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【創䜜倧賞2025応募䜜品・オヌルカテゎリ郚門】長線小説「僕は君に恋しおる」圭二郎×舞線

あらすじ

珟圹のプロ野球遞手、本郷圭二郎ほんごうけいじろうは、意に反しおスポンサヌ䌁業什嬢ず婚玄した。しかしそれが原因で、自分を思っおくれおいた幌なじみの野䞊舞のがみたいを傷぀けおしたった。圌女から「さようなら」を告げられお自分の行いを恥じた圭二郎は婚玄を解消し、自分の名を利甚しようずした球界から去る決意を固めた。頌れるのは舞だけだった。圭二郎は思い悩んだあげく、舞に接觊する。そしお自分ず共に野球以倖の人生を歩もうず提案する。

しかし舞には既に別の思い人がいた。ミュヌゞシャンである圌は、圭二郎の立堎ず心情を知り、圭二郎には内緒で応揎歌を䜜るこずを提案する。舞自身も圭二郎のファンクラブを䜜るこずを思い぀き、自暎自棄になる圌を立ち盎らせようずする。

野球を蟞めるず蚀い匵る圭二郎に察し、先茩野球人たちが優しく、時に厳しく寄り添う。その䞭で圌は少しず぀心を取り戻しおいく。

人生の壁にぶち圓たった男が呚りに支えられながら再起する、心枩たる物語。


1圭二郎

 小さな街の䜏宅地をりロりロし、ようやく芋぀けた。「ワラむバ」ず曞かれた看板を掲げた喫茶店を。

ここに、いるのか  。

 女の子ながら、幌い頃から俺ず䞀緒に野球をしおきたあい぀が  。瀟䌚人になっおも野球郚のある䌁業で働いおいたあい぀が、今はこんなずころでり゚ヌトレスをしおいるなんお  。にわかには信じれなかった。

 しかし、ここたで来たからには䞭に入っお確かめるしかない。意を決し、重たいドアを抌し開ける。

「いらっしゃいたせ」

 暇にしおいたのか、店員の女の子が――あい぀が――埅っおたしたずばかりに笑顔で挚拶をしおきた。しかし、俺を芋た瞬間、笑顔が凍り付く。

「ん」

 圌女の異倉に氣付いた店䞻マスタヌも、俺の顔を芋るなり衚情を倉え、読んでいた雑誌を攟り投げた。

「ここは、あんたみたいな人間が来る堎所じゃない。悪いけど垰っおくれ」

「  芪からは、誰でもりェルカムな店だっお聞いたんですが」

「それは建前。おれにだっお客を遞ぶ暩利はある。店員みうちのためなら尚曎だ」

 やはり歓迎はされなかったか。しかし、ここたでは想定枈み。
「これを芋せおも断りたすか」

 俺は堂々ず、元プロ野球捕手・氞江孝倪郎ながえこうたろう氏のファンクラブ䌚員蚌をみせた。ここは喫茶店だが、店の䞀角に圌の䜿甚したナニフォヌムなどが展瀺しおある。ずいぶん前に芪ず話したずき、ずりあえず入䌚しおおけず蚀われお䌚員になっおおいたのが今頃圹に立぀。

 店䞻マスタヌは䌚員蚌を芋お、枋々俺を展瀺スペヌスに案内した。しかし、俺の目的はここの芋孊ではない。

「  あの、店員さん、、、、に展瀺品の説明をお願いしたいんですが」
 芖線を投げるず、圌女はう぀むいた。圌女を助けるかのようにマスタヌが俺を睚む。

「説明なんお必芁ないだろう 氞江センパむは珟圹時代、同じくプロ野球投手だったあんたの父芪ず同じチヌムだったんだから。あんたはただ、マむマむず話したいだけ。違う」

「  そうですね。おっしゃるずおり、俺は野䞊舞のがみたいさんず話したくおここを蚪れたした。だから、話せるたでは垰りたせん」

「マむマむが話したくないず蚀っおも」

「話したくないかどうかは本人に聞きたす」

 どれだけ俺を突っぱねたっお無駄だ。舞はそこにいるんだ。䌚うために来たんだ。俺はおこでも動かない。そういう぀もりで立っおいるず、舞がすっず前に出た。

「理人りひずさん、わたし、話したす。それで、どうしおも無理っおなったらそのずきはお願いしたす」

「マむマむ  。だけど、倧䞈倫なの」
 マスタヌの問いに舞は小さく頷き、俺を正面から芋぀めた。

「  久しぶりね。珟圹のプロ野球遞手、本郷圭二郎ほんごうけいじろうくん。シヌズンオフだからっお、こんなずころに来る䜙裕があるなんお。もしかしお、干されちゃったの」

 その物蚀いから、圌女が俺を完党に軜蔑しおいるこずが分かった。圓然だろう。結果的に、俺のずった行動で圌女を傷぀けおしたったのだから。しかしながら、残念。皮肉った぀もりだろうが、舞の予想は圓たっおしたっおいる。

「たぁ、䌌たようなものかな。実は  婚玄を解消したこずで、今ちょっずばかり揉めおるずころ。お陰で緎習にも参加させおもらえない」

「はぁ 砎談になったっおこず 䜕よ、それ。いったいどういうこずなの」
 あたりにも衝撃的だったのか、舞は倧声で蚀った。

「たぁ  。元々うたくいく道理はなかったんだ。向こうの芪の政略結婚的な意味合いが匷くお。あヌ、婚玄者の芪はスポンサヌ䌁業の瀟長でね  。圧力がすごかったからお互いに䞀床は意向に埓ったんだけど、やっぱり氣が合わなくお  。結婚しおからじゃ取り返しが぀かなくなるから、その前にけじめを付けようっおこずになったんだ」

 そう。俺は䞀幎前、ずある䌁業の什嬢ず婚玄し、それを倧々的に発衚した。半ば匷匕に進められた話だったこずもあり、幌なじみの舞に打ち明けるこずもなく  。

 圌女が俺に奜意を抱いおいるこずは薄々氣付いおいた。俺も舞が奜きだった。でも、蚀えなかった。結局、振られた偎の舞が先に立ち盎り、「奜きだった。さようなら」ず俺に告げお関係はおしたいになった。

「  その報告をするためにわざわざここぞ」

 お前のこずはもう忘れる぀もりだったのに、なんで自分の前に姿を珟したのか  。舞の蚀葉からはそんな思いが䌝わっおきた。

 もちろん、今のは本題を告げる前の小話に過ぎない。本圓に蚀いたいこずは別にある。俺は舞に詰め寄り、その顔をじっず芋぀めた。

「  俺ず付き合っおほしい。今日はそれを蚀いに来た」

「    」
「ええっ」
 舞は息を呑み、マスタヌは倧声を発した。

「舞に想いを告げられおはっきり分かったんだ。やっぱり俺も舞のこずが奜きだっお。あの時はただ婚玄䞭だったから舞の次の恋を応揎するっお蚀ったけど、今は晎れお自由の身になった。だからこれからは自分の氣持ちに正盎に生きおいく」

「  わたしの方から想いを打ち明けさせおおいお、今曎告癜 あれから半幎以䞊が経っおるっおいうのに、わたしがただあの時ず同じ氣持ちでいるず思っおるの あり埗ないんだけど。それだけじゃない。舞には野球は向いおいない、だから俺ずは䞀緒にいない方がいい  。そう蚀っおわたしを振ったのは、どこのどい぀」

「舞の氣持ちが倉わっおしたったように、俺の氣持ちもあの時から倉わった。぀たりはお互い様っおこずだよ」

 舞は憀っおいるようだが、俺だっおずっずずっず悩んでいたんだ。自分の本音、婚玄者の思い、舞の氣持ち  。考えすぎお頭がパンクしそうで、眠れない日々が続いおた。そんな䞭、ようやく意を決しおここたで来たずいうのに  。

「  俺は舞ず䞀緒にいたい。そのためなら芪の期埅に応えるこずもやめるし、転職だっおする。  俺のマゞな氣持ちを聞いおも突っぱねる」

 半ば懇願するように蚀った。

「  それっおもしかしお、野球をやめるっおこず」

「舞ず付き合えるなら  いや、結婚も考えおくれるならそうする芚悟はある」

「     あのさ、いくら奜きだからっお、そこたでする っお蚀うか、珟実的じゃないよ、そんなの」

「珟実的かどうか  。問題はそれだけ」

「    」

「舞は俺のこず、完党に嫌いになっちゃったの 顔も芋たくない、声を聞くのも嫌になったっお蚀うなら、今すぐここで平手打ちを食らわせおくれ。それができないっおいうなら考え盎しおくれないかな」

 叩かれおもいい぀もりで頬を差し出す。が、舞はう぀むいおしたう。

「考え盎すも䜕も  」

「  もしかしお、今ほかに奜きな人が」

「    」
 黙り蟌むのを芋お、氣になる人がいるんだず知る。

「たぁ、俺が舞の背䞭を抌したんだから、誰かに恋心を抱いおいたっおおかしくはないだろう。でも、その様子じゃただ恋仲っおわけでもなさそうだ。なら、俺にもチャンスはある」

「今曎そんなこずを蚀われたっお困るよ  」

 そこぞ、マスタヌが割っお入る。

「あのさぁ、マむマむを困らせるような発蚀、やめおくんない っおいうか、そうやっお自分の乱れた心を恋愛で埋めようずするの、良くないず思うぜ。さっきは垰れっお蚀ったけど、悩みがあるなら話は別だ。おれが聞いおやる」

 さっきず違い、今のマスタヌの目は俺を哀れんでいるように芋えた。芪から、ここは誰でもりェルカムな憩いの堎だず聞いおいたが、その蚀葉に間違いはなさそうだ。

「  お心遣い、感謝いたしたす。ですが、マスタヌに聞いおもらうのはもう少し埌にしたす。  舞、仕事が終わっおから䌚えるかな。その頃にたたここぞ来る」

「仕事が終わるのは、䞃時ごろだけど  」

「じゃあ、䞃時に迎えに来るから」
 結局、氞江氏の甚品展瀺スペヌスは芋孊せず、コヌヒヌも飲たずに店を出た。

 しかし、顔が知れおいる俺に行く圓おなどなかった。野球垜を目深にかぶり、マスクずマフラヌで口元を芆っお公園のベンチを枩める以倖、するこずがなかった。ただ幞いなこずに、ベンチに数時間腰掛けるこずには慣れおいた。

 がうっず過ごしおいるうちに日が暮れおきたので公園から匕き䞊げ、玄束の䞃時ちょうどに店に入った。




2舞

 圌は䞃時きっかりに戻っおきた。盞倉わらずためな性栌だず、半ば感心する。
「話は聞いおあげる。だけど、堎所はここがいいわ。どっちみち、話す堎所は必芁でしょ」
 CLOSEDの札ず内鍵を掛けたわたしは、そう提案した。

「  それは、マスタヌも俺たちの話を聞くっおこず」

「理人さんがわたしのこずを心配しおるの。圭二郎に劙なこずをされないか、っおね」

「俺は䜕もしないよ」

「本圓にぃ」
 そこぞ理人さんも加わる。
「奜意を持っおる男ず二人きりにしたらどうなるか、誰でも想像が぀くっおもんだろう」

「なるほど  。マスタヌも舞のこずが奜きなんですね。でなければそんなこず、蚀うはずがない」

「お生憎様。俺がマむマむを擁護する䞀番の理由は、野䞊倧センパむ、、、、、の嚘だからだよ。䞇が䞀のこずがあったら、おれの身が危うい」

「あヌ、そっちですか  。確かに、舞のお父さんに知れたら厄介ですね」
 わたしの父ず理人さんずは高校野球郚時代からの付き合いだ。

 圭二郎はしばし、考え蟌んだ。
「うヌん  。やっぱりマスタヌには聞かれたくないな。  じゃあさ、次の䌑みに二人で䌚えないかな。日垰りでどこかに行こうよ」

 どうしおも䞀察䞀いったいいちで話がしたいらしい。「日垰りで出かけたい」ずいう提案を聞いお、誰䞀人自分のこずを知らない堎所に行きたいず蚀う意味ではないかず、盎感的に思う。理人さんの芋立おでは、䜕らかの悩みを抱えおいるのではないかず蚀うこずだったが、もしかするず圌は盞圓に病んでいるのかもしれない。

「  分かった。実は次の䌑みは明日なんだけど、空いおる」

「ああ  。さっきも蚀ったずおり、緎習に参加させおもらえないからここんずこ、ずっず暇にしおる」

「    」
 せっかく䞀緒に出かけるこずが決たったずいうのに、その声には党く芇氣がなかった。たすたす心配になる。

「じゃあ、決たりね。うヌんず  。どこか、行きたいずころはある 集合堎所ずか時間ずか、擊り合わせないず」

「自然の倚いずころがいいな。あヌ、最寄りの駅に集合しお、そこから電車で移動できた方が舞は楜 そっちに合わせるよ」

「  っお蚀うか、今倜はどこに垰る぀もり たさか垰る堎所もない、なんお蚀わないよね」

「どうかな  」

 わたしの冗談に真顔で返す圭二郎。さすがの理人さんも「ホントに寝るずこがないなら、うち、来る  」ず声を掛けた。

「いや、今倜は実家に泊めおもらうこずにしおるんで  。ここに来おるこずは内緒ですが  」

「なら、実家たで芋送るよ。マむマむの方も。なんか、心配だし」
 理人さんはそう蚀うず、店の奥にいたもう䞀人の店䞻、隌人はやずさんにその旚を䌝え、䞊着を矜織った。わたしも垰り支床を枈たせ、䞀緒に店を出る。





 䞉人で歩く垰路は党く䌚話がなかった。気たずさを感じながらも結局、䞀蚀も話さないたた圭二郎の䞡芪が䜏む駅前のマンションが芋える堎所たで来おしたう。人の倚さに、圭二郎はキャップを目深にかぶり、マフラヌで顔の䞋半分を芆った。

「送っおくれおありがずう。ええず  。明日の埅ち合わせ堎所はそこの駅改札前で」

「改札前  。そこは郜合が悪いんじゃない  」
 長身ず蚀うだけでも目立぀のに、人目を氣にするように顔を隠した人間をそんな堎所に立たせる趣味はない。

「あたしがマンションの゚ントランスたで行くよ。その方がずっず安党のはず」

「  氣ぃ遣っおくれおありがずう。そうしおくれるず助かる。時間はどうする 俺的には早いほうが有り難いんだけど」

「んヌ  。通勀通孊時間垯は混雑するから、それより早くずなるずメチャクチャ早くなっちゃうけど」

「それでもいい。俺は倧䞈倫」

「じゃあ  。六時、でどう」

「ああ、それでいいよ」
 実家にも居堎所がないのだろうか。少しでも早く䌚いたいずいう、焊りのようなものを感じずにはいられなかった。

「了解。それじゃあ、明日の朝六時に、マンションの゚ントランスで」

「うん。  それじゃ、たた明日」
 圭二郎はわたしず理人さんに䞀瀌するず、ゞャケットのポケットに手を突っ蟌み、背䞭を䞞めるようにしお去っお行った。

 姿が芋えなくなったずころで理人さんがぜ぀りず蚀う。
「  おれには、あい぀が心を亡くしおるように芋えた」

「そうですね  」

「マむマむ。明日はあい぀のこず、頌むよ」

「はい。  だけど、どうしお今日初めお䌚った圭二郎をこんなにも想っおくれるんですか 圭二郎が、理人さんの野球郚時代の先茩である本郷祐茔ほんごうゆうすけさんの息子だからですか」

 さっきの理人さんの蚀葉を匕甚しお問うた。しかし予想ずは違う答えが返っおくる。

「䌌おるから  かな。か぀おのおれに。だから、あい぀の氣持ちがなんずなく分かるし、攟っおおけないんだず思う」

「それっお、父に救われたころの  」

「そうそう 野䞊センパむ――マむマむのお父さん――は、荒んでいたおれに寄り添い、理解し、すべおを受け容れおくれた。お陰で改心したんだけど、その恩返しをおれは、お客さんを救うこずで果たしたいんだよね」

 力匷く蚀い切った理人さんが栌奜良く芋えた。
「わたしもその父の遺䌝子を受け継いでいるずいいんですが  」

「倧䞈倫、倧䞈倫。䜕しろ、センパむの野球の胜力は兄さんの方じゃなくお効のマむマむが受け継いだんだから、きっず救う力だっおあるさ」

「本圓に父のこず、尊敬しおるんですね」

「ったり前よ。䜕しろ『神様、仏様、野䞊様』だからな」
 そう蚀っおい぀ものように、パンパンッず顔の前で手を叩いた。
「ううっ   立ち話しおたら寒くなっおきたな。さお、次はマむマむを郚屋たで送ろう」

「  いろいろず、ありがずうございたす」
 深々ず頭を䞋げるず、理人さんは「早く行こうぜ」ず蚀っお先を歩き出した。




3圭二郎

 舞たちず別れたら急に寂しさに襲われた。

早く明日にならないかな  。

 今別れたばかりだずいうのに、俺の頭はこれから䌚う芪のこずではなく、明日のこず  舞のこずしか考えおいない。

 実家に䞀晩泊たるずいっおも、老埌に䞡芪が居を移したここはもはや俺の知る堎所ではない。䟋の瞁談を進めた芪ずは正盎、話すこずなどないが、かずいっお今の俺には垰るべき堎所もない。それを知っおいるから、芪も俺に寝床を提䟛しおくれるのだろう。䜕を蚀われるか分かったものではないが、泊めおくれるだけ有り難いず思うべきなのかもしれない。

 マンションの゚ントランスで郚屋番号を抌し、むンタヌフォンを鳎らす。応じた芪に名前を告げるず、オヌトロックの自動ドアが開いた。䞭に入っお゚レベヌタヌに乗り、芪が䜏む郚屋に向かう。

「お垰り、圭二郎」
 迎えおくれたのは父芪だった。
「飯は食ったの 少しなら甚意があるけど」

「ただ食っおない。食えるず嬉しいかも」

「オヌケヌ。ずりあえず、入れよ」

「うん」
 短い䌚話をし、宀内に入る。

「母さんは  」

「䌚いたくないっお。郚屋に籠もっおる」

「良かった。俺も䌚いたくないから」

「  勘匁しおくれよ」
 父はうんざりした様子でため息を吐いた。

「  っおいうかさ、なんで断っちゃったんだよ いい話だったのに」

「  脅されお決めたこずが、いい話な蚳ないだろ。俺は間違った遞択はしおないず思っおる」

「間違った遞択はしおない、か。  ったく、詩乃しのみたいなこずを蚀いやがる。喧嘩しおおも芪子は芪子だな」

「  っるさい。で、なに食わしおくれるの それ食ったらもう、寝るから」
 こういう䌚話になるこずは分かっおいたが、これ以䞊続ける氣もないので甚件だけ䌝える。

「  お前が来るっお蚀うから、お前の奜きな唐揚げを買っおあるんだ。おれたちじゃ食べきれないから、奜きなだけ食っおっお」

「枩めお食えばいい」

「ああ。適圓にレンチンしお」
 本圓に適圓だな、ず思い぀぀も腹は枛っおいるので蚀われたずおりにする。

「おれも食おうかな。倚めにあっためお」
 暪から父が自分の分も皿にのせ始めた。なんだかノリが野球郚みたいで嫌だったが、反発しお喧嘩になる方がもっず嫌だからそのたた受け容れる。

 その唐揚げずパックご飯、むンスタントの味噌汁ずで簡単な晩飯を枈たせる。
「  普段からこんなの食べおるわけ 元プロ野球遞手が聞いお呆れるな」

「銬鹿。これは非垞食だよ。普段はほずんど倖で枈たせおる。いい店はたくさんあるからな。お前にも玹介しおやりたかったけど、いろいろず郜合が悪いだろ」

「たぁ  。そうだけど  」
 父なりに俺のこずを考えおくれおるのかず思うず、少しだけ感謝の氣持ちが湧いた。

「そういえば、䌚えたの 舞ちゃんに」
 続きを食べようずしたずき、父が劙なこずを聞いおきた。
「今、ワラむバで働いおるっお教えおやったろう だから、䌚ったのかなっお」

 確かに、今日泊たりたい旚を䌝える぀いでに舞の所圚を聞いたには聞いた。しかし、䌚ったこずを正盎に蚀えば、それもそれで厄介なこずになりかねない。䜕しろ、父ずワラむバのマスタヌは高校野球郚で先茩埌茩の関係だからだ。

「いや  。ただ䌚っおない」

「そうか  。たぁ、䌚いづらいよな。お前はあの子を振り回しちゃったんだから」

「    」
 返事をしないで飯の続きを食い始めるず、父が勝手に話を振っおくる。

「  明日の予定は」

「  ない」

「じゃあ、明日の寝るずこは」

「  どこだっおいいだろ」
 心配したいのは分かる。だけど、今の俺には芪の発蚀のすべおがうざかった。

「  ごちそうさた。もう寝るわ」
 出された食事ぞの感謝は䌝える。が、これ以䞊話をしたくなかった。

「  そっちの郚屋を䜿っお。䞀応、垃団だけは敷いおある」

「わかった」
 さみしそうな父を振り切るように、あおがわれた郚屋に入った。




4舞

 六時きっかりに到着したのに、圭二郎はマンションの゚ントランスで既に埅っおいた。その様子から想像するに、かなり前からここにいたのだろう。既にくたびれた顔をしおいる。

「䌚いたかった」

「  いったい䜕時からここにいたの」

「  いこう」
 圭二郎はわたしの問いには答えず、マスクずマフラヌ、キャップで顔を芆い隠すずすぐに歩き出した。





 早朝の駅呚蟺は思いのほか混んでいた。改札に吞い蟌たれおいく人は皆、こんなに朝早くから電車に揺られお出勀するのかず思うず頭が䞋がる。

「意倖ず人、倚いな  」
 圭二郎もぜ぀りず぀ぶやき、たすたす顔を隠した。

「どうする もう少し時間をずらす あるいは、タクシヌ䜿うっお手もあるけど」

「  倧䞈倫。倚分」
 わたしの提案を圭二郎は拒吊した。
「東京方面はずもかく、反察方面なら少しは空いおるんじゃないかな。  ああ、そうだ。子䟛の頃、俺たちきょうだいずそっちの家族ずで䜕床か行った県営の自然公園。あの蟺は人が少ないから、そこに行きたい」

 圭二郎が行きたいず蚀った堎所は、確かにこの駅から出おいる私鉄に乗れば行き着くこずが出来る。公園の区域は開攟されおいるから、早めに぀いおしたっおもすぐに散策できるはず。園内は広いので、人目を氣にするこずもないだろう。

「分かった。じゃあ、自然公園に行こう」
 目的地が決たったずころで改札を抜け、ホヌムに向かう。

 圭二郎の読み通り、確かに䞋り線のホヌムは東京方面行きよりは空いおいた。それでも倚くの人が、次に来る電車に乗るため䞊んで埅っおいる。

 皋なくしお電車が到着する。が、既にそれなりの人数が乗っおいお、K駅からの乗客が乗り蟌むず、満員ずたでは行かないたでもかなり窮屈になっおしたった。

「  満員電車に乗ったこず、ある」

「ない」

 圭二郎は父芪がプロ野球遞手だったので、移動は基本的に芪か、お手䌝いさんの運転する車。ひょっずするず、電車にはほずんど乗ったこずがないんじゃないだろうか。

「初めおの満員電車で、倧䞈倫   無理、しおない  」

「舞がいおくれれば、倧䞈倫  」
 満員に近い車内ず揺れに乗じお圭二郎がわたしの背に腕を回す。しかし、力の入れ方が少し、おかしかった。なんだか、苊しそうな  。

「  次の駅で、䞀旊降りよう」

 隙間のない車内。ドアが開いた瞬間に圭二郎の腕を取り、人をかき分けるようにしおなんずか降りる。乗車する人がわたしたちを䞍審な目で芋たが、構わず人の波を逆行し、空いおいるベンチに圭二郎を座らせる。

「  なんで降りたんだよ。倧䞈倫だっお、蚀っただろう」
 睚んできた目に力はなかった。

「良く蚀うわ。党然倧䞈倫なんかじゃないくせに」

「    」

「蚀いたいこずがあるなら、包み隠さず話しおよ。堎所はどこだっお構わないでしょう」

 急にわたしの前に珟れたり、乗ったこずのない電車に乗っお出かけたいず蚀ったり  。昚日䌚ったずきから、わたしの知る圭二郎の行動ではないず感じおいた。わたしにしか蚀えない悩みがあるのだずしたら、早くそれを打ち明けお欲しい。隠されおいる方がこちらずしおは蟛い。

 圭二郎は顔を䌏せお蚀う。
「満員電車をナメおたのは確かだ。でも、少し䌑めば倚分、倧䞈倫」

「そうは思えないけど」

「  舞。話したいこずはたくさんあるよ。だけど、ただ蚀えばいいっお問題でもないんだ。  分かっおくれ。俺は、これたでしおきたこずの逆がしたい。今はそういう氣持ち。だから、電車にも乗りたいし、自然の倚いずころにも行きたいんだ」

「あぁ、そういうこず  」
 今の発蚀で、圭二郎が奇行に出た理由がなんずなくわかった。だが、もしわたしの想像の通りだずすれば、圭二郎は盞圓、心を病んでいるこずになる。

「  ずにかく、ゆっくり行こう。今日はただ始たったばかりだもの。  もう、そんな姿勢しないの らしくないよ」
 䞞たった背䞭をビシッず叩く。

「いっおぇ  。でも、これぞ、舞っお感じ。今日、䌚う玄束を取り付けられお良かったっお、改めお思うよ」
 盞倉わらず背䞭を䞞めたたた、圭二郎はくすくすず笑った。





 䜕本かやり過ごし、比范的空いおいる電車に乗り蟌む。それでも頻繁に人が乗ったり降りたりしお車内が混雑するので、そのたびに圭二郎の調子が悪くなった。䜕床も乗降を繰り返し、䌑みながら移動する。

「実はわたしもあたり電車は利甚しないんだよね  。もう少し調べおから䌚う時間を決めれば良かった。ごめんね」

「いや、構わないよ。俺が電車に乗りたいっお我が儘を蚀ったんだ。舞は悪くない」

「そう蚀われおも、眪悪感はあるよ」

「  䞀床こう蚀うの、経隓しおみたかったんだ。だから、これでいい」

「  もしかしお、『普通』に憧れおるの」

「そうかもしれないし、違うかもしれない」

「はっきりしないなぁ  」

「  たぁ、あずで話すよ」





 結局、県営の自然公園の最寄り駅に着いたのは九時ちょうど。ずいぶん時間がかかっおしたったが、乗客が枛りだしおからは圭二郎も萜ち着きを取り戻し、顔色も良くなった。これには誰よりも圭二郎自身がホッずしおいる様子だ。

 䞋車した駅の人氣ひずけはたばらだった。䜙裕が出おきたからか、はたたた人の少なさに安心したからか、圭二郎はマスクを倖した。

「ふぅっ  。こい぀を぀けおるず息苊しいんだよな。でも、俺ず氣付かれるのも面倒だし  」

「有名人も楜じゃないんだね」

「そう  。本圓に自由がない。おちおち電車にも乗れない」

「なのに、今日は電車に乗るのにこだわった、ず。『普通』を䜓隓したくお」

「ああ  。だけど、あれはキツいな。毎日乗っおる人の氣が知れない」

「通勀通孊に電車を利甚しおる人はきっず慣れっこだから、キツいずも思っおないんじゃないかな」

「それはそれですごいこずだ」
 圭二郎は肩をすくめたあずで、わたしに右手を差し出した。
「  寒くないか 俺ず手、繋がない」

「  倧䞈倫。ちゃんず手袋もっおきおるし」

「そっか  。それは残念だ」
 圌はもう䞀床肩をすくめ、わたしの䞀歩先を歩き出す。





 県営䞘陵゚スきゅうりょう自然公園は珍しい野鳥が飛来するこずで有名な堎所だ。たた、幎間を通しお季節の花々が芋られるため、老若を問わずカップルや倫婊、家族連れが倚く蚪れる。

「わあ、懐かしいなぁ」

 ほずんど倉わっおいない景芳を芋お、幌少期の蚘憶がよみがえる。子䟛の頃に連れおきおもらったずきは、遊具が蚭眮された広堎で駆けずり回ったり、それこそキャッチボヌルをしたりしお遊んだものだ。

「忙しいうちの芪に代わっお、舞のお父さんが俺たちきょうだいず舞をよくここに連れお来おくれたんだよな」

「そうだね。もっずも、子䟛の䞭で最幎長だったお兄ちゃんは぀いおきた䟋しがなかったけど。  それもそっか。わたしが小䞀の時、お兄ちゃんはもう䞭䞀だったんだもんなぁ」

「そんなに離れおるんだっけ」

「うちのお兄ちゃんは圭二郎の兄そうたさんの二個䞊。圭二郎からするず、四個䞊かな」

「  そっか。でも、あんずきゃ創倪も俺たちず䞀緒に遊んでたけどなぁ」

「たぁ、お兄ちゃんはわたしたちず違っお芞術肌だから」

「翌はそうだよなぁ  」
 圭二郎は兄の顔を思い浮かべおいるのか、空を芋やった。
「  俺も翌みたいに、芪の期埅を裏切るこずが出来おたら人生、違っおたのかな」

「え  」
 思いがけない発蚀に戞惑う。
「プロにたでなっずいお  。実は野球が奜きじゃなかったっお蚀うの」

「奜きは奜きだよ。でも  芪のプレッシャヌなしにここたでやっおきたかず聞かれれば、俺ははっきりずいう。それに、奜きなだけじゃ出来ないのがプロの䞖界だ。俺はそれを、実際に入っおみお痛感した。婚玄もその䞀぀」

「    」
 あたりにも衝撃的な話に蚀葉も出ない。圭二郎は続ける。

「ほかは知らないけど、野球界には特殊なルヌルが存圚する。それに埓っおるや぀は、自分を倱う代わりに生き残るこずが出来るが、反発するや぀は、野球界から攟り出される。そしおそのルヌルの䞭にはスポンサヌの意向が倚分に含たれる。  俺は今回の婚玄のこずで、そのルヌルに埓うこずがずこずん嫌になったんだ。これ以䞊埓っおいたら俺は病んでしたう。だから、自分が操り人圢ず化す前になんずしたかった」

「それで婚玄を取りやめたの  」

「そういうこず  。埌悔はしおない。むしろ、こう蚀う時間を持おるこずに喜びすら感じおる」

「だけど、それじゃあ本圓に球界を远われるこずになるんじゃ  」

「なるかもしれないけど、俺はそれでも構わない。  蚀っただろう 舞が結婚しおくれるなら転職する芚悟もあるっお」

「  わたしを圭二郎の家のこずに巻き蟌みたくないから」

 婚玄䞭の圭二郎に奜きだったこずを告癜したずき、圭二郎もたたわたしを奜いおいたこずを聞かされた。が、想いを告げなかったのは、わたしを野球䞀家の䞀員にしたくなかったからだず  。

「ああ。前にも蚀ったずおり、舞には野球挬けの生掻をさせたくない。俺だっおこれからは野球ず関係ない人生を送りたいず思っおる。俺の人生は俺が決める。そういう぀もりで話しおる」

「野球しかしおこなかった人に䜕が出来るっお蚀うの」

「  それは舞だっお同じだろう 二人で探しおいこうよ。野球以倖に出来るこずを」

 その誘いはずおも魅力的だった。しかし、わたしず圭二郎ずでは、野球を離れようず決意するに至った原因がたるで違う。立堎も違う。簡単に返事などできるはずがなかった。

 そのずき、スマホが振動した。誰かからのメヌルを受信したようだ。

こんなに朝早く、いったい誰だろう  

「あヌ  。ちょっず喉が枇いちゃったな。あそこの自販機で飲み物買っおくるね」
 わたしは前方に芋えた自動販売機たで走り、飲み物を遞びがおら圌に背を向ける栌奜でメヌルをチェックした。

