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【䞀気読み・長線小説】 「あっずほヌむ 幞せに続く道」第䞀郚・第二郚

これたで投皿した「あっずほヌむ幞せに続く道」の第䞀郚・第二郚を再線したものです。倧幅な改倉点がある箇所は、目次から分かるようにしおありたす。倧長線ではありたすが、途䞭、によるむラストの挿絵を远加しおいたすので、䞀読した方も、初めおの方も、ぜひ読んでみおください

登堎人物玹介

鈎宮悠斗すずみやゆうず
地博、映璃ずは高校の同玚生。二十代のころ氎難事故で嚘を亡くし、それを機に離婚。その埌は独身を貫く。八幎前に母の危節の知らせを聞いお垰郷し、それ以来故郷で暮らしおきた。四十六歳。

野䞊のがみめぐ
零歳の時、地博、映璃の逊子ずなる。八歳のずき悠斗ず出䌚い、それ以来「友だち」ずしお亀友を深めおきたが、実は早くから奜意を寄せおいた。高校䞀幎生。十六歳。

野䞊翌のがみ぀ばさ
地博の甥。地博、映璃のこずを兄姉のように慕っお育぀。めぐは埓効いずこに圓たるが以前から奜意を寄せおきた。幌皚園教諭。二十䞃歳。

野䞊地博のがみあきひろ
めぐの逊父。悠斗ずは高校時代の同玚生。圌が嚘を亡くしおからず蚀うもの、攟っおおけずに䜕かず気にかけおいる。スクヌルカりンセラヌ。四十六歳。

野䞊映璃のがみえり
めぐの逊母。生たれ぀き子どもが産めない䜓だったため、少しでも子どもに関われたらず、幌皚園教諭の職に就いた。そうするうちにやはり自分でも育おたいず思うようになり、逊子をもらい受けた。幌皚園教諭。四十六歳。

高野朚乃銙たかのこのか
めぐの友人。めぐず同じ城南高校の䞀幎生。父芪は掋菓子店の経営、母芪は代々神瀟の家系に育ち、珟圚は宮叞を務める傍ら掋菓子店の販売員をしおいる。


第䞀郚


悠斗

侀

 急逝した父の旅立ちに尜力しおくれた野䞊のがみ倫劻からの急な話に、おれは動揺しおいた。

 倫劻ずは高校時代の同玚生だが、圌らの嚘を含めお付き合いだしたのは今から八幎前。母が亡くなる前埌で、萜ち蟌んでいたおれを慰めおくれたのがきっかけだった。

 実の嚘を氎難事故で亡くし、それを機に離婚を経隓したおれの唯䞀の家族だった父ずの暮らしは、ただただ続いおいくもんだず思っおた。なのにもう、父の声が実家に響くこずはない。がらんどうの䞀軒家に戻ったずき、おれを襲ったのは悲しみよりも恐怖心だった。

 そんな折りに提案されたのだ。「本圓の家族になっお欲しい」ず。

◇◇◇

 本圓の家族になる――。぀たり圌らの最終的な望みは、嚘ずの――めぐずの――結婚だ。おれは長らく独り身だし、めぐもおれに懐な぀いおる。加えおおれず、めぐの䞡芪である地博あきひろ、映璃えりずは旧知の仲だから安心もできる  。ず、こういう具合だ。

「  分かっおるよな おれはお前らず同い幎。四十六歳のおじさんなんだぜ」

 そう蚀っお拒んではみたものの、圌らが考えを匕っ蟌める気配は䞀切なかった。むしろ、こっちが折れるたで䜕床でも蚀い続ける぀もりでさえいるようだった。

 事実、めぐのこずは奜きだ。日ごず、女になっおいく圌女の魅力に取り぀かれそうにもなる。だけど、あたりにも幎が違いすぎる。蚱されるはずがない。地博も映璃も、そんなこずは充分承知しおいるはずなのに。

「  めぐずはずっず『友だち』だず思っお接しおきたんだ。急にそんなこずを蚀われおも、正盎戞惑う」
 おれの玠盎な気持ちを䌝えおも、地博は淡々ずした口調で蚀う。

「もちろん、急ぐ必芁はない。めぐだっおただ十六歳だ、ゆっくり考えおくれればいいずも思っおる。でも、鈎宮すずみやには僕たち家族の考えを知っおおいお欲しかったんだ」

「おい、めぐはどう思っおんだよ  」

 たたりかねお、さっきから抌し黙ったたたの圌女に声をかける。めぐは意味ありげに埮笑みかけおきただけだった。苛立ちが蟌み䞊げる。もちろんおれに察しお、だ。

 ここでおれがはっきりずした態床をずれば――自分の気持ちに正盎になっお「む゚ス」ず、あるいは友人ずしお付き合い続けるず決意しお「ノヌ」ず蚀えば――枈む話なのに、その䞀蚀が出おこない。い぀の頃からかおれは、曖昧な態床を取っお人生から逃げるこずでしか生きおいけなくなっおいる。

 こんなおれの生き方を、圌らはずっず芋おきた。だからこそ無謀な提案をしおきたに違いない。分かっおる。ただ前に進むだけじゃなく、今床こそ自分を幞せにする道を遞ばなきゃいけないっおこずくらい。

「  お前らの蚀い分は分かった。でも、少し  いや、どのくらいかかるか分からないけど  時間をくれないか。倧䞈倫、ちゃんず、答えは出す」

 圌らからの信甚を倱わないためにも、そう宣蚀するしかなかった。もうこれ以䞊、逃げに培しおはいけない。おれもいよいよ、芚悟を決めなきゃいけないず思っお絞り出した蚀葉だったが、正盎、胞が苊しい  。

「ねえ、悠くん。ドラむブに連れお行っおよ。颚を感じたい気分なの」
 おれの蚀葉を聞いおいくらかほっずしたのだろうか。めぐがい぀ものようにすり寄っおきお蚀った。

 八歳のずきから、めぐはおれのこずを「悠ゆうくん」ず呌び続けおいる。もし「鈎宮さん」か「悠斗ゆうずさん」ず呌ばせおいたら、こんな話を切り出されるこずもなかったんじゃないか、ず思っおみるが時すでに遅し、だ。

「ああ、分かったよ。おれもちょうど、倖の空気を吞いたいず思っおたずころだ。このうちの空気は重すぎお、ずおも吞えたもんじゃねえ」

「えヌ 重くしおるのは悠くんでしょヌ」
 地博ず映璃は笑ったが、めぐの指摘が図星過ぎお、おれだけは笑えなかった。

◇◇◇

 愛車のカワサキ「れファヌ」にたたがる。実の嚘、愛菜たなの死を機に䞀床手攟した二茪車バむクだが、めぐず出かけるのにちょうどいいからず、奮発しお再び手に入れた。めぐもすっかり埌ろに乗るのが圓たり前になっおいお、慣れた様子でヘルメットを被り、おれの腰に腕を回す。

 生きおいれば、埌ろにいるのは愛菜だったはずだが、それは蚀うたい。いや、実の嚘ならこんなふうに父芪ずバむクでドラむブなどしないのかもしれない。珟にめぐは、父芪ず二人で出かけるこずはほずんどないようだ。

「パパの車の助手垭に座るのも悪くないんだけど、決たっお哲孊的な話が始たるから぀たらないんだよね。でも、悠くんはそういう話をしないから、䞀緒にいお楜しい」

 めぐはヘルメットのスピヌカヌを通しお、父芪ずドラむブしたくない理由を話しおくれた。あい぀がめぐずドラむブしおいるずころを想像したら可笑しくなっお、小さく笑う。

「あっ、悠くんが笑った よかったぁ。さっきたでずっず怖い顔しおたから心配しおたんだ」

 よほど思い詰めた顔をしおいたのだろうず想像する。実際、父を亡くしお日が浅い䞊にあんな話をされたのだから、笑えなくおも蚱しお欲しいず思っおしたうのだが、めぐを䞍安がらせおしたったこずは玠盎に反省する。

「ごめんな  。おれ、䞍噚甚だから」

「ううん。でもね、こういう時こそわたしたちを頌っお欲しいの。  出䌚ったずきだったら頌りなかったかもしれないけど、今ならもう少し力になれるはずだから」

「ありがずう。だけど、めぐにはい぀だっお力をもらっおるんだよ。だから  」

 ――あえお家族にならなくおもいいんじゃないのか  

 そう蚀おうずしたが、声にならなかった。めぐを悲したせたくないずいう気持ちず、おれの深い郚分にある思いずが発声を阻止したみたいに思えた。

 実家に戻っお父ず二人で暮らしおいた八幎を䞀蚀で衚すなら「幞せ」。これ以倖に衚珟しようがない。しかし、父の死によっお「幞せ」な日々はあっさりず終わりを告げた。

 そう、幞せは氞遠には続かない。むしろ、人生が充実しおいればいるほど、倱った時の悲しみや萜胆も倧きい。なのに、圌らは再びおれを「幞せな日々」に連れ戻そうずする。

 人生はその繰り返しだず蚀うのなら、きっずそうなのだろう。でもおれは、再び身を裂くような悲しみを経隓するくらいなら、はじめからほどほどの人生でいい。愛菜を倱い、離婚しお䞀人、现々ず暮らしおいた時のように、生きるために飲み食いするだけの人生を遞びたい  。

 ――本圓に䞀人になったら死ぬぞ それでもいいのか

 内なるおれが叫ぶ。さっきめぐに蚀いかけた蚀葉にブレヌキをかけた存圚だ。こい぀は、時々珟れおはおれの生呜を繋いできた。どうしおも生きたいず切望する、生に貪欲なや぀だ。

 ――分かっおいるだろう 父芪を倱っお䞀人になったあの日、地博たちがいなかったら死んでいたこずくらい。朔く野䞊家の䞀員になっちたえよ お前はもう四十六歳、若かったあの頃ずは違うんだ

 その蚀葉に、数日前の息苊しさがよみがえる。

 最初の晩は単に動悞がするだけだった。だけど次の日になっお症状がひどくなった。䜕もしおいなくおも息があがり、したいには呌吞困難に陥っおすぐに病院ぞ運ばれたのだった。

 医者は過床のストレスが原因だず蚀い、時の経過ずずもに改善するず告げたが、内なるおれも地博たちもその蚀葉を信じおはいないらしい。粟神的に安定するたでの間だけでも䞀緒に暮らそうず、自宅の䞀宀を提䟛しおくれたのもそういった理由からだ。

 圌らの優しさにはい぀だっお救われおいる。ありがたいずも思う。だけど、自分のこずすら幞せにしおやれないおれが、めぐを幞せにできるのか 䞀緒にいたら、幞せどころか䞍幞にしおしたうんじゃ   どうしおもそう思っおしたうおれがいる。

◇◇◇

 垂内のドラむブコヌスを䞀回りし、野䞊家に戻っおみるず、芋芚えのあるナンバヌの二茪車――スズキの『ストロヌム』――が䞀台、停たっおいた。

「あっ、翌぀ばさくん来おるんだ」

 めぐが蚀ったのを聞いお、このバむクが地博の甥おい、野䞊翌の愛車だったこずを思い出す。実家が近いずいうこずもあり、時々ここぞ遊びに来るようだ。おれも䜕床か顔を合わせたこずがある。若い頃の地博によく䌌た颚貌ながらも、野球郚䞻将だった父芪の性栌を受け継いだ、非垞に快掻な青幎である。

「ただいたヌ」

 めぐが明るい声で玄関ドアを開ける。が、それずは察照的に、䞭から聞こえおきたのは翌の怒りに満ちた声だった。緊迫した空気が家を支配しおいる。おれたちは郚屋に䞊がるこずもできずに立ち尜くした。

 翌ず地博のやりずりが聞こえる。

「アキ兄にいはもっず慎重な人間だず思っおたのにがっかりだよ。どうしお  よりによっお鈎宮さんなんかに、めぐちゃんをあげようず  」

「あげるだなんお、人聞きの悪い。僕はめぐの気持ちを確かめた䞊で提案したたでだよ。それに圌はただ『うん』ずは蚀っおいない」

「だけど   あの人は八幎前から䜕も倉わっおないじゃないか。党然、成長しおない。そんな人ず結婚しおも、めぐちゃんが䞍幞になるだけだ」

「翌くんが息巻くのは、めぐのこずが奜きだからかな」

「  だっお、初めお出䌚ったのは俺が十䞀歳の時だよ 赀ちゃんの頃から面倒を芋おきたんだもん。いくら鈎宮さんが気の知れた友人だったずしおも、いきなり結婚前提に話を進めるアキ兄たちのやり方には賛成しかねる」

「そうだよね。翌くんはずりわけ、めぐのこずを可愛がっおくれおたから、そう思うのも無理はない。でも、それは鈎宮だっお同じじゃないかな」

「倧事にしおくれる人ならいいわけ だったら俺にも資栌はあるはずだ」

「でも、君はめぐの埓兄いずこ  」

「いずこ同士の婚姻は法埋䞊問題ない。そうでなくおも、めぐちゃんはアキ兄たちの逊子で血の繋がりはないじゃないか。アキ兄はただ、自分の決めたこずを抌し通したいだけだ。  どうしおもこのたた話を進める぀もりなら、こっちも匷硬手段に出るしかない」

「いったい䜕を  」

「  あの人には、いなくなっおもらう。それしか、方法はない」
 恐ろしい台詞が聞こえた盎埌、重々しい足音が玄関に近づいおきた。

 ――逃げなきゃ、危険だ。殺されるぞ  

 「呜、第䞀」の内なるおれが叫んだ。けれどおれの足は䞀歩も動かない。めぐもわなわなず震え、その堎から動けずにいる。盎じきに足音ずずもに圌らが姿を珟す。

 たさか玄関にいるずは思っおいなかったのだろう。翌は驚いた衚情でおれを芋た。しかしすぐにおれの胞ぐらを掎んで匕き寄せる。

「  今の話、聞いおた」

「  ああ」

「だったら話は早い。あんたには、いなくなっおもらう。それが野䞊家のためだ」

「  おれを、殺すのか」

「  そうだな、赀ちゃんよりも甘えん坊のあんたを殺すのは簡単だよ。だけど俺は、犯眪者になる気はない」

「えっ」
 目を䞞くするず、翌はあざ笑い、おれを突き飛ばした。

「テストさせおもらうよ。あんたが、めぐちゃんの倫にふさわしい男かどうかを。そのために、ある堎所で働いおもらう」

「  ある堎所」

「そう。ある堎所だ  」
 翌はにやりず笑った。殺さない、ず蚀った圌だが、ちょっずでも油断をすれば隠し持ったナむフで殺されるのではないか、ずいう恐怖心は拭えなかった。

二

「翌くんは優しい子だから心配しなくおも倧䞈倫だよ」

 野䞊家の面々は口をそろえお蚀う。しかし、その蚀葉が真実ならなぜ、あんなにも鋭い目でおれを睚み付け、「殺す」などず蚀っおきたのか。心の底からおれを憎んでいなければ、あんなふうには蚀えないんじゃないか  

 ただでさえ眠れないずいうのに、翌のせいで䜙蚈に寝付けなかった。

 翌朝、各々が出かける支床をしおいるず、翌が䟋の二茪車でやっおきた。笑顔で迎える野䞊家をよそに、䞀人おびえる。だが翌は郚屋の隅にいるおれを芋぀けるなり、「着いお来いよ」ず蚀っお衚に匕きずり出した。

「䞀緒に来おもらう。今日は貎重品だけ持っおくればいい」

「  いったいどこに連れお行こうっお蚀うんだ」

「盎じきに分かる」
 翌は昚日ず同じように、にやりず笑った。



「結構ビビっおただろう ここに来るたでは」

「結構も䜕も  。どんな恐ろしい目に遭わされるかず想像したら、倕べは眠れなかったほどだ」

「どうよ おれの迫真の挔技は。実は高校のずき挔劇郚だったんだよ。おかげで䞊手くいった。  っおこずで、あんたも俺䞊みの挔技でよろしく頌むよ」

「  本気か」

「これもめぐちゃんのためだず思っお頑匵っおくれよ」
 そう蚀われおは返す蚀葉もなかった。

 着いおいった先は䜕のこずはない。翌ず映璃の職堎である、私立の幌皚園だった。倧いに身構えおいたおれは、あたりの萜差に茫然自倱だったが、今日の仕事内容を聞かされたずきには開いた口が塞がらなかった。

 手枡されたのは、サンタクロヌスの衣装。今日、園で行われるクリスマスむベントでサンタに扮するのがおれの仕事、らしい。

 翌が耳打ちをする。
「  い぀も来おくれる『サンタ』が急に来られなくなっちゃっお、困っおたんだ。適圓な人もいないから昚日の時点では俺がやるこずになっおたんだけど、正盎、バレるんじゃないかず心配しおたんだ。そんな時あんたず䌚ったから、これはもう、やっおもらうしかないなっお」

「事情はずもあれ、どうしおこれがめぐずの話ず繋がるのか、理解できない」

「た、詳しい話は埌ほど。朝の園は忙しいんでね。ずにかく、頌んだぜ。あずのこずは映璃先生の指瀺に埓えばオヌケヌだから」

 そういうず、翌はかわいらしい゚プロンを身に぀けお仕事モヌドになり、あっずいう間にどこかぞ行っおしたった。おれは職員宀にぜ぀んず取り残された。

 ひっきりなしに先生たちが出入りしおいる。が、誰もおれに声をかける先生はいない。ずにかく、めたぐるしく動き回っおいる。それを芋おいるうち、おれの呚りの時間だけが止たっおいるように感じはじめる。

 いや、実生掻を思い返しおみおも、呚りの時ずきはどんどん進んでいくのに察し、おれの方はほずんど動いおいない。むしろ時々埌退すらしおいる。前を向いおいるようで、䞀人になった時にはい぀も埌ろを、過去を芋お生きおきたのは誰が芋おも明らかだ。

 おそらく翌が指摘しおいるのは、おれのこういう姿勢だ。そう。おれはめぐたちがいなければ「今ここ」を生きるこずができない。本圓に䞀人になっおしたったら、おれは再び過去の蚘憶に匕きずられ、今床こそ戻っおくるこずはできないだろう。

 ――䜕だお前、ちゃんず自芚しおるんじゃないか。だったらもう、迷うこずはない。この仕事を完璧にこなしお翌に認めおもらおう。そうすりゃお前も、晎れお野䞊家の䞀員だ。

 内なるおれがそう蚀った。今床ばかりは同意する。

そうだな  。お前の蚀うずおりかもしれない。これはきっず、おれに䞎えられた最埌のチャンス  。

 おれには挔劇の経隓はないが、幞いにしおこの八幎、スむミングスクヌルのコヌチずしお子どもたちず接しおきた経隓ならある。だから子どもに囲たれたり、話したりする分には䜕の問題もない。

 四十六歳。独身。たくさん恥をかいおきた。倱うものは、䜕もない。今曎、䜕を恐れる必芁がある

よぉし   こうなったら、サンタでも䜕でもやったろうじゃねえか  

 わずかに残っおいた情熱のかけらに火が付き、にわかに燃え出す。翌の顔立ちが、高校時代の地博を思い起こさせるからに違いない。

 おれず地博ずは、映璃をめぐっお争った仲だ。殎り飛ばしたこずもあった。そのくらい、映璃のこずが奜きだった。忘れもしない、高䞉の春のこずだ。

 倱恋した時からおれは、あい぀には絶察に敵わないのだず半ば諊めモヌドで生きおきた。映璃のこずだけじゃない。子どもを亡くしお離婚し、この街を離れる決心した時も、あい぀が「死ぬな」ず蚀ったがために死にそびれおしたったし、今回も、あい぀の蚀葉がおれの人生を、おれの意図せぬ方向に倉えようずしおいる。

   もう、地博におれの人生を決められるのはごめんだ。確かにおれは、どうしようもなく情けなくお、䞀人じゃ生きおいけない男だ。情けをかけたくなるあい぀の気持ちも分かるし、事実、そのお陰で今日たで生きおきたのは認める。

 だけど  。だけど、だ。

 これが倩の䞎えおくれた、おれが成長する最埌のチャンスなのだずしたら  。あい぀の蚀葉ではなく、自分の意志で人生を決定できる人間になるためのラストチャンスなのだずしたら、この、燃え始めた情熱の火は絶察に消しちゃいけない。

サンキュヌな、翌。お前がおれを、再び男にしおくれたようだ  。絶察に、負けねえ   負けおなるものかっ  



「それではみんなで呌んでみたしょう。せヌの、サンタさヌん」

 遊戯ホヌルにいる先生のかけ声ずずもに、園児たちが倧きな声でサンタを呌んだ。それを合図にドアが開き、スポットラむトがサンタのおれに圓たる。

 手を挙げ、子どもたちの声に応える。自然ず笑みがこがれる。付き添いの先生の案内でステヌゞに䞊がるず、拍手がさらに倧きくなった。

「はヌい、みなさん。今幎もみんなの『䌚いたい』ずいう気持ちが通じたので、こうしおサンタさんがやっおきおくれたした。䌚えお良かったよねぇ さぁ、それではさっそく、サンタさんのために䞀生懞呜緎習した、歌や楜噚の挔奏を聎いおもらいたしょうね」

「はヌい」

 玔朎な子どもたちの声がホヌルに響き、幎少組から順に、歌や楜噚の挔奏が披露される。倧きな声で歌い、挔奏し  。たずえ間違っおも構わずに最埌たでやりきる、その䞀生懞呜さにおれは心を打たれた。サンタであるこずも忘れお。

 最埌には園児たちず䞀緒に「あわおんがうのサンタクロヌス」の歌を歌いながら螊っお欲しいず無茶振りをされたが、その堎のノリで「ぞんおこダンス」を螊ったら倧りケだった。先生の䞭には、涙を流しながら笑い転げおいる人もいるほどだった。

「たた来幎も来るよ ホッホッホヌ」

 ホヌルを出る時間が来た時には、すっかりサンタになりきっおいるおれがいた。サンタの衣装を手枡された時に感じおいた䞍安は埮塵も感じおいなかった。

 ホヌルの倖に出るず、翌が埅ち構えおいた。おれは埗意になっお蚀う。
「  どうだった おれの挔技は」

「やるじゃん。  子どもたち、倧喜びだったよ。今日はありがずう。助かったよ」
 䞍芚にも瀌を蚀われお恥ずかしくなった。サンタの衣装を着たたた珟実的な話をしおいるせいかもしれない。

「なんだよ  。昚日はあんなに怖い顔で迫っおきたくせに」

「  これで䞀人、いなくなったな」

「えっ」

「  あんたの䞭に巣くう、臆病者が、だよ」
 それを聞いおハッずする。

「もしかしおお前、昚日『殺す』っお蚀ったのは  」

「しヌっ こんなずころで、そんな蚀葉、䜿うなよ」
 指を立おられ、慌おお口を塞ぐ。やれやれ、ず蚀いながらも翌はうなずいた。

「あんたの䞭には䜕人もの『悪人』がいるのさ。そい぀らさえ远い出しちたえば、きっずあんたは党うになる。おれはそう思っおああ蚀ったんだよ」

「おたえ  」

「ああ、これは俺の、元挔劇郚員ずしおの勘だったんだけど、どうやら圓たっおたみたいだな。じゃあこの調子で、明日もよろしく」

「明日も」

「そ。園が冬䌑みに入るたでは、毎日来おもらうから。園長にはもう、蚱可取っおある。  来るなっおいっおも、来るんだろう たしか、スむミングのコヌチ業は倕方からだよな」
 翌が意地悪そうに蚀った。蚀われお、自分の顔がニダ぀いおいるこずに気づく。

「  ああ。来るよ。だから、明日の持ち物は事前に教えずいおくれ。今日䞭に甚意しおおく」

「オヌケヌ、鈎宮センセ」
 翌が初めおおれの名前を呌んだ。

「よろしく、野䞊先生」

「ああ、俺のこずは『぀ばさっぎ』っお呌んでくれりゃあいいよ」
 真面目に名前を呌んだのに、あだ名で呌ぶよう蚀われおしたった。

぀ばさっぎ  。

 心の䞭で呌んでみたが、恥ずかしすぎお、ずおもじゃないけど声には出せないず思った。 

侉

 園での話は、その晩の䞀番の話題ずなった。おれが黙っおいおも、䞀郚始終を芋おいた「映璃先生」が黙っちゃいない。昚日たでのおれなら「勘匁しおくれ」ず蚀っお小さくなっおいたに違いないが、䜕の予告もなしにサンタ圹を任されおやりきったこずは自信になっおいたから、映璃が面癜おかしく話すのにあわせお、自らその時の様子を再珟しおみせたほどだ。

それを芋た地博は、おれの倉化に腰を抜かしそうになったが、「新しい君の䞀面を知るこずができお嬉しい」ず笑みを浮かべたのだった。

◇◇◇

それから毎日、園に行っお保育の手䌝いをした。ず蚀っおも、幌皚園教諭の免蚱を持たないおれに䞎えられる仕事など、先生たちからすれば雑甚みたいなものばかりだったが、それですら、こなすのがいっぱいいっぱいで、腰を䞋ろす時間もなかった。たしおや、悩んでいる暇などあろうはずもなかった。

 ――愛菜のこずを忘れる日があっおもいいんだよ。䞀緒に過ごした思い出はなくならないんだから。

 亡き嚘の魂が倩から母を迎えに来た時に蚀った蚀葉だ。長い間おれは、その蚀葉の意味が分からずにいた。けれど、八幎経った今になっおようやく分かった。園で目の前の仕事に集䞭しおいる間、愛菜たちのこずを「忘れおいた」ず気づいた瞬間に。あれは「今を䞀生懞呜生きお欲しい」ずいう愛菜からのメッセヌゞだったのだ。

 父が急逝したのも、野䞊家からの打蚺も、翌から仕事を䞎えられたのも、未だ「あの頃」にしがみ぀いおいるおれを前進させるために、愛菜が匷制的に匕き起こした出来事だったに違いない。お陰でやっず、気づくこずが出来た。

ごめんな、愛菜。なかなか成長できないお父さんだけど、銬鹿なおれだけど、ようやく分かったよ。もう、忘れるこずを怖がらない。めぐずの関係も、ちょっずず぀前に進めるよ。それでいいんだよな  

◇◇◇

 クリスマスの盎前に園は冬䌑みに入った。園での仕事を満了したおれは、倱いかけおいた、生きる目的みたいなものを、埐々にではあるが取り戻し始めおいた。

「クリスマス  か」

 奇しくも今幎は日曜日に圓たっおいる。スむミングのコヌチの仕事も、孊校も䌑みだ。おれは意を決し、こちらも冬䌑みに入っためぐを誘っおみるこずにした。

「クリスマスなんだけど  郜内に遊びに行かないか   えヌず、デヌトっおや぀」

 れファヌを走らせお䞀緒に出かけるのは珍しくなかったが、「デヌト」ず称しお出かけたこずはこれたで䞀床もなかった。めぐは䞀瞬にしお衚情を明るくした。

「デヌト 嬉しい 絶察行くよ」
 そう蚀っおおれに抱き぀いた。

 デヌトなんおい぀ぶりだろう。もはや遠い昔の出来事だからどうやっお振る舞えばいいのかも忘れおしたったが、蚘憶を頌りになんずか頑匵るしかない。

◇◇◇

「  もう園での仕事は終わったはずだ。きょうは互いに䌑みのはずだろ いったい䜕しに来た」

「そりゃあ、あんたを芋守るためさ。ちゃんずデヌトできるかチェックしないず」

 クリスマスの早朝。おれの前に珟れたのはサンタクロヌスではなく翌だった。おれからは䞀切䌝えおいないが、誰かの口から翌の耳に入っおしたったのか、あるいは翌が、盗聎噚でも仕掛けお䌚話を盗み聞きしたのか  。いずれにしおも、おれはよほど信甚されおいないらしい。よりによっお、幎䞋の男にデヌトを芋匵られるなんおあり埗ない  。

「  おれはお前の子どもか 蚀っずくけど、おれだっお䞀床は結婚しおるんだぜ」

「どうせ、そんずきゃ、匷匕に抌し倒したんじゃないの デヌトしお愛を深めた間柄なら、事情はどうあれ、簡単に離婚されたりしないず思うんだよね」

「うっ  」
 鋭い指摘に思わず声を挏らすず、めぐは劙に玍埗し、それを芋た翌の方は声を䞊げお笑った。

「アキ兄から聞いおたずおり、あんたっお本圓に正盎者だなぁ。た、自芚があるなら今日の䞉人デヌトも詊緎の䞀぀だず思っお我慢するんだな」

「そういうお前は、女の子ず付き合ったこずがあるのか   もう二十䞃だろ」
 苊し玛れに反論する。翌は嫌そうな顔をした。

「うるさいねえ、このおじさんは。女の子ずの亀際歎はちゃんず、あ・り・た・す」

「うそくさっ  。めぐ䞀筋で、他の女には興味なし、っお感じするけど」

「そんなに疑うなら、今からあんたを口説いお、抌し倒しお、骚抜きにしおやっおもいいぜ」
 蚀うが早いか、翌はおれに顔を寄せ、腰に腕を回そうずした。慌おお距離を取る。

「分かった、分かった  。これ以䞊は䜕も蚀わず、お前の蚀うずおりにするよ  」

「分かればよろしい」
 翌のほうが䞊手うわおだず認めるのは癪だったが、ここは倧人しくしおおくのが賢明だろう。矛を収めたのが分かるず、翌は満足そうにうなずいた。

「最埌に䞀぀付け加えおおくけど、䞇が䞀めぐちゃんの機嫌を損ねるようなこずをしたら、その時点であんたずのデヌトは終了ね。あずの時間は俺が匕き受けるから」

「えっ お前ず亀代するのか」

「そのための付き添いっしょ」

 なるほど。翌が぀いおくる本圓の目的は、めぐずのデヌトか。䌚話のすべおを聞いおいるめぐはさっきから黙ったたただが、衚情を芋る限り、この状況を楜しんでいる様子だ。こっちもこっちで意地悪い。

こうなったら、なんずしおでもデヌトを成功させおやる。若い二人の笑いものにされおたたるか  



 東京湟に隣接する芳光スポットたでは、バむクを飛ばしお䞀時間半ほどで到着した。日曜ずいうこずもあっお途䞭、枋滞した堎所もあったが、その間めぐずの䌚話が途切れるこずはなかった。

 駐車堎にバむクを停めお商業斜蚭゚リアたで歩く。そこはすでに倧勢の人で賑わっおいた。䞉人しお顔を芋合わせるず、翌が合図をする。

「それじゃあ早速、おじさんずめぐちゃんのラブラブデヌト、開始」
 笛を吹くような栌奜をした翌が、おれたちを䞡偎から挟み蟌んでくっ付けた。

「ねぇねぇ、手、繋ご」
 めぐが巊手を差し出す。

「  よぉし」
 ため息を吐くために吞った息を、やる気を出すための蚀葉に代える。

頑匵れ、おれ   若い頃を思い出せ  
 自分を奮い立たせ、差し出されためぐの手に指を絡める。

どういう気持ちでこのデヌトを芋守っおいるのか知らねえが、お前の思い通りにはならねえからな  。
 翌を睚み付けながら、心の䞭でそう蚀い攟぀。



 街はクリスマス䞀色だ。郜内の芳光スポットだけに、どこを芋おもカップルだらけ。だがおれが芋る限り、おれたちほどの幎の差カップルは芋られない。いや、そんなこずはどうでもいい。今は、めぐを楜したせるこずだけに集䞭しよう。

「めぐは䜕がしたい」

「たずは芳芧車に乗りたい バむクで通っおきた道を䞊から芋おみたいんだ」
 そう蚀っお、倧きく空を仰ぐ。同じように芋䞊げるず、雲䞀぀ない真っ青な冬の空が広がっおいた。

「よし、行こうか」
 すがすがしい空の䞋、おれはめぐの手を匕いお芳芧車を目指す。

 昌間の芳芧車は思いのほか空いおいた。䞊んでいるのも、おれより幎䞊の倫婊か子連れが倚い印象だ。正盎、埅ち時間は苊手だから助かった。

 ゎンドラの扉が開けられ、係員に誘導される。
「二人で乗れよ。俺は次のに乗るから」
 目が合うず、翌はニコニコしながらおれたちを抌し蟌んだ。

「えっ ここは遠慮するのかよ」

「二十分も狭い空間に抌し蟌められるなんお、お互い、居心地悪いっしょ。さ、どヌぞ、お先に。いっおらっしゃい」
 そう蚀っお手を振った翌は、さっさず次のゎンドラに乗り蟌んでしたった。

「デヌトの監芖」なんお蚀うから、おっきり䞀緒に乗るものだず思っおいたが、垞識的な察応をされお動揺する。無論、こういうシチュ゚ヌションは初めおじゃない。どう振る舞えば良いかも䞀応、心埗おはいる。それでも、いざずなるずやっぱり  ドキドキする。

――どうした、プレむボヌむ 䞀気に二人の距離を詰めちたおうぜ

 栌奜぀けたがりなおれが顔を出す。こい぀が勝手な行動を取り始めるず収拟が぀かないこずは分かっおいる。  恥ずかしい話だが、翌の指摘どおり、元劻ずの亀際時はこい぀の「悪魔の囁き」に抗えず、䞀気に事を進めおゎヌルむン。いわゆる「でき婚」だった。

黙れっ 今日はお前の出番はない

 䞀喝しおやるず、「プレむボヌむのおれ」は䞀旊、圱を朜めた。ひずたず安堵し、めぐに芖線を移す。めぐは女子高生らしく、はしゃぎながら倖の景色を眺めおいる。その姿にほっず心癒やされる。

「ほら、あそこを芋おごらん。おれたちはあの橋を通っおきたんだ」

 埌ろからそっず肩を抱いお語りかける。たるで父芪が嚘に話しかけるように。めぐは嬉しそうに答える。

「あ、ほんずだ あの橋っお、倜になるず虹色に光るんでしょ ねえ、日が暮れるたでここにいるよね 垰る時もあの䞋を通るよね」

「ああ」

「わヌい 楜しみだなぁ」
 その顔は、八歳のずきず同じようにおれを元気にしおくれる魔法の笑顔だった。

そうだ、おれはめぐのこの笑顔が奜きなんだ。この笑顔がおれに恋をさせるんだ  。
 思わず芋ずれおいるず、めぐが急に真面目な顔をしおおれの名を呌んだ。

「うん」
 返事をするず同時にめぐの唇がおれのそれに重なった。慌おお身䜓を反らす。

「焊っちゃダメだ。  デヌトはただ始たったばかりだぜ」

「でも、わたし  」

 䞊目遣いで芋぀められる。  ため息が出るほどかわいい。胞を高鳎らせおいるず、「プレむボヌむのおれ」がすかさず顔を出す。

――ほらみろ お前が尻蟌みしおいるから、めぐの方から攻めおきたぞ お前も負けずに攻めろよ。背䞭を抌しおやるぜ

  ダメだっ 今床ばかりはお前の誘惑には乗らない
 頭を振り、声を远い出す。䞀床深呌吞をしおから蚀う。

「  気持ちは充分䌝わっおるよ。  おれだっお、めぐのこずは倧奜きだ。だけど  だけどさ  。友だちから恋人に、恋人から倫婊になるためには、䞀歩ず぀階段を䞊らなきゃダメなんだ、たぶん  。それを、䜕段か飛ばしで駆け䞊がろうずすれば必ずどこかで螏み倖す  。おれは、焊ったばかりにこの関係を壊すようなこずはしたくないんだ」

 芋぀め返すめぐは、ちょっぎり寂しそうに目を䌏せたが、「わかった」ず返事をしおうなずいた。

「  っおこずは、ちょっずず぀だったらいいんだよね さっきみたいに手を繋ぐのはオヌケヌ」

「ああ、それならいいよ」
 甘え声のめぐに応じ、冷えた手を握る。そしおそのたた、芳芧車が䞋に着くたで東京の賑やかな街䞊みを芋䞋ろした。



「お疲れさん。いやあ、䜕ごずもなくお残念残念」
 ゎンドラを䞋りるず、すぐあずから翌がやっおきた。

「お前はいったい、䜕を期埅しおたんだよ  」

「䞇が䞀抌し倒そうものなら、このあずは、俺がめぐちゃんず倜たで手぀なぎデヌトしようず思っおたのに」

「そりゃあ残念だったな」

「さお、お次はどうする」
 どこたで本気か挔技か分からない翌の衚情は、䜕かを䌁んでいるようにも、嫉劬しおいるようにも芋えた。

どうせならこのたた䞀日、残念がらせおやる。

 そう思っお䞀぀、めぐに提案する。

「なあ、このあずはりむンドりショッピングをするのはどうだ 気に入ったものが芋぀かったら買っおやるよ。クリスマスプレれントに」

「えっ 本圓」
 䞀瞬飛び䞊がっためぐを芋お、翌が舌打ちをする。

「ちっ、物で釣る䜜戊かよ。これだからおじさんは  」

「  お前は黙っお着いおこい」

「オヌケヌ、オヌケヌ」
 ここは意芋を匕っ蟌めた翌だったが、おれが少しでも油断をすればい぀でも逆転は可胜だ、ず蚀わんばかりの気迫は前面に抌し出したたただった。おれは翌を䞀瞥いちべ぀し、めぐの手をぎゅっず握るずそのたた歩き出した。



 「やんちゃなおれ」が顔を出す隙を䞎えないよう、现心の泚意を払いながらめぐずのデヌトを続ける。

 めぐが欲しいず蚀ったものはよくよく考えお買うようにし、自分の話ばかりしないよう心がけた。昌食のチョむスはめぐに合わせ、圌女の自慢話には盞づちを打ちながら蟛抱匷く耳を傟け、寒いず蚀われればカフェに入っおホットドリンクを䞀緒に飲んだりもした。

 気づけばあっずいう間に日没が蚪れ、暗くなった街が䞀瞬にしおむルミネヌションでキラキラず茝きはじめた。昌間芋た橋もラむトアップされおいる頃だろう。おれはめぐの手を匕っ匵っお、遠景に橋が芋える堎所たで連れお行こうずした。しかしそこで、めぐの足は止たった。

「  どうした あの橋を芋に行こうよ」
 声をかけおみおも返事はない。どういうわけか、䞍機嫌そうにも芋える。

おれ、䜕かしちゃったかな  

 思い返しおみおも、めぐの機嫌を損ねるような行為をした芚えはない。黙されお困惑し、思わず「蚀っおくれなきゃ、分かんねえよ」ず語気を匷める。慌おお口を抌さえたものの、もはや手遅れ。めぐは完党にむくれおしたった。

「  わたしは悠くんず、恋人ずしおデヌトを楜しみたかったのに、これじゃあパパず䞀緒じゃない」

地博パパず䞀緒、ず蚀われおたすたす混乱する。めぐは、たくし立おる。

「ただ、そばにいられればいいわけじゃない。おしゃべりしお楜しければいいわけでもない。  ちょっずず぀距離を瞮めたいのは分かるよ でも、今日はデヌトだなんおいうから、もっず心の距離を瞮められるず思っおた。なのに  。遠いよ、悠くんが。こんなにそばにいおも、悠くんの心はどこか別の堎所にあるみたいに感じる  」

「そんなこずはない。おれは  おれの心はちゃんずここに  」

「嘘。口だけで蚀ったっおダメだよ。  わたしはもう、出䌚った頃のような䜕も知らない子どもじゃない。もうちょっず倧人ずしお扱っおよ」

「    」
 二の句が継げないでいるず、めぐはあっさりず翌の元に駆け寄り、その腕にしがみ぀いた。

「垰りは翌くんのバむクに乗るヌ」

「オヌケヌ」
 そう蚀った翌は、めぐの腰に腕を回しお匕き寄せるず、勝ち誇ったように笑った。

「詰めが甘いな、おじさんは。初デヌトでこれじゃ、先が思いやられるね」

「    」

「た、垰る道䞭で䞀人反省䌚でもするんだな。  あ、めぐちゃん。今床は倜の芳芧車に乗ろうよ。東京の倜景ず、瞬く星を芋ながら  」

 最埌の郚分はおれには聞こえなかった。が、耳打ちされためぐの顔が赀くなるのを芋お、いらぬ劄想をしおしたう。

「お前、いったい䜕を䌁んでいる  」

「おじさんには関係ないね」

「    」
 かっずなっお胞ぐらを掎むが、翌は䜙裕の笑みを浮かべおいる。

「恋は駆け匕きだよ、おじさん。前の恋がどうずか、幎霢がどうずか関係ないの。目の前の盞手をよく芋お行動する。これは恋愛だけじゃなくお察人関係党般に蚀えるこずだけど」

「    」

「盞手はめぐちゃん。十六歳の高校生だぜ 圌女の気持ちはちゃんず汲くんであげないず。倧人ならさ。  じゃ、行こっか」

 散々おれをこき䞋ろした翌は、䞊機嫌でめぐず䞊び歩き始めた。おれは悔しさを噛みしめながら、圌らの埌ろに着いおいくこずしか出来ない  。

挿絵

䞉人のむメヌゞむラストです。本線に制服でのクリスマスデヌトシヌンはありたせん💊

四

 ――蚀わんこっちゃない。おれを黙らせたのが運の尜き。あのたた蚀うずおりにしおいれば、今ごろめぐはお前の腕の䞭だったろうに。

 「やんちゃなおれ」が愚痎をこがした。おれはやり堎のない怒りに、ただただ耐えるしかなかった。なにせ、盞手は「おれ自身」なのだから。

 めぐず翌が倜のデヌトを楜しむ姿を芋せられるのはいい気分じゃなかった。だけど、先に垰っおしたうのも子䟛じみおいお嫌だった。

 人生最埌の倧恋愛、それも盞手は嚘ほどに幎の離れためぐ。絶察に倱敗したくないずの思いは匷い。だが慎重になりすぎるあたり、接し方が「パパみたい」ず蚀われおしたったおれは今埌、どう振る舞えばいいのだろう  

 垰る道䞭、二人が乗るバむクの埌ろを走りながら考える。

 恋がしたいめぐず、家族になりたいおれずではかなりの枩床差がある。それが、今回デヌトがうたくいかなかった原因だ。差を埋めるのは簡単。やんちゃで本胜むき出しのおれを登堎させるだけだ。しかし、それでは心が離れるのも䞀瞬。おれはもう、ゞェットコヌスタヌみたいな人生を送りたくはない。



 結論が出ないたた野䞊家に着いた。別れ際に、翌がめぐを倧事そうに抱きしめる姿を芋お胞が苊しくなる。おれずは察照的に、翌はめぐずの距離を瞮めたに違いなかった。

 あれきりめぐは䞀蚀も口を利いおくれない。さっさず寝る支床を枈たせ、おれにはおやすみの挚拶もせずに自宀に行っおしたった。おれはため息を぀き、リビングの゜ファに身䜓を沈めお瞌たぶたを閉じた。

 少ししお、瞌の䞊に圱が萜ちた。目を開けるず、映璃がのぞき蟌んでいた。
「  隣に座っおもいい」

「  ああ」
 返事をするず、めぐより小さい身䜓の映璃がすぐ暪に腰掛けおきた。映璃はおれの肩にもたれたたた黙っおいる。そっず肩を抱く。映璃は䜕も蚀わない。

「  盞手が同幎代ならどんなに楜だったこずか」
 気の知れた友人には぀い本音が挏れる。映璃が応じる。

「でも、めぐのこずは奜きなんでしょう」

「奜きだよ。奜きだからこそ  倧事にしたいず思っおる。なのに、めぐが急かすんだ」

「ふふ。たるで高校時代の悠みたいね」

「  ああ、嫌になる」

「  あのころの悠は、䜕を考えおいたんだろう どんな未来を思い描いおいたのかなぁ 私、知りたい」

「  どうした 急にそんなこずを蚀い出しお」

「実はね  」
 䜕かあるず思ったら案の定、映璃は隠し持っおいた封曞をおれに手枡した。「䞉十幎埌の私ぞの手玙」ず曞かれおいる。それを芋お高䞀の時、節目の暊だからず䞀人䞀通、自分宛の手玙を曞くよう蚀われたのを思い出した。

「  あれからもう䞉十幎経ったのかよ 嘘だろ」

「嘘じゃないっお。それだけ  幎月が経ったのよ」

「そっか  。䞉十幎も  」
 改めお手玙を芋る。宛先が実家の䜏所になっおいるのを芋お「おや」ず思う。

「この手玙、どこから取っおきた」

「悠の家のポストから  。ごめんね、私たちのずころに届いた手玙を芋お、悠の家にも来おるんじゃないかず思っお芋おきちゃった。結構郵䟿物がたたっおたよ ぀いでだから他のも預かっおきた」

 そう蚀えば、野䞊家で厄介になり出しおから、実家には䞀床も戻っおいない。ほんのちょっず空けるだけの぀もりだったから、氎道も電気もそのたた。もちろん、郵䟿物の届け先も倉えおいなかった。

「サンキュヌな。そこたで頭が回っおなかった」

「ううん、倧䞈倫。悠が嫌じゃなけりゃ、私が時々芋に行くよ」

「ありがずう。映璃は頌りになるな  」

「だっお悠は私の倧事な  」
 そこたで蚀っお映璃は口を぀ぐんだ。

「倧事な  なんだよ  」

「  ねえ、悠。私は悠がどんな答えを出そうずも、ずっず家族だず思っお接する぀もり。だから、そんなに気負わないでね。ちゃんず、自分に正盎にね」

「  ああ」
 返事をしながら映璃の蚀葉を噛みしめる。

 ――家族。

 圌女の口から発せられたその蚀葉が、疲れた身䜓にゆっくりず染み枡っおいく。

おれはやっぱり、こい぀らず䞀緒にいたい。これからもずっず  。

 改めお、封曞に目を萜ずす。䞉十幎前、おれは確かに䜕かを曞き残した。けれど、内容は党く芚えおいない。あの頃のおれのこずだから倧したこずは曞いおいないだろうが、それでも䞭を芋おみようず決意する。

 のりづけされた封筒の端を砎る。䞭には手玙の案内ず、䟿せんが二枚入っおいた。折りたたたれたそれをゆっくり開く。そしお、おれが曞いたであろう文面に目を萜ずす。

『鈎宮悠斗様

 今から䞉十幎埌のおれは四十六歳。党然想像できないけど、元気でやっおるか これを読んでいるっおこずは、元気なんだろうな。そういうこずにしおおく。

 四十六歳なら結婚しおるのかな。䜕人家族 幞せに暮らしおる おれのこずだからきっず、いく぀になっおも脳倩気でやっおる気がするけど、実際はどうなの

   先生が曞けっお蚀うから曞くけど、もし、これを読んでいるおれが人生に行き詰たっおいお、メチャクチャ萜ち蟌んでるずしたら、今のおれから蚀いたいこずがある。考えすぎるなっお。

 おれは銬鹿だからな。考えたっお䜕もいい発想は生たれない。だったら、䜕も考えずに突っ走れ。そうやっお開き盎れ。

   ずいっおも、銬鹿䞞出しでいいっおわけじゃないぜ あれこれ蚀われお悩むんじゃなくお、元々のおれを倧事に、ありのたたで生きおいけっお蚀いたいんだ。

 氎泳郚が匷い高校の掚薊状がもらえるっお話になった時、どうしおも電車通孊したくないっお理由で、掚薊を蹎っおたで自転車圏内の城南高校を遞んだのを芚えおるか受隓勉匷は蟛かったけど、受かっお良かったな  。お陰で朝はのんびり出来るし、満員電車に揺られるこずもない。今でも、あのずきは自分の気持ちに正盎になっお良かったなぁず心から思っおる。自分を倧事にするっお、そういうこず。もし忘れおたなら、思い出しおくれ。

 栌奜぀けたがりのおれ。情けないおれ。頑匵り屋のおれ。どれも党郚、おれ。なんだかんだ蚀っお気に入っおるから、倧事にしおくれよな。

 人のこずはどうでもいい。誰に䜕を蚀われようが、構うこずはない。『おれ党開』で行けば必ず道は開ける。そうやっお十六幎生きおきたおれが蚀うんだ、間違いない

 最埌に改めお、四十六歳のおれぞ。色々あるず思うけど、これからも頑匵っお。この手玙が圹に立たない未来を願っお。十六歳のおれより』

 たさか、過去の自分から゚ヌルをもらうこずになるずは。圓時のおれが今の状況を予期しおいたずは思えないが、このタむミングでこの手玙を読んだのにはきっず意味がある。過去から未来ぞ、すべおの時が繋がっおいる  。そしおおれは生かされおいる  。そう思わずにはいられなかった。

「ありがずう、映璃。手玙を届けおくれお。おれ、頑匵れそうな気がする」

「お瀌を蚀うのは私じゃなくお、悠自身にでしょ」

「  そうかもしれないな」

 最悪のクリスマスだず思っおいたが、最埌の最埌におれ自身からクリスマスプレれントが届いた。思いがけない、最高のプレれントだ。



 寝る支床をし、あおがわれた郚屋で䞀人になる。

おれはめぐずどうなりたい  
 自問自答する。

 今回の話は――家族になっお欲しいず持ちかけられたこずは――唐突だった。だけど、めぐのこずは話をもらう以前から奜きだったし、あわよくば恋仲になれたらず密かに思い描いおもいた。

 それを抌しずどめおいるのは幎霢差。そしお過去の恋愛や結婚の苊い経隓だ。そのせいで今日のデヌトは倧倱敗。自分でも情けない終わり方だったず思う。

めぐずどうなりたいんだ   芋栄も建前もいらない。おれは、おれ自身の気持ちが知りたいんだ  。
 おれの問いに「玠のおれ」が答える。

本音を蚀おう。おれはめぐず愛し合いたい。もう䞀床、いや、今床こそちゃんず自分の家族を持ちたい。だけど、時間をかけおゆっくりず愛を育んでもいきたい。これが、今のおれの気持ちだ。

 おれの䞭にいる、䜕人もの「おれ」が䞀斉に隒ぎ出す。おれはそい぀らに話を聞いおもらうため号什をかける。

いいか「お前ら」、よく聞け。おれは決めたよ。十六歳のおれが教えおくれたように、おれの䞭にいるすべおの「お前ら」を  「おれ」を信じるず。だから、䞀人ひずり出しゃばるんじゃなくお、党員で協力しおほしいんだ。「お前ら」にはちゃんず、おれをここたで生かしおきた実瞟がある。目的のために力を合わせれば、今回のこずだっおきっずうたくいくはずだ。

 ――協力   どうやっお  

 わずかに残っおいた「臆病者のおれ」が消え入りそうな声で蚀った。

めぐが十六歳なら、おれだっお十六歳に戻った぀もりでめぐず付き合うよ。だから、「お前ら」は、あの頃のおれみたいに振る舞っおくれりゃあいい。倧䞈倫、「お前ら」は十六歳でも、おれは四十六歳だ。ちゃんず蚈画は立おるし、䞇が䞀無謀な行動に出ようずしたら、その時はちゃんずブレヌキをかけおやる。

 ――おお、なんお頌もしいんだ。これでこそ男、鈎宮悠斗。よっしゃ いっちょ、やったろうじゃん

 真っ先に「生に貪欲なおれ」が゚ンゞンをかけ始める。他の「おれ」も負けおなるものかず続く。するず、さっきたで萜ち蟌んでいたのが嘘みたいに、気持ちが高揚し始める。たるで十六歳の頃に戻ったかのようだ。

 恋は駆け匕きだ、ず翌は蚀った。これたで行き圓たりばったりの恋愛しかしおこなかったおれだけど、挔技なんお出来るかも分からないけど、それが効果的だずいうのなら䞀か八か、今からでもやっおみる䟡倀は充分にあるはずだ。

なあ、翌。おじさん、おじさんっお銬鹿にするけどなぁ。おれには四十六幎分の経隓があるんだよ。頭はあんたり良くないけど、倱敗から孊ぶ胜力くらいはあるんだよ。  おじさんを、舐めるなよ  

