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【䞀氣読み】小説「LOVERS」倖䌝

いろうたの小説「LOVERS」倖䌝・党六話いろうた自身の犏岡旅を元にした物語を、倚くの人に読んで頂けるよう敎え、改めおお届けいたしたす 犏岡の魅力も堪胜できる、芞術家たちの “愛の物語” です。


こんなお話
ラむブペむント画家のさくらず、即興ピアニストのリオンは、東京での掻動に区切りを぀けお新たなアトリ゚探しの旅に出た。蚪れたのは博倚。この街は、東京にはない芞術性に溢れおいる  。そう感じた二人は、“ここに「アトリ゚ONEワン」を䜜ろう” ず決めお動き始める。

読了時間は玄10分です



第話アトリ゚探し


さくら

 時代のうねりは確実に私たちの暮らしを倉化させおいる。

 私たちの絵ず音楜をもっず倚くの人に䌝えたい――。

 その思いでナニット「サクラむロ」を組み、二人で歩んできたけれど、東京圏での掻動には限界を感じ始めおいる。なぜならここでは、私たちの思いがたっすぐ届かないからだ。もちろん、䞀郚の人にはちゃんず届いおいる。しかし、私たちの理想ずはだいぶかけ離れおしたっおいるのが珟状だ。

「私、ワラむバみたいな堎所を自分でも創っおみたい。私たちに共鳎しおくれる人が氣軜に集い、共鳎できる “第二のアトリ゚” のような堎所を」
 私の悩みを聞いたリオンくんは、たるでピアノを奏でるかのように語る。

「ならいっそ、二人でその堎所を探す旅に出るっおのはどう」

 こうしお私たちの理想郷探しが始たった。


◇◇◇


 最初に蚪れたのは、犏岡県の博倚。

 なぜ䞀番目がここなのか。それは、リオンくん曰く、ここには特別な力が集たっおいるのを感じるから、らしい。

 半信半疑で蚪れた私だったが、街に降り立っおみおその意味がすぐに分かった。街の空氣が東京ずは明らかに違うのだ。

 倧きな街でありながら、東京のようにギスギスしおいない。空は明るく柄んでいお、歩道も広く歩きやすい。そしおなにより、街党䜓が芞術で溢れかえっおいる。誰もがい぀でも芞術にふれあえる環境が敎っおいるのだ。

ここなら、共鳎しおくれる人が芋぀かるかも  。
 そんな期埅に胞が膚らむ。

 倧郜䌚にもかかわらず、心を静かに保おる堎所が身近にあるのも魅力の䞀぀だ。人々は自然ずそこに足を向け、日々の疲れを癒やしおいる。そこで私たちが即興ラむブをすれば、たちたち「癒やしのアトリ゚」が出来䞊がるに違いない。





 犏岡垂内の矎術通や博物通では魅力的な䜜品を日々展瀺しおいる。いずれも博倚駅から電車で数十分圏内。芳光で蚪れた私たちでも䞀日で巡るこずができた。この、アクセスのしやすさは重芁だ。

 犏岡垂矎術通を出お倧濠公園に向かう途䞭、唐突に閃く。

「そうか   東京の人たちに私たちの想いが届かないのは、芞術に觊れる䜙裕すらない環境だからなんだわ」

 蚀わずもがな、東京にも様々な矎術通や博物通はある。けれどもそれらは生掻圏から少し切り離された堎所にある。だからだろう、東京の人たちは、歩いおいおも垞に䞋を向き、空を芋䞊げる䜙裕すらない。けれどもこの街の人たちは違う。空を芋䞊げる䜙裕もあるし、前を向いお歩いおもいる。少なくずも私の目にはそう映る。

 決意が、固たる。

「リオンくん、私、この街で詊しおみたい。私たちの想いが届くかどうかを  」
 圌の目を芋぀めながら熱心に語った。圌も私の目をのぞき蟌んで答える。

「よし。それじゃあここに創ろう。サクラむロの最初の『アトリ゚ONEワン』を」

「ワン  」

「そう。ここに芞術家をはじめずする共鳎者を集めお、䞀぀に統合するんだ。そうすればここにものすごい力が集䞭する。この゚ネルギヌは必ず、呚囲にも圱響を䞎える。おれたちのアトリ゚から、それこそ䞖界䞭に芞術の波が広がっお、最埌には䞋を向いお生きおる人をも虜にできるんだ。  そんなこず、できっこないっお思う」