あ、ナヌゞンさんからだ  

 圌はわたしが奜意を寄せおいる゚レキギタリスト。圌の挔奏する姿は本圓に栌奜よく、ほずんど䞀目惚れ状態だった。忙しい圌からはめったに連絡もないのだけれど、今日はどうしたのだろうか。

 䞭身を芋おみるず、今晩の食事のお誘いだった。レッスンも出来るずいう。
食事にレッスン぀き もう   絶察行くし

 しかし今は圭二郎ず䞀緒にいる。わたしは玠早く『です』ずだけ入力し、返信した。

「  誰かにメヌル もしかしお、男」
 圭二郎の声が聞こえた瞬間、背筋が凍った。さっきたで向こうにいたはずなのに、わたしがスマホに意識を向けおいた数十秒の間に移動しおきたのか  。平静を装おうずしたがうたくいかない。

「誀魔化そうったっお無駄だよ。舞は感情がすぐ顔に出るからな」

 今日ほど自分のクセを呪ったこずはない。
「  そうよ」
 玠盎に癜状するこずしか出来なかった。




5圭二郎

「いた、メヌルを送った盞手に぀いお教えおよ」
 興味本䜍で尋ねるず、舞はスマホを抱きかかえるように隠した。

「わたしのプラむベヌトに干枉しないで」

「だけど、知りたい。もし舞がその男に奜意を持っおるんだずしたら俺のラむバルになるわけだからな」

「    」

 舞は少しの間考えおいるようだったが、やがお正盎に話し始める。

「  音村祐仁おずむらゆうじんさんは、わたしが奜きなサザン×のギタリストよ。ラむブを聎きに行ったずきに惚れ蟌んで、ギタヌを教えお欲しいず頌んだらレッスンしおくれるこずになったんで、䞍定期で教えおもらっおるのよ。でも、それだけ」

「ファン、っおこず」

「そ。で、今日も時間が出来たからどう っお蚀うメヌルが入ったからそれに察しおオヌケヌっお返信したの。  問題、ある」

「ぞぇ、舞がギタヌを始めたずは知らなかった」

「元々お兄ちゃんが匟いおるのを芋お興味があったからね」

「あぁ、なるほど。この前もそんなこず、蚀っおたよな」

 この前ずいうのは、舞が俺に自身の想いを䌝えおくれた時のこず。なるほど。俺ぞの思いを断ち切るこずが出来たのは、そのラむブずギタリストがきっかけに違いない。

「  でも、今は俺ず䞀緒にいるんだぜ よそ芋はしないでもらいたいな」
 䞀察䞀で䌚っおいるずきに、ほかの人間に興味を瀺しお欲しくなかった。しかし舞は䞍満げだ。

「  わたしは圭二郎の恋人じゃないわ」

「だけど、奜きでいおくれたのは事実だろう 俺だっお舞が奜きだ。お互いに奜き同士なら、恋人ず蚀っおもいいんじゃない」
 倧袈裟に蚀っおやるず、舞は音がしそうなくらい激しく銖を暪に振った。

「  ねえ、圭二郎。どうしおそんなにわたしにこだわるの わたしの新しい人生を応揎しおくれるっお蚀ったのに」

「  舞しかいないんだよ。俺のこずを理解しおくれる人は」

「そんなこず、ないず思うけど」

「いいや。舞だけだ。俺の家のこずや立堎を理解した䞊で『奜きだ』ず蚀っおくれた人は」

「  そういう盞談ならうっお぀けの人がいる。圭二郎も尊敬する氞江孝倪郎さん。あの人に話しおみるずいいよ」

「えっ、あの鬌の氞江に」

 意倖な人物の登堎に驚きを隠せなかった。氞江孝倪郎ず蚀えば、野球奜きなら誰もが知る名捕手。その手腕から球界には欠かせない存圚ずしお扱われおいた。しかし、四十歳を過ぎた頃から打撃面で衰えが芋え始め、やがお補欠に。それでも代打で打垭に入ったずきはいい球が来るたでファヌルで粘り、高確率で塁に出るずいうプレむスタむルで最埌たで人氣を博した。

 䞀方で、その厳しさず非情さから「鬌の氞江」ずも呌ばれおいた。野球ファンの間でも意芋は分かれ、特に若い女性や子䟛には人氣がなかった。かく蚀う俺も、子䟛心に圌の仏頂面は苊手だった蚘憶がある。

「いや、盞談っお蚀うけど、そんなの絶察無理だろ  」

 党力で吊定するも、「それがそうでも無いのよ」ず舞は蚀う。

「わたし、あの人のお陰で圭二郎ずの倱恋を乗り越えられたんだから。その圭二郎ず今䞀緒にいるっおのはなんだか劙な感芚なんだけどね  」

「理解できない  」

「たぁ、そうだろうね。わたしだっお氞江さんのこずはずっず鬌だず思っおたもの。でも、匕退埌にいろいろあっお今じゃ、すっかり䞞くなっちゃった。あヌ、どうやら氞江さんを倉えるきっかけを䜜ったのはうちのお父さんずお兄ちゃんらしいんだけどね  」

「はぁ   たすたす意味がわかんない。舞のお父さんはずもかく、どうしお翌が氞江さんを倉えるんだ  」
 翌は根っからの野球嫌いだったはず。氞江さんずの共通点なんおあろうはずがない。

「本圓にね  」
 舞もその点に぀いおは同意し぀぀、こう続ける。

「わたしも半信半疑だったんだけど、䞀幎近く䞀緒に暮らしおみお分かった。あんなにも非垞識で、あんなにも真っ正盎に生きおる人たちのそばにいたら誰だっお倉わる  。圭二郎も、氞江さんじゃなくおもお兄ちゃんや同居する悠斗さんず亀流するようになったら絶察に生き方が倉わるよ」

「氞江さん  か。そういえばうちの芪が氞江さんず同じマンションに越した理由、ちゃんず聞いおなかったな。おっきり、䜕も出来ない氞江さんをサポヌトするために぀いおったんだず思っおたけど」

 実は䞡芪は、珟圹時代からずっず氞江さんず同じマンションに䜏んでいる。珟圚はK垂に移り䜏んだが、ここでも、階こそ違えど同じマンションだ。珟圹時代、氞江さんは身の回りのこずをすべお母芪にしおもらっおいたが、その母芪が亡くなったため、俺の母が代わりに圌の䞖話をするようになったず聞いたこずがある。

「最初はそうだったんだず思うよ。だけど、最終的に氞江さんは自立しお、圭二郎の䞡芪ずは違う道を歩み出した。  氞江さんはいた、完党に野球ず関わりのない生掻をしおるから」

「え、そうなんだ  。意倖」
 野球をしおいない氞江さんの姿が党く想像できなかった。

「実家に泊たったのに、聞かなかったの そういう話」

「聞くわけないだろ  。俺が婚玄を解消したもんで、結構怒っおるんだよな。䞀応昚日は泊めおもらえたけど、いい顔はされなかった」

「どうしお」
 舞の質問攻めに少々うんざりしながらも、聞かれたこずに正盎に答える。

「そりゃあ、䞀倧スポンサヌの什嬢ずの瞁談を拒んだんだから、芪ずしおはいろいろ考えるんだろう。今日は顔を合わさないうちに出おきちゃったし、今頃呆れおるんじゃないかな」

「え、黙っお出おきたの  」

「舞ず出かける、なんお蚀えないだろう」

「そりゃあそうかもしれないけど、急にいなくなっちゃったら心配しお  」

「舞。芪は俺の氣持ちなんおこれっぜっちも理解しおないんだよ」
 蟌み䞊げる怒りのたたに、これたで溜め蟌んできた䞍満を爆発させる。

「芪は俺個人の幞せなんおどうでもいいんだよ。事実、婚玄の話を進めたのは芪だったし、それが出䞖のためだ、なんお蚀うんだから、本圓に腹が立぀」

「    」

「婚玄者だっお困っおたよ。芪が勝手に進めた瞁談に。そりゃあお互い、悪い印象は持たなかったし、少しの間䞀緒に暮らしおみおいい人だっおこずは分かったけど、二人ずも芪の操り人圢ずしお生涯生きおくのは嫌だず思った。だから、お互いのためにも芪に反抗し、結婚ずいう契玄を亀わす前にこの関係を解消しようず決めたんだ」

「    」

「創倪にもグチグチ蚀われたよ。お前は銬鹿か。あんなにいい瞁談を断るなんおどうかしおる、っお。知ったこずか。創倪はただ俺に嫉劬しおるだけ。そんなに矚たしかったなら、自分が離婚しお瞁談を受ければいいんだ。  っお蚀うか、どい぀もこい぀も自分の保身ばっかり。それがやばいなっお思う。こんな野球界はもう終わりだず思っおる。  ちょっずしゃべりすぎたかな。ごめん」

 怒りのたたに口を開いたこずを埌悔した。しかし舞は、驚きながらも冷静に返す。

「  ううん。圭二郎を取り巻く環境がそんなこずになっおたなんお知らなかった。婚玄発衚の裏にそんな事情があったなんお。  確かにこんなこず、わたしくらいにしか話せないかもね」

「だろう」

「だけど、それを聞いたずころでわたしなんかじゃ、圭二郎を助けられないよ。盞手がでかすぎる」

「そうかな  。舞には力があるず思っおるけど。そりゃあ組織を盞手にしようず思ったら䞀人の力じゃどうにもならないよ。でも、俺䞀人を助けるだけならなんずかなりそうじゃない 翌が氞江さんを倉えたように」

「   圭二郎の事情は分かった。でも今日はナヌゞンさんず食事の玄束をしちゃったから、倕方たでには垂に戻る」

「じゃあ俺も同垭する」

「は そういう話をしおるんじゃ  」

「俺の倧奜きな舞がどんな男にギタヌの手ほどきを受けおるのか氣になる。それに、舞に圱響を䞎えるような人だ、きっずすごい人物に違いない。だから、䌚っおみたい」

「いやぁ、だけど圭二郎っお音楜奜きだったっけ   䞀緒にいおも぀たらないず思うな  」
 遠回しに「来るな」ず蚀っおいるのが分かった。しかし、こんなこずで匕き䞋がる俺ではない。

「音楜くらい聎くよ。レむカは昔っから奜きだし。ほら、小父さんがカヌステレオでよく流しおくれおたじゃん だから、倧䞈倫」

「倧䞈倫っお  。その䜿い方、間違っおるず思う  」

 舞は呆れるばかりで真意をくみ取っおくれそうになかった。どうやら、婉曲な蚀い方じゃ䌝わらないらしい。匱音は吐きたくなかったが、仕方がない  。

「舞、この際だからはっきり蚀うよ。倕方に舞ず別れおしたったら、俺は本圓にひずりがっちになっおしたうんだよ。垰る堎所すらない。どうしたらいいか、分からないんだ。俺を䞀人にしないでくれ。頌むよ  」

 拝むようにしお頌み蟌んだ。ようやく理解しおくれたのか、舞は「しょうがないわね」ず蚀っお頷く。

「分かった  。そういうこずなら、理人さんに盞談しおみたしょ。昚日䌚ったワラむバの店䞻。あの人ならきっずなんずかしおくれるはず」

「マスタヌに俺の内情を話すっおのか  」

「蚀っおおくけど、わたしなんかよりずヌっず、顔も心も広いんだから。倧䞈倫、あの人の口は本圓に堅いから。  わたしの蚀うこずが信じられない」

 たっすぐに芋぀められおは、嘘でも「信じられない」などず返事をするこずはできなかった。

「  オヌケヌ。舞の蚀葉を信じる」

「よかった」
 俺の蚀葉を聞いた舞はホッずした様子だった。
「  ず蚀っおも、玄束の時間たで䜕時間もある。ずりあえずはここの散策を楜しみたしょう」
 そう蚀っお舞はさっさず先に歩き始めた。

「埅っおよ。  やっぱり手を繋ごう。今だけ、恋人みたいに隣を歩きたい」
 さっきは拒たれたが、もう䞀床申し出おみる。しかし、差し出した手が握られるこずはなかった。




6舞

 玄束の時間にはだいぶ早かったが、理人さんに事情を説明する時間を確保するため、わたしたちは六時にワラむバに到着した。蚳を話すず理人さんはすぐに氞江さんずコンタクトを取っおくれた。

「連絡が぀いたよ。倧䞈倫。行けばすぐに受け容れおくれるはずだよ」

「ありがずうございたす」

「それにしおも、マむマむも倧倉な圹を負っちゃったね。倱恋盞手の面倒を芋る矜目になるなんおさ。垞識じゃあり埗ないよ」

「  確かに。だけど、奇しくも圭二郎のお陰でこの䞀幎、垞識倖れの行動を取るこずにも慣れたので、このくらいはなんおこずありたせんよ」

「なんずいう皮肉」
 理人さんは倧笑いした。





 そうこうしおいるうちに玄束の時間が近づいおきた。閉店間際。店にほかの客がいなくなった䞃時少し前に、ナヌゞンさんはやっおきた。

「こんばんは  。あっ  」

 圌は圭二郎を芋るなり、芋おはいけないものを芋おしたったような顔をした。盎埌に圭二郎が垭を立ち、圌の県前たで近づく。どうやらガンを飛ばしおいるようだ。

 ずがめようずしたずころで理人さんが動く。

「圹者が揃ったな。  たぁたぁ、聞きたいこずは山ほどあるだろうけど、ずりあえずここに座りな」
 理人さんは蚀いながらドアに「CLOSED」の札を掛け、内鍵を閉めた。

「  ナヌゞンさん、ごめんなさい。本圓は二人で食事しお、そのあずでゆっくりレッスンを受けたかったんだけど  」
 圭二郎が蚀うこずを聞かなくお、本圓に申し蚳ない  。最埌の蚀葉は敢えお蚀わなかった。だけど、ナヌゞンさんには䜕も蚀わずずも䌝わったようだ。圌は萜ち着いた様子で圭二郎ず察峙する。

「  確かそっちの人、テレビで芋たこずがありたす。本郷圭二郎さん、ですよね。プロ野球遞手で舞さんの幌なじみの。  あぁ、分かりたしたよ。あなたはオレのファンで、舞さんが今晩䌚うず聞いお぀いおきたんですね それならここにいる理由も分かりたす」

「残念ながら違いたす。舞が若い子ず二人きりで食事に行く玄束をしたず聞いたんで、どんなや぀か芋おみたいず思った。だからここにいるんです」

「どうしおそんなこずを あなたには既に婚玄者がいお、舞さんずはただの幌なじみのはずでしょう」

「俺は舞のこずがずっずずっず奜きでした。だけど、呚囲の圧力が匷く、理䞍尜な婚玄話を受け容れざるを埗なかったんです  。しかし、その婚玄も解消したした。だから俺は、元々の想いを成就させるために舞の元に戻った、ず  。こういうわけです」

 圭二郎も圭二郎で、初察面だからか、幎䞋のナヌゞンさんに察しお䞁寧な口調で問いに答えた。しかし、あたりにも銬鹿正盎に蚀うのでこっちが恥ずかしくなっおしたった。ナヌゞンさんも面食らった様子だったが、怯たずに応じる。

「圧力、ですか  。それが避けられないものだったのだずしおも、そのこずで舞さんを傷぀けたのは事実です。なのに、䜕事もなかったかのように再び舞さんに近づくなんお、虫が良すぎるずは思いたせんか 舞さんだっお迷惑しおるんじゃないですか」

「  どうにもあなたの発蚀は、自分の奜きな女性にちょっかいを出されおやっかんでいるように聞こえる。どうでしょう 俺の読みは間違っおいたすか」

 䞁寧口調ではあるものの、圭二郎は明らかに挑発しおいた。さすがのナヌゞンさんもカチンずきたのだろう。圭二郎をキッず睚み返す。

「いいえ、間違っおはいたせんよ。今床の恋はじっくり暖めおいこうず思っおたけど、あなたの登堎でそうも蚀っおいられなくなりたした。  あなたの読み通り、オレは舞さんが奜きです。舞さんずあなたは幌なじみのようですが、だからずいっお退く぀もりは䞀切ありたせん。あなたがオレの前に立ち塞がるずいうなら、闘うたでです」

ええっ   今、ナヌゞンさん、わたしのこず、す、奜きっお  

 そうだったら嬉しいな、ず思っおいたけど、たさかこんな圢で告癜されるこずになるずは   みるみるうちに赀くなる顔を慌おお隠す。しかし、時既に遅し。圭二郎に錻で笑われおしたった。

「なるほど。舞が俺の目を盗んででもあなたのメヌルに返信した理由が分かりたした。自信が感じられる人ずいうのは魅力的に映る。きっず、ミュヌゞシャンであるこずに誇りを持っおいるのでしょうね」

「じゃあ、諊めおくれたすか」

「そうはいきたせん。こっちだっお人生がかかっおるんです、舞のこずは絶察に諊めない」

「人生  」
 ナヌゞンさんが戞惑っおいるず、理人さんが間に入っお冷静になるよう促す。

「たぁたぁ、圭二郎くん。そうアツくなるなよ。そりゃあマむマむはいい子だし、奜きな女を暪取りされたず思いたくなるのも分かるけど、䞀旊萜ち着こうぜ、なぁ   ああ、むラむラしおるっおこずは腹が枛っおんだろう しゃヌない。今日はマむマむの顔を立おお特別に䞉人分の飯を甚意しおやろう。で、飯を食ったらマむマむ、さっきの話の通り、あの人のずころぞ  」

「はい。  すみたせん、理人さん。ご迷惑をおかけしたす」

「いいっお、いいっお。この店は人助けのためにやっおるようなもんだから」





 ずおも和やかずは蚀いがたい食事を取ったわたしたちは、理人さんずずもに店を出た。

「  あの、先にスタゞオに行っおおください。埌で合流したすから」
 これから向かうのは氞江さん宅。ナヌゞンさんが䞀緒に来る必芁はない。しかし、仲間はずれにされたず思ったのか、圌は「䞀緒に行かせおください」ず食い䞋がった。

「䞀秒でも長く舞さんず䞀緒にいたいんです。お願いしたす」
 圭二郎ず理人さんがそばにいるにもかかわらず、圌はわたしをたっすぐに芋お蚀った。

「䞀緒に来おもらったら おれは構わないけど」
 理人さんは恥ずかしがるわたしを芋おニダニダしながら蚀い、先を歩き出す。わたしは顔を火照らせながら぀いお行く。





 駅前にそびえ立぀マンションたでやっおきた。厳重なセキュリティヌを解陀しおもらい、゚レベヌタヌで最䞊階にたどり着くず、郚屋の前で氞江さんが埅っおいおくれた。

「ああ、センパむ。突然の連絡にもかかわらず、察応しおもらっおすんたせん」

「構わないよ。普段は僕の方が䞖話になっおいるしね。それより  」
 謝る理人さんにそう答えた氞江さんは、すぐに圭二郎を芋た。

「よく来たな、圭二郎。倧たかな事情は倧接クンから聞いたよ。倧䞈倫、君のこずは僕が匕き受ける。䞇が䞀、君の䞡芪が蚪ねおきおも売り枡すようなこずはしないから安心したたえ。もっずも、うちには僕のほかにもう䞀人、面倒くさい男が同居しおるが、䜕を蚀われおも氣にしないで欲しい」

「  その蚀葉、本圓に信じおもいいんですか」
 圭二郎は氞江さんを睚んだ。
「だっおあなたは、『鬌』ず蚀われるほど冷培非情なこずで有名だった人ですよ あなたのしごきで䜕人蟞めおいったこずか  。そんなあなたが、珟圹の遞手である俺に、マスタヌや舞ず同じように接するずは考えにくいのです」

 氞江さんが倉わったこずは事前に説明しおいたが、本人を前にしたら昔の蚘憶がよみがえったのだろう。しかし氞江さんは萜ち着いた様子で答える。

「さすがは珟圹遞手。誰も信じないずいう姿勢。立ち塞がる者はすべお敵。そうやっお闘志をむき出しにしおいなければ生きおいけない䞖界に身を眮いおいる人間なら誰しもがそう蚀うだろう。考え方ずしおは実に正しい。しかし、ずっずその考え方でいるのは危険だ。最埌には完党に孀独になり、自分を芋倱い、最悪、自死を考えるようになる。  僕ず違っお君は賢い。良く立ち止たった。今ならただいくらでも出盎すチャンスがある。僕皋床の人間に助蚀できるかは分からないが、わずかでも君のサポヌトが出来るなら協力させお欲しい」

「あなたは俺の知る氞江さんじゃない  。あの、、、氞江孝倪郎がこんなに優しい蚀葉を掛けおくるはずがない  」

「  人は、倉われる。いく぀からでも。匕退しお久しかった僕ですら倉われたんだ。ただ若い君ならいくらでも倉われる。君の話を聞く。䞀緒に将来に぀いお考えおいこう」

「    」
 優しい蚀葉を掛けられた圭二郎は、野球垜のツバを目深にかぶり盎しお目を䌏せた。肩をふるわせる圌の背䞭を氞江さんが優しく叩く。

「倧接クン。舞クン。埌は任せおくれ。圌の様子は远っお連絡する」

「よろしくお願いしたす」
 わたしたちは深々ず頭を䞋げ、圭二郎を匕き枡した。




7圭二郎

「入りたたえ」

 背䞭を抌され、玄関内に入る。郚屋のドアが閉められ、奥に案内されるず、リビングの゜ファにさっき話しおいた同居人ずおがしき人物がいた。その人が珍獣を芋るかのように俺を芋おくる。

「うわぁ、本圓に本郷の息子の圭二郎だ  」

「    」

「庞平ようぞい、垭を倖しおくれないか。圌のこずは僕が面倒を芋る玄束なんだ」

「そう蚀われおも、氣になるだろ。だっお䞋の階には  」

「庞平」
 同居人の名を呌んだ氞江さんの声は、冷培非情な頃のそれだった。さすがの同居人も恐れを成したのか、「分かった、分かった。俺はこの件には関わらないよ」ずいっお別宀に行っおしたった。

「  氣に障っただろうか。すたない。圌は僕の叀い友人でね。悪いや぀じゃないんだ」

「  いえ。お邪魔しおるのはこっちなので」

「  たぁ、座りたたえ。䜕か飲むか 酒ならいくらでもあるが」

「  結構です。お構いなく」

「遠慮するなよ」
 断ったにもかかわらず、氞江さんはコップず瓶ビヌルを持っおくるず、栓を抜いお勝手に二人分泚いだ。

「さぁ、也杯しよう」

「    」
 ずおもじゃないが、也杯ずいう氣分にはなれなかった。

「毒なんお入っおないよ」

「    」

「  ふヌむ。舞クンにも同垭しおもらえば良かったかな。たぁ、いい」

 頑なな俺に呆れたのか、氞江さんは䞀人でビヌルを飲み始めた。

「  ゎヌルデングラブ賞を取った圭二郎ずは思えないしょがくれぶりだな。ただ䞉十代だろう 衰えを感じるには早いず思うが、そんなふうになっおしたった䞀番の原因はやはり、あの件かな」

「    」

「確か、婚玄者は倧手ハりスメヌカヌのご什嬢だったね」

「元、です」

「ああ、倱瀌  。たぁ、君の掻躍を芋れば、そしお芪きょうだいの人氣を考えればそれにあやかろうずする人間がいおも䞍思議ではない。僕にもたくさんの話があったよ。本圓に嫌になるくらいたくさん  。それが人氣者の定めだ、ずも蚀われた。䜕床も䜕床もね  。僕がスポヌツ甚品メヌカヌのCM出挔以倖すべお断ったのは、蚀わずもがな、君ず同じ理由だ。パヌセント断れば球界にいられなくなるのは分かっおいたから、最䜎限の䟝頌は受けたが、それで通せたのは、僕が普段から無感情か぀冷培に振るたい続けたからだろう。そうそう、瞁談もあったんだが、ぶっきらがうに睚み返しおやったらすぐに匕っ蟌めたよ。君もそうするべきだったね」

「  ずおもじゃないけど、そんな雰囲氣ではありたせんでしたよ。恫喝されたら誰だっお萎瞮しおしたいたす」

「  しかし、䞀床受けた話を君は蹎った。なぜ」

「  舞からの告癜を受けお目が芚めたんです。自分のしたこずで幌なじみの心を傷぀けおしたったのもショックだったし、この先もずっず自分の氣持ちを停っお生きられるのかず自問したずきの答えも『ノヌ』でしたから」

「心に埓っお行動した君の勇氣を称えよう。おそらく話を受けずに最初から断っおいおも君の球界での立堎は悪化しおいたこずだろう。それほどたでにスポンサヌ䌁業ずいうのは暪柄に振る舞うものだ。自分たちが球界を牛耳っおいるず思っおふんぞり返っおいるからね。氣にいらない人間は簡単に切るのさ。そうでなくおも僕らはただの駒。圹に立たないず刀断されれば二軍萜ちや移籍を䜙儀なくされる。こっちの生掻なんおお構いなしだ」

「ですね  」

「球団職員ずしおやっおいく決断が出来る人はただいい。しかし倚くはプラむドが邪魔をしお身動きがずれない。䜕しろ野球しかしおこなかった人間だ。今曎ほかのこずをやるにしおも時間がかかるからね。かく蚀う僕もそうだった。匕退埌は解説の仕事をしおはいたが、それすらも出来なくなったら死のうず思っおた。本氣でね」

「死  ですか」

「でも止められた、野䞊クンに。こんなふうにされお」
 氞江さんは空になったグラスを勢いよく俺に向けた。わずかに残っおいたビヌルが少しこがれ、カヌペットに染みを䜜る。

「舞のお父さんがそんなこずを   倧先茩に向かっお  」

「そのくらい、僕の発蚀や考え方が蚱せなかったんだろう。君も知っおの通り、僕はずっず人を信じられなかったし、野球のない生掻なんお考えられなかったからね  」

「でも今は野球をしおいないず聞きたした  。いったい䜕が  」

「僕のこずを、野球遞手ずしおではなく、䜕者でもない氞江孝倪郎ずしお認めおくれる人たちず出䌚ったからだ。僕は圌らずの亀流を通しお初めお本圓の自分を取り戻すこずが出来た。そしお、そんな圌らず共に生きる䞊で僕に出来るこずは䜕か。懞呜に考えた結果、幌い子䟛たち、そしおその芪や祖父母たちに身䜓を動かすこずの楜しさを教えるのはどうかずいう考えに至った。結局のずころ、僕は野球が奜きずいう以前に、身䜓を動かすこずが奜きなんだ。だから、楜しければ野球にこだわる必芁もない。今ではそう思えるようになった。  君も自問自答しおみるずいい。なぜ野球をしおきたのか。そしおもし蟞めるず決めたなら䜕をしたいのか、ずね」

「    」
 い぀かは真剣に考えなければ、ず思っおいた問題。それを今、目の前の人から蚀われお頭がフル回転する。
「い぀たでに結論を出せばいいですか 期日を  」

「期日なんおもうけないよ。  ず蚀うか、そういう問いが飛び出すあたり、君の頭は固いず蚀わざるを埗ないな。幎長者から『やれ』ず蚀われたらすぐに実行、結果を出さねばならないず思い蟌んでいる。たずはその発想をやめなければね」

「別に、そんなこずを思っおいたわけでは  」

「いいや、無意識のうちにそう思っおいるよ。無論、珟圹の遞手であるうちは仕方がない郚分もあるだろう。しかし、本圓に野球界を抜け出しお新しい人生を歩む぀もりがあるなら倉えなければならない。䜕を蚀われようずも、自分がこうするず決めたこずを実行できるようにならなければいけない」

「決定暩はすべお自分にある、ず蚀うこずですか  」

「ああ、そうだ」

「ええず  。誰かず䞀緒に決めるのではダメですか  」
 俺は舞ず䞀緒に生きおいきたい。だから、これからのこずは舞ず話し合っお決めたい。質問にはそういう意図があったのだが、氞江さんには理解しおもらえなかったようだ。

「盞談するのはいいだろう。しかし、最終決定暩はい぀でも自分にある。盞談盞手ず意芋が䞀臎した堎合でもそれは同じだ。盞手に䟝存しおはいけない」

「    」
 俺がやろうずしおいるこずは䟝存、なのだろうか  。しかし今し方、氞江さんは、すべおの決定暩は「自分」にあるず蚀った。だったら、舞ず生きおいきたいずいう願望は、俺が決めたこずしお扱っおもいいのではないか

 考えおいるず、氞江さんが口を開く。
「君に芋せたいものがある。明日の午埌、僕ず䞀緒にクラブに来たたえ。仲間のこずも玹介しよう。もっずも、そのうちの䞀人はよく知る人物だろうが」

「舞のお父さん、ですか」

「ああ。圌なら力になっおくれるはずだ」

 ただ完党に氞江さんを信じ切るこずは出来なかったが、優しく迎え入れおくれた人に反論するこずも出来なかった。


◇◇◇


 䜓操クラブの䌚堎は、氞江さんの䜏むマンションからほど近いビルの最䞊階フロア。午埌の早い時間、䞻に幌皚園から垰った子䟛を察象に䜓操の指導をしおいるのだずいう。宀内をぐるりず芋回すず、すぐあずで二人の男性が入宀する。

「おはようございた  。っお、圭二郎   なんでお前がここに」

「    」
 小父さん、぀たりは舞のお父さんが俺を芋぀けるなり指をさした。興奮氣味の小父さんを氞江さんがなだめる。

「たぁたぁ、野䞊クン。萜ち着きたたえ。蚳あっお、昚日から僕の郚屋で預かっおいる」

「蚳あっお、っお  。え、もしかしおそれっお、婚玄のこずず関係あるんですか」

「僕から詳现は話せない。しかし、珟圹の遞手がこんなずころにいるずいう時点で察しは぀くだろう。心が病んでる圌を、君の力で救っお欲しい。それで今日はここに連れおきたんだ」

「救うっお蚀っおも  。そういうこずならナりナりの方が埗意なんじゃないですか」
 ナりナりず呌ばれた男性は衚情を曇らせた。

「たた、おれんちっすか  。だけど、舞のあずで圭二郎さんっおのは  」

「じゃあ翌。あい぀なら圭二郎のこずも知っおるし、幎も近いから蚳を聞けば理解も早いんじゃないか」

「どうですかねぇ   ああ芋えお効思いですからね、今回のこずでは結構  圭二郎さんのこずを悪く蚀っおたしたよ」

「そうなのか  」

 䌚話から察するに、「ナりナりさん」は舞や翌ず近しい間柄らしい。そういえば、舞ず二人で䌚ったずきにチラリずそれらしき名前が出おいた氣がする。きっず圌が傷心した舞を癒やしおくれた人物の䞀人なのだろう。

 俺の目の前で、俺の匕受先を抌し぀け合う様を芋おか、今床は氞江さんが眉を顰める。
「君たち。圭二郎を荷物扱いするのはやめたたえ。君たちなら救っおくれるず蚀っおなんずかここぞ連れおきたんだ、僕の立堎も考えおくれ」

「そんなに病んでるのか  。いったい䜕があったっおんだ」

 氞江さんの真剣なたなざしを芋お深刻だず受け取った小父さんは䞀転、寄り添うような態床に倉わった。しかし、問われたからずいっおすぐに話せるような内容ではない。芋知った盞手ずは蚀え、䌚うのは久しぶりなので緊匵もしおいる。

「  小父さん。野球は今でもやりたすか」
 仕方なく、野球を持ち出す。

「たぁ、子䟛に教える皋床には」

「じゃあ、これが終わったらキャッチボヌル、どうですか 子䟛の頃によくやりたしたよね あんな感じで」

 キャッチボヌルをしながらだったら、深刻な話もボヌルず䞀緒に投げられるはず。しかし小父さんは困惑しおいる。

「おれが盞手でいいの せっかくだから、ここは氞江先茩にも来おもらった方が」

「圭二郎が嫌でなければ僕も付き添うこずにしよう」

「かたいたせん、それで」
 互いに玍埗したずころで話は䞀旊終了し、圌らはクラブの準備に取りかかった。





 ナりナりさんは野球はしないらしいが、話の流れからも圌も同行するこずになった。堎所は近隣の公園。最近は子䟛が少ないのか、平日の倕方にもかかわらず遊んでいる子はほずんどいなかった。人がいないこずにひずたず安堵し、互いに距離を取る。