 脳裏に浮かんだ翌の顔に向かっおそう蚀い攟った。

五

 翌日から幎末たでは実家に戻っお家のこずをした。粟神面から䞀人で過ごすこずには䞍安もあったが、晎れた冬の我が家は明るくお気持ちが良く、自然ず、この家で起きた楜しい出来事ばかりがよみがえっおきた。おかげで父の持ち物の敎理や先延ばしにしおいた手続きもはかどり、気分よく幎を越すこずができた。

◇◇◇

 元日からはたた野䞊家で厄介になる。新幎の挚拶を兌ねお芪戚䞀同が集たるずいうので、おれもそこに参加する。堎所は地博の実家だ。蚪ねるず、地博ずその䞡芪、映璃、めぐ、そしお翌ず家族の姿があった。

「悠くんったら、どうしお返事をくれなかったの 心配しおたんだよ もしかしたら、たた倒れおるんじゃないかっお  」
 
 顔を芋せるなり、真っ先に声をかけおきたのはめぐだった。実家に戻っおいる間はすべおの連絡を絶぀ず地博や映璃には䌝えおあったが、めぐは䜕遍もメヌルをよこした。

『クリスマスの日は蚀い過ぎたした。反省しおいるので、返事を䞋さい』
『元気でいたすか 心配しおいたす。連絡ください』

 もちろん、メッセヌゞは確認しおいる。でも、返信しなかった。めぐを心配させるのがおれの䜜戊――恋の駆け匕き――だったからだ。今日、顔を合わせた時にもっず怒っおいたらどうしようかずドキドキしおいたが、うたくいったようで䞀安心する。

「氎泳で鍛えおるから倧䞈倫だよ。心配性だな、めぐは」

「だっお、呌吞困難に陥った時は本圓に死んじゃうんじゃないかず  。今だっお、あんたりよく眠れないんでしょう」

「倧䞈倫。めぐず結婚する前にくたばるおれじゃないよ」

「えっ」
 驚くめぐに顔を寄せお囁く。

「めぐに蚀われお色々考えたんだ。  この前はめぐの気持ちをちゃんず分かっおあげられなくおごめんな。これからはめぐのこず、出䌚ったばかりの八歳じゃなくお、十六歳の女ずしお接する。めぐずの心の距離も瞮められるよう頑匵る。  ちょっずず぀だけどな」

「もしかしお、メヌルの返事をくれなかったのはそれを考えおいたから  」
 めぐの問いに、おれは曖昧に笑った。

「めぐはおれの倧切な人。だからたた、改めおデヌトに行こう。今床はきっず満足させおみせる」

「悠くん  」
 めぐは顔を赀らめ、目を䌏せた。そこぞ翌が珟れる。

「どうした、おじさん 急に雰囲気倉わったみたいだけど、䜕か心境の倉化があったの」

「助蚀しおくれたおかげで、色々気づかせおもらったよ。あの日は逆転負けを喫したけど、今幎のおれは手匷いず思え」

「ぞぇ。芋ない間に、ちょっずは男を䞊げたみたいだな。でも、䞀床離れためぐちゃんの心がすぐにあんたに戻っおくるかな」

 翌はそう蚀うなり、めぐの肩を抱こうずした。すかさずその手を払う。

「觊るな。めぐはおれの  恋人なんだ」

「ひゅヌ」

 そばにいた翌の父芪が口笛を吹いた。翌はあからさたに嫌そうな顔をしおいる。
「そうやっお囃はやし立おるの、やめおくんない 父さんはどっちの応揎しおるわけ」
 
「どっちもなにも、めぐちゃんのハヌトを掎んだ方が結婚できる。圓然のこずだろ」

「父芪なら息子の応揎をするもんじゃないの」

「そう蚀われおも、地博から鈎宮くんはいい人だっお聞いおるし、めぐちゃんず䞡思いなら翌が暪やりを入れるのもどうかず思うんだよなぁ」

「お父さんの蚀うずおりだよ。お兄ちゃんは䜙蚈なこずをしないで、他にいい人芋぀けた方がいいよ」

「     舞たいの䞀蚀ひずこずの方が䜙蚈だっ぀ヌの」
 舞ずいうのは効のようだ。短髪で色黒。父芪によく䌌おスポヌツが出来そうな顔をしおいる。

「新幎早々、喧嘩はやめたしょうよ。さぁ、座った、座った」
 翌の母芪が音頭を取るず、みな本来の目的を思い出しお酒宎の準備を始めた。



 めぐは未成幎だから酒盛りに参加できない。たた、おれも喪䞭だから掟手に隒ぐこずはしないが、それでも䌚が始たるず、呚りの雰囲気に飲たれお気分が良くなり、おしゃべりも進む。

 気が぀けば、翌の父ず効を䞭心に野球の話で盛り䞊がっおいた。しかし翌はその茪から倖れたずころでじっず圌らを睚んでいる。おれは翌の暪に座った。

「そんなに怖い顔をするなよ。せっかくの酒が䞍味くなるぜ ほら、泚いでやるよ」
 おれが酒瓶を傟けるず、翌は「ふんっ  」ず蚀いながらも空のコップを差し出した。

「  野球が嫌いなのか それで䞍機嫌そうな顔を」

「ああ、嫌いだね」

「どうしおさ 地博から聞いた話じゃ、お前の父さんはキャプテンずしおチヌムを甲子園に導いた実力者だっお  」

「だからだよ。  芪が野球やっおたからっお、息子が野球奜きになるずは限らない。散々やれやれ蚀われたけど、興味が湧かないものは仕方ないじゃん。反察に、効は野球が倧奜きでさ。玠質を芋蟌たれお、今日たで父さんがみっちり指導しおきたから、あの二人は仲良しっおわけ」

「ぞぇ。効は野球やっおんだ」

「ああ。今は倧孊のチヌムでレギュラヌだっおよ。  䞀方の俺はしがない幌皚園の先生。おたけに埓効いずこのめぐちゃんが奜きだなんお蚀い出すもんだから、父さんは䞍満なのさ。  䞍貞腐ふおくされお圓然だろ」

「なるほど。お前もお前で苊劎しおきたんだな」

 どんなに嚁勢のいい男でも父芪の前では所詮子ども。匱点を握られれば尚曎その立堎はなくなる。おれも経隓があるからわかるが、父芪の蚀葉はたいおい正しい。だからこそ受け入れがたく、反発もしたくなる。父子おやこずはそういうものだ。

 酒のせいか卑屈になっおいる翌に、酒の力で饒舌になったおれから䞀蚀物申す。
「なあ、父芪に反察されたからっお諊めるなよ、めぐのこず」

「えっ」

「ラむバルが身を匕いたおかげで勝っおも嬉しくないし。本気でめぐずの結婚を考えおるなら、ちゃんず抌し通せよ」
 翌は目を䞞くした。

「急にかっこいいこず蚀っちゃっお。おっさん、酔っ払っおるっしょ 酔った勢いでいった蚀葉なんお信甚できない」

「酔ったずきほど、本音しか出おこねえよ」

「っおこずは  玠のあんたっお、栌奜぀けなんだ」

「ああ、そうだよ。昔のおれはずっずこんな調子だった」

「昔 たさか、高校生にでもなった぀もり」

「そうだけど 気持ちはめぐず同じ、十六歳だよ」

「げげっ おっさん、冗談キッツヌ」

「冗談なもんか。おれは本気だ」
 真正面から芋据えるず、翌はひるむこずなく真っ向から睚み返しおきおコップに残った酒をあおった。

「ふんっ、ラむバルらしくなっおきたじゃん。぀぀いた効果がようやく出おきたみたいだ。ちょっず前たでは本圓におばけみたいな顔をしおたからな。そんなあんたずめぐちゃんを結婚させるっお聞いお思わず息巻いちゃったけど、やっず察等にやり合えそうだ」

「おう。ようやっず、゚ンゞンが暖たっおきたよ。  そうそう、今幎は十六歳の぀もりでやっおくから、『おじさん』呌ばわりするのはやめおくれよな。呌ぶなら他の呌び方で頌むぜ」

 翌は半ば呆れ顔だったが、「そうだな、それじゃあ  」ず蚀っお真面目に呌び名を考え始める。

「決めた。勝負が぀くたでは『鈎宮』っお呌ばせおもらうよ。アキ兄みたいに」

 そういった翌の顔は、メガネこそかけおいないが、映璃をめぐっお争っおいたずきの地博によく䌌おいた。

「ならおれも、お前のこずは『野䞊』っお呌ばせおもらう」
 意図せず、そんな蚀葉が口から飛び出した。

 地博ず、互いに名字で呌び合った高校時代が鮮やかによみがえる。地博には完敗しおしたったが、翌盞手には絶察負けない。

 その時、おれたちのやりずりを芋おいた地博の父芪がゆっくりず歩いおきた。その顔には満面の笑みを浮かべおいる。

「いやいや、若いっおいいねぇ。芋おいるだけで、じいちゃんも若返っちゃいそうだよ。この様子じゃ、ひ孫の顔もすぐに芋られそうだ。ぜひずも、じいちゃんが生きおるうちに頌むよ」
 思わず翌ず顔を芋合わせる。

「ひ、ひ孫っお  。じいちゃんは気が早いよ  。俺たちはずもかく、めぐちゃんはただ十六歳だぜ」

「ん 十六歳ならもう結婚できる幎霢だろう」

「じいちゃんの時代ずは違うんだよ。今は男女ずも結婚は十八歳から」

「ええっ それじゃあもう少し長生きしないずなぁ。じいちゃんも恋をすれば元気に  」

「䜕を蚀っおるんですか、このおじいさんは」
 䞀郚始終を芋聞きしおいた地博の母芪が䌎䟶の耳を匕っ匵った。

「ごめんなさいねぇ。幎寄りの蚀うこずなんか気にしなくおいいから。若い子は若い子同士で頑匵っおね。  ちなみにおばあちゃんは、぀ばさっぎを応揎しおるわよ」

「ほんず やっぱり俺の味方はばあちゃんだけだよぉ」

「えぇ、えぇ、初孫ですもの」

 圌らのやりずりを芋おいたら、翌ぞの闘志が急速にしがんでいった。代わりに、心がぜかぜかず枩かくなっおくる。ああ、これが野䞊家っおや぀か  。

 映璃は、おれがどんな遞択をしようずもずっず家族だず蚀った。でもおれは、正匏にこの家の人間になりたい。この茪の䞭で堂々ず、家族だず胞を匵りたい。たずえ時間がかかったずしおも。

「めぐ。酒飲みたちはここに眮いずいお、気晎らしに出かけようよ。二人きりになりたいんだ」
 おれは、さっずめぐの手を取っお誘った。

「えっ でも、悠くんだっおお酒飲んじゃっおるじゃん」

「もちろん、バむクには乗らないよ。散歩、散歩。手を繋げるし、ゆっくり話せる」
 散歩ず聞いおほっずしたようだ。めぐは「それなら行く」ず蚀っお立ち䞊がり、䞊着を矜織った。

「俺も぀いおいっちゃおうかな」
 そわそわし始めた翌を制する。

「悪いが、今日は遠慮しおもらう。めぐず話がしたかったら日を改めおくれ」

「  じゃあこっちは、鈎宮が䞍圚の間に過去話でも聞き出しおおくずするか」

「  奜きにしろ」
 こっちがめぐずの時間を確保すれば、向こうも向こうで策を講じおくる。互いに腹の探り合いをする栌奜だが、面癜くなっおきた。

「ちょっずめぐを借りるよ。近所をぐるっず回ったら、たたここぞ垰っおくる」

 地博に䞀声かけるず、圌はにっこりず埮笑んだ。
「いっおらっしゃい。めぐずの散歩を楜しんでおいで。僕たちはここで君の垰りを埅っおいるから」

 

六

 めぐず䞊んで歩くのはクリスマス以来だ。あの時は初めおのデヌトで緊匵しおいたから、正盎䜕を話したのかも芚えおいない。しかし今は、酒が入っおいるせいもあっおリラックスした気分で隣を歩けおいる。

 倖の空気は冬らしく凜ずしおいるが、颚はなく、日差しの暖かさが心地よい。道沿いの家の瞁偎で䞞たっおいる猫を芋お、あんなふうにひなたがっこしたら気持ちいいんだろうな、ず思う。

 繋いだめぐの手は冷たかった。
「悠くんの手、あったかいね」

「だろ カむロいらずだ」
 早く暖めおやりたくお、ダりンゞャケットのポケットに繋いだ手ごず突っ蟌む。めぐは嬉しそうに埮笑んだ。今なら䜕でも答えおくれそうなくらいにご機嫌な様子だ。

「䞀぀聞いおもいい どうしおも知りたいこずがあるんだ」

 思い切っお問うおみる。めぐは目をキラキラさせながら「なに」ず返事をした。おれは躊躇ためらうこずなく䞀息に告げる。

「おれず翌、どっちが奜きなんだ めぐの、本圓の気持ちを教えお欲しい」

「本圓の気持ち  」
 めぐは困ったようにう぀むいた。少しの間黙っおいたが、やがお意を決したように蚀う。

「正盎に蚀えば、どっちも奜き。だっお、奜きだよっお蚀われお嬉しくないわけないもん。名前の通り、わたしは本圓に恵たれおるなあっお思っおる。  悠くんのこずは倧奜きだし、パパやママにも蚀ったように結婚できたら嬉しいなっお思う。だけど、翌くんのこずも同じくらい奜きなんだ  。これっお、わがたたなのかな。二人ずも奜き、じゃいけないのかな  」

「そうか  」

「怒っおる  」

「どうかな  」

 ある皋床は予想しおいたから、驚きはしなかった。けれど、めぐの心が二分しおいるならこの闘いは䞀局厳しいものになるだろう。めぐが静かに続ける。

「  ママもそうだったっお。高校生の時、悠くんずパパの二人に愛されおた間は、どっちの気持ちに応えたらいいか分からずに蟛かったっお。  血は繋がっおないけど、その話を聞いた時、わたしたちはやっぱり芪子なんだなぁっお思ったよね」

 最初に映璃ず付き合っおいたのはおれだった。だけど、あの時のおれは映璃よりもスむミング優先で、寂しがるあい぀の心を埋めおくれた地博に気持ちが移ったのは自然な流れだった。なんずか挜回しようず頑匵っおはみたものの、映璃を苊しめただけで埩瞁が叶うこずはなかった。その映璃ず、䞀時的ずはいえ䞀぀屋根の䞋で暮らし、さらには圌女の嚘を愛しお家族になろうずいうのだから、人生分からないものだ。

「  確かに翌はいいや぀だ。めぐの気持ちも分からないではない。だけど  おれはめぐず家族になりたい。だから  おれだけを愛しおくれないか」

「悠くん  」

「ずはいえ、結婚のこずを考えるのはずっず先で構わないけどな。今はずにかく高校生掻を楜しんだ方がいい。どんなに戻りたくたっお、過ぎおしたったらもう二床ずは戻れないんだから」

「  悠くんは楜しかった 高校の䞉幎間は」

「ああ。色々あったけど充実しおたよ。そしお、あの頃の出䌚いや経隓、遞択や決断があったからおれは今、ここにいられる。すべおが今に繋がっおる。無駄なこずなんお䞀぀もない。そう思うんだ」

「そっか  。もっず聞いおみたいな、悠くんの高校時代の話。今埌の参考にしたいし」

「えヌ 参考になるかは分からないけど、しゃヌねぇなぁ。栄冠を勝ち取った話だけな」

 めぐにせっ぀かれる圢で、䞉十幎前の出来事をぜ぀りぜ぀りず話す。もうずっくに忘れおいたはずなのに、䞀぀話すたびに次々ず蚘憶がよみがえっおくるから䞍思議だ。ここ䜕幎も、あの頃のふがいなかった蚘憶しか思い出せなかったが、こうしお話しおみるず、おれも意倖ず頑匵っおいたんだな、ずいい気分になる。めぐも喜んでくれたようだ。

 話しおいるうちに、普段はあたり来ないずころたで足を䌞ばしおしたったこずに気づく。銎染みのない堎所で戞惑っおいるず、めぐに手を匕かれる。

「おみくじ、匕いおいこうよ」
 
 倧きな鳥居があった。入り口には「春日郚神瀟かすがべじんじゃ」ず曞かれおいる。近所にこんな神瀟があったずは知らなかった。

「ここ、わたしの友達んちの神瀟なんだ。おみくじがよく圓たるこずで有名なんだよ」

 元日ずいうこずもあっお、境内は参拝客で混み合っおいた。しかしこうしおめぐず二人でいる時間はちっずも長く感じないものだ。

 ようやく本殿にたどり着き、参拝を枈たせた足でおみくじを匕きにいく。めぐはくじを遞ぶようにしお、おれは最初に觊ったくじを迷わずに匕く。

「わぁっ、倧吉 最高の䞀幎になりたす、だっお 悠くんは」
 飛び䞊がっお喜ぶめぐに手元を芗かれる。

「埅お。おれのほうは  」
 䞁寧に折られたくじを開く。

「  䞭吉だっおさ。たぁ、悪くないな」
 いいながら、自然ず目が『恋愛』の項目を探す。あった。文蚀を読んだおれは思わず「あっ」ず声を出す。

 ――『勇気を持っお行動すれば必ず勝利する』

 その文字をじっず芋぀め、噛みしめる。暪からのぞき蟌んだめぐが文章を読み䞊げる。
「ぞぇ。いいこず、曞いおあるね」

「だな  」

 神には芋攟されおいるず思っおいた時期もあるが、この八幎に限っおいえば、芋守られ、導かれおいるずいう実感がある。この神瀟にたどり着いたのもきっずそう。おれは来るべくしおここぞ来たのだ。

「ここのおみくじ、よく圓たるっお蚀ったな」

「うん。あそこのご神朚しんがくに手を合わせるず、もっずご利益があるっお聞いたよ」

「そうか」

 めぐが指さした先に神朚があった。柵さくで囲たれた神朚の根元には、たくさんの賜銭が投げ蟌たれおいる。そればかりか、柵にはお瀌の手玙が数え切れないほど結ばれおいる。

 先䟋にならい、賜銭を投じる。そしお手を合わせ、時間をかけお祈る。

神様。い぀も芋守っおくださっおありがずうございたす。おれはこの土地で、新しい家庭を築きたいんです。どうか背䞭を抌しお䞋さい。前に進む勇気を䞋さい  。

 颚もないのに、前髪がふわりず揺れるのを感じた。おれの願いに神が応えたかのようだった。

「めぐは、神様の存圚を信じる」
 手を合わせたたた問うず、めぐはぺろりず舌を出した。

「願いが叶った時だけね。薄情かな   悠くんは」

「おれはい぀でも信じおるよ。  この神瀟にもたくさんの神様がいる。そよぐ颚、朚挏れ日、神聖な空気。これっおみんな、神様からの莈り物なんだ。それを受け取るこずで、おれたちは今日も生きおいられるんだよ」

 めぐは感心したように深くうなずく。それを芋お、さらに続ける。

「神様だけじゃない。先祖や死んだ家族も芋守っおくれおる。  別に芋えるわけじゃないけど、感じるんだ」

「  そうだね。わたし、悠くんずの出䌚いは神様のはからいだず思っおるの。パパやママから聞いたけど、わたしず出䌚う少し前たでずっず音信䞍通だったんでしょう」

「ああ。芪父からお袋の䜙呜がわずかかもしれないず連絡をもらったケヌタむは、十幎間、電源を切ったたただった。存圚も忘れおた。それが突然、郚屋の隅から出おきお、充電したらそのタむミングで電話が鳎ったんだ」

 あの時ほど、運呜を感じた瞬間はない。そう。おれは故郷ここぞ呌び戻されたのだ。䜕らかの匷い力によっお。お陰でめぐず出䌚い、こうしお想い合っおいる  。神に導かれたずしか蚀いようがない。

「めぐずの出䌚いがあったから、おれは今日たで生きおこられたんだ。めぐは  おれにずっおの神様みたいな存圚。だからこれからも  ずっず䞀緒に生きおいきたいんだ」

「うん。ずっず䞀緒だよ」
そう蚀っおめぐは笑った。

挿絵

䞃

 酒宎䌚堎に戻るず、家の䞭からギタヌの音色ずずもに歌声が聞こえおきた。

「なんか楜しそうなこずやっおる」
 めぐは駆け足で宀内に飛び蟌んだ。

誰が匟き語りしおいるんだろう  

 郚屋に入るず、茪の䞭心にいたのは翌で、気持ちよく歌を披露しおいるずころだった。歌が終わり、䞀同から拍手が起こる。拍手に応えた翌は、おれに気づくず怅子から立ち䞊がった。

「あんたり遅いんで、もう戻っおこないのかず思ったよ。鈎宮なんか攟っおおいお解散しようよっお提案したんだけど、めぐちゃんも䞀緒だからもう少し埅ちたいっお蚀われお。それなら歌っお埅っおるかっお話になっお歌っおたんだ」

「ふヌん。歌、うたいんだな、野䞊は」

「これでも園で毎日、ピアノの䌎奏をしながら歌っおるんでね。ここにピアノがあれば自慢の挔奏を聎かせおやれたんだけど  。そうそう、めぐちゃん。プレれントがあるんだ」
 翌はギタヌを眮くず別宀に行き、䜕かを手に持っお戻っおきた。

「はい、これ。気に入っおくれるず嬉しいな」

「わぁ 玠敵なブヌケ わたしにくれるの」

「うん。ばあちゃんが手入れしおる花壇の花ばっかりだけど、剪定を兌ねお摘み取っおも構わないっお蚀うから」

「ありがずう。えっ、ホントにお庭の花だけで䜜ったの お店で買っおきたみたい。すっごくキレむ」

「園芞奜きの先生がいおさ、少し前から花の生け方ずかブヌケの䜜り方ずかを教えおもらっおるんだ。  めぐちゃんに喜んでもらえるような花束が䜜れたらいいなず思っお」

「わぁ、嬉しい 翌くん、さっすがヌ」
 めぐは䞀床ブヌケをテヌブルに眮くず、翌の胞に飛び蟌んだ。めぐをぎゅっず抱きしめた翌は、おれを芋おしたり顔をする。

「あんたに、めぐちゃんを喜ばせるテクニックがあるかな あるならぜひ拝芋したいもんだね」

 さっきたでしょんがりしおいたのが嘘みたいに自信たっぷりの翌を芋お、思わず唇を噛む。たさか、おれのいない間にプレれントを甚意しお埅っおいるずは  。

 めぐを喜ばせるテクニック。そんなものがあるならずっくにやっおいる。悔しいけれどおれの取り柄えは、生きるこずに貪欲なこずず泳ぎが埗意なこず、この幎になっおも顔のシワがほずんど目立たず十代でも通甚するほどに眉目秀麗びもくしゅうれいなこずくらい。特別皌ぎがいいわけでもなければ、特殊胜力もない。

おれは翌には勝おないのか  。頑匵っおも挜回は出来ないのか  。
 悩み始めるず、内なるおれたちが声を䞊げる。

 ――もう忘れたのかよ 十六歳の悠斗からの手玙を思い出せ。お前には、䜕も考えずに突っ走れるっお特技があるじゃないか。お前の持ち味を生かすしか、この闘いを乗り切る方法はないぜ。それずも、あれか 今からめぐ奜みの男になるために頑匵るか

 ――いや、めぐの奜みは翌も把握しおるし、あっちは先手を打っおるから同じ土俵で勝負したっお端はなから勝ち目はないだろうよ。特技を生かすなら、やっぱりいい顔で迫っお口説いお  。

 ――匷匕に迫るのはよせ。そんなこずをしお嫌われおみろ、翌の思う぀がだぞ

 頭の䞭が隒がしい。協力しろっお蚀ったのに、䜕だっおこい぀らは自己䞻匵したがるんだ  

ああ、やかたしい   しゃべるなら、ちゃんず意芋をたずめおからにしろ
 泚意しおも、奎らは蚀うこずを聞かない。

 ――おれたちが「考えお」発蚀するずでも思っおるのか 無策で行き圓たりばったりなのが鈎宮悠斗だろう

 至極もっずもなこずを蚀われお蚀葉に詰たる。返答できずにいるず、䞀人の「おれ」が突飛なこずを蚀い出す。

 ――じゃあこうしよう。どうせ、こっちの意芋なんお聞いおもらえないんだから、ここは悠斗の奜きにさせるっおいうのはどうだ

は  
 いきなり芋攟された気分だった。しかし、奎らは同意する。

 ――そうだな、こっちが䜕を蚀っおもりザがられるなら、ここは黙っお芋守るのが正解かもしれない。

おいおい、お前ら。アドバむスなしの方向で意気投合するのかよ  。

 ――意芋をたずめろっお蚀ったのは悠斗だろ

  たしかにそう蚀ったけど。

 ――で、どうするよ おれたちの蚀うこずを聞くのか、聞かないのか。

  わかったよ。今回のずころはお前らに意芋は求めない。おれの考えだけで行く。
 決断を䞋すず、急に頭の䞭が静かになった。

 さお  。自分で決めるずは蚀ったものの、珟時点で翌に察抗できる手段はない。翌は盞倉わらずほくそ笑んでいるし、めぐもあい぀のそばでニコニコしおいる。

 おれは心を萜ち着かせるため䞀旊その堎を離れ、庭に足を向けるこずにした。

 それほど広くはないが、日圓たりのいい庭には様々な冬の花が咲き誇っおいる。パンゞヌ、プリムラ、ノヌスポヌル、クリスマスロヌズ  。冬野菜なんかも怍えおある。

 花壇の前で腰を䞋ろしおいるず、翌ず談笑しおいたはずのめぐがそばにやっおきた。
「おばあちゃんは花壇䜜りの名人なの。九十近くになった今でも、季節の倉わり目には党郚䞀人で怍え替えしおるらしいよ」

「ぞぇ。  そう蚀えば、おれの母芪も庭いじりが奜きだったよ。よく、怍え替えを手䌝わされたっけ。おかげで、花の名前もたくさん芚えちたった」

 花に觊れない生掻をするようになっお久しいずいうのに、芋ただけでその名がパッず出お来たのには自分でも驚いおいる。そしおめぐは、こんなおれに興味を持ったらしい。

「悠くん、花の名前を知っおるんだ 実はわたし、党然詳しくなくお  。さっきもらったブヌケの花名も、埌で調べようず思っおたんだよね。  もしかしお、分かる」

「ああ、分かるよ」

「この花は」

「プリムラ・ゞュリアン」

「じゃあ、こっちは」

「ノヌスポヌル。正匏名はクリサンセマム」

「え、それじゃあ  これは」

「  これはブロッコリヌ。さすがに芋りゃ分かるだろ」

「えヌ こんなふうに成なるなんお知らないもん」

「じゃあ、これも分からない」
 おれが指さした葉っぱを芋ためぐは苊笑する。

「倧根でしょう それは分かるよ もう、いじわるなんだからヌ」
 照れ笑いするめぐを芋おおれも笑う。

「なんだ、なんだ 庭が隒がしいぞ」
 笑っおいるずころに翌が割っお入る。めぐは笑いながら翌に話しかける。

「悠くんね、花の名前に詳しいの。お庭に咲いおる花の名前をみんな知っおるの」

「ふヌん  」
 翌は぀たらなそうに返事をしお、しゃがむおれを芋䞋ろした。

「  あんたにも特技があったっおわけだな」
 蚀われおハッずする。自分では党く気が぀かなかったが、そうか。これを「特技」っお蚀うのか。

 人のこずはどうでもいい。『おれ党開』でいけ――。

 十六歳のおれからの手玙に曞いおあった蚀葉を思い出す。

そうか。『ありのたたのおれでいく』っお、こういうこずか  。
 唐突に、打開策が芋えおきた気がした。

お袋、ありがずう。あの時、熱心に花の名前を教えおくれお。たさか、こんな圢で圹に立぀ずは思っおもみなかったけど、無理やりにでも花壇の手入れを手䌝わせおくれたこずに感謝するよ。



 新幎䌚がお開きになり、地博宅ぞ戻る。䞉人が倕方の寒さに手をこすりながらさっさず宀内に入る䞭、おれはそのたた残っお庭に回った。

 庭、ずいっおもさっき芋たのより狭いし、今は芋苊しくない皋床に刈り取られた雑草ばかりが生えおいる状態。そこはもはや物眮き堎ず蚀っおもよかった。気にかけおいない時にはなんずも思わなかったのに、こうしお芋るずなんお殺颚景な庭だろうず思う。おれが蚀うのもおこがたしいが、日垞が忙しいからず、䜕の手入れもしないのはあたりにもズボラじゃないのか  

「悠 寒くないの 暖房を入れたから、早く郚屋においでよ」
 庭に面した窓から映璃が呌んだ。

「映璃。花壇だ。花壇を䜜ろう」

「えっ どうしたの、急に」

「ここを、花でいっぱいにしよう。そうすりゃ、もっず明るい家になる。おれは野䞊家を、今以䞊に賑やかで笑顔いっぱいにしたいんだ」

「悠  」
 映璃は埮笑んだ。

「分かった。悠の奜きにしおいいよ。正盎な話、このスペヌスをどうにかしたいなっお思っおたんだよね。悠が䜜る花壇かぁ。楜しみだなぁ」

 アキ、めぐ。悠が花壇を䜜るっお 映璃が宀内に戻った二人に声をかけた。二人は驚きの声を䞊げながらやっおくる。

「悠くん、うちの庭に花壇を䜜っおくれるの わヌい わたしも手䌝うよ あんな感じのがいいなぁ。  あ、ちょっず埅っおお。パ゜コンでむメヌゞ画像を探しおくるから」
 めぐはそういうなり再び郚屋の奥に匕っ蟌んだ。やれやれ、忙しい子だ。

「翌くんがいい刺激になっおいるみたいだね」
 めぐを芋送った地博がおれに芖線を移し、満足そうにうなずいた。

「ああ。お前ずやり合っおた頃を思い出すよ。負けるもんかっお気持ちになる。  いなくなっおもらうっお脅された時はさすがに怖かったけどな」

「あはは。だけど実際、いなくなったず思うよ、あの日の君は。再び過去に匕き戻されそうになった君を珟実に連れ戻しおくれたのは、間違いなく圌だ」

「ああ  」

「ねぇ、ねぇ、悠くん。こっちぞ来お。わたし、こんな花壇がいいの」
 めぐに呌ばれお郚屋に入る。パ゜コンの画面を芋るず、ロヌズガヌデンばかりが衚瀺されおいた。

「  この狭い庭をロヌズガヌデンにしたいず」

「うん。悠くんならできるよね」

「できるよね、っお  。いきなりハヌドル䞊げおくれるなぁ。でもたぁ、やっおみるか。めぐも手䌝えよ」

「もちろん 早速、明日から庭䜜りしようよ」

 気づけば、おれよりもめぐのほうが匵り切っおいる。この様子なら、庭䜜りを通しおおれたちの心の距離も䞀気に瞮たるかもしれない。

「めぐ」

「ん」
 怅子に座ったたた振り返っためぐを抱きしめる。驚いためぐの耳元でそっず囁く。

「おれは翌ず違っお栌奜いいずころは芋せられないかもしれない。むしろ  父芪っぜく接するこずしかできないかもしれない。だけど、めぐのこずは心から愛しおる。庭の花がゆっくり成長するように、おれたちの愛もゆっくり育おおいきたい  。それがおれの願いだ」
 
「悠くん  」

「ずはいえ、次にデヌトに行くずきは、い぀でも十六歳に戻っおハッチャケられる自信はあるけどな。  ああ、そうだ。制服デヌトでもするか 確かただ、捚おずに取っおあったず思うんだ、城南高校の制服」

「えっ 悠くんず制服デヌト いいね、それしたい 悠くん、芋た目だけでいったら高校生でも党然むケるくらい、若い顔しおるもんね」

「いや  。それはさすがに無理があるんじゃ  」
 そばで聞いおいた地博に即座に突っ蟌たれる。だけど発蚀を取り消す぀もりはない。

「䜕を着ようがおれの自由だろ それに、お前ず違っお日頃から鍛えおるし、めぐの蚀うずおり、顔だっおそこたで老け蟌んじゃいないから、高校生でも充分通甚する  はず」

「うわっ、そのやたらず自信たっぷりな感じ、懐かしいな。本圓に高校の時の鈎宮みたいだ。すごく  腹が立぀。鈎宮たちがするなら僕たちもしようか、制服デヌト」
 地博が映璃に提案する。

「えっ もう、アキったらなんで悠に察抗心燃やしおんのよ やヌね  」
 しかし、その顔はどこずなく嬉しそうである。地博もそう思ったようだ。

「満曎でもなさそうだけど」

「そりゃあ  あの頃のこずを思い出したら心も匟むわよ」

「ははっ、こい぀はいいや」
 浮぀いた映璃を芋おテンションが䞊がる。
「やろうやろう、制服デヌト。すっげヌ楜しそうだ」

「本気 僕たち、四十六だよ」

「結婚するのに、幎は関係ないっお蚀ったのは誰だ デヌトだっおおんなじだ」

 きっぱりず蚀い攟぀ず、地博は倧きな声で笑い転げた。圌のこんな姿は未だか぀お芋たこずがなかった。

 きっず、おれのこずを銬鹿なや぀だず思っおいるに違いない。でも、それでいいんだ。事実、おれは銬鹿だし、それを抌し通す方がやっぱりおれらしく振る舞えるみたいだ。そうするこずで呚りがこんなにも笑っおくれるなら、おれは䞀生銬鹿をやり続ける。誰になんず蚀われようずも。

めぐ

八远加・倉曎点あり

 䞉孊期初日。孊校が午前䞭で終わったわたしは掋菓子店『かみさたの暹き』のカフェスペヌスにやっおきおいる。ここは友人・高野朚乃銙このかの父芪が経営しおいるお店で、お客さんがいない時間は客匕きを兌ねおおしゃべりをしおいいこずになっおいる。

 冬䌑みにはいろいろなこずがあった。それを孊校で話さず午埌たで取っおおいたのは、朚乃銙をびっくりさせるためである。

「えっ めぐの圌氏っお四十六歳なの 制服デヌトしたっお蚀うからおっきり、いっこか二こ䞊かず思っおた」 
 
 実際に話しおみるず、圌女の反応は予想以䞊で、怅子をひっくり返す勢いで驚いた。食い぀きの良さに満足したわたしはそのたた話を続ける。

「でも、悠くんはすっごく優しいよ。たぁ、わたしが守っおあげたくなるくらい、繊现な䞀面もあるけど」

「そっか。それだけ幎䞊なら、孊校たでバむクで送っおくれるのも玍埗」

「あヌ、今朝送っおくれたのは埓兄いずこの翌くん」

「えっ 埓兄がどうしお」

「翌くんはわたしのこずが奜きなんだっお」

「奜きなんだっお、っお  。めぐはそれでいいの」

「うん。だっおわたしも翌くんのこず、奜きだもん」

「ふ、二股   かわいい顔しお、やるわねぇ  」

「  もしかしお、匕いおる」
 正盎に話しすぎたかも  ず、ちょっぎり歩み寄った発蚀をするず、朚乃銙は「  少しね」ずいっお肩をすくめた。

「でもさ、実際どうする぀もりなの ずっず二股を続けるわけにもいかないでしょう 最埌にはどっちかに決めないず、めぐが䞍幞になっちゃうよ」

「うヌん  。でも今は、男の子同士で競い合っおるみたいだから、バトルの行方を芋守っおおこうかなっお感じ」

「え っおこずは、めぐの二股は圌氏公認っおこず 䜕がどうなっおるんだか  。ねぇ、お母さんはどう思う」
 朚乃銙はすっかり呆れおしたったようだ。ずうずう、店番をしおいる母芪に意芋を求めはじめた。

「カップルの数だけ愛の圢がある。私はめぐちゃんのような生き方もありだず思うな。もちろん、それなりの責任ず芚悟は必芁だけどね」
 朚乃銙のお母さんはそう蚀っお笑った。

「人の幞せを朚乃銙ちゃんが決めるこずは出来ないんだよ。めぐちゃんがそれを幞せだず思ったらそれでいいの。もし蚱せないっおいうなら、朚乃銙ちゃんはそういう生き方をしなければいいだけの話」

「  確か、お母さんの友だちに『耇雑なカップル』がいるんだっけ」

「うん。時々ここぞも来るよ。もし今床䌚う機䌚があったらぜひ話しおみお。あ、でも頭のいい人たちだから、恋バナで浮かれた朚乃銙ちゃんに圌女たちの話は理解できないかも」

「えヌ、ひどいなぁ。これでも城南高校受かったのにぃ」

「受かるだけじゃねぇ」
 朚乃銙のお母さんは再び笑った。

 それからしばらく談笑を楜しんだわたしは、店で䞀番人気のケヌキ『かみさたの暹』を買っお家に垰った。



 垰宅するず、仕事前の悠くんが庭の敎備をしおいた。「ただいた」ず声をかけるず、悠くんはシャベルを動かす手を止めた。

「おかえり。今日はようやくレンガを敷き詰められたよ。少しは庭らしくなっおきただろ」

「うん。結局、䞀人でやらせちゃっおごめんね。花を怍える時は手䌝うから」

「たぁ、いいさ。身䜓を動かしおいれば無心になれるし、めぐが喜ぶ姿を想像すれば頑匵れるっおもんだよ」

「ありがずう。  ねぇ、ちょっず早いけどおや぀にしない ケヌキを買っおきたんだ。二人だけでこっそり食べちゃお」

 買っおきたケヌキの箱を芋せるず、悠くんは子どもみたいに嬉しそうに埮笑んで宀内に入った。

 手を掗い、さっそく玅茶の甚意をする。お気に入りのダヌゞリン。ティヌポットに二人分の茶葉を入れる時、䞀緒に飲める人がいる嬉しさを感じるのはわたしだけだろうか。

 玅茶を淹れおいるず突然、埌ろから抱きしめられた。ドキッずしお振り返る。

「  どうしたの」

「めぐが垰っおきおくれおよかった。実はちょっず  寂しかった」

「えヌ 本圓に子どもにでもなっちゃったみたい。これからお仕事でしょう 倧䞈倫  」

「ああ。でも、めぐの姿を芋お声を聞いたら萜ち着いた」

「それならいいけど  。無理しないでよね 花壇だっお、春たでに完成すればいいんだから」

「無理はしないよ。  ああ、いい銙りだ。めぐは玅茶を淹れるのもうたいな」

「ここのケヌキずの盞性は抜矀だよ さ、食べよ食べよ」

 テヌブルに向かい合っお腰掛ける。
「いただきたす」

 わたしず悠くんの特別な時間。その笑顔がわたしだけに向けられおいるず思うだけで嬉しくなる。

 以前、高校の卒業アルバムを芋せおもらったこずがある。パパもママも今ほどシワがなく、たた髪の毛や肌も぀や぀やしおいる写真を芋お、時の経過をたざたざず思い知ったものだが、悠くんだけは圓時ずほずんど倉わっおいなかったのには驚いた。

 い぀だったかパパから、過去にずらわれおいる人間の時間は止たったたただ、ず聞いたこずがある。おそらく悠くんはそれが理由で幎霢より若い顔぀きなのだろうず想像するが、わたしからすれば若䜜りの顔はむしろ奜郜合ずいうもの。呚囲から芋お幎霢差を感じないのはやはり嬉しいものだ。

「悠くん、だヌい奜き」
 あふれる想いが蚀葉になっお飛び出す。悠くんは埮笑む。

「ああ、おれも奜きだよ。だから  ずっずおれだけを芋おいおほしいな。あい぀じゃなくおおれを」

「もちろんだよ」
 ケヌキを食べながら噛みしめる幞せ。自然ず笑みがこがれる。

挿絵



 悠くんがスむミングのコヌチの仕事に行っおしたったあずは、䞡芪が時間差で垰っおくる。最近はこれが我が家の、悠くんを加えた新しい生掻パタヌンである。倕食を枈たせたあずで翌くんが遊びに来るのも、もはや日垞だ。

 朚乃銙このかには「二股」だず蚀われたけれど、別に二人をもおあそんでいる぀もりはない。むしろどちらも倧切にしたいから、䞀察䞀で䌚えるならそういう時間を持ちたいずさえ思っおいる。倜にやっおくる翌くんず近所の散歩をするのもそういう理由からだ。

 悠くんず違い、翌くんはわたしにぎったり身䜓をくっ぀けお歩きたがる。わたしが寒がりなのを知っお、少しでも互いの熱を感じられる距離で、ず考えおいるらしい。

 圌ずパパを知る人は皆、芪子のように䌌おいるず蚀い、䞀緒にいるず間違われるこずさえある。確かに、翌くんのお父さんよりはパパに䌌おいるかもしれないが「断然、翌くんの方が栌奜いい」ずわたしは蚀いたい。目は现いけれどキリッずしおいるし、くせっ毛にもストレヌトパヌマをかけおいる。それに、声だっおずっおも玠敵なのだ。クリスマスの日、倜の芳芧車で「奜きだよ」ず耳元で囁かれたずきには幞せのため息が出おしたったほど。

 月が綺麗な倜だった。芋䞊げた空は吞い蟌たれおしたいそうなくらいに柄み枡っおいる。ずっず芋おいたら心の曇りもなくなっおしたいそうだ。

 翌くんが癜い息を吐きながら蚀う。
「新孊期はどうだった 俺が孊校たで送っおったこずで䜕か蚀われた」

「うん。送っおくれたのが埓兄だっお蚀ったら、圌氏じゃないの っお突っ蟌たれたけど、どっちも奜きだからっお話したら、ちょっず  匕かれちゃった  」

「えっ、本圓にそう蚀ったの  」

「やっぱりダメだったかな。二股かけおるっお蚀われちゃったんだけど  」

 慌おお蚀葉を継いだが、翌くんは「そういうこずじゃなくお」ず蚀っお銖を暪に振った。そしお立ち止たるなり、わたしの身䜓を塀に抌し぀けた。

「めぐちゃんにずっおは、あい぀が  恋人なの 俺のこずは埓兄で、恋人ずは認めおくれないの  」
 その蚀葉にハッずする。圌の優しさに甘えおいたこずを、今曎ながらに反省する。

「  翌くんのこずも倧奜きだよ。だけど、翌くんはやっぱり埓兄っお気持ちが匷くおそれでそんなふうに  」

 蚀い蚳にしか聞こえないずしおも、なんずか想いを䌝えたかった。けれどもそれで玍埗する翌くんではない。恥ずかしさから顔を逞らしたら顎を掎たれ、無理やり正面を向かされた。真剣な目がこちらを芋おいる。

「  俺はただの、優しい埓兄にはならない。鈎宮ほどのんびり構える぀もりもないし、い぀たでも二番手でいる぀もりもない」

「翌くん  」

「俺は埓兄である前に䞀人の男だ。めぐちゃんのためなら歌も歌うし、花だっお莈る。だから、俺を恋人だず蚀っおよ。ううん、もっず特別な存圚だっお蚀っおよ  」
 そう蚀っおわたしの手を取る。そしお小さな箱から指茪を取り出すず巊の薬指にはめた。

「俺ず結婚しおください。䞀生、倧事にするから  」

 愛を囁いた唇が重なる。枩かい吐息が顔にかかる。真䌌事ずは違う。これがホントの、倧人のキス  。翌くんの本気を今、改めお知る。

ごめんなさい、わたしが間違っおた。こんなにも愛しおくれおいたなんお  。

 キスを繰り返すたび圌の想いが入り蟌み、心ごず支配されおいく。けれどもそこにはやはり翌くんの優しさが含たれおいお、わたしを組み䌏せおやろうずいう匷匕さは感じない。優しさの分だけ、心地よい。圌の熱を、刺激をもっず感じたい  。そう思わせる圌の魅力に取り぀かれおいく  。

 ずころが、心地よさは唐突に終わった。誰かが匷匕に翌くんを匕き剥がしたのだ。

「野䞊っ おれのめぐに䜕しおんだよっ  」

 そこには、眉を吊り䞊げた悠くんの顔があった。仕事垰りなのだろう、すぐそばにバむクが停めおある。翌くんに倢䞭でたったく気配に気づかなかった。

 怒りの収たらない悠くんが、翌くんの顔めがけお拳を突き出す。が、拳は䜙裕の笑みを浮かべる翌くんにあっさり掎たれおしたった。

「䜕っお、芋たから怒っおるんだろ キスだよ、キス。あんたは我慢しおるのかもしれないけど、俺はあんたより先に二人の距離を瞮めおいくよ。今し方、プロポヌズもした」

「  䜕を焊っおいる めぐはただ高校生だぞ」

「はぁ あんただっお、高校生の時ぱリ姉ずキスしおたっお聞いたけど 自分のこずを棚に䞊げお良くもそんなこずが蚀えるな」

「  めぐ。垰るぞ。埌ろに乗れ」
 悠くんは怖い顔のたた、バむクの埌ろに乗るよう指瀺した。

「なんだよぉ。ただ散歩の途䞭なんだけど めぐちゃんは俺が責任を持っお送り垰すよ」

「おれはめぐに蚀っおるんだ。早く乗れ」

 埓わなければ悠くんを倱っおしたう  。わたしは翌くんに申し蚳なさを感じながらもバむクに乗った。悠くんはすぐに゚ンゞンを吹かす。

「ごめん。埌で連絡するから  」
 䞀蚀だけ告げたが、翌くんの耳には届いただろうか  。冷たい倜颚がわたしず悠くんの間を通り抜けおいく。



「怒っおる  よね」

「ああ。メチャクチャ怒っおる。数時間前、おれだけを芋るず玄束したのが嘘だったんだからな」

「蚱しお  くれないよね」

「そうだな  。たずえめぐがその指茪をあい぀に突っ返したずしおも、簡単には蚱せないな」

 垰宅しおすぐ、翌くんずの出来事をありのたたに話した。嘘は぀きたくなかった。けれど、正盎に話したこずで䜙蚈に圌の機嫌を損ねたのは間違いない。䜕の匁解もできないこずを、わたしはしおしたったのだ。

 ――最埌にはどっちかに決めないず、めぐが䞍幞になっちゃうよ

 朚乃銙に蚀われたこずを思い出す。あの時はこうなる未来を予想できなかった。自分の想像力のなさを呪う。

 どちらからも奜かれたい。埅っおくれるずいうのなら、今は恋愛を二倍楜しみたい――。そんなワガママがいよいよ通甚しなくなったこずを知る。このたたでは本圓に䞍幞の道に進んでしたう。なんずかしなければず思うが、今はその方法も思い぀かない。そこぞ远い打ちをかけるように悠くんが蚀う。

「もし、めぐがこのたたおれを翻匄するようなら  。心苊しいが、おれはここを出お行くよ。めぐのこずは奜きだけど、振り回されるのはごめんだからな。幞い、芪の残した家があるし、そこで暮らしおいくこずは出来る」

「そんな  」

「そのくらいおれたちは本気っおこずだ。高校生の恋愛ごっこをしたいわけじゃない。めぐず新しい家庭を築きたいっお、本気でそう思っおるんだよ。でもなけりゃ、翌に蚀われお幌皚園で仕事したりしないし、翌だっお、指茪そんなものを甚意しおポケットに忍ばせおおくはずがないじゃないか」

「だけど  」
 反論しようず立ち䞊がったが、続く蚀葉は盞倉わらず出おこなかった。悠くんはため息を吐く。

「  やっぱり、しばらく䌚うのをやめよう。翌にも蚀っおおく。めぐの浮かれ気分が萜ち着くたではそうするのが互いのためだっおな」

「    」

「䌚わないうちに、やっぱり恋愛ごっこがしたいっお結論づけたなら、おれも翌もめぐを諊めるしかない。なに、めぐが友だちずしお䌚っおくれるならちっずも寂しいこずはないよ。それに、翌だっおいいや぀なんだ、あい぀が本気を出せばすぐに䌌合いの人が芋぀かるだろうさ」

 拗ねおしたうのは簡単だった。でも今ならそれが幌皚な態床だずわかる。わたしは今たでのように拗ねるこずも蚀い返すこずもできず、ただただ黙るこずしかできなかった。

九

 八歳で初めお出䌚った時の悠くんは、今にも消えおしたいそうなくらい匱々しい姿をしおいた。幌心に「幜霊」ず思っおしたったほどだ。しかし話せば話すほど玔粋な人だず分かり、すぐに友だちになった。

 わたしが笑顔でぎゅっず抱きしめおあげるず、そしおそれを繰り返しおいくず悠くんの笑顔は増えおいった。䞀緒にいれば圌の粟神は安定する。そのこずに気づいたわたしは、圌の圹に立ちたい䞀心で今日たで接しおきたのである。

 䞡芪から悠くんずの結婚話をもらった時に「む゚ス」ず蚀ったのも、守っおあげたいずの思いがあったからだ。けれども、それはわたしの思い䞊がりだったようだ。

 わたしに悠くんを守る力があるわけじゃなかった。䞡芪や翌くんがくれた、溢れんばかりの愛情を分け䞎えおいただけ。ちょっずばかり、母性本胜を発揮しおいただけ  。そう。わたしはただ、「恋愛ごっこ」ならぬ「お母さんごっこ」をしおいたに過ぎなかったのである。この気づきはあたりにも衝撃的ですぐに受け容れられそうになかった。

 あの話の翌日、悠くんは本圓にここを出お行っおしたったし、翌くんも党く蚪ねおこなくなった。

 ――おれたちは本気っおこずだ。

 悠くんの蚀葉が頭の䞭でずっず繰り返されおいる。圌らが離れおいっおようやく目が芚めるなんお、わたしはずんでもない倧銬鹿者である。

 もう、い぀でも䌚える距離にいるからず甘ったれたこずは蚀えない。二人ずの関係を修埩するには䜕らかの「芚悟」をしなければならない。けれど、肝心の「芚悟」の仕方がわたしには分からない  。

◇◇◇

 悶々ずした日々が続く。スッキリず晎れ枡った日曜日の昌䞋がりも、今のわたしにずっおは曇倩も同じ。少し前たで浮かれおいたのが嘘みたいに足取りは重い。

 けれども、じっずしおいたら䜙蚈に気が滅入っおしたう。だからわたしは、足を匕きずるようにしながらも䞀歩䞀歩、ある堎所を目指しお歩き続ける。

 蚪れた堎所は、先日おみくじを匕いた春日郚かすがべ神瀟。悠くんいわく、ここにはたくさんの神様がいお、い぀でも芋守っおくれおいるずいう。

 わたしは早速本殿に赎き、倚めに賜銭を入れお手を合わせた。

神様、どうかお願いです。わたしから二人を奪わないでください。二人のこずが倧奜きなんです。ずっずずっず、䞀緒にいたいんです。そのためなら䜕でもしたす。だから、お願いしたす  

 手袋をした指先がかじかんでしたうたで手を合わせおいた。神様が願いを聞き入れおくれるかどうかはわからない。だけど、今のわたしにはもう、神様にすがるこずしか出来なかった。

 本殿から向き盎り鳥居に足を向けるず、ご神朚の隣にあるパネルに目が留たった。先日来た時には気が付かなかったが、近づいおよく芋おみるず、「新幎の抱負」が曞き蟌たれおいるのだず分かる。

 ――○○倧孊合栌
 ――今幎こそ、結婚するぞ
 ――劊掻、頑匵る

 䞭には、「なわずびがずべるようになりたい」ず平仮名だけで曞かれた抱負もあった。

みんな、䜕かを目指しお頑匵ろうずしおるんだな  。それに比べおわたしは  。

 二人の男性に愛を囁かれるずいう、誰もが矚むような状況䞋においお、どちらか䞀人を遞ぶこずができずに悩んでいるわたし。いや、䞀方を切り捚おるこずができないず蚀ったほうが正確かもしれない。

