座っおいた。慌おお姿勢を正し、膝ず膝をくっ぀ける。やれやれ、枅楚な女を挔じきるにはただただ修行が必芁そうだ。

「私もやっおみようかな、男装  」
 ミヌナがぜ぀りず呟いた。

「今の自分を倉えたい。芋た目で人を刀断しちゃう、どうしようもない自分を倉えたい。  もし、服装を倉えるだけで別人になれるのだずしたら、やっおみる䟡倀はあるかも  。塁を芋おたら、䜕だかそんなふうに思えおきた」

「ぞえ  。自分のこず、倉えたいんだ。意倖」
 ミヌナはムッずした。「冗談、冗談」ずすぐに返すが、圌女は怒ったたただ。どうやら本気らしい。

「ごめん。そこたで意志が固いずはな。よし、そんならオレにいい考えがある。次の週末、空いおる 兄ちゃんのずこに連れおっおやるよ。そうしたら、圌女さんに男装の仕方を教われる」

「えっ、いいの」
 乗り気のオレにミヌナは再び目を芋開いた。衚情がコロコロ倉わるずころは盞倉わらず芋おいお面癜い。

「別にぃ。お前ずは喧嘩別れしたけど、昔のこずを反省しお生たれ倉わりたいっお蚀うなら、手助けしおやろうっおだけの話だ。それに  」

「それに  」

「ミヌナの男装芋おみたいから。䞊背うわぜいあるし絶察、䌌合うぜ」

「  あんた、この状況楜しんでるでしょ」

「もちろん。楜したなきゃ、損、損」

「    」

「あのな、蚀っずくけど、このくらいの気持ちがないず、異装なんお出来ないぜ オレがこの栌奜で䞉十分もここに座っおお恥ずかしくないず思う」

ミヌナはハッずしお、改めおおれの女装を芋た。望んでしおいるこずずは蚀え、凝芖されるのはやっぱり気恥ずかしい。䞊から䞋たで䞀通り眺め終わるず、ミヌナはクスッず笑った。

「よく芋たら、党っ然、女に芋えない。塁にしか芋えない。なのに私ったら、なんで五分も気が぀かなかったんだろう 笑っちゃう」
 
 ミヌナの笑顔に぀られおオレも笑う。
「そうなんだよぉ。どうしたらもっず女っ気出せるかなあ もっず研究しねえず」

「たずはその、筋肉隆々の腕ず足を隠した方がいいよ」

「やっぱり 兄ちゃんのアドバむスは参考にならねえな  」
 そう蚀うず、ミヌナは呆れたように䞡の手のひらを倩に向けた。



ミヌナ

倏䌑みが終わろうずしおいる。所属しおいる゜フトボヌル郚の倏の倧䌚は準々決勝で敗れたから、䞉幎の私はそれを機に匕退ずなった。本来ならば郚に顔を出す必芁もないんだけど家にもいづらいので、少し前たで郚長だったのをいいこずに、時々郚掻に出おはバットを振ったり投球緎習をしたりしお今日たで過ごしおきた。そんな折に告癜されちゃったから、唯䞀の逃げ道だった郚掻にも顔を出しづらくなっおいる状況だ。

郚掻動以倖の居堎所がないのは塁も同じらしく、高校野球の地区予遞敗退埌は、プロ野球の球堎でビヌルの売り子をしお暇を朰しおきたらしい。

「盞倉わらず、友だちいないんだね  」

「そっちもな」

友だちの䞀人くらいいる、ず反論しかけお口を぀ぐむ。お互いに寂しさを埋め合わせる栌奜で付き合い始めたのを思い出したからだ。動機がそれだから、喧嘩は日垞茶飯事。䟋の件がなくおも、遅かれ早かれ別れおいただろう。なのにたたこうしお再䌚し、気づけば圌の兄ずその恋人が䜏むアパヌトたでやっおきおいる私がいる。なんずも皮肉な話だ。

最寄りのK駅から電車で二十分。駅近くにそのアパヌトはあった。むンタヌフォンを鳎らすずすぐに䞭から返事がしお、塁によく䌌た顔の男性が姿を珟した。

「いらっしゃい。埅っおたよ。どうぞヌ」

塁のお兄さんは私を芋おも嫌な顔䞀぀せずに奥ぞ通しおくれた。慣れた様子で先に入る塁の埌ろにくっ぀いおいく。

たず郚屋に入っお驚いたのは、倧量のねこグッズ。たるでどこかのお店に入っおしたったかのようだ。よくよく芋るず、塁のお兄さんの着おいるシャツもねこのむラスト入りだ。

「おい、ミヌナ。この皋床で目ん玉䞞くしおんじゃねえよ」
 圧倒されおいるず気づいたのだろう、塁に突っ蟌たれおしたった。

「あ、うん  。聞いおいたよりずっず  『ねこ』だったから぀い。でも、倧䞈倫」

「ホントか あ、かおり姉さん。今日はお䞖話になりたヌす」

私の反応に疑いの目を向けおいた塁だが、奥の郚屋にいた人に気づいお挚拶をする。塁の肩越しに芋るず、小柄な「男性」の姿が芋えた。䞀瞬頭がこんがらがったが、「ああ、この人が䟋の圌女さんか」ず悟る。

「あの  あのずきは酷いこずを蚀っおしたっおごめんなさい」
 私は、圌女さんずお兄さんに向き盎っお深々ず頭を䞋げた。怒られるのには慣れっこ。だけど二人はそうしなかった。

「いいんだ、もう。むしろ、あの䞀蚀がきっかけで、おれはかおりさんずの距離を瞮めるこずが出来たんだ。感謝しおるくらい。だから謝らないで」

お兄さんは「ねヌ」ず蚀っお、かおりさんの肩にもたれた。男装のかおりさんに寄りそう様は、さながら同性カップルのようだ。

「えヌず、お兄さんは  恋愛察象が男性だず聞いおるんですが  。かおりさんはお兄さんの芁求に沿おうずしおるっおこずなんですか ぀たり、男になりきろうず」

私は思いきっお尋ねた。かおりさんはクスクスッず笑う。

「話せば長くなるのだけれど。  実は、わたしには兄がいたの。その兄が亡くなる盎前にいった蚀葉が――僕の分たで生きろ、ずいった蚀葉が――ずっず頭の片隅に残っおいおね。正盎、重かったのよ。だけど、あるずき遺品を敎理しおいたら、兄の服に目が留たっお、なぜか唐突に『着おみたい』っお思ったの」

「えっ、亡くなったお兄さんの服を着たんですか」

「ええ。そうしたら  これたでずっず重荷に感じおいた遺蚀がスッず受け容れられるようになったのよ。ああ、わたしは兄の分たで生きなくおいい。兄ず䞀緒に生きればいいんだず。それ以来、この栌奜をするようになったずいうわけ。だから、玔さんのためにしおいるずいうあなたの予想は、残念ながらはずれね」

「だけど、男装のかおりさんは普段ず違う。䌚ったこずはないけど、やっぱりお兄さんの透ずおるさんなんだろうな、っお思う瞬間があるよ」
 塁のお兄さんは䜕床もうなずいた。

「それっお、亡きお兄さんが乗り移っおるんじゃ  」

「それでもいいのよ。そばにいおわたしを守っおくれおる。そんな気がするから」

「そうなんだ  。私ずは党然、男装の目的、違ったな  」
 もっず男性のようになりたい願望があるのだずばかり思っおいたから、話を聞いお正盎戞惑った。自分の持っおいる動機が䞍玔であるかのようにさえ感じた。

けれども、かおりさんは蚀う。

「いろいろな人がいるわ。玔さんのような人もいるし、わたしみたいな人間もいる。䞀人ずしお同じ人は存圚しないのよ。それにね、男ず女の枠にずらわれる必芁だっおないの。わたしはこれが、兄のしおいた栌奜で、兄を思い出すきっかけになるから着おいるに過ぎない。もし、玔さんが『おれのために男の栌奜をしお』ず蚀っおきおも、わたしは嫌だず蚀うでしょうね。だっおそれは芋た目にずらわれおいるず蚀うこずですもの」

「うん。だっお、かおりさんはかおりさんだもん。おれは、もちろん倖芋も奜きだけど、どちらかず蚀えば内面に惹かれおるわけで、だから男奜きのおれでもかおりさんずは䞀緒にいられるんだず思っおる」

「兄が憑いおるせいかもしれないけれどね」
 二人は、あの䞖の人を話題に笑い合っおいる。䜕がどうなっおいるんだか  。

「さお、ず。わたしたちの話はこれくらいにしお  。ミヌナさん、だっけ さっそく着替えおみる」

おろおろしおいる私を芋お、かおりさんが助け船を出すように蚀った。私はこくんず頷く。「こっちぞいらっしゃい」ず誘われお間近に立぀。

「  あら、思っおいたよりずっず背が高いのね。玔さんの服の方がいいかしら」

䞊んで立぀ず、私が女にしおは銬鹿にデカいず気づいたようだ。おそらくかおりさんは、自身の兄の服を、ず考えおいたのだろう。が、かおりさんが着おいる服のサむズはどうみおも小さい。塁のお兄さんも慌お出す。

「えっ、でもおれは暪幅あるから、スリムなミヌナさんにはブカブカだず思う  」

そう蚀ったお兄さんの芖線が塁に向く。それに合わせおかおりさんの芖線も、私のそれも塁を芋る。

「ぞ な、なんでみんなしおオレを芋るんだよ   た、たさか  なあ」
 着おいる服をぎゅっず぀かむ塁を芋お、お兄さんがにやりず笑う。

「塁、女装するんだよな ちょうどいいじゃん」

「や、やめろよ、兄ちゃん。よりによっおミヌナに服を貞すなんお  。それに、貞しちゃったら、裞のオレはどうすりゃいいんだよ   え、もしかしお  」
 慌おふためく塁の姿があたりにも可笑おかしくお口元が緩む。䜕だか急に楜しくなっおきた。

「私はそれでいいよ。塁の服を着る。塁は私の服を着お」

「  うっそヌん」



塁

なんで元カノず服の亀換っこをしおるんだ、オレは。わけが分からない。だけど、悔しいこずにミヌナの服はオレにぎったりで、兄所有のカツラずメむクをしたら、ぱっず芋、誰もが女ず疑わない容姿になっおしたった。

ミヌナの方も、现身のオレが着おいる服を芋事に着こなし、長い髪さえなかったらむケメンそのものだった。

それにしおもミヌナ、足長なげヌな。䜕でオレのゞヌパン履きこなしおんだよ  。

矎しい立ち姿。たるで宝塚の男圹みたいに芋える。オレの方は、五分䞈のブラりスに膝䞈のボックススカヌトから真っ黒けの四肢を芋せる矜目になっおるっおのに  。

「いいじゃん、塁。䌌合っおる」
 兄ちゃんが蚀った。

「ぜっおヌ嘘だろ。顔がにやけおる」

「いやいや、本圓に䌌合っおるっおば。自分で思っおるより悪くないよ、ほら」

党身鏡の前に立たされる。前回ミヌナに筋肉隆々の足を指摘されたのが気になっおいたけど、しばらく芋おいるうちに、これはこれでありなんじゃないか、ず思えおきた。

「ぞえ。䜕だか私を芋おるみたい。䞍思議な感芚」
 ミヌナがオレを芋おしみじみ蚀った。
「私たち、たるで入れ替わっちゃったみたいね」

「なんだよぉ。この前はオレの女装芋おドン匕きしおたくせに、いざ自分も男装しおみたら楜しくなっおきたっお顔しおるぜ」

「そうだね。このたた家に垰ったらどんな反応をされるかず想像したら楜しいよ」

「あヌ  。たあ、ある意味、楜しいかもな。オレの堎合は癜い目で芋られただけだったけど、ミヌナの芪はグチグチ蚀いそう」

「小蚀で枈めばいいけど、最悪、卒倒するかもね。私のこずは、なんだかんだで埓順な嚘だず思っおる人だから」

ミヌナは同居しおいる継母から小蚀を蚀われるのが嫌で嫌で仕方がない、ず亀際䞭から垞々蚀っおいた。詳しいこずは分からないけれど、芪が再婚するずいろいろ倧倉らしい。

いや、そうでなくおも芪子っおのは、理想が高すぎたり、型にはめようずしたりするずうたくいかない。うちの芪だっお、兄ちゃんが同性愛者だず公蚀しおもなお、しばらくの間は受け容れずに異性愛を匷芁しおいた。オレはそれをずっず芋おきたからこそ知っおいる。思い蟌みや抌し぀けは぀くづく人を䞍幞にするっお。

兄ちゃん自身、同性しか愛せないずいう思い蟌みに囚われおいたみたいだけど、かおりさんず過ごす時間の䞭で思い蟌みは倖れたらしく、今では異性ずいるのに幞せそうにしおいる。かおりさんは兄ちゃんを倉えおくれたし、愛し愛される努力が出来る人。だからかおりさんには本圓に感謝しおるんだ。

さっきからミヌナは、党身鏡の前で前を向いたり埌ろを向いたり、顔をのぞき蟌んだりしおいる。

「ねえ、塁。男装するの、気に入っちゃったから、家に垰ったらお互いの服を䜕枚か亀換っこしようよ。服、たくさん持っおるでしょ」

極め぀けにそんなこずを蚀う。もっず恥じらいを持っおくれたら面癜かったのに、こうもノリノリじゃ、こっちが萎えおしたう。

  たあ、いいか。兄ちゃんを心底芋䞋した発蚀をしたミヌナの考えが少しでも修正されたのなら、それだけでも連れおきた意味はある。なんだかんだで、あの日のこずはオレもずっず匕っかかっおいたから。

「分かったよぉ。ったく、付き合っおたずきもわがたたなや぀だず思っおたけど、盞倉わらずオレを振り回しおくれる」

「なによ。誘っおきたのはそっちじゃない」

「泣き぀いおきたのはミヌナの方だろ」

「泣いおなんかいないっおば」

「たあたあ二人ずも萜ち着いお」

危うく喧嘩になりそうなずころをかおりさんに制される。なんでミヌナずいるずきはこうなっちゃうんだろう。兄ちゃんたちみたいに穏やかなカップルがうらやたしい。

ミヌナずにらみ合っおいるず、かおりさんがチラリず郚屋の時蚈を芋た。
「ねえ。もしこのあず時間があるなら、東京散歩でもしない ずっおも面癜いわよ」

「東京散歩   もしかしお、この栌奜で」

「そう」
 かおりさんは、ふふっず笑った。



ミヌナ

私ず塁、かおりさんの䞉人は男女逆の服装をしおいる。週末の午埌の人気ひずけはたばらだったが、それでも確実に人の目はある。電車に揺られながら目指す東京は、い぀もよりずっず長く感じた。

ずいうのも、私ず塁は、同じく肩を䞊べおいおも人目が怖くお震えおいたからだ。䞀方、男性カップル颚のお兄さんたちは、慣れおいるのか、党く呚囲の目を気にするこずなく匕っ付き合っお座っおいる。

「  すげえよな、あの二人」
 塁が䞍安をごたかすかのように蚀う。
「めっちゃ芋られおんのに、平然ずしおるなんおさ。信じらんねえよ」

「私もそれ、思った。でも、塁は女装、初めおじゃないんでしょ」

「銬鹿。普通、こんな栌奜で電車に乗るかよ。誰に䌚うかもわかんねヌのに」

「  それもそうだね」

私だっお知り合いには芋られたくはない。Tシャツにはドクロマヌクが぀いおるし、ゞヌパンは穎だらけ。普段の私を知っおる人が芋たらむメヌゞは総厩れだろう。

そこたで考えお「埅っお」ず自分を制する。

そもそも私は自分のむメヌゞを倉えたくおこの栌奜をしようず決めたんじゃなかった なのに、どうしお知り合いに芋られるのを恐れおいるの

――本圓は倉わりたくないんじゃない

私の䞭の䞀人が錻で笑う。倉わりたいなんお口だけ。所詮、あんたは継母たたははの蚀うずおりにしか生きられないのよ、ず。

父が再婚したのは私が小孊生に䞊がった頃。矩母は、はじめの頃は私に奜かれようずずいぶん甘やかしおくれたが、やがお自身の子を二人産むず愛情はそっちぞ移り、私ずの距離は広がっおいった。そしおい぀の間にか「女の子なんだから○○しちゃダメ」「女の子は○○であるべき」ず、匟たちずの違いを匷調するようになっおいった。

私はその「女の子なんだから」ずいう蚀葉に違和感を抱きながらも、再び「母」に芋捚おられるのが怖かったこずもあり、女らしい女であろうず努力を惜したなかった。髪もできるだけ䌞ばしおきたし、女子高にも進孊した。けれども、䜕をしおも満たされなかった。

そんなずき、声をかけおくれたのが塁だった。私のさみしさに理解を瀺しおくれた圌にだけは甘えられた。䜕でも蚀えた。結局甘えすぎお、塁や圌のお兄さんを傷぀けおしたったけれど、圌らずの出䌚いがなければ、私はずっず満たされないたた生きおいたかもしれない。

私が倉わりたいず願ったのは、芪から教え蟌たれた偏芋を曞き換えたいからだ。もう、男ず女ずいう区別をする時代ではない、そのこずを玔おにいさんやかおりさんが教えおくれた。

停車駅から、数人の男子高校生が乗り蟌んできた。倧きな声でしゃべりながらふざけ合っおいる。先に乗っおいた人にぶ぀かったが、圌らは謝るどころかヘラヘラしおいる。挙げ句の果おに、その䞭の䞀人がふざけおいる友人たちをスマホのカメラで撮圱し始めた。

「なんか  嫌だな。ああいう奎らを攟っおおくのっお」
 塁に語りかけた぀もりだったが、圌はう぀むいたたた知らんぷりを決め蟌んでいる。

呚囲の人も、迷惑がっおいるのに誰も動こうずしない。我慢できずに立ち䞊がるず、かおりさんも同時に動く。

「静かにしろよ 呚りの人が迷惑しおるだろ」
 意図せず、男のような台詞が飛び出した。

「君たち、K高校だよね マナヌがなっおいないっお、孊校に連絡しおあげようか」
 かおりさんも冷淡に蚀った。

男子高校生たちは舌打ちをしたり小蚀を蚀ったりしお車䞡を移っおいった。圌らが芋えなくなるず䜕人かが拍手をした。それが私たちに向けられたものだず気づいたのは、少し経っおからだった。

「栌奜良かったわよ、ミヌナさん」
 かおりさんが耳打ちをした。

「いえ、かおりさんも䞀緒に蚀っおくれたから助かりたした」

「ねえ、男の栌奜をしおいるず、普段は出来ないような倧胆な行動が出来るず思わない わたしはそれが嬉しいんだ」

かおりさんはそう蚀っお、䜕事もなかったかのように玔おにいさんの隣に腰を䞋ろしたのだった。



塁

終着駅に着き、ごった返すホヌムを抜けおからようやく東京の街に降り立぀。埌玉県に隣接する小さな区たちだが、埌玉の人間はここで遊ぶのが奜きみたいだ。オレも時々遊びに来る。䜕があるわけじゃないんだけど、東京なのに垢抜けない感じがいいのかもしれない。

遊び慣れた堎所。なのにオレは緊匵しおいた。い぀の間にかミヌナの腕にしがみ぀いおいる。芋た目だけじゃなくお内面たで女になっおしおしたったみたいだ。

「  怖いの なっさけないの」
 案の定、ミヌナにバッサリ切り捚おられた。

「それでさっき、電車の䞭でもだんたり決め蟌んでたんだ」

ふざけ䌚いながら乗車しおきた連䞭の䞭に、友人がいた。孊校は別だったが、䞭孊たで少幎野球チヌムで䞀緒に汗を流したや぀だ。絶察に顔を、いや、この栌奜を芋られたくなかった。だから、ミヌナに飜きられおるず分かっおいおも奎らを泚意できなかった。

「あヌ、いや  。さっきは知り合いがいたから  。でも、兄ちゃんだっお」

蚀い蚳しおも惚めなだけなのは分かっおる。でも、だからっおオレだけが責められるのはおかしいんじゃないか、ずいう䞍公平感から兄ちゃんを巻き蟌む。

そこにかおりさんが加わる。
「ミヌナさん。塁さんを責めるのはやめたしょう。わたしたちはあの堎で動くこずが出来た。そういう圹割を果たしたずいうだけのこずよ」

「だけど、男だったら  」

「男性だから行動的ずは限らないのよ。玔さんのように、優しくお争いを嫌う人もいれば、私のように正矩を振りかざしおしたう人もいる。それを、男ずか女ずかで語るべきではないず思う」

「かおりさん、さっすが」
 オレが感嘆の声を䞊げるず、ミヌナがじろりず睚んできた。かおりさんは再びミヌナをなだめおから蚀う。

「たあ、あの䞭に知り合いがいたのなら、迷惑行為をやめるよう泚意しおも良かったず思うけれど、声が出ないずきもあるわよね」

「うん、うん」

「䜕だか、玍埗できないなあ  」
 ミヌナは䞍服そうだった。

「たあ、終わったこずはもういいじゃん。それより、行こうよ」
 兄ちゃんが堎をずりたずめるように蚀った。

「行こうっお、どこぞさ」

「い・い・ず・こ。うふ  」

兄ちゃんはニコニコしながらそう蚀うず、かおりさんの腕にぎゅっずしがみ぀いた。腕を掎たれたかおりさんは、照れるふうでもなく「じゃ、行こうか」ずオレたちを促す。

「えヌ  。かおりさんはそれでいいの」
 オレが問うず、「それでっお、䜕が」ず返っおくる。

「なんか、こっから芋おるず兄ちゃんが  男の栌奜しおるかおりさんだから甘えおるっお蚀うか、かおりさんを男だず思っおるからそうしおるようにしか芋えなくお」

「あヌ  」
 かおりさんはそう蚀っお兄ちゃんをチラリず芋る。

「いいのよ、だっおお互い様だもの。それに、男は甘えちゃダメ、女は甘えおいいっお決たりはないはずでしょう」

「あっ  」
 ただ男ず女の枠に圓おはめお物事を芋おいるこずに気づかされ、ショックを受ける。かおりさんたちは、オレの知る男女芳を超越しおいる。これが「倧人の恋愛」っおや぀なのか  

「男だっお甘えたいんだよぉ。奜きな人にはい぀でもこうしおいたいんだよぉ。たずえみっずもないず思われたっお、自分の気持ちを抑えるくらいならおれはかおりさんに甘える方を遞ぶ」

「マゞでヌ」

こんな兄ちゃんの蚀葉を聞いたら、幌皚な考えしかできない自分が恥ずかしくなっおきた。

兄ちゃんは倉人のくせに、い぀だっお自分の生き方を貫いおる。そこが栌奜いいず思っお真䌌するんだけど、おれはいっ぀も空回り。

野球も勉匷も䞭途半端。今回のこずだっおそうだ。分かっおる、おれには「自分がない」んだっお。だけど、どうしたらいいのかも分からずに、真䌌っこするこずでしか生きおいけないんだ  。

☆☆☆

兄ちゃんたちにくっ付いおいった先は、ビルの地䞋にひっそりず存圚するバヌだった。ただ開店には早かったが、すでに店䞻はおり、口を利くず快く䞭に通しおくれた。

「あらあ。ゞュンゞュン、匟連れおきたの そっくりだからすぐに分かったわ」

ミカずいう名の店䞻は今のオレず同じ栌奜――芋るからに男だが女装――をしおいお、特別な説明を受けなくおもこの店がどんな堎所なのか、そしおミカさんが䜕者なのかはすぐに察しが぀いた。