「  野球は奜きです。でも  あの䞖界が嫌いです」
 キャッチボヌルが始たっお数分が経ったずき、俺の口が勝手にそんなこずを蚀った。子䟛の頃、小父さんずキャッチボヌルをしたずきの感じを思いだしたからかもしれない。

「なるほど。プロの䞖界は厳しい、っお蚳だな」
 小父さんは俺の蚀葉を吊定しなかった。
「祐茔は  芪は䜕か蚀っおる」

「なんであんないい話を断ったんだ、ずそればっかりです」

「たぁ、そう蚀うだろうな、芪なら」

「遞手ずしお野球の技を磚け、向䞊心を持ち続けろ、ず蚀われるならただ分かりたす。だけど、生き残るために私生掻をも捧げろずいうのは違うず思ったんです。俺は、野球は仕事でやっおるんです。プラむベヌトたで仕事で固められたら息が詰たっおしたう」

「それは分かる氣がする」

「芪がそうだったから分かるんです。䞡芪ずも野球挬けで、家でも倖でも、どこでもかしこでも芋匵られおる感芚があった。唯䞀、小父さんや舞ず出かけるずきだけが本圓に自由な時間だった。俺はその自由を取り戻したいんです」

「なるほどな」

「今の若者は忍耐力が足りない、なんお蚀うけどそうじゃないんです。䞖の䞭が倱敗を蚱さなくなった。だから俺たち䞖代は子䟛の頃からずっず倱敗しないように生きおきた。そうするこずでしか生きられなかったから。倱敗するくらいならほかの䞖界に行く。忍耐力云々じゃない、それが俺ら䞖代の生き延びる術なんです」

「たぁなぁ  。少し前たでは䌚瀟や組織が個人を守っおくれたけど、今は逆で、個人が倱敗しようものなら䌚瀟はそい぀をすぐに切っお組織のほうを守ろうずする。入瀟圓初からそういう環境にいる若者が䌚瀟に䞍信感を抱くのは圓然だし、たしおや尜くそうなどずは思わないだろうな」

「それを芪は、実力䞻矩の䞖界では圓たり前のこずだず蚀っお理解しおくれないんです。スポヌツでは至極圓然のこずなんだ、ず」

「  今の話聞いお、ナりナりはどう思う」
 俺の長い話を肯定的に受け止めおくれた小父さんは、手を止めお蚀葉のボヌルをナりナりさんに投げた。

「うヌん  。スポヌツ遞手は、䜕もなくおもある皋床の幎霢に達すれば匕退を䜙儀なくされる短呜の職業。ゆえに匕退埌、あるいは退職埌の就職先をサポヌトする仕組みは敎っおいるのでしょうが、今の業界を芋る限り、おそらくその就職先っおのには芞胜界や同業が倚いんでしょう  。圭二郎さんはそれが嫌だ、っお思っおる。そういうふうに感じたんですが」

 ナりナりさんに投げられた蚀葉のボヌルを受け止める。

「そのずおりです。蚀い方は悪いですが、業界党䜓が䜓育䌚系のノリで頭が悪い。頭が悪いから煜おに匱く、最埌にはむむ氣になっお、䜕でもはいはいっお返事しちゃう。操り人圢の完成です。俺はそうなりたくなかった  」

「君は冷静に物事を芋る力がある。君のような人間にこそ、球界に残っお改革しおもらいたいものだが」
 小父さんず亀代した氞江さんがボヌルを俺によこした。球界に残っお  ずいう蚀葉に匷く反論する。

「それなら氞江さんの方がよほど向いおるず思いたすが」

「いやいや、僕は単なる野球銬鹿だから改革なんお出来ないよ。䞀人が頑匵ったずころであの䞖界が簡単に倉わるずは思えないし」

「諊めおるっおこずですか」

「君ず同じだよ。それに氣付かせおもらったからこそ、僕はいた野䞊クンたちずここにいるんだ」

「なるほど  」
 やはり今埌のこずを考えるならあの業界から抜け出すしかないのか。するず小父さんが䞀぀の提案をする。

「野球が奜きだけど組織が嫌だ、ず蚀うならおれや氎沢みずさわ先茩ず䞀緒に  あぁ、圭二郎の芪も含たれおるけど少幎野球チヌムでコヌチをしないか 薄絊だけど、結構楜しいぜ」

「  芪が䞻宰っお時点で氣が乗りたせん」

 昚日氞江さんから聞いた話では、最初こそ氞江さんの䜓操クラブ立ち䞊げに協力しおいたものの、途䞭で考えが倉わり、芪にずっおは先茩にあたる氎沢庞平みずさわようぞいさんずずもに少幎野球チヌムを䜜るに至った、ずのこず。そんな組織に、小父さんの誘いずは蚀え、婚玄のこずでやいのやいの蚀われた俺が加われるずは思えない。

「  じゃあいっそのこず、党く新しい組織を立ち䞊げるっおのは」
 今床はナりナりさんに提案された。

「新しい組織」

「それこそ、『みんながたんなか䜓操クラブ』みたいなものを、圭二郎さんが䜜るんだ。䞭身に぀いおは、おれは野球音痎だから䜕も提案できないけど」

「  新しい組織、ですか」
 これたで俺は、どこかに属するこずしか考えおいなかったから、その提案は新鮮だった。䜓操クラブみたいなもの、ず蚀う発蚀を受けお、さっき芋おきたクラブの様子を思い浮かべる。

「  氞江さんに質問があるのですが、い぀からあんなにも子䟛たちず楜しくふれあえるようになったのですか 珟圹時代も人氣はあったけど、ボヌルにサむンするずきも、ファン感謝デヌで子䟛たちに指導するずきも、あれほどの笑顔は芋せなかった。い぀もどこか䜜ったような顔で、蚀い方は悪いですが、心ここにあらずに芋えたのを芚えおいたす」

「その話をするず長くなるが、質問にだけ答えるならば野䞊クンの孫、たなちゃんず出䌚ったこずがきっかけで僕は、幌い子䟛ず関わる仕事をしようず思うようになったんだ」

「小父さんの孫」

「翌の嚘だよ」
 小父さんが補足しおくれた。

「そんなにすごいんですか、翌の子䟛は」

「うヌん。それを蚀ったら、たなちゃんの母芪のめぐちゃんの方がある意味、すごいかもしれない。なにしろ、氞江先茩が䞀目惚れした盞手だから。ちなみにその子はおれの姪っ子な」

「  家族構成も含めお、なんだか信じられないような話ですね」

「だからこそ、先茩は倉われたんだよ。なぁ、ナりナり」
 話題を振られたナりナりさんは肩をすくめた。

「そうなんですかねぇ おれたちは『普通』に、おれたちの信念に埓っお行動しおるだけですよ」

「倉人に限っお自分のこずを『普通』だず蚀い匵るもんだよ」

「おれたちのこずを倉人呌ばわりするの、やめおくださいよ。そういうニむニむだっおおれたちに感化されおずいぶん倉わったじゃないですか。そこんずこ、お忘れなく」

「  あぁ、たぁ、それは蚀うなっお」

 䌚話を聞いお、振り返れば確かに小父さんも倉わったかもしれない、ず思った。あの頃も優しかったが、やはり圓時は厳しさの方が勝っおいたように思う。それに比べお今はずにかく棘がない。䜕かに぀けおナりナりさんに意芋を求める姿を芋るに぀け、圌ぞの信頌が厚いこずもうかがえる。

 急に、ナりナりさんに興味が湧いた。
「  あの、ナりナりさん。い぀かお宅にお邪魔しおもよろしいでしょうか。翌もいるんですよね 䞀床、どのような暮らしをしおいるのか、拝芋しおみたいのですが」

「ナりナりさんっお  。そういえば自己玹介しおなかったっけ。おれは鈎宮悠斗すずみやゆうず。ナりナりっお呌んでいいのはこの人、、、だけな  」

 圌は名乗ったあずで、苊笑しながら小父さんを指さした。

「倱瀌したした、それでは鈎宮さんずお呌びしたすね  」

「それで頌むよ。  あぁ、うちに来るっお話だけど、それに぀いおはい぀でも来おくれお構わないから。あぁ、だけど最初は孝倪郎さんず䞀緒に来た方がいいかも。いきなり䞀人で蚪ねおきたら翌がビックリしちゃうだろうから。  今は孝倪郎さんのずこで厄介になっおるんだろう」

「ええ  。ず蚀うこずでどうでしょうか」
 鈎宮さんずの話を受けお氞江さんに目配せをする。

「ああ、悠斗クンがいいずいうなら僕はい぀でも連れお行くよ。もっずも、いた圌の家は乳児の䞖話で忙しいはずだから、折を芋お䌺うこずにするよ」

「え、乳児 鈎宮さん、お子さんが  」

「違う違う。翌の二番目の子䟛の話。ただ生埌四ヶ月なんだ」

「あぁ、そうなんですか  」

 家族構成が把握できおいないから、おっきり鈎宮さんの子䟛だず勘違いしおしたった。しかし、よくわからない。鈎宮さんは、翌ずその奥さんず子䟛二人の五人で暮らしおいるのか   それずも鈎宮さん自身の家族も䞀緒に   小父さんが「倉人」呌ばわりしおいたが、いずれにしおも「普通」じゃないのは間違いなさそうだ。

「では、そのうちに䌺いたす。蚪問した際はお䞖話になりたす」

「  お手柔らかに」
 普通にアむコンタクトを取った぀もりなのに、なぜかそんなふうに蚀われた。

「圭二郎、ナりナりのうちに行ったずきはもうちょっず優しい目぀きをしろよ それじゃあ赀ちゃんを泣かすこずになる」
 小父さんに指摘され、自分が鈎宮さんを嚁嚇しおいたこずを知った。

「倧䞈倫さ。冷培非情だった僕でも倉われたんだ。君だっお圌らず過ごせば優しくなれる。僕が保蚌する」
 困惑しおいた俺を、氞江さんが優しくフォロヌしおくれた。




8舞

 圭二郎ず再䌚した週末の晩、わたしは近所に䜏む兄倫婊の家を蚪れた。぀い先日たで居候させおもらっおいたこずもあり、急な蚪問でも圌らは氣持ち良くわたしを迎えおくれた。しかし今日は、顔を芋せるために来たのではない。歓迎しおくれた圌らに申し蚳ない思いを抱きながら、い぀話を切り出したものかず思案する。

「舞ちゃん、遠慮しないで。知っおるず思うけど、急な来客にも察応できるように、普段から料理は倚めに䜜っおあるんだから。今日はその分を舞ちゃんが食べおいいんだよ」

「あ、うん。ありがずう  」

 久しぶりに食べるこの家の手料理。おいしいのは分かっおいるが、なかなか箞が進たない。さすがに芋かねた悠斗さんが声をかけおくれる。

「い぀もの食欲はどうした もしかしお、たた䜕か悩みを抱えおるのか」
 実は悠斗さんは、わたしが倱恋のショックで萜ち蟌んでいた際、いろいろず面倒を芋おくれた人だ。悠斗さんには、今のわたしがそのずきず同じ顔に芋えるのかもしれない。

 話題を振られた今が話すタむミングだず盎感したわたしは、党員が食卓に着くのを埅っお話し始める。

「  先日、圭二郎がお店に来たの。婚玄は解消したから俺ず付き合っおくれっお  」

「はぁっ あい぀、䜕考えおんだ」
 䞀番先に声を荒らげたのは兄だった。
「たさか、オッケヌするはずはないよな」

「するわけないでしょ。䞀幎かけお、やっずやっず、あい぀から受けた傷を治したんだよ なのに今曎付き合っおくれ、なんお  。受け容れられるわけがない」

「なら、攟っおおけばいいじゃん」

「萜ち着け、翌。それが出来ないからこうしおおれたちを頌っおきたんじゃないのか」

 さすがは悠斗さん。感情的になるこずなく、わたしの状況を正確に蚀い圓おた。圌は続ける。

「実は圭二郎さん、蚳あっお今は孝倪郎さん宅で厄介になっおるらしいんだけど、先日䜓操クラブに来おさ。おれ、そこで本人に䌚っおる」

「えっ」

 察面したず聞き、驚きのあたり、腰を浮かせた。悠斗さんは元氎泳コヌチだが、孝倪郎さん䞻宰の䜓操クラブの理念に共感し、子䟛たちに身䜓を動かすこずの楜しさを教えおいる。たさかそこに圭二郎が足を運んだなんお。

「圭二郎は䜕か蚀っおいたしたか」

「いろいろ  」
 悠斗さんは蚀いにくそうにわたしたちを芋回したが、最埌にはゆっくりず口を開く。

「  たた揉めるず思っお翌やめぐにも蚀っおなかったこずだけど、圭二郎さん、うちに来たいっお蚀っおた。我が家のこずを聞いお興味が出たようだ。もっずも、同行する予定の孝倪郎さんが珍しく空氣を読んで、蚪ねる時期は考えるっお蚀っおくれたから、すぐに来るっおこずはなさそうだけど」

「げげっ   たた問題児がうちに来るっおか よりによっお圭二郎かよ 俺、あい぀苊手なんだよなぁ  。あの目぀きが怖くっお」

「それはニむニむも指摘しおた。その目぀きは、赀ちゃん泣かすからやめろっお」

「そうだよ 俺はお断りだね」

「たぁたぁ、翌くん」
 興奮する兄を、奥さんであるめぐちゃんが宥なだめる。
「その、圭二郎さんっお人、䞀床は振った舞ちゃんのずころに戻っおきたっおこずはきっず、よほどの事情があるんだず思うな。うちに来たいっお蚀うなら受け容れおあげようよ。舞ちゃんず同じく、翌くんも幌なじみなんでしょう」

「幌なじみっおほど銎染んでないよ、俺は。本郷家のきょうだいは党員、俺より幎䞋な䞊に身䜓を動かすのが奜き。俺ずはそもそもタむプが違うから」

「でも、知らない仲じゃないでしょ」

「そりゃあそうだけど、プロ野球界のこずを知り尜くしおる孝倪郎さんが間に入っおるなら任せた方がいいず俺は思うけど。俺ら、䞀般人には分からない䞖界なんだろうし  。悠斗はどう思う」

 難色を瀺す兄は、同居人の悠斗さんに意芋を求めた。

「  もし蚪ねおくるようなこずがあれば、おれは受け容れおもいい。ただし、舞のように同居ずいう圢は取らないよ、絶察に。そらもいるし、翌が蚀うように、あの人に芋られるずドキッずするっお蚀うか、なんか居心地が悪かったからな」

「だろう」

 ここに来る前から、兄に話せばこう蚀う反応があるこずは予想しおいた。やはりこれはわたしだけで解決するべき問題だったのかもしれないず、蚪ねたこずを埌悔しかけたずき、

「ファンクラブ  」
 めぐちゃんがぜ぀りず蚀った。

「え、いた、ファンクラブっお  」

「孝倪郎さんがそうだったんだよね。もしかしたら、理人さんから聞いおるかもしれないけど、孝倪郎さんは、野球が出来なくなったら自分に存圚䟡倀はないず思っお人生を終わらせようずしおいたの。だけど、たくさんのファンがいるんだっおこずが分かったら、その人たちのためにもうちょっず生きおみようか、っお思えるようになったらしいんだよね  。圭二郎さんだっお、たくさんのファンがいるんでしょう もしかしたら既にファンクラブくらいあるのかもしれないけど、勝手に『応揎団』的なものを䜜っお応揎するのもアリなんじゃないかなぁっお」

「応揎ず蚀えば  。サザン×のナヌゞンさんが圭二郎のために『応揎歌』を䜜りたいっお蚀っおくれおるんだよね  」

 実は、䞀緒に圭二郎をマンションたで送り届けたあず、圓初の予定通りようやく二人きりになれたわたしたちはしかし、ギタヌレッスンずいう氣分になれず、結局倜の街に繰り出した。だが、そこで話題になったのはやはり圭二郎のこず。䞀緒にいたのはただ奜きだから ず問われたわたしは、疑いを晎らすため、今奜きなのはナヌゞンさんであるこずを正盎に告癜したのだった。

 そう。わたしたちは䞡思いになったのだ。なのに、圭二郎のこずが気掛かりで玠盎に喜ぶこずができない  。そんなわたしを芋かねたナヌゞンさんが提案しおくれたのが「応揎歌」ずいうわけだ。

 せっかく付き合うなら心配事は解消しおからの方がいい  。そう考えたわたしたちは、応揎歌を聎いた圭二郎が再び球界に戻り、ラむバルの座を降りたら正匏に亀際を始めようず玄束しおいる。すぐに仲良くしたいのは山々だけど、この恋は倱敗したくない、成就させたいずの思いも匷かった。

「ぞぇ いいじゃん、それ もしかしお舞ちゃん、匟き語りしちゃうの」

「たさか わたしが協力したずしおも、せいぜい歌詞になりそうな゚ピ゜ヌドを話すくらいかなぁっおがんやり思っおたくらい」

「えヌ、歌っちゃったらいいのに」

「同じ匟き語りするなら、お兄ちゃんの方が  」

「     頌たれおも俺は歌わないからな」

「たぁたぁ、萜ち着けっおみんな」
 堎が盛り䞊がったずころで悠斗さんが冷静になるよう促す。

「ファンクラブっお案だけど、おれもいいず思う。舞は嫌かもしれないけど、圌が䞀番信頌しおいるのはきっず舞だろうし、舞だっお圭二郎さんのこずを攟っおおけないず思うからこそ悩んでるんだろう だったらここは、過去のこずを氎に流しお、幌なじみの再起のために䞀肌脱いでもらうのが䞀番じゃないかず思うんだけど、どうだろう」

 悠斗さんの発蚀を受けおしばし考える。

 喫茶店で働き始めお数ヶ月。その間に䜕人もの氞江孝倪郎ファンがファン専甚スペヌスを蚪れ、感激しながら垰っお行くのを目の圓たりにしおきた。䞭には折良く食事に来た氞江さんに䌚えたファンもいるが、そういう人に限っお話しかけるのも畏れ倚いからず、遠巻きに眺めおは満足そうにしおいる。氞江さん自身も圌らに支えられおいるずいう自芚があるのか、普段通りに食事をしながらも喜んでいるのが衚情から芋お取れる。実に、ファンずの距離感がうたくずれおいるなず感心しおいたずころだった。

 しかし、おそらくこれは氞江さんだから出来る芞圓。圭二郎の性栌䞊、同様の接し方が出来るずは思えない。加えお、ファンクラブを䜜っお応揎したいなどず蚀ったら、調子に乗っおたすたすわたしにラブコヌルしおくる可胜性も充分有り埗る。

「  すぐに返事をするこずは出来たせん」
 正盎に答えた。

「即答出来るなら、最初からここには来おないだろうしな。うん、それでいいず思う」
 悠斗さんはわたしの蚀葉に頷く。
「た、ゆっくり考えればいいさ。倧事な決断ほど時間をかけた方がいい。熟考の末に出した結論なら、そのあず想定倖のこずが起きおも狌狜えるこずはないからな」

「やっぱり悠斗さんの考えを聞くず安心したす。思い切っお蚪ねお正解でした」

「うん。自分の盎感を、思いを信じお行動するこずが䜕よりも倧切。迷ったずきはい぀でも力になっおやるから、第二の我が家ず思っお氣軜に遊びに来おくれよな」
 悠斗さんはそう蚀うず、たるで幌い子にするかのようにわたしの頭をなでた。





 倕食を終え、めぐちゃんが赀ちゃんそらずお颚呂に入る間、わたしは姪っ子のたなちゃんず手遊びやカヌドゲヌムをしお過ごした。その脇では兄がリラックスした様子でギタヌを぀た匟き、そんなわたしたちを悠斗さんが埮笑みながら芋おいる  。

 この、䜕でもない時間こそが幞せなんだず悟ったのは぀い最近のこず。このうちで居候になる前は䞖間ずれした圌らのこずを「倉人」だず思っおいたのに、実際、䞭に入っおみたら、わたしやわたしを取り巻く環境の方が「倉」だったこずに氣付いおしたった。

 それ以来、自分の心身、そしお自分のための時間を倧切にしようず決めお今に至っおいる。おかげさたでこの頃は本圓に調子がよく、朝、起きるのがしんどいず感じるこずもなくなった。ここでの暮らしがわたしを床倉えた。圌らず過ごした日々は最早もはや、わたしの財産ず蚀っおもいいだろう。

 めぐちゃんずそらが颚呂から䞊がり、たなちゃんずの遊びもちょうど䞀段萜したずころでわたしのスマホが鳎った。発信者名をみお思わず「あっ」ず声を䞊げる。

「舞ちゃんったら、わかりやすいなぁ。電話の盞手はあの人、、、でしょ」
 慌おお玄関に向かうわたしを芋ためぐちゃんが、抱っこしおいるそらの背䞭をギタヌに芋立おお匟く仕草をした。

「ち、違うっおばヌ」

 恥ずかしさのあたり吊定するも、めぐちゃんには通甚しなかったようだ。圌女は「ごゆっくりヌ」ず蚀っおわたしを玄関に䞀人、残しおいった。

 わたしは誰もいない堎所で通話ボタンを抌し、火照る頬にスマホを圓おる。
「も、もしもし。出るのが遅くなっおごめんなさい  」

 しかし、反応がなかった。切れおしたったのだろうか。耳から離しお芋るず画面は「通話䞭」になっおいる。
「もしもし  」
 もう䞀床問いかけるず、声ではなくピアノずギタヌの音が聞こえおきた。




右手も ぀なげないたた
君のずなり、歩く
柄み切った倜の空
茝く星は、たるで君の瞳

そっけない返事に
あぁ  。ため息、ひず぀、ふた぀
こんなにも恋しおるっおのに
君は氣づいおいるかな

君がスキ
前の恋さえ忘れるほどに
觊れたい、笑顔がいずしい、あぁ  
ドキ、ドキ
マゞで倢䞭なんだよ
僕の、僕の愛するMy Dear



暪顔、芋぀められずに
君のずなり、歩く
冬の寒空の䞋
君の右手、枩あっためたげたいよ

そっけない態床に
あぁ  。いらだち、ひず぀、ふた぀
こんなにも、溢れおるっおのに
なんで、奜きっお蚀えねぇんだ

君がスキ
怒った顔さえ倩䜿に芋える
カワむむ、玠盎な君に、あぁ  
ドキ、ドキ
マゞで恋しおんだよ
僕の、僕の愛するMy sweet



本氣なんだ、この恋
誓っおこの胞に
次こそ、叶えるんだ
聞いおくれ、僕の歌声を  

君がスキ
前の恋さえ忘れるほどに
觊れたい、笑顔がいずしい、あぁ  

君がスキ
怒った顔さえ倩䜿に芋える
カワむむ、玠盎な君に、あぁ  

ドキドキ
そう、ずっずずっずそばに
僕の、僕の倧奜きなMy lady




 たさか電話越しに歌を聎くこずになるずは思っおもみなかった。驚きず戞惑いを感じおいるず、雑音のあずでナヌゞンさんの普段の声が聞こえる。

『  舞さヌん。今の歌、聞いおくれたしたか』

「え、ええ。もちろん  。だけど、驚いちゃった。ナヌゞンさんがしゃべるず思ったらいきなり音楜ず歌が聞こえたから  」

『いやぁ  。急に舞さんのこずを思い出しちゃっお  。ちょうど職堎の音楜スタゞオにいるので、出来たばかりの曲を披露しようかなっお  。迷惑でしたか  』

「ずんでもない   ええず  。䞀応聞くけど今の歌詞の『君きみ』っお、わ、わ、わたしのこず  」

『もちろんですよ』
 自信たっぷりの発蚀に再び顔が熱くなる。

「あ、ありがずう。すごく嬉しい  」

『良かったヌ、喜んでくれお』
 ナヌゞンさんはホッず息を吐き出した。

「いた職堎にいるっお蚀っおたけど、こんな時間たでお仕事 お疲れ様です。えヌず  メンバヌも近くに」

『あヌ  。すみたせん、先に垰っおもらおうず思ったんっすけど』

『ねぇねぇ、舞さん お兄ちゃんの思い、ちゃんず受け取った 受け取っおくれたよね なんならこのあずお兄ちゃんをそっちに向かわせるから今倜はデヌトしなよヌ。ね』
 ナヌゞンさんの効、セナちゃんらしき声が受話噚から響き枡った。
『アタシたちにも二人の恋を応揎させお。バックで挔奏したのはそういう理由』

 どうりで豪華な挔奏だず思ったらそういうこずか  。セナちゃんのほかにも仲間らしき笑い声が電話の向こう偎から聞こえる。揶揄わないでくださいよ、ず、ナヌゞンさんの照れる声も聞こえた。

『えぇず  。セナはああ蚀っおたけど、そんなに氣にしないで䞋さい。舞さんだっお今日はお仕事だったんでしょう いたから䌚うんじゃ遅くなっちゃいたすもんね  』

「そうだね  」
 返事はしたものの、ナヌゞンさんの口ぶりから、本圓は䌚いたいず思っおくれおいるのが䌝わっおきた。わたしだっおあんな歌を聎かされたら、䌚いたい  。しかし、我が儘を蚀えばせっかくの圌の氣遣いを台無しにしかねない  。そのずき。

「舞  」
 背埌から悠斗さんの声がした。振り向くず同時に鞄を手枡される。
「ナヌゞンからの電話なんだろう そんなずころに突っ立っおないで早く䌚っおこいよ。䌚いたいっお、顔に曞いおある」

「え いやぁ、そういう内容の電話じゃ  」

「隠しおも無駄。電話の内容、ダダ挏れだぜ それに舞のこれたでの様子芋おたらナヌゞンに恋しおるっおこずくらい分かるし」

「で、でも  」
 蚀うか蚀うたいか、䞀瞬悩む。が、悠斗さんに隠し事は出来ないず諊め、玠盎に事情を話す。
「わたしたち、圭二郎のこずが解決するたでは亀際を保留にするず決めたばかりで  」

「ふぅん  。それじゃあお互いに、いたの自分の氣持ちに蓋をしおしたおうず 本圓にそれでいいず思う おれはお勧めしないな  」

「    」
 黙り蟌むず悠斗さんがわたしのスマホを取り䞊げお話し始める。

「ナヌゞン 鈎宮だけど、舞が䌚いたがっおんだ。悪いけど、ちょっくらうちたで来おくんないかな。堎所、分かるだろ 垰りはそうだな  。しゃヌない。おれは男は埌ろに乗せないっお決めおんだけど、特別に途䞭たでバむクで送っおやる。  うん。奜きな女のためなら倜䞭だっお䌚いに来れるだろ   そりゃあ、心配だからに決たっおんだろ 仮にも䞀幎、䞀緒に暮らしおたんだ。舞のこずはもう嚘みたいなもんだよ。  父芪で結構。それで、来るの   ああ、䜕時でもいいよ。埅っおる。それじゃ、たたあずで。  っおこずで、来おもらうこずにしたからここでしばらく埅っおな」

 悠斗さんはわたしにスマホを返しながら蚀った。

「  鞄を持たせたくせに、どうしおここを埅ち合わせ堎所にしたんですか わたしのこず、嚘みたいなものっお蚀っおたしたけど、もう守っおもらうような子䟛じゃないですよ」

 実の父芪を盞手にしおいるかのように反論する。しかし悠斗さんは、想定内だず蚀わんばかりの衚情で返す。

「ナヌゞンず同じ質問しおくるのな  。じゃあ聞くけど、どこなら良かったんだ 圭二郎さんのこずが匕っかかっおるっお蚀っおる奎らがラブホに行くわけないし、そこら蟺で立ち話っおのも倉だろ たぁ、おれの行き぀けのバヌを玹介しおも良かったんだけど、飲んだくれたらそのあずどうなるか分かったもんじゃないし  。っお、おれなりに考えた末の『我が家で埅ち合わせ』だよ」

「そこたで考えお  」

「蚀っただろ 舞のこずが心配だっお。  安心しろ、ナヌゞンが来る頃にはおれ以倖党員、二階で就寝しおるはず。居間は解攟しおやるから、そこで話すずいい。  䞍満」

「いいえ  」

「舞。ここで過ごした䞀幎の間にお前は䜕を孊んだ 自分の氣持ちは倧事にした方がいいぜ」

 悠斗さんに蚀われおハッずする。そうだ。わたしは自分の想いを䌝えずにいたこずで倱恋した倱敗を繰り返すたいず決めたのではなかったか だからこそ、ナヌゞンさんの告癜を受けおではあったけど、自分の玠盎な想いをちゃんず䌝えたし、結果的にナヌゞンさんず思いを確かめ合うこずが出来たのではなかったか 電話がかかっおくる盎前だっおそう。自分のための時間を取るのはやっぱり倧事だず再認識しおいたじゃないか。なのにわたしは、これたでのクセもあり、劙に倧人ぶっおせっかく湧いおきた「䌚いたい」ずいう氣持ちをなかったこずにしようずしおいた  。

「そうですよね  。わたしっおば、緊匵するずすぐに元に戻っちゃう。どんなずきでも自分の氣持ちに埓えるようにならないずいけたせんよね  」

「埓うっお蚀うか、湧いおきた感情のたたに動くこずで本圓の自分が喜ぶんだよ。今の舞なら分かるだろ」

「はい」

「それでいい」

「悠斗さん。い぀もありがずうございたす」
 深々ず頭を䞋げる。

「瀌なんおいらないよ。お前は充分よくやっおるず思う。だからおれはそんな舞を応揎したい。ただそれだけ」

 埮笑んだ悠斗さんは、五十代ずは思えないほどに栌奜良かった。




9圭二郎

 それからしばらくの間、氞江さんの郚屋でほずんどの時間を圌ず䞀緒に過ごした。はじめは俺に関わらないず蚀っおいた同居人の氎沢さんも、䞀日䞀回皋床食事を共にするうちに少しず぀話すようになった。氞江さんの倉化には氎沢さんも驚いたず聞き、どのようにしお「new氞江」を受け容れたのかず尋ねたら、「俺も野䞊に説埗された口でなぁ」ず笑いながら話しおくれた。

「そんなにすごいんですか、小父さんは  」

「おぅ。野䞊は蚀ったよ。孝倪郎が垌死念慮を手攟し、生きおここにいおくれるなら野球から離れたっおいいじゃないか、ず。最初は受け容れがたかった。孝倪郎には野球が絶察に必芁だず思い蟌んでいたからな。でも、そんなこずはなかった。野球ずいう殻を脱いで無防備になった孝倪郎を、野䞊や野䞊の息子倫婊、それから鈎宮さんが受け容れたこずで孝倪郎は『䜕者でもない孝倪郎』ずしお生きる道を獲埗できたずいうわけだ。  芋おの通り、今の孝倪郎は昔ず比べおずっず元氣だろう それはこい぀が自分らしく生きおいるから。それが分かったずき、生たれ倉わったこい぀を受け容れるこずが出来たんだ」

「䜕者でもない  。それは䜕の肩曞きも持たない、ただ生きおいるだけの状態ずいう意味ですか 怖くは  ないんですか」

 氞江さんに問いかけるず、圌はニコニコしながら蚀う。
「信じられないかもしれないが、肩曞きに䟝存しおいる人間の方が恐怖や䞍安を抱えおいるんだよ。でも、僕はその肩曞きに䟝存しない。ここにいる自分、身䜓も魂もすべお、存圚しおいるだけで䟡倀があるず知っおいるからね。その蚌拠に、庞平も野䞊クンも倧接クンも僕が生きおいるこずに喜びを感じおくれおいる。すごいず思わないか ここに存圚しおいるだけで喜んでくれる人がいるんだ」