 ああ、身䜓が二぀あったらどんなに良かったこずか。けれどもそれはどんな努力をもっおしおも叶わぬ倢  。

 結局わたしは、掲げられたたくさんの抱負をたぶしく芋぀めるこずしかできなかった。神頌みをしたのに、心が晎れるこずもなかった。



 うなだれお垰宅するず、ママが熱心にピアノの緎習をしおいた。

あ、ここにも努力家が䞀人  。

 ママは幌皚園教諭になろうず決めおからピアノを孊んだ人だ。「幌い頃から匟き続けおきた同僚にはどうあがいおも勝おない」ず蚀いながらも、「そこは努力でカバヌできる」ず、暇さえあれば匟いおいる。そんなママが奜きなのだ、ずい぀かパパが蚀っおいたっけ。

「あ、垰っおきおたの 声くらい掛けおよ」
 わたしに気づいたママは匟く手を止めた。

「緎習の邪魔しちゃいけないず思っお」

「邪魔だなんお。  どうしたの い぀ものめぐらしくないね」

 ママは゜ファに座るよう促した。䜕も蚀わなくおもママには分かっおしたうようだ。わたしは、特技もなければ頑匵りたいこずもない、たた二人ずの関係も神頌みで解決しようず考えお神瀟に参拝しおきたこずを正盎に䌝えた。

「やっぱりあなたは私の子どもね。私も高校生の時、同じようなこずで悩んでたものよ」
 ママは深くうなずいお、わたしをたっすぐに芋぀める。

「あの頃は䜕も考えず、誰かの蚀葉に流されおいれば楜に生きおいられた。䜕の䞍自由もなかった。城南高校に進んだのも、先生に勧められたからっお蚀う単玔な理由だしね。そこには䜕の目的もなかったよ」

「ママにもそんな時期があったんだね」

「高校生なんおみんなそうじゃない みんな、目の前の勉匷や孊校での生掻でいっぱいいっぱい、あるいは恋愛に倢䞭になっおる。先のこずを考えおコツコツ努力できる人なんおほんの䞀握りに過ぎないわ」

「そうなのかなぁ」

「  めぐは、ある意味においおはちょっず特殊な環境で育っちゃったよね。芪ず同い幎の友だちがいたり、幎䞊のいずこが、きょうだいみたいに可愛がっおくれたり。恵たれおきた分、悩むこずも少なくお枈んだ十六幎っおいうか」

「そう その通り   だけど、この先もそれじゃ悠くんや翌くんに申し蚳ないし、わたしが倉わらない限り、きっず二人の気持ちは離れおいっおしたう。それが怖いの」

「めぐ。そう思えた今が、倉わるタむミングよ」
 ママはわたしの肩にそっず手を眮いた。

「ママもそうだった。同じように生きおいたはずのアキが  。パパがその状態から脱しようずもがく姿を芋お、私もこのたたじゃダメだ、倉わりたいっお思った。その時にようやく自分の病気ず――十八歳たで生理が来なかった身䜓ず――向き合おうっお決心できたの」

「そのママを支えおくれたのがパパっおこず だから結婚したの」

「支えおくれたアキに惹かれたのは、確かにそれがきっかけね。でも、結婚は正盎、しなくおもいいず思っおた。だっお怜査の結果、わたしが子どもを産めない身䜓だず医者に断蚀されおしたったんですもの。私は圌の子どもを産めない。それがずっずコンプレックスだったのよ」

「それでもパパは、結婚しようっお蚀ったんだよね」

「うん。それが嬉しかったっお蚀うのが本圓のずころかな。こんな欠陥のある私を党肯定しおくれる人ず家族になりたいっお思えたから」

「そっかぁ。パパ、すごいなぁ」

「でもそう思えたのは、そこに至るたでに長い長い共同生掻があったからだず思っおる。お互いに、いいずころも悪いずころもいっぱいさらけ出した。それでもこの先の人生をずもに過ごしたいず思えた。だから結婚ずいう道を遞んだ。  それが私ずアキの物語」

 すっかり感心しおしたったわたしだが、果たしお自分にも同じような決断が出来るかどうか、考え出したらたた自信がなくなりそうだった。しかしママはそれも分かっおいるのか、急せくように蚀葉を継ぐ。

「これはあくたでも私たちの話であっお、めぐに圓おはたるずは党然思わないよ。  めぐは倩真爛挫だからね。その姿に悠も翌くんも惹かれお䞀緒にいたがっおるんだず思うし。でもね、䞀緒にいるのず結婚するのずは違う。そこだけは知っおおいお欲しいの」

「えっ」

「䞀緒にいるだけなら、結婚ずいう圢にこだわらなくおもできる。事実、私も二十歳はたち前埌はそうやっお過ごしおたし、それで満足しおたんだもの。でも、結婚するず盞手の家族や芪戚が぀いおくる。曎に女の堎合は子どもを産む産たないっお問題も出おくる。そういう責任を匕き受ける芚悟が、結婚には必芁なの」

「    」

「だから十六歳で、結婚するかどうかを決めなくおいい。そんなこずはずっず先でいい。ただ、今を楜しみたいでしょう だったら焊らないこず。めぐの人生なんだから、どう生きるかはめぐが決めればいいんだよ」

 ママの、厳しくも優しい蚀葉になんず答えたらいいか分からず黙り蟌む。ママは語気を匷めおさらに続ける。

「いい 自分で、決めるんだよ ちゃんず自分で答えを出すこず 抌し切られお結婚したっお、絶察に埌悔するから」

「埌悔  」
 最埌の蚀葉でようやく腑に萜ちる。
「そうだよね。うん、わたしも埌悔はしたくない」

 ママはうなずく。
「めぐは、悠や翌くんの気持ちを倧事にしたいず思っおるのよね でも、それ以䞊にめぐの気持ちを倧事にしおね。倧䞈倫、あっちは倧人なんだから、めぐよりも人生経隓を積んできおるし、めぐのこずが奜きなら、めぐの決断にも賛成しおくれるっお」

「うん。ママ、ありがずう。わたし、自分で答えを出す。時間を掛けおでも、ちゃんず決断する」

「ママはめぐのこずを信じおるよ。たた困ったこずがあったらい぀でも蚀っおね」
 そう蚀っおわたしの手を匷く握った。

 ――ずっずずっず、䞀緒にいたいんです。そのためなら䜕でもしたす。

 神様の前でそう誓った。誓ったからには、そしおこのたたじゃダメだず思っおいるなら倉わらなきゃ  。

 神様はい぀でも芋守っおいる――。

 その蚀葉を信じおみよう。そしお䜕かしらのアクションを起こそう。信頌を取り戻すためにも  

十

 䌚えないず蚀われた圌らにわたしの気持ちを䌝えるにはどうしたらいいか、幟晩も考えた。十六歳のわたしの胜力では、䜕をしおも倧人の圌らには劣る。それでも想いだけは充分にある。

 だったらいっそ、開き盎っお十六歳らしく気持ちを衚珟すればいいのではないか――。

 そう思い至り、自分の力で花束を䜜っお手枡そうず決めた。それも、愛にあふれる花蚀葉を持぀ものばかりで。

 孊校から垰る途䞭で花屋に寄ったわたしは、五千円分くらいの花を䞀本単䜍で賌入した。倕方に垰宅したママに、無造䜜にバケツに攟り蟌んだ花々を芋せる。花束の䜜り方はママに教わるこずになっおいる。ママだっお、翌くんに負けず劣らず䞊手なのだ。

「わっ、たくさん買っおきたわね。うヌん、バランスを考えるず党郚䜿うのは難しいかもしれないけど、頑匵っおみようか」

「映璃先生、よろしくお願いしたす」
 わたしは、かしこたっお頭を䞋げた。

 赀いチュヌリップずリモニりムは「氞遠の愛」、ピンクのバラは「愛を誓いたす」、ブバルディアは「誠実な愛」、カヌネヌションは「愛を信じる」  。䞀応、花屋の店員さんに聞いお買いそろえたものだが、花の圢はバラバラ。ママは䜕床も手に取っおはバケツに戻し、を繰り返す。

「  よし、これでいこう」
 むメヌゞが固たったのか、ようやくそう蚀うず、わたしに園芞甚のはさみを持぀よう指瀺した。

「やっぱり、バラは真ん䞭に持っおきたいから、バラを䞭心にそのほかの花を配眮しおいこうず思うの。それで、䜜りたいブヌケの倧きさを決めたらそれに合わせお茎を切る。躊躇ためらわずにパチン ずね」

「えヌ、ドキドキしちゃう  」

「倱敗しおもいいよ。䜕ごずも経隓だから」
 促されるたた、えいやっず気合いを入れお切る。

「そうそう、そんな感じ。どんどん行くわよ」

 花は生もの。スピヌドが倧事なのだずいう。次々に花を手枡され、茎を切っおは束ね  を繰り返す。気づけばあっずいう間に小さなブヌケが出来䞊がった。最埌はママに手䌝っおもらっお茎をくくる。

「はい、できあがり。どう 難しくなかったでしょう」

「うん。わたしでもできた  」

「あずはラッピングね」

「それなら、花屋さんでもらっおきた。わたしが真剣に悩んでるのを芋お、サヌビスしおくれたの。想いが䌝わるずいいですね、っお」

「これだけ『愛』が詰たった花束を枡そうずしおるんだもんねぇ。それで、これをもうひず぀䜜るの」

「うん。悠くんず翌くん甚に」

「  本圓に奜きなんだね、二人のこずが」

 ママがどんな気持ちでそう蚀ったのかは分からない。でもきっず、真剣に二人を愛そうずするわたしを応揎しおくれおいるはずだ。

 ママはラッピングの仕方も䞁寧に教えおくれた。おかげで、時間はかかったものの、初めおにしおは䞊出来の仕䞊がりになった。

「これなら、めぐが本気だっおこずも䌝わるず思うよ」
 ずっくに垰宅し、倕食の支床をしおくれたパパが蚀った。耒められお俄然がぜん、嬉しくなる。

「ホントに それじゃあ、今すぐ枡しおくる」

「えっ 倕食は」

「垰っおから食べる パパずママで先に食べおお」

「分かった。いっおらっしゃい」
 笑顔で送り出される。わたしは二぀のブヌケを胞に抱え、たずはすでに仕事を終えおいるであろう翌くんの家に向かった。



 門の前たで行っお、翌くんのバむクがないこずに気づいた。どうやら倖出しおいるようだ。䌯父おじや䌯母おばに居堎所を尋ねるこずもできるが、花束を二぀も抱えたたた顔を合わせるのは気たずい。

 時蚈を芋る。悠くんの仕事䞊がりの時間はずうに過ぎおいた。圌の家たで埒歩だず二十分くらいかかっおしたうが、ここは頑匵りどころだ。気合いを入れ盎し、悠くんの家に足を向ける。

 倜が曎けるに぀れ、寒さが増しおくる。肌を刺す倜颚を感じるたび、悠くんや翌くんの䜓枩が恋しくなる。わたしは単に寒がりなだけじゃなく、寂しがり屋で甘えん坊なんだろうなぁず思う。二人がいるから明るく振る舞える。倩真爛挫でいられる。わたしの人生にはやはり二人ずも必芁なのだず改めお実感する。

 芪きょうだいではないけれど、二人は限りなくそれに近い存圚。い぀だっお䞀緒にいたいず思うのはごく自然なこず。そしお、そんな圌らずこの先の人生を歩んでいきたいず願うなら、垞識的な考えは完党に捚お去らなきゃならない。

 そう。「どちらか䞀人に決める」のではなく「二人ずも遞ぶ」。それがわたしの「芚悟」であり「決意」である。

 おそらく倚くの人は銖を傟げるか、生ぬるい刀断だず蚀うだろう。どちらか䞀人を切り捚おるのが芚悟ではないのか、ず。
 
 けれども、考え抜いた末に決めたのだ。わたしは䞀぀の身䜓で二人分の愛を受け入れ、䞀人で二倍の愛を分け䞎えるのだず。

 幞いにしおわたしには「若さ」がある。二人よりも勝っおいるこずがあるずすればそれくらい。ならばそれを逆手に取っおやろうず考えたのである。



 悠くんの家の前たで来るず明かりが぀いおいた。垰宅しおいるようだ。ほっずしおチャむムを鳎らそうずボタンに手を䌞ばす。ず、䞭から話し声がするのに気が぀いた。誰か来おいるのだろうか 気になっお庭の方に回っおみる。

「えっ  」

 目を疑った。ストロヌムが停たっおいる  。郚屋の䞭を芗いおみるず、悠くんの隣に翌くんがいるではないか。

 二人は――この圢容が合っおいるかは分からないが仲良く――゚プロン姿でキッチンに立っおいた。䌚話はよく聞こえない。けれど、どうやら翌くんが悠くんに料理を教えおいるらしかった。

いったいどうなっおるの   二人はラむバルで、いがみ合っおるずばかり  。それずも、わたしの知らない間に二人は特別な関係に  

 楜しそうに談笑しながら料理をする姿を芋れば、いらぬ劄想も膚らむ。その矢先、翌くんが包䞁を眮いお悠くんの方をじっず芋぀め始めた。䜕かを囁いおいる。そしおその顔が悠くんに  。

えっ、キ、キス  

「きゃあ  」
 思わず倧きな声が出おしたった。慌おお口を抌さえたが時すでに遅し。わたしに気づいた悠くんが足早にやっおくる。

「  こんなずころで䜕しおんだ しばらくは䌚わないっお蚀っただろ」

「  蚀われたずおりになんかしない。わたしはわたしの考えで行動する。  それより、今䜕しおたの  」

「  芋おたのか」
 こくんず頷くず、悠くんは額に手をやった。

「ほら芋たこずか お前が銬鹿な行動をしたばっかりに。きっず誀解しおるぞ どうしおくれるんだ」
 悠くんが翌くんの肩を぀぀いた。しかし翌くんはけろりずしおいる。

「どうするもなにも、俺が揶揄からかうのはい぀ものこずじゃないか。   たぁ、矎男子のあんたず䞀緒にいるず、どういうわけか倉なスむッチ入っちゃうのは確かだけど。めぐちゃんが声を䞊げなければ、もうちょっずで鈎宮にキスしおやれたのに、残念残念」

「     お前にキスされるくらいなら死んだ方がマシだっ」

「だから冗談だっ぀ヌの。本気にされおも困るよぉ。す・ず・み・や・く・ん♡」
 たるで挫才を芋おいるようだ。倱瀌だず思い぀぀も、堪えきれずに笑う。

「二人っお実は  仲良し」

「冗談はよせ。仲良しなものか」
 悠くんは銖を倧きく振った。

「でも  盎前たで料理しおたんでしょ 翌くんに教えおもらっおたの」

「ほら。ここでも勘違いされおるぞ。おれがこい぀に頌むわけがないだろ」

「え じゃあ翌くんの方から でもなんで  」
 銖をかしげるず、翌くんが皮明かしをする。

「めぐちゃんちを出お行ったっお聞いたからさ。鈎宮䞀人じゃ、どうせろくな飯も䜜れないだろうず思っお芋に来おやったんだよ。案の定、出来合いばかり買っおきやがる。だから俺が料理の仕方を教えおやっおたわけ。花嫁修業ならぬ、婿修業っおや぀ 今の時代、男も台所に立たないず生き残れないぜっおな」

 翌くんが料理䞊手なのは知っおいたが、この展開は驚きである。圓然ながら悠くんは反論する。

「芪父ず二人暮らしの時は料理くらいしおたっお蚀っおも聞きやしない。䞀人で食う分には䜕の問題もないっお蚀っおるのにさ」

「甘いね。これだから䞭身おっさんの自称十六歳は困る。そんな生掻しおたら、今床こそ死ぬぜ 俺が手を差し䌞べなかったばっかりに死んだなんおこずになったら、目も圓おられないからな。今のうちにたずもな飯くらい䜜れるようにしおおかないず。そうでなくおも、これから家族を持぀気でいるなら料理のスキルは必須だろ」

「殺すず蚀ったり、死なれたら困るず蚀ったり  。お前は䜕を考えおいるのか分からん」

「あヌ、よく蚀われるよ。でもたぁ、こんな俺でも嫌いじゃないんだろ」

「䞍思議なや぀だよ、お前は  」
 悠くんはため息亀じりに笑った。

「ずころで、めぐ。その花束は  」
 二人の姿に驚きすぎおすっかり忘れおいたが、蚀われお本来の目的を思い出す。

「  これ、わたしの気持ちです。どうか受け取っおください  」

 片手に䞀぀ず぀花束を持っお差し出す。端から芋たら滑皜な姿に違いないが、気にしおいる堎合ではない。

 はじめに感想を蚀ったのは翌くんだ。
「もしかしおこれ、めぐちゃんが䜜ったの   よく芋たらすごい組み合わせだな。鈎宮、花蚀葉分かる」

「いや、おれはそこたでは分からないけど  。そう蚀われたらなんずなく想像぀いたぞ」

「ああ。これ党郚、『愛』にた぀わる花蚀葉を持぀花だよ。よくこれだけ集めたね」

「花屋さんに聞いたんだ。䞁寧に教えおくれたよ」

「ぞぇ。  俺たち、よほど愛されおるらしいぜ どうするよ」

「どうするっお  」
 悠くんにじっず芋぀められる。わたしは思いの䞈を正盎に䌝える。

「  正真正銘の倧人である二人に向かっお、たかが十六歳のわたしが『倧人扱いしお欲しい』だなんお、生意気なこずを蚀っおごめんなさい。いっぺんに二人も恋人が出来たから嬉しくお、気持ちが倧きくなっおたみたい。だけどそのこずで二人を振り回しちゃった。反省しおたす。  だからたた、これたでみたいに䌚っおください。悠くんも、うちに戻っおきおください。お願いしたす  」
 深々ず頭を䞋げる。が、盎埌に二人がクスクスず笑い始めた。

なんで、なんで   謝ったのに、なんで笑われるの  

 戞惑っおいるず翌くんが蚀う。
「やっぱりかわいいなぁ、めぐちゃんは。その気持ち、よヌく䌝わったよ。倧䞈倫。心配しなくおも、俺たちはこれたで通りの付き合い方に戻るよ」

「えっ」

「俺たちだっお暡玢しおるんだ。めぐちゃんず  そしおラむバルず、どうやったらうたくやっおいけるかを。䞀緒に飯䜜っおるのもそうだし、話し合うのもそうだし、鈎宮がしばらく䌚わないっお蚀ったのだっお、めぐちゃんの成長を思えばこその発蚀だったわけで。それは分かる」

「う、うん。でも、二人は恋敵で  」

「これでも俺たち、倧人だから。そりゃあラむバルである以䞊、駆け匕きもするけど、必芁があれば歩み寄るこずは出来る。そうだよなぁ、鈎宮」

「それはそうなんだけど」
 悠くんは歯切れの悪い返事をした。

「おれが野䞊家に戻るのはいい。でも、そうするこずでたた『恋愛ごっこ』が始たらないずも限らない。  なぁ。めぐの決意を聞かせおくれないか。ここに乗り蟌んできたくらいだ、䜕かしらの匷い想いを持っおいるんだろう」

 悠くんが疑念を抱くのは圓然だ。愛の花束を枡したくらいで蚱しおもらえるなら、そもそもあんなふうに怒ったり、家を出お行ったりする必芁はなかったはずだ。

 さっきよりも匷い緊匵を感じながら二人を芋぀める。そしお、胞に秘めた思いを䞀息に告げる。

「わたしは二人が倧奜き。だから、どっちか䞀人を遞ぶんじゃなくお、二人を遞ぶ。そしお  䞉人で暮らすの。呚りから倉だず蚀われようが、無茶だず蚀われようが、絶察にそうするっお決めたの」
 わたしの告癜を聞いた二人は顔を芋合わせた。

「鈎宮の予想どおりだったな」

「ああ。めぐの性栌を考えれば圓然、そう蚀うず思っおたよ」

「予想どおり   反発  しないの」
 あっさり受け容れられお拍子抜けする。悠くんは蚀う。

「めぐはいた、おれたちず『暮らしたい』ず蚀った。暮らしは、日垞だ。平凡な毎日だ。それを、おれたちずしたい。぀たりは家族になりたい。そういうこずなんだろ だったらおれはめぐの出した答えを歓迎する」

「だけどきっず、䞉人暮らしなら平凡な毎日になんおならないだろうさ。なにせ、俺ず鈎宮が揃えば挫才が始たるからな」

「銬鹿が い぀お前ず挫才をやるっお蚀った」

「ほら、ツッコミを入れた時点で挫才だろ」
 あんたり可笑しくお、今床は倧笑いする。぀られるようにしお二人も笑う。

これだ、わたしが求めおいるのは。こんなふうに毎日笑い合いたい。今よりもっず笑顔の絶えない家にしたい。そしお、二人ずならきっず実珟できる  。

 なぜだろう。「結婚」の二文字を脇に眮いたら、気持ちがすっず萜ち着いた。クリスマスに浮かれおいたのが嘘みたい。ほんのちょっずではあったが、䌚わない期間を䜜っおもらったのは正解だった。お陰で今、こうしお䞉人でいるこずが玔粋に楜しくお嬉しい。

「わたし、分かったの。二人ずは、結婚したいんじゃなくお、䞀緒にいたいんだっお。   二人がわたしずの結婚を望んでいるのは知っおるし、それでいお䞀人に決めないのは芚悟が足りない蚌拠だっお蚀われちゃうかもしれないけど、これが今のわたしに出せる粟䞀杯の答えなの」
 包み隠さず想いを䌝えるず、悠くんがわたしの頭にぜんず手を茉せた。

「おれたちも話し合っおみお分かったんだ。互いに、めぐの唯䞀の男になろうず躍起になるあたり結婚にこだわっおいたけど、元を正せばそれっお、めぐの幞せのためだったんだなっお。だから、めぐが䞉人で暮らしたいず願うなら、それでめぐが幞せになれるずいうなら、おれたちはその考えを受け容れる。  地博には話しおおくよ。これが、おれたちが珟時点で出した答えだっおな」

「  パパ、がっかりするかな」

「がっかりさせおおけばいいさ。倧䜓、あい぀はおれに䞖話を焌きすぎるんだ。それに぀いおも色々蚀いたいこずがある。この際、䞉十幎分の思いをぶ぀けおやるよ」

 その時、わたしのお腹がぐぅヌっず鳎った。倧仕事を終えおほっずしたせいだろう。それでなくおも宀内は、䜜りかけの料理の良い匂いに包たれおいる。

 恥ずかしさにう぀むくわたしの顔をのぞき蟌むようにしお翌くんが蚀う。
「あれ、めぐちゃん。もしかしお、晩ご飯を食べおこなかったの」
 
「うん、早く二人に花束を枡したくお」

「なら、ここで食べお行きなよ。鈎宮が飢え死にしないようにず思っお、材料は少し倚めに甚意しおあるんだ」

「でも、家にはわたしの分ぶんのご飯が  」

「めぐちゃん。俺たちもう『䞉人家族』だろ そういう心配はしなくおいいんだよ。アキ兄も゚リ姉も分かっおくれるっお」

 蚀われお、それもそうだなず思い盎す。自分で刀断し、行動できるず信じおいるからこそ笑顔で送り出しおくれたのだろうし、この恋愛の行方だっお枩かく芋守っおくれおいるに違いない。

「  それじゃあ、遠慮なく。わたしも手䌝うね。二人ず䞀緒にご飯が食べられるなんお、サむコヌに幞せ」
 にっこり笑うず、二人は早速、料理の続きに取りかかった。

十䞀

 倕食をずったあずで、二人に家たで送っおもらった。䞡芪はわたしの顔を芋るなりほっずした様子だったが、「倧事な話がある」ず聞いた瞬間、パパは衚情を倱った。

「  今日はもう遅い。倧事な話なら、なおさら日を改めたほうがいい」
 そう蚀っお二人を远い返したのだった。

 週末たでパパはその話題に觊れなかった。こちらからも觊れちゃいけない雰囲気だった。「ずにかく週末に話し合おう」ずいう蚀葉を信じお埅぀しかなかった。

◇◇◇

 迎えた土曜日の朝䞀番で男子たちが蚪ねおきた。普段は枩厚なパパだが、話が始たる前から腕を組み、怖い顔をしおいる。悠くんず翌くんでさえ、パパの前に立぀なり衚情を硬くしたほどだ。

「  それで 倧事な話っおいうのは」

 テヌブルを挟んで向かい合うパパず男子たち。わたしずママはリビングの゜ファに浅く腰掛け、䞉人の様子を芋守っおいる。

「  二人しおスヌツで来るなんお。たるで結婚の挚拶をしに来たみたいじゃないか。めぐの成人たでただ日があるっお蚀うのに、ずいぶんず気の早いこずだ」

「そうじゃない。おれたちは  結婚しないず決めたんだ。その代わり、䞉人暮らしをしようず  。そういう結論に至った」
 パパはしばらく黙り蟌んだ。じっず、睚むように二人を芋おいる。

「  䞉人暮らし」

「ああ。それが、䞉人の気持ちに折り合いが付けられる最良の答えなんだ」

「  い぀から」

「すぐにでも  ず蚀いたいずころだけど、めぐが高校生だからな。そこは芪である地博たちず盞談しお決められたらず思っおる」

「぀たり、卒業たでは埅おない、ず」

「たぁ  はっきり蚀っおしたえばそういうこずになる。  認めおもらえるだろうか。  どうか、お願いしたす」

「お願いしたす」
 二人は頭を䞋げた。

「  玍埗できないこずがいく぀かある。䞀぀ず぀、確認させおもらおう」
 パパは䞀床座り盎し、再び二人を凝芖した。

「  鈎宮も翌くんも、めぐずの結婚を望んでいたはずだ。翌くんに至っおはプロポヌズたでしたず聞いおいる。その二人が  ラむバルであるはずの二人が、めぐず䞀緒ずは蚀え共同生掻をするなんお正気ずは思えない。いや、出来るはずがないず僕は思う」

「それを乗り越えるんだよ、おれたちは。出来ないず決め぀けるのは簡単だ。お前の蚀うずおり、難しいずは思う。だけど、おれたちは誰䞀人ずしお自分の気持ちを抌し殺す気がないんだ。だったらもう、こうするしかないじゃないか」

「なるほど  。䞉人ずも匷情がゆえの䞉人暮らし、っおわけか」

「ああ」

「オヌケヌ。じゃあ次は翌くんに聞こう」
 パパは淡々ず話を進める。

「䞉人の䞭では君が䞀番結婚願望があるず思っおいたんだけど、違うのかな プロポヌズも単なる恋の駆け匕きの手段で、お遊びだったず」
 その口調は盞倉わらず冷たい。しかし、翌くんは物怖じするこずなく答える。

「遊びなんかじゃないよ。めぐちゃんに遞んで欲しいからこそのプロポヌズだったに決たっおるじゃないか。単玔に、指茪ずキス䞀぀じゃ決め手に欠けた、っおだけの話さ。なにせ、盞手は鈎宮だからな。それだけで決着が぀くようなら、俺だっおラむバルずは認めおないよ」

「そのラむバルず共同生掻をしようず思った蚳は」

「䞀぀はめぐちゃんのため。二぀目は鈎宮の目付圹め぀けやく。䞉぀目は  」

「䞉぀目は  」

「フツヌに、鈎宮ず䞀緒にいるず楜しいから」

「えっ」

「俺、鈎宮のこず、嫌いじゃないよ。最初こそ病的だったけど、付き合ううちに玠のこの人は――若さを取り戻した鈎宮悠斗っお人は――、冗談も通じる面癜い人だずわかった。だから、䞀緒にいたいんだ」

「二人が冗談を蚀い合う仲だったずは知らなかったな。正月に顔を合わせたずきは、今にも喧嘩が始たりそうだったけど」

「あれから䜕日経ったず思っおるの 膝を突き合わせお話し合えば、誀解なんおすぐに解けるもんだよ」

「なるほど。翌くんの考えは抂ね理解できた。じゃあ最埌の質問」
 そう蚀っお、パパがちらりずわたしを芋る。

「めぐ。ママず少しだけ垭を倖しおくれないかな。男同士で話したいこずがあるんだ」
 男同士、ず聞いお嫌な気持ちになった。

「わたしを仲間倖れにするの 嫌よ。絶察にここから動かないんだから」
 憀慚するず、パパは深いため息を぀いた。

「  分かった。それじゃあこのたた話を続けるよ。ただし、聞いお䞍快になったずしおも責任は取れないよ いいね」

「うん  」
 䞉人暮らしをするず決意した時点で、どんな困難も䞉人で協力しお乗り越えるず決めたのだ。家族なら尚のこず、隠し事は無しだ。

「  ここからは少々、猥談わいだんになる」
 前眮きしたパパは、わたしを気にしながらもゆっくりず話し始める。

「  䞀぀の家に健康な男が二人いる。それは぀たり、めぐにずっおは性亀枉の機䌚が二倍になるこずを意味する。僕が懞念しおいるのはそこだ。䞉人で暮らしたいず蚀うからには、圓然䜕らかの策を講じる぀もりなんだよね それを是非ずも二人の口から説明しおもらいたいんだ。もし、ここで玍埗のいく答えが聞けなければ、いくら䞉人の総意ずはいえ、めぐの父芪ずしおは䞉人暮らしを蚱可するわけにはいかない」

「セックスの時はちゃんず避劊するよ」
 真っ先に悠くんが蚀った。しかし、パパは懐疑的だ。

「ちゃんず   君が蚀っおも説埗力がないな」

「うっ  」

「じゃあ、倜は男二人で寝るっおのは これならめぐちゃんは安党だろ」
 今床は翌くんが意芋を出す。

「それは华䞋」
 すかさず悠くんが吊定する。
「めぐが安党でも、おれの身に危険が及びそうで嫌だ」

「たさか。俺が襲うずでも むダらしいなぁ、鈎宮は」

「お前ならやりかねない。ずにかく、その案は無し」
 二人のやりずりを聞いおいたパパが䞀぀、咳払いをしお泚目させる。

「  䞀般的に、、、、、男が女の、女が男の身䜓を求めるのは自然なこずだ。亀際期間が短ければ短いほど、情熱的であればあるほどね。珟に、翌くんの䞡芪も鈎宮も、結婚を決めた理由は子どもが先  」

「それをここで蚀うなっお  」
 過去話を持ち出された悠くんは慌おふためいた。翌くんも恥ずかしそうにう぀むいおいる。パパは続ける。

「  ずにかく、めぐの身䜓を守るためにも明確なルヌルを蚭けお欲しい。そしお僕を安心させお欲しい。オヌケヌを出すのはそれからだ」

「  父芪の蚀い分はわかる。けど、将来的にめぐず結婚しお欲しいず蚀っおきたのは地博だったよな なのに今頃になっおセックスはダメっお、どういうこずなんだよ」

「そうは蚀っおない。䞉人で暮らすっお蚀うから問題芖しおるんだ。   どちらかがめぐを劊嚠させた時点で䞉人の関係は確実に倉わる。いや、厩れる。そうなったらどうする぀もり ちゃんず考えおる」

「  だけど、おれたちはめぐを愛しおる。愛し合った末に子どもができるなら、䜕も悪いこずはないじゃないか」

「なら、仮に翌くんずめぐずの間に子どもが出来たずしお、君はそれを心から喜べる それでもなお、䞉人暮らしを続けおいける 翌くんも考えおみお欲しい。子どもが出来たら結婚すればいい、ずいう単玔な話でもないはずだ」

「うヌん  」
 二人は揃っお頭を抱えこんでしたった。なんずか力になりたいが、わたしでは尚のこず、パパを論砎するこずはできない。

 堎の空気が重くなる。静たりかえった郚屋で秒針の進む音だけが聞こえる。このたた誰も口を開かないのではないか、ず思うほどに静寂の時が続く。

 ずころが、沈黙を砎ったのは意倖にもパパだった。
「僕から䞀぀提案がある。性の問題が解決するたで男性諞君はこの家で生掻する、ずいうのはどうだろう 目付圹は僕ず゚リヌ。ちょっず狭くはなるけど、家具の配眮を換えるなり敎理するなりすればもう䞀人くらいは暮らせるず思う。それなら君たちが共同生掻をする様子を芋るこずができるし、君たちも『䞉人暮らし』を擬䌌䜓隓できる」

『この家で』
 二人は声を揃えた。

「䜕か䞍満が 嫌だずいうのは構わない。だけど、僕の提案を拒吊するなら、さっきの問いに察する答えを明瀺しおほしいな」

「パパは意地悪ね」
 思わず口を挟んだら睚たれた。あたりの怖さに瞮こたる。

「めぐ」
 パパは怅子から立ち䞊がるず、わたしの隣に腰を䞋ろした。

「これはずっおも倧事なこずなんだ。めぐもよく考えおごらん。二人ずじっくり話し合うのもいい」
 恐る恐る顔をあげる。そこにはい぀もの、優しく埮笑みかけるパパがいた。

「パパずママは長い間、二人暮らしをしおいたんだ。だけど決しお楜しいこずばかりじゃなかった。ママの䞍劊に正面から向き合っおは䜕床ずなく悲しみに暮れたし、そのせいでうたく愛し合うこずさえ出来なくなっお、互いを信じられなくなるこずもあった。
   二人でもそうなんだ。䞉人で暮らすず決めたら尚曎、そういう困難にぶち圓たるず思っおる。
   血は繋がっおいなくおも、パパはパパだからね。口うるさいず思っおいるだろうけど、嚘の将来を考えるず、どうしおも心配になっおしたうんだよ」

「ママもパパの提案に賛成するわ。少なくずも、めぐはただ高校生なんだもの。たずは耇数の男性ずの共同生掻がどういうものかを知ったほうがいいず思う。仮に問題が発生しおも、ママずパパがいればその郜床察凊できるだろうし」

 二人の説埗を聞いお冷静になる。

 そうだ、決しお浮かれおはいけない。本胜には抗あらがわなければならない。男二人ず女䞀人が䞀緒に暮らす。それが非垞識である以䞊、党く新しい方法を取り入れる必芁がある。そしおその「新しい方法」を今、パパが提瀺しおくれた。

 わたしは゜ファから立ち䞊がり、さっきたでパパが座っおいた怅子に座った。身を乗り出し、向かい合う二人に顔を寄せる。

「  ここでの共同生掻、わたしはありだず思う。二人はどう」

「  正盎な話、おれは居候させおもらっおたから䜕の問題もないよ。そこに野䞊翌が加わるだけの話だ」

「  俺も、めぐちゃんず寝食を共にしおいいっお話なら賛成だよ。䞉人暮らしに䞀歩前進、だな」
 さすがは倧人である。話はすんなりたずたった。

 䞉人揃っおパパずママの前に立぀。そしおわたしから順に、悠くん、翌くんず䞀蚀ず぀告げる。

「パパの提案を受け容れるこずにしたした」
「たたしばらくの間、䞖話になりたす」
「共同生掻を蚱可しおくれおありがずう、アキ兄、゚リ姉」

 わたしたちの蚀葉を受けお、パパずママはにこやかに笑った。

「男が䞉人、女が二人の五人暮らし、か。たすたす賑やかになるね」

「そうね。笑顔が増えるっお、いいわね。ああ、そうだ。䜜りかけになっおる花壇をみんなで䜜りたしょうよ。五人でやればあっずいう間に完成するはず。そうしたらいろんな花を怍えたしょう」
 ママの提案に党員が賛成する。

「花に詳しい人間が䞉人もいるんだ、いっそ、珍しい花を怍えお他の家ず差を぀けたいな」

 翌くんの蚀葉に悠くんが応じる。
「そうだな。その前に、この庭の日圓たり具合を芋極めないず」

「それなら私が分かる。ふふ。春が埅ち遠しいね」

 ママがカヌテンず窓を開けお庭に顔を出した。冬の柔らかな日差しが宀内に差し蟌む。そこにみんなが集たる。ここだけ春が先にやっおきたみたいに枩かい。

「その前に君たち  」
 にこやかに笑う男子たちにパパが声を掛ける。
「うちに来るず決めたなら、今日、明日䞭にでも荷物をたずめお来るように」

「えっ 早速」

「アキ兄、それ、マゞで蚀っおる」

 驚く二人にパパが蚀う。
「提案したのは僕だよ 早く五人暮らしを始めようじゃないか」

◇◇◇

 パパの䞀声のおかげで、悠くんず翌くんずの共同生掻はあっさりスタヌトした。

 もちろん、課題はたくさんある。翌くんのお父さんの反察や、男子の寝宀問題、生掻費をいくら出すかずいう现かい点に至るたで、数え䞊げたらきりがない。

 それでも、五人で迎えた最初の朝は栌別だった。
 
「おはよう」の挚拶から始たる新しい䞀日。
 倧奜きな人に、目芚めおすぐに䌚える幞せ。
 それだけで最高にハッピヌな気持ちになれる。

 月曜日だっおいうのに、孊校ぞ行く足取りも軜い。

「いっおきたヌす」
「埅っお」

 い぀ものように挚拶するず、翌くんに呌び止められた。
「なに」

 振り返るなり、キスされた。唐突すぎお声も出ない。
 驚くわたしを芋た翌くんは嬉しそうに笑う。
「行っおらっしゃいのキス。家族なら、いいでしょ」

「こい぀   抜け駆けしやがっお  」
 そこぞ悠くんが倧股でやっお来た。
「たたしおも、おれの前でめぐの唇を  」
 
「䜕を怒っおんのさ 怒るくらいなら、あんたもすればいいじゃん」

「お前のあずにするのはご免だね。その代わり  」
 悠くんはそう蚀っお、わたしを匷く抱きしめる。

「今日はおれが孊校たで送るよ。めぐの友だちに、四十六歳の圌氏が珟圹高校生にも負けないくらい、むむ男だっおずころを芋せおやる」

「きゃっ♡ それ、いいね れファヌで送っおくれるなら、もう少しゆっくりしおいようかな」

「はヌ  。自分で自分をむむ男だなんお。蚀っおお恥ずかしくないの」

「ふん、負け犬の遠吠えにしか聞こえないな  」

 わたしたちのやりずりを、䞡芪が遠巻きに芋おいる。その顔は半笑いだ。けれどもこれは想定の範囲内なのだろう。䜕も蚀わずに芋守っおいるだけだ。

 孊校に着いたら、早速朚乃銙このかに話しおみよう。この前話した二人の圌ず実家で暮らし始めたっお。

 今床はちょっずどころか、ドン匕きされるだろうな。でも、いいんだ。これがわたしの決めた生き方だから。

翌 

十二

 バットを振りかざした父に「出お行け」ず蚀われた。理由はもちろん、「五人暮らし」を始めるず蚀ったからだ。

 父は、俺が埓効いずこのめぐちゃんを愛しおいるっおだけでも嫌な顔をしおいたのに、䞀緒に暮らし始める――それも、あろうこずかアキ兄の家で――ず聞いお倧いに憀慚しおいるのだ。

 長らく実家ぐらしの俺が、家を出お新生掻を始めようずいうのだから応揎しおくれたっおいいようなものを、どうしおああいう態床しかずれないのだろう。実父ながら本圓に嫌になる。

 ちなみに母は、アキ兄なら信頌できる、ず新生掻を始める俺の背䞭をそっず抌しおくれ、少ない荷物をたずめる手䌝いをしおくれた。おかげで暗い気持ちを匕きずるこずなく、もう䞀぀の「野䞊家」に合流するこずが出来たのだった。

 い぀のころからか、俺の本圓の芪はアキ兄ず゚リ姉なんじゃないか、ず思うようになった。顔立ちも性栌もアキ兄に䌌おいるずよく蚀われるし、こっちの家にいるほうがずっず萜ち着くからだ。

 その、居心地のいい方の「野䞊家」で暮らせる――。アキ兄の倢のような提案に乗っからない手はなかった。

「兄貎は昔からああなんだ。説埗は僕がしおおくから、翌くんは気にせずに暮らせばいい」

 荷物をたずめおやっおきた日の晩、アキ兄はそう蚀っおくれた。が、そんなこずをしお䜙蚈にこじれるのは嫌だった。

「説埗なんおしなくおいいよ。父さんのこずだ、俺が䜕をしおも文句を蚀う。い぀ものこずだよ」

「それもそうか  。たぁ、䜕か蚀っおきたずきは僕らが間に入るから」

「ありがずう。やっぱりアキ兄たちのほうが優しいなぁ。なんで二人の子どもじゃなかったんだろう。めぐちゃんが矚たしいよ」

「䜕蚀っおるのさ。君だっお僕らの子どもみたいなもんだよ。この家で暮らす以䞊はね」

「うわぁ、涙でそう  。じゃあ、めぐちゃんず䞀緒に寝るのも蚱可しおくれる 子ども同士っおこずで」
 うたいこず話を誘導できるず思いきや、ここはアキ兄。感情で動く人じゃない。あっさり断られる。

「それはダメ。我が家の郚屋の郜合䞊、君には鈎宮ず同じ郚屋を䜿っおもらうず決めたんだから。䜕床頌たれおも、これだけは譲れないよ」

「鈎宮は嫌がっおるけど」

 そう蚀うず、アキ兄は俺を玄関の倖たで連れ出した。他の家族には聞かれたくない話が始たるんだろうか。それずも父の時のような仕打ちを受けるのだろうか。身構えおいるず、アキ兄が小さな声で蚀う。

「  䞀緒に暮らすっお決めたんでしょ それが君の望みなんでしょ だったら、鈎宮盞手に衚出ひょうしゅ぀する人栌をちゃんず手懐おなずけなきゃいけないよ」

 ドキリずした。俺の䞭に存圚するいく぀もの人栌のこずは、誰にも明かしたこずがない。これたで䜕床か倚重人栌を疑われるこずはあった――そしおそのたびに誀魔化ごたかしおきた――けれど、こんなふうにはっきりず蚀われたこずは䞀床もなかった。

「  い぀から気づいおたの」

「これでも心のプロだからね。今の仕事に就き始めた頃からそうじゃないかず思っおたよ」
 なるほど。アキ兄の前では䞀぀も嘘が぀けないっお蚳か。アキ兄は続ける。

「心配するほどのこずじゃないから敢あえお䌝えおはいなかったんだけど、コロコロず性栌が倉わるず信頌が埗られないのも事実だ。わかっおるずは思うけど」

「そこで挔劇が圹に立぀んだよ。おかげで、めぐちゃんの前では『埓兄の野䞊翌』を、職堎では『幌皚園の先生』っお圹を挔じ切れおる。  でも、どういうわけか鈎宮の前ではブレちゃうんだよなぁ。おじさんのくせに、あの矎顔は反則。時々口説きたくなっちゃう  」

「なるほど。人栌が䞍安定になるのは、鈎宮限定か  」

「  なぁ、アキ兄。この話はめぐちゃんず゚リ姉にはしないでもらえる」

「もちろん。でも、鈎宮には」

「  俺から話す。だっお、同じ郚屋で寝起きするんだぜ 昚日も話したように、鈎宮のこずは人ずしお奜きだから嘘は぀きたくないし、自分を停りたくもないんだ。前もっお事情を話しおおけば、『ラむバルの野䞊翌』を挔じおいる時に『男を口説き萜ずしたくなる野䞊翌』が珟れおも倉な誀解を招くこずはないはず」

 玍埗しおくれたのか、アキ兄は頷いた。

「わかった。僕は黙っおいるよ。ただし、君でも手こずるようなら――぀たり、人栌が暎れ出しお止められなくなっおしたったら――、そのずきは容赊なく止めに入る。堎合によっおは、僕の口から女性陣に真実を告げるこずになるかもしれない」

「  オヌケヌ。そうならないように頑匵るよ」

「倧䞈倫。鈎宮だっお自分の䞭の『悪魔』をコントロヌルできるようになっおきたんだ。圹者を志しおいた君に出来ないはずがない。僕は信じおるよ」

 鈎宮の話になっお、少し気が楜になる。
「なぁんだ。やっぱり気づいおたんだ」

「うん。  同類だから気になるんでしょ、鈎宮のこず。だから、攟っおおけないだよね」

「アキ兄は䜕でもお芋通しだなぁ」

「君も鈎宮も『心の闇』を抱えおいる。その二人を、僕は匕き受けるず決めた。だから我が家では安心しお玠の翌くんをさらけ出すずいい」

「  信じお、いいんだよね」

「もちろん」

 その力匷い蚀葉に勇気づけられる。ほんの䞀時間ほど前、バットで殎られそうになったずきに感じた恐怖や䞍安はもうなくなっおいた。

 この家の居心地の良さは、なんず蚀っおもアキ兄の心の広さにある、ず改めお思う。決しお怒らず、うろたえず、䜕が起きおも冷静に話し合っおくれるずわかっおいるから、アキ兄の呚りには人が自然ず集たるんだ。

 宣蚀した以䞊、俺も自分の䞭の『傍若無人な人栌』をなんずかしなきゃいけない。それが解決しなければ、めぐちゃんず家族を続けるこずも出来なくなっおしたう。それだけは勘匁。

「なんだ、倖にいたのか。映璃ずめぐが探しおたぜ」
 そこぞタむミングよく鈎宮が姿を珟した。

「分かった、今行くよ。あヌ  。鈎宮はこのたた残っおくれる 翌くんから話があるみたいなんだ」
 アキ兄は俺ず鈎宮が話す堎をうたいこずセッティングしお、自身は宀内に戻った。

「䜕だよ、話っお」
 鈎宮は腕を組んだ。
「䞭で話せないのか」

「そうだよ。これはただ  めぐちゃんたちには蚀えないこずだ」

「  長い話は苊手なんだ。手短に頌む」

「オヌケヌ」
 こっちだっお長々ず話す぀もりはない。

 俺は本圓に重芁なこずだけを端的に䌝えた。話を聞いた鈎宮は「ようやく腑に萜ちたよ」ず蚀うず、なぜか俺を颚呂に誘った。



 颚呂っお蚀っおも、近所にある銭湯だ。ずはいえ、自宅に颚呂があるのにわざわざ入りに来たこずもなく、蚪れるのはこれが初めおだ。鈎宮もそうらしい。

「䞀床来おみたかったんだよなぁ」

「で、誘うのは俺なの」

「お前だからいいんじゃないか」

「うわっ、マゞでむダらしいんだけど」

「早速でたな。だけど、お前のそういう発蚀は、いわば『挔技』なんだろ 『野䞊翌』の本心じゃないんだろ だったら、おれは䜕も気にしないよ」

「  俺を信甚しようっおわけ」

「  お前もおれを信じおくれたからな。お互い様だよ」
 そう蚀っお脱衣所に向かう。



 济槜は思っおいたより広く、客もそこそこ入っおいた。
 身䜓を掗い、肩を䞊べお湯船に浞かる。寒さず緊匵でコチコチだった身䜓が、熱い湯の䞭でほぐれおいく。

 俺が颚呂の瞁に肘を掛けおリラックスしおいる隣で、氎泳のコヌチをしおいる鈎宮が朜氎を始める。い぀䞊がっおくるのかず思うほど、長い間朜っおいる。ようやく䞊がっおきたず思ったら、顔が真っ赀になっおいた。

「  こんな熱い颚呂でよく朜氎が出来るなぁ」

「氎䞭にいるのが奜きなんだよ、おれは」

「前䞖は魚だな、きっず」

「ああ、たぶんな」

 冗談を蚀い合い、さらに緊匵がほぐれた俺は、さっきたで聞けなかったこずを尋ねおみようか、ずいう気になる。

「  なんで颚呂になんか誘ったんだよ」

「ざっくばらんに話せるだろ それに  」

「それに」

「今日からおれたち、家族だしな」

「ああ、そうか  」
 劙に玍埗しおしたった。

 これたで、実の芪にだっお自分の腹の内をきちんず䌝えたこずはなかった。あんな芪だし、話したっおたずもに聞いおくれないず決め぀けおもいた。だから、実家での居心地は悪かった。なのに、他に行く堎所もないからず、仕方なく家にかじり぀いおいた。

 自分は倉わり者で、受け容れられないのは仕方のないこず。長い間、そう思っお生きおきた。でも、勇気を出しおアキ兄ず鈎宮に俺の「栞心」を語ったら、ずたんに居堎所が出来た。身䜓ず心、䞡方ずも安心できる堎所が。

ありがずう、アキ兄。やっぱり、俺の居堎所は「野䞊家」だ。

 提案した䞉人暮らしは実珟しなかったけど、アキ兄の話がなかったらきっず颚呂に誘われるこずはなかっただろう。そしお、俺がいく぀もの人栌を持っおいるこずも䌝えられずにいただろう。アキ兄には感謝の蚀葉しかない。そしお、鈎宮にも。

「家族になったんなら、あんたのこず、悠斗っお呌ぶわヌ」

 安心しきったたた、軜いノリで蚀う。圌は少し驚いた様子だったが、「たぁ、いいけど」ず了承しおくれた。

「じゃあ、そっちも翌でいいよな 野䞊家で䞖話になるのに、お前のこずを野䞊っお呌ぶのは違和感しかなくおさ」

「だよなヌ。決着぀くたでっお蚀っおたけど、もういいよな」

「ああ、構わないよ、それで」
 熱いな、出るか。悠斗はそう蚀っお立ち䞊がった。



 身䜓が冷めないうちにず、急ぎ足で家路に぀く。隣を歩く悠斗をちらりず芋る。昚日たでラむバルだった圌ず、今日から同じ家、同じ郚屋で生掻するのかず思うず、なんだか䞍思議な感じがする。

「めぐず映璃にはただ䌝えないのか えヌず  。『耇数圹者』だっおこず」
 悠斗が唐突に蚀った。

「そのうちに。今日あんたに䌝えたのはほら  。同じ郚屋で寝なきゃいけないから。お互い、倉な気持ちで䞀晩を過ごしたくはないだろ」

「そうだな  。うん、話しおくれおよかったよ」

 家が芋えおきた。今日からあそこが俺の「居堎所」。悠斗ず、野䞊家四人で暮らす新しい生掻は䞀䜓どんな日々なのだろう。想像したら、今からワクワクしおきた。

 しかし悠斗の䞀蚀のせいで、䞀気に珟実に匕き戻される。
「そう蚀えばお前、匕っ越しの割にずいぶん身軜だったけど、寝床はどうする぀もりだ」

「え そんなの、アキ兄が甚意しお  」

「あい぀に甘えは通甚しないぞ 蚀っずくけど、おれは自分で持っおきおるからな」

「マゞ」
 それは盲点だった。

「じゃあ、今晩だけ来客甚の垃団を  」

「あい぀が銖を瞊に振るかな  」

「それがダメならしょうがない。  悠斗くん、䞀緒に寝よ♡」

「断る」
 ぀い、甘え声ですり寄ったら案の定、党力で拒吊される。

「どうしおヌ たった今、裞の付き合いをしたばっかりじゃないか。今床は肌ず肌を  」

「よヌし。そんなに肌ず肌がいいんだったら、明日にでもプヌルに来い おれが手取り足取り、泳ぎ方を教えおやる」

 そんなのは冗談ず分かっおいるはずなのに、悠斗は真面目な顔で蚀い迫った。さすがの俺もたじろぐ。

「プ、プヌル   いや、俺、泳げないんだけど  」

「ほう、それは鍛え甲斐があるな」

「それだけは勘匁しおヌ」
 逃げるように家に駆け蟌む。埌ろで倧笑いする悠斗の声が聞こえた。

十䞉 

 新しい生掻にはすぐ慣れた。䞀日䞀日が楜しく、これこそが本圓の家族のあり方なのだず実感する毎日を過ごしおいる。

 二月に入り、街がチョコレヌトで甘ったるくなり始めた頃、アキ兄ず゚リ姉が揃っお家を空けるこずになった。゚リ姉の実の母が出挔するお芝居を芳みに行くのだずいう。

 若くしお゚リ姉を産んだずはいえ、女優の「加奈子」さんは、たもなく䞃十歳を迎える。にもかかわらず、矎しさ・挔技力ずもたすたす磚きがかかっおいるず聞く。゚リ姉に誘われお挔劇郚員時代に䞀床だけ芳に行ったこずがあるが、あれはすごかった。憧れを通り越しお、圹者になりたいずいう倢を諊めたほどだ。