「兄匟揃っおそっち系なのかず思ったけど、どうやら匟は違うみたいね。あんた、名前は」

 顔をのぞき蟌たれ、「塁  」ずかろうじお返事をする。ミカさんは気持ち悪い笑みを浮かべおいう。

「で、塁はどうしお女装なんかしようず思ったわけ アタシたちをからかうために遊びでしおるだけ それずも、䜕か特別な理由があるのかしら」

唐突にそんなこずを蚀われ、返事に窮する。黙っおいるず、ミカさんが説教するみたいにいう。

「いい あんたはそうかもしれないけど、アタシやゞュンゞュンやかおりは違う。本気で性ず向き合っおいるのよ。あらがおうずしおるのよ」

「オレだっお  悩んでるんだよ  」
 ぜ぀りず蚀うず、少し間を眮いおからミカさんはふうっず息を吐いた。

「それよ、それ。その台詞が聞きたかったの。  分かるわよ、䜕かに悩み迷っおるこずくらい。でなきゃ、普通の男ずしお生きおきた子が女装に走るわけないもの」

「    」

「ゞュンゞュンもそれに気づいおいるのね。だからここぞ連れおきたんだわ、きっず。いいお兄さんを持っお、あんたは幞せね」

「    」
 銖をかしげるず、ミカさんは呆れたように笑った。

「で、ゞュンゞュンたちはこの子たちに芋せたいものがあっお来たんでしょう お店が開くたでの間なら、ここでファッションショヌをやっおもいいわよ」

「ありがずう、ミカさん」
 促された兄ちゃんずかおりさんは、店の奥から䜕やら箱を持っおきた。そしおそれぞれ䞊䞋䞀枚ず぀、きらびやかな服を広げお芋せた。

「実はこれ、かおりさんに䜜っおもらった詊䜜品。  ず蚀っおも、このたた売りに出せそうでしょう」

「玔さんったら  。服食の勉匷を始めたばかりだから、出来映えにはただ玍埗できおいないっお蚀っおるのに」
 かおりさんは少し照れたようにう぀むいた。

兄ちゃんの説明によるず、「男同士、女同士、異性同士でも䞀緒に楜しめる服」をコンセプトに、色やデザむンにこだわり、詊行錯誀しながら衣装を制䜜しおいる最䞭なのだずいう。デザむンはミカさんが担圓らしい。完成した暁には、ネットショップで販売するのだずか。

「実はミカさん、元々デザむナヌずしお掻躍しおいたんだっお。でも、こっちの方が性に合っおるっお蚀っおこの道に入ったそうなんだけど、おれたちが話を持ちかけたら、面癜そうっおこずで協力しおくれるこずになったんだ」

「アタシの着おる服も自分でデザむンしたのよ。どう 䌌合っおるでしょ」
 ミカさんは自慢げにポヌズを取っお芋せた。

「今たでは、アタシたちみたいな人間は日陰でひっそりず暮らすしかなかったけど、それはそれで特別感があっお結構気に入っおたのよ。ただこれからは、男も女も、ファッションずしお、それから自己衚珟の䞀぀ずしお、異装をしたりメむクしたりする時代になるず思うの。だから、ゞュンゞュンやかおりのやろうずしおいるこずを、アタシは応揎したいのよ」

「ふヌん  」

「それはそうず、塁はもっずメむクの仕方を勉匷した方がいいわね。あたりにも䞋手すぎお、せっかくの矎人が台無しだもの」

アタシが盎したげる♡ ず再び顔を寄せられたので、オレは慌おお逃げ出した。みんながそれを芋お倧笑いする。

「かおりさん、それ、着おみおもいい」
 オレが店の隅に逃げおいるあいだに、ミヌナがかおりさんの仕立おた服に興味を瀺した。

「ええ、もちろん」
 ミヌナはかおりさんに案内されお店の奥で着替え、戻っおきた。

男でも女でも着られる服、ず蚀うだけあっお、パンツスタむルでありながらも、所々にかわいらしさを取り入れたデザむンがミヌナによく合っおいた。ロング䞈のシャツの柄も、掟手なピンクなのに嫌らしさを感じない。

「ミヌナさん、スタむル抜矀ね。写真映えするわ。ぜひ、撮らせお」
 かおりさんは絶賛し、バッグからカメラを取り出すずあらゆる角床からミヌナの姿を写真に収めた。

「オ、オレも着おいい  」
 ミヌナばかりがちやほやされおいるのが気に入らなくお、半ば匷匕に割り蟌む。ミヌナず入れ違いになっお衣装を亀換し、今床はオレが同じ服を着おみんなの前に出る。

䞀瞬の沈黙。
「ど、どう  」
 ドキドキしながら問いかけるず、四人が䞀斉ににやりず笑った。

「メチャクチャいけおるじゃん」

「塁さんもお䌌合いじゃない」

「塁、かわいいよ」

「いやヌん、アタシ奜み♡」

どうやらこの栌奜はオレが着おも䌌合うらしい。おれの姿もかおりさんに撮圱しおもらい、写真で自分の姿を確認する。みんなが蚀うほどむケおるかは分からないけど、少なくずも悪くはないず思った。

オレが写真を芋お満足しおいるず、端はたで兄ちゃんずかおりさんが䜕やら耳打ちをしおいるのが芋えた。

「䜕、こそこそ話しおんだよぉ」
 オレの悪口でも蚀っおるのか、ず思ったがそうではなかった。

「塁、モデルになっおくれないかな ミヌナさんも」

「ええっ」
「モ、モデル 私が  」
 オレたちは同時に声を䞊げた。

「今たではわたしや玔さんが詊着しおたんだけど、お互いに容姿に自信がなくお。でも今、二人が着おくれたずき、これだっお思ったのよ」

「うん。おれたちより、二人の方がずっず服のむメヌゞアップになる」

「やっおくれるわよね」

二人に迫られ、オレずミヌナは二人しお顔を芋合わせた。けれど、ミヌナの衚情を芋る限り、「やりたい」ずいうオヌラが党開だった。

「塁、䞀緒にやろうよ。塁が䞀緒なら私、やるわ」

「  やっぱりそう来たすか。オレを巻き添えにしたすか」

「もずはず蚀えば、塁が女装しお私をこの䞖界に巻き蟌んだんでしょう」

「    」

「ね、やろうよ」
 念を抌されたらもう匕き䞋がれない。

「分かったよぉ。やるよぉ  」

ミヌナをからかっおやろうずいう、軜い気持ちで兄ちゃんたちのずころに連れおきたのに、い぀の間にかオレが巻き蟌たれたみたいになっおる。  たあ、いいか。別れたずはいえ、口さえ開かなきゃミヌナはやっぱり芋おいおきれいだ。こうなったら、培底的にミヌナの男装を楜しんでやろうじゃないか。



ミヌナ

隠れおやっおいた぀もりでも、やっぱり家族には感づかれるものだ。匟たちにはあっさりず、私が塁ず衣服の亀換をしたこずがバレおしたった。二人ずも小孊生のくせに、こういう嗅芚だけは䞀人前だ。

「それ、前に芋たこずある この間たで付き合っおた男のや぀だろ 仲盎りしたの」
「そうでもなけりゃ、圌氏の服がここにあるわけないじゃん。で、なんでそれを着おるの」
「きっずあれだよ。圌氏のこずが奜きすぎお、着おた服の匂いがないず萜ち着かないんだよ」
「マゞかヌ。匂いがないず萜ち着かないなんお、犬みたいだな」

小孊生の浅はかな想像を聞いお錻で笑いたくなったが、実際にやっおいるこずはどう蚀い蚳しおも「フツヌ」じゃないから、圌らを銬鹿にするこずも出来ない。

「あんたたちだっお、いっ぀もお気に入りのブランケットを匕きずっお歩いおるじゃないの。䌌たようなものよ」
 そう蚀っおやるず、二人は劙に玍埗したらしかった。

「だけどさあ、その髪、長すぎるよ。䌌合っおない」
「垜子の䞭に抌し蟌んだっおダメだね。かえっお䞍自然」

小四の双子は、今床は私の男装を芋お批評を始めた。先日、バヌで倧絶賛だった男装にいちゃもんを぀けるなんお  ず思ったけれど、蚀われおみれば確かに  。いろいろ工倫しお髪をたずめおみようずしたが、どう頑匵っおも塁から借りた服ずの釣り合いがずれない。

「じゃあ、あんたたちはどうしたら䌌合うず思っおんの」
 思いきっお尋ねるず、二人は顔を芋合わせお声をそろえる。

「぀ん぀ん頭」

「はあっ」

「うっわヌ、アネキが怒った 鬌だヌ」

匟たちは私を散々からかっお楜しんだのか、そのたた走っお自宀ぞ向かうず突然テレビゲヌムを始めた。やれやれ  。

静かになった郚屋で䞀人、党身鏡に映った自分をたじたじず芋぀める。

「぀ん぀ん頭  ねえ」
 䞀瞬、塁の短髪が思い浮かんだが、慌おお頭を振っお远い出す。時蚈を芋るず、倕方の五時を指しおいる。

「ただ、間に合うかな  」
 明日から二孊期が始たる。やるなら、今日しかない。

☆☆☆

「うわっ、ミヌナ。どうしたの、その髪型 思い切ったね」

朝、登校するなり、クラスメむトで同じ゜フトボヌル郚だったモネが私の髪型に気づいた。ぐるぐるず、あらゆる角床から私を眺めたかず思うず、すぐに呚囲の人間にも私の倉化を知らせ始める。

昚日、滑り蟌むように矎容宀に駆け蟌んだ私は、ずっず䌞ばしおきたロングヘアをショヌトボブにしおもらったのだ。ためらいがなかったずいえば嘘だけど、思いのほか䌌合っおいたので埌悔はしおいない。

「むメチェンよ、むメチェン」
 呚りに䜕人か集たり出す䞭、モネの問いに答える圢で蚀った。

「  もしかしお、里桜りおがコクったのず関係ある」

里桜ずいうのは、先日私に告癜しおきた埌茩の女の子である。確かに、こずの始たりは圌女の䞀蚀だったかもしれないが、髪を切ったのは別の理由だ。なんお蚀おうか  。思案しおいるず、モネが耳打ちをする。

「実は里桜、あの埌から孀立しおるらしいよ。たあ、レズだず分かったらみんな匕くよね。ミヌナだっお振ったわけだし」

実際、あのずきの私に圌女を受け容れるずいう遞択肢は皆無だった。でも、今同じこずを蚀われたらきっず違う返事をしおいただろう。たったの数日で、私の考えはずいぶんず倉わった。いや、倉えさせられた。

責任を感じた私は、その日の攟課埌、久々に郚掻動に顔を出すこずにした。

「えっ ミヌナ先茩」

埌茩たちは私の登堎に、あるいは髪型の倉化に驚いたりはしゃいだりしおいる。が、私は構わず圌女らの䞭を進み入っお里桜を探した。

里桜は郚宀の隅にいた。私を芋぀けるなり「あっ  」ず䞀声発しおう぀むく。しかしすぐに䞊目遣いでこちらを芋るず「ミヌナ先茩、短い髪も玠敵です」ず぀ぶやいた。

「あ、でも先茩、あたしのこず嫌いなんですよね。あのずき、キモいっお  」

「銬鹿ね。あなたをいじめるために顔を出したんじゃない。むしろ、謝りに来たのよ」

「え」
 きょずんずする里桜の目を芋おはっきりず蚀う。

「この前は傷぀けおしたったわね。あの埌いろいろあっお、あんな颚に蚀っおしたったこずを心から反省しおる。蚱しおちょうだい。  残念ながら、この間の返事はやっぱりNOだけど、私が拒んだこずが理由で里桜がみんなから遠ざけられおるず聞いお、黙っおいられなくっおね」

「先茩  」

「ずいうわけで  」
 今床は埌茩たちに向き盎っお蚀う。

「次期郚長の里桜をひずりがっちにさせないようにね。郚長を支えるのがメンバヌの圹目。そうでしょ そんなこずじゃ、䞀勝も出来やしないわ。それに、里桜が誰を奜きになろうが、里桜は里桜じゃない。頌りになる、うちの四番バッタヌじゃない。みんなだっお知っおるはずよ」

埌茩たちはしばらくう぀むいおいたが、「確かにそうだよね」ず䜕人かが蚀い出しおからはチヌムに笑顔が戻る。

「ミヌナ先茩、髪型倉わったらたすたす玠敵」
「憧れちゃうよね」
「実はあんたもミヌナ先茩のこず、奜きでしょ」
「あ、あたしはレズじゃないっおば」

い぀もの雰囲気が戻ったのを芋届けた私は、里桜に今埌の郚の指揮を任せ、垰宅しようず校門に足を向けた。するずすぐ近くでモネが埅っおいた。

「あれ 䞀緒に垰る玄束しおたっけ」

「ミヌナが郚掻に向かったのを芋お、心配になっお様子をうかがっおたのよ。暎れなくお安心した」

「そんなこずしないっお」

「  なんか、急に倉わったね、ミヌナ。いったい䜕があったの 新しい圌氏でも出来た」

モネも私ず同じ゜フトボヌル郚に所属しおいたので、私のこずはよく知っおいる。圌女の䞭の私のむメヌゞはきっず、蚀いたいこずはズバッず蚀っちゃう口の悪い女、なのだろう。事実、ほんの少し前たではそうだった。その私が、暎れるどころか、傷぀けた本人に謝ったのだから䞍審に思うのも圓然だ。

「新しい圌氏 それはないけど  」

蚀おうか蚀うたいか悩みながら歩き出す。モネは、私の発蚀を聞き挏らすたいず、ぎったり䞊んで歩く。迷い迷っお告げる。

「  芪ぞの反抗心からよ」

嘘ではなかった。むしろ、それが根底にある思いだった。芪のこずはモネに話したこずはなかったが、衝動的に、女らしくするようし぀けられおきたこずぞの䞍満をぶちたけおしたう。

「芪の意に沿うよう生きおきた私だけど、ある人たちず出䌚っおそれが間違っおたこずを教わったのよ。髪が長くないず女じゃないわけ スカヌトじゃないずダメなわけ 男だから女を、女だから男を奜きにならなきゃいけないっお蚀うのも思い蟌み。いろんな人がいるのよ、䞖の䞭には」

「ぞえ なんかミヌナらしくない   っおこれもあたしの思い蟌み、なのかな」

「そヌゆヌこず」
 私が蚀うず、モネは腕を組んでうなった。

「なるほどねえ。髪の毛をバッサリ切ったのもそういう理由だったわけだ。それにしおも、あの、、ミヌナを、あっずいう間に改心させちゃう人たちっおいったい䜕者 めっちゃ興味湧くわヌ」

「たあ、モネには理解できないような人たちよ、きっず」

「えヌ あのミヌナには理解できたのに」

「  さっきから『あの』っお付けるのやめおくれない そりゃあ、これたでの口の悪さは認めるけど」

「あたしも䌚っおみたいなあ」
 モネが祈るように指を絡め、目をキラキラさせお蚎えおきた。

「  あんたはただ圌氏が欲しいだけでしょ 私を倉えた人たちは、䞀癖も二癖もあるような倉人ばっかり。モネが求めおいるような人たちじゃないよ」

「えヌ、そうなの がっかりだわヌ。そういえば、ミヌナが前に付き合っおた人は今どうしおるの 実はこっそりいいなヌっお思っおたんだよね。今、フリヌだったら玹介しおよ」

どうやらモネは、郚掻を匕退したのを機に圌氏を䜜っお恋愛を楜しみたいらしい。しかし、よりによっお塁、か  。

「あい぀は  やめずいた方がいいよ。うん、やっぱり倉人だもん」

「そうなのヌ」

䌚いたいず蚀っお呌び出したら女装しお埅っおるようなや぀を、倉人ず呌ばずになんず呌ぶ モネにはきっず、塁の冗談は通じないだろう。

やめずきなさい、ず念を抌すず、
「あっ、さおはただ奜きなんでしょヌ、元カレ君のこず」
 ず、モネが意地悪そうに蚀った。私は錻で笑う。

「ずっくに別れたや぀よ あい぀も口が悪いから、そのせいでモネが傷぀くのを芋たくないの。それがオススメしない理由」

口ではそう蚀ったものの、内心、モネが塁ず付き合っおいる姿を想像しお苛立っおいる自分がいた。

自意識過剰で、先のこずなんか䜕も考えおない、お銬鹿な塁のこずなんか倧嫌い――。

別れを切り出されたずき、そう反論しおサペナラしたはずだった。なのに今、モネに玹介しおほしいず頌たれお拒んでる  。

未緎があるっお蚀うの   そりゃあ、フラれたショックを匕きずっおるのは事実だけど  。

急に、メむクをした塁の顔がよみがえり、思わず身震いする。やっぱり、塁のこずなんお  。話題を倉えよう。

「  ねえ、モネ。そんなにむケメンが芋たいなら、今日の倕方、郜内の球堎で野球芳戊しない 平日の詊合なら、圓日行っおもチケットは買えるだろうし」

い぀だったか、野球遞手の栌奜良さを語っおいたのを思い出し、思い぀きで提案する。私もそうだけど、モネも根っからの野球奜きだし、むケメン奜きなのだ。

「あ、それ、いいね」
 案の定、モネは誘いに乗っおくる。
「確か今日は、東京ブルヌスカむず阪神スタヌキャッツの察決でしょう 先発はあの人だったはず うん、絶察行く」

「じゃあ、それたで郜内でぶらぶらしおようよ。街にもいい男、居るかもしれないし」

「賛成ヌ」

モネの扱いには慣れおいるので、なんずか塁を玹介せずに枈んで䞀安心する。それはいいのだが、自分で蚀っおおきながら、いい男っおどんな男だろう ず考える。

顔立ちが敎っおいる人 優しい人 高孊歎の人 高収入の人  

少し前なら、今あげたどれかに該圓する人だず答えただろう。けれど、今は少し違う。

玔さんずかおりさんの付き合い方を芋おからずいうもの、あんな恋愛がしたいず思い始めおいる私がいる。倖偎の条件ではなく、内面や粟神を認め合える関係性に憧れ始めおいるのだ。

今日はモネに合わせるけれど、私はむケメン探しではなく、玔粋に野球の詊合を楜しもう。そう心に決め、モネず歩き続ける。



塁

ミヌナからたくさん服を借りたのはいいが、マむクロミニスカヌトなんお、オレが穿いおどうする 普段のあい぀の服装は知っおいたはずなのに、いざそれが手元にやっおくるず扱いに困っおしたう。䞀番無難なのはサロペットだけ。悩んだあげく、今日はそれを着おバむトに向かう。

倏䌑み限定で受けたプロ野球球堎でのバむトだが、今日は急遜、お声がかかった。倧孊生アルバむトの䞀人が䌑むこずになり、もう䞀日出お欲しいずいう話になったのだ。

午前授業でおしたいの二孊期初日は暇だったから、オレずしおは奜郜合。二぀返事で了解し、女装しお出かけるずいうわけだ。

女装しお行っおも、期限付きのアルバむト仲間は、オレの私服なんお党く芋おない。だから気軜に女装を楜しんでいる。

今日の詊合は、郜内の球堎をホヌムにしおいる東京ブルヌスカむず、関西をホヌムにしおいる阪神スタヌキャッツずの察決。オレはビヌルを売り歩きながら、チラチラず詊合を芳戊する。

カヌン

也いた朚の音が球堎にこだたする。呚囲がどよめき、思わずグラりンドに目をやる。打った球はラむトスタンドに入った。ホヌムランだ。

すっげヌな、今季䜕本目だ

倧卒で今幎入団したばかりの、東京ブルヌスカむ期埅の星、氞江孝倪郎ながえこうたろう。䞀幎目ながらもレギュラヌで五番を任され、ホヌムランを量産しおいる。入団䌚芋をテレビで芋たずき、埌玉県川越垂のK高出身だっお聞いお、それ以来密かに泚目しおいた遞手だ。

攻守が入れ替わる。元気よくマりンドにやっおきたのもK高出身者で、今幎急成長䞭の入団四幎目、本郷祐茔ほんごうゆうすけ投手だ。高校時代に、先の氞江ずバッテリヌを組んでいたずいい、同じチヌムでプレむできるず分かっおからはいきなり成瞟がよくなりレギュラヌ入り。今季の防埡率は。お陰で東京ブルヌスカむはぶっちぎりの䞀䜍独走状態なのだ。

やっぱりK高の野球郚員はすごい。オレも入りたかったけど、偏差倀的に無理だった。頭もよくお野球も出来お  なんお、うらやたしすぎだろう

それに比べおオレは  。

絶奜調の二人を尻目に、自分の日垞を思い出しおは萜ち蟌む。

結局、今日の詊合は察で東京ブルヌスカむが勝利を収めた。ビヌルもよく売れた。最埌のバむトを問題なく終えたオレは、ここぞ来たずきずは真反察のどんよりずした気分でミヌナの服に着替え、球堎を出たのだった。

い぀もの習慣でスマホをチェックするず、兄ちゃんからメヌルが入っおいた。時間があるずきでいいから、たたかおりさんが仕立おた服を着おみお欲しいずいう䟝頌だった。

兄ちゃんたちのアパヌトは垰宅途䞭にある。どうせ家に垰っおもやるこずがないし、぀いでに寄っお飯でもごちそうしおもらおう。その旚を玠早くメヌル画面に打ち蟌み、送信する。

平日倜の䞋り電車は䌚瀟垰りの人で混み合っおいたが、オレは運良く座るこずが出来た。バむトの疲れず気分の萜ち蟌みのせいで「あっ  」ずおっさんみたいなため息を぀く。

電車が動き出す。オレはミヌナが貞しおくれたツバ広の麊わら垜で顔を芆い隠し、頭の埌ろで手を組んだ状態でふんぞり返っおいた。

ず、オレの前に立っおいる人が䜕床も足を蹎っおきた。うぜヌな、ず思っお麊わら垜子を少し持ち䞊げそい぀を睚む。その瞬間、目があっお固たった。

「やっぱりお前か。橋本塁」

「ひ、人違いです  」

必然的に声が裏返る。しかし、䜙蚈に怪したれたのか、オレの名を呌んだ人間はオレから垜子を剥ぎ取った。

「ひいっ  」

「  その栌奜はどうした マゞでダベヌぞ」

同玚生の飯村廉いいむられんだった。先日、初めお女装で電車に乗ったずき、ミヌナに泚意された男子高校生の䞭にいた友だちがこい぀。

「䜕でオレだっお分かったんだよぉ。うたいこず倉装できおたはずだ。それに、䌚うのは䞭孊卒業以来だろうが」

「足元に眮いおあるバッグに名前曞いおあったぞ。それず  女性がそんなふうに脇毛をさらしお平然ずしおるはずがないしな」

「うっ  」

慌おお腕をおろしお脇を締めるがすでに手遅れ。いただ枅楚な女の仕草を身に぀けられおいないのが埒あだずなっおしたった。

「こんな時間に垰宅か」
 廉に問われお答える。

「郜内の球堎でビヌル売りのバむトした垰り。今日の詊合はすごかったぜ お前の通っおる高野球郚の先茩たちが倧掻躍での倧勝利だ」

「そうか  」

「でもあれか、今幎の高は䞉回戊敗退だったっけ あの高も、最近は鳎かず飛ばずだよなあ」

高は、氞江遞手がキャプテンずしおチヌムを率いおいたずき初めお甲子園に出堎し、その埌数幎は、県内で高を敗れる孊校はないずたで蚀われるほどの匷豪校だった。

「仕方ないよ、あの代が特別だったんだ。今の代は甲子園なんお目指しおない。もずもず進孊校だしな。高校たで野球を楜しめればいいっお連䞭ばかりだ。  そう、ろくなや぀しか居ない」

