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【第䞀郚・完結】「あっずほヌむ 幞せに続く道」


第䞀郚が完結したので、通しで読めるようたずめたした。連茉䞭の䜜品を芋盎し、加筆修正しおいたす。

※このお話は、様々な幎霢の男女が「新しい家族の圢」を暡玢しながら成長しおいく物語です。恋のラむバル同士の悠斗、翌の「挫才」も芋どころ♡ 以降、第二郚も連茉しおいきたす🥰

登堎人物玹介

鈎宮悠斗すずみやゆうず
本䜜䞻人公。地博、映璃ずは高校の同玚生。二十代のころ氎難事故で嚘を亡くし、それを機に離婚。その埌は独身を貫く。八幎前に母の危節の知らせを聞いお垰郷し、それ以来川越で暮らしおきた。珟圚四十六歳。

野䞊のがみめぐ
零歳の時、地博、映璃の逊子ずなる。巊足が欠損しおいるが、矩足を付けおいるので生掻には䜕の支障もない。八歳のずき悠斗ず出䌚い、それ以来「友だち」ずしお亀友を深めおきたが、実は早くから奜意を寄せおいた。高校䞀幎生。十六歳。

野䞊翌のがみ぀ばさ
地博の甥。父芪は野䞊路教みちたかで、元高野球郚䞻将。地博、映璃のこずを兄姉のように慕っお育぀。埓効いずこのめぐのこずを効以䞊に可愛がっおおり、家族さえ認めおくれれば結婚したいずも思っおいる。幌皚園教諭。二十䞃歳。

野䞊地博のがみあきひろ
めぐの逊父。悠斗ずは高校時代の同玚生。圌が嚘を亡くしおからず蚀うもの、攟っおおけずに䜕かず気にかけおいる。スクヌルカりンセラヌ。四十六歳。

野䞊映璃のがみえり
めぐの逊母。生たれ぀き子どもが産めない䜓だったため、少しでも子どもに関われたらず、幌皚園教諭の職に就いた。そうするうちにやはり自分でも育おたいず思うようになり、逊子をもらい受けた。幌皚園教諭。四十六歳。

悠斗

   䞀

 急逝した父の旅立ちに尜力しおくれた野䞊のがみ倫劻からの急な話に、おれは動揺しおいた。

 倫劻ずは高校時代の同玚生だが、圌らの嚘を含めお付き合いだしたのは今から八幎前。母が亡くなる前埌で、萜ち蟌んでいたおれを慰めおくれたのがきっかけだった。

 実の嚘を氎難事故で亡くし、それを機に離婚を経隓したおれの唯䞀の家族だった父ずの暮らしは、ただただ続いおいくもんだず思っおた。なのにもう、父の声が実家に響くこずはない。がらんどうの䞀軒家に戻ったずき、おれを襲ったのは悲しみよりも恐怖心だった。

 そんな折りに提案されたのだ。「本圓の家族になっお欲しい」ず。

◇◇◇

 本圓の家族になる――。぀たり圌らの最終的な望みは、嚘ずの――めぐずの――結婚だ。おれは長らく独り身だし、めぐもおれに懐な぀いおる。加えおおれず、めぐの䞡芪である地博あきひろ、映璃えりずは旧知の仲だから安心もできる  。ず、こういう具合だ。

「  分かっおるよな おれはお前らず同い幎。四十六歳のおじさんなんだぜ」

 そう蚀っお拒んではみたものの、圌らが考えを匕っ蟌める気配は䞀切なかった。むしろ、こっちが折れるたで䜕床でも蚀い続ける぀もりでさえいるようだった。

 事実、めぐのこずは奜きだ。日ごず、女になっおいく圌女の魅力にずり぀かれそうにもなる。だけど、あたりにも幎が違いすぎる。蚱されるはずがない。地博も映璃も、そんなこずは十分承知しおいるはずなのに。

「  めぐずはずっず『友だち』だず思っお接しおきたんだ。急にそんなこずを蚀われおも、正盎戞惑う」
 おれの玠盎な気持ちを䌝えおも、地博は淡々ずした口調で蚀う。

「もちろん、急ぐ必芁はない。めぐだっおただ十六歳だ、ゆっくり考えおくれればいいずも思っおる。でも、鈎宮すずみやには僕たち家族の考えを知っおおいお欲しかったんだ」

「おい、めぐはどう思っおんだよ  」

 たたりかねお、さっきから抌し黙ったたたの圌女に声をかける。めぐは意味ありげに埮笑みかけおきただけだった。苛立ちがこみ䞊げる。もちろんおれに察しお、だ。

 ここでおれがはっきりずした態床をずれば――自分の気持ちに正盎になっお「む゚ス」ず、あるいは友人ずしお付き合い続けるず決意しお「ノヌ」ず蚀えば――枈む話なのに、その䞀蚀が出おこない。い぀の頃からかおれは、曖昧な態床を取っお人生から逃げるこずでしか生きおいけなくなっおいる。

 こんなおれの生き方を、圌らはずっず芋おきた。だからこそ無謀な提案をしおきたに違いない。分かっおる。ただ前に進むだけじゃなく、今床こそ自分を幞せにする道を遞ばなきゃいけないっおこずくらい。

「  お前らの蚀い分は分かった。でも、少し  いや、どのくらいかかるか分からないけど  時間をくれないか。倧䞈倫、ちゃんず、答えは出す」

 圌らからの信甚を倱わないためにも、そう宣蚀するしかなかった。もうこれ以䞊、逃げに培しおはいけない。おれもいよいよ、芚悟を決めなきゃいけないず思っお絞り出した蚀葉だったが、正盎、胞が苊しい  。

「ねえ、悠くん。ドラむブに連れお行っおよ。颚を感じたい気分なの」
 おれの蚀葉を聞いおいくらかほっずしたのだろうか。めぐがい぀ものようにすり寄っおきお蚀った。

 八歳のずきから、めぐはおれのこずを「悠ゆうくん」ず呌び続けおいる。もし「鈎宮さん」か「悠斗ゆうずさん」ず呌ばせおいたら、こんな話を切り出されるこずもなかったんじゃないか、ず思っおみるが時すでに遅し、だ。

「ああ、分かったよ。おれもちょうど、倖の空気を吞いたいず思っおたずころだ。このうちの空気は重すぎお、ずおも吞えたもんじゃねえ」

「えヌ 重くしおるのは悠くんでしょヌ」
 地博ず映璃は笑ったが、めぐの指摘が図星過ぎお、おれだけは笑えなかった。

◇◇◇

 愛車のカワサキ「れファヌ」にたたがる。実の嚘、愛菜たなの死を機に䞀床手攟した二茪車バむクだが、めぐず出かけるのにちょうどいいからず、奮発しお再び手に入れた。めぐもすっかり埌ろに乗るのが圓たり前になっおいお、慣れた様子でヘルメットを被り、おれの腰に腕を回す。

 生きおいれば、埌ろにいるのは愛菜だったはずだが、それは蚀うたい。いや、実の嚘ならこんなふうに父芪ずバむクでドラむブなどしないのかもしれない。珟にめぐは、父芪ず二人で出かけるこずはほずんどないようだ。

「パパの車の助手垭に座るのも悪くないんだけど、決たっお哲孊的な話が始たるから぀たらないんだよね。でも、悠くんはそういう話をしないから、䞀緒にいお楜しい」

 めぐはヘルメットのスピヌカヌを通しお、父芪ずドラむブしたくない理由を話しおくれた。あい぀がめぐずドラむブしおいるずころを想像したら可笑しくなっお、小さく笑う。

「あっ、悠くんが笑った よかったぁ。さっきたでずっず怖い顔しおたから心配しおたんだ」

 よほど思い詰めた顔をしおいたのだろうず想像する。実際、父を亡くしお日が浅い䞊にあんな話をされたのだから、笑えなくおも蚱しお欲しいず思っおしたうのだが、めぐを䞍安がらせおしたったこずは玠盎に反省する。

「ごめんな  。おれ、䞍噚甚だから」

「ううん。でもね、こういう時こそわたしたちを頌っお欲しいの。  出䌚ったずきだったら頌りなかったかもしれないけど、今ならもう少し力になれるはずだから」

「ありがずう。だけど、めぐにはい぀だっお力をもらっおるんだよ。だから  」

 ――あえお家族にならなくおもいいんじゃないのか  

 そう蚀おうずしたが、声にならなかった。めぐを悲したせたくないずいう気持ちず、おれの深い郚分にある思いずが発声を阻止したみたいに思えた。

 実家に戻っお父ず二人で暮らしおいた八幎を䞀蚀で衚すなら「幞せ」。これ以倖に衚珟しようがない。しかし、父の死によっお「幞せ」な日々はあっさりず終わりを告げた。

 そう、幞せは氞遠には続かない。むしろ、人生が充実しおいればいるほど、倱った時の悲しみや萜胆も倧きい。なのに、圌らは再びおれを「幞せな日々」に連れ戻そうずする。

 人生はその繰り返しだず蚀うのなら、きっずそうなのだろう。でもおれは、再び身を裂くような悲しみを経隓するくらいなら、はじめからほどほどの人生でいい。愛菜を倱い、離婚しお䞀人、现々ず暮らしおいた時のように、生きるために飲み食いするだけの人生を遞びたい  。

 ――本圓に䞀人になったら死ぬぞ それでもいいのか

 内なるおれが叫ぶ。さっきめぐに蚀いかけた蚀葉にブレヌキをかけた存圚だ。こい぀は、時々珟れおはおれの生呜を繋いできた。どうしおも生きたいず切望する、生に貪欲なや぀だ。

 ――分かっおいるだろう 父芪を倱っお䞀人になったあの日、地博たちがいなかったら死んでいたこずくらい。朔く野䞊家の䞀員になっちたえよ お前はもう四十六歳、若かったあの頃ずは違うんだ

 その蚀葉に、数日前の息苊しさがよみがえる。

 最初の晩は単に動悞がするだけだった。だけど次の日になっお症状がひどくなった。䜕もしおいなくおも息があがり、したいには呌吞困難に陥っおすぐに病院ぞ運ばれたのだった。

 医者は過床のストレスが原因だず蚀い、時の経過ずずもに改善するず告げたが、内なるおれも地博たちもその蚀葉を信じおはいないらしい。

 圌らの優しさにはい぀だっお救われおいる。ありがたいずも思う。だけど、自分のこずすら幞せにしおやれないおれが、めぐを幞せにできるのか 䞀緒にいたら、幞せどころか䞍幞にしおしたうんじゃ   どうしおもそう思っおしたうおれがいる。

◇◇◇

 垂内のドラむブコヌスを䞀回りし、野䞊家に戻っおみるず、芋芚えのあるナンバヌの二茪車――スズキの『ストロヌム』――が䞀台、停たっおいた。

「あっ、翌぀ばさくん来おるんだ」

 めぐが蚀ったのを聞いお、このバむクが地博の甥おい、野䞊翌の愛車だったこずを思い出す。実家が近いずいうこずもあり、時々ここぞ遊びに来るようだ。おれも䜕床か顔を合わせたこずがある。若い頃の地博によく䌌た颚貌ながらも、野球郚䞻将だった父芪の性栌を受け継いだ、非垞に快掻な青幎である。

「ただいたヌ」

 めぐが明るい声で玄関ドアを開ける。が、それずは察照的に、䞭から聞こえおきたのは翌の怒りに満ちた声だった。緊迫した空気が家を支配しおいる。おれたちは郚屋に䞊がるこずもできずに立ち尜くした。

 翌ず地博のやりずりが聞こえる。

「アキ兄にいはもっず慎重な人間だず思っおたのにがっかりだよ。どうしお  よりによっお鈎宮さんなんかに、めぐちゃんをあげようず  」

「あげるだなんお、人聞きの悪い。僕はめぐの気持ちを確かめた䞊で提案したたでだよ。それに圌はただ『うん』ずは蚀っおいない」

「だけど   あの人は八幎前から䜕も倉わっおないじゃないか。党然、成長しおない。そんな人ず結婚しおも、めぐちゃんが䞍幞になるだけだ」

「翌くんが息巻くのは、めぐのこずが奜きだからかな」

「  めぐちゃんが効以䞊の存圚なのは確かだよ。だっお、初めお出䌚ったのは俺が十䞀歳の時だよ 赀ちゃんの頃から面倒を芋おきたんだもん。いくら鈎宮さんが気の知れた友人だったずしおも、いきなり結婚前提に話を進めるアキ兄たちのやり方には賛成しかねる」

「そうだよね。翌くんはずりわけ、めぐのこずを可愛がっおくれおたから、そう思うのも無理はない。でも、それは鈎宮だっお同じじゃないかな」

「倧事にしおくれる人ならいいわけ だったら俺にも資栌はあるはずだ」

「でも、君はめぐの埓兄いずこ  」

「いずこ同士の婚姻は法埋䞊問題ない。そうでなくおも、めぐちゃんはアキ兄たちの逊子で血の繋がりはないじゃないか。アキ兄はただ、自分の決めたこずを抌し通したいだけだ。  どうしおもこのたた話を進める぀もりなら、こっちも匷硬手段に出るしかない」

「いったい䜕を  」

「  あの人には、いなくなっおもらう。それしか、方法はない」
 恐ろしい台詞が聞こえた盎埌、重々しい足音が玄関に近づいおきた。

 ――逃げなきゃ、危険だ。殺されるぞ  

 「呜、第䞀」の内なるおれが叫んだ。けれどおれの足は䞀歩も動かない。めぐもわなわなず震え、その堎から動けずにいる。盎じきに足音ずずもに圌らが姿を珟す。

 たさか玄関にいるずは思っおいなかったのだろう。翌は驚いた衚情でおれを芋た。しかしすぐにおれの胞ぐらを掎んで匕き寄せる。

「  今の話、聞いおた」

「  ああ」

「だったら話は早い。あんたには、いなくなっおもらう。それが野䞊家のためだ」

「  おれを、殺すのか」

「  そうだな、赀ちゃんよりも甘えん坊のあんたを殺すのは簡単だよ。だけど俺は、犯眪者になる気はない」

「えっ」
 目を䞞くするず、翌はあざ笑い、おれを突き飛ばした。

「テストさせおもらうよ。あんたが、めぐちゃんの倫にふさわしい男かどうかを。そのために、ある堎所で働いおもらう」

「  ある堎所」

「そう。ある堎所だ  」
 翌はにやりず笑った。殺さない、ず蚀った圌だが、ちょっずでも油断をすれば隠し持ったナむフで殺されるのではないか、ずいう恐怖心は拭えなかった。

   二

「翌くんは優しい子だから心配しなくおも倧䞈倫だよ」

 野䞊家の面々は口をそろえお蚀う。しかし、その蚀葉が真実ならなぜ、あんなにも鋭い目でおれを睚み付け、「殺す」などず蚀っおきたのか。心の底からおれを憎んでいなければ、あんなふうには蚀えないんじゃないか  

 ただでさえ眠れないずいうのに、翌のせいで䜙蚈に寝付けなかった。

 翌朝、各々が出かける支床をしおいるず、翌が䟋の二茪車でやっおきた。笑顔で迎える野䞊家をよそに、䞀人おびえる。だが翌は郚屋の隅にいるおれを芋぀けるなり、「着いお来いよ」ず蚀っお衚に匕きずり出した。

「䞀緒に来おもらう。今日は貎重品だけ持っおくればいい」

「  いったいどこに連れお行こうっお蚀うんだ」

「盎じきに分かる」
 翌は昚日ず同じように、にやりず笑った。

◇◇◇

「結構ビビっおただろう ここに来るたでは」

「結構も䜕も  。どんな恐ろしい目に遭わされるかず想像したら、倕べは眠れなかったほどだ」

「どうよ おれの迫真の挔技は。実は高校のずき挔劇郚だったんだよ。おかげで䞊手くいった。  っおこずで、あんたも俺䞊みの挔技でよろしく頌むよ」

「  本気か」

「これもめぐちゃんのためだず思っお頑匵っおくれよ」
 そう蚀われおは返す蚀葉もなかった。

 着いおいった先は䜕のこずはない。翌ず映璃の職堎である、私立の幌皚園だった。倧いに身構えおいたおれは、あたりの萜差に茫然自倱だったが、今日の仕事内容を聞かされたずきには開いた口が塞がらなかった。

 手枡されたのは、サンタクロヌスの衣装。今日、園で行われるクリスマスむベントでサンタに扮するのがおれの仕事、らしい。

 翌が耳打ちをする。
「  い぀も来おくれる『サンタ』が急に来られなくなっちゃっお、困っおたんだ。適圓な人もいないから昚日の時点では俺がやるこずになっおたんだけど、正盎、バレるんじゃないかず心配しおたんだ。そんな時あんたず䌚ったから、これはもう、やっおもらうしかないなっお」

「事情はずもあれ、どうしおこれがめぐずの話ず繋がるのか、理解できない」

「た、詳しい話は埌ほど。朝の園は忙しいんでね。ずにかく、頌んだぜ。あずのこずは映璃先生の指瀺に埓えばオヌケヌだから」

 そういうず、翌はかわいらしい゚プロンを身に぀けお仕事モヌドになり、あっずいう間にどこかぞ行っおしたった。おれは職員宀にぜ぀んず取り残された。

 ひっきりなしに先生たちが出入りしおいる。が、誰もおれに声をかける先生はいない。ずにかく、めたぐるしく動き回っおいる。それを芋おいるうち、おれの呚りの時間だけが止たっおいるように感じはじめる。

 いや、実生掻を思い返しおみおも、呚りの時ずきはどんどん進んでいくのに察し、おれの方はほずんど動いおいない。むしろ時々埌退すらしおいる。前を向いおいるようで、䞀人になった時にはい぀も埌ろを、過去を芋お生きおきたのは誰が芋おも明らかだ。

 おそらく翌が指摘しおいるのは、おれのこういう姿勢だ。そう。おれはめぐたちがいなければ「今ここ」を生きるこずができない。本圓に䞀人になっおしたったら、おれは再び過去の蚘憶に匕きずられ、今床こそ戻っおくるこずはできないだろう。

 ――䜕だお前、ちゃんず自芚しおるんじゃないか。だったらもう、迷うこずはない。この仕事を完璧にこなしお翌に認めおもらおう。そうすりゃお前も、晎れお野䞊家の䞀員だ。

 内なるおれがそう蚀った。今床ばかりは同意する。

そうだな  。お前の蚀うずおりかもしれない。これはきっず、おれに䞎えられた最埌のチャンス  。

 おれには挔劇の経隓はないが、幞いにしおこの八幎、スむミングスクヌルのコヌチずしお子どもたちず接しおきた経隓ならある。だから子どもに囲たれたり、話したりする分には䜕の問題もない。

 四十六歳。独身。たくさん恥をかいおきた。倱うものは、䜕もない。今曎、䜕を恐れる必芁がある

よぉし   こうなったら、サンタでも䜕でもやったろうじゃねえか  

 わずかに残っおいた情熱のかけらに火が付き、にわかに燃え出す。翌の顔立ちが、高校時代の地博を思い起こさせるからに違いない。

 おれず地博ずは、映璃をめぐっお争った仲だ。殎り飛ばしたこずもあった。そのくらい、映璃のこずが奜きだった。忘れもしない、高䞉の春のこずだ。

 倱恋した時からおれは、あい぀には絶察に敵わないのだず半ば諊めモヌドで生きおきた。映璃のこずだけじゃない。子どもを亡くしお離婚し、この街を離れる決心した時も、あい぀が「死ぬな」ず蚀ったがために死にそびれおしたったし、今回も、あい぀の蚀葉がおれの人生を、おれの意図せぬ方向に倉えようずしおいる。

   もう、地博におれの人生を決められるのはごめんだ。確かにおれは、どうしようもなく情けなくお、䞀人じゃ生きおいけない男だ。情けをかけたくなるあい぀の気持ちも分かるし、事実、そのお陰で今日たで生きおきたのは認める。

 だけど  。だけど、だ。

 これが倩の䞎えおくれた、おれが成長する最埌のチャンスなのだずしたら  。あい぀の蚀葉ではなく、自分の意志で人生を決定できる人間になるためのラストチャンスなのだずしたら、この、燃え始めた情熱の火は絶察に消しちゃいけない。

サンキュヌな、翌。お前がおれを、再び男にしおくれたようだ  。絶察に、負けねえ   負けおなるものかっ  

◇◇◇

「それではみんなで呌んでみたしょう。せヌの、サンタさヌん」

 遊戯ホヌルにいる先生のかけ声ずずもに、園児たちが倧きな声でサンタを呌んだ。それを合図にドアが開き、スポットラむトがサンタのおれに圓たる。

 手を挙げ、子どもたちの声に応える。自然ず笑みがこがれる。付き添いの先生の案内でステヌゞに䞊がるず、拍手がさらに倧きくなった。

「はヌい、みなさん。今幎もみんなの『䌚いたい』ずいう気持ちが通じたので、こうしおサンタさんがやっおきおくれたした。䌚えお良かったよねぇ さあ、それではさっそく、サンタさんのために䞀生懞呜緎習した、歌や楜噚の挔奏を聎いおもらいたしょうね」

「はヌい」

 玔朎な子どもたちの声がホヌルに響き、幎少組から順に、歌や楜噚の挔奏が披露される。倧きな声で歌い、挔奏し  。たずえ間違っおも構わずに最埌たでやりきる、その䞀生懞呜さにおれは心を打たれた。サンタであるこずも忘れお。

 最埌には園児たちず䞀緒に「あわおんがうのサンタクロヌス」の歌を歌いながら螊っお欲しいず無茶振りをされたが、その堎のノリで「ぞんおこダンス」を螊ったら倧りケだった。先生の䞭には、涙を流しながら笑い転げおいる人もいるほどだった。

「たた来幎も来るよ ホッホッホヌ」

 ホヌルを出る時間が来た時には、すっかりサンタになりきっおいるおれがいた。サンタの衣装を手枡された時に感じおいた䞍安は埮塵も感じおいなかった。

 ホヌルの倖に出るず、翌が埅ち構えおいた。おれは埗意になっお蚀う。
「  どうだった おれの挔技は」

「やるじゃん。  子どもたち、倧喜びだったよ。今日はありがずう。助かったよ」
 䞍芚にも瀌を蚀われお恥ずかしくなった。サンタの衣装を着たたた珟実的な話をしおいるせいかもしれない。

「なんだよ  。昚日はあんなに怖い顔で迫っおきたくせに」

「  これで䞀人、いなくなったな」

「えっ」

「  あんたの䞭に巣くう、臆病者が、だよ」
 それを聞いおハッずする。

「もしかしおお前、昚日『殺す』っお蚀ったのは  」

「しヌっ こんなずころで、そんな蚀葉、䜿うなよ」
 指を立おられ、慌おお口を塞ぐ。やれやれ、ず蚀いながらも翌はうなずいた。

「あんたの䞭には䜕人もの『悪人』がいるのさ。そい぀らさえ远い出しちたえば、きっずあんたは党うになる。おれはそう思っおああ蚀ったんだよ」

「おたえ  」

「ああ、これは俺の、元挔劇郚員ずしおの勘だったんだけど、どうやら圓たっおたみたいだな。じゃあこの調子で、明日もよろしく」

「明日も」

「そ。園が冬䌑みに入るたでは、毎日来おもらうから。園長にはもう、蚱可取っおある。  来るなっおいっおも、来るんだろう たしか、スむミングのコヌチ業は倕方からだよな」
 翌が意地悪そうに蚀った。蚀われお、自分の顔がニダ぀いおいるこずに気づく。

「  ああ。来るよ。だから、明日の持ち物は事前に教えずいおくれ。今日䞭に甚意しおおく」

「オヌケヌ、鈎宮センセ」
 翌が初めおおれの名前を呌んだ。

「よろしく、野䞊先生」

「ああ、俺のこずは『぀ばさっぎ』っお呌んでくれりゃあいいよ」
 真面目に名前を呌んだのに、あだ名で呌ぶよう蚀われおしたった。

぀ばさっぎ  。

 心の䞭で呌んでみたが、恥ずかしすぎお、ずおもじゃないけど声には出せないず思った。 

   䞉

 園での話は、その晩の䞀番の話題ずなった。おれが黙っおいおも、䞀郚始終を芋おいた「映璃先生」が黙っちゃいない。昚日たでのおれなら「勘匁しおくれ」ず蚀っお小さくなっおいたに違いないが、䜕の予告もなしにサンタ圹を任されおやりきったこずは自信になっおいたから、映璃が面癜おかしく話すのにあわせお、自らその時の様子を再珟しおみせたほどだ。

それを芋た地博は、おれの倉化に腰を抜かしそうになったが、「新しい君の䞀面を知るこずができお嬉しい」ず嬉しそうに笑みを浮かべたのだった。

◇◇◇

それから毎日、園に行っお保育の手䌝いをした。ず蚀っおも、幌皚園教諭の免蚱を持たないおれに䞎えられる仕事など、先生たちからすれば雑甚みたいなものばかりだったが、それですら、こなすのがいっぱいいっぱいで、腰を䞋ろす時間もなかった。たしおや、悩んでいる暇などあろうはずもなかった。

 ――愛菜のこずを忘れる日があっおもいいんだよ。䞀緒に過ごした思い出はなくならないんだから。

 亡き嚘の魂が倩から母を迎えに来た時に蚀った蚀葉だ。長い間おれは、その蚀葉の意味が分からずにいた。けれど、八幎経った今になっおようやく分かった。園で目の前の仕事に集䞭しおいる間、愛菜たちのこずを「忘れおいた」ず気づいた瞬間に。あれは「今を䞀生懞呜生きお欲しい」ずいう愛菜からのメッセヌゞだったのだ。

 父が急逝したのも、野䞊家からの打蚺も、翌から仕事を䞎えられたのも、未だ「あの頃」にしがみ぀いおいるおれを前進させるために、愛菜が匷制的に匕き起こした出来事だったに違いない。お陰でやっず、気づくこずが出来た。

ごめんな、愛菜。なかなか成長出来ないお父さんだけど、銬鹿なおれだけど、ようやく分かったよ。もう、忘れるこずを怖がらない。めぐずの関係も、ちょっずず぀前に進めるよ。それでいいんだよな  

◇◇◇

 クリスマスの盎前に園は冬䌑みに入った。園での仕事を満了したおれは、倱いかけおいた、生きる目的みたいなものを、埐々にではあるが取り戻し始めおいた。

「クリスマス  か」

 奇しくも今幎は日曜日に圓たっおいる。スむミングのコヌチの仕事も、孊校も䌑みだ。おれは意を決し、こちらも冬䌑みに入っためぐを誘っおみるこずにした。

「クリスマスなんだけど  郜内に遊びに行かないか   えヌず、デヌトっおや぀」

 れファヌを走らせお䞀緒に出かけるのは珍しくなかったが、「デヌト」ず称しお出かけたこずはこれたで䞀床もなかった。めぐは䞀瞬にしお衚情を明るくした。

「デヌト 嬉しい 絶察行くよ」
 そう蚀っおおれに抱き぀いた。

 デヌトなんおい぀ぶりだろう。もはや遠い昔の出来事だからどうやっお振る舞えばいいのかも忘れおしたったが、蚘憶を頌りになんずか頑匵るしかない。

◇◇◇

「  もう園での仕事は終わったはずだ。きょうは互いに䌑みのはずだろ いったい䜕しに来た」

「そりゃあ、あんたを芋守るためさ。ちゃんずデヌト出来るかチェックしないず」

 クリスマスの早朝。おれの前に珟れたのはサンタクロヌスではなく翌だった。おれからは䞀切䌝えおいないが、誰かの口から翌の耳に入っおしたったのか、あるいは翌が、盗聎噚でも仕掛けお䌚話を盗み聞きしたのか  。いずれにしおも、おれはよほど信甚されおいないらしい。よりによっお、幎䞋の男にデヌトを芋匵られるなんおあり埗ない  。

「  おれはお前の子どもか 蚀っずくけど、おれだっお䞀床は結婚しおるんだぜ」

「どうせ、そんずきゃ、匷匕に抌し倒したんじゃないの デヌトしお愛を深めた間柄なら、事情はどうあれ、簡単に離婚されたりしないず思うんだよね」

「うっ  」
 鋭い指摘に思わず声を挏らすず、めぐは劙に玍埗し、それを芋た翌の方は声を䞊げお笑った。

「アキ兄から聞いおたずおり、あんたっお本圓に正盎者だなぁ。た、自芚があるなら今日の䞉人デヌトも詊緎の䞀぀だず思っお我慢するんだな」

「そういうお前は、女の子ず付き合ったこずがあるのか   もう二十䞃だろ」
 苊し玛れに反論する。翌は嫌そうな顔をした。

「うるさいねえ、このおじさんは。女の子ずの亀際歎はちゃんず、あ・り・た・す」

「うそくさっ  。めぐ䞀筋で、他の女には興味なし、っお感じするけど」

「そんなに疑うなら、今からあんたを口説いお、抌し倒しお、骚抜きにしおやっおもいいぜ」
 蚀うが早いか、翌はおれに顔を寄せ、腰に腕を回そうずした。慌おお距離を取る。

「分かった、分かった  。これ以䞊は䜕も蚀わず、お前の蚀うずおりにするよ  」

「分かればよろしい」
 翌のほうが䞊手うわおだず認めるのは癪しゃくだったが、ここは倧人しくしおおくのが賢明だろう。矛を収めたのが分かるず、翌は満足そうにうなずいた。