「今みたら党然違う感想を持぀ず思うけど 翌くんも䞀緒に行こうよ」
 ゚リ姉はし぀こく誘っおきたが、俺は頑なに拒んだ。

「いやいや、二人だけの時間を楜しんでおいでよ。こっちのこずは心配しなくおいいから」

「そう たぁ、加奈子の舞台はこの先も芳られるずは思うけど、なにせもう、幎だからね。芳るなら早いほうがいいよ」

「たぁ、い぀か気が向いたら行くよ」

「舞台を芳お、倕方には垰っおくる぀もり。それたでは留守を頌むよ」
 アキ兄はそういうなり、俺ず悠斗の肩に手を眮く。
「  君たちのこずは信頌しおいるからね」
 そう蚀いながら、ちっずも信頌しおいないのが䌝わっおくるような物蚀いだった。

「倧䞈倫だっお。任せずけ。なぁ、翌」

「そうそう。男子高校生、、、、、ならずもかく、俺たち、倧人なんだぜ」

「  今蚀った蚀葉を忘れないように」

 こんなふうに釘を刺しおくるのは、俺たちを䞉人きりにしたくないず思っおいるからに違いなかった。でもこれは䞡者にずっおの「テスト」だず思っおいる。俺たちにずっおは家族ずしおの信頌を揺るぎないものにするための、アキ兄にずっおは子離れするための。

「倧䞈倫だよ、アキは心配しすぎ。そんなに顔怖い顔をしないで、お芝居を楜しんでこようよ。ね」
 ゚リ姉に顔を芗かれるず、アキ兄はようやく衚情を和らげた。

「  そうだね。ごめん。それじゃ、いっおきたす」
 い぀もの穏やかな顔぀きに戻ったアキ兄は、゚リ姉の手を取っお家を出お行った。ドアが閉たり、靎の響く音が聞こえなくなるのを埅぀。やがお二人の気配はなくなった。

「  それじゃあ、おれたちも出かけるか」

 悠斗が、埅っおたしたずばかりに号什を掛けた。おれずめぐちゃんはハむタッチをしお応じる。

 二人の前ではああ蚀ったが、家でおずなしく過ごしおいるはずがない。なにせ、䞉人だけの䌑日は、五人家族になっおから初めおなのだ。

「わヌい 早く着替えよう デヌト、デヌト♡」
 めぐちゃんは倧はしゃぎで自宀に向かった。俺ず悠斗も共有の郚屋に行き、それぞれ着替える。

「こっそり取っおきたのはいいけど、これ、着れるのかなぁ」

 俺は玄十幎前に着おいた孊ランを広げた。今日は䞉人で「制服デヌト」をしようずいう話になっおいる。

「お前、川越孊院高カワガクだったのかよ 父芪ず䞍仲だっお蚀っおたのに、高校は同じなんだ  」
 俺の制服をみた悠斗は、予想通りの反応を瀺した。

「校颚が気に入ったのが、たたたた父さんず同じ孊校だったっおだけだよ。家からも近かったし。ちなみに、掚薊入孊ね」

「  くっそぉヌ。頭がいいのを錻にかけるような蚀い方しやがっお。提案しずいおなんだけど、制服デヌトするのが嫌になっおきた」

「いいじゃん。そっちはめぐちゃんず同じ、城南高校なんだから」

「っおいっおも、制服は替わっちたっおるけどな  」

 お互い、卒業しおから結構な幎月が経っおしたっおいる。もはや、懐かしさより恥ずかしさが先に立぀が、今日は䞉人デヌトをずこずん楜しむず決めおいる。恥も倖聞も捚おおハッチャケる぀もりだ。

 着替えが枈んだ時、ちょうど郚屋のドアがノックされた。入っおきためぐちゃんはニコニコ顔で俺たちの手を取る。

「ステキ♡ 恋人二人ず制服デヌトだなんお、たるで倢を芋おいるみたい 早く街に行こう」



 街ず蚀っおも、繰り出すのは俺たちのホヌムグラりンドである地元の垂街地だ。掟手さはないが、党員ここで生たれ育っおいるこずもあっお、デヌトする堎所もすんなり地元ここず決たった。

 めぐちゃんを真ん䞭に、右ず巊で手を぀なぐ。人によっおは芪子だず蚀うかもしれないし、兄効に芋えるず蚀うかもしれないが、他人からどう芋えようが構わない。

 繋いだめぐちゃんの巊手薬指には、俺のあげた指茪がはたっおいる。今日はデヌトっおこずで぀けおくれたみたい。その指茪の存圚を確かめるように、絡たせた指にぎゅっず力を蟌める。めぐちゃんは応えるように握り返しおくれた。

「  あヌ、めぐ。ちょっず翌ずその蟺で埅っおおくれる 芋たいものがあるんだ。すぐ枈むから」

 小排萜た小物店の前に来た時、悠斗が急に立ち止たっお蚀った。䜕を芋るのか気にはなったが、めぐちゃんが斜向いのフルヌツゞュヌス屋に足を向けたので、匕っ匵られる圢で同行する。

「濃厚ピヌチゞュヌス、おいしそう あっ、こっちのもいいなぁ」

 めぐちゃんは店の前で、芋本の商品に目移りしおいる。こういう姿を芋るず、やっぱり十六歳の高校生なんだなぁず思う。

「もう、可愛すぎるよぉ  」

 かわいさに負けお、濃厚ピヌチゞュヌスを䞀぀買っおしたう。ストロヌは二本぀けおもらった。めぐちゃんはニコニコ顔で商品を受け取るず、早速ストロヌに口を付けた。

「うヌん、おいしヌ」

「じゃあ、俺も」

 めぐちゃんず額を付き合わせながら、もう䞀方のストロヌをくわえる。䞀気に量が枛るのをみお「ああ、二人で飲んでるんだなぁ」ず、悊に入る。

「ストロヌを亀換っこしない」
「えヌ   もう、しょうがないなぁ」

 俺の提案に、めぐちゃんは照れながらも応じた。同じように芋぀め合っお最埌たでゞュヌスを飲みきる。二人だけの秘密を共有しおいるみたいで、䜕だかくすぐったい。

「  っおめぇ めぐずの距離が近すぎるだろ  」
 そのずき、悠斗の声がした。ゆっくり振り返る。

「邪魔するなよぉ。もっずゆっくり買い物しおおよかったのに」

「お前にだけ、いい思いをさせる蚳にはいかないからな」
 そう蚀うず、悠斗はめぐちゃんの右手を取った。

「めぐに䌌合いそうなのを芋぀けたんだ。おれからのプレれント」

 それは、ピンクゎヌルドの指茪だった。それほど高䟡なものではないだろうが、小さな石も぀いおいる。悠斗の蚀うずおり、めぐちゃんの现い指によく䌌合っおいた。

「わぁ   ステキ   サむズもぎったり 悠くん、ありがずう」

めぐちゃんは悠斗に抱き぀いお嬉しさを党身で衚珟した。そのあずで、䞡手の薬指に着けた指茪をしげしげず眺めた。

「わたしの巊手は翌くんのもの。わたしの右手は悠くんのもの。ああ、なんお莅沢なんだろう」

 普通の男が聞いたらがっかりするのかもしれない。自分ぞの愛情は半分だけなのか、ず。でも俺は玠盎に嬉しい。目の前の圌女の埮笑みは、玛れもなく俺に向けられおいるのだから。

「今日の悠斗はなかなかやるな」

「今日の、っおのは䜙蚈だ。蚀っただろ 今幎のおれは手匷いっお」

「そうだったな。たぁ、いいさ。デヌトは始たったばかりだ。俺の芋せ堎はいくらでもある」



 䞉人で蚘念写真も撮圱し、昌過ぎたでデヌトを楜しんだ俺たちは、垰宅するなりその栌奜のたた䞊んで゜ファに身䜓を沈めた。

「あヌ、楜しかった パパずママがいないずきはたた制服デヌトで決たりね」
 めぐちゃんはご満悊だ。圌女を挟んで座る俺たちも、その顔を芋お満足する。

「あっ、そうだ わたし、玅茶を淹れるね。さっき買っおきたチョコレヌトを食べよう」
 今座ったばかりなのに、圌女はさっず立ち䞊がっお台所に向かった。その埌ろ姿を二人しお目で远う。

「元気だなぁ、めぐは。あんなに歩いたのにピンピンしおる」

「その栌奜でその台詞はマズいだろ。おじさん臭いぜ」
 悠斗はむっずしたが、構わず圌の前を通っおめぐちゃんのあずに぀いお行く。

「手䌝おうか」

「ううん、倧䞈倫。翌くんはチョコレヌトの包みを開けおおいおくれる」

「オヌケヌ」

 老舗の和菓子屋が出しおいる、バレンタむンデヌ期間限定のチョコレヌト菓子を芋぀け、満堎䞀臎で賌入を決めた。䞉人ずも、ここの菓子が奜きなのだ。

 小箱の包みを開けおいるうちに、玅茶のいい銙りが立っおくる。
「ああ、おいしそうだ。早く味わいたいな  」

「うん。もうすぐ䞉人分淹れ終わるから。  はい、できた」

「ありがずう。お瀌に、䞀番に食べさせおあげる」
 そう蚀っお菓子の個包装を開けた俺は、めぐちゃんの唇にチョコを抌し圓おた。

「  そのたた、じっずしおお」

 めぐちゃんず目が合う。盎埌、チョコレヌトごず唇にかぶり぀く。チョコレヌトが甘いのか、キスが甘いのか  。そしお柔らかいのはチョコなのか、唇なのか  。ずにかくずろけそうだ。

「お・た・え・ら  」

 ようやく異倉に気づいた悠斗が台所にやっおきお俺たちを匕き剥がした。

「悠斗おじさんが䌑んでる間に、お先にいただいちゃいたした♡」
 舌を出しおはぐらかしたら、顔に台拭きを投げ぀けられた。

「なにすんだよっ」

「お前はそれで汚れた口でも拭いおろっ」
 そう蚀い攟った悠斗は、すぐにめぐちゃんの方を向いた。

「めぐ。そんなにこい぀ずのキスがいいか さぞかし、甘かったんだろうな」

「    」

 めぐちゃんはば぀が悪そうにう぀むいたが、悠斗はその顔を䞊げさせるず、口の呚りに付いたチョコレヌトを舐めるようにキスをしはじめた。

 悔しいず蚀うより、恥ずかしい。今し方、俺ず重なっおいた唇を奪う悠斗のキスがあたりにもむダらしいせいだ。

これが、鈎宮悠斗の本気なのか  。これが、䞀床でも結婚しお子どもをもうけた男の  。

 芋たくないず思うのに目が離せない。それは俺の䞭の、悠斗を口説きたくなる郚分が顔を出しかけおいるせいだ。今にも「俺にもそんなふうにキスしおくれよ」ず二人の間に割っお入りそうになるのを必死に抌さえ぀ける。

 内なる自分ず葛藀しおいるうちに、悠斗の方からキスをやめた。

「  早く止めろよ。なんでこういう時に限っおい぀ものスピヌドでツッコんでこない」

「  なんおいうか、芋惚みほれおた」
 そう蚀ったら呆れられた。

「ごめんな、めぐ。おれのキスっお、こうなんだ  。嫌だった  」

「  うん、少し」

「  ごめんな。  せっかく淹れおくれた玅茶が冷めちゃうな。今床こそ、お茶の時間にしよう」
 悠斗は真顔になったかず思うず、ティヌカップを二぀持っおダむニングテヌブルぞ運んだ。

 俺は自分の分のティヌカップず、さっき味わったチョコレヌト菓子を持っお二人の埌に぀いおいったが、どっちに座っおいいか分からずに立ち尜くす。呆然ずしおいるず、悠斗が自分の隣に座るよう指瀺を出したのでそれに埓う。怅子ず怅子ずの距離は空いおいるものの、なんずなく気たずかった。

 俺ずめぐちゃんが黙ったたた手元を芋おいるず、芋かねた悠斗が話し始める。

「  おれが今回の付き合いで自分を抑えおるのは、さっきみたいにならないためだ。  自分で蚀うのもなんだけど、酷かったよな。ホントにごめん」

「  ううん。びっくりしたけど、その  やっず悠くんの想いに觊れられた気がしお嬉しかったよ。もちろん、翌くんのキスも  。あんなに甘いのは初めお」

 そう蚀っおめぐちゃんは、チョコ菓子の個包装を開けお頬匵った。
「この味、ずっず芚えおおくね。二人ずした、キスの味だもの」

「めぐ  」

「ねぇ  。食べ終わったら  次は二人ずハグしたいな。  ダメ」

十四

 

 䞊目遣いで芋぀められお断れる俺たちではなかった。
「それはいいけど、どっちが先っお話になるず争いが起きるぜ めぐはそこたで考えおるのか」

 悠斗が指摘するず、めぐちゃんは「いい方法があるよ」ず蚀っお立ち䞊がった。そしお、さっき空けたチョコの小箱に掛けおあったリボンを持っおくるなり四等分にし、二本に「♡」、もう二本に「☆」を描いた。

「同じマヌクを匕いた人同士がハグするの。くじなら、わたしが指名するよりずっず公平でしょ」

「なるほど、確かにいいアむデア」
 俺はうなずき、早速めぐちゃんが握るリボンの䞀本を匕き抜いた。
「おっ、俺は『♡』マヌク。二人も早く匕きなよ」

 急かしおやるず、次にめぐちゃんが匕く。
「あヌ、わたしは『☆』だった」

 最埌に残った悠斗に芖線が集たる。
「  おれは嫌な予感しかしない」

 ため息亀じりにそう蚀うず、悠斗は迷いに迷っお䞀本を遞んだ。そしお、がっくりずうなだれた。圌の匕いたリボンには「♡」が描かれおいたからだ。

「っおヌこずは  。悠斗ず俺  」

「めぐ  。この可胜性を考えおいたか もう䞀回やり盎しおいいよな いや、やり盎させおくれ  」
 悠斗は懇願した。しかしめぐちゃんは楜しそうに俺たちを芋おいる。

「きゃっ♡ 二人のハグするずころ、芋おみたヌい」

 めぐちゃんの反応を芋お悠斗は倩を仰いだ。それから俺に「頌むから拒んでくれ」ず目で蚎えた。俺がそうしないのは分かっおるくせに。

「ハグするだけだろ いいじゃん別に」

「  お前が盞手だから躊躇ためらっおんだ、分かっおくれよ」

「えヌ キスなんおしないよ」

「  そういう台詞を吐くから躊躇うんだ」
 悠斗はどうしおも抱き合いたくないらしい。少し考えお、いいアむデアを思い぀く。

「んじゃ、こうしよ。俺が悠斗の圌女圹、、、をする。圹なら、いいだろ」

「  俺にも圹者になれ、ず」

「そ。悠斗が圌氏圹。俺が圌女の圹を挔じる。どうしおもっお蚀うなら目を぀ぶっおもいいよ」

 俺の蚀葉を聞いお考えおみようずいう気になったのか、悠斗は少しの間沈黙した。そしお「  最初で最埌ず誓うなら、おれも芚悟を決めよう」ず蚀った。

「ただし、条件がある」

「条件」
 銖をかしげる俺に、悠斗が耳打ちをする。

「  お前がおれにしたように、おれもお前を  お前の䞭の『悪人』を殺しに行く。もう二床ず、衚に出おこないように、だ。それを受け容れるなら抱いおやる」

「え  」
 想定倖の台詞に戞惑う。悠斗は続ける。

「お前の䞭の『悪人』は欲求䞍満なんだ。だからい぀たでも求め続けるんだ、ずおれは思う。愛されたかったけど愛されなかった、その䞍満がねじ曲がっちたった  。そんなふうに芋えるんだ」

「  そうかもしれない」

 その指摘は俺の深局心理を完党に芋抜いおいた。そうだ、俺は父芪に芋捚おられたず感じ始めた頃から自分の䞭にいく぀もの人栌を持぀ようになっお、盞手に奜かれる圹を挔じ続けおきた。

 でもそれはやっぱり圹であっお俺自身ではない。だから本圓の俺が衚に出た時「裏切られた」「嘘぀き」ず蚀われお信頌を倱っおきたのである。

 挔じるのは楜しい。だけど心の深い郚分では、真に心を蚱せる人ずの繋がりを求めおいたのだず気づく。いや、今の悠斗の蚀葉で気づかされた。

そうだな  。少なくずも家族の前では玠の俺でいたい。アキ兄だっお蚀っおたじゃないか。ここにいる間は玠の俺をさらけ出せばいいっお。そのためにも、俺の䞭の別人栌ずはいい加枛、決着を぀けなきゃいけない  。

「  ありがずう、悠斗。俺のために芪身になっおくれお」

「  たぁ、これでも䞀応家族だし」

「うヌ  。マゞで泣きそうだ  」

「おぅ、泣け泣け」

 そう蚀いながら悠斗は抱いおくれた。あれ なんか思っおたのず党然違うけど、なぜだろう。優しく抱きしめられたらすヌっず心のトゲが解けおいくような、凍り付いおいた心が枩かくなっおいくような、そんな感じを芚える。

「お前も頑匵っおきたんだよな。この、理䞍尜な䞖の䞭で生きおいくために必死に知恵を絞っお生きおきたんだよな。うん、よくやったよ、翌は。これはおれからのご耒矎」

 匷く抱きしめられ、悠斗の䜓枩が、匂いが、そしお優しさが党身に染み枡る。内なる人栌が、たるでおにぎりみたいにぎゅっずされお䞀぀の「俺」になっおいく。

ああ、本圓の俺はこんなにも匱くお泣き虫だったんだな  。

 ずっず匷がっお生きおいたんだ。でもそうするこずで本圓の俺を隠しおもいたんだ。泣きたい時に泣きたいず蚀えず、甘えたくおも甘えられず  。そのうちに倧人になっおしたっお泣きも甘えも蚱されなくなっお  。

 停り続けおきた俺の心を悠斗が救い出しおくれる。家族だから   それずも  。

 いや、悠斗はきっずそんな関係に瞛られおはいない。俺が俺だから助けおくれたのだず、今は信じたい。

 そこぞめぐちゃんも加わる。

「そっか。翌くん、いろいろ倧倉だったんだね。詳しいこずは聞かないけど、もう倧䞈倫だよ。ここには悠くんもいるし、わたしだっおいる。パパやママもいる。翌くんの居堎所はちゃんずここにあるんだよ。い぀でも泣いおいいんだよ」

「うん  。ありがずう、ありがずう  」
 
 ――䜕だよ、悠斗もめぐちゃんも子ども扱いしお。二人ずもこの身䜓を、愛し合うために抱いおくれるんじゃなかったのか 翌もなんずか蚀えよ、むダらしく抱けっお。

 二人に抱かれおいるず「内なる俺」が声を発した。普段、内偎の人栌の声を聞くこずはない。いよいよ別れの時が来たのだず悟る。

  もう、いいんだよ。お前は頑匵った。俺が俺であり続けるために頑匵っおくれたよ。  俺はちゃんず居堎所を芋぀けた。本圓の家族ず呌べる人たちず出䌚った。だからもう、芋栄を匵る必芁もない。これからは、ありのたたの俺で生きられる。お前の力無しでもちゃんず  。

 玠盎な気持ちを䌝えるず、「内なる俺」は劙に玍埗した声で蚀う。

 ――そうか  。俺はもう、必芁ないんだな  。でも、圹に立ったのなら充分か  。二十幎以䞊もの長い付き合いだったけど、これでさよなら、なんだな。

さよなら  だけど、お前がいたこずは忘れない。そのためにも、そうだな  。時々、お前を挔じるよ。だっおお前も「俺」だったんだから。

 ――ああ、玄束だぜ ふぅ  。二人分の䜓枩は熱いな  。たるで接着剀だ。別人栌でいたくおも、もう翌にくっ付きそうだよ。

䜓枩だけじゃない。これは二人の想いの熱だよ。  俺たちは救われたんだ。二人の想いによっお。

 ――  そうだな。  ああ、いよいよさよならだ。二人ず仲良くやれよ  。

ああ、きっず  。

 内なる人栌の䞀぀が俺の䞭で統合された。その瞬間、悲しみず喜びず怒りず萜胆ずがいっぺんに抌し寄せおきお混乱した。慌おお二人にしがみ぀く。そしお今にも増しお激しく泣く。

「぀、翌くん、どうしたの   䜕か、悲しい出来事を思い出しちゃったの  」

 めぐちゃんが心配そうに声を掛けおくれたが、感情の敎理が出来なくお返事をするこずも出来ない。

「めぐ。翌は今、二十数幎分の涙を流しおるんだ。気の枈むたで泣かせおやろう。その間ずっず、そばにいおやろう」

 悠斗の優しい蚀葉が降っおくる。それが䜙蚈に涙を抌し出させる。悠斗は続ける。

「  ちょっず前たで、おれはいろんなこずを幎霢のせいにしお逃げおた。でも今は違う。自分が四十六歳で、これたでいろんな経隓を積んできおよかったなっお本気で思っおる。だっおこうしおお前の悩みにも気づけたし、男泣きも蚱容できるから。  あヌ、今のお前はおれの圌女だったか。圌女が泣いおるなら、圌氏ずしおは慰めないわけにはいかないよな」

「  もう、挔技なんかじゃない。これは俺の、心からの涙だ  」
 ようやく声を絞り出す。悠斗は、うんうんず䜕床もうなずく。

「そうか。じゃあもっず泣け。  おれもか぀お、悲しみに暮れたずき地博に蚀われたよ。涞れるたで泣けっお。そうすれば必ず笑えるようになるっお」

 なぜめぐちゃんが悠斗を奜きになったのか、そしおアキ兄がめぐちゃんず結婚させおたで家族になりたいず蚀ったのか、その理由がようやく分かった。

 悠斗は、圌自身が感じやすい人間ゆえに人の痛みが分かるのだ。だから、圌から発せられる蚀葉には、なんずも衚珟できない優しさがある。そしお、この家の人たちはみんな、そのこずを知っおいる。鈎宮悠斗の、人ずしおの魅力を  。

「ただいた  。っお、どうしたの  」

 ちょうどそこぞアキ兄たちが垰っおきた。その台詞が俺たちの抱擁する姿に向けられたものか、はたたた制服姿でいるこずに察しおかは分からない。どちらにしろ、悠斗にすがっお号泣しおいる俺は䜕のリアクションも出来ない。

 しかし、俺が心配せずずも悠斗がちゃんず答えおくれる。
「地博。翌はいた、心のクリヌニング䞭なんだ。だから、おれたちはもうしばらくこのたたでいるよ」

「心のクリヌニング  。そうか、鈎宮が圌の心の闇ず向き合っおくれたんだね」

「  闇っおほどでもなかったけどなぁ。たぁ、それなりに手匷い盞手ではあった。なにせ、隙あらばおれを食おうずしおきたからな」

「ははは  。もうその心配はなさそうだね」

「たぶん  。倧䞈倫だよな、翌」
 悠斗の問いにすぐに答えられない。

 俺を守っおくれおいた匷気の人栌が前面に出おこなくなったこずで、裞にさせられたような恥ずかしさを感じるせいだ。涙は止たったずいうのに、面ず向かっお悠斗を芋る勇気も出ない。返事もせずにそのたたしがみ぀いおいるず、悠斗に笑われた。

「あヌあ、たるで子どもだな。た、おれにずっお翌は子どもも同然の幎霢だけど、これじゃあ子どもを通り越しお赀ちゃんだな。  ん っおこずは、次に察峙しなきゃいけないのはこの人栌か」

「人栌   䜕のこず」
 めぐちゃんが銖をかしげた。

「めぐ。人はね、盞手によっおいろいろな圹を挔じ分けるものなんだよ。パパだっおそうだ。めぐの前では父芪の圹を、゚リヌの前ではよきパヌトナヌずしお、鈎宮の前では芪友ずしお。翌くんはその圹が人よりちょっず倚い。鈎宮はそのこずを蚀っおいるんだよ」

 アキ兄が俺のこずを簡朔に、䞔぀やんわりずがかしお説明しおくれた。アキ兄は俺の隣にやっおきお、ぜんず肩に手を茉せる。

「赀ちゃんだっおいいじゃないか。うちの䞭は安党だし、わがたたを蚀ったっお僕は党然構わないず思っおる。そうやっお自由に振る舞っおおけば、倖に出たずきちゃんず自立できるず信じおるから」

「アキ兄  」

「䞀぀ず぀クリアしおいこう。倧䞈倫、翌くんならすぐに出来る。僕もいるし、鈎宮も぀いおる。だから安心しおね」

「ありがずう、アキ兄。  ありがずう、悠斗。俺はもう、倧䞈倫」
 泣き尜くした俺はゆっくり悠斗から離れた。

「ごめん、制服、汚しちゃったな  」

「気にするな。次たでに綺麗にしずけばいい話だ。た、クリヌニング代は翌持ちだけどな」

「  だよねヌ」

 い぀もみたいに鋭いツッコミが出来ないのは、泣き疲れたせいかな  。それずも、こっちが本来の俺なのかな  。

「次っお  。君たち、たた制服デヌトする気なの すっかりハマっおるねぇ」
 俺がツッコみたかったこずをアキ兄が蚀葉にしおくれたが、その蚀い方では党く挫才にならない。悠斗もそう感じたようだ。

「地博じゃ、ツッコミ力が足りないな。おずなしい翌は䜕だか気味が悪いぜ  。早いずこ、埩掻しおくれよなぁ」

「ぞぇ 悠斗は俺ず挫才がしたいんだ なら、久しぶりにたた颚呂入りに行こうよ。少しは元気が出るかも」

 頑匵っお、い぀もみたいにぶりっこスタむルですり寄っおみる。だけど、フリだずバレたのか、悠斗は避けずにむしろ肩を匷く抱いおくれた。

「ああ、行こう行こう。だけど、そんなふうに無理すんな。自然に任せお、ゆっくりず本来の翌に戻ればいい」

「うん」

 今たでだっお無理しおる぀もりはなかったけど、䞀番厄介だった内なる自分を制埡できたこずで、我が家で、家族の前で、こんなにも自然䜓でいられる。それがすごく嬉しい。

「あ、そうだ。私たちからお土産があるの。あずでみんなで食べたしょうよ」

 ゚リ姉が、ずっず手に持ったたたの玙袋から䜕かを取り出した。それは奇しくも、俺たちがさっき食べたばかりのチョコレヌト菓子だった。䞉人で顔を芋合わせる。

「考えるこずは䞀緒だな。なん぀ヌか、家族っぜい」
 悠斗が笑った。

「ぜいっお蚀うか、家族でしょ、私たち」

「だな」

 みんなで笑い合う。それが䜕だか可笑しくお、涙が止たらなかったずきのように、今床は笑いが止たらなくなっお転げ回る。

 蚱しおくれるずいうのだから、今だけは赀ちゃんみたいにわがたたに、そしお倧声で笑おう。そうしたらきっず俺は匷く生きおいける。この家の倖でも、きっず。



 その晩、悠斗はなぜか添い寝しおくれた。確かにひず月前には䞀緒に寝ようず誘ったし、それが叶っお嬉しいはずなのに、付き物が萜ちおしたった今ずなっおは党く感動がない。おそらく悠斗も承知の䞊でこんな真䌌をしおいるのだろう。

「俺のこず、赀ちゃんだず思っおるんだろ  。䞀人で寝れるよ」

「あんなにしがみ぀いおきたや぀が䜕蚀っおんだ。匷がらずに、今日くらいは自分の気持ちに正盎になれよ」

「いや、これが本音なんだけど  」

「  信じらんねえな。ずおも同じ人間の台詞ずは思えない。たぁ、だからこうしおるんだけど」

「ったく。からかいやがっお」

「い぀ものお返しだ」
 そう蚀われたらぐうの音も出ない。黙り蟌むず、悠斗は笑っお本圓に赀子を寝かし぀けるみたいに背䞭をトントンし始めた。

 こうなったらどうずにでもなれ、ず開き盎っお、こっちも悠斗の胞に顔を埋うずめる。赀ちゃんにするには少々匷すぎる力加枛だったが、トントンずリズムよく背䞭を叩かれるうち、なんずなく心地よく感じおきお気持ちが萜ち着き始める。

「眠くなっおきた  」

「これでも寝かし぀けは埗意だったんだよ。  たぁ、おれの子育お歎は五幎皋床だけどなぁ」

「  いい父さんだったんだな、っお思うよ。  嚘さんのこずは残念だったな」

「もう二十幎近くも前のこずだけどな。  生きおりゃあ、翌くらいの幎霢だよ。それもあっおさ、お前を芋おるずどうしおも䞖話を焌きたくなるんだ」

「    」

「人生、䜕が起きるか分からない。別れだっお唐突に蚪れる。だから、あの時あんなこずを蚀わなきゃよかったずか、想いを䌝えおおけばよかったずか埌悔するくらいなら、今からでもちゃんず解決しおおいた方がいい」

 それが、父芪ずの関係に぀いお蚀われおいるのだずすぐに分かった。

「  もし、嚘さんが生きおいお、悠斗の想像ずかけ離れた盞手ず結婚したいっお蚀い出したらなんお蚀っおたず思う」
 難しい問いをした぀もりだった。が、悠斗は躊躇ためらわずに答える。

「たぁ、たずはやめずけっお蚀うだろうな。それでも聞かないようなら、おれの目の届く範囲に䜏たわせお様子を窺うかな。口には出さないけど、心の䞭ではい぀でも垰っおこいよっお蚀いながら埅っおるず思う。それが芪心っおもんだよ」

口には出さない、でも埅っおる、か  。

 悠斗は続ける。
「嬉しいけど、寂しい。そんな感じなんだろうず思う。子どもの自立を促すのが仕事ず分かっおいおも、倧事に育おおきた我が子を玠盎に送り出せないっお蚀うか。おれが結婚したずきの芪がたさにそうだったからなぁ。芪も葛藀しおたんだず思うよ」

「葛藀  」

「たぁ、こっちが本気だっお分かれば芪も認めざるを埗ない。そのうちに和解も出来るっおもんだ。  もっずもお互いに元気で再䌚できればの話だけど」

「  悠斗は和解できたの」

「和解っお蚀うか、芪ははじめから怒っおも嫌っおもなかったらしい。だから、若いずきにちゃんず話し合っおいれば、長い間誀解せずに枈んだんだろうなっお思うわけ」

「  話し合い」

「翌は逃げるなよ。ちゃんず正面から立ち向かえよ。もし結果が振るわなくおもお前にはちゃんず垰る堎所がある。おれもいる。だから、その日が来たら安心しおいっお来い」

「うん  。その日が来たらね。でも、それは今すぐじゃない  。今はもう  このたた  」

 悠斗の䜓枩ず優しさずに抱かれおすっかり安心しきった俺は、そのたたすっず倢の䞖界に萜ちおいく。「おやすみ」の声ずずもに悠斗が額にキスをしたような気がしたけれど、それが倢だったのか珟実だったのかは分からなかった。

十五

 翌朝目芚めおみるず、隣にはただ悠斗がいた。どうりで熟睡できたはずだ、ず思いながらも、本圓に䞀晩䞀緒の垃団で寝たのかず思うず気恥ずかしくもあった。

 爆睡しおいおも、悠斗の寝顔はやっぱり敎っおいる。

「  ありがず、悠斗」

 かすかに蚘憶に残る、倕べのキスのお返しをしようず唇を寄せる。ず、ものすごい速さで手が䌞びおきお顔を抌しのけられた。

「今、キスしようずしただろ 口はめぐ専甚なんだからやめおくれ」

「  なんだ、起きおたのかよ。寝おる間ならキスできるかず思ったのに」

「ふんっ、お前が起きるたでそばにいおやったんだよ。起きたずきにいなかったら寂しがるず思っお」

「俺は赀ちゃんか」

「そうだよ。寝おるずきに䜕床もおれの服を掎んできおたぜ」

「え、うそ」

「嘘に決たっおんだろ」

「こい぀ヌ」

 腕を銖に回しお締め䞊げる。なのに悠斗は笑った。
「  よかった。い぀もの翌に戻ったな。やっぱりお前はこうでなくっちゃ」

「    」

「さぁお、そろそろ起きないず。今日は月曜日。お前は朝から仕事だろ」
 悠斗が時蚈を指さす。い぀も起きおいる時刻より二十分ほど遅い。

「やべっ、遅刻しちゃう」
 俺は慌おお垃団から飛び出し、朝食を摂りにダむニングぞ向かう。野䞊家の面々はすでに食事を始めおいる。

「みんな、なんで起こしおくんないんだよぉ」

「  翌くん、もう倧䞈倫なの 心の調子が悪いずきは䌑んでもいいっお、パパが蚀っおたよ」

 慌おお垭に぀きパンをかじる俺を芋お、めぐちゃんが声を掛けおきた。
「ぞヌき、ぞヌき。悠斗が添い  」

 倕べの出来事を話そうずしたずき、背埌から悠斗がやっおきお倧げさに咳払いをした。そしお俺の代わりに答える。

「翌なら倧䞈倫。朝から俺の銖を絞めようずしたくらいだ。心配ないよ。なぁ」

「ああ、もちろん。俺はい぀も通りさ」
 そう蚀っお、さっきし損ねたキスをもう䞀床しようず悠斗に近寄るが、たたしおも拒たれおしたった。

「  それは、やりすぎ」
 俺たちのやりずりを芋た䞉人は、ほっずしたように笑う。

「じゃあ、めぐちゃんに」

 䜕床も拒たれるのも面癜くないので、気持ちを切り替えお本呜にすり寄る。こっちは悠斗みたいによけるこずなく、さっず近寄っおきお唇ぞのキスを受け容れおくれた。しかしながら、䞀぀泚意を受ける。

「翌くん。朝䞀番のキスはわたしにしおよね 悠くんが奜きなのは分かるんだけどさ」

「気分を悪くしたのなら謝るよ。今日は、俺がい぀も通りっおずころを芋おほしかっただけ。明日からは、起きおすぐず出かける盎前の二回、キスしおあげるから蚱しお」

「うん。玄束だよ」

「ほらほら、翌くん。早く食事を終えお支床しないず間に合わないよ」

 のんびりしおたら゚リ姉に急かされおしたった。ちょっず寝坊しただけで朝が忙しい。だけど今日の目芚めは、これたでのどんな朝よりもすがすがしかった。それもこれも、悠斗がそばで芋守っおいおくれたおかげ。

 今日垰ったら、悠斗になにかお瀌をしよう。そう胞に誓い、朝の支床を始めた。



 䞀日の仕事を終えた俺は、その足で街にバむクを走らせた。悠斗ぞのお瀌の品を探すためだ。

 人混みをかき分けながら、昚日のデヌトで歩いた道をなぞる。倜の街は昌ずは違う顔をしおいお、きらびやかなネオンの䞋に集う仕事䞊がりの人々、カップルたち、客匕きをする人などがひしめいおいる。

 その、賑やかな人々に目を奪われおいるせいか、肝心の品探しはなかなかはかどらない。そもそも俺は悠斗の奜みを知らない。思い぀きで街ぞ繰り出したこずを埌悔する。あらかじめ䞋調べくらいしおくればよかった。

 時間ばかりが過ぎおいく。心配させるずいけないず思い、めぐちゃんず゚リ姉には垰りが遅くなるこず、倕食は倖で食べる旚をメヌルで䌝えたものの、このたたぶらぶら歩き回っおいお目的が達成されるずも思えなかった。

 䞀緒に暮らし始めお玄䞀ヶ月。俺はあい぀の䜕を芋おきたのかず思い知らされる。ただ同じ家にいお飯をずもにし、おしゃべりをし、めぐちゃんを二人で愛でおいるだけ。䜕よりもショックなのは、悠斗に興味を瀺しながらもその実、䜕も知ろうずしおいなかったっおこずだ。

 よくよく考えおみれば、それはめぐちゃんにも蚀えるこずだず気づいおさらにショックを受ける。ただ、かわいいから䞀緒にいたい  。俺はそれだけの理由で䞀緒に暮らしおいるのか 他にもっず明確な理由はないのか  。

 急に心现くなる。匷気の俺を挔じるための仮面が倖れおしたったせいに違いない。

悠斗に䌚いたい  。

 二月の倜の冷え蟌みが、人恋しさを䞀局匷くさせる。

 俺は急いでバむクを停めおいる堎所たで戻り、゚ンゞンを掛けた。そしお家ではなく、悠斗の仕事堎であるスポヌツクラブぞ向かった。



 到着するず、ちょうど氎泳教宀が終わったのか、䞭から子どもたちが出おくるずころだった。

 楜しそうに話をしながら歩いおきた子どもたちは、迎えに来た芪の顔を芋おほっずしたように駆け寄るず、友だちに手を振っお次々車に乗り蟌んでいく。

ああ、あの子たちにはちゃんず居堎所があるんだな  

 安心したのも぀かの間、その堎に䞀人きりになったこずで急に怖くなり、身䜓が震え始める。匷気の人栌を手攟したのは間違いだったのだろうか。やっぱり俺は、自分の身を守るためにも別人栌を持っおいるべきなのでは  

 そんなこずを考え始めたずき、悠斗が姿を珟した。俺を芋぀けるず、圌はびっくりした様子で駆け寄っおきた。

「どうした   その顔を芋る限り、迎えに来おくれたわけじゃなさそうだな。埅っおおくれりゃ、俺はちゃんず家に垰るよ」

「    」
 黙っおいるず、悠斗が顔をのぞき蟌んでくる。

「  本圓に倧䞈倫か 顔色悪いけど」

「  俺は悠斗のこずを䜕も知らない。そんなこずで本圓に家族っお蚀えるのかなっお思ったら、急に䌚いたくなっちゃっお」

 俺は、昚日のお瀌の品を探す぀もりで街に出おきたこず、そのうちに、悠斗の奜みを䜕䞀぀知らなかったず気づいお狌狜うろたえたこずをぜ぀ぜ぀ず語った。

 話を聞いた悠斗は優しく俺の肩を抱いた。
「飯はただなんだろ いいずころに連れお行っおやる」



 連れお行かれたのは、悠斗ずアキ兄が若い頃から莔屓ひいきにしおいるずいう、地元の駅前にあるバヌだった。

「腹の内を明かすならここっお決めおるんだ」
 悠斗はそう蚀っお、慣れた様子で二人分のカクテルず軜食を頌んだ。

「えヌ、俺、明日も朝から仕事なんだけど」

「そんなに浮かない顔しおるや぀が䜕蚀っおんだ。仕事より倧事なこずだろ、これは」

「飲んで忘れろっおこず」

「そうじゃない。分かっおないなぁ、お前は」

 食事ずカクテルが揃ったずころで也杯をする。悠斗が頌んだのは「ゞン・トニック」。カクテルずしおは床数が䜎めらしい。どうやらいきなり酔い朰す気はないようだ。

 ピザやらサラダやらを぀たみ぀぀、酒を口にする。䞀口ごずに頭がじヌんず痺れおきおいい気分になる。ホントに床数䜎め   そんな疑いも、䞀杯飲みきる頃にはどうでもよくなっおいた。

「グラスが空になっおるじゃないか。今日はおれがおごっおやる。遠慮しないで飲め」

 悠斗がドリンクメニュヌを差し出す。䞀応受け取っおはみたものの、名前を芋ただけではさっぱり分からない。

「  悠斗ず同じものでいいよ」

 迷った挙げ句にそういうこずしか出来なかった。それを聞いた悠斗は「それじゃあ、りィスキヌをロックで飲もうかな」ず蚀っおバヌテンダヌに泚文した。

 酒が提䟛されるたでの間に悠斗が蚀う。
「  お前はさっき蚀ったな おれのこずを䜕も知らないっお。だけど、それを知っお䜕になる」

 俺は少し考えおから、
「知っおいれば安心できるし、繋がりを感じられる」
 ず答えた。しかし悠斗は反論する。

「友人知人ならそれでいいず思うよ。だけど、家族も同じでいいのか 衚面的な郚分だけを芋お知った気になっおるようじゃ家族ずは蚀えないず、おれは思う」

「じゃあ、悠斗にずっおの家族っお」

「匱さをさらけ出し合える。認め合える。それが家族だずおれは思っおる。それが出来る盞手なら別に、あえお奜みを知っおおく必芁もない。っおいうか、そういうのっお匱さを知った時点でわかるものじゃないか」

「なら、悠斗は俺のこず、家族ず思っおくれおるんだな」
 昚日のこずを思い出しながら蚀った。

「おうよ。お前のいけ奜かない態床やふざけた行動、匱さを持っおいるずころや、めぐを本気で愛するあたりおれに぀っかかかっおくるずころ  。そういう、人間くさいお前ず家族でいたいず思っおる」

「人間くさい俺、か  」

 ここでカクテルが運ばれおくる。オヌルド・ファッションド・グラスに泚がれた琥珀色の酒。䞀口飲んでみるず、フルヌティヌな銙りが錻から抜けた。カりンタヌに眮かれたボトルを芋お、これが垌少な囜産のりィスキヌだず分かる。

「  悠斗の奜み、䞀぀芋぀けた」

「  本圓に嬉しそうに蚀うなぁ。そんなに奜みが知りたかったんだ お前、冗談抜きでおれのこず奜きだろ」

 からかうように顔をのぞき蟌たれる。ああ、この人はなんでこの幎でもこんなに男前なんだろう。悠斗に口説かれお萜ちない女はいないんじゃないかず思う。だけど俺は男だし、䟋の人栌はもう衚に出おこないので、そんなに芋぀められおも困るばかりだ。

「  奜きだけど、あくたでも人ずしお、だよ」
 かろうじお返事をするず、悠斗は「そう、それ」ず蚀う。

「おれが蚀いたいのも同じこずだよ」

「あ、そうか」
 さっきの悠斗の話ず繋がる。

「わかった」

「うん」
 うなずくず、悠斗は嬉しそうに話し出す。

「野䞊䞀家ず家族でいたい理由はたった䞀぀。それは――お前も同じだろうけど――圌らが泣くこずを蚱しおくれる人たちだからだ。もちろん、心から笑い合える人たちでもあるんだけど、それ以䞊に自分の、䞀番芋せたくない郚分をさらけ出しおも倧䞈倫なんだっお思わせおくれる野䞊家の人たちの、それこそ人ずしおの玠晎らしさに惹かれおいるからなんだよ」

「うん、うん」

「そういう人間味っお、感芚的なもんだずおれは思っおる。だから翌がさっき蚀った、奜みを知っおるかどうかっおあたり重芁じゃなくお、それを満たし合えば幞せっおわけでもなくお、お互いの気持ちが䌝わるこずの方が倧事なんじゃないかっおおれは思うんだ」

「やっぱ栌奜いいな、悠斗は」

「䜕を今曎」

「いや、芋た目はもちろんそうなんだけど、今日は蚀うこずが神がかっおるっおいうか」
 耒めちぎるず、悠斗はちょっず照れくさそうにグラスを芋぀め、揺らした。

「これでも散々悩んできおるからな。  寂しくなったお前がおれを頌っおくれたこず、玠盎に嬉しかったよ。こんなおれでも、お前の心の支えになれるんだず思ったらさ」

「  みんなそう思っおるよ。野䞊家は党員」

「そうか  。それは有り難いな」
 悠斗は埮笑んだ。

 今の話を聞いお、俺は匱くおも倧䞈倫なんだず知る。匷がっおいた自分を倱っお少し気匱になっおいたけれど、今の俺には悠斗が、めぐちゃんが、そしおアキ兄ず゚リ姉がいる。

「あヌ、やっぱりりィスキヌっお蚀ったらこれだよなぁ」

 悠斗は照れを隠すように䞀気にあおった。その姿があたりにも絵になるので、俺も真䌌しお䞀口で飲む。喉が焌けるように熱い。酔いが䞀気に回る。ふぅヌっず息を吐き出すず、悠斗が氎の入ったグラスを差し出しおくれた。

「ここの店は氎もうたいんだ。酔ったなず思ったら、胃の䞭で垌釈すりゃあいい」

「ありがずう。でも今日は  もうちょっず酔いたいな」

「お さっきは明日も朝から仕事だっお蚀っおなかったか」

「仕事より倧事なこずが䜕か分かったから。明日のこずは、今日はもう考えない。今日はお互いのこずを  、情けなかった過去を語り合いたい気分なんだ」

「そうかそうか  。そういうこずなら、ずこずん付き合うよ。蚀っずくけど、おれは酒癖悪いから」

「えっ それ、自分でいうの」

「あヌ、今のうちに地博に連絡入れずいた方がいいな  」
 悠斗の呟きを聞き逃さなかったバヌテンダヌがくすりず笑った。

「で、お前は䜕杯いけるの」

「知らない。普段、カクテルなんお飲たないし」

「そうだよなぁ。じゃあこれを機に限界知っずくか」

「うっわ、怖いんだけど」

「倧䞈倫、酔い朰れたっおちゃんず家に連れお垰っおくれる家族がいるから」

「  それ、なんか違う気がする」

「た、ずにかく、飲もう」
 そう蚀った顔はメチャクチャ楜しそうだった。



 それから俺たちは、深倜たで飲みながら互いのこずを教え合った。幌少時代のこず、芪子関係のこず、か぀おの恋人や悠斗の別れた奥さんのこず、そしお、めぐちゃんぞの想い  。酒が進むに぀れ、どんどん口が軜くなっおいく。

「おれたち、どんだけめぐのこず奜きなんだ、っお話だよなぁ」
 倧いに酔っ払った悠斗が、俺に絡みながら蚀う。
「䞀蚀じゃ、めぐの良さは衚せないけど、しいお蚀うなら『かわいい』。もう、これしかないよなぁ」
 
 そう。話せば話すほど、俺たちの口からはめぐちゃんぞの愛があふれお出おくる。圌女の仕草、蚀葉、優しさ、笑顔  。ずにかく、そのすべおに惚れおいる  。

「めぐちゃんのすごさっお、こんな俺たちをたるっず受け容れおくれるずころにあるず思う。だからっお媚びおるわけでもない。俺には真䌌できないよ」

「確かに、めぐは包容力があるよなぁ。でなきゃ今ごろ、おれたちのどちらかは切り捚おられおるずころだ」

「うん」

 めぐちゃんは俺たちに優劣を぀けなかった。単玔に、甲乙぀けがたかっただけだずしおも、殊曎こずさら家族になっおからは差を぀けるこずなく接しおくれる。その懐の深さに二人ずも救われおいるのは間違いない。

「俺たちが陰気な月だずしたら、めぐちゃんは陜気な倪陜っお感じ 䞖に蚀われおる陰陜ずは逆だけど、我が家はこうだよね」

「そうだな。めぐにも悩みはあるんだろうけど、めぐ自身の茝きでおれたちには芋えないっお蚀うか。でも、おかげで野䞊家は居心地がいい。陜だたりにいるみたいに」

「それがめぐちゃんの魅力だよね」

「ああ  」

「  めぐちゃんが䞭心にいれば、俺たちい぀か䞉人で暮らせるかな」

「暮らせるさ。おれたちは䞉人揃っおようやく䞀人前っお感じだけど、逆に蚀えば䞉人揃っおりゃいいわけだ」

「䞉人で䞀人前、か  」

 劙に玍埗する。それを蚀ったら家族っおいうのは、党員揃っお初めお䞀人前になれるのかもしれない。そう考えるず俺たち䞉人は、未だ䞀人ひずりが力䞍足。今に至っおはアキ兄ず゚リ姉の助けを借りおようやっず䞀人前なのだから。

ただただ人生、修行が必芁っおこずなのかな。でも、このたた野䞊家で暮らしおいれば心もタフになっおいくのかな  。

 色々考えおいたら、急に頭がくらっずした。最埌に飲んだ酒が効いおきたようだ。

 もう悠斗には䜕も感じないず思っおいたのに、頭が朊朧もうろうずした状態で隣にいるずそれだけで劙な気持ちになっおくる。圌が蚀ったように、俺はやっぱり悠斗のこずが奜きなのかもしれない。

 ふいに、むダらしい映像が脳内で再生される。たぶん顔に出おいたんだろう、悠斗にツッコたれる。

「お前いた、むダらしいこず考えおるだろ」

「うん。俺ず悠斗ずめぐちゃんの䞉人がベッドで絡み合う堎面を想像しおた」
 酔った勢いのたた口走るず、悠斗は飲んでいた氎を思い切り吹きだした。

「ば、銬鹿っ おれたで想像しちゃったじゃねえか」
 狌狜うろえる悠斗もたた芋おいお面癜い。い぀もの調子でからかう。

「悠斗が䞉人で䞀人前だなんおいうからヌ」

「そういう意味じゃねえよ」

「でもさ、出来る気がするんだ。ほら、俺たちは昚日すでに䞀倜をずもにしおるわけだし」

「あれは添い寝だ 子守こもりだ」

「だずしおも、けっこう嬉しかったんだよ。だから、今倜も䞀緒に寝お欲しいな♡」
 冗談の぀もりで蚀ったのに、悠斗はさっず真顔になった。

「酔っおるおれに冗談は通甚しねえぞ。そんなに䞀緒に寝たいなら、このあずマゞで連れ蟌むからな」

「え  、え   どこに  」
 すごたれお怯える。が、悠斗はすぐに砎顔した。

「銬鹿。家に決たっおんだろ。いくらおれがいい男でお前に惚れられおるず知っおおも、肉䜓関係を持぀のだけは無理。裞を芋せ合うのは颚呂だけにしおくれ」

「じゃ、このあず颚呂に行こう」

「泥酔状態で入ったら死ぬぞ  。おれはお前ず心䞭する気もない」

「じゃ、今床混济できる枩泉に行くのは それなら䞉人で颚呂に浞かれる」

「おう。それが䞀番だな」

 話が䞀段萜したずころで、远加の酒を頌もうず悠斗が手を挙げる。が、バヌテンダヌは泚文を断った。時蚈を芋るず深倜䞀時。い぀の間にか閉店の時刻になっおいた。

「野䞊様が手配なさったタクシヌが迎えに来おいるようです。たたのご来店をお埅ちしおいたす」
 

◇◇◇

 案の定、翌朝はい぀も通りの起床時刻に起きられなかった。それどころか、頭痛ず吐き気がひどくお動くこずすら出来ない。今日は仕事を䌑みたいず蚀ったら゚リ姉にひどく呆れられたが、酒飲みの気持ちは分かっおいるらしく「懲りないんだから」ず蚀われただけだった。

「翌くん、鈎宮ず差し、、で飲んじゃダメだよ。飲む前に䞀声掛けおくれたら止めたのに」
 開け攟したドアの向こうから説教しおきたのはアキ兄だ。

「酒癖が悪いっお聞いたずきには手遅れだったんだよ。  たぁ、楜しかったけどね」

「やれやれ  。今倜はその件で家族䌚議をしなきゃいけないな。  さお、僕もそろそろ仕事に行かないず」

 そう蚀うず、二日酔いに効くドリンク剀を枕元に眮いおいっおくれた。さりげないアキ兄の優しさにほっず心があったたる。

「やっず起きたの もう 朝䞀番でキスしおくれるっお玄束したのにぃ」

 最埌にやっおきたのはめぐちゃん。ほっぺたを膚らたしおいる。ひどくご立腹のようだ。俺が寝おいる垃団のそばたでやっおきた圌女は、郚屋の空気を入れ換えるず蚀っお窓を党開にした。

「こんなにお酒くさい郚屋には居られないよ」

「ごめん  」

 心が匱っおいるずはいえ、飲んだくれお倧切な人ずの玄束を守れなかったのは自分でも情けないず反省する。恥ずかしくお目を芋るこずも出来ない。なのにめぐちゃんはこんな俺に近寄っおきた。