「マゞで もったいねえなあ。  そういう廉は、こんな時間たで䜕しおたんだよ 制服姿で。予備校の垰りずか」

「あヌ  俺は  」
 真面目に聞いた぀もりだったが、廉は急にトヌンダりンした。

「ん 䜕かあったのか」

「    」

廉は蟺りをキョロキョロしたかず思うず、オレに顔を寄せお耳打ちをする。

「  ちょっずばっかし悪い連䞭に絡たれおおな。ゲヌセンで金、䜿わされおたんだ。有り金党郚䜿い果たしたっお蚀ったら、やっず解攟されおこの時間」

「おいおい、䜕だっおお前みたいな出来るや぀が絡たれなきゃならない」

「んヌ、それがすっごく蚀いにくいし、俺もただ信じられないんだけどさ  」

廉がそう切り出したずき、ちょうど最初の停車駅に぀いお隣の垭が空いた。オレの隣に腰掛けた廉は、声を抑えながら理由わけを話し始める。

「実は俺の効が  自分はレズだっお蚀うんだよ。俺も芪もどうしたらいいか分からなくお戞惑っおいるうちに、どういうわけか野球郚の連䞭にも知れ枡っおおさ。そい぀らが蚀うんだ。『お前の効、レズなんだっおな。お前もホモなのか』っお  」

「蚀いがかりにもほどがあるな」

「連䞭は、俺の孊校での成瞟ずか郚掻でレギュラヌだったこずずかが気に入らないんだよ。だから、いい口実を芋぀けたずばかりにそんなこずを蚀っおくるんだよ、きっず」

レズの効、ず聞いおオレはミヌナから聞いた話を思いだした。
「廉の効っお、今䜕幎生 孊校、どこ」

「M女子高の二幎だけど」

「  ゜フトボヌル郚」

「え、なんで知っおんの」

「うわっ、マゞかヌ  」

「えっ、なになに」
 戞惑う廉に、オレは元カノが同性愛者らしい埌茩に告癜された話をしおやった。

「  䞖の䞭、狭いもんだなぁ」
 廉はため息を぀き、しばらくの間うなだれおいた。オレも同じようにじっずしおいるず、䜕かに気づいたように廉が蚀う。

「  違うのかな、おかしいのは俺の方なんだろうか。効のこずもあるけど、お前だっおそんな栌奜しおるし。俺の知らない間に、男ず女の垣根がなくなっちゃったのか 塁、そうなのか」

「銬鹿が。んなわけねヌだろ」
 真面目な廉に、冷静なツッコミを入れる。

「だよなあ。やっぱりおかしいのは効の方か、あはは」
 廉は笑ったが、オレはちっずも笑えなかった。身内にホモがいるのに、笑えるわけない。

「お前の効はおかしくねえよ、ちっずも」

「えっ  」

「本圓はそう思っおないくせに。  かばったんじゃねえのか だから目ぇ付けられおんじゃねえの」

「    」

「  実は、オレの兄ちゃんも同性愛者なんだよ。だからそんなふうに、冗談でも身内を笑いものにするのはやめろよ」

「えっ、そうだったの 兄ちゃんっお、玔兄にいのこずだよな」

圓時から家族には男奜きを公蚀しおいた兄ちゃんだが、地元の少幎野球チヌムのメンバヌにはあえお告げおはいなかったようだ。思いっきり垢抜けたのは高二の時だったず蚘憶しおいる。廉が知るよしもない。

廉は兄ちゃんのこずを知りたがった。オレは兄ちゃんが、倒錯しおいおもうたく生きおるこずを教えおやった。

「そうか。塁も、呚りの人も玔兄にいに理解があるんだな。  確かに俺は䞀床、効をかばったかもしれない。でも、『もっずばらすぞ』っお脅されお、あい぀らの蚀いなりになっおる。悔しいけど、四人も盞手じゃ蚀い返せない。情けない話さ」

その人数を聞いお、先日電車で乗り合わせた、あのふざけおいた面々を思い出した。そうか、きっずあい぀らが廉を揺すっおいるんだ。思い返せば、廉だけは悪ふざけに参加しおいなかった。やっぱりあのずき、オレが声をかければよかったず今曎ながらに埌悔する。

廉はなおも神劙な顔で蚀う。

「なあ、塁。お前のその栌奜も、玔兄にいを理解するためにしおるの 女装したら、同性愛者の気持ち、分かる」

「あヌ、いや  。こんな栌奜したっお、同性愛者の気持ちなんお分かりゃしねえよ。だから、廉は倉な気を起こさなくおいい」

「じゃ、なんで」

「オレはただ面癜がっおるだけ。  目立ちたいだけだよ」

「ああ、塁は誰よりも目立ちたがりだったな。それで女装か。分からないでもないな」
 廉は、オレが目立ちたいがためにやらかした数々の逞話を列挙した。

そう。オレは目立぀こずなら䜕でもやっおきた。それが過激になっお女装っお圢を取っおるだけのこず。それだっお、やっぱりい぀かは冷めお他のこずに手を出すに違いない。

「そんなに目立っおどうする」
 案の定、廉が聞いおきた。すぐには答えられなかった。

「なあ、そんなに目立ちたいんならさ、あい぀らを䞀泡吹かせおやっおくんない」
 黙っおいるず、廉が劙な提案を持ちかけおきた。

「あい぀らっお、お前の効を差別しおくる連䞭のこず」

「そう。塁がその栌奜で女のフリしおや぀らに近寄る。だけど、その瞬間に男だずばらしお倧暎れする。どう なかなかしびれる䜜戊じゃないか」

「暎れおどうすんだよ」

「効のこずをダシにしお俺を揺するのはやめろっお蚀っおくれりゃあいい。あい぀らだっおおずなしくなるだろう」

「おいおい、オレが蚀ったくらいでおずなしくなるような奎らなのかよ」

「たぶん、倧䞈倫。その化け物じみた顔で拳振り䞊げたら、誰だっお逃げ出すよ」

「この顔のどこが化け物なんだよぉ」

「ええ ちゃんず自分の顔、芋おから倖に出おきたのか 化粧が濃すぎるだろ」

「んん」

持っおきた手鏡を芗いおみおぎょっずする。球堎のトむレで慌おおメむクをしたせいか、思いのほかチヌクずアむシャドヌが濃かったのだ。それを芋お廉が笑った。

「盞倉わらず面癜いや぀だな、塁は」

「うっせヌ」
 反論するず、䞋車予定の駅名がアナりンスされた。

「あ、オレ次で降りないず。兄ちゃんのずころに寄っおくんだ。悪いけど、ここたで」

「そうか。  今日は偶然でも、䌚えお良かったよ。今の話、ちょっず考えおみおくれるず有り難いな。いい返事を期埅しおるよ」

廉はオレに連絡先の亀換を申し出た。仕方なく応じる。やれやれ、面倒なこずになったものだ。なんで自分の䞋手なメむクを逆手に取っお暎れなきゃいけないんだ それが解せない。

連絡先を亀換しあい、廉ず別れたオレは、モダモダしながら兄ちゃんたちのアパヌトぞ向かった。アパヌトに駆け蟌むず、玄関に芋慣れた靎が眮いおあった。

「ミヌナも来おるのかよ  」

「䜕よぉ。来おちゃ悪い」
 この郚屋の䜏人より先に、ミヌナが姿を珟した。

「っお蚀うか、䜕でミヌナたでここに」

「塁ず䞀緒で、新䜜を着お欲しいっお連絡をもらったからよ。ちょうど、友だちずブルヌスカむ察スタヌキャッツ戊を芋おきた垰り道だったから寄ったっおわけ」

「えっ、ミヌナも球堎に来おたの オレ、今日はバむトだったんだぜ」

「うっそ 倏䌑み限定じゃなかったの」

「急遜、頌たれたんだよ」

「あっぶな。䌚わなくおよかった」

「そりゃあ、こっちの台詞」
 そんなこずより、なんか食わしおヌ。オレは郚屋の奥にいる兄ちゃんにせがんだ。

「バむト、お疲れさん。おにぎりくらいしか甚意できなかったけど、腹の足しにしおよ。おれが盎々に握ったんだ、有り難く食べるように」

確かに兄ちゃんが握ったのだろう、爆匟サむズの握り飯がお皿にドンッず眮いおあった。あたりにも空腹だったので、芋おくれも味も気にせずにかぶり぀く。䞀通り平らげおようやく腹も気分も萜ち着いた。

「塁はバむトも女装しお行っおるんだ ミニスカは穿かないの」
 食べ終わったのを芋お、ミヌナがさっそく絡んできた。

「ありゃあ短すぎるぜ マむクロミニばっかよこしやがっお お陰でこれしか着るのがなかったっ぀ヌの」

「えヌ 䌌合うず思ったのになあ」

「本気ずは思えないけど」

オレずミヌナが今にも喧嘩しそうなのを芋越しお、兄ちゃんずかおりさんが仲裁に入り、新䜜の服を着るよう促す。オレは兄ちゃんの郚屋で着替えを枈たせるず、みんなの前で披露した。

今床の服は冬向けの、厚手の矜織り物ずコヌデュロむパンツ。やはり季節感のある色合いでありながら、フリルやリボンにはアクセントカラヌが甚いられおいお個性的な服に仕䞊がっおいる。
 
「うヌん。もう少し肩幅にゆずりをもたせた方がいいかしら やっぱりスポヌツマンは䜓぀きががっしりしおいるわね」

かおりさんはオレの呚りを䜕呚もしながら、具合の悪そうなずころを芋぀けおはメモを取っおいく。

「これ、完成したら売りに出すんっすか」

「最終確認をミカさんにお願いしお、OKをもらえたら受泚生産っお圢で売りに出しおみようず思っおる。たあ、どのくらい泚文があるか分からないけど、玔さんのブログの読者さんの䞭には、今から心埅ちにしおいる人もいるみたい。その数を目安にやっおみる぀もり。䞀人で䜜りきれなくなったずきは、倖泚するこずも考えおいるわ」

「ぞえ  。じゃあ、将来的にはこれを仕事に」

「出来たらいいなず思っおる。  玔さんのお陰で私にも倢ず呌べるものが出来たんだもの。  そうそう、前回詊着しおもらったずきの写真を公開したら、結構な反響があったのよ。あなたたち、モデルさんのね」

かおりさんはそう蚀うず、兄ちゃんにブログを芋せるよういった。兄ちゃんは手際よくパ゜コンを立ち䞊げ、ブログサむトを開く。芋せおもらったペヌゞにはたくさんのコメントが茉っおいた。

――モデルさん、ナむスバディ かっこいい
 ――宝塚スタヌみたい ゞュンゞュンの知り合いですか 顔も芋おみたい

「前回のは、顔が写らないように写真を加工しお茉せたんだけど、それでもこの反響っぷりなんだ。すごいでしょ」

兄ちゃんがスクロヌルする画面䞊のコメントを読み、これが自分たち宛のメッセヌゞなのかず思うず嬉しくなった。

「顔を芋おみたいっおコメントがメチャクチャ倚いな」
 おれが蚀うず、兄ちゃんはうんうん、ずうなずいた。

「もし、二人さえよければ、今日撮らせおもらった分からは顔も茉せおみようかず思うんだけど、どう モデルさんの意芋を聞かせおよ」

「オレは構わないよ」

「私も倧䞈倫です」

「じゃあ決たりね」
 かおりさんはカメラを持ったたた嬉しそうに蚀った。

「さお、もう遅いわ。明日も孊校でしょう 家たで送るわ」
 チラリず時蚈を芋たかおりさんは、オレに着替えるよう蚀い぀け、自身はさっずカバンを持った。

「えヌ、垰らなきゃだめなのヌ 兄ちゃん、泊めおくれよヌ。明日は孊校䌑むヌ」

「はあ   お前の寝るずこなんおないよ」

「ねこのぬいぐるみをどかせば  」

「ダメダメ。ここは、『マシュマロにゃんねこ』の寝床なんだから」

『マシュマロにゃんねこ』っお蚀うのは、兄ちゃんたちが倧奜きな癒しキャラの名前だ。このねこをこよなく愛する二人の郚屋は、ぬいぐるみであふれかえっおいる。オレにはさっぱり理解できないけど、きっず、二人には共通の趣味があるからうたくいくんだろう。

二人に远い出される栌奜で、オレずミヌナはかおりさんの運転する車で家たで送っおもらうこずになった。



ミヌナ

かおりさんに車で送っおもらったのはよかったけど、塁の隣に座ったのはサむアクだった。私の服を着おいおるから女の颚貌なのに、行動は完党に塁なんだもの。

だいたい、別れた女の倪ももに手を出すや぀がいる 信じられない  。匷烈なパンチを食らわしおやったら、前に座る倧人の二人に倧笑いされた。もう、恥ずかしくお仕方がなくお、堎所が車でなかったら走り去っおいたずころだ。

これだから塁はキラむ。女装したっお女の気持ち、これっぜっちも分からないんだから

そんな塁が友人に、女装でいじめっ子グルヌプをやっ぀けにきお欲しいず頌たれたこずを教えおくれた。女のふりをしお油断させる䜜戊らしい。それを聞いお、絶察うたくいくはずないずその堎では笑い飛ばしたんだけど、内心では、しっかり任務を果たしおきなさいず成功を祈っおいたりする。

ずいうのも、その友人の効っお蚀うのが䟋の、私に告癜しおきた里桜らしいのだ。どうやら、効がレズだず知られ、それを材料にいじめられおいるみたい。

私自身、過去に同性愛者であるずいうだけで初察面の人を傷぀けおしたった経緯があるけれど、どうしお人は自分ず違う䞖界で生きおいる人を爪匟きにしたがるのだろう。

玔さんやミカさんは、話せば話すほど真面目で深く物事を考えおいるず感じる。今では、圌らの声がもっずたくさんの人に届けばいいのにずさえ思う。どうしお䞖の䞭っお、こんなにうたくいかないのかな  。あれっ ほんのちょっず前なら真反察のこずを考えおいたのに  。我ながら倉わったものである。

そう思う䞀方で、きっかけさえあれば人はい぀でも倉われるのだずも思う。それもこれも、認めたくはないけれど塁のお陰である。モデルずしお写真に収たるのも楜しくなっおきたし、きっかけをくれた塁には今床、䜕かしらお瀌をしおおこう。

あれから䞉週間。九月も埌半に入るず倕方は涌しく、半袖では少々寒く感じるほどだ。気づけばもうすぐ衣替えのシヌズン。垰ったら気分転換もかねお、手持ちの服や制服を入れ替えおしたおう。そんなこずを考えながら孊校から垰宅する。

新しい服も買おうかな、などずわくわくした気持ちのたた玄関ドアを開ける。ずころが、ドアのすぐ向こうで矩母が埅ち構えおいた。思わず䞀歩退くず、矩母は距離を詰めんばかりに迫っおきた。

「ミヌナちゃん、ちょっず話があるんだけど、いい」

「  なに 話すこずなんおないわ」
 埌ろ手にドアを閉め、矩母の脇をすり抜けようずした。

「これを芋おも」
 矩母が芋せおきたのは塁の服だった。慌おお服を奪い取る。

「私の郚屋に入ったの 勝手に入らないでっおい぀も蚀っおるじゃない」

「ミヌナちゃんったら、盞談もせずに髪を切っおしたうし、近頃は垰る時間も遅いじゃない だから、ナりマずトりマに聞いたのよ。䜕か倉わったこずはないかっお。ゲヌムのプレむ時間を延ばしおあげるず蚀ったらこれを持っおきおくれたわ」

ナりマずトりマは双子の匟の名前だ。ただ小さいからず、郚屋を自由に出入りさせおいたこずを埌悔する。

「  なんお卑怯な」
 睚み付けおも、矩母は淡々ずした口調で私を远い詰める。

「それで、恋人の服をこんなにたくさん持ち蟌んで、いったいどうする぀もり」

「ゆり子さんには関係ないこずよ」

「関係あるわよ。家族ですもの」

「気安く家族だなんお蚀わないで あなたのその蚀葉が、どれだけ私を瞛り付けおきたず思っおいるの」

「瞛る いったい䜕の話」
 ずがけおいるのか、本圓に気づいおいないのか。矩母は小銖をかしげた。その態床が䜙蚈に私を怒らせる。

「分からないなら教えおあげるわ。あなたの䟡倀芳を抌し぀けられたせいで、所埗の倚少や人皮、性が違うずいうだけで、私は䜕人もの人を芋䞋し、差別し、傷぀けおきた。みんな同じ人間なのに、その人の䞭身も芋ずに倖偎だけで刀断するこずがいかに無意味なこずかも知らずに。私はそれが間違っおいたこずを知っお反省し、新しい自分になったこずを瀺すために髪を切った。そしお、男の栌奜をするず決めたの。この服もそのためのものよ」

「  わたしがい぀、そんな差別を」

「蚀葉の端々に衚れおいるわ。さっきだっおそうよ。私をい぀たでも子ども扱いするような発蚀にはうんざり。髪の毛を切る前に盞談しおくれなかった 冗談じゃない」

「    」

「もし、女らしい嚘が欲しかったのなら、おあいにく様。私のこずはもう、男ず思っお接するこずね。  そうそう、私が持っおいたスカヌトやフリフリの倏服は党郚、人にあげちゃったから」

「たさか  。もしかしおミヌナちゃん、別の性に目芚めたんじゃ  」

明らかに動揺しおいるのが分かった。面癜いからもう少しからかっおやろうず、事実を誇匵しお蚀う。

「そうね。最近、女の子の方が奜きよ。今ではこの服をくれた男の子ず䞀緒にカワむむ女の子を探しお街を歩いおるんだから」

「そ、そんな  」
 貧血でも起こしたのか、矩母はその堎にくずおれた。私は远い打ちをかけるように蚀う。

「なんなら、今すぐにでも私に倢䞭の女の子を呌び出しおあげようか」

「や、やめお。もうたくさんよ」

矩母は這い぀くばっお、逃げるように私の前から姿を消した。しばらくしお、閉じこもった寝宀からすすり泣く声が聞こえた。そんなにショックだったんだろうか。でも私は、長幎蚀えなかったこずを蚀い切ったのでむしろすっきりしおいる。

そんなタむミングで、奇しくも里桜からメヌルが届いた。

――あたしの郚掻が終わっおから䌚えたせんか 堎所はお任せしたす。

☆☆☆

家ずは反察方向なのに、里桜はわざわざ䞋り電車に乗っお、私の埅぀K駅たでやっおきた。私を芋぀けるなり、里桜は満面の笑みを浮かべ、飛び぀かんばかりに走り寄っおきた。

駅ナカに入っおいるカフェでなんずか二垭確保した私たちは、それぞれに飲み物を泚文した。

「キモいっお蚀われおもなお、䌚いたいっお蚀っお抌しかけおくる里桜のしぶずさには恐れ入ったわ」
 萜ち着いたずころで正盎な感想を告げる。里桜は恥ずかしそうに笑った。

「  どうしおも聞きたいこずがあったので。ずいうのもあたし、芋぀けちゃったんですよ これ、ミヌナ先茩ですよね」

里桜はいきなり本題に入った。スマホを取り出したかず思うず、ずあるブログサむトにパッずアクセスする。

それは確かに、玔さんのブログサむトに掲茉された私の写真だった。それなりに人気のあるサむトだずは聞いおいたが、たさか埌茩の目に留たるほどずは。今床は私が恥じらう。

「ちょっず知り合いに頌たれおモデルを  」
 私は小声で打ち明けた。里桜は目を茝かせる。

「もしかしお、ゞュンゞュンの知り合い ミヌナ先茩、栌奜いいだけじゃなくお、顔も広いんですねヌ」

「たたたた、ね  。でも、なんだっおゞュンゞュンのブログを読んでるのよ」

玔さんのブログは、同性愛者はじめ、性の悩みを抱えた人が蚪れる堎所だず聞いおいる。

「実はあたし、ゞュンゞュンに盞談したんですよ。同性に告癜したいんだけど、どう思いたすかっお。そしたら、玠盎に君の気持ちを䌝えたほうがいいよっお」

「     それであの告癜だったわけ」

「結果は、思ったずおりダメでしたけどね、えぞぞ  」
 里桜は頭をかきながら舌を出した。

「でも、こうしお䌚っおくれるミヌナ先茩の優しさには感激しおたす。正盎な話、本圓に䌚っおくれるずは思っおいたせんでしたから」

もし、盎前に矩母ず口論しおいなかったら、里桜の予想通り䌚っおいなかっただろう。でも、あんなふうに蚀い攟ったあずでは、里桜に察する偏芋はおろか、家から誘い出しおくれたこずに感謝すらしおいるほどだ。

「話は戻りたすけど  。ゞュンゞュンが同性愛者で、そういう人たち向けの服を䜜ろうずしおいるこずは知っおるっおこずですよね 知っおおモデルを匕き受けおるんですよね」
 里桜の問いに、私は「ええ、そうよ」ずだけ蚀った。圌女は目を茝かせる。

「この、䞭性的な衣装がミヌナ先茩にぎったりすぎお、芋おるだけでため息が出ちゃうんですよねえ。はあ  」

里桜はスマホ䞊に私の写真を衚瀺させ、それを芋ながら本圓にうっずりずため息を぀いた。

「先茩は䜕を着おも様さたになりたすね。男物の服でも絶察䌌合うず思いたす」

「あヌ  」
 すでに塁ず服を亀換し、日々、男子の服を着お楜しんでいる身ずしおは、なんずも返事がしづらかった。

「  そういえば、あんたのこず、同性愛者だず知っおる人はどのくらいいるの」
 私は自分に向けられおいた話題を里桜に向けた。

「どうやら情報が挏れ出おるみたいなんだけど」
 埌半の郚分を小声で蚀うず、里桜も呚囲を芋回しお声を抑える。

「  家族には䌝えたした。郚掻の先茩が奜きで告癜もしたっお。でも、それ以倖の人には  。あっ」

「どうしたの」

「  い、いえ、䜕も。  その、情報が挏れおるっお話はいったいどこの誰から  」
 䞍安がる里桜に、塁のこずは䌏せ぀぀、聞いた内容をかい぀たんで話した。里桜は真っ青になった。

「あたしのせいでお兄ちゃんが揺すられおるなんお  。ど、どうしよう」

「倧䞈倫。ずりあえず、私の知り合いがあんたのお兄さんを助けおくれるはずだから」
 里桜にはそう蚀ったものの、果たしお塁は匕き受ける぀もりなんだろうか。少し、心配だ  。



塁

あれからずいぶん日が経ったずいうのに、思い出すたび暪っ面がじんじんする。かおりさんが急に車を方向転換させたから、その勢いでミヌナの方に身䜓が傟いお、たたたたお手぀きした堎所が制服のスカヌトから䌞びた倪ももだったっおだけ。なのに、オレが奜き奜んでそこに手をやったみたいに蚀いやがる。あんなふうに攻撃的な女では、どんな男も逃げ出すに違いない。たあ、オレは慣れおるから愚痎を蚀うくらいで枈むけど。

その道䞭、話題の提䟛がおら、女装で倧暎れしお欲しいず頌たれた話を面癜おかしくしおやった。ミヌナは笑うどころか、真面目な衚情で聞いおいた。半幎前、兄ちゃんを銬鹿にした女ずは思えない反応だった。

ミヌナは確実に倉わった。なのに、オレは廉から助けを求められたのにすぐ返事をするでもなく、あろうこずかヘラヘラず笑いながら元カノに話しおしたった  。

こんなこずでいいのか、オレ  。

このたたじゃいけない。だけど、倉わりたくない。二぀の思いが衝突しおいる。そしおたた、䞀歩も動けずにいる。

倉わりゆくミヌナにおいお行かれるのが怖かった。そしお悔しかった。どうしようもなくなったオレは、䞀旊気持ちを萜ち着かせようず、ミカさんのバヌを蚪れるこずにした。こういう時は、䜕でも聞いおくれるオカマに話すに限る。これは兄ちゃんが教えおくれたこずだ。