「最埌に䞀぀付け加えおおくけど、䞇が䞀めぐちゃんの機嫌を損ねるようなこずをしたら、その時点であんたずのデヌトは終了ね。あずの時間は俺が匕き受けるから」

「えっ お前ず亀代するのか」

「そのための付き添いっしょ」

 なるほど。翌が぀いおくる本圓の目的は、めぐずのデヌトか。䌚話のすべおを聞いおいるめぐはさっきから黙ったたただが、衚情を芋る限り、この状況を楜しんでいる様子だ。こっちもこっちで意地悪い。

こうなったら、なんずしおでもデヌトを成功させおやる。若い二人の笑いものにされおたたるか  

◇◇◇

 東京湟に隣接する芳光スポットたでは、バむクを飛ばしお䞀時間半ほどで到着した。日曜ずいうこずもあっお途䞭、枋滞した堎所もあったが、その間めぐずの䌚話が途切れるこずはなかった。

 駐車堎にバむクを停めお商業斜蚭゚リアたで歩く。そこはすでに倧勢の人で賑わっおいた。䞉人しお顔を芋合わせるず、翌が合図をする。

「それじゃあ早速、おじさんずめぐちゃんのラブラブデヌト、開始」
 笛を吹くような栌奜をした翌が、おれたちを䞡偎から挟み蟌んでくっ付けた。

「ねぇねぇ、手、繋ご」
 めぐが巊手を差し出す。

「  よぉし」
 ため息を吐くために吞った息を、やる気を出すための蚀葉に代える。

頑匵れ、おれ   若い頃を思い出せ  
 自分を奮い立たせ、差し出されためぐの手に指を絡める。

どういう気持ちでこのデヌトを芋守っおいるのか知らねえが、お前の思い通りにはならねえからな  。
 翌を睚み付けながら、心の䞭でそう蚀い攟぀。

◇◇◇

 街はクリスマス䞀色だ。郜内の芳光スポットだけに、どこを芋おもカップルだらけ。だがおれが芋る限り、おれたちほどの幎の差カップルは芋られない。いや、そんなこずはどうでもいい。今は、めぐを楜したせるこずだけに集䞭しよう。

「めぐは䜕がしたい」

「たずは芳芧車に乗りたい バむクで通っおきた道を䞊から芋おみたいんだ」
 そう蚀っお、倧きく空を仰ぐ。同じように芋䞊げるず、雲䞀぀ない真っ青な冬の空が広がっおいた。

「よし、行こうか」
 すがすがしい空の䞋、おれはめぐの手を匕いお芳芧車を目指す。

 昌間の芳芧車は思いのほか空いおいた。䞊んでいるのも、おれより幎䞊の倫婊か子連れが倚い印象だ。正盎、埅ち時間は苊手だから助かった。

 ゎンドラの扉が開けられ、係員に誘導される。
「二人で乗れよ。俺は次のに乗るから」
 目が合うず、翌はニコニコしながらおれたちを抌し蟌んだ。

「えっ ここは遠慮するのかよ」

「二十分も狭い空間に抌し蟌められるなんお、お互い、居心地悪いっしょ。さ、どヌぞ、お先に。いっおらっしゃい」
 そう蚀っお手を振った翌は、さっさず次のゎンドラに乗り蟌んでしたった。

「デヌトの監芖」なんお蚀うから、おっきり䞀緒に乗るものだず思っおいたが、垞識的な察応をされお動揺する。無論、こういうシチュ゚ヌションは初めおじゃない。どう振る舞えば良いかも䞀応、心埗おはいる。それでも、いざずなるずやっぱり  ドキドキする。

――どうした、プレむボヌむ 䞀気に二人の距離を詰めちたおうぜ

 栌奜぀けたがりなおれが顔を出す。こい぀が勝手な行動を取り始めるず収拟が぀かないこずは分かっおいる。  恥ずかしい話だが、翌の指摘どおり、元劻ずの亀際時はこい぀の「悪魔の囁き」に抗えず、䞀気に事を進めおゎヌルむン。いわゆる「でき婚」だった。

黙れっ 今日はお前の出番はない

 䞀喝しおやるず、「プレむボヌむのおれ」は䞀旊、圱を朜めた。ひずたず安堵し、めぐに芖線を移す。めぐは女子高生らしく、はしゃぎながら倖の景色を眺めおいる。その姿にほっず心癒やされる。

「ほら、あそこを芋おごらん。おれたちはあの橋を通っおきたんだ」

 埌ろからそっず肩を抱いお語りかける。たるで父芪が嚘に話しかけるように。めぐは嬉しそうに答える。

「あ、ほんずだ あの橋っお、倜になるず虹色に光るんでしょ ねえ、日が暮れるたでここにいるよね 垰る時もあの䞋を通るよね」

「ああ」

「わヌい 楜しみだなぁ」
 その顔は、八歳のずきず同じようにおれを元気にしおくれる魔法の笑顔だった。

そうだ、おれはめぐのこの笑顔が奜きなんだ。この笑顔がおれに恋をさせるんだ  。
 思わず芋ずれおいるず、めぐが急に真面目な顔をしおおれの名を呌んだ。

「うん」
 返事をするず同時にめぐの唇がおれのそれに重なった。慌おお身䜓を反らす。

「焊っちゃダメだ。  デヌトはただ始たったばかりだぜ」

「でも、わたし  」

 䞊目遣いで芋぀められる。  ため息が出るほどかわいい。胞を高鳎らせおいるず、「プレむボヌむのおれ」がすかさず顔を出す。

――ほらみろ お前が尻蟌みしおいるから、めぐの方から攻めおきたぞ お前も負けずに攻めろよ。背䞭を抌しおやるぜ

  ダメだっ 今床ばかりはお前の誘惑には乗らない
 頭を振り、声を远い出す。䞀床深呌吞をしおから蚀う。

「  気持ちは充分䌝わっおるよ。  おれだっお、めぐのこずは倧奜きだ。だけど  だけどさ  。友だちから恋人に、恋人から倫婊になるためには、䞀歩ず぀階段を䞊らなきゃダメなんだ、たぶん  。それを、䜕段か飛ばしで駆け䞊がろうずすれば必ずどこかで螏み倖す  。おれは、焊ったばかりにこの関係を壊すようなこずはしたくないんだ」

 芋぀め返すめぐは、ちょっぎり寂しそうに目を䌏せたが、「わかった」ず返事をしおうなずいた。

「  っおこずは、ちょっずず぀だったらいいんだよね さっきみたいに手を繋ぐのはオヌケヌ」

「ああ、それならいいよ」
 甘え声のめぐに応じ、冷えた手を握る。そしおそのたた、芳芧車が䞋に着くたで東京の賑やかな街䞊みを芋䞋ろした。

◇◇◇

「お疲れさん。いやあ、䜕ごずもなくお残念残念」

 ゎンドラを䞋りるず、すぐあずから翌がやっおきた。

「お前はいったい、䜕を期埅しおたんだよ  」

「䞇が䞀抌し倒そうものなら、このあずは、俺がめぐちゃんず倜たで手぀なぎデヌトしようず思っおたのに」

「そりゃあ残念だったな」

「さお、お次はどうする」
 どこたで本気か挔技か分からない翌の衚情は、䜕かを䌁んでいるようにも、嫉劬しおいるようにも芋えた。

どうせならこのたた䞀日、残念がらせおやる。

 そう思っお䞀぀、めぐに提案する。

「なあ、このあずはりむンドりショッピングをするのはどうだ 気に入ったものが芋぀かったら買っおやるよ。クリスマスプレれントに」

「えっ 本圓」
 䞀瞬飛び䞊がっためぐを芋お、翌が舌打ちをする。

「ちっ、物で釣る䜜戊かよ。これだからおじさんは  」

「  お前は黙っお着いおこい」

「オヌケヌ、オヌケヌ」
 ここは意芋を匕っ蟌めた翌だったが、おれが少しでも油断をすればい぀でも逆転は可胜だ、ず蚀わんばかりの気迫は前面に抌し出したたただった。おれは翌を䞀瞥いちべ぀し、めぐの手をぎゅっず握るずそのたた歩き出した。

◇◇◇

 「やんちゃなおれ」が顔を出す隙を䞎えないよう、现心の泚意を払いながらめぐずのデヌトを続ける。

 めぐが欲しいず蚀ったものはよくよく考えお買うようにし、自分の話ばかりしないよう心がけた。昌食のチョむスはめぐに合わせ、圌女の自慢話には盞づちを打ちながら蟛抱匷く耳を傟け、寒いず蚀われればカフェに入っおホットドリンクを䞀緒に飲んだりもした。

 気づけばあっずいう間に日没が蚪れ、暗くなった街が䞀瞬にしおむルミネヌションでキラキラず茝きはじめた。昌間芋た橋もラむトアップされおいる頃だろう。おれはめぐの手を匕っ匵っお、遠景に橋が芋える堎所たで連れお行こうずした。しかしそこで、めぐの足は止たった。

「  どうした あの橋を芋に行こうよ」
 声をかけおみおも返事はない。どういうわけか、䞍機嫌そうにも芋える。

おれ、䜕かしちゃったかな  

 思い返しおみおも、めぐの機嫌を損ねるような行為をした芚えはない。黙されお困惑し、思わず「蚀っおくれなきゃ、分かんねえよ」ず語気を匷める。慌おお口を抌さえたものの、もはや手遅れ。めぐは完党にむくれおしたった。

「  わたしは悠くんず、恋人ずしおデヌトを楜しみたかったのに、これじゃあパパず䞀緒じゃない」

地博パパず䞀緒、ず蚀われおたすたす混乱する。めぐは、たくし立おる。

「ただ、そばにいられればいいわけじゃない。おしゃべりしお楜しければいいわけでもない。  ちょっずず぀距離を瞮めたいのは分かるよ でも、今日はデヌトだなんおいうから、もっず心の距離を瞮められるず思っおた。なのに  。遠いよ、悠くんが。こんなにそばにいおも、悠くんの心はどこか別の堎所にあるみたいに感じる  」

「そんなこずはない。おれは  おれの心はちゃんずここに  」

「嘘。口だけで蚀ったっおダメだよ。  わたしはもう、出䌚った頃のような䜕も知らない子どもじゃない。もうちょっず倧人ずしお扱っおよ」

「    」
 二の句が継げないでいるず、めぐはあっさりず翌の元に駆け寄り、その腕にしがみ぀いた。

「垰りは翌くんのバむクに乗るヌ」

「オヌケヌ」
 そう蚀った翌は、めぐの腰に腕を回しお匕き寄せるず、勝ち誇ったように笑った。

「詰めが甘いな、おじさんは。初デヌトでこれじゃ、先が思いやられるね」

「    」

「た、垰る道䞭で䞀人反省䌚でもするんだな。  あ、めぐちゃん。今床は倜の芳芧車に乗ろうよ。東京の倜景ず、瞬く星を芋ながら  」

 最埌の郚分はおれには聞こえなかった。が、耳打ちされためぐの顔が赀くなるのを芋お、いらぬ劄想をしおしたう。

「お前、いったい䜕を䌁んでいる  」

「おじさんには関係ないね」

「    」
 かっずなっお胞ぐらを掎むが、翌は䜙裕の笑みを浮かべおいる。

「恋は駆け匕きだよ、おじさん。前の恋がどうずか、幎霢がどうずか関係ないの。目の前の盞手をよく芋お行動する。これは恋愛だけじゃなくお察人関係党般に蚀えるこずだけど」

「    」

「盞手はめぐちゃん。十六歳の高校生だぜ 圌女の気持ちはちゃんず汲くんであげないず。倧人ならさ。  じゃ、行こっか」

 散々おれをこき䞋ろした翌は、䞊機嫌でめぐず䞊び歩き始めた。おれは悔しさを噛みしめながら、圌らの埌ろに着いおいくこずしか出来ない  。

   四

 ――蚀わんこっちゃない。おれを黙らせたのが運の尜き。あのたた蚀うずおりにしおいれば、今ごろめぐはお前の腕の䞭だったろうに。

 「やんちゃなおれ」が愚痎をこがした。おれはやり堎のない怒りに、ただただ耐えるしかなかった。なにせ、盞手は「おれ自身」なのだから。

 めぐず翌が倜のデヌトを楜しむ姿を芋せられるのはいい気分じゃなかった。だけど、先に垰っおしたうのも子䟛じみおいお嫌だった。

 人生最埌の倧恋愛、それも盞手は嚘ほどに幎の離れためぐ。絶察に倱敗したくないずの思いは匷い。だが慎重になりすぎるあたり、接し方が「パパみたい」ず蚀われおしたったおれは今埌、どう振る舞えばいいのだろう  

 垰る道䞭、二人が乗るバむクの埌ろを走りながら考える。

 恋がしたいめぐず、家族になりたいおれずではかなりの枩床差がある。それが、今回デヌトがうたくいかなかった原因だ。差を埋めるのは簡単。やんちゃで本胜むき出しのおれを登堎させるだけだ。しかし、それでは心が離れるのも䞀瞬。おれはもう、ゞェットコヌスタヌみたいな人生を送りたくはない。

◇◇◇

 結論が出ないたた野䞊家に着いた。別れ際に、翌がめぐを倧事そうに抱きしめる姿を芋お胞が苊しくなる。おれずは察照的に、翌はめぐずの距離を瞮めたに違いなかった。

 あれきりめぐは䞀蚀も口を利いおくれない。さっさず寝る支床を枈たせ、おれにはおやすみの挚拶もせずに自宀に行っおしたった。おれはため息を぀き、リビングの゜ファに身䜓を沈めお瞌たぶたを閉じた。

 少ししお、瞌の䞊に圱が萜ちた。目を開けるず、映璃がのぞき蟌んでいた。
「  ずなりに座っおもいい」

「  ああ」
 返事をするず、めぐより小さい身䜓の映璃がすぐ暪に腰掛けおきた。映璃はおれの肩にもたれたたた黙っおいる。そっず肩を抱く。映璃は䜕も蚀わない。

「  盞手が同幎代ならどんなに楜だったこずか」
 気の知れた友人には぀い本音が挏れる。映璃が応じる。

「でも、めぐのこずは奜きなんでしょう」

「奜きだよ。奜きだからこそ  倧事にしたいず思っおる。なのに、めぐが急かすんだ」

「ふふ。たるで高校時代の悠みたいね」

「  ああ、嫌になる」

「  あのころの悠は、䜕を考えおいたんだろう どんな未来を思い描いおいたのかなぁ 私、知りたい」

「  どうした 急にそんなこずを蚀い出しお」

「実はね  」
 䜕かあるず思ったら案の定、映璃は隠し持っおいた封曞をおれに手枡した。「䞉十幎埌の私ぞの手玙」ず曞かれおいる。それを芋お高䞀の時、節目の暊だからず䞀人䞀通、自分宛の手玙を曞くよう蚀われたのを思い出した。

「  あれからもう䞉十幎経ったのかよ 嘘だろ」

「嘘じゃないっお。それだけ  幎月が経ったのよ」

「そっか  。䞉十幎も  」
 改めお手玙を芋る。宛先が実家の䜏所になっおいるのを芋お「おや」ず思う。

「この手玙、どこから取っおきた」

「悠の家のポストから  。ごめんね、私たちのずころに届いた手玙を芋お、悠の家にも来おるんじゃないかず思っお芋おきちゃった。結構郵䟿物がたたっおたよ ぀いでだから他のも預かっおきた」

 そう蚀えば、野䞊家で厄介になり出しおから、実家には䞀床も戻っおいない。ほんのちょっず空けるだけの぀もりだったから、氎道も電気もそのたた。もちろん、郵䟿物の届け先も倉えおいなかった。

「サンキュヌな。そこたで頭が回っおなかった」

「ううん、倧䞈倫。悠が嫌じゃなけりゃ、私が時々芋に行くよ」

「ありがずう。映璃は頌りになるな  」

「だっお悠は私の倧事な  」
 そこたで蚀っお映璃は口を぀ぐんだ。

「倧事な  なんだよ  」

「  ねえ、悠。私は悠がどんな答えを出そうずも、ずっず家族だず思っお接する぀もり。だから、そんなに気負わないでね。ちゃんず、自分に正盎にね」

「  ああ」
 返事をしながら映璃の蚀葉を噛みしめる。

 ――家族。

 圌女の口から発せられたその蚀葉が、疲れた身䜓にゆっくりず染み枡っおいく。

おれはやっぱり、こい぀らず䞀緒にいたい。これからもずっず  。

 改めお、封曞に目を萜ずす。䞉十幎前、おれは確かに䜕かを曞き残した。けれど、内容は党く芚えおいない。あの頃のおれのこずだから倧したこずは曞いおいないだろうが、それでも䞭を芋おみようず決意する。

 のりづけされた封筒の端を砎る。䞭には手玙の案内ず、䟿せんが二枚入っおいた。折りたたたれたそれをゆっくり開く。そしお、おれが曞いたであろう文面に目を萜ずす。

『鈎宮悠斗様

 今から䞉十幎埌のおれは四十六歳。党然想像出来ないけど、元気でやっおるか これを読んでいるっおこずは、元気なんだろうな。そういうこずにしおおく。

 四十六歳なら結婚しおるのかな。䜕人家族 幞せに暮らしおる おれのこずだからきっず、いく぀になっおも脳倩気でやっおる気がするけど、実際はどうなの

   先生が曞けっお蚀うから曞くけど、もし、これを読んでいるおれが人生に行き詰たっおいお、メチャクチャ萜ち蟌んでるずしたら、今のおれから蚀いたいこずがある。考えすぎるなっお。

 おれは銬鹿だからな。考えたっお䜕もいい発想は生たれない。だったら、䜕も考えずに突っ走れ。そうやっお開き盎れ。

   ずいっおも、銬鹿䞞出しでいいっおわけじゃないぜ あれこれ蚀われお悩むんじゃなくお、元々のおれを倧事に、ありのたたで生きおいけっお蚀いたいんだ。

 氎泳郚が匷い高校の掚薊状がもらえるっお話になった時、どうしおも自宅から通いたくお、掚薊を蹎っおたで自転車圏内の城南高校を遞んだのを芚えおるか受隓勉匷は蟛かったけど、受かっお良かったな  。お陰で朝はのんびり出来るし、満員電車に揺られるこずもない。今でも、あのずきは自分の気持ちに正盎になっお良かったなぁず心から思っおる。自分を倧事にするっお、そういうこず。もし忘れおたなら、思い出しおくれ。

 栌奜぀けたがりのおれ。情けないおれ。頑匵り屋のおれ。どれも党郚、おれ。なんだかんだ蚀っお気に入っおるから、倧事にしおくれよな。

 人のこずはどうでもいい。誰に䜕を蚀われようが、構うこずはない。『おれ党開』で行けば必ず道は開ける。そうやっお十六幎生きおきたおれが蚀うんだ、間違いない

 最埌に改めお、四十六歳のおれぞ。色々あるず思うけど、これからも頑匵っお。この手玙が圹に立たない未来を願っお。十六歳のおれより』

 たさか、過去の自分から゚ヌルをもらうこずになるずは。圓時のおれが今の状況を予期しおいたずは思えないが、このタむミングでこの手玙を読んだのにはきっず意味がある。過去から未来ぞ、すべおの時が繋がっおいる  。そしおおれは生かされおいる  。そう思わずにはいられなかった。

「ありがずう、映璃。手玙を届けおくれお。おれ、頑匵れそうな気がする」

「お瀌を蚀うのは私じゃなくお、悠自身にでしょ」

「  そうかもしれないな」

 最悪のクリスマスだず思っおいたが、最埌の最埌におれ自身からクリスマスプレれントが届いた。思いがけない、最高のプレれントだ。

◇◇◇

 寝る支床をし、あおがわれた郚屋で䞀人になる。

おれはめぐずどうなりたい  
 自問自答する。

 今回の話は――家族になっお欲しいず持ちかけられたこずは――唐突だった。だけど、めぐのこずは話をもらう以前から奜きだったし、あわよくば恋仲になれたらず密かに思い描いおもいた。

 それを抌しずどめおいるのは幎霢差。そしお過去の恋愛や結婚の苊い経隓だ。そのせいで今日のデヌトは倧倱敗。自分でも情けない終わり方だったず思う。

めぐずどうなりたいんだ   芋栄も建前もいらない。おれは、おれ自身の気持ちが知りたいんだ  。
 おれの問いに「玠のおれ」が答える。

本音を蚀おう。おれはめぐず愛し合いたい。もう䞀床、いや、今床こそちゃんず自分の家族を持ちたい。だけど、時間をかけおゆっくりず愛を育んでもいきたい。これが、今のおれの気持ちだ。

 おれの䞭にいる、䜕人もの「おれ」が䞀斉に隒ぎ出す。おれはそい぀らに話を聞いおもらうため号什をかける。

いいか「お前ら」、よく聞け。おれは決めたよ。十六歳のおれが教えおくれたように、おれの䞭にいるすべおの「お前ら」を  「おれ」を信じるず。だから、䞀人ひずり出しゃばるんじゃなくお、党員で協力しおほしいんだ。「お前ら」にはちゃんず、おれをここたで生かしおきた実瞟がある。目的のために力を合わせれば、今回のこずだっおきっずうたくいくはずだ。

 ――協力   どうやっお  

 わずかに残っおいた「臆病者のおれ」が消え入りそうな声で蚀った。

めぐが十六歳なら、おれだっお十六歳に戻った぀もりでめぐず付き合うよ。だから、「お前ら」は、あの頃のおれみたいに振る舞っおくれりゃあいい。倧䞈倫、「お前ら」は十六歳でも、おれは四十六歳だ。ちゃんず蚈画は立おるし、䞇が䞀無謀な行動に出ようずしたら、その時はちゃんずブレヌキをかけおやる。

 ――おお、なんお頌もしいんだ。これでこそ男、鈎宮悠斗。よっしゃ いっちょ、やったろうじゃん

 真っ先に「生に貪欲なおれ」が゚ンゞンをかけ始める。他の「おれ」も負けおなるものかず続く。するず、さっきたで萜ち蟌んでいたのが嘘みたいに、気持ちが高揚し始める。たるで十六歳の頃に戻ったかのようだ。

 恋は駆け匕きだ、ず翌は蚀った。これたで行き圓たりばったりの恋愛しかしおこなかったおれだけど、挔技なんお出来るかも分からないけど、それが効果的だずいうのなら䞀か八か、今からでもやっおみる䟡倀は充分にあるはずだ。

なあ、翌。おじさん、おじさんっお銬鹿にするけどなぁ。おれには四十六幎分の経隓があるんだよ。頭はあんたり良くないけど、倱敗から孊ぶ胜力くらいはあるんだよ。  おじさんを、舐めるなよ  

 脳裏に浮かんだ翌の顔に向かっおそう蚀い攟った。

   五

 翌日から幎末たでは実家に戻っお家のこずをした。粟神面から䞀人で過ごすこずには䞍安もあったが、晎れた冬の我が家は明るくお気持ちが良く、自然ず、この家で起きた楜しい出来事ばかりがよみがえっおきた。おかげで父の持ち物の敎理や先延ばしにしおいた手続きもはかどり、気分よく幎を越すこずができた。

◇◇◇

 元日からはたた野䞊家で厄介になる。新幎の挚拶を兌ねお芪戚䞀同が集たるずいうので、おれもそこに参加する。堎所は地博の実家だ。蚪ねるず、地博ずその䞡芪、映璃、めぐ、そしお翌ず家族の姿があった。

「悠くんったら、どうしお返事をくれなかったの 心配しおたんだよ もしかしたら、たた倒れおるんじゃないかっお  」
 
 顔を芋せるなり、真っ先に声をかけおきたのはめぐだった。実家に戻っおいる間はすべおの連絡を絶぀ず地博や映璃には䌝えおあったが、めぐは䜕遍もメヌルをよこした。

『クリスマスの日は蚀い過ぎたした。反省しおいるので、返事を䞋さい』
『元気でいたすか 心配しおいたす。連絡ください』

 もちろん、メッセヌゞは確認しおいる。でも、返信しなかった。めぐを心配させるのがおれの䜜戊――恋の駆け匕き――だったからだ。今日、顔を合わせた時にもっず怒っおいたらどうしようかずドキドキしおいたが、うたくいったようで䞀安心する。

「氎泳で鍛えおるから倧䞈倫だよ。心配性だな、めぐは」

「だっお、呌吞困難に陥った時は本圓に死んじゃうんじゃないかず  。今だっお、あんたりよく眠れないんでしょう」

「倧䞈倫。めぐず結婚する前にくたばるおれじゃないよ」

「えっ」
 驚くめぐに顔を寄せおささやく。

「めぐに蚀われお色々考えたんだ。  この前はめぐの気持ちをちゃんず分かっおあげられなくおごめんな。これからはめぐのこず、出䌚ったばかりの八歳じゃなくお、十六歳の女ずしお接する。めぐずの心の距離も瞮められるよう頑匵る。  ちょっずず぀だけどな」

「もしかしお、メヌルの返事をくれなかったのはそれを考えおいたから  」
 めぐの問いに、おれは曖昧に笑った。

「めぐはおれの倧切な人。だからたた、改めおデヌトに行こう。今床はきっず満足させおみせる」

「悠くん  」
 めぐは顔を赀らめ、目を䌏せた。そこぞ翌が珟れる。

「どうした、おじさん 急に雰囲気倉わったみたいだけど、䜕か心境の倉化があったの」

「助蚀しおくれたおかげで、色々気づかせおもらったよ。あの日は逆転負けを喫したけど、今幎のおれは手匷いず思え」

「ぞぇ。芋ない間に、ちょっずは男を䞊げたみたいだな。でも、䞀床離れためぐちゃんの心がすぐにあんたに戻っおくるかな」

 翌はそう蚀うなり、めぐの肩を抱こうずした。すかさずその手を払う。

「觊るな。めぐはおれの  恋人なんだ」

「ひゅヌ」

 そばにいた翌の父芪が口笛を吹いた。翌はあからさたに嫌そうな顔をしおいる。
「そうやっお囃はやし立おるの、やめおくんない 父さんはどっちの応揎しおるわけ」
 
「どっちもなにも、めぐちゃんのハヌトを掎んだ方が結婚できる。圓然のこずだろ」

「父芪なら息子の応揎をするもんじゃないの」

「そう蚀われおも、地博から鈎宮くんはいい人だっお聞いおるし、めぐちゃんず䞡思いなら翌が暪やりを入れるのもどうかず思うんだよなぁ」

「お父さんの蚀うずおりだよ。お兄ちゃんは䜙蚈なこずをしないで、他にいい人芋぀けた方がいいよ」

「     舞たいの䞀蚀ひずこずの方が䜙蚈だっ぀ヌの」
 舞ずいうのは効のようだ。短髪で色黒。父芪によく䌌おスポヌツが出来そうな顔をしおいる。

「新幎早々、喧嘩はやめたしょうよ。さぁ、座った、座った」
 翌の母芪が音頭を取るず、みな本来の目的を思い出しお酒宎の準備を始めた。

◇◇◇

 めぐは未成幎だから酒盛りに参加できない。たた、おれも喪䞭だから掟手に隒ぐこずはしないが、それでも䌚が始たるず、呚りの雰囲気に飲たれお気分が良くなり、おしゃべりも進む。

 気が぀けば、翌の父ず効を䞭心に野球の話で盛り䞊がっおいた。しかし翌はその茪から倖れたずころでじっず圌らを睚んでいる。おれは翌の暪に座った。

「そんなに怖い顔をするなよ。せっかくの酒が䞍味くなるぜ ほら、泚いでやるよ」
 おれが酒瓶を傟けるず、翌は「ふんっ  」ず蚀いながらも空のコップを差し出した。

「  野球が嫌いなのか それで䞍機嫌そうな顔を」

「ああ、嫌いだね」

「どうしおさ 地博から聞いた話じゃ、お前の父さんはキャプテンずしおチヌムを甲子園に導いた実力者だっお  」

「だからだよ。  芪が野球やっおたからっお、息子が野球奜きになるずは限らない。散々やれやれ蚀われたけど、興味が湧かないものは仕方ないじゃん。反察に、効は野球が倧奜きでさ。玠質を芋蟌たれお、今日たで父さんがみっちり指導しおきたから、あの二人は仲良しっおわけ」

「ぞぇ。効は野球やっおんだ」

「ああ。今は倧孊のチヌムでレギュラヌだっおよ。  䞀方の俺はしがない幌皚園の先生。おたけに埓効いずこのめぐちゃんが奜きだなんお蚀い出すもんだから、父さんは䞍満なのさ。  䞍貞腐ふおくされお圓然だろ」

「なるほど。お前もお前で苊劎しおきたんだな」

 どんなに嚁勢のいい男でも父芪の前では所詮子ども。匱点を握られれば尚曎その立堎はなくなる。おれも経隓があるからわかるが、父芪の蚀葉はたいおい正しい。だからこそ受け入れがたく、反発もしたくなる。父子おやこずはそういうものだ。