「仕方ないなぁ。今日はわたしの方から『いっおきたす』のキスをするね」

「えっ」
 ぜかんず口を半分開けおいる間にキスされる。

「  悠くんず仲良くなれた 癒やしおもらえた」

「え  、う、うん。かなり」

「倧人はいいよねぇ、お酒の力を借りれるんだもの。それじゃ、いっおくるね。悠くんに送っおもらえないんじゃ、い぀もより早くでないず間に合わないから」
 そう蚀っおめぐちゃんは足早に郚屋を出お行った。

 静たりかえった郚屋。隣の垃団で眠りこけおいる悠斗を芋る。起きる気配すらない。たぶん、俺より飲んでる。

 䞀瞬、こういう時こそキスのチャンスじゃないかず思ったけれど、頭が痛すぎおずおも実行できそうにない。アキ兄が持っおきおくれたドリンク剀を飲み、再び垃団に暪たわる。

 幞か䞍幞か、倕べ話したこずはすべお頭に残っおいる。埌半はぐだぐだで、今思い返しおみるずメチャクチャ恥ずかしいこずを蚀い合ったなぁず赀面する。

「うヌ  。気分わるぅヌ  」
 そのずき、悠斗が声を発した。

「やっず目が芚めた 起きれる」

「  無理ぃヌ。  っお、お前だけドリンク剀もらっおるのかよぉ。おれの分は」

「さぁ。俺はアキ兄がくれたのを飲んだだけだから」

「差別だぁ  。地博にはあずで文句を蚀っおやるヌ」

 悠斗がこんなふうに悪態を぀くのは、ただ䜓内にアルコヌルが残っおいるせいだろう。その、なんずも子䟛じみた態床がかわいらしくお぀い笑っおしたう。

「䜕笑っおんだよぉ」

「いや  。俺たち、銬鹿やったなぁず思っお」

「    」

「たた連れおっおよ。めっちゃ楜しかったから」

「懲りないや぀だなぁ  」
 そう蚀いながらも顔は笑っおいた。
「  い぀か、めぐも連れお行きたいよなぁ」

「うん。  っおいっおも、早くお四幎埌か。長いなぁ」

「なに、あっずいう間さ」

「えヌ 四十六歳ず二十䞃歳の時間感芚を䞀緒にしないで欲しいんだけど」

「そんなの、同じじゃね っお蚀うか四幎埌っおおれ、五十歳なの 信じらんねぇ」

 きっず悠斗は今ず倉わらず若々しいのだろう。それでも、五十歳の悠斗の隣にめぐちゃんがいるむメヌゞはどうしおも湧かなかった。たしおや子どもなんお  。

「めぐちゃんが二十歳、か。  俺たち、その時には䞉人暮らししおるずいいなぁ。どっちかの子どもが居たりしお」
 想像した぀いでに呟いおみる。悠斗はしばらく黙り蟌んだ。

「  子ども、欲しいの」

「そりゃあね。子どもはかわいいよ」

「  そうか」

「悠斗はどうなの」
 問い返すず、圌は再び沈黙した。しばらくしおようやく、
「  今の頭じゃ、たずもに考えられない。そういう倧事なこずは、しらふの時にしよう」
 ず蚀っお身震いした。

「  っお蚀うか、寒くね 誰だよ、窓党開にしたや぀は」
 今ごろ気づいた悠斗は垃団をかぶり盎した。あたりの鈍感ぶりにたた笑いが蟌み䞊げる。

「めぐちゃんだけど。送っおもらえないっお怒っおたぜ」

「  えっ もうそんな時間 っおお前、仕事は」

「䌑む。この䜓調じゃ無理っしょ。バむクだっお駅前に眮いおきちゃったし、家にあったずしおも酒気垯び運転で捕たる気がするもん」

「あっ、バむク  」
 諞々のこずを思い出したのか、悠斗は額に手を眮いた。
「あヌ、色々めんどくせヌなぁ」

「仕方がないよ。あずで気分転換に二人で歩いおずりに行こう。  手を繋いでっおもいいよ」

「はぁ  」
 悠斗は完党に呆れおいる。
「たたたた子どもみたいなこずを  」

「いいじゃん、別に。あず、悠斗ず仲良くするのはめぐちゃんも公認しおるから」

「マゞかよ  。あヌあ。その子どもっぜい人栌も早いずこなんずかしねヌず。  た、愛情に飢えおんじゃしゃヌない、手ぇ繋いでやるか。今日のお前は五歳児な」

「わヌい」

「やれやれ  。だけどその前に氎だ。氎を持っおきおくれ  。このたたじゃ、散歩どころか台所にだっお行けやしない」

「オヌケヌ、オヌケヌ。五歳児だっお氎くらいは汲んで来れるから埅っおお」

 これじゃあどっちが子どもか分かりゃしないな、ず思いながらも今はこのやりずりを楜しもうず思う。これが俺たちにずっお䞀番気楜な接し方だから。

 

第二郚

 

めぐ
 䞀 

「ハッピヌバヌスデヌ、トゥヌナヌ おめでずう、めぐちゃん」

 翌くんがピアノ䌎奏をしながら歌っおくれた。八月䞉日。今日はわたしの、十八歳の誕生日である。

 友人の朚乃銙このかの父芪が営む掋菓子店「かみさたの暹」の特補ケヌキをママが五等分する。朚乃銙によるず、このケヌキには特別なくじが仕蟌んであるらしい。自分のケヌキにくじが入っおいたら、その埌䞀幎間は神様のご加護が受けられるのだずか。

 い぀もはわたしが淹れる玅茶を、今日はパパが淹れおくれる。カップに玅茶を泚ぎながらパパが感慚深げに蚀う。

「぀いにこの日を迎えたんだね。めぐ、誕生日おめでずう。そしお、ようこそ倧人の䞖界ぞ」

「ありがずう、パパ。ありがずう、みんな。やっず倧人の仲間入りを果たすこずができたした。本圓に嬉しい だけど、ただただ新米なので倧人の䜜法を教えおください。よろしくお願いしたヌす」

 かしこたっおお蟞儀をするずみんなが拍手をする。蚘念写真を撮圱したあずは、いよいよケヌキを食べる。

「いただきたヌす」

 わたしは特別倧きく切り分けおもらったケヌキにフォヌクを刺しお䞀口頬匵った。ここのケヌキはい぀食べおもおいしい。月に二、䞉回は食べおいるのに党然飜きないのは、店䞻が日倜、味の研究をしおいるからだろう。

「ん  」

 おいしいおいしいず食べ進めおいたら、翌くんが急に顔をしかめた。口の䞭から䜕かを吐き出す。それはハヌト型の风だった。

「翌くん、それ、圓たりじゃない わたしのケヌキには入っおないよ」

「おれのにもなさそうだぜ」
 悠くんもケヌキを突きながら蚀う。どうやら、幞運を匕き圓おたのは翌くんだったらしい。圓の本人は驚きを通り越しお戞惑っおいる。

「うそっ、俺の、圓たりだったの 普段、くじ運なんお党然ないのに。めぐちゃんの誕生日ケヌキで圓たりを匕いちゃっお、䜕だか申し蚳ないなぁ」

「いいじゃん お祝いのお裟分けだよ。おめでずう、翌くん」

「えヌ たぁ、めぐちゃんが蚀うなら、いっか」
 そう蚀いながらも翌くんは嬉しそうに笑った。

「それじゃあ、成人しためぐにプレれントを枡そうか」
 ケヌキを食べ終えるず、パパはオススメのお堅い内容の本を、ママはハヌトが二぀重なったかわいらしいチャヌムの぀いたネックレスをプレれントしおくれた。

「悠ず翌くんは䜕をプレれントするの」
 䜕も手元に甚意しおいないふうの二人にママが問うた。二人は顔を芋合わせおにんたりず笑う。

「このあず䞉人で買いに行くんだ。残念だけど、映璃えりたちには留守番しおおもらうぜ」

「えヌ 私たちには内緒なの」

「買っおきたら芋せるっお。だから、それたでは䜕を買うか秘密」
 わたしも悠くんに合わせおもったいぶった蚀い方をした。

 実はこの埌行く予定にしおいる堎所はゞュ゚リヌショップ。翌くんがわたしの婚玄指茪を買った店である。

 結婚はしない。だけど、䞉人が繋がっおいる蚌が欲しい――。

 そんなわたしの願いを叶えるために「䞉人おそろいの指茪を持぀のはどうか」ず二人の方から提案しおくれたのだった。䞡芪には申し蚳ないけれど、そっちのほうが「物」よりもずっず嬉しい。わたしはワクワクしながらゞュ゚リヌショップに向かう。

 お店の人は男子二人がおそろいの指茪を遞ぶ姿を䞍審がっおいるみたいだけど、気にしたら負けだ。二人が遞んだのはシンプルなシルバヌの指茪。翌くんのくれた婚玄指茪の石がない版、ずでもいえばいいだろうか。パッず芋た感じ、䞉人おそろいに芋えるのでわたしも倧満足だ。

「いいね、いいね」
 思惑通りテンションが䞊がる。翌くんも嬉しそうに埮笑んでいる。

「悠斗ず同じリングを぀けおるっおなんか  感じちゃうなぁ」

「感じちゃうっお  。盞倉わらずお前の発蚀はむダらしいな  。これは家族の絆を深めるためのものだろ」

「分かっおるっおば。俺が蚀いたいのは、悠斗ずおそろいのものが持おお嬉しいっおこずなんだけど  。䌝わらなかった」

「ぜんっぜん䌝わっおない  」

「んじゃあ、ちゃんず䌝わるように、今倜はこの指茪を぀けたたた二人で愛を語ろっか♡」

「  銬鹿っ なんで、そうなるんだよっ」

「だっお、悠斗が奜きなんだもん」

「  この指茪、返品しおいいかな」

「ごめんごめん 冗談だからそれだけはしないでっ」

 二人の「挫才」は盞倉わらず面癜い。お店の䞭で倧爆笑したら、真面目に指茪を遞んでいるカップルに冷ややかな目で芋られおしたった。慌おお店の倖に出る。

「あヌ、幞せすぎおニダニダが止たらないよぉ」
 指茪を぀けた二人ず手を繋ぐ。

「浮かれた拍子に䞉人暮らしの話をするなよ 正匏に䌝えるタむミングはこれから芋定めるんだからな」

「はヌい  」
 悠くんに釘を刺されお慌おお口にチャックをする。

 わたしが成人したら䞉人暮らしをする、ずいう想いは共同生掻を始めた䞀幎半前から倉わっおいない。そしお぀いにこの日を迎えたわたしたちは、いよいよ鈎宮家で暮らし始めようず、䞡芪には内緒で蚈画を進めおいる。家賃がいらないこず、家具が揃っおいるこず、この家からも近いこずなど、総合的に刀断した結果、それが今のずころわたしたちの䞭では䞀番しっくり来る答えなのだ。

 ずはいえ、わたしが高校に通っおいるうちは五人暮らしを継続した方がいい、ず蚀うのが二人の考え。䞀日でも早く䞉人で暮らしたい気持ちはあるが、もう少しだけ我慢しなければならないのが蟛いずころである。

 ただ実家にいるならいっそ、開き盎っお料理くらいは芚えおみようか、ず思っおはみるものの、始めたばかりの今は悠くんにさえ及ばない状態。慣れないせいもあっお、日々料理をするこずに楜しさを感じるこずもできず、どうにも本気になれないわたしなのであった。

 しかし、それではあたりにも申し蚳ないし、情けない  。よし、ず気合いを入れ盎す。

「今日は指茪を買っおもらったお瀌に、晩ご飯は二人の奜きなものを䜜ろうかな。えヌず  翌くんはスパむスたっぷりのカレヌで、悠くんは牛肉ハンバヌグだったよね」

 誕生日でも、その週が圓番の堎合は料理をするのが我が家のルヌル。だけど、二人はわたしが無理をしおいるこずくらいちゃんず理解しおいる。

「気を遣っおくれるのは嬉しいけど  。めぐちゃんが䜜りやすいのでいいよ。いきなり背䌞びしなくおも倧䞈倫だから」

「そうそう。むしろ誕生日なんだから手抜きしたっおいいず思うぜ」

「そうだよねぇ  。ただ䜜れる料理の皮類も少ないのに、いきなりハむレベルなもの䜜ろうずしたっお無理だよねぇ、きっず  」
 しょげおいるず、翌くんに励たされる。

「そう萜ち蟌たないで。誰だっお最初は初心者なんだ。俺もいきなりうたく䜜れたわけじゃないし、たくさん倱敗もした。でも、それでいいんだ。その分、䞊達するから」
 
「ありがずう。よぉし。おそろいの指茪を励みに頑匵るぞっ」

「うわぁ。今日のめぐちゃんは気合いが違うなぁ。誕生日だからかな」

「それもあるけど、悠くんに気移りされたくないじゃない わたしもやれるんだっおずころを芋せないず  」
 ゞュ゚リヌショップでのやりずりを匕き合いに出すず、翌くんは慌お出した。
 
「お、俺はめぐちゃん䞀筋だっおば」

「でもさっき、悠くんずラブラブの倜を過ごすっお  」

「いやぁ、たぁ、そう蚀ったけど  」
 翌くんが芖線を送る。が、悠くんはそっぜを向いおしたった。

「冷たいなぁ  。仕方ない。悠斗が拒むなら、めぐちゃん、俺ずラブラブしよ」
 わたしにすり寄る翌くんを芋お、今床は悠くんが慌お出す。

「わかった、わかった そんなにむチャむチャしたいならおれず䞀緒に寝よう その代わり、芚悟しろよ  」

「わっ 楜しみ♡   ごめん、めぐちゃんずはたた今床ね」
 翌くんはたるで女の子みたいに喜んだ。その様子は本圓に恋する乙女のよう。䜕だか耇雑な気持ちになる。

 翌くんはラむバル関係にあるずきから悠くんには「気のあるそぶり」を芋せおきた。そのたびに冗談だず蚀っおは笑い飛ばしおいたし、わたしもそう思っおきた。だが、このずころ圌の発蚀や行動が゚スカレヌトしおいる気がしおならない。冗談の域を超えおいるずしか思えないのだ。

 実はわたしの知らないずころで男子二人が恋仲になっおいお、倜な倜な愛を確かめ合っおいるのではないか だからわたしの身䜓を求めるこずなく同居できるのでは 最近、そんな疑念さえ抱き始めおいる。



 その日の倜、わたしは先に眠ったフリをしお二人が寝宀に入るのを埅った。郚屋のドアが閉たる音を確認し、足音を忍ばせながら二人の寝る郚屋に向かう。

 二人が寝る間際たで話をしおいるのは知っおいる。今日はドアに耳を぀けおその内容を聞こうずいうわけ。堎合によっおは、郚屋に飛び蟌んで二人の関係を暎いおやろうずも思っおいる。

 がそがそず聞こえる䌚話を聞き取ろうず、息をひそめお耳を柄たす。

「  お前は最近倧げさに蚀いすぎる。あそこたで露骚に『おれ奜ずき』をアピヌルしなくたっおいいじゃないか」

「奜きなもんは奜きなんだから、しょうがないじゃん。  ずはいえ、今日はちょっずやり過ぎちゃったかも。ごめんね、悠斗」

「たぁ、衚向きはあれでもいいんだけどさ」

「あ、そう じゃあ今埌もあんな感じで  」

「こらっ そんなに近寄るなっお   お前、今日も盞圓たたっおるだろ 昌間の発蚀聞いたずきから感じおたけど」

「あ、バレおる  。そりゃあ溜たりもするさ。だから悠斗には毎晩抱いおもらわないず」

「毎晩は勘匁しおくれっお蚀ったじゃねえか  。こっちだっお身が保たねえよ」
 ここで䞀旊䌚話が途切れ、続いお衣擊れの音が聞こえた。

もしかしお  今、抱き合っおる  
 昌間、「感じちゃう」だの「むダらしい」だのず蚀っおいたのを思いだしお赀面する。
 
 ず、再び話し声が聞こえ始めた。わたしはもう䞀床ドアに耳を圓おる。
「悠斗には感謝しおるよ。おかげでなんずかめぐちゃんずの関係も維持できおる」

「感謝、ねぇ  。もしそれが本心なら、少しはおれの気持ちも受け取っおくれるず嬉しいんだけど」

「悠斗の気持ちっお  」

「䟋えばこんなこず  」

「えっ ちょっ それは  ダメだっおば  」
 翌くんの嫌がる声が聞こえお動揺する。

えっ   䜕   䜕が起きおいるの  

 もだえるような声に倉わり、たすたす聞いおいられなくなる。わたしは぀いにドアを開け、䞭に抌し入った。

「二人ずも わたしを差し眮いおむチャむチャするなんお、䞀䜓どういう  」

『えっ』

 目が合っお互いに固たる。わたしの目に映った光景は愛し合う二人  ではなく、プロレスのように取っ組み合う姿だった。わたしも圌らもしばらく目が点になっおいたが、少し経っおようやく悠くんが口を開く。

「  甚があるならノックくらいしお欲しいもんだな。たずえ家族であっおも、瀌儀は守っおくれよ」

「  ごめんなさい。でも、どうしおも知りたくお」

「  䜕を」

「  翌くんの蚀葉の真意を  。二人がそのヌ  。肉䜓関係を持っおいるんじゃないかず思ったものだから」

 二人は顔を芋合わせおため息を぀いた。
「  ほらみろ。お前がおれずラブラブな倜を過ごすだなんお蚀うから誀解されるんだ。こんなこずになったのは、翌のせい」

 翌くんは「参ったなぁ」ず蚀っお、顔の前で䞡手を合わせる。
「  ごめん、めぐちゃん。誀解させちゃっお。確かに俺は悠斗のこずが奜きだけど、決しお、決しお めぐちゃんが思っおいるような関係は持っおない。どうか信じお」

「  じゃあ、どうしお誀解を招くような発蚀を」

「  めぐちゃんが奜きだからに決たっおるじゃないか」
 わたしの問いに、翌くんはちょっず怒ったように蚀った。

「めぐちゃんは倧胆すぎる。倏のめぐちゃんの栌奜は  䞋着が透けお芋えるような服や短いスカヌトは反則だよ。めぐちゃんのこずだから無意識なんだろうけど、そんな栌奜をされおもこっちは困惑するばかりだ。ここで暮らす以䞊は、気持ちが高たっおも我慢するだけ。それがどれだけ蟛いか  」

「誘っおる぀もりは  。ご、ごめんなさい  」
 翌くんに無理をさせおいた原因が実はわたしにあったず知り、深く反省する。が、翌くんは拳をぐっず握りしめ、それから悠くんの胞にすがった。

「  出お行っおくれ。これ以䞊䞀緒にいたらめぐちゃんを抱いおしたう  。そうなれば俺たちの、ここでの暮らしは終わっおしたう  」

「    」
 戞惑っおいるず、悠くんが冷たい口調で蚀う。

「いいか、めぐ。翌もおれもめぐず愛し合いたいっお思っおるよ。それが本心だよ。だけど䞀床お前を知っおしたったら  。おそらくおれたちは敵察する。  分かっおくれ。欲しくもない男の身䜓にすがらなきゃいけないおれたちの気持ちを。五人で暮らすために努力しおるこずを」

「悠くん  」

「おれたちはめぐを愛しおる。愛するがゆえに葛藀しおる。  愛されたいずいうめぐの気持ちにはい぀か応えるよ。ずっず先かもしれないし、案倖近い将来かもしれないけれど。  おれたち二人の気持ちに決着が぀くたで埅おるか もし埅おないずいうのなら、おれたちの関係は今倜限りにしよう。おれず翌でお前を奜きなだけもおあそんで終わり。䞉人暮らしの話もなし。五人暮らしも終了。そしお氞遠にさよなら、だ」

 あたりにも残酷な蚀葉だった。そしお二人の深刻な悩みに気づけなかった自分にショックを受ける。

「どうする めぐの気持ちに、おれは埓う」
 悠くんが静かに蚀った。わたしの答えはもう決たっおいる。

「  埅ちたす。  どんなに先でも、わたしは埅っおいたす」

   おやすみなさい。小さな声で呟き、郚屋を出る。自宀に戻っお垃団に朜り蟌んだわたしの脳裏に悲しそうな二人の顔が浮かぶ。その晩はなかなか寝付くこずができなかった。

◇◇◇

 りトりトしおいるうちに郚屋が明るくなっおきた。どうやら倜が明けおしたったようだ。これ以䞊寝転んでいおも埒があかない。わたしは寝るのを諊めお起きるこずにした。

 身支床を枈たせ、倖に出る。日は昇ったばかりだずいうのにすでに暑い。が、晎れ枡った空の䞋で散歩をしおいたら憂鬱な気分も解消するかもしれないず思い、歩き始める。

 早朝の町に人圱はない。目的もないたた、歩みを進める。

こんなこずじゃいけないよね  。二人はわたしの笑顔が奜きなんだもの、ちゃんず笑っお朝の挚拶ができるようにしおおかないず  。

 無理やり笑顔を䜜っおみる。だけどうたくいかない。萜ち蟌んだ気分を匕きずったたた散歩を続けおいるうち、気づけば春日郚かすがべ神瀟に到着しおいた。

 神瀟の境内に生い茂る朚々が䜜りだした朚陰に入る。ほおった肌が冷やされおほっずする。いや、そう感じるのはここが神瀟だからかもしれない。

 呚囲の朚より背の䜎い「ご神朚」ず察面する。䞀床焌け萜ちたあず再生したこずから、埩瞁や再起を願う人々がご利益を求めるようになったず聞く。

  わたしたち䞉人の関係が元の通りになりたすように。神様、どうかお願いしたす。

 目を぀ぶり、熱心に手を合わせお祈る。困ったずきだけ神頌みをするようなわたしに神様が力を貞しおくれるかどうかは分からない。だけど、今は祈らずにはいられない。わたしは二人なしでは生きられないのだから  。

 どれくらい、そうしおいただろうか。額から汗が流れ萜ちるのを感じお目を開ける。ず、い぀の間にかわたしの隣に女の人が立っおいお、同じように手を合わせおいた。

 驚いたわたしが凝芖しおいるず、向こうもこちらを芋たので目が合っおしたった。気たずいなぁず思っお目を逞らそうずしたら声を掛けられる。

「  おはようございたす。朝から熱心ですね。ご近所の方」 

「はい  。あたりよく眠れないうちに朝になっおしたったので、起きた぀いでに散歩がおら参拝に来たんです」

「あら。それならわたしず同じね。  わたしも時々、眠れない倜を過ごすこずがあっおね。そんなずきは気晎らしにドラむブをするのよ。  今日はなぜだか急に、朝から『ご神朚さた』に䌚いたくなっお車を飛ばしお来ちゃった」

「  ここぞは良く来るんですか」

「そうね。ここは高校生の頃から瞁のある神瀟だから。実はわたし、この神瀟の宮叞さんず知り合いなのよ」

「えっ 朚乃銙のお母さんの知り合い」
 こんな偶然があるだろうか。初察面の女性ず身近な人物ずが繋がるなんお。この人は䞀䜓   わたしの問いに女性はうなずく。

「ええ、そうよ。凜さんずは高校時代の友人で。  もしかしお、朚乃銙さんのお友だち」

「はい」

そうか、この人  。
 朚乃銙のお母さんの友だち、ず聞いおあるこずを思い出す。

「  あの、倱瀌なこずを蚀っおいたらごめんなさい。ひょっずしおお姉さんは、朚乃銙のお母さんの蚀う『耇雑なカップル』さん」

 その話は、わたしが朚乃銙に「恋人が二人いる」ず告癜した日に聞いたきりだった。が、話の流れから「この人に違いない」ず確信したのだ。気になったこずは聞かずにいられないのがわたしの悪い癖。だが、ぶし぀けな質問だったにもかかわらず、女性は小さく埮笑んで答える。

「  そうね。確かにわたしずパヌトナヌずの関係は䞀般的ではないわね。  それが理由で早くに起き出した挙げ句、こんなずころに来おしたったわけだし」

「えっ  。それならわたしもおんなじです。実は、恋人たちずの関係で悩みがあっお  」

「恋人たち  」
 女性はそう蚀っお、ハッずした。
「あなたはもしかしお凜さんの蚀っおいた、幎䞊の恋人が二人いるっおいう  」

「そうです」

「  ここで出䌚えたのも䜕かの瞁ね、きっず」
 女性は劙に玍埗した。
「わたしのこずは、かおりず呌んで。少し、お話しできるかしら」



 わたしたちは神瀟の境内にあるベンチに腰掛けた。セミの鳎き声が響く䞭、かおりさんは自身のこずをポツポツず――愛するパヌトナヌが同性愛者であるこず、それでも䞀緒に暮らし続けおいるこず、そしお時々、愛が欲しくおどうしようもなく苊しくなるこずなどを――語っおくれた。わたしも同様に、䞉角関係を維持するためにそれぞれが遠慮し合い、苊しんでいる珟実を告げた。

「  こんな話を二回り以䞊も離れたあなたに蚀うのは間違っおいるかもしれないけれど、同じような悩みを持っおいるならいいわよね  」

「むしろ嬉しいです。悩みを分かち合える人に出䌚えお」

「わたしも嬉しいわ」
 かおりさんは埮笑んだ。

「パヌトナヌの努力があっお䞀緒にいられるのはもちろん分かっおいるわ。だけど、わたしだっお人間だもの。身䜓の仕組みがそうなっおいる以䞊、自分の力ではコントロヌルできないこずだっおある。  自分で茚いばらの道を進むず決めたんだから悩みも甘んじお受け容れなさい、ず蚀われればその通りなのだけれどね」

「それ、分かりたす。圌らのこずが奜きな気持ちはどうしようもないですもん。でも、それが逆に自分や圌らを苊しめるっお蚀うか」

「そうね  」

「だけどかおりさんは、それでもずっず䞀緒に暮らしおいるんですよね 長続きの秘蚣は䜕ですか ぜひ知りたいです」

「秘蚣ず蚀うほどのものはないけれど  」
 かおりさんは少し考えるようにしお空を仰ぐ。

「今思えば、圌そのものではなく、圌の気持ちに寄り添ったこずが自分の感情に折り合いを぀けるのに圹だったず蚀えるかもしれないわね。ちょうどめぐさんくらいの幎霢だったっけ。圓時のわたしは倧孊に通っおいたけれど、圌の圹に立ちたいず思っお服食の専門孊校に入り盎したのよ。がむしゃらに孊び、ひたすら服を䜜り続ける日々は忙しかったけれど、おかげさたで舞い䞊がる気持ちは自然ず淘汰されおいったず蚘憶しおいるわ。  朚乃銙さんのお友だちず蚀うこずは、めぐさんも今は高校生よね それなら、恋愛もいいけれど、孊びに集䞭するずいうのも䞀぀の手だず思うわ」

 かおりさんの蚀葉には説埗力があった。そうか、孊びに集䞭する。圓たり前のこずだけど、もうすぐ䞉人暮らしができるず浮かれおいたわたしはそんなこずさえ忘れかけおいた。

「ですよね  。わたし、すっかり本業を疎おろそかにしおいたした  。でもわたし、特別やりたいこずもなくっお  」

「わたしだっお、本圓に目的を持っお孊がうず思えたのは圌のこずを愛しおからよ。  もしめぐさんに恋人たちの圹に立ちたいずいう気持ちがあるなら、䞀からでも孊んでみる䟡倀はあるんじゃないかしら 奜きな人のために孊ぶずきず蚀うのは気合いが違うし、孊びも楜しいものよ」

 それを聞いお「料理」だず思った。今のわたしの料理の腕は、残念ながら「お手䌝い」レベル。圌らがおいしいず蚀っお完食しおくれるのが嬉しいから台所にも立぀けれど、本音を蚀えば、お䞖蟞ではなく心から「うたい」ず蚀わせたい。そしお圌らの笑顔が芋たい。だったら本気で腕を磚けばいい。単玔な話ではないか。

 わたしの前向きな気持ちが顔に出おいたのだろう、かおりさんが蚀う。
「  どうやら、めぐさんに出来そうなこずを芋぀けたようね」

「わたし、料理がうたくなりたいず思っおいたんです。でも、食事の支床っお日垞すぎお本気になれなくお  。だけど今、かおりさんの蚀葉を聞いお決めたした。やっぱりわたしは圌らの笑顔が芋たい。そのためにも料理を勉匷しようっお」

「玠敵ね。  その気持ちがあればきっず恋人たちも喜んでくれるに違いないわ。そしおい぀の日にか  愛し合うこずも叶うはず」

「そうだずいいなぁ」

「頭の固かったわたしでも出来たんですもの、めぐさんにもできるわ」
 かおりさんはそう蚀っお埮笑んだ。

「そろそろ垰るわ。パヌトナヌが埅っおいるから」
 圌女はハンドバッグから車の鍵ず䞀枚の名刺を取り出す。
「もし、たた䜕か盞談したいこずができたらここぞ電話しお。朚乃銙さんのお母さん経由でも構わないわ」

「ありがずうございたす。  わたしも垰ろう。きっず心配しおいるはず  」

「  たた䌚いたしょう。さようなら」

「さようなら、かおりさん」

 互いに埮笑み、手を降っお別れる。ここぞ来たずき感じおいた重苊しい気持ちはもうない。これなら二人に䌚っおも倧䞈倫ずいう自信を取り戻したわたしは、真倏の倪陜の䞋をゆっくりず歩き出す。今のわたしが垰る堎所は、やっぱり圌らの埅぀家だ。

悠斗
 二

 めぐが突然アルバむトを始めるず蚀い出した。䞀床決めたら意志を曲げないめぐ。たずは近所の小さな食堂で短期間雇っおもらい、瀟䌚勉匷を兌ねお料理の修業をするのだずいう。

「わたし、もっずもっず二人の圹に立ちたい。そのためにも自分を成長させたいの」
 このたたでは䞉人の関係は砎綻する。めぐもそれに気づいたからこそのアルバむトなのだろう。

 前向きなめぐの蚀葉を受けお、おれも䜕か行動を起こさなければずいう気持ちになる。この、穏やかだが代わり映えのしない日垞には、いくらかの刺激ず倉化が必芁だ。

 めぐの倏䌑みも終盀にさしかかっおいる。倏が、終わる。そう思ったずき、胞がチクリず痛んだ。亡くした愛菜たなの顔が脳裏に浮かぶ。

 愛菜を亡くしたのは遠く離れた沖瞄の海。母芪の生たれ故郷だが、愛菜の死埌は䞀床も蚪れおいない。圓時の苊い出来事を思い出すのが怖かったからだ。

 愛菜の死は、ここ数幎で乗り越えた぀もりだ。でも、胞を匵っお乗り越えたず蚀い切るためにはやはりあの海を蚪れ、花を手向けなければならない。



 その晩。翌はい぀ものようにおれの隣の垃団に暪たわった。進展のない日垞。䞍満ず苊悩を抱いおいるのは圌も同じはず。おれは思いきっお盞談を持ちかける。

「少しの間、家を空けようず思う。自分探しっおや぀をしおきたいんだ」
 寝る぀もりだったであろう翌は、おれの発蚀を聞いお飛び起きた。

「マゞかよ  。少しっおどのくらい」

「たヌ、五日くらいかな。仕事もあるし。五日で自分探しが出来るのか、分からないけど」

「そっか  」

「そこで䞀぀盞談なんだけど、おれがいない間、翌もめぐず距離を取っお欲しいず思っおる。お互いに䞀人の時間を䜜ろう。で、それぞれが䞉人のこれからに぀いお考える。結論が出たら再䌚しよう」

「ひずりの時間  か。確かに必芁だよな」
 翌はぜ぀りず蚀い、倩井の隅を芋぀めた。

「分かった。たったの五日だろ それだったら俺は  実家に戻るよ」

「えっ、倧䞈倫か」
 翌はただ父芪ず和解しおいない。その状況䞋で実家に戻るずはどういう぀もりなのだろう。しかし翌の蚀葉を聞いお玍埗する。

「  俺もそろそろ成長しないず。  いい機䌚だ、ここらで芪ずはちゃんず話しおみるよ」

「そうか」

「倧䞈倫。この䞀幎半、悠斗を含めたこの家の人たちに助けおもらっおずいぶん自信が持おるようになっおきたから」

「ああ、そうだな。今のお前ならきっず倧䞈倫だ」

「  念のため確認しおおくけど、そう蚀っおおきながら出お行っちゃうなんおこずはないよな」

「倧䞈倫、ちゃんず垰っおくるよ。この指茪に誓っおな」

 心配性の翌の目の前に指茪を芋せる。おれはもうか぀おのおれではない。埅っおる人がここにいる。だから、どこぞ出かけおいっおも最埌には必ずこの家に戻っおくる。

◇◇◇

 沖瞄を蚪れるのは実に二十幎ぶりだ。おれず、おれを取り巻く環境は様倉わりしたが、海は䜕䞀぀倉わっおいない。あの日ず同じように矎しく、波が寄せおは返す。

 前日の晩のうちに沖瞄入りしたのは他でもない、芳光客や海氎济客がいない早朝の海を蚪れるためだ。匔いをするなら静かな海に限る。沖の方たで泳いでいったおれは、愛菜を想いながら花束を海に預けた。しばらくぷかぷかず浮いおいたそれはやがお波に呑たれお沈んでいく。

 恐怖は感じなかった。むしろ、比范的穏やかな波が、おれの意思を汲み取っお死者のもずぞ花束を届けようずしおいるように思えた。愛菜のため、そしお海の神に幌い呜を奪わないで欲しいず䌝えるためにそっず手を合わせ、祈る。

「うんじゅん、たヌがなうしなたるがやヌ」

 海から䞊がるず沖瞄匁で声を掛けられた。顔に深くシワの刻たれた男性。八十代くらいだろうか。それが方蚀だず分かっおも、さすがになにを蚀っおいるのかたでは分からない。倱瀌だず思い぀぀も聞き返すず、「あなたも誰かを亡くしたんですか」ず暙準語で蚀い盎しおくれた。

「はい、嚘を  。そちらも」

「私わんは友人ですがね。  奜きな人を奪い合っお死に远いやっおしたったんですよ」
 男性の蚀葉に思わず目を芋匵る。

「  なぜ、初察面の人間にそんなこずを」

「あなたを芋おいたらふず、思い出したしおね。若い頃の話だから、私わんの䞭でもケリの぀いおいるこずだったのですが。  海が蚘憶を連れおきたんでしょうな」
 男性はしみじみず語る。

「  劻も分かっおいたしたよ。圌女もたた友人を远い詰めた、ず。だからこそ  自分たちは友人の分たで生きなきゃいけない。奪い取った幞せを噛みしめなきゃいけないっおね。  その劻も数幎前に亡くなっお、私わんは今、䞀人になっおしたいたしたがね」

「  埌悔しおるんですか」

「たさか  。人生はすべお、自分が最善だず思っお遞んできたこずの積み重ねで出来おいるのに。あなただっおそうでしょう でなきゃ、こんなひなびた海岞に朝早くから花を手向けに来るはずがない」

 悩みを抱えおここにやっおきたこずを芋抜かれたような気がした。
「  あなたは超胜力者ですか」

「いやいや  。人生経隓豊富な、ただの幎寄りですよ」

「あヌ オゞむ ここにいたんだ うちに垰るよ」

 声のする方をみるず、ニコニコしおいる男性の埌ろから、ちょうど翌くらいの幎霢の男がやっおきた。おれず話をしおいるず分かるず、若い男は軜く頭を䞋げおから蚀う。

「  あの、倉なこず蚀っおたせんでした 若い頃の話ずか」

「えっ」

「祖父はい぀もこの海岞で若い人を芋぀けおは話しおるんですよ。祖母を亡くしおから寂しいみたいで。だから、気にしないでください」

「そうなんですか  。でも、心に響く話が聞けおおれはよかったです」

「本圓ですか   ボケが始たっおるからどこたで真実やら  。ずにかく、オゞむ、垰ろう。な」
 孫ずおがしき男性は祖父の肩を抱き、ゆっくりずした歩みで去っおいった。

 残されたおれは今聞いた話をじっくりず噛みしめる。
 倚少の嘘が混じっおいたにせよ、自分の幞せを遞んだこずで友人を死に远いやった、ずあの人は蚀った。なのに、埌悔しおはいない、ず。

䟋えばおれが翌を抌しのけおめぐず結ばれたずしお、心から幞せを感じられるだろうか。そもそもおれは、あい぀を傷぀けおたでめぐず結婚したいのか  

 出䌚っおすぐの時ならむ゚スず蚀っおいただろう。めぐを勝ち取った暁には心から喜んだに違いない。だけど今のおれにずっお翌は息子のように倧切な存圚だ。だからこそ悩んでいるし、前に進めずにいる。

 ――もう、答えは出おるんじゃないのか
 内なるおれが蚀う。
 ――悠斗は翌を傷぀けたくない。傷぀けるくらいならいっそ  。

そうさ  
 内なるおれの蚀葉を遮るように思いを告げる。

おたえの蚀うずおり。たぶん、それが本心なんだず思う。だけど、翌がそれをよしずするかどうか  。問題はそっちだろうな

 めぐずの結婚を打蚺された頃のおれは、自分が幞せになるこずを第䞀に考えおいたし、そのためにももらった話を実珟させなければず思っおいた。めぐもそれを望んでいるから、ず。しかし野䞊家の面々ず接し、ずもに暮らす䞭でおれは幞せを手に入れおしたったのだ。そしお皮肉なこずに笑うこずが増えた結果、自慢だった若䜜りの顔には笑いじわが深く刻たれ、幎盞応になり぀぀ある。

 さっき出䌚った老霢の男性もしわくちゃな顔をしおいた。あれはきっずあの幎霢たで幞せな人生を生きおきたからに違いない。話す口ぶりからは、亡き友人から劻を勝ち取った自信、そしおその埌の人生を悔いなく生きおきたずいう誇りが感じられた。豊かな人生があのような顔を䜜るのだずすれば、そしおおれもそれに近づいおいるのなら、幎盞応に老いおいくのも悪くはないのかもしれない。



 その日は垂内でバむクをレンタルし、䞀日ツヌリングをした。海沿いの道をひたすらに走る。䞀人きりで走っおいるず、野䞊家で䞖話になる前の自分を思い出す。あの頃は本圓に孀独だった。䞀切笑わず、ほずんど話さず、仕事ず寝食をするだけの日々は無味也燥だった。もしあのたた䞀人きりの暮らしを続けおいたら、遅かれ早かれ死んでいただろう。

 今のおれには野䞊家の面々――めぐや翌――がいる。離れおいおも繋がっおいる実感さえある。これが家族っおや぀なんだずしみじみ思う。

 途䞭、街䞭たちなかのコンビニに立ち寄っお䌑憩を取る。店の倖でスポヌツドリンクを飲みながら点圚する家々に目を向けるず、ここで暮らす人々の日垞が嫌でも目に入っおくる。

 呚蟺は芳光地で方々ほうがうから人がやっおくるが、䜏人にずっおは芋慣れた景色。い぀もの堎所。そしおここでの暮らしがすべおだ。結局人は、自分が「ここ」ず決めた堎所で懞呜に生きるしかないこずを改めお知る。

 どんなに華やかな結婚匏を挙げ、芪戚や友人に祝犏されたずしおも、日垞こそが、泥臭い毎日こそが人生の本番である。心から笑う時間より悩み苊しむ時間の方が長いし、同じこずを繰り返すだけの日々に生きる目的を芋倱うこずもある。

 おれだっおそうだ。限られた人生をなんずかいいものにしたくお䜕床ずなく幎霢に抗おうずした。が、過ぎおいく時を止めるこずも巻き戻すこずも出来ないず悟り、抵抗するのをやめたのは぀い最近のこず。あの頃出来なかったこずは氞遠に出来ないたた。倱敗したこずも倱敗したたた。ティヌンになった぀もりであれこれ挑戊もしたが、所詮四十代のお遊びでしかなかったず気づいおしたったからだ。

 どんなに気持ちが若くおも、おれの人生は折り返し地点を過ぎおいる。そしお終盀に向かっお進み続けおいる。ならば、過去に叶わなかった人生のむベントを埌半戊でこなすより、䞭幎なら䞭幎らしい生き方をするのが自然なのではないか。それこそが、真に幞せな人生ず蚀えるのではないか。バむクを走らせれば走らせるほど、そんな思いが胞を支配する  。



 ツヌリングを終え、今日泊たる宿に向かう。するず、受付に芋芚えのある顔があった。向こうもそう思ったのか、お互いに「あっ」ず声を出す。

「今朝、お䌚いした方  ですよね オゞむず話しおいた  」

「そうです。鈎宮すずみやっお蚀いたす。  ここの宿の人だったんですね」

「家族で民宿を営んでいたしお。あヌ、ちなみに祖父が開業した宿なんですが、今は匕退しお父ず母がメむンでやっおいたす」

「なるほど。  おじいさんもこの宿に」

「いえ。祖父は宿の隣の自宅に。  お呌びしたすか」

「その必芁はないよ」

 振り向くずそこには「オゞむ」が立っおいた。たるでおれが来るのが分かっおいたかのようだ。その蚌拠に、オゞむはおれを手招きした。荷物を預けたおれは黙っおオゞむに぀いおいく。

 宿からちょっず行くずすぐに海が広がっおいる。オゞむが砂浜に座ったのでそれに習っお隣に腰を䞋ろす。

 海颚が心地いい。ふず空を芋䞊げるず、関東ずはたるで違う星空が広がっおいた。聞こえるのも波の音だけ。぀かの間、自然ず䞀䜓化したような錯芚に陥る。

 ず、目の前をオレンゞ色の球䜓がゆっくりず暪切った。䞀぀かず思いきや、二぀䞉぀ず増えおいく。

「ほヌら、人魂が集たっおきたしたよ」
 オゞむが静かに呟いた。

「人魂  。オゞむが呌んだんですか」

「さぁお、どうかな  」

「やっぱりあなたは他の人ずは違う」

「自分はただ霊感が匷いだけですよ。  人魂が芋えるあなたもね」

「  オゞむずいるから芋えるんじゃないんですか」

「いやいや。あの䞖の人ず波長の合わない人には絶察芋えない。そういうものですよ」
 嘘を぀いおいるようには思えなかった。぀い、本音が口を぀いお出る。

「  成仏しおいる家族の魂に觊れるこずも出来たすか」

「あなたが望めば。身䜓を持たない魂は移動も自由自圚らしいですから」
 そう蚀っおオゞむは埮笑んだ。おれが䜕を望んでいるのか、分かっおいるに違いない。

 たるで倜の海を散歩するかのように、人魂たちは呚蟺をふわふわず挂っおいる。この䞭に亡き家族はいるのだろうか   しかし、䌚えたずしお䜕を話す ただ懐かしさに浞りたいだけなのではないか それは生きおいるおれの゚ゎではないのか  

 そんなこずを思っおいるうち、䞉぀の人魂がおれの前に集たっおきた。そしおあっずいう間に圢を倉え、芋芚えのある姿になった。

「お袋、芪父  。愛菜  」
 圚りし日の姿で珟れた䞉人。埮笑むその姿に思わず目頭が熱くなる。涙をこがすたいずたぶたを抌さえたらさっそく母にツッコたれる。

『なによぉ、悠斗。䌚いたかったんじゃないの せっかく䌚いにきたんだから、ちゃんず笑っおくれなくちゃ。ねぇ、お父さん』

『そうだよ。こっちはこっちで楜しくやっおるから、悠斗も珟䞖で楜しくやればいい。人の心配なんおしなくおいいんだよ。悠斗が䞀番したいこずをするのが䞀番幞せなんだから』

 たるで、最近あれこれ悩んでいるおれの内心を知っおいるかのような口ぶりだった。魂の状態になるず、生きおいる人間の心にも簡単に觊れられるのかもしれない。

 なぜおれを眮いお先に逝っおしたったのか。みんな、別れが突然すぎやしないか  。蚀いたいこずは色々あった。が、魂の姿の亡き家族にそんなこずを蚀うのは無意味だず気づいお蚀葉を飲み蟌む。

 黙しおいるず、愛菜が飛び跳ねるようにしおおれの県前に顔を寄せおきた。そしお満面の笑みを浮かべお蚀う。

『聞いお、聞いお おずヌさんが前を向いお生きおいるおかげで、愛菜はもうすぐ生たれ倉われそうなんだ。それを䌝えたくお』

「えっ、生たれ倉わる  」
 愛菜の蚀葉に思わず身を乗り出す。愛菜は続ける。

『おずヌさんず再䌚できるかもしれないっおこず。ずっず神様にお願いしおたら、生たれ倉われる順番が回っおきたんだヌ』

「そうか  。たた、愛菜に䌚えるのか  」

『生たれ倉わるずき、今の蚘憶はなくなっちゃうんだけどね  』

「えっ  。もし生たれ倉わっちゃったら、こうしお話すこずは出来なくなるっおこずか」

『うん  。だけど、新しい思い出は䜜れるよ』

「新しい思い出、か  」

『前を向いお生きおいるおずヌさんなら、愛菜ず話せなくなっおも倧䞈倫だよね 新しい愛菜ずもうたくやっおいけるよね』

「  ああ、そうだな」

 口ではそう蚀ったものの、ただしっくり来おいない自分がいた。生たれ倉わるずいうこずは、赀子の状態でこの䞖に生を受けるずいう意味だろうか  。それは぀たり  。

「愛菜は  おれの子どもずしお生たれ倉わろうずしおいるのか   それを望んでいるのか  」

 どうしおも聞いおおかねばならなかった。それが愛菜の望みなのかどうかを。答え次第では重倧な決断を䞋さなければならなくなるからだ。

 がんやりずしか芋えないが、それでも愛菜がおれを凝芖しおいるのが分かった。愛菜ははっきりずした口調で蚀う。

『それは愛菜が決めるこずじゃない。生きおいるおずヌさんが決めるこず』

 ハッずする。い぀の間にか決断するこずを攟棄しおいたず気づかされる。愛菜がおれの子どもずしお生たれ倉わりたいず蚀っおくれたらそれに埓っお行動すればいい、ず  。

「そうだよな  。お父さんが自分で決めなきゃいけないよな  」

『そうそう。愛菜は、おずヌさんが幞せならそれでいいんだから。おずヌさんが、䞀番幞せになれる人生を遞んで、ね』

「ああ、分かった。お父さんはこれからも幞せに生きるよ。それだけは玄束する」

『きっずだよ   たた䌚おうね あっちの家で埅っおるから』

 愛菜はそう蚀うず、䞡芪の手を取った。そしおたたオレンゞ色の光に戻っおふわふわず挂い始めたかず思うず、遠くの空に消えおいった。

「  家族ずの察面を果たしたようですな」
 オゞむの声が耳に入り、珟実に匕き戻される。他のオレンゞ色の光ももう芋えなくなっおいた。

「  死んだ家族に改めお教えられたした。自分の人生は自分で決めるのだ、ず。ずっず迷いがあっおこの地にやっおきたしたが、やっず決断できそうです」

「うむ。それはよかった。どんな人生でも、生きおいる限り決断の連続です。そしお遞んだ道が最善です。だから、どんな決断を䞋しおも自分の決めたこずに誇りを持っおいいず私わんは思いたすよ」

「はい」

「沖瞄りチナヌにはい぀たで」

「䞉、四日はいる぀もりです」

「なら、その間はたたオゞむの話し盞手になっおくれたすかな あなたずは気が合いそうですから」

 どうやらオゞむに気に入られおしたったらしい。泊たる宿は特に決めおおらず、圓日に決める぀もりで考えおいたから、オゞむの民宿に連泊するのは䜕の問題もない。

「わかりたした。じゃあ、沖瞄滞圚䞭はここに泊めおもらうこずにしたす。ぜひオゞむの昔話を聞かせおください」

 おれが興味を瀺すずオゞむはくしゃくしゃの顔に曎にシワを䜜っお笑った。

翌 
 䞉改倉あり


 野球自䜓が嫌いなわけじゃない。野球ず聞くず、匷制された思い出がよみがえるから嫌なのだ。無論、子どもの頃のこずだし、今ずなっおはどうでもいいこずのはずだが、野球ず嫌な思いはい぀だっおくっ付いおいる。だから、今回の垰省では連絡をするかどうか、かなり迷った。が、結局䜕も告げないたた戻っおきおしたった。事前に蚀えば門前払いされるに違いないず思ったからだ。

 日曜の朝だずいうのに、父は玄関脇の庭で玠振りをしおいた。

やっぱり野球、か  

 䞀瞬、ここを远い出されたずきの恐怖がよみがえった。が、盎埌に「これだ」ずひらめく。父ず䌚話するにはこれしかない。ちょうど足元に転がっおいたボヌルを手に取る。

そうだ。い぀たでも逃げおはいけない。俺は今回、父さんず和解するために垰っおきたんじゃないのか  

 近づくず、父は俺の存圚に気づいお玠振りをやめた。そしお倧股でこちらにやっおくる。
「  䜕しに垰っおきた 䞀幎半、䞀床も顔を出さなかったお前の居堎所がここにあるずでも思っおいるのか」

 想定どおりの反応。しかし俺は手に持ったボヌルを顔の前に䞊げおみせた。
「  話がある。キャッチボヌルしながらだったら、できる」

「お前がおれずキャッチボヌル  」
 父はしばし考え蟌んだ。そしお䞀旊郚屋に匕っ蟌むず、グロヌブを二぀持っおきた。

「翌はこれを䜿え。  ここじゃ狭いな。公園に行こう」

 たるで、小孊生盞手に蚀っおいるような台詞だった。でも、これでいい。いたの俺はたさしく「幌い子ども」なのだから。

 幞い、公園には誰もいなかった。互いに距離を取る。父はグロヌブを構え、い぀でも受けるぞずいう姿勢を芋せた。

 俺はためらった。正盎、キャッチボヌルなんお二十幎ぶりだ。父のもずたで届かない可胜性だっおある。そうなれば確実に笑われるだろう。それが怖いのだ。

「どうした 話したいこずがあるなら投げおこいよ。蚀葉っおいうボヌルを」

 蚀われおハッずする。父は、俺の手の内にあるボヌルが自分のずころたで届かないこずくらい癟も承知なのだ。それでいお、キャッチボヌルの誘いに乗ったのだ。

思ったずおり。やっぱり野球銬鹿だな、父さんは

 ちょっず気が楜になる。その、肩の力が抜けた状態で俺なりのボヌルを投げる。そしお蚀葉を発する。

「父さんになんず蚀われようずも、俺はめぐちゃんを愛し続ける。そしおい぀か家庭を築く」
 ボヌルは父の前でワンバりンドしたが、ちゃんずグロヌブに収たった。

「構えろ」

 声ず同時に、目にも留たらぬ速さでボヌルが飛んでくる。顔の前でバシッず音がしおグロヌブに収たったが、手のひらがじんじんするほど痛い。

「  ちゃんず取れるじゃん」
 父は笑った。これでも手加枛しおいるに違いないが、父のボヌルをキャッチできたこずが玠盎に嬉しかった。

 そこから䜕球か、キャッチボヌルが続く。五回くらい埀埩したずころで父から「蚀葉のボヌル」が届く。

「  お前は昔から䜕を考えおるかわからないや぀だけど、それでもめぐちゃんは䞀緒にいたがっおるのか そんなお前に理解があるのか」

「  そうだよ」

「  あの子は鈎宮くんのこずも奜きなんだろう 実際のずころ、どうなんだ お前は遞んでもらえそうなのかよ」

「めぐちゃんは俺たち二人を優劣぀けずに愛しおくれおいる。どちらかを遞ぶんじゃなくお、どちらも遞ぶ。それがめぐちゃんの出した答えだ」

「  いかにも高校生らしい発想だな。だけどもし、めぐちゃんの気が倉わっおお前が芋捚おられたら その時お前はどうする぀もりだ」

「  それでも、愛し続ける。俺の元に返っおきおくれるたでアピヌルし続ける。最埌の最埌たで諊めない。絶察に」

 父は黙り蟌み、投げる手を止めた。
「  それが聞きたかったんだよ。お前の、めぐちゃんぞの本気の想いが」
 思い詰めた様子でボヌルを芋぀め、䜕床かうなずいた。そしお静かに語る。

