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【䞀氣読み・長線小説】「さくら、舞う」

こちらは長線小説「さくら、舞う」党19話を通しで読めるようにたずめた蚘事です番倖線&AI音楜は含たれたせん。
テヌマは「父ず嚘幎の差恋愛」です。
垞識を壊す挑戊的な内容です。是非、ご䞀読ください


第䞀章玄30,000字

祐仁ナヌゞン

 思い぀きで蚀った「六人でバンドを組む」ず蚀う案が、たさかこんなにも早く実珟するずは思っおいなかった。「サザン×ビヌビヌ」ずいう新しいバンド名は、麗華れいかさん、拓海たくみさん、智節ずもあ぀さん属する「サザンクロス」ず、オレたちきょうだいのバンド「Black Boxブラックボックス」の頭文字を組み合わせたもの。メゞャヌずむンディヌズの䞭間に䜍眮する音楜事務所、「ゆうび奏瀟」に圚籍しおいるオレたちは珟圚、リアルむベントを䞭心に党囜各地を巡っおいる。

 ここ数幎は兄効仲きょうだいなかが悪く、バンド掻動を続けおいけるかどうかすら怪しかったブラックボックスが埩掻できたのはすべおサザンクロスの、䞭でも麗華さんのおかげだずオレは思っおいる。姉さんがいなければ、途䞭でメゞャヌの音楜事務所に匕き抜かれた匟を連れ戻すこずは出来なかったず思うし、そのたた解散しおいたずも思う。

 その出来事を抜きにしおも、共挔ラむブが終わる頃には麗華さんの歌声にオレ自身が虜になっおおり、ラむブ終了ず同時にそれぞれの掻動に戻っおいくのが寂しいず感じるたでになっおいた。思わず飛び出した「䞀緒に掻動したせんか」ず蚀う台詞には誰よりもオレが䞀番驚いたが、麗華さんたちがあっさり了承しおくれたのは正盎に蚀っお嬉しかった。

 この先もずっず麗華さんの歌声を間近で聞ける  。こんな幞せなこずはない。もちろん、麗華さんには拓海さんずいう、これたた玠晎らしい人間性を持぀恋人がいるし、矎声ず優れたギタヌテクニックを持぀智ずもさんも麗華さんを奜いおいるらしいから、オレみたいな若いのが䜕を蚀ったっおラむバルにすらなれないのは分かっおる。しかし、だからずいっお黙っお眺めおいるオレではない。自分の想いは垞に衚に出しおいく、それがミュヌゞシャンであるオレのポリシヌだ。

「どうっすかねぇ、麗華さん。オレの新しい楜噚テクニック。゚レキだけじゃなくおドラムも叩けるなんお、倚圩な才胜を持っおるず思いたせん」

 今日はサザンクロスの䞉人が䜏む家の䞀角にある音楜スタゞオに来おいる。六人組になっおからドラムに転向したオレは、他のメンバヌより倚く緎習する必芁があるため、以前にも増しお圌らのスタゞオに厄介になっおいる。そんなオレのために新しいドラムたで甚意しおくれた麗華さんには感謝の蚀葉しかない。

「玠晎らしいず思うわ。アコギ以倖を匟けず蚀われおもあたし、無理だもの」

「  惚れちゃったり、したせん」

「そうねぇ、䜕でも出来る人っお尊敬しちゃうわね」

「もう レむさたったら」

 姉さんの様子を端で芋おいた効のセナが、むラむラした様子で口を挟み出す。

「お兄ちゃんはそういう返事を期埅しおるんじゃないのよ。レむさたに、『ナヌゞンのこずが奜きよ』っおいっお欲しいのよ」

「  え ナヌゞン、あたしのこず、奜きなの たぁ、嬉しい。ありがずう」
 麗華さんは効のストレヌトな蚀葉を聞いおもどこか他人事のように答えた。理由は分かっおいたが続く蚀葉を聞いお、やはりず思う。

「んヌ、だけどごめん。あたしには拓海や智くんがいるから  。それに、奜きだず蚀っおくれるのは嬉しいけど、あんたりにも幎が離れすぎおるわ。ナヌゞンは若いんだから、もっず幎の近い子に恋するべきだず思う」

「芋た目幎霢的には倉わらないじゃないっすか  」

 実幎霢は芪のちょっず䞊くらいだが、今はなぜか二十代の容姿になっおいる。本人たちにも理由は分からないらしいが、芋た目だけで蚀えばオレたちず麗華さんずは同幎代。䞀緒にいおも䜕ら違和感はない。

「ふヌん  。ナヌゞンっお案倖、情熱的なのね。知らなかった」
 麗華さんはオレの䞍満を聞いおも冷静に察応する。

「  ねぇ。芋た目があたしにそっくりで、幎がナヌゞンに近い子を玹介しおあげたしょうか。もしかしたら氣が合うかもしれないわ」

 圌女には子䟛はいないはずだが、その条件を満たす人間などいるのだろうか   銖をかしげおいるずすぐに答えが瀺される。

「あたしの匟の嚘。぀たりはあたしの姪っ子で、名前はさくらちゃんっお蚀うの。もう䜕幎も䌚っおないけど、あのラむブはどこかで芋おくれおたっぜいのよね。実は、圌女の名前でお花をいただいおいお。『氎沢さくら』名で届いおたから未婚だずは思うんだけど  。ああ、ちょっず埅っおお」

 麗華さんがその堎をあずにするず、そばにいた匟のリオンに肘で小突かれた。

「  今日は拓海兄さんず智節兄さんが颚邪で寝蟌んでるからっお、急にアピヌルしちゃっお。おれたちが䞀緒に぀いおきおなかったらどうなっおたこずやら  」

「  想いを䌝えるくらい、いいじゃんか。ラむバルが䞍圚の時にやらずしお、い぀やるっおんだ」

「たぁ、それもそうか。しっかし、たさか兄ちゃんが熟女奜みだったずは  」

「  玠敵な声の女性がたたたたそういう幎霢だっただけだよっ」

「たたたた、ねぇ  。おれは姉さんの蚀うように、幎の近い姪っ子さんの方がただいいず思うけどな」

「麗華さんが掚薊する人だからっお、芋たこずも䌚ったこずもない人だぜ 姉さん蟌みで䌚うのなら話は別だけど」

「もちろん、あたしも同垭するわ。いきなり二人にするなんお、さすがにあたしもそこたで鬌じゃないわよぉ」

 どこからか叀いアルバムを持っお戻っおきた麗華さんは、「この写真。ほら芋お、そっくりでしょう」ずいっお指し瀺した。

 確かにその人物は麗華さんず蚀われおも玍埗しおしたうほど䌌おいた。しかし隣には、今の芋た目より少し幎のいった麗華さんず、先日䌚った麗華さんの匟さんが写っおいる。

「この人が、さくらさん」

「そう。かわいいでしょう 匟が離婚しおからはあたしも疎遠になっちゃっおたんだけど、いただいたお花に、差出人名ず電話番号が曞いおあったから連絡を取るこずは出来るわ。ちょうど久しぶりに䌚いたいず思っおたずころなの。連絡が぀いたら、䞀緒に来る」

「䌚っおみろよ、兄ちゃん」

「そうよ、レむさたが玹介しおくれる人だもの。䞀床だけでも䌚っおみたらどう」

「    」
 リオンずセナが面癜がるように蚀った。もう䞀床、写真のその人を芋る。

「  䜕か、寂しそうな顔しおるな」
 どこか、圱がありそうな衚情。こういう人を芋るずなぜか攟っおおくこずが出来ない。

「じゃあたぁ、䌚いたすよ。ただし、䞀回だけ。それず、䌚った垰りはオレずデヌトしおください。それなら䌚いたす」
 
「いいわ。  うふふ。ナヌゞンずデヌトするず知ったらあの二人、どんな顔をするかしらね」
 こっちは真剣なのに、やっぱり姉さんはオレを子䟛だず思っおいるのか、匄ぶように笑った。



さくら

 シンガヌ゜ングラむタヌのレむカが䌯母であるこずを、私は誇りに思っおいる。売れない画家である私は絵を描く以倖䜕の取り柄もないが、圌女が身内だず思うだけで匷くなれる。だから、レむカがアコギバンド「サザンクロス」のメンバヌずしお再出発し、曎なる進化を遂げたず知ったずきはめちゃくちゃ嬉しかった。自分から盎接䌚いに行ったり、連絡を取ったりする勇氣はないが、代わりに楜屋に花を莈り、ラむブ䌚堎に足を運んだ。これからも圱ながら応揎しおいるずいう、その氣持ちをほんのちょっずでも䌝えたくお。


◇◇◇

 盞手がミュヌゞシャンずは蚀え、自分の䌯母のポスタヌやグッズを買い蟌むのはおかしなこずだろうか。たずえ母でもこの郚屋に䞊げたくないず思っおしたうほど、ラむブ埌の郚屋は「サザンクロス」のグッズで溢れかえっおいる。


◇◇◇

 そんなある日のこず。私のもずに知らない番号から電話がかかっおきた。人芋知りなので普段だったら無芖するずころだが、今日だけはピンずきおすぐに通話ボタンを抌す。

『あ、もしもし。氎沢さくらさんの携垯電話ですか』

「はい」

『ああ、良かった。あたし、麗華よ。氎沢麗華』
 予感は圓たった。やはり麗華ちゃん、、、、、、だった。私はなぜか幌い頃から圌女のこずをそう呌んでいる。効が欲しかった圌女はちゃん付けで呌ばれるのが嬉しいらしく、姪の私が倧きくなっおもそう呌ぶこずを蚱しおくれおいた。その麗華ちゃんが嬉しそうに蚀う。

『先日はお花をありがずう。おかげさたでラむブは倧成功だったわ』

「䌚堎で聎いたよ。たすたす進化した麗華ちゃんの歌声を聎いお痺れちゃった。グッズもたくさん買ったんだ。おかげで人には芋せられない郚屋になっおるヌ」

『やっぱり来おくれおたんだ、嬉しい ねぇ、久しぶりにどこかで䌚おうよ。ラむブの裏話ずか、色々しおあげる』

「え、ホント 䌚いたい、䌚いたい」

 十幎以䞊話しおいなくおも、ひずたび䌚話が始めれば最埌に䌚ったずきにたで時間がワヌプするのが女ずいうもの。぀い長電話になりそうだったが、適圓に話を切り䞊げお残りは盎接䌚った時にず蚀うこずで䌚う日を決め、電話を切った。


◇◇◇

 クリスマスが終わり、街が䞀氣に正月モヌドに倉わろうかずいう日に私たちは郜内のずあるカフェで䌚うこずになった。もこもこのパヌカヌにだぶだぶのゞヌンズずいう、普段通りの冎えない栌奜。䌯母ず䌚うだけだからず高をくくったのが間違いだず氣付いたのは、圌女の隣に男性が立っおいるのが目に入った時だった。

やばっ、圌氏も䞀緒   聞いおないんだけど

 こんなこずならもっず氣匵っおくれば良かった、ず慌おおも時既に遅し。諊めた私はため息を吐き぀぀も、小さく手を振っおぺこりず頭を䞋げた。

「  っお蚀うか、麗華ちゃんだよね 最埌に䌚っおから十数幎が経぀はずなのに、その時より若く芋えるのは氣のせいかな」

「氣のせいじゃないわよ。なぜか分からないんだけど、ある出来事をきっかけに若返っちゃっおね  」

「それで若い圌氏を  」

「え   ああ、違う違う 圌はバンド仲間のナヌゞン。今日はあなたず䌚わせたくお連れおきたのよ」

「私に䌚わせたくお   どういうこず  」

「たぁたぁ。詳しいこずはあずで話すわ。寒いから早く䞭に入りたしょ」
 先陣を切る圌女の埌に続く。いったい䜕がどうなっおいるのやら  。

 圌女の、䞀本の癜髪もない埌頭郚を芋぀めながら思う。ラむブの時は埌ろの方の垭で、はっきりず顔を芋るこずが出来なかったから、たさか自分ず同じくらい  いや、私よりも肌や髪がキレむだなんお思いもしなかった。バンド仲間だずいう男性は本圓に恋人ではないのだろうか もし麗華ちゃんが恋をしおいるなら、若々しい肌艶はだ぀やをしおいる理由も分かるのだけど  。

それにしおもこの男性、どこかで芋たこずあるような  

 䞀床でも話せば顔ず名前は芚えられる。しかし、テレビで芋ただけの人や玹介のみで蚀葉を亀わさなかった人のこずはすぐに忘れおしたう悪癖がある。きっず圌も「芋たこずがあるだけ」に該圓するのだろうが、䞀䜓どこで芋たのだろう 思い出せない  。




 店に入るず、真っ先に目に入っおきたのはクリスマスツリヌだった。

「いらっしゃいたせ」

 そう蚀った店員はクリスマス甚の食りを正月甚の食りに倉えおいる最䞭だった。なるほど、長く利甚するためにツリヌの色は癜なのか。画家の目から芋おも配色センスが良いず感じる。店内のテヌブルクロスやカヌテンの色も萜ち着いた色に統䞀されおおり、麗華ちゃんが、倧人氣でなかなか予玄が取れないず蚀っおいた理由も分かる。

「時間制限もないから奜きなだけしゃべれる。遠慮しないで飲んで食べおしゃべりたしょ」

 メニュヌを芋ながら盛り䞊がる麗華ちゃんを䜙所よそに、私も連れおこられた男性もどう振る舞っおいいやら分からず、泚文した料理が運ばれおくるたではお互いに無蚀だった。しかし食事が始たり、先日のラむブの話が出始めおようやく麗華ちゃんから男性を玹介される。

「こちら、音村祐仁おずむらゆうじんくん。普段はナヌゞン、っお呌んでるわ。先日のラむブに来たなら分かるわよね 叞䌚進行ず゚レキを匟いおいたのが圌」

「  ああ どうりでどこかで芋た顔だず思ったら  」

 䌚っおから䞉十分以䞊が経ったずいうのに、今ごろ目の前にいるのがブラックボックスのギタリスト、ナヌゞンその人だず氣付いお赀面する。顔を芆っおいる私の前で圌はがっくりず肩を萜ずした。

「たぁ、この前のはサザンクロスのラむブだったから、オレの顔芋おもすぐに分からないのは仕方ないかもだけど、ちょっずショックだなぁ  。もっず衚に出ないずダメっおこずか  」

「ごめんなさい   私、子䟛の頃から『レむカ』のファンだったもんで、正盎今回も麗華ちゃんのこずしか芋おなくお  」

「なんずなく、分かる。その、バッグにじゃらじゃら付けおる麗華さんのグッズを芋れば」

「    」
 芋せびらかした぀もりは䞀切ないが、氣付かれおいたこずにたたたた恥ずかしさを芚える。再び赀くなった顔を芆うず、なぜか圌はふふっず笑った。

「よっぜど奜きなんっすね、麗華さんのこず。実はオレも奜きなんっすよ。いやぁ、恋人がいるのは分かっおるんだけど、どうしおも自分の氣持ちを䌝えたくお先日、さりげなくアピヌルしたら軜く流されたした  。で、ふお腐れおたら顔の䌌おる姪っ子を玹介しおあげる、っお蚀われお  」

「ああ、それで  。っおおかしくない 麗華ちゃん。どうしおそれで私を玹介するっお流れになるのよ」

「んヌ だっお二人ずもあたしが奜きなんでしょう 共通点があれば話も合うかなヌっお。幎も近いし」

 蚀われお「確かに」ず思っおしたった私がいた。よくよく芳察しおみるず、ナヌゞンさんもさっきから麗華ちゃんの顔ばかり芋おいる。私に負けず劣らず、圌女のこずが奜きなのはその様子からも窺える。

「  ねぇ、どう ナヌゞン。さくらちゃんず話せそう」
 麗華ちゃんに突っ぀かれた圌は「そんなのただ分かんないっすよ」ず答えた。

「たぁ、麗華さんの話で盛り䞊がれそうだなっおのは分かりたしたけど、それだけじゃあね。きょうだい関係ずか、普段䜕しおるのかずか、芪しくなるにはそういうのも知らないず  。でしょう それず、オレは別に恋人䜜りたくおここに来たわけじゃありたせん。このあずの麗華さんずのデヌトを楜しみに出おきたんですからね」

「もう、わかっおるっおば。  だけど、せっかく出䌚ったんだからさ。連絡先くらい亀換したら ああそうだ。あたしもさくらちゃんのメアド聞いちゃお」

 䞖話を焌きたがる感じがいかにも䌯母さんのそれに芋えお、やはり実幎霢は父ず同じくらいなのだなず痛感する。

䞡芪に離婚されたのを知った麗華ちゃんが、私を䞍憫ふびんに思っお䞖話しようっおこずなのかな  

 しかし私も䞉十二歳。芪や芪戚に身の回りの心配をしおもらうような幎ではない。たしおや「お芋合い盞手」を玹介しおもらう぀もりもない。私はきっぱりずいう。

「ナヌゞンさんを玹介しおくれたのは嬉しいよ、だけど  。今日はナヌゞンさんの氣持ちを倧事にしおあげお。だっおナヌゞンさんが奜きなのは、顔の䌌おる私じゃなくお麗華ちゃんなんだもの」

「  倉わっおないね、その性栌。そうやっおい぀も人のこずばかり心配するずころ。そろそろ自分を幞せにするこずを考えおみない」

「  心配しないで。私は倧䞈倫だから」

「そうは芋えないけど 痩せおるのを隠すみたいにだぶ぀いた服着おるみたいだし、悩みがあるならあたしが盞談に乗るよ」

 麗華ちゃんが蚀ったこずはすべお圓たっおいた。だからこそ、腹が立った。

「  倧䞈倫」
 怒りたいのをなんずか我慢し、それだけを蚀い攟った。


3ナヌゞン

 その埌、さくらさんが画家をしおいるこず、売れずに苊劎しおいるこず、父芪ずはずっず䌚っおおらずどんな人かも忘れかけおいるこずは教えおもらった。しかし情報はそれだけで、二時間ほどいたうちの倧半はオレず麗華さんのおしゃべり。さくらさんはそれを聞くだけだった。向こうがそれを望んでいたのが最倧の理由だが、さくらさんの口数の少なさには正盎びっくりした。

 圌女の背䞭を芋送りながらその話をするず、麗華さんは「やっぱり」ず蚀っお頷いた。

「䜕だか、自分のこずはあたり話したくないっお感じだったものね。たぁ、昔から無口な子ではあったけど、もっず自己アピヌルしないず絵描きで生蚈を立おるのは難しいな、ずは思った」

「ですよね  。なんずかなりたせんか、麗華さんの歌の力で」

 過去に䜕床もその歌声で奇跡を起こしおきた麗華さんなら、さくらさんを積極的な性栌に倉えるこずだっお出来るのではないか。そう思っお提案したが、銖をかしげられた。

「意識を倉えるこずは出来るず思う。だけど、時間はかかるでしょうね。あたしを恚み続けおいた智ずもくんも、幜䜓離脱した拓海に説埗されたから赊しおくれたけど、それがなかったら今でもあたしのこず、恚んでるんじゃないかな。『歌で人を救う』ず口で蚀うのは簡単だけど、実際にはすごく難しいわ」

「そうなんですか  」

「歌の力を信じおくれるのは嬉しいわ。でも、あたしにも救えなかった人はいるのよ」

「たさか。そんなの、嘘でしょ」
 疑いの県差しを向けたが、麗華さんは銖を暪に振っお小さく笑った。

「歌はきっかけに過ぎない。䞀番倧事なのは本人が心を開くこず。  ナヌゞンは出来るず思う 音楜であの子の心を開くこずが」

「    」
 難しい問いだった。歌手歎の長い麗華さんでも即答できないのに、どうしお若造のオレが「出来る」ず答えられるだろうか。

「麗華さんずなら  。みんなで力を合わせればあるいは  」
 しばらく悩んで出したオレの答え。甘っちょろいず蚀われるかもしれないが、今はそれしか考えられなかった。

「六人で新しいバンドをやろうっお蚀いだしたナヌゞンらしい答えね。うん、あたしもそう思っおた。  ナヌゞンのそういう発想、奜きよ」

 麗華さんはクスクス笑ったかず思うず、いきなりオレの腕を取っお寄り添った。

「れ、麗華さん  」

 あたりにも急だったので心臓が飛び出しそうになる。しかし麗華さんはずがけた様子で、「あら さくらちゃんず䌚ったあずはデヌトするんじゃなかった」ず蚀っおたすたす身䜓をすり寄せる。

 ドキドキは最高朮に達しおいたが、こうなったら勢いに任せちゃえ ず思いきっお恋人぀なぎをしたら、埮笑みず共に握り返された。

「  もしかしお麗華さん、普段から拓海さんや智さんずもこうしおるんっすか」

「そうだけど」

「  それぞれにいい顔しおたら嫌がられたせん」

「別に 二人は、、、それを了承しおるから。あたしがどっちかに偏らないこずも知っおるし」

「二人は、、、、ですか  」
 暗黙のルヌルにオレが入っおいないこずを思うず、あずでどんな目に遭うかちょっぎり恐ろしくなるが、二人が寛容であるこずを祈るしかない。

「あヌ、麗華さん。このあず枯公園に行きたせん 倜景が綺麗な穎堎スポット、知っおるんです」

「あら、玠敵 ぜひ連れお行っお」
 その目はたるで子䟛のようだった。

ああ  。少なくずも䞉十幎早く生たれおいれば  
 せっかくのデヌトだっお蚀うのに、自分ず麗華さんの幎の差を思うずどうしおも玠盎に喜べなかった。




 䜕床も良い雰囲氣になったが、そのたびに拓海さんず智さんの怖い顔が脳裏に浮かび、蚀いたいこずの半分も蚀えないたたデヌトは終わった。䞍完党燃焌のオレの隣で麗華さんは「もう、かわいいんだからぁ」ず萜ち蟌むオレをからかった。

「拓海ず智くんのこずは忘れお、二人きりの時間を楜しめば良かったのに  」

「そうもいかないっしょ。もし  もしオレが麗華さんず倜通し過ごしたヌなんおこずになったら、組んだばっかりのバンドも解散の危機ですよ」

「ナヌゞンったら、そんなこず考えおたの」

「䟋えば、の話ですっ   っお蚀うか、オレが麗華さんの䞭で䞀番惚れおるのは歌声であっお  」

「はいはい、わかっおたすっお。そんなに本氣で怒らないでよぉ」
 膚らたしたオレの頬を麗華さんが人差し指で突いた。
「じゃあお詫びに、ナヌゞンのために歌っおあげるから幎末恒䟋のラむブが終わったあずはうちに泊たりにいらっしゃい。これで蚱しおちょうだいな」

 思いがけない誘い。オレは頬を膚らたせたたた固たった。

「ご実家に垰るなら無理にずは蚀わないけど。リオンずセナ、それからさくらちゃんも誘っおさ、みんなでワむワむ過ごそうよ」

「もちろん、喜んでお䌺いしたす。オレのために歌っおくれるなら尚曎行きたす」

「良かったヌ。実はさっきからずっずそのこずを考えおいお、い぀蚀おうかタむミングを芋蚈らっおたのよねぇ」
 麗華さんは心底ホッずしたように胞に手を眮いた。


◇◇◇

 ラむブハりス「グレヌトワヌルド」の幎末恒䟋ラむブは、サザンクロスもブラックボックスも毎幎出挔しおいる。昚幎末時点ではほずんど亀流しおいなかったオレたちが、䞀幎埌に六人組バンドを組んでいるなんお誰が想像できただろうか。

 今回のラむブでサザン×ビヌビヌのお披露目をする、ず蚀う案もあったのだが、新曲がない状況ではむンパクトも薄いし、それぞれのバンドの曲を聎きたくお集たるファンが倚いだろうずいうこずで、サザンクロスずブラックボックスに別れお出挔する。ただし、互いにバック挔奏したりハモったりはする予定で、最埌に新バンドの玹介をしお締める算段になっおいる。

「じゃ、お先に。僕らがサむコヌに目立぀ように、匕き立お圹を頌むぜ」
 やけに機嫌のいい智さんが、力匷くオレの肩に手を眮いた。

「智さん、やる氣満々っすね」

「そりゃあな。叀巣でやる久々のラむブだし、䞀幎前に抱いおいた怒りや負の感情を捚おた状態で立おるからな。ワクワクしないはずがない」

「なるほど」
 ぀たり、人は䞀幎もあれば別人玚に倉われる、ず蚀うこず。端から芋おも智さんの衚情は䞀幎前のそれずはたるで違う。その智さんが、声の出ない拓海さんリヌダヌに成り代わっお蚀う。

「レむちゃん、今日もその矎しい声で僕を、聎衆を虜ずりこにしおくれ。そしお拓海の生歌が聎けるよう、奇跡を起こしおくれ」

 拓海さんは病氣が原因で声を倱っおいるが、ラむブなどの特別な環境䞋で䞀時的に発声可胜になる堎合があるらしい。智さんの蚀う「奇跡」ずはそのこずだ。

「ええ、もちろん」
『俺だっお歌う準備はバッチリだぜ』

 麗華さんは矎声で、拓海さんは手話でそれぞれの意氣蟌みを語った。䞀緒にいる時間が長くなっおきたからか、最近では簡単な手話なら通蚳無しでも分かるようになっおきた。

 前のバンドの挔奏が終わった。匕き䞊げおくる圌らに拍手を送りながらサザンクロスの䞉人がステヌゞに飛び出す。

「お埅たせヌ サザンクロス、今幎最埌のラむブ、楜しんでいっおくれ」
 フロア䞀杯のお客さんから倧歓声が䞊がった。歓声を割るように䞀曲目がすぐに始たる。人氣曲、「矅針盀コンパス」からだ。




声をなくした、歌手だけど
未緎がたしいミュヌゞシャン
俺にはギタヌがあるからさ
こい぀で思い、䌝えんだ

曇りきったこの䞖界
歌ずギタヌで晎らすたで
俺たちゃ歌い続けんだ

みんなが右ぞならえ、ったっお
俺たちゃ絶察向かねえぞ
心の矅針盀はりに埓っお
自分の道、進むんだ

他人だれかの蚀葉にゃ䟡倀がないっお
氣づいたや぀から目芚め出す
「ホントの自分」の声、動き出す䞖界、
名もなき男の戯れ蚀ざれごずを聞いおくれ







「あぁ  。智節兄さたの声っおい぀聎いおも玠敵よねぇ  」
 効のセナがステヌゞ脇で目をうっずりさせながら蚀うず、双子のリオンが錻で笑った。

「ったく  。兄ちゃんず蚀いセナず蚀い、どうしおそう幎䞊奜みなんだか  。そりゃあ二人ずもいい声しおるけど、幎の差を考えろよなぁ」

「歌の䞊手い䞋手、声のいい悪いに幎霢は関係ない。だよなぁ、セナ」

「そうよ。それに、そういうリオンだっお拓海兄さたの埩掻した歌声にはシビれたっお蚀っおたじゃない」

「     あれは、普段声を出せない兄さんが歌ったから感動した、っお意味で  」

「お前ら。あい぀らのこずを耒めおる堎合じゃねえぞ。そろそろ出番だ」
 しゃべっおいるずころぞこの店のオヌナヌがやっおきた。ビク぀いおいるず「ほら、いけ」ず背䞭を抌される。

 氣を匕き締め、堂々ず゚レキをかき鳎らしながらステヌゞに出る。智さんの歌の邪魔をしないよう、しかしオレらブラックボックスの存圚を瀺すようバランスを取りながらアピヌルするず、䌚堎は䞀局盛り䞊がった。

 続けおサザンクロスの曲を二曲、䞻圹を亀代しおオレらブラックボックスの曲を䞉曲挔奏したのち、新バンドの玹介をしおオレらのステヌゞは終わった。




 すべおのステヌゞが終わっおお客さんが垰ったあずは、出挔バンドだけの忘幎䌚。これも毎幎恒䟋のこず。䟋幎、垞連バンドず新芏バンドが五組ず぀ほど集たっおオヌナヌのおごりでどんちゃん隒ぎをする。

「去幎は聞けなかったこずを今幎は党郚聞かせおもらうぜ。なんでシンガヌ゜ングラむタヌのレむカずバンドを組むこずになったのかずか、突然若返っちゃったのかずか、疑問に思っおるこずは山ほどある」

 拓海さんず智さんが「りむング」ずいうバンド名で掻動しおいた頃からの倧先茩が二人の間に座り蟌む。しかし智さんは、しゃべれないのを良いこずに逃げようずする拓海さんずずもに「悪いな。すべおを語るには䞀日あっおも時間が足りない。たた今床にしおくれ」ず蚀っおバヌカりンタヌに酒を取りに向かった。

「ナヌゞン、ロングカクテルを二杯。䜕でも構わない」

 逃げおきた智さんに声をかけられたず思ったら、なぜか泚文された。
「えヌ オレはもうここのバむトじゃないんっすけど」

「お前の䜜るカクテルが飲みたいんだよ。いいだろう」

「しゃヌないなぁ。それじゃあ  」
 仕方なく、手近にあったゞンず゜ヌダずレモンゞュヌスでゞンフィズを䜜る。
「はい。䞀杯だけっすよ」

「サンキュヌ」
 瀌を蚀った智さんだが、立ち去るこずもなくその堎でちびちびずやり出す。拓海さんも同じようにグラスを握ったたたオレをじっず芋぀めおいる。

「  あのヌ、䜕か」

『お前、麗華のこずどう思っおんだよ この前二人きりでデヌトしおきたの、知っおるんだからな』

 拓海さんからいきなりそんなこずを蚀われたオレは、持っおいたカクテルグラスを危うく萜ずしそうになった。

「だ、誰から聞いたんですか。オレは麗華さんが姪っ子に䌚わせたいっお蚀うから぀いおっただけっす」

「レむちゃんが、この䌚のあずうちに来るっお蚀っおた子のこずか」

「そうっす。さくらさんっお蚀うんですけど、オレたちに負けず劣らず麗華さんのこずが奜きみたいです。この前のラむブで販売した麗華さんのキヌホルダヌや猶バッゞをバッグにじゃらじゃら付けおたした。どうやら子䟛の頃からのファンらしくお、それを知っおる麗華さんが、オレず氣が合いそうだっおこずで匕き合わせたんです。  あヌ、蚀っずきたすけどオレが奜きなのは麗華さんの『声』なので」
 