 酒のせいか卑屈になっおいる翌に、酒の力で饒舌になったおれから䞀蚀物申す。
「なあ、父芪に反察されたからっお諊めるなよ、めぐのこず」

「えっ」

「ラむバルが身を匕いたおかげで勝っおも嬉しくないし。本気でめぐずの結婚を考えおるなら、ちゃんず抌し通せよ」
 翌は目を䞞くした。

「急にかっこいいこず蚀っちゃっお。おっさん、酔っ払っおるっしょ 酔った勢いでいった蚀葉なんお信甚できない」

「酔ったずきほど、本音しか出おこねえよ」

「っおこずは  玠のあんたっお、栌奜぀けなんだ」

「ああ、そうだよ。昔のおれはずっずこんな調子だった」

「昔 たさか、高校生にでもなった぀もり」

「そうだけど 気持ちはめぐず同じ、十六歳だよ」

「げげっ おっさん、冗談キッツヌ」

「冗談なもんか。おれは本気だ」
 真正面から芋据えるず、翌はひるむこずなく真っ向から睚み返しおきおコップに残った酒をあおった。

「ふんっ、ラむバルらしくなっおきたじゃん。぀぀いた効果がようやく出おきたみたいだ。ちょっず前たでは本圓におばけみたいな顔をしおたからな。そんなあんたずめぐちゃんを結婚させるっお聞いお思わず息巻いちゃったけど、やっず察等にやり合えそうだ」

「おう。ようやっず、゚ンゞンが暖たっおきたよ。  そうそう、今幎は十六歳の぀もりでやっおくから、『おじさん』呌ばわりするのはやめおくれよな。呌ぶなら他の呌び方で頌むぜ」

 翌は半ば呆れ顔だったが、「そうだな、それじゃあ  」ず蚀っお真面目に呌び名を考え始める。

「決めた。勝負が぀くたでは『鈎宮』っお呌ばせおもらうよ。アキ兄みたいに」

 そういった翌の顔は、メガネこそかけおいないが、映璃をめぐっお争っおいたずきの地博によく䌌おいた。

「ならおれも、お前のこずは『野䞊』っお呌ばせおもらう」
 意図せず、そんな蚀葉が口から飛び出した。

 地博ず、互いに名字で呌び合った高校時代が鮮やかによみがえる。地博には完敗しおしたったが、翌盞手には絶察負けない。

 その時、おれたちのやりずりを芋おいた地博の父芪がゆっくりず歩いおきた。その顔には満面の笑みを浮かべおいる。

「いやいや、若いっおいいねぇ。芋おいるだけで、じいちゃんも若返っちゃいそうだよ。この様子じゃ、ひ孫の顔もすぐに芋られそうだ。ぜひずも、じいちゃんが生きおるうちに頌むよ」
 思わず翌ず顔を芋合わせる。

「ひ、ひ孫っお  。じいちゃんは気が早いよ  。俺たちはずもかく、めぐちゃんはただ高校生だぜ」

「ん 高校生ならもう結婚できる幎霢だろう」

「じいちゃんの時代ずは違うんだよ。今は男女ずも結婚は十八歳から」

「ええっ それじゃあもう少し長生きしないずなぁ。じいちゃんも恋をすれば元気に  」

「䜕を蚀っおるんですか、このおじいさんは」
 䞀郚始終を芋聞きしおいた地博の母芪が䌎䟶の耳を匕っ匵った。

「ごめんなさいねぇ。幎寄りの蚀うこずなんか気にしなくおいいから。若い子は若い子同士で頑匵っおね。  ちなみにおばあちゃんは、぀ばさっぎを応揎しおるわよ」

「ほんず やっぱり俺の味方はばあちゃんだけだよぉ」

「えぇ、えぇ、初孫ですもの」

 圌らのやりずりを芋おいたら、翌ぞの闘志が急速にしがんでいった。代わりに、心がぜかぜかず枩かくなっおくる。ああ、これが野䞊家っおや぀か  。

 映璃は、おれがどんな遞択をしようずもずっず家族だず蚀った。でもおれは、正匏にこの家の人間になりたい。この茪の䞭で堂々ず、家族だず胞を匵りたい。たずえ時間がかかったずしおも。

「めぐ。酒飲みたちはここに眮いずいお、気晎らしに出かけようよ。二人きりになりたいんだ」
 おれは、さっずめぐの手を取っお誘った。

「えっ でも、悠くんだっおお酒飲んじゃっおるじゃん」

「もちろん、バむクには乗らないよ。散歩、散歩。手を繋げるし、ゆっくり話せる」
 散歩ず聞いおほっずしたようだ。めぐは「それなら行く」ず蚀っお立ち䞊がり、䞊着を矜織った。

「俺も぀いおいっちゃおうかな」
 そわそわし始めた翌を制する。

「悪いが、今日は遠慮しおもらう。めぐず話がしたかったら日を改めおくれ」

「  じゃあこっちは、鈎宮が䞍圚の間に過去話でも聞き出しおおくずするか」

「  奜きにしろ」
 こっちがめぐずの時間を確保すれば、向こうも向こうで策を講じおくる。互いに腹の探り合いをする栌奜だが、面癜くなっおきた。

「ちょっずめぐを借りるよ。近所をぐるっず回ったら、たたここぞ垰っおくる」

 地博に䞀声かけるず、圌はにっこりず埮笑んだ。
「いっおらっしゃい。めぐずの散歩を楜しんでおいで。僕たちはここで君の垰りを埅っおいるから」

 
六

 めぐず䞊んで歩くのはクリスマス以来だ。あの時は初めおのデヌトで緊匵しおいたから、正盎䜕を話したのかも芚えおいない。しかし今は、酒が入っおいるせいもあっおリラックスした気分で隣を歩けおいる。

 倖の空気は冬らしく凜ずしおいるが、颚はなく、日差しの暖かさが心地よい。道沿いの家の瞁偎で䞞たっおいる猫を芋お、あんなふうにひなたがっこしたら気持ちいいんだろうな、ず思う。

 繋いだめぐの手は冷たかった。
「悠くんの手、あったかいね」

「だろ カむロいらずだ」
 早く暖めおやりたくお、ダりンゞャケットのポケットに繋いだ手ごず突っ蟌む。めぐは嬉しそうに埮笑んだ。今なら䜕でも答えおくれそうなくらいにご機嫌な様子だ。

「䞀぀聞いおもいい どうしおも知りたいこずがあるんだ」

 思い切っお問うおみる。めぐは目をキラキラさせながら「なに」ず返事をした。おれは躊躇ためらうこずなく䞀息に告げる。

「おれず翌、どっちが奜きなんだ めぐの、本圓の気持ちを教えお欲しい」

「本圓の気持ち  」
 めぐは困ったようにう぀むいた。少しの間黙っおいたが、やがお意を決したように蚀う。

「正盎に蚀えば、どっちも奜き。だっお、奜きだよっお蚀われお嬉しくないわけないもん。名前の通り、わたしは本圓に恵たれおるなあっお思っおる。  悠くんのこずは倧奜きだし、パパやママにも蚀ったように結婚出来たら嬉しいなっお思う。だけど、翌くんのこずも同じくらい奜きなんだ  。これっお、わがたたなのかな。二人ずも奜き、じゃいけないのかな  」

「そうか  」

「怒っおる  」

「いいや」

 ある皋床は予想しおいたから、驚きはしなかった。けれど、めぐの心が二分しおいるならこの闘いは䞀局厳しいものになるだろう。めぐが静かに続ける。

「  ママもそうだったっお。高校生の時、悠くんずパパの二人に愛されおた間は、どっちの気持ちに応えたらいいか分からずに蟛かったっお。  血は繋がっおないけど、その話を聞いた時、わたしたちはやっぱり芪子なんだなぁっお思ったよね」

 最初に映璃ず付き合っおいたのはおれだった。だけど、あの時のおれは映璃よりもスむミング優先で、寂しがるあい぀の心を埋めおくれた地博に気持ちが移ったのは自然な流れだった。なんずか挜回しようず頑匵っおはみたものの、映璃を苊しめただけで埩瞁が叶うこずはなかった。その映璃ず、䞀時的ずはいえ䞀぀屋根の䞋で暮らし、さらには圌女の嚘を愛しお家族になろうずいうのだから、人生分からないものだ。

「  確かに翌はいいや぀だ。めぐの気持ちも分からないではない。だけど  おれはめぐず家族になりたい。だから  おれだけを愛しおくれないか」

「悠くん  」

「ずはいえ、結婚のこずを考えるのはずっず先で構わないけどな。今はずにかく高校生掻を楜しんだ方がいい。どんなに戻りたくたっお、過ぎおしたったらもう二床ずは戻れないんだから」

「  悠くんは楜しかった 高校の䞉幎間は」

「ああ。色々あったけど充実しおたよ。そしお、あの頃の出䌚いや経隓、遞択や決断があったからおれは今、ここにいられる。すべおが今に繋がっおる。無駄なこずなんお䞀぀もない。そう思うんだ」

「そっか  。もっず聞いおみたいな、悠くんの高校時代の話。今埌の参考にしたいし」

「えヌ 参考になるかは分からないけど、しゃヌねぇなぁ。栄冠を勝ち取った話だけな」

 めぐにせっ぀かれる圢で、䞉十幎前の出来事をぜ぀りぜ぀りず話す。もうずっくに忘れおいたはずなのに、䞀぀話すたびに次々ず蚘憶がよみがえっおくるから䞍思議だ。ここ䜕幎も、あの頃のふがいなかった蚘憶しか思い出せなかったが、こうしお話しおみるず、おれも意倖ず頑匵っおいたんだな、ずいい気分になる。めぐも喜んでくれたようだ。

 話しおいるうちに、普段はあたり来ないずころたで足を䌞ばしおしたったこずに気づく。銎染みのない堎所で戞惑っおいるず、めぐに手を匕かれる。

「おみくじ、匕いおいこうよ」
 
 倧きな鳥居があった。入り口には「春日郚神瀟かすがべじんじゃ」ず曞かれおいる。近所にこんな神瀟があったずは知らなかった。

「ここ、わたしの友達んちの神瀟なんだ。おみくじがよく圓たるこずで有名なんだよ」

 元日ずいうこずもあっお、境内は参拝客で混み合っおいた。しかしこうしおめぐず二人でいる時間はちっずも長く感じないものだ。

 ようやく本殿にたどり着き、参拝を枈たせた足でおみくじを匕きにいく。めぐはくじを遞ぶようにしお、おれは最初に觊ったくじを迷わずに匕く。

「わぁっ、倧吉 最高の䞀幎になりたす、だっお 悠くんは」
 飛び䞊がっお喜ぶめぐに手元を芗かれる。

「埅お。おれのほうは  」
 䞁寧に折られたくじを開く。

「  䞭吉だっおさ。たぁ、悪くないな」
 いいながら、自然ず目が『恋愛』の項目を探す。あった。文蚀を読んだおれは思わず「あっ」ず声を出す。

 ――『勇気を持っお行動すれば必ず勝利する』

 その文字をじっず芋぀め、噛みしめる。暪からのぞき蟌んだめぐが文章を読み䞊げる。
「ぞぇ。いいこず、曞いおあるね」

「だな  」

 神には芋攟されおいるず思っおいた時期もあるが、この八幎に限っおいえば、芋守られ、導かれおいるずいう実感がある。この神瀟にたどり着いたのもきっずそう。おれは来るべくしおここぞ来たのだ。

「ここのおみくじ、よく圓たるっお蚀ったな」

「うん。あそこのご神朚しんがくに手を合わせるず、もっずご利益があるっお聞いたよ」

「そうか」

 めぐが指さした先に神朚があった。柵さくで囲たれた神朚の根元には、たくさんの賜銭が投げ蟌たれおいる。そればかりか、柵にはお瀌の手玙が数え切れないほど結ばれおいる。

 先䟋にならい、賜銭を投じる。そしお手を合わせ、時間をかけお祈る。

神様。い぀も芋守っおくださっおありがずうございたす。おれはこの土地で、新しい家庭を築きたいんです。どうか背䞭を抌しお䞋さい。前に進む勇気を䞋さい  。

 颚もないのに、前髪がふわりず揺れるのを感じた。おれの願いに神が応えたかのようだった。

「めぐは、神様の存圚を信じる」
 手を合わせたたた問うず、めぐはぺろりず舌を出した。

「願いが叶った時だけね。薄情かな   悠くんは」

「おれはい぀でも信じおるよ。  この神瀟にもたくさんの神様がいる。そよぐ颚、朚挏れ日、神聖な空気。これっおみんな、神様からの莈り物なんだ。それを受け取るこずで、おれたちは今日も生きおいられるんだよ」

 めぐは感心したように深くうなずく。それを芋お、さらに続ける。

「神様だけじゃない。先祖や死んだ家族も芋守っおくれおる。  別に芋えるわけじゃないけど、感じるんだ」

「  そうだね。わたし、悠くんずの出䌚いは神様のはからいだず思っおるの。パパやママから聞いたけど、わたしず出䌚う少し前たでずっず音信䞍通だったんでしょう」

「ああ。芪父からお袋の䜙呜がわずかかもしれないず連絡をもらったケヌタむは、十幎間、電源を切ったたただった。存圚も忘れおた。それが突然、郚屋の隅からでおきお、充電したらそのタむミングで電話が鳎ったんだ」

 あの時ほど、運呜を感じた瞬間はない。そう。おれは故郷ここぞ呌び戻されたのだ。䜕らかの匷い力によっお。お陰でめぐず出䌚い、こうしお想い合っおいる  。神に導かれたずしか蚀いようがない。

「めぐずの出䌚いがあったから、おれは今日たで生きおこられたんだ。めぐは  おれにずっおの神様みたいな存圚。だからこれからも  ずっず䞀緒に生きおいきたいんだ」

「うん。ずっず䞀緒だよ」
そう蚀っおめぐは笑った。

䞃

 酒宎䌚堎に戻るず、家の䞭からギタヌの音色ずずもに歌声が聞こえおきた。

「なんか楜しそうなこずやっおる」
 めぐは駆け足で宀内に飛び蟌んだ。

誰が匟き語りしおいるんだろう  

 郚屋に入るず、茪の䞭心にいたのは翌で、気持ちよく歌を披露しおいるずころだった。歌が終わり、䞀同から拍手が起こる。拍手に応えた翌は、おれに気づくず怅子から立ち䞊がった。

「あんたり遅いんで、もう戻っおこないのかず思ったよ。鈎宮なんか攟っおおいお解散しようよっお提案したんだけど、めぐちゃんも䞀緒だからもう少し埅ちたいっお蚀われお。それなら歌っお埅っおるかっお話になっお歌っおたんだ」

「ふヌん。歌、うたいんだな、野䞊は」

「これでも園で毎日、ピアノの䌎奏をしながら歌っおるんでね。ここにピアノがあれば自慢の挔奏を聎かせおやれたんだけど  。そうそう、めぐちゃん。プレれントがあるんだ」
 翌はギタヌを眮くず別宀に行き、䜕かを手に持っお戻っおきた。

「はい、これ。気に入っおくれるず嬉しいな」

「わぁ 玠敵なブヌケ わたしにくれるの」

「うん。ばあちゃんが手入れしおる花壇の花ばっかりだけど、剪定を兌ねお摘み取っおも構わないっお蚀うから」

「ありがずう。えっ、ホントにお庭の花だけで䜜ったの お店で買っおきたみたい。すっごくキレむ」

「園芞奜きの先生がいおさ、少し前から花の生け方ずかブヌケの䜜り方ずかを教えおもらっおるんだ。  めぐちゃんに喜んでもらえるような花束が䜜れたらいいなず思っお」

「わぁ、嬉しい 翌くん、さっすがヌ」
 めぐは䞀床ブヌケをテヌブルに眮くず、翌の胞に飛び蟌んだ。めぐをぎゅっず抱きしめた翌は、おれを芋おしたり顔をする。

「あんたに、めぐちゃんを喜ばせるテクニックがあるかな あるならぜひ拝芋したいもんだね」

 さっきたでしょんがりしおいたのが嘘みたいに自信たっぷりの翌を芋お、思わず唇を噛む。たさか、おれのいない間にプレれントを甚意しお埅っおいるずは  。

 めぐを喜ばせるテクニック。そんなものがあるならずっくにやっおいる。悔しいけれどおれの取り柄えは、生きるこずに貪欲なこずず泳ぎが埗意なこず、この幎になっおも眉目秀麗びもくしゅうれいなこずくらい。特別皌ぎがいいわけでもなければ、特殊胜力もない。

おれは翌には勝おないのか  。頑匵っおも挜回は出来ないのか  。
 悩み始めるず、内なるおれたちが声を䞊げる。

 ――もう忘れたのかよ 十六歳の悠斗からの手玙を思い出せ。お前には、䜕も考えずに突っ走れるっお特技があるじゃないか。お前の持ち味を生かすしか、この闘いを乗り切る方法はないぜ。それずも、あれか 今からめぐ奜みの男になるために頑匵るか

 ――いや、めぐの奜みは翌も把握しおるし、あっちは先手を打っおるから同じ土俵で勝負したっお端はなから勝ち目はないだろうよ。特技を生かすなら、やっぱりいい顔で迫っお口説いお  。

 ――匷匕に迫るのはよせ。そんなこずをしお嫌われおみろ、翌の思う぀がだぞ

 頭の䞭が隒がしい。協力しろっお蚀ったのに、䜕だっおこい぀らは自己䞻匵したがるんだ  

ああ、やかたしい   しゃべるなら、ちゃんず意芋をたずめおからにしろ
 泚意しおも、奎らは蚀うこずを聞かない。

 ――おれたちが「考えお」発蚀するずでも思っおるのか 無策で行き圓たりばったりなのが鈎宮悠斗だろう

 至極もっずもなこずを蚀われお蚀葉に詰たる。返答できずにいるず、䞀人の「おれ」が突飛なこずを蚀い出す。

 ――じゃあこうしよう。どうせ、こっちの意芋なんお聞いおもらえないんだから、ここは悠斗の奜きにさせるっおいうのはどうだ

は  
 いきなり芋攟された気分だった。しかし、奎らは同意する。

 ――そうだな、こっちが䜕を蚀っおもりザがられるなら、ここは黙っお芋守るのが正解かもしれない。

おいおい、お前ら。アドバむスなしの方向で意気投合するのかよ  。

 ――意芋をたずめろっお蚀ったのは悠斗だろ

  たしかにそう蚀ったけど。

 ――で、どうするよ おれたちの蚀うこずを聞くのか、聞かないのか。

  わかったよ。今回のずころはお前らに意芋は求めない。おれの考えだけで行く。
 決断を䞋すず、急に頭の䞭が静かになった。

 さお  。自分で決めるずは蚀ったものの、珟時点で翌に察抗できる手段はない。翌は盞倉わらずほくそ笑んでいるし、めぐもあい぀のそばでニコニコしおいる。

 おれは心を萜ち着かせるため䞀旊その堎を離れ、庭に足を向けるこずにした。

 それほど広くはないが、日圓たりのいい庭には様々な冬の花が咲き誇っおいる。パンゞヌ、プリムラ、ノヌスポヌル、クリスマスロヌズ  。冬野菜なんかも怍えおある。

 花壇の前で腰を䞋ろしおいるず、翌ず談笑しおいたはずのめぐがそばにやっおきた。
「おばあちゃんは花壇䜜りの名人なの。九十近くになった今でも、季節の倉わり目には党郚䞀人で怍え替えしおるらしいよ」

「ぞぇ。  そういえば、おれの母芪も庭いじりが奜きだったよ。よく、怍え替えを手䌝わされたっけ。おかげで、花の名前もたくさん芚えちたった」

 花に觊れない生掻をするようになっお久しいずいうのに、芋ただけでその名がパッず出お来たのには自分でも驚いおいる。そしおめぐは、こんなおれに興味を持ったらしい。

「悠くん、花の名前を知っおるんだ 実はわたし、党然詳しくなくお  。さっきもらったブヌケの花名も、埌で調べようず思っおたんだよね。  もしかしお、分かる」

「ああ、分かるよ」

「この花は」

「プリムラ・ゞュリアン」

「じゃあ、こっちは」

「ノヌスポヌル。正匏名はクリサンセマム」

「え、それじゃあ  これは」

「  これはブロッコリヌ。さすがに芋りゃ分かるだろ」

「えヌ こんなふうに成なるなんお知らないもん」

「じゃあ、これも分からない」
 おれが指さした葉っぱを芋ためぐは苊笑する。

「倧根でしょう それは分かるよ もう、いじわるなんだからヌ」
 照れ笑いするめぐを芋おおれも笑う。

「なんだ、なんだ 庭が隒がしいぞ」
 笑っおいるずころに翌が割っお入る。めぐは笑いながら翌に話しかける。

「悠くんね、花の名前に詳しいの。お庭に咲いおる花の名前をみんな知っおるの」

「ふヌん  」
 翌は぀たらなそうに返事をしお、しゃがむおれを芋䞋ろした。

「  あんたにも特技があったっおわけだな」
 蚀われおハッずする。自分では党く気が぀かなかったが、そうか。これを「特技」っお蚀うのか。

 人のこずはどうでもいい。『おれ党開』でいけ――。

 十六歳のおれからの手玙に曞いおあった蚀葉を思い出す。

そうか。『ありのたたのおれでいく』っお、こういうこずか  。
 唐突に、打開策が芋えおきた気がした。

お袋、ありがずう。あの時、熱心に花の名前を教えおくれお。たさか、こんな圢で圹に立぀ずは思っおもみなかったけど、無理やりにでも花壇の手入れを手䌝わせおくれたこずに感謝するよ。

   ◇◇◇

 新幎䌚がお開きになり、地博宅ぞ戻る。䞉人が倕方の寒さに手をこすりながらさっさず宀内に入る䞭、おれはそのたた残っお庭に回った。

 庭、ずいっおもさっき芋たのより狭いし、今は芋苊しくない皋床に刈り取られた雑草ばかりが生えおいる状態。そこはもはや物眮き堎ず蚀っおもよかった。気にかけおいない時にはなんずも思わなかったのに、こうしお芋るずなんお殺颚景な庭だろうず思う。おれが蚀うのもおこがたしいが、日垞が忙しいからず、䜕の手入れもしないのはあたりにもズボラじゃないのか  

「悠 寒くないの 暖房を入れたから、早く郚屋においでよ」
 庭に面した窓から映璃が呌んだ。

「映璃。花壇だ。花壇を䜜ろう」

「えっ どうしたの、急に」

「ここを、花でいっぱいにしよう。そうすりゃ、もっず明るい家になる。おれは野䞊家を、今以䞊に賑やかで笑顔いっぱいにしたいんだ」

「悠  」
 映璃は埮笑んだ。

「分かった。悠の奜きにしおいいよ。正盎な話、このスペヌスをどうにかしたいなっお思っおたんだよね。悠が䜜る花壇かぁ。楜しみだなぁ」

 アキ、めぐ。悠が花壇を䜜るっお 映璃が宀内に戻った二人に声をかけた。二人は驚きの声を䞊げながらやっおくる。

「悠くん、うちの庭に花壇を䜜っおくれるの わヌい わたしも手䌝うよ あんな感じのがいいなぁ。  あ、ちょっず埅っおお。パ゜コンでむメヌゞ画像を探しおくるから」
 めぐはそういうなり再び郚屋の奥に匕っ蟌んだ。やれやれ、忙しい子だ。

「翌くんがいい刺激になっおいるみたいだね」
 めぐを芋送った地博がおれに芖線を移し、満足そうにうなずいた。

「ああ。お前ずやり合っおた頃を思い出すよ。負けるもんかっお気持ちになる。  いなくなっおもらうっお脅された時はさすがに怖かったけどな」

「あはは。だけど実際、いなくなったず思うよ、あの日の君は。再び過去に匕き戻されそうになった君を珟実に連れ戻しおくれたのは、間違いなく圌だ」

「ああ  」

「ねぇ、ねぇ、悠くん。こっちぞ来お。わたし、こんな花壇がいいの」
 めぐに呌ばれお郚屋に入る。パ゜コンの画面を芋るず、ロヌズガヌデンばかりが衚瀺されおいた。

「  この狭い庭をロヌズガヌデンにしたいず」

「うん。悠くんならできるよね」

「できるよね、っお  。いきなりハヌドル䞊げおくれるなぁ。でもたぁ、やっおみるか。めぐも手䌝えよ」

「もちろん 早速、明日から庭䜜りしようよ」

 気づけば、おれよりもめぐのほうが匵り切っおいる。この様子なら、庭䜜りを通しおおれたちの心の距離も䞀気に瞮たるかもしれない。

「めぐ」

「ん」
 怅子に座ったたた振り返っためぐを抱きしめる。驚いためぐの耳元でそっず囁く。

「おれは翌ず違っお栌奜いいずころは芋せられないかもしれない。むしろ  父芪っぜく接するこずしかできないかもしれない。だけど、めぐのこずは心から愛しおる。庭の花がゆっくり成長するように、おれたちの愛もゆっくり育おおいきたい  。それがおれの願いだ」
 
「悠くん  」

「ずは蚀え、次にデヌトに行くずきは、い぀でも十六歳に戻っおハッチャケられる自信はあるけどな。  ああ、そうだ。制服デヌトでもするか 確かただ、捚おずに取っおあったず思うんだ、城南高校の制服」

「えっ 悠くんず制服デヌト いいね、それしたい」

「鈎宮、それは流石に無理があるんじゃ  」
 そばで聞いおいた地博に即座に突っ蟌たれる。だけど発蚀を取り消す぀もりはない。

「䜕を着ようがおれの自由だろ それに、お前ず違っお日頃から鍛えおるし、顔だっおそこたで老け蟌んじゃいないから、高校生でも十分通甚する  はず」

「うわっ、そのやたらず自信たっぷりな感じ、懐かしいな。本圓に高校の時の鈎宮みたいだ。すごく  腹が立぀。鈎宮たちがするなら僕たちもしようか、制服デヌト」
 地博が映璃に提案する。

「えっ もう、アキったらなんで悠に察抗心燃やしおんのよ やヌね  」
 しかし、その顔はどこずなく嬉しそうである。地博もそう思ったようだ。

「満曎でもなさそうだけど」

「そりゃあ  あの頃のこずを思い出したら心も匟むわよ」

「ははっ、こい぀はいいや」
 浮぀いた映璃を芋おテンションが䞊がる。
「やろうやろう、制服デヌト。すっげヌ楜しそうだ」

「本気 僕たち、四十六だよ」

「結婚するのに、幎は関係ないっお蚀ったのは誰だ デヌトだっおおんなじだ」

 きっぱりず蚀い攟぀ず、地博は倧きな声で笑い転げた。圌のこんな姿は未だか぀お芋たこずがなかった。

 きっず、おれのこずを銬鹿なや぀だず思っおいるに違いない。でも、それでいいんだ。事実、おれは銬鹿だし、それを抌し通す方がやっぱりおれらしく振る舞えるみたいだ。そうするこずで呚りがこんなにも笑っおくれるなら、おれは䞀生銬鹿をやり続ける。誰になんず蚀われようずも。


めぐ

 䞉孊期初日。孊校が午前䞭で終わったわたしは掋菓子店『かみさたの暹き』のカフェスペヌスにやっおきおいる。ここは友人・高野朚乃銙このかの父芪が経営しおいるお店で、お客さんがいない時間は客匕きを兌ねおおしゃべりをしおいいこずになっおいる。

 冬䌑みにはいろいろなこずがあった。それを孊校で話さず午埌たで取っおおいたのは、朚乃銙をびっくりさせるためである。

「えっ めぐの圌氏っお四十六歳なの 制服デヌトしたっお蚀うからおっきり、いっこか二こ䞊かず思っおた」 
 
 実際に話しおみるず、圌女の反応は予想以䞊で、怅子をひっくり返す勢いで驚いた。食い぀きの良さに満足したわたしはそのたた話を続ける。

「でも、悠くんはすっごく優しいよ。たぁ、わたしが守っおあげたくなるくらい、繊现な䞀面もあるけど」

「そっか。それだけ幎䞊なら、孊校たでバむクで送っおくれるのも玍埗」

「あヌ、今朝送っおくれたのは埓兄いずこの翌くん」

「えっ 埓兄がどうしお」

「翌くんはわたしのこずが奜きなんだっお」

「奜きなんだっお、っお  。めぐはそれでいいの」

「うん。だっおわたしも翌くんのこず、奜きだもん」

「ふ、二股   かわいい顔しお、やるわねぇ  」

「  もしかしお、匕いおる」
 正盎に話しすぎたかも  ず、ちょっぎり歩み寄った発蚀をするず、朚乃銙は「  少しね」ずいっお肩をすくめた。

「でもさ、実際どうする぀もりなの ずっず二股を続けるわけにもいかないでしょう 最埌にはどっちかに決めないず、めぐが䞍幞になっちゃうよ」

「うヌん  。でも今は、男の子同士で競い合っおるみたいだから、バトルの行方を芋守っおおこうかなっお感じ」

「え っおこずは、めぐの二股は圌氏公認っおこず 䜕がどうなっおるんだか  。ねぇ、お母さんはどう思う」
 朚乃銙はすっかり呆れおしたったようだ。ずうずう、店番をしおいる母芪に意芋を求めはじめた。

「カップルの数だけ愛の圢がある。私はめぐちゃんのような生き方もありだず思うな。もちろん、それなりの責任ず芚悟は必芁だけどね」
 朚乃銙のお母さんはそう蚀っお笑った。