「いいえ。ずおも面癜そう」

「だろう」

「だけど、拠点がそう簡単に芋぀かるかな」

「倧䞈倫。おれたちなら䜕でもできるさ」
 リオンくんがそう蚀うず、本圓に䜕でもできる氣がしおくるから䞍思議だ。

「うん。そうだね。私たちならきっずできるよね」

 私たちの新しい詊みが今、ここから始たろうずしおいる――。




第話光の旋埋が巡る街


リオン

 おれもさくらも、犏岡の地を蚪れるのは初めおだった。けれど、ちょっず街を歩いおみれば、おれたちは導かれおやっおきたのだず思うような環境が既に敎っおいお驚く。

 街䞭にあるストリヌトピアノは、ひっきりなしに誰かが挔奏する。それによっお芳光客や買い物客は必然的に生のピアノ挔奏を耳にするこずになる。

 ただそれだけのこず、ず軜んじおはいけない。ピアノの生挔奏は、挔奏者ず聎衆の心を匷くシンクロさせる効果を持぀。぀たり、おれのようなプロのピアニストが挔奏するこずで、聎いた人をたちたち癒やすこずができるず蚀うわけだ。

おれずさくらがこの街に入り、即興挔奏ずラむブペむントが日垞的に行われる環境を䜜る。それを芋たほかのアヌティストが参画し、芞術家の茪が広がる。そしお街の人々が元氣になる  。そんな埪環を生み出すこずができれば  。

 その瞬間に、『アトリ゚ONEワン』の構想が降りおくる。たるで䜕者かがおれの身䜓を通しお倧いなる蚈画を掚し進めようずしおいるかのようだ。

 そんなおれの暪で、さくらもやる氣を出しおいる。
「この柄んだ空をキャンバスに思い切り描きたい。リオンくんのピアノ挔奏も、この空の䞋で響かせたいよね」

「良いじゃん。やろうよ そしたらおれ、公園の真ん䞭で電子鍵盀キヌボヌドを匟くよ。電源 どうずにでもなるっお。さくらは隣でむヌれル立おお絵を描けばいい。そしたらそこがもう、おれたちのアトリ゚兌ラむブ䌚堎さ」

「玠敵ね。さっきは拠点が必芁だず蚀ったけど、それならどこでも拠点にできるね」

「そうさ。おれたちのいる堎所こそが『アトリ゚ONEワン』なんだ」




第話街の神様に導かれお


さくら

 私たちが翌日に蚪れたのは銙怎宮かしいぐう。博倚駅から電車で分ほどの堎所にある、歎史ある神瀟だ。

 ご祭神は仲哀ちゅうあい倩皇ず神功じんぐう皇后。囜家安寧や䞖界平和、子授け、芞胜䞊達などの埡利益がある。たた、幎に建立された本殿は銙怎造かしいづくりず呌ばれ、日本唯䞀の建築様匏だずいう。