 最埌の郚分を匷調するず、二人は「分かった、分かった」ず手をひらひらさせた。

『姪っ子も麗華のファンなのか  。しかし、だからっおなんでこの忘幎䌚のあずに呌び぀けるんだ 今の話から察するに、俺らのファンっおわけでもないんだろう』

「それはヌ  」
 返事に困っおいるずころぞ麗華さんが珟れお助け船を出しおくれる。

「独り身の姪っ子の身を案じちゃ悪いの 䞉十過ぎお、正月にひずりがっちっおのは本圓に寂しいものよ あたしには分かる。だから誘ったの。それだけのこずよ」

『  なんか劙に説埗力あるな』

「ああ  」
 二人はそれ以䞊、远及しなかった。

「じゃあたぁ、そういうこずにしおおいお、その姪っ子のこずはレむちゃんに任せるか。その間、僕らは僕らでワむワむやろう。ナヌゞンもこっちに加わるだろう」

「あ、はい」
 返事をした盎埌、麗華さんにぐいっず匕っ匵られる。

「あら、だめよヌ。ナヌゞンにはあたしが歌を歌う玄束しおるんだからヌ。怒らせちゃったお詫びをしないず。ねぇ」

「怒らせたっお  。レむちゃん、いったい䜕をやらかしたの」

「んヌ ホテルに誘われたけど断った」

『おいっ  』
「ナヌゞン、お前  」

「ちょっず、麗華さん 冗談き぀いっす」
 酔っ払った麗華さんの笑えない冗談のせいで、二人からしばかれたのは蚀うたでもない。


4さくら

 ラむブハりスは熱心なファンで溢れかえっおいた。特にサザンクロスずブラックボックスのファンが倚いのか、圌らが登堎するず䌚堎が震えるほどの倧歓声が起きた。

ラむバル、倚し  。

 しかし、私はこのあず圌らの家に行く。これほど優越を感じるこずはない。䌯母が名のあるミュヌゞシャンで本圓に良かった、ず぀くづく思う。

 サザンクロスが「矅針盀コンパス」を披露しおいるず、あずからブラックボックスの䞉人が出おきおバックで挔奏し始めた。先日䌚ったメンバヌの䞀人、ナヌゞンさんぱレキを匟いおいる。

球堎ラむブの時は遠かったからよく分からなかったけど、間近で芋たらカッコむむじゃん  。っお蚀うか、党員に惚れそう  。
 
 麗華ちゃんの時もそうだった。芪戚同士が集たる垭では普通のおばちゃんなのに、ひずたびステヌゞに立぀ず党くの別人。その瞬間、䞀目惚れした。

 そう、私が奜きなのは歌手のレむカただ䞀人   浮氣は犁物だ。自分に蚀い聞かせるが、盛り䞊がる呚囲の雰囲氣も手䌝っお、芋れば芋るほど、聎けば聎くほど圌らの音楜に惹かれおいく  。

぀たり、圌らの音楜にはそれだけの力があるず蚀うこず  

 先日聞いた話では、病氣で䜙呜幟ばくかの仲間を救うこずが出来たのは歌の力があったからだ、ず。たさか、歌っただけで病氣の人を治せるはずがないず思ったが、目の前の二人が倧真面目に語っおいるのであからさたに吊定も出来なかった。今日はその仲間に䌚わせおくれるらしいから、実際にこの目で確かめおみようず思っおいる。

 サザンクロスずブラックボックスのステヌゞはあっずいう間に終わっおしたった。お目圓おのラむブを芋終わった私は䌚堎をあずにし、麗華ちゃんず埅ち合わせる予定の駅前で時間を朰した。




 合流できたのは間もなく日付が倉わろうかずいう頃。幎越しのカりントダりンをしおいる人たちの暪を通り、麗華ちゃん宅に向かう。

 歩きながら私は、誰ず、どのくらいの距離感で歩けばいいのか暡玢するのに忙しかった。今日は麗華ちゃんのバンドメンバヌず四人で新幎を迎える぀もりでやっおきたのに、ブラックボックスの䞉人も䞀緒だず知っお混乱しおいるのだ。狭い街路に䞃人。悩んだ結果、最埌尟を歩くこずにした。ここが䞀番、萜ち着く。

 しかしホッずしたのも぀かの間。
「あれ さくらちゃんはどこ ぀いおきおる」
 酔っ払った麗華ちゃんが倧袈裟に私を探し始め、最埌尟の私を芋぀けるず腕を掎んだ。

「今日は䞀人にはさせないんだから ほら、幎の近い女の子もいるよ。あたしより、よっぜど話が合うず思う。今倜はたっぷり時間があるんだから、友だちになっちゃいなさい」

「    」

 無理やりひっ぀けられおも䜕を話せばいいか分からない。それは圌女も同じらしく、「もう、レむさたったら。幎が近いっお蚀ったっお十個くらい離れおるんじゃなかったっけ」ず困惑気味に蚀った。

「十個差は近い方じゃない。あたしずセナなんお、いく぀離れおるず思っお それでも仲良くやれおるのよ だったら倧䞈倫よヌ」

「ん、もう   酔っ払ったレむさたはテキトヌなんだからヌ」

「  それは同感」
 意芋が䞀臎した点は、たさかの麗華ちゃんの酒癖の悪さだった。




 子䟛の頃から、芪戚の集たりで倧人たちが酔っお隒ぐ姿を芋おは興ざめしおいた。だから、倧人になっおもお酒は飲たないず心に決めお今に至る。倧孊生になっお「飲めないわけじゃないんでしょう」ず執拗に誘われた時期もあるが、断り続けるうちに誘われなくなった。぀たらない子だず認定されたのだろう。いやいや、私からすれば酒を飲んで笑い転げおいる方がどうかしおいるず思うのだけど、理解しおもらえたためしがない。

 今日だっお同じだ。既に出来䞊がっおいる六人ず、しらふの私では枩床差がありすぎる。䞀応、こういう堎での振る舞い方は心埗おいるが、面癜くないこずに倉わりはない。倜遅いこずもあり、私は圌らの話を聞いおいるうちに眠氣に襲われあくびを連発しおしたう。

「あヌ、さくらちゃん。もう寝る氣 今日は培倜するっお蚀っおるじゃない そうだ、そろそろ歌を歌おう。ナヌゞン、リク゚ストしお。あなたのために歌うわ」

 匷匕な麗華ちゃんが、眠くおりトりトしおいる私を無理やり立たせお音楜スタゞオに連れ蟌んだ。ナヌゞンさんは機嫌がいいのか「それじゃあ、『LOVE LETTERラブレタヌ』を。あのしっずりした歌声が奜きなんっすよヌ」ず即答した。

 䞃人入ったスタゞオは狭く、隣同士でくっ付かなければいけないほどだった。酒臭い人たちの間近にはいたくなかったが仕方がない。しかし、そんな私の心情が䌝わっおしたったのか、麗華ちゃんに指摘される。

「歌を聎いたら、酒飲みは面倒くさいなぁっお氣持ちも倉わるはずよ。だからしっかり聎いおおちょうだい」

 思わず居䜏たいを正す。拓海さんが䜕やら手を動かしたが麗華ちゃんは手を前に出し、「ああ、倧䞈倫。この曲は匟き語り出来るから。みんなでゆっくり耳を傟けおお」ず蚀った。そのあずで䜕やら手話を䜿った麗華ちゃん。それを芋た拓海さんは私の隣に座り盎した。

「それじゃあ、ナヌゞンのリク゚ストに応えお『LOVE LETTERラブレタヌ』を歌いたす」

 麗華ちゃんはそう蚀うず、今の今たでふざけおいたのが嘘のように真顔になっおギタヌを匟き始めた。その瞬間に堎の空氣も倉わり、たるで゜ロラむブ䌚堎にいるかのような緊匵感に包たれる。マむクの前で麗華ちゃんが息を吞い蟌む。




あの時、君はなぜ去っおしたったの
远いかける僕を振り返りもせず
涙は涞れお倧地は也いた
かすれた声で歌い続けた

君ぞの愛を憎しみに倉えお
暗闇の䞭で もがき続けた日々
むしばたれた心ず䜓
死が連れおきた君を
ずっず僕は赊さないず
泣きながら誓う

憎しみの涙を流せたら
救われるだろう僕は
だけど流せないのは君のせいだず
蚀わなければきっず壊れるだろう僕は

君を赊すずき
僕は赊されるだろう
赊された僕は
安らかに死ぬだろう

だけどその前に䌝えたいんだ、愛を
ずっず玠敵になった君にこの想いを
僕の声を愛しおくれた君ぞ
ずっずずっず愛しおいるず  



「  いい曲だろう これは俺らの曞いたラブレタヌをもずに麗華が䜜詞したんだぜ」
 
 巊隣の拓海さんに突かれお顔を向けたが、声は右隣の智節さんから発せられた。なるほど、普段からこうしお智節さんが拓海さんの声圹こえやくをしおいるのか。

「そうですね。にも収録されおいたすよね。私も奜きです」
 短く答えお話を終えるず劙な間が空いた。

「  もっず話せよなぁ。せっかくの新幎䌚じゃねえか、っお蚀っおるけど」

「    」
 黙り蟌むず智節さんはため息を぀いた。そしお「いいか」ず私に半身を寄せる。

「君は、酒飲みは面倒くさいず思っおるみたいだけど、酔いに身を任せれば普段は出来ないこずが出来るメリットもある。僕はそれでレむちゃんに自分の氣持ちを䌝えられた経緯がある。だから、酔っ払うこずは䜕も悪いこずばかりじゃない」

「そうなんですか  」

 怪蚝な顔をするず、拓海さんが智節さんにキスをするゞェスチャヌをした。もちろん智節さんは手で振り払ったが、「そうそう、レむちゃんにキスしたんだ、僕は」ず恥ずかしげもなく蚀った。

「若いころに蚀えなかった『奜き』ずいう氣持ちを、この幎になっおようやく吐き出せた。たずえそれが  僕が抌し殺しおいた『もう䞀人の僕』に蚀わされたこずだったずしおも、愛しおいたずいう氣持ちを本人に䌝えられたのは、僕の䞭では倧きな出来事だったんだ。それを詳现に綎ったのがこの曲の元になった手玙だ」

「    」

「  俺は麗華のすべおを愛しおる。矎声で歌い䞊げる麗華はもちろんのこず、酔っ払っお面倒くさい麗華も、匱音を吐く麗華も、こぶしを振り䞊げお怒る麗華も、すべお。  拓海はそう蚀っおるけど、僕も同感だよ」
 拓海さんの手話を通蚳した智節さんが蚀った。

「党郚ひっくるめおその人なんだ。逆に蚀えば、どれか䞀぀欠けおもその人にはならない。  ああ、拓海の蚀うように、レむちゃんから酒を取ったらレむちゃんじゃないず蚀っおもいいくらいだ。  もし、䞋戞げこでないなら䞀床、僕らのこの雰囲氣に飲たれおみおもいいんじゃないか 酔い朰れおしたうのも悪くはないよ」

「でも  」
 モゞモゞしおいるず、セナちゃんが私の間に入っお二人を匕き離しおくれた。

「兄さたたち 女の子にお酒を匷芁するなんおどういう神経しおるわけ 䞀歩間違えれば犯眪だからね   さくらさん、酔っ払いの蚀うこずは話半分に聞いずけばいいから」
 それを聞いた智節さんが露骚に嫌そうな顔をする。

「はぁ じゃあさっき、レむちゃんずグルになっお僕らに远加の酒を買っおこさせたセナは䜕なんだ 男はこき䜿っおもいいっおルヌルはないはずだぜ」

「むぅっ ねぇ、レむさたヌ。この二人がアタシたち、、、、、をいじめるんだけどヌ」
 腕を組たれ、隒動に巻き蟌たれる。

なんか、䞀人だけしらふでいるのが銬鹿銬鹿しくなっおきた  。
 そうでなくおもさっきから閉め切った郚屋に充満するアルコヌル臭で酔っ払った感芚になっおいる。

「  ねえ、麗華ちゃん」

「んヌ もしかしお、飲む氣になった」
 察しのいい圌女の蚀葉に頷くず、麗華ちゃんずセナちゃんは顔を芋合わせおにやりず笑った。


5ナヌゞン

 女性陣がスタゞオを出お行ったあず、無性にドラムを叩きたくなったオレはスティックを持぀なりめちゃくちゃに音を鳎らした。

くっそぉ  。あんなにいい声聎かされおも感想䞀぀蚀えないのか、オレは  

 麗華さんの歌は最高だった。酔っ払っおいるずは思えないその矎声に酔いしれたのはオレの方だっおのに、スタゞオを出お行く麗華さんを匕き留めるこずすら出来なかった。

 息が切れお音を鳎らす手を止める。
「銬鹿だなぁ、兄ちゃんは。そんなに悔しいなら、今からでも郚屋を出おさっさず告癜しお来りゃいいのに」
 郚屋の隅で聎いおいたリオンが蚀った。すぐに返事をしなかったからか、リオンはため息を぀く。
「もしかしお、この二人に遠慮しおるの」

 この二人、ずはもちろん拓海さんず智さんのこずだ。どういうわけか、二人も郚屋に残っおオレの぀たないドラムを聞いおいたようだ。
「  るせぇ」
 二人の前ではどう返事しおいいかも分からず、そんな蚀葉しか返せなかった。案の定、二人に絡たれる。

『ナヌゞンは麗華のこずが奜きなんだろう だったらその氣持ちを抌し殺しちゃダメだぜ。たずえ俺らがラむバルだろうがな』

「  さっき、オレをシバいた人のセリフずは思えたせんね。そりゃあ、奜きは奜きですけど、オレが奜きなのはなんず蚀っおもその声。それに、麗華さんず盞思盞愛の兄さんに蚀われおもちっずもその氣にはなりたせんよ」

「奜きが聞いお呆れるな。そうやっお付き合えない理由を口にするっおこずは、お前のレむちゃんぞの想いはその皋床っおこずだよ」
 智さんの蚀葉がグサリず刺さった。思わず睚み返すず、智さんは小さく笑う。

「僕を芋おみろよ。䞉十幎越しに愛を告癜したが、拓海が生還したこずで結局想いは成就せず、だ。にもかかわらず、未だレむちゃんを口説き続けおる。別に、こい぀が死んだらチャンスが巡っおくるず思っおるわけじゃないぜ。僕はもう、自分の想いをうちに閉じ蟌めないず誓った、だから懲りずに愛を囁ささやき続けおるのさ。  こんな僕を栌奜悪いず思うのはお前の自由だ。だけど、奜きな女に想い人がいるからっお理由で身を匕き、自分をいじめるのは僕は賛成しないね。将来的に、こういう男になっちたうからな」

 酔っおいるずはいえ、たさか自分の倱敗談を、仮にも恋敵のオレに語っおくれるずは思いもしなかった。

「  っおいうか、諊めの悪い智さんのこず、拓海さんはどう思っおるんです」
 静芳しおいた拓海さんに問うおみる。兄さんは少し考えおから手を動かし始める。

『あヌ  。確かにこい぀がこんなにも執念深い男だずは思っおなかったが、もずはず蚀えば俺がこい぀に麗華のこずを頌もうずしおたから、このたた奜きにしおくれっお感じだけど』

「えっ」

『むしろ俺の方が未緎がたしかった、っお蚀ったら驚くか 死に瀕しおから麗華ずやり盎そうずしお近づいた。でも、死期が近い俺には麗華を幞せにするこずが出来ない。ならば、未だに想っおいるこい぀にあずを蚗すのが自然な流れだろう』

「んなこず蚀っおお生き返ったんだから、どこたで僕に蚗す氣があったのか疑問は残るけどな。た、正盎な話、もし拓海が死んでいたらレむちゃんを愛するどころじゃなかっただろう。そのくらい、こい぀の存圚は僕にずっお倧きいっおこずだ」

 酔った勢いで飛び出した二人の本音を聞き、改めお二人が固い絆で結ばれおいるこずを知る。

「  そんな話を聞かされたらたすたす想いを䌝えづらいじゃないっすか」
 やっぱり、勝おない勝負はしたくなかった。ずころが智さんはこう続ける。

「ミュヌゞシャンなら  同じバンドのメンバヌなら  䞀いちミリの可胜性に賭けるくらいの氣抂を持っおくれよ。僕ずレむちゃんが拓海の生還を諊めなかった時のように。匷く信じれば願いは叶う。僕は身をもっお䜓隓しおいるから分かる」

 その蚀葉には説埗力があった。事実拓海さんは、声は倱ったもののすっかり元氣になったし、おたけにうんず若返っおしたっおいる。

「  恋敵から、自分たちの愛する人に想いを䌝えろず蚀われるなんお。垞識ではあり埗ないこずですが、そこがたたお二人らしいですね」

『俺たちに垞識は通甚しないぜ』
「ああ、その通り。垞識的に生きたいなら今からでもバンドを離れおくれ。それがお互いのためだ」

 ダメ抌しの蚀葉をもらい、ずうずうオレも芳念した。
「  認めりゃあいいんでしょう オレが奜きなのは声だけじゃなくお圌女のすべおだっお。そこたで蚀うならお二人に負けないように音楜のスキルをアップさせお、最埌には振り向かせお芋せたす  」

「ひゅヌ 兄ちゃん、぀いに宣蚀しちゃった この前はやめろっお蚀ったけど、ガチで幎の差を乗り越えようっおこずなら、おれは応揎するよ」

「  じゃあ䜕で笑いながら蚀うんだよ 本氣で応揎しおくれおるようには思えないんだけど」

 突っ蟌みを入れるずリオンは「悪い悪い、そんじゃあ兄ちゃんが想いを䌝えられるようにスキルアップに付き合うよ」ず蚀っお電子鍵盀キヌボヌドの前に立った。

「兄さんたちも付き合っおよ。ラむバルになれっお蚀ったのは二人だろう」

「そうだな  。匟いおりゃあそのうちに様子を芋に戻っおくるかもしれない。そうしたら想いを䌝えるチャンスだ」

 智さんの蚀葉にドキリずする。
「え、想いを䌝えるっお、告癜するっおこず   ここで  」

『しないのか 黙っおるのは構わないが、それじゃあ麗華にお前の氣持ちは䌝わらないぜ』

 拓海さんたでそんなこずを蚀うので、少しばかりカチンずきた。

「  二人がオレに告癜させようずするその意図は、自分らが圧倒的に䞊だず思っおるからなのでしょうね。お前に勝ち目はない、麗華さんは絶察にお前には振り向かないず決め぀けおる  。だったら、その䜙裕を打ち砕いおみせたすよ。お二人の錻を明かしおみせたす」

「そう来なくっちゃ、面癜くない」
 智さんはにやりず笑い、マむクの前に立った。

「せっかく男ばっかり集たったんだ。い぀もず違う雰囲氣で緎習しよう。そうだな  。今日は氣分がいいから僕が『シェむク』を歌おう」

「えっ、セナがボヌカルの『シェむク』を」

「若いラむバルが出来た以䞊、僕も新しいこずに挑戊しないずね」
 そう蚀っお䞀人、先んじお「シェむク」のむントロを錻歌で歌い始めたのだった。



6さくら

「あれ 男性陣は」
 おっきり䞀緒に宎䌚の続きをするもんだず思っおいたが、リビングに戻っおきたのは女だけ。呚りをキョロキョロするず、麗華ちゃんに揶揄からかわれる。

「あヌ、もしかしおあの四人の䞭の誰かが氣になるんでしょう 誰なの ほら、癜状しちゃいなさい」
 麗華ちゃんはにやりず笑い、猶入りカクテルを私に手枡した。

「そういう぀もりで蚀ったんじゃなくお、ただ  䞀緒にいた方が盛り䞊がるし、楜しいのかなず」
 思っおいるこずを玠盎に告げるも、麗華ちゃんずセナちゃんには蚀い蚳に聞こえたらしい。

「それじゃあさ、さくらさんがこれを飲み終えおも戻っおこなかったら様子芋に行こうよ。音楜スタゞオは飲食犁止だからヌ。  っおこずで、すぐに飲んじゃっおね」

「  それじゃあ、いただきたす」
 ひずくち、飲み䞋す。
「  これがお酒 たるでゞュヌスのよう」
 これならおいしく飲める。ちょうど喉が枇いおいた私は䞀氣に飲み干しおしたった。

「  めっちゃおいしい 䜕で今たで飲たなかったのかな。人生、損しおた」

「でしょう ほら、ただただあるから、遠慮しないでヌ」
 麗華ちゃんが味の違う猶入りカクテルを次々持っおくるず、セナちゃんの方はお぀たみをテヌブルに䞊べ始める。

「それじゃ女子䌚、開始ヌ」
 テンションマックスの二人に乗せられ、女だけの酒垭が始たった。




 こんなにもいい氣持ちになったこずは今たでに䞀床もなかった。垞に誰かの目が氣になっおビクビク生きおきた私。だけど今は、そんなこずはどうでもいいず感じるほど開攟感に包たれおいる。

 痩せた身䜓を維持しようず制限しおいたお菓子にも自然ず手が䌞び、食べ出したら止たらない。䜙蚈なこずを蚀っお恥をかかないように我慢しおきた蚀葉も今日は解犁。氣付けば二人の恋バナを聎いお笑い、恋愛経隓が䞀床もないこずを暎露しおいた。

「誰も奜きになったこずがないなんお だったら尚のこず、あっちの郚屋にいる男子の䞀人ず仲良くなっちゃいなよ。  っお蚀っおも、そのうち二人はアタシの兄匟だけど、さくらさんなら党然いいず思う」

「えヌっ でも私、そんな目で芋れないよ  」

「すぐには無理だろうけど、お兄ちゃんもリオンもいい子だよ。䜕ならアタシが話を぀けおあげる。  ただ戻っおこないのかなぁ じゃあ、こっちから芋に行っちゃお。ね、ほら行こうよ」

「えっ、ちょ、ちょっず埅っお  」
 すぐにでもスタゞオに行こうずするセナちゃんを匕き留め、私は持参したカバンの䞭からスケッチブックず筆箱を぀かみ、取りだした。
「䜕か、描きたい氣分。䞀応持っお行かせお」

 ひらめきは䞀瞬で流れ去っおしたう。だから前兆があった時は必ず手元に眮いおおくこずにしおいる。それを芋た麗華ちゃんは、私がなぜそれらを手に取ったのかすぐに分かったようだ。小さく頷く。

「さすがはアヌティスト。アむデアはすぐに曞き留めたいものね。あたしも玙ずペンはい぀も持ち歩いおいるわ。  さぁ、男子たちは䜕をしおいるのかしら 開けるわよヌ」

 麗華ちゃんが重たい扉を抌し開ける。するず䞭から倧音量の音楜が挏れ聞こえた。私たちはするりず宀内に身䜓を滑り蟌たせ、すぐに扉を閉めた。

 四人はそれぞれの楜噚を手に共挔しおいた。歌い手は智節さん。四人は私たちの存圚に氣付いたが、匟く手を止めるこずなく楜しそうに笑い合っおいる。

「わぁお 智節兄さたが『シェむク』歌っおるなんお新鮮ヌ うぅヌん   シビれるぅヌ  」

 セナちゃんが䞡頬に手を眮いお歓びを衚珟した。麗華ちゃんも腕を組んで満足そうにリズムを刻んでいる。

この雰囲氣、すごくいいな  。

 私はスケッチブックを開き、筆箱から鉛筆を取り出すずすぐにラフ画を描き始めた。描くのは四人の笑顔。䌌おいるかどうかよりも、今日は雰囲氣重芖。圌らからにじみ出る想いを描きたかった。

「  ほヌら、蚀ったずおり。女性陣が聞きに来ただろう」
 歌い終わった智節さんが、私たちの顔を芋ながら蚀った。そしおナヌゞンさんを立たせお背䞭を抌す。

「んヌ ナヌゞンから䜕か話がある感じ」
 察した麗華ちゃんが䞀歩前に出るず、ナヌゞンさんは深呌吞をしお胞を匵った。

「麗華さん、オレ  。もっずもっずドラムが䞊手く叩けるように緎習したす。そしお  麗華さんのために䞀曲䜜っおプレれントしたす。もし  もしそれが氣に入っおくれたらオレのこず  奜きに  奜きになっおくれたせんか  」

 たさか目の前で愛の告癜を聞くこずになるずは思わなかった。しかし、恥ずかしがる私の暪で、圓の麗華ちゃんは倧喜びしおいる。

「ナヌゞン   ずっおも嬉しいわ、ありがずう うん、曲が出来たらちゃんず聎くわ。そしお真面目に返事をする。  だけど、その前に䞀぀、確認させお。  ねえ、いいの 拓海、智くん。熱烈ラブ゜ングを䜜っおもらっちゃったらあたし、ナヌゞンに鞍替えしちゃうかもしれないよ」

「もちろん、そんなこずにならないように僕らもちゃんず男磚きをするよ。僕らは今日からラむバル。互いに競い合っお高みを目指す぀もりだよ」

「なるほど、男の子たちは本氣、っお蚳ね。そういうこずならあたしも女磚きしないずいけないわね。  どうする あたしたちも競い合っちゃう」

「えヌ」

 思いもしない展開に倧声を䞊げた私たちだが、セナちゃんはたんざらでもない様子で「レむさたに勝おたら智節兄さたも振り向いおくれるかな  」などず呟いおいる。

「セナはやる氣満々ね。さくらちゃんは   ほヌ。氣になっおるのはナヌゞンかな この絵の䞭で䞀人だけ、飛び抜けお描写が现かいずころをみるず」
 麗華ちゃんが私のスケッチをのぞき蟌みながら蚀った。慌おお隠すが手遅れだ。

「えっ、䜕々、今、おれたちの絵を描いおたの ちょっず芋せおよ」
 興味を持ったリオンくんも芗きに来る。芳念しお党員に披露するず䞀斉にどよめきが起こった。

「今の『おぉっ』おのは、䜕なんですか  」

「たったの数分でこんな絵が描けるのか。すごい才胜だな  」
「おれたちの特城をよく捉えおるじゃん。すげえや」
「確かに、オレの絵が䞀番よく描けおるかも  」

 ダメ出しされるどころか、党員が私の絵を耒めおくれた。なのに、急に自信がなくなる。今たで䞀床もこんなふうに耒められたこずがないからだ。

「本圓のこずを蚀っお䞋さい。私の䌌顔絵は现郚を描きすぎお氣持ち悪いっお  」

「氣持ち悪くなんかないっす」
 自虐的な私の蚀葉を吊定しおくれたのはナヌゞンさんだった。
「っおいうかむしろ  こんなに现かく描けるの、すごいっすよ。めちゃくちゃ才胜あるず思う。オレ、尊敬したす」

「才胜、ありたすか  」
 ナヌゞンさんに再床耒められ、ちょっぎり、こそばゆい。

 幌少期に母芪の䌌顔絵を描いたら、シミやシワは描かないでよ ず本氣で怒られ、それ以来ずっずこういう絵は描いおいなかった。しかし今日はお酒を飲んだせいか、そんなこずはすっかり忘れお手の動くたたに描いおいた。

 私の絵をじっず芋たあずでナヌゞンさんが蚀う。
「  麗華さん、䞀぀提案があるんっすけど。さくらさんの絵、六人で出す最初のアルバムのゞャケットに䜿えないっすかね 倚分ですけど、オレらに合った絵を描いおくれる氣がしたす」

「えっ」
 思いがけない発蚀を聞いお顔がかあっず熱くなる。スケッチブックで顔を隠すが、セナちゃんに「さくらさん、顔が真っ赀ヌ」ず揶揄からかわれた。

「ナヌゞン、ナむス提案」
 麗華ちゃんは指を鳎らした。

「ちょっず、麗華ちゃんたで  」

「ちょうどね、新しいこずを始めようずしおいたずころなのよ。六人の写真をゞャケットにするのもいいんだけど、それじゃ面癜くないよねっお。さくらちゃんの才胜も掻かせるし、䞀石二鳥だわ。どう さくらちゃんさえ良ければぜひ。瀟長に話しおあげるわ」

「急にそんなこずを蚀われおも  」
 スケッチブックを抱え、う぀むく。

 ものすごいチャンスだず蚀うこずは鈍感な私でも分かる。だけど、怖い。前に進むのが。身䜓を震わせおいるず、麗華ちゃんに䞡肩を掎たれる。

「逃げちゃダメ。画家ずしお成功したいなら話を受けなさい」
 顔を䞊げたら目が合った。圌女の目は真剣だった。

「あたしもナヌゞンも、あなたを助けたいのよ。攟っおおけないのよ。今日ここぞ招いたのもそういう理由」

「    」

「  即答できないなら蚀い方を倉えるわ。あたしを助けおちょうだい。新しいバンドを組んだばかりのあたしたちには協力者が必芁なの。  あたしたちだっお、六人きりだったら党囜に音楜を届けるなんお絶察に無理。䌚瀟に属しお、栌奜いいデザむンのを䜜っお、宣䌝しなければ、ファンの手には枡らない。特に、のゞャケットはファンが賌入を決める倧きな芁玠になり埗るもの。故に毎回揉めるずころでもあるんだけど、それを今回はさくらちゃんに䟝頌したいの」

「そんな重芁な圹、私に出来るわけが  」

「ないずは蚀わせない。あなたには才胜がある。あなたを子䟛の頃から芋おきたあたしが断蚀するわ」

「    」

「もし絵を描いおくれるのなら、あたしのグッズでもサむンでも䜕でもあげるからさ。ね、おねがヌい」
 
 麗華ちゃんがおねだりポヌズで迫っおきた。そんな顔で迫られおは断れるものも断れない  。

「麗華ちゃんの圹に立おるなら  描いおみる。うたく出来るか分かんないけど  」

「ほんず ありがずう さっすが、あたしの姪っ子 ん、もう、倧奜きよヌ」
 酔っ払っおいるからか、麗華ちゃんが私に抱き぀いた。
 



「ありがずうございたす、ナヌゞンさん。玠敵な提案をしおくださっお」

 スタゞオを出お仕切り盎した私たち。それぞれがく぀ろいだりおしゃべりしたりしおいる䞭、私は先の話のお瀌を蚀った。圌は肩をすくめお小さく笑った。

「たぁ、オレたち、麗華さんのこずが奜きっお共通点がありたすからね。姉さんが喜ぶこずは䜕でもしたいじゃないですか。それに  」

「それに」

「  オレのこず、ちゃんず芋おくれお嬉しかったから」

 数日前に䌚った時、ブラックボックスのナヌゞンだず氣付いおあげられず、がっかりさせおしたった。それもあっお今日は特に泚目しお芋おいたのは確かだ。

「先日は倱瀌なこずをしちゃったから、今日はその顔をしっかり目に焌き付けようず思っおいたんです。  それでかな。ナヌゞンさんのスケッチだけ力が入っちゃったのは。゚レキを匟く姿も、ドラムを叩いおる姿も栌奜良かったですよ」

「あはは  。䜙蚈な氣を遣わせちゃいたしたかね ゚レキ歎は長いけど、ドラムはブランクがあっおただただ修行が必芁で  。栌奜いいっお蚀っおもらえお光栄ではあるんですが  」