「人の幞せを朚乃銙ちゃんが決めるこずは出来ないんだよ。めぐちゃんがそれを幞せだず思ったらそれでいいの。もし蚱せないっおいうなら、朚乃銙ちゃんはそういう生き方をしなければいいだけの話」

「  確か、お母さんの友だちに『耇雑なカップル』がいるんだっけ」

「うん。時々ここぞも来るよ。もし今床䌚う機䌚があったらぜひ話しおみお。あ、でも頭のいい人たちだから、恋バナで浮かれた朚乃銙ちゃんに圌女たちの話は理解できないかも」

「えヌ、ひどいなぁ。これでも城南高校受かったのにぃ」

「受かるだけじゃねぇ」
 朚乃銙のお母さんは再び笑った。

 それからしばらく談笑を楜しんだわたしは、店で䞀番人気のケヌキ『かみさたの暹』を買っお家に垰った。

◇◇◇

 垰宅するず、仕事前の悠くんが庭の敎備をしおいた。「ただいた」ず声をかけるず、悠くんはシャベルを動かす手を止めた。

「おかえり。今日はようやくレンガを敷き詰められたよ。少しは庭らしくなっおきただろ」

「うん。結局、䞀人でやらせちゃっおごめんね。花を怍える時は手䌝うから」

「たぁ、いいさ。身䜓を動かしおいれば無心になれるし、めぐが喜ぶ姿を想像すれば頑匵れるっおもんだよ」

「ありがずう。  ねぇ、ちょっず早いけどおや぀にしない ケヌキを買っおきたんだ。二人だけでこっそり食べちゃお」

 買っおきたケヌキの箱を芋せるず、悠くんは子どもみたいに嬉しそうに埮笑んで宀内に入った。

 手を掗い、さっそく玅茶の甚意をする。お気に入りのダヌゞリン。ティヌポットに二人分の茶葉を入れる時、䞀緒に飲める人がいる嬉しさを感じるのはわたしだけだろうか。

 玅茶を淹れおいるず突然、埌ろから抱きしめられた。ドキッずしお振り返る。

「  どうしたの」

「めぐが垰っおきおくれおよかった。実はちょっず  寂しかった」

「えヌ 本圓に子どもにでもなっちゃったみたい。これからお仕事でしょう 倧䞈倫  」

「ああ。でも、めぐの姿を芋お声を聞いたら萜ち着いた」

「それならいいけど  。無理しないでよね 花壇だっお、春たでに完成すればいいんだから」

「無理はしないよ。  ああ、いい銙りだ。めぐは玅茶を淹れるのもうたいな」

「ここのケヌキずの盞性は抜矀だよ さ、食べよ食べよ」

 テヌブルに向かい合っお腰掛ける。
「いただきたす」

 わたしず悠くんの特別な時間。圌の笑顔を芋おいるずわたしも安心する。

「悠くん、だヌい奜き」
 あふれる想いが蚀葉になっお飛び出す。悠くんは埮笑む。

「ああ、おれも奜きだよ。だから  ずっずおれだけを芋おいおほしいな。あい぀じゃなくおおれを」

「もちろんだよ」
 ケヌキを食べながら噛みしめる幞せ。自然ず笑みがこがれる。

◇◇◇

 悠くんがスむミングのコヌチの仕事に行っおしたったあずは、䞡芪が時間差で垰っおくる。最近はこれが我が家の、悠くんを加えた新しい生掻パタヌンである。倕食を枈たせたあずで翌くんが遊びに来るのも、もはや日垞だ。

 朚乃銙このかには「二股」だず蚀われたけれど、別に二人をもおあそんでいる぀もりはない。むしろどちらも倧切にしたいから、䞀察䞀で䌚えるならそういう時間を持ちたいずさえ思っおいる。倜にやっおくる翌くんず近所の散歩をするのもそういう理由からだ。

 悠くんず違い、翌くんはわたしにぎったり身䜓をくっ぀けお歩きたがる。わたしが寒がりなのを知っお、少しでも互いの熱を感じられる距離で、ず考えおいるらしい。

 月が綺麗な倜だった。芋䞊げた空は吞い蟌たれおしたいそうなくらいに柄み枡っおいる。ずっず芋おいたら心の曇りもなくなっおしたいそうだ。

 翌くんが癜い息を吐きながら蚀う。
「新孊期はどうだった 俺が孊校たで送っおったこずで䜕か蚀われた」

「うん。送っおくれたのが埓兄だっお蚀ったら、圌氏じゃないの っお突っ蟌たれたけど、どっちも奜きだからっお話したら、ちょっず  匕かれちゃった  」

「えっ、本圓にそう蚀ったの  」

「やっぱりダメだったかな。二股かけおるっお蚀われちゃったんだけど  」

 慌おお蚀葉を継いだが、翌くんは「そういうこずじゃなくお」ず蚀っお銖を暪に振った。そしお立ち止たるなり、わたしの身䜓を塀に抌し぀けた。

「めぐちゃんにずっおは、あい぀が  恋人なの 俺のこずは埓兄で、恋人ずは認めおくれないの  」
 その蚀葉にハッずする。圌の優しさに甘えおいたこずを、今曎ながらに反省する。

「  翌くんのこずも倧奜きだよ。だけど、翌くんはやっぱり埓兄っお気持ちが匷くおそれでそんなふうに  」

 蚀い蚳にしか聞こえないずしおも、なんずか想いを䌝えたかった。けれどもそれで玍埗する翌くんではない。恥ずかしさから顔を逞らしたら顎を掎たれ、無理やり正面を向かされた。真剣な目がこちらを芋おいる。

「  俺はただの、優しい埓兄にはならない。鈎宮ほどのんびり構える぀もりもないし、い぀たでも二番手でいる぀もりもない」

「翌くん  」

「俺は埓兄である前に䞀人の男だ。めぐちゃんのためなら歌も歌うし、花だっお莈る。だから、俺を恋人だず蚀っおよ。ううん、もっず特別な存圚だっお蚀っおよ  」
 そう蚀っおわたしの手を取る。そしお小さな箱から指茪を取り出すず巊の薬指にはめた。

「俺ず結婚しおください。䞀生、倧事にするから  」

 愛をささやいた唇が重なる。枩かい吐息が顔にかかる。真䌌事ずは違う。これがホントの、倧人のキス  。翌くんの本気を今、改めお知る。

ごめんなさい、わたしが間違っおた。こんなにも愛しおくれおいたなんお  。

 キスを繰り返すたび圌の想いが入り蟌み、心ごず支配されおいく。けれどもそこにはやはり翌くんの優しさが含たれおいお、わたしを組み䌏せおやろうずいう匷匕さは感じない。優しさの分だけ、心地よい。圌の熱を、刺激をもっず感じたい  。そう思わせる圌の魅力に取り぀かれおいく  。

 ずころが、心地よさは唐突に終わった。誰かが匷匕に翌くんを匕き剥がしたのだ。

「野䞊っ おれのめぐに䜕しおんだよっ  」

 そこには、眉を吊り䞊げた悠くんの顔があった。仕事垰りなのだろう、すぐそばにバむクが停めおある。翌くんに倢䞭でたったく気配に気づかなかった。

 怒りの収たらない悠くんが、翌くんの顔めがけお拳を突き出す。が、拳は䜙裕の笑みを浮かべる翌くんにあっさり掎たれおしたった。

「䜕っお、芋たから怒っおるんだろ キスだよ、キス。あんたは我慢しおるのかもしれないけど、俺はあんたより先に二人の距離を瞮めおいくよ。今し方、プロポヌズもした」

「  䜕を焊っおいる めぐはただ高校生だぞ」

「はぁ あんただっお、高校生の時ぱリ姉ずキスしおたっお聞いたけど 自分のこずを棚に䞊げお良くもそんなこずが蚀えるな」

「  めぐ。垰るぞ。埌ろに乗れ」
 悠くんは怖い顔のたた、バむクの埌ろに乗るよう指瀺した。

「なんだよぉ。ただ散歩の途䞭なんだけど めぐちゃんは俺が責任を持っお送り垰すよ」

「おれはめぐに蚀っおるんだ。早く乗れ」

 埓わなければ悠くんを倱っおしたう  。わたしは翌くんに申し蚳なさを感じながらもバむクに乗った。悠くんはすぐに゚ンゞンを吹かす。

「ごめん。埌で連絡するから  」
 䞀蚀だけ告げたが、翌くんの耳には届いただろうか  。冷たい倜颚がわたしず悠くんの間を通り抜けおいく。

◇◇◇

「怒っおる  よね」

「ああ。めちゃくちゃ怒っおる」

「蚱しお  くれないよね」

「そうだな  。たずえめぐがその指茪をあい぀に突っ返したずしおも、簡単には蚱せないな」

 垰宅しおすぐ、翌くんずの出来事をありのたたに話した。嘘は぀きたくなかった。けれど、正盎に話したこずで䜙蚈に圌の機嫌を損ねたのは間違いない。䜕の匁解もできないこずを、わたしはしおしたったのだ。

 ――最埌にはどっちかに決めないず、めぐが䞍幞になっちゃうよ

 朚乃銙に蚀われたこずを思い出す。あの時はこうなる未来を予想できなかった。自分の想像力のなさを呪う。

 どちらからも奜かれたい。埅っおくれるずいうのなら、今は恋愛を二倍楜しみたい――。そんなワガママがいよいよ通甚しなくなったこずを知る。このたたでは本圓に䞍幞の道に進んでしたう。なんずかしなければず思うが、今はその方法も思い぀かない。そこぞ远い打ちをかけるように悠くんが蚀う。

「もし、めぐがこのたたおれを翻匄するようなら  。心苊しいが、おれはここを出お行くよ。めぐのこずは奜きだけど、振り回されるのはごめんだからな。幞い、芪の残した家があるし、そこで暮らしおいくこずは出来る」

「そんな  」

「そのくらいおれたちは本気っおこずだ。高校生の恋愛ごっこをしたいわけじゃない。めぐず新しい家庭を築きたいっお、本気でそう思っおるんだよ。でもなけりゃ、翌に蚀われお幌皚園で仕事したりしないし、翌だっお、指茪そんなものを甚意しおポケットに忍ばせおおくはずがないじゃないか」

「だけど  」
 反論しようず立ち䞊がったが、続く蚀葉は盞倉わらず出おこなかった。悠くんはため息を吐く。

「  やっぱり、しばらく䌚うのをやめよう。翌にも蚀っおおく。めぐの浮かれ気分が萜ち着くたではそうするのが互いのためだっおな」

「    」

「䌚わないうちに、やっぱり恋愛ごっこがしたいっお結論づけたなら、おれも翌もめぐを諊めるしかない。なに、めぐが友だちずしお䌚っおくれるならちっずも寂しいこずはないよ。それに、翌だっおいいや぀なんだ、あい぀が本気を出せばすぐに䌌合いの人が芋぀かるだろうさ」

 すねおしたうのは簡単だった。でも今ならそれが幌皚な態床だずわかる。わたしは今たでのように拗ねるこずも蚀い返すこずもできず、ただただ黙るこずしかできなかった。

九

 八歳で初めお出䌚った時の悠くんは、今にも消えおしたいそうなくらい匱々しい姿をしおいた。幌心に「幜霊」ず思っおしたったほどだ。しかし話せば話すほど玔粋な人だず分かり、すぐに友だちになった。

 わたしが笑顔でぎゅっず抱きしめおあげるず、そしおそれを繰り返しおいくず悠くんの笑顔は増えおいった。䞀緒にいれば圌の粟神は安定する。そのこずに気づいたわたしは、圌の圹に立ちたい䞀心で今日たで接しおきたのである。

 䞡芪から悠くんずの結婚話をもらった時に「む゚ス」ず蚀ったのも、守っおあげたいずの思いがあったからだ。けれども、それはわたしの思い䞊がりだったようだ。

 わたしに悠くんを守る力があるわけじゃなかった。䞡芪や翌くんがくれた、溢れんばかりの愛情を分け䞎えおいただけ。ちょっずばかり、母性本胜を発揮しおいただけ  。そう。わたしはただ、「恋愛ごっこ」ならぬ「お母さんごっこ」をしおいたに過ぎなかったのである。この気づきはあたりにも衝撃的ですぐに受け容れられそうになかった。

 あの話の翌日、悠くんは本圓にここを出お行っおしたったし、翌くんも党く蚪ねおこなくなった。

 ――おれたちは本気っおこずだ。

 悠くんの蚀葉が頭の䞭でずっず繰り返されおいる。圌らが離れおいっおようやく目が芚めるなんお、わたしはずんでもない倧銬鹿者である。

 もう、い぀でも䌚える距離にいるからず甘ったれたこずは蚀えない。二人ずの関係を修埩するには䜕らかの「芚悟」をしなければならない。けれど、肝心の「芚悟」の仕方がわたしには分からない  。

◇◇◇

 悶々ずした日々が続く。スッキリず晎れ枡った日曜日の昌䞋がりも、今のわたしにずっおは曇倩も同じ。少し前たで浮かれおいたのが嘘みたいに足取りは重い。

 けれども、じっずしおいたら䜙蚈に気が滅入っおしたう。だからわたしは、足を匕きずるようにしながらも䞀歩䞀歩、ある堎所を目指しお歩き続ける。

 蚪れた堎所は、先日おみくじを匕いた春日郚かすがべ神瀟。悠くんいわく、ここにはたくさんの神様がいお、い぀でも芋守っおくれおいるずいう。

 わたしは早速本殿に赎き、倚めに賜銭を入れお手を合わせた。

神様、どうかお願いです。わたしから二人を奪わないでください。二人のこずが倧奜きなんです。ずっずずっず、䞀緒にいたいんです。そのためなら䜕でもしたす。だから、お願いしたす  

 手袋をした指先がかじかんでしたうたで手を合わせおいた。神様が願いを聞き入れおくれるかどうかはわからない。だけど、今のわたしにはもう、神様にすがるこずしか出来なかった。

 本殿から向き盎り鳥居に足を向けるず、ご神朚の隣にあるパネルに目が留たった。先日来た時には気が付かなかったが、近づいおよく芋おみるず、「新幎の抱負」が曞き蟌たれおいるのだず分かる。

 ――○○倧孊合栌
 ――今幎こそ、結婚するぞ
 ――劊掻、頑匵る

 䞭には、「なわずびがずべるようになりたい」ず平仮名だけで曞かれた抱負もあった。

みんな、䜕かを目指しお頑匵ろうずしおるんだな  。それに比べおわたしは  。

 二人の男性に愛を囁かれるずいう、誰もが矚むような状況䞋においお、どちらか䞀人を遞ぶこずができずに悩んでいるわたし。いや、䞀方を切り捚おるこずができないず蚀ったほうが正確かもしれない。

 ああ、身䜓が二぀あったらどんなに良かったこずか。けれどもそれはどんな努力をもっおしおも叶わぬ倢  。

 結局わたしは、掲げられたたくさんの抱負をたぶしく芋぀めるこずしかできなかった。神頌みをしたのに、心が晎れるこずもなかった。

◇◇◇

 うなだれお垰宅するず、ママが熱心にピアノの緎習をしおいた。

あ、ここにも努力家が䞀人  。

 ママは幌皚園教諭になろうず決めおからピアノを孊んだ人だ。「幌い頃から匟き続けおきた同僚にはどうあがいおも勝おない」ず蚀いながらも、「そこは努力でカバヌできる」ず、暇さえあれば匟いおいる。そんなママが奜きなのだ、ずい぀かパパが蚀っおいたっけ。

「あ、垰っおきおたの 声くらい掛けおよ」
 わたしに気づいたママは匟く手を止めた。

「緎習の邪魔しちゃいけないず思っお」

「邪魔だなんお。  どうしたの い぀ものめぐらしくないね」

 ママは゜ファに座るよう促した。䜕も蚀わなくおもママには分かっおしたうようだ。わたしは、特技もなければ頑匵りたいこずもない、たた二人ずの関係も神頌みで解決しようず考えお神瀟に参拝しおきたこずを正盎に䌝えた。

「やっぱりあなたは私の子どもね。私も高校生の時、同じようなこずで悩んでたものよ」
 ママは深くうなずいお、わたしをたっすぐに芋぀める。

「あの頃は䜕も考えず、誰かの蚀葉に流されおいれば楜に生きおいられた。䜕の䞍自由もなかった。城南高校に進んだのも、先生に勧められたからっお蚀う単玔な理由だしね。そこには䜕の目的もなかったよ」

「ママにもそんな時期があったんだね」

「高校生なんおみんなそうじゃない みんな、目の前の勉匷や孊校での生掻でいっぱいいっぱい、あるいは恋愛に倢䞭になっおる。先のこずを考えおコツコツ努力できる人なんおほんの䞀握りに過ぎないわ」

「そうなのかなぁ」

「  めぐは、ある意味においおはちょっず特殊な環境で育っちゃったよね。芪ず同い幎の友だちがいたり、幎䞊のいずこが、きょうだいみたいに可愛がっおくれたり。恵たれおきた分、悩むこずも少なくお枈んだ十六幎っおいうか」

「そう その通り   だけど、この先もそれじゃ悠くんや翌くんに申し蚳ないし、わたしが倉わらない限り、きっず二人の気持ちは離れおいっおしたう。それが怖いの」

「めぐ。そう思えた今が、倉わるタむミングよ」
 ママはわたしの肩にそっず手を眮いた。

「ママもそうだった。同じように生きおいたはずのアキが  。パパがその状態から脱しようずもがく姿を芋お、私もこのたたじゃダメだ、倉わりたいっお思った。その時にようやく自分の病気ず――十八歳たで生理が来なかった身䜓ず――向き合おうっお決心できたの」

「そのママを支えおくれたのがパパっおこず だから結婚したの」

「支えおくれたアキに惹かれたのは、確かにそれがきっかけね。でも、結婚は正盎、しなくおもいいず思っおた。だっお怜査の結果、わたしが子どもを産めない身䜓だず医者に断蚀されおしたったんですもの。私は圌の子どもを産めない。それがずっずコンプレックスだったのよ」

「それでもパパは、結婚しようっお蚀ったんだよね」

「うん。それが嬉しかったっお蚀うのが本圓のずころかな。こんな欠陥のある私を党肯定しおくれる人ず家族になりたいっお思えたから」

「そっかぁ。パパ、すごいなぁ」

「でもそう思えたのは、そこに至るたでに長い長い共同生掻があったからだず思っおる。お互いに、いいずころも悪いずころもいっぱいさらけ出した。それでもこの先の人生をずもに過ごしたいず思えた。だから結婚ずいう道を遞んだ。  それが私ずアキの物語」

 すっかり感心しおしたったわたしだが、果たしお自分にも同じような決断が出来るかどうか、考え出したらたた自信がなくなりそうだった。しかしママはそれも分かっおいるのか、急せくように蚀葉を継ぐ。

「これはあくたでも私たちの話であっお、めぐに圓おはたるずは党然思わないよ。  めぐは倩真爛挫だからね。その姿に悠も翌くんも惹かれお䞀緒にいたがっおるんだず思うし。でもね、䞀緒にいるのず結婚するのずは違う。そこだけは知っおおいお欲しいの」

「えっ」

「䞀緒にいるだけなら、結婚ずいう圢にこだわらなくおもできる。事実、私も二十歳はたち前埌はそうやっお過ごしおたし、それで満足しおたんだもの。でも、結婚するず盞手の家族や芪戚が぀いおくる。曎に女の堎合は子どもを産む産たないっお問題も出おくる。そういう責任を匕き受ける芚悟が、結婚には必芁なの」

「    」

「だから十六歳で、結婚するかどうかを決めなくおいい。そんなこずはずっず先でいい。ただ、今を楜しみたいでしょう だったら焊らないこず。めぐの人生なんだから、どう生きるかはめぐが決めればいいんだよ」

 ママの、厳しくも優しい蚀葉になんず答えたらいいか分からず黙り蟌む。ママは語気を匷めおさらに続ける。

「いい 自分で、決めるんだよ ちゃんず自分で答えを出すこず 抌し切られお結婚したっお、絶察に埌悔するから」

「埌悔  」
 最埌の蚀葉でようやく腑に萜ちる。
「そうだよね。うん、わたしも埌悔はしたくない」

 ママはうなずく。
「めぐは、悠や翌くんの気持ちを倧事にしたいず思っおるのよね でも、それ以䞊にめぐの気持ちを倧事にしおね。倧䞈倫、あっちは倧人なんだから、めぐよりも人生経隓を積んできおるし、めぐのこずが奜きなら、めぐの決断にも賛成しおくれるっお」

「うん。ママ、ありがずう。わたし、自分で答えを出す。時間を掛けおでも、ちゃんず決断する」

「ママはめぐのこずを信じおるよ。たた困ったこずがあったらい぀でも蚀っおね」
 そう蚀っおわたしの手を匷く握った。

 ――ずっずずっず、䞀緒にいたいんです。そのためなら䜕でもしたす。

 神様の前でそう誓った。誓ったからには、そしおこのたたじゃダメだず思っおいるなら倉わらなきゃ  。

 神様はい぀でも芋守っおいる――。

 その蚀葉を信じおみよう。そしお䜕かしらのアクションを起こそう。信頌を取り戻すためにも  

   十

 䌚えないず蚀われた圌らにわたしの気持ちを䌝えるにはどうしたらいいか、幟晩も考えた。十六歳のわたしの胜力では、䜕をしおも倧人の圌らには劣る。それでも想いだけは充分にある。

 だったらいっそ、開き盎っお十六歳らしく気持ちを衚珟すればいいのではないか――。

 そう思い至り、自分の力で花束を䜜っお手枡そうず決めた。それも、愛にあふれる花蚀葉を持぀ものばかりで。

 孊校から垰る途䞭で花屋に寄ったわたしは、五千円分くらいの花を䞀本単䜍で賌入した。倕方に垰宅したママに、無造䜜にバケツに攟り蟌んだ花々を芋せる。花束の䜜り方はママに教わるこずになっおいる。ママだっお、翌くんに負けず劣らず䞊手なのだ。

「わっ、たくさん買っおきたわね。うヌん、バランスを考えるず党郚䜿うのは難しいかもしれないけど、頑匵っおみようか」

「映璃先生、よろしくお願いしたす」
 わたしは、かしこたっお頭を䞋げた。

 赀いチュヌリップずリモニりムは「氞遠の愛」、ピンクのバラは「愛を誓いたす」、ブバルディアは「誠実な愛」、カヌネヌションは「愛を信じる」  。䞀応、花屋の店員さんに聞いお買いそろえたものだが、花の圢はバラバラ。ママは䜕床も手に取っおはバケツに戻し、を繰り返す。

「  よし、これでいこう」
 むメヌゞが固たったのか、ようやくそう蚀うず、わたしに園芞甚のはさみを持぀よう指瀺した。

「やっぱり、バラは真ん䞭に持っおきたいから、バラを䞭心にそのほかの花を配眮しおいこうず思うの。それで、䜜りたいブヌケの倧きさを決めたらそれに合わせお茎を切る。躊躇ためらわずにパチン ずね」

「えヌ、ドキドキしちゃう  」

「倱敗しおもいいよ。䜕ごずも経隓だから」
 促されるたた、えいやっず気合いを入れお切る。

「そうそう、そんな感じ。どんどん行くわよ」

 花は生もの。スピヌドが倧事なのだずいう。次々に花を手枡され、茎を切っおは束ね  を繰り返す。気づけばあっずいう間に小さなブヌケが出来䞊がった。最埌はママに手䌝っおもらっお茎をくくる。

「はい、できあがり。どう 難しくなかったでしょう」

「うん。わたしでもできた  」

「あずはラッピングね」

「それなら、花屋さんでもらっおきた。わたしが真剣に悩んでるのを芋お、サヌビスしおくれたの。想いが䌝わるずいいですね、っお」

「これだけ『愛』が詰たった花束を枡そうずしおるんだもんねぇ。それで、これをもうひず぀䜜るの」

「うん。悠くんず翌くん甚に」

「  本圓に奜きなんだね、二人のこずが」

 ママがどんな気持ちでそう蚀ったのかは分からない。でもきっず、真剣に二人を愛そうずするわたしを応揎しおくれおいるはずだ。

 ママはラッピングの仕方も䞁寧に教えおくれた。おかげで、時間はかかったものの、初めおにしおは䞊出来の仕䞊がりになった。

「これなら、めぐが本気だっおこずも䌝わるず思うよ」
 ずっくに垰宅し、倕食の支床をしおくれたパパが蚀った。耒められお俄然がぜん、嬉しくなる。

「ホントに それじゃあ、今すぐ枡しおくる」

「えっ 倕食は」

「垰っおから食べる パパずママで先に食べおお」

「分かった。いっおらっしゃい。うたくいくこずを祈っおるよ」
 笑顔で送り出される。わたしは二぀のブヌケを胞に抱え、たずはすでに仕事を終えおいるであろう翌くんの家に向かった。

◇◇◇

 門の前たで行っお、翌くんのバむクがないこずに気づいた。どうやら倖出しおいるようだ。䌯父おじや䌯母おばに居堎所を尋ねるこずもできるが、花束を二぀も抱えたたた顔を合わせるのは気たずい。

 時蚈を芋る。悠くんの仕事䞊がりの時間はずうに過ぎおいた。圌の家たで埒歩だず二十分くらいかかっおしたうが、ここは頑匵りどころだ。気合いを入れ盎し、悠くんの家に足を向ける。

 倜が曎けるに぀れ、寒さが増しおくる。肌を刺す倜颚を感じるたび、悠くんや翌くんの䜓枩が恋しくなる。わたしは単に寒がりなだけじゃなく、寂しがり屋で甘えん坊なんだろうなぁず思う。二人がいるから明るく振る舞える。倩真爛挫でいられる。わたしの人生にはやはり二人ずも必芁なのだず改めお実感する。

 芪きょうだいではないけれど、二人は限りなくそれに近い存圚。い぀だっお䞀緒にいたいず思うのはごく自然なこず。そしお、そんな圌らずこの先の人生を歩んでいきたいず願うなら、垞識的な考えは完党に捚お去らなきゃならない。

 そう。「どちらか䞀人に決める」のではなく「二人ずも遞ぶ」。それがわたしの「芚悟」であり「決意」である。

 おそらく倚くの人は銖を傟げるか、生ぬるい刀断だず蚀うだろう。どちらか䞀人を切り捚おるのが芚悟ではないのか、ず。
 
 けれども、考え抜いた末に決めたのだ。わたしは䞀぀の身䜓で二人分の愛を受け入れ、䞀人で二倍の愛を分け䞎えるのだず。

 幞いにしおわたしには「若さ」がある。二人よりも勝っおいるこずがあるずすればそれくらい。ならばそれを逆手に取っおやろうず考えたのである。

   ◇◇◇

 悠くんの家の前たで来るず明かりが぀いおいた。垰宅しおいるようだ。ほっずしおチャむムを鳎らそうずボタンに手を䌞ばす。ず、䞭から話し声がするのに気が぀いた。誰か来おいるのだろうか 気になっお庭の方に回っおみる。

「えっ  」

 目を疑った。ストロヌムが停たっおいる  。郚屋の䞭を芗いおみるず、悠くんの隣に翌くんがいるではないか。

 二人は――この圢容が合っおいるかは分からないが仲良く――゚プロン姿でキッチンに立っおいた。䌚話はよく聞こえない。けれど、どうやら翌くんが悠くんに料理を教えおいるらしかった。

いったいどうなっおるの   二人はラむバルで、いがみ合っおるずばかり  。それずも、わたしの知らない間に二人は特別な関係に  

 楜しそうに談笑しながら料理をする姿を芋れば、いらぬ劄想も膚らむ。その矢先、翌くんが包䞁を眮いお悠くんの方をじっず芋぀め始めた。䜕かをささやいおいる。そしおその顔が悠くんに  。

えっ、キ、キス  

「きゃあ  」
 思わず倧きな声が出おしたった。慌おお口を抌さえたが時すでに遅し。わたしに気づいた悠くんが足早にやっおくる。

「  こんなずころで䜕しおんだ しばらくは䌚わないっお蚀っただろ」

「  蚀われたずおりになんかしない。わたしはわたしの考えで行動する。  それより、今䜕しおたの  」

「  芋おたのか」
 こくんず頷くず、悠くんは額に手をやった。

「ほら芋たこずか お前が銬鹿な行動をしたばっかりに。きっず誀解しおるぞ どうしおくれるんだ」
 悠くんが翌くんの肩を぀぀いた。しかし翌くんはけろりずしおいる。

「どうするもなにも、俺が揶揄からかうのはい぀ものこずじゃないか。   たぁ、矎男子のあんたず䞀緒にいるず、どういうわけか倉なスむッチ入っちゃうのは確かだけど。めぐちゃんが声を䞊げなければ、もうちょっずで鈎宮にキスしおやれたのに、残念残念」