 石造りの鳥居をくぐるずアヌチ状の石橋がある。それを越えお境内に向かうず、瞬時に空氣が入れ替わり、静けさに包たれる。神の氣配をひしひしず感じる。

「あぁ  。この、颚が枡る音、ホントに心地良いなぁ。おれ、こういう堎所奜き」

 リオンくんはうっずりしながら颚に耳をすたせた。するず、石段を䞊がったあたりから倪錓の音が聞こえ始めた。祈祷のための倪錓だろうか。

「おっ、倪錓か。このリズムも奜き」

 蚀うが早いか、リオンくんは石段を駆け䞊がり、音のする方に行っおしたった。私はその埌ろからゆっくり぀いお行き、本殿に参拝する。

 本殿や瀟務所は朚陰になっおいおひんやりしおいた。正月は過ぎおいたからそこたで人は倚くなく、おみくじやお守りも比范的ゆずりを持っお受け取るこずができた。

 リオンくんの姿を探すず、圌はい぀の間にか階段䞋におり、ご神朚ず察面しおいた。合流し、私も圌ず同じくご神朚を芋䞊げる。

「倧きいね。暹霢䜕幎だろう」

「さぁ  。でも、ずっずこの堎所にいお、人々を芋守っおきたんだろうね。その息づかいを感じるよ。  あっちの朚は囲いがない。行っおみよう」

 ご神朚の綟杉は近寄れないよう柵がしおあったが、すぐ近くの朚にはそれが無く、盎じかに觊れるこずができた。

 朚は、雷に打たれたのか、はたたた病氣にかかったこずがあるのか、幹が空掞になっおいた。それでもそこに根を匵り、しっかりず立っおいた。

 二人でその朚に觊れ、息吹を感じる。

「こんな姿になっおしたっおも、ちゃんず息をしおいる。生を党うしようずしおいるんだね」

「うん。おれにはこの朚の錓動が聞こえる。力匷いよ」

「私も感じる。  ちょっずだけ、時間をくれる スケッチしたいの」

 せっかくだからず、旅の思い出にこの朚をスケッチしようず決める。ほんの、十分ほど。私は朚から離れた堎所に腰を䞋ろしお描画した。それをのぞき蟌んだリオンくんは嬉しそうだ。

「うん、朚の生呜力が乗り移っおるような絵だ。さっすが、さくら」

「ありがずう」

 そこから䞀通り境内を芋お回った私たちは、満足感を胞に抱き、最寄り駅に足を向けた。

 のどかな駅の日だたりは暖かく、無蚀でいおも苊にならなかった。はじめ、埅っおいるのは私たちだけだったが、少し経っお䞀人の女性がやっおきお私たちの暪に立った。

「  もしかしおあなた、さっき銙怎宮でスケッチをしおいた方」
 声を掛けられた私はびっくりしお、思わずリュックの肩玐を握った。

「はい、そうですが  」

「倱瀌ず思いながらも、描いおいる絵を埌ろから芋せおもらったんだけど、迷いのない運筆には思わず唞っおしたったわ。  あ、ごめんなさい。実は私も絵描きで。垂内にアトリ゚を持っおるの」

「あぁ、そうなんですか  」
 䞀䜓䜕者だろうかず譊戒したが、同業者ず聞いお急に肩の力が抜ける。それが分かったのか、女性も笑みを浮かべ、話を続ける。

「博倚には、旅行で」

「芳光も兌ねおいたすが、䞀番の目的は  」

「おれたちのアトリ゚を探すこず」

「アトリ゚探しをここで  」
 暪からリオンくんが口を挟むず、女性は少し怪蚝な顔をした。

「  あなたたち、どこから来たの」

「おれたち、東京から。あ、ちなみにおれは、画家じゃなくおピアニストだけどね。おれたち、即興で挔奏ず絵を描くナニットを組んでんだ」

「たあ  」
 女性は、今床は目を䞞くした。

「どうしお東京でやらないの 東京の方がずっず人が集たるし、長くそこで掻動しおきたなら、愛着もあるんじゃない なぜ、博倚なの」

「東京ずいう地は慣れ芪しんだ堎所ですが、心の居堎所じゃないんです」

「そう  」
 私の口から思いを語るず、女性は静かに頷いた。

「東京も魅力的な堎所だず思うけど、あなたたちの心が満たされないのなら、そこで掻動しおいおもきっず苊しいだけでしょうね。分かるわ。あたしも䞀床、東京で名を䞊げようず䞊京したけど、結局ここの空氣が恋しくなっお戻っおきちゃった人間だから。  ごめんね、詊すようなこずを蚀っお。あなたたちがどこたで本氣か知りたかったから、぀い。  ねぇ、さっき描いおいた絵、芋せおくれない」

「あ、はい  」
 蚀われるがたたにスケッチブックを開いおみせる。女性は「やっぱりうたいわ」ず蚀っお䜕床も頷いた。

「あなたたちのこず、氣に入ったわ。良かったら、あたしのアトリ゚に遊びに来ない」

「え、良いんですか」

「もちろん。あたし、こう芋えお、自分の氣に入った人にはすぐ声を掛けおアトリ゚に招埅する質たちなの。仲間も玹介しおあげる。きっずすぐに仲良くなれるず思うわ」





 女性の名前は広田矎絵ひろたみえさん。代で、アトリ゚兌自宅に䞀人で䜏んでいるずいう。アトリ゚は、博倚駅から埒歩分ほどのずころ、櫛田くしだ神瀟のすぐ近くにあった。

「この神瀟は、博倚の総鎮守なのよ。近くだからあたし、毎日お参りしおるんだ。そのお陰か、今日もこうしお良い出䌚いに恵たれちゃった。埌でお瀌参りに行かないずね」

 矎絵さんはそう蚀いながらも既に手を合わせおいた。アトリ゚の鍵が開けられる。

「どうぞ」

 金のドアノブに空色の扉ず蚀うだけでもアトリ゚感があるが、䞭に入るず䞀局それを感じた。壁䞀面、いや、床にすらも絵が描かれ、どこに目を遣っお良いか分からない空間。にもかかわらずなぜかホッずする空氣感は、喫茶「ワラむバ」に通ずるものがあった。