「そんなこず蚀ったら、展芧䌚で䞀床も入賞できない私の絵なんお耒められたものじゃないですよ  」

「  っお蚀うかオレら、互いに謙遜し合っおる。こんなんじゃきっず、麗華さんに怒られちゃうだろうな」
 ナヌゞンさんはふっず笑い、それから近くで談笑しおいる麗華ちゃんをちらりず芋遣った。
「さくらさん。麗華さんが奜きな者同士、力を出し合いたしょう。そしお、お互いに粟進したしょう。姉さんのハヌトを掎むために」

「粟進  。私、頑匵れるかな  」
 匱音を吐いた私に察し、ナヌゞンさんはきっぱりずいう。

「奜きな人のためなら頑匵れる。でしょう」

 そうか、ここにいる党員が茝いお芋えるのは、愛する人に振り向いおもらうための努力をしおいるから。そこに邪念は䞀切いっさい、感じられない。

 私は端はなから諊めおいた。氣付いおもらえなくおもいい、こっそりファンで居続ければそれで充分じゃないか、ず。だけどそれでは䜕も倉わらない。成長もない。だっお頑匵る動機がないんだもの。

 ちょっぎり、心が揺れた。ナヌゞンさんの蚀葉に。

「そうですね。奜きな人のために  。私、頑匵っおみたす。麗華ちゃんが私を信じおくれるずいうなら、サザン×のむメヌゞにぎったりの絵を  」

 その時、急にむメヌゞが降りおきた。慌おおスケッチブックを開く。色鉛筆も駆䜿しながら描いおいく。それを、ナヌゞンさんがのぞき蟌む。

「  やっぱりすごいっすよ。䜕だかオレもむンスピレヌション湧いおきちゃったなぁ。あのヌ、䞀枚いちたいもらえたすか 歌詞を曞き留めたいんです」

 集䞭力を切らさないよう、無蚀でちぎっお差し出す。ナヌゞンさんは「どうも」ず蚀っお頭を䞋げるず、私の筆箱からそっず鉛筆を取り、自らも創䜜掻動を始めた。

「  ふふ。あんたたちっおやっぱり氣が合うのね」
 暪で麗華ちゃんが呟いた。



7ナヌゞン

 幎始の音楜むベントにいく぀か出挔し、久しぶりにゆうび奏瀟を蚪れたオレたちは、早速瀟長に、新幎䌚で話題になった「さくらさんの絵を次のアルバムのゞャケットに」ずいう提案をするこずにした。瀟長を説埗するためさくらさんにも同垭を䟝頌し、自信䜜の絵をいく぀か持参しおもらっおいる。

「新曲も発衚しおいないのに、もうアルバムの話 随分ず氣が早いのねぇ。たぁ、話を進めおおくのは構わないけれど、そんな暇があるなら曲䜜りをしなさいず蚀いたいわね」

 応接宀の゜ファに腰掛けた瀟長は、煙草を吹かしながら蚀った。もっずもな指摘に誰もが蚀葉を倱う。なぜなら、瀟長自らが既にピアニストずしお自瀟からアルバムを出しおいるからだ。

「  もちろん、曲䜜りはしたす。ですが  。あたしのこだわりが匷いずいうのもあるでしょうが、これたでの経隓からアルバムのゞャケット決めが最も時間を芁したす。曲のむメヌゞに応えおくれるデザむナヌやむラストレヌタヌを探すのが倧倉だず蚀うこずは瀟長もご存じでしょう 今回はそれを芋越しお先に絵を決めたい、ずいう話です」

 䞀番付き合いの長い麗華さんが説埗を始める。そしおさくらさんに持参した絵を芋せるよう指瀺する。さくらさんはオドオドしながら、二十センチ四方の額に収められた絵を䞉枚、テヌブル䞊に䞊べた。

 いずれもどこかの颚景を描いたもののようだ。それはたるで写真のように粟密で、非の打ち所のない矎しさだった。しかし瀟長の反応はむマむチだ。

「  こういう絵をゞャケットにしたいず望んでいるの だったら写真でいいず思うけど。それに、あなたたちのむメヌゞずも違うわね」

「    」
 バッサリず切り捚おられ、さくらさんは完党に頭を垂れた。すかさず麗華さんがフォロヌする。

「圌女は  子䟛の頃から絵ばっかり描いおきたような子です。頌めばきっず、どんな絵でも描いおくれるはず。あたしは䌯母ずしお圌女を応揎したいんです」

「麗華。姪っ子に肩入れする氣持ちは分かるわ。でもね、それだけじゃうたくいかないのがこの䞖の䞭よ。  その子のこずは䞀切知らないけれど、長幎いろいろな子を採甚しおきた私に蚀わせれば、姪っ子ちゃんは絵で成功しおいないわね 私の前で自信なさげに座っおいる子が、麗華の助力で今回絵を衚に出したずころで埌が続くずは思えない。他を圓たった方が賢明よ」

「  瀟長の蚀っおるこずは正しいずおれも思う」
 リオンが擁護するように蚀った。

「おい。お前はどっちの味方なんだよ」

「そうは蚀うけどさ、兄ちゃん。おれ、ちょっずだけメゞャヌの䞖界を芗いおきお分かったこずがあるんだよ。それは、プロの䞖界っおのは、なんだかんだ蚀っお根性がないず生き残れない堎所だっおこず。少なくずも、おれ含む瀟長のお県鏡に適った新人アヌティストの䞭にさくらさんのような人は䞀人もいなかった。みんな、自分の歌や楜噚、ダンスの技術に自信があったし、ラむバルを蹎萜ずしおでも生き残っおやるっお奎ばっかりだった。そのレヌスから降りちゃったおれがずやかく蚀う資栌はないのかもしれないけど、こういう堎で堂々ずしおいられない人に、自瀟のアヌティストが出すアルバムの顔を任せるのはどうかな、っおおれが瀟長の立堎だったら思うね」

 珟圚、ゆうび奏瀟の瀟長である西森有理沙にしもりありさ氏は圓時、メゞャヌ界でも䞊䜍に䜍眮する音楜事務所、ハむスカむ・ミュヌゞックのトップだった。圌女が自分たちの蚀いなりにならないサザンクロスを朰すため、圌らず芪しくしおいたブラックボックスからリオンだけを匕き抜いお仲違いさせようずしたのは今から半幎ほど前のこずだ。あずから聞いた話では、瀟長自身も䞊からの指瀺で仕方なくそのような行動に出たずのこずだが、そんなこずは知るよしもないオレたちは䞀時、本圓にリオンを恚んだし、䞋手をすれば解散しおいた可胜性すらあったのだった。

 そんなリオンが、メゞャヌ界のこずを知っおいるかのような口ぶりで話したので腹が立った。

「自分だっお利甚されおたっおのに、よくもそんなこずが蚀えるな。麗華さんのように、さくらさんの実力を信じおあげられないのか、お前は」

「いや  。信じるも䜕も、さくらさんの絵をそもそもそんなに知らないし  」

「だったら  。だったら今ここで  オレらの音楜を聎いお湧いおきたむメヌゞを絵にしおもらえばいい。そうしたらお前だっお玍埗するだろう」

「ちょっず、ナヌゞンさん   それっお、ラむブペむントっおこずですよね だめですよ、そんなの。だっお、䞀床もしたこずないんですよ」

 さくらさんが動揺した。しかしオレは匕かない。

「そうは蚀うけど、この前オレらの䌌顔絵を描いおくれた時がたさに『ラむブペむント』っお奎じゃないんですか あれを芋お党員がさくらさんの絵を評䟡した。だったら同じ状況䞋で䞀枚描いおもらうのが䞀番ですよ」

「    」

「名案だわ、ナヌゞン。さくらちゃん、それ、やっおみなさいよ。瀟長を説埗するにはそれしかないわ」

「  でも、ここには玙も絵の具もないですよ」

「今からでも甚意したらいいじゃないか。確か近くに画材店があったはず」
 智さんも話に乗っおきた。
「  そうやっお蚀い蚳するな。䜕のためにここたで来たんだ 自分を売り蟌むためだろう 䞀床断られたくらいで怖じ氣づくな」
 小声で蚀ったのは、先日、智さんがオレに察しお蚀ったのず同じものだった。

「そうだよ、さくらさん。もしやる氣が湧いおこないのなら、䞀杯匕っかけおから描いたっおいいじゃん 䜕なら、アタシも付き合うよ」

 セナの提案はあたりにもぶっ飛んでいたが、さくらさんのような人が人前で自己衚珟するならそのくらいのカンフル剀が必芁かもしれない。

「たさか、酔っ払った状態で絵を披露しようずいうの  」
 瀟長は手のひらを倩に向けたが、少ししお考えが倉わったのか、呆れたように笑った。

「  ぀かみ所がないずころがあなたたちらしいわね。ほんっず、やりづらいったらありゃしない。だけど、ゆうび奏瀟はそんなあなたたちのための䌚瀟。私も、これたでの垞識を捚おなければいけないず蚀うこずなのかもしれないわね」

 分かったわ、ず蚀っお瀟長は煙草を灰皿に抌し圓おおもみ消し、立ち䞊がった。

「事務の子ず䞀緒に画材屋に行っお、必芁な材料を買っおきなさい。お金は我が瀟が負担するわ。その代わり、私を満足させおちょうだい。いいわね」


8さくら

 さお、困ったこずになった。話をもらっおから二週間あたり。その間はやっおやるぞ、ずいう氣持ちで䞀杯だったのだが、ゆうび奏瀟の瀟長に面ず向かっおあんなこずを蚀われおは、そのやる氣も萎むずいうものだ。

 なのに、私を掚しおくれた圌らは萜ち蟌む時間を䞎えおはくれなかった。逃げ道すら塞いできた。

瀟長の台詞じゃないけど、お酒を飲んでパフォヌマンスをするなんお正氣じゃないでしょ、どう考えおも  。

 しかし、しらふの私が瀟長の泚目を济びながら䞋曞き無しで描けるずは思えなかった。絶察に緊匵で手が震えるし、胃も痛くなっおたずもに立぀こずすら難しいだろう。このチャンスを掻かすには、私の内偎のストッパヌを倖す――぀たり、理性を麻痺させる――しかない。䞉十二歳にもなれば、嫌でも分かる。

 そうこうしおいる間に画材店に到着し、必芁なものを買い物カゎに入れるよう指瀺される。もはや、買わないずいう遞択肢はない。

 絵を描く時に必芁な最䜎限のアむテムをピックアップしおいく。それをみんなで手分けしお持ち垰る。

「事務所の䞀぀䞊、最䞊階が音楜スタゞオになっおるの。瀟長が、ピアノを匟く時は矎しい倜景を芋ながらがいい、っお特別に䜜ったスタゞオでね  。音響も玠晎らしくおあたしも氣に入っおるの。ここでだったら、さくらちゃんもいい絵が描けるんじゃないかな」

 そのスタゞオに向かう゚レベヌタヌの䞭で麗華ちゃんが蚀った。最䞊階に着き、゚レベヌタヌのドアが開く。

「わぁ  」
 そこは、䜕かのドラマで芋たような党面ガラス匵りのフロアだった。そこに、ピアノやギタヌ、ドラム、電子鍵盀キヌボヌドが眮かれおいる。今は昌だから県前に芋えるのは倜景ではないが、いい眺めであるこずに倉わりはない。

「ね すごくいいでしょう」
 麗華ちゃんは自慢げに蚀った盎埌になぜか、持っおいた猶チュヌハむを枡しおきた。

「あたしたちは挔奏の準備をするから、さくらちゃんはその間に、これでも飲みながら絵を描く準備を進めおおいお」

「飲みながらっお  」

 緊匵を取るためには飲んだ方がいいのは分かっおる。しかし、実際にこうしおお酒を手枡されるず垞識的な頭が働いおしたい、プルタブを開ける氣になれなかった。

 ずりあえず、描く準備を始める。私が普段䜿うのは氎圩絵の具。氎圩玙を氎匵りし、也いおから䜜業に入るため少し時間がかかる。也き埅ちの間、どんなふうに描こうかず思考を巡らす。先日の飲み䌚で感じたサザンクロスずブラックボックスのカラヌはたったく盞容れない。聎かせおもらう曲にもよるだろうが、真反察ずも蚀えるむメヌゞカラヌをどのように組み合わせるべきか  。

「ねぇ、ねぇ、さくらさん。どの曲がいい 奜きなのをいく぀かチョむスしお欲しいんだけどさ」
 腕を組んで悩んでいるずころぞセナちゃんがやっおきた。その手には既に蓋の開いた猶チュヌハむが握られおいる。
「あれ ただ飲んでないの ほら、開けちゃいなよヌ。アタシず䞀緒に飲もうよヌ」

 セナちゃんは私が飲たずに眮いおおいた猶チュヌハむのプルタブを勝手に開け、枡しおきた。
「それじゃ、カンパヌむ」

「    」
 也杯たでさせられおはもう飲たないわけにはいかなかった。

  えいっ、もうどうにでもなれっ
 私は半分ほどを䞀氣に飲み䞋した。十秒も経たないうちに頭がクラクラし始める。

「  あれっ、この前のず感じが違う  」

「あヌ、だっおこれ、アルコヌル床数が八パヌセントだもの。この間飲んだや぀の倍、入っおるから酔うんだよねヌ」

「えっ、そうなの  」
 そうずも知らず、呷るように飲んでしたった私の頭はもう䜿い物にならなくなっおいる。

「麗華ちゃんにやられた  」
 少し離れたずころで既に準備を終えおいる圌女が吹き出したのがわかった。しかし、アルコヌルを摂取したあずでは䜕を蚀っおも手遅れ。そしお䞉十を過ぎおもお酒の飲み方すら知らない自分を恥じた。

「で、改めお聞くけど、どの曲にする」
 セナちゃんに再床問われ、やけっぱちの私は「この間の球堎ラむブで歌った曲党郚」ず答えた。

「だっおさ、レむさたヌ。いける」

「もちろんよ。䌑みなく歌っお䞀時間くらいかな 党曲歌い終わる頃にはきっず立掟な絵が描き䞊がっおいるでしょう。そうよね、さくらちゃん」

 早速筆を持った私はうんうん、ず頷いた。

「じゃあ、氣合い入れおいくわよヌ。たずはこの曲から。マむラむフ」
 かけ声ず同時に、サザン×ビヌビヌバヌゞョンにアレンゞされたピアノの前奏が始たった。




 特別に䜜られたず蚀うだけのこずはある。ひずたび挔奏が始たるず、そこはたるでコンサヌトホヌルのように音が響き枡った。

今、ここにいる芳客は私だけ  。なんお莅沢なんだろう  。
 思わずうっずりしおしたうが、今は目の前の真っ癜な玙を圩るこずを考えなければ。
ううん、考えるんじゃない。感じるのよ  。

 そもそも、アルコヌルのせいで思考胜力は䜎䞋しおいるし、こういうのは考えお出おくるものでもない。

 目を閉じ、圌らの音楜に集䞭する。「マむラむフ」を歌う麗華ちゃんの声は実には぀ら぀ずしおいお楜しそうだ。バックで流れるギタヌや電子鍵盀キヌボヌドの音も匟んで聞こえる。

 党員が楜しんでいる、その゚ネルギヌを感じた時、パッず明るいピンク色が目に浮かんだ。圌らは颚にそよぐ花。その䞊には柄みきったブルヌの空ず枩かいオレンゞ色の倪陜。

優しい色合いはサザンクロスのむメヌゞ  。

 すぐに筆を濡らし、絵の具を取る。い぀もなら䞁寧に筆を動かすが今日は倧胆に、画面䞀杯に色を広げる。

 䞀曲終わるたび、間髪を入れずに始たる曲のおかげでむメヌゞが次々湧いおくる。ブラックボックスの挔奏から感じるのは力匷さ。それを衚珟するためスパッタリングで絵の具を散らしたり、ドラむブラシで荒々しい線を描いたりしおみる。

 そうやっお無我倢䞭で描いおいるうち、圌らがラむブで披露した曲も残りわずかずなっおいた。党䜓を芋枡し、あず少しだけ色を足そうかず思っおいた時、優しいピアノ曲が耳に届く。

これは、「グレヌトワヌルド」  。

 双子のセナちゃんずリオンくんが織りなすピアノの音。ラむブで初めお聎いた時よりもこうしお間近で聎いおいる今の方が断然心に響く。

 頭の䞭がすっきりずし始めた時、絵のタむトルが降りおくる。そう、圌らの音楜から感じるのはたさに「グレヌトワヌルド」。混沌ずした瀟䌚の䞭にあっおも自分たちの色を倱わない。むしろ、自分たちのカラヌで染めおいこうずさえする。サザン×の音楜に感化された人たちで䜜る䞖界はきっず玠晎らしいものになるだろう。

 ピアノ曲が終わり、最埌の「サンラむズ」を聎きながら絵の隅にサむンを入れた。そしお挔奏終了ず同時に拍手を送る。

「最高 本圓に玠晎らしかったです」

「それはよかった。で、そっちの絵はどう」
 麗華ちゃんはギタヌを䞋ろし、すぐにこちらぞやっおきた。他のみんなも絵の呚りに集たっお来る。私は恥ずかしさを感じながら絵の前に立った。

「ど、どうでしょうか   皆さんの歌や挔奏からこんなふうにむメヌゞしたのですが  」

 どんな感想が飛んでくるか  。ドキドキしながら埅っおいるず、郚屋の隅から拍手ず共に誰かが近づいおきた。

『ショヌタさん』
 麗華ちゃんたちが䞀斉に男性の名を呌んだ。どうやら知り合いらしい。宀内にもかかわらずサングラスをかけたたたのショヌタさんは、サングラスをずらしたかず思うず私の絵にぐっず顔を寄せ、にやりず笑った。

「䞀郚始終を拝芋しおいたした。西森瀟長から聞きたしたよ、ナヌゞンの発案だず。若いブラックボックスずバンドを組んだのはやはり正解でしたね。ずおも面癜い実隓でした」

 盎埌、ショヌタさんの背埌から、今話題に䞊のがった瀟長がすっず珟れた。
「しゃ、瀟長  。もしかしおずっずこちらの様子を  」

 私の問いに瀟長は頷く。
「ラむブペむントでしょう 圓然、最初から最埌たで芋るわよ。  確かに、さっき芋せおもらった絵よりもずっずこっちの方が掻き掻きしおいるわね。遠慮がなくおいいわ。ショヌタはどう思う」

「面癜いず思いたす。採甚でいいでしょう」

「名プロデュヌサヌがそう蚀っおいるわ。さくらさん、だったかしら 画家ずしおのあなたの才胜を認めるわ。麗華たちの頌み通り、次のアルバムのゞャケットはあなたが描きなさい。  そうねぇ、この絵もどこかで䜿えるかもしれないから取っおおくずいいわ」

「     あ、ありがずうございたす」
 私は䜕床も䜕床も頭を䞋げた。




 階䞋に降りる゚レベヌタヌに画材を乗せる手䌝いをしおくれたのはサザンクロスの男性陣。絵を評䟡しおもらった私がホッずするのは圓然だが、挔奏を終えた圌らの衚情も穏やかだ。

「あのショヌタに認めさせるなんお、やるじゃん。っお拓海が蚀っおるよ」
 通蚳の智節さんが声を発した。
「僕らでも、あい぀を䞀発で説き䌏せるのはなかなか難しいぜ」

「あのヌ  。ショヌタさんずはどのような繋がりがあるんですか」

「あい぀には、ラむブたびにプロデュヌスを䟝頌しおきた。この前の球堎ラむブが倧成功に終わったのもあい぀のおかげなんだ。たさか、フリヌのプロデュヌサヌだったあい぀が、敵察したハむスカむ・ミュヌゞックの元瀟長の䞋で働く日が来るずは思いもしなかったがな」

「自分はただ、今埌も兄さんたちの手䌝いがしたいだけですよ」
 い぀の間にきたのか、ショヌタさんが「開」ボタンの抌された゚レベヌタヌのドアの脇に立っおいた。

「それに、ゆうび奏瀟ここに属しおいるのは兄さんたちも䞀緒でしょう メゞャヌなんかク゜くらえだ、っお蚀っおたはずなのに」

「  たぁ、長く生きおりゃ考え方が倉わるこずもあるさ」
 智節さんの蚀葉を聞いた拓海さんずショヌタさんはクスクスず笑った。

「  ずはいえ、成功しないず刀断した堎合は容赊なく切り捚おるのが自分のやり方です。今日のようなクオリティヌ、もしくはそれ以䞊のレベルで描けなくなったらすぐに去っおもらいたす。それだけはご承知眮きを」
 笑顔が䞀点、真顔でそんなこずを蚀われたのでこちらも衚情を倱う。

「  氣負う必芁はないさ。次に描く時も䞀杯匕っかけずきゃなんずかなるだろ、だそうだ。拓海が、うちのリヌダヌがそう蚀っおんだから倧䞈倫さ」

 智節さんの通蚳の埌で拓海さんは倧きく頷き、右手を差し出した。顔を芋ながらその手を取るず、『䞀緒に頑匵ろうぜ』ず口が動いた氣がした。

「は、はい  。頑匵りたす  」
 返事をするず、拓海さんは嬉しそうに埮笑んだ。

 


第二章玄30,000字

9悠斗

 今日も氣持ちのいい汗をかいた。今のおれの仕事は、未就孊児ずその芪向けに身䜓を動かす楜しさを知っおもらうための指導をするこず。䜓操はおれの専門ではないが、長幎氎泳のコヌチをしおきた経隓を掻かしながら楜しくやっおいる。

 䜓操クラブから自宅たでは早足で歩いお二十分ほど。今日みたいな冬晎れの日は氣分転換にもなるので埒歩での通勀を続けおいる。

 五十代も半ばに入った。珟圚は未婚で実子もいないが、おれには垰りを埅぀家族が、嚘がいる。詳しく話せば本䞀冊分くらいの長さになるので簡朔に説明するず、おれは䞡芪が残した家で、友人の嚘倫婊ずその子䟛の蚈四人で「血の繋がらない家族」をやっおいる、ずいうこずだ。実は䜓操クラブで働く決心をしたのは同居しおいる幌子おさなご、たなのためである。たなずの関係、そしおなぜ圌らず同居しおいるのかに぀いおを語り出すずたた長くなるので、この話はいずれするずしよう。

 たなず母芪のめぐも䜓操クラブに入䌚しおいお今日も䞀緒に身䜓を動かした。時刻は午埌四時を回っおいる。䞻催者偎のおれより䞀足先に垰っためぐは、そろそろ炊飯を始める頃だろうか。

 料理を提䟛する喫茶店で働いおいるこずもあり、めぐの料理は絶品だ。確か今日のメニュヌは和颚ハンバヌグだったはず。特補の゜ヌスがめちゃくちゃうたいんだ。

 倕食にはただ早いが、そんなこずを考えおいたら急に腹が枛っおきた。家たでもう少し、ずいうずころで信号に匕っかかる。びゅうっず冷たい颚が吹き、暖かい家が恋しいず感じた時、背埌から突然「悠斗クン」ず呌ぶ声が聞こえた。

 振り返るずそこにいたのは䜓操クラブの䞻宰、氞江孝倪郎氏だった。圌は元プロ野球遞手だが、匕退埌の生きがいずしお自らの発案でクラブを立ち䞊げおいる。

「良かった、远い぀いお」
 随分走っおきただろうに、孝倪郎さんは息䞀぀切らしおいない様子だった。

「どうしたんですか、走っおきたりしお。おれ、䜕か忘れ物したしたかね」
 䞀応、持ち物のチェックをするが、孝倪郎さんは銖を暪に振る。

「そうじゃない。さっき君ず別れおからある人物に遭遇しおね。話の流れから、これは君たちに盎接䌚っお䜓感しおもらうのが手っ取り早いず思っおね」

「ある人物  」

「ああ  」
 圌の目線を远っおいくず、あずからもう䞀人、誰かが走っおくるのが芋えた。じっず目を凝らす。その人に心圓たりがあったおれはぎょっずする。

「えっ  。舞たい  」

 目をこすっおもう䞀床芋るが、芋間違いではなかった。目の前にやっおきたのは野䞊舞のがみたい。おれず同居しおいるめぐの倫、野䞊翌のがみ぀ばさの効だった。高校球児だった父芪の圱響をもろに受けた舞は珟圚、女子瀟䌚人野球チヌムに属しおいるず聞いおいたが、平日のこんな時間になぜ  

「はぁ、はぁ  。やっず远い぀いたヌ  」
 孝倪郎さんより圧倒的に若いはずの舞は、立ち止たるなり肩で息をした。萜ち着いたずころでようやくおれに向き盎り、頭を䞋げる。

「  悠斗さん、ご無沙汰しおたす。祖母の葬儀以来ですから、玄二幎ぶりですか。その顔は  驚いおたすね ですが、わたしだっお驚いおるんですよ。二人の関係に。どうしお元プロ野球遞手の氞江さんず氎泳コヌチの悠斗さんが知り合いなんです」

 舞ずは野䞊家ずの亀流をする䞭で䜕床か顔を合わせおいる。今話題に出たように最埌に䌚ったのは葬儀の垭。孝倪郎さんずクラブを運営し始めたのはそのあずだし、舞はここ数幎垰省しおいないからおれたちの関係を知らないのは圓然のこずだった。

 舞は曎に疑問を口にする。
「氞江遞手ず蚀えば『鬌の氞江』で有名じゃないですか。匕退しお久しいずは蚀え、冷培非情ずも蚀われた人物がこんなに穏やかな衚情をしおいるなんお信じられたせん  。その理由が知りたいず蚀ったら぀いおくるように蚀われお  。教えおください。ここ数幎の間にいったい䜕があったんですか」

「䜕っお  。初めお䌚った日に䞀緒に颚呂に行っただけだけど」

「  颚呂っお、公衆济堎」

「ああ。あずは、うちで飯食ったりずか。特別なこずはなヌんもしおない。孝倪郎さんが勝手に倉わっおったっおだけ」

 さっぱり理解できない、ずいった衚情の舞を尻目に孝倪郎さんはニコニコ顔で蚀う。

「勝手なこずがあるか。僕は君たちに倧いに感化されお生たれ倉わったんだよ。そう、君たちのおかげでね。  ずころで、このあずお邪魔しおも構わないかな 圌女に鈎宮家の暮らしぶりを芋せたいし、僕もめぐさんずたなちゃんの顔が芋たいんだ」

「さっきクラブで䌚ったばかりなのに 本圓に奜きですね、めぐたちのこずが。どうぞ、ご自由に」
 拒む理由もないのでい぀も通り了承する。䞀぀心配なこずがあるずすれば、晩の食材が足りるかどうかだけ。

「  晩飯、食っおいくんでしょう 二人分远加で買いたいんで、すぐそこのスヌパヌに寄っおもらっおいいですか 買うものは決たっおるんで」

「もちろん、構わない。君も時間はあるね」

「あ、はい  」
 舞は返事をしたが、モゞモゞしおいる。
「だけど、いいですか 悠斗さん。いきなりお邪魔しおも」

「おれずめぐは倧䞈倫。あずで垰っおくる翌がなんお蚀うかは知らないけど」

「ですよねぇ。䌚いたくないなぁ  」

 同居しおいる翌から舞の話はほずんど聞かないので、兄効仲がいいのか悪いのかは知るよしもない。しかしこれはおれの勘だが、嫌いだからずか面倒くさいからずか、そういう理由で拒んでいるわけではない氣がした。぀たり、䜕か悩みを、問題を抱えおいお、それを知られたくないから枋っおいるように思えるのだ。

「  た、ずりあえず来いよ。めぐずなら話せるだろ 埓姉効いずこなんだし。どうしおも翌がうるさく蚀っおきたらおれからひず蚀、蚀っおやるからさ」

「  それじゃあ、ちょっずだけお邪魔させおください」
 おれの蚀葉を聞いお安心したのか、舞はぺこりず頭を䞋げた。



10舞

 面ず向かっお話しおみお、そのたっすぐな目を芋おようやく、埓姉効のめぐちゃんず兄が悠斗さんず暮らすこずを遞んだ理由が分かった氣がした。突然抌しかけおきたわたしの内情を䞀぀も聞かず、ただ「来いよ」ず受け容れおくれるなんお、ずんでもない噚の持ち䞻だ。

ひょっずしお、氞江遞手も悠斗さんのこういうずころに感化されお  

 きっずそうだ。䜕しろ、䌚っお間もないわたしを真っ先に悠斗さんの元に導くくらいだもの。䜙皋信頌しおいるに違いない。




 鈎宮家にお邪魔するのは今回が二床目。䞀回目の時は兄ずめぐちゃんの結婚匏の時だった。自宅で挙匏するずいうのは今どき珍しいかもしれないが、圓時こちらで䞖話になっおいた足腰の匱い祖父母にも晎れ姿を芋せたくおそのような遞択をしたず聞いおいる。

「ただいたヌ。めぐ、人数が増えた。今倜は六人だ」
 悠斗さんは靎を脱ぎながら宀内のどこかにいるであろうめぐちゃんに声をかけた。するず奥の方からパタパタず足音が聞こえおきた。

「おかえりヌ。  ええっ 珍しい組み合わせ なんで舞ちゃんず䞀緒に」

「おれもよく分かんないんだけど、成り行きでこうなった。た、ずにかく諞々のこずは飯食いながら聞こうず思っお。  今日はハンバヌグだろう 二人分の材料を远加で買っおきたから䞀緒に䜜っおもらえるか」

「オッケヌ。人数が増えたなら早速メむンディッシュの支床を始めなきゃ。悠くんたちはたなず遊んでやっおくれる」

「了解」
 めぐちゃんは悠斗さんから食材を受け取るず、すぐに台所に立った。

「あ、わたしも手䌝うよ。自分の食べる分くらいは䜜らないず申し蚳ないから  」

 実を蚀うず子䟛の盞手は苊手。たずえそれが姪っ子であっおも、だ。神様は絶察にわたしず兄の性別を取り違えたず思う。なぜなら、野球が埗意なのは兄じゃなくおわたしだし、幌皚園の先生になるほど子䟛が倧奜きなのはわたしではなく兄なのだから。

 そんなこずを考えおいるずは思っおもいないであろうめぐちゃんは、「助かるヌ。それならこの゚プロンを着けお。たずは玉ねぎをみじん切りにしおもらっおいいかな」ずい぀もの明るい調子で蚀った。

 手枡された゚プロンは、おそらく普段は兄が䜿っおいるものだろう。幌皚園の先生をしおいる兄らしく、パステルカラヌの生地にかわいい猫の柄が入っおいる。それを身に぀けおみお思う。わたしはこんな色や柄が䌌合う女じゃないず  。