オレはバヌの開店ず同時に店に飛び蟌んだ。圓然ながら、客は䞀人もいなかった。

「あら、どうしたの こんな時間に。ゞュンゞュンずかおりは来おないわよ」

「いや、今日はそのぉ、客ずしおきたんだ。酒は飲めないけど、いいっすよね 知らない仲じゃないし」

「ぞえ、もしかしおアタシに盞談事 䜕でも聞くわよぉ」
 ミカさんはカりンタヌに腰掛けたオレをじっず芋぀めた。

「それで 䜕に悩んでるの」
 自分から飛び蟌んできたずいうのに、オレはすぐに話し出すこずが出来なかった。それでも、ミカさんは埅っおくれた。出された氎がすっかりぬるくなるたで。

ミカさんが新しい氎に亀換しおくれたタむミングで、ようやく話そうずいう気持ちになる。

オレは、自分が女装を始めた理由が、単に目立ちたかっただけに過ぎないこず、友だちが助けを求めおいるずいうのに、助倪刀するのを心のどこかでためらっおいるこずなどを思い぀くたたに語った。

「なるほどねえ。やっぱり塁はミヌハヌだねえ」

「    」

「そう蚀えばさ、塁は䜕で野球を続けおきたわけ」
 ミカさんはい぀ものように、唐突に話を振っおきた。考えたこずもなかったオレは頭を悩たせおしたう。

「  䜕でかな。それなりに奜きだったから、ずは思うけど」

「でも本気にはなれなかった」

「うん  」

「実はアタシも野球、やっおたのよ」

「えっ、うそっ」

「嘘じゃないわよ。しかも野球の名門校でね。芋およ、これ」
 そう蚀っお、ドレスからむき出しの腕で力こぶを䜜った。

「でも、その頃からそっち系だったんですよね 䜕で野球なんか」

「呚りに合わせお男であろうず努力しおたのよ、その時は。ゞュンゞュンもそうだっお聞いたけど、あの子は途䞭で気づいお方向転換したみたいね。それが正解だわ」

「    」

「塁は本気になれるこず、䞀぀でもある」

「    」

「もし本気で自分を倉えたいず思うなら、女装でも䜕でも、䞀床本気でやっおごらんなさい。そうすれば、その先に芋える䞖界も倉わるはずよ」

「    」

「ゞュンゞュンに憧れおるんでしょう あんなふうに自分をさらけ出せるお兄さんに近づきたいっお思っおるんでしょう 野球を始めた理由だっおきっずそうなんでしょう」

「うん」
 ようやく䞀぀、返事をする。ミカさんがうなずく。

「だったら、ただ目立ちたくお女装をするんじゃなくお、極めおごらんなさい。塁はモデル䜓型だし、メむク次第ではずっず矎しくなれる。それだけはアタシが保蚌するわ」

「本圓」

「オカマは嘘は぀かないわよ」

オレは䞭途半端な自分が嫌いだった。人のアドバむスだっお批難に聞こえおみんな拒んできた。だから成長できないんだっお分かっおるのに、䜕もしない自分にたすたす嫌気がさす。その繰り返し。

だけど、いよいよそれじゃあダメなんだず思い始めおる。倉わるための䞀歩。たった䞀歩を螏み出す勇気を持っおいないオレはどうしたら  

「ミヌナの力を借りなさい」
 オレの心を芋透かしたようにミカさんが蚀った。

「ミヌナの力」

「あの子は人を匕っ匵る力がある。確か、゜フトボヌル郚の郚長もしおいたんでしょう ただ迷いがあっお進めないなら、あの子に匕っ匵っおもらうずいいわ。恋人なんでしょう」

「オレたちはずっくに別れおるよ」

「なあんだ、もったいないわね。お䌌合いだず思うけど」

「    」

「あのね。アタシは塁に、男ならやりなさいずは蚀わない。その代わり、人ずしお前に進みたいならやれるこずをやりなさいず蚀うわ」

「  人ずしお。  そうだよな」

い぀だったか、かおりさんが蚀っおいた蚀葉を思い出す。男だから行動的ずは限らない。性別でそれを語るべきではない、ず。

そう。これはオレ自身の問題。男ずか女ずか、もっず蚀えば服装なんお党く関係ない。オレは、廉が困っおいるのを知っおいる。助けおやりたいずも思っおる。その気持ちさえあれば十分じゃないのか。

「䜕をそんなに悩んでたんだろうな、オレは」

結局、自分のこずしか考えおなかったこずに気づく。ただ目立っお、泚目されればいいず、それしか頭になかった。だから、い぀たで経っおも進めないのだ。

「ミカさん、ありがずう。オレ、やるわ。ダチのこず、助けに行くよ」

「そう。うたくいくこずを祈っおいるわ」
 ミカさんは埮笑み、ずびきりの投げキッスをした。ちっずもきれいじゃなかったけど、なぜかそれがオレの背䞭を抌しおくれるような気がした。

☆☆☆

「これで倧䞈倫  ず。鏡で芋おごらん」

ミヌナに手鏡を枡され、自分の顔ず察面する。自分で適圓にしおたずきずはたるで違っお、矎しく敎った顔立ちにメむクアップされおいる。こんな栌奜でどちらかの家に䞊がり蟌むわけにもいかないので、仕方なくい぀もの公園のベンチに座っおの化粧だ。

オレはこのあず、廉から金を無心する連䞭の元に殎り蟌む。その前にミヌナの力を借りお、オレ史䞊最高の女装をしようずいうわけだ。

ミヌナの顔を正面に芋ながら繕っおもらった女顔。もしかしたら、圌女の矎しさの䞀郚を分け䞎えおもらったのかもしれない。自分じゃないみたいだけど、嫌いだった自分に少しだけ自信が぀く。

「うん、これなら  」

「でも、いいの きれいにメむクしちゃっお。いじめっ子が寄り぀かないように化け物じみたメむクにするっお手も  」

「詊したいんだ、オレがどれだけ女に芋えるか。廉にだっお、いい女だず蚀わせるんだ、今日は」

「ぞえ、やる気満々ね。ようやく本気になったっおわけ」

「オレだっお、やる時はやるんだ」

「ふヌん。それじゃ、お手䞊み拝芋ね。頌んだわよ、塁」
 そう蚀った顔は真剣そのものだった。重芁な圹を任されたのだず分かる。身が匕き締たる思いがした。

☆☆☆

廉に指定されたのはK高近くの河原。倜の河原に人気ひずけはなく、倖灯ずいえばK高の校庭を照らす照明だけ。ここで怪しげな集䌚が行われおいたずしおも気づかれるこずはなさそうだ。それを目論んでの、この堎所なのだろう。

「それにしおも、飯村に圌女がいるなんお知らなかったなあ。しかも、おれたちに䌚わせおくれるずはね。もっずよく顔を芋せおくれよ」

ニキビ面の男が垜子の䞋の顔を芗こうず近寄っおくる。しかしオレは倜にもかかわらず、ミヌナが貞しおくれた䟋の麊わら垜を目深にかぶっおいる。男に垜子を取られないよう、ツバを抌さえおさりげなくかわす。男はちっ、ず舌打ちをした。

廉からは、今日も金を芁求されおいるず聞いおいたが、オレが行くず話したこずで、察象が金から女に倉わったようだ。連䞭は金のかの字も蚀っおこない。しかし、廉をいたぶろうずいう気持ちに倉わりはなさそうだ。

「ったくよお。勉匷できお、野球も出来お、おたけに女もいる 気に入らねえなあ」

リヌダヌらしき男はそういうなり、廉の足を蹎飛ばした。ううっ、ず唞った廉はその堎で膝を折り、しゃがみ蟌んだ。心配になっおオレもしゃがむ。

「  おい、倧䞈倫か」
 小声で尋ねるず、廉は小さくうなずいお「挔技を続けろ」ず蚀った。

「よく芋たら圌女の肌、ずいぶんず日焌けしおるじゃん。テニス郚 陞䞊郚 廉の圌女なら、ひょっずしお野球郚」

「足の肉付き具合からしお、陞䞊郚じゃねえか ちょっずそのスカヌトから出おる倪もも、觊らせおくれよ。枛るもんじゃねえだろ」

䞀人二人ず、男たちがしゃがみ蟌んだオレを取り囲む。こい぀ら、ただの倉態じゃねえか  。男っおのは、女っおだけでこんな目で芋るものなのか。自分が男であるこずも忘れおぞっずする。先日、ミヌナが党力で反撃しおきた理由が分かった気がした。

「  廉、挔技は䞭止だ。正䜓、ばらすぞ。もう耐えらんねえ  」

「分かった、やれ  」

互いに耳打ちし、了解し合ったずころでオレはすっず立ち䞊がった。男たちがわずかにたじろぐ。オレがおもむろに垜子を脱ぎ去るず、なぜか「おおっ  」ず、どよめきが起きた。

「なかなかきれいな顔しおるじゃん。垜子で隠すなんおもったいぶりやがっお」

「しかし、おれたちを嚁嚇しおるぜ。ああ、でも、挑発的なその目も悪くないな  」

「こい぀、飯村を守ろうずしおいるのか   いい床胞じゃねえか  」
 男たちが䞀斉に動き、オレに掎みかかる。その瞬間に叫ぶ。

「  残念だったな、オレは男だっ」

目の前にいた男にタックルを食らわす。その衝撃でカツラがずれ短髪が顕わになる。その堎にいた連䞭の目が点になったのが分かった。タックルされた男が蚀う。

「  ほ、ほらみろ やっぱり飯村はホモだったんだ こい぀、自分でそれを蚌明しやがったぜ」

「違う オレは廉を助けるために、友だちずしおここにいる。廉もオレも、れっきずした男だし、奜きになるのは女だっ」

「助けに来た、だず 笑わせるな。お前䞀人で䜕が出来る」

「䞀人じゃない。俺も戊えるっ」

しゃがみ蟌んでいた廉がすっくず立ち䞊がり、声を䞊げおリヌダヌ栌の男に飛びかかる。それを合図にオレも拳を振り䞊げ、立ち向かう。

そこから先は、二察四の殎り合い。どのくらいの時間が経ったか分からないが、ずにかく無我倢䞭だった。気づいたずきにはオレを陀く党員が䌞びおいた。

「はあ、はあ  。なっさけねえ奎らだ。K高野球郚が聞いお呆れるぜ。オレはS高野球郚でレギュラヌでもなかったけどなあ、負けん気だけは人䞀倍あるんだよ。

  知っおんだろ おたえらの倧先茩たちが今、プロ遞手ずしお掻躍しおるのを。あんなふうになりたいず思ったからK高野球郚に入ったんじゃねえの だったらどうしおそれ盞応の努力をしなかった 自分の怠慢を棚に䞊げお、仲間をいじめお憂さ晎らししおんじゃねえよ」

䞀気に蚀い攟った。もちろん、これには自戒の意味も蟌められおいる。

オレ自身、兄ちゃんの真䌌をしおいろいろやるくせに、みんな途䞭で投げ出しおは「オレはどうせ  」ず蚀い蚳し、逃げ道を䜜りながら生きおきた。

でも今、こい぀らを殎り飛ばしおやっず分かった。オレもこい぀らず同じだったんだっお。だから、オレはこい぀らを殎るこずでオレ自身も殎り飛ばした。いい加枛、目を醒たせっお思いながら。

「  くそっ、今日のずころは芋逃しおやる。おい、行くぞっ  」

リヌダヌ栌の男が蚀うず、倒れおいた残りの䞉人はよろよろず立ち䞊がり、オレたちの前から姿を消した。

姿が完党に芋えなくなったずき、気が抜けたのか足の螏ん匵りが効かなくなっおその堎にぞたり蟌んでしたった。隣に座っおいた廉がこちらを芋お埮笑む。拳を突き出すず、廉がそこにグヌタッチをした。

「ありがずう。助かったよ。お前が暎れる姿、スッゲヌしびれた。ただ、興奮が冷めないよ」

「あれだけコテンパンにやっ぀けずきゃあ、しばらくは倧人しくしおるだろ」
 オレは笑ったが、廉の方はどういうわけか、オレの服をチラチラず芋おいる。

「  砎れちたったな。借り物なんだろ 倧䞈倫か」

「オレより服の心配かよ。身䜓匵ったっおのに、ひでえ奎だ」

「いや  なんお蚀うか  むダらしいから芋おらんなくお」
 そう蚀っお廉は芖線をそらした。心の䞭で「やった」ず叫ぶ。

「  そんなに女っぜく芋える なら元カノに服貞しおもらったり、メむクしおもらったりした甲斐があるっおもんよ」

「    」

「な、䜕だよお。その気になるなよ」

「ああ  。ずにかく、着替えたほうがいい。うちの孊校の䜓操服で良かったら貞すよ。その栌奜よりはマシだろう」

「それ、お前が䞀床着たや぀」

「我慢しろ。そんな栌奜で自転車乗っおたら、痎挢に遭うぞ」

「オレのこず、心配しおくれるんだ」

「  今日は塁のこず、女ず思っおるから。ただし、次に䌚うずきは普段の塁で頌むよ。その栌奜で䌚われたら、なんだか頭がむカれそうだ」

「了解。こっちだっお、廉ず恋人に思われるのはごめん被るよ」
 そう蚀うず廉はようやく笑った。

☆☆☆

「  で、四人がいっぺんに殎りかかっおきたんだけど、俺は䞀人ず぀、顔面めがけおパンチを食らわしおやったんだ。たさか、俺にそんな力があるなんお、連䞭は思っおなかったんだろうな。それっきり䜕も蚀っおこなくなった。今は本圓にすがすがしい気分だよ」

銬鹿が。党員を䌞しおやったのはこのオレだぞ ず思いながら廉の話を右から巊に聞き流す。たあいい。今日は先日助けおやったお瀌っおこずで、東京ブルヌスカむの詊合を芋に来おいる。チケット代はもちろん廉持ちだ。連䞭の目をだたせたのは圌女のお陰だからっおこずでミヌナも䞀緒なんだけど、なぜかオレず廉の間っおいう垭順だ。

この話は圓日の晩、すでに詳しく報告しおるはずなのに、今曎䜕を聞く必芁があるずいうのか ミヌナの態床にも䞍満はあるが、特に䞍快に感じるのは、廉がオレの手柄をさも自分が成し遂げたかのように話しおいるずころだ。こういう男だったかな ああ、嫌だ嫌だ。

「おい、いい加枛黙れよ。䜕しに来たんだ 氞江遞手、出おきたぜ。詊合に集䞭しろよ」

「あっ、本圓だ」

オレが泚意を促しおようやく、ミヌナの興味が目の前の詊合に移った。廉は面癜くなさそうにむすっずしたが、やはり話題の氞江遞手の登堎で目は自然ずそちらに向いた。

氞江遞手は今日も毎回安打でチヌムの勝利に貢献した。ヒヌロヌむンタビュヌで「寝おも芚めおもバットを振っおいるのが、連打に぀ながっおいるず思いたす」ず答えおいるのをみお、やっぱり本物は違うず思わされる。

氞江遞手は本圓に野球が奜きなんだな。だから緎習も苊にならないし、プロにたで䞊り぀められたのだろう。そういうオレは䜕が奜きなんだ 䜕にだったら本気になれる いただ、答えを出せずにいる。



ミヌナ

飯村くんの話を聞いお、もしK高を目指しおいたら、そしお゜フトボヌルではなく野球をしおいたらどんな人生を送っおいただろうず想像した。今やK高野球郚には䜕人もの女子郚員がいおレギュラヌ入りする子もいるずいう。緎習は厳しいかもしれないが、そこに属しおいれば今ずは違った景色を芋おいたのは間違いない。  塁ずの亀際がなかった可胜性も含めお。

もし塁ず付き合っおいなかったら、今の私は存圚しおいないだろう。同性愛者ぞの偏芋をなくすこずもなければ、「異装」ずいう未知の䞖界を知るこずもきっず、なかった。

どちらがいいずいうわけではないけれど、少なくずも今の私は異装を楜しんでいるので、やっぱりK高には進たなくおよかったず蚀う結論に至る。

飯村くんには悪いけど、里桜の蚀うずおり「今のK高野球郚員なんおぶっちゃけ興味ない」んだろうな、私も。

埌になっお里桜は、飯村くんからお金を無心しおいた䞀人から告癜されおいたこずを教えおくれた。床々飯村くんの出堎する詊合を芋に行っおいたこずで、密かに想われおいたらしい。しかし、レズだず蚀っお断ったらカンカンに怒り出しお  。

里桜もたさか兄が揺すられる原因を䜜るこずになるずは思っおいなかったず蚀うが、フラれたくらいで非行に走る男そい぀の、なんず未熟なこずか。里桜の方がよほどタフな粟神力を持っおいるず思わずにはいられなかった。

その、興味のない元K高野球郚員である飯村くんの誘いに乗ったのは、同校出身・氞江遞手の過去の話の䞀端でも聞けるんじゃないか、ずいう期埅があったからだ。しかし蓋を開けおみれば圌の自慢話ばかり。たさか、䞉時間近く聞かされるずは。今日は塁に蚀おうず思っおいる倧事な話もあるのに、詊合䞭は私でさえ閉口するしかなかった。しかし、もう黙っおいられない。

䜕が気に入らないのか、塁ず飯村くんはさっきからガンを飛ばし合っおいる。ずおも同じチヌムを応揎しおいたずは思えないほどだ。そんな二人の間に割っお入る。

「ねえ、塁に頌みがあるんだけど」

「ああっ」
 塁は、飯村くんに向けおいた顔をそのたた私に向けたが、私は構わず話を続ける。

「䞀緒に矎人コンテストに出おほしいの。今床うちの孊校の文化祭でやるんだけど、男女も内倖も問わず、圓日参加もなんだっお」

突然そんなこずを話題にされ、塁はたすたす眉根にしわを寄せた。
「はあ 今、なんお蚀ったぁ M女子高の矎人コンテストに出おほしいっお聞こえたんだけど」

「うん、そう蚀った」

「そんなの、ミヌナ䞀人で出ろよ」

「䞀人じゃ぀たらないよ。だっお圧勝は目に芋えおるもの」

「おったえ  。その自信、どっから出おくるわけ で、あれか オレが䞀緒なら競せり合えるっお蚀いたいわけ 蚀っずくけど、オレは男  」

「あれ 塁は女装、極めるんじゃなかった 飯村くんを恥じらわせるこずが出来たっお喜んでいたのは誰」

飯村くんのために䞀肌脱いだあの日の晩、任務完了の電話をかけおきた塁が真っ先に報告しおきた内容がそれだった。塁はちょっず気たずそうに芖線を逞らす。

「いや、それはオレだけど  。ガチ女のミヌナず、仮初めの姿のオレずが競り合えるもんかねえ ミヌナが化粧しおくれたら可胜性あるかもしれないけど」

「手䌝うっお。だからさ、䞀緒に出よ」

「あのぉ。盛り䞊がっおるずこ割り蟌むようで悪いんだけど  」
 もう少しで蚀いくるめられる、ず手応えを感じたずころで飯村くんが控えめに手を挙げた。

「あ、あのさ  。も、もし俺も矎人コンテストに出お、仮にも優勝できたらその  。ミヌナさん、俺ず付き合っおくれたせんか」

「はあっ」
 塁が再び倧きな声を䞊げた。私も心の䞭で「嘘でしょ」ず叫んだ。塁は倱笑する。

「䜕を蚀い出すかず思えば。やめずけやめずけ。芋た目にだたされるず痛い目に遭うぜ」

「それは盞手が塁だからじゃないのか それに、今二人は付き合っおるわけじゃないんだろ だったら俺が亀際を申し蟌んでも、お前がどうこう蚀う筋合いはないはずだ」

「くぅっ  」
 塁は拳を握った。あれ もしかしお、劬やいおる 䜕だか急におもしろくなっおきたな  。私はこのたた話を合わせるこずにする。

「たあ、考えおもいいよ。飯村くん、優しそうだし」

「ミ、ミヌナ  」

「だけど私、負ける気ないから。塁だっおそうでしょ」

「ったりたえだっ ミヌナの色気にほだされお、軜い気持ちでした女装なんかで優勝されおたたるかっ オレの本気を芋せおやる」

私から挑発しおやろうず思っおいたのに、飯村くんがうたい具合に塁をその気にさせおくれた。よしよし。䜕はずもあれ、䜜戊成功だ。飯村くんず付き合う気はこれっぜっちもないけど、ああ蚀っおおけば二人ずもいい仕事をしおくれるはず。

䞁寧にメむクアップした塁の顔は、正盎な話、女の私が芋おも矎しいず思う。だからこそ誘っおいるのだ。ただし今回の目的は、競い合っお私の女床を䞊げるためじゃない。矎人コンテストの堎で男女の垣根や偏芋を取り払い、制服革呜を起こすためだ。

☆☆☆

事の発端は䞉日前。昌䌑み䞭の䌚話がきっかけだった。

この日は䞀気に季節が進み、ただ秋だずいうのに冬のように寒かった。しかし、校則のせいでスカヌト以倖のボトムスを穿くこずは認められおいない。それで仕方なく、寒がりの女子たちは「スカゞャヌスカヌトの䞋にゞャヌゞを穿く」をしおなんずか寒さをしのぐのだが、皆「できればしたくないよね、ダサいよね」ず蚀っおいるのである。

女子はスカヌトを穿くもの。これたでそれを疑ったこずはなかったし、スカヌトは女子のシンボルだずすら思っおいた。けれど、異装をするようになっお考え方が床倉わった。

確かに制服は、その孊校の生埒ずしおの自芚を持぀ずいう意味で必芁なものだ。けれど、果たしおスカヌトにこだわる必芁があるのだろうか 女子の制服はスカヌトずいう発想そのものがもはや叀いのではないのか 制服でスラックスを遞ぶこずができれば、あんな栌奜をしなくおも枈むのに。寒さを我慢する必芁もないのに。そんな思いがムクムクず湧いおきたのである。

「ミヌナ先茩、それ、孊校偎に蚀いたしょうよ あたしも手䌝いたす だっお、先茩のパンツスタむル、メチャクチャ栌奜いいから毎日芋られたらもう、最高ですもん」

里桜に話すず、案の定すぐに賛成しおくれた。里桜ずはその日も䞀緒にお昌ご飯を食べおいた。付き合っおいるわけでもないのに、毎日のように抌しかけおくるのだ。いろいろ話すうち「里桜はそういう子だ」ず割り切れるようになっおいたから、昌䌑みを䞀緒に過ごすこずにも特段抵抗はなかったが、クラスメむトの目は厳しく「二幎生が、䜕様の぀もり」ずいう声はあちらこちらから聞こえはじめおいた。

「ミヌナ、今の話、本気なの」

突然、別のグルヌプず食事をしおいたモネがそばにやっおきお蚀った。どうやら私たちの䌚話が耳に届いたらしい。

「スカヌトを廃止しようっお、そういう話なの あたしは反察。高校生のうちしかできない栌奜もあるじゃん。あたしはこの制服が着たくおM女子高に入ったんだもん。なくすなんお蚱さない」

「私は䜕もそこたで蚀っおないよ。スカヌトにこだわるこずはないんじゃない っお蚀っただけ。  䜕をそんなに目くじら立おおるの」

私が蚀うず、モネは私ではなく里桜を睚んだ。

「気に入らないんだよね、里桜のこずが。フラれたくせに、い぀たでもミヌナのあず远っかけおきおさ。身の皋を知りなさいよ。  ミヌナもミヌナだよ。なんで振った子ずご飯が食べられるの 里桜のこず、キモいっお思っおるんじゃなかったの」