「おっ、ピアノが眮いおあるじゃん 匟いおも良い」
 リオンくんがめざずく芋぀けた。

「もちろん、いいわよ。ここに来るピアニストは必ず匟いおいくわ」

 蚱可を埗るなり早速ピアノの蓋を開け、鍵盀の前に腰掛けたリオンくんは、お氣に入りの曲を曲ほど、氣持ちよさそうに挔奏した。するず、開け攟たれたドアから次々、垞連ずおがしき人が数名入っおきお、ピアノを囲み始めた。その䞭の䞀人が、矎絵さんに声を掛ける。

「なになに、矎絵ちゃん。たた新顔 人を掎たえるのが本圓に䞊手なんだから。それも、そんじょそこらの芞術家じゃなくお、ガチな人ね。  お兄ちゃん、プロのピアニストっしょ 自分はピアノを匟かないけど、い぀もここに出入りしおるから分かるよ」

「おれたち、『サクラむロ』っおナニット組んでんだ。即興挔奏ずラむブペむントっおいう、異色の衚珟方法でやっおる。で、今はおれたちの第二のアトリ゚探しをしおる最䞭」

「ぞぇ 面癜いじゃん。博倚でアトリ゚探しなんお、お兄ちゃん、いいセンスしおるよ」
 リオンくんず察話した癜髪の男性は、圌の説明を聞いお喜んだかず思うず、急にかしこたっおいう。

「実はわたくし、䞍動産業を営んでおりたしお  。アトリ゚に盞応しい物件ならすぐにご提案できるのですが  」

「    」
 私ずリオンくんは顔を芋合わせた。

「  どうする」

「話、聞いおみようか」

「そう来なくっちゃ」
 私の返事を聞いたリオンくんは嬉しそうに埮笑み、私の手を握り返した。




第話倕日の差すアトリ゚ ― 魂の誓い ―


リオン

 矎絵さんのアトリ゚で出逢った、䞍動産業を営む癜髪の男性の名は、䞉井順䞀郎み぀いじゅんいちろう。アトリ゚に出入りしおいるず蚀うだけあっお、芞術家を䞭心に物件玹介をしおいるのだずいう。

「矎絵ちゃんの絵ももちろん玠敵なんだけど、あそこに出入りする芞術家ず話しおるず、こっちの心がどんどん掗われおいく氣がしおさ。やみ぀きになるんだよね」

 䞉井さんは瀟甚車でおれたちを案内しながら蚀う。

「でも、芞術家っお職業は、䜕かず肩身が狭いだろう 今の時代には本圓に必芁な人たちなのに、䌁業勀めじゃないずか、遊んでるふうに芋えるずかっお理由で、䞋に芋られちゃうのはもったいないなあっお」

「だから、アヌティスト向けに物件を」

「そういうこず。ほら、着いたよ。ここが䞀぀目の物件」

 最初に案内されたのは、矎絵さんのアトリ゚から車で分ほど走ったずころにある、叀民家颚の物件だった。

「このあたりは寺院が倚いから静か。だけど、通りに面しおいるから䜿い方次第では、矎絵ちゃんのアトリ゚みたいに人を呌び蟌むこずもできるだろう。たぁ、倧人数は無理だけど」

 内芋させおもらうず、倖の喧噪が嘘のように消えた。䜙蚈な音が聞こえないずいうのは、ピアニストにずっおは重芁なポむントだ。窓は少なく、倖からの明かりはあたり採れない間取りだが、居心地はいい。二階もあるずいうので䞊がっおみるず、そこは倧広間になっおいた。倧人数は呌べないず蚀っおいたが、二階になら集たるこずができそうだ。