 䞍噚甚ながらなんずか玉ねぎを现かく刻み、挜肉ず䞀緒にボりルに入れる。その他の材料ず混ぜ合わせ、手分けしお䞞く成圢する。必死なわたしずは察照的に、隣のめぐちゃんは錻歌を歌い、居間では男性陣が姪っ子ず戯れおいる。

 䞀瞬、䞖界が止たっお芋える。

 そんなものはどこにも存圚しないず思っおいた。だが、絵に描いたような家庭がここに、目の前にある  。

 埓姉効ず結婚した兄、その埓姉効のめぐちゃんを奜いおいる悠斗さん、そんな恋敵である悠斗さんず同居しおいる兄が暮らすこの家はあたりにも非垞識で、ずっず理解するこずができなかった。今の今たでそうだった。だけど、非垞識な圌らの幞せそうな姿を芋おしたったわたしは急に、自分の方が間違っおいたのではないかず蚀う氣になっおきた。

幞せっお、なんなんだろう  

 そこぞ兄が垰宅する。

「うわっ、どうしよ  」
 反射的に、兄の゚プロンを着けおハンバヌグをこねおいる姿を芋られたくないず思ったが、料理䞭の汚れた手のたたでは隠れるこずも出来ない。

「倧䞈倫だよ、舞ちゃん。このたた料理を続けよ」
 右埀巊埀するわたしを萜ち着かせようずめぐちゃんが埮笑む。しかし、郚屋に入っおきた兄ず目が合った瞬間、わたしの顔は匕き぀った。

「お、お邪魔しおたす  」

「なっ   なんで舞がうちにいるんだよっ しかも飯たで䜜っお  」

「たぁたぁ、萜ち着いおよ翌くん。きょうだいなんだからい぀遊びに来たっおいいじゃん 孝倪郎さんだっお突然蚪ねおくるじゃない。それずおんなじだよヌ」

「いや、たぁ、そりゃあそうだけどさ  。あんたりにも珍しい来客にびっくりしおんだよ。だっお実家ならずもかく、所垯持ちの兄の家っお  」

「わたしだっお、来たくお来たんじゃない  。氞江さんが『来たたえ』っお蚀うから仕方なく  」

 兄ずわたしずは幌少の頃から性栌が合わない。䌚えばこういう反応をされるこずは分かっおいた。

やっぱり、来るんじゃなかった  。

 晩ご飯に誘っおはもらったが、手䌝いを終えたらすっず消えた方がお互いのためだろう。

「めぐちゃん、わたし  」
 晩ご飯のキャンセルを申し出ようずした時、居間にいたはずの悠斗さんが兄に飛びかかった。

「さおはお前、舞がめぐず料理しおるのを芋お嫉劬しおるな 俺の奥さんず䞊んで料理するずは䜕様だ、っお顔しおるぜ」

「いや、そういうわけじゃ  」

「だったら文句はなし。飯がたずくなる。どうしおも䞀緒が嫌ならお前は䞀人で食っおくれ」

「えヌ 今日の悠斗くんは冷たいなぁ  。い぀もみたいにもっず優しく接しおくれよぉ  」
 さっきたでトゲトゲしおいた兄が急に猫なで声になった。その倉貌ぶりに驚きを隠せない。しかし悠斗さんはわたしに向かっお「蚀っただろ。おれが䞀蚀、いっおやるっお」ず笑うだけだった。




 ハンバヌグが焌き䞊がり、六人で食卓を囲む。芋慣れた芪族の䞭に䞀人、有名人がいる違和感。そしおその䞀人がいるために緊匵しおいるわたしは党く食事が喉を通らなかった。

 そんな䞭で氞江氏が嬉しそうに話し始める。

「そう蚀えば、本郷クンから聞いたんだが、息子の圭二郎が婚玄したそうだよ。球団から正匏に発衚もされたらしい。今床お祝い䌚でも開こうかず思うんだが、君たちもどうかな」

圭二郎  

 今䞀番聞きたくない名前を聞いたわたしは怒りのあたり、今日䌚ったばかりの氞江氏を睚み付けおいた。わなわなず震えるわたしを芋お察しのいい兄がその理由に氣付いたようだ。

「マゞかよ、コヌタロヌさん  。よりによっお今、この垭でその話題を振るっお  。いくら空氣読めないからっおタむミング悪すぎ  」

「  僕はただ、最新のニュヌスを披露しただけなんだが」

「  もしかしお舞ちゃん。その圭二郎さんのこず  」

「それ以䞊蚀わないでっ  」
 わたしは勢いよく垭を立ち、食卓を離れた。怒りを通り越しお涙がこがれそうだったからだ。玄関から倖に出ようず詊みたが、叀い䜏宅の匕き戞の解錠方法が分からず、足止めを食らっおしたった。

 蟌み䞊げる怒りを吐き出す堎所を倱ったわたしは堪えるこずしか出来なかった。

   そう。わたしは圭二郎が奜きだった。父の友人で元プロ野球遞手・本郷祐茔さんの䞉きょうだいずは、子䟛の頃から野球を通じお亀流しおきた。職人気質の長男、創倪ずは違い、圭二郎は䜕でも出来るマルチプレむダヌ。そんな圌に惹かれるのは必然だった。もちろん女の子のファンは倚かったが、連絡すれば必ず返事をくれるマメな性栌だから、わたしはすっかり安心しきっおいたのだ。

恋人がいたなら、そう蚀っおくれれば良かったのに  。わたしのどうでもいいメヌルにも返信しなくお良かったのに  。

 悔しかった。悲しかった。どうしおいいか分からなかった。それで今日は仕事を䌑み、郚屋を飛び出しおきたのだ  。

「舞  」
 玄関先たで芋に来おくれたのは悠斗さんだった。
「ちょっず、出ようか」
 悠斗さんはわたしの返事を埅たずしお靎を履き、玄関扉を解錠した。わたしは無蚀で埌に続いた。




 冷たい颚が吹いおいた。柄んだ倜空には现かい星々が茝いお芋えたが、わたしの心は淀よどみきっおいお真っ暗だ。

 ぀いおいった先は近所の公園だった。寒颚吹きすさぶ倜の公園には誰もいない。倖灯の䞋のベンチに悠斗さんが腰掛け、䞀人分を開けおわたしも座る。

 長い間、沈黙の時が流れた。
「  䜕も聞かないんですね」

 たたりかねお呟くず「聞いおほしいならそうするけど、そうじゃないだろう」ず返っおきた。再び口を閉ざす。黙っおいるず悠斗さんの方から話し始める。

「  これだけは蚀っおおくけど、孝倪郎さんに悪氣はない。ああいう人なんだ、どうか蚱しおやっお欲しい」

「蚱すも䜕も  。わたしこそ倧人げない態床を取っおしたい、申し蚳なかったです」

「  お前の態床から勝手に想像しお話すけど、倱恋は蟛いよな。おれも散々しおきたから分かるよ。未だに匕きずっおるし」

「え、そうなんですか  」

「お前の叔母の映璃えり。぀たりはめぐの母芪に圓たる女だけど、あい぀には䜕床アタックしおもダメ。このごろはデヌトに誘っおも秒びょうで断られる始末だ」

 思いがけない告癜に戞惑いながらも、悠斗さんの恋愛遍歎が氣になりすぎお話を続ける。

「いやいや  。そりゃあ映璃姉さんはダメでしょ。倫の地博あきひろ兄さんが蚱すはずないもの。確か、高校時代からの友人なんでしょう」

「ああ  」

「  っおいうか、そうず分かっおおデヌトに誘うんですか だっお盞手は劻子持ちですよ 信じられたせん  」

 吊定ばかりするわたしの蚀葉が錻に぀いたのか、悠斗さんは銖を暪に振った。

「劻子がいたら自分の氣持ちを䌝えちゃいけないなんお誰が決めた 別におれは略奪しようっおいっおるわけじゃない。盞手の氣持ちに蚎えかけお、最終的に向こうの氣持ちがおれに傟いたなら䜕の問題もないじゃん。それのどこがいけない 逆に蚀えば、䜕十幎も氣持ちや考えが倉わらないなんお、そっちの方があり埗ないずおれは思うけど」

「じゃあ悠斗さんは、婚玄を発衚した圭二郎にわたしの氣持ちを䌝えろっお蚀うんですか」

「本圓に盞手を愛しおいお、䞀緒になりたいんならそうすりゃいい。だけど䞀蚀いわせおもらえるなら、ここは䞀床冷静になっお自分の内偎ず察話するこずを勧める。  孝倪郎さん、自分が倉われたのはおれたちのおかげだっお蚀ったんだろう それでお前をうちぞ連れおきたんだろう」

 行く宛おも決めずに飛び乗った電車。自暎自棄になったわたしが無意識のうちに降り立ったのは、十代たで暮らした故郷にある駅だった。その駅前に建぀ビルから出おきた氞江さんのキラキラ光る笑顔に衝撃を受けたわたしは、理由を調査すべく圌に話しかけた。それが事の発端だ。話すうちにわたしが、氞江さんの野球郚の埌茩、野䞊路教のがみみちたかの嚘であるこずがバレお䞀瞬氣たずくなったものの、埌にその父ず兄ず悠斗さんの䞉人がきっかけで「鬌の氞江」を手攟せたこずが刀明。理由が知りたいのなら盎接䌚っおみればいいず、半ば匷制的にここぞ導かれたのだった。

「  なぜ、悠斗さんは今でも映璃姉さんのこずを想い続けおいるんですか」
 わたしず同じ境遇の悠斗さんからは䜕かヒントがもらえるような氣がしお尋ねた。

「そりゃあ、映璃が魅力的だから。  なんおな。たぁ、今はもう母芪的存圚だず思っおる。䞀緒にいる時の安心感を求めおるだけなのかもしれないけど  。んヌ、蚀葉で説明するのは難しいな。おれ、蚀語化胜力れロだから  」

「あ、今のうたく蚀えないっおずころ、わたしも分かりたす  」
 ずにかく説明できないモダモダしたものが胞の䞭で枊巻いおいるのだ。この正䜓が知りたくお思い悩むのだが、なかなか蚀語化できない。わたしの脳みそが野球で出来おいるように、元氎泳コヌチの悠斗さんの脳みそも同様の䜜りに違いない。そういう意味でわたしたちは䌌た者同士ず蚀えよう。

氞江さんが蚀っおいた通り。確かに、実際に䌚っお話しおみなければ分からない魅力が悠斗さんにはある  。

 戻ればたた兄に䜕か蚀われるかもしれない。だけど、もう少し悠斗さんず話がしたかった。

「わたしも氞江さんのように倉わりたいな  」
 ぜ぀りず呟くず、悠斗さんはベンチからすっず立ち䞊がっおわたしの前に回った。

「そんじゃ、戻るか。ずりあえず䞀緒に飯を食おう。倚分、みんな埅っおるず思うぜ。お前が戻っおくるのを」

 ほら、行くぞ。悠斗さんが倧きな手を差し出した。恐る恐る握り返す。その手はずっおも枩かかった。


11悠斗

 孝倪郎さんの時は、垌死念慮があるず事前に聞いおいたこずや同性だずいうこずもあっお自然ず救枈の手を差し䌞べた。しかし、舞の堎合はかなりざっくりず「倱恋したらしい」ずいう想像だけで盞談に乗り、家に連れ戻しおしたった。普段から面倒芋のいい方ではない。なのに、よりによっお倱恋した女を慰めようずしおいる  。

 こんな行為に及んだ理由はおそらく、恋に悩む舞の姿をみお、五歳で急逝した嚘のこずを思い出したからだろう。生きおいたら舞より少し䞊くらいの幎霢。きっず同じような悩みを抱えおいたに違いない。

 もちろん、嚘が生きおいたずしおもおれに恋愛盞談をするずは限らない。むしろ、しない可胜性の方が高い。だけど、孝倪郎さんが鈎宮家の暮らしぶりを芋せたいず舞をうちぞ連れおきたのが偶然ではなく必然だったずすれば、おれは倚分、舞の面倒を芋る必芁がある。

 家に戻るず、おれの蚀ったずおり家族は舞の垰還を埅っおいた。孝倪郎さんも含め、家族が党員玄関に集たる。

「お垰り、舞ちゃん。ご飯、枩め盎しおあるよ。私も途䞭だから䞀緒に食べよ」

「う、うん  。ありがずう、めぐちゃん」
 この厚意を受け取っおいいのか ず蚀わんばかりの目を向けられ、うなずく。

「おたえ、ずっず家族で飯なんか食っおないからこの感芚忘れおんだろう なぁに、孝倪郎さんだっおすぐに銎染んだんだ。おたえもすぐに慣れるさ」

「    」

 戞惑っおいるらしい舞をめぐが導く。
「ほら、こっちこっち」

「こっちだよ」
 たなも真䌌をしお舞の手を取る。

「ああ、たなが安心しおるなら倧䞈倫。舞はもう我が家の人間ずしお受け入れられたよ」
 最埌には翌もそう蚀っお舞の埌に続いた。




 倕食は、おれたちが垭を離れる前ずほずんど倉わらない状態で残っおいた。たなの分さえも、だ。それを芋た舞はさらに動揺した。

「うっそ  。わたしが戻っおこなかったらどうする぀もりだったの」

「そんなこず、少しも思わなかったよ。だっお悠くんが぀いお行ったんだもん。なんずかしおくれるっお信じおた」

「  あはは。悠斗さん、めちゃめちゃ信頌されおるんですね。たるで  たるで圭二郎みたい」

 おれは野球に疎いから、枊䞭の圭二郎氏がどれほどの人物か党く知らない。しかし、䞀人の女を泣かせるろくでもない男だっおこずだけは分かる。

「マむマむ、元氣出しお。たなちゃんがギュヌッおしおあげる」

 幌少のめぐにそっくりのたなが、舞を正面から抱きしめた。どんな事情があろうずも関係ない。たなは目の前で泣いおいる人がいれば自らの愛で包み蟌んであげるこずのできる、本圓に優しい子だ。

「わたし、ただ䜕も話しおないのに  。この䞀家っおみんなテレパシヌが䜿えるの こんなにも優しくされたら  ずっずここにいたくなっちゃう」
 舞はそう蚀っお䞀床倩井を芋䞊げた。
「  なんおね、うそうそ。そんな図々しいこずするわけないじゃん」

「えヌ、図々しくなんかないっおば」
 すぐに反論したのはめぐだ。
「居たいだけ居たらいいよ。ねぇ、悠くん」

「ああ、おれはその぀もりだったけど。問題は翌だな」

「え、俺」

 翌はちらりず舞を芋たが、すぐに小さく息を぀いた。
「  悠斗が次に救うのが舞だっおんなら仕方がない。舞にひそむ問題が解決するたでの間――出来れば短いこずを願うけど――なんずかやっおくよ。た、十八幎くらいは䞀緒に暮らしおたんだ。その頃を思い出しながら接すればいいだけの話だ」

「    」
 舞は唇をかみしめ、返す蚀葉を考えおいるようだった。その間は誰も蚀葉を発さずに埅぀。やがお顔を䞊げた舞はおれたちを芋回しお蚀う。

「わたし、決めた。しばらく䌑職しおこのうちで暮らす。そしお、この先どう生きればいいかちゃんず考えおみる」

「    」
 䌑職、ず聞いお党員が驚いた。しかし、心身ずもに远い詰められおいるのだずすれば、䞀床仕事から離れ、リフレッシュするのが䞀番奜たしいだろう。

「舞クンはいい決断をした。その勇氣をたたえ、埮力ながら僕も協力するずしよう」
 孝倪郎さんがうれしそうに蚀った。
「さぁ、そうず決たれば食事にしよう。たた料理が冷めおしたう」

 圌の蚀葉を合図に䞀同は垭に着き、もう䞀床「いただきたす」ず手を合わせた。


12舞

 圭二郎の婚玄のニュヌスを聞いたずきには、たさかこのわたしが䌑職を宣蚀し、鈎宮家でお䞖話になるなんお考えもしなかった。だけど、偶然芋かけた氞江さんに思い切っお声をかけたずころからわたしの運呜の歯車が少しだけ違う方に回り始めた氣がしおいる。

 こんなに倧人数で晩ご飯を食べたのはい぀ぶりだろう ありふれたメニュヌなのに、普段食べおいるご飯よりうんずおいしく感じるのはなぜだろう さっきは䞀ミリも喉を通らなかったずいうのに、しばらくここに居るず決めたら急に食欲が出おきおあっずいう間に平らげおしたった。

「あれ、もう食べちゃったの ご飯のお替わり、あるよ」
 氣を利かせためぐちゃんが垭を立ずうずしたので慌おお止める。しかし「遠慮しなくおいいんだっおば」ずにこやかに返され、茶碗に癜米が远加された。

 結局、よそっおもらったご飯もしっかり平らげたわたしは、しばらくこの家で居候になるのだから  ず食噚掗いを自ら買っお出た。

 実家にいた頃はほずんどしたこずのない家事。野䞊家四人分でも倚いず感じおいたのに、今日は幌児も含めお六人分ある。

「ねぇ、普段はこれ、めぐちゃんが䞀人でやっおるの 倧倉だね  」

 端でほかの甚事をしおいた圌女に向かっお蚀うず、「䞀人でやっおないよ。我が家の家事は党員でやるのが決たりだから。ああ芋えお、悠くんも時々台所に立っお料理するんだよ」ず返っおきた。

「  そうだよね。今は家事も男女平等にやる時代。特にお兄ちゃんは噚甚だから家事くらいお手の物だよねぇ」

 ずんちんかんなこずを聞いおしたったず埌悔した。掗い物に意識を向けようずしたずき、めぐちゃんが隣にやっおきお蚀う。

「  ねぇ。圭二郎さんっお確かゎヌルデングラブ賞を取ったこずがある人だよね テレビでしか芋たこずないけど、舞ちゃんが奜きになるくらいだもの。きっず玠敵な人なんだろうな」

 めぐちゃんなりにわたしを慰めようずしおいるのだろうか。しかし、今はあい぀に぀いお話したくなかった。なんずかごたかす方向で話を進める。

「よく知っおるね。  めぐちゃん、野球には興味ないもんだず思っおた。お兄ちゃんも疎いし」

「実は、私が勀めるお店のオヌナヌが元高校球児でさ。シヌズン䞭はずっず野球のテレビ䞭継を流しおるんだよね。お客さんの䞭にはそれ目圓おの人もいるから、話題を振られおも答えられるくらいの情報は頭に入れずかないずいけなくお  」

「なるほど  。そこっおスポヌツバヌなの」

「んヌ  。喫茶店兌、バヌ兌、事務所兌、䌚議宀兌、ラむブハりス、かなぁ」

「なにそれ   倉なお店  」

「うん、そうなの。でもすっごく居心地がいいんだ。舞ちゃんも䞀床遊びに来るずいいよ」

「あヌ  。でも今は遠慮しずこうかな  」
 恋に砎れたばかりだずいうのに、わざわざスポヌツバヌのようなずころに行っお傷口を広げる぀もりはない。しかしめぐちゃんは諊める氣がないらしい。

「うちの店はね、誰もが奜きなずきに立ち寄れお、奜きなこずができる憩いの堎なの。少し口は悪いけど双子のオヌナヌたちはずっおも優しいし、䜕も泚文しなくおも倧䞈倫なお店だから、だたされたず思っお䞀回遊びにおいでよ。い぀でもいいからさ」

「じゃあ、たぁ  。氣が向いたら」

 入店しおも泚文しないでいい店なんお聞いたこずがない。めぐちゃんが嘘を぀いおいるずは思わないが、垞識的に考えればそんなこず  。

 そこたで考えお思考を止める。

 よく考えおみればこの䞀家自䜓が垞識倖れ。ならば、めぐちゃんが心地よく勀める喫茶店のオヌナヌが、わたしの知る垞識から倖れおいたずしおも䜕ら䞍思議ではない。

うヌん  。なんだか蚳が分からなくなっおきた  。

 食噚掗いが終わったずころで匷制的に話題を倉えるこずにする。

「  はいっ、掗い物おしたい あヌ、めぐちゃん。パゞャマになりそうな服を䞀着貞しおくれない 今倜だけ。明日には自分のを持っおくるから。  お願いね」

「オッケヌ。ちょっず埅っおおね」

 少し匷匕だったかもしれないが、めぐちゃんは氣にしおいない様子でたなちゃんず䞀緒に自宀ぞ向かい、寝間着を持っおきおくれたのだった。




 氞江さんが垰宅するず、䞀家は子䟛の就寝に向けお動き始める。
「さお、お颚呂を沞かさなくっちゃ」

 めぐちゃんが慌ただしく济宀に行こうずするのを芋お悠斗さんが匕き止める。
「どうだろう 今日は舞も来おるし、みんなで枩泉に行くっおのは。ちょっず寒いけど、すぐそこだしさ」

「やったヌ たなちゃん、おっきいおふろに行きたい お父さんずいっしょに入るヌ」

「よヌし、それじゃあ決たりだな。舞も、今日はそれでいいだろう」

 その提案はずおもありがたかった。急なこずだったから党くの手ぶら。䞋着はもちろん、歯ブラシの甚意もない。どのみち買いに出ようず思っおいた。

「近くの枩泉っお蚀ったら、実家の近くのあそこ、ですよね   実は䞀床も行ったこずがないんです。せっかくの機䌚なので䞀緒に行かせおください。ずっず氣になっおいたんです」
 そう答えるず悠斗さんは嬉しそうに笑った。




 わたしの知る枩泉斜蚭は昭和の銙りが挂う昔颚の建物だったが、今日来おみたらすっかりきれいにリニュヌアルされおいた。若い人の姿も倚く芋られ、掻氣づいおいる。

 たなちゃんは宣蚀通り悠斗さんたちず男颚呂に入っおしたったので、わたしはめぐちゃんず二人でゆっくり女湯に぀かる。

「うヌん   たなのいないお颚呂に入るなんおい぀ぶりだろう 今日は長颚呂するぞヌ」
 めぐちゃんは䞡腕を䌞ばした埌、肩たで湯に぀かった。
 圌女ずは、芪戚の集たりでは䜕床も䌚っおいるが、二人きりになったのは初めおかもしれない。

「ねぇ、めぐちゃん。前々から聞こうず思っおたんだけど  」
 小さな声でためらいがちに尋ねる。

「どうしおお兄ちゃんだったの いずこ同士っおずころに抵抗はなかったわけ   幎はうんず䞊だけど悠斗さんを遞ぶこずも出来たはずでしょう」

 自分の倱恋話はしたくないけど、既婚者のなれそめ話は聞きたい。本圓にむダな女だず自分でも思う。でも、幞せ党開のめぐちゃんならきっず教えおくれるだろう。案の定、圌女は䜕のためらいもなく話し始める。

「二人ずも倧奜きな人だからどちらか䞀人を遞ぶのは本圓に難しかったよ。だけど䞀番の決め手は翌くんの曞いおくれたラブレタヌかな。あんなのを芋おしたったら胞キュンだよね。あずは家庭的なずころ、かなぁ」

「じゃあ、成人しおすぐに結婚した理由は」

「そりゃあ、ずっず思い続けおくれた翌くんをこれ以䞊埅たせたくなかったからだよ。パパも成人埌ならいいっお最初から蚀っおくれおたし」

「ふヌん  。いいね、めぐちゃんは。奜きな人ず結婚できお。うらやたしいな」
 結局、倱恋を思い出すような蚀葉を自ら口に出しおしたう。自分の浅はかさに呆れおため息を぀く。

「  舞ちゃんだっお出来るよ、きっず」
 優しいめぐちゃんはそう蚀っおくれたが、ちっずも嬉しくなかった。

「めぐちゃんは若いからいいじゃん。わたしはもう䞉十だよ 結婚するならそろそろいい人を芋぀けないず  」

 職堎の同期が次々、結婚しおいくのを目の圓たりにするず焊りも生じる。そんな䞭で圭二郎の婚玄を知ったのだから、傷぀き方も半端ない。ずはいえ、若くしお結婚しためぐちゃんにはわたしの氣持ちなど分かっおもらえるはずもなく、思っおもみない提案をされる。

「じゃあ、悠くんはどう 今はフリヌだし」

「え、悠斗さん いやいや、それはさすがに  」
 結婚を急いではいるが、フリヌなら誰でもいいずいう蚳ではない。
「そりゃあ悠斗さんは玠敵な男性だけど、二十五歳差はダバいっしょ  」

「そう 私なんお䞉十個離れおるけど、悠くんずの結婚は䞀時期本氣で考えおたよ。すっごく優しいし、包容力もある。最終的には結婚しなかったけど、䞀緒に暮らせる今の生掻には本圓に満足しおるんだ」

 実に幞せそうな衚情で語るのを芋お、圌女が心からそう思っおいるのが䌝わっおきた。しかし、わたしはそれを吊定するかのように䜕床も銖を暪に振った。それを芋たからか、今床はめぐちゃんから質問される。

「んじゃあ、舞ちゃんはどうしおすぐに結婚したいの 子䟛が欲しいから」

「え そりゃあ  」

 返事をしようずしたが、すぐに蚀葉が出おこなかった。将来的に子䟛は欲しいずうっすら思っおはいるものの、姪っ子でさえ苊手にしおいる珟状では我が子を愛せる自信もない。

もしかしおわたしは、呚りず違っおいるのがむダだからっお理由で結婚しようず思っおた  

 適霢期になったら同幎代の人ず結婚しお子䟛を産むのが圓たり前。そう思い蟌んで生きおきたが、実は垞識にずらわれおいただけだったのでは ずいう考えが浮かんできお怖くなる。

 自分では䜕も考えおいなかったず蚀う事実を突き぀けられた氣がした。野球が奜きだから瀟䌚人野球郚のある䌁業に就職したけれど、本圓にそれでよかったのか 適霢期になっおも結婚しおいない人は本圓に垞識倖れで責められるべき存圚なのか 疑問が頭の䞭で枊巻く。

 う぀むくわたしに、めぐちゃんが埮笑みかける。

「悩みがあるなら、うちにいる間、悠くんにいろいろ盞談しおみるずいいよ。私も翌くんも、それから孝倪郎さんも、経隓豊富な悠くんには䜕床も救われおきたんだから」

「    」

 先ほど公園に連れ出しおくれた悠斗さんのこずを思い出す。その顔はずおも穏やかで安心感があったし、䜕よりも自分の倱恋話をしおたでわたしを慰めおくれた。

 悠斗さんのこずはただの小父さんず思っおいたが、知れば知るほどすごい人だず蚀うこずが分かる。急に興味が湧いおきた。

「そうだね。せっかく居候になるんだし、これを機にわたしも勉匷させおいただきたす」
 かしこたっお頭を䞋げるわたしを芋お、めぐちゃんは「倧袈裟おおげさヌ」ず蚀っお笑った。




 ようやく湯船から出る。少しのがせ氣味だがいい話が出来たこずに満足する。わたしの短い髪はドラむダヌを数分圓おればすぐ也く。しかしロングヘアヌのめぐちゃんは時間がかかりそうだ。

「先にロビヌで埅っおお。也いたら合流するから」

「オッケヌ。それじゃ、お先に」
 めぐちゃんずそんなやりずりをし、䞀足先に女湯の暖簟のれんをくぐり出る。

 ロビヌではすでに男性陣ずたなちゃんが埅っおいた。怅子に腰掛け、談笑しおいる。埌ろから声をかけようずしたずき兄の問いかけが耳に入る。

「  そういえば、なんで舞を救っおやろうなんお思ったんだよ」
 思わず立ち止たり、その堎で耳を傟ける。わたしもその理由が聞きたかったからだ。

「䜕でっお、おれも埌から考えおみお分かったこずだけど、たぶん、マナ、、が生きおたら今の舞くらいの幎だっただろうなっお思ったからだず思う」

「ああ、それで  。だけど、今は野䞊たなずしお生たれ倉わっおるじゃん もう未緎はないもんだず思っおたんだけど」

「未緎なんおないよ。でも、なぜか急にそんなこずを思ったんだ。  誰にだっおあるだろう 昔を思い出す瞬間くらい。お前なら、めぐの幌少期ずか」

「んヌ、たぁ、確かにあるな。あヌ  普段はあんたり意識しないけど、りン十幎も前の話を聞くず、そういえば悠斗はアキ兄ず同じ五十代だったなっお思い出すよ」

「ん 今お前、おれをゞゞむだず思っただろ 蚀っずくけどおれは、名実ずもに祖父じいさんのあい぀よりずっず若い぀もりだぜ」

「分かっおるよ。もう、そんな怖い顔するなよヌ。せっかくの矎圢が台無しだぜ」

えヌ あの、たなちゃんが生たれ倉わりっおどういうこず いた、聞いちゃいけないこずを聞いちゃったかも  

 この䞀家には䜕か秘密があるず薄々感じおはいた。しかし接点も少なかったし、あえお聞く必芁性も感じおいなかったからそのたたにしおいた。だけど、しばらく居候になるなら秘密を明らかにしなければ氣が枈たない。

「あ、舞ちゃんここで埅っおおくれたの 悠くんたちず合流しおくれおおよかったのに」
 わたしが立ち聞きしおいたこずなど知るよしもないめぐちゃんに声をかけられた。

「あ、うん。えヌず  。このチラシを読んでたんだ」
 適圓な嘘を぀いおごたかす。そしお、䜕食わぬ顔で圌らの元に向かう。

「あ、ママずマむマむだヌ」
 䞀番先にたなちゃんが氣付き、めぐちゃんにひっ぀く。
「きいおきいお。お父さんったらね、お魚さんみたいにすいすい泳いでたんだよ そしたらね、おじいさんに怒られちゃったんだよ」

「そうなの お父さんは泳ぐのが埗意だからねぇ。今床はプヌルで泳ぎなさいっお蚀っおあげようね」

「うん」

「おいおい、めぐたでおれを叱る぀もりかよ こちずらひどい目に遭ったっおのに、勘匁しおくれよ」

「えヌ 湯船で泳いじゃダメでしょ  。翌くんも止めおあげなきゃ」

「いやぁ、悠斗の朜氎する姿があんたりにもきれいだったから、぀い芋入っちゃっお」

 䞀家の䌚話を䞀通り聞いお改めお思う。やっぱり、䜕かが倉  。

今たで違和感なく聞いおたけど、そう蚀えばなんで、たなちゃんは悠斗さんのこずをお父さんっお呌んでるの   もしかしお、さっき話しおた生たれ倉わりず関係が   めぐちゃんも容認しおいるみたいだし  。それから、悠斗さんの朜氎姿に芋ずれるお兄ちゃんもどうなのよ 同性愛の氣があるなんお聞いおないよ  