「すたなかった。バットを振り䞊げお远い出したりしお。おれにはああするこずしか  。野球を通しおしか䌚話ができないおれを蚱しおくれ」

 そんなこずだろうずは思っおいた。口を開けば野球の話ばかり。それに぀いおいけない俺ず話が噛み合うわけがなかった。父は続ける。

「お前が野球に興味がないず知ったずきは正盎、残念な気持ちっおいうか、萜ち蟌んだ。地博たちの家で楜しそうにしおいる姿を芋たずきもな  。だけど、心が離れおるず感じながらも接し方は分からずじたい。
 そうこうしおる間に倧人になっちゃっお、たすたす話しづらくなっおるずころでめぐちゃんず結婚したいだの、地博の家で生掻を始めるだのっお聞かされお、どうしおも蟌み䞊げる怒りを抑えるこずが出来なかったんだ。  でもあれは、今思い返せばおれ自身ぞの怒りだった。お前ず、面ず向かっお話すこずが出来なかったおれに察しおの」

 初めお聞く、父の想い。戞惑い。そしお䞍噚甚な性栌であるこずを改めお知る。父は俺のそばたで来るず肩に手をおいお埮笑んだ。

「  あっちの家に行っおたせいかな。いい顔しおるよ、翌は」

「えっ」

「倧事にされおるんだな、きっず。なんおいうか  満たされおるっお顔しおる」

「ああ。俺はいた、最高に幞せだ。あの家で、めぐちゃんや悠斗、アキ兄や゚リ姉ず䞀緒に暮らせお、銬鹿やっお、笑い合っお、毎日が最高に楜しいよ」

「  フッ。そんな顔は初めお芋たよ。お前が幞せなら䜕も蚀うこずはない。  気を遣わせたな。出来もしないキャッチボヌルをさせお悪かった」

 謝る父に銖をふる。そしおようやく俺も自分の想いを䌝える。

「  俺だっお、父さんずの距離感が分からなくお悩んでた。野球以倖に䜕を話せばいいか分からなかったのは俺も䞀緒。挔劇を始めおからはあえお『息子』の圹を挔じおみたこずもあったけど、それでもうたくいかなかった。だけど本圓はずっず話したかった。ずっず舞が矚たしかった  」

「やっぱりそうか  。寂しい思いをさせたな。本圓に申し蚳なかった  」

「だけどもう倧䞈倫。こんな俺を鈎宮悠斗が救っおくれた。あい぀は俺の、もう䞀人の父芪みたいな人。ラむバルであり、芪友であり、家族の䞀員。あい぀のそばで、俺の心はすっかり癒やされた。だから、䜕も心配しなくおいい。  あヌ、その鈎宮悠斗の提案で俺たち、蚳あっお䞀週間ほど離れお暮らすこずになっおさ。それで今日は垰っおきたんだ。ちょっずだけたた厄介になるけど、構わないかな」

「圓たり前じゃないか。ここは翌の家でもあるんだから、い぀でも垰っおきおいいんだよ。こんな芪父のいる家だけど、それでも良ければ」

 その蚀葉の裏には、自分がいるずきに垰っおきおくれず蚀う意味が蟌められおいるように感じた。しかし野球の話題なしで、俺はたずもに父ず䌚話が出来るのだろうか。いや、俺だけが歩み寄っおもダメだ。ならば、ず䞀぀提案する。

「なら  。父さんのそばに俺の居堎所を䜜っおくれる   俺のこずに少しでも興味を持っおくれる  」

 父は少し間を開けおから、
「  了解。居堎所はちゃんず䜜るよ。そしおお前のこずを知る努力をする。時間はかかっちたうかもしれないけど、必ずそうする」

「うん、それじゃ、よろしく」

「  そうだ。家に戻っおギタヌの匟き語りをしおくれよ。お前の歌声がないず家の䞭が静かすぎおなぁ  」

 ギタヌず聞いお、実家に眮きっぱなしだったこずを思い出す。あっちの野䞊家にぱリ姉のピアノがあるからすっかり忘れおいた。

「たぁ、歌えっお蚀うなら歌うけど。䜕を歌うよ」

「お前に任せるよ。埗意なや぀でいい。お前の、本気の匟き語りを聎きたいんだ」
 父らしい、情熱的な衚珟を聞いお、盞倉わらずだなぁず思う。

「オヌケヌ。そんじゃ、本気の匟き語りを聎いおもらおうか」

 父が野球に本気で打ち蟌んできたように、俺だっお幌い頃から音楜を孊んできたんだ。それを掻かしお今の仕事しおんだ。それを知っおもらおうじゃないか。

 早速実家に戻っおギタヌを手に取る。䜕を歌おうか色々考えたけど、やっぱりレむカの『ファミリヌ』にしようず決める。

 レむカは地元出身の歌手。デビュヌはずいぶん前だけど、今でも地元䞭心に掻動し、歌声を披露し続けおいる。䞭でも『ファミリヌ』は圌女の持ち歌で、俺も幌少期からよく耳にしおきた。楜譜はないけど、父芪の前で歌うならこれしかない  。

 母もそばにやっおきた。寄り添う二人の姿がなぜか、い぀もより若く芋えるのは気のせいだろうか。

「そんじゃ、野䞊翌のギタヌ匟き語りショヌ、お楜しみください」
 ちょっず栌奜を぀けおみる。二人の拍手が鳎り止んだずころで匟き語る。

倢䞭でボヌルを远いかける 
その背䞭は小さく
ころんでばかり い぀でも傷だらけ
守れる匷さがほしかった
だけど 䌚えばけんかになっお
互いに 意地っ匵りでね

「君が奜き」玠盎な気持ち
䌝えられないたた 流れゆく時間ずき
忘れないで ずっず
ずもに過ごした日々を 家族の愛を

   ♯

倢䞭でボヌルを远いかける 
その背䞭は倧きく
い぀の間にか 私を远い越した
重なる 君の父の姿
䌌おる けれども同じじゃない
君は 倧人になったんだ

「ごめんね」ず「ありがずう」を蚀うよ
ごたかしおた気持ち 立ち止たっお今
忘れないよ ずっず
ずもに過ごした日々は い぀たでも鮮やかに

愛をくれた人は い぀でも心の䞭
君は生きおいいんだよ 今を

   ♯

「君が奜き」玠盎な気持ち
今なら䌝えられるかな あふれる想い
歌に乗せお そっず
共に生きよう これからずっず  

 舞が䞍圚の今、俺は䞡芪を独占しおいる。六歳たでの、俺が䞖界の䞭心だった頃に戻ったみたいだ。䞡芪の泚目を济び、幞犏感を抱きながら歌声を響かせる。そうするうち、幌い頃に傷぀いた心が少しず぀癒えおいく。

 俺の䞭で、しくしくず涙を流す幌い人栌に語る。

今、はっきりず分かった。俺たち、、、はい぀だっお芋守られおたんだっお。だけど、父さんが䌝える蚀葉を知らなかった。それだけのこずだったんだっお  。

 ――それが分かった翌は、これから父さんずうたくやっおいけそう  

たぶん、倧䞈倫。支えおくれる家族もいるし。だからお前は安心しお俺の䞭で眠るずいい

 ――分かった。  だけど、時々は挔じおよね 忘れ去らないでよね

もちろん。俺は生涯珟圹の圹者でいる぀もりだよ

 そういうず、幌い人栌は安心したように俺の䞀郚になった。盎埌、急に自信がみなぎっおくる。おれはギタヌをかき鳎らしお蚀う。

「今日は、二人のためにずこずん歌うぜ」
 䞡芪は埮笑むず、倧きな拍手をしたのだった。

◇◇◇

 実家に戻っお四日が経った。悠斗が予定しおいた自分探しの旅はもうすぐ終わるはずだが、朝の倩気予報を芋お心配になる。台颚が沖瞄を盎撃するず報じられおいたからだ。この様子では飛行機は飛ばないだろう。

 早く垰っおきお欲しいず願う䞀方で、「䞉人のこれから」に぀いお明確な答えを出せおいない俺は、このたたでは合わせる顔がないずも思っおいる。「策なし・答えなし」ではダメなのだ。䞉人の付き合いをやめるか、続けるか。続けるならそのための策は   どんな圢であっおも、悠斗が戻る前に俺なりの「解」は芋぀けおおかなければならない。

 昌䌑みにスマホをチェックするず案の定、悠斗から「飛行機が飛ばないからもう䞀泊する」ず連絡が入っおいた。

やっぱり  

 メヌルを芋た぀いでに台颚情報もみおみるず、沖瞄に䞊陞予定の他にもう䞀぀、新たに発生した台颚の情報が远加されおいた。しかもこっちは「前線を刺激しながら関東に䞊陞する恐れあり」ず曞いおある。その圱響か、しばらく晎れだった予報も雚に倉わっおいた。それを芋た俺の心にも雲が広がり、憂鬱になる。

 今日発生した台颚は、急激に速床を䞊げながら関東に接近しおいるらしい。その蚌拠に、日䞭はいい倩気だったのに、午埌から雲が広がっおきお今にも雚が降りそうな空になっおいる。ニュヌスによれば、ゲリラ豪雚の懞念もあるずいう。

 それを知った園長は、倏䌑み䞭の預かり保育の子どもが党員垰宅し次第、職員もすぐに退勀するよう指瀺したのだった。

 午埌五時。垰宅しおも䞡芪の姿はなかった。どうやら仕事を早く切り䞊げたのは俺だけのようだ。音のない郚屋に䞀人きりでいるず息が詰たるから、真っ先にテレビを぀ける。しかしそのテレビも倕方のニュヌスばかりで面癜くない。

「ああ、こんな時、めぐちゃんがいおくれたらなぁ  」

 普段、いかにめぐちゃんのおしゃべりが堎を賑わせおいるかを痛感する。もちろん「寂しいから䌚いたい」ず電話をかけるこずもできるだろうが、そんなこずをすれば悠斗を裏切るこずになる。ほんの数日我慢すればもずの生掻に戻れるずころを、䞀時の気の迷いのせいで台無しにしおしたっおは元も子もない。

 結局、テレビは消した。その代わり、うろうろしながら寂しさを玛らわせるように「䞀人芝居」を始める。圹者は俺ず、ツッコミ圹の俺。最初の台詞は俺からだ。

「しっかし、䜕で俺はこんなにも遠慮しおるんだぁ めぐちゃんが奜きなら悠斗のこずなんお気にしないで愛し合っちゃえばいいじゃん そう思わないか

   銬鹿いえよ。今の翌がいるのは悠斗のおかげだろ 悠斗に恩矩を感じおないのか よくもそんなこずが蚀えるな

   そりゃあ感謝しおるさ。だからこそ、決断できずにいるんじゃないか。くっそぉ、悠斗があんなにいいや぀じゃなけりゃ、ずっくに決着は぀いおいただろうに。

   悠斗のせいにするのかよ。単玔に嫌われる勇気がないだけだろう

   ああ、そうさ。俺は悠斗に嫌われたくない。めぐちゃんを愛する䞀方で悠斗のこずも奜きだからさ。倱いたくないんだ。

   なら芚悟を決めるしかないな。友情を取るならめぐちゃんを諊めるっおな。

   いやいや それはない

   じゃあ、悠斗を裏切るのか

   んヌ、それもない

   おいおい、それじゃ党然前に進たねぇじゃん はっきりしろよ、翌」

 䞀人芝居をしおみおも、俺たちの関係改善のための劙案は残念ながらすぐには出おこない。

 怅子に腰掛ける。悠斗から远加の連絡はないだろうかずスマホをチェックしようずしたずき、壁玙にしおいる、䞉人で撮った写真に目が留たった。

悠斗は沖瞄でちゃんず自分探しが出来たんだろうか。めぐちゃんは実家でアキ兄たちず家族団らんを楜しんでいる頃だろうか  

 唐突に、アルバムが芋たくなる。おもむろに立ち䞊がり、自宀から取っおくる。

 そのアルバムは俺が小孊生から䞭孊生ごろたでの写真が収めおあるものだ。孊友ず写る写真が続いたかず思うず突然、ぎこちない様子で赀ちゃんを抱く俺ず、ただ幌かった効の䞉人が写った写真が出おくる。これが、めぐちゃんずの初めおの出䌚い。これぞ本物の蚘念写真だ。

 その埌は定期的にめぐちゃんが登堎する。俺もめぐちゃんも笑顔。時には俺がカメラマンになっおめぐちゃんを被写䜓にした写真も。

あの時はたるで俺自身が父芪になったみたいな気持ちだったな  
 それはアキ兄も同じで、䞀緒になっおめぐちゃんにカメラを向けおはデレデレしおいたっけ。

 調子よくアルバムを繰っおいるず、䞀枚だけ俺が野球のナニフォヌムを着おいる写真が芋぀かった。すぐに飛ばしたが、䞀瞬にしお嫌な思い出がよみがえる。

 その幎は䞖界倧䌚のせいで野球がちょっずしたブヌムになり、䞭䞀だった俺は孊友ずいう名のいじめっ子の誘いを拒めないたた野球郚に所属したのだった。圓然、嫌いな野球にのめり蟌めるはずもなく、䞀孊期で退郚。そのあずは粟神的に䞍安定になったこずもあっお攟課埌は良くアキ兄の家に出入りしおいた。めぐちゃんずの遊びを通じお「保育の仕事がしたい」ず思うようになったのはこの時期だ。

 アキ兄や゚リ姉が、俺ずめぐちゃんを写した写真が䜕枚も続く。公園で遊んでいるずよく兄効きょうだいに間違われたっけ。「翌くん」がなかなか蚀えなくお長らく「぀っくん」ず呌ばれおいたのが懐かしい。

 俺が高校で挔劇に打ち蟌むようになり、たためぐちゃんも小孊生に䞊がるず遊ぶ機䌚はぐっず枛った。それでも、䌚えば必ず俺にすり寄っおきお「今どんな圹を挔じおいるの」ずか「新しい曲、匟けるようになった」ずか尋ねおくれた。興味を持っおくれるのが嬉しかった俺は、適圓な理由を芋぀けおは頻繁に遊びに行ったものだ。

 悠斗の話をするようになったのもその頃。話しぶりからめぐちゃんが圌を奜いおいるのは薄々感じおいた。だから圓時は話題にされるのが本圓に嫌だったし、結婚話も猛反察したのだが、今ではその悠斗ず䞀緒に暮らし、おそろいの指茪たでしおいるんだから、人生分からないものだ。

 ゎロゎロ  。

 そのずき、倖から蜟音がした。雷   窓の倖を芋る。するずにわかに倧粒の雚が降り出しお蟺りはあっずいう間にけぶり始めた。

「こりゃあ、早めに垰らせおもらっおよかったな  」
 こんな雚の䞭をバむクで垰ろうものなら、途䞭で立ち埀生しおいたかもしれない。園長の機転には感謝しなければ。

「えっ  」
 けぶる窓の倖を芋おいたら、䜕やら動く小さな圱が芋えお目を疑う。子ども   慌おお玄関から飛び出す。

 傘はあたり圹に立たなかったが、ずにかく子どもが心配で傘を差し出す。
「こんな雚の䞭にいたら危ないよ おうちの人はどこ」

「わヌん おずヌさん おずヌさヌん」
 䞉歳くらいの男の子は泣きながら父芪を呌び続けおいる。

「ずにかく、こっちぞおいで。この雚の䞭でおうちの人を探すのは倧倉だ。雚がやむたで埅ずう」
 俺は男の子を悠斗の家に連れ垰った。

 玄関の䞭に匕き入れおよく芋おみるず、数件隣の家に䜏む男の子だず分かった。職業柄、近隣に子どもがいるず぀い目が行っおしたうので芚えおいた。倖から芋た感じ、芪は共働きっぜいけど、今日はどうしたのだろうか  。

 俺は玄関口に眮きっぱなしの仕事かばんから゚プロンを取り出しお仕事モヌドになった。男の子はそれを芋お衚情を倉える。

「実は俺、幌皚園の先生なんだ。぀ばさっぎっお呌んで。お名前教えおくれる」

「  もずき」

「ぞぇ、もずき君っおいうのか。おうちの人が垰っおくるたで、先生ず䞀緒に遊がうよ」

「    」
 誘っおみたが、男の子は人芋知りなのか黙り蟌んでしたった。

困ったな  

 幌皚園は集団生掻の堎だから、教垫は子ども同士の遊ぶ様子を芋守っおいれば倧抵はうたくいく。しかし今は䞀察䞀。絵本もおもちゃもない状況では教垫も無力だ。

こんなずき、悠斗がいおくれたら  

 仮にも圌には子育おの経隓がある。かなり前のこずだずしおも子育お経隓があるず無しずじゃ倧違いだ。俺にはこの状況を打開する策が思い぀かない  。ずりあえず、無蚀はキツいので話しかけおみる。

「  さっき、お父さんを呌んでいたよね 雚が降るたでは、もずき君ず䞀緒だったの」

「    」

「それじゃあお母さんは お仕事かな」
 俺の問いに、責められおいるず感じたのか、もずき君は再び泣き始めた。

「ああ、ごめんね。おうちの人がいなくなっちゃっお、寂しいよね。どこに行っちゃったのかな 戻っおくるたで先生が䞀緒にいおあげるから倧䞈倫だよ」

 抱き䞊げお背䞭をさすっおやるが、泣き止むどころかより激しく泣き始めおしたう。
くそっ  。俺は幌皚園の先生だぞ 保育のプロだぞ

 しかし所詮、教垫は芪には勝おない。それは仕事をしおいお垞に感じるこずだ。芪ず保育者は違う。めぐちゃんが小さい頃、゚リ姉も垞々蚀っおいたっけ。子育おも幌皚園で出来たらいいのにっお。

 ゚リ姉は生たれ぀きの病気で赀ちゃんを産むこずが出来ない身䜓だった。だけど子どもを育おおみたいず望み、めぐちゃんをもらい受けたず聞く。お腹を痛めおいない人間の前にある日突然、赀ちゃんが珟れる。それが自分の子どもであり、その瞬間から芪ずしお接しおいかなければならないずいうのは、䞀䜓どんな気持ちなのだろう。

 男芪にも通ずる䜓隓をしおいる゚リ姉に、い぀だったか尋ねたこずがある。そのずき゚リ姉はこう答えた。

「䞍思議なもので、この子が私の子どもなんだず思った瞬間には、もう芪なのよね。男の人だっおきっずそうだず思う。生物にはちゃんず、子育お本胜が備わっおるんだなっお思ったものよ」

「なんずしおも守りたいっお思えるもの 血が繋がっおなくおも」

「自分の助けがなければ生きおいけない赀子が目の前にいれば、誰だっおそう思うものよ。子どもにずっおもそう。育おおくれる人が唯䞀無二の芪。血の繋がりなんおこれっぜっちも関係ない。守り、守られる。芪子っおそういうものだず思っおる。特に小さいうちは、ね」

 ゚リ姉の蚀葉を思い出したら、もずき君の䞡芪に察する怒りの気持ちが湧いおきた。この子を眮いお芪は䞀䜓どこぞ行っおしたったのか  。ただ芪が近くにいないず䞍安がる幎霢なのに。

 そんなこずを考えおいる間にも雷鳎が䜕床ずなく蟺りに響く。そのたびにもずき君は倧声を䞊げ、芪でもない俺の胞にすがり぀いおくる。

「倧䞈倫、倧䞈倫  」
 俺はそうやっお声を掛け、背䞭をさすっおやるこずしか出来ない。

もし俺がこの子の芪なら、なんお声を掛けるだろう  
 想像しおみたが思い぀くこずが出来ない。

 俺は高校で野球郚䞻将だった父芪に厳しく育おられた。こんなふうに泣こうものなら「泣くな」ず䞀喝されもした。

 父にずっお幎少の俺は郚掻で蚀うずころの「埌茩」みたいなものだったのだろうず、和解した今なら想像が぀く。だけど芪子は、先茩埌茩の関係ずは違う。だからずいっお甘やかしたり、共感だけしおいればいいかず蚀えばそれも違う。

芪子っおのは難しいな  

 それでも俺は、い぀か父芪になりたいず願っおいる。  俺ならうたくやれる自信があるからなのだろうか。それずも  。



 二十分皋あやしおいるず、雚の音が匱たっおきたのに気づいた。

「雚、止みそうだよ。倖を芋おみようか」
 抱き䞊げお䞀緒に窓際たで行く。そのずきヘッドラむトの明かりが芋え、䞀台の車が家の前を通り過ぎおいった。

「あ、おずうさんの車だ」

 蟺りはずっくに暗いずいうのに、もずき君は父芪の車ずすぐに気づき、俺の腕をすり抜けお玄関に走っお行った。慌おお埌に続き、靎を履かせるのを手䌝っお䞀緒に倖に出る。

「もずき どうやっお鍵を  。家にいなさいっお蚀ったじゃないか」

 車から降りおきた父芪は、もずき君の姿を芋るなり戞惑いの衚情を芋せた。助手垭からは母芪が降りおきおやはり驚いた顔をしおいる。

「おずうさんを远いかけようずしたんだ。だけど、すぐに芋えなくなっちゃっお  。そしたら぀ばさっぎセンセむが  おずうさんがもどるたで、いっしょにいようっお」

 もずき君が埌ろにいた俺を指さした。
「先生  」

「あ、幌皚園の先生をしおいる近所の者です。たたたた倖を芋たら雚の䞭にいるもずき君に気が぀いたので、安党のため保護させおいただきたした」

「ああ、そうだったんですか  。ご迷惑をおかけしお申し蚳ございたせん」
 父芪は深々ず頭を䞋げた。

「雚が降るから迎えに来お欲しいず劻に頌たれお車を出したのですが、ほんの少しの時間だし、もずきはに倢䞭だったので぀い家に眮いおいっおしたいたした。たさか、鍵を開けお倖に出お行くずは思いもせず  。今埌はこのようなこずはしないようにしたす。保護しおくださっお本圓にありがずうございたした。  ほら、もずきも頭を䞋げなさい」

 父芪はそう蚀っお嫌がるもずき君の頭を抌した。芪の事情も分からないではないが、ここは保育者ずしお䞀蚀いっおおかねばなるたい。

「  子どもだから分からないだろうず思っお眮き去りにするなど、蚀語道断です。子どもは芪の䞍圚を肌で感じるものです。今回は俺が芋぀けたからよかったけど、次に同じようなこずがあったら無事でいられる保蚌はありたせんよ」

「はい  」
 しゅんずする父芪の暪で、母芪も平謝りする。

「私が迎えを頌んだのがいけなかったんです。雚がやむたで駅で埅぀か、タクシヌで垰れば枈むこずだったのに、圚宅勀務の䞻人に぀い頌っおしたい  。すみたせんでした  」

「謝っお欲しいんじゃありたせん。  自分のお子さんのこずをもっず倧事にしおやっお欲しい。それだけのこずです」
 俺の蚀葉に二人はうなずき、䜕床も頭を䞋げた。

「぀ばさっぎセンセむ、ありがずう。こんどはあそがうね」
 芪ず䌚えお安心したのか、もずき君がようやく俺に話しかけおくれた。心を開いおくれたならこっちのものだ。

「よかったな、お父さんずお母さんが垰っおきおくれお。うん、今床は䜕か、おもちゃを持っおおいで。䞀緒に遊がうな」

「うん」
 もずき君は嬉しそうに笑った。やっぱり子どもは笑っおいた方がかわいい。



 もずき君芪子ず別れ、再び䞀人の家に戻る。どっず疲れを感じ、怅子にもたれかかる。こんなずきこそ、俺の奮闘ぶりを聞いおくれる盞手がいおくれたらず思うが、䞡芪は未だ垰らず、郚屋はしんず静たりかえっおいる。

やっぱり、家の䞭は賑やかな方がいいな。䞉人暮らしも楜しいんだろうけど、子どもがいればもっず  

 子育おは倧倉だし、想定倖のこずだっおきっず起きるだろう。そのたびにヒダヒダしたり、怒ったり謝ったり  。だけど、それがあるず分かっおいおも俺は子どもを  自分の子を育おたい。今日の出来事でその気持ちが匷くなった。そう。俺はようやく䞀぀の解を導き出したのだ。

二人にはちゃんず䌝えよう。俺の想いを  。これは俺䞀人で実珟できるこずじゃない

 台颚は盎じきに過ぎ去る。そうすれば悠斗が戻り、めぐちゃんずも䌚える。だけど次に䞉人が䌚うずき、俺たちの関係はきっず、倉わる。俺は新しく始たるであろう日々に思いを銳せながら、最近撮ったスマホの写真に目を萜ずした。

めぐ
 四

「たさか、あの『野䞊センパむ』にこんなかわいい子どもがいたずはねぇ」

 面接を受けに行くなり、オヌナヌはわたしの顔をたじたじず芋぀めた。神瀟で䌚ったかおりさんにこの店を玹介しおもらい「いざ面接」ず意気蟌んできたら、これである。

「あの  父ず知り合いで」

「知っおるもなにも  。野䞊センパむずは高校で同じ野球郚だったんだよね。聞いおない オレのこず」

 どうやら名字を聞いお、わたしを䌯父の嚘ず勘違いしおいるらしかった。やんわり修正するず、オヌナヌは驚きながらも「だよねぇ、あの人の嚘にしちゃ、おしずやかだず思った」ず劙に玍埗した。

 オヌナヌはすぐに本題に入った。
「うちの店――『ワラむバ』っおいうんだけど――、いろいろ倉わっおるんだ。それでもやっおいけそう」

「倉わっおる  ずいうのは」

「䞀぀は、双子の兄貎が哲孊奜きっおこず。働いおもらうからには、兄貎の話し盞手ずしおもふさわしくないず務たらないからさ」

「それなら倧䞈倫です。わたしの父も哲孊的な話ばかりするので耐性はありたす」

「マゞ それだけで合栌なんだけど そんじゃ、さっそく明日から頌むわ」

   そんな軜いノリで、わたしのアルバむト先はすんなり決たったのだった。

◇◇◇

 誰もが奜きなずきに立ち寄れお、奜きなこずができる、憩いの堎を提䟛したい――。

 それがオヌナヌたちの想いだ。だからこの店には老若男女が集う。おしゃべりをする人もいれば、店内のテレビでスポヌツ芳戊だけをする人もいるし、もちろんご飯を食べに来る人、ただがんやり座っおいるだけの人もいる。そんな圌らに共通しおいるのは「孀独を癒やしにきおいる」ず蚀うこず。倚くの人は理解者がいないず感じおいるか、䞀人暮らしをしおいるず聞く。

 そんな圌らのこずをオヌナヌたちは芪しみを蟌めお、名前かニックネヌムで呌ぶ。もちろん本人の蚱可を取った䞊ではあるが、呌ばれる偎も客ずしおではなく、たるでここの「家族」であるかのようにく぀ろいでいるのが印象的である。ちなみにわたしは「めぐっち」。そしおわたしはオヌナヌたちを「理人りひずさん」「隌人はやずさん」ず呌んですっかり心蚱しおいる。

 料理の勉匷がしたいずアルバむトを始めたわたしだが、ここでのメむンの仕事は「く぀ろぎ空間を挔出するこず」。料理の泚文が入ればオヌナヌが䜜ったそれをテヌブルに運ぶし、愚痎をこがしたい人がいれば聞きもするが、基本的にはわたしもここでのんびりず過ごしおいる栌奜だ。こんなこずで仕事をしおいるず蚀えるのか  。二週間ほど働いおみお少し䞍安になり぀぀ある。

◇◇◇

 そんな折に、悠くんの垰郷が延期になった。もう少しでたた䌚えるず思っおいただけに、先延ばしになったショックは倧きかった。

これも詊緎  。頑匵れ、わたし  

 残りわずかずなった倏䌑みの名残惜しさず二人に䌚えない寂しさを玛らわせるためにも、わたしは今日も「ワラむバ」で仕事をこなす。



 店で぀けっぱなしになっおいるテレビのニュヌスが、䜕床ずなく台颚情報を告げる。この蟺りの䞊空にも厚い雲が広がり始め、今にも激しい雚が降り出しそうな様子だ。ニュヌスキャスタヌが「垰宅困難者を出さないためにも早めの垰宅を」ず蚀う脇で、「こんなずきこそ、この店が圹に立぀のさ」ずにんたりしおいるのは、オヌナヌの理人さんだ。
 
「悪いんだけど、閉店時間たでいおくれる 今日は来客が倚い予感」

「本圓ですか   悪倩候が予想されおいるのに  」

「だからだよ。今に分かるさ」

「」

 小銖をかしげおいるず、隌人さんがため息を぀く。
「めぐっち、理人の勘はどういうわけか圓たるんだ。閉店したら家たで送るから、理人の戯蚀たわごずに付き合っおくれるず有り難いな」

「  もちろん、わたしがお圹に立おるなら。家に垰っおも寂しいだけですし  。あっ  」

 自分で蚀っお、理人さんの蚀葉の意味が分かっおしたった。そうか、わたしみたいな人が「こんな日だから」やっおくるのか  。わたしの反応を芋た理人さんは「そういうこず」ず嬉しそうに笑う。

 そのずき早速、䞀人のお客さんがやっおきた。目が合い、互いに埮笑む。
「いらっしゃいたせ、かおりさん」



「パヌトナヌは今、りェブミヌティング䞭で  。長くなりそうだから、遊びに来ちゃった」

 かおりさんはそう蚀っお肩をすくめた。前回は䞀人でゆっくりしおいたかおりさんだが、今日はしゃべりたい様子が䌝わっおくる。わたしはかおりさんの隣の怅子に腰掛け、話し盞手を匕き受ける。

「  圌、仕事熱心なのよね。最近は特にそう。郚屋で二人きりの時間ができるずそわそわし出すずいうか  。もしかしたら、そろそろわたしず䞀緒にいるのが蟛くなっおきたのかなっお勘ぐっちゃうわよね」

「それで今日はここぞ来たんですね  。奜きな人ず䞀緒にいるのに蟛い  。その気持ち、分かる気がしたす」

「  あなたには『恋愛以倖に目を向けなさい』っお蚀ったのにダメね、わたしがこんなこずでは。わたしも新しいこずに挑戊しなければ  」

「䜕か挑戊したいこずがあるんですか」

 かおりさんは答えなかった。こんなわたしでも、かおりさんの悩みに寄り添う発蚀が出来ればいいのに。残念ながら、うんず幎䞊の女性に助蚀できるほどの人生経隓がわたしにはない。

 沈黙の時が流れる。ず、突然、テレビの音をかき消すほどの激しい雚が降っおきた。同時に、雚宿りをするかのように数人が店になだれ蟌む。圌らは貞し出したタオルで服のしずくを払いながら口々に「開いおる店があっお良かった」ず蚀っお笑顔を芋せる。

「ほぉらね」
 理人さんは、ほくそ笑んだ。



 䞀芋いちげんさんたちは雚しのぎの間、飲み物や軜食を摂っお぀かの間の䌑息を楜しんでいる。が、和やかな店内ずは察照的に倖は雷を䌎う倧雚。仕事をしなければず思う䞀方、倖の様子が気になっお぀い、泚意散挫になっおしたう。

 窓の倖を眺める。ず、店の軒䞋で立ち尜くす人圱を芋぀けた。雚宿り なら、䞭に入っおもらおう。軒䞋にいおも、この雚ではずぶ濡れに違いない。

「ちょっずだけ店の倖を芋おきたす」
 オヌナヌの返事も埅たずに飛び出したわたしは、わずかに開けたドアの隙間からすっず倖に身䜓を出した。

 軒䞋にいたのは、わたしず同じくらいの幎霢の女の子。が、そのお腹はふっくらしおいる。もしかしお、赀ちゃんが   わたしはすぐに声を掛けた。

「雚宿りなら、䞭に入っおください。ゆっくり出来たすよ。倧䞈倫、䜕も泚文しなくおもなお店ですから」

「    」

「ずにかく、入りたしょ」
 なかなか動かないので腕を匕っ匵り、無理やり店内に連れ蟌む。

「めぐっち」

 びしょびしょのわたしたちが入っおくるのを芋た理人さんたちは目を䞞くした。すぐに店の奥からタオルを出しおきおくれる。それを䜿っお党身を拭くが、わたしはずもかく圌女の服はびしょびしょで、着替えが必芁なほど濡れおいた。けれども、さすがに替えの服の甚意はない。

「あの、よかったらこれ  」

 防寒になればず、冷房察策で持っおきおいたブランケットを差し出す。少し震えおいた圌女は小さな声で「ありがずう」ずいうずすぐにそれを肩から矜織った。そしお倧きなお腹の䞊に手を眮いた。わたしの目は自然ずそこに向く。

「赀ちゃん  。もうすぐ生たれるの  」

「  うん。でも、じきに赀ちゃんず察面するんだ、ず思ったら急に怖くなっちゃっお。ここたで来たら匕き返せないっお蚀うのに、毎日毎日、䞍安でたたらないの」

「オヌマむゎッド 今日は珍客が来る予感がしおたけど、たさか出産盎前の女の子が来るなんお」
 圌女の蚀葉を聞いた理人さんが倩を仰いだ。

「理人 店に来た人に察しおそういう発蚀は控えろっおい぀も蚀っおるだろ」

「おっず、぀い本音が  。あヌ、気を悪くしないでよ ここは悩みを抱えた人こそ歓迎する店だから。ほんずだぜ」

「  お前が蚀っおも説埗力ないっお」
 オヌナヌ兄匟の掛け合いを聞いおも、女の子は無衚情のたた䞋を向いおいる。

わたしが圹に立おるずしたら、きっず今だ  

 かおりさんの盞談には乗れなくおも、同幎代の女の子の話し盞手なら務たるはず   そう盎感したわたしはたず自分の名前を告げる。

「わたしはめぐ。高校䞉幎生でこの店のアルバむトをしおるの。もしよかったら、話を聞くわ。名前を教えおくれる」

「高䞉   なら、あたしず䞀぀しか倉わらないね」
 女の子はそう蚀っおわたしの顔を芋る。
「あたし、クミっお蚀うの。  ここ、䜕のお店かずっず謎で入りにくかったんだけど、お悩み盞談宀なの」

「誰もが奜きなずきに立ち寄れお、奜きなこずができる、憩いの堎。それがここ、ワラむバよ」

「そう  。誰もがっおこずなら、あたしみたいな人間も立ち寄っおいいっおこずね」

「もちろん」
 自信を持っお答えるず、クミさんはようやく笑顔を芋せた。そこぞ隌人さんがさりげなくホットミルクを差し出す。

「雚に濡れた身䜓が冷えおは毒です。枩かいものを飲んでください」
 隌人さんの優しさに觊れたからだろうか。クミさんはマグカップを受け取るなり目に涙を浮かべた。



 詳しい話を聞くず、クミさんは高校時代の同玚生ずの間に子どもを授かり卒業埌に結婚。しかし友人たちが倧孊生掻を謳歌しおいる話を聞いたり、高卒で働いおいる倫が疲れお垰っおくるのを芋たりする䞭で、次第に劊嚠しおいる自分を吊定するようになったずいう。しかしお腹の子どもはすくすくず育っおいき、気づけば臚月。このたた産んでいいものか。産んでもちゃんずやっおいけるかどうか毎日、自問自答しおいるず、圌女は語った。

 他人事ずは思えなかった。もし悠くんず翌くんが自制心を欠いおいたら、わたしも今ごろクミさんず同じ運呜をたどっおいたに違いないず思うず、身に぀たされる。

 確かに、幎霢だけ芋ればわたしも立掟な倧人だ。けれどもやっぱり高校生である以䞊、経隓䞍足だし、未熟なたた芪になっおも教えられるこずはきっず、少ない。たずえわたしの愛する二人が子どもの䞖話に慣れおいたずしおも、だ。

 䞀通り話し終えたクミさんは、マグカップに残っおいたミルクを飲み干しお蚀う。

「  愛する人ず結婚すれば幞せになれるず思っおた。お腹が倧きくなる様子を語り合いながら生たれる日を埅぀。そういう日々が幞せなんだず  。なのに、どうしおあたしはこんなにも毎日䞍安なんだろう 幞せのはずの自分が嫌いなんだろう こんな気持ちになるくらいなら、赀ちゃんが欲しいなんお望むんじゃなかった。そんなふうにさえ思っおる。  そうは蚀っおも、もうすぐ生たれちゃうんだけどね」

 わたしにはクミさんに共感しようず頷きかけた。が、それより早く発蚀したのはかおりさんだ。

「ふざけないで   どんなに願っおもパヌトナヌずの子どもが望めない人間もいるずいうのに   あなたは盲目よ。そしお䞖間知らずよ。あなたは自分だけが苊しいず思っおいるかもしれないけれど、呚りをよく芋おご芧なさい。ここに集う人々を芋おご芧なさい。いかにあなたが恵たれおいるかが分かるはずだわ」

 いきなり、かおりさんから責められる栌奜になったクミさんは動揺しお瞮こたった。が、なんずか声を発する。

「  ここにはどんな人が集たっおいるず蚀うんです どうしおそんなにあたしを責めるんです それほどたでにあたしのこずが  矚たしいんですか」

「  そうよ。あなたのお腹には愛する人ずの子どもがいるんでしょう それを幞せず蚀わずしお䜕ずいうの   もし、あなたが母芪になる自信がないずいうなら、その子をわたしにちょうだい。わたしが、育おる」

「えっ  。あなたは䞀䜓  」
 戞惑うクミさんに、かおりさんは毅然ずした態床で蚀う。

「わたしのパヌトナヌは同性愛者。子どもが欲しいず願ったこずもあったけれど、圌は決しお銖を瞊には振らなかった。それでも愛し続けおきた  。そういう、䞀途な女よ。ここにいる、めぐさんだっお深い悩みを抱えおいる䞀人。そうでしょう」

 話を振られたわたしは、しどろもどろしながらも自分の境遇を話す。

「  わたしは、二人の男性に愛されおいるがゆえの悩みを持っおる。実は圌氏同士が固い友情を築いおいるために互いに遠慮し合っちゃっおね。本圓はわたしず倧人の関係を築きたいずそれぞれが願っおいるにもかかわらず、進展を望めば関係が壊れおしたう  。䜕よりもそれを恐れおいるのよ。そんな優しい心を持぀圌らのこずが倧奜きなわたしも、どちらか䞀人に決められずに悩んでるっおわけ」

「オレたちだっお、この幎たで独り身なのには蚳があるんだぜ 聞きたい」

「理人、その話はやめおおけ  」

 女たちの話に䟿乗しお、おしゃべり奜きの理人さんが口を開きかけたが、そこは双子の兄である隌人さんがぎしゃりず制した。クミさんはふっず息を吐く。

「  あたしは奜きになった人ずあっさりゎヌルむンしちゃったから、恋愛で苊しむ人の気持ちが分からなかったんだけど、二人の話を聞いお分かったよ。自分の感情を我慢しおでも盞手を思いやる。そういう愛し方もあるんだ、っおね。  やっぱりあたしは自分勝手で䞖間知らずな女。そういうこずなのかな  」

 クミさんの発蚀を受けお隌人さんが自慢の哲孊を披露する。

「゚ヌリッヒ・フロムはこう蚀っおいたす。

ある婊人が花を愛しおいるず口では蚀っおも、その花に氎をやるのを忘れおいるのを芋たずするならば、我々は圌女が花を愛しおいるずいうこずを信じないであろう。愛ずは、愛するものの生呜ず成長に積極的に関係するこずなのである、ず  。

぀たり、愛するずいうこずは、互いを尊敬し、関心を持っお芳察し、成長しおいく努力をし続けおいくず蚀うこずです」

 わたしには難しくお理解できなかったが、かおりさんは深くうなずいた。隌人さんは続ける。

「そしお䜕よりも倧事なのは自分を信じるこずです。すべおはそこから始たりたす。だからクミさんも、めぐっちも、かおりさんも、自分の愛を信じおください。愛する想いが、行動が、盞手の䞭に愛を生じさせるず信じおください」

「えっずぉ  。愛するっおこずは胜動的な行為ですよね 愛されるよりたず、愛するっおこず」
 わたしの問いに隌人さんはうなずく。

「そう。愛するず決断するんだ。感情からではなく、自分の意志で愛するずね。もし、感情で愛そうずするならば、二人が末氞く愛し合うこずは出来ないだろうずフロムは蚀っおいるよ」

「決断  」

 今のわたしに䞀番足りないもの。それがなければ真に愛し続けるこずは出来ないず蚀われお困惑する。そんなわたしの暪で、今床はクミさんが疑問をぶ぀ける。

「それは  子どもに察しおも  」

「もちろん、同じこずですよ。生たれおくる子どもが䞀番求めおいるのは母芪の愛情ですからね。母芪の方から子を愛するず決断する。愛を䞎える。それによっお子は安心しお生きおいけるのですから」

「  そうですよね。赀ちゃんは母芪がいなければ生きおいけない。  あたしが、ちゃんずしなきゃいけたせんよね」

 う぀むきっぱなしだったクミさんはい぀の間にか顔を䞊げ、背筋を䌞ばしおいた。クミさんが明るい衚情で蚀う。

「自分の気持ちを吐き出しお、それに察しお色々アドバむスを頂いたおかげで出産に前向きになれた気がしたす。特に  お姉さんの厳しい䞀蚀で『お腹の子はあたしが育おなきゃ』っお気にさせられたした。ありがずうございたす。  たた、遊びに来おもいいですか」

「い぀でもどうぞ」

「隌人のちんぷんかんぷんな話が聞きたけりゃあね」

「り・ひ・ず  」
 隌人さんが拳を振り䞊げるず、理人さんは「ひぃっ  」ず蚀っお店の隅っこに逃げた。が、その顔は笑っおいる。

「うちの店に来る人はみんな、悔しいけど隌人の話も楜しみにしおる。分かっおるこずだろうが。冗談の通じない奎め」

「だったら、僕にも分かるような耒め蚀葉を䜿っお欲しいもんだね」

「人前で兄貎を耒めるのは苊手でね  」
 理人さんはそう蚀っお店の奥に匕っ蟌んだ。

 そのずき、スマホの着信音が鳎った。クミさんが慌おおポケットに手を突っ蟌んで電話を受ける。

「もしもし」

『おいっ、今、どこにいるんだよ 郚屋にも実家にもいないから心配で  。迎えに行くから居堎所を教えおくれ』

 盞手の声が受話噚から挏れ聞こえた。旊那さんからのようだ。クミさんはワラむバにいるこずを䌝え電話を切った。

「  圌には悪いこずしちゃったな」
 クミさんは肩をすくめ、ゆっくり怅子から立ち䞊がった。

「めぐさん。声を掛けおくれおありがずう。それからこのブランケットも。酷い雚に降られお最悪の日だず思っおたけど、今では雚が良い出䌚いをもたらしおくれたず感謝しおる。   あれ 雚、止んでる なら、歩いお垰るっお蚀えばよかったかな。実はすぐそばに䜏んでいるんだ」



 数分経っお、傘を二本持った男性がやっおきた。クミさんからここでの話を聞いた旊那さんは䜕床も頭を䞋げ、その埌、圌女の肩を倧事そうに抱いお垰っお行った。雚宿りのため滞圚しおいたお客さんたちも同じタむミングで垰路に぀く。

 店にはオヌナヌ二人ずわたし、そしおかおりさんだけになった。

 クミさんはもう産むこずを迷っおはいないだろう。そしおきっず、旊那さんず生たれおくる子どもを愛し、これからの人生を歩んでいくのだろう。

 翻っおわたしは   クミさんを芋送ったあずで、がっくりずうなだれる。

 二人ず愛し合いたいず願いながら、その結果ずしお母芪になる可胜性があるこず、そしおそうなった時はちゃんず産む、ずいう決心が出来おいなかったこずを思い知らされたからだ。

 隌人さんも蚀っおいた。感情から愛し合っおもその愛は氞遠には続かないっお。愛するず決断しなければならないんだ、っお。

もしかしたら、悠くんず翌くんは気づいおいたのかもしれない。わたしにはただ、母芪になる芚悟が出来おいないっお。その資栌すらないっお  

 加えおわたしは「二人に愛される」こずを望んでいる。完党に受け身。真に愛し合う぀もりがあるならやっぱり「どちらか䞀方を愛する」芚悟をしなきゃいけない。

ママが苊しみながらも悠くんではなくパパを遞んだように、わたしもどちらかを  

 奇しくもママがその決断を䞋したのは十八の時。しかし今のわたしに、甘やかされお育ったわたしにそんな決断が出来るのだろうか  。

 悶々ず悩んでいるず、理人さんに声を掛けられる。

「さお、ず。今日はそろそろ店じたいにするか。めぐっち、手䌝っおくれる」

「はい」
 そうだ、今はただ仕事䞭。考えるのはあずにしよう。

 䞀旊倖に出お、お店のドアに「CLOSED」の札を掛けようずした。ず、䞀人の男性が店を目指しお䞀目散に走っおくるではないか。

「埅っお ただ閉めないでっ」

 男性はわたしを抌しのけるようにしお駆け蟌んだ。垞連のお客さんだろうか 戞惑っおいるず、かおりさんが顔色を倉えた。男性ず芋぀め合っおいる。

「玔さん  」

「やっぱりここだったんだ  。䜕床電話しおも繋がらないから、こっちから来ちゃったよ。䌚えお良かった  」
 二人の様子から、男性はかおりさんのパヌトナヌだず掚枬する。

「やれやれ。閉店の時間だけど、ゞュンゞュンが来ちゃったんなら仕方がないな  。めぐっちはこれで䞊がっおいいよ。隌人に送っおもらっお。あずはこっちで匕き受けるから」

 理人さんがわたしに垰宅を促した。隌人さんも車の準備をしようず動き出す。しかしわたしは、かおりさんたちのこずが気になっお仕方なかった。

「理人さん。わたし、もうちょっず残りたす。  二人の話が聞きたいんです」

「めぐっち  。いくら知り合いだからっお  」

「倧䞈倫よ、オヌナヌ。聞かれお困るような話はしないから。その代わりこれ以䞊、人の出入りがないようにしおいただけるかしら」

「  かおりさんの蚱可が出たならオヌケヌ。じゃあ、めぐっち。今床こそ『CLOSED』にしお鍵を掛けおおいお」

「はい」
 蚀われたずおりにするず、理人さんが店のテレビを消した。店内から突然音が消え、重苊しい空気になる。

「  どうしおここだず分かったの」
 かおりさんの蚀葉をきっかけに二人の䌚話が始たった。

「長幎の勘っおや぀ そうずしか蚀いようがない」

「車もないのに、どうやっおここたで  」

「どうっお  そりゃあ電車で来たんだよ。ここを玹介したのはおれだしね。かおりさんに送っおもらわなくたっお、ちゃんず来られるさ」
 玔さんず呌ばれた男性は、半分笑ったような衚情で蚀った。
「  ごめんね。かおりさんの気持ち、分かっおあげられなくお」

「いいえ。玔さんに無理を蚀っおいるのはわたしの方だもの。愛想を尜かされおも圓然だわ  」

「たさか おれにはかおりさんが必芁だっお蚀うのに」
 玔さんは声を荒げ、かおりさんの手を取った。けれどもかおりさんは眉をひそめおいる。

「なら、どうしお最近、玠っ気ないの 話しかけおも䞊の空だし、仕事も忙しそうだし」

「  忙しくしおいないず。トルテが死んでから、どうも気持ちが沈んじゃっおダメなんだ。もちろん、トルテの子どもや孫たちはかわいいよ だけど、トルテはおれたちの心を繋ぐ架け橋だったから。䞉十幎も生きたこず自䜓ギネス蚘録玚だし、奇跡だったず思うべきなんだろうけど、それでも  。わかるでしょ、かおりさんなら。トルテ以䞊の猫は  家族はいないっおこずくらい」

「ええ、もちろん。わたしだっおトルテの死を未だ受け容れられおいないわ。でもね  。トルテがいないからこそ寄り添いたい気持ちが匷いのよ。なのに玔さんの気持ちは他ぞ向いおいる。それがずおも悲しい  」

「ごめん  。かおりさんずちゃんず向き合えなくお。仕事に打ち蟌むこずでしか気を玛らわせるこずが出来ないおれを蚱しお」

 再び謝った玔さんは、悲しみをたたえた衚情でかおりさんを抱きしめた。

「  トルテに教えられたよ。䞀緒にいるこずが圓たり前になっおいたけど、家族ずの暮らしは氞遠じゃないんだっおこずを。い぀か必ず別れの時が来るっおこずを。死の盎埌にはトルテを倱った悲しみの感情しか湧いおこなくおうたく衚珟できなかったけど、たびたび『家出』されおようやく、かおりさんに察する気持ちを蚀語化できたんだ。やっぱりおれはこの先もかおりさんず䞀緒にいたいんだっおね。だから、勝手にいなくならないで。せめお、いなくなる理由を聞かせお。お願いだ、おれを䞀人にしないでよ  」

 少しの沈黙の埌でかおりさんが答える。

「  もちろんいるわ。あなたのそばに。でも、今たでわたしたちを繋いでくれおいたトルテがいなくなっちゃっお、このあずどうなるのかな。ちゃんずうたくやっおいけるのかな  」

 䞍安そうなかおりさんの蚀葉を受けお、玔さんが「そうだ」ず声を発する。

「旅行しようよ、京郜に。おれたちが互いを深く知るきっかけになったあの堎所ぞ」

「京郜  」

「うん。原点回垰っお蚀うか、初心を思い出すっお蚀うか。日垞に慣れきっお忘れがちなこずっおあるじゃない そんなずきこそ思い出の地に足を向けるのもありなんじゃないかな」

 かおりさんは少し考えおいたようだが、ようやく衚情を和らげた。
「そうね。気晎らしずいう意味でも必芁なこずかもしれない。  たた旅皋を考えるわ。ふふ、想像しただけで楜しくなっおきた」

「よかった、笑顔が芋られお。  最近、党然笑っおなかったから心配しおたんだ」

「それは玔さんだっお同じよ。  ねえ、玔さん この先もずっず家族でいおくれる そしおわたしを笑顔にしおくれる」

「笑わせるのは埗意じゃないけど  。䞀緒に笑うこずなら出来るず玄束するよ。そうだな  。ここは䞀぀、オヌナヌたちに挫才でもやっおもらう」

 急に話を振られた理人さんは倧げさに吊定する。
「ちょっ   隌人ず挫才が出来るわけないっしょ っおいうか、コンビ組むずしおもめぐっちの方が䜕癟倍もマシだわヌ」

「めぐっち  」

 理人さんに話を振られたわたしは自己玹介をする。

「少し前から働き始めた、アルバむトの野䞊めぐです。実はこのお店のこずはかおりさんに玹介しおもらったんですよ」

「えっ かおりさんに」

 䞍思議そうな顔をする玔さんをみお、かおりさんが、わたしずの出䌚いからここを玹介するに至るたでのこずなどを簡単に話す。

「そっか  。めぐさんも愛し合う難しさを痛感しおるんだね  。それでおれたちの話が聞きたいっお懇願したわけか」

「はい  。䜕か良い方法はないものでしょうか」

「残念ながら、こればっかりは粟神的な話だから  」
 答えになりそうな話が聞けるかず期埅しただけに萜胆する。「でもね」ず玔さんは続ける。

「䞀぀だけ蚀えるのは、盞手を想いやる気持ちも倧切だけど、それよりもたず自分の幞せを願っおいいんだっおこず。めぐさんが本圓に望んでいるこずは䜕か、胞に手を圓おおじっくり聞いおごらん。衚面的なこずじゃないよ もっず深奥にあるもの。めぐさんの心の奥底にある想いを探っおごらん」

「心の奥底にある想い  ですか」

 玔さんに蚀われるがたた、䞡手を胞に圓おお目を閉じる。そしおじっくりず思いを巡らせる。そのうちに、䞀぀の想いが浮かんできお胞が痛んだ。これが、本圓の気持ち  

「  わたし、どちらも同じくらい愛しおいる぀もりでした。でも、よくよく心に聞いおみたら『奜き』の意味がそれぞれに違うのかもしれないっお  。今、そのこずに気づいおしたいたした  。ショックです  」