「さくらは、どう この物件は」
 おれの䞀存では決められない。むしろ、さくらが氣に入るかどうかの方が重芁なので、圌女の意芋を䌺う。

「悪くはないず思う。でも、ちょっず暗いかな。絵描きずしおは、自然光が入るアトリ゚の方が  」

「うん、分かった。それじゃ、ここは無しだな」

「圌氏くんは決断が早いなぁ。頌もしいね」
 䞉井さんはニダニダしお蚀った。

「圌氏じゃねえし  」
 揶揄われるのは慣れおるが、誀解されるのだけは嫌なので、ここはきちんず関係を明らかにする。
「おれたちは芞術で繋がっおんだ。それこそ、性別を超えた関係なんだよ  」

「オヌケヌ。恋人じゃないっおこずだろう 疑っお悪かったよ」

 䞉井さんは耳を塞ぐような仕草をしお、おれの力説を拒んだ。こういう話をするずき、たいおいの人はこうする。面倒くさい話が始たったぞ、っお感じで。

 でもおれたちは、こういう人にこそ自分たちの芞術を響かせたいず思っおる。圌らの耳を開かせ、目を向けさせたい。そしお心の底から癒やしおやりたいんだ。





 次に案内されたのは、博倚駅そばビルの䞀宀。

「ここは良いぞ 䜕しろ、ガラス匵りの窓からは駅の賑やかさや街䞊みが芋枡せる。日圓たり良奜、アクセスも抜矀に良い。匷いお蚀うなら、賃料が高いくらいかな。でも、兄ちゃんたちほどの腕前ならそれもカバヌできるず思うよ」

 確かにここは、さくらが懞念しおいた採光の条件をクリアしおいる。駅に隣接しおいるから、人を集めるずいう点においおもうっお぀けの堎所。宀内の防音蚭備を匷化すれば、隣接する䌁業に迷惑を掛けるこずなく挔奏するこずもできそうだ。

 しかし、さくらは銖を瞊に振らなかった。

おれずさくら。芋おいる䞖界は同じようでいお、感じ方は党然違う。おれは条件に泚目しおたけど、さくらは  。さくらはやっぱり『二人の思い』を倧事にしおるんだな。

「分かっおるよ、さくらが誰ず、どんな環境で絵を描きたいか。そんな理想の堎所が芋぀かるたで、頑匵っお探そう」

「そういうこずなら、ずっおおきの堎所があるよ」
 おれたちの話を聞いた䞉井さんは、次の堎所に案内する。





 案内されたのは、昚日蚪れた倧濠公園に隣接する平屋の物件。奇しくも蚪れた時間垯は昚日ず同じく倕刻で、蟺りはあたたかなオレンゞ色に染たり぀぀あった。

 内芋のため䞭に入るず、オレンゞ色の倕日が宀内を染めおいた。その瞬間に胞が枩かくなり、癒やされる。さくらもそう感じたようで、目を閉じお胞に手を圓おおいる。

「ここは空きが出たばかりで、案内するのはお兄ちゃんたちが第䞀号だよ。難点は、狭さず賃料の高さだけど、ここは蚪れる人にずっおもビゞネスをする人にずっおも理想の堎所だからね。ちょっずでもピンずきたらすぐに決めるこずをお勧めするよ」

 その蚀葉を聞くたでもなく、おれの心は既に決たっおいた。なぜなら、ここに䞀歩足を螏み入れた瞬間に、昚日街を巡る途䞭で生たれた旋埋がよみがえっおきたからだ。

「さくらは  」

「リオンくん、私、ここがいい。この、オレンゞ色の倕日がたさに、今の私の心の色」

 そういうなり、さくらはスケッチブックを取り出すず、倕日色の氎圩色鉛筆で絵を描き始めた。そしお、持っおいた氎筒から少し氎を取っお筆に含たせ、鉛筆の線をなでた。するず、あっずいう間に窓の倖の景色が完成した。

「ぞぇ。お姉ちゃんの絵、めちゃくちゃ枩床が茉っおお良いな。なるほど、お兄ちゃんが䞀緒にやりたがる理由はここにあるわけだな」
 絵をのぞき蟌んだ䞉井さんが感心したように蚀った。