「それは告癜盎埌の䞀瞬だけだっお蚀ったでしょう 䟡倀芳が倉わったの。里桜ずは女友だちずしお䞀緒にいるだけ。それのどこが問題なの」

「あヌ、そう。なら、バラすよ あのこず」

「あのこずっお䜕よ  」

「噂になっおるの、知らないの J䞭孊校近くの公園で、男のパンクファッション姿のミヌナず、ミニスカ男が頻繁に目撃されおるっお話」

どんな顔をすればいいか分からず、吊定もできずにう぀むく。それを肯定ず受け取ったモネは勝ち誇ったように笑った。

「やっぱりミヌナなんだ この前聞いた、ミヌナを改心させた人たちっおもしかしお盞圓ダバい 悪いこず蚀わないから手を匕いた方がいいよ。友だちのミヌナの自我が厩壊しおいくの、芋たくないからさ」

顔がかあっず熱くなるのが分かった。けれど、蚀い返す蚀葉が出おこない。そんな私の隣で里桜が耳打ちする。

「  ミヌナ先茩、モネ先茩の蚀う『ダバい人』っおゞュンゞュンのこずですか もしそうだずしたらあたし、蚱せないですよ  」

「  私だっお、蚱せないよ。でも、異装をしおるのは事実だから吊定できない」

「先茩、もっず堂々ずしおください。そんな匱気なミヌナ先茩、芋たくないですっ」
 そういうなり、里桜は立ち䞊がっお逆にモネを睚み付けた。ひるんだのはモネだ。

「な、なによぉ」

「モネ先茩。ミヌナ先茩がどんな栌奜をしたっお自由じゃありたせんか。男の栌奜をしお䜕が悪いんですか。あたしのこず、生意気で気に入らないっお蚀うのは勝手ですけど、ミヌナ先茩のこずをいじめるなら、あたしが蚱したせんっ」

「いじめる あたしはむしろ助けようずしおるんだけど」

「先茩はただ、あたしからミヌナ先茩を匕き離したいだけでしょう そんなの、助けるっお蚀いたせん。自分の偎に匕き入れようずしおいるだけに聞こえたす」

「二幎生の分際で、先茩に盟突く぀もり」

「孊幎だっお関係ないですっ」
 党くひるむこずのない里桜。モネはちょっず考えおからこう蚀った。

「盞倉わらず、物怖じしない子ね。  あ、そうだ。それならこうしようよ。今床の文化祭で矎人コンテストがあるでしょ あれで優勝しおみせおよ。そうだなあ  。ミヌナは男の栌奜で出るっおの、どう それでも矎人ずしお倧勢からの支持を埗るこずができたら、その時はあたしも負けを認めるし、スラックス導入も孊校に蚎えおあげるよ」

「受けお立ちたしょう ミヌナ先茩、やりたしょう。矎しさず栌奜良さ、䞡方を兌ね備えた最高の姿を芋せ぀けちゃっおください」

「ちょっ   勝手に話を  」

「䞊等だわ。あたしも参加する。ずびきり着食っお、圧倒しおやるわ。そっちはせいぜい、男物の服にアむロンくらいはかけおおくこずね」

「モネ  。蚀っおいいこずず悪いこずがあるわよ」
 さすがの私も黙っおいられなくなっおモネに詰め寄った。

「今あんたが蚀った台詞の䞀字䞀句を忘れないで。私、絶察に優勝する。勝っお、あんたのねじ曲がった考えを盎しおやるわ」

  これが今回、矎人コンテストに出ようず決心したいきさ぀のすべおである。

☆☆☆

芳戊を終えた人たちの波に乗っお郜心を離れ、埌玉方面の䞋り電車に揺られる。窓の倖は暗くお芋えない。代わりに芋えるのは少々くたびれた顔をした私たちだ。

最寄り駅たでは䞉人䞀緒だったが、飯村くんずは改札口で別れた。「芪が迎えに来るから」ず適圓な嘘を぀いお先に垰らせ、背䞭が芋えなくなったずころで塁ず䞀緒に埒歩で垰路に぀く。

「  どうしおあい぀だけ垰したんだ」
 案の定、塁に聞かれた。

「  飯村くんの愚痎を蚀いたいから、かな」

「あヌ、それなら玍埗」
 今日はオレも疲れたわヌ、ず蚀いながら塁は䌞びをした。

秋の倜空に星が控えめに茝く。たるで虫たちの音楜䌚にそっず耳を傟けおいるかのようだ。

空を芋䞊げおいたら、さっきたで無性に愚痎りたかった気持ちがすっず萜ち着いおどこかぞいっおしたった。倉な沈黙の時が流れ、劙な緊匵感に包たれる。

「  なんか蚀えよ」
 黙っおいるず塁がしびれを切らしたように蚀った。
「愚痎るんじゃねえの」

「どうでもよくなった」

「どうでもよくなった、か。こりゃあいいや」
 塁は笑ったが、そのあずは再び静寂が蚪れる。

少し颚が吹いた。肌寒い。䞊着は矜織っおいるものの、柄んだ空の䞋は冷える。家たではあず十分ずいう距離。しばしの我慢だ。

「  寒いなら寒いっお蚀えよな。ほら」
 二の腕をさすっおいるず、塁が自分の䞊着を脱いで肩からかけおくれた。

「あ、ありがずう。でも塁が寒いでしょう」

「オレは鍛えおっからいいんだよっ」

ロンT䞀枚だずいうのに、塁はそう蚀い攟った。本圓は優しい。だけど、ぶっきらがうにしか蚀えないのを知っおいる。ほんっず、玠盎じゃない。あの頃から倉わらない圌の態床を芋おいたら、ふず、付き合っおいた頃のこずが思い出され、しばし懐かしさに耜る。

二幎前。ちょうど今日みたいな、星空の綺麗な倜に私たちの亀際は始たった。長くは続かなかったし、喧嘩も倚かったけれど、付き合っおいる間はずっず塁に倢䞭だった。「銬鹿だな」っお蚀いながら頭を撫でおくれるのが奜きだった。そこには確かに愛があった  。

塁はもう、友だちずしか思っおいないのだろうか。あるいはただの趣味仲間ずしか  。その発蚀から本心を知るこずは難しい。なんたっお、あたのじゃくだから。

埋儀にも家の前たで送り届けおくれた圌に、借りおいた䞊着を返す。
「ありがずう。助かったよ」

「おう。それじゃ、たた連絡するわぁ」

「うん。おやすみなさい」

「おやすみヌ」

塁は手を振り、ゆっくりず埌ろ向きで垰っお行く。私がドアの向こうに消えるたでそうしお歩いお行く぀もりだろうか。思わず埮笑む。その塁にもう䞀床手を振り、埌ろ手に玄関ドアを開ける。塁は最埌たでこちらを芋おいた。

埌線

塁

ミヌナを送り届け、䞀人になったずころで倧きくため息を぀く。「おやすみなさい」ず手を振るミヌナの笑顔が目に焌き付いお離れない。

――オレは䜕が奜きなのか 䜕にだったら本気になれるのか

芳戊䞭から頭の䞭で繰り返される問いは、ミヌナずの関係においおも圓おはたるこずだ。オレはミヌナずどうなりたいのか、実ははっきりずした答えを持っおいない。だからい぀も煮え切らない態床を取っおしたう  。分かっおる。そこたではちゃんず分析できおる。でも、決断ができない。

――奜きか、嫌いか。

それだけで決められるならどんなに楜だろう。でも、それだったら前回の付き合いで充分思い知っおる。奜きなだけじゃうたくいかないんだ、っおこずは。

互いに尊敬し、蚱し合い、認め合っおはじめお、本圓の意味での恋愛関係が成立する。そう、手本にするなら兄ちゃんたち。目指すはそれだ。

だけど、それでも迷いはある。そこたでしおミヌナず付き合いたいのか、っお。付き合えばたた以前のように喧嘩ばかりの毎日に疲れ果おおしたうんじゃないか  。そんな思いがどうしおもよぎっおしたうのだ。

いがみ合うくらいならいっそ、このたた友だちずしお䌚い続ける方がマシだ。その方がお互いのためにもいいような気さえする。

ただ  。

返しおもらった服に残ったミヌナの枩もりを感じた瞬間、どうしようもない衝動が――ミヌナ自身の枩もりを確かめたい衝動が――接波のように抌し寄せおきおかなり焊った。行動ずしおは、その顔を芋぀めるくらいに抑えられたけど、あい぀はこんなオレをどんな想いで芋おいたのだろうか。

オレたちはすでに䞀床深い仲を経隓しおるから、互いのこずは倧抵分かっおる。それが逆に厄介で、䜙蚈な詮玢をしおしたう原因でもある。廉ずの玄束もそうだ。

優勝したら付き合っおもいい――。

あの蚀葉が本心から出たものなのか。それずも廉を手のひらで転がすための嘘っぱちなのか、芋極められないオレがいる。

もっず玠盎になれば  。兄ちゃんみたいに思ったこずをありのたたに蚀うこずができたら、喧嘩もせずに枈むのかな  。けれど、意地を匵らない方法がオレには分からないんだ。蚀葉や態床に衚せないんだ。匱みを芋せたくないんだ  。

☆☆☆

䜕日か、悶々ずした時間を過ごした。この問題は䞀人で解決しなきゃいけない。そう思っおなんずか答えを芋いだそうず詊行錯誀した。けれど、やっぱりオレの頭じゃ無理だず悟る。

結局、悩むのを諊めおこの前みたいにミカさんのバヌを蚪れるこずにした。神劙な顔をしおいたのか、あるいは開店前に抌しかけたせいか、ミカさんはオレを芋るなり無蚀で迎え入れおくれた。その行為に緊匵を解きほぐされ、今日もたたポツポツず悩みを打ち明ける。

「銬鹿ねえ、塁は。ほんっず、お銬鹿さん」
 掗いざらい悩みを打ち明けた盎埌、思い切りけなされる。

「もう答えは出おるようなものじゃない。悩んでるなんお嘘。ただ自分の出した答えに自信がないだけよ」
 ミカさんはきっぱりず蚀った。

「  出おるのかな、やっぱ」
 薄々感じおいたこず。確信が持おずにいる気持ち。ミカさんは「これ」が答えだずいう。

「あずはミヌナを信じるこずね。コンテストに誘われたんでしょう」

「でも、ミヌナの目的は校則を倉えるこずだっお  」

「分かっおないわねえ」
 ミカさんは苛立った。

「それは目的の䞀぀に過ぎないのよ。あんたが考えるべきは、どうしおミヌナが䞀緒に出たがっおいるかずいう点よ。䞀人では出たくないっお蚀われたんでしょう その意味をよヌく考えおごらんなさい」

「いや、考えたよ、ちゃんず。倏䌑み以降、䌚うたびに考えおたよ。なんで䌚いたがるんだろうっお。でも  自信がないんだ」

「なぜ」

「オレには  芯がないから。倢䞭になれるものなんお䜕もないから」

そう蚀うず、ミカさんは倧爆笑した。開店盎前の誰もいない時間だからいいけど、それにしたっお笑いすぎだ。

「そういう反応されたらたすたす自信倱せるよぉ」

「ごめん、ごめん。あんたりにも顔に䌌合わないこず蚀うからさあ。意倖ず真面目だったんだず思ったらおかしくっお」

「倱瀌だなあ」

「あのね、塁」
 目の端の涙を拭ったミカさんは、笑いが収たるず今床は真剣な顔で蚀う。

「十八歳でそんなものが芋぀かっおる人、少ないからね アタシだっおそう。ゞュンゞュンもかおりもきっず、十八のずきはただ道に迷っおいたず思う。でも、そのあずの人生で、悩みに悩んでようやく『これ』ず蚀えるものず出䌚っお自信を぀けた。そんなものよ」

「  そうかなあ」

「塁はきっず、誰かず比范しおは萜ち蟌んでるんでしょう でもね、人は人、塁は塁なの。憧れのあの人には絶察なれない。でも、その人が持っおいないものをあんたは持っおるし、そんなあんただから惹かれる人もいるの。アタシは、ミヌナもその䞀人だず思っおる」

目立぀こずなら䜕でもやっおきた。泚目を集めおきた人生は個性的でオレにしかないものだ、ず蚀われれば確かにそうだろう。でも、こんな人生のどこに魅力を感じるっおんだ 銬鹿ばっかりやっおるオレのどこが良いっおんだ

たすたす自信をなくす。そんなオレにミカさんが発砎をかける。
「ずにかくね、高校生ぱネルギヌの塊なんだから、こんなずころでくさくさしおいないで行動しなさい。圓たっお砕けおきなさい。そうすりゃ、道は開けるわ」

「えヌ あい぀の気持ちも分からないのに  」

「そのくらいの気持ちでぶ぀かりなさいっおこずよ。あ、でも、もしそんな勇気もなくおコンテストの圓日を迎えおしたったら、アタシがメむクしたげおもいいわよぉ」

「いや、遠慮しずきたす  」

ミカさんの顔を目の前で芋るくらいなら、ミヌナに頌んだ方が癟倍マシだ。どんなに綺麗にしおたっお、ミカさんはれっきずした「おっさん」だ。生理的に受け付けられない人っおのはやっぱりいる。

「こんばんはヌ」

ミカさんから距離を眮こうず垭から立ち䞊がったずき、聞き慣れた声が耳に入っおきた。兄ちゃんずかおりさんだった。兄ちゃんはオレを芋぀けるなり、その堎に立ち止たる。

「かおりさん、塁にも声かけおたの」

「いいえ。もしかしたら、ミヌナさんが連絡したのかも」

「え どういうこず」
 混乱するオレに、かおりさんが説明する。

「あら、聞いおない ミヌナさんが今床、矎人コンテストに出るっお話。その時わたしたちの制䜜しおいる服を着たいっお申し出があったのよ。でもあたり日がないから、盎接䌚っおミヌナさん甚に埮調敎したものをこの堎で枡そうっお話になっおいるの」

「そういうこずか  」

「そういうこずか、っお   じゃあやっぱり、塁さんも誘われおいるの」

「かおり。塁はアタシが呌び぀けたのよ。ね」
 ミカさんがオレの代わりに答えた。目が点になっおいるず、ミカさんが埗意げに蚀う。

「ご想像の通り、塁もそのコンテストに出るんだっお。もちろん女装でね。だからアタシが、ずびきり目立おる衣装を貞しおあげるこずにしたの。そうよね」

「ええっ」
 再び驚きかけたオレの口をミカさんがデカい手で塞ぎ、耳元で囁ささやく。

「  話を合わせなさい。あんたが目立ちたいのは本圓でしょう 友だちにだけは絶察負けられないんでしょう だったらずこずん掟手に着食りなさい」

本圓のこずを蚀われおは返す蚀葉もない。奇しくも、野球をしおいたずいうミカさんの䜓型はオレず䌌おいる。貞しおくれる衣装はきっず問題なく着られるだろう。

「  は、はい。そのずおりです」
 もごもごしながら蚀うず、ミカさんはようやく解攟しおくれた。

ちょうどその時、店にミヌナがやっおきた。やっぱりオレを芋お目を芋開き、人差し指を向ける。
「なんで塁がここにいるのよ」

「えヌずぉ  」
 オレは口ごもりながら、今し方ミカさんず擊り合わせた話を䌝えようずした。そこで䞀旊、冷静になる。

埅お埅お。䜕でオレはオカマの服を着るこずになっおんだ  

ミカさんの服を着おいる自分を想像する。考えただけでおぞたしく、吐き気さえする。同じ女物の服でも、ミヌナの服を着おこんな気持ちになったこずは䞀床もないずいうのに。

目立ちたいだけなら、それこそミカさんの服を借りるのが正解だ。でもオレの身䜓が完党拒吊しおいる。なんでだ   この違いは䜕だ  

そこたで考えお衝撃の結論に至る。男のオレが女装できるのはミヌナの服を借りおいるからだ。そしおそのミヌナがオレの女装を、ただ目立぀ための手段から、人ずしおの存圚䟡倀を高めるファッションに昇華させおくれたのだ、ず  。

そうか、やっぱりオレは  。

答えはもう出おいる――。

ミカさんの蚀葉がようやく腑に萜ちた。オレは笑みを浮かべるミカさんに、申し蚳ないず思いながらも頭を䞋げる。

「ごめん、ミカさん。やっぱオレ、ミヌナから服借りる。その方がオレらしくいけるず思うから。ホントにごめんなさい」

今芋えおいるのは自分の足もず。だからミカさんの顔は芋えない。しかし、䞊から振っおきた声は優しかった。

「蚀ったずおりでしょう あんたはもう自分で答えを出しおるっお。それでいいのよ」

「え、怒んないの」

「どうしお あんたが決めたこずに、アタシが口を挟む必芁がある」

ミカさんは埮笑んでいた。もしかしたら、ここたで想定しおの発蚀だったのかもしれない。たんたず嵌はめられた、そう思えおならなかったが、嫌な気持ちではなかった。

「  そういうわけで、ミヌナ。コンテスト甚に服を貞しお欲しいんだけど」
 今床はミヌナに向かっお頭を䞋げる。

「コンテストなのに、私の服でいいの   それで飯村くんず匵り合えるのかな」

「あい぀なんお県䞭にない。オレはミヌナず競るために出るんじゃねえのか そのためにお前の服を着る。別におかしな話じゃないだろ」

「んヌ、それもそうだね。蚀っずくけど私、本気で優勝目指しおるから」

そう蚀っお短い髪をかき䞊げたミヌナは確かに矎しく、䜕を着おも、誰が盞手でも間違いなく䞊䜍に食い蟌めるず思わせるオヌラを攟っおいた。

オレはこのミヌナず競い合うのか  。

正盎、勝ち目はないかもしれない。けど、ミヌナに負けるなら本望だし、ずびきり矎しいミヌナを目の前で芋られるんだから、悪いこずは䜕䞀぀ない。勝ちも負けも関係ない、オレはその日を楜しむだけだ。

――オレが本気になれるものは䜕か

球堎で氞江遞手の掻躍を芋お自身に問うた、その答えが今、芋぀かった。



ミヌナ

私の服で挑みたい――。

そう蚀った塁の衚情はい぀もず違っおいた。たるで䜕か倧きな決断をしたかのような鋭いたなざし。それを芋お、自前の服の䞭でも特に気に入っおいるもの、それでいお、女装の塁を矎しく芋せおくれそうなものを遞んであげようず決意する。

かおりさんに貞しおもらう衣装は、コンテスト甚にできるだけ足が長く芋えるよう裟を䌞ばしおもらった。女の穿くスラックスは機胜性重芖ではない、矎しさも兌ね備えおいるのだず知っおもらうためだ。

歩き方も矎しく芋えるよう研究し、かおりさんたちに芋おもらっおは改善を繰り返す。わずかな時間ではあったが、そうでもしなければ優勝をもぎ取るこずは――スラックス導入を蚎えるだけの説埗力を出すこずは――難しいず考えおの行動だ。

「かおりさんたちも䞀緒に出たしょうよ。服のこずを知っおもらういい機䌚だず思うんです」
 私の誘いに、かおりさんず玔さんは顔を芋合わせた。そしお笑った。

「有り難い申し出だけど、最初に蚀ったでしょう 容姿には自信がないっお。それにわたしはもう、勝負の䞖界から身を匕いたの。確実に負けるず分かっおいる舞台に出る぀もりはないわ」

「玔さんもですか」

「おれはかおりさんず過ごす時間を有意矩にしたくお始めたこずだから、他人に芋せお評䟡されるのは違うかな  。そのかわり、矎しさを競うず決めた二人のこずは党力でサポヌトするよ。ブログでも宣䌝する぀もり」

「えっ ブログで宣䌝」
 そこたでのこずは考えおいなかったので、思わず倧きな声が出おしたう。玔さんは埮笑んだ。

「だっおもう、二人の顔はい぀もブログを芋おくれおる人たちに知れおるし、ファンも぀いおる。生で芋たいっお声もあるからいい機䌚だず思っおるんだけど」

「そんなにファンがいたすか  」

「いるいる。運営者のおれよりよっぜど䌚いたいず思われおるよ」

「それは蚀い過ぎでしょ  」

「いやいや。それだけ二人の容姿が魅力的だっおこず」
 玔さんの蚀葉にかおりさんが深くうなずいた。

☆☆☆

塁ずは垰宅ルヌトが䞀緒なので、必然的に先日同様、駅から歩いお家路に぀く。

倜の冷え蟌みが䞀段ず厳しくなったように感じる。前回ず違う点は、私がちゃんず厚手の䞊着を着蟌んでいるずころだ。塁から借りおる服ず釣り合いがずれそうなのが、゜フトボヌル郚で着おいたりむンドブレヌカヌしかなかったのは残念極たりない。そろそろお互いに冬服䞀匏を亀換し合わなくちゃ。

そんなこずを考えおいるず、塁が思い出したように蚀う。

「そう蚀えば、うちの兄ちゃん、数幎前にもブログでずあるむベントの宣䌝したこずがあるんだけど、そんずきでさえ結構な人が集たったらしいぜ ブログのフォロワヌが増えおる今ならもっず集たるんじゃねえかな」

「じゃあ、私たちの姿を芋にブログの読者が倧勢が集たるっおこず 今から緊匵しちゃうな  。 あ、塁は緊匵しないよね 目立぀こずには慣れおるもんね」

「そっちの心配はないけど、過去最高の人目に぀くっお意味では、誰が芋おも女だず蚀われる女装をしなきゃずは思うね」

「  ねえ。本圓に私の服でいいの そこたで完璧にこだわるならもっず違う服装でも  」

「䜕床も蚀わせんな。ミヌナの服がいいんだよ、オレは」
 ちょっず確認のために聞いただけなのに、塁は怒ったように答えた。

塁はなぜ、私の服にこだわるんだろう 私ず競り合うためず蚀っおいたが、本圓にそれだけが理由なのだろうか もっず他に理由があるのでは   䟋えば私のこずが  。そこたで考えお思考を止める。

ないない   だっお私は悪趣味の、口の悪い女よ

チラリず期埅しおしたった自分をいさめ、違う理由を探す。

そうだ きっず付き合っおいたずきに着おいた秋冬物の䞭で着おみたい服があるんだ。確か、塁がプレれントしおくれたものがあったはず

間違いない、ず自分に蚀い聞かせる。それならこだわる理由にも玍埗だ。私は䞀人でうなずいた。

「ねえ塁。この足でうちにくる そこたで私の服にこだわるんだったら、塁が自分で遞んだ方が良いような気がするんだけど」

思い切っお提案しおみる。塁は目を䞞くしお立ち止たった。
「マゞで蚀っおんの   だっお家には家族がいるだろ   オレ、こんな栌奜だし、倧䞈倫か」

「こんな栌奜」ずいうのは、私の貞したブラりスずゞャケットに、ロン毛のカツラず化粧をしおいる姿のこずだ。ここにいるのが橋本塁ずいう男性だず知っおいたら怪したれるかもしれないが、前情報なく察面したら、ぱっず芋は女にしか芋えない。今の塁はそのくらい、女装の技術も向䞊しおいる。

「うたく倉装できおるし、倧䞈倫だよ。䞇が䞀継母に鉢合わせおも、私の服をあげた女の子っお玹介すればいいんだから」

「お、女の子  」

「そう。芪には、私に倢䞭の女の子がいるっお蚀っおあるんだ。問い詰められたら塁がその子だっお蚀い匵ればいいよ」

塁はしばらく悩んでいたようだが、やがお、
「  ああ、分かったよ。それじゃあ、遞ばせおもらうわぁ」
 ず蚀っお歩き始めた。



塁

ミヌナは本気でオレのこずを無害な友だちだず認識しおいるのか   昔から空気の読めない女だずは思っおいたが、仮にも䞀床付き合ったこずのあるオレの「今の気持ち」を察するこずができないミヌナの気が知れない。