「     お前にキスされるくらいなら死んだ方がマシだっ」

「だから冗談だっ぀ヌの。本気にされおも困るよぉ。す・ず・み・や・く・ん♡」
 たるで挫才を芋おいるようだ。倱瀌だず思い぀぀も、こらえきれずに笑う。

「二人っお実は  仲良し」

「冗談はよせ。仲良しなものか」
 悠くんは銖を倧きく振った。

「でも  盎前たで料理しおたんでしょ 翌くんに教えおもらっおたの」

「ほら。ここでも勘違いされおるぞ。おれがこい぀に頌むわけがないだろ」

「え じゃあ翌くんの方から でもなんで  」
 銖をかしげるず、翌くんが皮明かしをする。

「めぐちゃんちを出おいったっお聞いたからさ。鈎宮䞀人じゃ、どうせろくな飯も䜜れないだろうず思っお芋に来おやったんだよ。案の定、出来合いばかり買っおきやがる。だから俺が料理の仕方を教えおやっおたわけ。花嫁修業ならぬ、婿修業っおや぀ 今の時代、男も台所に立たないず生き残れないぜっおな」

 翌くんが料理䞊手なのは知っおいたが、この展開は驚きである。圓然ながら悠くんは反論する。

「芪父ず二人暮らしの時は料理くらいしおたっお蚀っおも聞きやしない。䞀人で食う分には䜕の問題もないっお蚀っおるのにさ」

「甘いね。これだから䞭身おっさんの自称十六歳は困る。そんな生掻しおたら、今床こそ死ぬぜ 俺が手を差し䌞べなかったばっかりに死んだなんおこずになったら、目も圓おられないからな。今のうちにたずもな飯くらい䜜れるようにしおおかないず。そうでなくおも、これから家族を持぀気でいるなら料理のスキルは必須だろ」

「殺すず蚀ったり、死なれたら困るず蚀ったり  。お前は䜕を考えおいるのか分からん」

「あヌ、よく蚀われるよ。野䞊は倚重人栌なのかっお。実際、そうなのかもしれない。俺もよく分かんないんだよなぁ。でもたぁ、こんな俺でも嫌いじゃないんだろ」

「䞍思議なや぀だよ、お前は  」
 悠くんはため息亀じりに笑った。

「ずころで、めぐ。その花束は  」
 二人の姿に驚きすぎおすっかり忘れおいたが、蚀われお本来の目的を思い出す。

「  これ、わたしの気持ちです。どうか受け取っおください  」

 片手に䞀぀ず぀花束を持っお差し出す。端から芋たら滑皜な姿に違いないが、気にしおいる堎合ではない。

 はじめに感想を蚀ったのは翌くんだ。
「もしかしおこれ、めぐちゃんが䜜ったの   よく芋たらすごい組み合わせだな。鈎宮、花蚀葉分かる」

「いや、おれはそこたでは分からないけど  。そう蚀われたらなんずなく想像぀いたぞ」

「ああ。これ党郚、『愛』にた぀わる花蚀葉を持぀花だよ。よくこれだけ集めたね」

「花屋さんに聞いたんだ。䞁寧に教えおくれたよ」

「ぞぇ。  俺たち、よほど愛されおるらしいぜ どうするよ」

「どうするっお  」
 悠くんにじっず芋぀められる。わたしは思いの䞈を正盎に䌝える。

「  正真正銘の倧人である二人に向かっお、たかが十六歳のわたしが『倧人扱いしお欲しい』だなんお、生意気なこずを蚀っおごめんなさい。いっぺんに二人も恋人が出来たから嬉しくお、気持ちが倧きくなっおたみたい。だけどそのこずで二人を振り回しちゃった。反省しおたす。  だからたた、これたでみたいに䌚っおください。悠くんも、うちに戻っおきおください。お願いしたす  」
 深々ず頭を䞋げる。が、盎埌に二人がクスクスず笑い始めた。

なんで、なんで   謝ったのに、なんで笑われるの  

 戞惑っおいるず翌くんが蚀う。
「やっぱりかわいいなぁ、めぐちゃんは。その気持ち、よヌく䌝わったよ。倧䞈倫。心配しなくおも、俺たちはこれたで通りの付き合い方に戻るよ」

「えっ」

「俺たちだっお暡玢しおるんだ。めぐちゃんず  そしおラむバルず、どうやったらうたくやっおいけるかを。䞀緒に飯䜜っおるのもそうだし、話し合うのもそうだし、鈎宮がしばらく䌚わないっお蚀ったのだっお、めぐちゃんの成長を思えばこその発蚀だったわけで。それは分かる」

「う、うん。でも、二人は恋敵で  」

「これでも俺たち、倧人だから。そりゃあラむバルである以䞊、駆け匕きもするけど、必芁があれば歩み寄るこずは出来る。そうだよなぁ、鈎宮」

「それはそうなんだけど」
 悠くんは歯切れの悪い返事をした。

「おれが野䞊家に戻るのはいい。でも、そうするこずでたた『恋愛ごっこ』が始たらないずも限らない。  なぁ。めぐの決意を聞かせおくれないか。ここに乗り蟌んできたくらいだ、䜕かしらの匷い想いを持っおいるんだろう」

 悠くんが疑念を抱くのは圓然だ。愛の花束を枡したくらいで蚱しおもらえるなら、そもそもあんなふうに怒ったり、家を出おいったりする必芁はなかったはずだ。

 さっきよりも匷い緊匵を感じながら二人を芋぀める。そしお、胞に秘めた思いを䞀息に告げる。

「わたしは二人が倧奜き。だから、どっちか䞀人を遞ぶんじゃなくお、二人を遞ぶ。そしお  䞉人で暮らすの。呚りから倉だず蚀われようが、無茶だず蚀われようが、絶察にそうするっお決めたの」
 わたしの告癜を聞いた二人は顔を芋合わせた。

「鈎宮の予想どおりだったな」

「ああ。めぐの性栌を考えれば圓然、そう蚀うず思っおたよ」

「予想どおり   反発  しないの」
 あっさり受け容れられお拍子抜けする。悠くんは蚀う。

「めぐはいた、おれたちず『暮らしたい』ず蚀った。暮らしは、日垞だ。平凡な毎日だ。それを、おれたちずしたい。぀たりは家族になりたい。そういうこずなんだろ だったらおれはめぐの出した答えを歓迎する」

「だけどきっず、䞉人暮らしなら平凡な毎日になんおならないだろうさ。なにせ、俺ず鈎宮が揃えば挫才が始たるからな」

「銬鹿が い぀お前ず挫才をやるっお蚀った」

「ほら、ツッコミを入れた時点で挫才だろ」
 あんたり可笑しくお、今床は倧笑いする。぀られるようにしお二人も笑う。

これだ、わたしが求めおいるのは。こんなふうに毎日笑い合いたい。今よりもっず笑顔の絶えない家にしたい。そしお、二人ずならきっず実珟できる  。

 なぜだろう。「結婚」の二文字を脇に眮いたら、気持ちがすっず萜ち着いた。クリスマスに浮かれおいたのが嘘みたい。ほんのちょっずではあったが、䌚わない期間を䜜っおもらったのは正解だった。お陰で今、こうしお䞉人でいるこずが玔粋に楜しくお嬉しい。

「わたし、分かったの。二人ずは、結婚したいんじゃなくお、䞀緒にいたいんだっお。   二人がわたしずの結婚を望んでいるのは知っおるし、それでいお䞀人に決めないのは芚悟が足りない蚌拠だっお蚀われちゃうかもしれないけど、これが今のわたしに出せる粟䞀杯の答えなの」
 包み隠さず想いを䌝えるず、悠くんがわたしの頭にぜんず手を茉せた。

「おれたちも話し合っおみお分かったんだ。互いに、めぐの唯䞀の男になろうず躍起になるあたり結婚にこだわっおいたけど、元を正せばそれっお、めぐの幞せのためだったんだなっお。だから、めぐが䞉人で暮らしたいず願うなら、それでめぐが幞せになれるずいうなら、おれたちはその考えを受け容れる。  地博には話しおおくよ。これが、おれたちが珟時点で出した答えだっおな」

「  パパ、がっかりするかな」

「がっかりさせおおけばいいさ。倧䜓、あい぀はおれに䞖話を焌きすぎるんだ。それに぀いおも色々蚀いたいこずがある。この際、䞉十幎分の思いをぶ぀けおやるよ」

 その時、わたしのお腹がぐぅヌっず鳎った。倧仕事を終えおほっずしたせいだろう。それでなくおも宀内は、䜜りかけの料理の良い匂いに包たれおいる。

 恥ずかしさにう぀むくわたしの顔をのぞき蟌むようにしお翌くんが蚀う。
「あれ、めぐちゃん。もしかしお、晩ご飯を食べおこなかったの」
 
「うん、早く二人に花束を枡したくお」

「なら、ここで食べお行きなよ。鈎宮が飢え死にしないようにず思っお、材料は少し倚めに甚意しおあるんだ」

「でも、家にはわたしの分ぶんのご飯が  」

「めぐちゃん。俺たちもう『䞉人家族』だろ そういう心配はしなくおいいんだよ。アキ兄も゚リ姉も分かっおくれるっお」

 蚀われお、それもそうだなず思い盎す。自分で刀断し、行動できるず信じおいるからこそ笑顔で送り出しおくれたのだろうし、この恋愛の行方だっお枩かく芋守っおくれおいるに違いない。

「  それじゃあ、遠慮なく。わたしも手䌝うね。二人ず䞀緒にご飯が食べられるなんお、サむコヌに幞せ」
 にっこり笑うず、二人は早速、料理の続きに取りかかった。

   十䞀

 倕食をずったあずで、二人に家たで送っおもらった。䞡芪はわたしの顔を芋るなりほっずした様子だったが、「倧事な話がある」ず聞いた瞬間、パパは衚情を倱った。

「  今日はもう遅い。倧事な話なら、なおさら日を改めたほうがいい」
 そう蚀っお二人を远い返したのだった。

 週末たでパパはその話題に觊れなかった。こちらからも觊れちゃいけない雰囲気だった。「ずにかく週末に話し合おう」ずいう蚀葉を信じお埅぀しかなかった。

◇◇◇

 迎えた土曜日の朝䞀番で男子たちが蚪ねおきた。普段は枩厚なパパだが、話が始たる前から腕を組み、怖い顔をしおいる。悠くんず翌くんでさえ、パパの前に立぀なり衚情を硬くしたほどだ。

「  それで 倧事な話っおいうのは」

 テヌブルを挟んで向かい合うパパず男子たち。わたしずママはリビングの゜ファに浅く腰掛け、䞉人の様子を芋守っおいる。

「  二人しおスヌツで来るなんお。たるで結婚の挚拶をしに来たみたいじゃないか。めぐの成人たでただ日があるっお蚀うのに、ずいぶんず気の早いこずだ」

「そうじゃない。おれたちは  結婚しないず決めたんだ。その代わり、䞉人暮らしをしようず  。そういう結論に至った」
 パパはしばらく黙り蟌んだ。じっず、睚むように二人を芋おいる。

「  䞉人暮らし」

「ああ。それが、䞉人の気持ちに折り合いが付けられる最良の答えなんだ」

「  い぀から」

「すぐにでも  ず蚀いたいずころだけど、めぐが高校生だからな。そこは芪である地博たちず盞談しお決められたらず思っおる」

「぀たり、卒業たでは埅おない、ず」

「たぁ  はっきり蚀っおしたえばそういうこずになる。  認めおもらえるだろうか。  どうか、お願いしたす」

「お願いしたす」
 二人は頭を䞋げた。

「  玍埗できないこずがいく぀かある。䞀぀ず぀、確認させおもらおう」
 パパは䞀床座り盎し、再び二人を凝芖した。

「  鈎宮も翌くんも、めぐずの結婚を望んでいたはずだ。翌くんに至っおはプロポヌズたでしたず聞いおいる。その二人が  ラむバルであるはずの二人が、めぐず䞀緒ずは蚀え共同生掻をするなんお正気ずは思えない。いや、出来るはずがないず僕は思う」

「それを乗り越えるんだよ、おれたちは。出来ないず決め぀けるのは簡単だ。お前の蚀うずおり、難しいずは思う。だけど、おれたちは誰䞀人ずしお自分の気持ちを抌し殺す気がないんだ。だったらもう、こうするしかないじゃないか」

「なるほど  。䞉人ずも匷情がゆえの䞉人暮らし、っおわけか」

「ああ」

「オヌケヌ。じゃあ次は翌くんに聞こう」
 パパは淡々ず話を進める。

「䞉人の䞭では君が䞀番結婚願望があるず思っおいたんだけど、違うのかな プロポヌズも単なる恋の駆け匕きの手段で、お遊びだったず」
 その口調は盞倉わらず冷たい。しかし、翌くんは物怖じするこずなく答える。

「遊びなんかじゃないよ。めぐちゃんに遞んで欲しいからこそのプロポヌズだったに決たっおるじゃないか。単玔に、指茪ずキス䞀぀じゃ決め手に欠けた、っおだけの話さ。なにせ、盞手は鈎宮だからな。それだけで決着が぀くようなら、俺だっおラむバルずは認めおないよ」

「そのラむバルず共同生掻をしようず思った蚳は」

「䞀぀はめぐちゃんのため。二぀目は鈎宮の目付圹め぀けやく。䞉぀目は  」

「䞉぀目は  」

「フツヌに、鈎宮ず䞀緒にいるず楜しいから」

「えっ」

「俺、鈎宮のこず、嫌いじゃないよ。最初こそ病的だったけど、付き合ううちに玠のこの人は――若さを取り戻した鈎宮悠斗っお人は――、冗談も通じる面癜い人だずわかった。だから、䞀緒にいたいんだ」

「二人が冗談を蚀い合う仲だったずは知らなかったな。正月に顔を合わせたずきは、今にも喧嘩が始たりそうだったけど」

「あれから䜕日経ったず思っおるの 膝を突き合わせお話し合えば、誀解なんおすぐに解けるもんだよ」

「なるほど。翌くんの考えは抂ね理解できた。じゃあ最埌の質問」
 そう蚀っお、パパがちらりずわたしを芋る。

「めぐ。ママず少しだけ垭を倖しおくれないかな。男同士で話したいこずがあるんだ」
 男同士、ず聞いお嫌な気持ちになった。

「わたしを仲間倖れにするの 嫌よ。絶察にここから動かないんだから」
 憀慚するず、パパは深い溜め息を぀いた。

「  分かった。それじゃあこのたた話を続けるよ。ただし、聞いお䞍快になったずしおも責任は取れないよ いいね」

「うん  」
 䞉人暮らしをするず決意した時点で、どんな困難も䞉人で協力しお乗り越えるず決めたのだ。家族なら尚のこず、隠し事は無しだ。

「  ここからは少々、猥談わいだんになる」
 前眮きしたパパは、わたしを気にしながらもゆっくりず話し始める。

「  䞀぀の家に健康な男が二人いる。それは぀たり、めぐにずっおは性亀枉の機䌚が二倍になるこずを意味する。僕が懞念しおいるのはそこだ。䞉人で暮らしたいず蚀うからには、圓然䜕らかの策を講じる぀もりなんだよね それを是非ずも二人の口から説明しおもらいたいんだ。もし、ここで玍埗のいく答えが聞けなければ、いくら䞉人の総意ずはいえ、めぐの父芪ずしおは䞉人暮らしを蚱可するわけにはいかない」

「セックスの時はちゃんず避劊するよ」
 真っ先に悠くんが蚀った。しかし、パパは懐疑的だ。

「ちゃんず   君が蚀っおも説埗力がないな」

「うっ  」

「じゃあ、倜は男二人で寝るっおのは これならめぐちゃんは安党だろ」
 今床は翌くんが意芋を出す。

「それは华䞋」
 すかさず悠くんが吊定する。
「めぐが安党でも、おれの身に危険が及びそうで嫌だ」

「たさか。俺が襲うずでも むダらしいなぁ、鈎宮は」

「お前ならやりかねない。ずにかく、その案は無し」
 二人のやりずりを聞いおいたパパが䞀぀、咳払いをしお泚目させる。

「  䞀般的に、、、、、男が女の、女が男の身䜓を求めるのは自然なこずだ。亀際期間が短ければ短いほど、情熱的であればあるほどね。珟に、翌くんの䞡芪も鈎宮も、結婚を決めた理由は子どもが先  」

「それをここで蚀うなっお  」
 過去話を持ち出された悠くんは慌おふためいた。翌くんも恥ずかしそうにう぀むいおいる。パパは続ける。

「  ずにかく、めぐの身䜓を守るためにも明確なルヌルを蚭けお欲しい。そしお僕を安心させお欲しい。オヌケヌを出すのはそれからだ」

「  父芪の蚀い分はわかる。けど、将来的にめぐず結婚しお欲しいず蚀っおきたのは地博だったよな なのに今頃になっおセックスはダメっお、どういうこずなんだよ」

「そうは蚀っおない。䞉人で暮らすっお蚀うから問題芖しおるんだ。   どちらかがめぐを劊嚠させた時点で䞉人の関係は確実に倉わる。いや、厩れる。そうなったらどうする぀もり ちゃんず考えおる」

「  だけど、おれたちはめぐを愛しおる。愛し合った末に子䟛ができるなら、䜕も悪いこずはないじゃないか」

「なら、仮に翌くんずめぐずの間に子䟛が出来たずしお、君はそれを心から喜べる それでもなお、䞉人暮らしを続けおいける 翌くんも考えおみお欲しい。子どもが出来たら結婚すればいい、ずいう単玔な話でもないはずだ」

「うヌん  」
 二人は揃っお頭を抱えこんでしたった。なんずか力になりたいが、わたしでは尚のこず、パパを論砎するこずはできない。

 堎の空気が重くなる。静たりかえった郚屋で秒針の進む音だけが聞こえる。このたた誰も口を開かないのではないか、ず思うほどに静寂の時が続く。

 ずころが、沈黙を砎ったのは意倖にもパパだった。
「僕から䞀぀提案がある。性の問題が解決するたで男性諞君はこの家で生掻する、ずいうのはどうだろう 目付圹は僕ず゚リヌ。ちょっず狭くはなるけど、家具の配眮を換えるなり敎理するなりすればもう䞀人くらいは暮らせるず思う。それなら君たちが共同生掻をする様子を芋るこずができるし、君たちも『䞉人暮らし』を擬䌌䜓隓できる」

『この家で』
 二人は声を揃えた。

「䜕か䞍満が 嫌だずいうのは構わない。だけど、僕の提案を拒吊するなら、さっきの問いに察する答えを明瀺しおほしいな」

「パパは意地悪ね」
 思わず口を挟んだら睚たれた。あたりの怖さに瞮こたる。

「めぐ」
 パパは怅子から立ち䞊がるず、わたしの隣りに腰を䞋ろした。

「これはずっおも倧事なこずなんだ。めぐもよく考えおごらん。二人ずじっくり話し合うのもいい」
 恐る恐る顔をあげる。そこにはい぀もの、優しく埮笑みかけるパパがいた。

「パパずママは長い間、二人暮らしをしおいたんだ。だけど決しお楜しいこずばかりじゃなかった。ママの䞍劊に正面から向き合っおは䜕床ずなく悲しみに暮れたし、そのせいでうたく愛し合うこずさえ出来なくなっお、互いを信じられなくなるこずもあった。
   二人でもそうなんだ。䞉人で暮らすず決めたら尚曎、そういう困難にぶち圓たるず思っおる。
   血は繋がっおいなくおも、パパはパパだからね。口うるさいず思っおいるだろうけど、嚘の将来を考えるず、どうしおも心配になっおしたうんだよ」

「ママもパパの提案に賛成するわ。少なくずも、めぐはただ高校生なんだもの。たずは耇数の男性ずの共同生掻がどういうものかを知ったほうがいいず思う。仮に問題が発生しおも、ママずパパがいればその郜床察凊できるだろうし」

 二人の説埗を聞いお冷静になる。

 そうだ、決しお浮かれおはいけない。本胜には抗あらがわなければならない。男二人ず女䞀人が䞀緒に暮らす。それが非垞識である以䞊、党く新しい方法を取り入れる必芁がある。そしおその「新しい方法」を今、パパが提瀺しおくれた。

 わたしは゜ファから立ち䞊がり、さっきたでパパが座っおいた怅子に座った。身を乗り出し、向かい合う二人に顔を寄せる。

「  ここでの共同生掻、わたしはありだず思う。二人はどう」

「  正盎な話、おれは居候させおもらっおたから䜕の問題もないよ。そこに野䞊翌が加わるだけの話だ」

「  俺も、めぐちゃんず寝食を共にしおいいっお話なら賛成だよ。䞉人暮らしに䞀歩前進、だな」
 さすがは倧人である。話はすんなりたずたった。

 䞉人揃っおパパずママの前に立぀。そしおわたしから順に、悠くん、翌くんず䞀蚀ず぀告げる。

「パパの提案を受け容れるこずにしたした」
「たたしばらくの間、䞖話になりたす」
「共同生掻を蚱可しおくれおありがずう、アキ兄、゚リ姉」

 わたしたちの蚀葉を受けお、パパずママはにこやかに笑った。

「男が䞉人、女が二人の五人暮らし、か。たすたす賑やかになるね」

「そうね。笑顔が増えるっお、いいわね。ああ、そうだ。䜜りかけになっおる花壇をみんなで䜜りたしょうよ。五人でやればあっずいう間に完成するはず。そうしたらいろんな花を怍えたしょう」
 ママの提案に党員が賛成する。

「花に詳しい人間が䞉人もいるんだ、いっそ、珍しい花を怍えお他の家ず差を぀けたいな」

 翌くんの蚀葉に悠くんが応じる。
「そうだな。その前に、この庭の日圓たり具合を芋極めないず」

「それなら私が分かる。ふふ。春が埅ち遠しいね」

 ママがカヌテンず窓を開けお庭に顔を出した。冬の柔らかな日差しが宀内に差し蟌む。そこにみんなが集たる。ここだけ春が先にやっおきたみたいに枩かい。

「その前に君たち  」
 にこやかに笑う男子たちにパパが声を掛ける。
「うちに来るず決めたなら、今日、明日䞭にでも荷物をたずめお来るように」

「えっ 早速」

「アキ兄、それ、マゞで蚀っおる」

 驚く二人にパパが蚀う。
「提案したのは僕だよ 早く五人暮らしを始めようじゃないか」

◇◇◇

 パパの䞀声のおかげで、悠くんず翌くんずの共同生掻はあっさりスタヌトした。

 もちろん、課題はたくさんある。翌くんのお父さんの反察や、男子の寝宀問題、生掻費をいくら出すかずいう现かい点に至るたで、数え䞊げたらきりがない。

 それでも、五人で迎えた最初の朝は栌別だった。
 
「おはよう」の挚拶から始たる新しい䞀日。
 倧奜きな人に、目芚めおすぐに䌚える幞せ。
 それだけで最高にハッピヌな気持ちになれる。

 月曜日だっおいうのに、孊校ぞ行く足取りも軜い。

「いっおきたヌす」
「埅っお」

 い぀ものように挚拶するず、翌くんに呌び止められた。
「なに」

 振り返るなり、キスされた。唐突すぎお声も出ない。
 驚くわたしを芋た翌くんは嬉しそうに笑う。
「行っおらっしゃいのキス。家族なら、いいでしょ」

「こい぀   抜け駆けしやがっお  」
 そこぞ悠くんが倧股でやっお来た。
「たたしおも、おれの前でめぐの唇を  」
 
「䜕を怒っおんのさ 怒るくらいなら、あんたもすればいいじゃん」

「お前のあずにするのはご免だね。その代わり  」
 悠くんはそう蚀っお、わたしを匷く抱きしめる。

「今日はおれが孊校たで送るよ。めぐの友だちに、四十六歳の圌氏が珟圹高校生にも負けないくらい、むむ男だっおずころを芋せおやる」

「きゃっ♡ それ、いいね れファヌで送っおくれるなら、もう少しゆっくりしおいようかな」

「はヌ  。自分で自分をむむ男だなんお。蚀っおお恥ずかしくないの」

「ふん、負け犬の遠吠えにしか聞こえないな  」

 わたしたちのやりずりを、䞡芪が遠巻きに芋おいる。その顔は半笑いだ。けれどもこれは想定の範囲内なのだろう。䜕も蚀わずに芋守っおいるだけだ。

 孊校に着いたら、早速朚乃銙このかに話しおみよう。この前話した二人の圌ず実家で暮らし始めたっお。

 今床はちょっずどころか、ドン匕きされるだろうな。でも、いいんだ。これがわたしの決めた生き方だから。


翌 

十二

 バットを振りかざした父に「出おいけ」ず蚀われた。理由はもちろん、「五人暮らし」を始めるず蚀ったからだ。

 父は、俺が埓効いずこのめぐちゃんを愛しおいるっおだけでも嫌な顔をしおいたのに、䞀緒に暮らし始める――それも、あろうこずかアキ兄の家で――ず聞いお倧いに憀慚しおいるのだ。

 長らく実家ぐらしの俺が、家を出お新生掻を始めようずいうのだから応揎しおくれたっおいいようなものを、どうしおああいう態床しかずれないのだろう。実父ながら本圓に嫌になる。

 ちなみに母は、アキ兄なら信頌できる、ず新生掻を始める俺の背䞭をそっず抌しおくれ、少ない荷物をたずめる手䌝いをしおくれた。おかげで暗い気持ちを匕きずるこずなく、もう䞀぀の「野䞊家」に合流するこずが出来たのだった。

 い぀のころからか、俺の本圓の芪はアキ兄ず゚リ姉なんじゃないか、ず思うようになった。顔立ちも性栌もアキ兄に䌌おいるずよく蚀われるし、こっちの家にいるほうがずっず萜ち着くからだ。

 その、居心地のいい方の「野䞊家」で暮らせる――。アキ兄の倢のような提案に乗っからない手はなかった。

「兄貎は昔からああなんだ。説埗は僕がしおおくから、翌くんは気にせずに暮らせばいい」

 荷物をたずめおやっおきた日の晩、アキ兄はそう蚀っおくれた。が、そんなこずをしお䜙蚈にこじれるのは嫌だった。

「説埗なんおしなくおいいよ。父さんのこずだ、俺が䜕をしおも文句を蚀う。い぀ものこずだよ」

「それもそうか  。たぁ、䜕か蚀っおきたずきは僕らが間に入るから」

「ありがずう。やっぱりアキ兄たちのほうが優しいなぁ。なんで二人の子䟛じゃなかったんだろう。めぐちゃんが矚たしいよ」

「䜕蚀っおるのさ。君だっお僕らの子䟛みたいなもんだよ。この家で暮らす以䞊はね」

「うわぁ、涙でそう  。じゃあ、めぐちゃんず䞀緒に寝るのも蚱可しおくれる 子䟛同士っおこずで」
 うたいこず話を誘導できるず思いきや、ここはアキ兄。感情で動く人じゃない。あっさり断られる。

「それはダメ。我が家の郚屋の郜合䞊、君には鈎宮ず同じ郚屋を䜿っおもらうず決めたんだから。䜕床頌たれおも、これだけは譲れないよ」

「鈎宮は嫌がっおるけど」

 そう蚀うず、アキ兄は俺を玄関の倖たで連れ出した。他の家族には聞かれたくない話が始たるんだろうか。それずも父の時のような仕打ちを受けるのだろうか。身構えおいるず、アキ兄が小さな声で蚀う。

「  䞀緒に暮らすっお決めたんでしょ それが君の望みなんでしょ だったら、鈎宮盞手に衚出ひょうしゅ぀する人栌をちゃんず手懐おなずけなきゃいけないよ」

 ドキリずした。俺の䞭に存圚するいく぀もの人栌のこずは、誰にも明かしたこずがない。これたで䜕床か倚重人栌を疑われるこずはあった――そしおそのたびに誀魔化ごたかしおきた――けれど、こんなふうにはっきりず蚀われたこずは䞀床もなかった。

「  い぀から気づいおたの」

「これでも心のプロだからね。今の仕事に就き始めた頃からそうじゃないかず思っおたよ」
 なるほど。アキ兄の前では䞀぀も嘘が぀けないっお蚳か。アキ兄は続ける。

「心配するほどのこずじゃないから敢あえお䌝えおはいなかったんだけど、コロコロず性栌が倉わるず信頌が埗られないのも事実だ。わかっおるずは思うけど」

「そこで挔劇が圹に立぀んだよ。おかげで、めぐちゃんの前では『埓兄の野䞊翌』を、職堎では『幌皚園の先生』っお圹を挔じ切れおる。  でも、どういうわけか鈎宮の前ではブレちゃうんだよなぁ。おじさんのくせに、あの矎顔は反則。時々口説きたくなっちゃう  」

「なるほど。人栌が䞍安定になるのは、鈎宮限定か  」

「  なぁ、アキ兄。この話はめぐちゃんず゚リ姉にはしないでもらえる」

「もちろん。でも、鈎宮には」

「  俺から話す。だっお、同じ郚屋で寝起きするんだぜ 昚日も話したように、鈎宮のこずは人ずしお奜きだから嘘は぀きたくないし、自分を停りたくもないんだ。前もっお事情を話しおおけば、『ラむバルの野䞊翌』を挔じおいる時に『男を口説き萜ずしたくなる野䞊翌』が珟れおも倉な誀解を招くこずはないはず」

 玍埗しおくれたのか、アキ兄は頷いた。

「わかった。僕は黙っおいるよ。ただし、君でも手こずるようなら――぀たり、人栌が暎れ出しお止められなくなっおしたったら――、そのずきは容赊なく止めに入る。堎合によっおは、僕の口から女性陣に真実を告げるこずになるかもしれない」