「良いだろう、さくらの絵。ここにおれのピアノ挔奏が乗っかったらもっずすげえんだから」

「あはは  。ホントに二人は䞍思議だなぁ」
 䞉井さんは笑いながら蚀った。
「で、どうする 決めちゃう」

「どうするもなにも  」
 おれは改めおさくらず目を亀わす。
「ええ。ここに決めたす」

 決意衚明をしたのはさくらの方だった。



第話街を包み蟌む『愛の旋埋』


さくら

 ここを私たちのアトリ゚にする――。

 そう宣蚀したのは、驚くべきこずに私自身だった。

 ほんの少し前の私だったら絶察にこんなこずは蚀わなかったし、行動も起こせなかった。でも、リオンくんの存圚が、私の背䞭をそっず抌しおくれた。

ありがずう、リオンくん。い぀もそばで支えおくれお  。あなたがいおくれるから私、ちょっずず぀だけど前に進んでいける  。


◇◇◇


 アトリ゚を玹介しおくれた䞉井さんに、私たちが互いのプラむバシヌを守ったたた暮らせるシェアハりスも芋぀けおもらった。そこに生掻の堎を移し぀぀、アトリ゚にも画材やピアノを運び蟌む準備が進む。


◇◇◇


 季節は、ただ朝の空氣がひんやりする初春。この地で過ごすずどんな䞀日になるのか、事前に䜓隓する目的もあり、今日は朝から空っぜのアトリ゚を蚪れおいる。

 私ずリオンくんは別行動だ。アトリ゚からすぐの倧濠公園に赎くず、朝早くにもかかわらず倚くのランナヌが園路を走っおいた。たた、芳光客らしき人々もどんどん集たっおきお公園は早朝から賑やか。

 私はその様子を写生しようず、スケッチブックを取りだした。道の脇に腰掛けお鉛筆を動かしおいるず、犬の散歩で通りすがった地元の人から「絵、䞊手ですね」ずか「画家さんですか」などず声を掛けられ、そのたびにはにかむ。

 東京では、こんなふうに描いおいおも暪目で芋られるだけで声は掛けられないこずがほずんど。だから描き始めお数分で䜕人もの人に話しかけられおもらえるこずが、恥ずかしくもあり新鮮でもあった。

 しかしこの、慣れない「声かけ」のシャワヌを济びた私は、次第に胞のざわ぀きを芚え始める。

所詮、私はよそ者。圌らは物珍しさから声を掛けおくれただけで、本圓は歓迎などしおいないのでは   この地で掻動するために居を移そうずしおいるけれど、この街の人たちが東京から来た私を枩かく迎え入れおくれるずいう保蚌はどこにもない  。

 勢いでここたで来おしたったが、このたた流されおいったら倧波に呑たれ、自分を芋倱っおしたうような氣がしお怖かった。

 急ぎアトリ゚に戻り、リオンくんを探す。けれども圌の姿はなかった。代わりに、メモを芋぀ける。

『ストリヌトピアノを匟いおきたす』

 アトリ゚にはただピアノがない。それは、リオンくんにずっおは蟛いこずに違いなかった。しかし幞いなこずに、街に出れば、ある。

 私は、アトリ゚ずシェアハりスの埀埩甚に賌入しおおいた自転車に乗っお、ストリヌトピアノのある商業斜蚭に向かった。





 リオンくんは、ピアノが利甚できる時間になるたで埅っおいた。私が合流するずホッずした様子で手を挙げ、埮笑んだ。

「リオンくんはピアノがないずホントに生きおいけない人なんだね」
 私が蚀うず、圌は力匷く頷く。

「おれ、拠点を移すこずを決めおから改めお知ったよ。すぐにピアノが匟ける環境がどれだけ有り難いか、っおこずを。そしお、ここに惹かれた理由も分かった。  そう。たずえおれのピアノが手元になくおも、ちょっず街に出ればピアノがある。この環境っお、実はすごいこずなんだよ」

「そうだね」

「぀たりさ、ここは芞術家を歓迎する街っおこずなんだよな。おれみたいな、よそからちょっずきたような人間にも開かれおるわけだからさ」

「あっ、そうか  」

 リオンくんの蚀葉にハッずさせられる。

 私は、よそ者の自分が受け容れられるかどうか、䞍安に感じおいた。けれど、そんな心配は䞍芁だった。考えおみれば、芞術家はもちろんのこず、この街は䞖界䞭の人をたるごず受け容れる懐の深さを最初から持ち合わせおいるのだから。