 芪族なのに、知らないこずが倚すぎる  。

「舞ちゃん がヌっずしおるけど倧䞈倫」

 めぐちゃんに声をかけられお我に返る。
「あヌ  。ちょっず、のがせちゃったかも。でも、倧䞈倫」

「ならいいけど  。さお、それじゃ湯冷めしないうちに垰ろっか」

「かえろ、かえろ」
 たなちゃんが、わたしずめぐちゃんの手を取った。ドキッずしお思わずその顔を芋る。たなちゃんの柄んだ目が、わたしの汚れた心を芋透かしおいるようで怖かった。



13悠斗

 ここらで、おれずマナ、、ずの関係に぀いお話しおおこう。

 今同居しおいる野䞊たなの「魂」はか぀お、おれの子䟛の鈎宮愛菜すずみやたなずしおこの䞖に生を受けた。しかしおれが監芖を怠ったばかりに、あろうこずかおれの倧奜きな海で溺死した。

 愛菜の死埌に劻ずも離婚。その埌長いあいだ、愛菜が死んだのはおれのせいだず自分を責め続けた。そんな人生を終わらせおくれたのが野䞊䞀家。圌らずの亀流の䞭で笑えるようになったずき、もう䞀床おれのそばで生きたいずいう願いが神に聞き入れられ、鈎宮愛菜は野䞊たなずしお誕生した。  これが、䞀連の流れだ。

 たなの誕生たでには様々な困難があったし、倧きな決断を迫られたこずもあったが、それを乗り越えたからこそ今の穏やかな暮らしがある。だから今回、舞を芋お、もしおれの子ずしお愛菜が生き続けおいたら  などずいう考えが浮かんだこずには驚きを隠せなかった。しかし倩の神がおれに、舞を救う䜿呜を思い出させるために昔の蚘憶をよみがえらせたのだずすれば䞀応玍埗は出来る。正確には、そう思い蟌たなければこの混乱を鎮められそうになかった。




 䌑職の手続きを枈たせた舞は、それから䞀週間ほど経った平日の昌間に倧きめのリュックを背負っおやっおきた。幞か䞍幞か、野䞊䞀家は党員、仕事や幌皚園に行っおいお䞍圚。䜓操クラブの仕事が午埌からのおれだけで舞を迎えるこずになった。

「  野球から離れるようなこずを蚀っおおきながら、そのリュックなんだな」

 䞡サむドにでかでかずチヌム名が印字されおいる。揶揄うず舞は「  仕方ないじゃないですか。ちょうどいい倧きさの入れ物がこれしかなかったんですから」ず蚀っおう぀むいた。
「それで  わたしはどこで寝起きすればいいんでしょうか」
 恥ずかしさをごたかすように舞はあたりを芋回した。

「家族で話し合ったんだけど、ずりあえず居間に垃団を敷いおそこで寝起きしおもらおうかず思う。以前、オゞむずオバアがそうしおたように
 オゞむずオバア、ずいうのは野䞊きょうだいの祖父母だ。蚳あっお最晩幎は我が家で面倒を芋おいた。

「ああ  」

 舞は唐突に居間の仏壇に向かうず、オゞむずオバアの写真の前で手を合わせた。䜍牌自䜓は舞の実家にあるが、写真だけは逝去しおいるおれの䞡芪ず鈎宮愛菜のための仏壇の前に眮いおいる。

「ここで寝起きしおいたら、二人に芋守られおいる感じがしそうで、いいですね。分かりたした。しばらくはここで過ごさせおもらいたす」

 玍埗したのか、舞はそこで荷物を䞋ろした。そのずきちょうど、おれのスマホのアラヌムが鳎る。たなを迎えに行く時間を知らせるものだ。

「そうだ。舞も䞀緒に行くか たなのお迎えに」
 普段は通園バスで垰宅するが、午前䞭で保育が終わる氎曜だけはおれが迎えに行くこずにしおいる。急な提案だったからか、舞が驚きの声を発する。

「ええっ で、でもわたしなんかが行っおいいのかな  。幌皚園っお歩いお行けるずころなんですか」

「んヌ、今から歩いおだず間に合わないな。  お前、自転車は乗れる」

「そりゃあ乗れたすよ」

「じゃあ、おれがバむクで先導するから、お前は自転車で぀いおきお」
 圓たり前のように蚀うず舞は目を䞞くした。

「  自転車っおもしかしお、倖に停めおあったあのママチャリ あれに乗れっおこずですか」

「そうだけど 普段はおれがあい぀に乗っお迎えに行くんだ。我が家は誰も車の免蚱を持っおないからさ」

「    」

「今日から我が家の䞀員ずしお暮らすんだろう だったら手始めにたなの迎えに行こうぜ。そうだな、぀いでに翌がどんな姿で働いおいるかも芋おいくずいい。勉匷になるはずだ

 舞はう぀むき加枛のたたおれの蚀葉を聞いおいたが、最終的には諊めたようにため息を぀いた。

「  分かりたした。その代わり、眮いおいかないでくださいよ わたしは幌皚園の堎所を知らないんですから」

「んな意地悪なこずはしないよ。オッケヌ。そうず決たればすぐに出発だ」




 無謀な提案だったかもしれない。しかし十幎ほど前、生きる氣力を倱っおいたおれに翌が幌皚園の仕事をさせたように、おれも舞を幌皚園に連れお行かなければならない氣がしたのだ。そう。自分には絶察に出来ないず思い蟌んでいるこずほど、やっおみたら案倖出来おしたうもの。そしおそれをきっかけにしお自己改革が進む。おれはそう信じおいる。

 降園時間は刻䞀刻ず迫っおいるが、眮いおいくなず念を抌されたこずもあり、䜕床も止たりながら埌ろの舞を確認する。寒颚が吹いおいるっおのに、汗だくになっおいる様さたを芋るに぀け、必死なのがうかがえる。察するおれは涌しい顔でバむクの゚ンゞンを吹かす。




 結局、園に到着したのは十䞀時五十五分。閉門ギリギリだった。

「お父さん、おそヌい」
 案の定、たなに叱られる。

「ごめんごめん。ちょうど舞が家に来たもんで、䞀緒に迎えに行こうっお誘ったんだ。自転車の舞を誘導しおたらちょっず遅れた」
 ハグをしながら蚀い蚳をするが、寛倧なたなはすぐに蚱しおくれる。

「それなら、しょヌがない。マむマむ、䞀緒にかえろ」
 たなはすぐに衚情を倉え、今床は舞に抱き぀いた。

「ちょ、ちょっず  」
 そこぞ、クマの顔の぀いたかわいい゚プロン姿の翌が近寄っおくる。

「い぀も早い悠斗が遅いんで心配しおたんだけど、たさか舞を連れおくるずはなぁ」

「ちょうどタむミングがよかったんだ。それず昔、お前に匷制劎働させられたこずを思い出しおさ。園に来れば舞も䜕か考えが倉わるんじゃないかず思っおな」

「あヌ、そんなこずもあったな  。もう九幎くらい前になる あの頃の悠斗の顔ず来たら青癜くお今にも死にそうだったよな。今じゃ別人だけど」

「おかげさたで元氣にやっおるよ」

「はヌい、門を閉めたすよヌ。残っおいるおうちの方ヌ、お子様ず䞀緒にお垰りください」
 談笑しおいるず、門の方から聞き慣れた声がした。翌ず舞の叔母で、おれが未だに口説き続けおる映璃えりだ。

「それじゃ、あずでな」
 翌に挚拶し、駆け足で門の倖に出る。目が合うず、映璃は驚きの衚情でおれず舞を亀互に芋た。

「ちょっずちょっず。悠ず䞀緒なんお、舞ちゃんどうしたのよ」

「あヌ、いやぁそのぉ  」

「映璃。詳しい話は翌から聞いおくれ。ここで話すような内容じゃないから」
 説明するには長い時間が必芁だ。お互いに忙しいずきにする話じゃない。

「えヌ、そうなの   じゃあ、お昌ご飯を食べながら聞いおみようかな」
 映璃はそう蚀ったあずで、再びおれず舞の顔を䞀床ず぀芋た。そしお䜕かを察したかのようにこう蚀う。
「  子育おに人助けに、悠も忙しくしおるね。もし蟌み入った話ならアキにも盞談しおみるずいいよ。䜕しろ倧ベテランのカりンセラヌだからね」

「ああ、どうしおもの時は頌っおみる。ありがずな。  今日もきれいだよ、映璃。それじゃ、たたな」
 さらりず愛情を䌝えおみるが、映璃は苊笑いを浮かべただけで䜕も蚀わずに立ち去っおしたった。



14舞

 知らない人が芋たらきっず芪子に芋えたこずだろう。その䜍たなちゃんは自然䜓でわたしに抱き぀いた。ただ、かくいうわたしの方はぎこちなく受け止めるこずしか出来ず、盎埌にやっおきた兄は内心、笑っおいたに違いなかった。

 それでも、悠斗さんが蚀っおいたように「初幌皚園のお迎え」を経おわたしは今たでにない感芚を味わった。母性が目芚めたずいうか、䞀人の男にこだわっおいた自分が銬鹿らしく思えたずいうか、ずにかくいい方に氣持ちが倉わった。行きずは違い、自転車を挕ぐ足も軜く感じられた。




 前回同様、途䞭で食材を買っお垰る。たなちゃんのリク゚ストで今日の昌は焌きそばに決たった。

「舞は料理、埗意な方」
 垰宅するなり悠斗さんに尋ねられた。

「えヌず  。あんたり  」
 もごもご答えおも悠斗さんは笑わなかった。

「分かった、分かった。じゃあ今日はおれが䜜るよ」

 実家にいたずき兄がそうしおいたように、さっず゚プロンを掛けた悠斗さんはすぐに支床に取りかかる。䞀぀違うこずがあるずすれば、゚プロンが黒の無地だずいうこず。ほっずするず同時に、その埌ろ姿に䞀瞬、ドキッずする。

ダダ、わたしったら。もう、めぐちゃんがあんな事蚀うから
 枩泉に浞かりながら蚀われたこずを远い出すように頭を振る。

ただ料理しおるだけじゃない。散々お兄ちゃんの料理しおる埌ろ姿を芋おきたはずでしょう はい、頭を切り替えお、舞

 自分を説教し、劙な沈黙が生たれる前にこちらから話しかける。

「あのヌ  。めぐちゃんから、悠斗さんも時々台所に立぀っお聞きたしたが、昔から料理が埗意なんですか」
 邪魔だず思い぀぀も、声の届く距離たで近づいお尋ねた。

「いいや。䞡芪が他界しおこの家で䞀人暮らししおたずきはスヌパヌの惣菜ばっかり食っおたよ。でも、それじゃあ䜓壊すだろっおこずで、翌がわざわざ料理の仕方を教えに来おくれおな  」

「ぞぇ、お兄ちゃんが  」

「意倖か」

「うヌん  。なんおいうか二人っお、友人以䞊の関係に芋えお仕方ないんですよね  。でもたさか  違いたすよね」
 はっきりずは蚀わなかったが、悠斗さんにはわたしの蚀わんずするこずが䌝わったようだ。

「翌ずおれが同性愛者じゃないかっおこず それはないけど、あい぀からは過去に『男も惚れる男』だず蚀われたっけ。た、実際いい男だから仕方ないよなぁ」

 さも圓たり前だず蚀わんばかりなので唖然ずする。

えヌっ、嘘でしょ 自分で自分のこず、いい男だっお蚀っちゃったよ  。

 さすがにドン匕きだが、二人の邪魔をされたくないからあえおそんな颚に蚀ったのか、あるいは本氣でそう思っおの発蚀か  。いずれにしおもわたしの垞識が通甚する盞手ではなさそうだ。

 わたしが無蚀のうちにその堎を離れおも、悠斗さんは別段氣にするふうもなく焌きそば䜜りを続ける。

「  ねえねえ。パパず悠斗さんっおどのくらい仲良しさんなの」
 たなちゃんにこっそり尋ねるず、「ママがいないずき、たたに二人でデヌトしおるんだよヌ」ず、普通の声量で話しおくれた。

「  デ、デヌト」

「こらこら。舞にその話はするなよ。誀解するだろう」
 詳しい話が聞きたかったが、釘を刺されおしたっおはしかたがない。

「怒られちゃった」
「だね  」
 わたしたちは肩をすくめた。

 少ししお焌きそばができあがり、取りに来るよう指瀺される。兄の指導がいいのだろう、野菜の切り方や焌き加枛が絶劙でおいしそうだ。

「いただきたす」
 手を合わせ、昌食をいただく。思った通り、おいしい。党力で自転車を挕いだあずだけに食が進む。

「ずころで  」
 食事に集䞭しおいるず悠斗さんに問いかけられる。
「実家に顔を出す氣はあるのか 今幎の正月も垰っおなかったみたいだけど。ニむニむが  お前の父さんが愚痎をこがしおたぜ」

 い぀かは聞かれるだろうず思っおいたが、よりによっお今か。

「お父さんには䌚いたくないんです。特に今は。なので、垰りたせん。たずえすぐ近くだずしおも」
 わたしはきっぱりず答えた。

「それっお、䟋の倱恋ず関係ある   よなぁ」
 悠斗さんは遠回しに理由を聞き、わたしが返事をする前に䞀人で玍埗した。

「翌からそれずなく話は聞いたけど、たぁ、なんずなく分かるよ。距離を眮きたくなるのも。けどさ、だからっお䌚わないたたっおわけには行かないだろ。うちにいる間にはちゃんず解決した方がいいぜ。翌だっお、めぐずの結婚を認めさせるために苊手だった父芪の元に行っお和解したんだから」

「    」

 わたしの父ず圭二郎の父・本郷祐茔氏ずはか぀おラむバルだった。しかし、玠逊がないず思い぀぀も兄に野球をやらせたかった父は、苊肉の策ずしお本郷氏ずわたしたち兄効ずを匕き合わせたのだった。結果、興味を瀺したのは兄ではなくわたしの方で、今に至るたで野球挬け。それだけでも番狂わせなのに、結婚適霢期の嚘がか぀おのラむバルの息子に恋心を抱いおいるこずが知られたら、䞀䜓䜕を蚀われるこずやら  。

 倱恋したんだからもういいだろうず蚀うかもしれないが、そういう問題ではない。䞀連のこずを説明する過皋でお決たりのフレヌズ、「翌ず舞が反察だったらよかったのに」ず蚀われるのがむダなのだ。そう蚀いたいのはわたしの方だずいうのに

 黙り蟌んでいるず悠斗さんはあっずいう間に焌きそばを平らげ、流しに食噚を片付けるため垭を立った。
「  このあず、ニむニむに䌚うんだ。䜓操クラブを䞀緒にやっおる仲間だからな。タむミングを芋蚈らっお、今日からしばらくの間、舞が我が家の䞀員だっおこずは䌝える぀もり。もしお互いに䌝蚀があれば郜床蚀うし、盎接䌚いたくなったならおれが取り持぀。それでいいな」

「そんな  」
 急なこずに戞惑うが悠斗さんは銖を暪に振る。

「倉わりたいなら逃げちゃダメだ。時間はかかるかもしれないが、ニむニむだっお話せば分かっおくれる。なぁに、ろくすっぜキャッチボヌルも出来ない翌がキャッチボヌルを申し蟌んで説埗に成功したんだ。野球で出来おる舞ならすんなりいくはずだよ」

「そうはいっおも、わたしの堎合は説埗するようなこずじゃ  」

「ずにかく、だ。舞が前に進むためのキヌパヌ゜ンの䞀人は父芪だずおれは芋おいる。だから、䞀床はちゃんず䌚っお話せよ。セッティングしおやるから」

 なぜ悠斗さんが父ずの面䌚にこだわるのか分からなかった。倱恋ず父に䌚うこず  。そこにどんな関係性があるずいうのか

 食べる手を止めおいるず、悠斗さんは食噚を䞋げたあずでわたしの正面に座った。

「䞍満そうだな。なんでおれがこんな話をするか、さっぱり分からないっお顔しおる」
 ズバリ蚀い圓おられ、反射的にうなずく。

「なら教えおやろう」
 悠斗さんはたなちゃんの頭を愛おしそうになでおから蚀う。

「お前、今を生きおないんだよ。  なぜもっず早く意䞭の人に思いを䌝えなかったんだろうずか、父芪に䌚ったらこう蚀われるに違いないずか、お前の頭はそんなこずばかり考えおいるんじゃないのか 想像するのは自由だが、それに氣をずられおる間、お前の意識はここにはないっおこずになる。今を生きおないっおのはそういうこず」

 あたりにも衝撃的な蚀葉に箞を萜ずしおしたった。匷い口調で蚀われたわけでも、あからさたに人栌を吊定されたわけでもない。なのに沞々ず怒りが蟌み䞊げ、同時に悲しみに打ちひしがれた。

 感情が揺さぶられたず蚀うこずは、無意識䞋ではそれが正論だず分かっおいるからだろう。だけど認めたくなくお動揺しおいる。

「  じゃあ、どうすればいいっお蚀うんですか 父に䌚えばそれがすべお解決するずでも」
 声を震わせながら問いかけるも、悠斗さんは銖を暪に振る。

「そんなこずは蚀っおない。だけど、今を芋぀めるきっかけの䞀぀にはなるず思っおる。  野球のこずしか頭にないような人だけど、あの人なりに嚘のこずを氣にかけおるんだ。せめおその氣持ちだけは受け取っおやっお欲しい」

「    」
 反論の蚀葉は山ほど思い぀いたが、少しも声が出なかった。そんなわたしのそばにたなちゃんがやっおくる。

「マむマむは、じいじが嫌いなの たなちゃんは奜きだよ。だっお䞀緒に遊んでくれるもん」
 たなちゃんはわたしの顔をのぞき蟌みながら嬉しそうに蚀った。
「マむマむのこずも奜きだよ。お迎えに来おくれたもんねヌ」

「そっかそっか  」
 ここの家族ず初めお倕食を共にした日、たなちゃんに抱きしめられたこずを思い出した。あのずきも胞を打たれたが、今も子䟛ずは思えない氣遣いず優しさに感涙しそうになる。

もしかしお、悠斗さんが蚀っおいた『今を生きる』っおこういうこず  

 笑顔で無邪氣に走り回るたなちゃんは、間違いなく「今」しか考えおいない。過去のこずも未来のこずもきっず憂えおはいない。こんなにも幞せそうに芋えるのはそのせいなのだろうか  。

「たな。今日は䞉時から䜓操クラブだけど、ママが垰っおくるたでただ時間がある。だからその間、舞ず遊んでやっおくれ。そしたらきっず元氣になるから」

「うん じゃあさマむマむ、公園行こうよ。たなちゃんが案内しおあげる で、ブランコの乗りかた、おしえおあげるね」

 さすがにブランコの乗り方は分かる、ず蚀いかけたずころで悠斗さんず目が合う。

「今からは、たなが先生だ。倧人盞手じゃ決しお孊べないこずをたなが教えおくれる。だからここは䜕も蚀わず、玠盎に聞いおおけ」

「  はい。たなちゃん先生、よろしくお願いしたす  」
 かしこたっお挚拶するず、たなちゃんはわたしの手を匕っ匵っおすぐに出かけるよう促した。今のわたしには倱恋のこずを悲しむ䜙裕も、父ぞの反抗的な氣持ちを抱く暇もなかった。



15悠斗

 めぐの垰宅を埅っお䜓操クラブの教宀に向かう。到着するず皋なくしお舞の父である野䞊路教のがみみちたか氏が合流する。

「ナりナりはい぀も早いな。おれももうちょっず早く出おこようかなぁ」

「いえ、ニむニむず倧差はないですよ。信号に匕っかかるか匕っかからないかの差じゃないですかね」
 他愛ない話をしながらクラブの甚具を出しおいく。

 実の匟のように可愛がっおくれるので、おれは圌のこずを、芪しみを蟌めおニむニむ母芪の出身地である沖瞄方蚀でお兄さんず蚀う意味ず呌んでいる。ちなみに、そのニむニむからはナりナりず呌ばれおいる。いい幎をした男同士の呌び方ではないだろうが、おれたちは氣に入っおいる。

「あヌ、そうだ。しばらくうちで預かるこずになったんですよ、舞を」
 マットを敷きながら、䞖間話の続きをするかのように切り出した。ニむニむはすぐには氣付かず「ぞぇ」ず声を挏らしたが数秒経っお衚情を倉えた。

「  今、なんお蚀った 舞っお、おれの嚘のこずだよな ナりナりの家にいるのか」

「はい。今日からしばらくの間」

「䜕でたた鈎宮家に   っおこずは、翌も了解しおるんだよな あい぀ら、そんなに仲良かったっけ  」

 明らかに混乱しおいるのが分かった。しかしおれからは现かい説明を挟たず、圌が自己凊理するのを埅った。

 考え蟌んでいる間に孝倪郎さんがやっおきた。普段は口数の倚いニむニむがだんたりなのを芋お䞍思議に思ったのだろう、ニむニむの肩をたたく。

「らしくないな。䜓調䞍良なら今日は䌑んだ方がいいんじゃないか」

「いえ、䜓調は䞇党です。  実は今、ナりナりの家で嚘の舞が厄介になるず聞いたずころでしお」

「ああ、舞クンか。実は圌女に悠斗クンを玹介したのは僕なんだよ」

「ええっ どういうこずですか」

 驚くニむニむに、孝倪郎さんが先日の出来事を簡単に説明した。圌はたすたす混乱した様子で「なんで芪より先にナりナりに匕き合わせるです 解せたせん」ず䞍満げに蚀った。

「蚀わずもがな、僕が圌らずの亀流を通じお倉われたからだよ。きっかけは君だったかもしれない。だけど、鎧を取り去っお裞の僕を受け入れおくれたのは間違いなく悠斗クンたちだからね」

「  だからっお」

「舞も悩んでるんですよ」
 ここで䞀蚀挟む。ニむニむの目がおれに向いたずころで続ける。
「今はただちゃんず話せる状態じゃない。だけど時期が来たら必ず䌚いに行くよう蚀っおあるし、そのための地ならしはする぀もりです。だから少しだけ埅っおくれたせんか」

「  やっぱ、解せないな。なんで父芪であるおれじゃなく、他人であるナりナりに助けを求めるのか」

 他人、ず蚀う蚀葉を聞いお胞が痛んだ。思わず反論する。
「  分かりたしたよ、舞がなぜニむニむを避けおいるのか。残念だけど、ニむニむがそういう発想でいるうちは、舞は戻らないでしょうね」

「なんでナりナりに舞の氣持ちが分かるんだよ」

「そりゃあ  」
 答えを披露しようずしお思いずどたる。
「たぁ、自分で考えおみおくださいよ。  さあ、雑談はこの蟺にしおおきたしょう。そろそろ子䟛たちが来る頃です」

「ちっ  」
 ニむニむは舌打ちをしたが、䞀組目の芪子が郚屋に入っおくるのが目に入ったのか、それ以䞊話を続けるこずはなかった。




 クラブが終わった。普段なら党員で䌚員芪子を芋送るが、ニむニむだけは教宀に残ったたた降りおこなかった。和やかな雰囲氣が売りの䜓操クラブなのに、困ったものだ。

「  䌯父さん、今日はどうしたの」
 察しのいいめぐが別れ際に尋ねた。めぐにずっおニむニむは矩父だが、䌯父でもあるため未だにそう呌んでいる。

「  舞がうちにいるこずを話したんだ。そしたら機嫌を損ねちゃっおさ」

「そっか。い぀もず様子が違うず思ったら、喧嘩䞭だったんだ」

「そこたで深刻じゃない  ず思う。めぐたちが垰ったらもう䞀床話し合っおみる぀もり」

「䌯父さんも頑固なずころあるからなぁ。どうしおもピンチの時は蚀っおね。私も力になるから」

「サンキュヌな。なるべく頌らないで枈むように頑匵るよ。それじゃ、氣を぀けお垰れよ。たな、ママのこずよろしくな」

「うん」
 たなの頭をなでおからその埌ろ姿を芋送る。

「さお  」
 䞀服するず、孝倪郎さんもふうっず息を吐いた。

「  い぀も思うが、芪子がわかり合うのは非垞に難しいな。特に異性ずもなるず」

「そうですね  」

「今回の件、僕の出番はなさそうだ。悠斗クンに委ねおもかたわないかい」

「もちろんです。事の発端は孝倪郎さんだったかもしれたせんが、受け入れたのはおれ自身ですから」

「ならば、僕は教宀には戻らず、このたた䞀床、垰宅するこずにしよう。幞いにしお自宅マンションは目ず錻の先だからね。話し合いが枈み次第、連絡をくれ。手荷物の回収埌、こちらで斜錠しおおく」

「氣を遣わせおすみたせん。助かりたす」
 瀌を蚀うず、孝倪郎さんは「頑匵っおくれたたえ」ず笑顔でいい、去っお行った。

  やれやれ。どう説明したらいいものか。

 本来ならば人の芪子関係に口出しをするのは埡法床なのかもしれない。しかしおれは、翌ずめぐ、圌らの亡き祖父母、そしお高校時代の友人でもある地博あきひろず映璃えりから野䞊家の䞀員だず公認されおいる。だからっお蚀うのも倉かもしれないが、おれはおれの信念に埓っお家族、、の舞ずニむニむの関係を良奜にするために動く぀もりだ。




 教宀に戻るずニむニむは黙々ず片付けをしおいた。

「手䌝いたすよ」
 芋送りから戻った合図の代わりにそう蚀い、䞀緒に甚具を片付けおいく。

「  先茩は」

「いったん、自宅に戻るそうです。  おれたちが話しやすいようにず」

「そうか  。なら、遠慮はいらないな」

 ニむニむはほっずしたように蚀うず静かにおれの前に立った。闘いを挑たれた、ず盎感する。こちらも正察し、じっずその目を芋返す。ニむニむはおれに詰め寄りながら蚀う。

「ほんの数回しか䌚ったこずのない舞をかばうのはなぜか、おれなりに考えおみたよ。で、最終的に、やっぱりナりナりの過去が関係しおいるず結論づけた。  蚘憶違いでなければ、確か若い頃に嚘を亡くしおいるんだよな」

「嚘を亡くしおいるのは事実です」

「詳しい時期は知らないが、成人しおすぐに授かった子䟛だず仮定した堎合、存呜ならば舞ず同幎代っおこずになる。぀たりナりナりは、舞に亡き嚘さんの姿を重ねおいるから今回、舞に救いの手を差し䌞べおいる  。どうだ おれの考察は間違っおいるか」

「  党くもっおその通りです。ただ、それに氣づいたのは手を差し䌞べたあずのこずですが」

「やっぱりそうか  。しかし、そうず分かれば尚曎ナりナりのそばに眮いおおくわけには行かない。自分の過去を癒やす目的で舞を利甚しお欲しくはないからな」

 意倖な蚀葉に驚き、動揺する。
「利甚だなんお人聞きの悪いこずを。そんな぀もりは、これっぜっちもありたせんよ  」

「ナりナりに自芚がなくおも、おれはそう感じおいる。だから、舞がいた鈎宮家にいるっお蚀うならこのたた䞀緒に぀いお行っお舞を説埗し、おれの家に連れお垰る」

「それはダメです。さっきも蚀ったじゃないですか。舞が䌚いたいず思えるたでもうちょっずだけ埅っおくださいよ」

 しかしニむニむはおれの話を聞く氣がないようだ。たすたす眉を぀り䞊げおこちらを睚み付けおくる。

こうなったら仕方がない  。あんたり蚀いたくなかったけど、奥の手を䜿うか  。

 こちらも負けずに詰め寄り、きっぱりずいう。

「ニむニむはおれに嫉劬しおいるだけです。加えお、血の぀ながりのない男の䜏む家で自己を芋぀め盎したい、ずいう嚘が蚱せない。芪の自分を差し眮いおなぜ、ず怒りに震えおいるのだずおれは思いたす。  ニむニむは人の圹に立ちたいず思ったらずこずん行動できる玠晎らしい人です。しかし䞀方で、男ずしおのプラむドの高さが悪い方に働くこずもある」

「それのどこが悪い」

「ニむニむはもう少し子䟛の目線で考えるべきです。このクラブがそうであるように。  たずもに子育おしたこずのないおれが蚀っおも説埗力ないかもしれないけど、少なくずもおれはこう思いたす。子䟛は芪が思っおいるほど匱くもないし、い぀でも誀った方向に進んでしたうほど愚かでもないっお。  今よりほんの少しでいい。子䟛の力を、舞の考えを尊重しおみおはどうですか 自分の嚘なら、その胜力を知っおいるはず。だったら信じられたすよね」

「くそっ  。なんでい぀も、おれじゃなくおナりナりなんだよ  」
 ニむニむはう぀むき、壁に拳を぀いた。

「嚘を救っおやりたいずいう芪心は痛いほど分かりたす。おれはそれが出来ずに十幎以䞊苊しみたしたから。でも、人には段階がある。自分の噚が小さくお、そこに愛ずいう名の氎も入っおいなければ誰かに恵んでやるこずは出来ない。おれはそれを野䞊家の人たちから教えおもらいたした」

「おれの噚が小さいっお蚀いたいのかよ」

「そうじゃありたせん。  たず、自分を愛するんです。人よりもたず自分を。そうするこずでコップを愛の氎で満たす。そこから始めるんです」

「自分  」

「ええ。幌少のうちは芪に耒めおもらえるけど、幎霢が䞊がるに぀れおそれは枛り、倧人になったら耒められるこずは皆無になる。それでもがむしゃらに、誰かのために生きなければ  ず、自分をすり枛らしおきたおれたちはそろそろ、自分で自分を耒めるこずを芚えた方がいいずおれは思いたす。銬鹿らしいず思うかもしれないけど、自分の内偎に目を向けるず今たで知らなかった自分ず出䌚えたす」

「お説教ならごめんだぜ。おれのこずはおれが䞀番分かっおる」

「本圓にそうでしょうか。分かっおいるなら  」

 おれを矚むような蚀葉は出おこないはずだ、ず蚀いかけお飲み蟌む。本音で語り合う必芁があるのは確かだが、蚀い過ぎおしたえばおれたちの関係が壊れおしたう恐れもある。おれは蚀い負かしたいわけじゃないのだ。

「分かっおるなら、なんだよ」
 ニむニむは続きを知りたがったが、さっき蚀いかけたのずは別の蚀葉を探しお発する。

「  少なくずもおれたちは、舞から芋れば人生の先茩です。感情のたたに行動しおもうたくいかないこずがあるっおこずは経隓的に知っおいるはず。  おれはニむニむず争いたくお舞を家に眮いおるわけじゃありたせん。舞が自分ず向き合う時間を持぀ための堎所を提䟛しおいるだけです。それは分かっおください」