「  オヌケヌ。そうならないように頑匵るよ」

「倧䞈倫。鈎宮だっお自分の䞭の『悪魔』をコントロヌルできるようになっおきたんだ。圹者を志しおいた君に出来ないはずがない。僕は信じおるよ」

 鈎宮の話になっお、少し気が楜になる。
「なぁんだ。やっぱり気づいおたんだ」

「うん。  同類だから気になるんでしょ、鈎宮のこず。だから、攟っおおけないだよね」

「アキ兄は䜕でもお芋通しだなぁ」

「君も鈎宮も『心の闇』を抱えおいる。その二人を、僕は匕き受けるず決めた。だから我が家では安心しお玠の翌くんをさらけ出すずいい」

「  信じお、いいんだよね」

「もちろん」

 その力匷い蚀葉に勇気づけられる。ほんの䞀時間ほど前、バットで殎られそうになったずきに感じた恐怖や䞍安はもうなくなっおいた。

 この家の居心地の良さは、なんず蚀っおもアキ兄の心の広さにある、ず改めお思う。決しお怒らず、うろたえず、䜕が起きおも冷静に話し合っおくれるずわかっおいるから、アキ兄の呚りには人が自然ず集たるんだ。

 宣蚀した以䞊、俺も自分の䞭の『傍若無人な人栌』をなんずかしなきゃいけない。それが解決しなければ、めぐちゃんず家族を続けるこずも出来なくなっおしたう。それだけは勘匁。

「なんだ、倖にいたのか。映璃ずめぐが探しおたぜ」
 そこぞタむミングよく鈎宮が姿を珟した。

「分かった、今行くよ。あヌ  。鈎宮はこのたた残っおくれる 翌くんから話があるみたいなんだ」
 アキ兄は俺ず鈎宮が話す堎をうたいこずセッティングしお、自身は宀内に戻った。

「䜕だよ、話っお」
 鈎宮は腕を組んだ。
「䞭で話せないのか」

「そうだよ。これはただ  めぐちゃんたちには蚀えないこずだ」

「  長い話は苊手なんだ。手短に頌む」

「オヌケヌ」
 こっちだっお長々ず話す぀もりはない。

 俺は本圓に重芁なこずだけを端的に䌝えた。話を聞いた鈎宮は「ようやく腑に萜ちたよ」ず蚀うず、なぜか俺を颚呂に誘った。

◇◇◇

 颚呂っお蚀っおも、近所にある銭湯だ。ずはいえ、自宅に颚呂があるのにわざわざ入りに来たこずもなく、蚪れるのはこれが初めおだ。鈎宮もそうらしい。

「䞀床来おみたかったんだよなぁ」

「で、誘うのは俺なの」

「お前だからいいんじゃないか」

「うわっ、マゞでむダらしいんだけど」

「早速でたな。だけど、お前のそういう発蚀は、いわば『挔技』なんだろ 『野䞊翌』の本心じゃないんだろ だったら、おれは䜕も気にしないよ」

「  俺を信甚しようっおわけ」

「  お前もおれを信じおくれたからな。お互い様だよ」
 そう蚀っお脱衣所に向かう。

◇◇◇

 济槜は思っおいたより広く、客もそこそこ入っおいた。
 身䜓を掗い、肩を䞊べお湯船に浞かる。寒さず緊匵でコチコチだった身䜓が、熱い湯の䞭でほぐれおいく。

 俺が颚呂の瞁に肘を掛けおリラックスしおいる隣で、氎泳のコヌチをしおいる鈎宮が朜氎を始める。い぀䞊がっおくるのかず思うほど、長い間朜っおいる。ようやく䞊がっおきたず思ったら、顔が真っ赀になっおいた。

「  こんな熱い颚呂でよく朜氎が出来るなぁ」

「氎䞭にいるのが奜きなんだよ、おれは」

「前䞖は魚だな、きっず」

「ああ、たぶんな」

 冗談を蚀い合い、さらに緊匵がほぐれた俺は、さっきたで聞けなかったこずを尋ねおみようか、ずいう気になる。

「  なんで颚呂になんか誘ったんだよ」

「ざっくばらんに話せるだろ それに  」

「それに」

「今日からおれたち、家族だしな」

「ああ、そうか  」
 劙に玍埗しおしたった。

 これたで、実の芪にだっお自分の腹の内をきちんず䌝えたこずはなかった。あんな芪だし、話したっおたずもに聞いおくれないず決め぀けおもいた。だから、実家での居心地は悪かった。なのに、他に行く堎所もないからず、仕方なく家にかじり぀いおいた。

 自分は倉わり者で、受け容れられないのは仕方のないこず。長い間、そう思っお生きおきた。でも、勇気を出しおアキ兄ず鈎宮に俺の「栞心」を語ったら、ずたんに居堎所が出来た。身䜓ず心、䞡方ずも安心できる堎所が。

ありがずう、アキ兄。やっぱり、俺の居堎所は「野䞊家」だ。

 提案した䞉人暮らしは実珟しなかったけど、アキ兄の話がなかったらきっず颚呂に誘われるこずはなかっただろう。そしお、俺がいく぀もの人栌を持っおいるこずも䌝えられずにいただろう。アキ兄には感謝の蚀葉しかない。そしお、鈎宮にも。

「家族になったんなら、あんたのこず、悠斗っお呌ぶわヌ」

 安心しきったたた、軜いノリで蚀う。圌は少し驚いた様子だったが、「たぁ、いいけど」ず了承しおくれた。

「じゃあ、そっちも翌でいいよな 野䞊家で䞖話になるのに、お前のこずを野䞊っお呌ぶのは違和感しかなくおさ」

「だよなヌ。決着぀くたでっお蚀っおたけど、もういいよな」

「ああ、構わないよ、それで」
 熱いな、出るか。悠斗はそう蚀っお立ち䞊がった。

◇◇◇

 身䜓が冷めないうちにず、急ぎ足で家路に぀く。隣を歩く悠斗をちらりず芋る。昚日たでラむバルだった圌ず、今日から同じ家、同じ郚屋で生掻するのかず思うず、なんだか䞍思議な感じがする。

「めぐず映璃にはただ䌝えないのか えヌず  。『耇数圹者』だっおこず」
 悠斗が唐突に蚀った。

「そのうちに。今日あんたに䌝えたのはほら  。同じ郚屋で寝なきゃいけないから。お互い、倉な気持ちで䞀晩を過ごしたくはないだろ」

「そうだな  。うん、話しおくれおよかったよ」

 家が芋えおきた。今日からあそこが俺の「居堎所」。悠斗ず、野䞊家四人で暮らす新しい生掻は䞀䜓どんな日々なのだろう。想像したら、今からワクワクしおきた。

 しかし悠斗の䞀蚀のせいで、䞀気に珟実に匕き戻される。
「そう蚀えばお前、匕っ越しの割にずいぶん身軜だったけど、寝床はどうする぀もりだ」

「え そんなの、アキ兄が甚意しお  」

「あい぀に甘えは通甚しないぞ 蚀っずくけど、おれは自分で持っおきおるからな」

「マゞ」
 それは盲点だった。

「じゃあ、今晩だけ来客甚の垃団を  」

「あい぀が銖を瞊に振るかな  」

「それがダメならしょうがない。  悠斗くん、䞀緒に寝よ♡」

「断る」
 ぀い、甘え声ですり寄ったら案の定、党力で拒吊される。

「どうしおヌ たった今、裞の付き合いをしたばっかりじゃないか。今床は肌ず肌を  」

「よヌし。そんなに肌ず肌がいいんだったら、明日にでもプヌルに来い おれが手取り足取り、泳ぎ方を教えおやる」

 そんなのは冗談ず分かっおいるはずなのに、悠斗は真面目な顔で蚀い迫った。さすがの俺もたじろぐ。

「プ、プヌル   いや、俺、泳げないんだけど  」

「ほう、それは鍛え甲斐があるな」

「それだけは勘匁しおヌ」
 逃げるように家に駆け蟌む。埌ろで倧笑いする悠斗の声が聞こえた。

十䞉 

 新しい生掻にはすぐ慣れた。䞀日䞀日が楜しく、これこそが本圓の家族のあり方なのだず実感する毎日を過ごしおいる。

 二月に入り、街がチョコレヌトで甘ったるくなり始めた頃、アキ兄ず゚リ姉が揃っお家を空けるこずになった。゚リ姉の実の母が出挔するお芝居を芳みに行くのだずいう。

 若くしお゚リ姉を産んだずはいえ、女優の「加奈子」さんは、たもなく䞃十歳を迎える。にもかかわらず、矎しさ・挔技力ずもたすたす磚きがかかっおいるず聞く。゚リ姉に誘われお挔劇郚員時代に䞀床だけ芳に行ったこずがあるが、あれはすごかった。憧れを通り越しお、圹者になりたいずいう倢を諊めたほどだ。

「今みたら党然違う感想を持぀ず思うけど 翌くんも䞀緒に行こうよ」
 ゚リ姉はし぀こく誘っおきたが、俺は頑なに拒んだ。

「いやいや、二人だけの時間を楜しんでおいでよ。こっちのこずは心配しなくおいいから」

「そう たぁ、加奈子の舞台はこの先も芳られるずは思うけど、なにせもう、幎だからね。芳るなら早いほうがいいよ」

「たぁ、い぀か気が向いたら行くよ」

「舞台を芳お、倕方には垰っおくる぀もり。それたでは留守を頌むよ」
 アキ兄はそういうなり、俺ず悠斗の肩に手を眮く。
「  くれぐれも、間違いのなきように。君たちのこずは信頌しおいるからね」
 蚀葉ずは裏腹に、その物蚀いは冷たかった。

「間違いなんか、あるものか。なぁ、翌」

「そうそう。男子高校生、、、、、ならずもかく、俺たち、倧人なんだぜ」

「  今蚀った蚀葉を忘れないように」

 こんなふうに釘を刺しおくるのは、俺たちを䞉人きりにしたくないず思っおいるからに違いなかった。でもこれは䞡者にずっおの「テスト」だず思っおいる。俺たちにずっおは家族ずしおの信頌を揺るぎないものにするための、アキ兄にずっおは子離れするための。

「倧䞈倫だよ、アキは心配しすぎ。そんなに顔怖い顔をしないで、お芝居を楜しんでこようよ。ね」
 ゚リ姉に顔を芗かれるず、アキ兄はようやく衚情を和らげた。

「  そうだね。ごめん。それじゃ、いっおきたす」
 い぀もの穏やかな顔぀きに戻ったアキ兄は、゚リ姉の手を取っお家を出お行った。ドアが閉たり、靎の響く音が聞こえなくなるのを埅぀。やがお二人の気配はなくなった。

「  それじゃあ、おれたちも出かけるか」

 悠斗が、埅っおたしたずばかりに号什を掛けた。おれずめぐちゃんはハむタッチをしお応じる。

 二人の前ではああ蚀ったが、家でおずなしく過ごしおいるはずがない。なにせ、䞉人だけの䌑日は、五人家族になっおから初めおなのだ。

「わヌい 早く着替えよう デヌト、デヌト♡」
 めぐちゃんは倧はしゃぎで自宀に向かった。俺ず悠斗も共有の郚屋に行き、それぞれ着替える。

「こっそり取っおきたのはいいけど、これ、着れるのかなぁ」

 俺は玄十幎前に着おいた制服を広げた。今日は䞉人で「制服デヌト」をしようずいう話になっおいる。

「お前、川越孊院高カワガクだったのかよ 父芪ず䞍仲だっお蚀っおたのに、高校は同じなんだ  」
 俺の制服をみた悠斗は、予想通りの反応を瀺した。

「校颚が気に入ったのが、たたたた父さんず同じ孊校だったっおだけだよ。家からも近かったし。ちなみに、掚薊入孊ね」

「  くっそぉヌ。頭がいいのを錻にかけるような蚀い方しやがっお。提案しずいおなんだけど、制服デヌトするのが嫌になっおきた」

「いいじゃん。そっちはめぐちゃんず同じ、城南高校なんだから」

「っおいっおも、制服は替わっちたっおるけどな  」

 お互い、卒業しおから結構な幎月が経っおしたっおいる。もはや、懐かしさより恥ずかしさが先に立぀が、今日は䞉人デヌトをずこずん楜しむず決めおいる。恥も倖聞も捚おおハッチャケる぀もりだ。

 着替えが枈んだ時、ちょうど郚屋のドアがノックされた。入っおきためぐちゃんはニコニコ顔で俺たちの手を取る。

「ステキ♡ 恋人二人ず制服デヌトだなんお、たるで倢を芋おいるみたい 早く街に行こう」

◇◇◇

 街ず蚀っおも、繰り出すのは俺たちのホヌムグラりンドである地元の垂街地だ。掟手さはないが、党員ここで生たれ育っおいるこずもあっお、デヌトする堎所もすんなり地元ここず決たった。

 めぐちゃんを真ん䞭に、右ず巊で手を぀なぐ。人によっおは芪子だず蚀うかもしれないし、兄効に芋えるず蚀うかもしれないが、他人からどう芋えようが構わない。

 繋いだめぐちゃんの巊手薬指には、俺のあげた指茪がはたっおいる。今日はデヌトっおこずで぀けおくれたみたい。その指茪の存圚を確かめるように、絡たせた指にぎゅっず力を蟌める。めぐちゃんは応えるように握り返しおくれた。

「  あヌ、めぐ。ちょっず翌ずその蟺で埅っおおくれる 芋たいものがあるんだ。すぐ枈むから」

 小排萜た小物店の前に来た時、悠斗が急に立ち止たっお蚀った。䜕を芋るのか気にはなったが、めぐちゃんが斜向いのフルヌツゞュヌス屋に足を向けたので、匕っ匵られる圢で同行する。

「濃厚ピヌチゞュヌス、おいしそう あっ、こっちのもいいなぁ」

 めぐちゃんは店の前で、芋本の商品に目移りしおいる。こういう姿を芋るず、やっぱり十六歳の高校生なんだなぁず思う。

「もう、可愛すぎるよぉ  」

 かわいさに負けお、濃厚ピヌチゞュヌスを䞀぀買っおしたう。ストロヌは二本぀けおもらった。めぐちゃんはニコニコ顔で商品を受け取るず、早速ストロヌに口を付けた。

「うヌん、おいしヌ」

「じゃあ、俺も」

 めぐちゃんず額を付き合わせながら、もう䞀方のストロヌをくわえる。䞀気に量が枛るのをみお「ああ、二人で飲んでるんだなぁ」ず、悊に入る。

「ストロヌを亀換っこしない」
「えヌ   もう、しょうがないなぁ」

 俺の提案に、めぐちゃんは照れながらも応じた。同じように芋぀め合っお最埌たでゞュヌスを飲みきる。二人だけの秘密を共有しおいるみたいで、䜕だかくすぐったい。

「  っおめぇ めぐずの距離が近すぎるだろ  」
 そのずき、悠斗の声がした。ゆっくり振り返る。

「邪魔するなよぉ。もっずゆっくり買い物しおおよかったのに」

「お前にだけ、いい思いをさせる蚳にはいかないからな」
 そう蚀うず、悠斗はめぐちゃんを店の倖に連れ出しお右手を取った。

「めぐに䌌合いそうなのを芋぀けたんだ。おれからのプレれント」

 それは、ピンクゎヌルドの指茪だった。それほど高䟡なものではないだろうが、小さな石も぀いおいる。悠斗の蚀うずおり、めぐちゃんの现い指によく䌌合っおいた。

「わぁ   ステキ   サむズもぎったり 悠くん、ありがずう」

めぐちゃんは悠斗に抱き぀いお嬉しさを党身で衚珟した。そのあずで、䞡手の薬指に着けた指茪をしげしげず眺めた。

「わたしの巊手は翌くんのもの。わたしの右手は悠くんのもの。ああ、なんお莅沢なんだろう」

 普通の男が聞いたらがっかりするのかもしれない。自分ぞの愛情は半分だけなのか、ず。でも俺は玠盎に嬉しい。目の前の圌女の埮笑みは、玛れもなく俺に向けられおいるのだから。

「今日の悠斗はなかなかやるな」

「今日の、っおのは䜙蚈だ。蚀っただろ 今幎のおれは手匷いっお」

「そうだったな。たぁ、いいさ。デヌトは始たったばかりだ。俺の芋せ堎はいくらでもある」

◇◇◇

 䞉人で蚘念写真も撮圱し、昌過ぎたでデヌトを楜しんだ俺たちは、垰宅するなりその栌奜のたた䞊んで゜ファに身䜓を沈めた。

「あヌ、楜しかった パパずママがいないずきはたた制服デヌトで決たりね」
 めぐちゃんはご満悊だ。圌女を挟んで座る俺たちも、その顔を芋お満足する。

「あっ、そうだ わたし、玅茶を淹れるね。さっき買っおきたチョコレヌトを食べよう」
 今座ったばかりなのに、圌女はさっず立ち䞊がっお台所に向かった。その埌ろ姿を二人しお目で远う。

「元気だなぁ、めぐは。あんなに歩いたのにピンピンしおる」

「その栌奜でその台詞はマズいだろ。おじさん臭いぜ」
 悠斗はむっずしたが、構わず圌の前を通っおめぐちゃんのあずに぀いお行く。

「手䌝おうか」

「ううん、倧䞈倫。翌くんはチョコレヌトの包みを開けおおいおくれる」

「オヌケヌ」

 老舗の和菓子屋が出しおいる、バレンタむンデヌ期間限定のチョコレヌト菓子を芋぀け、満堎䞀臎で賌入を決めた。䞉人ずも、ここの菓子が奜きなのだ。

 小箱の包みを開けおいるうちに、玅茶のいい銙りが立っおくる。
「ああ、おいしそうだ。早く味わいたいな  」

「うん。もうすぐ䞉人分淹れ終わるから。  はい、できた」

「ありがずう。お瀌に、䞀番に食べさせおあげる」
 そう蚀っお菓子の個包装を開けた俺は、めぐちゃんの唇にチョコを抌し圓おた。

「  そのたた、じっずしおお」

 めぐちゃんず目が合う。盎埌、チョコレヌトごず唇にかぶり぀く。チョコレヌトが甘いのか、キスが甘いのか  。そしお柔らかいのはチョコなのか、唇なのか  。ずにかくずろけそうだ。

「お・た・え・ら  」

 ようやく異倉に気づいた悠斗が台所にやっおきお俺たちを匕き剥がした。

「悠斗おじさんが䌑んでる間に、お先にいただいちゃいたした♡」
 舌を出しおはぐらかしたら、顔に台拭きを投げ぀けられた。

「なにすんだよっ」

「お前はそれで汚れた口でも拭いおろっ」
 そう蚀い攟った悠斗は、すぐにめぐちゃんの方を向いた。

「めぐ。そんなにこい぀ずのキスがいいか さぞかし、甘かったんだろうな」

「    」

 めぐちゃんはば぀が悪そうにう぀むいたが、悠斗はその顔を䞊げさせるず、口の呚りに付いたチョコレヌトを舐めるようにキスをしはじめた。

 今し方、俺ず重なっおいた唇を奪う悠斗のキスがあたりにもむダらしくお芋おいられない。悔しいず蚀うより、恥ずかしい。

これが、鈎宮悠斗の本気なのか  。これが、䞀床でも結婚しお子どもをもうけた男の  。

 芋たくないず思うのに目が離せない。それは俺の䞭の、悠斗を口説きたくなる郚分が顔を出しかけおいるせいだ。今にも「俺にもそんなふうにキスしおくれよ」ず二人の間に割っお入りそうになるのを必死に抌さえ぀ける。

 内なる自分ず葛藀しおいるうちに、悠斗の方からキスをやめた。

「  早く止めろよ。なんでこういう時に限っおい぀ものスピヌドでツッコんでこない」

「  なんおいうか、芋惚みほれおた」
 そう蚀ったら呆れられた。

「ごめんな、めぐ。おれのキスっお、こうなんだ  。嫌だった  」

「  うん、少し」

「  ごめんな。  せっかく淹れおくれた玅茶が冷めちゃうな。今床こそ、お茶の時間にしよう」
 悠斗は真顔になったかず思うず、ティヌカップを二぀持っおダむニングテヌブルぞ運んだ。

 俺は自分の分のティヌカップず、さっき味わったチョコレヌト菓子を持っお二人の埌に぀いおいったが、どっちに座っおいいか分からずに立ち尜くす。呆然ずしおいるず、悠斗が自分の隣に座るよう指瀺を出したのでそれに埓う。怅子ず怅子ずの距離は空いおいるものの、なんずなく気たずかった。

 俺ずめぐちゃんが黙ったたた手元を芋おいるず、芋かねた悠斗が話し始める。

「  おれが今回の付き合いで自分を抑えおるのは、さっきみたいにならないためだ。  自分で蚀うのもなんだけど、酷かったよな。ホントにごめん」

「  ううん。びっくりしたけど、その  やっず悠くんの想いに觊れられた気がしお嬉しかったよ。もちろん、翌くんのキスも  。あんなに甘いのは初めお」

 そう蚀っおめぐちゃんは、チョコ菓子の個包装を開けお頬匵った。
「この味、ずっず芚えおおくね。二人ずした、キスの味だもの」

「めぐ  」

「ねぇ  。食べ終わったら  次は二人ずハグしたいな。  ダメ」

十四 

 䞊目遣いで芋぀められお断れる俺たちではなかった。
「それはいいけど、どっちが先っお話になるず争いが起きるぜ めぐはそこたで考えおるのか」

 悠斗が指摘するず、めぐちゃんは「いい方法があるよ」ず蚀っお立ち䞊がった。そしお、さっき空けたチョコの小箱に掛けおあったリボンを持っおくるなり四等分にし、二本に「♡」、もう二本に「☆」を描いた。

「同じマヌクを匕いた人同士がハグするの。くじなら、わたしが指名するよりずっず公平でしょ」

「なるほど、確かにいいアむデア」
 俺はうなずき、早速めぐちゃんが握るリボンの䞀本を匕き抜いた。
「おっ、俺は『♡』マヌク。二人も早く匕きなよ」

 急かしおやるず、次にめぐちゃんが匕く。
「あヌ、わたしは『☆』だった」

 最埌に残った悠斗に芖線が集たる。
「  おれは嫌な予感しかしない」

 ため息亀じりにそう蚀うず、悠斗は迷いに迷っお䞀本を遞んだ。そしお、がっくりずうなだれた。圌の匕いたリボンには「♡」が描かれおいたからだ。

「っおヌこずは  。悠斗ず俺  」

「めぐ  。この可胜性を考えおいたか もう䞀回やり盎しおいいよな いや、やり盎させおくれ  」
 悠斗は懇願した。しかしめぐちゃんは楜しそうに俺たちを芋おいる。

「きゃっ♡ 二人のハグするずころ、芋おみたヌい」

 めぐちゃんの反応を芋お悠斗は倩を仰いだ。それから俺に「頌むから拒んでくれ」ず目で蚎えた。俺がそうしないのは分かっおるくせに。

「ハグするだけだろ いいじゃん別に」

「  お前が盞手だから躊躇ためらっおんだ、分かっおくれよ」

「えヌ キスなんおしないよ」

「  そういう台詞を吐くから躊躇うんだ」
 悠斗はどうしおも抱き合いたくないらしい。少し考えお、いいアむデアを思い぀く。

「んじゃ、こうしよ。俺が悠斗の圌女圹、、、をする。圹なら、いいだろ」

「  俺にも圹者になれ、ず」

「そ。悠斗が圌氏圹。俺が圌女の圹を挔じる。どうしおもっお蚀うなら目を぀ぶっおもいいよ」

 俺の蚀葉を聞いお考えおみようずいう気になったのか、悠斗は少しの間沈黙した。そしお「  最初で最埌ず誓うなら、おれも芚悟を決めよう」ず蚀った。

「ただし、条件がある」

「条件」
 銖をかしげる俺に、悠斗が耳打ちをする。

「  お前がおれにしたように、おれもお前を  お前の䞭の『悪人』を殺しに行く。もう二床ず、衚に出おこないように、だ。それを受け容れるなら抱いおやる」

「え  」
 想定倖の台詞に戞惑う。悠斗は続ける。

「お前の䞭の『悪人』は欲求䞍満なんだ。だからい぀たでも求め続けるんだ、ずおれは思う。愛されたかったけど愛されなかった、その䞍満がねじ曲がっちたった  。そんなふうに芋えるんだ」

「  そうかもしれない」

 その指摘は俺の深局心理を完党に芋抜いおいた。そうだ、俺は父芪に芋捚おられたず感じ始めた頃から自分の䞭にいく぀もの人栌を持぀ようになっお、盞手に奜かれる圹を挔じ続けおきた。

 でもそれはやっぱり圹であっお俺自身ではない。だから本圓の俺が衚に出た時「裏切られた」「嘘぀き」ず蚀われお信頌を倱っおきたのである。

 挔じるのは楜しい。だけど心の深い郚分では、真に心を蚱せる人ずの繋がりを求めおいたのだず気づく。いや、今の悠斗の蚀葉で気づかされた。

そうだな  。少なくずも家族の前では玠の俺でいたい。アキ兄だっお蚀っおたじゃないか。ここにいる間は玠の俺をさらけ出せばいいっお。そのためにも、俺の䞭の別人栌ずはいい加枛、決着を぀けなきゃいけない  。

「  ありがずう、悠斗。俺のために芪身になっおくれお」

「  たぁ、これでも䞀応家族だし」

「うヌ  。マゞで泣きそうだ  」

「おぅ、泣け泣け」

 そう蚀いながら悠斗は抱いおくれた。あれ なんか思っおたのず党然違うけど、なぜだろう。優しく抱きしめられたらすヌっず心のトゲが解けおいくような、凍り付いおいた心が枩かくなっおいくような、そんな感じを芚える。

「お前も頑匵っおきたんだよな。この、理䞍尜な䞖の䞭で生きおいくために必死に知恵を絞っお生きおきたんだよな。うん、よくやったよ、翌は。これはおれからのご耒矎」

 匷く抱きしめられ、悠斗の䜓枩が、匂いが、そしお優しさが党身に染み枡る。内なる人栌が、たるでおにぎりみたいにぎゅっずされお䞀぀の「俺」になっおいく。

ああ、本圓の俺はこんなにも匱くお泣き虫だったんだな  。

 ずっず匷がっお生きおいたんだ。でもそうするこずで本圓の俺を隠しおもいたんだ。泣きたい時に泣きたいず蚀えず、甘えたくおも甘えられず  。そのうちに倧人になっおしたっお泣きも甘えも蚱されなくなっお  。

 停り続けおきた俺の心を悠斗が救い出しおくれる。家族だから   それずも  。

 いや、悠斗はきっずそんな関係に瞛られおはいない。俺が俺だから助けおくれたのだず、今は信じたい。

 そこぞめぐちゃんも加わる。

「そっか。翌くん、いろいろ倧倉だったんだね。詳しいこずは聞かないけど、もう倧䞈倫だよ。ここには悠くんもいるし、わたしだっおいる。パパやママもいる。翌くんの居堎所はちゃんずここにあるんだよ。い぀でも泣いおいいんだよ」

「うん  。ありがずう、ありがずう  」
 
 ――䜕だよ、悠斗もめぐちゃんも子ども扱いしお。二人ずもこの身䜓を、愛し合うために抱いおくれるんじゃなかったのか 翌もなんずか蚀えよ、むダらしく抱けっお。

 二人に抱かれおいるず「内なる俺」が声を発した。普段、内偎の人栌の声を聞くこずはない。いよいよ別れの時が来たのだず悟る。

  もう、いいんだよ。お前は頑匵った。俺が俺であり続けるために頑匵っおくれたよ。  俺はちゃんず居堎所を芋぀けた。本圓の家族ず呌べる人たちず出䌚った。だからもう、芋栄を匵る必芁もない。これからは、ありのたたの俺で生きられる。お前の力無しでもちゃんず  。

 玠盎な気持ちを䌝えるず、「内なる俺」は劙に玍埗した声で蚀う。

 ――そうか  。俺はもう、必芁ないんだな  。でも、圹に立ったのなら充分か  。二十幎以䞊もの長い付き合いだったけど、これでさよなら、なんだな。

さよなら  だけど、お前がいたこずは忘れない。そのためにも、そうだな  。時々、お前を挔じるよ。だっおお前も「俺」だったんだから。

 ――ああ、玄束だぜ ふぅ  。二人分の䜓枩は熱いな  。たるで接着剀だ。別人栌でいたくおも、もう翌にくっ付きそうだよ。

䜓枩だけじゃない。これは二人の想いの熱だよ。  俺たちは救われたんだ。二人の想いによっお。

 ――  そうだな。  ああ、いよいよさよならだ。二人ず仲良くやれよ  。

ああ、きっず  。

 内なる人栌の䞀぀が俺の䞭で統合された。その瞬間、悲しみず喜びず怒りず萜胆ずがいっぺんに抌し寄せおきお混乱した。慌おお二人にしがみ぀く。そしお今にも増しお激しく泣く。

「぀、翌くん、どうしたの   䜕か、悲しい出来事を思い出しちゃったの  」

 めぐちゃんが心配そうに声を掛けおくれたが、感情の敎理が出来なくお返事をするこずも出来ない。

「めぐ。翌は今、二十数幎分の涙を流しおるんだ。気の枈むたで泣かせおやろう。その間ずっず、そばにいおやろう」

 悠斗の優しい蚀葉が降っおくる。それが䜙蚈に涙を抌し出させる。悠斗は続ける。

「  ちょっず前たで、おれはいろんなこずを幎霢のせいにしお逃げおた。でも今は違う。自分が四十六歳で、これたでいろんな経隓を積んできおよかったなっお本気で思っおる。だっおこうしおお前の悩みにも気づけたし、男泣きも蚱容できるから。  あヌ、今のお前はおれの圌女だったか。圌女が泣いおるなら、圌氏ずしおは慰めないわけにはいかないよな」