 おしゃべりをしおいる間に、ストリヌトピアノが利甚できる時間を迎えた。リオンくんは埅っおたしたずばかりにピアノの元に向かい、䞀番乗りで匟き始める。

 プロの即興挔奏者であるリオンくんは楜譜を䜿わない。䜕も芋ず、時には目を瞑っお指だけを華麗に動かし、音を奏でる。

 その姿があたりにも絵になるので、私は挔奏に耳を傟け぀぀も、普段はやらない「リオンくんのスケッチ」を始めた。

 巊手の技巧、なめらかに動く右手の矎しさ。それ自䜓が芞術だった。絵ではそれを写し取るこずはできないが、できるだけ矎しく描こうず努める。

 そうしおいるうちに、波立っおいた心がどんどん穏やかになっおいくのが分かった。それは、リオンくんの挔奏が心に沁みたせいでもあるだろうし、圌ず私を取り囲み始めた街の人々の、枩かい県差しのお陰でもあったずも思う。

 挔奏が終わるず、拍手があちこちから聞こえた。リオンくんは氣持ちよさそうに䞀瀌し、もう䞀曲匟こうずしたが、順番を埅っおいる人のために垭を譲った。

「  今日の曲、すごく良かった。思わず芋ずれおしたっお、スケッチしちゃったくらい」
 店をあずにしながら蚀うず、リオンくんは少し照れた様子で蚀う。

「ありがずう。実はあれは、この街に来たずきからずっず頭の䞭で鳎っおる曲なんだ。でもずっず忙しかったから圢にできおなくお。今日ようやくちゃんず匟くこずが出来お良かったよ」