「  よく、分かりたせん」

「だろうな。こういうこずは誰かの死に立ち䌚ったり呜の危機にさらされたりしなければ理解し難い。しかし、安心したたえ。僕らずいればいずれ分かるようになる」

「    」

「そうは思えない、ず蚀いたげだな。君は肩曞きを倱うのが怖いのかい 怖いず思っおいるならやはり、球界に残る努力をした方がいい。それを捚おお生きるには盞応の芚悟が必芁だからね。若いなら尚曎だ」

 氞江さんは、俺が野球界を去っお舞ず䞀緒に生きるこずなど䞍可胜だず蚀っおいるのか。俺にはその芚悟がないず  

「氞江さんはなぜそんなにも自信があるのですか ただ生きおいるだけの自分にそれほどの䟡倀を芋いだせるのですか 確固たる理由がなければそんなにも堂々ずしおいられるはずがない」

 知りたかった。この人が、存圚しおいるだけでこんなにも匷くいられる理由を。しかし孝倪郎さんは、䜕が可笑しいのか急に笑い出した。

「理由。そんなものはないが、そうだな  。君が理解しやすい䟋を挙げるずするなら、麗華さんの歌だず蚀っおおこうか。聞いたこずはあるかな」

「知っおたすよ。翌ず舞が奜きな歌手ですから。その方の歌が氞江さんを匷くしおいるずいう話ですか」

「圌女の歌に支えられた、が正しいな。珟圹時代は本圓に䞖話になった  。ちなみに麗華さんは庞平の実の姉に圓たる。もし䌚いたければい぀でも䌚うこずが出来るよ」

「え  」

「぀いでにいうず、今はサザン×ずいうバンドでボヌカルをしおいる。こっちの名前の方が君には銎染みがあるかもしれないね」

サザン×  

 驚いた。それは舞のギタヌ講垫が属しおいるバンドじゃないか。出おくる人が次々に繋がっおいく  。これを運呜ず蚀わずしおなんずいう

 動揺する俺を芋お氞江さんは笑った。
「もし興味が湧いたならここに『サザンクロス』のがあるから䞀床聞いおみるずいい。麗華さんが『サザン×』の前に䞉人で掻動しおいた頃の歌が収録されおいる。野心的な歌詞の曲が倚いから氣にいるず思う」

 本棚から取り出された䞀枚の。ゞャケット写真は、レむカずおがしき女性ず二人の男性がギタヌを持っお立っおいるものだった。

「さお  。僕はそろそろ仕事に行かないず」
 をじっず芋぀めおいるず氞江さんは時蚈を芋やった。

「  出来れば圭二郎にも付き合っお欲しいが、それを聞いお埅っおるずいうならそれでも構わないよ」

 正盎な話、クラブの手䌝いはあたり面癜くない。俺自身コヌチをするわけじゃないし、玠性がバレないよう控え宀にいなきゃいけないから息が詰たっお仕方がないのだ。

「  を聎いおいたす。ここにいる方が氣が楜なので」

「分かった。  庞平。圌にプレむダヌを甚意しおやっおくれ。それず、ここから出お行かないように監芖を」

「りょヌかい」
 氎沢さんはすぐに動き始め、郚屋の隅にあったプレむダヌをリビングテヌブルに移動させおくれた。それを芋お安心したのか、氞江さんは支床をするなり出かけおしたった。

 重たいドアが閉たる。ず、動き回っおいた氎沢さんが俺を芋お停止した。
「  孝倪郎にはああ蚀ったけど、聎く氣なんかないんだろ」

「    」
 心䞭を芋抜かれお今床は俺が停止する。氎沢さんはにやりず笑った。

「行きたいんだろう ワラむバ。り゚ヌトレスのあの子に䌚いたいんだろう 顔に曞いおあるぜ」

「    」
 そう思っおいるこずは知られないよう氣を遣っおいた぀もりなのに、なぜ分かっおしたったのだろうか。思わず顔觊るず氎沢さんはたすたす笑った。

「たぁ、行っお䌚える保蚌はないけど、たぁ、ここにいたっおどうせ暇だし、ずりあえず行っおみようぜ」

「だけど、氎沢さんの今日の仕事は  」

「俺は孝倪郎よりスタヌトが䞀時間遅い。今から走っおけば充分行っお垰っおこれる」
 で、行くの 尋ねられた俺はすぐに銖を瞊に振った。





「よぉ。来たぜ」
 氎沢さんが先に店に入り、軜いノリで挚拶をした。

 初めお蚪れたずき同様、ワラむバにはなぜかひずりの客もいなかった。ここの客はよほど察しがいいのか。俺が来るのを事前に知っお来店を控えおいるずしか思えなかった。

「あ、センパむ。いらっしゃい  」
 顔を䞊げた店䞻は最初、笑顔を芋せたが、俺の姿を芋た瞬間に衚情を倉えた。

「  マむマむに甚があるならお生憎様。今は昌䌑憩でいないよ」

「なぁんだ、いねえの せっかく䌚いに来たのに。なぁ」

「    」
 氎沢さんは俺の心䞭を知っおか知らずかそう蚀った埌で「たぁいいや。ずりあえずコヌヒヌ二぀」ず蚀っおカりンタヌ垭に座った。

「コヌヒヌ二぀、ねぇ  。っおいうか、どうしお氎沢みずさわセンパむなの おれが蚗したのは氞江センパむなのに」

「んだよぉ。俺じゃダメな理由でもあるのかよ」

「そりゃあ  」
 店䞻は無蚀で頭を指さした。

「     頭の出来が違うずでも蚀いたいのか   あいっかわらず口が悪いな、倧接は」

「だけど、事実でしょう」

「この野郎  」

「ほらほら、そういうずころですよ  」
 氎沢さんは振り䞊げた拳を指摘され、舌打ちをしながら匕っ蟌めた。

「  たぁいい。お前でも圭二郎の話し盞手にはなるだろう。知っおんだろう こい぀を孝倪郎に蚗したっおこずは、倧たかな経緯くらい」

「そりゃあもう、最初から党郚把握しおたすよ。だからこそ氞江センパむに匕き合わせたんじゃないですか。おれじゃあ圭二郎くんの背負っおるものを半分も請け負えたせんから」

 店䞻はコヌヒヌを淹れながら答えた。

 少しの間、沈黙の時が流れる。その瞬間、店のスピヌカヌからうっすらず音楜が流れおいるのに氣付く。

「  今かかっおいる曲は」

「あぁ、これ 盎接頌み蟌たれちゃっおねぇ。仕方なく野球がシヌズンオフの時限定でサザン×の曲を流すこずにしおんの。ええず  。今流れおるのは確か『矅針盀コンパス』っお曲かな。ひょっずしお圭二郎くん、圌らに興味が」

「    」

「あヌ、ちょうどさっき、孝倪郎から圌らの曲でも聎いたらどうかっお勧められたずころだったんだ。でもそれを聞き入れたふりしおこっそりここぞ来ちたった。なもんで、あんたり長居は出来ねえんだ」
 黙した俺の代わりに氎沢さんが説明しおくれた。

♪ 「頑匵れ、やれば出来る」ったっお
  俺たちゃ限界、やれねえぞ
  心が折れちたう前に
  捚おおしたえ、垞識を  

 歌詞に耳を傟ける。なるほど、氞江さんの蚀っおいたずおり野心的か぀心にしみるフレヌズである。

「この歌を歌っおいる方ずはお知り合いですか」

「䞀応。たぁ、歌詞の通りのこずを普段から口にしおるような人だよ。この、腐りきった囜を倉えたいんだっお蚀っお奔走しおる。それで目の敵にされたこずもあったっぜいけど、めげずに自分を貫いおやっおる。その粟神に感動したもんで、こうしお埮力ながら協力しおるっお蚳。圭二郎くんも䞀床、䌚っお話しおみたら なかなか面癜い人たちだよ。  っお蚀うか、レむカはセンパむのお姉さんじゃん 玹介しおやっおくださいよ」
 興奮気味に語る店䞻を芋た氎沢さんはため息を吐く。

「それ、さっき孝倪郎も同じこずを蚀っおた。たぁ、玹介すんのは構わないけど、䌚わせたずころで姉貎がなんお蚀うか  」

「䌚っおみたいです、その、サザン×さんに」
 身を乗り出すようにしお蚀うず、二人は驚いた顔で互いを芋合った。が、店䞻の方は䜕かを察したのか、盎埌に腕を組んで唞った。

「ちょっず埅お。その発蚀の裏に䜕があるか、おれには分かっちゃったよ。サザン×ずいえば、圭二郎くんはこの前䌚っおるもんな そのうちの䞀人に。だから䌚いたいっお蚀っおんじゃねえの」

「それは理由の䞀぀です」

「ひず぀   っおこずはほかにも理由が」

「さっき、氞江さんの珟圹時代を支えたのは麗華さんの歌だったず䌺いたした。それでに収録されおいる曲を聎いおみたら ず勧められたのですが、せっかくなら盎接䌚っお歌声を聎いおみたい。話をしおみたい。そうすればきっず、氞江さんが今もなお自信を持っお生きおいる理由が分かるず思うんです」

 ただ、知りたい。それだけの理由で䌚いたいず願うのはおかしなこずなのだろうか。店䞻がコヌヒヌを提䟛しながらため息を吐く。

「  いた、持っおる 氞江センパむのファンクラブ䌚員蚌」

「え あ、はい。持っおたすが  」

「ちょっず芋せお」
 蚀われたずおり差し出すず、店䞻は俺の腕を匕っ匵っお氞江孝倪郎のファンクラブ䌚員専甚スペヌスに導いた。

「この前は、ここを芋たいず蚀いながら芋おいかなかったっしょ。氞江孝倪郎のこずが知りたいっお蚀うなら、たずはここを芋お勉匷した方がいいよ」

「    」

「確かに倧接の蚀うずおりだな」
 氎沢さんも、コヌヒヌカップを持ちながらこちらにやっおきお蚀う。
「あい぀は倩才だったから長く掻躍できたわけでも、人柄が奜たれお人氣だったわけでもない。䞭孊の頃からずっず、誰よりも遅くたで居残っお緎習しおるような努力家だったからこそ芋る人に感動を䞎えたし、技巧が認められたし、その名を借りお䞀儲けしおやろうずすり寄っおくる茩をも䞀蹎できたんだず思う。  姉貎の歌はそんなあい぀をちょっずだけ支えたに過ぎないんじゃないか 俺はそう思うぜ」

「  氞江さんが努力家だったこずは知っおいたす。しかし䞀方で自分を远い蟌みすぎお、最終的には死ぬこずばかりを考えおいたのではありたせんか 唯䞀、レむカの曲に支えられお生きおきたけど、それが無かったら今頃は  」

「おい  」
 話の途䞭で氎沢さんが怒りを露わにした。しかしそれを店䞻が制する。

「氎沢みずさわセンパむは氞江孝倪郎のファンだからさ、ちょっずでもあの人を吊定されるのが嫌なんだよ。䜕しろ、䞀緒に暮らしたくなるくらい特別な存圚だからな。そうでしょう、センパむ」

「     お前、俺をなんだず  」

「氞江孝倪郎の倧芪友、でしょ」

「   あぁ、そうだよ。ずっずそばで芋おきたから分かる。あい぀は  死んでもいい぀もりで寝食も忘れお緎習しおたし、それで死んだずしおも構わないず思っおた節がある。䞀応、結果は残せたし今も生きおるからいいけど、䞀歩間違えればもうこの䞖にはいなかったかもしれない  。うん、それはその通りだず思う。だけどな、あい぀が今もしっかり自分の足で立っおいられるのは間違いなくここに残っおるような過去の掻躍があったからだ。努力の軌跡があったからだ  ず俺は思いたい。  圭二郎にはこんなふうに誇れるものがあるか 孝倪郎のように自分が䟡倀ある存圚だず胞を匵っお蚀えるか」

「  俺はそんなに立掟な人間じゃありたせん。だからこそ、氞江さんの匷さの秘密が知りたいんです」

「  知ったからずいっお孝倪郎のようになれるわけじゃない。俺だっおあい぀にはずっず憧れおたし、同じように努力もしおきた。でも、あい぀のようにはなれなかった」

 䞍躟だず思いながらも問うおみる。
「  その理由が、氎沢さんには分かっおいるんですか」

「    」
 氎沢さんは答えなかった。代わりに店䞻が蚀う。

「おれには分かるよ。その差はずばり、ファンがいるかどうか、だ」

「ああ、そうか。それなら俺があい぀に远い぀けなかった理由も分かる」
 店䞻の回答を聞いお氎沢さんはうなずいた。

「あい぀は自分のこずを孀独だず思っおいたようだが、珟圹時代はもちろんのこず、匕退した今でも根匷いファンに支えられおいる。俺らも含めお。それが生きる䞊でどれだけ励みになっおいるかを知ったずき、あい぀は真の匷さ手に入れたんだず思う」

「ファン  」

 そう蚀われ、改めお目の前のショヌケヌスに目をやる。そこに䞊んでいるのは俺も芋たこずがあるナニフォヌムやグラブなどの甚品。䞀点の曇りもないガラスケヌスや手䜜りのパネルを芋るに぀け、店䞻が氞江さんを厇敬しおいるのが分かる。

 だが、なぜそんなにもあの人が愛されるのか、俺には分からなかった。だっお珟圹時代の氞江さんは本圓に冷たい人だったのだから  。

「教えおください。氞江さんの䞀番の魅力っおなんなんです 圌が努力家だずいう意倖にもあるんでしょう」

 氣付けば懇願しおいた。が、こっちは真剣なのになぜか笑われる。
「  䜕が可笑しいんですか」

「お前は遞手ずしおの氞江孝倪郎しか知らないからそう蚀うんだ。俺たちはいたや『䜕者でもない氞江孝倪郎』を知っおいる。この、真っ裞なあい぀を知れば嫌でも奜きに  ファンになるよ」
 氎沢さんはニダニダしながら蚀った。

「  どうしたら知るこずが出来たすか やっぱりその鍵はレむカの歌ですか」

「それはだなぁ  」

「センパむ、ストップ   簡単に教えちゃダメでしょう。ここは本人に考えさせなきゃ」

 店䞻は氎沢さんの蚀葉を遮り、俺に正察した。

「本圓に氞江センパむのこずを知りたいなら自分で探るんだね。そうすりゃ、マむマむずの関係も少しは倉わるかもしれないし」

「え、舞ずの関係  」

「心配しおるよ、あんたのこず。倚分、そのク゜真面目な性栌のたたじゃダメ。男から芋たっおあんたは魅力に欠ける。いずれにしおも自分磚きしないず」

「    」

 自分磚き   そんなこずを蚀われたっおどうやったらそんなこずが出来るのか、さっぱり分からない  。困惑しおいるず、氎沢さんが時蚈を芋やり、慌お始める。

「  おっず、そろそろ戻らないず。孝倪郎が戻る前に垰宅しおおかないずダバい」

 ここを蚪れおから二十分が経ずうずしおいる。マンションの䞀宀たで走っお十五分。確かにそろそろお暇した方が良さそうだ。

 舞には䌚えなかったが、なかなか有意矩な話が出来た。やはりここ、ワラむバは面癜いずころだ。

「マスタヌ。次にここを蚪れるずきには魅力的なや぀だず蚀っおもらえるよう、この埌からでも自分磚きをしおおきたす。今日はいいアドバむスをありがずうございたした」

 脱垜しお深々ず頭を䞋げるず、たたしおも笑われた。
「  それそれ、そういうずころが真面目だっおヌの」

「  それでは、たた」
 もう䞀床頭を䞋げようずしお止め、氎沢さんず店を出た。




10舞

 圭二郎ず理人さんのやりずりを、わたしは店の控え宀でしっかり耳にしおいた。昌䌑憩のため店の奥に䞋がった盎埌だったが、圌らの䌚話が氣になっおしたい、昌食を摂るどころではなくなっおしたったのだ。そのうちに、氞江さんが長く掻躍できたのはファンに支えられおきたからだ、ず蚀う理人さんの蚀葉が聞こえ、いおも立っおもいられなくなった。

圭二郎にだっおファンはいる。そう、ここに   応揎歌だっお䜜るんだから  

 お匁圓もそこそこに、箞を眮いお店の方に足を向けようずした。が、その瞬間に肩を掎たれる。

「出お行かない方がいい。それがお互いのためだよ」

 わたしを匕き留めたのは理人さんの双子の兄、隌人さんだった。顔は理人さんず瓜二぀なのに考え方や行動は正反察、ずいう人だ。

「理人の氣持ちも察しおやっお欲しい。あい぀は、舞さんを守ろうずしおる。双子のがくには手に取るように分かる」

 隌人さんはわたしが飛び出しおいかないよう、正面に回った。
「幌なじみを応揎したいずいう、舞さんの思いも分かるよ。でもね、男っおのは甘やかしたらダメになっちゃう生き物なんだよ。だからここは、心を鬌にしお我慢しよう。そうでなくおも舞さんが奜きなのはあの人じゃなくおナヌゞンさんなんでしょう 氣持ちをごちゃ混ぜにしちゃいけないよ」

「隌人さん  」

「  なんおね。ろくすっぜ恋愛したこずがないがくが蚀っおも説埗力はないけれど」
 圌は肩をすくめ、店の方に身䜓を向けた。
「  どうやら話は終わったようだ」

 同じ方に目をやるず理人さんがこちらにやっおくるずころだった。圌はわたしず目が合うなりため息を吐いた。

「  話、聞いおたよね マむマむがこっちにいお良かったよ。盎接顔を合わせおたらたた面倒くさいこずになっおたはずだもん」

「隌人さんが止めおくれたんです  。それがお互いのためだからっお  」

「あヌ  。さすがは兄貎。こういう時は機転が利くな。サンキュ」

「氣にするな」

「ずころで  」
 面倒くさいず蚀われたや぀の話はおしたいにすべきず分かっおいるが、ちょうどいい機䌚なので「あのこず」を打ち明ける。

「さっき、氞江さんが長く掻躍できたのはファンに支えられおきたからだ、っお話しおたしたよね 実はめぐちゃんの提案で、圭二郎のファンクラブを䜜るのはどうかっおこずになりたしお  。もし良かったら、ファンクラブ䜜りのノりハりを教えおもらえないでしょうか」

「ぞぇ。めぐっちがそんなこずを  。いいじゃん、絶察やるべきだよ。なんならおれが党面的に協力しおもいい。やろう」
 理人さんは腕たくりをしおやる氣をアピヌルした。

「氞江センパむのファンクラブを䜜ろうっお蚀ったずきのこずを思い出すよ。なんだかんだ蚀っお、第䞀線で掻躍しおる人は憧れられる存圚。なのに圓人はそのこずに氣付いおないんだよなぁ。自分がどれだけ芋る人に圱響を䞎えおるかが分かっおない。そういう意味で、ファンクラブっおのは自分の応揎団がどれだけいるかを可芖化できるからいい。ファンクラブを䜜っおやれば、圭二郎くんにも自分の䟡倀が分かるだろう」

「  理人さんっお、実は圭二郎のファンだったりしたす」
 あたりにも熱を入れお語るので぀い、そんなこずを思っおしたったが、答えはどうやら違うようだ。

「前にも蚀ったっしょ あの人は昔のおれに䌌おるっお。  おれにもさ、自分が生きおる意味ずか、䟡倀ずか、そういうのが分からなくなった時期があるんだよ。野球を蟞めちたおうずも思っおた。でも、出来なかった。やっぱりおれは野球が奜きで、それが無いず生きおいけないず再認識できたのは  野䞊センパむの蚀葉があったから」

 理人さんは少し恥ずかしそうに錻の䞋をこすった。

「あの人  あぁ、マむマむのお父さんのこずだけど、前にも蚀ったかな 野䞊センパむは口の悪い埌茩のおれを頌っおくれた唯䞀の人。お陰で自信を取り戻せたし、野球も続けようず思い盎すこずができたんだ。だからっお蚳じゃないけど、圭二郎くんも螏ん匵るためのきっかけがあれば持ち盎せるんじゃないかな そしおそれはファンクラブだずおれは思う」

「぀たり、誰しもが支えを必芁ずしおいるっおこず。それがあるから頑匵れるっおこずさ」
 隌人さんが補足をする。
「その圓時のがくず理人なんお、互いのこずを『消えお欲しい』ず思っおたんだぜ なのに今じゃ、かけがえのないパヌトナヌだ。信じられないだろう でも、そういうものさ。もし䞀人だったら今頃䜕をしおいるか分かったもんじゃない。がくらは支え合っおいる。互いに尊敬もしおいる。だからここで喫茶店を続けられるんだよ」

 二人の話を聞いお思う。わたし自身も䞡芪の応揎のお陰でここたで自分の奜きなこずを――少し前たでは野球を――続けるこずができた、ず。普段は意識しないけど、立ち止たっお人生を振り返れば必ず誰かが自分を支えおくれおいたこずに氣付くものだ。それに感謝できたずき人は成長する。

「自分にはファンがたくさんいるず知ったら、圭二郎は心を取り戻せるのかな  」

「倧䞈倫。信じようぜ」
 理人さんの蚀葉は力匷かった。



11圭二郎

 俺を匕き連れおワラむバから戻った氎沢さんは、すぐに仕事に行く準備を始めた。時間にしお五分。

「それじゃあ、しっかり留守番を頌むぜ」

 俺に察しお䜕の疑いも持っおいない様子の圌は、䞋のきょうだいに蚀い぀けるかのような口調でそう蚀った。頷いた俺は、圌の埌ろ姿を芋送っお内鍵を閉めた。足音が遠のいおいくのを確認し、たずはリビングの゜ファに腰掛ける。

悪いけど、今日はこのたた匕きこもる぀もりはないんだ  。

 さっきのワラむバでの話を聞いおいおも立っおもいられなくなった。氞江さんを倉えたずいう、鈎宮悠斗さんずその家族にどうしおも䌚いたい。䌚っお、どんなふうにしお氞江さんを倉えたのか、その理由を確かめたいのだ。

しかし、これは俺が今、唐突に思い぀いたこず。氞江さんや氎沢さんに聞けば圌らの自宅はすぐに分かったのだろうが、圌らは今䞍圚。かずいっお、今からクラブに顔を出すのも氣が匕ける。では、どうするか。

  翌は幌皚園の先生をしおいるんだったよな。

 ここは䞀か八か、翌が勀める幌皚園を突き止めお蚪ねおみよう。翌ずは幌なじみず蚀えるほど銎染んではいなかったが、芪䞖代よりずっず話しやすい。

 むンタヌネットで「野䞊翌」を怜玢する。するず、垂内のずある幌皚園がヒットした。幞いにしおここから歩いおもいける距離。

「よし  」
 氞江さんが垰っおこないうちにず、急ぎ靎を履いた俺は郚屋を飛び出し、非垞階段を駆け䞋りたのだった。





 幌皚園の堎所はすぐに分かった。しかし、防犯察策がしっかりしおいるために郚倖者は簡単に入れそうもなかった。加えお、迎えの芪らしき女性たちがひっきりなしに出入りしおおり、男の俺は近づき難い雰囲氣だった。

 それでもなんずか䞭に入れないものかず、ガラス匵りの自動ドア越しに䞭を芗く。ず、俺に氣付いた園の先生がこちらに近づいおきた。しかし、なぜか怖い顔で傘を持っおいる。

  俺を䞍審者だず思っおいる

 そう思われおも仕方がなかった。しかし、向こうからドアを開けお出おきおくれるなら奜郜合。蚳を話しお翌ず面䌚させおもらおう。そう思っおいたが、よくよく芋ればその先生は翌その人だった。なんずいう幞運。

 翌は恐る恐る俺に尋ねる。
「どちら様ですか ここは倧事な子䟛たちを預かる堎所。あなたのような人が来るずころじゃ  」

 蚀葉の途䞭で俺に氣付いたのだろう。恐れおいた顔が困惑に倉わる。

「  おい、䜕しに来たんだよ お前はコヌタロヌさんのずころで厄介になっおるはずだろう それずも䜕 舞を探しおここたで来たずか 生憎だけど効はこんなずこにはいないぜ」

「舞を探しに来たわけじゃない。翌ず話がしたくおわざわざ足を運んだんだ。厳重なロックの掛かった玄関を芋お諊めかけたけど、ちょうど良かったよ」

「は 䜕がちょうど良かった、だよ っお蚀うか、䜕で俺なんかに甚事が 舞から䜕か聞いたの」

「いや、聞いたのは氞江さんからだよ。翌があの、、鬌の氞江を倉えた人物だずいうこず、それから歌手のレむカず付き合いがあるこずも。  俺は、冷培非情だった氞江さんがなぜ今のように倉わるこずが出来たのか、その理由が知りたい。でも、芪䞖代は誰も教えおくれないんだ。自分で探せっお、そればっかり  。幎の近い翌ならその答えを教えおくれるんじゃないかず思っお」

「はぁ  」
 䜕か倉なこずを蚀っただろうか。翌はため息を吐いた。

「この件に関しお蚀えば、舞が良識ある人間で良かったず思うよ。お前、人生なめきっおる。お前がホントに他人なら突き攟しおるずころだ。でも、残念ながらそれは出来ない。俺の家族がお前を助けたいず蚀っおるんでね。癪だけど、ちょっずだけ力になっおやろう」

「翌  」

「  䞭に入れ。ただし、顔はしっかり隠しずけ。俺から離れず、口も開くな」
 受け容れられた嬉しさから、俺は玠盎に蚀われたずおり顔を隠し、口を閉じた。





「  䞇が䞀、誰かに尋ねられたら、お前のこずは倉な友達っお玹介する。間違っちゃいないんだから、いいよな」
 俺は黙ったたた頷いた。翌に぀いお行くず、ずある郚屋に通された。おそらくここが翌の担圓するクラスなのだろう。圌は俺が入ったあずで郚屋の鍵を閉めた。

「この䞭でならしゃべっおも良いぜ。ただし、小声でな」

 しゃべっおいいず蚀われおも䜕を話せばいいのやら。ずりあえず、郚屋を芋回す。

「  どうしお俺をここぞ連れおきたんだ たさか、自分の職堎を芋せたかったわけじゃないだろうな」

「その、たさか、、、だけど」

「    」
 黙り蟌むず、翌が壁の方に歩み寄っお「ほら、芋おみろよ」ず指を差した。

「子䟛たちが俺宛おに描いおくれた絵や手玙だよ。䞊手だろう 四月から毎日のように誰かがプレれントしおくれるんで、今じゃ壁が䞀面、埋たっおしたった。これは俺の宝物なんだ」

「  宝物自慢かよ」
 うんざりした。こんなものを芋せるために俺をここぞ連れおきたのか。しかし、俺を芋た翌の方もうんざりした様子でため息を吐いた。

「自慢ず受け取るのは勝手だけど、そうじゃない。これは、俺が子䟛たちに奜かれおる蚌。それをここに掲瀺しおるのは互いの絆を瀺すためだ。勘違いしお欲しくないんだけど、俺の方からこういう物を曞いお欲しいず芁求したこずはない。子䟛たちは玔粋な想いでこれらを枡しおくれる。なぜだか分かるか」

「  お前のこずが奜きなんだろ。今、自分でそう蚀ったんじゃないか」

「その通り。今のを別の蚀葉で蚀おう。子䟛たちは俺のファンなんだ。だから、自分の思いをどうにかしお䌝えたくお手玙を曞く。俺はそれをもらっお喜び、ここに掲瀺する。するず、子䟛たちはさらに嬉しくなっおたすたす俺が奜きになる  。こうしお互いの絆を深め合っおいるのさ」

「  翌たで『ファン』ずいう蚀葉を䜿うのか」
 これは偶然なのだろうか。いや、圌らが繋がっおいお、敢えお「ファン」ずいう蚀葉を䜿っおいるずしか思えなかった。そのキヌワヌドの意味を知りたくお壁の手玙や絵を食い入るように芋぀める。

 五歳前埌の子䟛の絵だから、お䞖蟞にも䞊手いずは蚀えない。だが、そこには翌ぞの思いが凝瞮されおいるず感じた。

「  愛されおるんだな、翌は」
 矚たしくなった。これほどの数のファンレタヌを受け取れる翌が。しかし翌は俺を持ち䞊げおくれる。

「  お前だっおこの幎たで掻躍しおきたじゃん。愛されおるよ、きっず」

「そんなこずはないよ。所詮俺は二䞖だからな  。あの、、本郷祐茔の息子の  が必ず぀いおくる。それが俺の人生。創倪も、あさみも、同じだ。そりゃあ努力はしおきた぀もり。でも、それだけでここたで䞊れたずは䞀ミリも思っおない。そんな俺にファンがいる   んなわけ、ねえだろ  」

 ぀い、愚痎っぜくなっおしたったが、話を聞いおくれそうな雰囲氣だったのでそのたた続ける。

「だいたい、俺に倧䌁業のお偉いさんから結婚話が舞い蟌むこず自䜓、おかしな話なんだよ。始めから俺を利甚するだけ利甚しおやろうっお腹が芋え透いおた。俺に人暩はないのか っお蚀っおやりたかったけど、あの顔で凄たれたずきは断る勇氣が出なくお仕方なく䞀床は話を呑んだ。でも、時間が経おば立぀ほど消化䞍良を起こしお苊しくお  。でも誰にも盞談できなくお  」

「最終的に、あんな圢で婚玄を解消するに至った、ず  」

「  ダサいよな、俺。こんなこずなら始めから断っずきゃ良かったのに」

 そう。俺はずんでもなくダサいこずをした。あの時はあらがえなかったずしおも、こんなふうに埌悔するず分かっおいたら  。

「倧きな存圚に刃向かうのは簡単なこずじゃない。お前はよく決断した方だず思うけど」

「氞江さんも同じこずを蚀っおくれたよ。でも、どうしたっお悔いは残るよ」
 話を聞いおくれた翌はなおもフォロヌしおくれたが、結婚話を受け容れた俺も、それを蹎った俺も栌奜悪くお受け容れられないのだ。だから、こんなずころでくすぶっおる  。

 う぀むいおいるず、翌が俺の顔をのぞき蟌んだ。
「  お前、この埌の予定、ある」

「  予定なんかないよ。今は自宅埅機䞭の身。  っお蚀ったっお、婚玄者ず䜏む予定だった家も、寮も出た俺に䜏む堎所なんおないんだけどさ」

「なら、今倜はうちで飯食っおけよ。コヌタロヌさんにも来おもらおう。みんなでわいわい蚀いながら食事しようぜ」

 枡りに船ずはこのこずを蚀うのだろう。翌の家に行きたいずは思っおいたが、たさかあちらから誘っおくれるずは。しかし、本圓にいいのだろうか  

「  だけど、翌んずこには赀ちゃんがいるっお聞いたよ。俺が睚んだら赀ちゃんを泣かすから行くなっお、小父さんに止められおる」

「小父さんっお、父さんのこず そんなの、氣にすんなよ。家䞻の俺が良いっお蚀っおんだぜ 悠斗もめぐちゃんも歓迎するっお蚀っおる。だから遠慮すんな」

「翌  。ありがずう  」
 圌の優しさに感動した俺は、脱垜しお深々ず頭を䞋げた。

「おい、さっさず垜子をかぶれ。身バレしたらダバいんじゃないの」

「倧䞈倫  。翌ず話しおたら、なんだかそう蚀うの、どうでも良くなっおきた」
 急に心が軜くなった氣がした。垜子をかぶり盎しながら蚀う。
「確かに、氞江さんの蚀っおいたずおり、翌には特別な力を感じるよ。  仕事が終わるたで俺はどうしおれば良い ここで埅機しおいればいいか」

「銬鹿。こんなずこにいおどうする 話はたずたったんだ、今日はもう䞊がるよ。子䟛が出来おからは残業しない䞻矩でね。  っお蚀うかお前、ここたで䜕で来たの 電車  なわけないよな」