 う぀むくわたしに玔さんが優しい蚀葉をかけおくれる。

「その気づきを倧切にしお。そしお腑に萜ちるたで䜕床でも自分に問いただしおみお。すぐには無理かもしれない。でも、ちゃんず玍埗できるずきが蚪れる。最適なタむミングで」

「  はい。その蚀葉を胞に、今倜はもう少し自分ず向き合っおみたいず思いたす。玔さんっお、知的なおじさたっお感じで玠敵。たたお目にかかりたいです」

「うん。たた遊びに来るよ」

 そう蚀っお玔さんは再びかおりさんの手を取り、垰っお行った。



 かおりさんたちの話をじっくり聞いおいたら垰るのが遅くなっおしたった。けれど、䞡芪には瀟䌚勉匷をしおいたず連絡枈みだし、オヌナヌの䞀人、隌人さんが家の前たで送っおくれたのだから文句はあるたい。

 ようやく䌑めるず思ったのも぀かの間。リビングにはパパずママ、そしおなぜか䌯父の姿があった。こんな時間に蚪ねおくるなんお珍しい、ず思ったが、よくよく話を聞いおみればパパではなく、わたしに䌚いにきたずいうではないか。

「いやぁ、めぐちゃんが倧接兄匟の店で働き始めたっお聞いたもんだから、どんな様子か知りたくなっおさ。急だけど、寄り道させおもらったっおわけ」

 䌯父には「ワラむバ」でアルバむトを始めたこずは䌝えおいない。蚀うずしたらパパくらいのものだ。

「しゃべったの」
 問いただすず、パパは困ったような顔をした。

「店の名前を蚀っただけだよ。パパだっお、たさか兄貎の野球郚時代の埌茩が経営しおる店ずは知らなかった」

「おれの埌茩は理人の方だけどな。店を開いたずきに䞀床だけ顔を出したこずがあるんだけど、たさかそこでめぐちゃんがアルバむトを始めるなんおびっくりだぜ。盞倉わらず、口は悪いんだろうなぁ。めぐちゃん、あい぀の䞋でやっおいけそう」

「あはは  。ご心配なく。理人さんも隌人さんも気のいい人たちですし、やっおくるお客さんもそれを知っおお蚪ねおきおるので、わたしも居心地がよくっお。  気になるなら、今床䌯父さんも遊びに来お䞋さいよ。きっず倧歓迎されたすよ」

 わたしがそう蚀うず、䌯父は「そうだなぁ」ず呟いたきり黙り蟌んでしたった。

 「ワラむバ」の話を聞きに来たわけじゃない、ず盎感する。それにこの皋床の雑談なら、わざわざ仕事垰りに我が家に寄っおわたしの垰りを埅ったりはしないはずだ。

 案の定、色々寄り道をしながらやっず切り出したのは、翌くんのこずだった。

「翌のや぀、急に垰っおきたんだけど、喧嘩でもしたの それずも、あい぀が䜕かめぐちゃんの気に觊るようなこずをしちゃったのかな」

 どうやら䌯父は翌くんずわたしのこずを心配しおやっおきたらしい。わたしは誀解のないよう、正盎に告げる。

「  翌くんは䜕も悪くありたせん。わたしに、いろいろず芚悟が足りおなかったのが原因なんです。むしろ、わたしが翌くんを傷぀けおしたった  。本圓に申し蚳ないず思っおいたす。今回翌くんず離れたのは、お互いに冷静になっお、自分を芋぀める時間が必芁だろうずいう悠くんの考えからです」

「なるほど  」
 䌯父はほっず胞をなで䞋ろした。そしおこう続ける。

「めぐちゃん。翌は頌りないずころもあるだろうけど、本圓に心の優しい子なんだ。䞀床決めたこずはやり通す男でもある。そこはぜひ評䟡しおやっおくれないかな」

 それは暗に「翌ず結婚しおくれないか」ず蚀っおいるようなものだった。戞惑っおいるず、パパが暪から助け船を出す。

「兄貎。二人の  いや、䞉人の問題に芪が口出しするのはやめよう。みんな倧人なんだ、それぞれの考えで動いおいるし、結論だっお圌ら自身で出すはず。僕たちは芋守るこずしか出来ないよ」

「䜕だよ、息子の幞せを願っおなにが悪い それずも䜕か 翌が鈎宮君に劣るずでも」

「そんなこずは蚀っおない。芪がなんず蚀おうず、最埌に決めるのは圓人たちだっお蚀っおるんだ」

「なら、別におれが翌を掚薊したっお構わないだろう 抌し぀けおるわけじゃないんだし」

「  これ以䞊、めぐを混乱させるのはやめおくれないかな。めぐは今、悩みを抱えおうちに戻っおきおるんだから」
 パパがわたしを擁護した。しかし䌯父は匕かない。

「翌もいい幎だ。芪ずしおは、盞手がいるならそろそろ身を固めお欲しいっおだけの話だよ。それが埓効のめぐちゃんっお蚀うのはすぐには受け容れがたいけど、あい぀がそう決めたならおれは応揎するたでだ」

「めぐが高校生だっおこずを忘れないように」

「高校生だろうが、倧人であるこずには違いないだろう おれだっお結婚は早かったけど埌悔はしおない。䜕ごずもタむミングっおのはある」

「兄貎は今がそのずきだっお蚀いたいわけ そんなのは芪の゚ゎだ」

「んだずぉ お前だっお鈎宮君ずめぐちゃんを結婚させようずしおるじゃないか。自分のこずは棚に䞊げお、よくもそんなこずが蚀えるな」

「ちょっずお矩兄さん、萜ち着いお 子どもの前で喧嘩はよしおください」

 ママが仲裁に入った。それでも、䞀床蚀い出したら止たらないのが䌯父だ。なおも続けお蚀う。

「めぐちゃん。翌は君を䞀途に想っおいる。愛を貫こうずしおいる。めぐちゃんも翌を愛しおるずいうのなら、あい぀の気持ちを受け止めおやっおくれないか」

「どうしお䌯父さんがそこたで  」

「  これ」
 䌯父はそう蚀うず、かばんの䞭から䜕かを取り出し、テヌブルの䞊に広げた。

「  家の䞭を敎理しおたら芋぀かったんだ。こんなものを芋ちゃったら、黙っおられなくおな。たぁ、読んでやっおくれよ」

 䌯父が持っおきたもの。それは「めぐちゃんぞ」ず曞かれた倧量の手玙だった。

「  読んでも  いいんでしょうか」

「翌からめぐちゃんに宛おたラブレタヌだ。枡す぀もりがなかったのだずしおも、ここにはきっず翌の想いが詰たっおるはず。  もし、読んだこずを咎ずがめられたら、そのずきはおれが謝るから。じゃ、頌むよ」

 そう蚀っお䌯父は怅子から立ち䞊がり、支床を枈たせるずあっずいう間に垰っお行った。

「やれやれ  。兄貎の匷匕さには぀いお行けないよ」
 䌯父を芋送ったパパはため息を぀いた。

「めぐ。兄貎は読んでくれっお蚀っおたけど、読むかどうかはめぐ次第だ。分かっおるね」

「うん  」

 しかし、わたしの心はすでに決たっおいた。枩かみのある翌くんの文字がテヌブルいっぱいに散らばっおいるずいうのに、どうしおこれを読たずにいられるだろうか。

 わたしは手玙をかき集め、自宀に持っおいった。そしおその䞭から䞀぀遞び、封を開ける。

『めぐちゃんぞ――

 ああ、めぐちゃん
 君は俺の倪陜だ
 倪陜がなければ生きられないように、
 君がいなければ俺は生きおいくこずができない

 君の声はたるで鳥のさえずりのよう
 ああ、い぀か君の声で目芚めるこずが出来たなら  

 愛し君よ
 君のさえずりに
 俺も歌で応えよう
 新しい曲を携えお

 君が笑えば俺も笑う
 君は俺の䞖界、いや宇宙だ
 
 どうしようもなく愛しおる
 俺の想いをどうか、受け取っお䞋さい

 翌』

 その蚀い回しに、思わず笑っおしたう。他の手玙も同様に、どれも翌くんらしい衚珟でわたしぞの思いが綎られおおり、次第に心が満たされおいく。

 読んで行くに぀れ、圌ず過ごした楜しい日々や思い出もよみがえっおきた。遊園地や動物園に連れお行っおもらったこず。教科曞に茉っおいるお話を、䞀人で挔じ分けお朗々ず読んでくれたこず。わたしも圹者になりきっお䞀緒に挔劇の緎習をしたこず  。

 わたしにずっお翌くんは兄であり、憧れの人であり、䞀緒にいるだけで楜しい気持ちにしおくれる人だった。特に挔劇郚に入っおからの翌くんは「かっこいい」ずしかいいようがなく、圓時小孊生だったわたしは圌が遊びに来るのを心埅ちにしおいたものだ。

 それから数幎。気づけば翌くんのこずが奜きになっおいた。ただ、䞭孊生の「奜き」が倧人の翌くんの「愛しおる」ず同レベルであるはずもなく、このずきはただ圌の想いに気づくこずが出来なかった。圌の本気床を知ったのは蚀わずもがな、圌が悠くんず恋敵になったあずである。

 憧れから生じる「奜き」が「愛」に倉化したのもこのずき。

 圌は䞀歩も匕かなかった。むしろ、悠くんずいうラむバルの登堎埌はより積極的にわたしを愛そうずしおくれた。䌯父の蚀うずおり、䞀途に、わたしだけを  。

 その瞬間、はっきりず分かった。わたしが心から恋い慕っおいるのがどちらなのか  。

 迷いはなくなっおいた。䜕床問い盎しおも、わたしの䞭で䞀぀の答えが出おしたった以䞊、それが芆るこずはもう、ない。

 ――ちゃんず玍埗できるずきが蚪れる。最適なタむミングで。
 ――䜕ごずもタむミングっおのはある。

 奇しくも、二人の「おじさた」が同じこずを蚀った。これはもう、受け容れるしかあるたい。

 わたしが「ワラむバ」で働き始めたこずも、そこのオヌナヌが䌯父の埌茩だったこずも、そしお䌯父が翌くんの曞いた手玙を芋぀けおわたしに芋せたこずも、すべおが最適なタむミングで起きた結果だろうから。

神様。これからもどうか、わたしたちを芋守っおいお䞋さい。お願いしたす  

 最適なタむミングで出䌚いをもたらしおくれた神様だ、私のこの想いも聞き届けおくれるはず。そう信じ、長い間祈り続けた。

悠斗
 五

 結局、圓初の予定より二日遅れで家路に぀いた。自然盞手ではどうしようもないが、䞀人でいる時間が増えた分、それぞれが自分探しに充おる時間も延びたず前向きに考えたい。

 台颚が去ったあずの、最初の䟿に乗った。それでも東京に到着したのは倕方。西日は肌を焌くほどに暑く、野䞊家に垰り着く頃には汗だくになっおいた。沖瞄ずの暑さの違いに、ああ、垰っおきたのだず実感する。

「悠斗。先に垰っおたのか」
 最初に垰宅したのは翌だった。

「たった今、着いたずころだ」

「お垰り」

「  映璃ず䞀緒じゃないのか」

「買い物するから先に垰っおくれっお」

 翌のこずだから熱烈に歓迎しおくれるものず思っおいたのに、今日はい぀もず様子が違う。きっず、各々がこれから告げるであろう「決断」のこずを思い描いおいるに違いない。

 結論次第では、こうしお䞀぀屋根の䞋で暮らすのも今倜限りになるかもしれない。おそらく翌も同じ想いでいるはず。でなければ、おれを前にしお神劙な顔で黙り蟌んでいるはずがない。

「  沖瞄土産をたくさん買っおきたんだ。あずでみんなで食べよう」
 沈黙に耐えかねお話題を提䟛する。しかし翌の衚情は硬いたただ。

「  どうした 䞀週間ぶりに顔を合わせたんだ、い぀ものお前らしく振る舞っおくれよ」

「  悠斗は自分探しが出来たのか」
 翌は深刻な顔぀きのたた蚀った。

「  ああ。だから戻っおきたんだよ。お前も芋぀けたんだろ 自分なりの答えを」

「  うん。ちゃんず出したよ。䞉人が揃ったら蚀う぀もりだ」

 そのずき玄関から「ただいた」ず明るい声が聞こえた。



 笑顔でリビングに飛び蟌んできためぐは、立ち尜くすおれたちを芋お䞀瞬衚情を倱ったが、すぐに「悠くん、お垰り 無事でよかったぁ」ず抱き぀いおきた。そうかず思えば、すぐに身を翻しお翌の胞に飛び蟌む。

「翌くんにもずっず䌚いたかった  。䜕床、䌚いに行こうず思ったこずか  」

「俺も䌚いたかった。今日は久々にみんなで食べる晩ご飯が楜しみで仕方がないよ。  もっずも、それぞれの決断次第では憂鬱な食事になる恐れはあるけど」

 翌は厳しい顔぀きのたた「座ろうか」ず促した。
 党員が䞀定の距離を取っお゜ファに座る。しかもおれず翌は向かい合う栌奜だ。
 緊迫した空気が堎を支配する。倧事な話し合いが始たるずは蚀え、正盎、こういうのは苊手だ。

「じゃあ、たぁ、おれから話そうか」
 和やかに事が進むよう、出来るだけ明るい声で話し始める。

「長い間留守にしお悪かった。だけど、おかげで自分の思いにケリを぀けるこずが出来たよ。

   おれは、翌ずめぐが奜きだ。だからこそ、二人が結ばれるこずを望む。二人が幞せでいるこずが、おれにずっおも幞せなこずだず分かったんだ。  おれは実家に戻る。そこからお前たちを芋守る。これが、おれの出した結論だ」

「それはダメだ」
 翌はすぐに反論した。
「俺の生掻には悠斗が絶察に必芁なんだよ。だから、䞀人で実家に戻る案は認めない 絶察に」

「そこたではっきり蚀うのなら、翌の『決断』を聞かせおもらおうじゃないか。意芋を受け容れるかどうかはそのあず決めさせおもらう」

「なら蚀うよ」
 翌はおれを䞀瞥し、めぐに芖線を移した。

「  俺の想いは埌にも先にも倉わらない。やっぱりめぐちゃんず結婚したい。将来的には子どもも欲しい。それが俺の出した答えだ。  もう䞀床蚀おう。めぐちゃん、俺ず結婚しお䞋さい。お願いしたす」

 翌は隣に座るめぐの方を向き、深々ず頭を䞋げた。
 改めおプロポヌズされためぐは翌の手を取る。

「はい。喜んでお受けしたす」

「めぐちゃん   本圓に俺を  」

「うん。  翌くんずの日垞には『ずきめき』があった。わたしの人生を振り返っおみおも、ドキドキする瞬間がそこかしこに。   翌くんが孊生時代に曞いた、わたし宛の手玙を読んだの。䌯父さんが持っおきおくれたそれを読たずにはいられなくお  」

「うえぇっ あれ、読んじゃったの 誰にも分からないずころに隠しおあったはずなのに   父さん、やっおくれたなっ  」

 翌は赀くなった顔を䞡手で芆った。「でもね」ず、めぐは続ける。

「嬉しかったんだ。あんなにもわたしのこずを想っおくれおるず知っお、たすたす翌くんが奜きになったよ  。本圓だよ」

「めぐちゃん  」

「二床目のプロポヌズをしおくれおありがずう。わたしも翌くんのこずを愛しおいたす。ただただ至らない点ばかりだけど、䞀生、翌くんの倪陜でいられるように頑匵る。ただし、子どもを持぀ずいう話だけは、ただただ先っお考えおる。それを蚱しおくれるなら  」

「そりゃあ、もちろん」

「よかった  。翌くん、これからもよろしくお願いしたす」
 めぐは、かしこたっお挚拶した。

挿絵

 その様子を芋お劙に心が穏やかになる。長幎の心配事が解消されたずきのように、晎れやかな気分だ。

「いい決断をしたな。うん、これでおれも安心だ」
 うなずきながら告げるず、めぐは今にも泣きそうな顔で「ごめんなさい」ず謝った。

「  もちろん、悠くんが心から想っおくれおるのは知っおるし、そんな悠くんのこずがわたしも倧奜きよ。だけど、だけどね   この先、悠くんず二人で家庭を築く未来を思い描くこずがどうしおも出来なかったの  。

 パパから結婚話をもらったずきの悠くんは本圓に衰匱しおいたから、わたしがそばにいおあげなきゃっお気持ちが匷かった。だけど、䞀緒に暮らす䞭で悠くんは元気を取り戻しおいったよね 結婚しおいなくおも、笑い合う日々が悠くんの心を回埩させた  。

 それに気づいたずき、はっきりず分かったの。悠くんに必芁なのはわたしずの結婚生掻じゃない。共同生掻だ、っお。同時に、悠くんに抱いおいる『奜き』の気持ちは、実は『恋心』ではなくお『友情』や『家族愛』だった、っおこずにも  。

 ショックだった  。悠くんを愛しおはいなかったんだず分かったずきは。でも、䞀床気づいおしたったら、もうそれ以前の気持ちには戻れなくなっおしたった  。わたしはもう、悠くんを恋人ずしお愛するこずができない  。蚱しお䞋さい  」

 めぐは頭を䞋げた。

「謝るのはよせよ。おれの気持ち、聞いただろ おれだっお  めぐずは愛し合えない。そうするのは違うっお気づいたのはおれも同じだよ。お互いの幞せのために必芁なこずがなにか、おれもめぐも自分で気づけた。それでいいじゃないか」

「それは、そうなんだけど  」

「翌、めぐ。末氞く幞せにな。  うん、やっぱりおれはここから出お行く。その方がきっず  」
 
「おいっ なんでそうなる 勝手に締めくくるなっ぀ヌの」
 すべおが䞞く収たった。この話はめでたしめでたし、のはずが、翌にツッコたれる。

「そうよ。どうしお出お行っちゃうの 今の話、ちゃんず聞いおた」
 めぐにたで憀慚される。

「䜕だよ、お前ら。二人の気持ちが䞀臎したんだから、はみ出したおれはこの家を去る。自然な流れだろ」

「いやいや、違うっお 蚀っただろ 俺もめぐちゃんも、悠斗ずは䞀緒にいたいんだっお。なのに悠斗は出お行くなんお蚀う。それっお、俺からすれば単なる逃げにしか聞こえないんだよ。俺たちの幞せを願うず蚀うなら、そう決断したんなら、最埌たで芋届けろよ」

「そうだよ。恋愛感情は抱けないっお蚀ったけど、䞀緒に暮らせないなんお䞀蚀もいっおないんだから」

 めぐはそう蚀っお指茪を目の前に差し出した。それを芋た翌も同じようにする。

「めぐちゃんの蚀うずおりだ。俺は、俺ずめぐちゃんが結ばれおも䞉人暮らしはできる、ず思っおる。  悠斗。本圓は間近で俺たちのこずを芋守りたいず思っおるんだろ」

 すぐに吊定しようず思ったのに、声が出なかった。翌は続ける。

「栌奜぀けた぀もりかもしれないけど、匷がっおるのがバレバレなんだよ。䜕幎䞀緒に暮らしおきたず思っおる あんたが寂しがり屋だっおこずは俺もめぐちゃんもよく知っおるよ。だから、倉な気を遣わなくおいい。  倧䞈倫。悠斗ずはこれからも裞の付き合いを続けおいく぀もりさ。悠斗のこずは友人ずしお奜きだからね」

「やれやれ  」
 寂しがり屋であるこずは事実だし、それず知っおお䞀緒にいようずいっおくれるのは嬉しい。が、これたで以䞊に愛し合う二人のそばで暮らすのは正盎、気恥ずかしいずの思いがあった。しかし、翌もめぐも、おれを手攟しおはくれないようだ。

「少し離れたずころから芋守ろうず思っおいたのに。そこたで蚀われたんじゃ、仕方がないな  。裞の付き合いは構わないけど、めぐに嫉劬されない範囲で頌むよ。この前みたいに、郚屋に乱入されるのは勘匁だからな」

 先日の゚ピ゜ヌドを思い浮かべながらそう蚀うず、二人は顔を芋合わせお苊笑したのだった。

 翌の蚀うようにおれたちの暮らしはこれからも倉わらずに続いおいくんだろう。
 それぞれがはじめから抱いおいた想いを芋぀め盎し、けじめを぀けただけ。しかし、それをしたこずによっおこの先も䞀緒に暮らしおいける。地博に心配されたようなこずが――めぐの劊嚠を機におれず翌の関係が厩れるようなこずが――起きる事はおそらく、ない。

「お垰り。翌くん、鈎宮」
 い぀垰っおきたのか、突然地博が姿を珟しお䌚話に加わった。
「  氎を差すようで申し蚳ない。今、䞉人暮らしっお聞こえたんだけど」

 盞倉わらず迷惑そうな衚情。だが、今回ばかりは匕き䞋がるわけにはいかない。
「ちょうどいい機䌚だ。日を改めるたでもない。今すぐ話そう」

 おれは二人に目配せをしお地博の前に立った。しかし詳しい説明をしなくずも、地博にはおれたちの考えが分かったようだ。圌から話を切り出される。

「  時が満ちた、ず そういうこずかな」

「ああ  」
 おれの返事を聞くず、地博はため息を぀いた。

「で、䞉人暮らしを始める具䜓的な時期は」

「めぐは十八になった。そしお今し方、翌ずめぐは結婚の玄束を亀わした。これ以䞊埅たされる理由は䜕䞀぀ない」

 即答するず、地博は目を䌏せた。

「  分かっおたこずだろ 子どもを持぀以䞊、い぀かは巣立ちの日が来るこずくらい。それを承知で匕き受けたんじゃなかったのか」

「もちろんそうさ。だけど  」
 地博はそこたでいうず、おれたちの脇をすり抜けお倖ぞ出お行った。

「パパ  」
「埅お」
 远いかけようずするめぐを制する。

「おれが話を぀けおくるから。翌、めぐを頌む」

「オヌケヌ。めぐちゃん、ここは悠斗に任せよう」

「うん  。悠くん、お願いね」

「ああ」
 父を思うめぐを残し、地博の埌を远う。



 や぀は庭にいた。庭の花々をじっず芋぀めおいる。おれは隣に立っお語り始める。

「  らしくないな。そんな顔をするなんお」

「  自分でもこんなに心が動くずは思っおいなかったよ。子どもの巣立ちっおいうのは  守っおきたものが離れおいっおしたうずきっおいうのは、想像以䞊に悲しいものだね。もっずも、君ず僕ずじゃ胞の痛みは比べものにならないだろうけど」

「同じようなものさ  」
 おれは嚘を亡くしたずきのこずを思い出しながら答えた。

「たぁ、お前は日頃あたり感情を出さない人間だから、こういう時くらいは思いきっお吐き出しちゃっおもいいんじゃないかず思うよ」
 蟛い気持ちがあるなら蚀っお欲しい、そう蚀った぀もりだったが拒たれる。

「  鈎宮の前では匱音を吐きたくないな」

「ふん。匷がるのか 家族の前でも泣き顔は芋せられないず」

「  確かに君は家族だ。でも同時に、氞遠のラむバルでもある」

「ラむバル  」

「僕は芪ずしおめぐのこずを愛しおいる。そういう意味で、君は立掟なラむバルだ。翌くんも同様にね」

「なるほど。それなら玍埗。だけど残念ながらお前はおれにも翌にも勝おない。どんなにめぐを愛しおいたずしおもな」

 毅然ずした態床で蚀うず、地博は顔をしかめた。

「  どうしおめぐずの結婚を諊めたんだ めぐのこずは心から愛しおいるず蚀っおいたのに  」

「  諊めたんじゃない。愛しおいるからこそ結婚しないず決めたんだ。それに翌のこずも倧切にしたいからな。お前がなんず蚀おうず、この気持ちは倉わらないよ」

「  君にずっお翌くんはどんな存圚」

「ラむバルであり、息子であり、匟であり、友人。  ずにかく倧事な存圚、かな」

「  たさか、君たちがそんな関係になるなんおね」

「おれもびっくりだよ。人生、䜕が起きるかほんずに分からないよな」

 おれが蚀うず、地博は深くうなずいた。

「  分かった。そういうこずなら近日䞭にも䞉人暮らしの準備を手䌝おう。匕っ越し先が君の実家なら、車を埀埩させるのもそれほど苊ではないからね」

「えっ、なんで知っおるんだよ」

「僕は家長だからね。この家で話されおいるこずはだいたい把握しおいるよ」
 や぀はそう蚀っお小さく笑った。

◇◇◇

 数日埌。日が萜ちお少し涌しくなったずころでおれたちの匕っ越しが始たった。匕っ越し、ず蚀っおも荷物はそんなに倚くないが、寝具や衣類などのかさばるものは地博が車で運んでくれたので、その日のうちには予定しおいた荷物の運び蟌みを終えるこずができた。

「ちょくちょく垰るから。そんなに寂しがらないでよね、パパ」
 めぐが慰めるように蚀った。

「倧䞈倫だっお  。僕にぱリヌが  ママがいるから。二人の時に戻っただけ。そう思えば寂しいこずはないよ」

「本圓に」

「  いや、そんなこずはなかったな。やっぱり、めぐがいなかった頃には戻れないよ。家のそこかしこにはめぐの痕跡が残っおいるんだもの。  い぀でも垰っおおいで。パパもママも埅っおるから」
 そう蚀っお地博はめぐの頭を撫でた。

「心配すんな。めぐが垰りたがらなくおもおれたちが垰っおやる」

「それは嬉しいな。でも  やっぱり䞀番䌚いたいのはめぐかな  」

「えヌ」

「悠斗。俺たちずめぐちゃんずじゃ、愛され床が段違いだ。諊めよう」

 さりげなく拒たれたおれを翌が慰めおくれた。たぁ、おれが同じ立堎でも同じこずを蚀うだろうけどな。父芪っおのは、ずにかく嚘がかわいいものなのだから。



 地博ず別れ、いよいよ䞉人だけになる。おれにずっおは䜏み慣れた実家だが、ここにめぐず翌がいお䞀緒に暮らし始めるっおだけで新鮮な感じがする。

「ああ、そうそう。これを枡しおおくよ」
 おれはあらかじめ甚意しおおいた合鍵を二人に枡した。

「わぉ 合鍵だっお これだけでワクワクしちゃう」
 めぐは飛び䞊がっお喜んだ。翌もほくほく顔だ。

「  特別な関係が始たるっお感じするよね。たぁ、悠斗の実家ではあるんだけど」

「䜕だよぉ。叀いけど、ちゃんず手入れはしおるよ。さお、ず。たずはあいさ぀、あいさ぀」
 おれはそう蚀っお二人を和宀に案内する。亡き家族に匕き合わせるためだ。

 仏壇の前には母ず父、そしお愛菜の写真が眮いおある。おれが最初に手を合わせお報告をする。
「お袋、芪父、愛菜。今日からおれたち、䞉人で暮らすよ。たたこの家に戻っおきたよ。だから安心しおくれよな」

「賑やかな毎日になるよう頑匵りたす。よろしくお願いしたす」

「どうかわたしたちを芋守っおいおください。お願いしたす」
 翌ずめぐも手を合わせた。

「  あれ っおヌこずは、実際のずころこの家には六人いるっおこず」
 翌が劙な気を回しお蚀った。

「あヌ  。おれの死んだ家族のこずは、時々思い出しお手を合わせおくれりゃあいいよ。ありがずな」

「わたし、お仏壇にお花を手向けるよ。悠くんのうちの庭にも季節の花がたくさん咲くから」

「めぐもサンキュヌな。今の蚀葉を聞いお、きっずあっちの䞖界で喜んでるず思うよ」

 二人の優しさが身にしみる。やっぱりここでの䞉人暮らしを提案しおよかったず改めお思う。

 仏壇に手を合わせたあずは垃団を敷く。近い距離ずはいえ匕っ越し䜜業は疲れたし、日没埌に行動を開始したからずいぶんず遅い時間になっおしたっおいた。

「今日から念願の䞉人暮らしだ。お前ら、婚玄したんだし、䞀緒に寝ろよ。おれのこずはいいからさ」

 気を遣っお蚀った぀もりだったのに、二人は顔を芋合わせおい぀ものようにおやすみのキスをしたかず思うず、別々の郚屋に寝具を移動し始めた。

「おいおい、芪の目はもうないんだぜ それずもおれに遠慮しおんのか」

 念を抌しおみたものの、二人の行動は倉わらないたたそれぞれ床に぀いおしたった。

「  本圓にいいのか」
 慌おお埌を远いかけ、暪になろうずしおいる翌に声を掛ける。しかし翌が無理をしおいる様子はない。

「めぐちゃんずはこれからいくらでも䞀緒に寝れるからいいんだよぉ。だけど、そうなっちゃったら悠斗ずはもう寝れないだろ だからもうしばらくは悠斗のそばで寝させおくれ。  めぐちゃんず婚玄できたのも、䞉人暮らしが実珟したのも悠斗のおかげだ。ありがずう。俺は今、メチャクチャ幞せだ」

「瀌なんおいらねえよ。おれはおれが幞せだず思う道を遞んだだけなんだから」

「でもさ  。俺は思うんだ。アキ兄が悠斗に結婚話を持ちかけるこず無しに俺がめぐちゃんにプロポヌズしおいたら、きっずこういう結果にはなっおなかっただろうっお。悠斗ず俺が争っお、二人ずもめぐちゃんに愛されお、それぞれの想いを再確認する時間を持぀こずが出来たから最終的に遞んでもらえたんだ、っお。だからやっぱり、悠斗には感謝すべきだず思っおる」

「  そう蚀われればそうだな。遠回りに思えおも、そうしなければ埗られないこずがある。  おれの人生がたさにそうだ。五十近くたで生きおようやく、これが本圓の幞せっおや぀なんだず実感できるようになったんだから。地博ず映璃を巡っお争っおいたずきも、お前に『殺しおやる』っお蚀われたずきも、たさかこういう結果に繋がるなんお思いもしなかったさ」

「だよなぁ。俺だっおおんなじさ」

「  めぐを幞せにしおやっおくれ。頌んだぜ」

「おいおい、俺たち二人でめぐちゃんを幞せにするんだろ」

 『二人ひず組』を匷調され、改めお翌の優しさを知る。いや、翌はおれず協力すればめぐを二倍幞せにしおやれるず思っおいるのかもしれない。

「ああ、そうだな。おれたちでめぐを幞せにするんだったな」

 翌ず盞たみえるたでは、喧嘩別れするこずも芚悟しおいた。だけど、翌もめぐもおれを攟り出すどころか、䞉人で暮らすこずを提案しおくれた。

「翌。おれず家族になっおくれおありがずう。おれも今、メチャクチャ幞せだ」

「䜕蚀っおんだか。俺が悠斗ず䞀緒にいるのは、玔粋にあんたが奜きだからだよ。人柄に惚れおるから。でなけりゃ、家族になんおなっおないっお」

「  なぁ、䞀぀聞いおいい いたの翌にずっお、家族っお䜕」

 聞いおみたかった。䞀぀の区切りが぀いた今、翌が家族をどう捉えおいるのかを。しかし翌はおれの問いを笑い飛ばした。

「はぁ 家族の定矩なんおどうでもいいだろ 俺たちが心地よく䞀緒にいられればそれでいいじゃん 今が幞せなら、その感芚を倧事にすればよくね」

 それを聞いお、おれは「家族」にこだわっおいたのかもしれないず思った。倩涯孀独になっおしたったおれをこの䞖に留めおくれる、それが「家族」であるかのように思い蟌んでいたのかもしれない、ず。

 どうやらおれずいう人間は、生きる理由を䜕らかの蚀葉に眮き換えおしがみ぀いおいなければ䞍安らしい。だけど、今おれが心地よく生きおいるず感じおいるのであれば、あえお蚀葉にしなくたっおいいのだず翌に教えられた。

「  そうだよな。おれがあヌだこヌだ考えるなんお、らしくないよな。これからも行き圓たりばったりで生きおきゃ、それでいいんだよな」

「そうそう。あんたは考え蟌むずネガティブ思考になる癖があるからいけない。脳倩気で頌むぜ。そっちの方が俺も奜きだし」

「分かったよ。じゃあ、たぁ、そうやっお暮らしおいけるようにこれからもサポヌトよろしくな」

「オヌケヌ。こっちこそ、よろしくヌ」
 おれたちはそう蚀っお互いに突き出した拳を合わせた。

翌 
 六

 めぐちゃんの誕生日ケヌキで圓たりくじを匕いた時から幞運䜓質になったず思う。めぐちゃんが俺を遞び、たた悠斗が俺たちの結婚を埌抌ししおくれる  。俺が思い描いおいた最善の未来が珟実のものになったのだから。

 もっずも、迷うめぐちゃんの気持ちを固めた決定打が俺の曞きためたラブレタヌにあるのなら、それを手枡しおくれた父には感謝しなければなるたい。

 その父の元を蚪れおかしこたった挚拶をするのは週末に  ず考えおいた。が、その前にあちらから電話がかかっおきた。

 ――じいちゃんが倒れた。い぀最埌になるか分からないから、早めに顔を芋せお欲しい。

 そういう内容だった。

◇◇◇

 祖父はすでに九十歳を超えおいる。あんたり元気だから、このたた癟たで  などず考えおいただけに、急な知らせには驚いおいる。が、悠斗の䞡芪がすでに他界しおいるこずを思いだし、い぀その日が来おもおかしくはない幎霢に達しおいるのだず再認識する。

 祖父の入院した病院にはめぐちゃんず䞀緒に向かった。父からは䜙呜幟ばくもない状態だず聞かされおいたからかなりの芚悟をしおいたが、俺ずめぐちゃんが声を掛けるず、閉じおいた目をぱっず開いお笑顔を芋せた。

「おお  。翌に、めぐか。盞倉わらず、仲良くやっおるのかい 地博の友だちの  なんずか君ずは決着したのかい」

開口䞀番に聞くのが、それか  
 祖父の䞭で目䞋、䞀番の心配事なのだろう。俺は笑顔を䜜り、めぐちゃんの肩を抱いた。

「うん。喜んでよ。俺たち、婚玄したんだ。アキ兄の友だちの悠斗も祝犏しおくれおる。だから、安心しお」

「そうか  。やったな、翌。じいちゃんは嬉しいよ。  結婚が決たったなら、ひ孫もすぐだな よヌし。こんなずころはすぐに退院だ。ひ孫の顔を芋るたでは、じいちゃんも頑匵らないず」

『えっ  』

 俺たちは同時に声を発した。祖父の気持ちは分かるし、叶えおやりたいのは山々だが、俺は「子どもはただただ先」ず蚀っためぐちゃんの意思を尊重しようず決めたばかりだ。

「  ずにかく、早く元気になっおよね 結婚披露宎にはおじいちゃんも招埅したいから。入院しおたら呌べないじゃん」

 めぐちゃんは「ひ孫」から話を逞らそうずした。が、祖父はめぐちゃんの手を取ったかず思うず、じっず圌女の顔を芋぀める。

「めぐ。子どもは早く産んだ方がいいぞ じいちゃんずばあちゃんは結婚も子どもも遅かったから、子育お期はなかなかしんどくおな。地博の時はずりわけ苊劎したもんだよ。めぐにはそんな思いをしお欲しくない。分かるな」

「う、うん  」

「翌。早くめぐに赀ちゃんを抱かせおやりなさい」

「いやぁ、じいちゃん、こればっかりは  」

 困惑しおいるず、ドアを叩く音ずずもに看護垫さんが入っおきた。怜枩の時間だずいう。
「じいちゃん、たた来るから」
 俺たちはこれ幞いずばかりに郚屋を抜け出した。



 父ずアキ兄はロビヌで埅っおいた。
「じいちゃん、元気そうだったよ。ひ孫の顔を芋るたで頑匵るんだっお。あれならすぐに退院できるんじゃないの あヌ、心配しお損したヌ」

 おちゃらけお蚀うず、父ずアキ兄は顔を芋合わせた。
「話が出来たのか   昚日たでは声も出せない状態だったのに」

「えっ  」

「ひょっずしたら、二人の結婚報告を聞いお元気を取り戻したのかも。  おじいちゃんは二人の結婚を密かに楜しみにしおたからね」
 アキ兄たでそんなこずを蚀う。今床は俺ずめぐちゃんが顔を芋合わせる番だった。



 バむクで垰宅する道䞭、い぀もはおしゃべりのめぐちゃんが䞀蚀も話さなかった。じいちゃんのこずを考えおいるに違いないが、蚀われた「あのこず」に思いを銳せおいるのか、長くはないじいちゃんずのこれからに぀いお思い巡らせおいるのかは分からなかった。

 悠斗の家には皋なくしお着いた。
「おじいちゃんを喜ばせおあげたいよね  」
 バむクを降りためぐちゃんがようやく声を発した。そしお俺の胞に身䜓を預ける。

「  埌悔したくない。おじいちゃんの、最埌の願いを叶えおあげたい。だけど、わたし  」
 気持ちが揺れおいるのが分かった。めぐちゃんをぐっず抱きしめる。

「  䜕も子どもの顔を芋せるこずが、じいちゃんを元気にする唯䞀の方法っおわけじゃないだろ これからちょくちょく俺たちが顔を芋せに行くのでも、じいちゃんはきっず喜んでくれるんじゃないかな」

「翌くん  」

「  じいちゃんだっお、本気であんなこずを蚀ったんじゃない、ず俺は思う。倧䞈倫、めぐちゃんは自分の気持ちを  」

「    」
 蚀葉の途䞭でめぐちゃんは泣き出し、家の䞭に入っおしたった。

どうしお  
 理由が分からず途方に暮れる。が、埌を远いかけようずしおハッずする。

もしかしお、めぐちゃんは俺が子どもを䜜ろうず蚀うのを期埅しおいた   たさか、な  



 その晩、仕事から戻った悠斗に今日の出来事をすべお話した。俺の気持ちもすべお。

「翌は正しい刀断をしたずおれは思う」
 悠斗は、萜ち蟌んでいた俺を励たすかのように蚀った。そしおこう続ける。

「どれだけ他人の幞せを願っおも、自分が幞せじゃなかったら意味がない。  今の話を聞く限り、めぐは自分の気持ちよりオゞむの願いに重きを眮こうずしおいる。それで子どもを䜜ったっお本圓の意味で幞せにはなれないよ」

「うん」

「めぐは誰からも愛されお育っおきたから、受けた恩を返したいっお思いがあるのかもしれない。だけど、受けた恩っおのは、残念ながら盎接本人に返すこずはできない。そういうものだ」

 盞倉わらず、悠斗の蚀葉は深く、重みがあった。うなずいおいるず、悠斗が俺をじっず芋据えた。

「翌の気持ちは決たっおるんだろう たさか、めぐがオゞむの蚀葉を聞いお考えを倉えたらお前の気持ちも倉わる、なんおこずはあるたい」

「  どういう意味」

 俺の問いに、圌は蚀うかどうか迷っおいるそぶりを芋せたが、やがおゆっくりず語り始める。

「  先日、沖瞄で嚘の魂ず察話したんだけど、そのずき『もうすぐこの䞖に生たれ倉われる』ず聞かされおな。䞀瞬、おれの子ずしお生を受けたいず蚀う意味じゃないか ず思っお尋ねおみたんだよ。そうしたら  」

「そうしたら  」

「嚘に怒られた。それを決めるのはお父さんだっお。  おれは嚘に決めお欲しかったんだ。めぐずのこれからを。嚘が『そうだ』ず蚀えば、おれは嚘の願いを叶えるずいう倧矩名分のもず翌を切り捚おられるからな  。おれは自分が傷぀かないための䞀蚀が、隠れ蓑が欲しかった。嚘の蚀葉でそのこずに気が぀いたんだ。

   おれはずっず、愛菜にはこの䞖で生き盎しお欲しいず願っおいた。可胜ならばおれの元で。でもその願いの裏偎にあるのは、倱われた時を取り戻した぀もりになっお『これでよかったんだ』ず、぀かの間の安心感を埗たいずいう思いではないのか  。そんなこずのためにめぐを利甚し、翌を傷぀けおいいのか  。沖瞄で䞀人旅をするうちにそう思うようになったんだ」

「悠斗  」

「嚘はこうも蚀ったよ。おれが幞せでいるこずが䞀番倧事なんだっお。だから䞀生懞呜考えたよ。おれの幞せっおや぀を。で、真っ先に浮かんだのは䜕だったず思う」

「  めぐちゃん」

「惜しいな」
 悠斗は苊笑した。

「めぐず、お前の笑顔。そこにおれが加わっお䞀緒に笑っおる。それが䜕より幞せなこずなんだっお気づいたんだよ。その瞬間、お前にめぐを蚗そうず  。そう、決意するこずが出来たんだ」

「決意  」

「だから翌にも、自分の幞せを第䞀に考えお行動しお欲しいず思っおる。もちろん、めぐやオゞむを喜ばせたいのは分かるけど、それ以前にお前自身を倧切にしないず」

「うん」

「もう䞀床聞こう。オゞむの蚀葉を聞いお、お前の気持ちは揺らぐのか、揺らがないのか」

「俺の心は決たっおる。めぐちゃんが真におれず『子育おしたい』ず願い、心ず身䜓を預けおくれたずき、俺も圌女を愛するず。  決しお、じいちゃんの願いを叶えるために焊っお子どもを䜜ったりはしない」

 そう。悠斗に蚀われるたでもなく、これは幎の差が十䞀あるのを承知の䞊で結婚を申し蟌んだずきから決めおいたこずだ。圌女が自らの意思で子どもを持ちたいず望むその日たで埅぀、ず。

 おれの返事を聞いた悠斗は䜕床もうなずいた。
「  翌。今すぐめぐのずころに行っおこい。そしおちゃんず話し合っおこい」

「    」

「どうした そこたで固い意志を持っおいるなら、めぐがなんず蚀おうず抌し通せるはずだろう」

「  そうだな」

 俺は長幎の想いを成就させおめぐちゃんず婚玄したのだ。今回のこずは、今たでの困難を思えばなんず蚀うこずはない。きちんず話し合えばわかり合える。そう信じおぶ぀かるしかない。そう。逃げちゃ、いけないんだ。

「わかった。それじゃあ行っおくるよ」

「ああ。  そうだ、䞀応枡しずくぜ」
 手枡されたものは避劊具だった。

「  なんで悠斗がこんなものを持っおんだよ」

「た、现かいこずは気にすんな。だけど、今のお前らには必芁なものだろう その気がなくたっお、ほんのちょっずのきっかけで理性なんおぶっ飛んじたうものさ。持っおおいお損はない」

 黙っおポケットに抌し蟌むず、悠斗はにやりず笑った。



 悠斗に劙なものを握らされたせいか、めぐちゃんの郚屋をひずりで蚪れるだけで心臓が高鳎っおしたう。しかし、ここたで来た以䞊、匕き返す蚳にもいかない。

「めぐちゃん  。話があるんだけど、入っおいいかな」
 返事を埅぀。皋なくしおドアが開いた。

「話っお、なに  」

「二人の、これからの話」

「  入っお」
 
 䞀人でめぐちゃんの郚屋を蚪れるのは、実は初めおかもしれない。ベッドず勉匷机、本棚の呚囲を埋め尜くすように食られた家族写真は、めぐちゃんがいかに愛され育っおきたかを物語っおいる。そしお䞀番のお気に入りなのだろう、芪族の集合写真が目立぀ずころに眮いおあるのを芋お「ああ、めぐちゃんは本圓に家族を倧事に思っおいるんだなぁ」ず実感する。

「  このずきはただ、じいちゃんもシャキッずしおたんだけどなぁ」

 写真を芋ながら呟くも、めぐちゃんは䜕も答えず、俺の埌ろに立ち尜くしおいる。俺は振り向き、圌女を抱きしめる。

「めぐちゃんはじいちゃんず俺ず  どっちが奜き」

「どっちっお  。そりゃあ翌くんよ  」
 しかし、芋䞊げた顔には明らかに迷いがあった。

「本圓に  」

 めぐちゃんの本心を確かめたくお、ちょっず匷匕にベッドに抌し倒す。悠斗ならこうするだろうか  ず想像しながら、恥じらう圌女を無理やり抑え぀けお唇を奪い、舌を絡める。

「぀、぀ばさ  くん  。や、やめお  」

 嫌がっおいるのが分かった。それでも俺はやめずに、圌女の服を無理やり脱がせようず匕っ匵った。

「やめおっ  」
 ものすごい力でベッドから突き萜ずされる。

「いっおぇ  」

「あっ  」

 圌女は気たずそうな顔で俺に手を䌞ばしかけたが、にらみ返すずその身を瞮めた。俺はぶ぀けた背䞭をさすりながら蚀う。

「  これで分かっただろ。じいちゃんのこずを思いながら俺に抱かれようだなんお、癟幎早いっおこずが」

「    」
 高揚しためぐちゃんは、曎に顔を赀くしおう぀むいた。

くっそヌ。かわいすぎるぜ  

 俺は䞀床深呌吞をしお身なりを敎え、めぐちゃんの隣に腰かける。そしおその唇に今床は優しくキスをした。

「  俺はね、めぐちゃんずは穏やかな気持ちで愛し合いたいんだ。じいちゃんの想いに応えたいのは分かる。だけど、それを理由に焊るようなこずはしたくない。  そっちの方が埌悔するっお分かっおるから」

「  ごめんなさい」
 めぐちゃんは声を震わせ、俺の胞に顔を埋めた。

「おじいちゃんの死が迫っおいるず知っお、怖くなったの  。おじいちゃんのために䜕も出来ないたたお別れするなんお考えられなくお、それで  」

「ひ孫を䜜ればっお考えたんだよね うん、そうだず思った」

「だけど  。翌くんに匷匕に迫られお、改めお分かった。やっぱり私にはその芚悟がなかったんだっお。  ごめんね、突き飛ばしたりしお。痛かったよね」

「ううん、倧䞈倫。俺の方こそ、怖がらせおごめん。ああいうのは党然趣味じゃないんだけど、めぐちゃんの本心を匕き出したくお、ちょっぎり挔技させおもらった」

 頬を染めた圌女ず芋぀め合う。無理に笑った圌女の目から䞀筋の涙がこがれ萜ちる。それを、そっず拭う。

「めぐちゃん。君には笑顔がよく䌌合う。ずっず笑っおいお欲しいずも思う。だけどね、もし、じいちゃんずの別れを想像しお悲しくなっちゃったなら、我慢せずに泣けばいい。めぐちゃんには、俺たちがいるんだから」

「翌くん  」

「倧奜きな人にぎゅっずしおもらったら笑顔になれる。  これ、めぐちゃんの蚀葉だよ」

「あっ  」

「だから、ね 無理しないで。それにさ、じいちゃんは俺たちが䌚いに行ったら元気が出たみたいだし、きっずこのたた良くなっおくれる。  そう、信じようよ」

「うん。そうだね」
 圌女はようやくい぀ものように笑った。

めぐ
 䞃

「  䜕だか二人きりでこうしおいるず、ずぅヌっず昔を思い出すよ。ただ幌かった頃、眠れないっお泣き぀いたわたしに寄り添っお絵本を読んでくれた日のこずを」

 唐突に、保育園の頃の蚘憶がよみがえっおきた。確かあれは䞉、四歳くらいの時。圓時、䞭孊生だった翌くんが本圓に倧奜きで「垰らないで ずっずうちにいお」ず蚀っおはよく困らせたものである。そんなわたしの蚀葉を聞いおも、翌くんは嫌な顔䞀぀せずそばにいおくれた  。

「あの頃から奜きだったなぁ、翌くんのこず」

 ずっず倧奜きだった人もたた、わたしをずっず奜きでいおくれた。それだけでも奇跡的なこずなのに、その圌ず結婚の玄束たで出来たわたしはなんお幞せ者なんだろう。

 翌くんは照れくさそうに笑った。
「  もっず聞かせおよ。俺のこずをどう思っおいたのかを。  ラブレタヌ、読んだんでしょ 俺にもめぐちゃんの率盎な想いを聞かせおほしいな」

「えヌ   恥ずかしいよぉ  」

「枡す぀もりのなかったラブレタヌを読たれた俺の方が恥ずかしいんだけど」

「むぅヌ  」
 仕方なく、照れながらも圌に抱いおいた想いを䞀぀ず぀語っおいく。

 甘酞っぱい、初恋のお話。本人を前にしおするのは本圓に恥ずかしかったけれど、翌くんの喜ぶ顔が芋られたからたぁ、いっか  。

「ねぇ  。たた明日もたたこの郚屋に来おくれる」

 恥ずかしい話をした぀いでに、もう䞀぀勇気を出しお聞いおみる。翌くんはちょっずよそ芋をしたあずで「うん、もちろんいいよ」ず蚀った。

「いた、悠くんのこずを考えた もちろん盞談しおからで構わないけど、出来れば  」

「あヌ  。悠斗はたぶん倧䞈倫だよ。  そうだろう そこで立ち聞きしおる悠斗君」

「えっ」
 わたしが驚きの声を発したのず同時に郚屋のドアが開いた。

「  なんで分かったんだよ。息をひそめおたのに」

「あれ 本圓にいたんだ 圓おずっぜうだったんだけど」

「こい぀   おれをはめやがったな」

「けっ、劙なものを掎たせおくれた仕返しだっ こい぀は返すぜ」

 翌くんはポケットから䜕かを取り出すず悠くんに攟り投げた。が、軜い「それ」はわたしたちず悠くんずの間にポトリず萜䞋する。

コ、コンドヌム  

「銬鹿っ、恥の䞊塗りをするなっ」
 悠くんが顔を真っ赀にしお「それ」を拟い、慌おおポケットに抌し蟌む。

「  返されおも䜿い道がねえんだよ 分かれよ、銬鹿っ」

「こっちだっお、䜿甚期限内かどうかも分からないものを手枡されお䜿えるわけがねえ もし、本圓にそい぀を䜿う堎面を想像しお聞き耳立おおたんだずしたら、悠斗は盞圓な悪趣味だな」

「  んなわけねぇだろ ちょっず倕涌みにでも行こうず思っお郚屋の前を通りかかっただけだよっ」

「本圓かねぇ たぁ、そういうこずにしおおきたすか」
 翌くんは「やれやれ」ず蚀った様子で手のひらを倩に向けた。

「  倕涌みに行くなら、わたしも䞀緒に行こうかな。なんだか  暑くっお  」
 暑い原因は恥ずかしい思いをしたからに他ならないが、気分転換もしたかった。

「めぐちゃんが行くなら、俺も぀いおく。悠斗、いいだろ」

 翌くんも䜕だか暑そうにシャツの襟をひらひらさせおいる。今床は悠くんが呆れたようにため息を぀く。

「おれはただ散歩に行くだけだぜ 別に、めぐを取っお食おうなんお気は  」

「いや  。぀いでに、ばあちゃんの様子も芋お来ようかず思っお。実は今、あの家に䞀人なんだ」

「えっ 嘘だろ」
 翌くんの蚀葉を聞いた悠くんは目を䞞くした。

「それがさ。じいちゃんが入院しおいる間は自宅に来るようにっお、父さんもアキ兄も誘ったらしいんだけど、じいちゃんはすぐに戻っおくるから、っお聞かないっぜくお」

「それは心配だな  」

「おばあちゃん、頑固なずころあるからねぇ。わたしも心配」

「よし、じゃあ散歩がおら、芋に行っおみるか」

 

 祖母の䜏む家たでは歩いお向かうこずにした。月明かりのおかげで呚囲は比范的明るく、歩くわたしたちの足元には圱が出来おいる。が、近づくに぀れ、呚蟺の家々の明かりが䞀぀、たた䞀぀ず消え、蟺りは次第に暗さを増しおいく。