「タむトルは決たっおる  」

「ただ  。さくらが決めおよ」

「え、私が  」

「うん。ここは䞀぀、さくらのセンスで」
 倧圹を任された私は唞っおしたった。

「すぐには思い぀かないよ。少し、考えさせお」

「もちろん。ゆっくり考えお」
 そう蚀ったリオンくんは優しく埮笑んだ。





 私たちはその埌、犏岡タワヌに向かった。鏡面のタワヌは空ず雲ずを映し出し、たた倪陜を反射させおキラキラず茝く。

 自転車を眮き、タワヌの裏手に回る。そこはビヌチになっおいお、倧人も子䟛もはしゃいでいる。結婚匏堎もあっお、ちょうど新郎新婊がビヌチで写真撮圱をしおいた。

 のどかな日垞の颚景。それを芋おいたら急にむメヌゞが降っおくる。

「愛の旋埋  」

「ん」

「さっきリオンくんが匟いた曲のタむトルに良さそうな蚀葉が浮かんできたの」

「愛の旋埋、か。うん、いいじゃんそれ。採甚」

 リオンくんはそう蚀うず、少し照れくさそうに錻歌を歌った。その旋埋はたさに、さっき圌が匟いおいたものだった。





 アトリ゚に戻った私は、今は空っぜの宀内をぐるりず芋回した。

「ねえ、ここにピアノが眮かれたら『愛の旋埋』を匟いお欲しいな。そうしたら私、即興で絵を描く。そしおそれをアトリ゚の䞀番目立぀ずころに眮くの」

「おっ、それいいな   ここずか、どう」
 リオンくんは、玄関ドアを開けた正面の壁を指さした。

「私もそこが良いず思った」

「じゃあ、決たり   うん、さくら。いい顔しおる。朝ずは別人だ」

「ほんず もしそうだずしたらそれは、リオンくんのお陰だよ」

「おれは䜕もしおないっお。  そうだ。きっずこの街が持぀芞術の力が、さくらを元氣にしたんだ。さくらは受け容れられたんだよ。この街に」

「あぁ  。それ、すっごく嬉しい」
 圌の蚀葉に胞が熱くなり、思わず涙が蟌み䞊げる。

 あたたかな陜光がアトリ゚に差し蟌み、朚の床に眮いたスケッチブックに圓たる。鉛筆で描いた、ピアノを匟くリオンくんの暪顔が埮笑んで芋えた。




第話アトリ゚に響く愛の調べ


リオン

 アトリ゚にようやくおれのピアノが搬入された。長幎䜿っおきた盞棒を連れおくる案もあったが、ここは心機䞀転、新アトリ゚には新ピアノを入れるこずに決めた。

 早速、響きを確認するため、即興挔奏する。匟くのはもちろん『愛の旋埋』だ。

 さくらが傍らで筆を動かす䞭、鍵盀の䞊を滑るように指を動かす。次第に氣持ちが乗っおきお、今日だけの『愛の旋埋』が空間を満たす。

 さくらの想いずおれのピアノが亀錯し、混じり合い、アトリ゚を包み蟌むのが分かった。ここはもう、ただの “箱” じゃない。蚪れる人々に愛を䞎えるための神聖な堎所だ。

 挔奏を終え、さくらの描いた絵を芋る。

 筆筋は普段の䜕倍も繊现で矎しく、たた䜿われおいる、桜色ずも橙色ずも蚀えない絶劙な色圩で描かれた線は、これたた今にも動き出しそうなほど生き生きずしお芋えた。

「今日は最埌に金粉を散らしたいな」

 この頃のさくらが奜んでいる仕䞊げのスタむル。描画で終わらず、絵の具以倖の玠材をキャンバスに乗せる。そうするこずによっお、より䜜品ずしおの完成床が高たるずさくらは蚀う。

 床に眮き盎したキャンバスの䞊からそっず金粉を振りかける。窓から差し蟌む日の光に照らされたそれは、たるで物語の䞖界にいる劖粟の鱗粉みたいに茝きながら、ただ濡れおいるキャンバスの䞊に萜ちた。

 しばらくしおサむンを入れたさくらは、その絵をむヌれルに立おおピアノの脇に眮いた。

「うん。すごくいい絵が描けた。今日の絵は我ながら䞊出来」
 圌女はい぀になく䞊機嫌だ。

「さくらの絵はい぀だっお最高の出来だよ。でも、さくらが蚀うように今日の絵は普段の䜕倍も茝いお芋えるね」

「ずっず楜しみにしおいた『愛の旋埋』を、このアトリ゚で聎きながら描いたんだもの。それに今日は、みんな、、、が集たる日だしね。さすがの私もちょっずは氣合いが入るよ」

 そう。アトリ゚にピアノが搬入され、いよいよ皌働するずいうこの日を祝い、おれの兄貎ナヌゞンず、双子の姉セナ、そしお東京で䞀緒にバンド掻動しおいた仲間やここで知り合ったアヌティストたちが集たるこずになっおいる。





 昌を過ぎた蟺りから少しず぀人が集たり始める。おれのきょうだいたちも到着するず、圌らは持参したギタヌをかき鳎らし、アトリ゚䞀杯に歌声を響かせる。

「セッションしようぜ」

 じっずしおいられなくなったおれも、兄さんたちのギタヌ挔奏に合わせお即興で割り蟌む。ここに、最初にさくらず話しおいた、“おれたちのいる堎所がアトリ゚兌ラむブ䌚堎” が自然ず再珟される。



さくら

 ひずしきり倧隒ぎし、倜を迎えた。

 皆が垰ったあずのアトリ゚は、朝の静謐さを取り戻しおいる。二人だけのアトリ゚で、リオンくんは自分の内面を敎えるかのように静かにピアノず向き合う。

 リオンくんの脇でピアノを聎くずき、私の心も掗われる。そしおその音は党身に刻たれる。

「普段、リオンくんが匟く即興挔奏ももちろん玠敵だけど、䜜った曲の即興アレンゞもたた味わい深いよね。私、『愛の旋埋』の即興アレンゞが奜きだな」

「うわ、それ嬉しいなぁ」
 リオンくんは歓びを衚すかのように、早速『愛の旋埋』を即興で匟き始めた。

 その旋埋は、朝聎いたものずは党く違う、静かで優しい調べだった。それは圌の心が穏やかである蚌だった。

「ありがずう、リオンくん。あなたの指から生たれる矎しい音で䞖界がこんなにも茝いおる。私の心も、喜んでいる  」

「  おれ䞀人じゃ、ここたで来れなかった。それにこの旋埋は、さくらが䞀緒にいおくれたから生たれたんだよ。こっちこそ、ありがずう」

 ピアノを匟き終えたリオンくんは私の方に向き盎り、右手を差し出した。その手は倧きくお枩かく、矎しかった。

 その手を握り返しながら誓う。この堎所から、私たちの絵ず音で䞖界を矎しく描き盎し、調埋しおいく、ず。

 倜の垳がゆっくりず降りおいく。宵闇の䞭にリオンくんのピアノの音が溶けおいくのをい぀たでも聎いおいた。


――完――




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