「運動がおら歩いおここたで。  実は、野䞊翌が勀務しおる幌皚園を探し圓おお勝手に郚屋を抜け出しお来たんだ」

「げげっ  。もしかしおネットで怜玢したの 確かに幌皚園のホヌムペヌゞには教垫の䞀人ずしお俺が玹介されおるけど、そこたでしお䌚いたかったわけ」

「本圓は鈎宮さんの家を蚪ねたかったんだけど䜏所を知らないし、かずいっお氞江さんに聞けば理由を尋ねられおしたう。内緒で蚪問するには翌の職堎に突撃するしかなかった」

 呆れおいるのが分かった。翌は手のひらを倩に向けた埌で時蚈を芋やった。
「  っおいうか、もうコヌタロヌさんは仕事を終えおる頃じゃね 郚屋に戻っおいなかったんじゃ、絶察心配するだろ。たずは連絡を入れないず。  内緒で出おくるなんお。コヌタロヌさんのこずが怖いの」

「  䜕しろ盞手は球界の倧埡所だからな。そんな人が䞖話しおくれるっおるだけでも恐瞮なのに、あれがしたいこれがしたいなんお蚀えないよ」

「  だけど、蚀われたずおり郚屋に匕きこもる぀もりもないわけだろ やっおるこずが子䟛ずおんなじだ。幌皚」

「幌皚、か  」
 その通りだず思ったら笑えおきた。
「だったら尚曎、翌の䞖話になった方がいい氣がしおきた。だっお翌は幌皚園の先生。その道のプロだもんな」

「悪いけど、ひげの生えた子䟛は専門倖だよ」

「え  」
 思わずマスク越しに無粟ひげを觊る。が、たたしおも翌に呆れられた。
「ったく。冗談も通じないなんお。たずはここから鍛えないずいけないみたいだな  」





 俺が埒歩で園たでいっおしたったので、バむク通勀の翌には悪いが電車を利甚しお圌の自宅に向かうこずにした。

 家に着くず既に氞江さんが到着しおおり、俺たちを迎えおくれた。留守を預かっおいた俺が勝手に郚屋を抜け出したのだから、さぞかし怒っおいるだろうず思ったのに、その衚情は非垞に穏やかだった。圌はにこやかに蚀う。

「僕もそうだが、これで君はもう、翌クンに頭が䞊がらなくなったよ。ここに来たら最埌、たずっおきた鎧や仮面はすべお剥がされおしたう。そしお䜕者でもない自分を嫌でも芋ざるを埗なくなる。最初は苊しく感じるかもしれないが、千本ノックを受けおるず思っお乗り越えお欲しい」

「千本ノック  」
 それを聞いお、やはりこの人は鬌だず思いかけたが、この家の䞻、鈎宮さんがフォロヌを入れる。

「孝倪郎さん、そんなふうに脅しちゃ可哀想ですよ。  ほら、突っ立っおないで䞊がれよ。飯は甚意しおあるからさ」
 圌が堎をずりたずめ、俺を居間に通しおくれる。

 食卓䞀杯に䞊んだ食事ずビヌルゞョッキを芋お、幌少期に翌䞀家ず食卓を囲んだ頃のこずを思い出す。

なんか、懐かしいな。この感じ  。

 ちょろちょろず走り回る女の子が、幌い頃の舞ず重なる。思わず手を差し出したら「むダッ」ず避けられおしたった。

「たな。圭二郎さんはパパのお友達なんだから、倧䞈倫よ」

 翌の奥さんが子䟛に声をかけるが、たなず呌ばれた女の子は遠く離れたずころから俺をじっず芋぀めお蚀う。

「ホントにパパのお友だち   その人、䜕考えおるかわかんないから怖い。心がくもっおお䜕にも芋えないんだもん」

「    」
 俺をはじめ、その堎に居た党員が蚀葉を倱った。数秒の沈黙ののち、翌が女の子に歩み寄っお抱き䞊げる。

「たなには誰も嘘が぀けないな。ああ、その通り。圭二郎はちょっずばっかし心が病氣でさ。それで、みんなしお元氣づけおやろうっおこずでご飯に招埅したんだよ」

「病氣だから心がくもっお芋えたのかぁ。それならナットク でも、やっぱりちょっず怖いから、パパのおひざでご飯食べおもいい」

「もちろん、いいよ」
 安心したらしい女の子はようやく笑顔を芋せ、翌ず䞀緒に食卓に着いた。

「いただきたす」
 党員で手を合わせる。ここたでは普段ず倉わらないが、男ばかりの環境で䜕も考えず食事を摂っおきた俺にずっお、䌚話をしながら和気藹々ず摂る食事颚景はあたりにも新鮮だった。

「  よく、食べながら䌚話が出来るな。俺には無理だ」
 隣に座っおいる翌に耳打ちをしたら笑われた。

「いやいや、耳の穎はい぀でも空いおるんだから、聞こえた䌚話に応答すりゃいいだけのこずだろ」

「食うのに集䞭しおんだぜ それでどうしお返事が出来るんだよ」

「  お前、案倖䞍噚甚なのなヌ」

「集䞭力があるず蚀っお欲しいな。このくらいの集䞭力がないず球の動きに察応できない」

「  だからっお、飯くらいもっずリラックスしお食えよ。誰も暪取りなんかしないんだからさヌ」

 こんなやりずりをしおいたら、今床は氞江さんが倧口を開けお笑いはじめた。しかも、ツボにはたったのかい぀たでも笑っおいる  。

「あの、鬌の氞江が  」
 驚きのあたり、俺の方は違う意味で開いた口が塞がらなかった。するず、いきなり暪からビヌルゞョッキが珟れる。差し出したのは同居人の鈎宮さんだった。俺ず目が合うなり、にやりず笑う。

「酒、飲めるだろ 也杯しようぜ、也杯」

「あ、はい  」

「おい、぀たんない顔で也杯は無しだぜ。ほら、孝倪郎さんみたいに笑えよ。ヘヌむ、圭二郎くん、我が家ぞようこそ。っおこずで、カンパヌむ」

 鈎宮さんが音頭を取るず、翌ず氞江さんもゞョッキを掲げ、杯を亀わした。男性陣が揃っおうたそうにビヌルを口にする姿を芋おようやく実感が湧く。

  もしかしお俺、歓迎されおる

 ビヌルに口を぀けず、感極たっおいるず案の定、鈎宮さんに突かれる。
「酒、飲めないの それならそうず蚀っおくれよ。ゞュヌスもあるぜ」

「いえ、飲めたす  」
 蟌み䞊げるものを抌し戻すようにビヌルを䞀氣飲みする。ビヌルが胞に぀かえおいたものをも胃に流し蟌んでくれた氣がした。

「  うたい。マゞで旚いっす。お替わり、もらえたすか」
 空いたグラスを差し出すず、倧人たちは笑みを浮かべながら互いに顔を芋合わせた。

「ふっ  。どうやら君の分厚い仮面が䞀枚、剥がれたようだな。うん、それでいい」
 氞江さんが嬉しそうに頷いた。
「どうだ 千本ノックを受けおいる氣分は」

「  ただただ、いけたす。続けおください。お願いしたす」

「盞倉わらず真面目だな、君は。それでは望み通り、しごきを続けるこずにしよう」
 氞江さんはそう蚀うず、逃がさないぞずばかりに俺の肩を力匷く掎んだのだった。





 翌たちの歓迎を受け、しこたた酒を飲んだ垰り道。俺は氞江さんず䞀緒にふら぀きながら歩いおいた。かなり冷え蟌んでいたが、酒が回っおいるせいか寒いずは感じず、途䞭たでマフラヌずキャップを忘れおきたこずに氣が぀かなかったほどだ。町䞭をうろ぀く時はそれらずマスクで顔を隠さなければ萜ち着かない性分だったのに、䞀床圌らず食事をしただけでこうも感芚が倉わっおしたうずは。

「僕は最初から君の忘れ物に氣付いおいたけどね」
 マフラヌのこずを話すず、氞江さんは意地悪そうに笑いながら蚀った。

「氣付いおいたなら教えおくださいよ」

「いいじゃないか。これでたた圌らの家に行く口実が出来たんだから。君の様子を芋る限り、圌らずの亀流を楜しんでいるように芋えた。今だっお、苊手意識を抱いおいたであろう僕ず氣楜に話しおいる。䜕床も通っお、圌らからいい圱響を受ければいい。いや、既にずいぶん圱響されおいるか。玠顔で歩いおいるんだもんな。どうだい 仮面を倖した氣分は」

「  すがすがしいです」

「だろう」
 圌は俺の返答に満足したのか、陜氣に笑った。
「君は真面目すぎたよ。故にここたで䞊り詰めおきたずも蚀えるわけだが、それに疲れおしたったのならそろそろ真面目人間の仮面を倖しおもいいだろう。君が新しいこずを成そうず声を䞊げ、協力を求めれば、倚くの人が君の元に集う。それだけの力が君にはあるのだから」

「  そうでしょうか。自信がありたせん」

 昌間に「ワラむバ」の店䞻ず氎沢さんから蚀われこずを思い出す。

「俺、ワラむバのマスタヌに蚀われたんです。お前は魅力に欠ける、自分磚きをしろず。しかし、肝心の磚き方が分からない。それで鈎宮さんを頌ろうず思ったんです」

「倧接クンがそんなこずを  。なるほど、圌らしいアドバむスだな。そしおよく君のこずを芋おいる」

「  それじゃあやっぱり俺には魅力がないんですね。そんな俺に、氞江さんが蚀うような人望なんおないですよ」

 吊定を繰り返す俺に呆れたのか、氞江さんは少し考えた埌でポケットからスマホを取り出し、誰かに電話をかけ始めた。

「  ああ、すたない。明日の午前䞭なんだが、僕に付き合っおくれないかな。圭二郎を救うために䞀肌脱いでもらいたいんだ。  実はさっきたで翌クンたちず䞀緒に倕食を共にしおいおね。そのずきは良かったんだが、圌らの家から離れれば離れるほどに以前の圌に戻っおしたう。こうなったら次は君に力を借りるしかないなず  。堎所は䟋の運動公園がいいず思う。そこで萜ち合おう。  うん、早ければ早いほどいいね。持ち物はボヌルずグラブがあれば十分。バットは僕が持っお行く。  ああ、頌りにしおいるよ。それじゃあ、たた明日」

「  あのヌ。䞀䜓誰に電話を」

「舞クンのお父さんだよ。今日はもう遅いし、僕らは飲んでしたっおいるから、明日の朝に䌚えるよう頌んでおいた」

「  野球をするんですか だけど、俺  」

「僕の千本ノックはただ終わっおいないよ。ただただいけるず蚀ったのは君ではなかったかな」

「    」
 酔った勢いで攟った自分の蚀葉を呪った。


◇◇◇


 ただ寝おいたかったのに、いきなり郚屋のドアずカヌテンが開けられた。慌おお飛び起きお時蚈を芋るず、䞃時少し前だった。

「い぀たで寝おいる 昚日の蚀葉を忘れたわけではあるたいな」

「昚日  」

「千本ノックの続きをするずいう話だ」
 氞江さんの、ドスの利いた声を聞いおゟクッずする。

「あ、はい。すぐに支床したす  」
 恐れを成しお行動を開始した俺を芋た氞江さんは笑った。

「ゆっくりで構わないよ。野䞊クンには、君の身支床が調い次第、集合時間を䌝える぀もりだからね」

 氞江さんが俺を揶揄うためにわざず怖い顔で入宀したのだず知る。

「  いえ、すぐに支床したす」

「盞倉わらず真面目だな、君は。もっず肩の力を抜きたたえ」
 氞江さんはもう䞀床笑っお俺の䞡肩に手を眮いた。
 





 簡単な朝食を枈たせ、ランニングをしながら小父さんず萜ち合う予定の運動公園に向かう。小父さんは、俺たちが近くたで行くず駐車堎に停めおあった車から出おきお手を挙げた。

「ったく  。翌のずころに行くのは早いっお蚀ったのに」
 いきなり愚痎をこがされた。しかし氞江さんがフォロヌする。

「鈎宮家に行った経緯は远々話すが、結果的には䜕も問題はなかったよ。翌クンや悠斗クンが䞊手くいなしおくれた。やっぱり圌らはさすがだね」

「そうでしたか  。しかし効果は䞀時的だったようですね」

「ああ。倕べ電話しお垰宅した埌なんお、郚屋に匕きこもったきり出おこなかったからな。朝になっおもそんなだから無理やり匕っ匵り出しおきたんだよ」

「それでこんなにも䞍機嫌そうなのか  。しっかし、䞀肌脱いで欲しいず蚀われおやるこずが野球なんだから、先茩も意地悪だよなぁ」

「意地悪なものか。僕は圭二郎のこずを思っお、敢えお野球ずいう察話法を遞んだたでだよ」

「あヌ  。氎沢みずさわ先茩の時もそうでしたよね。野球で察話。なるほど確かに、そういうこずなら理解できたす」

 詳しいこずは分からないが、どうやら今から野球を通しおの察話が始たるらしい。

「  本圓に千本ノックをする぀もりなんですか」

「それは比喩だよ。今から僕ず野䞊クンずでバッテリヌを組み、君は来た球を打぀。それを、僕がいいず蚀うたで繰り返すんだ」

「え 小父さんがピッチャヌ」

「その反応から察するに、初耳かな 実は圌は君のお父さんずピッチャヌのポゞション争いをしたこずがあるんだよ。最終的にピッチャヌにはならなかったが玠質は充分。庞平がごちゃごちゃ蚀っおきたずきも、圌の芋事な投球であい぀を䞉振に打ち取っおいる」

「いやヌ、あれは盞手が同幎代の氎沢みずさわ先茩だったから䞉振に打ち取れたのであっお、珟圹の圭二郎盞手じゃさすがに  」

「やっおみなければ分からないだろう さぁ、始めよう」





 蚀われるがたたバッタヌボックスに立ち、小父さんず向き合う。キャッチボヌルをしたこずは䜕床もあるが、こういう圢で向き合うのは初めおかもしれない。ピッチャヌマりンドに立぀小父さんの衚情がい぀もよりキリリずしお芋えた。

 投げられた球に照準を合わせる。プロの速い球に目が慣れおいるせいか、小父さんの投げるスロヌボヌルに初球はタむミングを厩される。が、䞀球芋送った埌の䞉球目。球筋を読み切っおあわやホヌムランずいう球を打ち返すこずができた。

「うわぁ、さっすが  」

「野䞊クン、感心しおいる堎合じゃないぞ。どんどん投げおくれ」

「はい」
 䞀球打ち返したくらいじゃ、氞江さんは認めおくれないようだ。結局氞江さんが持参した球がすべおなくなるたでバッティング緎習は繰り返された。

「ひえ、もう無理」
 小父さんはヘロヘロっずその堎に腰を䞋ろした。そこぞ氞江さんが歩み寄る。

「ご苊劎。君のお陰でいい汗を流すこずができたよ」

「え 汗」

「芋たたえ、圭二郎のすがすがしい顔を」
 蚀われた小父さんがピッチャヌマりンドから俺を芋る。

「ああ、本圓だ。確かにいい顔をしおる。なるほど、先茩の目的がようやく分かりたしたよ」

「あのヌ  。俺の顔、そんなに倉わりたしたか」
 あたりにもじっず芋られるので顔をそらしたが、逞らした先に氞江さんが回っおきお目を合わせようずした。

「今、どんな氣分だ」

「  ほどよく身䜓を動かせた氣持ちよさず、初めお小父さんずやり合えた満足感ずで心は穏やかです」

「だろう 勝負事から降りお、ただ野球を楜しむこずができたずきは決たっおそういう感想になる。君は野球が嫌いなわけじゃない。今日はそれを実感できたんじゃないか」

「  そうですね」

「いた君はプロ野球遞手ではなく、䜕者でもない本郷圭二郎ずしおここにいる。そしお玔粋に野球を楜しんだ。その感芚を忘れないこずだ」

「  それは、どういう」

「今の心の軜さを感じるんだ。そのニュヌトラルな心の状態を芚えおおくこず。  今、䞀番やっおみたいこずは䜕かな なんでもいい、思い぀くたたに蚀っおみたたえ」

「急にそんなこずを蚀われおも  」
 しかし黙っおいるこずは蚱されない雰囲氣だったので䞀生懞呜考える。その時、䞍芚にも腹の虫が鳎いた。

「  ああ、そうだ。小母さんが握ったおむすびが食べたい。昔、よく䜜っおもらったや぀」
 蚀っおお子䟛じみおいるなず思ったが、二人は顔を芋合わせお埮笑んだ。

「それでいい。野䞊クン、頌めるかな」

「そういうこずなら早速連絡しお、準備しおおいおもらいたす」

「え、でも  。いいんですか」

「䜕蚀っおんだよ。今も昔も、飯が食いたいっお蚀えば駒こたっちゃんはい぀だっおすぐに炊いおくれる。野球人が倧飯食らいなのはよヌく知っおるからな」






 その足で小父さんの家に向かう。到着しお䞭に入るなり、米の炊けるいい匂いがした。

「お久しぶりね、圭けいちゃん。䌚うのは䜕幎ぶりかしら」
 玄関に顔を出した小母さんは、最埌に䌚ったずきよりもずっずぜっちゃりしおいたが、おっずりした口調ず笑顔は昔のたただった。

「あたしのご飯が食べたいっお蚀っおくれお本圓に嬉しい。もう少しで炊き䞊がるから埅っおいおね。座っおいる間に、『䜕結なにむすび』がいいか考えおおいおちょうだいな」

「あ、はい  」

「えヌ 本圓に圭ちゃん 昔はもっず元氣よく返事をしおくれたのに」

「駒っちゃんの飯食ったら倚分、元氣になるよ。倧䞈倫だよ、なぁ」

「あ、はい  」

 同じ返事を繰り返したのがいけなかったのか、小父さんも小母さんも声を䞊げお笑った。





 皋なくしお炊飯が終わり、頌んでおいた梅干しおにぎりが食卓に䞊ぶ。
「圭ちゃんは確か、爆匟みたいにノリを党䜓に巻くのが奜きだったわね」

「よく、芚えおいたすね  」

「さぁ、召し䞊がれ。オゞさんたちもどうぞ」
 倧皿に䞊んだおにぎりの䞀぀を手に取り、口に運ぶ。その味は昔ず党く倉わらなかった。自家補の塩分たっぷりの梅干しが懐かしい。

 梅干しの果肉ず米を噛んでいるうちに、どういうわけか巊目から䞀筋の涙がこがれ萜ちた。戞惑っおいるず今床は反察からも雫が萜ちる。慌おお顔を䌏せるが涙は止たらない。

 そこぞ小父さんからティッシュ箱が差し出される。
「す、すみたせん  」

「謝るこずはないよ。泣きたいずきは泣けばいいんだっおさ。カりンセラヌやっおるおれの匟が蚀っおたぜ」

「でも、こんなこずで泣くなんお  」

「こんなこず  ず君は蚀うが、僕だっおうたい飯に心を動かされたこずはあるよ。泣くほど旚かったなら玠盎に泣くずいい。倧䞈倫。ここには君の涙を笑ったりさげすんだりする人間はいないよ」

「    」
 氞江さんの蚀葉が刺激ずなったのか、我慢しようにも涙が止めどなくあふれ出おきた。

「どうしお  。どうしおこんなにも良くしおくれるんですか。こんな俺に優しくしおくれるんですか  」

「それはね、みんなあなたのこずが奜きだからよ」

「そうそう。攟っおおけないんだよなぁ」
 声を絞り出すように問うず、小母さんず小父さんが優しく答えおくれた。

「うあぁぁっ  」
 溜め蟌んできた感情を抑えるこずができず、声を䞊げお泣いた。




12舞

 兄から、「圭二郎を自宅に招いお倕食を共にした」ず連絡を受けたのは昚晩のこず。電話口の兄の声から察するに、圭二郎の調子は䞊向いおいるようだったが、昚日に匕き続き店にやっおきた圭二郎は、ずおもじゃないが元氣そうには芋えなかった。

 今日の同䌎者は父ず氞江さん。これは䜕かあるず思ったら案の定、氞江さんが理人さんを手招きし、事情を話し始める。

「䜓操クラブの時間だけ、圌を預かっお欲しい。今日は䞀人にしおおける状態じゃなさそうなんでね  」

「それはいいっすけど、䜕があったんです」

「おれの奥さんの手料理を食っただけなんだけど、感情の堰が切れちたっおさ。今、粟神が䞍安定なんだ」
 父の蚀葉が耳に入り、思わず圭二郎の顔を芋る。

 今日はい぀ものように顔を隠しおはいない。だが、背䞭を䞞めおう぀むいたその姿を芋お本郷圭二郎だず氣付く人はおそらくいないだろう。党く芇氣が感じられなかった。

 母は料理が埗意で、わたしたちが子䟛の頃は良くおにぎりを拵こしらえおくれたものだ。もしかしたら父の蚀う「奥さんの手料理」ずはそのこずではないだろうか。

「そういうこずなら、おれが匕き受けたしょう」

 理人さんは圭二郎の顔をのぞき蟌んで諞々のこずを察したのか、もう䞀人の店䞻で双子の兄の隌人さんずわたしに店の仕事を任せ、圭二郎ず共に店の奥に䞋がっおいった。

「  悪いな、舞。圭二郎あい぀ずはできるだけ䌚わせないようにしたかったんだけど、状況が倉わっちたっおな」

 二人の姿が完党に芋えなくなったずころで父が蚀った。

「  䞀人にしおおけないくらい病んでるっおこずだよね 倧䞈倫なの   いっそのこず、アキ兄さんにカりンセリングしおもらった方が  」

 アキ兄さんはわたしの叔父に圓たる人物で、職業はカりンセラヌだ。倱恋のショックで萜ち蟌んでいた際にはわたしも䞖話になった。しかし父は銖を暪に振る。

「この状態が続くようならそれも考えた方がいいだろうけど、今のずころは様子芋だな。おっず、だからっお舞はあい぀に関わらなくおいいからな あい぀のこずはもう恋愛察象じゃないんだろう」

「それは、そうだけど  。䞀応、幌なじみだし  」

「舞クンは優しいな  」
 氞江さんがぜ぀りず蚀った。
「うん、野䞊家の人はみんな優しい。だからだろうね。僕も圭二郎も君たちの優しさに觊れお病んだ心を回埩させるこずができる」

「    」

「安心したたえ。圭二郎はちゃんず回埩しおきおいるよ。圌のこずは僕らに任せおくれ」

「  ありがずうございたす。お父さんも、ありがずう。だけど  」
 蚀うかどうか迷ったが、やはりわたしの氣持ちは䌝えた方がいいず思い、正盎に話す。

「  実は圌のファンクラブを䜜るこずを怜蚎しおおりたしお、理人さんにも動いおもらう予定になっおるんです。昚日、食卓を囲んだずきにお兄ちゃんから聞きたせんでしたか」

「ほう それは初めお聞いた。  圓然ながら本人の耳には入っおいないね」

「ええ  。なので、お気遣いは有り難いのですが、わたしはわたしなりのやり方であい぀ず関わっおいこうず思っおたす」

「なるほど。僕のファンクラブを運営しおいる倧接クンの入れ知恵ずいう蚳か」

「いいえ  。蚀い出したのはめぐちゃんなんです。氞江さんを救ったずきのように、自分には倚くのファンがいるんだず分かれば、もう䞀床球界に戻ろうず思えるんじゃないかっお」

「  さすがは、めぐさん。やはり着県点が違うな」
 実は氞江さんを真に救ったのはわたしの埓効、めぐちゃんだず聞いおいる。故に、その笑顔に䞀目惚れした氞江さんは、二児の母になっためぐちゃんのこずを今でも女神のように厇めおいる。

 父が腕を組みながら蚀う。
「確かに、あい぀はどうも自分が孀独で、誰からも愛されおいないず思い蟌んでる節がある。さっきもおれらに優しくされお号泣しおたし」

「それでここぞ連れおきたっお蚳ね」

「ああ  。そういうわけだから、少しの間あい぀のこずを頌む。クラブが終わったら迎えに来るから」

「分かった」

 その時ちょうど二人組のお客さんが入っおきた。父たちはその人たちず入れ替わるように出お行った。




13圭二郎

 俺が取り乱したのを芋お心配になった氞江さんたちは、自分たちが䜓操クラブで䞍圚の間、ワラむバに俺を預けるこずを決めた。

 ワラむバに着くず、昚日は䌚うこずの出来なかった舞の姿が目に飛び蟌んできた。しかし、今はずおもじゃないが目を合わせるこずも、話すこずもできそうになかった。う぀むく俺の隣で氞江さんがマスタヌに蚳を話すず、すぐに店の奥に案内された。

「テキトヌに座っお。今、コヌヒヌを淹れおやるから」

 二人分のコヌヒヌがテヌブルに眮かれ、マスタヌも怅子に腰掛けたずころで話が始たる。

「  きっずあんたも、野䞊センパむの優しさに觊れお我慢しおきたものが溢れ出たんだろう。本圓にあの人は、匱っおる人の心を抱きしめるような蚀葉がけがうたいよな。おれも、高校生のずきはやられたもん。それ以来、センパむのこずは神様のごずく尊敬しおる」

「  分かる氣がしたす」

「でも、あの人はただ優しいだけじゃないんだ。そこにはちゃんず厳しさもある。こっちが自分で氣付き、成長できるようにもしおくれるっおいうのかな おれみたいな、ただの野球銬鹿じゃなくおホントに頭がいい人。人のために行動できる人。そんなセンパむぞの憧れが今のおれを䜜り䞊げたず蚀っおも過蚀じゃないよ」

「  マスタヌが小父さんのこずを尊敬しおいるように、小父さんもマスタヌを信頌しおいるのが䌝わっおきたす」

「たぁ、長い付き合いだからなぁ。ここ数幎でもいろいろあったし」

 そこで䞀旊話は途切れ、互いにコヌヒヌをすする。

「  すみたせん。次に䌚うずきは自信を持った状態で䌚いたかったのですが、情けない姿を芋せるこずになっおしたっお  」

 蚀っおしたっおから、これはマスタヌに察する謝眪ではなく単なる蚀い蚳だず氣付き、激しく埌悔する。しかしマスタヌはニコニコしおいる。

「昚日の今日だろう 䞀日で自信満々になれるんだったら最初から悩んでないっお。今は萜ちるずこたで萜ちお、そこから埩掻すりゃあいいさ」

「  俺を眵倒しないんですか」

「たぁ、おれ個人の意芋ずしおはもうちょっずシャキッずしろよっお氣持ちはあるよ。でも、野䞊センパむならこういうだろうなっお考えおから発蚀するず今みたいな蚀葉が出おくる。  あの人は、荒れ狂っおたおれを最埌たで信じおくれたし、暎れお郚掻動停止になったずきでも蚱しおくれた。おれが自分の力で立ち䞊がれるたで芋守っおくれたっお蚀うのかな。だから、圭二郎くんが自信喪倱しお䜕の茝きもない状態で目の前にいたずしおも、いたは、、、尻を叩いおたで動かそうずしたり声を荒らげたりはしない。だっお、圓の本人はちゃんず自分が情けない姿でいるこずが分かっおるんだもん。だったら敢えおそれを指摘する必芁はない。おれはただ話を聞いお、本人が今どういう氣持ちでいるか、そしお今埌どうしおいきたいず思っおいるのか、自分で氣づけるようにサポヌトするだけだよ」

「  さっき小父さんず小母さんにも聞きたしたが、どうしおこんなにも良くしおくれるんですか こんな俺に、なぜ  」

「  高校時代のおれに䌌おるから救っおやりたいっおのもあるけど、䞀番は期埅しおるから、かな」

「えっ  」

「おれ、奜きなんだぜ 圭二郎くんのバッティングずかセンタヌからたっすぐに投げれる肩の匷さずか。ヒヌロヌむンタビュヌでの、自信たっぷりのしゃべりも奜きだし」

「    」

「おれが捕手だったら  っお、時々想像するんだ。ワクワクするだろうなっお。だから、ちょっず業界のお偉いさんから目を぀けられたくらいでやめちゃうなんお、メチャクチャもったいない」

「    」

「もちろん、続けるかやめるかは本人の自由だ。マむマむを説埗しおこの先䞀緒に生きるのも䞀぀の人生だず思う。だけど、野球が奜きならさ、もうちょっず続けおみおもいいんじゃね っおおれは思っちゃうわけ」

「  よく、わかりたせん。それは぀たり、どういうこずですか」

 期埅しおるずか、奜きだからずか、そんなふうに蚀われおも俺にはいたいちピンずこない。もっず俺の心を揺さぶる別の蚀葉を埅぀。

「昚日も蚀ったじゃん」
 マスタヌは俺の健忘ぶりに呆れおいるようだ。笑いながら蚀う。
「なら、こう蚀えば分かる 芁するに、おれはあんたのファンなの だから埩垰しお欲しい。そう蚀っおるの」

「ファン   俺個人の   父ではなく  」

「おいおい、どんだけ父芪の陰に自分を隠せば氣が枈むんだよ おれは、本郷圭二郎のファンだっお今蚀ったばっかりだろ 自信がないの」

 そう問われお少し考え、ゆっくり答える。
「  俺が野球遞手になった理由は消極的で、芪や兄がやっおいたから。あるいは幌少期からやっおきたから。やりたい職業がほかになかった、ず蚀った方がより正確かもしれたせん。だから今回のこずを機にやめたっお、なんの未緎もないんです」

「ホントにぃ」
 マスタヌは疑いのたなざしを向け、その埌で思い切りよく立ち䞊がった。

「倖に出よう。ちょっず付き合っお」

「え  」
 俺は目を疑った。マスタヌが、店の隅に眮いおあったグラブずボヌルを手に取ったからだ。

「  あのヌ、午前䞭も小父さんたちず野球をしおきたずころなのですが」

「そんなの知るかよ。おれはしおないもん。ほら、行くぜ」

「    」
 開け攟たれた裏口。先に出るよう促されおは断るこずもできなかった。





 連れお行かれたのはすぐ近くの公園。マスタヌは少幎のように笑顔を振りたきながらストレッチをし、それから俺に向かっお軜くボヌルを投げた。

「あんたがマむマむを蚪ねおきた日からずっず、䞀床はキャッチボヌルしおみたいず思っおたんだよねぇ」

 返球しながら尋ねる。
「  なぜですか 俺の  ファンだから」

「もちろんそれもあるけど、あの日のあんたの蚀葉がずっず匕っかかっおおさ。マむマむが結婚しおくれるなら野球を蟞める芚悟があるっおや぀。その芚悟がホンモノかどうか、確かめおみたいっお氣持ちがずっずあっおね」

「俺はい぀でも蟞められたす」

「なら、逃げ回っおないでさっさず退職願いを出せばいいじゃん。でも、そうしないのはなんで」

「それは  」
 痛いずころを突かれ、芖線を萜ずす。ず、速い球が飛んでくる氣配がした。慌おお顔を䞊げ、捕球する。

「その、うじうじした感じ、おれは嫌いだね。マむマむがあんたを芋限ったのはそういうずころだず思うよ。そんなんじゃ、野球以倖の職に就いたずころでどうせうたくいきっこない」

「  今は頑匵ろうにも、か぀おのような゚ネルギヌが湧いおこないんです。でも、それさえ湧いおくれば  」

「そりゃあそうだろう。湧いおくるはずがない」
 マスタヌには俺の゚ネルギヌ源が䜕なのか、分かっおいるようだった。
「  あんたはずいぶん頭でっかちのようだ。今からおれが、あんたの頭を空っぜにしおやろう。そうしたらきっず、今蚀ったこずの意味も分かるはずだよ」

 よっしゃ、投げおこい マスタヌがグラブを構える。そこからしばらくの間、俺ずマスタヌずの投げ合いが続いた。





 十五分ほどキャッチボヌルをしたずころでマスタヌの息が䞊がり、䞀床䞭断するこずになった。「もう、やめちゃうんですか」ず聞くず、「うっせぇ、䌑んだら続けるよ」ず返された。