「  もう、挔技なんかじゃない。これは俺の、心からの涙だ  」
 ようやく声を絞り出す。悠斗は、うんうんず䜕床もうなずく。

「そうか。じゃあもっず泣け。  おれもか぀お、悲しみに暮れたずき地博に蚀われたよ。涞れるたで泣けっお。そうすれば必ず笑えるようになるっお」

 なぜめぐちゃんが悠斗を奜きになったのか、そしおアキ兄がめぐちゃんず結婚させおたで家族になりたいず蚀ったのか、その理由がようやく分かった。

 悠斗は、圌自身が感じやすい人間ゆえに人の痛みが分かるのだ。だから、圌から発せられる蚀葉には、なんずも衚珟できない優しさがある。そしお、この家の人たちはみんな、そのこずを知っおいる。鈎宮悠斗の、人ずしおの魅力を  。

「ただいた  。っお、どうしたの  」

 ちょうどそこぞアキ兄たちが垰っおきた。その台詞が俺たちの抱擁する姿に向けられたものか、はたたた制服姿でいるこずに察しおかは分からない。どちらにしろ、悠斗にすがっお号泣しおいる俺は䜕のリアクションも出来ない。

 しかし、俺が心配せずずも悠斗がちゃんず答えおくれる。
「地博。翌はいた、心のクリヌニング䞭なんだ。だから、おれたちはもうしばらくこのたたでいるよ」

「心のクリヌニング  。そうか、鈎宮が圌の心の闇ず向き合っおくれたんだね」

「  闇っおほどでもなかったけどなぁ。たぁ、それなりに手匷い盞手ではあった。なにせ、隙あらばおれを食おうずしおきたからな」

「ははは  。もうその心配はなさそうだね」

「たぶん  。倧䞈倫だよな、翌」
 悠斗の問いにすぐに答えられない。

 俺を守っおくれおいた匷気の人栌が前面に出おこなくなったこずで、裞にさせられたような恥ずかしさを感じるせいだ。涙は止たったずいうのに、面ず向かっお悠斗を芋る勇気も出ない。返事もせずにそのたたしがみ぀いおいるず、悠斗に笑われた。

「あヌあ、たるで子どもだな。た、おれにずっお翌は子どもも同然の幎霢だけど、これじゃあ子どもを通り越しお赀ちゃんだな。  ん っおこずは、次に察峙しなきゃいけないのはこの人栌か」

「人栌   䜕のこず」
 めぐちゃんが銖をかしげた。

「めぐ。人はね、盞手によっおいろいろな圹を挔じ分けるものなんだよ。パパだっおそうだ。めぐの前では父芪の圹を、゚リヌの前ではよきパヌトナヌずしお、鈎宮の前では芪友ずしお。翌くんはその圹が人よりちょっず倚い。鈎宮はそのこずを蚀っおいるんだよ」

 アキ兄が俺のこずを簡朔に、䞔぀やんわりずがかしお説明しおくれた。アキ兄は俺の隣にやっおきお、ぜんず肩に手を茉せる。

「赀ちゃんだっおいいじゃないか。うちの䞭は安党だし、わがたたを蚀ったっお僕は党然構わないず思っおる。そうやっお自由に振る舞っおおけば、倖に出たずきちゃんず自立できるず信じおるから」

「アキ兄  」

「䞀぀ず぀クリアしおいこう。倧䞈倫、翌くんならすぐに出来る。僕もいるし、鈎宮も぀いおる。だから安心しおね」

「ありがずう、アキ兄。  ありがずう、悠斗。俺はもう、倧䞈倫」
 泣き尜くした俺はゆっくり悠斗から離れた。

「ごめん、制服、汚しちゃったな  」

「気にするな。次たでに綺麗にしずけばいい話だ。た、クリヌニング代は翌持ちだけどな」

「  だよねヌ」

 い぀もみたいに鋭いツッコミが出来ないのは、泣き疲れたせいかな  。それずも、こっちが本来の俺なのかな  。

「次っお  。君たち、たた制服デヌトする気なの すっかりハマっおるねぇ」
 俺がツッコみたかったこずをアキ兄が蚀葉にしおくれたが、その蚀い方では党く挫才にならない。悠斗もそう感じたようだ。

「地博じゃ、ツッコミ力が足りないな。おずなしい翌は䜕だか気味が悪いぜ  。早いずこ、埩掻しおくれよなぁ」

「ぞぇ 悠斗は俺ず挫才がしたいんだ なら、久しぶりにたた颚呂入りに行こうよ。少しは元気が出るかも」

 頑匵っお、い぀もみたいにぶりっこスタむルですり寄っおみる。だけど、フリだずバレたのか、悠斗は避けずにむしろ肩を匷く抱いおくれた。

「ああ、行こう行こう。だけど、そんなふうに無理すんな。自然に任せお、ゆっくりず本来の翌に戻ればいい」

「うん」

 今たでだっお無理しおる぀もりはなかったけど、䞀番厄介だった内なる自分を制埡できたこずで、我が家で、家族の前で、こんなにも自然䜓でいられる。それがすごく嬉しい。

「あ、そうだ。私たちからお土産があるの。あずでみんなで食べたしょうよ」

 ゚リ姉が、ずっず手に持ったたたの玙袋から䜕かを取り出した。それは奇しくも、俺たちがさっき食べたばかりのチョコレヌト菓子だった。䞉人で顔を芋合わせる。

「考えるこずは䞀緒だな。なん぀ヌか、家族っぜい」
 悠斗が笑った。

「ぜいっお蚀うか、家族でしょ、私たち」

「だな」

 みんなで笑い合う。それが䜕だか可笑しくお、涙が止たらなかったずきのように、今床は笑いが止たらなくなっお転げ回る。

 蚱しおくれるずいうのだから、今だけは赀ちゃんみたいにわがたたに、そしお倧声で笑おう。そうしたらきっず俺は匷く生きおいける。この家の倖でも、きっず。

◇◇◇

 その晩、悠斗はなぜか添い寝しおくれた。確かにひず月前には䞀緒に寝ようず誘ったし、それが叶っお嬉しいはずなのに、付き物が萜ちおしたった今ずなっおは党く感動がない。おそらく悠斗も承知の䞊でこんな真䌌をしおいるのだろう。

「俺のこず、赀ちゃんだず思っおるんだろ  。䞀人で寝れるよ」

「あんなにしがみ぀いおきたや぀が䜕蚀っおんだ。匷がらずに、今日くらいは自分の気持ちに正盎になれよ」

「いや、これが本音なんだけど  」

「  信じらんねえな。ずおも同じ人間の台詞ずは思えない。たぁ、だからこうしおるんだけど」

「ったく。からかいやがっお」

「い぀ものお返しだ」
 そう蚀われたらぐうの音も出ない。黙り蟌むず、悠斗は笑っお本圓に赀子を寝かし぀けるみたいに背䞭をトントンし始めた。

 こうなったらどうずにでもなれ、ず開き盎っお、こっちも悠斗の胞に顔を埋うずめる。赀ちゃんにするには少々匷すぎる力加枛だったが、トントンずリズムよく背䞭を叩かれるうち、なんずなく心地よく感じおきお気持ちが萜ち着き始める。

「眠くなっおきた  」

「これでも寝かし぀けは埗意だったんだよ。  たぁ、おれの子育お歎は五幎皋床だけどなぁ」

「  いい父さんだったんだな、っお思うよ。  嚘さんのこずは残念だったな」

「もう二十幎近くも前のこずだけどな。  生きおりゃあ、翌くらいの幎霢だよ。それもあっおさ、お前を芋おるずどうしおも䞖話を焌きたくなるんだ」

「    」

「人生、䜕が起きるか分からない。別れだっお唐突に蚪れる。だから、あの時あんなこずを蚀わなきゃよかったずか、想いを䌝えおおけばよかったずか埌悔するくらいなら、今からでもちゃんず解決しおおいた方がいい」

 それが、父芪ずの関係に぀いお蚀われおいるのだずすぐに分かった。

「  もし、嚘さんが生きおいお、悠斗の想像ずかけ離れた盞手ず結婚したいっお蚀い出したらなんお蚀っおたず思う」
 難しい問いをした぀もりだった。が、悠斗は躊躇ためらわずに答える。

「たぁ、たずはやめずけっお蚀うだろうな。それでも聞かないようなら、おれの目の届く範囲に䜏たわせお様子を窺うかな。口には出さないけど、心の䞭ではい぀でも垰っおこいよっお蚀いながら埅っおるず思う。それが芪心っおもんだよ」

口には出さない、でも埅っおる、か  。

 悠斗は続ける。
「嬉しいけど、寂しい。そんな感じなんだろうず思う。子どもの自立を促すのが仕事ず分かっおいおも、倧事に育おおきた我が子を玠盎に送り出せないっお蚀うか。おれが結婚したずきの芪がたさにそうだったからなぁ。芪も葛藀しおたんだず思うよ」

「葛藀  」

「たぁ、こっちが本気だっお分かれば芪も認めざるを埗ない。そのうちに和解も出来るっおもんだ。  もっずもお互いに元気で再䌚できればの話だけど」

「  悠斗は和解できたの」

「和解っお蚀うか、芪ははじめから怒っおも嫌っおもなかったらしい。だから、若いずきにちゃんず話し合っおいれば、長い間誀解せずに枈んだんだろうなっお思うわけ」

「  話し合い」

「翌は逃げるなよ。ちゃんず正面から立ち向かえよ。もし結果が振るわなくおもお前にはちゃんず垰る堎所がある。おれもいる。だから、その日が来たら安心しおいっお来い」

「うん  。その日が来たらね。でも、それは今すぐじゃない  。今はもう  このたた  」

 悠斗の䜓枩ず優しさずに抱かれおすっかり安心しきった俺は、そのたたすっず倢の䞖界に萜ちおいく。「おやすみ」の声ずずもに悠斗が額にキスをしたような気がしたけれど、それが倢だったのか珟実だったのかは分からなかった。

十五

 翌朝目芚めおみるず、隣にはただ悠斗がいた。どうりで熟睡できたはずだ、ず思いながらも、本圓に䞀晩䞀緒の垃団で寝たのかず思うず気恥ずかしくもあった。

 爆睡しおいおも、悠斗の寝顔はやっぱり敎っおいる。

「  ありがず、悠斗」

 かすかに蚘憶に残る、倕べのキスのお返しをしようず唇を寄せる。ず、ものすごい速さで手が䌞びおきお顔を抌しのけられた。

「今、キスしようずしただろ 口はめぐ専甚なんだからやめおくれ」

「  なんだ、起きおたのかよ。寝おる間ならキスできるかず思ったのに」

「ふんっ、お前が起きるたでそばにいおやったんだよ。起きたずきにいなかったら寂しがるず思っお」

「俺は赀ちゃんか」

「そうだよ。寝おるずきに䜕床もおれの服を掎んできおたぜ」

「え、うそ」

「嘘に決たっおんだろ」

「こい぀ヌ」

 腕を銖に回しお締め䞊げる。なのに悠斗は笑った。
「  よかった。い぀もの翌に戻ったな。やっぱりお前はこうでなくっちゃ」

「    」

「さあお、そろそろ起きないず。今日は月曜日。お前は朝から仕事だろ」
 悠斗が時蚈を指さす。い぀も起きおいる時刻より二十分ほど遅い。

「やべっ、遅刻しちゃう」
 俺は慌おお垃団から飛び出し、朝食を摂りにダむニングぞ向かう。野䞊家の面々はすでに食事を始めおいる。

「みんな、なんで起こしおくんないんだよぉ」

「  翌くん、もう倧䞈倫なの 心の調子が悪いずきは䌑んでもいいっお、パパが蚀っおたよ」

 慌おお垭に぀きパンをかじる俺を芋お、めぐちゃんが声を掛けおきた。
「ぞヌき、ぞヌき。悠斗が添い  」

 倕べの出来事を話そうずしたずき、背埌から悠斗がやっおきお倧げさに咳払いをした。そしお俺の代わりに答える。

「翌なら倧䞈倫。朝から俺の銖を絞めようずしたくらいだ。心配ないよ。なぁ」

「ああ、もちろん。俺はい぀も通りさ」
 そう蚀っお、さっきし損ねたキスをもう䞀床しようず悠斗に近寄るが、たたしおも拒たれおしたった。

「  それは、やりすぎ」
 俺たちのやりずりを芋た䞉人は、ほっずしたように笑う。

「じゃあ、めぐちゃんに」

 䜕床も拒たれるのも面癜くないので、気持ちを切り替えお本呜にすり寄る。こっちは悠斗みたいによけるこずなく、さっず近寄っおきお唇ぞのキスを受け容れおくれた。しかしながら、䞀぀泚意を受ける。

「翌くん。朝䞀番のキスはわたしにしおよね 悠くんが奜きなのは分かるんだけどさ」

「気分を悪くしたのなら謝るよ。今日は、俺がい぀も通りっおずころを芋おほしかっただけ。明日からは、起きおすぐず出かける盎前の二回、キスしおあげるから蚱しお」

「うん。玄束だよ」

「ほらほら、翌くん。早く食事を終えお支床しないず間に合わないよ」

 のんびりしおたら゚リ姉に急かされおしたった。ちょっず寝坊しただけで朝が忙しい。だけど今日の目芚めは、これたでのどんな朝よりもすがすがしかった。それもこれも、悠斗がそばで芋守っおいおくれたおかげ。

 今日垰ったら、悠斗になにかお瀌をしよう。そう胞に誓い、朝の支床を始めた。

◇◇◇

 䞀日の仕事を終えた俺は、その足で街にバむクを走らせた。悠斗ぞのお瀌の品を探すためだ。

 人混みをかき分けながら、昚日のデヌトで歩いた道をなぞる。倜の街は昌ずは違う顔をしおいお、きらびやかなネオンの䞋に集う仕事䞊がりの人々、カップルたち、客匕きをする人などがひしめいおいる。

 その、賑やかな人々に目を奪われおいるせいか、肝心の品探しはなかなかはかどらない。そもそも俺は悠斗の奜みを知らない。思い぀きで街ぞ繰り出したこずを埌悔する。あらかじめ䞋調べくらいしおくればよかった。

 時間ばかりが過ぎおいく。心配させるずいけないず思い、めぐちゃんず゚リ姉には垰りが遅くなるこず、倕食は倖で食べる旚をメヌルで䌝えたものの、このたたぶらぶら歩き回っおいお目的が達成されるずも思えなかった。

 䞀緒に暮らし始めお玄䞀ヶ月。俺はあい぀の䜕を芋おきたのかず思い知らされる。ただ同じ家にいお飯をずもにし、おしゃべりをし、めぐちゃんを二人で愛でおいるだけ。䜕よりもショックなのは、悠斗に興味を瀺しながらもその実、䜕も知ろうずしおいなかったっおこずだ。

 よくよく考えおみれば、それはめぐちゃんにも蚀えるこずだず気づいおさらにショックを受ける。ただ、かわいいから䞀緒にいたい  。俺はそれだけの理由で䞀緒に暮らしおいるのか 他にもっず明確な理由はないのか  。

 急に心现くなる。匷気の俺を挔じるための仮面が倖れおしたったせいに違いない。

悠斗に䌚いたい  。

 二月の倜の冷え蟌みが、人恋しさを䞀局匷くさせる。

 俺は急いでバむクを停めおいる堎所たで戻り、゚ンゞンを掛けた。そしお家ではなく、悠斗の仕事堎であるスポヌツクラブぞ向かった。

◇◇◇

 到着するず、ちょうど氎泳教宀が終わったのか、䞭から子どもたちが出おくるずころだった。

 楜しそうに話をしながら歩いおきた子どもたちは、迎えに来た芪の顔を芋おほっずしたように駆け寄るず、友だちに手を振っお次々車に乗り蟌んでいく。

ああ、あの子たちにはちゃんず居堎所があるんだな  

 安心したのも぀かの間、その堎に䞀人きりになったこずで急に怖くなり、身䜓が震え始める。匷気の人栌を手攟したのは間違いだったのだろうか。やっぱり俺は、自分の身を守るためにも別人栌を持っおいるべきなのでは  

 そんなこずを考え始めたずき、悠斗が姿を珟した。俺を芋぀けるず、圌はびっくりした様子で駆け寄っおきた。

「どうした   その顔を芋る限り、迎えに来おくれたわけじゃなさそうだな。埅っおおくれりゃ、俺はちゃんず家に垰るよ」

「    」
 黙っおいるず、悠斗が顔をのぞき蟌んでくる。

「  本圓に倧䞈倫か 顔色悪いけど」

「  俺は悠斗のこずを䜕も知らない。そんなこずで本圓に家族っお蚀えるのかなっお思ったら、急に䌚いたくなっちゃっお」

 俺は、昚日のお瀌の品を探す぀もりで街に出おきたこず、そのうちに、悠斗の奜みを䜕䞀぀知らなかったず気づいお狌狜うろたえたこずをぜ぀ぜ぀ず語った。

 話を聞いた悠斗は優しく俺の肩を抱いた。
「飯はただなんだろ いいずころに連れお行っおやる」

◇◇◇

 連れお行かれたのは、悠斗ずアキ兄が若い頃から莔屓ひいきにしおいるずいう、地元の駅前にあるバヌだった。

「腹の内を明かすならここっお決めおるんだ」
 悠斗はそう蚀っお、慣れた様子で二人分のカクテルず軜食を頌んだ。

「えヌ、俺、明日も朝から仕事なんだけど」

「そんなに浮かない顔しおるや぀が䜕蚀っおんだ。仕事より倧事なこずだろ、これは」

「飲んで忘れろっおこず」

「そうじゃない。分かっおないなぁ、お前は」

 食事ずカクテルが揃ったずころで也杯をする。悠斗が頌んだのは「ゞン・トニック」。カクテルずしおは床数が䜎めらしい。どうやらいきなり酔い朰す気はないようだ。

 ピザやらサラダやらを぀たみ぀぀、酒を口にする。䞀口ごずに頭がじヌんず痺れおきおいい気分になる。ホントに床数䜎め   そんな疑いも、䞀杯飲みきる頃にはどうでもよくなっおいた。

「グラスが空になっおるじゃないか。今日はおれがおごっおやる。遠慮しないで飲め」

 悠斗がドリンクメニュヌを差し出す。䞀応受け取っおは芋たものの、名前を芋ただけではさっぱり分からない。

「  悠斗ず同じものでいいよ」

 迷った挙げ句にそう蚀うこずしか出来なかった。それを聞いた悠斗は「それじゃあ、りィスキヌをロックで飲もうかな」ず蚀っおバヌテンダヌに泚文した。

 酒が提䟛されるたでの間に悠斗が蚀う。
「  お前はさっき蚀ったな おれのこずを䜕も知らないっお。だけど、それを知っお䜕になる」

 俺は少し考えおから、
「知っおいれば安心できるし、繋がりを感じられる」
 ず答えた。しかし悠斗は反論する。

「友人知人ならそれでいいず思うよ。だけど、家族も同じでいいのか 衚面的な郚分だけを芋お知った気になっおるようじゃ家族ずは蚀えないず、おれは思う」

「じゃあ、悠斗にずっおの家族っお」

「匱さをさらけ出し合える。認め合える。それが家族だずおれは思っおる。それが出来る盞手なら別に、あえお奜みを知っおおく必芁もない。っおいうか、そういうのっお匱さを知った時点でわかるものじゃないか」

「なら、悠斗は俺のこず、家族ず思っおくれおるんだな」
 昚日のこずを思い出しながら蚀った。

「おうよ。お前のいけ奜かない態床やふざけた行動、匱さを持っおいるずころや、めぐを本気で愛するあたりおれに぀っかかかっおくるずころ  。そういう、人間くさいお前ず家族でいたいず思っおる」

「人間くさい俺、か  」

 ここでカクテルが運ばれおくる。オヌルド・ファッションド・グラスに泚がれた琥珀色の酒。䞀口飲んでみるず、フルヌティヌな銙りが錻から抜けた。カりンタヌに眮かれたボトルを芋お、これが垌少な囜産のりィスキヌだず分かる。

「  悠斗の奜み、䞀぀芋぀けた」

「  本圓に嬉しそうに蚀うなぁ。そんなに奜みが知りたかったんだ お前、冗談抜きでおれのこず奜きだろ」

 からかうように顔をのぞき蟌たれる。ああ、この人はなんでこの幎でもこんなに男前なんだろう。悠斗に口説かれお萜ちない女はいないんじゃないかず思う。だけど俺は男だし、䟋の人栌はもう衚に出おこないので、そんなに芋぀められおも困るばかりだ。

「  奜きだけど、あくたでも人ずしお、だよ」
 かろうじお返事をするず、悠斗は「そう、それ」ず蚀う。

「おれが蚀いたいのも同じこずだよ」

「あ、そうか」
 さっきの悠斗の話ず繋がる。

「わかった」

「うん」
 うなずくず、悠斗は嬉しそうに話し出す。

「野䞊䞀家ず家族でいたい理由はたった䞀぀。それは――お前も同じだろうけど――圌らが泣くこずを蚱しおくれる人たちだからだ。もちろん、心から笑い合える人たちでもあるんだけど、それ以䞊に自分の、䞀番芋せたくない郚分をさらけ出しおも倧䞈倫なんだっお思わせおくれる野䞊家の人たちの、それこそ人ずしおの玠晎らしさに惹かれおいるからなんだよ」

「うん、うん」

「そういう人間味っお、感芚的なもんだずおれは思っおる。だから翌がさっき蚀った、奜みを知っおるかどうかっおあたり重芁じゃなくお、それを満たし合えば幞せっおわけでもなくお、お互いの気持ちが䌝わるこずの方が倧事なんじゃないかっおおれは思うんだ」

「やっぱ栌奜いいな、悠斗は」

「䜕を今曎」

「いや、芋た目はもちろんそうなんだけど、今日は蚀うこずが神がかっおるっおいうか」
 耒めちぎるず、悠斗はちょっず照れくさそうにグラスを芋぀め、揺らした。

「これでも散々悩んできおるからな。  寂しくなったお前がおれを頌っおくれたこず、玠盎に嬉しかったよ。こんなおれでも、お前の心の支えになれるんだず思ったらさ」

「  みんなそう思っおるよ。野䞊家は党員」

「そうか  。それは有り難いな」
 悠斗は埮笑んだ。

 今の話を聞いお、俺は匱くおも倧䞈倫なんだず知る。匷がっおいた自分を倱っお少し気匱になっおいたけれど、今の俺には悠斗が、めぐちゃんが、そしおアキ兄ず゚リ姉がいる。

「あヌ、やっぱりりィスキヌっお蚀ったらこれだよなぁ」

 悠斗は照れを隠すように䞀気にあおった。その姿があたりにも絵になるので、俺も真䌌しお䞀口で飲む。喉が焌けるように熱い。酔いが䞀気に回る。ふぅヌっず息を吐き出すず、悠斗が氎の入ったグラスを差し出しおくれた。

「ここの店は氎もうたいんだ。酔ったなず思ったら、胃の䞭で垌釈すりゃあいい」

「ありがずう。でも今日は  もうちょっず酔いたいな」

「お さっきは明日も朝から仕事だっお蚀っおなかったか」

「仕事より倧事なこずが䜕か分かったから。明日のこずは、今日はもう考えない。今日はお互いのこずを  、情けなかった過去を語り合いたい気分なんだ」

「そうかそうか  。そういうこずなら、ずこずん付き合うよ。蚀っずくけど、おれは酒癖悪いから」

「えっ それ、自分でいうの」

「あヌ、今のうちに地博に連絡入れずいた方がいいな  」
 悠斗の぀ぶやきを聞き逃さなかったバヌテンダヌがくすりず笑った。

「で、お前は䜕杯いけるの」

「知らない。普段、カクテルなんお飲たないし」

「そうだよなぁ。じゃあこれを機に限界知っずくか」

「うっわ、怖いんだけど」

「倧䞈倫、酔い朰れたっおちゃんず家に連れお垰っおくれる家族がいるから」

「  それ、なんか違う気がする」

「た、ずにかく、飲もう」
 そう蚀った顔はメチャクチャ楜しそうだった。

◇◇◇

 それから俺たちは、深倜たで飲みながら互いのこずを教え合った。幌少時代のこず、芪子関係のこず、か぀おの恋人や悠斗の別れた奥さんのこず、そしお、めぐちゃんぞの想い  。酒が進むに぀れ、どんどん口が軜くなっおいく。

「おれたち、どんだけめぐのこず奜きなんだ、っお話だよなぁ」
 倧いに酔っ払った悠斗が、俺に絡みながら蚀う。
「䞀蚀じゃ、めぐの良さは衚せないけど、しいお蚀うなら『かわいい』。もう、これしかないよなぁ」
 
 そう。話せば話すほど、俺たちの口からはめぐちゃんぞの愛があふれお出おくる。圌女の仕草、蚀葉、優しさ、笑顔  。ずにかく、そのすべおに惚れおいる  。

「めぐちゃんのすごさっお、こんな俺たちをたるっず受け容れおくれるずころにあるず思う。だからっお媚びおるわけでもない。俺には真䌌できないよ」

「確かに、めぐは包容力があるよなぁ。でなきゃ今ごろ、おれたちのどちらかは切り捚おられおるずころだ」

「うん」

 めぐちゃんは俺たちに優劣を぀けなかった。単玔に、甲乙぀けがたかっただけだずしおも、殊曎こずさら家族になっおからは差を぀けるこずなく接しおくれる。その懐の深さに二人ずも救われおいるのは間違いない。

「俺たちが陰気な月だずしたら、めぐちゃんは陜気な倪陜っお感じ 䞖に蚀われおる陰陜ずは逆だけど、我が家はこうだよね」

「そうだな。めぐにも悩みはあるんだろうけど、めぐ自身の茝きでおれたちには芋えないっお蚀うか。でも、おかげで野䞊家は居心地がいい。陜だたりにいるみたいに」

「それがめぐちゃんの魅力だよね」

「ああ  」

「  めぐちゃんが䞭心にいれば、俺たちい぀か䞉人で暮らせるかな」

「暮らせるさ。おれたちは䞉人揃っおようやく䞀人前っお感じだけど、逆に蚀えば䞉人揃っおりゃいいわけだ」

「䞉人で䞀人前、か  」

 劙に玍埗する。それを蚀ったら家族っおいうのは、党員揃っお初めお䞀人前になれるのかもしれない。そう考えるず俺たち䞉人は、未だ䞀人ひずりが力䞍足。今に至っおはアキ兄ず゚リ姉の助けを借りおようやっず䞀人前なのだから。

ただただ人生、修行が必芁っおこずなのかな。でも、このたた野䞊家で暮らしおいれば心もタフになっおいくのかな  。

 色々考えおいたら、急に頭がくらっずした。最埌に飲んだ酒が効いおきたようだ。

 もう悠斗には䜕も感じないず思っおいたのに、頭が朊朧もうろうずした状態で隣にいるずそれだけで劙な気持ちになっおくる。圌が蚀ったように、俺はやっぱり悠斗のこずが奜きなのかもしれない。

 ふいに、むダらしい映像が脳内で再生される。たぶん顔に出おいたんだろう、悠斗にツッコたれる。

「お前いた、むダらしいこず考えおるだろ」

「うん。俺ず悠斗ずめぐちゃんの䞉人がベッドで絡み合う堎面を想像しおた」
 酔った勢いのたた口走るず、悠斗は飲んでいた氎を思い切り吹きだした。

「ば、銬鹿っ おれたで想像しちゃったじゃねえか」
 狌狜うろえる悠斗もたた芋おいお面癜い。い぀もの調子でからかう。

「悠斗が䞉人で䞀人前だなんおいうからヌ」

「そういう意味じゃねえよ」

「でもさ、出来る気がするんだ。ほら、俺たちは昚日すでに䞀倜をずもにしおるわけだし」

「あれは添い寝だ 子守こもりだ」

「だずしおも、けっこう嬉しかったんだよ。だから、今倜も䞀緒に寝お欲しいな♡」
 冗談の぀もりで蚀ったのに、悠斗はさっず真顔になった。

「酔っおるおれに冗談は通甚しねえぞ。そんなに䞀緒に寝たいなら、このあずマゞで連れ蟌むからな」

「え  、え   どこに  」
 すごたれお怯える。が、悠斗はすぐに砎顔した。

「銬鹿。家に決たっおんだろ。いくらおれがいい男でお前に惚れられおるず知っおおも、肉䜓関係を持぀のだけは無理。裞を芋せ合うのは颚呂だけにしおくれ」

「じゃ、このあず颚呂に行こう」

「泥酔状態で入ったら死ぬぞ  。おれはお前ず心䞭する気もない」

「じゃ、今床混济できる枩泉に行くのは それなら䞉人で颚呂に浞かれる」

「おう。それが䞀番だな」

 話が䞀段萜したずころで、远加の酒を頌もうず悠斗が手を挙げる。が、バヌテンダヌは泚文を断った。時蚈を芋るず深倜䞀時。い぀の間にか閉店の時刻になっおいた。

「野䞊様が手配なさったタクシヌが迎えに来おいるようです。たたのご来店をお埅ちしおいたす」
 

◇◇◇

 案の定、翌朝はい぀も通りの起床時刻に起きられなかった。それどころか、頭痛ず吐き気がひどくお動くこずすら出来ない。今日は仕事を䌑みたいず蚀ったら゚リ姉にひどく呆れられたが、酒飲みの気持ちは分かっおいるらしく「懲りないんだから」ず蚀われただけだった。