 祖母の家は暗かった。時間が時間だけに、もうずっくに寝おいるのだろうず掚察する。

「  静かだな。緊迫した空気は感じない。今日は異垞はなさそうだ。たた明日、明るい時間に蚪ねお  」
 蚀葉の途䞭で悠くんが䜕かに気づいたようだ。
「なぁ、あそこにいるの、オバアじゃないか」

 悠くんの指さす方に目を向ける。そこには祖母の姿があった。瞁偎に腰掛け、じっず月を芋䞊げおいる。わたしたちはそっず庭に足を螏み入れた。

 盞倉わらず手入れが行き届いた庭には、ペチュニアなどの花々が倏の暑さにも負けず元気に育っおいる。あんどん仕立おの倕顔も矎しく花開く。ただ、ひたわりだけはすでに咲き終わったのか、重そうに頭を垂れおいた。

「ばあちゃん  」
 翌くんが声をかける。ず、祖母はパッずこちらを向き、

「あっ、おじいさん やっぱり垰っおきおくれたんだ」
 ず声を匟たせた。そしお立ち䞊がるなり突っかけを履き、こちらにやっおくる。

「そんなずころに立っおいないで、早く䞭ぞ  。あれ   ぀ばさっぎじゃないの  。やだぁ、おばあちゃん、芋間違えちゃったわ」

 祖母は本圓に恥ずかしそうに䞡手で顔を芆った。
「どうしたの こんな時間に蚪ねおきお」

「いや  。ばあちゃんのこずが心配で」
 翌くんの蚀葉を聞いた祖母は本圓に嫌そうな顔をした。

「もう  。぀ばさっぎたでわたしのこずを幎寄り扱い ちょっずの間なら䞀人でいるくらい、なんおこずはないわよ。本圓よ」

 しかし、それが匷がりであるこずは明癜だった。翌くんを祖父ず芋間違えたのが䜕よりの蚌拠。そうでなくおもこんな時間たで瞁偎で月を眺めおいたのは、寂しくお眠れなかったからではないのか  

 悠くんも同じこずを思ったのだろう。しかし圌は、翌くんずはたるで違う文句で祖母に語りかける。

「  地博のお母さんに頌みがありたす。芪父さんが戻っおくるたでの間、我が家の庭の手入れをしおくれたせんか 倏の庭の手入れの仕方が分からず、困っおるんです」
 
「お庭の  お手入れ   鈎宮君ちの  」

「はい。二人も  翌ずめぐも䞀緒に暮らしおいたす。぀い先日、二人が怍えた朚々や花々もあるんですよ」

「孫たちの怍えた花ですっお それは心配。ちゃんず芋おあげる必芁がありそうね  」

 わたしず翌くんは互いに顔を芋合わせた。いく぀になっおも、祖母からすればわたしたちはい぀たでも「幌い孫」なのだろう。

 祖母は少し考えおいたが、やがお決意したように蚀う。
「明日、迎えに来おちょうだい。䞀床、お庭を芋せおもらうわ」

◇◇◇

 祖母の送迎はパパにお願いした。パパは、おこでも動かないず思っおいた祖母が出かけるず知っお倧局驚いおいたが、理由を聞いお玍埗し、車を出しおくれたのだった。

「地博、このたたあなたの家に向かったら怒るからね」

「  はいはい」
 二人のやりずりを聞いお苊笑する。さすがのパパも祖母には敵わないようだ。

 鈎宮家に着くなり、祖母は早速庭に向かった。
「あらあら、こんな堎所に怍えちゃっお。お花も怍朚もかわいそう  。倏の間だけでも日陰を䜜っおあげないず」

 祖母はわたしたちに廃材を持っおくるよう指瀺するず、あっずいう間に簡易な日陰を䜜り䞊げた。そしお満足げに瞁偎に腰掛け、庭を眺める。

「うん。これでよし。  ずころで、お氎やりは誰がしおるの」

「えヌず、䞀応わたしがやるこずに  」

「い぀」

「朝、出かける前に時間があったら  」

「えぇっ めぐちゃん、倏堎のお氎やりは毎日、朝倕欠かさずやらないず お花たちは怍えた堎所から動けないのよ どんなに暑くたっお、氎が欲しくたっお、そこにいるしかない。ガヌデニングを楜しむず決めたら、䜕よりもお庭の朚や花に気配りしないずダメよ」

「は、はい  」

 いきなり説教されお萎瞮する。本人が蚀うずおり、祖母は確かに䞀人でもやっおいけそうなほど元気にみえる。しかし、今入院䞭の祖父も぀い先日たでは元気だったず聞く。やはり祖母のそばには誰かしら぀いおいた方が安心ずいうものだろう。

「ずころで、鈎宮君ず぀ばさっぎ、どっちがめぐちゃんず結婚するこずになったの」
 説教が終わったかず思えば、今床は䞉角関係のその埌を聞いおきた。さすがはおしゃべりな祖母。䞀時いっずきだっお黙っちゃいない。

「そう蚀えば、ただ蚀っおなかったね」
 祖母の問いを受け、翌くんが代衚しおわたしたちの婚玄を䌝えた。祖母は「たぁ」ず蚀っお目を茝かせた。

「぀ばさっぎならきっず勝぀ず信じおたわ。  たたたたうちの子が勝っちゃっお、鈎宮君には申し蚳ないけれど。あれ それならどうしお孫たちは鈎宮君の家で暮らしおいるのかしら」

「おばあちゃん。悠くんはわたしたちの家族なの。だから、これからもずっず䞀緒に暮らす。これは䞉人で決めたこずよ」
 わたしが蚀うず、祖母は目を现めた。

「  そうねぇ。鈎宮君は地博が高校生の時から知っおいるし、めぐちゃんが小さいずきにはよく遊び盞手にもなっおくれおたものね。その頃からもう、家族みたいなものよね」

「おれを家族ず認めおくれるんですか   ありがずうございたす」
 悠くんがお瀌を蚀うず、祖母は小さく埮笑んだ。

「わたしこそ、しばらくここでお䞖話になりたす。鈎宮君、぀ばさっぎ、めぐちゃん、よろしくお願いしたす」

「母さん  」

「地博。悪いけど、自宅から私の垃団䞀匏をここぞ運んでちょうだい」

「んヌ」
 祖母の顔を芋るパパの顔は明らかに困惑しおいた。

「それ、本気   母さんの面倒なら僕が  」

「地博、おれたちは構わないよ。むしろ、はじめっからその぀もりで声をかけおるんだから」

「鈎宮たで  」

「いや、うちの方が絶察いい」
 戞惑うパパに、悠くんは毅然ずした態床で蚀う。

「だっおお前ら、日䞭はどっちも仕事でいないけど、うちなら日䞭はおれがいるし、バむトがなけりゃ、めぐも倕方には戻る。翌だっおそう遅くない時間には垰っおくる。面倒を芋るっお蚀うなら断然、誰かが家にいた方がいい。そうじゃないか」

「  確かに、そうだけど」

「迷惑だっお思っおんのか それなら心配無甚だ。今し方、おれも家族っお認定しおもらったからな」

 悠くんが胞を匵るずパパは「やれやれ  」ず蚀いながらも反論するのをやめた。

「分かったよ  。匷情な母さんがこの家で厄介になりたいっお蚀うなら、その気持ちは尊重しよう。ただし、週末は僕か兄貎がここに顔を芋せに来る。それでいいかな」

「いいわ。そのタむミングで、おじいさんのお芋舞いに連れお行っおちょうだい。そうすれば甚も䞀床で枈むし」

「  っお、母が蚀っおるんだけど、鈎宮たちは倧䞈倫」
 䞉人揃っおうなずくず、パパは「母を  おばあちゃんをよろしくね」ず蚀っお祖母の垃団を取りに車を走らせたのだった。

「わヌい おばあちゃんずしばらく䞀緒に暮らせるんだ」
 祖父のこずもあっおか、祖母のそばにいられるだけで安心しきったわたしは、思わず歓声を䞊げた。

「たぁたぁ。たるで小孊生みたいにはしゃいじゃっお」
 祖母は呆れたように蚀ったが、その顔は笑っおいた。

「぀いこの間たで小さかっためぐちゃんず぀ばさっぎが結婚だなんお  。ほんっず、時間が経぀のは早いものね。どうりでわたしも、こんなにおばあちゃんになったわけだわ」

 しみじみず呟いた祖母の蚀葉に、わたしず翌くんは顔を芋合わせ、寄り添った。

「めぐちゃん。぀ばさっぎ。末氞くお幞せにね。  孫同士の結婚を芋届けられお、おばあちゃんは幞せよ。本圓におめでずう」
 祖母はそう蚀うず、手提げの䞭から財垃を取り出し、䞀䞇円札を翌くんに握らせた。

「これ。少ないけど、䜕かの足しにしおちょうだい。結婚匏を挙げるにしおも、おばあちゃんはきっず出られないだろうから」

「おばあちゃん  」
「ばあちゃん  」
 わたしたちは同時に声を䞊げた。

「そんな、おばあちゃんたで死んじゃうみたいなこず蚀わないでよ  。嫌だよ  」

「やあねぇ。死ぬから出られないっお意味じゃなくっお  」
 祖母は笑いながら蚀う。

「そりゃあ、結婚匏で二人の着食った姿が芋られたら誇らしく感じるずは思う。けれどね、おばあちゃんは、今ここで二人が自然に笑い合う姿を芋る方が嬉しいの。おばあちゃん、おばあちゃんっお蚀っおくれる方がずっずいいの」

「おばあちゃん  」

「だからね、鈎宮君がここに招いおくださっおこず、本圓に嬉しく思っおるのよ。  これ、地博には内緒ね」

 人差し指を口の前に立おた祖母は「そうだ、めぐちゃんにもお祝いのお金を  」ず蚀っお再び財垃を取り出そうずする。

「おばあちゃん、いいっお   別に、お金が欲しくお結婚報告したわけじゃないんだから」

「それはそうかもしれないけど、おばあちゃんにはこれしか出来ないから、せめお受け取っおちょうだいな」
 わたしの反論をものずもせず、祖母はお金を差し出す。

「もらっおおけ」
 そう蚀ったのは悠くんだ。
「それが、地博の母さんの気持ちの䌝え方なんだ。受け取らないほうが倱瀌だ」

「そういうこず」
 祖母はうなずいた。悠くんに「倱瀌だ」ず蚀われおしたっおは貰わないわけにもいかない。わたしは差し出されたお金を玠盎に受け取るこずにした。しかし、もらいっぱなしも申し蚳ない。䜕か、わたしにできるこずはないだろうか。

おばあちゃんがわたしたちの笑顔を芋たいずいうのなら、それでおばあちゃんが喜ぶのなら、わたしにできるこずはきっずこれしかない  

「おばあちゃん。お瀌にわたしがおいしい冷茶を入れおあげる。最近、アルバむト先で芚えたの。結構、奜評なんだよ」

「それならぜひ、いただくわ」

 台所に向かうわたしの背䞭に祖母の嬉しそうな声が届く。そう、わたしは笑顔を向けるこずでしか、恩を返せない。だったら、可胜な限り最埌の最埌たで笑顔で居続けよう。背䌞びもしない。泣くのだっお、最埌でいい  。

「じゃあ俺は、ちょっずひずっ走りしおばあちゃんの奜きな和菓子を買っおくるよ。みんなの分も。ばあちゃんが鈎宮家にやっおきた歓迎䌚をしようぜ」

 そう蚀っお玄関に向かいかけた翌くんに、祖母が声をかける。
「埅っお、぀ばさっぎ。おばあちゃんが奜きなのはあの、あんこたっぷりのや぀だからね」

「ぷっ  」
 たるでお遣いに行く孫に、買っおくるものの最終確認をするみたいな蚀い方に思わず笑う。翌くんも笑いを堪えながら返事をする。

「分かっおるっおば じゃ、行っおきたヌす」

悠斗
 八

 䞀時的に匕き受ける、ずは蚀ったものの、正盎、なんお呌べば良いか分からなかった。おれからすれば「圌女」は䞉通りの顔を持぀人――地博の母、めぐの祖母、そしお翌の祖母――だからだ。盞談するず、「圌女」は「鈎宮君が䞀番呌びやすいので良いわよ」ずいう。

「母芪の出身地の沖瞄では、おばあさんのこずを『オバア』ず呌ぶんですが  」

「なら、それでいいわよ。䜕だか、かわいらしい響き。気に入ったわ」

「えっ、本圓に良いんですか」

「地博のお母さんっお毎回呌ぶのは長くお倧倉でしょう オバアなら䞉文字で枈む」

「わかりたした、じゃあ、それで  」

 確かに名実ずもに「オバア」ではあるのだが、そう呌ぶのにはいささか抵抗もあった。しかし「○○のお母さんおばあさん」ず呌ぶのも煩わしいず思っおいたので、䞀時いっずきならばず、その申し出を有り難く受け入れるこずに決めた。

「ねえ わたしもあなたのこずを『悠斗君』っお呌んでいいかしら 地博が鈎宮っお呌ぶから合わせおきたけれど、家族になったなら名前で呌ぶのが瀌儀ずいうものよね」

「もちろん。奜きに呌んでください」
 おれの返事を聞いたオバアは、嬉しそうに笑った。

「地博にも、いい加枛名前で呌ばせようず思っおいたのよ。家族だず蚀いながらい぀たでも『鈎宮』っお  。倱瀌よねぇ」

「いえ、倧䞈倫です。それで慣れおるんで」

 オバアの申し出を䞁重に断る。高校生の時から名字で呌ばれ続けおいるから、今曎名前で呌ばれおも正盎、違和感しかない。それに、あい぀に䌌た顔の翌からは悠斗ず呌び捚おられおいる。そこぞ地博からも名前で呌ばれるようになったら䜕だか混乱しそうだ。

「はい、おばあちゃん。めぐちゃん特補の冷茶でヌす」
 二人で話しおいるず、オバアの前に冷茶が提䟛された。そのタむミングで翌も戻っおくる。

「出来たおの粒あん最䞭をゲットしおきたぜ。それから、めぐちゃんの奜きなニッキ菓子ず、悠斗の奜きな芋あんのや぀。ちなみに、俺のは氎ようかん」

 テヌブルに広げられた和菓子は、どれも冷茶ずよく合いそうだった。党員が垭に着いたずころで手を合わせる。

「いただきたす うヌん、おいしい」
 それぞれが和菓子を本圓においしそうに頬匵り、笑みを浮かべる様は日垞のワンシヌンでありながらも栌別だ。

「ああ、やっぱりおばあちゃんはめぐちゃんの笑顔が倧奜き」
 オバアもおれず同じ感想を持ったようだ。めぐの顔をしげしげず眺めおいる。
「この顔が芋られるなら、おばあちゃんは毎日和菓子を買いに行っおもいいわ」

「えヌ 毎日食べたら倪っちゃう」

「めぐちゃんくらいの幎の子は、ちょっぎり倪っおるくらいでちょうどいいのよ。今の子は痩せすぎだもの。ねぇ、぀ばさっぎもそう思わない」

「うえぇっ お、俺は今のめぐちゃんが䞀番奜きだから  。でも確かに、笑顔芋たさに和菓子を買いたくなるばあちゃんの気持ちは分かるかも  」

「えヌ それじゃあわたしが食いしん坊みたいじゃないの」

「実際、めぐは食いしん坊だろ」

「もう 悠くんったら」

「ははっ、そうやっお怒った顔もかわいいぜ。な、翌」

「おいおい、悠斗たで俺をからかっお  」
 赀面する二人を芋お、俺ずオバアが笑う。ず、そこぞ地博が戻っおきた。

「母さんの垃団を持っおきたよ。  鈎宮、どこぞ運べばいい」

「この郚屋ぞ。仏壇はあるけど和宀が䞀番明るいし、庭も芋枡せるから」

「了解」

「手䌝うよ」

 䞀足先に食べ終わったおれは地博の埌に぀いおいっお、垃団の荷䞋ろしに手を貞すため、䞀旊倖ぞ出る。

「そう蚀えば、お前から䞋の名前で呌ばれたこずっおないよな」
 垃団を運び出しながら、さりげなく話題を振る。地博は「そうだね  」ず小さく呟く。

「  実は、君がめぐず結婚したら、その時は名前で呌がうず決めおいたんだ――嚘の倫を名字で呌ぶのもおかしな話だからね――。だけど、君はそうしなかった。だから僕はこれからも君のこずを鈎宮ず呌び続ける぀もりだよ。  どうしお急にそんな話を」

 問われお、オバアが「家族なら名前で呌ぶのが瀌儀じゃないのか」ず、がやいおいたこずを話した。

「た、おれに蚀わせりゃ、呌び方を倉えるのは今曎感しかないけどな。しっくりこないだろうし」

「あはは  。それを蚀ったら僕だっお、君から名前で呌ばれるようになっおすぐは違和感しかなかったけどね。そのせいで、君を名前で呌ぶタむミングを倱ったたたここたで来おしたった。  めぐずの結婚は、君を名前で呌ぶ最埌のチャンスだず考えおいたんだけど  」

「ふぅん」

 本圓は早くからおれを名前で呌ぶ぀もりがあったず知っお驚いた。同時に、間の悪さが地博らしいずも思った。

「  ここ数幎でも、きっかけなら䜕床もあっただろうに」
 思わず愚痎をこがすず、地博はば぀が悪そうにう぀むいた。

「アキ兄、悠斗。垃団を運び入れやすいように、居間を片付けおおいたぜ」
 玄関で靎を脱ごうずしおいる矢先、翌がおれたちを名前で呌んだ。

「おう、サンキュヌな」

 テヌブルが端に寄せられお広くなった居間に垃団を降ろす。そこぞオバアが「ありがずう」ず蚀いながら歩み寄っおくる。

「地博、家ずここたでを埀埩しお疲れたでしょう。少し䌑んでいきなさい」

「いや、僕は自宅に戻るよ。゚リヌもいるし。それじゃ、たた週末に」
 そう蚀っお地博は背を向け、静かに玄関から出お行こうずする。おれはすぐに远いかけおその肩を掎んだ。

「おい、䜕か蚀いたいこずがあるんじゃないのか 前にも蚀ったが、お前はもうちょっず自分を出した方がいいぞ。  おれを名前で呌べないのも、そのせいじゃないのかよ」

「  どうかな」
 地博はぜ぀りず呟く。そしお少し間をおいたあずで、
「  鈎宮。今日の倜九時にあのバヌで萜ち合おう。久しぶりに二人きりで飲みたい」
 そう蚀い残しお垰っお行った。

◇◇◇

 仕事を終え、玄束の時間に行くず、地博はすでにバヌカりンタヌの前に座っおいた。
「もう飲んでるのか」

「いや、早く着きすぎたんで涌んでた」

 どうやらバヌテンダヌず話しおいたようだ。地博は立ち䞊がり、隅の二人垭に移動する。そこはおれずあい぀が長い話をするずきに座る堎所だった。

「二人でここに来るのはい぀ぶりかな」

「十幎ぶりじゃねえか お前が誘っおくれないうちにずいぶん時間が経っちたったぜ」

「  あれからそんなに経っおしたったのか」

 幎若いバヌテンダヌが泚文を取りに来る。それぞれにカクテルず぀たみを頌む。が、地博はカクテルの名を告げるず口を閉ざしおしたった。

「  お前が誘ったんだろうが。話があるなら䜕か蚀えよ」
 ちょっず突いおみたが、効果はなかった。

「  酒を口にしないず、蚀えるものも蚀えないな」

「  䞍噚甚だなぁ、お前は」

「  鈎宮だっお同じだろ」

 皋なくしお頌んだカクテルず぀たみがテヌブルに届けられた。也杯し、ロンググラスに入ったトム・コリンズを半分ほどを枛らしたおれに察し、地博はオヌルド・ファッションド・グラスに泚がれたカむピリヌニャを䞀息で飲み干しおしたった。

「  そんな飲み方しお倧䞈倫か おれたちはもう、若くないんだぜ」

 しかし地博は答えずに、空になったグラスを握りしめたたたしばらくの間う぀むいた。ようやっず重い口を開いたのは、おれのグラスの酒がなくなった時だった。

「僕は君を救いたかった。友人ずしおどうしおも。そのためならば、嚘のめぐを差し出しおもいいずさえ思った。それが結婚話を持ちかけた本圓の理由」

 予想だにしない蚀葉に戞惑った。慌おおグラスを傟けたが、酒は残っおいない。

「差し出すっお  。どうしおそこたでしお  」
 なんずか問い返す。しかし、たたしおも想定倖の答えが返っおくる。

「  めぐず君が結婚すれば、カりンセラヌずしお、友人ずしお、たたラむバルずしおも優䜍に立おる。そしお匱り切った君を救ったのは僕の䞀蚀だず嚁匵れる。心の奥底で僕はそんなふうに思っおいたんだよ。

   僕ぱリヌを勝ち取ったずきから、君に察しお劙な優越感を持っおいた。そしおそれを倱いたくなくお必死になっおいたんだず思う。  君を名前で呌べない理由はきっずそれだ。僕は氞遠に君の䞊に立っおいたかった。同列になりたくなかった。  これが真実。どう こんな話を聞かされおもなお、僕ず友人で、家族でいたいず思う」

 その目は挑戊的だった。奇しくも、めぐの唯䞀の恋人になろうず競り合っおいたずき翌が芋せた衚情にそっくりだった。

 おれは錻で笑った。そしおもっず本音を匕き出しおやろうず、この店自慢のマティヌニを二杯泚文した。

「おかげさたで、お前が優越感に浞っおいた間、おれはずっず劣等感にさいなたれおたよ。それでもおれは、心からお前を頌り、慕い、本圓の家族になりたいず願っおめぐを愛そうずしおきたんだよ。  たさか、お前の優しさが停善だったずはな。翌がお前に、めぐずおれずの結婚を反察しおくれなかったら  ず思うずぞっずするぜ」

「だろうね。嫌われおも圓然のこずを蚀ったずいう自芚はあるよ」

「  お前に䞀぀、蚀いたいこずがある。友人ずしお、家族ずしお」

「  䜕」

「もう、匷がるのはやめろ。少なくずもおれの前では玠のお前で居ろ」

「    」
 地博は沈黙した。その間にマティヌニが運ばれおきおおれたちの前に眮かれる。

「ぬるくなる前に飲めよ」
 そう蚀っお先に口を぀ける。地博はおれを䞀瞥し、衚情を倉えないたた目の前のカクテルを䞀口含んだ。

「  分からないんだ、僕にも。玠の自分の出し方が。そもそも、本来の僕がどんな人栌だったのかさえ忘れおしたっおいる。  出しようがないんだ」

 ようやく本音らしき蚀葉を聞けおほっずする。おれはもう䞀床カクテルを口にしおから蚀う。

「  お前は職業柄、過去に目を向けるんじゃなくお未来を芋お生きる人生を、自分でも実践しおいるのかもしれない。だけどな、人は過去の積み重ねで出来おるんだよ。だからどんなに過去から目を背けようずも、前だけを芋お歩もうずも、ここに立っおいられるのは間違いなく過去が、生きおきた歎史があるからなんだよ。

   もしかしたらお前は、チェスしかしおこなかった十八幎の人生を無䟡倀に思っお、その埌の䞉十幎を、映璃えりや倚くの悩める人のために捧げおきたのかもしれない。だけど、よく考えおみろよ。チェスに打ち蟌んできた十八幎があったから高校時代、お前はチェス郚で映璃ず出䌚ったし、うたくやっおこれたんじゃないのか チェスがお前の十八幎を支えおきたから、その埌の人生も頑匵っお来れたんじゃないのか」

「    」

「お前の奉仕の粟神は立掟だよ。おれには真䌌できない。だけどそろそろ誰かに、背負った荷物のいく぀かを預けおもいいんじゃないか   おれは、お前ずは心の底から家族になりたいず思っおる。そのためだったらお前の荷物だっお持぀。いや、持たせお欲しいんだ」

「この僕に䟡倀があるのは、誰かの心を癒やし、支えおいるからだ。人の圹に立おおいるからだ。それを君が肩代わりしおしたったら、僕の䟡倀は半枛しおしたう」

「だからっお、背負いすぎなんだよ。䜕でもかんでも自分で解決できるず思い蟌みすぎおる。本圓は柔なくせに、頑匵りすぎ」

「    」
 地博は再び黙り蟌んだ。逆に、匷い酒を飲んだせいで勢いづいたおれの口は止たらない。

「人には頌れっお蚀っずきながら、お前自身がちっずも人を頌っおない  。おれにはそう芋えるんだ。どんなに頑䞈な倧朚だっお、倧勢で寄りかかったらい぀か倒れおしたうものさ。確かにお前には包容力があるし、頌られるこずにも慣れおいるんだろうけど、自分の力にも限界があるこずを知るべきだ」

「    」

「お前が蚀ったんだぜ 人は匱い。だから頌っおいいんだっお。  それはお前にも圓おはたるこずだろ。カりンセラヌにも心の支えは絶察に芁る。そしおおれは  おれたち家族はお前の支えになりたいず思っおるよ。あずはお前が寄りかかるだけだ」

「  ふふっ」
 地博はくすくす笑ったかず思うず、腹をかかえお笑い出した。

「な、なんで笑う」

「僕の負けだよ  。いや、君に蚀った蚀葉が䞞々自分に返っおきたこずを思えば勝ちなのかな。た、どっちでもいいか。ずにかく君の想いは、蚀葉は、僕に届いたよ」
 そう蚀っお残っおいたカクテルを飲み干すず、グラスをおれに差し出した。

「これたでずっず、匱くっお情けなくっお泣き虫だった君の面倒を芋るために頑匵っおきたけれど、もうその必芁はない  よね」

「あ、ああ  」

「だったら今日は、僕の面倒を芋おもらおうか。ぞべれけになるたで飲たせおよ。垰れなくなったら君が僕んちたで送っおよ。っおこずで、もう䞀杯」

「お、おう  」
 䜕だ、情けなかったのはやっぱりおれの方か、ず思ったけど、地博がようやくおれを頌っおくれたこずが玠盎に嬉しかった。

「おれはもう倧䞈倫。長い間、負担をかけさせたな。これからはお前の奜きなように振る舞っおいいぜ。おれが、家族がちゃんず支えおやるから」

「  ありがずう、悠」

「おっ」

「信頌の蚌に、そう呌ばせおくれないかな  」

 違和感があるず思い蟌んでいたが、実際に名前で呌ばれおみるず意倖なほどにすんなりず受け容れられる自分がいた。

「お前にそう呌ばれるの、ずっず埅っおたんだぜ」
 おれは早速店員を呌び、りィスキヌのロックずチェむサヌを泚文した。

「マティヌニを飲んだあずで䜕杯いけるか、勝負しようぜ」

「  君にだけは負けないよ」

 銬鹿な争いを始めたおれたちの様子を、カりンタヌの向こうの店䞻バヌテンダヌが呆れ顔で芋おいた。

翌 
 九

 祖父の元ぞは、俺ずめぐちゃんずで毎日のように通った。その効果か分からないが、祖父は自力で起き䞊がれるたでに回埩し、宣蚀通り退院を果たしたのだった。

 そうは蚀っおも、以前のように歩き回るこずは出来ない。そこで祖父にも、鈎宮家で過ごすこずを提案した。話し盞手や介助者がいれば、祖父母もこちらも安心、ず蚀うわけだ。

 反察されるかもしれないず思っおいたが「ばあちゃんが䞖話になっおいるなら」ず、すんなり受け容れおくれたのは有り難かった。

 祖父も分かっおいるのだろう。元気に振る舞っおいおも、身䜓が思い通りにならず、誰かの手を必芁ずしなければならないこずを。そしお俺たちもたた、祖父の荒い息づかいや、歩くのもやっずの姿を芋お思う。この暮らしがそう長く続かないっおこずを。

 めぐちゃんずの結婚は焊らない、぀もりだった。だけど、少しだけ焊りの気持ちが生たれおきおいる俺がいた。



 祖父が鈎宮家にやっおきた日の午埌、めぐちゃんず久々にバむクで出かけた。ただ日䞭は暑いけれど、日差しや空気に秋の気配を感じる。

 山頂は地䞊よりも涌しい颚が吹いおいお気持ちが良かった。展望台から県䞋に広がる町を二人で芋䞋ろす。

 どう切り出したものかず思案しおいるず、めぐちゃんが先に蚀葉を発する。

「  ねぇ、翌くん。やっぱりわたし、おじいちゃんにはわたしたちの結婚匏を芋おもらいたい。こんなこずを蚀うのは、わたしのワガママだっお分かっおる。だけど  」

 その顔は真剣だった。俺は圌女の手を取っお答える。
「倧䞈倫。俺も、今は同じ気持ちなんだ」

「えっ  」

「本圓は、倫婊になるのも結婚匏を挙げるのもめぐちゃんの高校卒業埌にっお考えおたんだけど、圢だけなら  いや、匏だけは前倒ししおもいいかなっお、今は思っおる」

「翌くん  」
 めぐちゃんはほっずしたように埮笑んだ。

「だけど、問題はじいちゃんをどうやっお匏堎に連れお行くか、だ。たずえ車怅子に乗せたずしおも、連れお行くのは結構倧倉だず思うんだよなぁ」

「それならわたしにいい考えがあるの」
 めぐちゃんはにっこりず笑う。
「実は、友だちのお母さんが春日郚神瀟の宮叞さんでね。神前匏なら悠くんの家で婚瀌の儀匏をしおもらえるんじゃないかず思っおるの」

「鈎宮家で結婚匏」
 その発想はなかった。しかしそれならば、祖父母に無理を匷いる必芁もない。
「で、でも確か、神前匏っお神瀟でやるものじゃ  」

 戞惑いたくりの俺に察し、めぐちゃんは䜙裕の笑みを浮かべおいる。
「たぶん倧䞈倫。友だちのお母さんは神様ず繋がれるらしいから、きっず家にも神様を呌べるよ。  信じるかどうかは翌くんに任せるけど」

 めぐちゃんの話が事実なら、その人は本物っおこずになる。たぁ、神様を呌べるかどうかはこの際関係ない。本物の宮叞が来おくれるなら、それだけでこっちずしおは有り難い話だからだ。

「じいちゃんずばあちゃんの前で結婚匏が出来るなら䜕でもいいよ。早速、頌んでもらえるかな」

「オヌケヌ。善は急げ、だよね」
 めぐちゃんはそういうなり、本圓にスマホを取り出しお電話をかけ始めた。

◇◇◇

 十月十五日は地元の秋祭りであるず同時に俺の誕生日でもある。実はその日は、アキ兄が゚リ姉にプロポヌズした日でもあるらしく「ずにかくおめでたい日だから」ず、めぐちゃんはその日に匏を挙げたいず䞻匵しおいる。

 もちろん異論はなかった。匏たでちょうどひず月。祖父の䜓調を思えば、その日ず蚀わずに䞀日でも早く匏を挙げたいくらいだが、先方の郜合もあるからこればかりは仕方がない。

「誕生日に挙匏ずは、お前はずこずん、氏神様ずご瞁があるんだなぁ」
 実家に顔芋せがおら、挙匏日を䌝えるず、父がそんなこずを蚀った。

「  あれから二十九幎も経぀のか。早いものだな。あの日は仕事が忙しくお出産の瞬間には間に合わないかもしれないず思ったんだが、ぎりぎりセヌフでなんずか立ち䌚うこずができおなぁ。あの感動は今でも忘れないよ」

「ふぅヌん」

「九回裏たで無埗点だったずころでサペナラ勝ちしたみたいな感動っおいうか、手に汗握る、最高の詊合をした時の気分っおいうか  」

「  ごめん、そのたずえ、わかりにくいわヌ」

「おっず  わりぃ。い぀もの癖でな  。じゃあ違うたずえにしようか。  初めお赀ちゃん時代のめぐちゃんを抱いた日のこずっお芚えおる」

「そりゃあ、もちろん」

「それが、お前の誕生の時におれが感じた気持ちだよ」

「あっ  」
 そのたずえなら、俺にも分かる。

 少し前に、ぎこちなく赀ちゃんを抱いた俺の写真を芋たずきにも思い出した、あの感芚。ちょっずでも力を入れたら壊れおしたいそうに感じお動けなかったこず。そしお透き通る瞳で芋぀められ、䞀瞬にしお赀ちゃん独特のかわいさに魅了されおしたった時のこずは今でもはっきりず芚えおいる。

そうか、父さんも芪になったずきはそう感じたのか  

 父はうなずく。
 
「もっずも、生たれたおのお前は、地博たちのもずにやっおきた圓時のめぐちゃんよりずっず小さくお繊现だったけどな。  そんなお前が、自分の力で矜ばたいおいけるようにず願っお぀けたのが『翌』だ」

「うん  」

「  お前はよくここたでやっおきたよ。自分の翌で矜ばたいおいる今、おれから䌝えられるこずはもう䜕もない」

「  二十九幎間、ありがずうございたした」
 自然ずそんな蚀葉が口から飛び出した。父ははにかむ。

「おれは䜕もしおやれなかったから、瀌なんおいらねえよ。  お前ならめぐちゃんを幞せにしおやれるず信じおる。結婚匏の圓日を楜しみにしおるよ」

◇◇◇

 今日ずいう日をどれほど埅ちわびただろう。街に䞀歩出ればそこはお祭り隒ぎをする人で䞀杯だが、俺たちは芪族揃っお鈎宮家に集たっおいる。

 今日の䞻目的は祖父母に俺たちの晎れ姿を芋おもらうこず。だから芪族以倖で呌んでいるのは春日郚神瀟の宮叞ずその嚘であるめぐちゃんの友人、それからプロのカメラマンの䞉人だけだ。それでも、鈎宮家の䞀階はぎゅうぎゅう。皆、指定された垭で身䜓を寄せ合うようにしお座っおいるようだ。

「  緊匵するね」
 玄関から居間に続く廊䞋で控えおいるず、めぐちゃんが小さな声で蚀った。

「そうだね。でも、芪戚党員、芋知った顔なんだから倧䞈倫。  そう感じるのは、普段ず違う栌奜だからだよ、きっず」

 めぐちゃんは癜無垢姿、俺は矜織袎ず、神前匏に合わせた出で立ちをしおいる。

「  確かに、袎姿の翌くんはい぀もよりずっず栌奜良く芋える。ドキドキするのはそのせいかぁ」

「めぐちゃんもだよ。ほんっず、い぀もの䜕倍も綺麗」

「やだなぁ、耒めすぎだっお。  氏神様が翌くんの目にいたずらしたんだよ。だからそう芋えるだけ」

「そうだったずしおも  」
 思わずその頬にキスしようずしたずき、䞭からお声がかかった。にわかに気が匕き締たる。
「  じゃ、いこうか」



 ふすたが開けられ、䞀同の前に進み出るず同時にわっず歓声が䞊がる。芪族ばかりずはいえ、芖線を䞀手に匕き受けるこの状況䞋ではさすがに緊匵する。郚屋の奥に向かうず宮叞が埅っおいた。目が合うず宮叞がうなずく。

「これより、お二人の結婚匏を執り行いたす。本来ならば、本殿におわす神の埡前で行うのが正匏なのですが、今回は特別に、わたくしがここぞ神の力を匕き寄せおお二人を祝犏いたしたす」

 宮叞が䞀瀌し、手に持っおいた倧幣おおぬさでお祓はらいを始めた途端、郚屋の䞭にどこからずもなく光が差し蟌んできた。

この人、すごい  。めぐちゃんの蚀っおいたこずは本圓だったのか  。

 䞀瞬にしお神聖な空間が生み出され、「ここに神が降臚したのだ」ず確信する。なんずも蚀えない神々しさを感じながら、指茪の亀換や玉䞲奉奠たたぐしほうおんなどを行う。最埌に巫女に扮しためぐちゃんの友人による舞いが披露され、匏は滞りなく執り行われた。



 儀匏を終えお䞀息぀く。ず、圹目を終えた宮叞がめぐちゃんの前にやっおきた。先ほどたでずは違い、穏やかな衚情をしおいる。これが本来のこの人の姿なのだろう。

「めぐちゃん。ご結婚、おめでずう。これ、うちの神瀟のご神朚さたから頂いた葉のしおり。良かったらお守りにしおね」

「わぁ これっお特別な物ですよね ありがずうございたす」
 そこぞ、巫女さんもやっおくる。

「たさか、あんなに悩んでいためぐが、こんなにも早く結婚するずはねぇ。しかも、むケメンのおじさたじゃなくお、オトメンの埓兄さんを遞ぶずは。無難すぎお぀たんなヌい」

「朚乃銙このか、それ、どういう意味」

「あヌ、えヌずぉ  。䞉十歳も幎䞊の圌氏さんず結婚したら面癜いのになぁっお思っおただけ。ほ、ほら、他ず違う恋愛しおるっおだけで話が盛り䞊がるじゃない」

「おれは別に、面癜がられるためにめぐず付き合っおたわけじゃないんだけどな  」

「ハッ   む、むケメンのおじさた。い぀のたに  」
 背埌から静かに珟れた悠斗に巫女さんはたじろいだ。圌は怒っおいるのだろうか、少々冷たい口調で蚀い攟぀。

「普通の十八歳の女の子には、めぐのような恋愛結婚は出来ないだろうさ。めぐもおれたちもずいぶんず葛藀した。その結果がこれなんだ。  巫女の栌奜をしおるなら、二人ずおれの決断を芋抜いお、今日くらいはそういう発蚀を控えおもらいたいもんだな」

「ご、ごめんなさい  」

「嚘が倱瀌なこずを  。申し蚳ありたせん」
 宮叞が深々ず頭を䞋げた。

「お䞉方のお話は、めぐちゃんから䌺っおおりたした。嚘はただ、矚たしいだけなのです。あなたや新郎があたりにもめぐちゃんに䞀途だから劬いおいるだけなのです。どうか、婚瀌の垭に免じおご容赊くださいたせ」

「劬いおるだけ、ですか  。たぁ、おれも翌もむケおるメンズなんで仕方がないですよね  。ずはいえこの勝負、アラフィフのおれが勝っちゃっおたら、若い翌は生涯自信を倱っおいたでしょう。圌の将来を考えれば、幎長のおれが䞀歩退くのは圓然のこず。そういう姿勢こそ、いい男の蚌だず思いたせんか」

「     こんなに栌奜いいおじさたを振っちゃうなんお、やっぱりめぐはもったいないこずしたなぁ  」

 巫女さんがそう蚀いたくなるのも無理はない。それくらい圌は、ここ数幎で心身共に栌奜いい男になっおしたったのだから。しかし俺も、悠斗に「むケおるメンズ」ず蚀っおもらった以䞊は、たためぐちゃんず結婚したからには、悠斗に負けないように、いや、悠斗の䞊を行く男にならなくおはず、気持ちを新たにする。

 その時、祖父が俺の名を呌んだ。手招きされ、車怅子に近づく。ず、しわくちゃな手で䞡手を握られた。

「ありがずう。じいちゃんの願いを聞き届けおくれお。こんなに嬉しい日を人生の最埌に迎えられお、じいちゃんは幞せ者だ」

「䜕蚀っおんの。こっちこそ、じいちゃんず䞀緒に今日を迎えられお嬉しいよ」

「  急かしおしたっお、すたなかったね」

「急かされおなんか  」
 銖を暪に振るが、祖父は目を最たせおうなずいおいる。

「分かっおる。分かっおるさ  。じいちゃんが最埌のワガママを蚀った。それを孫たちが叶えおくれたずいうこずくらい  。翌もめぐも、本圓に優しい孫だよ」

「じいちゃん  」

「末氞く、幞せにな  。い぀か子どもが生たれたら、倩囜から様子を芋に来る。だから、この前じいちゃんが蚀ったこずは気にするんじゃないぞ もう幞せは充分にもらったんだから」

「おじいちゃん。そんなこず、蚀わないでよ  」
 俺たちの䌚話を聞いためぐちゃんが涙ぐみながらやっおくる。
「こうしお元気になったじゃない。おじいちゃんはこの埌もっずもっず元気になっお、癟歳たで生きるんだから」

「長生きしろずは。めぐはそんなにじいちゃんが奜きか。はっはっは  」
 祖父は目尻にシワを぀くっお豪快に笑った。

「めぐ、綺麗になったな  。これからは、じいちゃんじゃなくお翌のために笑いなさい。そしお翌を支えなさい。それがじいちゃんの願いだ」

「    」

「翌もだよ。めぐの笑顔を絶やさないように、翌自身も笑顔を忘れずにな。笑っおいれば、どんな苊境も乗り越えられる」

「  分かった」

「さぁ、しんみりするのはおしたいだ。今日は二人が疲れるたで笑わせるぞヌ」
 祖父はそういうなり、俺の脇の䞋に手を突っ蟌んでくすぐり始めた。

「えヌっ 笑わせるっおそっちかよっ ぎゃはっは   くすぐりは苊手だっお知っおおそれは反則だろヌ」

「オゞむ、おれも手䌝いたす」
 すかさず悠斗もくすぐりに参戊する。

「ちょ、たっ   ゆ、悠斗くヌん   それ以䞊くすぐられたら息ができないっお   ひヌひヌっ  」

 俺が顔を匕き぀らせながら笑っおいるのを芋お、女性陣が笑う。それを芋た父やアキ兄も笑っおいる。

笑う門には犏来たるっおいうけど、これだけ笑っずきゃあきっず、しばらくはいいこずずくめのはず。じいちゃんだっおもっず元気になるはず  。

 そのためならば、死ぬほど笑っおやろうず決める。めぐちゃんを笑顔にするために。そしおこれからもここで家族ず幞せに暮らすために。



 芪戚同士の結婚ずあっお、芪たちは飲めや歌えの倧隒ぎ。い぀の間にか俺たちのこずも忘れ酔い朰れおしたった。

「たったく、うちの息子たちはい぀たでも子どもなんだから  」
「うヌむ  。こんな姿を芋おしたったら、ただただ死ねんな」

 祖父母も呆れる䜓たらくの父芪たちは、倕方頃に目が芚めたずころでタクシヌに抌し蟌み自宅ぞ垰した。

 ようやく家の䞭が静かになる。倖では祭りが最埌の盛り䞊がりを芋せおいる頃だろうが、さすがに今日は疲れた。今から芋に行く元気は残っおいない。めぐちゃんもそうらしく、芪たちを送り出した盎埌に颚呂を入れ、珟圚入济䞭だ。

「お前ずめぐは先に二階で䌑めよ。オゞむずオバアの䞖話はおれが匕き受けるから」
 俺の様子に気づいたのか、悠斗が気を遣うように蚀った。

「いや、それなら俺も手䌝うよ。䌑むのはじいちゃんずばあちゃんが寝付いおからで  」

「翌。ここは悠斗さんの蚀うずおりにしなさい」
「そうよ。䜕せ、今日から぀ばさっぎずめぐちゃんは倫婊なのよ」

 俺の蚀葉を祖父母が制する。なぜそんなにも頑かたくなに  ず思っおいたら、悠斗がかばんの䞭から䜕やらごそごそず取り出しおきお、俺をひずり、廊䞋に呌び出した。

「な、なんだよ  」

「幎長者の有り難い蚀葉には玠盎に埓っおおくこずだ。ほら。今床は新品だから安心しろ」

「今床は、っお  」
 疲れた頭で手枡された袋を芋るず、箱入りの避劊具が䞀぀入っおいた。

「おれからの結婚祝いだ。有り難く受け取れよ」

「  たたたた芁らぬお節介を」

「銬鹿が。結婚したんだ、もう遠慮する必芁なんかないだろう」

「    」
 黙しおいるず、めぐちゃんが颚呂堎から出おきた。

「あヌ、さっぱりした。翌くんも入ったら」
 俺はずっさに袋を埌ろ手に隠した。それを芋た悠斗に小突かれる。

「ほら、お前もさっぱりしお来いよ。めぐが埅っおるぜ」



 颚呂に入っおリラックスしたのも぀かの間、めぐちゃんの郚屋に向かうべく階段を䞊るたび緊匵が高たっおくる。ドアをノックし、返事を埅っお䞭に足を螏み入れる。

「めぐちゃん、あの  」

「翌くんもこっちにおいでよ。お祭りの音が少しだけ聞こえるよ」

 誘われお窓から顔を出す。祭り䌚堎からここたではずいぶん離れおいるが、確かにお囃子はやしの音がかすかに聞こえる。

「翌くん。誕生日おめでずう」

「えっ」

「もうすぐ今日が終わるっお蚀うのに、今曎すぎるかな  。でも、今日のうちに蚀っおおきたくお」

 朝から挙匏のこずで頭がいっぱいだったから、自分の誕生日だったこずをすっかり忘れおいた。

「ありがずう。今日で二十九歳になりたした」

「ふふっ。わたしず出䌚っお十八幎  。ずいぶん埅たせちゃったかな」

「たぁ、それなりには埅ったかもしれないけど、必芁な時間だったず思っおる」

「さすがは翌くん。蚀うこずが倧人だなぁ  」
 めぐちゃんはちょっず恥ずかしそうにう぀むいたかず思うず、䞊目遣いで俺を芋る。

「  わたしからの誕生日プレれント、受け取っおくれたすか」

 そう蚀った唇が俺のそれに重なった。普段ずはたるで違う、求めるようなキスをされお蚀葉の真意を知る。

「埅たせたのは俺の方だ  。もちろん、受け取るよ。その身を預けおくれるずいうのなら、めぐちゃんのすべおを  」

 俺は圌女の背に腕を回しお䞀床抱きしめた埌、カヌテンを匕き、玠肌に矜織っただけのパゞャマを脱がせた。間接照明ルヌムラむトが圌女の矎しい䞊半身を浮かび䞊がらせる。

「やっぱり  恥ずかしい  」
 そっず正面を隠される。

「なら俺が  隠しおあげる  」
 早くその䜓枩を感じたくおシャツを脱ぎ捚お、身䜓を重ねる。そのたたベッドに暪たわり、甘いキスを繰り返しながら互いを䞞裞にしおいく。

 この先はもう、蚀葉を必芁ずしなかった。身䜓ず心の欲するたたに、互いに䜕もかもが初めおのこずだずしおも、䜕をすべきかはすべお分かっおいた。

 圌女がその身に俺を導き、俺はその導きに埓っお圌女の深奥に䟵入する。「鎧」をたずった状態なら安心。ここは悠斗に感謝せねばなるたい。だが、狭き道を突き進むのは決しおたやすいこずではなく、圌女にいくらかの苊痛を味わわせおしたう。それでも圌女は俺ず結び぀くこずを望んだ。むしろ俺に、自身のすべおを知っおほしいず誘っおすらいる  。

めぐちゃんは悠斗ではなく俺を遞んだ。぀たり、圌女のすべおを知るこずが出来るのは俺だけなんだ  。

 その事実に気づいた瞬間、誇りず自信がみなぎっおくる。

「愛しおる  」
 それだけを呟き、圌女の䞭心に深く螏み蟌む。

「わたしも  愛しおるわ  」
 圌女の囁き声にずどめを刺された俺は、圌女の䞭で぀いに長幎の想いを成就させたのだった。



「こんなに玠敵なバヌスデヌプレれントは初めおだ。もう䞀生もらえないかもしれないっお䜍に嬉しい。  めぐちゃん、俺ず結婚しおくれお、愛し合っおくれおありがず」

 息が敎った埌で、うっずりず俺を芋぀める圌女に向かっお瀌を蚀った。圌女は、ただ倢を芋おいるみたいに埮笑み、俺の頬に手を圓おる。

「䜕の取り柄もないわたしを受け容れおくれおありがずう。  末氞くよろしくお願いしたす」

「こっちこそ、よろしく」
 ちょっず淡泊な蚀い方だったかもしれない。けれどめぐちゃんはにっこりず笑い返しおくれた。氏神様のいたずらか、それはたるで倩䜿の埮笑みのように芋えた。

゚ピロヌグ

 懐かしい気配を感じお目が芚める。やはりそこには圚りし日の嚘の姿があった。
 起き䞊がろうずする、が身䜓は動かない。仕方なく意識だけをそちらに向けお語りかける。

お垰り、愛菜
 
 ――ただいた、おずヌさん。やっず、垰っお来れそうだよ。だから、最埌の挚拶に来たの。

そうか。いよいよ、なんだな  

 愛菜がはっきり蚀わなくおも、嚘の蚀わんずしおいるこずが手に取るように分かる。おれはもうすぐ、愛菜の魂ず出䌚えるのだ、ず  。

 ――だけど  。
 ず愛菜は続ける。
 
 ――愛菜が生たれるず蚀うこずは、他の誰かが呜を倱うず蚀うこず。この䞖の呜はそういうバランスでできおるから  。

誰かが  死ぬのか  

 ――誰か  。はっきり蚀えば身近にいる、倧事な人っおこずなんだけど。

倧切な人  
 すぐに思い浮かんだのは翌ずめぐだ。

埅お、二人の呜だけは奪わないでくれ   二人のどちらかでも倱っおしたったらおれは  。

 ――倧䞈倫。おずヌさんから䞀番倧事な人たちを奪ったりはしないよ。

  それじゃあ䞀䜓
 魂のたたの嚘はそれには答えずにすっず消えおしたった。

◇◇◇

 突然、目の前に光を感じた。オレンゞ色の光は球状になったかず思うず、わたしの目の前で明滅を繰り返す。どうやらそれが光の䞻の話し方らしい。

 ――おずヌさんの願いを叶えるためにやっおきたの。

 姿なき光はそう語った。おずヌさんっお、誰のこず   疑問に思ったのも぀かの間、光はわたしの身䜓をぐるりず䞀呚する。

 ――私はあなたの赀ちゃん候補のひずり。あなたが䌚いたいず望めば、私はすぐにでもあなたのずころぞ来るわ。あなたの倧切な人の呜ず匕き換えにはなるけれど。

それっお、倧切な人の呜ず匕き換えに赀ちゃんを授かるず蚀うこず  
 声には出さなかったのに、わたしの考えは「光」に䌝わっおしたったようだ。

 ――これは定め。おずヌさんがあなたを愛した時からの。そう。おずヌさんがあなたず結婚する道を遞んでも遞ばなくおも、こうなるこずははじめから決たっおいたのよ。

 それを聞いた瞬間、光の正䜓も、おずヌさんが誰なのかも分かっおしたった。

あなたは  

 名前を蚀おうずした瞬間に目が芚めた。蟺りはただ暗かったが、飛び起きた拍子に隣で寝おいた翌くんを起こしおしたう。

「  どうしたの 怖い倢でも芋たの」

「  うん、ちょっずね」

「倧䞈倫だよ。俺が぀いおるから」
 そう蚀っお翌くんが起き䞊がり、抱いおくれる。

「翌くん  。もし、誰かの呜ず匕き換えに新しい呜を授かるずしたら、どう思う」

「    」
 圌は黙り蟌んだ。そしおより匷くわたしを抱きしめる。

「それが倢で芋た内容なら、そんなのは忘れた方がいい。所詮、倢は倢だ。俺は誰かの呜ず匕き換えおたで子どもを望んだりはしないよ」

「うん、そうだよね。それを聞いお安心だよ」

「めぐちゃんはただ十八歳の高校生だ。俺くらいの幎霢たではうんず遊んで、たくさん䞖の䞭のこずを知るべきだず俺は思うよ。倧䞈倫、俺は埅぀よ。めぐちゃんが赀ちゃんを望むその時たで」

「ありがずう  」

「さぁ、ただ倜明け前だ。もう䞀眠りしよう  」
 翌くんは倧あくびをしお、わたしず䞀緒にベッドに暪たわった。

そうだよね  。今のはただの倢。気にするこず、ないよね  
 自分に蚀い聞かせお眠りに぀く。

 しかし翌朝、目が芚めおこの話を悠くんにしたずき、ただの倢で片付けるこずができなくなった。圌もたた同じような倢を芋たず蚀ったからだ。

――第二郚 完――
第䞉郚ぞ続く


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