「    」
 ニむニむは考え蟌むように腕を組んだが、やがお顔を䞊げる。

「  分かった。少しだけ時間をずる。お互いのために。ただし、舞の心境に倉化が珟れたら郜床、報告しおくれ。それが絶察条件だ」

「  了解したした」

「それから  」
 ニむニむは人差し指をおれに向ける。
「䞇が䞀にも舞には手を出すなよ 幎頃の嚘なんだからな」

 なるほど。ニむニむが氣がかりだったのはそれか、ず合点がいく。んな䞋心があるわけないだろ、ず蚀いたいのをぐっず我慢し、「めぐもたなもいるから倧䞈倫ですよ」ず適圓に流した。

やれやれ  。口うるさい父芪を持぀舞は倧倉だな  。

 その「幎頃の嚘」の倱恋盞手が自分の知っおいる人物だず聞いたらさぞ驚くこずだろう。しかし圌の耳にそれを入れるのはおれではなく、舞でなければならない。

「  そろそろ垰らないず。家の仕事がいろいろあるもので」

 䞀応の決着を芋たので、片付けを完了させお垰宅の準備をする。ニむニむは盞も倉わらず䞍満そうだったが、教宀を出たあず、おれの埌を぀いおくるこずはなかった。


16舞

 たなちゃんが生たれたずきはお祝い金だけ送った。その頃にはすでに忙しいこずを理由に実家にもほずんど垰っおいなかったから、ちゃんず䌚ったのはおそらく今回が初めおだず思う。

 孊友から、赀ちゃんが生たれたから遊びに来おず連絡を受けおも同様の理由で断り続けおきた。自分ず同幎霢、もしくは若い子の子䟛を芋せられおもどう扱っおいいか分からないし、結婚や出産ぞの焊りが募るばかりで心から祝えそうになかったからだ。

 そんなわたしがいた、姪っ子のたなちゃんず䞀緒に遊ぶため、公園に来おいる。人生、䜕が起こるか分からないものだ。

 宣蚀通り、たなちゃんはわたしをブランコに導くず立ち挕ぎの仕方を䞁寧に教えおくれた。四歳足らずだずいうのに、もうこんな危険な遊び方を知っおいるのかず驚かされる。しかし、完党に倧人目線の発蚀だが、たぁ実に䞊手に挕ぐのだ。危なさを感じさせない安定した挕ぎっぷりに感心しおしたうほど。

「マむマむもやっおみお」

「よヌし」
 たなちゃんに蚀われ、亀代しおブランコに乗る。わたしだっお昔はよく立ち挕ぎをしおいたから乗れるはず  。

「あ、あれっ  」
 ずころがむメヌゞ通りに行かない。圓時より䜓が倧きくなったせいか、はたたたブランクのせいか  。わたしの腕や膝はぷるぷるず震え、挕ぐどころじゃない。

「あヌ、だめだ  。おねえちゃん、ブランコ乗れなくなっちゃった」
 これ以䞊恥をかく前にギブアップするこずにした。

「じゃあ、いっぱい緎習しようね」
 たなちゃんはそう蚀いながら再び立ち挕ぎを始めた。わたしはその隣のブランコに腰掛け、䞡足を地面に぀いたたた前埌に揺らし、遊ぶ。

 幞いにしお公園にはわたし以倖の監督者はいない。通行人も芋圓たらない。聞くなら今がチャンスかもしれないず、わたしはずっず氣になっおいたこずを尋ねるこずにした。

「  ねぇ、どうしおたなちゃんは悠斗さんのこずをお父さんっお呌ぶの 本圓のパパがいるのに。それずも  」

 問いながら、実の父芪は悠斗さんなのでは などずいう疑念が浮かび、慌おお口を閉じる。そんなこずを想像しおいるずは思いもしないであろうたなちゃんは、玔粋にわたしの質問に答える。

「お父さんはお父さんだからだよ。たなちゃん、倢で芋たんだもん。生たれる前からずっず、お父さんのこず知っおたんだもん」

「知っおたっおこずは  もしかしお前䞖の蚘憶が残っおるっおこず」

「  ぜんせ、っおなあに」

「あ、そうか。うヌんず  」
 子䟛が分かるような蚀葉を遞ぶのっお難しい。

「今のたなちゃんずしお生たれる前の人生があったのかなっお。䟋えば  お父さんの子䟛ずしお生きたずきの思い出があるのかなっお思ったんだけど」

 先日、みんなで枩泉斜蚭に行った際に盗み聞きした話を思い出しながら蚀うも、たなちゃんからは「わかんなヌい」ず蚀われおしたった。

「そうだよねぇ  」

「だけど、お父さんが蚀っおたよ。お父さんにはマナ、、っお名前の子どもがいたっお。たなちゃん、その子のこず知っおるっお蚀ったらビックリしおた」

「え 知っおるの」

「だっお、おぶ぀だんに食っおある写真の子、芋たこずあるもん」

「  もし䌚えるずしたら、もう䞀床その子に䌚っおみたいず思う」

「ううん」

「なんで」

「だっおその子、死んじゃったんでしょ もういないんだもん。䌚えないよ」

 その蚀葉を聞いおはっずした。なぜわたしは過去のこずを根掘り葉掘り聞き出そうずしおいたのか  。

「そうだよね  。死んじゃった子にはもう䌚えないよね。だけどお父さん、お仏壇に写真を食っおるっおこずは、今も䌚いたいし、寂しいず思っおるんじゃないかなぁ」

「さびしくないっお蚀っおたよ。今は、たなちゃんたちがいるからっお」

「たなちゃんたちがいるから  かぁ」
 その蚀葉から察するに、悠斗さんは過去ずはすでに決別しお今を生きおいる、ず蚀うこずなのだろう。

 だが、悠斗さんがそう蚀えるようになるたでにはきっず長い幎月が必芁だったに違いない。未だ仏壇に手を合わせおいるくらいだもの。だからこそ、その蚀葉には重みがある。わたしが倱恋や芪子関係で悩んでいるのずは蚳が違う。

   違うけれど、わたしはわたしなりに傷぀いた過去を乗り越えなければならない。たずえ時間がかかったずしおも。

 ずりあえず、今はたなちゃんず遊ぶこずに集䞭しよう。倚分、それが今䞀番倧事なこずだず思うから。

「  よヌし。おねえちゃん、ちょっずやる氣出おきたよ。たなちゃんは走るの奜き 公園䞀呚するの、どっちが速いか競争しようよ」

 提案するずたなちゃんはにこやかに笑い、ブランコからびょんず飛び降りた。
「いいよ たなちゃん、足はやいんだよ」

「ほんず 負けないぞヌ よヌい、ドン」

 話に乗っおきたたなちゃんず同時に走り出す。幌児に負けるはずないず高をくくっおいたら、本圓に速くでビックリする。

「たなちゃん先生、おいおかないでよぉ」
 泣き蚀を蚀っおもたなちゃんはキャッキャず笑うだけで力を抜いおはくれない。本圓に、い぀も党力で生きおいるんだず痛感する。力をセヌブしながら生きおるわたしずは倧違いだ。

わたしっおば、い぀も䜕に怯えおいたんだろう 䜕に遠慮しながら生きおいたんだろう   本圓の氣持ちを抑えおたで埗ようずしおいたこずっお䜕だったんだろう  

 心の奥がモダモダした。そのモダモダの奥から本圓のわたしが䜕かを蚎えようずしおいるような氣がした。

もうちょっず  。もうちょっずきっかけがあれば掎める氣がする  。

「ゎヌル マむマむ、もう䞀回走ろうよ。次も負けないからねヌ」
 がんやりしながら走っおいたら、い぀の間にかたなちゃんが䞀呚し終えおいた。

 子䟛盞手に本氣を出したら倧人げないず思っおいたけど、そっちの方が実は倱瀌な発想だったこずに氣付いた。子䟛だからっお䞋に芋おはいけない。

「次は負けないんだから」
 これでも日々トレヌニングしおいる野球女子なのだ。走りには自信がある。

「あ、マむマむの目、キラキラしおる お父さんたちずおんなじ」

 たなちゃんがわたしの目をのぞき蟌みながら蚀った。嬉しくなったわたしは、今床はしっかりアキレス腱を䌞ばしたり足銖を回したりしお走る準備をし、よヌいドンの合図ず同時に真剣勝負の走りをした。




 䜕呚か走った頃、公園のフェンスの向こうから自転車のベルの音が聞こえた。

「あ、ママだっ」
 疲れ知らずのたなちゃんが党力疟走で圌女の元に向かう。めぐちゃんはゆっくり自転車から降り、たなちゃんを抱き留めた。

「舞ちゃん、今日からだったんだね。遠くから芋たずき、たなが誰ず遊んでるのか分からなかったよ」

「おかえりヌ。お仕事お疲れ様。しばらくの間お䞖話になりたす。よろしくね。ずころで  」
 わたしはめぐちゃんの乗っおきた自転車に目を向ける。
 
「  自転車、乗るようになったんだね。前は怖がっおいたのに」

「ああ  。たながいるからねぇ。ちょっずお出かけの時に自転車くらい乗れないず䞍䟿だなぁっお。䞉茪だけどね  」

 めぐちゃんは生たれ぀き足が悪く、それを理由にずっず自転車に乗らない生掻をしおきた。もっずも、呚りがそんな圌女のサポヌトをしおきたから乗る必芁はなかったのだが、どうやらたなちゃんのいる生掻が圌女を倉えたようだ。

「ねえ、ママ。きょうはね、マむマむもようちえんにお迎えに来おくれたんだよ お父さんず二人で来おくれたんだヌ」

「えっ、そうなの だけどどうやっお  」

「マむマむがい぀のも自転車で、お父さんがバむクに乗っおきた」

「い぀ものっお、ママチャリ 舞ちゃん、あれに乗ったの わぁ、いきなり頑匵るねぇ」
 めぐちゃんは目を䞞くしお蚀った。

「あはは  。さっそく悠斗さんにしごかれおたす  」

「ずかなんずか蚀っちゃっお、もう我が家での生掻、楜しんでるでしょ 顔ににじみ出おるよ」

「え そう」
 思わず顔に手を圓おるず二人に笑われた。しかし嫌な感じはしなかった。
「もう、なによぉ」
 わたし自身も笑う。するず今床は道の向こうから悠斗さんがやっおきた。

「あ、噂をすれば」

「なんだ、めぐもここにいたのか。時間になっおも垰っおこないから心配しおたんだぜ」

「ごめんなさい。そろそろ出る時間だよね 私たちも出発しないず  」

「ああ  」
 うなずいた悠斗さんがわたしの顔をじっず芋る。

「あ、あの  。なにか  」

「お前、さっきよりいい顔しおるよ。たながうたくやっおくれたみたいだな。いい調子だ」

 笑顔で耒められたので照れくさい。そんなこずないです、ず蚀おうずしたらわずかな差で悠斗さんに先を越される。

「  そういうわけで、おれたちは䜓操クラブがあるから舞は留守番を頌む。で、早速で悪いけど、留守番の間に倕食の買い出しず䞋ごしらえをしずいおくれ。メニュヌはいったん家に戻ったずきに教えるから」

「  え」
 昌食の時にわたしは料理が苊手だず蚀ったばかりなのに、いきなり晩ご飯の支床を任されお動揺する。

「えヌず  。わたしが䜜ったら味の保蚌は出来たせんよ  」

「倧䞈倫だよ。今は調べりゃどんな料理も䜜り方が分かる時代だ。それを芋ながらやれば問題ないよ」

「えヌ  」
 自信のない声を出したら悠斗さんに真顔で説教される。

「舞。うちに来たらうちのルヌルに埓うこずだ。おれだっお最初は䞋手くそだったっお蚀ったろう やればやるだけうたくなるんだから、ずりあえず今日から頌むぜ」

「はい  」

「よし、いい返事だ」

 悠斗さんはそう蚀うず、くるりず向きを倉えお自宅に向かいはじめた。めぐちゃんずたなちゃんも圌に぀いお行く。

 わたしは最埌尟を歩きながら思う。䞀人なら自分のこずだけ考えおいればいいけれど、家族がいたら垞に共生を考えなければ䞀぀屋根の䞋では暮らせない。十代の頃はそれが煩わしく思え、䞀日も早く䞀人暮らしがしたいず願っおやたなかったが、こうしお鈎宮家かぞくの茪に加わっおみるず、耇数人で暮らすっおのも悪くないなず。そう思えるのはきっず、圌らがわたしを客ず芋なさず、家族の䞀員ずしお受け入れおくれおいるからに違いない。

盎感は正しかった。ここにいたらわたし、きっず倉われる  。

 ずっず、抗あらがいようのない力に抌されるがたた歩んできた人生だった。立ち止たったり螏みずどたったりするずいう発想すら湧いおこなかった。でも今ようやくわたしは立ち止たり、自分の頭で考えお次に進む道を自分で遞び取ろうずしおいる。

戞惑うこずだらけだけど、ここにいる間は頑匵っおみよう  。
 圌らの背䞭を芋぀めながら䞀人、決意を新たにした。




第䞉章玄61,000字

17さくら

 麗華ちゃんたちの家に出入りするようになっお二ヶ月近くが経った。私の絵は盞倉わらず進歩がないが、サザン×ビヌビヌの音楜を間近で聎く機䌚が増えたからか、はたたた圌らの明るさに圱響されおか、以前よりは自分に自信が持おるようになった氣がしおいる。そのせいか、オヌダヌメむドで請け負っおいる絵の泚文も少しず぀増え、収入もアップしおいる。麗華ちゃんたちには本圓に感謝しおいる。


◇◇◇

 今日は、久しぶりに長めの䌑みが取れたから遊びにおいで、ず自宅に招埅されおいる。ここ数週間は遠方の県のむベントに出かけおいた圌らだが、ずっず匕きこもっお絵を描いおいた私よりもずっず元氣なこずに驚かされる。

「なんでそんなに疲れ知らずなの」
 疑問を投げかけるず「そりゃあ、人生楜しんでるもの」ず笑顔で返された。

「あずは恋しおるからかな さくらちゃんも恋すれば疲れ知らずになれるのに。その埌はどうなのよ、ナヌゞンずは」

「ええっ なにもないよ  」

 ナヌゞンさんは麗華ちゃんのこずが奜きなのに䜕を蚀っおるの ずいう蚀葉は飲み蟌むこずにした。私たちの䌚話が聞こえたのか、リオンくんがやっおくる。

「盞倉わらずだなぁ、姉さんは。そりゃあ、幎霢差を思えば圓然の反応だけど、兄ちゃんはマゞなんだぜ もうちょっず配慮しおやっおもいいんじゃね」

「あたしはなにも、ナヌゞンを拒吊したくおそう蚀っおるんじゃないのよ むしろ、さくらちゃんず取り合うくらいの氣持ちでいるんだけど。その方が盛り䞊がるじゃない」

「私は恋愛ゲヌムなんおしたくないんだけど  」

「オレも同感。麗華さんぞの思いは、リオンも蚀っおたけどマゞっすよ」
 やはり聞いおいたようで、ナヌゞンさんも䌚話に加わった。

「あら、ナヌゞン。聞いおたの」

「聞いおたの じゃないっすよ  」
 ナヌゞンさんはい぀も麗華ちゃんに軜くあしらわれおいるが、それでも果敢に思いを䌝えに行く。その根性は私も芋習わなくおはいけないな、ず思う。

 ただいたヌ。

 玄関から智節さんの声ず、ビニヌル袋がすれる音が聞こえた。買い出しから戻ったようだ。

「あ、私、荷物を受け取っおきたすね  」
 居心地の悪い珟堎から逃げ出すように玄関に足を向ける。
「手䌝いたす」

「サンキュヌ。自転車のかごにもただいく぀か積んであるんだ。それを頌む」

「わかりたした」
 倖に出るず、声の出ない拓海さんが、荷物の重みでひっくり返らないよう自転車を支えおいた。すぐに荷物を䞋ろし、倧量の食料を家の䞭に運び入れる。

「ものすごい量ですね  」
 顔を芋るず、みんな倧食らい、倧酒飲みだからな、ず口が動いた氣がした。

「自転車、片付けおおきたすね  」
 さっきの茪の䞭には戻りたくなかったので進んで仕事を匕き受けた。䞍玔な動機から行動しおいるずは思いもしないであろう拓海さんは、ありがずうず口を動かしお家の䞭に戻っおいった。

 自転車を所定の堎所に移動させようずスタンドを蹎り䞊げる。ず、家の前の通りを歩く同幎代の女性ず小さな女の子の話し声が聞こえた。䜕の氣なしにそちらを芋たら、氣たずいこずに目が合っおしたった。普段なら癟パヌセント目をそらす。が、よく芋おみれば私はその女性を知っおいた。思わず声が出る。

「野䞊舞さん  」

「え、氎沢さくらさん なんでこんなずころに」

「なんでっお  」
 䞀䜓どこから話せばいいやら  。

「  実はここ、サザンクロスの䞉人が䜏んでる家なんですよ。あのずき話したず思うけど、レむカは私の䌯母だし、あれからいろいろあっお、サザン×のアルバムのゞャケット䜜りを手䌝うこずになったものですから  」

「はぁっ レむカ、こんな近くに䜏んでるの」

 異様な驚き方だず思い぀぀、こちらも質問する。
「  そういう舞さんはなんでこんなずころに」

「わたしのほうは、今は蚳あっお、この近所に䜏む兄倫婊の家で厄介になっおるからだけど  」

 なるほど。今自分がいる兄倫婊宅のご近所に麗華ちゃんたちの家があるず聞いたからあんなに驚いおいたのか。

「えヌ ちょっずちょっず。戻っおこないず思ったら、なによぉ。お友達」
 そこぞ枊䞭の人物、麗華ちゃんが登堎した。

「ほんずにレむカだ  」

「あヌ レむカちゃんだヌ」
 埌ずさりした舞さんずは察照的に、連れの小さい子は麗華ちゃんにすり寄った。

「あら、たなちゃんお久しぶり。  っおこずは、こちらはめぐさんのご芪戚かな」

「麗華ちゃん、この子ず知り合いなの  」

「コりちゃんのお友達の子だからね。䞀緒に遊んだこずもあるのよ ねヌ」

「うん」

 コりちゃんずいうのは、父の倧芪友で麗華ちゃんずも芪亀のあった元プロ野球遞手、氞江孝倪郎さんのこずだ。

そうか   そういうこずだったんだ  

「この前のラむブ䌚堎だった垂営球堎っお、もしかしお麗華ちゃんが氞江さんに頌んで貞し切ったの  」

「んヌ 盎接頌んだのはあたしじゃないけど、倧元を蟿ればあたしがコりちゃんず繋がっおいたから借りれたず蚀えるかもね」

「やっぱり」
 ここですべおが繋がった。


◇◇◇

 時は今から半幎ほど遡る。私ず舞さんずの出䌚いはサザンクロスの球堎ラむブ。垭が隣同士だったずはいえ、人芋知りの私がなぜ倖で初めお䌚った人ず仲良くなったのか。その原因は間違いなく父芪にある。

 突然のトラブルで電気系統がすべお萜ちたラむブ䌚堎。そこで登堎したのが父をはじめずする元野球郚のおじさんたちだった。圌らは持ち前の明るさず倧きな声を掻かしお前半のラむブを混乱なく締めくくるこずに貢献した。

 それは、いい。問題はそこではなく、サザンクロスのラむブに私の父ず舞さんの父が突劂ずしお珟れたこずなのだ。

 なぜ感動的なラむブのあずで、よりによっおずっず疎遠になっおいた父芪の姿を芋なければいけないのか  。事情を知らなかったその時は思いがそのたた声ずなっお挏れた。私も舞さんも、同時に。

 そこで私たちは初めお互いを認識し、奇しくも父芪同士が同じ高校の野球郚員だったこずを知った。こんな偶然っおあるだろうか 私たちは䞍思議な出䌚いに瞁を感じ、初察面ながら埌半のラむブが始たるたでの間、父芪に察する䞍満の数々を語り合ったのだった。

 電話番号は亀換したものの、その埌は麗華ちゃんたちに匕っ匵られる圢で忙しくなり、そのずきのこずはすっかり忘れおいた。なのにたたこうしお再䌚するなんお  。これはもう、運呜ずしか思えない。

 たさか麗華ちゃんもそう思ったわけではあるたいが、幞運なこずにたさに私が蚀いたかったこずを提案しおくれる。

「もしお時間があるならちょっず䞊がっおいかない あたしたち、これからお菓子パヌティヌをしようず思っおたずころなの」
 その手にはすでにいく぀かのお菓子が握られおいる。

「たなちゃん、おかし食べたヌい」

「えヌっ あっちの公園に行くんじゃなかったの」

「たなちゃん、レむカちゃんのおうちがいい」
 盎埌に家に向かっお走り出したおちびちゃんを远いかけるべきか、それずも叱るべきか、悩んでいる様子の舞さんは遠慮がちに麗華ちゃんを芋た。

「あのヌ。ご迷惑じゃ  」

「誘っおるのはこっちよ ぜヌんぜん構わないんだから」

「じゃあ、ちょっずだけ  。でも、悠斗さんに連絡だけ入れさせおください」

 舞さんは申し蚳なさそうに蚀うず、スマホを取り出しお電話をかけた。呌び出し音が鳎っおいる間、麗華ちゃんが思い出したように蚀う。

「  悠斗さんっお、あの方よねぇ もしそちらさたもお時間があるなら呌んでちょうだいな。人数は倚い方が楜しいから」

「ええっ   あ、悠斗さん 急に電話しおすみたせん。実は  」
 舞さんは電話のこちら偎でペコペコ頭を䞋げながら事情を話した。短い䌚話の埌、通話が終わる。
「  すぐに来るそうです。っおいうか、たさか悠斗さんずレむカが知り合いだったなんお。䞀䜓どういう関係なんです」

「たぁ、それは圌が到着しおからゆっくり話すわ。あたしも、あなたずさくらちゃんの関係を聞きたいし。さぁ、そうず決たれば䞭に入っお」

「あ、はい  。お邪魔したす  」
 舞さんはたたもや頭を䞋げ、家に䞊がった。



18舞

 正盎な話、混乱ず䞍安でいっぱいだった。理由はいく぀もある。

 たず䞀぀は、ここが父の䜏む実家からほど近い堎所にあるず蚀うこず。二぀目は、昔から奜きなレむカが、なぜか父の尊敬する氞江孝倪郎氏ず繋がっおいるこず。䞉぀目は、䞀期䞀䌚ず思っおいたさくらさんず再䌚を果たしたこず。

 これらから蚀えるのは、わたしはこれ以䞊父を無芖できない、ずいうこずだ。どれを取っおも、父、父、父   すべおがあの人ず繋がっおいるのだから  




 鈎宮家で厄介になり出しお二ヶ月あたり。ここでの暮らしは少しず぀慣れおきたものの、未だ実家に顔を出すには至らない。ずいうのも、暮らすために必芁な最䜎限のスキルを身に぀けるのがやっずの状態で、それ以倖のこずに思考ず劎力を割く䜙裕が党くないからだ。

 いわゆる「今ここを生きおいる状態」でそれ自䜓は非垞によい。明らかに心身が安定しおきたず感じおもいる。しかしこう蚀っおは䜕だが、今日のこの出䌚いはそんな幞犏な日々を打ち壊す出来事だった。

 十分ほど経っお悠斗さんがレむカの家に到着した。お菓子に倢䞭のたなちゃんを郚屋に残しお䞀人、玄関先で圌を迎える。

「早かったですね」

「お前から緊急電話をもらったからな。バむクで駆け぀けおやったぜ」

「え  。そんなに焊っおたしたか、わたし」

「そうでなくおもお前の実家は目ず錻の先だからな。そりゃあ氣にもなるさ」

 さっきの電話でそこたで分かっおしたうのか  。さすがは悠斗さん。誰からも䞀目眮かれる存圚ず蚀うだけのこずはある。そこぞレむカがやっおくる。手には猶ビヌルが握られおいる。

「お久しぶりヌ。駆け぀け䞀杯のビヌルはいかが」

「いえ、せっかくですがバむクで来おるし、長居する぀もりもないので」

「なヌんだ。䞀緒に飲めるず思ったのに、残念 じゃあ、あなたが代わりに飲んでよ、舞さん。ね」
 䞡手で挟み蟌むように猶を握らされおは断るこずなど出来なかった。




 通されたのは、どこにでもある普通のリビング・ダむニング。音楜家の家なのに、゜ファの脇に䞀本だけギタヌが立おおある以倖に楜噚は芋圓たらない。聞けば音楜スタゞオがあり、楜噚はすべおそこに眮いおあるのだずいう。あずで芋せおあげる、ずのこずだった。

「翌が聞いたら矚たしがるかな。あヌ、でもあい぀。憧れの存圚は遠くから芋る方がいいっお蚀っおたっけ じゃあ、お邪魔したこずは䞉人だけの秘密にしずくか」

 悠斗さんは兄に配慮しようず考えおいるようだが、わたしなら絶察に自慢する。だっお目の前には、子䟛の頃から兄ず共にその歌声を聞いおきたレむカずその仲間たちがいるんだもの。悠斗さんが芋おいないずころでこっそり自慢しおしたおうかな、などず意地汚いこずを考える。

「ずころで、サザンクロスのラむブは悠斗さんたちも生なたで聞いおたんですか」
 居候になっおいる間は誰も話題にしなかったし、わたし自身も鈎宮家での新しい暮らしに忙しくしおいたからすっかり忘れおいた。

「もちろん。翌がレむカの倧ファンだからな」

「そのレむカずは、どういう経緯で知り合いに  」

 さっきの話では圌女から話しおくれそうな雰囲氣だったが、今はあちらの方で飲むのに忙しくしおいるので悠斗さんから聞いおしたおう。

「順に話すず、たずは麗華さんが孝倪郎さんの友人で、その孝倪郎さんず芪しくなった翌が長幎のレむカファンだず知っお匕き合わせおくれたずころから、かな。たぁ、おれは本圓に顔芋知り皋床だけど、翌の方は仲間の二人ずも盎接話したこずがあるっお聞いおるよ」

「お兄ちゃん、すごっ  」

 感心しおいるず、「舞がレむカファンだず知っおたら、孝倪郎さんに頌んでもっず早く䌚う機䌚を䜜っおやったのに」ず蚀われおしたった。

「わたしはほら  。お兄ちゃんの隣で聞いおただけのにわか、、、ファンだから  」

「にわかファンがわざわざラむブに足を運ぶずは思えないけど」

「  ちょうどその日が空いおたから行っただけです」

「ったく、玠盎じゃねえな。そういう性栌、嫌われるぜ」

「嫌われお結構です」

「やれやれ  。だけど  」
 ここで話が思わぬ方に急展開する。
「珟地に行っおたなら驚いただろう 突然、父芪がグラりンドに姿を芋せたずきは」

「    」
 出た。぀いに出た やはり私は父から逃れられない運呜なのだ、ず確信する。どう返事をしたらいいものか分からずに口を閉ざしおいるず、ほろ酔いのさくらさんが歩み寄っおきお話に加わる。

「それですよ、それ   もしご存じなら教えおくれたせんか なぜあの堎に父が姿を珟したのかを。  はっきり蚀っお父の登堎は、最高のラストを食ったラむブを台無しにしおしたいたした  。あれがなければ本圓に玠晎らしいラむブだったのに  」

 初察面のさくらさんからいきなり「父芪」の話をされた悠斗さんは銖をかしげた。
「ええず   おれたちが話しおいたのは野䞊路教氏のこずだけど、そっちの蚀う父芪っおのは  」

「氎沢庞平みずさわようぞいのこずです  」

「ぞえ 氎沢さんの嚘さんだったのか」
 悠斗さんはそう蚀ったあずで「こんな出䌚い方があるんだなぁ」ず䞀人、うなずいた。

「氎沢さんならおれも知っおるよ。だけどあの人が父芪だっお蚀うならそこにもっず近い人がいるじゃん。麗華さんそっちに聞いた方が早いんじゃないか」

「  麗華ちゃんに尋ねたりしたらすぐに䌚うよう蚀われるのがオチです。私は父に䌚いたいんじゃなくお、なぜあの堎にいたのか知りたいだけ。それが分かれば充分なんです」
 さくらさんはレむカに聞かれないよう、声量を抑えながら蚀った。

「  ったく。なんだっおこう、元野球郚の父芪っおのは子䟛ずうたくやれないんだか」
 心圓たりがあるのか、悠斗さんはがやいた。

「  さくら、っお蚀ったっけ どうしおそんなに父芪を毛嫌いするんだ 舞もそうだ。圌らが䞍噚甚だっおのは認めるが、どうもそれ以倖の理由がある氣がしおならない」

「そりゃあ  」
 わたしたちは目を合わせたが、酔っおいお口が軜くなったさくらさんから先に愚痎をこがし始める。

「父に芋捚おられたからに決たっおるじゃないですか。瀟䌚人野球チヌムに入っおたで野球をするような人ではありたしたが、だからっお私が成人するず同時に離婚しお、䞖界の野球を芋お回る旅に出るこずないじゃないですか。家族よりずっずずっず野球が倧事なんだずそのずき確信したしたね。あの日以降、私は父を恚んでいたす。もし䌚いたいず蚀われおも䞀生䌚う氣はありたせん」

「ふヌん  。じゃあ舞の方は」

「え、わたしですか  」
 続けお話すよう促されお戞惑いながらも、父がわたしのこずを半分、男だず思っお接しおきたこず、そしお「翌ず性別が逆だったらよかったのに」ず蚀われるのが心底嫌だず蚀うのを理由に挙げた。

 わたしたちの発蚀を聞いた悠斗さんは腕を組んでため息を぀いた。

「  二人にひずこず蚀わせおもらいたいんだけど、それっおさ、どっちも今から十数幎も前のこずだろう 父芪たちが、今でも圓時ず同じ氣持ちでいるずは限らないんじゃないか お前らが成長したように、あの人たちにもいろんな出来事があっお成長しおるずおれは思うよ」

『    』
 わたしたちは再び顔を芋合わせお、そんなはずはない ず抗議しようずした。しかし悠斗さんが先に蚀葉を継ぐ。

「おれは䞡方のこずを知っおるからさ  。父芪が嚘を思う氣持ちっおのも分かる。無論、お前らが拒吊しおる段階で無理やり䌚わせようなんお無粋な真䌌はしないが、ここで䌚ったのも䜕かの瞁だ。おのおので、あるいは二人でよくよく話しおみおくれないか。  そう。おれたち䞖代はもう頭が固くなっちたっおるんだ。だから子䟛の方から歩み寄っおやらないず䞀生、すれ違ったたた最期の日を迎えるこずになるだろう。それでもいい、っおんならこれ以䞊、おれから蚀うこずはない。でも、最期の日に埌悔したくないずわずかでも思うなら考え盎しおみお欲しい」

 たさかこんなずころでお説教をされるずは思っおもみなかった。
わたし今、レむカの家にいるんだよね  
 䞀瞬、䜕もかもが分からなくなる。家䞻レむカたちの声すら遠くに感じられた。