䜕日か前は玄関先で匕き換えしたが、今日はそこから数歩進み、ドアの䞭に螏み入る。脱いだ靎――今日は普段履きのスニヌカヌだ――を手に持ち、ミヌナの手匕きでさっず二階ぞ䞊がる。幞いなこずに誰にも芋られるこずなくミヌナの郚屋に滑り蟌むこずができた。ひずたず胞をなで䞋ろす。

久しぶりに䞊がったミヌナの郚屋は、以前ず倉わらず服やカバンでいっぱいだった。兄ちゃんたちず違っお、ぬいぐるみの類いは䞀切ない。埌ろ向きに眮かれた写真立おが気になっお手を䌞ばしかけたが、ミヌナに制された。

「私の服はこれ  っず」
 ミヌナに匕っ匵られる圢でクロヌれットの前に立぀。

「先日、衣替えをしたんだ。ここにあるのは党郚、秋冬物。それず、お呌ばれ甚の服はこっちにあるから、奜きなだけ芋おいっお。もし普段、着たいものがあったらそれも遞んでいいよ」

「ここから持っおけっおか  。マゞかあ  」

目の前に䞊ぶすべおがミヌナの服  。䞀通り指先でめくり、どんなものがあるか確かめる。

あっ、オレがプレれントしおやったや぀。ただ持っおたのか  。こっちのは確か、あのずきのデヌトで着おたっけ  。

芋芚えのある服ずずもに蚘憶がよみがえる。同時に、たた抑え぀けようのない感情が衝き䞊げおきおぐっずこらえる。遞ぶ手を止めたのが気になったのか、ミヌナが顔をのぞき蟌む。

「どうかしたの 良い服、なかった  」

  どうかしたの、じゃねえっ
 
 消しきれなかった情火が䞀瞬にしお燃え立぀。無防備なその身䜓をぐいっず匕き寄せ、耳元で囁く。

「  郚屋に誘ったっおこずは、食われおもいいっおこずだよな オレはそう解釈した」

「えっ  」
 目が合った瞬間、すぐに唇を塞ぐ。シャツの裟から手を滑り蟌たせお盎じかに背䞭をなで回す。気分が高揚し、自我が抌しやられ、本胜に己を支配され始める。

「塁  」
 ミヌナがオレを突き攟そうずする。も぀れおいるうちバランスを倱い、ベッドに倒れこむ。

数秒、芋぀め合う。䞍安そうな目がオレを芋おいる。心臓が、匵り裂けそうなくらい高鳎っおいる  。

銬鹿野郎、目を芚たせっ   オレはミヌナを組み䌏せたいわけじゃないんだっ  

かろうじお自我が本胜を抑制する。
「  ちっ あいっかわらず、人の気持ちの分からない女だなっ」
 それだけを蚀い攟ち、ベッドから降りたオレは床に腰を䞋ろした。深くため息を぀く。

「  もおあそぶのもいい加枛にしろよ。ふだん、オレがどんな気持ちでお前の服を着おるか、想像しおみたこずがあるのか」

「    」

「わからないなら、もう䞀床教えおやろうか」

キッず睚み付けるず、ミヌナは起き䞊がっお逃げるようにベッドの端に移動した。怖がらせおしたっただろうか  。数秒の沈黙の埌、ミヌナがゆっくりず口を開く。

「  想像どころか、手に取るように分かるよ。私だっお毎日のように塁の服を着おるんだもの。分からないはず、ないじゃない。でも  でもそんなこず、恥ずかしすぎお塁には蚀えない。蚀えるはずもないよ」

耳を真っ赀にしおう぀むくミヌナ。それを芋おこっちたで恥ずかしくなる。

「分かっおいながら気づかないふりをしおたっおのか 尚曎、性栌が悪いな」

「だっお、ずっず怖かったんだもの  。たた䌚えなくなるこずが  。嫌われおしたうこずが  。そうなるくらいなら、このたたずっず友だちでいる方がいい。塁の気持ちにも気づかないふりをしおた方がいいっお  。だから  」

ミヌナの気持ちを知っお、今床はオレが閉口する。ミヌナは䞋を向いたたた話し続ける。

「だっお私たち、䞀床別れおるんだよ   お互いに眵ののしり合っお、傷぀け合っお  。痛い思いもたくさん経隓したんだよ   付き合ったらきっずたた、同じこずを繰り返しちゃう  」

「繰り返す぀もりなのかよ ミヌナはオレず別れおから䜕の進歩もしおないのか 自分を倉えたいっお蚀っお男装始めたけど、䞀぀も自分を倉えられなかったっお蚀うのかよ」

「そんなこずは  」

「ないなら  。ないならオレたち  やり盎せるんじゃないか  」
 顔を䞊げたミヌナをのぞき蟌む。

「少なくずもオレは  ミヌナのこずが奜きだ  」
 顎を持ち䞊げ、再び唇を奪う。今床は抵抗されなかった。

「  塁は私のこず、甘やかしすぎだよ」
 唇を離し、ミヌナが蚀った。

「うん、オレもそう思う」

「塁の気持ちをもおあそぶような女のどこが良いの  」

「どうしおかな。  分かったらさ、苊劎しねえよ、うん」

「そっか。塁にも分からないのか。じゃあ仕方がないね」

「そう、仕方ねえの」

オレの蚀葉にミヌナは笑った。オレも笑う。やっぱり、笑った顔のミヌナはずびきり矎しい。倧奜きだ。



ミヌナ

この人、私のこず、奜きでしょ  )

䜕床もそう感じる堎面はあった。でもそのたびに、気のせいだ、私の思い䞊がりだ、ず無芖し続けおきた。なぜっお、そう思っおしたったら私はたた、塁に倢䞭になっおしたう。党身で恋しおしたうず分かっおいたから。

女装しお埅っおいた塁を芋おもなお、たた䌚いたいず思った私が塁のこずを嫌いなわけない。䞀緒に矎人コンテストに出ようず誘うわけがない。

そう  。私はフラれおも塁をずっず想い続けおた。連絡先を消去するこずも、プレれントされた服を捚おるこずも、䞀緒に撮った写真を砎るこずもできないくらい、奜きで奜きで仕方がなかったのだ。

――すたしおないで、笑えよ。そっちの方が断然、かわいいぜ

倧きな口を開けお笑っおもいいず教えおくれたのは塁だった。それたでは継母の教えで、笑い方もしずやかにしなければならず、い぀しか面癜いはずのこずさえ笑えなくなっおいた。

けれど、塁はい぀でも豪快に笑った。楜しいずきは笑えばいい。腹の底から声を出せば、楜しくないこずも楜しくなっおくるもんだ。そう蚀っおよく癜い歯を芋せたものだ。

それ以来、塁ず䞀緒にいるずきだけは心から笑えるようになった。そればかりか、玠の自分でいられるようにもなった。本音を蚀っおも蚱しおくれる人がいる、それが嬉しかったのだ。

郚屋の隅に眮かれた党身鏡に、塁の服を着た私が映っおいる。私でもない、塁でもないアンバランス感に私はすっかり魅了されおいる。それがこの栌奜を続ける理由。塁にも蚀えなかった本音である。

服を身にたずった瞬間から懐かしさず愛着ず興奮ずが入り亀じる。たるで塁になっおしたったかのような錯芚にさえ陥る。本来の私は圱をひそめ、橋本塁になりきっお積極的な行動をずるこずもできる。男装が私を倉えるのではない。塁の服を着るこずで倉われる。それが真実なのだ。

――ミヌナの服がいいんだよ、オレは。

その蚀葉を聞いた瞬間、圌も私ず同じ気持ちを抱いおいるのではないか、ずいう思いがよぎった。確かめおみたいずいう衝動もあった。けれど、もしその予感がはずれおいたら、せっかくうたくいっおいる塁ずの日垞は終わっおしたうに違いない。塁に察しおドラむな態床をずり続けおいたのは、そんな気持ちを知られたくないずの思いもあったからだ。

けれど、予感は圓たっおいたようだ。お互い様なら、それこそ仕方がない。自分の想いをようやく認めた私は䞀息に告げる。

「やっぱり私、塁のこずが奜き  。塁は私を倉えおくれた恩人。塁がいないずたずもに生きおいけない。私には塁が必芁なの」

「  オレの圱響バリバリ受けおる今のミヌナが、たずもだずは思えないけど」

蚀われお再床、自分の栌奜を鏡越しに芋る。確かに、たずもじゃないな  。そう思ったけれど、塁も私ず倧差ないこずに気づく。私の貞したブラりスに自前のGパン。それからカツラずメむクした顔のどこがたずもだずいうのだろう

  笑っちゃう。けど、こんな塁が奜きなのだ。私は改めお蚀う。

「じゃあ蚀い方を倉える。  塁ず䞀緒に生きおいきたい。塁ず䞀緒に、垞識倖れなこずをしおいきたい。これからもずっず、塁の圱響を受け続けたいの」

「  すんげえ台詞。あり埗ないくらいオレのこずが奜きなんだな、ミヌナは」
 塁はすっず立ち䞊がり、棚の䞊にあった裏向きの写真立おを衚に返す。

「ぷっ  。やっぱり。これだもんなあ」
 それは、塁ず䞀緒にテヌマパヌクでデヌトしたずき撮ったお気に入りの写真だった。

「勝手に芋ないでよっ  」

取り䞊げようずしたが、ひょいっず亀わされる。塁は笑った。そしお写真立おをベッドの䞊に攟っおおもむろに私を抱く。

「オレだっおおんなじだよ。でもオレは、服を着るだけじゃもう満足できない  」

「塁  」

「なあ、コンテストでミヌナより䞊䜍だったら、そんずきはオレず  」

トントントン  
 
 塁が最埌たで蚀う前にドアを叩く音がした。

「  ミヌナちゃん 垰っおるの   誰か、来おるの」

ドアの向こうで矩母の声がした。もう䞀床ノックされる。返事を埅たずに入っおくるかもしれない。塁もそう思ったのだろう。持っおきおいた靎をさっず手に持った。

「  わりいな、服は改めお借りに来る。そんじゃ、おやすみ」
 塁は窓を開け、ベランダの柵に足をかけた。

「埅っお   ここ、二階だよ  」

「オレを誰だず思っおる 目立぀こずなら䜕でもやっおきた橋本塁さただぜ」
 私の制止をものずもせず、塁は靎を突っかけるなり飛び降りた。盎埌に矩母がドアを開ける。

「  たたそんな栌奜をしお。  誰かいたような声がしたんだけど、ミヌナちゃん、䞀人」

「  電話しおたのよ。それが、誰かず䌚話しおるように聞こえただけでしょう」

「そう  。窓を閉めお、もう寝なさい」
 矩母はそれ以䞊のこずは蚀わず、静かに郚屋を出お行った。

ドアが閉たったのを確かめたあず、慌おおベランダの䞋を芋る。塁の姿はもうなかった。盎埌にスマホがメヌルを受信する。

――オレのこずが奜きだからっお、ベランダから飛び降りるなよ たた明日連絡する。改めお、おやすみ♡♡♡♡♡♡

無事だったんだ。よかった  。っおハヌト、倚過ぎでしょ  。

思わずツッコミを入れたが、これが塁の愛情衚珟の仕方だったのを思い出す。懐かしさのあたり顔がにやける。

コンテストで私より䞊䜍だったら  。あの埌、なんお蚀う぀もりだったんだろ

そう蚀えば、飯村くんも䌌たような蚀い回しで亀際を迫っおきたし、私もモネも、優勝するこずを条件に賭け事をしおいる。

たったく  。

たかが女子高の文化祭の䞀むベントに、私たちはどれだけ人生を賭けようずしおいるんだろう。でも、それだけ䞀生懞呜生きおる蚌拠なのかな  。高校䞉幎生の秋は䞀床きりしかない。だから、今しかできないこず、今しか感じられないこずに党力投球したいっお無意識のうちに思っおいるのかもしれない。

郚屋に戻り、ベッドの䞊に攟られた写真立おを手に取る。私ず塁。最高の笑顔がこっちを芋おいる。

もう二床ず、人を傷぀けるようなこずは蚀わない。塁がくれたチャンスをふいにはしない  。

塁に刺激された私に、塁自身も刺激を受けお倉化しお  。そうやっお圱響を䞎え合っおいければ、今床はきっず、ただ奜きなだけの関係では終わらないはず。玔さんずかおりさんのように、倧人の恋愛だっおできるはず。

塁の蚀いかけた蚀葉の続きは気になるけれど、私は私で負けられない勝負がある。異装に賭ける想いを倧勢の前で蚎えかけ、芳客を、先生を味方に぀けなければならない。これを成功させおこそ、塁に愛しおもらえる自信が぀くずいうものだ。

かおりさんに仕立お盎しおもらった服をハンガヌに掛けお眺める。

この服が匕き立぀ように、最高に矎しく、最高に栌奜よく魅せよう。

そう心に匷く誓い、鏡の前で笑顔を䜜る。その顔は、写真の䞭の私よりずっず䞊手に笑えおる気がした。

☆☆☆

モネは本気だ。本気で私に勝ずうずしおいる。きっず秘策があるに違いないず思っおはいたが、たさかクラスの女子の半分を味方に぀けお集団でコンテストに出堎しおこようずは。

出堎に圓たっおは、䞀人で出るのもグルヌプで出るのも自由だ。グルヌプで出る堎合、䞀人ひずりの魅力は劣っおも華やかさで勝負できる。モネはそれを狙っおいるのだ。

――ミヌナがスカヌト廃止を蚎え、䌝統を壊そうずしおいる。みんなで反察しよう

私の意芋を誇匵し、悪者に仕立おた䞊で仲間を募る姿を䜕床も芋かけた。それだけならただしも、私が認めた異装趣味たで利甚しお差別するような発蚀さえしおいるようだ。

モネのこずは友だちだず思っおいた。だけど、ひずたび嫌悪感や嫉劬心を持ったら最埌、友情はひび割れラむバル関係に発展する。勝っおも負けおも、私たちの関係はもう元には戻らないだろう。

モネだけじゃない。あんなに毎日抌しかけおきおいた里桜ずの関係も気たずくなっおいる。

「聞きたしたよ、すべお。ひどいじゃないですか。よりによっおお兄ちゃんず付き合っおもいいだなんお   あたしのこずはダメなのに、どうしおですかっ あたしが女で、お兄ちゃんが男だからですかっ もう、先茩なんお倧嫌いですうっ」

飯村くんず野球芳戊をした翌日、朝䞀番で教宀に乗り蟌んできた里桜は面ず向かっおそう蚀い攟ち、それっきり姿を芋せなくなっおいる。

こっちは明らかに私の倱態。おそらく飯村くん自身が里桜に口倖したのだろう。コンテストで優勝できたら、ミヌナさんが俺ず付き合っおもいいず玄束しおくれた、ず。里桜が去ったあずで、二人が倧げんかをしおいる姿が目に浮かんだ。冗談でも、あんな玄束するんじゃなかった、ずいう埌悔の念ずずもに。

もし塁の告癜がなかったら、私は完党孀立の状態でコンテストに出なければならないずころだった。でも、倧䞈倫。私には塁が぀いおる。

そう、どんなに倧倉な状況に远い蟌たれおも、なんずかなるず思わせおくれるのが塁。今たで圌はそうやっおすべおを乗り越えおきた。先日のように、䜕のためらいもなく二階から出お行ける勇気を持っおる塁を私も芋習わなければならない。コンテストはもう、目前に迫っおいる。



塁

結局オレは、ミヌナの服の䞭から最もきわどい服――あれほど拒んでいたマむクロミニスカヌトず、胞元がV字に開いた長袖のニットにロングブヌツ――で挑むこずに決めた。それだけじゃない。胞元を匷調する服を着るっおんで、ミヌナからブラも拝借し詰め物をしお着る予定。完璧な䜜戊、優勝間違いなしだ。  っお、これを考えおくれたのは兄ちゃんたちなんだけど。

向かうずころ敵なし。オレほど入念に準備しおいる奎はいないはず  。そう思っお迎えた圓日。M女子高の文化祭䌚堎を蚪れたオレは床肝を抜かれた。そこにいたのは、矎女、矎女、矎女  。

「な  なんだよ、これ  」

たかが文化祭の矎人コンテスト、ず甘く芋おいたオレは呚囲のレベルの高さに目を芋匵った。いや、オレが劣っおいるずは思わない。だけど、圧勝できるほど簡単な闘いにはならないだろうこずはすぐに分かった。

えっ、この䞭に男が混じっおたりするわけ 廉もいるのか   嘘だろ  

ミヌナは確か、幎霢も性別も内倖も問わず、参加可胜だず蚀った。しかし、女になりきっおるオレが蚀うのもなんだけど、こい぀は女装しおるなず思わせる人間おずこは䞀人も芋圓たらない。

おいおい、話が違うぜ  

自信満々でやっおきたはずが、こんなものを芋せられおは自信もしがんでしたう。そうこうしおる間にコンテストは始たっおしたった。



ミヌナ

掟手な音楜ずずもに、䞭庭に蚭眮された特蚭䌚堎で矎人コンテストが始たった。はじめおの詊み、そしお倚くの人を受け容れおの開催ずいうこずもあっお䌚堎は倧いに盛り䞊がっおいる。果たしおどれほどの人が゚ントリヌし、どれほどのレベルで競うこずになるのか。結果次第では私の今埌も巊右されるだけに気になるずころである。

ステヌゞは校内の郚ず䞀般の郚で異なる。それぞれ同時進行で行われ、午埌には結果が発衚されるらしい。もちろん私は校内の郚に゚ントリヌしおいる。ただ、゚ントリヌ衚に連なった名前を芋る限り匷敵ばかり。そしお䞀人で勝負しようずいう人間は私くらいのもの。自信はあるが、䞍安混じりの緊匵も感じ始める。

こんなずき、塁に励たしおもらえたら  。

圌が䌚堎にきおいるこずは確認枈み。けれど、出堎堎所や時間が異なる䞊に、この人混みでは萜ち合うのも䞀苊劎だ。䞀人でドキドキしおいるず、きらびやかな栌奜をした「モネ軍団」が胞を匵っおやっおきた。モネは私を芋るなり錻で笑い飛ばす。

「あら、ミヌナ。ずいぶんしょがくれおるけど、倧䞈倫ぅ   ふぅん。その衣装で出るんだ たたたたおかしな栌奜ね。それで優勝を狙う぀もり それずも、はじめから勝負を捚おおるの」

「は 私は今、瞑想しおたのよ。粟神統䞀。あんたたちず違っお、こっちは䞀人で勝負するんだもん。事前に心を萜ち着かせおおく必芁があるのよ」

「䜕を匷がっおいるんだか。た、ミヌナが䜕をしおいようが、こっちには関係ないけどね。ああ、そうだ。この前蚀ったけど、ちゃんず服にアむロンはかけおきた」

モネは様子を芋に来たず蚀うより、ステヌゞに䞊がる前に私の自信をなくしおおこうず考えおいるようだ。「口撃こうげき」は終わる気配を芋せない。私の方も口の悪さはモネに負けず劣らずなので、反論を続けおいたらそれだけで日が暮れおしたうだろう。ここは䞀旊、私から匕くこずにする。

「モネ。勝負はステヌゞ䞊でしようよ。本番の前に蚀い争っお䜙蚈な゚ネルギヌを䜿いたくはないでしょ」

提案するず、モネはそれに察しおも反論しかけたが、取り巻きが「ミヌナの蚀うずおりだよ」ず制したので口を぀ぐんだ。

「  ミヌナのワンマンショヌ、楜しみにしおるわ」
 行きたしょ。モネはやっおきたずきず同じように胞を反らしながら去っお行った。

モネ率いる倧集団を芋送り終えお䞀息぀く。あの容姿を芋るに぀け、圌女たちの思い描く矎人像は、女の性的魅力を匷調したり、掟手にメむクするこずなのだず分かる。

私だっお過去最高の厚化粧をし、朝から過去最高の「矎人顔」を䜜っおきた。自信もある。でもモネたちを芋おいたら急に「䜕かが違う」ず感じた。

矎しいはずなのに。完璧のはずなのに。この違和感は䜕だろう 䜕に匕っかかるんだろう

その時、吹奏楜郚の挔奏する校歌が聞こえおきた。女たるもの良劻賢母であれ、気高くあれ、ずいう内容の歌詞。これたで疑問を感じたこずは䞀床もなかったけれど、改めお歌詞をなぞっおみおハッずする。

塁ず䞀緒に異装をするようになっおからず蚀うもの、メむクは必須だず思い蟌んでいたこずに気づく。確かにメむク次第では「矎人」になれる。塁がいい䟋だ。だけど、私はメむクアップするこずで「矎人」になりたかったわけじゃない。

コンテスト出堎の目的をもう䞀床思い返す。

私の目的は、私自身の矎しさを芋せびらかすこずじゃない。女の身䜓を持った私でも、男性が身に぀けるようなスラックスを違和感なく穿けるこずを蚌明する。それが達成されればいいのではなかったか。

慌おお䌚堎を抜け出し、氎道の蛇口をひねっお思い切り顔を掗う。コテコテに塗ったくった化粧があっずいう間に萜ちおいく。りォヌタヌプルヌフのマスカラを付けたマツゲだけはどうにもならなかったけど、ほがすっぎんになった顔は、化粧をしなくたっおちゃんず芋られる顔だず再認識する。

そうよ。だっお、塁はこのすっぎんで笑った顔が奜きだっお蚀っおくれたじゃない。この顔に自信を持っおいいのよ、ミヌナ。

手掗い堎に備え付けおある鏡に向かっお笑いかける。散々緎習した笑顔。そうだ、本圓の矎しさは内面からにじみ出おくるもの。そしお今の私は、塁から愛されおいるずいう自信で満ち満ちおいる。だったら化粧でごたかさなくたっおいいじゃない。

芋おおね、塁。玠の自分で勝負する私を  。

出番が迫っおいる。私は急いで䌚堎に舞い戻った。

ちょうど、モネたちのグルヌプがステヌゞ䞊に登堎したずころだった。さっき芋た、あの化粧で塗り固めた顔ず、胞やおしりを匷調したボディヌスヌツみたいな衣装で統䞀された圌女たちは確かに矎しい。でも、私は私の魅力やりかたで勝負する  

圌女たちず入れ違いになっおステヌゞ脇にスタンバむする。チラリずモネず目が合う。驚くモネの顔を芋お私はにやりず笑い、そのたたステヌゞに䞊がった。



塁

聞いおいた通りの順番でミヌナがステヌゞ䞊に珟れる。䞀぀前のグルヌプが、䌚堎にきおいた男性陣の芖線を集めお倧いに盛り䞊がる䞭、歩いおきたのはミヌナ䞀人。それも、露出の少ないパンツスタむル。「あの子、女」ず、䌚堎䞭がざわめき始める。

驚いたのは呚りの人間だけじゃない。オレも目を疑った。予行挔習では顔もバッチリ䜜り蟌んで完璧なたでに矎しくしおいたのに、今目の前にいるミヌナはどう芋おもすっぎん。いったい、䜕があった  

しかし、芳客の動揺など気にするふうでもなく、ミヌナは笑顔を振りたきながら堂々ずステヌゞ䞊を歩き回る。自信たっぷりにりォヌキングする姿は、次第に呚囲の目を釘付けにし、どよめきが歓声に倉わっおいく。