「  っおいうかさヌ。やっぱり野球やめる氣、ないっしょ。投げ合っおるずきの顔芋たら分かる。すんげヌワクワクしおたもん。奜きなのが䌝わっおきたよ」

「  そんなこず、ないです」

「あのさ、理由なんお芁らねえんだよ。奜きだからやっおる。それでいいんじゃね おれが高校の時、野球郚にいたい理由がたさにそれだったぜ」

「高校生ならそれでもいいず思いたすよ。でも  」
 マスタヌの蚀葉に反論する。
「プロはそれじゃダメなんです。憧れられる存圚であるこず、成瞟を残すこず、チヌムの勝利に貢献するこずが求められる。それが満たせない人間はあの䞖界にはいられない」

「だったら、その原則ごず倉えちたえよ」

「え  」
 あたりにも突飛な提案に思考が停止した。

「ルヌルを倉えちたえ」
 マスタヌはもう䞀床蚀った。

「業界の裏偎は氞江センパむから聞いおよく知っおるよ。昔はそれで良かったのかもしれないけど、今の時代ずはマッチしおないずおれも思う。若い人は耐えられないだろうなずも。きっず、黙っちゃいるが圭二郎くんず同じような考えを持っおる若いのはいっぱいいるず思う。おそらく圭二郎くんが先頭に立っお改革を促せばみんな぀いおくる。そうしたら、䞭の仕組みもがらりず倉わる。で、遞手たちがこれたで以䞊に掻き掻きず掻躍できる野球界が出来䞊がる、ず。  うん、いいこずずくめだよ」

「俺が  改革を  」

 この話は以前、氞江さんにもされた。球界に残っお改革するのはどうか、ず。その時はずんでもないず反論したが、今はなぜかそういう氣持ちは湧いおこなかった。

「マスタヌは、俺にはそれを成し遂げるだけの力があるずお思いですか」

「思っおるから蚀っおるんだろう」
 䜕床も蚀わせるな、ずでも蚀うかのように圌は眉を顰めた。

「それは本心からですか それずも、敬愛する『野䞊センパむ』ならこう蚀うだろうなず思っおの発蚀ですか」

 あんたりし぀こく聞いたからか、マスタヌは぀いにしびれを切らし、グラブで俺の尻を叩いた。

「いい加枛にしろよ。いくらおれが野䞊センパむに憧れおるからっお、い぀たでもニコニコ話を聞いおもらえるず思うな。あの人なら  。ひょっずしたら仏の顔も䞉床ず蚀わず、五床くらいは蚱しおくれるかもしれないけど、おれはもう我慢できねえ。そのねじ曲がった根性をたたき盎しおやる」

 マスタヌは怖面で俺を睚むず、いきなり遠投した。慌おお远いかけお捕球を詊みるが、あず䞀歩のずころで捕り逃す。

「遅いっ」

 怒られながら䞀぀しかない球を返球する。

「次は捕れっ」
 再び遠投される。今床は間に合ったず思ったが、油断したのがいけなかったのか、捕りこがしおしたった。

「銬鹿野郎 集䞭しろ   返事は」

「はい  」

「聞こえねえぞ」

「  はいっ」

「ちゃんず返事できるじゃん。よし、次こそ捕れよ」

 野球に察するたっすぐな想い。劥協しない姿勢。そしお俺を嚁嚇するような目はか぀お芋た鬌の氞江を圷圿ずさせた。

 怖かった。たずもに目を芋るこずができなかった。ちゃんず捕れ、ず蚀われたのに、䜕床も捕り損なう。

 マスタヌはいったい䜕を考えおいるのか  。なぜ、こんなにも熱くなっお俺をしごこうずしおいるのか  。

 分からない。
 分からない。
 分からない  。

 そのうちにマスタヌが肩で息をし始め、ふらふらっず膝を぀いた。

俺のこずは攟っおおいおくれればいいのに  。こんなこずをしお、䜕の意味があるずいうのか  。

「  マスタヌ。もう終わりにしたしょう」
 苊しそうに呌吞を繰り返す圌に向かっお蚀った。

「ただだ   ただ、終わるわけにはいかない  」
 しかしマスタヌは眉を぀り䞊げ、俺を睚み付けた。

「どうしおですか こんなにも息が䞊がっおるずいうのに」

「おれじゃなくお自分の心配をしろっ   い぀たでも逃げるな   あんたの䞭にいる『鬌』ず察峙するんだよっ  」

俺の䞭にいる『鬌』  
 胞の奥がざわ぀いた。動揺ず興奮ずが同時に沞き起こる。
そうか  。そういう、こずだったのか  。

 睚む目をたっすぐ芋぀め返す。
「マスタヌが急に『鬌の氞江』に芋えたず思ったら  。あなたは  あなたは俺の䞭の『鬌』ず向き合えず  。そうおっしゃいたいのですね」

「い぀たでもかくれんがするな、っお蚀っおんだよ  。みんなに優しくされたこずでぞたれ、、、ちたったなら、おれの䞭に残っおる『鬌の氞江』を䜿っおあんたをしごく。やる氣を取り戻すたでな」

「そこたでしお、俺にもう䞀床野球を  」

「苊しいだろう 逃げ出したいだろう   いや、もうあんたは充分逃げおるよな。だけど、その逃げ道の前に今おれが立ち塞がっおいる。もし、おれを前にしおもなお逃げる道に進みたいずいうなら完膚なきたでにおれを倒せ。だけど、ちょっずでも迷いがあるなら立ち止たっお『鬌』ず向き合え」

「    」

 返す蚀葉が芋぀からなかった。それはすなわち、俺の䞭に迷いがあるこずを意味しおいた。

 舞を蚪ねおこの地にやっおきおから数週間。氣付けばたくさんの人ず出䌚い、そのたびに慰めの蚀葉をもらった。䌚う人䌚う人、皆優しくお、䜕床涙したか知れない。俺の遞択は間違っおいなかった。そう確信しながらも、マスタヌの指摘通り、すぐに蟞職願いを出すに至っおいないのは、野球を蟞めた埌の未来が思い描けおいないから。舞さえ銖を瞊に振っおくれたなら、俺はい぀でも蟞める぀もりでいるのに、それが叶わない。だから宙ぶらりんの状態でいる  。

 そう。俺はずっず、舞の決断に自分の人生を委ねようずしおきた。でもきっず、それじゃあだめだずマスタヌは蚀いたいのだ。本圓はお前自身にも内なる思いがある。それを掘り起こしお正面から向き合い、その䞊でどうしたいのか自問自答しろず  。そう蚀いたいのだろう。

 マスタヌが身震いし、腰を浮かせた。匕き䞊げる合図だろうか  ず思ったその時、公園に䞀組の芪子がやっおきた。小孊生になるかならないかくらいの男の子ず父芪らしき男性は、向かい合うなりキャッチボヌルを始める。䜕球か投げ合ううち、球が逞れお俺の足䞋ぞ転がっおきた。

 拟うかどうか、迷った。が、氣付いたずきには球を拟い䞊げおいた。少幎が俺を芋぀めおいる。

「  はい、どうぞ」
 目を芋぀め返しながら蚀った。するず、少幎がにわかに興奮し始めた。

「えっ、えっ   も、もしかしおお兄ちゃん、本郷圭二郎  」

「ええっず  」
 やはりバレおしたった  。しかし、顔を隠すものは持っおいない。助けを求めるようにマスタヌを芋る。

「えっずヌ  じゃねえよ、銬鹿」
 助けおもらえるどころか、蹎りを入れられた。
「あんたは名無しか そんなに自分の名前に自信がないならおれがその名を名乗っおやっおもいいんだぜ」

「    」

 やりずりをしおいるうちに、父芪の方も近寄っおきた。

「ね、ね、お父さん この人、本郷圭二郎に䌌おるよね」
 少幎に尋ねられた父芪は遠慮がちに俺の顔を芋たが、にわかには信じられないずいった様子で銖をかしげる。

「  確かに䌌おるけど、こんなずころにプロ野球遞手がいるわけないよ。  すみたせん、子䟛が倉なこずを」
 父芪が子䟛の頭を䞋げさせようずした。

子䟛の前で、嘘は぀きたくない  。

「  いえ。お子さんの芋る目は正しいです。今は蚳あっお田舎で静逊䞭なんです」
 慌おおそう告げた。芪子は揃っお目を芋開いた。

「じゃあ、本圓に本郷圭二郎  さんなんですか」
 頷くず、父芪はにわかに目を茝かせた。
「実は芪子揃っお東京ブルヌスカむの  ずりわけ圭二郎さんのファンでしお  。い぀か間近で芋おみたいず思っおいたんです たさかこんな圢でお目にかかれるなんお  。あの、握手をしおもらっおも  」

「あ、はい  」

「うわぁ、嬉しいなぁ   ほら、コりタロりも」

「え、僕もいいの」

「いいよ。ほら握手しよう」
 手を差し出すず、コりタロりず呌ばれた少幎は飛び䞊がっお喜んだ。

俺ず握手をしただけで、こんなにも喜んでくれるのか  。
 少し緊匵が解けた。

「もしかしお息子さんのお名前はあの人、、、から取ったんですか」
 父芪に問うず、圌は倧きく頷いた。

「ええ。氞江孝倪郎さんみたいな野球遞手になっお欲しいず思っお぀けたした。自分が捕手の時に憧れおいた人です。匕退されたずきはずおも寂しかったのを芚えおいたす」

「氞江さんのファンだったんですね」

「プレむングはもちろんのこず、理知的で、はっきりず物を蚀うずころが奜きでした。普段は仏頂面なのに、チヌムが優勝したずきには満面の笑みで仲間ず喜ぶ。あのギャップもたたらなかったですね」

「そうですか  」

 俺は氞江さんの「鬌」の郚分、冷培な郚分にしか目がいかなかったが、ファンはそんなふうにみおいたこずを知る。そういえば、氎沢さんも䌌たようなこずを蚀っおいた。氞江さんの玠の郚分を知れば誰でも圌を奜きになる、ず。もしかしたら、チヌムが優勝したずきに芋せた笑顔や行動こそが本来の圌であり、冷培な郚分はそれを隠すための仮面だったのかもしれない。その二面性が圌の魅力、ずいうこずなのか  。

 考え蟌んでいるず、暪からマスタヌが店の宣䌝をし始める。

「あヌ、そうだ。もし良かったら、うちの喫茶店に来たせんか。もうちょっずしたら今話しおいた氞江孝倪郎が店に来たすよ。実は氞江さんは、自分が高校野球郚時代にキャプテンだった人で、今も芪亀があるんっすよ」

「ええっ それは本圓ですかっ でもそんな倧物ず䞀般人である私たちが䌚っおもいいんでしょうか  」

「ぜんっぜん、倧䞈倫っす。ファンクラブ䌚員限定ではありたすが、店には氞江さんが珟圹時代に着おいたナニフォヌムなどを展瀺したスペヌスもありたす。良かったらこれを機にファンクラブに入䌚しお、芋孊しおっおください」

「喫茶店にそんなスペヌスが   そういうこずなら是非䌺いたす」
 父芪は息子以䞊に胞を高鳎らせおいる様子だった。





 店に戻るずちょうど氞江さんたちが俺を迎えに来たずころだった。マスタヌがこずの経緯を話すず氞江さんは快く写真やサむンに応じた。笑顔や蚀葉は少なかったが、父芪は倧喜び。その堎でファンクラブにも入䌚し、甚品が展瀺しおあるスペヌスを芋孊し始めた。

「本郷圭二郎さん。僕にもサむン、しおくれる このボヌルずグロヌブに」
 父芪が氞江さんに倢䞭になっおいるあいだ、少幎の方は俺にサむンを求めた。

「  俺で、いいのかな」

「僕は本郷圭二郎のファンだから」

「ファン、か  。分かった」

 氞江センパむが䜿ったペンで圭二郎もサむンをした。少幎は満足そうにそれを眺め「䞀生倧事にする」ず、すきっ歯を芋せお笑ったのだった。




14舞

 圭二郎が理人さん始め、男性陣の䞖話によっお少しず぀回埩しはじめおきた頃。わたしは静かにナヌゞンずの距離を瞮めおいた。

 忙しくお䌚えない、寂しい、っお我慢するくらいなら、いっそのこず同棲したい――。

 ナヌゞンからそう提案された時にはびっくりした。けれど、飛び䞊がりたいほど嬉しかった。わたしたちはただ付き合っお日が浅い。互いのこずをよく知らないうちから同棲は早すぎる、ず呚りは蚀うかもしれない。しかしそれを逆手にずっお、よく知るために同棲しようずいうのがわたしたちの考えである。

 以前のわたしならきっず、䞖間䜓を氣にしお拒んでいたこずだろう。でも、兄倫婊や悠斗さんたちず暮らす䞭で垞識ずいう殻を砎るこずを芚えたわたしは、心の声に埓っお「む゚ス」ず答えるこずが出来た。倱恋を乗り越え、新たな䞀歩を螏み出せたのは倧きい。ずおも自信が぀く出来事でもあった。


◇◇◇



 ナヌゞンず同棲の玄束をした報告がおら、顔を芋せおおこうず久しぶりに鈎宮家を蚪問する。皆、仕事を終えた時間ずいうこずもあり、家族総出で出迎えられる。

「こんばんは。先日は圭二郎がお䞖話になりたした」
 面倒は芋たくないず蚀っおいた兄が自宅に招いおたで䞖話をしたずいうので、たずはそのお瀌を蚀う。
「ありがずね、お兄ちゃん。圭二郎、芆面をやめれるくらいには回埩したっぜいよ」

「あヌ、それはどうだろう やめたっお蚀うより、出来ないんじゃねえかな 実はこれ、忘れおいったんだ」

 玄関先に眮かれた玙袋には、圭二郎の垜子ずマフラヌが入っおいた。

「忘れおいったっお  。あれから䜕日も経っおいるよね 取りに来ないの」

「今のずころは連絡もない。たぁ、舞の蚀うずおり、もう芆面はいいやっおなったから取りに来ないだけかもしれない。俺ず話しおいるずきも、そういうのどうでも良くなったっお蚀っおたし」

「なら、わたしが届けるよ。時々お店に来る氞江さんに枡すこずも出来るし」

「䜙蚈なこずはするな」
 二人で話しおいるずころぞ悠斗さんが加わる。

「枡しおしたえばたた芆面したくなるかもしれない。それに、舞が枡しに行ったら圭二郎が勘違いをする恐れもある。あい぀のこずはおれたちに任せお、舞は自分の恋愛に集䞭するんだな」

「あ、自分の恋愛ず蚀えば  」
 ここぞ来た目的を思い出したので、居間に足を向けながら蚀う。
「悠斗さんのアドバむスのお陰でわたしたち、近々䞀緒に暮らすこずになりそうです。ナヌゞンっお忙しいでしょう だから、共同生掻をしながらお互いのこずを知っおいこうっお話になっお」

「ぞぇ もうそこたで話が進んだのか。舞、やるじゃん」

「あ、でもこの話はただお父さんには蚀わないでください。蚀えば絶察に、早すぎる っお文句を蚀っおくるず思うので」

「確かにニむニむなら蚀いそうだなぁ  。た、䞇が䞀そんなふうに蚀っおきたずきはおれがひずこず蚀っおやるよ。ナヌゞンほどの男はそうそういない、っおな」

「よろしくお願いしたす」

 頭を䞋げるず、兄が疑問を投げかける。
「そういえばこの前、舞の恋人をバむクに乗せおやったんだよな 男は乗せないっお公蚀しおる悠斗が。そんなにいい男なの」

「ああ。翌も今床話しおみ 圭二郎よりよっぜどしっかりしおる」

「悠斗がそう蚀うんじゃ、期埅できるな。次に䌚う時にはしっかり話させおもらおう」

「ねえねえ、舞ちゃん、晩ご飯食べおいくでしょ 今すぐ準備するから、埅っおおね」
 台所からめぐちゃんの声がした。

「い぀もありがずう。じゃあ、その間に子䟛たちの面倒を  」
 芋おおく、ず蚀いかけたずころでむンタヌフォンが鳎る。
「あ、わたしが出るよ」
 立っおいた぀いでに玄関に舞い戻り、返事をしながら匕き戞をがらりず開ける。が、戞の前に立っおいた人物ず目が合い、青ざめる。

圭二郎  
 むンタヌフォンの宀内モニタヌを芋ずに応察したこずを埌悔した。

 向こうも驚いた様子で目を芋開いおいる。
「来おたのか  」

「  䜕しに来たのよ」

「忘れ物を取りに」

「ああ  」
 事前に話を聞いおいたので、玄関先に眮いおあった玙袋を手枡す。
「キャップずマフラヌはこれよ。甚が枈んだなら垰っお」

「舞に䌚っちゃったら、すぐに垰るわけにもいかないな  。ちょっず話せる」

「嫌よ」

「どうしお 俺のこず、今床こそ嫌いになったの」

「    」

「話したいんだ。どうしおも」
 わたしをたっすぐに芋぀める圭二郎は、少し前ずは違い自信を感じさせる目だった。

 迷っおいるず家䞻である悠斗さんがふらりず珟れる。そしお圭二郎を芋るなり「よりによっお舞がいるずきに  」ずため息を぀いた。

 悠斗さんの考えでは、圭二郎にはなるべく䌚わせないようにしたいずの思いがあったんだろう。しかし、向こうからやっおきたのではどうしようもない。

「圭二郎が話したいずいうので少しだけ  。構いたせんか」

 恐る恐る尋ねるず、悠斗さんは圭二郎の顔をじっず芋぀めた。圭二郎が目を背けないのを確認するず「䜙蚈なこずをしたらすぐに぀たみ出すからな」ず蚀い぀぀も、蚱可しおくれた。





 話す、ず蚀っおもここは人のうち。しかも倧家族が䜏んでいるので宀内に二人きりで話せる堎所などない。仕方なく庭先で話すこずにする。

「  話っお、䜕よ」

「  俺さ、自分がどうしおプロ野球遞手やっおんのか、分からなかったんだ。呚りに流されおここたでやっおきたっお意識が匷くお。だから、舞ぞの告癜を枋っおいたし、婚玄を砎棄したこずで自宅埅機になっおもそこたで危機感はなく、いざずなれば簡単に蟞めるこずだっお出来るず思っおた。でも、マスタヌにしごかれおからいろいろ考えお、ようやく答えが出た」

 䞀週間ほど前。心が䞍安定になっおいる圭二郎を数時間だけ預かっお欲しいず頌たれたワラむバの店䞻マスタヌ・理人さんは、圭二郎のあたりのふがいなさにしびれを切らし、店の近くの公園で郚掻動さながらの指導をしたず聞いた。

 圭二郎は続ける。

「俺は、芪や呚りの超䞀流遞手ず自分ずを比べおは、自分にゃ胜力がないず勝手に萜ち蟌んでいた。そればかりか、どうせ俺なんお  ず卑屈になっお野球を蟞めようずすらしおいた。芁は、逃げおたんだ。腐りきった䜓制の野球界を悪者にするこずによっお、自分の匱さを正圓化しようずしおいたんだ。
 でも、マスタヌがそれじゃあダメだず教えおくれた。自分の䞭にある『鬌』ず向き合えず蚀っお、俺の目の前に、姿芋の鏡ごずく立ち塞がっおくれた。その鏡に映っおいる自分を芋お、やっず分かった。
 俺は、怖かったんだ。自分が先頭に立っおこれたでの䌝統を壊しおいくこずが。みんな、このたたじゃダメだず思っおるなら誰かやっおくれよ、ず  。でも、その氣持ちを抌さえ蟌めば抌さえ蟌むほど、内偎でどんどん腐っおいくのが分かった。自分が病んでいくのが分かった。

 マスタヌは、俺の内偎の『鬌』が暎れたがっおいるのを芋抜き、刺激しおくれた。お陰で今はずいぶんずやる氣が湧いおきおる。  今日は忘れ物を取りに来たずいう䜓でここを蚪れたけど、本圓はこの話をしようず思っおきたんだ。翌や鈎宮さんにもずいぶん䞖話になったから、瀌を蚀おうず思っおね」

「じゃあ、球界に残るず決めたのね  」

「どうやら俺は  こう蚀っちゃあなんだけど、思っおいるよりずっず力があるし、努力しおきたし、頑匵っおきたらしい。それを芋お評䟡しおくれおる人もたくさんいるず知った今、応揎しおくれるファンのためにも俺が前に出る必芁があるんじゃないか  。今はそういう氣持ちになっおる」

「そうよ わたしだっお圭二郎のファン。もっずもっず頑匵っお欲しいず思っおるわ」

「そう蚀っおくれお嬉しいよ。  こんな俺の隣に舞がいおくれたらもっず頑匵れるず思うんだけど、どうかな。氣持ちはただ、倉わらない  」

 圭二郎はすっず前ぞ歩み出るず、わたしの䞡肩を掎み顔を寄せた。慌おお暪を向く。

「  わたしを球界に巻き蟌みたくないから告癜しなかったんじゃないの 球界に残るず決めたなら尚曎、圭二郎の思いは受け容れられないわ」

「既存の野球界には巻き蟌みたくなかった。けど、俺が新しい颚を吹かせた野球界なら話は別だ。舞が再び野球をやりたくなるような球界にしたっおいい。  舞、俺の思いを受け取っおくれないか」

「    」
 圭二郎が再び顔を寄せおきた。唇が頬に觊れるかもしれないず目を固く閉じたずき、急に氣配が遠のいた。

「䜙蚈なこずはするな、ず蚀ったはずだ」
 悠斗さんの声が聞こえ、目を開ける。圌が圭二郎の銖根っこを掎んで匕き離しおくれたのだった。

 助けを求めるように悠斗さんの背埌に回る。
「舞は郚屋に戻っおろ」

「でも  」

「安心しろ。こい぀はおれが責任を持っお孝倪郎さんに匕き枡す」

「  分かりたした。お願いしたす」
 圭二郎の芖線を感じ぀぀も、埌のこずは悠斗さんに任せようず決め、その堎を埌にした。




15圭二郎

 鈎宮さんは舞が郚屋に入るのを確認したあずで倧きなため息を぀いた。

「  ったく。たた孝倪郎さんを困らせるような真䌌をしお。今床こそ、どうなるか知らないぜ ずりあえず、いた連絡入れるから先を歩いおろ。おれは埌から぀いおくから」

 逃げられそうもなかったので枋々蚀われたずおりに歩き出す。埌ろでは鈎宮さんが氞江さんに電話を掛けおいる。電話を終えた圌はもう䞀床ため息を぀き、俺にたっすぐ歩くよう指瀺した。

「これ以䞊、舞を困らせるなよ」
 しばらく無蚀で歩いおいるず、鈎宮さんが釘を刺すように蚀った。

「困らせる氣はさらさらありたせん。俺はただ、奜きだから䞀緒にいようず蚀っおいるだけです。それのどこがいけないのですか」

「いけないっおいうか  。匷匕な男は嫌われるぜ」

 俺の行動のどこが匷匕だったのか分からず、銖をかしげる。

「前の倱敗を繰り返したくないんです。今床こそ、自分の思いを受け容れおもらうために積極的に行動する。そしお舞の心を自分に向けさせる。たずえほかに奜きな人がいたずしおも」

「無理やりキスしたっお女は振り向かないぜ」

「そうでしょうか。今回は拒たれたしたが、次こそは受け容れさせたす」

「  どこから来るんだよ、その自信は」
 鈎宮さんが、䜕床目ずも分からないため息を぀いた。分からないなら説明するしかないず思い、正盎な氣持ちを話す。

「あなた方に、長幎぀けおきた仮面を剥がされた盎埌は䞍安な氣持ちもありたした。しかし、今はか぀おの自信を取り戻し぀぀ありたす。自分には力がある。ファンもいる。それが分かったから。あずはここに舞がいおくれさえすれば  。俺の人生は䞀氣に茝きを取り戻すはずなんです」

「そうやっおお前の人生に舞を巻き蟌むな。っお蚀うかお前自身が舞に、野球から離れお生きろず蚀ったず聞いおるぜ」

「考えが倉わったんです。やっぱり俺の人生を支えおくれる人は舞しかいない」

「執念深い野郎だ。舞にはなぁ  」

 鈎宮さんの説教が始たりそうなずころで、道の向こうから氞江さんが走っおくるのが芋えた。普段は穏やかな衚情の圌だが、今は厳しい顔぀きをしおいる。

「迎えに来おもらわなくおも、ちゃんず連れお行きたすよ」
 鈎宮さんが蚀うず、圌の県鏡がギラリず光った。

「悠斗クンの厚意には心底感謝しおいる。僕が憀っおいるのは圭二郎の行動だ。䞀床ならず、二床も無断で郚屋を抜け出すずは  。しかも舞さんに亀際を再床迫った ここたで圭二郎の埩掻を願っお協力しおきたが、さすがの僕も堪忍袋の緒が切れそうだ」

「え  」
 息を呑む。無意識のうちに怒られるず感じ、身を固くする。䞞めた背䞭に案の定、厳しい蚀葉が振っおくる。

「本郷クンに  君のお父さんに連絡を入れた。僕のずころではもう面倒を芋るこずが出来ない。今埌は、芪である君が責任を持っお圭二郎を説埗しおくれず」

「そんな   それだけは勘匁しおください  」
 思わず懇願するず氞江さんに突き飛ばされた。

「い぀たでも芪から逃げるな  」

「ひぃっ  」
 塀に身䜓を抌し぀けられた。氞江さんが、これたで䞀床も芋たこずのない圢盞で譎怒けんどする。

「この先も野球を続ける぀もりがあるなら、自分を苊しめおきた芪を殎り぀けおでも自分の意志を知らしめせ。思いをすべお吐き出せ。それが出来ないなら今すぐ野球界を去れ。今、すぐに、だ」

「芪を  殎る   でも、そんなこずをしたら  」

「守りに培するずいうなら、所詮お前はその皋床の人間ず蚀うこずだ。お前には考える頭はないのか どうすればいいか、自分の頭で  この頭で、、、、しっかり考えろ」
 脳倩に人差し指が抌し぀けられた。穎が空くんじゃないかず蚀うくらい、力匷く。

「  悠斗クンはここで垰れ。あずは僕が匕き受ける」
 げんなりしおいる俺を䞀瞥した氞江さんは、鈎宮さんに察しおはい぀ものトヌンでそう蚀った。

「  さっき舞に、圭二郎のこずは任せろっお蚀っちゃったんで、芪埡さんに匕き枡すずころたで芋届けたす。玄束は守らないず」

「そうか  。すたないね、䜙蚈な心配をかけさせおしたっお」





 こうしお俺は、犯眪者のように䞡脇を固められた状態で実家ぞ連れお行かれた。前回ず違い、今床は䞡芪揃っお郚屋の前にいた。俺の到着をずっず埅っおいたようだった。

「ご面倒をおかけしたした」
 父が頭を䞋げるず、氞江さんは俺の背䞭をドンッず抌しお突き攟した。そのたた立ち去る圌に向かい、父はもう䞀床頭を䞋げた。姿が芋えなくなったずころで母芪が口を開く。

「氞江さんを怒らせるなんお。正氣の沙汰じゃないわ」

「俺は䜕もしおない」

「嘘おっしゃい。ここ数幎はずっず穏やかだったあの人が、昔のような目぀きであなたを突き攟したのよ 䜕もないわけ、ないじゃない」

「  ずにかく、郚屋に入ろう。話はそれからだ」

 父に促されお宀内に入り、ロヌテヌブルを挟む圢でリビングの゜ファにそれぞれ腰掛ける。

 俺から話すこずは䜕もないず、だんたりを決め蟌む。それが分かったのか、父が口火を切る。

「路教みちたかに  野䞊小父さんに話を聞いたよ。お前がただ野球をしたがっおるこずを。愛情に飢え、過去にしがみ぀いおるこずを。  路教から話を聞いお、氣付いたんだ。お前が婚玄の件でおれたちに反発したのは間違いなく、おれたちぞの恚みがあったからだず。それに぀いお、おれたちは倧いに反省しなければいけないず、話し合っおいたずころだった」

 申し蚳なかった、ず父は頭を䞋げ、遅れお母もそれに倣った。

「  詩乃しのからも謝眪の蚀葉を」
 父に小突かれた母は、戞惑いながらも口を開く。

「  忙しいこずを理由に、あなたたちきょうだいの面倒を野䞊に蚗したのは玛れもない事実。ちゃんず話す時間すらずれず、申し蚳なかったず思うわ。特にあなたのこずは、物わかりのいい子だず思っおいたから、こちらから䜕か蚀う必芁もないず、安心すらしおいた。でも、そうじゃなかったのよね   あなたに反発されるたで氣付くこずが出来なくおごめんなさい。もうあの頃に戻るこずは出来ないけれど、もし赊されるなら、今からでも良奜な関係を築きたいず思っおる。どうかしら」

「    」

 䜕を今曎 ず反発したい氣持ちず、譲歩しおくれた芪に察する赊しの氣持ちが同時に湧いおきお戞惑う。しかし、沞々ずわき䞊がる怒りを静めるこずは難しかった。

「  謝れば赊されるずでも思っおるのかよ 俺が子䟛の頃に受けた傷は  感じた寂しさは  そう簡単には癒やされないぞ」
 この際、これたで溜め蟌んできた思いをすべおぶ぀けおやろうず決める。

「俺がどれだけ愛されたかったか、知っおるか 認められたくお始めた野球でも、耒められるのはい぀も創倪だった。それならばず甘えおみおも受け容れられるのは効ばかり。俺に掛けられる蚀葉はい぀も『お兄ちゃんでしょう 我慢しなさい』だった。唯䞀、芪の氣を匕くこずが出来たのは、蚀われたずおりに行動したずき。だからこの幎たで俺は、あんたらの蚀葉を『はいはい』ず聞いおきたんだ。でも  。でもそのせいで俺は、倧奜きだった舞を傷぀け、䞀緒になる機䌚を逃しおしたった。どんなに猛アタックしおも、舞の心はもう戻らない  。この悔しさがあんたらに分かるか こんな俺が、あんたらを赊すず思っおいるのか」

 氣付けば゜ファから立ち䞊がり、ツバを飛ばしながら怒り散らしおいた。䞡芪はただただう぀むき、俺の蚀葉を聞いおいる。

「どれだけ謝ったっお俺は  俺はあんたらを赊さないからな」

「赊しおもらえるなんお思っちゃいないよ  。おれたちが犯した眪は重い。自芚しおいる。だけど、これだけは蚀わせおくれないか。  お前にはただ先がある。だから、過去に囚われるこずなく、未来を芋぀めお歩んで欲しい。でないず、残りの人生すべおが台無しになっおしたうよ」

「過去を忘れろっお蚀うのか」

「ちがう  。囚われるなず蚀いたいんだ  。おれたちのこずは恚んだたたでもいい。だけど、お前には埌ろではなく前を芋お歩いおほしいんだ」

「そんな蚀葉で俺の考えが倉わるずでも思っおいるのか ふざけるのも倧抂にしろ」

 ちょうど、芖線の先に俺たちきょうだいの写真が掛けおあった。自分が心にもない笑顔を向けおいるのが腹立たしくなり、怒りのたたに壁から匕っぺがす。そしお床にたたき぀け、螏み぀ける。

「ちょっず、圭二郎  」

 母芪が慌お出すも、構わず螏み続ける。やめさせようずする母を、父が止める。

「  圭二郎。しばらく頭を冷やせ。この前ず同じ郚屋を開攟しおやる。氣が枈むたでそこで過ごせ。いいな」

 父の手は震えおいた。今にも俺に殎りかかりたいに違いなかった。受けお立っおも良かったが、これ以䞊争うこずに意味はないず刀断し、蚀われたずおり郚屋に匕き籠もった。





 静かな郚屋に籠もったずきに感じたのは虚しさだった。愛されたいず願った俺の末路がこれか、ず。

 殺颚景な郚屋にはしかし、前回泊めおもらったずき同様、片隅に垃団が畳んであった。俺が再び戻っおくるず思っおいたのだろうか  。たさかこんな圢で口論になり、閉じ蟌めるためにこの郚屋を䜿わせるこずになるずは思っおもみなかったこずだろう。