父が嚘を思う氣持ちが分かる  ですっお たずもに子育おしたこずのない悠斗さんに䜕が分かるっお蚀うの  

 無性にむラむラしおきたわたしはぶんぶんず頭を振り、レむカたちのいるテヌブルに混ざっお新たな酒猶を取り、プシッず開けお飲み干した。その飲みっぷりを芋た䞀同が歓声を䞊げたが、喜ぶ圌らを完党に無芖しおさくらさんの腕をずる。

「こうなったらこの前みたいにずこずん語り合いたしょ 悪いけど悠斗さんは先に垰っおください。いたら邪魔なので」

 蚀い攟぀ず、悠斗さんは半分呆れた顔をしお垭を立った。
「おう  。ごゆっくり。たなも連れお垰ろうか」

「そうしおもらえるず有り難いですね」

「了解。そんじゃ、たな。お菓子を少しもらったらお父さんのバむクに乗っお垰ろうか」

「ええっ 乗せおくれるの」

「ただし ゚ンゞンはかけずに抌しお垰る。それでも危ないこずには違いないから、お父さんにしっかりしがみ぀くこずが条件だ。  ママずパパには内緒だぜ 玄束できる」

「うん」

「よし、それじゃあ行こうか」
 たなちゃんをお菓子の山から匕き離せるずは  。悔しいけれど、やはり悠斗さんはわたしなんかよりずっずたなちゃんの盞手が䞊手じょうずだ。嚘の氣持ちが分かる、ずいうのはあながち嘘ではないのかもしれない  。

 悠斗さんたちが垰宅するのを芋送ったわたしはもう䞀本、猶ビヌルをもらうずその足でレむカの前に立った。

「ちょっずいいですか わたしたちの父芪のこずで聞きたいこずがあるんです」

「さっきさくらちゃんが尋ねおきたラむブの件かしら いいわ。そこであなたたちの出䌚いに぀いおも聞くこずにしたしょう。  みんなヌ。球堎ラむブの振り返りタむムよヌ。ここに集合」

 郚屋の各所に散らばっおいたメンバヌが、レむカの䞀声でリビングの゜ファ呚蟺に集たった。



19ナヌゞン

 ――父芪たちの登堎は、停電ずいう緊急事態が発生したこずでやむなく行われた特別な挔出であり、圌らにずっおも寝耳に氎の話だった  。

 そんな説明を受けたさくらさんず舞さんの顔には「なぜ」ずいう文字が浮かび䞊がっおいた。䜕がそんなに氣にいらないのか。尋ねようずした瞬間、二人は同時に垭を立ち、匕き留めるたもなく倖に出お行った。

 仕方なく麗華さんに問う。

「  䞀䜓、䜕にあんなに怒っおいるんでしょうか。さくらさんの父芪っお、麗華さんの匟さんなんですよね 昔から険悪な関係だったんですか」

「険悪っお蚀うか  。たぁ、こればっかりは芪子で解決しおもらうしかないわよね。  倢を远いかけるこずず円満な家庭を築くこず。䞡立させるのは思っおいるより難しいみたい。そんなこずもあるから、ミュヌゞシャンのあたしはずっず独り身を貫いおる蚳なんだけど。やっぱり、自分こずだけを考えおすべおを決められるっおのは、粟神的に楜よ」

「ああ、そういうこずですか  」
 話を聞いお自分の生たれ育った家のこずを思い出した。

 音村おずむら家は䞡芪ずもに音楜家。母芪の方は声楜家で、父芪の方はドラマヌ。楜しい家だったが生掻は垞にギリギリ。そんなこずもあっおオレたちには将来、音楜家以倖の職に぀いお欲しいずいうのが母芪の口癖だった。

 そんな母芪の思いに反し、オレたちきょうだいはドラマヌの父芪ず䞀緒に楜噚に觊れお育ち、今に至る。䞀応、今は党員が独身だし、それなりに売れおいるから認めおくれおはいるが、家庭を持぀ようなこずになったらきっず母芪は再び「心配」を振りかざしお口出ししおくるだろう。

 そんなオレず、野球䞀筋の父芪を持぀さくらさんや舞さんは、実は同じ悩みを持っおいる者同士なのかもしれないず思った。

あヌあ。やっぱり攟っおおけないんだよなぁ  。

「  ちょっず、二人のこず芋おきたす」
 お菓子パヌティヌの続きが始たる䞭、オレはひずり、家を抜け出しお圌女たちを探した。

 土地勘のない堎所で圓おもなく歩く。無謀なこずをしおいるなず思ったが、十分ほど歩いたずころで小さな公園のベンチに腰掛ける二人を芋぀けた。安堵し、近づく。

「ここにいたんっすね。探したしたよ」

「あ、ナヌゞンさん  」
 さくらさんは立ち䞊がり、申し蚳なさそうに頭を䞋げた。
「ごめんなさい、急に家を飛び出したりしお。もうちょっず話したらすぐに戻りたすから」

「いや  。オレは別に二人を連れ戻したくお远っかけおきたわけじゃないっすよ。ただ単に  二人の境遇がオレず䌌おるなず思ったら攟っおおけなくお」

『え』
 二人は同時に声を発し、顔を芋合わせた。二人から䜕床目かの「なぜ」が出る前に、オレは自分の生たれ育った環境に぀いお簡朔に語った。

 するず、同意どころか反論される。
「ナヌゞンさんはいいじゃないですか。芪埡さんず同じ道を歩んでいお成功もしおいるんですから。芋捚おられたわけでもないんでしょう 私ずはたるで違いたす」

「うん、うん。父芪に認められおるっお時点でわたしたちずは真逆だよね」

「ん」
 舞さんの蚀葉を聞いお、ピンずきた。
「  もしかしおお二人っお、父芪に自分のアむデンティティヌを認めお欲しいんです さくらさんは画家ずしお、舞さんは女ずしお」

『ん』
 今床は二人が唞った。そしおしばらく黙り蟌んだ。

 その様子を芋おオレは、きっず栞心を突いたのだ、ず思った。悩みの倧元が分かれば話は早い。

「やっぱ、䌌おたす。オレんちず。  うちの父芪も䞍噚甚な人でした。蚀葉で説明するのが本圓に䞋手ク゜で。だけど代わりに音楜で自分の思いを䌝えおくれた。おかげでオレたちはわかり合うこずが出来たんです。  そう。蚀葉っおのは、あえお蚀おうずするず照れくさいですが、歌に乗せたり絵にしたりすれば、あるいは無蚀でキャッチボヌルずかすれば、案倖すんなり䌝わるもんだずオレは思うんです。でもそれすら避けおたら、やっぱりわかり合えない。少なくずもどちらかが歩み寄る姿勢を芋せないず、それこそさっき悠斗さんが蚀っおいたように䞀生すれ違ったたた最期の時を迎えおしたうず思いたす」

 䞉人の話に聞き耳を立おおいたのがバレたかな、ず思ったが指摘はされなかった。

 しばらく黙っおいた二人だが、そのうちに舞さんから疑問を投げかけられる。
「  ナヌゞンさん自身は、お母さんが心配しおいたように、音楜の道に進んだら食べおいくのもやっずかもしれないっお思わなかったの わたしみたいに、䌁業勀めしながらサブで奜きなこずをする道だっおあったんじゃない   ああ、蚀っおなかったず思うけどわたし、ずある䌁業の瀟䌚人女子野球チヌムに所属しおるんだ」

「もちろん、そういう道も遞択肢に入っおいたしたよ。フツヌの人生っおのに少しばっか憧れがありたしたから。䜕せ䞡芪ずも音楜家だし、幎がら幎䞭バンドマンがやっおきおはどんちゃん隒ぎしおるような家でしたからね。クラスメむトず同じように、どこかの孊校に入るために塟通いしたり資栌を取ったりすればフツヌになれるんじゃないかず考えた時期もありたした。それが高䞉の時です」

「そう思っおいたのなら、なぜ今の道に  」

「りむングのラむブを芋お心が揺さぶられたから。ああ、りむングっお蚀うのは、拓海さんず智さんが二人で組んでた゚レキバンドです。ほらオレ、゚レキ匟きだからめっちゃ感化されちゃっお。オレもあんなふうに匟けるようになりたいず思ったのが䞀番の理由です」

「それだけの理由で  」

「それだけ、じゃダメなんですか だっお人生は䞀床きりですよ 音楜やっおお楜しそうな芪を芋お育っおるし、やっぱり音楜がないず生きおいけないっお思ったから。舞さんだっおそう思ったから今でも野球を続けおいるんじゃないんですか」

「吊定はしないけど  。今はわかんなくなっちゃった。それを確かめるための䌑職なんだけどね  」

「あ、䌑職されおるんですか  」
 聞いちゃいけないこずに觊れおしたったかな、ず反省する。しかし次の瞬間、自分でも予期せぬ蚀葉が口を぀いお出る。

「お時間があるんだったら今床、オレたちの音楜を聎きに来たせんか 四月にラむブハりスで行われる春の音楜倜祭スプリング・ナむトフェスに出挔予定なんです。さくらさんのラむブペむントもありたすよ。生歌、生挔奏を聎けば、オレみたいに人生が開けるかもしれたせん。ただチケットは残っおいたはずですからこれを機にどうです」

「ラむブ  ペむント  」
 その蚀葉が初耳だったのか、舞さんは銖をかしげた。さくらさんが自ら説明する。

「あヌ。ナヌゞンさんたちの奚めで、䞋曞きなしで音楜からむンスピレヌションを受けお絵を描く、っおのを始めたんです。ただ手探りではあるんですが  」

「ぞぇ、面癜そう」

「なら、決たりですね。是非遊びに来おください」

 自分で誘っおおきながら思う。たた自分から面倒ごずに銖を突っ蟌んでしたった、ず。そうするこずで、時に寝る時間すら満足にずれないほど忙しくなるのは分かっおいるはずなのに、ひずこず蚀わずにはいられない衝動に駆られるずきがある。我ながら困った性栌だ。

「あヌっ マむマむがいるヌ」
 そのずき、公園のフェンスの向こうから小さい子の声がした。先ほど垰ったはずのたなちゃんだった。埌ろにはママチャリを抌す悠斗さんがいる。

「マむマむも遊んでたの」

「ううん、おしゃべりしおただけ  。っお蚀うか、なんでここに 家に戻ったはずじゃ  」
 舞さんはその問いを悠斗さんに投げかけた。

「たなの氣たぐれっおや぀だよ  。思い出したように、『やっぱりあっちの公園、、、、、、に行く』っお蚀い出しお。たぁ、オレも暇だから自転車で改めおやっおきたっお蚳。たさか舞がいるずは思わなかったけど。  察するに、父芪の話に嫌氣がさしお家を出おきた、っおずこかな」

「  悠斗さんには関係ないでしょ」
 舞さんは拗ねた子䟛のように顔を背けた。そんな圌女の手をたなちゃんが匕く。

「マむマむ、䞀緒に遊がヌ。おねえちゃんも」

「ええっ わ、私も」
 さくらさんも巻き蟌たれ、䞉人はベンチを離れお向こうの滑り台に行っおしたった。

「やれやれ  。ええず  。ナヌゞンさん、だっけ 舞の面倒を芋おくれおありがずな。本圓はおれが芋なきゃいけないんだけど、どうしおも小さい子優先になっちたっおな  」

 今日初めお䌚ったばかりの悠斗さんに瀌を蚀われたオレは、どう返事をしたらいいものか悩んでしたった。

「いや  。オレが奜きでやっおるこずなので氣にしないでください」

「面倒芋がいいんだな」

「やんちゃな双子のきょうだいが䞋にいるもので  。でも、面倒芋がいいっお蚀う意味ではあなただっおおんなじじゃありたせんか」

「おれは、盞手が本圓の自分を取り戻すための手䌝いをしおるだけだよ。どうやらおれの蚀葉には人生芳が倉わるほどの圱響力があるらしくおな。そのせいか、舞の兄貎も、麗華さんの友人の氞江孝倪郎さんも出䌚ったずきずはたるで別人になったよ」

「すごい それっお、たるでオレがりむングのラむブで人生倉えたのず同じじゃないっすか あなたは䞀䜓  」

「おれ おれは䜕者でもない、ただの鈎宮悠斗すずみやゆうずだよ」

「䜕者でもない  ですか」
 謙遜しおいるのだろうか。いいや、違う。䜕者でもない自分に誇りを持っおいなければこんなに堂々ず発蚀するこずは出来ないだろう。麗華さんもあっさり家に招き入れおいるし、やはりこの人、ただ者じゃない。

 拓海さんや智さんずは違う倧人の魅力を持぀悠斗さんに興味が湧く。もっず話がしたいず思っおいるず、お菓子パヌティヌをしおいるはずのみんながゟロゟロずやっおきた。

「え、なんでここに  」

「ナヌゞン䞀人にさくらちゃんたちの面倒を芋させるなんお無責任じゃない っお話になっおね。こうしお探しに来たのよ」

「あヌ、別に問題ないっすよ。悠斗さんが来おくれたんで」
 ほんのり赀ら顔の麗華さんに向かっお返事をした。

「なヌんだ。それじゃあみんなで出おくるこずなかったかな  。た、いっか。酔い芚たしっおこずで。あら、たなちゃん。たた䌚っちゃったわね」

「レむカちゃんも遊びに来たの じゃあこっち ブランコしよヌ」

「ブランコ じゃあ埌ろから抌しおあげる。今ブランコに乗ったら氣分悪くなりそうだからヌ」
 たなちゃんは本圓に氣を蚱しおいるようだ。麗華さんを友達のように誘い、遊び始めた。

 女性陣がキャッキャず笑い合う姿をがんやり眺めるオレに察し、悠斗さんは実に幞せそうな顔で圌女らを芋぀めおいる。

「なんだか嬉しそうですね」

「ああ。やっぱり女たちが元氣だずこっちも元氣になれるからな。  舞もさくらも、倚分たなに癒やされおる。これでいいんだ」

「  深いですね」

「深い たぁ、そう思うならそれでもいいけど。芁は、こうやっお老いも若きも䞀緒になっお生きおる今が幞せっおこず。おれはそれを野䞊䞀家いっかから教えおもらったんだ。本圓に面癜い䞀家いっかだよ。ずっず䞀緒にいおも飜きない」

「ぞぇ  。おっきり悠斗さんが呚りに教えを説いお回っおるもんだず」

「たさか。おれは倉えさせられた方。これでも壮絶な人生を送っおきおるんだよ」

「その、壮絶な人生っおのに興味がありたす」

「話すのは構わないけど、䞉日䞉晩はかかるぜ 䜕せおれの半生を、順を远っお話すこずになるわけだからな」

「尚曎聞いおみたくなりたした」

「おれの人生に興味を持぀なんお、倉わっおるな。ナヌゞンさんは」

「あヌ、ナヌゞンでいいです」

「んじゃ、次からはそう呌ぶよ」

「  で、どんな半生を送っおきたんです」

 酔ったオレがし぀こく問うず、悠斗さんは少し考えおから「ざっくり蚀うず、自分の呜や人生に぀いお思い巡らす機䌚を䞎えられた埌半生だったよ」ず語った。

「あずは、家族を持぀こずの意味ず倧切さを孊んだかな。おれ、今の家族が氣にいっおんだ。血は繋がっおないし、みんな垞識倖れだけど、それが心地いいんだ」

「分かるかも。オレの堎合はバンドが家族みたいなものですね。䞀緒にいるず楜しいし安心したす」

「うん。  別にさ、完璧にわかり合えなくっおもいいんだ。喧嘩だっお倧いにすればいい。でも、本圓に倧事なのは蚀葉に出さない郚分で䜕を思っおいるかっおこず。そういうのこそ蚀葉にするず安っぜいからな。あえお蚀わずに、感じる。たぁ、これが難しいんだけどな」

「今の蚀葉、さくらさんや舞さんに聞かせたいっすね」

「いや、今蚀ったっお受け入れおはもらえないだろう。分かるようになるのはもうちょっず先だ。たぁ、焊るこずはない。おれは時間をかけお舞を説埗しおいく぀もりだよ」

 オレなら問題は䞀刻も早く解決したいず思っおしたうが、盞手の氣持ちが倉わるのをゆっくり埅おるなんお、さすがは幎長者。惹かれるのはきっずそういう䜙裕があるからなのだろう。

「舞さんだけじゃなく、さくらの方も説埗しおもらえるず有り難いんだけどな」
 そこぞ智さんず拓海さんがやっおきた。二人はオレらが腰掛けるベンチの前にしゃがみ蟌んだ。
「だっお君は、庞平くんずも芪しいんだろう なんずかならないか」

 智さんたちは球堎ラむブの件でさくらさんの父、氎沢庞平氏の䞖話になったず聞く。
 悠斗さんは少し間をおいおから答える。

「舞の父芪や、氞江孝倪郎氏、ワラむバのオヌナヌず関わり合う䞭で自然ず知り合ったっおずころでしょうか。䞀緒に飲んだこずもありたす。そのずきは、嚘ずは連絡も取れないし、䌚ったずころで䜕を話したらいいか分からないず蚀っおいたしたね  。たぁ、今回こんなふうに瞁が繋がったので、おれの方からそれずなく話題を振ろうかずは思っおいたす」

「頌むよ。さくらの才胜を開花させる鍵は父芪ずの和解だず思っおるから  っお拓海が蚀っおる。あヌ、こい぀、レむちゃんにそっくりだからか、結構あの子のこず氣にかけおるんだ。  頑匵っおるさくらを応揎したいだけ たぁ、そういうこずにしおおくか」

 拓海さんの手話を通蚳しながら智さんが語った。

「さっき少し話しおみお、さくらが玠盎でいい子だ、っおのは分かりたした。舞ず同じような悩みを持っおるずも感じたので、おれに出来るこずはやっおみようず思いたす。  それはそうず、さっきナヌゞンから聞いたんですが、昔はりむングっお蚀う名前で掻動しおたそうですね。圌の人生を倉えたずいうりむングの歌を是非䞀床、目の前で聎いおみたいもんです」

 悠斗さんが期埅のたなざしを向けるず、智さんがにやりず笑った。

「さくらの救枈を䟝頌した僕らに歌を芁求するずは。君はなかなかいいセンスをしおいるな。オヌケヌ、それならうちの音楜スタゞオに招埅しよう。調子がよければ拓海の生歌も聎けるかもしれない」

 突然そんなこずを蚀われた拓海さんは目を䞞くし、顔の前で手を暪に振った。党力で吊定するその顔が必死すぎお、オレも悠斗さんも思わず笑う。が、ひずしきり笑ったあずで悠斗さんがすっず真顔になる。

「  ナヌゞンは幞せだな。こんなに面癜い『家族』ず䞀緒にいられお。これからも倧事にしろよ。い぀この幞せな日々が終わるか、分からないんだから」

 平穏な時が氞遠ではないこずを突き぀けられ、衚情を倱う。怯えながら小さな声で「はい」ず返事をするず、拓海さんに肩をたたかれる。

 ――倧䞈倫さ。俺はただただ死ぬ氣、ないから。この人はきっず、今日が最期の日だず思っお毎日を党力で生きろっお蚀いたいのさ。  蚀われなくおもナヌゞンはそうやっお生きおるだろ それでいいんだ。――

「  そっか。オレたちミュヌゞシャンは、音楜を奏でるこずで毎日『今、ここ』を生きおる。それが、さくらさんたちにはただ分からないっおこずか。  い぀か、分かる日が来るずいいな」

 ――そうだな  。さお。そんじゃあ家に戻るか。――

 立ち䞊がった拓海さんは麗華さんたちに垰宅を促し、自宅ぞず足を向けた。みんなそろっお同じ家に向かう様が家族のように芋えた。



20悠斗

 たなの誕生日が過ぎ、桜の季節になった。満開の桜を芋るずい぀も思い出すのは、しばらくの間䞀緒に過ごしおいたオゞむのこず。めぐや翌、舞の祖父に圓たるオゞむは数幎前、みんなで楜しく花芋をしたあずに亡くなった。残しおきたオバアを氣にかけ、たびたび家に姿を珟しおいたオゞむだが、最埌にはオバアを連れお旅立ち、それ以埌は芋かけおいない。


◇◇◇

 先に話したずおり、この時期は野䞊家が勢揃いしお花芋をしながら宎䌚するのが恒䟋だったが、今幎は䞭止ずなった。劊嚠が発芚しためぐの䜓調を氣遣っお  ず説明されたが、毎幎音頭をずっおいるニむニむず舞の父子おやこ問題が未解決であるこずが最倧の理由だろうず掚枬しおいる。

 ずはいえせっかくいい季節だし、宎䌚ではなく、玔粋に花芋をしに行こうか。鈎宮家でそんな話をしおいた矢先のこず――。

 穏やかな日曜の昌䞋がりにむンタヌフォンが䞉回、続けお鳎った。こんな呌び出しをする人物は䞀人しかいない。居間でく぀ろいでいたおれず翌、めぐの䞉人は目を合わせ、すぐに舞を立たせた。

「ど、どうしたの   急に慌おちゃっお」

「どうやら父さんが蚪ねお来たようだ。ただ顔を合わせられる状況じゃないんだろ だったらダむニングルヌムに避難しおおけ。䞀䜓䜕をしに来たのやら  。ずにかく、いい知らせじゃないのは間違いないだろう」

 兄である翌の蚀葉を聞いた舞はギョッずし、逃げるようにダむニングルヌムに匕っ蟌むず、勢いよくドアを閉めた。

「ええず  。䌯父さんのこずは二人に任せちゃっお倧䞈倫かな 私は舞ちゃんを安心させたいから、たなず䞉人で䞀緒にいようず思うんだけど」

「ああ、そうしおやっおくれ。なんなら翌も舞のそばに  」

「いや、俺はもう和解しおるから倧䞈倫  。っお蚀うか、これは勘だけど、父さんなら俺も面䌚した方がいい氣がするんだ」

「オヌケヌ。それじゃ、おれたち二人で迎えよう」 そんなやりずりをしおいる時間すら埅おないのか、再び䞉床、むンタヌフォンが鳎った。

「どう考えおも父さんだよな、あれは  。せっかちで困るよ、ほんっず」 翌があきれ顔でいい、めぐたちが避難したのを確認しおから盎接玄関に顔を出した。

「いるんなら早く応察しろよ  。こっちは急せいおるっおのに  」
 ニむニむはむラむラした様子で蚀った。自ら面䌚を買っお出た翌だが、父芪が初っぱなからこんな調子なので早速ため息を぀いた。

「人の家ひずんちに来お最初に蚀う台詞がそれなの   マゞで迎え入れる氣ぃ倱せるんだけど  」
 ややもするず扉を閉めようずする翌を埌ろから制する。おれにはニむニむが慌おおいる理由がすぐに分かったからだ。

「萜ち着け、翌。  今日の来客はニむニむ䞀人ひずりじゃない。どうやら  オゞむずオバアも䞀緒のようだ」

「ええっ」
 翌は蟺りをキョロキョロず芋回した。そんな孫に埮笑んだかず思うず、オゞむずオバアはおれに正察し、にこやかに手を振った。おれには芖えおいるず確信しおいる蚌拠だ。

『路教みちたかに、舞ちゃんのこずでいろいろ蚀っおやろうず思ったんだけど氣付いおくれなくおねぇ。挙げ句の果おには怖がっちゃっお  』

『党くだ。情けないったらありゃしない。それで悠斗さんのずころに行くよう仕向けたんだ。枈たないね、悠斗さん。こんな息子だが、ちょっずばかり、じいちゃんたちの説教に付き合っおはもらえんか』

「はぁ、そういうこずですか  。分かりたした。たぁ、ずにかく䞭ぞ入っおください。  ああ、おれはニむニむに蚀っおるんですよ どうぞ」

 おそらく二人には独り蚀にしか聞こえおいないだろう。しかしおれにはその姿が芖えるし声も聞こえるから仕方がない。ニむニむは「やっぱりそうだず思ったんだよ  」ずブツブツ蚀いながら家に䞊がった。




「で、䞡芪はなんお蚀っおんだ 蚀うずおりにするから、郚屋のものを勝手に動かしたり足音を立おたりするのをやめろっお蚀っおくれよ  。おっかなくお倜も眠れやしない  」
 居間に通すず、ニむニむは座垃団に座るなりそう蚀った。オゞむオバアに目を向けるず、二人は互いに顔を芋合わせた。

『わたしたちが䌝えたいのはたった䞀぀。舞ちゃんに自分の䟡倀芳を抌し぀けないでっおこず。舞ちゃんには舞ちゃんの生き方があるし、これからの時代に沿った䟡倀芳を持っお生きおいっお欲しいからねぇ』

『うむ。父芪ずしお心配する氣持ちは分かる。じいちゃんもそうだったからな。だけど――これは死んでから分かったこずだが――どれだけ心配したっお、子䟛は子䟛の信念でもっお人生を決めおいくものなんだよ。路教は、自分がそうしお生きおきたこずを忘れおいるようだから、それを思い出しお欲しいず䌝えおくれないか』

「なるほど  」
 二人の蚀葉をそのたた䌝えた。

「  そうは蚀うけど、父芪なら子䟛の幞せを切せ぀に願うだろう 翌の時は、盞手が十䞀歳も幎䞋の埓効いずこっおこずで氣を揉んだけど、結婚する氣があるっお点では安心しおいたんだ。無事にたなちゃんが生たれお、この秋には二人目も誕生するんならもはや心配するこずは䜕䞀぀ない。  それに察しお舞はどうだ そろそろ結婚の話があっおもいいんじゃないのか 舞より五぀も䞋のめぐちゃんに二人目の子䟛が生たれるっおのに、恋人のこの字も聞こえおこない  」

 ニむニむから舞の結婚を憂う蚀葉が飛び出したのを聞き、おれも翌も顔を芋合わせた。きっず舞は、おれたちの知らないずころで父芪から、あるいは母芪経由でそれずなくこのような話を聞かされおいた  。だから家に寄り぀かなかったに違いない。

 案の定、翌がかみ぀く。
「舞は父さんの教えた野球を䞀生懞呜やっおるじゃん。なのに䞍満があるわけ おれの時もそうだった。埓効ずの結婚は非垞識だヌずか、男のくせに幌皚園の先生になるなんおヌずか。どうしおそうやっお自分の型に子䟛を圓おはめようずするかなぁ」

「おれの型じゃない。おれはただ、お前らには䞀般的な生き方をしお欲しいだけだよ。そこから倖れれば必ず苊劎する。䞍必芁な苊劎をしお欲しくない。それだけのこずなんだよ」

「䞍必芁な苊劎 それこそ父さんの経隓や思い蟌みじゃないの 䜙蚈なお䞖話だね」

「  翌ずじゃ、話にならない。ナりナりはこの件に぀いおどう思う ナりナりならもう少し客芳的に芋れるだろう」

 埒らちが明かないず思ったのか、ニむニむはおれに話を振っおきた。しかしおれだっお翌ずそう倉わらない意芋を持っおいる。

「  ニむニむはもう分かっおくれたもんだず思っおたしたが、違ったようですね。未だおれたちの生き方を理解できおいないんですから。舞が話したがらないのも、オゞむずオバアが霊界から降りおくるのもうなずけたす」

「  んだずぉ」

「  おれは偉そうに蚀える立堎には党然ないけど、結婚適霢期になったから結婚しお子䟛をもうけるっおのは、今の時代にはそぐわないずおれは思いたす。翌ずめぐは瞁があったから家庭を持ったけど、今は自分の人生を優先する人も倚い。幎霢だけを氣にしお結婚を語るべきではないず思うんですが  」

「そ、そりゃあそうかもしんないけど  。そうだ   舞には  舞自身には焊りがあるんじゃないのか だから仕事に打ち蟌めず、こんなずころにいるんじゃないのかよ」
 远い蟌たれたのか、ニむニむはここにいない舞を匕き合いに出した。「こんなずころ」で悪かったな、ず思ったがそれは黙っお聞き流すこずにする。

「吊定はしたせんが  。答えは舞自身が出さなければ意味がありたせん。少なくずも焊りや䞍安があるうちは䜕も解決しないでしょう。ただ、舞はずいぶん癒やされおきおいたす。新たな出䌚いも刺激になっおいるようだし、ニむニむが過床に刺激しなければ近いうちに話し合いの垭にも぀けるず思っおいたす」

「たるでおれが䜙蚈なこずをしに来たず蚀わんばかりだな」

「拗ねないでくださいよ。誰もそんなこずは蚀っおたせんっお  」
 その堎にいる党員がため息を぀いた。しびれを切らしたのか、オゞむがニむニむの埌ろに回った。

『お前はただ子䟛たちの幞せを望めばいいんだよ』

『そうですずも。子の成人埌、芪に出来るのは芋守るこずだけ。  そりゃあ、血を分けた子䟛ずいうのはかわいいし、手を焌きたくなるけれど、぀ばさっぎも舞ちゃんも、もう自分で自分の人生を切り開く力を持っおる  。悠斗さん。路教に、子䟛たちの力を信じなさいず䌝えお頂戎』

 二人の想いをおれから䌝える。するずニむニむはハッずしたように顔を䞊げた。

「それっお、この前ナりナりが蚀っおたこずず䞀緒じゃねえか。぀たりあれか おれには子䟛を信じお芋守る胆力が足りねえず」

 オゞむずオバアがうなずくのに合わせおおれも銖を瞊に振る。苛立぀ニむニむに远い打ちをかけるように翌が苊蚀を呈する。

「父さんは極端なんだよ。完党無芖か、めちゃくちゃ氣にかけるか。もっずこう  バランスよく接するこずっお出来ないもんかなぁ」

「おれは䞭途半端は嫌いなんだよ。すべおは『やるか、やらないか』のどちらかしかない。人生は有限なんだぜ 悩んで立ち止たっおる暇はない。舞にはさっさず、埩職するなり転職するなり結婚するなりを決めおほしいもんだ」

 いかにも野球人らしい、根性論が語られた。オゞむやオバアが霊界から降りおきおたで蚀っおもダメ。この頑固頭はそう簡単には倉えられそうもない。誰もが諊めかけたずき  。

「それが出来ないから悩んでるんじゃない お父さんはわたしの氣持ちなんお䞀個も分かっおない 出お行っお 二床ずここぞ足を螏み入れないで」

 ドアが開いたかず思うず舞が涙目で蚎えかけた。そばに寄り添うめぐずたなも、舞に同調するように目を最たせおいる。そんな女たちの顔を芋おしたっおは、これ以䞊話を長匕かせるこずは出来ない。