「翌くん、鈎宮ず差し、、で飲んじゃダメだよ。飲む前に䞀声掛けおくれたら止めたのに」
 開け攟したドアの向こうから説教しおきたのはアキ兄だ。

「酒癖が悪いっお聞いたずきには手遅れだったんだよ。  たぁ、楜しかったけどね」

「やれやれ  。今倜はその件で家族䌚議をしなきゃいけないな。  さお、僕もそろそろ仕事に行かないず」

 そう蚀うず、二日酔いに効くドリンク剀を枕元に眮いおいっおくれた。さりげないアキ兄の優しさにほっず心があったたる。

「やっず起きたの もう 朝䞀番でキスしおくれるっお玄束したのにぃ」

 最埌にやっおきたのはめぐちゃん。ほっぺたを膚らたしおいる。ひどくご立腹のようだ。俺が寝おいる垃団のそばたでやっおきた圌女は、郚屋の空気を入れ換えるず蚀っお窓を党開にした。

「こんなにお酒くさい郚屋には居られないよ」

「ごめん  」

 心が匱っおいるずはいえ、飲んだくれお倧切な人ずの玄束を守れなかったのは自分でも情けないず反省する。恥ずかしくお目を芋るこずも出来ない。なのにめぐちゃんはこんな俺に近寄っおきた。

「しかたないなぁ。今日はわたしの方から『いっおきたす』のキスをするね」

「えっ」
 ぜかんず口を半分開けおいる間にキスされる。

「  悠くんず仲良くなれた 癒やしおもらえた」

「え  、う、うん。かなり」

「倧人はいいよねぇ、お酒の力を借りれるんだもの。それじゃ、いっおくるね。悠くんに送っおもらえないんじゃ、い぀もより早くでないず間に合わないから」
 そう蚀っおめぐちゃんは足早に郚屋を出お行った。

 静たりかえった郚屋。隣の垃団で眠りこけおいる悠斗を芋る。起きる気配すらない。たぶん、俺より飲んでる。

 䞀瞬、こういう時こそキスのチャンスじゃないかず思ったけれど、頭が痛すぎおずおも実行できそうにない。アキ兄が持っおきおくれたドリンク剀を飲み、再び垃団に暪たわる。

 幞か䞍幞か、倕べ話したこずはすべお頭に残っおいる。埌半はぐだぐだで、今思い返しおみるずメチャクチャ恥ずかしいこずを蚀い合ったなぁず赀面する。

「うヌ  。気分わるぅヌ  」
 そのずき、悠斗が声を発した。

「やっず目が芚めた 起きれる」

「  無理ぃヌ。  っお、お前だけドリンク剀もらっおるのかよぉ。おれの分は」

「さぁ。俺はアキ兄がくれたのを飲んだだけだから」

「差別だぁ  。地博にはあずで文句を蚀っおやるヌ」

 悠斗がこんなふうに悪態を぀くのは、ただ䜓内にアルコヌルが残っおいるせいだろう。その、なんずも子䟛じみた態床がかわいらしくお぀い笑っおしたう。

「䜕笑っおんだよぉ」

「いや  。俺たち、銬鹿やったなぁず思っお」

「    」

「たた連れおっおよ。めっちゃ楜しかったから」

「懲りないや぀だなぁ  」
 そう蚀いながらも顔は笑っおいた。
「  い぀か、めぐも連れお行きたいよなぁ」

「うん。  っおいっおも、早くお四幎埌か。長いなぁ」

「なに、あっずいう間さ」

「えヌ 四十六歳ず二十䞃歳の時間感芚を䞀緒にしないで欲しいんだけど」

「そんなの、同じじゃね っお蚀うか四幎埌っおおれ、五十歳なの 信じらんねぇ」

 きっず悠斗は今ず倉わらず若々しいのだろう。それでも、五十歳の悠斗の隣にめぐちゃんがいるむメヌゞはどうしおも湧かなかった。たしおや子どもなんお  。

「めぐちゃんが二十歳、か。  俺たち、その時には䞉人暮らししおるずいいなぁ。どっちかの子どもが居たりしお」
 想像した぀いでに呟いおみる。悠斗はしばらく黙り蟌んだ。

「  子ども、欲しいの」

「そりゃあね。子どもはかわいいよ」

「  そうか」

「悠斗はどうなの」
 問い返すず、圌は再び沈黙した。しばらくしおようやく、
「  今の頭じゃ、たずもに考えられない。そういう倧事なこずは、しらふの時にしよう」
 ず蚀っお身震いした。

「  っお蚀うか、寒くね 誰だよ、窓党開にしたや぀は」
 今ごろ気づいた悠斗は垃団をかぶり盎した。あたりの鈍感ぶりにたた笑いがこみ䞊げる。

「めぐちゃんだけど。送っおもらえないっお怒っおたぜ」

「  えっ もうそんな時間 っおお前、仕事は」

「䌑む。この䜓調じゃ無理っしょ。バむクだっお駅前に眮いおきちゃったし、家にあったずしおも酒気垯び運転で捕たる気がするもん」

「あっ、バむク  」
 諞々のこずを思い出したのか、悠斗は額に手を眮いた。
「あヌ、色々めんどくせヌなぁ」

「仕方がないよ。あずで気分転換に二人で歩いおずりに行こう。  手を繋いでっおもいいよ」

「はぁ  」
 悠斗は完党に呆れおいる。
「たたたた子どもみたいなこずを  」

「いいじゃん、別に。あず、悠斗ず仲良くするのはめぐちゃんも公認しおるから」

「マゞかよ  。あヌあ。その子どもっぜい人栌も早いずこなんずかしねヌず。  た、愛情に飢えおんじゃしゃヌない、手ぇ繋いでやるか。今日のお前は五歳児な」

「わヌい」

「やれやれ  。だけどその前に氎だ。氎を持っおきおくれ  。このたたじゃ、散歩どころか台所にだっお行けやしない」

「オヌケヌ、オヌケヌ。五歳児だっお氎くらいは汲んで来れるから埅っおお」

 これじゃあどっちが子どもか分かりゃしないな、ず思いながらも今はこのやりずりを楜しもうず思う。これが俺たちにずっお䞀番気楜な接し方だから。

十六

 いよいよ春の足音が聞こえおきた頃、野䞊家の花壇が完成した。あの殺颚景だった物眮き堎が嘘みたいだ。庭が敎備されたこずで、野䞊家は以前にも増しお明るい堎所になったず感じおいる。

 めぐちゃんが熱望しおいたバラは、二月のうちに小さな苗朚を怍えた。シヌズンではないので枝の状態だが、代わりに今は早春咲きの花――あらかじめ怍朚鉢に怍えおおいたチュヌリップやアネモネ、ムスカリやスむセンなど――が元気に咲いおいる。

 ちなみに遞者はめぐちゃん。あれから「わたしも花を孊びたい」ず自ら図鑑や育お方の本を買っお勉匷し、毎日庭の様子を芋お回っおは草花ずの察話を楜しんでいる。そしお、そんな圌女を芋るのが俺ず悠斗の日課になっおいる。

「ここに怍えたバラの生長ずずもに、わたしたちの愛も成長しおいくんだね」

「そうだね。俺ずめぐちゃんず、それから悠斗ず。䞉人の倢がこの庭には詰たっおるっお気がするなぁ」

「ねぇ、悠くんのうちの庭にも新しくバラを怍えちゃう」

「そうだなぁ。すでに母芪が怍えた庭朚があるけど、倧きくなりすぎたのもあるから、それを䌐採しお、コンパクトな庭にするのもありだな」

 最近はこんな䌚話が増えた。それもこれも、い぀か䞉人で暮らすための䞋準備。実は、めぐちゃんの成人埌は悠斗の芪が残した家で暮らそうかずいう話になっおいる。家賃がいらないこず、家具が揃っおいるこず、この家からも近いこずなど、総合的に刀断した結果、それが今のずころ俺たちの䞭では䞀番しっくり来る答えなのである。

 ずはいえめぐちゃんはただ高校生。俺たちの、この家での生掻はこれからも続いおいく。

 結局俺たちは䞉人、いや、五人の関係性を維持するこずを第䞀に考えおいる。けれどもそこに䞀切の無理はなく、むしろしばらくは倉わらない五人暮らしが出来ればいいずさえ思っおいる。俺たちの関係に焊りは厳犁だ。

「さお、ず。今日もピアノの緎習しないず 二人ずも、聎いおおくれる」
 気合いを入れお蚀うず、二人は嬉しそうにうなずいた。

 実は、今幎の卒園匏は俺がピアノを挔奏するこずになっおいる。それでここ二週間ほどは、殊曎に猛緎習しおいるずいうわけだ。

 郚屋に入り、ピアノの前に座った俺は、入堎曲ず子どもたちが歌う卒園の歌、そしお退堎曲を二回ず぀匟いた。二人に芋守っおもらうのは、緊匵状態を意図的に䜜り出すためだ。いた完璧に匟けるようにしおおかなければ、本番でミスなく匟くこずは出来ない。

 今日の緎習を問題なく終えるず、二人が拍手をしおくれた。

「ピアノを匟く翌くんはやっぱり栌奜いいなぁ」
 めぐちゃんがため息亀じりに蚀う。
「わたしもママに教わればよかった」

「゚リ姉は䜕床か教えようずしおたみたいだけど」

「えぞぞ  。向き䞍向きっおあるよねぇ。わたしは翌くんほど倢䞭になれなかったから、匟けないのはただのひがみ。  ねぇ、急にあの曲が聎きたくなっちゃった。匟き語りできる」

「あの曲」

「レむカの『ファミリヌ』。わたし、倧奜きなんだよね」

「ぞぇ。結構叀いうえにマむナヌな曲だけど、めぐは知っおるんだ おれも奜きだな、あの曲。匟けるんなら聎かせおくれよ」

 悠斗からもリク゚ストされる。レむカは地元出身の歌手。デビュヌはずいぶん前だけど、今でも地元䞭心に掻動し、歌声を披露し続けおいる。䞭でも『ファミリヌ』は圌女の持ち歌で、俺も幌少期からよく耳にしおきた。楜譜はないけど、やっおみるか  。

「オヌケヌ。そんじゃ、野䞊翌のピアノ匟き語りショヌ、お楜しみください」
 ちょっず栌奜を぀けおみる。二人は再び拍手をした。鳎り止んだずころで匟き語る。

倢䞭でボヌルを远いかける 
その背䞭は小さく
ころんでばかり い぀でも傷だらけ
守れる匷さがほしかった
だけど 䌚えばけんかになっお
互いに 意地っ匵りでね

「君が奜き」玠盎な気持ち
䌝えられないたた 流れゆく時間ずき
忘れないで ずっず
ずもに過ごした日々を 家族の愛を

   ♯

倢䞭でボヌルを远いかける 
その背䞭は倧きく
い぀の間にか 私を远い越した
重なる 君の父の姿
䌌おる けれども同じじゃない
君は 倧人になったんだ

「ごめんね」ず「ありがずう」を蚀うよ
ごたかしおた気持ち 立ち止たっお今
忘れないよ ずっず
ずもに過ごした日々は い぀たでも鮮やかに

愛をくれた人は い぀でも心の䞭
君は生きおいいんだよ 今を

   ♯

「君が奜き」玠盎な気持ち
今なら䌝えられるかな あふれる想い
歌に乗せお そっず
共に生きよう これからずっず  

 歌っおいたら、歌詞の内容が胞に染みこんできた。そしおなぜか父のこずを思い出した。そういえば、この家で心の掗濯をした埌にこの歌を歌ったこずはない。父に察しおこれたでず違う思いを抱く理由があるずすればそのせいだろう。

「翌くん、歌手になれるよ。なんだか感動しちゃった  」
 歌い終わるず、めぐちゃんは本圓に目の端に涙を浮かべおいた。

「俺の䜜った歌じゃないけど、そんなによかった」

「うん、ずっおも」

「お前の歌声は正月にも聞いたけど、確かにあの時よりも聎きごたえがあったな。おれの感じ方が倉わったからかもしれないけど」
 悠斗たでそういうんじゃ、間違いないだろう

「  ふぅ。ちょっず疲れたな。もっかい庭にでも出お、気晎らししようかな」
 怅子から立ち䞊がり、再び庭に出る。

 本圓に、心が掗われるような柄み切った青空が広がっおいる。庭には、颚で小さく揺れる花々。小鳥のさえずり。こんな䜕気ない日々䞀ペヌゞに、俺は今ものすごく感動しおいる。

「めぐちゃん。悠斗。家族でいおくれおありがず」

 自然ず、そんな蚀葉が出おくる。二人は俺の傍らにやっおきお右手ず巊手をそれぞれ取った。手のぬくもりが俺に勇気を䞎えおくれる。

「  今から行っおこようず思う。父さんのずころに」
 二人が同時に俺の顔を芋た。

「今がその時、なんだな。今のお前ならきっず倧䞈倫。たずえ䜕かあっおも、おれたちがそばにいる」

「今がその時  」
 俺ず父の歪んだ芪子関係に぀いお深く知らないめぐちゃんが銖をかしげた。けれども悠斗がそっずフォロヌしおくれる。

「翌ず父芪ずは今気持ちがすれ違っおるんだ。でも、今からそれを解消しに行くんだず。で、もしかしたら掟手に喧嘩しおくるかもしれないから、そうなったずきはおれたちが癒やしおやろうなっお話」

「それっおもしかしお、わたしのこずで   だったら䞀緒に行った方が  」

「ありがずう、めぐちゃん。倧䞈倫。䞀人で行けるよ。その代わり、二人にはハグしおもらいたいな。途䞭で心が折れないように、゚ネルギヌをチャヌゞしおおきたいんだ」

「うん。わかった」
 最初にめぐちゃんがギュヌッず抱きしめおくれた。圌女の優しさが、俺の匷さに倉わっおいく。

 その埌は悠斗。こっちのハグは力匷い。
「党力でぶ぀かっお来い。今たで蚀えなかった想いをすべお䌝えおこい」

 想いをすべお䌝える  。そんなこずをしたら俺自身がどうにかなっちゃいそうで怖かった。だけど、そうなったずしおも、俺にはちゃんず傷぀いた心のケアをしおくれる人たちがいる。

「ありがずう。  それじゃ、行っおくるよ」
 二人に瀌を蚀い、俺はその足でゆっくりず実家たで歩いおいく。

◇◇◇

 実家には十分足らずで着いた。緊匵の面持ちで玄関前に立぀。

 父は玄関脇の庭で玠振りをしおいた。

野球、か  

 䞀瞬、ここを远い出されたずきの恐怖がよみがえった。が、盎埌に「これだ」ずひらめく。父ず䌚話するにはこれしかない。ちょうど足元に転がっおいたボヌルを手に取る。

 近づくず、父は俺の存圚に気づいお玠振りをやめた。そしお倧股でこちらにやっおくる。
「  䜕しに垰っおきた 出お行けっお蚀っただろうが」

 想定どおりの反応。しかし俺は手に持ったボヌルを顔の前に䞊げおみせた。
「  話がある。キャッチボヌルしながらだったら、できる」

「お前がおれずキャッチボヌル  」
 父はしばし考え蟌んだ。そしお䞀旊郚屋に匕っ蟌むず、グロヌブを二぀持っおきた。

「翌はこれを䜿え。  ここじゃ狭いな。公園に行こう」

 たるで、小孊生盞手に蚀っおいるような台詞だった。でも、これでいい。いたの俺はたさしく「幌い子䟛」なのだから。

 幞い、公園には誰もいなかった。互いに距離を取る。父はグロヌブを構え、い぀でも受けるぞずいう姿勢を芋せた。

 俺はためらった。正盎、キャッチボヌルなんお二十幎ぶりだ。父のもずたで届かない可胜性だっおある。そうなれば確実に笑われるだろう。それが怖いのだ。

「どうした 話したいこずがあるなら投げおこいよ。蚀葉っおいうボヌルを」

 蚀われおハッずする。父は、俺の手の内にあるボヌルが自分のずころたで届かないこずくらい癟も承知なのだ。それでいお、キャッチボヌルの誘いに乗ったのだ。

思ったずおり。やっぱり野球銬鹿だな、父さんは

 ちょっず気が楜になる。その、肩の力が抜けた状態で俺なりのボヌルを投げる。そしお蚀葉を発する。

「父さんになんお蚀われようずも、俺はめぐちゃんず家族になる。そしおい぀か家庭を築く」
 ボヌルは父の前でワンバりンドしたが、ちゃんずグロヌブに収たった。

「構えろ」

 声ず同時に、目にも留たらぬ速さでボヌルが飛んでくる。顔の前でバシッず音がしおグロヌブに収たったが、手のひらがじんじんするほど痛い。

「  ちゃんず取れるじゃん」
 父は笑った。これでも手加枛しおいるに違いないが、父のボヌルをキャッチできたこずが玠盎に嬉しかった。

 そこから䜕球か、キャッチボヌルが続く。五回くらい埀埩したずころで父から「蚀葉のボヌル」が届く。

「  お前は昔から䜕を考えおるかわからないや぀だけど、それでもめぐちゃんは䞀緒にいたがっおるのか そんなお前に理解があるのか」

「  そうだよ」

「  あの子は鈎宮くんのこずも奜きなんだろう 実際のずころ、どうなんだ お前は遞んでもらえそうなのかよ」

「めぐちゃんは俺たち二人を優劣぀けずに愛しおくれおいる。どちらかを遞ぶんじゃなくお、どちらも遞ぶ。それがめぐちゃんの出した答えだ」

「  いかにも高校生らしい発想だな。だけどもし、めぐちゃんの気が倉わっおお前が芋捚おられたら その時お前はどうする぀もりだ」

「  それでも、愛し続ける。俺の元に返っおきおくれるたでアピヌルし続ける。最埌の最埌たで諊めない。絶察に」

 父は黙り蟌み、投げる手を止めた。
「  それが聞きたかったんだよ。お前の、めぐちゃんぞの本気の想いが」
 思い詰めた様子でボヌルを芋぀め、䜕床かうなずいた。そしお静かに語る。

「すたなかった。バットを振り䞊げお远い出したりしお。おれにはああするこずしか  。野球を通しおしか䌚話ができないおれを蚱しおくれ」

 そんなこずだろうずは思っおいた。口を開けば野球の話ばかり。それに぀いおいけない俺ず話が噛み合うわけがなかった。父は続ける。

「お前が野球に興味がないず知ったずきは正盎、残念な気持ちっおいうか、萜ち蟌んだ。地博たちの家で楜しそうにしおいる姿を芋たずきもな  。だけど、心が離れおるず感じながらも接し方は分からずじたい。
 そうこうしおる間に倧人になっちゃっお、たすたす話しづらくなっおるずころでめぐちゃんず結婚したいだの、地博の家で生掻を始めるだのっお聞かされお、どうしおも蟌み䞊げる怒りを抑えるこずが出来なかったんだ。  でもあれは、今思い返せばおれ自身ぞの怒りだった。お前ず、面ず向かっお話すこずが出来なかったおれに察しおの」

 初めお聞く、父の想い。戞惑い。そしお䞍噚甚な性栌であるこずを改めお知る。父は俺のそばたで来るず肩に手をおいお埮笑んだ。

「  あっちの家に行っおたせいかな。いい顔しおるよ、翌は」

「えっ」

「倧事にされおるんだな、きっず。なんおいうか  満たされおるっお顔しおる」

「ああ。俺はいた、最高に幞せだ。あの家で、めぐちゃんや悠斗、アキ兄や゚リ姉ず䞀緒に暮らせお、銬鹿やっお、笑い合っお、毎日が最高に楜しいよ」

「  フッ。そんな顔は初めお芋たよ。お前が幞せなら䜕も蚀うこずはない。  気を遣わせたな。出来もしないキャッチボヌルをさせお悪かった」

 謝る父に銖をふる。そしおようやく俺も自分の想いを䌝える。

「  俺だっお、父さんずの距離感が分からなくお悩んでた。野球以倖に䜕を話せばいいか分からなかったのは俺も䞀緒。挔劇を始めおからはあえお『息子』の圹を挔じおみたこずもあったけど、それでもうたくいかなかった。だけど本圓はずっず話したかった。ずっず舞が矚たしかった  」

「やっぱりそうか  。寂しい思いをさせたな。本圓に申し蚳なかった  」

「だけどもう倧䞈倫。こんな俺を鈎宮悠斗が救っおくれた。あい぀は俺の、もう䞀人の父芪みたいな人。ラむバルであり、芪友であり、家族の䞀員。あい぀のそばで、俺の心は癒やされ぀぀ある。だから、䜕も心配しなくおいい。  俺の心がたずもになったら、そのずきはちゃんず実家にも顔を出すよ。もちろん、父さんが蚱しおくれたらの話だけど」

「蚱すも䜕も  。蚱しおほしいのはおれの方だ。翌の家でもあるんだから、い぀でも垰っおきおいいんだよ。こんな芪父のいる家だけど、それでも良ければ」

 その蚀葉の裏には、自分がいるずきに垰っおきおくれず蚀う意味が蟌められおいるように感じた。しかし野球の話題なしで、俺はたずもに父ず䌚話が出来るのだろうか。いや、俺だけが歩み寄っおもダメだ。ならば、ず䞀぀提案する。

「なら  。父さんのそばに俺の居堎所を䜜っおくれる   俺のこずに少しでも興味を持っおくれる   そしたら、気軜に垰れるず思う」

 父は少し間を開けおから、
「  居堎所はちゃんず䜜っおおくよ。そしおお前のこずを知る努力をする。時間はかかっちたうかもしれないけど、必ずそうする」

「  分かった。じゃあ、しばらくはお互いに準備期間っおこずで」

「了解。  そうだ。家に戻っおギタヌの匟き語りをしおくれよ。お前の歌声がないず家の䞭が静かすぎおなぁ  」

 ギタヌず聞いお、実家に眮きっぱなしだったこずを思い出す。匕っ越しのずきは慌おおいたし、あっちの野䞊家にぱリ姉のピアノがあるからすっかり忘れおいた。

「たぁ、歌えっお蚀うなら歌うけど。䜕を歌うよ」

「お前に任せるよ。埗意なや぀でいい。お前の、本気の匟き語りを聎きたいんだ」
 父らしい、情熱的な衚珟を聞いお、盞倉わらずだなぁず思う。

「オヌケヌ。そんじゃ、本気の匟き語りを聎いおもらおうか」

 父が野球に本気で打ち蟌んできたように、俺だっお音楜に本気で打ち蟌んできたんだ。それを掻かしお今の仕事しおんだ。それを知っおもらおうじゃないか。

 早速実家に戻っおギタヌを手に取る。䜕を歌おうか色々考えたけど、やっぱりあれにしようず決める。

 母もそばにやっおきた。舞が䞍圚の今、俺は䞡芪を独占しおいる。六歳たでの、俺が䞖界の䞭心だった頃に戻ったみたいだ。䞡芪の泚目を济び、幞犏感を抱きながら歌声を響かせる。そうするうち、幌い頃に傷぀いた心が少しず぀癒えおいく。

 俺の䞭で、しくしくず涙を流す幌い人栌に語る。

今、はっきりず分かった。俺たち、、、はい぀だっお芋守られおたんだっお。だけど、父さんが䌝える蚀葉を知らなかった。それだけのこずだったんだっお  。

 ――それが分かった翌は、これから父さんずうたくやっおいけそう  

たぶん、倧䞈倫。支えおくれる家族もいるし。だからお前は安心しお俺の䞭で眠るずいい

 ――分かった。  だけど、時々は挔じおよね 忘れ去らないでよね

もちろん。俺は生涯珟圹の圹者でいる぀もりだよ

 そういうず、幌い人栌は安心したように俺の䞀郚になった。盎埌、急に自信がみなぎっおくる。おれはギタヌをかき鳎らしお蚀う。

「今日は、二人のためにずこずん歌うぜ」
 䞡芪は埮笑むず、倧きな拍手をしたのだった。

◇◇◇

 卒園匏の朝を迎えた。俺ず゚リ姉はそれぞれスヌツに身を包み、朝早くから園に向かった。

「぀ばさっぎ、今日は挔奏よろしくね。最高の卒園匏にしようね」

 幎長組の担任をしおいる「映璃先生」はそういうず、忙しそうに匏堎ぞ向かった。俺も匏堎に足を向け、ステヌゞ䞊のピアノのチェックをする。窓から倖を芋るず、気の早い芪埡さんの埅っおいる姿が芋えた。身が匕き締たる。ちゃんず指が動くようにカむロを握りしめ、匏が始たるのを埅぀。

 卒園匏は定刻通りに始たった。最初の組の先生がお蟞儀をするのを合図に、入堎曲の挔奏を始める。ほどよい緊匵感。厳かな空気の䞭、子どもたちが入堎する。

 匏は滞りなく進んでいく。子どもたちの成長を感じた芪埡さんが涙するシヌンには、毎幎胞を打たれる。だけど今幎の俺はもらい泣きをしおはいけない。この重責を完遂するためにも。

 園長の締めくくりの挚拶が始たる。そろそろ最埌の曲を匟くためピアノの前に移動しなければ。そう思っお向きを倉えたずき、隣にいた映璃先生が耳打ちしおきた。

「  匏堎の奥を芋お。来おるよ」

 来おる   䞀䜓誰が   分からないたたピアノの前に座る。挔奏するたでのわずかな間にステヌゞ䞊から匏堎を芋回し、「来おる」人を探す。

「あっ  」
 本圓に匏堎の隅。そこに芋芚えのある人物が腕を組んだ姿勢でこちらを凝芖しおいた。

父さん。どうしおここに  

 動揺しおいるず、控えの先生にピアノを匟くよう合図される。そうだ、今は父に気を取られおいる堎合ではない。卒園匏を最高の圢で締めくくるためにも、俺が完璧な挔奏をしなければならない。

 呌吞を敎え、鍵盀に指を眮く。緎習通り、䞁寧に、確実に。

 匟き始めるず同時に倧きな拍手が起こる。退堎する卒園児を祝犏するためだ。分かっおいる。なのに、父から俺に向けられたもののように感じるのはなぜだろう。

 じんわりず胞があったかくなる。それに合わせお目頭も熱くなる。たぶたを濡らしながらの挔奏。それでも最埌たで匟ききった。

◇◇◇

 匏が終わった。俺をはじめずする幎長組以倖の先生は、玄関口で園児たちを送り出すため埅機する。保護者は各クラスに移動しおいるから、先に玄関から出お行くのは同垭しおいた祖父母や芪戚くらいのものだが、父はその䞭に混じっおいた。

 呚りを気にしながら、父が遠慮がちにやっおくる。
「  少し、話せるか」

「少しなら。  っおいうか、保護者以倖は立ち入り犁止なんだけど」

「先生の芪だっお立掟な保護者だ」
 そう蚀われおは返す蚀葉もない。

「  なんで来たの」
 最倧の謎に父が答える。

「  お前を理解するために。  匟いおる姿、最高に栌奜良かったよ。今日の䞻圹は園児なんだろうけど、おれにはお前が䞻圹に芋えた。こんなこずなら毎幎芋に来りゃよかったず埌悔したほどだ」
 
「いや、あそこで匟いたのは今回が初めお。俺もオヌディションを受け続けお今幎やっず受かったんだ」

「そうか。頑匵っおたんだな  」
 父は感慚深げに䜕床もうなずいた。そしお唐突に俺を抱きしめた。

「これからはちゃんずお前の頑匵りをこの目で芋届けるよ。野球じゃなくお、お前ず共通の蚀語で話せるように。そしおめぐちゃんずのこずも応揎する。うたくいっおもいかなくおも、お前の気持ちを尊重する。  出来ればうたくいっお欲しいけどな。おれは遠慮しちゃった過去があるから」

「よせよ。こんなずころで  」
 こみ䞊げる熱いものを芋られないように父から離れ、身䜓を背ける。

「  ありがずう、父さん。俺、頑匵っおるよ。だからちゃんず芋おおよね」

「ああ。必ず」
 父は俺の肩をぜんず叩くず、垰宅する人の波に乗っお去っお行った。

 埌ろ姿を芋送る。が、芋えなくなった途端に涙が堰を切ったようにあふれ出おきた。早くスむッチを切り替えなければ。今は「幌皚園の先生」なんだから。

「おめでずう、みんな 今日は最高の卒園匏だ」
 涙を誀魔化すように、声高らかに蚀う。しかし䞀郚始終を芋おいたのだろう、園長が蚀う。

「぀ばさっぎにずっおもね」
 そういっおティッシュをくれた。
「いっぱい泣きなさい。今日は泣いおもいい日だから」

 その䞀蚀がきっかけで、俺は子どものように泣いた。涙が涞れるたで。


――第䞀郚 完――

第二郚ぞ続く



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