 暖房もない郚屋で垃団にくるたっお過ごした。冬眠に近い状態になっおいたのか、空腹も感じなかった。


◇◇◇


 ふっず顔を䞊げ、垃団から出たずきには倜になっおいた。睡眠ず芚醒を繰り返しながら、本圓に䞞䞀日をこの郚屋で過ごしおしたったらしい。

 さすがに身䜓がだるかった。盞倉わらず空腹感はなかったが、その代わり、心にぜっかりず倧きな穎が空いおいおどうしようもなく苊しかった。

 耐えきれなくなった俺は、䞡芪が寝付いたであろうこずを確認し、重い身䜓を匕きずりながらこっそり郚屋を抜け出した。





16舞

 圭二郎のその埌が氣になったものの、その日は甚意しおもらった料理を食べ、悠斗さんの垰宅を埅たずに自分の郚屋に戻った。


◇◇◇


 翌朝、い぀ものように職堎に向かい、゚プロンを着けお店䞻に挚拶をする。
「おはようございたす」

 ずころが、今日は挚拶ではなくチラリず芖線を向けられただけだった。䜕か、氣に障るこずでもしただろうか、ず䞍安になる。

「あのヌ  」
 問いかけようずするず、向こうから「話がある」ず蚀われ、怅子に座るよう指瀺された。理人さんは静かに語り始める。

「  もう聞いおるかもしれないけど、四月からめぐっちが仕事埩垰するこずになったんだ。最初はフルタむムじゃなくお、忙しい昌の時間からの再開になるず思うんだけど、めぐっちが入る分、マむマむには少しず぀仕事を枛らしおもらおうず思っおる。最終的には契玄終了も芖野に入れおる」

「え  」
 突然の話に蚀葉を倱った。

 確かに、わたしは「めぐちゃんが産䌑・育䌑の間、圌女の代わりに働かせお欲しい」ず蚀っお雇っおもらった。だから、めぐちゃんの埩垰ず同時に解雇されるのは至極圓然の流れだった。しかし、あたりにも突然すぎる。

「今初めお聞いた、っお顔しおるね。たぁ、めぐっちも蚀いにくかったんだろう。マむマむがここで掻き掻きず働いおるのは知っおるからね」

「    」

「たぁ、四月たでひず月以䞊ある。それたではマむマむに来おもらう぀もりだし、その間に氣持ちの敎理をしおもらえればいいから」

「はい  」

 理人さんずはすっかり懇意になっおいたから、たさかこんなにもドラむな察応をされるなんお思っおもみなかった。ずはいえ、この店の経営状況を思えば、店員を二人抱えるのが難しいのも分かる。わたしが理人さんの立堎でもきっず、途䞭から入った方を切るだろう。

 う぀むいおいるず、もう䞀人の店䞻である隌人さんに声をかけられる。
「理人も苊枋の決断を迫られおる。あい぀の心情も察しおやっおね」

「隌人さん  」

「舞さんが䞀生懞呜働いおくれおるのは、がくも理人もよく分かっおる。なんずか残っおもらえる方法はないかず暡玢しおもいる。だから、解雇の話を聞いお氣萜ちし、残りの期間の仕事が手に぀かないず蚀うこずがないようにしお欲しい」

「  無理を蚀っお雇っおいただいたのはこちらの方ですから、そんな倱瀌なこずはしたせん。最埌の日たで䞀生懞呜働かせおいただきたす」

「よろしくね」





 笑顔で返事をしたものの、平垞心を保ったたた䞀日を過ごすこずは出来なかった。所詮わたしはめぐちゃんの代わりであり、圌女以䞊の存圚にはなれなかったずいう思いが䜕床も銖を持ち䞊げおはわたしを苊しめた。

 そのたびによぎる、圭二郎の顔。圌は蚀った。新しい野球界を䜜る。そのためには舞の力が必芁だ、ず。

 結局、わたしも圌も野球以倖に出来るこずはなく、今曎別の道を歩むこずは䞍可胜なのか。カフェ゚プロンを脱いだあずのわたしは、再び野球のナニフォヌムを着なければいけないずいうこずなのか  。悩みは尜きない。

 さらに蚀えば、こんな重芁な話を盎接䌚ったタむミングでしおくれなかっためぐちゃんにも憀りを感じた。理人さんは、蚀いにくかったんだろうず蚀っお圌女をかばったが、間接的に話を聞かされるわたしの身にもなっおほしいものだ。

 信頌しおいた二人の人から同時に裏切られた氣分だった。

 定時たでは仕事をこなしたものの、頭はがんやりしおいたし、氣力も既になくなっおいた。

「倧䞈倫 調子が悪ければ明日、䌑んでも構わないから」
 普段なら優しさず捉えられる理人さんの䜕氣ない䞀蚀も、今日は嫌みに聞こえた。小さく䌚釈だけ返したわたしは、倕食の材料も買わずに垰宅した。

 電氣の消えた郚屋に入った瞬間、涙がこがれた。ベッドに倒れ蟌み、垃団を抱えおしばらくの間、じっずするこずしか出来なかった。

 なぜこんなこずになっおしたったのだろう
 頑匵っおきた぀もりだけど、実は党く努力が足りなかったのだろうか
 わたしの遞択は間違っおいたのだろうか  

 涙が止たったあずに浮かぶのは、自分を責める蚀葉ばかり。䞀人反省䌚が止たらず、氣付けば䜕床も涙し、悲しみに暮れた。

 そんな折、突然郚屋のむンタヌフォンが鳎った。

こんな時間に尋ねおくる人がいるずすれば、ナヌゞンしかいない  

 慌おお涙を拭き、粟䞀杯の笑顔で郚屋のドアを開ける。が、そこにいたのは  。

「  圭二郎」
 よりによっお、圌なのか  。期埅は䞀瞬のうちに打ち砕かれ、消沈した。
「  たた、氞江さんのずころから抜け出しおきたの」

「  もう、氞江さんには芋限られおしたった。䞡芪ずも喧嘩しお、俺はたたひずりがっちになっおしたった。頌れるのはもう、本圓に舞しかいないんだ  」

 昚日別れたあず、いったい䜕があったずいうのか。その顔は酷くや぀れおいた。

「  どうしおわたしの居堎所が分かったの 教えたこずはないはずだけど」

「この前、小父さんちにあげおもらったずき偶然、舞の䜏むアパヌト名ず郚屋番号の曞かれたメモを芋ちゃったんだ。だからすぐにここだず分かった」

 匕っ越したばかりだから、忘れないようにず、䞡芪が䜏所の控えを壁掛けボヌドに貌っおいたに違いなかった。

 それにしおも、あたりにも元氣がないのが氣になった。
「  ちゃんず、食べおる」

「  食欲がなくお、䞞䞀日食べおない」

「  実はわたしも」

「え、舞も   䜕か、あったの  」

 問われお、䞀瞬ためらう。これ以䞊は関わるな、ず蚀われおいる人物だ。ただでさえ問題を抱えおいる人に、自分の悩みを打ち明けおも仕方がない。そう思う䞀方で、圭二郎はわたしにずっおも氣を蚱せる数少ない人。萜ち蟌んでいるずきにはやはり胞の内を聞いお欲しいずの思いもあった。

「  もし良かったら、今からでも食事に行かない ただやっおるお店、あるず思うんだ」

「舞ず䞀緒にいられるならどこでも行くよ」
 そう蚀った顔はずおも嬉しそうだった。





 結局、日付が倉わりそうな時間に開いおいる店はバヌくらいしかなかった。軜食ずゞンサワヌを頌み、遅めの倕食を取る。

「それで  。どうしお氞江さんを怒らせ、䞡芪ず喧嘩するこずになっちゃったの」

「たぁ  。䞻な原因は、俺が舞のこずを想いすぎおるずころ、かな」
 圭二郎は恥ずかしげもなく蚀い、察面に座るわたしの巊手を握った。

「舞がナヌゞンっお人を想っおるのは知っおる。だけど、俺は舞を諊めたくない。䜕床拒たれたっお、舞が銖を瞊に振っおくれるたでは退く぀もり、ないから」

 わたしに䌚っお萜ち着いたのか、はたたた空腹が収たったからか、自信を取り戻したらしい圭二郎はたっすぐにわたしを芋぀めお蚀った。

「  そういう舞は、どうしお食欲をなくしおいたの なんか、泣いた圢跡があったけど、もしかしお恋人ずの間に䜕か  」

「ナヌゞンは党く関係ない」
 党吊定するも、そう蚀ったからには本圓の理由を告げなければならない。圭二郎の前では絶察に嘘は぀けないず分かっおいる。

「実は  」
 仕方なく今朝、理人さんに蚀われた契玄終了のこずを話す。するず予想通りの反応が返っおくる。

「それなら尚のこず、俺ず䞀緒に新しいこずを始めようよ。カフェ店員を蟞めたあずどうするか、ただ決めおいないんだろう」

「決めおはいないけど、野球に戻る氣は  」

「舞」
 圭二郎は、今床は䞡手でわたしの手を包み蟌む。
「俺は今、神様からチャンスをもらったず思っおる。䞀床は氣持ちがすれ違った俺たちだけど、このタむミングで舞が職を远われ、俺が球界に戻ろうずしおいるのには意味があるずしか思えない。倩がもう䞀床俺たちを結び぀けようずしおいるから起きおいる出来事だずしか  」

「そんなの、こじ぀けよ  」

「そうかな  」

「  圭二郎はわたしが奜きなんじゃない。わたしずの思い出に執着しおいるだけ。そろそろそのこずに氣付かなきゃ」

「    」

 䜕氣なく攟った䞀蚀。だが、圭二郎を黙らせるのには効果的だったようだ。説き䌏せるなら今しかない、ず間髪を入れずに蚀う。

「圭二郎は倚分、わたしだけが自分を愛しおくれた人だず思い蟌んでいる。でも、おそらくそれは違う。䞡芪も、おじいちゃんおばあちゃんも、そしお友人やファンもあなたを愛しおくれた。だから決しお孀独じゃなかったはずよ」

「  そんな  そんなはずはない  」

「なら、どうしお圭二郎は今日たで野球をしお来れたの どんなに実力があっおも、自分の力だけでは決しお成し埗なかったはずよ」

「    」

「もしかしたら圭二郎は、野球しか胜がないわたしの心配をしお誘っおくれおるのかもしれない。でもね、わたしの人生はわたしが決める。だから圭二郎も、自分の人生は自分で決めお。わたしに頌らず、自分の力を信じお突き進んで」

「  俺は  俺はただ、舞ず䞀緒にいたいだけなんだ  」

「恋人や倫婊じゃなくおも  。友達でも支え合うこずは出来る。わたしたちの関係は決しお終わらないわ」

「そんな蚀葉で  俺が玍埗するずでも思っおんのかよ  」

 酷く萜ち蟌む圭二郎。こんな顔を芋るたびに、応揎歌のこずを話しおしたおうかず䜕床も心が揺らいだ。だが、今こそがそのタむミングに思えた。

「  䞀緒に行こうよ、ラむブに。そしたらきっず、わたしが蚀ったこずの意味も分かるから」

「䜕だよ、ラむブっお  。舞の奜きな男の歌や挔奏を聎けっお蚀うのかよ」

「そういう目で圌らを芋ないで。玔粋に、頭を空っぜにしお音楜に身を委ねお欲しいの。歌詞に耳を傟けお欲しいの。  実は、圭二郎の心を揺さぶる䞀曲を甚意しおもらっおいおね。ホントは盎前たで黙っおいようず思ったんだけど、ちょうどいい機䌚だから今、話そうず思っお」

「  音楜なんかで、俺の心が揺さぶられるものか」

「聞いおもいないのに決め぀けるのはやめお。わたしもそばで䞀緒に聞くから。  ね ラむブに行っおみようよ」

「    」
 䞍満そうだった。なぜ興味のない堎所ぞ連れお行かれ、興味のない音楜を聎かなければいけないのか、ず思っおいるのがひしひしず䌝わっおきた。

「わたしず䞀緒にいられるならどこにでも行くっお蚀ったのは、圭二郎じゃなかったっけ」

「  分かったよ。行けばいいんだろ。その代わり、その日は恋人の぀もりで振る舞わせおもらう。手を繋いだり、肩を抱いたりさせおほしい」

「  酷い亀換条件ね」

 たるで、ナヌゞンに芋せ぀けおやろうず目論んでいるかのような発蚀に嫌氣が差す。挙げ句の果おに「キスしたいっお蚀わなかっただけ耒めおもらいたいな」などず蚀い出す始末だ。

「もしそんなこずを蚀っおたら匕っ叩いおるずころよ」

「冗談だよ、冗談  」

「昚日の今日じゃ、冗談に聞こえないっおば」

「  で、どうするの 俺の条件を呑む぀もり、ある」
 その目は挑戊的だった。条件はあたりにも酷い。が、圭二郎にはどうしおも応揎歌を聎かせたい。

「  分かったわ。だけど、わたしはあくたでも幌なじみずしお振る舞うから」

「  振り向かせおみせるよ。絶察に」
 圭二郎はにやりず笑い、飲みかけの酒をあおった。


◇◇◇


 その晩。䞀緒に食事をしお安心したのか、圌は意倖にもすんなり実家に垰っおいった。ずころが、わたしの居所が分かったからか、はたたた口説き萜ずしおやろうず思っおのこずか、圌は翌日も蚪ねおきた。今床はわたしが仕事から垰っおくるのを埅぀かのように、郚屋のドアの真ん前でしゃがみ蟌んでいたのだった。

店ならただしも、郚屋に盎接くるのは勘匁しお欲しいな  。

「話すこずなんおないわ。今日はもう垰っお」
 うんざりしながら蚀った。

「連れねえなぁ。俺たち、幌なじみだろう 昚日みたいに食事くらい䞀緒にしたっおいいじゃん」

「だけど、恋人じゃないんだし、毎日䌚う必芁はないでしょう」

「俺が䌚いたいんだ」

「    」
 本圓は突っぱねたかった。でも、今郚屋のドアを開けたら匷匕に抌し入っおきそうな氣がした。それだけは絶察に阻止しなければ。

「  分かった。じゃあ、ご飯に行こう。ただし、食事が終わったら昚日のようにおずなしく家に垰りなさい」

「オヌケヌ。それでいいよ」
 埮笑んだ顔はたるで子䟛のようだった。


◇◇◇


 さすがに氣が滅入ったわたしは翌日、店䞻の理人さんに盞談をした。
「なんかそわそわしおるず思ったらそういうこず  。ったくあい぀、おれがしごいおやっおもただ懲りねえのか  」

 理人さんは憀った。

「オッケヌ。そんじゃあ、今日はおれがマむマむを郚屋たで送る。で、圭二郎が蚪ねおきたらぶん殎っおやる」

「あ、いや  。殎らなくおもいいんですが  」

「その䜍の氣持ちで話すっおこずだよ。  たさか、郚屋にあげおないよな」

「もちろんですよ。ドアを開けたら居座られそうな氣がしお。これが毎日続くこずを考えたら郚屋に垰る氣も倱せおしたいたす  」

「  分かっおねえな、あい぀は」
 そう蚀った理人さんの顔は、「鬌」ず呌ばれた頃の氞江さんを圷圿ずさせた。





 少し早めに仕事を切り䞊げ、玄束通り理人さんずずもに自宀に戻った。簡単なもおなしをしおいるず、䞀床だけ力匷くむンタヌフォンが鳎らされた。

「倚分、圭二郎です」

「よし。おれが出おやる」
 理人さんは立ち䞊がり、のぞき穎から倖を確認するず勢いよくドアを開けた。そしお圭二郎の胞ぐらを掎んで自身ぞ匕き぀けた。

「毎晩毎晩  。いい床胞じゃねえか。もういっぺん、おれのしごきを受けたいようだな」

「た、マスタヌがなぜここに  」

「そりゃあ、おれはマむマむの䞊叞だからな。身内が困っおるず聞けば助けるのが筋っおもんだろ」

「    」

「あんた、居堎所がねえんだろ。だから毎晩、ここに蚪ねおくるんだろ。違うか」

「    」
 圭二郎は答えなかった。が、無蚀でいるこず自䜓が「そうだ」ず蚀っおいるようなものだった。

「マむマむには恋人がいる。これ以䞊、぀きたずうのは止せ」

「でも、舞に芋捚おられたら本圓に  」

「銬鹿が そういうずきはワラむバに来い。おれを頌れ あんた䞀人の面倒くらい、おれが芋おやるよ」

「え  」
 圭二郎も、端で聞いおいるわたしも驚きの声を発した。
「それはどういう  」

「どうもこうもない。おれが、寝るずころくらい提䟛しおやるっお蚀っおんだよ」

「理人さん  」
 思わず呟くず、圌は䞀瞬だけ笑顔に戻り、わたしに埮笑んだ。

「  この前は善人になりきれなかったからさ。その代わりだよ」
 この前ずいうのは、店で預かった圭二郎があたりにも情けないので、郚掻動のごずく野球の指導をした日のこずを蚀っおいるのだろう。圌は続ける。
「  っお蚀っおも、寝床を甚意しおやるだけだぜ。それ以倖はおれ流、、、でやらせおもらう」

「おれ流  ずは」

「明日になれば分かる」
 理人さんはそう蚀っお、ようやく圭二郎の胞ぐらから手を離した。そしお、わたしが出したお茶を飲むこずなく、圭二郎ず共に自宅ぞ垰っおいった。


◇◇◇


 次の日。い぀も通り出勀するず、なぜか圭二郎も店にいた。驚いおいるず、理人さんから理由が告げられる。

「家に監犁しずくのもなんだしな。しばらくの間、こい぀にも働いおもらうこずにしたよ。ただで寝泊たりさせおやるんだから圓然、こっちで働いた分の絊料は出さない。そういう条件でやっおもらう」

「働いおもらうっお  。圭二郎に接客が出来るんでしょうか  」

「ああ、倧䞈倫。こい぀にはたず、掃陀ずか片付けずかから始めおもらっお、人の圹に立぀ずはどういうこずか、を培底的にたたき蟌む。接客たでいければ埡の字。ずにかく、䞖の䞭のこず䜕も分かっおねえからな。おれたちが誇りを持っお働いおる姿をたずは芋せおやろうず思っおさ」

「なるほど」

「だから、マむマむは普段通りに仕事しおくれりゃあいいよ」

「わかりたした」

「ああ、それず䞀぀提案なんだけど、おれが預かったずは蚀え、こい぀はい぀䜕時、郚屋を抜け出すか分からない。念のため、マむマむの方もしばらくは䞀人暮らしの郚屋じゃなくお兄貎の家ずかを頌るのはどうかず思っお」

「俺は抜け出したりはしたせんよ」
 圭二郎はしれっず答えた。

「その台詞、党く信甚できねえんだよなぁ。男は有蚀実行 それをあっさり砎ればどんどん人が離れおいく。もしおれが芋限ったらどうなるか、教えおやっおもいいけど」

「    」
 さすがの圭二郎も、これが本圓に最埌の枩情だず分かっおいるのだろう。反論するこずはなかった。





 お䞖蟞にも圭二郎は仕事が出来るずは蚀えなかった。集䞭力もなかった。それを芋るたび、理人さんが厳しく指導する。

「マむマむの仕事ぶりをよく芋お孊べ」

 その蚀葉に身が匕き締たる思いだったが、半幎近くにわたっおほが毎日、出来ないなりに店に立ち、なんずか人䞊みの接客胜力を身に぀けた぀もりである。い぀だったか圭二郎には、舞も俺ず䞀緒で野球しか出来ないだろう ず蚀われたけれど今日は、野球以倖の事も出来るのだずいうずころを芋せる絶奜の機䌚。そう思っお普段以䞊に仕事に励む。

 理人さんが逐次「メモをずれ」ず指瀺し、圭二郎はその通りにペンを走らせる。最初こそ面倒くさそうにしおいたが、そのうちに䜕かを感じ取ったのか、䞀日が終わる頃にはその衚情も真剣なものに倉わっおいた。


◇◇◇


 理人さんの『圭二郎教育』は培底しおいた。朝の挚拶からはじたり、店内の床掃陀、テヌブル拭き、コップ磚きを順にさせる。理人さんが玍埗するたで綺麗にさせる様を芋お、完党に野球郚の埌茩指導そのものだず感じたが、これは元キャプテンだった理人さんなりの、圭二郎ぞの愛情衚珟なのかもしれない。

「䜕で俺がこんなこずを  」

 最初のうち、圭二郎は愚痎ばかりをこがしおいた。しかし䞀週間ほどでそれも無くなり、取ったメモを芋ながら自䞻的に行動できるようになっおいった。䜙裕が出おきおからは、忙しく動き回るわたしに察しお「䜕か手䌝おうか」ず声を掛けるたでになった。

 わたしぞの接觊を最䜎限にしたい理人さんは決しお圭二郎が衚に出る仕事を䞎えなかったが、個人的にはここでの仕事を通しお圭二郎がどんどん倉化しおいくのを芋るのが嬉しかった。


◇◇◇


 そんな日が䜕日か続いたあるお昌時、氞江さんがふらりず店にやっおきた。圭二郎は圌を芋るなり隠れようずしたが、理人さんに銖根っこを掎たれおしたい、察面させられるこずずなった。

 少し前、圭二郎は芪切にしおくれた氞江さんを裏切るような行動を取り、以降芋限られおいる。そんな二人が盞芋あいたみえたらどうなるか  。氣になっお固唟を呑む。

「  倧接クンがうたくやっおいるようだな。この様子なら心配なさそうだ」

 しかし、懞念しおいたような反応は芋られず、氞江さんはい぀ものずおりお氣に入りの垭に座っお定食を泚文した。

どうなっおるの  

 混乱し぀぀も定食を甚意し、垭に運ぶ。ず、氞江さんは「ありがずう」ず蚀っおにこやかに笑った。

「  その顔を芋る限り、ただ機嫌を損ねおいるんじゃないかず心配しおいるね」

「ええ、たぁ  」
 遠慮がちに答えるず、氞江さんは声量を絞っお蚀う。

「安心したたえ。圌に冷たく圓たったのは挔技だよ。圌ず、芪である本郷クンたちを成長させるためのね。もっずも、倧接クンには尻拭いをさせるこずになっおしたったが、これもたた宿呜ずいうや぀だろう。圭二郎が真に心を取り戻すためには舞さんず再䌚する必芁があったし、倧接クンや僕が冷培になる必芁があった。そう考えお欲しい」

「そう、ですか  」
 そこたで考えおの行動だったずは。さすがは氞江さんである。

「なんか、すみたせん  。圭二郎のこずでいろいろ動いおくださっお」

「君が謝るこずはないし、僕だっお瀌を蚀われるほどのこずはしおいないよ。僕はただ、圭二郎なら今の球界を倉えられるず信じ、埩掻の手助けをしおいるだけだ。舞さんだっお心の底ではそれを願っおいるんだろう」

「そうですね。実は  」
 ナヌゞン経由で圭二郎の応揎歌を䜜成しおもらっおいるこずを、本人に聞こえないようこっそり䌝える。話を聞いた氞江さんは倧いに喜んだ。

「それは玠晎らしい。機䌚があれば僕も聞いおみたいものだ」

「タむミングが合えば、是非䞀緒に聞きたしょう」

「うん、楜しみだ」
 氞江さんは満面の笑みを浮かべお頷き、圭二郎に芖線を送ったのだった。

 

◇◇◇

 䞉月も残すずころあずわずか。めぐちゃんの仕事埩垰が間近に迫ったある日。急にお客さんの流れが途絶え、店内にはわたしたち埓業員だけ、ず蚀う時間が生たれた。それは、圭二郎が初めおここを蚪れた時の状況によく䌌おいた。

 急ぎの仕事もなく、ただゆっくりず時間が過ぎおいく。初春の日差しはうずうずしたくなるような暖かさで店内に降り泚ぐ。ずおも穏やかな氣持ちでいるず、理人さんが特別にコヌヒヌを淹れおくれた。

「二人で話す時間をあげるよ。あず二、䞉日もしたら、マむマむの代わりにめぐっちが戻っおくるからな。店でゆっくり話せるのはおそらく最埌になるはずだ」

「理人さん  」

「ただし 二人の話はおれも聞く。これは圭二郎が成長しおいるか、のテストでもある」

「なるほど。俺は詊されおるずいうこずですね」

「そゆこず」
 理人さんはにやりず笑い、カりンタヌに肘を぀いおわたしたちをたじたじず芋぀め始めた。

 じっず監芖されおいる䞭で話すのは緊匵する。氣を玛らわせるためにコヌヒヌを䞀口飲むず、圭二郎が先に話し始める。

「  ここに初めお来た日。舞は俺を笑顔で迎え入れおくれたね。少し前たで俺は、あれが俺だけに向けられた特別なものだず信じおいたんだ。けど、ここで䞀緒に働いおみお分かった。舞は誰に察しおもあの笑顔を向け、接客しおいたんだっお。  その瞬間、自惚れおたんだっお分かった。俺は特別な存圚。だから䞁寧に扱われる必芁がある。なのに呚りは俺を利甚し、ぞんざいに扱っおくる。今たでそれが蚱せなくおむラむラしおいたんだず氣付いたんだ」

「うん  」

「  俺は、俺が奜きだず思う呚りの人――芪やきょうだい、そしお舞――に愛しお欲しかった。だけど、身近な人ほど遠く感じた。愛されおいないように感じおいた。肉䜓の距離が近ければ近いほど芪密な関係を築けるず信じおいた俺にずっお、遠くから芋守るずいう愛情衚珟は党く理解できなかったんだよ。でも実際には、倚くの人から芋守られおいたこずを  そういう圢で愛を受け取っおいたこずを知った。  俺が野球遞手だから、じゃない。自分で蚀うのも倉だけど、俺が俺だからみんな慕っおくれおるんだよな、きっず」

「そうよ、圭二郎。その通りよ」
 力匷く頷くず、圭二郎は嬉しそうに笑った。

「ここぞ来おからずいうもの、欲しおいながら今たで受け取れなかった愛情をくれる人、それから俺の氣持ちを理解しおくれる倚くの人ず出䌚った。あんたりにもいっぺんに受け取ったもんで、ちょっぎり有頂倩になっおたのは事実。お陰でマスタヌにはずいぶんしごかれる矜目になったわけだけど、それも俺の成長のためには必芁なこずだったのかなっお今では思うよ」

「有頂倩も、あそこたで行くずもはやストヌカヌの域よ」

「悪かったず思っおるよ  」
 圭二郎はば぀が悪そうに頭を掻いた。

「蚀い蚳に聞こえるかもしれないけど、俺は䜕も舞を組み䌏せおやろうずか、そんなふうに思っお郚屋を蚪ねたわけじゃない。䜕床も蚀うけど、ただ単に舞が奜きで、そばにいたかった。それだけのこずなんだよ  」

「ぷっ   誰が聞いおも蚀い蚳だな」
 理人さんが笑いながらツッコミを入れた。
「もっずも、ちょっずの期間だけど圭二郎を雇っおみお思うのは、本圓にピュアハヌトなんだなっおこず。だからそこに付け入ろうずする連䞭もいるんだろうけど、そのピュアさに惚れ蟌んでファンになる人も倚いんじゃないかな 少なくずもおれは、改めおファンになった人間の䞀人」

「わかりたす、それ」
 だから氞江さんも父も兄も悠斗さんも  それからナヌゞンでさえも、圭二郎のために動いおくれたのだろう。圭二郎は、今床は照れくさそうに笑った。

「それずさ、ずヌっず店で流れおるサザンクロスさんの曲があるだろう 最初は党く興味もなかったんだけど、だんだんギタヌや歌が耳に入るようになっお、今では歌詞を口ずさめるたでになった。氞江さんが珟圹時代、歌手のレむカに支えおもらっおいた理由が今ならよく分かる。レむカの歌声には人の心を揺さぶる䜕かがある。俺にもそれが分かったんだ。だから今は、舞ず圌らのラむブに行くのを楜しみにしおる。ホントだよ」

「それは嬉しい ラむブでは倚分サザン×になっおからの曲もあるず思う。智節さんはもちろんのこず、セナちゃんも歌うだろうし、ギタヌの生挔奏を聞いたらきっず圭二郎だっお惚れちゃうんだから」

「ったく  。自分が奜きなギタリスト自慢はやめおほしいなぁ。俺はただ舞のこず、諊めちゃいないぜ」

 そう蚀った顔に以前ほどの嚁圧感はなかったが、勘違いさせるわけにもいかないのでここはきっちり䌝えおおく。

「ナヌゞンがどれほどのギタリストか。そしおどれほどわたしを想っおくれおいるか。ラむブが終わる頃にはきっず圭二郎にも分かるはずよ」

「ふヌん  。それも含めお楜しみにしおるよ」




17圭二郎

 氣付いたずきには桜も散り、新緑が鮮やかな季節になっおいた。野球以倖には䜕も出来ないず思っおいた俺もい぀の間にやら、マスタヌに蚀われずずも、喫茶店員ずしおやるべき最䜎限の仕事は出来るようになっおいた。

 そのころには舞の埓効のめぐさんもホヌルスタッフに埩垰し、舞がしおいた仕事を圌女がやるようになっおいた。俺が蚀うのもおこがたしいが、玄半幎、育児のために䌑んでいたずは思えない働きぶりには思わず感心しおしたうほど。圌女の埮笑みひず぀で誰もが癒やされ、䜕でも打ち明けおしたう  。舞の接客でもすごいず思っおいたのに、めぐさんの方はもはや才胜ずしか蚀いようがなかった。

こりゃあ確かに、舞よりめぐさんを残すわけだ  。

 䜕床もマスタヌに、本圓に舞の銖を切っおしたうのか尋ねようず思った。しかし、盞倉わらず雑甚しかさせおもらえない俺にはそれを問う資栌はなかった。


◇◇◇


 職堎で䌚っおもほずんど私的な話をするこずがないたた、ラむブ圓日を迎えた。ワラむバの前で埅ち合わせた俺たち。仕事以倖のこずを話すのは本圓に久しぶりだ。

「もう、すっかり普通の人になっちゃったね」
 舞は俺の玠顔を芋ながら蚀った。

「そうだな  。初めおここを蚪ねおきたずきの俺は、キャップずマスクずマフラヌで顔のほずんどを芆い隠しおいたっけ  」

 そんな俺が今や、無防備に顔をさらけ出しおいる。あの頃ず違い、今は俺が本郷圭二郎だずバレおも自信を持っお察応するこずが出来るからだ。

「  ねぇ、舞。玄束通り、手を繋いでくれる」

 氣乗りしなかった圓初は、恋人のように振る舞わせおくれるならラむブに行く、ず蚀う条件を぀けおいた。今ずなっおはもうどうでもいいこずだが、䞀応手を差し出しおみる。

「えヌ ダダよヌ」
 予想通りの反応が返っおきた。
「でも  」
 
 舞は少しためらったあずでこう蚀う。
「䌚堎に着いたら、繋いでやっおもいいかも。迷子になられたら困るからねヌ」

「  俺は幌児か」

「そうよ。わたしずずっず䞀緒にいたい、甘えん坊の幌児。  でしょう」

 以前翌にも、行動が幌皚だず蚀われたこずを思い出す。

「あぁ、そうだよ  。俺は倧人になりきれない子䟛。だから誰かに面倒を芋おもらわないず生きおいけない。そう、思っおた  」

「思っおた  」

「でも  。それもきっず、今日たでだろう。ラむブに行ったら俺は倉われる氣がするんだ。䜕の確蚌もないけど」

「そうだね。わたしも倉われる氣がする。前のラむブがそうだったからね。きっず今床も䜕かしらの化孊反応が起きるず信じおる」

 行こう。そう蚀っお舞は俺の服の端を匕っ匵った。





 郜内某所のラむブハりス。そこは、これたでにもたくさんの倧物アヌティストがラむブを開催しおきた堎所だずいう。

 党垭指定で、ざっず二千人は入れそうな䌚堎は既に人でいっぱいだ。冗談抜きで迷子になりそうな雰囲氣。舞もそれを察したのか、玄束通り手を繋いでくれた。しかし今は恋人ず蚀うより、本圓に子䟛に戻った氣分だ。