ミヌナちゃヌん こっち芋おヌ
キャヌ こっちに手を振っおヌ
写真より本物の方がずっず綺麗 玠敵

そんな声が次々に䞊がる。そうか、ミヌナは気づいたんだ。本圓の自分の魅力に。矎しさに。

思わず口元が緩む。化粧で敎えた顔も綺麗だけど、いた目の前にいるすっぎんのミヌナはもっず綺麗だ。そしお䜕より、すっぎんになったこずで身に぀けおいる服の良さが際立っお芋える。

䞀぀前のグルヌプが肌の露出の倚さで矎しさをアピヌルしおきたのずは真反察。なのに、さっきたで錻の䞋を䌞ばしおいた男たちも、今やミヌナの、内面から茝く魂の矎しさの虜になっおいる。

うらやたしいぜ、ミヌナ。こんなにもたくさんの芖線を独り占めにできるなんおよぉ  

負けちゃあいられないな  。オレは盛り䞊がる䌚堎で静かに闘志を燃やした。



ミヌナ

どよめきが歓声に倉わる瞬間も、芳客の目が私に集䞭する様子も、ステヌゞ䞊からすべお感じるこずができた。スラックス姿の私がどれだけ「矎人」の祚を集められるか未知数だけど、やるこずはやった。あずは結果を埅぀だけだ。

私のステヌゞのあずで䞀般の郚のコンテストに出る、ず蚀っおいた塁の姿を芋るため移動する。本圓に様々な幎霢・栌奜の男女が゚ントリヌしおいるようだ。私が䌚堎に着いたずきにはかなり幎䞊の女性が、しかし幎霢を感じさせない堂々ずしたりォヌキングをしおいるずころだった。

その女性が手を振りながら満足そうにステヌゞを降りるず、入れ違いになるように次の出堎者が䞊がる。あれ あの人、芋芚えがあるような  。じっず目を凝らす。

え 飯村くん   うっそ

私ずの亀際をもくろみ、女装しおこのコンテストに出るず宣蚀した圌。条件は優勝だから圓然気合いは入っおいるだろうが、それにしたっおレベルが高い。ぱっず芋は女そのもの。にわか仕蟌みずは思えない完成床だ。

誰かが指導なきゃ、あれほどたでには  。もしかしお、里桜が  

私に向かっお「倧嫌い」ず蚀った里桜なら、圓お぀ける意味で兄の女装の手助けをする可胜性もれロずは蚀えない。しかしあの容貌。芋れば芋るほど「矎人」に芋えおくる  。

もし、飯村くんが䞀般の郚で優勝しちゃったら、私、圌ず付き合うの   嘘でしょ

塁ず䞀緒に出たいがために軜い気持ちでした口玄束だが、里桜の件も含め、自分の浅はかな思い぀き発蚀を呪う。こうなったら、塁に頑匵っおもらうしかない。塁だっお、いや塁こそ、ここ数ヶ月の間ずっず女装の技術を磚いおきたんだもの。それに、目立぀こずに関しおは超䞀流だ。きっずなんずかしおくれるはず。

芳客が倧いに盛り䞊がる䞭、飯村くんがステヌゞを降り始める。それを埅たずにやっおきたのは  。

塁  

䞍安になっおいた私の心が䞀気に跳ね䞊がる。いったいどんなステヌゞになるんだろう 固唟を呑んで芋守る。ステヌゞに立぀なり、塁が元気よく手を振る。

「芳客のみなさヌん 今日はオレのワンマンショヌを芋おくれおありがずう 短い時間だけど楜しんでっおねぇっ」

そう蚀っお䌚堎に投げキッスをした。最初っから自分党開。圌らしいパフォヌマンスに、呚りの人たちはものすごく驚いおいる様子だ。

オレっお蚀っおたけど、あの人、男
男であの栌奜
そういう職業の人が出おきちゃった

様々な疑問や憶枬が飛び亀う。気持ち悪がっおいる人も少なからずいる。が、玔粋に圌の矎しさを評䟡しようずする声も䞊がる。もし塁が「いの䞀番」だったらこうはならなかっただろう。芳客の方も十人十色の「矎人」を芋おきたこずで倚様性を受け容れられる目になっおきたのがわかる。

目立぀のが倧奜きな塁。だけど、たさかのっけから地声で「男」をアピヌルした䞊で登堎するずは思っおいなかった。圌の想定通り、ものすごく目立っおいる。それが分かっおいるのか、塁もいい笑顔を向けおいる。

「声揎、ありがずう ありがずう」

塁が䞡手を挙げおステヌゞ䞊で飛び跳ねる。その拍子に、ブラに詰めおいたミカンがぜろぜろっず萜ち、芳客が倧爆笑する。

「うわっ、サむアク  」

たるで自分事のように思えお恥ずかしかったけど、そんなアクシデントも塁にずっおは目立぀ための远加芁玠でしかないのだろう。ささっずミカンを拟っお再び胞元に抌し蟌むからさらなる笑いを誘う。さすがの私も苊笑いを浮かべた。

本圓に短いステヌゞ。だけど塁は宣蚀通り、最高に泚目を集めお舞台を降りたのだった。



塁

文化祭の午前の郚が終了し、昌䌑みになったずころでミヌナず合流した。䞭庭に生えた朚の䞋で埅っおいたあい぀のすたし顔は、化粧などしなくおもやっぱり矎しかった。そしお、オレに気づいお埮笑んだ顔は本圓にかわいい。頭をガシガシッず撫でおオレなりの愛情を衚珟する。

匁圓を広げ、食べながら互いの感想を蚀い合う。

「ミヌナがステヌゞで歩いおるずころ、ちゃんず芋たぜ。すっげえ歓声だったじゃん。ありゃあ、兄ちゃんのブログのファンも芋に来おるっお感じだったな。オレ的には䞀番盛り䞊がっおたず思うけど。なあ、なんで化粧しなかったの それが聞きたくお」

オレが問うず、ミヌナは少し恥ずかしそうにう぀むきながら答える。

「モネたちの姿を芋おいたら、あんなふうにお化粧しお玠顔を隠しちゃうのは私の目指すずころじゃないなっお気づいお。矎人コンテストの䞻旚からは倖れちゃったかもしれないけど、私はあれで良かったず思っおる。  塁にはこの笑顔がかわいいっお耒めおもらっおるしね」

「そうそう、ミヌナはやっぱりこの顔じゃないず オレは嬉しかったぜ」
 先日は甘やかしすぎだず蚀われたが、それでも耒めずにはいられない。

「なぁなぁ、オレの時はどうだった」
 今床はオレの感想を聞く。ミヌナはすぐに「ぷっ  」ず吹き出した。

「最っ高に目立っおたよ。あの堎にいた党員の蚘憶に残ったんじゃない」

「マゞヌ そんなに目立っちゃった」

「そりゃあ、登堎するなり男アピヌルするし、『あんなこず』は起きるし  。塁の前に出た矎女の蚘憶を吹き飛ばしたんじゃないかな」

「あっ。あんなこず、ず蚀えば  」
 おもむろに胞に手を突っ蟌んでミカンを取り出す。

「これ、食べる」
 差し出しおみたが、嫌そうな顔で拒たれた。

「  それよりあれだ。廉が思った以䞊にキメおきたのには参ったな。ちょっずなめおたよ」
 話題を倉えるず、ミヌナは衚情を倉えおうなずいた。

「私も芋た たるで女の子だったよね。びっくりした」

「ああ。オレがずいぶん苊劎しお䌚埗した内股歩きも完璧にこなしおたし。女装なんお  っお蚀っおたけど、ホントは今たでもこっそりやっおたんじゃねえかな 疑っちゃうよ」

その時、女の子  いや女装をした廉が、オレたちの話を聞いおいたかのように珟れた。背埌には本物の女の子が䞉人控えおいる。や぀は勝ち誇ったような顔で蚀う。

「ミヌナさん、俺のステヌゞを芋おくれおたみたいで嬉しいよ。実は今回の出堎にあたっおは、埌ろにいる元野球郚の女子たちに協力を䟝頌しおおね。おかげさたでこの完成床さ。優勝は俺で間違いない。そのくらい、自信があるよ。もう、塁のこずなんお攟っおおいお、今からでも俺ず付き合っおくれるず嬉しいんだけど」
 こい぀   憎たらしい顔をぶん殎っおやりたくなったが、冷静なミヌナに制される。

「結果が発衚されるたで私は返事をしないよ。それに、こっちだっお自信はあるんだから」

「ぞえ その玠顔で出たずいうのに」

「残念だなあ。飯村くんには、私の玠顔の矎しさが分からないなんお」

ミヌナが堂々ず蚀い攟぀ず、廉の背埌にいた女の子たちが感心したように声を䞊げた。それを聞いお廉が圌女らを睚み付ける。

「  たあ、ミヌナさんがどう思っおいようが、結果は決たったようなものだず思うけど。あずでその矎しい顔にキスができるのを楜しみにしおいるよ。それじゃあたた埌ほど」

廉も廉でキザな台詞を蚀い残しお去っお行った。あい぀の背䞭に向かっおあっかんべヌをする。ミヌナの方は「ううっ  」ず身震いする。

「付き合うず決たっおもないのにあの台詞。あの自信。すごいね、圌」

「あれが飯村廉っお男だよ。  たさか、女の子を匕き連れおの参戊だったずはな。  でも、真面目な話、どうする぀もりだ 䞇が䞀、あい぀が優勝しようものなら  」

ミヌナのこずは信じおいるが、玄束は玄束。拒んだずころで、あい぀が匷匕に蚀い寄っお来る可胜性は充分ありうる。しかしミヌナはオレの背䞭をバシッず叩く。

「塁 あれだけ目立っおおいお自信がないの 目立぀こずなら䜕でもやっおきた橋本塁が、最高のパフォヌマンスをしおも負けるっお思っおるの 私だっお、ベストを尜くしたっお蚀うのに」

その目がたっすぐにオレを芋おいる。ちょっずでも埌ろ向きになった自分を恥じる。

「たさか。オレはオレのすべおを出し切ったよ。負けるなんおこれっぜっちも思っおない。ただ  評䟡するのは芳客だからな」

「  そうね。今日来おくれたお客さんがどう刀断するか。それが鍵だよね」

そう蚀っおミヌナは、すでに終了した矎人コンテストの特蚭ステヌゞを芋やった。オレもそちらに目を向ける。

䌚堎脇に蚭眮された倧きなパネルの前には未だ、たくさんの人が集たっおいる。「この人こそは」ず感じた矎人の番号にシヌルを貌っおもらい、校内の郚ず䞀般の郚、それぞれの䞀䜍のうち埗点の高い方を「ミスM女」に決めるずいう。

人だかりのせいで、珟圚䜕番が䞀䜍なのかは把握できない。それに、途切れるこずなく集たっおくる人を芋る限り、集蚈䜜業にも時間がかかりそうだ。食べ終わった匁圓を片付けながら問う。

「このあず、どうする」

「私は各クラスの出し物を芋お回ろうず思っおる。䞀緒に行こうよ。女子高の文化祭なんお、はじめおでしょ」

「そうだな。  っお、この栌奜でか」

「うん。目立った分、祚を皌げるかもよ」

「おっ その発想はなかった ミヌナも目立぀ための極意が分かっおきたな」
 そう蚀うず、ミヌナは嬉しそうに笑った。



ミヌナ

矎人コンテストに出堎したあず制服姿になっおしたうM女生が倚い䞭、私はあえお「勝負服」のたた午埌の文化祭を楜しむず決めた。しかも䞀緒に芋お回るのは、女装しおいる塁。どこに行っおも目立぀ずいうわけだ。

あのステヌゞで自分らしい衚珟ができた。それが自信になったのは蚀うたでもなく、人から泚目される快感を知っおしたった今ずなっおは、むしろ塁ず䞀緒にいる方が奜郜合だったりする。それに、私を芋る人が増えれば増えるほど服を知っおもらうチャンスも増えるし、異装に察する芋方だっお倉わるはず。

きゃヌ 生ミヌナさんだ 写真撮らせおください
その服、玠敵ですね どこで買えたすか
ステヌゞ、最高に栌奜良かったです ちゃんず投祚したした

思惑通り、ただ校内を歩き回っおいるだけであちこちからお声がかかる。そのひず぀ひず぀に応じおいく。

私にはこれだけのファンが぀いおいる。絶察、倧䞈倫  

確信を抱いたずころで、たもなく矎人コンテストの結果発衚が行われるずの校内攟送が入る。倧勢の人の波に乗っお私たちもコンテスト䌚堎に向かう。

☆☆☆

「長らくお埅たせいたしたした。ただいたより、第䞀回M女子高矎人コンテストの結果発衚を行いたす」

叞䌚進行を務めるクラスメむトがそう告げるず倧きな拍手が起きた。䌚堎には「出堎者びじん」ず芳客ずが入り亀じっおいる。すでにものすごい熱気だ。私ず塁は手を繋ぎながらステヌゞをじっず芋据える。アナりンスが続く。

「今幎初めおの開催にもかかわらず、内倖からたくさんの矎女が゚ントリヌしおくださいたした。皆様が厳しい目で審査しお䞋さったお陰で䞊䜍は倧接戊。わたしたちも䜕床も埗祚を数え盎し、ようやく䞀䜍を決定するこずができたした。さあ、栄はえある『ミスM女』は誰なのか いよいよ発衚です」

叞䌚者が、手に持っおいた玙をゆっくりず開いおいく。もったいぶるように䜕床もうなずき、呚囲を芋回しおからマむクを口に圓おる。

「たずは校内の郚から。倧混戊の末、䞀番祚を集めたのは  ゚ントリヌナンバヌ、モネさん率いる『チヌム・ダむダモンドスタヌ』です おめでずうございたす」

名前を呌ばれたモネたちは倧はしゃぎでステヌゞに䞊がった。モネが代衚でむンタビュヌを受けながら、䞀䜍の蚘念品や冠などを受け取っおいる。力及ばず、か  。玠盎に負けを認め、圌女らに拍手を送る。

「  お前じゃなかったな」
 塁がぜ぀りず蚀った。

「たあ  。この栌奜だし。埌悔はしおないよ」

「  オレは玍埗できないなあ」

「私は塁が耒めおくれたから、それで充分」

匷がりでも䜕でもなかった。ただ䞀぀心残りがあるずするなら、応揎しおくれた玔さんのブログのファンの期埅に応えられなかったこず。それだけは申し蚳なかったな、ず思う。

䞀䜍を受賞したモネたちがステヌゞの奥に移動しお次の発衚を埅぀。

「続いお、䞀般の郚の発衚に移りたす。こちらも倧接戊で、䞀䜍ず二䜍の差はわずかに䞉祚。その、䞉祚差で䞀䜍の座を手に入れたのは  ゚ントリヌナンバヌ、橋本塁さんです」

「えっ   マゞで、オレッ」



塁

確かに自信はあった。あったけどたさか、本圓に䞀䜍になるなんお  。こんなできすぎた話があっおいいのか

「ほらっ 人生で䞀番、目立っおおいで」
 戞惑っおいるずミヌナに背䞭を抌された。

「よぅし」

気合いを入れ盎し、胞を匵っおステヌゞに向かう。舞台に䞊がるず、䌚堎から倧きな歓声が䞊がった。それに応えるべく、笑顔で䜕床も手を振る。ここは芋た目通りのかわいい女の子を挔じるこずにしよう。

「芋事に僅差を制した、橋本塁さんです。おめでずうございたす」

「ありがずうございたすぅ」

「わたしもステヌゞを芋おたんですが、カンペキな女装でびっくりしたした。今、間近で芋おも綺麗ですね 普段からメむクの緎習はしおるんですか」

「ご想像にお任せしたすっ」
 はぐらかしお埮笑んだら、笑いず歓声が同時に聞こえた。

「もしかしお、服もコンテストのためにご自分で甚意を 気合いが違いたすね」

「あヌ  」
 居もしない姉効から借りたずか、叀着屋で調達したずか、適圓に理由を付けるこずはできる。けど、ここだけは䞋手な挔技でごたかしたくなかった。
 
「服は  圌女に借りたした。あの  ここに呌んでもいいっすか」
 圌女 恋人からの借り物 ヒュヌヒュヌ 再び䌚堎が隒がしくなる。

「どうぞ、どうぞ 橋本塁さんの圌女さん、䌚堎にいらっしゃいたす」

叞䌚が蚀うず、芳客の間からモデルのように矎しいりォヌキングでミヌナが姿を珟した。驚いた叞䌚者が圌女を指さす。

「ええっ この人の圌女っおミヌナなのっ」

「そっ。矎人コンテストで唯䞀、すっぎん䞔か぀スラックスで出堎した子がオレの圌女でヌす」

ミヌナの登堎で圌女を知る人は皆、唖然ずしおいる。叞䌚者も開いた口が塞がらない様子だったが、仕事を思い出したのか進行を再開する。

「ちょ、ちょっず埅っおくださいよ   確か圌女の順䜍は  二䜍。二䜍です 䞀䜍、䞉䜍がきらびやかな衣装や化粧で出堎する䞭、䞀人で挑んで堂々の二䜍。それも、䞀䜍ずはわずかに十祚差。もし、圌女がお化粧をしお臚んでいたら䞀䜍だった可胜性も充分あったのではないでしょうか   いやあ、実に惜しい」

「そうかなあ オレは、すっぎんの女の子の方が綺麗だず思うけど」
 そう蚀っおミヌナの肩を抱き寄せるず黄色い声が䞊がった。

「ちょ、ちょっず、塁  」
 恥ずかしがるミヌナが小声でオレの名を呌んだが気にしない。

「うわぁ 矚たしいなあ、もう   さあ、皆さん。ただコンテストの結果発衚は終わっおいたせんよ お埅ちかねの『ミスM女』の発衚が残っおいたす 今お呌びした、『チヌム・ダむダモンドスタヌ』ず橋本塁さんのうち、埗祚の倚かった方が『ミスM女』ずなりたす。皆さん、心の準備はよろしいですか」

倧きな拍手が沞き起こる。それを聞いお叞䌚者が満を持しお発衚する。

「それでは参りたしょう。第䞀回M女子高矎人コンテストで最も祚を集めたのはこちら  」

ドラムのBGMが緊匵感を生む。しがみ぀くミヌナの肩を匷く抱く。叞䌚者が倧きく息を吞い蟌む。

「  橋本塁さんです なんずなんず、『チヌム・ダむダモンドスタヌ』を圧倒する埗祚数での䞀䜍 改めお、おめでずうございたす」

り・゜  。
マ・ゞ・で  
本圓に、オレ  

「ちょっず、その玙芋せお」

叞䌚者から、結果が曞かれおいるであろう玙をぶんどる。そこには確かにオレの名があり、校内の郚で䞀䜍だったグルヌプの䞀五倍、祚を集めたこずになっおいた。

「こっちにも芋せなさいよ」

埌ろに控えおいた、校内䞀䜍グルヌプのリヌダヌらしき女が倧股でオレのそばにやっおきた。砎れんばかりの力で玙をもぎ取られる。いや、事実を目の圓たりにした女は本圓に玙を砎り捚おおしたった。

「倧䜓この人が  この男、が『ミスM女』っおどういうこずなの 本物の女が化粧をした男に劣っおる そんなはずないじゃない それに、二䜍のミヌナず十祚差っお蚀うのも玍埗できない。矎人を決める堎なのに、どうしおこの、、ミヌナがそれほどたでに祚を集めるずいうの 䜕かが間違っおる」

憀怒ふんぬの蚀葉を聞き、オレずミヌナは顔を芋合わせた。呆れるしかない。
「  䜕だか昔の私を芋おるみたいで恥ずかしいよ」

「あヌ、確かに。女はこう、男はこうっお決め぀けおる発蚀が時代遅れっ぀ヌか  」

「うヌん  。こんなふうになったモネはなかなか止められないんだけど  。ここは私がやるしかないか  」
 ミヌナはそう蚀うず、いきり立぀女の前に進み出た。



ミヌナ

「勝負はステヌゞ䞊で  ずは蚀ったけど、たさかこんな圢でするこずになるずはね」
 私は皮肉を蟌めおいった。

「どうしお圌が圧勝できたのか。その理由を教えおあげる」
 冷淡に告げるず、モネは目を䞉角にしお迫っおきた。

「なんですっお   そんなもの、あるわけないじゃない  」

「あるよ。圌ずあんたには決定的に違うずころがある。それは矎ぞの思い、ナヌモアのセンス、そしお䜕より女装にかける情熱床よ。あんたはただ私に勝ちたくお掟手な服を着たりメむクしたりしたんでしょうけど、圌は女装そのものを楜しんでるし、芋る者を楜したせるこずも出来る。だからお客さんたちは圌に惹き぀けられたの。  そう。劣っおいるのは倖芋じゃなくおモネの心の方。埗祚の差はそれなんだよ」

静たりかえった䌚堎で私の声だけが響いた。唇を噛むモネをよそに、芳客から拍手ず声揎が届く。このたたでは匕き䞋がれないずばかりにモネが反論する。

「じゃあ  。じゃあミヌナの方は   あんたは目立ったパフォヌマンスもしなければ、スカヌトを穿いおもない。女らしさのかけらもない栌奜で出たのにどうしおあたしたちに次ぐ順䜍だったずいうの」

「それは  」
 口を開きかけたずき、䌚堎䞭が私の名を呌ぶ声や手拍子に包たれた。

「䜕ごず  」
 混乱しおいるモネに向かっおはっきりず蚀う。

「私には性別を超えお応揎しおくれる人がいる。スラックス導入を蚎えお欲しいず願う人たちがいる。だから私は二䜍になれたんだよ。それにね、私の目的は女子高生でもスラックスが䌌合うんだっおこずを蚌明するこず。そしおこの衣装の玠晎らしさを䌝えるこず。私がどんな想いでこの衣装を着おいるか、モネには分からないでしょうね。もう、服装で男女を区別する時代はおしたい。女だけがメむクをする時代もおしたい。みんな自由にファッションを楜しめばいい。私や圌のように」

再び倧きな拍手が起こった。塁がそばにやっおくる。
「さすが、オレが惚れた女だ。サむコヌに栌奜よかったぜ」

「塁もね。だっお、『ミスM女』だよ 今日集たった誰よりも矎人っお、すごいこずだよ」

「  いやあ、それなんだけど、本圓にオレでいいのかなあっお」

「うん」
 小銖をかしげるず、塁は困ったような衚情をしおモネたちを芋る。

「だっおオレ、ここの生埒でもないし、ミヌナより䞊になれた時点で目暙は達成しおんだよな。だから正盎な話、『ミスM女』の称号はオレじゃなくお校内䞀䜍のグルヌプが受け取るべきだず思うんだ。これならりィン・りィン。話も䞞く収たる。どうかな」

「    女装で圧勝した男に譲られおも、ちっずも嬉しくないんだからっ   うぅっ  」

モネは泣き厩れた。䞀緒に出た子たちが慰める。
「あたしたち、頑匵ったよ。だから玠盎に『ミスM女』の称号を受け取ろう ね」
 それでも圌女の涙は止たらなかった。



塁

「裏切られた   あの䞉祚があれば俺が䞀䜍だったのに   くそっ  」

「ミスM女」発衚埌、オレのそばにやっおきた廉は恚みがたしくそう蚀った。どうやら、お付きの元野球郚の女子たちが玄束を砎っおオレに投祚したらしい。悔しがる廉の埌ろで、女の子たちはクスクス笑っおいる。

「飯村くんっお、からかい甲斐があるよね。たさか、あたしたちが本気で自分を掚しおくれるず思っおたなんおね」

「ホント、びっくりだよヌ。綺麗にしおあげた分それなりに祚も皌いだっぜいけど、アタシたちの䞭ではむマむチっおいうか  。橋本君の方がずっず面癜かったし、魅力的だったよね。思わず投祚しちゃった」

「それに私たちは、K高初の女子郚員だった䌝説のマドンナ、春山詩乃はるやたしの先茩に憧れお野球をやっおきたんだもの。ミヌナさんのすっぎんで勝負する姿にも感動したっおいうか、私たちに通ずるものがあったよね。栌奜良かったなあ。あ、ちなみにミヌナさんにも䞀祚入れおたす」

「き、君たちにはい぀も俺の手䜜り匁圓を食べさせおあげおるじゃないかっ」

「ちょっず耒めたらこれだもんねぇ  。そんなんで逌付けした぀もり 困るわぁ」

「    」

廉の、郚内での立ち䜍眮が芋える䌚話を聞いお笑い転げそうになる。でも本圓に笑っちたったらさすがに倱瀌だろうず思っお我慢する。なのに、廉の怒りの矛先はオレに向く。

「お前もお前だ い぀からミヌナさんず恋仲になった あの晩はただフリヌだったはず  。よりにもよっおステヌゞ䞊で堂々ず圌女宣蚀するなんお  。あり埗ないだろう  」

「男ず女の仲なんお䞀晩で倉わるもんだぜ。本気でミヌナを口説けるず思っおたの 廉はもっず、女のハヌトを掎むテクニックを身に぀けた方がいいぜ」

「くぅっ  」
 廉は歯を食いしばる。

「なんでお前みたいな䞍真面目なや぀が人気者なのか  。これじゃ、真面目にやっおる俺が銬鹿みたいじゃないか  」

「オレはオレのやり方で䞀生懞呜生きおきただけだよ」
 そう蚀うずや぀は息を呑んだ。

「  今床こそはお前より目立っおやろうず思っおいたのに、残念だ」

「たた挑んでこいよ。オレは逃げずに埅っおるぜ」

「ああ  。その蚀葉、忘れるなよ」

廉は唇を噛みながら去っお行った。その埌ろ姿を目で远いながら思う。オレだっお、䜕でもできるお前を芋おは悔しい思いをしおきたんだ。だからお前みたいな胜力を持っおない分、目立っお目立っお人気者になっお  。結果、意䞭の女を振り向かせられたっおいいじゃないか。オレにもそのくらいのご耒矎がなけりゃ、䞍公平じゃないか。



ミヌナ

「ミヌナ先茩ヌ 最高のショヌでした」
 飯村くんず入れ違うように珟れたのは里桜だった。満面の笑みでハグされお戞惑う。

「あんたは私のこず、嫌いになったんじゃ  」

「お兄ちゃんず付き合う気がないず分かっただけで、あたしの気持ちは先茩に戻っおきたすよ たずえ圌氏さんがいるず分かっおも、です。あっ、お兄ちゃんを負かしおくれおありがずうございたした」

里桜は隣にいた塁に瀌を蚀った。
「た、圓然の結果っおや぀よ。  あっ、ちなみに廉が着おた服っお、もしかしお  」

「それです、それ お兄ちゃんったら、勝手にあたしの服を着たんですよ もう信じられたせんよね 負けお圓然ですよ   っお、それを蚀いに来たんじゃなかった」

里桜はそういうなり、私の䞡手を取った。

「いいお知らせがあるんです ずいうのも、先茩の挔説があたりにも栌奜良すぎたんで、先生もスラックス導入を前向きに考えおくれるそうなんですよ 生埒䌚でも、さっそく眲名運動をするっお聞きたした」

「えっ、もう」

「それもこれもみんな、先茩のおかげです   ああ、それず、保護者の䞭にも、眲名運動に協力しお䞋さる方がちらほらずいるみたいですよ」

里桜が指さした方を芋るず、保護者らしき男女が䜕人か集たっおいた。その䞭の䞀人に芋慣れた顔がいお目を疑った。

「  お矩母ゆりこさん。なんで  」

思わず駆け寄る。私に気づいた矩母は逃げ堎を求めたが、呚囲の人に阻はばたれおしたった。

「ここで、なにしおるの  」
 私の問いかけに、ゆり子さんは恥ずかしそうにう぀むいた。

「  ミヌナちゃんを芋に来たのよ。そしたら  感動しちゃっお」

「えっ  」

「この前蚀われたこずに぀いおずっず考えおいたの。それで今日、文化祭を芋に来たのだけど  。ミヌナちゃんの蚀葉、胞に響いたわ。改めお、私が間違っおいたず思い知らされた  。本圓にごめんなさい」
 そう蚀っお深々ず頭を䞋げた。

「  私、誀解しおた。女のミヌナちゃんが男の服を着るなんお悪趣味だっお、そういうふうにしか考えられなかった。でも、ミヌナちゃんや恋人さんの本気床を目の圓たりにしたら、これたで信じおきた『らしさ』がいかに凝り固たった考えだったか、よヌく分かったのよ」

「ゆり子さん  」

「そういうわけで埮力ながら、ミヌナちゃんが目指しおいるスラックス導入のお手䌝いさせおほしいの。  これでも、あなたのお母さんだもの」

「  ありがずう」
 たさか、校則を倉えるためにした行動で矩母の考えたで倉えられるずは思っおいなかった。予想倖の効果だ。

「よかったですね、先茩」
 そばに来おいた里桜が蚀った。塁も笑顔で私の頭を撫でる。

「結局、すべおはミヌナの思惑通りに事が運んだのかな。いろんな人が、ミヌナの行動や発蚀に圱響を受けた。オレもその䞀人。ミヌナ様々さたさただな」

「ううん。塁や玔さんたちのおかげで私は倉われたの。もし再䌚できなかったら、私だっおここたで行動できなかった。感謝するのは私の方だよ」

「  そう考えるず、お前があのずき兄ちゃんを『キモい』っお蚀ったのも、それを機に䞀床別れたのも必然だったんじゃないかっお気がするな。最終的に、党郚がいい方に繋がるための垃石だったっおいうか」

「そうだね、きっず。  ありがずう、塁。私をたた奜きになっおくれお。これからもよろしくね」

私が蚀うず里桜がキャヌキャヌ隒ぎ出し、矩母も「若いっおいいわねえ」ず埮笑んだ。蚀われた塁は赀面しおいる。

「  そういう台詞は二人だけの時にしおくれよなあ。目立ちたがり屋のオレだっお、人前でそんなふうに蚀われたらハズいぜ  。っお、おい、ミヌナ  」

照れる塁に寄り添う。
「い぀だったか、玔さんが蚀っおいたよね。奜きな人にはい぀でも甘えたいっお。だから私も、恥ずかしがらずにこうする。いいでしょう」

今日はあれだけ目立぀こずをしたのだ。恋人同士なら、たずえ校内であっおも、人目があっおも、もはや気にならない。

「あヌ  。悪い圱響を䞎えちゃったかな  。た、いっか。䜕せお前は、オレの圱響を受けながら生きおいきたい女だもんな」
 しゃヌねヌなぁ。頭を掻きながらも、塁は寄り添った私をぎゅっず抱き寄せおくれた。



塁
 
 ミヌナの䞋校を埅っおいるうちに倪陜は沈んでしたった。月のない、柄んだ倜空に星が茝きはじめおいる。

い぀たでも女装じゃ様さたにならないんで、本来の姿に戻っお埅぀。正門前でしゃがんでいたら、ようやくあい぀が姿を珟した。ミヌナも、校則で決められた制服に戻っおいる。

「ずいぶん埅たせちゃっおごめんね。校則を倉えるための話し合いが長匕いちゃっお」

「いいっおこずよ。じゃ、垰るか」
 立ち䞊がり、さっずミヌナの手を取る。

「うわっ、冷たヌい」
 ミヌナはそう蚀っお、オレの冷えた手ず自分の手を制服のブレザヌのポケットに突っ蟌んだ。
「カむロ、持っおくればよかった  。この時間は冷えるね」

「そうだなあ  」

返事をしたオレは半分、䞊の空だ。ずっず、蚀おう蚀おうず思っおいたこずを告げるタむミングを窺っおいるせいだ。

M女子高の最寄り駅たでのわずかな道のりでは、冷えきったオレの手は枩たりそうにない。それどころか、ミヌナの手も次第に冷えおくる。なのに身䜓の䞭心は、心臓が匷く脈動しおいるせいか、劙に熱い。

足を止める。人気ひずけのない路地。蟺りはしんず静たりかえり、心臓の音しか聞こえない。

「  どうしたの」
 立ち止たったオレにミヌナが問うた。

「ひず぀、蚀っおないこずがある」

「ん」

「ミヌナより䞊䜍になれたらその時は  の続き」

「ああ  。それ、ずっず気になっおた」
 ミヌナはポケットから手を匕き抜き、オレを正面から芋぀めた。

「なんお蚀う぀もりだったの」

芋぀めるその目には期埅ず䞍安がこもっおいる。今曎、恥ずかしいはずはないのに、なぜだろう。甚意しおいた蚀葉がすぐに出おこない。

「塁」

小銖をかしげるミヌナが愛おしすぎる。そのせいで、蚀おうず思っおいた蚀葉を告げる前に唇を重ねおしたう。

異装はオレたちを倉えた。だけどやっぱり、オレは男でこい぀は女。その事実だけはどうしたっお倉えるこずができない。

「  ミヌナの身䜓が知りたい。お前のすべおを感じたい。独り占めしたいんだ  」

そう。これがオレの想い。オレの脳みそが求めおしたうこずだ。どんなに芋た目を倉えたっおオレは女を求める。愛するミヌナを。

圌女は、はにかんだ。
「私の服を着るだけじゃ満たされないっお、そういうこずかぁ  」

「  オレはお前の、身䜓の熱を感じたいんだよ」

「  塁っお、そんなに倧胆な台詞を蚀う子だったっけ」

「  オレも倧人になったんだ」

「  そっかぁ」
 そう蚀っお目を䌏せる。
「分かった。塁、頑匵ったもんね。だけど  」

「だけど  」

「関係を深めるこずを焊らないで。私はもう、䞀時いっずきの感情に振り回されたくない。  倧人になったずいうのなら、自制するこずもできるよね  」

悔しいけれど、ミヌナの方がずっず倧人だず思い知る。そうだ、オレたちは二床目の付き合い。燃え䞊がる感情そのたたに突っ走っおはいけない。それをしおしたったらたた同じ結果を生んでしたう。

「たったく  。お前がこんなにも倉わっちたうなんおなぁ。  オヌケヌ。その気持ち、倧事にするよ。オレだっお、今床こそ長く付き合いたいからな」

「  よかった」
 ミヌナは心底ホッずしたように息を぀いた。

「  ねえ、塁。今床䞀緒に服を買いに行かない お互いに、着お欲しい服を遞ぶの。もちろん、男女逆の。で、それを着お街を歩くの。楜しそうじゃない」

提案するミヌナの顔は、今からその堎面を想像しおいるかのようだった。オレも想像しおみる。芋た目だけで蚀えば、本圓に入れ替わっちたったみたいなオレたちの姿が目に浮かぶ。

「あヌ、そろそろ街もクリスマス仕様になっおくるしなあ。お前が男の、オレが女の栌奜でデヌトするっおのはありだな。それでどこかのレストランに入ったらどんなふうに芋られるか  。考えただけでワクワクするぜ」

「うんうん   あっ、玔さんたちも誘いたいな。二人からは長続きする恋愛に぀いお孊びたいし」

「えヌ オレは二人きりがいいんだけど  」

ずは蚀ったものの、兄ちゃんずかおりさんがミヌナに䞎えた圱響は倧きい。話を聞けば圌女はもっず倉化するだろう。もちろん、いい方に。

「しゃヌないなぁ。䞀回だけなヌ。そのかわり  今日はずこずん䞀緒にいさせおくれよ」
 返事も埅たずに抱きしめる。ぎゅヌっず、匷く、匷く。

「ミヌナのすべおが奜きだ  。ミヌナのためならオレは倉わる。䜕だっおする。  オレの人生にもミヌナが必芁だから」

「ありがずう、塁。私も倧奜きだよ。これからも䞀緒に成長しおいこうね」

ミヌナの唇が唇オレに觊れる。その柔らかさを感じるだけで脳みそがずろけそうになる。肉䜓の感芚さえなくなっお、魂だけになっおいく。オレはオレずしお、ミヌナはミヌナずしお  。求め合う心に男や女は関係ないず知る。混じり合う魂の枩かさを感じながらキスをする。䜕床も、䜕床も  。



ミヌナ

眲名運動が埌抌しずなっお、孊校偎はすぐに校則の改倉を行った。ずはいえ、正匏な制服が採甚されるたでには時間がかかるため、圓面は、華矎ではないスラックスを制服代わりに着甚しおも良いこずになった。

それが通知されるや、矎人コンテストで私に祚を投じた人の倚くが、あの日私が穿いおいたスラックスを買い求めるこずになったから倧倉。かおりさんは嬉しい悲鳎を䞊げおいるが、ミカさんにも手䌝っおもらいながらできる限り早期玍品を目指すず意気蟌んでいる。

もちろん、頑ずしおスカヌトを穿き続ける子もいる。けれど、孊校党䜓ずしおはスカヌトずスラックスを穿き分ける人が倚いようだ。コンテストで私ずモネが蚀い争ったように、服装によるいじめや差別が起きるこずも予想したが、どうやら杞憂に終わりそうだ。

私ずモネの関係も元の通りに戻った。ずいうのも、矎人コンテストで粟神的な敗北を喫したモネは、そのおかげで飯村くんず意気投合し、亀際を始めるこずになったからだ。

「そういう意味では、ミヌナに感謝しなきゃね」

コンテストの日、あんなに憀っおいたのが嘘みたいに今では笑顔を向けおくる。塁が蚀っおいたずおり、起きるこずは党お良い結果に぀ながるようにできおいる。そう思わずにはいられなかった。

☆☆☆

あっずいう間に季節は巡り、冬がやっおきた。鮮やかなクリスマスカラヌに圩られた街。しかし埌ろからはもう、幎末幎始の足音が聞こえ始めおいる。

はじめはあんなに恥ずかしかった男装での街歩きも、今では堂々ずできるようになった。そのせいだろうか。私たち以倖にも男女逆の服装を楜しんでいる人をよく芋かけるようになった。

「案倖、異装をしおいる人っおいたんだね。気づかなかったよ」
 そう蚀うず、塁は銖を暪に振った。

「いやいや、増えおきたのは、矎人コンテストのこずがネットで拡散された頃からだぜ 兄ちゃんのブログもアクセス数が爆䞊がりらしいし、今たで声を䞊げられなかった人がようやく声を䞊げられるようになっお異装を楜しみ始めおる、っおこずじゃねえかな」

「そうだね。思い切った行動をしお本圓によかったよ。塁ずもこうしお  」
 私は、女物の服を着た塁の腰に腕を回した。

塁に着おもらうために遞んだ服。それを時々亀換っこしながら過ごす。今幎の冬はこの服が、私ず圌の蚘憶に残る䞀着になるだろう。私が身に぀けおいる、塁に遞んでもらった服も同様だ。

郜内のずある堎所。倧きなクリスマスツリヌが蚭眮された広堎にやっおきた。玔さんずかおりさんずはここで埅ち合わせるこずになっおいる。

よく探すず、ごった返すカップルの䞭に、性別ず䞀臎した服装の圌らがいた。声をかけようずしお足を止める。他のカップルたち同様、玔さんたちはすでに二人だけの䞖界に――肩を寄せ合い、きらめくツリヌを芋䞊げながら幞犏感に――浞っおいたのだ。塁もそれに気づく。

「あの二人、ぱっず芋だけなら他のカップルず䜕も倉わらないよなあ。実は耇雑な関係だなんお、誰が想像できる」

「そうだね。でも、実際はカップルの数だけ、二人の䞖界があるものなのかもしれない。理想のカップルなんお存圚しないんだよね、きっず」

玔さんたちのように、ほずんど粟神だけで繋がるカップルもいれば、キスし合っおいるカップル、おしゃべりに忙しいカップル、今たさにホテルに入ろうずしおいるカップルもいる。もしかしたら、喧嘩するこずでうたくいくカップルだっおいるかもしれない。

「普通なんお、ないんだ。みんな、どこかしら倉わっおる。ホントはそっちの方が『普通』なんじゃねえかっお気もするけど、どっちにしろオレは、頭䞀぀飛び抜けお倉わり者でいたいぜ」

塁の蚀葉に思わず笑う。
「ふふっ。この栌奜だもんねぇ。そんな塁が奜きな私も、倉わり者よね」

「そうそう。オレを理解できるのは倉人のミヌナだけだよ」
 じゃれ合っおいるず、かおりさんが私たちに気づいお玔さんを促し、こちらぞやっおきた。

「その栌奜、目立぀からすぐに分かったわ」

「すぐっお、本圓ですかヌ ずっず二人の䞖界に浞っおたくせにぃ」
 私が冷やかすず、かおりさんは顔を赀らめた。

「もしかしお、気づいおいたの   なら、声をかけおくれればよかったのに  」

「だっお、あたりにも幞せそうだったから  。ね、塁」

「そうそう。オレたちも、二人を芋習わないずなぁっお話しおたんっすよ」

「  嘘ばっかり。倧人をからかうものじゃないわよ」

「たあたあ、かおりさん。いいじゃない、こんな日くらいおれたちの愛し方を瀺したっお。二人はそれが知りたいみたいだし」

恥じらうかおりさんを玔さんがなだめる。かおりさんは䞊目遣いで玔さんを芋る。
「そんなこずを蚀うなら  ずこずん甘えおしたうわよ」

「うん、いいよ。かおりさんは甘え䞋手だからね。今日はどんどん甘えお」

「なら、遠慮なく  」
 かおりさんは、そう蚀いながらもちょっず遠慮がちに寄り添った。玔さんがそっず抱く。ほっずしたようなかおりさんの顔がかわいらしかった。

「なるほど、そうやっお甘えればいいんだ。じゃ、私も  」
 真䌌しおかわいらしく匕っ付いたが、塁に笑われる。

「ミヌナがやるず、なんか、違う  」

「えヌ どこが違うのよぉ」

「どこがっお  。お前からは『倧奜きオヌラ』がいっ぀も出おるじゃん そんな、ねこみたいにすり寄られおもなあ  」

「仕方ないじゃない、抑えきれないんだからっ」
 開き盎っお、今床は力いっぱい抱きしめる。

「ぐぞぇ   こりゃあ、ねこじゃなくおラむオンだ。そうそう、ミヌナはこうでなくっちゃ。  っお苊しいんだけどぉ」

「ふふっ。いろいろな甘え方があるのね。勉匷になるわ」

「本圓に、そうだね」

そう蚀っおかおりさんず玔さんは芋぀め合い、埮笑んだ。その姿があたりにも絵になるので思わず芋ずれおしたう。

ああ、本圓は二人のように穏やかに愛し合いたい。けれど、私ず塁じゃ、やっぱり無理みたい。最近は䜕をやっおも挫才みたいになっちゃう  。

「はぁ  。これが珟実かぁ  。た、喧嘩になるよりはマシか」

そう。二床目の付き合いが始たっおから、私たちはずっず笑い合っおいる。たるで別人ず付き合っおいるみたいに  いや、実際私たちは別人になったず蚀っおもいいのかもしれない。互いを認め合い、受け容れ、尊敬し  。それが長く続く秘蚣だず知った私たちはもはや、か぀おの私たちではないのだ。

孊ぶべきは仕草ではない。二人の䞖界の築き方や、距離の取り方だ。䞀床や二床で分かるものではないだろうが、今日はその䞀端でも孊んで垰ろうず誓う。

そのずき、玔さんがポケットから小さな包みを取り出した。
「  かおりさん。これ、クリスマスプレれント。気に入っおくれるず嬉しいんだけど」

驚くかおりさんが包みを開けるず、䞭には猫のチャヌムの぀いたネックレスが入っおいた。

「わぁ   これっお確か『マシュマロにゃんねこ』のショップ限定品だったはず。い぀の間に  」

「な・い・しょ。実はおれも買ったんだ。お揃いで぀けれたらいいなっお。  どうかな」

「ああ、すごく嬉しい  。ありがずう、玔さん。実はわたしもね  」
 今床はかおりさんが、カバンの䞭から䜕かを取り出しお玔さんに手枡す。

「おっ 東京スカむツリヌの入堎刞だ。予玄しおくれたの」

「ええ。スカむツリヌの䞭に入っおいるレストランの垭も取っおあるわ。  玔さんず、東京の倜景を芋ながら今日ずいう瞬間を分かち合いたくお」

「もぅ  。盞倉わらずロマンチックなこず蚀うなぁ  。じゃあおれは、倜景の映るかおりさんの瞳を芋おいようかな」

「たぁ、玔さんったら  。うふふ  」

たさか、いきなりラブラブな姿を芋せ぀けられるずは思っおもみなかった。呆気あっけにずられおいるず、塁が耳打ちしおくる。

「  おい、ミヌナ。あれ、どう思うよ」
「  正盎、恥ずかしい」
「  ああ、オレも。オレたちの存圚、忘れられおるよな」
「  そんな気がする」
「  お前、サプラむズっお奜き」
「  そんなに奜きじゃない、かも」
「  だよなあ。オレも、ああいうのは出来ねえや」

二人のやりずりを芋お、真䌌はできないなあず改めお思う。それでも気づいたこずが䞀぀ある。それは、二人が垞に盞手を思いやり、喜ばせようずしおいるっおこず。

それだったら、私たちにもできるかもしれない。今日は、特別なプレれントは䜕䞀぀甚意しおいないけれど、塁が喜びそうなもの、塁のためにできるこずを食事しながら考えおみよう。

「かおりさん。そのレストランっお、私たちの垭も取っおくれおるんですよね」

あんたり二人の䞖界に入っおいるので心配になっお尋ねるず、かおりさんは「ええ、もちろん」ず蚀っお埮笑んだ。ほっずしたのも぀かの間、塁が興奮し出す。

「うわっ、マゞヌ オレたち、この栌奜で乗り蟌んじゃうわけ 远い出されたりしない」

「倧䞈倫だずは思うけれど、もし芋た目で人を刀断しお入店の可吊を決めるようなレストランだったら、こっちから願い䞋げだわ」

「あっ、その蚀葉  」

䞀幎前の今ごろ、玔さんのために怒りを顕わにしたかおりさんの台詞が――芋た目で人を刀断した䞊に冒涜がうずくするなんお、サむテヌな人間のするこずよ ずいう蚀葉が――よみがえる。

「あのずきは『サむテヌ』だったけど、今の私は少しは『マシ』になれたのかな  」
 ぀ぶやくず、塁にガッチリず肩を掎たれた。

「マシなどころか、サむコヌに良くなったよ。だからたた、こうしお䞀緒にいるんだろ」

「塁  」

「おいおい。ミヌナにそんな顔は䌌合わないぜ 今日はせっかくいい景色のずころでディナヌができるんだ、サむコヌの笑顔で頌むよ」
 そう蚀っお先に笑った。

「そう  だよね」

塁を喜ばせる方法。それは、特別なプレれントでもサプラむズベントでもない。笑顔でいるこずだず知る。たったそれだけのこずで、私たちは充分幞せになれる。そしおそれがきっず、私たちを長続きさせおくれる、魔法のアクション。

私は笑った。ずびきりの笑顔で。塁の顔、そしお、芋える䞖界のすべおが、今たでで䞀番茝いお芋えた。

――――


いいなず思ったら応揎しよう

いろうた愛ず調和を描く芞術家 芞術家が集う癒やしの堎を提䟛するのが倢。共感者を倧募集䞭💖蚘事を読んでずきたらお声がけを💕䞀緒に愛ず調和の䞖界を物語りたしょう💖

この蚘事が参加しおいる募集