 着垭する。普段は芋られる偎の俺がこうやっお誰かのステヌゞを芋る偎に回るのは、それこそ孊生時代の校倖孊習以来だ。これはこれでなんずも萜ち着かない。

「なんで圭二郎が緊匵しおるのよ」
 そわそわしおいたら舞に笑われた。

「こんなふうにじっずしおるの、慣れないからさ  」

「始たったら自然ず身䜓が動いちゃうず思うよ。倚分、ほずんどの人が立ち䞊がるんじゃないかな 圌らのラむブはただ䞀床しか䜓隓しおないけど、前回の時はみんな、曲にあわせお歌っお螊っお、っお感じだったよ」

 音楜ずは無瞁の生き方をしおきた俺がそんなふうに振る舞えるか自信がなかったが、ここは自分の感性を信じるこずにしよう。





 開始の時刻をむかえた。暗闇の䞭でギタリストたちが挔奏を始めるず、脇から䞀人の男性が歌いながら登堎する。盎埌、暗かったステヌゞが照らし出され、ラむブが始たる。

 䌚堎がわぁっず盛り䞊がり、耳を぀んざくような音であふれかえる。䞭倮で歌っおいるのはサザン×のメむンボヌカル、智節さん。芪ず同䞖代だず聞くが、党く幎霢を感じさせない声量に、ただただ驚く。

 二曲歌ったあずで智節さんが挚拶をする。
「サザン×結成埌初の単独ラむブに来おくれおありがずう 今日は最埌たで楜しんでいっおくれ 眠れない倜を䞀緒に過ごそうぜ」

 䞀局盛り䞊がる聎衆。俺も自然ず身䜓が動き、氣付けばリズムに乗っおいた。途䞭たでは俺の知っおいる曲だったから歌も歌った。自分の身䜓がこんなにも音楜に反応するなんお思っおもみなかったが、ずおも気持ちが良かった。

「次は、ラむブに合わせお発売したに収録されおるこの曲。『ハ・ン・キ』。みんな、ナヌゞンの゚レキに合わせお手拍子しおくれっ」

 最新曲ず聞いお困惑した。予習しおいなかったからだ。
「俺、次の曲知らないかも  」
 思わず呟いたが、舞は「倧䞈倫、ノリでなんずかなる」ず、前方を芋ながら答えた。

た、いっか  。さっきみたいに、身䜓の反応に任せずきゃ、きっずなんずかなる  

 舞は俺をこのラむブに誘うずき、頭を空っぜにしお音楜に身を委ねろ、ず蚀った。だから、今はそうしおみよう  。




芋んなよ、日曜の昌だっおのに、
䞀䜓なにしたっおんだ、俺が
挙動䞍審 迷惑行為
そんなこずするオトナじゃねえのに

我慢するから、はじけんだっおば
んなこずすらも知らねえの
閲芧制限 たばこも
俺らの楜しみ、取んじゃねえ

今こそ俺らのフェスティバル
歌えよ歌え、反旗の歌を
始たり告げるメロディヌが
たしかに聞こえおくるだろう
靎を鳎らしお突き進め
歌えよ歌え、反旗の歌を
ホントの闘いが今、はじたる  



そんなこずしお、なんになるっお
やるだけ無駄だ、刃向かうなっお
蚀論統制 デモ行進も
朰しおくるのが「セ・む・ギ」

お前ら、俺らが怖えんだろう
だから、抑え぀けんだろう
止めらんないぜ、俺たち、だっお
今こそ反旗を翻せ

ギタヌの音が聞こえるか
リズムに乗っお乗りたくれ
みんなの想いをひず぀に
こんな䞖界を倉えおこう
波が来るの、怖いなら
俺らで起こそう、ビックなりェヌブ
心からの声、響き枡る  



誰のために生きおるっお
自分のために生きおんだよ
守りたいから立ち䞊がるのが
分からないなら、お前らにゃあ
飜き飜きするほど聎かせおやるぜ
魂の歌声を  

今こそ俺らのフェスティバル
歌えよ歌え、反旗の歌を

ギタヌの音が聞こえるか
リズムに乗っお乗りたくれ

生きおるっお玠晎らしいっお
䜕床だっお叫び続ける
匷く、匷く  
愛する人のために  
俺たちは、歌う





 隣で聎いおいる舞のはしゃぎ方が半端じゃなかった。野球をしおいるずきに芋せる衚情や行動ずは党く別物。こういう䞀面もあるのかず驚かされた。

「少しは萜ち着いたらどうだ  」

「萜ち着いおなんかいられないわよ。あぁ  。ホントに栌奜いい  」

「  たぁな。さすがに今のは俺もすごいず思ったよ。プロの本氣を芋たっお蚀うか」

「でしょう」
 興奮を抑えるこずなく蚀うので、思わず笑っおしたう。

「  本圓に奜きなんだな、あの人のこず。あの人だから、そんなふうに笑うんだよな、きっず」

「それもあるよ。だけど、圭二郎だっお『今ここ』を楜しめば笑えるようになる。ほら、次の曲が始たるよ。耳を傟けおみお」

 突劂、舞が手を握っおきた。興奮しおいるずは蚀え、嫌がっおいた手぀なぎを自らしおきたこずに、嬉しさよりも驚きが先に立぀。

これも、圌らの歌や挔奏の効果なのか  。

 舞の手を握り返す。䜙蚈なこずは今は考えないこずにしよう。正面を向き、圌らの歌ず挔奏に耳を傟ける。





 レむカの歌声が心地よい。切ない歌詞だが、それでいお心が軜くなるような、䞍思議な感芚になる。真の癒やしを知った氣がした。

 隣で音楜を聎いおいる舞の姿は矎しかった。俺が恋い焊がれおいた頃の舞、そのもの。ああ、やっぱり舞には音楜が必芁なんだ。そう、確信した。

 ホントは最初から分かっおいたんだ。俺はもう振り向いちゃもらえないっお。だけど、簡単には認められなくおずっず抵抗しおきた。䞀方で、抵抗すればするほど空回りしおいるのも分かっおいた。

 そしお今。目の前のミュヌゞシャンたちを芋お、その栌奜良さに惚れかけおいる俺がいる。容姿にではなく、圌らの生き様に。

 間違いなく今の俺には圌らのような勢いや情熱はない。俺はい぀からそれらを倱っおしたったんだろう。思い出そうにも、思い出せない  。

 もちろん、最初からではない。入団圓初はやっおやるぞず蚀う氣持ちでいっぱいだった。でも、掻躍すればするほど、契玄金の額が䞊がれば䞊がるほど、俺の呚りに集たる人間が倉わっおいっお、氣付けば「金さえ積めば出䞖できる」䞖界の䞀員になっおいた。

 倚分、そこからだ。やる気も情熱も倱っおしたったのは。

 所詮、努力より金なのだ。俺が憧れた䞖界の裏偎はこんなに汚れおいたのかず氣付いた瞬間、䜕もかもが嫌になった。

 そんなタむミングで持ち䞊がった婚玄話。もし舞が電話をくれなかったら俺は今頃、愛情のない結婚生掻をし、遞手ずしおもたいした掻躍が出来ないたた萎んでいたこずだろう。

 舞を救ったのは音楜だった。そしお、その舞に救われた俺もたた、今の今、音楜に身を委ねおいる。

俺が舞に、音楜の䞖界を勧めたんだよな  。

 俺はただ、舞には幞せになっお欲しいず  。それだけを願っおそう蚀ったんだ。なのにその幞せが今になっお俺に戻っおきおいる氣がする。いったい、どういうこずだ  

「音楜になんお、党然興味がなかった俺が  。なんで今頃になっおこんなにも感動しおるんだろう   䞉十半ばにもなっお、なんで  」

「それは、心の内偎が磚かれたからだよ。音楜は、たっさらな心で聎かないず感動できないんだから」
 舞の蚀葉の意味が分からずに、オりム返しする。

「心の内偎が磚かれた   い぀   誰の手で  」

「あれ 氣付いおないの お店でずっずやらされおた拭き掃陀やガラス磚き、あれは圭二郎の内面の掃陀でもあったんだよ。  っお、わたしも働き始めた頃に理人さんからそう聞いお、実践しおきたこずなんだけどね。目の前に芋えるゎミやガラスの曇りは心の状態そのもの。だから、それを掃き枅め、磚き䞊げるず心も綺麗になるんだず教わったわ。それを聞いおからは掃陀が奜きになった。だっお自分の心を綺麗にしおいるのず同じなんだもの」

「なるほど  。぀たり、内面のゎミが片付けられたこずで、圌らのたっすぐな音楜が入り蟌む䜙地が生たれた、っおこず だから最初は音楜が耳に入らなかったのかな」

「ええ、倚分そう蚀うこずだず思う。わたしだっお同じよ。圭二郎に振られちゃっお、萜ち蟌んでたずきには䜕も受け容れられなかった。でも、少しず぀悠斗さんやお兄ちゃんの蚀葉、そしお圌らの音楜を受け容れられるようになった。それは、ぐちゃぐちゃになっおいたわたしの心が敎理されたから。受け容れる準備が敎っおいないうちは、どんなに玠晎らしい教えも届かないし、響かないものなのよ」

「そっか  」

 以前マスタヌから、お前は自分磚きをしないずダメ。今のたたでは䜕の魅力もないず蚀われたこずを思い出した。その時は、自分でその方法を芋぀け出せず蚀われお終わっおしたったが、い぀たで経っおも成長の兆しが芋えない俺を芋るのが耐えられなかったんだろう。最埌には俺が自分磚きできる環境を自ら甚意しおくれた  。

ごめんなさい。そしおありがずう、マスタヌ。最倧限の愛を俺に向けおくれお。マスタヌの风ず鞭のお陰で俺はようやく本質に氣づくこずが出来たした。自分がやるべきこずも芋えおきたした。このご恩は決しお忘れたせん  。

 胞に手を圓お、心の䞭で瀌を蚀った。その瞬間、呚りに芋える景色が急に茝いお芋えだした。俺の䞭で、䜕かが、倉わったのが分かった。





 そこから先は時間が飛ぶように過ぎた。いや、時間の感芚すら忘れるほどラむブに倢䞭になっおいた。

 そんな、倢の䞭にいるような感芚だった俺の手を、舞がぎゅっず握りしめたこずで珟実に匕き戻された。チラリず顔を芋るず、ステヌゞの䞀点を芋぀めおいる。その瞬間に察した。舞が埅っおいる「䜕か」が始たるのだず。

 ボヌカルのセナさんがマむクを持぀。
「みんな、ここたで楜しんでくれたかな アタシはすっごく楜しかった。もう二時間経ったなんお信じられないよ。  次が最埌の曲っお聞いたらみんな、どう思う」

 えヌ
 やだヌ
 もっず聎きたい

 あちらこちらからそんな声が聞こえた。圌女は笑っおいる。

「ありがずう。だけど、今日は次の曲で最埌。たた新しい曲を䜜っおみんなに披露するから、その時にたた䌚いたしょ」

 拍手が鳎り、䌚堎が聎くモヌドに倉わる。それを感じたのか、圌女は䞀床仲間の方を向いお頷き、それから正面を向いた。

「これから歌うのは、ただどこにも発衚しおいない歌。頑匵っお生きおるすべおの人に捧げたす  。聎いおください。『キミに送るメッセヌゞ』」




誰にも蚀えず 涙したあの日
支えおくれる人さえいない
孀独だけが友達だったんだね  

頑匵るほどに空回り
うたくいかない  
自分のせいだず 䜕床も叫んだけれど
報われない䞖界でキミは

悔やんでみおも
出るこずない答えを抱えながら
生きおきたんだね  
ここにあるのは、確かに歩んできた軌跡

泣きじゃくったっお
匷くなくたっお
芋おる、誰よりキミのこずを
ありのたたでいいんだよ
逃げたくなったら逃げおいいんだ
最埌は戻っおおいでよ、ここに
忘れないで、埅っおる人がいるから



匱さを芋せおはいけないのだず
停り続けおきた日々は
キミをキミで無くしおしたった  

アタシに芋せる笑顔さえ
ぎこちなくお  
そばにもいれずに、ずっず苊しかったよ  
すれ違う毎日で

蚀えば良かった
さよならした背䞭に「倧奜き」っお
もう戻らない日々
同じ道、歩むこずは無いかもしれないけど  

芋たくないんだっお
泣いた顔なんお
だっお、笑った顔のキミが
アタシは倧奜きだから
逃げたくなったら逃げおいいんだ
最埌は、い぀でも戻っおおいで
忘れないで、アタシがここにいるこずを



裏切られおも、信じれなくおも
アタシだけは知っおいる
䞖界むチ、玠敵な人なんだっお
だから立ち䞊がっお、もう䞀床  

涙の仮面、捚おさっお、
笑っお欲しくっお、
芋おる、誰よりキミのこずを
ありのたたのキミが奜き
逃げたくなったら逃げおいいんだ
最埌は、い぀でも戻っおおいで
忘れないで、アタシがここにいるこずを
キミに送るメッセヌゞ  





 目を぀ぶり、その歌声を聎いた。たるで舞が俺に語りかけおいるかのような歌詞に胞が熱くなる。歌が終わったずころで舞が呟く。

「  実は今聎いた歌。圭二郎をむメヌゞしお特別に曞き䞋ろしおもらったものなのよ」

「えっ  。それっお、俺のために   たさか  」

「歌詞䜜りにはわたしも少しだけ協力しおるんだけどね  。歌詞を完成圢に持っおいったのも、曲を぀けたのも圌らよ」

「そうか  。舞の想いが入っおいたなら心に響いたのもうなずける」

 ここぞ来おからずっず驚きっぱなしだが、今の話はずりわけ衝撃的だった。ラむバルであるはずのナヌゞンさんが俺のために歌を䜜っおくれたなんお、信じられる蚳がない。でも、もしそれが真実なら、俺はずんでもない人をラむバル芖しおいたこずになる  。

「舞が圌に頌んだの 俺を励たす歌を䜜っお欲しいっお」

「ううん。蚀い出したのは圌の方。萜ち蟌んでいる圭二郎を芋お、応揎歌を䜜りたいず蚀っおくれたのよ」

「あっはっは  」

 それを聞いお思わず笑っおしたった。負けた。完党に。これ以䞊悪あがきをしおも無駄だずようやく悟った。

「初めお出䌚った日。あの人は、ラむバルであるはずの俺の面前で舞が奜きだず蚀ったよね。正盎、あのずきは䜕を蚀っおいるんだ   ず銬鹿にしおいた。俺の方が遙かに舞を愛する資栌があるず思っおいたから。でも、今の話を聞いお  。そしお歌や挔奏を聎いお確信したよ。あの自信は、心の底から音楜で人を助けたい、楜したせたいずいう匷い信念から来おいたんだ、っおね」

「ええ  。圌だけじゃないわ。目の前のステヌゞにいる党員が真のミュヌゞシャン。自分たちの音楜で䞖界を倉えおやろうず本氣で考えおいる人たちよ」

「うん。それがすごく䌝わっおきた。  たった数人が力を合わせお䜕になる っお思っおたけど、そんなこず、ないんだな  。俺は、䞀人の力を軜んじおいた。俺自身の力も含めお  」

 ステヌゞ䞊で圌らが手を振っおいる。俺は自然ず圌らに手を振り返した。

「  舞からのメッセヌゞ。確かに受け取ったよ。俺はもう䞀人じゃない。舞はい぀でも俺のそばにいおくれるこずが分かったし、応揎しおくれおる人がたくさんいるこずも分かった。だから  立ち䞊がるよ。たずえ䞀人からでも」

「圭二郎  」

「舞。このラむブが終わったら圌らに䌚うんでしょう 俺にも挚拶させおもらえる 盎接、お瀌が蚀いたいんだ」

「もちろんよ」

 その埌、アンコヌルの手拍子がなり、聎衆が圌らの再登堎を促すず、数分経っおナヌゞンさんが䞀人でステヌゞに飛び出しおきた。圌はマむクを持っおいる。

「みんな、アンコヌルをありがずう 最埌はオレに歌わせおもらえるかな。䌚堎に来おいる倧切な  。そう、愛するみんなのためにオリゞナル曲を歌わせおください。では、行きたす。  『僕は君に恋しおる』」

「えっ  」
 舞が小さな声を䞊げた。それに氣付いた俺は盎感的に、ああ、これはきっず舞のための曲だず思った。歌を聎き、それは確信に倉わる。




右手も ぀なげないたた
君のずなり、歩く
柄み切った倜の空
茝く星は、たるで君の瞳

そっけない返事に
あぁ  。ため息、ひず぀、ふた぀
こんなにも恋しおるっおのに
君は氣づいおいるかな

君がスキ
前の恋さえ忘れるほどに
觊れたい、笑顔がいずしい、あぁ  
ドキ、ドキ
マゞで倢䞭なんだよ
僕の、僕の愛するMy Dear










「愛しおるよヌ、みんなヌ。今日はありがずヌ」
 歌が終わるず、ナヌゞンさんが䌚堎に向かっお投げキッスをした。女性ファンたちが「きゃヌっ♡」ず喜びの声を䞊げる。

「  そうか。ああやっおファンサヌビスすりゃあいいんだな 俺も真䌌させおもらおうっず」
 芋よう芋たねで舞に向かっお投げキッスをしおみる。ずころが反応はいたいちどころか、それは受け取れない、ずすら蚀われた。

「じゃあ、緎習しずく」
 真面目に蚀うず、なぜか笑われた。

「なんで笑うんだよぉ  」

「ごめんごめん。圭二郎はそんなこずしなくたっお充分ファンを獲埗できおるよ。そのたたで、倧䞈倫」

「そうかな  」

「そうだよ。  さお、ラむブが終わったから、挚拶に行こっか」
 舞がたた俺の手を握っおくれる。そこに恋情がなかったずしおも俺は嬉しかった。





 楜屋を蚪れるず、すぐに䞭に通された。だが、二人ずも手を繋いだたただったこずに氣付かなかった。ナヌゞンさんに鋭い目぀きで手元を芋られ、舞が慌おお振りほどく。

「あ、こ、これは   あの、圭二郎が迷子にならないようにず思っお  。䜕しろ本圓にこういうずころは慣れおない子だから  」

「本圓にそれだけの理由、ですか  」

「舞の蚀っおいるこずは本圓です。  っお認めるのも恥ずかしいけど、自分は人混みの䞭を移動するのが苊手で  。䞍快な思いをさせおしたったなら申し蚳ない」

 正盎に答え、深々ず頭を䞋げた。舞も俺に続く。玍埗しおもらえたのか、ナヌゞンさんはそれ以䞊远及しなかった。

「  この件に関しおは、今はおいおおきたしょう。それより、二人でここを蚪ねおきた理由は  」

「もちろん、お瀌を蚀うためです」
 舞がたごたごしおいるので、俺が理由を説明する。
「このたびは、情けない俺のために応揎歌を䜜り、歌っおくださっおありがずうございたした。ずおも感動したした。同時に、あなたの懐の広さを知り、舞に盞応しいのがあなただずいう確信に至りたした。完党に俺の負けです。参りたした」

「え  」
 俺が負けを認めたからか、ナヌゞンさんは驚きの声を発した。
「っおこずは、応揎歌はちゃんずあなたの心に響いたっおこずですか」

「応揎歌はもちろんのこず、最埌の歌もちゃんず。  あれ、舞のこずを想っお䜜った曲なんでしょう 宣蚀しなくおも、俺には分かっちゃいたしたよ」

「あヌ  」
 知られたくなかったのだろうか。俺が指摘したもんで、ナヌゞンさんは急に顔を真っ赀にし、黙りこくっおしたった。

 せっかくこっちが折れたんだから堂々ずしおもらいたいものだ。舞の背䞭を抌し、圌の隣に䞊ばせる。

「今、舞の隣にいるべきはあなたです。舞をよろしくお願いしたす」

「圭二郎さん  」

「あヌ、だけど『今は』ですよ あの歌の通り、これから俺は立ち䞊がる぀もりなので、そしたらたた舞を口説きに来たす。埩掻した俺は倚分、舞に盞応しい男になっおるはずなんで」

 珟状は負けを認める。しかしそれは未来氞劫倉わらない氣持ちではない。圓たり前のこずを蚀っただけなのに、なぜか呚囲にいたバンドメンバヌに笑われた。少々苛立ったが、ナヌゞンさんだけは俺の思いをくみ取っおくれたようだ。

「い぀でも受けお立ちたすよ。だけどオレたち、圭二郎さんが完党埩掻する前にむむ感じになっちゃうかも」

「だずしおも、俺はこれからも舞ずの関係を続けおいきたす。䌚いたいずきには䌚いに行くし、電話だっお掛ける。だっお舞は、友達のたたでも俺を支えおくれるず蚀ったから。たさか、俺たちの友情を壊そうなんお、意地悪なこずは蚀いたせんよね」

「そんな無粋な真䌌はしたせん。あなたが舞さんず友達でいるうちはね  。䞇が䞀、本氣で口説きに来たら  。そのずきはたた新しい曲を䜜っおあなたず舞さんに聞かせたすよ。今床こそ諊めおもらえるように」

「いいでしょう。楜しみにしおいたす」
 手を差し出すず、ナヌゞンさんは力匷く握り返しおくれた。

「良かった。これでしばらくは争い事も無しね。  ああ、ナヌゞン。もっずたくさんお話ししたいけど、今日は圭二郎もいるし、ラむブを終えお疲れおるでしょうから、䟋の話は明日以降にでも」

「うん。それじゃあそうだな  。明日、ワラむバで萜ち合おう。時間は行く前に連絡する」

「  明日はわたしも䌑みだから、䜕時になっおも倧䞈倫。連絡を埅っおるわ」

「オヌケヌ。それじゃ、たた明日。今日はありがずう」

「こちらこそ、玠敵な時間をありがずう。皆さんにもお瀌を蚀いたす。ありがずうございたした」

 舞が、お暇する前の挚拶をする。俺も続いお頭を䞋げ、二人揃っお郚屋を出た。





「このあずは、どうする぀もり」
 䌚堎を出たずころで舞が蚀う。
「理人さんのずころに垰るの」

「ああ  。だけど、今日で最埌になるず思う。ワラむバでの仕事も」

「え」

「俺も舞ず䞀緒さ。このラむブが終わったら身の振り方を考えるよう蚀われおる」
 楜しい時間を過ごしたあずで急にそんなこずを蚀ったからか、舞は驚くず同時にさみしそうな顔をした。

 マスタヌに蚀われずずも、近いうちに自分から切り出す぀もりだった。でも、昚日の仕事の終わりに向こうからはっきりず蚀われおしたった。い぀たでおれの䞖話になる぀もりなんだ ず。それは、遠回しに「いい加枛自立しろ」ず蚀っおいるに等しかった。

「ここに来る前はただ迷いもあったけど、実際に歌や挔奏を聎き、ナヌゞンさんず察面したら芚悟が決たった。垰りながら自分なりの蚀葉に萜ずし蟌んで、それをマスタヌに䌝えようず思う。䞊手く蚀えたら舞にも報告するよ」

「そう  」

「舞の方はどうするの めぐさん、鈍っおいた仕事の感芚を順調に取り戻し぀぀あるみたいだけど」

「うん  」
 舞は少し間を空けおから蚀う。
「わたしの方も、考えが少しず぀たずたっおきたずころよ。自分にはやっぱりこれしかないっお思いが匷くなっおきおる。方向性が決たったら、こっちも圭二郎にちゃんず報告するわ」

「そっか  。ひょっずしお最埌のは、舞にずっおも応揎歌だったのかな」
 ずっさに閃いお蚀うず、舞は倧きく頷いた。

「実は事前にナヌゞンが歌っおくれたから聎くのは二回目だったんだけど、ラむブ䌚堎で聎くず党然違うね。圭二郎ず䞀緒に聎いたから、っおのもあるず思う。感動のレベルが段違いだった」

「  ミュヌゞシャンっお、すごいんだな。舞があの人を奜きになったのも分かるよ。だっおこの俺でさえ、圌らの音楜には惚れ蟌んでしたったもの」

「ほら、蚀ったずおりでしょう」
 舞は嬉しそうに笑った。
「圌らの音楜が聎きたくなったらい぀でも話を぀けおあげる。次に䌚うずきはもう、圭二郎も新たな道を歩き出しおいるかな」

「ああ。すぐにでも歩き出しおみせるさ。芋おろよ、俺の進化を」

「それでこそ圭二郎 どんな掻躍を芋せるのか、楜しみにしおるね」
 向けられたその笑顔を目に焌き付けようず思った。舞の笑顔は俺の原動力。それを守るために俺は闘いの堎に舞い戻る  。





 マスタヌ宅に着くず、そこにはなぜか氞江さんがいた。䞍思議がっおいるず、氞江さんの方から話しかけおくる。

「その顔を芋るに぀け、圌らの音楜が心に響いたようだな。かく蚀う僕もいい圱響を受けた。それでここに来おいるんだよ」

「どういうこずでしょうか  」

「僕もサザン×のラむブに行っおきたんだ。舞さんから、圭二郎の応揎歌が聎けるかもしれないず教えおもらっおいたからね」

「あの䌚堎に氞江さんも」

「ああ」
 頷いた氞江さんは腕を組み、正面から俺を芋぀めた。

「応揎歌を聎いた今、君がどのような考えに至ったのかを教えお欲しい。答えを出すのに期日はもうけないず蚀ったが、そろそろ出おもいい頃じゃないか」

 嚁圧するでもなく、その目は玔粋に俺の考えを知りたがっおいるように芋えた。

「少し前に答えは出おいたす。でも、応揎歌を聎いおより芚悟が決たりたした」

「ほう」

「  俺は、球界に戻りたす。ただし、シヌズンが始たっおも俺をけが人扱いしお衚舞台から抹消しようずする今の球界に戻る぀もりはさらさらありたせん。俺は、自分ず同じような境遇に立たされおいる人を募り、決起し、新しい組織を䜜りたす。なにも、プロ野球組織が䞀぀である必芁はない。幎寄りの硬盎的な組織ではなく、若い俺たちが時代に合ったプロ野球組織を䜜り、リヌドする。今はそういう思いです」

「良く蚀った。それが聞きたかったんだ」
 氞江さんは倧きく頷き、マスタヌも手を叩いお喜んだ。

「実は僕も『キミに送るメッセヌゞ』を聎いお芚悟を決めたんだよ。もう䞀床立ち䞊がろうっおね」

「えっ それっお、もしかしお  」

「うん。䞀床離れた身だが、君がそこたでやる氣に満ちおいるなら、過去に売った名前を歊噚に、野球界に新しい颚を吹かせる手䌝いをしおもいいんじゃないかず思っおね。  これで、僕の球界埩垰を望んでいた君のお母さんも喜んでくれるず思う。無論、圌女のためにそうするわけではないが、数幎前にそのこずで責められたのが頭から離れなくおね  」

「氎沢みずさわセンパむも、でしょう」
 マスタヌに蚀われ、氞江さんは苊笑いした。

「僕はあくたでも、圭二郎では動かすのが難しいであろう球界のお偉いさん方に口利きするだけだよ。だいたいのこずは圭二郎にやっおもらう぀もりでいる」

「もちろんその぀もりです。やれたす」

「実に頌もしいな。期埅しおいるよ」

「はい」
 返事をするず、二人は満足そうに頷いたのだった。


◇◇◇


 そこからは怒激の日々だった。氞江さんず同じマンションの䞀宀に居を構えたのを皮切りに、䞡芪ずの和解、䞡芪や仲間の協力、球団を蟞める手続きに資金調達ず  。やったこずのないこずの連続だったが、䞍思議ず瞁が぀ながっお氣付けばあっずいう間に新生野球組織が出来䞊がった。期間にしおわずか䞉ヶ月。

 これは既存の十二球団を束ねる組織ずは党く別に動く。遞手自身が楜しみながら詊合をするのが特城で、優勝争いもなければ、決たったシヌズンもない。そしお、なんず蚀っおもファンずの亀流を密に行うずころが最倧の売り。これは、氞江さん䞻宰の䜓操クラブに倣った。

 遞手ずファンが新颚を巻き起こすこの組織を、俺は「舞颚組たいかぜぐみ」ず名付けた。舞颚たいかぜずは぀むじ颚のこず。もちろん、俺が倧奜きな舞の名に掛けおある。淀よどみきった球界に新しい颚を。そういう思いを蟌めた。

 もちろん、党く問題がないわけではない。俺にずっおは嬉しいこずだが、新生野球組織ぞの入団を垌望する人が続出したため、既存球団の䞀軍遞手が䞍足。珟圚、シヌズン真っ盛りだずいうのに、詊合が成り立たないずいう異垞事態が発生しおしたっおいる。それに危機感を芚えた球団やオヌナヌ䌁業の圹員が、俺に責任を取るよう隒ぎ立おおいお、面倒な状況になっおいるわけだが、ここに関しおは幎長の氞江さんや父に堎を取り持っおもらっおいる。

 䞖間的には、俺たちのやっおいるこずは党く歓迎されおいない。反逆行為、恩知らずずすら蚀われおいる。それでも賛同しおくれた仲間は俺を支え、励たしおくれる。

「䟋の件のあず、䞀軍から登録抹消されたばかりか、行方䞍明になったず聞いたずきにはみんなで心配しおたんだぜ ひょっずしたら殺されたんじゃねえかっお噂すらしおた。でも、こうしお埩掻する機䌚を窺っおたず知っおホッずしたよ。しかも、あの鬌の氞江ず実父の協力たで埗お  。こうなったらずこずん芋返しおやろうぜ」

 同僚の䞀人はそう蚀っお俺を立おおくれた。しかし、同意は出来なかった。

「芋返す、っおのは違うかな  」

「え、どうしお 散々いじめられおきたっおのに」

「そりゃあ、過去には利甚されたり、存圚を消されかけたりしたけど、なんだかんだ蚀っお俺たちは  。いや、氞江さんも父芪も、あの䞖界で力を぀け、掻躍しおきたわけだろう そのこずには少なくずも感謝しようず思っおさ。だからこその、共存だよ」

「芋返すのでも、叩き朰すのでもなくお」

「そう。共存だ」

「  深いな。䞀床どん底を味わった人間の蚀うこずはやっぱり違うぜ」

 圌は俺を耒めおくれたが、共存の道を遞ぶ理由はほかにもある。それは若い子たちが憧れお止やたない既存の野球チヌムを自分の手で朰したくないから。そしおそこに、ずもに歩んできた兄がいるから。

 創倪のこずが奜きだから擁護する、ず蚀うこずではない。俺のやろうずしおいるこずに異議を唱える぀もりなら、そしおいた属しおいる球界に残る぀もりなら、問題だらけの組織を改革しおほしい。その思いゆえの遞択だ。

 そもそも、叀い䟡倀芳を持っおいるからずか、氣にいらないからずいった理由で盞手を消すやり方を採甚したのでは先方ず同じ。それでは䜕の解決にもならないし、進歩もない。どうせやるなら俺たちらしい、新しいやり方で改革しなければ意味がない。

 この話をしたずきの氞江さんず父の反応は良かった。母だけは耇雑な面持ちで、俺にも創倪にも぀かないずいう䞭立的な立堎を取ったが、そこに母の、我が子ぞの愛を感じたのだった。

 協力者はたくさんいる。うたくいっおる実感もある。それでも時々、本圓にこれで良かったのかず悩むこずがある。そんなずき、俺を励たしおくれるのはい぀だっおあの曲、「キミに送るメッセヌゞ」だ。

舞、ナヌゞンさん、ありがずう  。俺、頑匵っおるよ  。

 曲を聎き終えた俺は心の䞭でそう呟き、決意を新たに今日も動き出す。



――――

いいなず思ったら応揎しよう

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