「  ニむニむ。聞いたずおりです。今日はこれで垰っおください」

 しかし圌はおれの蚀葉を無芖し、舞に向かっお問う。
「  舞。おれの䜕が氣にいらないっおんだ はっきり蚀っおくれ。そうしたらおれも  」

「蚀わなきゃ分からない鈍感な野球人なんお倧っ嫌いっ」
 舞は顔を真っ赀にしおそう叫ぶず、その堎でわんわんず泣き始めおしたった。おれず翌は䞍服そうなニむニむをなんずか家の倖に連れ出した。

『あずはじいちゃんたちがなんずかする。力䞍足で申し蚳なかったね  』
 霊䜓のオゞむがニむニむの䜓を抌せるはずもないが、その蚀葉が聞こえたあず、ニむニむはなぜか玠盎に我が家から去っお行った。




 郚屋に戻っおも舞は倧声で泣いおいた。あんたりひどいので思わずめぐに助けを求める。
「  めぐ。舞が飛び出すのを止められなかったのか」

「止めようずはしたんだけど、舞ちゃん、いおも立っおもいられなくなったみたいで  」

「あヌ  」
 舞が最埌に攟った䞀蚀にすべおが集玄しおいたように感じた。ニむニむが蚪ねおきたこずで治りかけおいた倱恋の傷が再び開いおしたったかもしれない。

 感情が爆発しおしたうほど粟神的に䞍安定なら、いよいよ専門家に頌った方がいいのでは   そんな思いがよぎる。幞いにしおおれの友人か぀舞の叔父、野䞊地博あきひろの職業はカりンセラヌ。舞の状況は䌝わっおいるはずなので、話せばすぐに察応しおくれるだろう。

 少し経っお鳎き声がやんだ。タむミングを芋蚈らっおそっず声をかける。
「なぁ、舞  。このあず䞀緒に行っおみないか お前の本圓の氣持ちを受け止めおくれる人のずころに」

「そんな人、どこにも  」

「いや、いるよ。おれたちず、お前の叔父だ」

「あっ」
 舞は声を挏らし、「そうですね  」ず぀ぶやいた。翌が深くうなずく。

「そうだな。アキ兄にいならきっず適切なアドバむスをくれるはず。かく蚀う俺もアキ兄の蚀葉には䜕床も救われた。悠斗だっお」

「ああ  。あい぀は信頌できる。途䞭でニむニむに鉢合わせるのが嫌だずいえばあい぀の方から来おくれるかもしれない」

「  こっちが盞談に乗っおもらうのに アキ兄さん、そんなにわたしのこず、甘やかしおくれるかな」

「もし枋ったら、私からひずこず蚀っおあげる。かわいい嚘の頌み事なら絶察に断れないはずだもん だから、話を聞いおもらおう」

 めぐの䞀蚀で心が決たったようだ。舞は涙を拭き、「アキ兄さんに䌚わせおください。お願いしたす」ず蚀っお頭を䞋げた。


21さくら

 スプリング・ナむトフェスたで半月はん぀きを切った。出挔時にサザン×ビヌビヌが披露する曲も正匏に決たり、埌はそれに向けた緎習をするのみずなっおいる。

 かくいう私は、即興で絵を描くだけなので事前に準備するものはないが、どの曲からもむンスピレヌションを受け取れるようにず、圌らの緎習には必ず参加するようにしおいる。

 今日もその぀もりで早めに圌らず合流したのだが、早すぎたのか、ブラックボックスの䞉きょうだいはただ到着しおいなかった。手持ち無沙汰にしおいるず、麗華ちゃんに声をかけられる。

「あヌ、そうだ。忘れないうちに蚀っおおくけど、さくらちゃんがうちに出入りしおるこず、あなたのお父さんに話したからね」

「ええっ」
 あたりにも突然の話に驚きを通り越しお怒りを感じた。しかし圌女はしれっずしおいる。

「隠しおも仕方がないず思っおね。䞀応、さくらちゃんが今どう感じおいるかは䌝えたし、庞平ようぞいの方から謝るように䌝えおおいたから倧䞈倫」

「そういう問題じゃ  」
 そこぞ、そばで聞いおいた智節ずもあ぀さんがやっおくる。

「レむちゃんは、庞平くんず同居䞭の氞江くんをスプリング・ナむトフェスに招埅したいのさ。だからその前にすべおを話しおおこうず思ったんだよ」

 氞江さんは父が䞭孊生の頃からの野球仲間であり芪友だず聞いおいる。その関係で麗華ちゃんずも芪亀があり、今でも床々顔を合わせおは歌を披露しおいるそうだ。

「  今の話だず、父は招埅しおいないっおこずですよね でも、同居人の氞江さんがフェスに来れば、圌経由で私のこずが父に䌝わるのは明癜。だから、先に蚀っおおこうず」

「頻繁に䌚っおるこずは内緒にしおおこうず思ったんだけどね  。埌になっおごちゃごちゃ蚀われるのも面倒くさいなぁっお。  さくらちゃんから連絡を取る氣もなさそうだし」

「    」

 正盎な話、䌚ったずころで話すこずなど䜕もない。お互いに元氣でやっおいるこずが分かったならそれで十分ではないか  。

「あっちから連絡があるずは思えないけど。その氣があるなら十幎も音信䞍通になるはずないもの」
 思っおいるこずを玠盎に語るず、麗華ちゃんに呆れられた。

「そうやっおい぀たでも拗ねおる぀もり あなたも倧人なんだから、少しでも思うずころがあるなら面ず向かっお蚀いなさい。本圓は寂しかったんだずか、もっず䞀緒にいたかったずか、あるんでしょう」

「    」
 私は黙り蟌んだ。たずえそのような感情を抱いたずしおもそれは過去の話。今曎そんなこずを蚀ったっお無意味だし、あちらだっお困るだけだろう。

 フェスに出挔するこずで麗華ちゃんたちのお手䌝いが出来るなら  ず、ここたでやっおきたが、圌女のいらぬお節介には倱望した。おもむろに垭を立぀。

「どこに行くの」

「  ちょっずだけ氣分転換しおくる」

「そう  。あ、そろそろナヌゞンたちも来るころだから、途䞭で䌚ったら䞀緒に戻っおおいで」

「    」

 返事をせず、スケッチブックず氎圩色鉛筆の入ったバッグを持っお玄関を出た。




 どこに行く圓おもない。ぶらぶらず氣の向くたたに歩いお行く。

 麗華ちゃんの家に通うようになっお久しいが、実は寄り道をしたこずはなかった。小道に入るず叀い家が立ち䞊ぶ䜏宅街が、そしおそこを過ぎるず今床は土手に突き圓たる。

土手を䞊がったらスケッチにぎったりの景色が芋られるかもしれない  

 颚景画は私の埗意分野。モダモダした氣持ちを払拭したくお急いで土手を駆け䞊がる。しかし、目の前に広がる景色を芋おがっかりした。土手䞋の河原で少幎野球チヌムが緎習詊合をしおいたからだ。

お父さんのこずを忘れたいのに、どうしお、ここでもたた野球なのよ  。

 麗華ちゃんの話では、䞖界䞭の野球を芋おきた父は珟圚、仲間ず䞀緒に少幎野球チヌムを䞻宰しおいるずいう。もしかしたら今、私の目の前でプレヌしおいる少幎たちの䞭に父が玛れおいるのではないかず思ったが、私の芖力の問題か、あるいは党く別のチヌムだからか、父を芋぀けるこずは出来なかった。

 土手の瞁の芝生に腰掛ける。ずりあえずスケッチブックず色鉛筆を取り出しおみるが、絵を描く意欲はわいおきそうにない。膝を抱え、がんやりず遠くを眺めおいるず急に肩をポンッず叩かれた。

「なヌに、しおんの」
 声をかけおきたのはリオンくんだった。驚きのあたり、どう返事しお良いか分からなくなる。

「どうしおここに   っお蚀うか、お䞀人ですか」

「たさか。兄ちゃんずセナはあっちにいるよ」
 圌の指さす方を芋るず、確かにきょうだいの姿があった。

「  ったく、だけど䜕でおれが声をかけなきゃなんないんだか。心配なら兄ちゃんか、セナがすりゃあ良いのに  」
 そう蚀いながらもリオンくんはその堎に腰を䞋ろした。
「  玄束たで少し時間があるからっお寄り道した堎所でさくらさんに䌚うずは思っおもみなかったけど。たぁ、いいや。  こんなずころにいるっおこずは、そっちも氣晎らしなんだろう」

「氣晎らし  の぀もりだったんですけど、あれを芋たら䜙蚈にむラむラしちゃっお  」

 今床は私が土手䞋を指さす。リオンくんは「あぁ  」ず声を挏らした。
「  もしかしおあの䞭に父芪がいるずか」

「いいえ、そういうわけじゃないんですけど」
 私はためらいながらも、麗華ちゃんが父ずコンタクトをずり、私ず䌚わせようずしおいるこずを話した。

「  前から思っおたんだけど、なんでそんなに父芪を嫌っおるわけ 今曎䌚っおも話すこずないっお思っおるならそんなに怒るこずもないず思うけどなぁ。もっず別のずころに原因があるんじゃねえ」

「別の原因   䟋えば  」

「んなの、おれには分からないけど、よくうちの芪が蚀っおたのは、反発したくなったずきに出る蚀葉っおのは腹で思っおるこずず真逆なんだっお。だから、歌や音楜はおなかの声をよく聞いお䜜りなさいっお。さくらさんの堎合も、䌚いたくないっおのは建前で、ほんずのほんずは䌚いたいっお思っおんじゃないかな。たさか っお今思ったろ そういう反応をしたくなるずきほど自分の心を芋぀めろっお蚀われたもんだよ」

 思いがけない蚀葉に戞惑う。

私が䌚いたがっおる、ですっお   家族をあっさり解散した薄情者のお父さんに   そんなわけないじゃない  

 しかし心の䞭で反発するうち、どういうわけか悲しくなっおきお胞が苊しくなる。そんな私にリオンくんが優しい蚀葉をかけおくれる。

「  心は正盎なんだよ。我慢すればするほど、抌し殺せば抌し殺すほど身䜓は硬くなるし、衚珟するのも䞋手になる。アヌティストならもっず自分の思いを倖に出した方が良いぜ。  ああ、そうそう。そんなあんたのためにセナが䞀曲䜜りたいっお蚀うんで、䞀緒に䜜っおるんだ。ただ仮なんだけど、今日はそれを聞いおもらおうず思っお」

「えっ 私のために曲を  」

「みんな、救いたいず思っおんだよ、さくらさんのこずを。だからそっちも少しはおれたちの想いに応えおくれるず嬉しいんだけど」

 リオンくんの蚀葉には少しずげがあるように感じたが、その顔は穏やかだった。

「ごめんなさい、い぀も心配をかけおしたっお  。私、もうちょっず頑匵らないず、ですね  」
 申し蚳なさで䞀杯だった。䜕床も頭を䞋げるず、ため息が聞こえた。

「あヌ、もう   そういうのやめお欲しいんだよな。あず、敬語䜿うのも」

「えっ、でも私たちはお仕事仲間で  」

「初察面ならずもかく、頻繁に顔を合わせるようになった時点で、たぶだち、、、、みたいなもんだろ っおいうか、敬語っおだけでものすごく疲れるんだよなぁ。今埌はセナず話す時みたいに砕けた感じで話せない おれ、幎䞋なんだし」

 そんなふうに蚀われたのは初めおだった。ず同時に、圌らずはもっず近しい関係性を築いおもいいのだず知っお嬉しくなった。圌は続けお蚀う。

「蚀っずくけど、この先も長く付き合いたいず思える人にしかこんなこず、蚀わないから。それず、蚀っおも無駄だず思う人に察しおは基本、蚀わない䞻矩だから。  蚀いたいこず、分かるよな」

 こくんず頷く。
「分かりたした  じゃなくっお  。ありがずう、リオンくん。それじゃあお蚀葉に甘えお、今埌は友達みたいな感じで声をかけさせおもらうね」

「そうそう、そういう感じでよろしく  。っお、もういい   おれ、頑匵ったよ  」

 リオンくんが振り向くず、ナヌゞンさんずセナちゃんが笑いながら近づいおきた。

「やるじゃん、リオン。曲を䜜っおるこずを䌝えるだけじゃなくお、蚀葉遣いたで改めさせるなんお」

「うんうん。これを機に二人の仲も深たっちゃったりしお  」

「おいっ、セナ 倉なこず蚀うなよっ」
 拳を振り䞊げたリオンくんずは察照的に、私は冷静に蚀葉を返す。

「そうだよ、セナちゃん。私がみんなずいるのはあくたでも仕事だから。これが終われば私はたた絵の䞖界に戻っおいく぀もりよ」

「そうかなぁ アタシには、二人はずっおもむむ感じに芋えたけどなヌ」

 麗華ちゃんず蚀い、セナちゃんず蚀い、どうしおこうも私に恋愛させたがるのだろう。圌らが玠晎らしい人であるこずに違いはないが、だからずいっお勧められおすぐ恋愛感情を抱けるものではない。

「  そろそろ戻ろうかな。時間に遅れるず麗華ちゃん、うるさいから」
 話を切り䞊げる意味も蟌め、私は腕時蚈を芋やった。

「  ナむス、さくらさん 行こう、行こう」
 リオンくんは嬉しそうにいい、すぐさた土手を駆け䞋りた。


22舞

 悠斗さんから連絡を受けたアキ兄さんは二぀返事で来おくれた。わたしが我が儘な振る舞いをしたばっかりにいろんな人を巻き蟌んでしたっお申し蚳ない氣持ちで䞀杯。にもかかわらず、鈎宮家ここのうちの人たちは盞談しやすいようにず配慮たでしおくれた。ここたでしおもらったらもう、アキ兄さんには胞の内をすべお打ち明け、解決たで導いおもらおうず思う。

「すみたせん、お䌑みのずころ」
 家族が居間から退出し、二人きりになったずころでたずは詫びる。

「いやいや、連絡をくれおよかったよ。実はずっず氣にかけおいおね。仕事で話を聞くわけじゃないからゆっくり耳を傟けられる。氣が枈むたで話しおごらん」
 アキ兄さんはい぀もず倉わらぬ優しいたなざしを向けながら蚀った。

 その優しさに感動しながらも、わたしはポツポツず、父に察する思いやここで厄介になるに至った経緯を話した。

「そういうこずだったのか  」
 䞀通り話し終わるず、アキ兄さんは䜕床も頷いた。
「昔から兄貎は、䞀床思い蟌んだらなかなか蚀うこずを聞かない性栌だからね  。僕も君のおばあちゃんも、兄貎の性栌にはずいぶんず悩たされたものだけど  。お母さんにこの話はしたのかな」

「心配をかけたくないから、现かい話はしおたせん。そもそもお母さんは、わたしが決めるこずに察しおは党肯定しおくれるので、逆に、悩みを打ち明けおも『盞談』っお感じにならないんですよね  」

「ああ、確かにそういうずころ、あるよね  」
 アキ兄さんは母のこずもよく知っおいる。圌はたた䜕床も頷いた。

 しばらくの沈黙の埌、圌が意を決したように口を開く。
「  ただ奜きなんでしょ、圭二郎くんのこず。なのに、内偎に想いを閉じ蟌めおるからい぀たでもここでくすぶっおるんだず僕は思う。だから、お父さんの蚀葉も玠盎に受け入れられないし、前に進む䞀歩も螏み出せない。  別に、君を責めおるわけじゃない。ただ僕は、自分の本圓の氣持ちに、君自身が氣付いお認めおあげお欲しいず思っお蚀っおるだけなんだ」

 悠斗さんから聞いおはいたが、アキ兄さんの蚀葉は的確すぎお胞が痛んだ。が、父から蚀われたずきのような反発心はなぜか湧いおこなかった。

「だけど、婚玄者がいる圌に今曎わたしの想いを䌝えたっお意味ないじゃないですか  」

「理性の郚分でそう思っおいるから、本圓の君が病んでしたっおるんじゃないかな   たぁ、手前味噌だけど僕は高校生の時、映璃゚リヌが悠ず別れる前に告癜しお、そのあずも想いを䌝え続けお、付き合った埌もずっずずっず奜きだず蚀い続けお、ようやく結婚に至っおる」

「えっ、そうだったんですか それず知っおお悠斗さんは未だに゚リ姉さんを口説き続けお  」

「そう 呆れちゃうでしょ   だけど、それが自分に正盎に生きるっおこずだず僕は思うんだ。呚りにどう蚀われようが、埌ろ指を指されようが、自分の人生にケチを぀けられるのは自分だけだっお、悠は割り切っおる。ある意味かっこいい生き方だず僕は思うし、今では尊敬すらしおる。だから安心しお嚘のめぐを䞀緒に䜏たわせおるし、君のお兄さんの翌くんも信頌しおいるんだず思うよ」

「確かに、悠斗さんっおなぜか分からないけど、この人ずいれば安心っお思わせおくれる䜕かがありたすね。お父さんにはないけど  」

 最埌の蚀葉に、アキ兄さんはくすりず笑った。

「  もちろん、人ず違うこずをするのは怖いし、拒たれるのが分かっおいながら突撃するのは勇氣が必芁だ。行動に移した埌は確実に傷぀くだろうしね。だけど  。これは兄貎の座右の銘だけど、『しないより、する』ほうが結果的に自分を救うこずになる。最埌には、傷぀いた以䞊に埗るものがある。実䜓隓から、僕はそう断蚀するよ」

「  悠斗さんも同じこずを蚀っおいたした。自分の内偎ずしっかり話し合っお、それでやっぱりあい぀を愛しおるず分かったら告癜すればいいっお」

「さすがは、僕の倧きな息子、、、、、。内面を芋぀める倧切さをちゃんず盞談者に䌝えられるなんお、成長したな、悠も」

 こずある毎に悠斗さんをいじるアキ兄さんの発蚀に再び笑いが蟌み䞊げおしたった。

「  だけど、内偎の自分ず話すっおどうしたら出来るんですか それがよく分からなくお  。聞いたら答えおくれるものなんですか」

 こんな初歩的なこずを聞いお笑われるんじゃないか、ず思ったが、アキ兄さんは䞁寧に教えおくれる。

「そうだね。はじめは難しいず思う。でも、頭で考えるからそう思うだけで、実際にはすごく簡単なんだ。  たず、目を閉じお、胞に手を眮く。心臓の錓動をしっかり感じながらリラックスしお  」

 蚀われたずおりにする。静かな宀内で心臓ず呌吞音だけが聞こえる。

「身䜓の音に集䞭できたら、そっず問いかけおみるんだ。どんなこずからでもいい。䟋えば、本圓は圭二郎くんずどうなりたかったの ずか、お父さんになんお蚀っお欲しいの ずか。問いかけおみお、最初に浮かんできた蚀葉が君の本圓の氣持ち。それが珟れたら次に、じゃあどうしおそう思ったの なぜ、なぜ、っお繰り返す。そうするこずで最終的には封じ蟌めおきた想いにたどり着くこずが出来る」

 君が答えにたどり着くたで僕は埅っおる。アキ兄さんがそう蚀うので、わたしは圌の目の前で自分ぞの問いをするこずになった。

 䜕から聞けばいいのかさっぱり分からなかったので、䟋題をそのたた䜿わせおもらうこずにする。

  ねぇ、舞。あなたは本圓は圭二郎ずどうなりたかったの 付き合っお、結婚したかったの
 しばらくするず、ある想いが湧いおくる。

 ――ただずっず、そばにいたかった。楜しい時間を過ごしたかった。

 蚀葉が聞こえたわけではなくただ、そう感じた、、、、、、ず蚀った方が正しい。続けお問う。

楜しい時間を過ごしたかっただけ どうしおそう思ったの やっぱり  愛しおいるから

 十数秒埌に返っおきた答えは意倖なものだった。

 ――わたしのこずを本圓に倧事にしおくれる人だから、そばにいるだけで心が安らぐの。でもそれは、恋ずは少し違う。お父さんからもらえなかった愛情を圌に芋いだした。だから惹かれたの。

 どういうこず   戞惑いながらも再び問う。

だけど、お父さんだっおずいぶん優しくしおくれたじゃない わたしに野球を教えおくれたし、ラむバル芖しおる友人の子䟛たちにも頻繁に䌚わせおくれたよ

 ――そう蚀いながらも、今回のこずではずいぶん怒っおるのはなぜ 分かっおいないようだから教えおあげる。舞はね、お兄ちゃんのように振る舞ったらお父さんに嫌われるっお思い蟌んだ。だから、自分の䞭に芜生えたある感情、、、、を封印しお野球をするこずを遞んだのよ  。

えっ 䜕よ、ある感情っお  。野球以倖に興味なんお  。あっ  

 本圓の自分に蚀われお唐突に思い出した。しかし、確信が持おない。

  そ、そりゃあ、わたしだっお䞀床や二床は、お兄ちゃんみたいにギタヌの匟き語りが出来たらかっこいいなぁっお思ったこずはあるし、その延長でレむカの曲もよく聎いおたわけだけど  。

 ――思っただけで、やっおみたいず蚀ったこずは䞀床もないでしょう もちろん、野球以倖に興味の向くこずはないのかっお聞かれたこずもない。なのに、䞉十歳になった途端、恋愛に興味はないのか、結婚はただかっお  。たるで、人間は突き詰めた䞀぀のこずず子孫を残すこず、それさえ成せばいいかのように蚀われたものだから、あんなふうに、、、、、、怒り散らしたのよ。

 あんなふうに、ずは぀い䞀時間ほど前、「わたしの氣持ちなんお䞀個も分かっおない 蚀わなきゃ分からない鈍感な野球人なんお倧っ嫌いっ」ず、父に向かっお蚀い攟ったこずを指しおいるのだろう。

そうなんだよねぇ、鈍感なのよ、お父さんは  。察するこずを知らないっお蚀うか  。

 ――でもそれ、逆にお父さんからするず「蚀っおくれたら分かるのに  」っおこずにならない 圭二郎もたたしかり  。

  わたしが行動しなかったから圭二郎の氣を匕けなかったっおこず それはあんたりじゃない  

 ――自信がある男ほど、女の方から寄っおくるず思っお埅ちの姿勢、っおこずはない

 それを聞いお、なんだか腹が立った。想いを䌝えなかった自分ず、愛をささやいおくる女を埅぀だけの圭二郎に察しお。

 ここで䞀旊、内芳をやめ珟実に返る。

「  ねえ、アキ兄さん。兄さんはどうしお゚リ姉さんに告癜するこずが出来たの ラむバルがいたら普通、片思いで終わらせちゃいそうなもんだけど」

「ああ  。今思えば䞍思議なこずだけど、自分の氣持ちに氣付いたら身䜓が勝手に動いちゃったんだ。だから、こう蚀ったら嫌われるだろうずか、迷惑かけるかもずか、そんなこずは䞀切考えおなかった。でも  。もしあのずきNOず蚀われおいたずしおも、倚分僕は埌悔しなかっただろう。自分の勇氣を生涯誇りにさえ思ったかもしれない。だっおあの頃の僕はチェスさえ出来ればいいず思っおいたような、めちゃくちゃ陰氣なや぀だったからね  」

「぀たり、告癜したこずで自己成長できたっおこず」

「そういうこずになるかな。思い続けるのは簡単。でもそこから䞀歩螏み出しお、奜きな人に自分の氣持ちを打ち明けるのはものすごく倧倉。心を蚱せる人にしか、人は本音を䌝えられないからね」

 もしそうだずするなら、わたしはあず䞀歩、螏み出す勇氣がないから父ず分かり合えおいないし、圭二郎を想うだけで終わっおしたったこずになる。

「嫌われる芚悟を持っお、自分から心を開く勇氣を持぀  。それが倧事っおこず」

「そうだね。  そう考えるず、めぐは玠盎だったな。翌くんず悠、どっちも奜きだから䞀緒に暮らすんだっお、圌らの前で宣蚀したらしいからね。その埌、めぐがどういう人生を歩んできたかは、芋おの通りだ」

「でも  。それはアキ兄さんや悠斗さんたちが倧人で、互いに聞く耳を持っおいたからじゃないんですか お父さんにその手が通甚するずは思えないんだけど  」

「確かに、説埗するのは簡単じゃないだろうね。僕だっお未だに手を焌いおいるし。でも、翌くんがそうだったように、舞ちゃんが歩み寄ればきっず考えを軟化させおくれるはずだよ。芪なら誰だっお子䟛の幞せを䞀番に願うものさ」

「そうかなぁ   自信、ないなぁ」

「すぐに行動に移す必芁はないさ。話そうず思える日は必ず来る。せっかちな兄貎のこずは埅たせおおけばいいよ」

 きっず実䜓隓からそう蚀っおいるのだろう。のんびり屋のアキ兄さんの口から出た力匷い発蚀に安堵する。

「あぁ  。お父さんからも今みたいな蚀葉がもらえるず嬉しいんだけど  。ん   あっ、分かった」

 さっき途䞭でやめおしたった内芳で出せなかった答えらしきものに、今のやりずりを経おたどり着く。

「わたしはただ、ありのたたのわたしを芋お欲しいだけなんだ。い぀、誰ず、どこにいおも、䜕をしおいおも、舞がしたいようにしなさいっお蚀っお欲しい。女ずしお生たれたわたしを女ずしおみお欲しい。誰かず比范しないで欲しい  。お父さんに求めおいるこずはそういうこずなんだ、きっず。そしお  圭二郎はわたしをそんなふうに芋おくれた。だから  奜きだったんだ  」

「氣付いたんだね、自分の本圓の氣持ちに」
 わたしはこくんず頷いた。

「倧䞈倫。それに氣づけた君はもう、その蚀葉をお父さんに䌝えられる。圭二郎くんにもきっず  」

「どう  かな  」

「さっきも蚀ったけど、焊るこずはないよ。兄貎にも考え改める時間が必芁だろうし、君だっおもう少しここでの暮らしを楜しみたいでしょ」

「えっ そりゃあ、ここの家族は優しいから居心地はいいけれど  」

 長居したら迷惑をかけおしたう  。そう蚀いかけたずころで、「迷惑だなんお誰も思わないよ、鈎宮家の人たちは」ずアキ兄さんの方から蚀われおしたった。

「ありのたたの自分を芋お欲しいんでしょ だったら舞ちゃん自身が、ありのたたを芋おもらうこずに慣れなくちゃ。ここはその蚓緎にはうっお぀けの堎所だ。垞識を芋盎す、ず蚀う意味においおも。  たぁ、かく蚀う僕も最初は圌らの蚀動に戞惑ったもんだけど、今じゃすっかり慣れおしたったよ」

「アキ兄さんでもそうだったんですか  」
 それを聞いたら少し安心した。

 さっき父がやっおきたずきにはどうなるこずかず思ったが、アキ兄さんに話を聞いおもらう機䌚が埗られお本圓に良かった。

「今日はありがずうございたした。  たた、䜕かあったら盞談に乗っおもらえたすか」

「もちろん、僕で良ければい぀でも  」
 盞談を終え、二人しお立ち䞊がろうずしたずき、突劂ずしお居間のふすたが開いた。

「話は枈んだか せっかくだから、このたた花芋に行こうぜ。倩氣もいいし、映璃えりも誘っおさ」
 そういう悠斗さんはもう、い぀でも出かけられる栌奜をしおいる。

タむミング良く話しかけおきたっおこずは、もしかしお、ふすたの向こうで聞いおいたのかしら  

 ちらりずそんなこずが頭をよぎったが、次の瞬間にはもうどうでも良くなっおいた。アキ兄さんも同じらしく、それに぀いお蚀及しないどころか、すぐさた悠斗さんの話に応じる。

「あヌ。それで、自転車で来いっお蚀ったのか。だけど、堎所は」

「んなもん、どこだっおいいだろ。ちょっず歩けばどこの公園でも桜は芋られる」

「  それもそうか。公園ならたなちゃんを遊ばせられるしね。よし、それじゃあ゚リヌに電話しお出おきおもらうよ。  兄貎に氣付かれないように、でしょ」

「さっすが。わかっおるヌ」
 息の合ったやりずりを芋る限り、二人がか぀お゚リ姉さんを取り合う仲だったずは想像しがたいが、きっず長い幎月をかけお友情を深めおきたのだろう。倚分、芪子も䞀緒。喧嘩したり話し合ったりしおようやく真にわかり合える  。そういうものなのだ、きっず。

「のけ者にしたこずがバレたら父さん、怒るんだろうなぁ  。でも、仕方ないよなぁ、今回ばっかりは」

 兄がわたしの方をチラリず芋やった。
「  わ、わたしのせいじゃ、ないからね  」

「誰もそんなこず蚀っおないだろ さぁさ、そうず決たれば善は急げ、だ。買い出し班ず堎所取り班ずに分かれようぜ」

 アキ兄さんの蚀うずおり、この家の人はありのたたのわたしを受け入れおくれるようだ。䞀氣に肩の力が抜ける。

「じゃあ、わたし、買い出しに行く 足の速さには自信があるんだよね」
 自分から仕事を買っお出るず、みんなが嬉しそうに笑った。



23ナヌゞン

 スプリング・ナむトフェスが行われる倜、オレは倧勝負に出る。セナが䜜るのを手䌝っおくれた曲「二人のハヌモニヌ」を、いよいよ麗華さんに聎いおもらうのだ。

 最初は、二人きりになれる堎所に誘い出しお  ず考えおいたが、ここたで来たらもう、ステヌゞでやっおしたえ っおこずで、みんなに内緒でラストにねじ蟌む぀もり。だからその日ぱレキも持参する。䞋手ク゜だけど歌も歌う。それでも想いが䌝わらなかった時は朔く身を匕く。その芚悟で挑む。

 本番で匟くこずのない゚レキをどうやっお持ち蟌むか  。かなり頭を悩たせたが、きょうだいにだけはオレの芚悟を聞いおもらい、こっそり持ち蟌む手䌝いを頌むこずにした。どうせこそこそ行動しおも、同じ郚屋で暮らしおいたら遅かれ早かれバレおしたうだろう。それも含めおの、芚悟だ。


◇◇◇

「アタシ、応揎しおるよ。お兄ちゃんのこず」
 圓日になっお、自分の荷物の䞭にオレの゚レキを玛れさせながらセナが蚀った。
「実はアタシたちもサプラむズを甚意しおるんだ。だから、今倜のこずを考えるずドキドキワクワク、なんだよねヌ」

「セナたちも  」

「ほら、セナの垌望でさくらさんのために䜜った曲のこずだよ」
 リオンがオレの問いに答えた。
「あれを今倜、披露しようっお話。おれたちはラむブ終了埌の予定だけど」

「なるほど  。じゃあほんずに今倜は特別な日になりそうだな  」

 そういう日の力を借りなければ、奜きな氣持ちも感謝の蚀葉も䌝えられないなんお、ミュヌゞシャンっおのは䞍噚甚だなず思う。だけど逆に考えれば、特別な環境を利甚するこずで、想いは䜕氣ない日垞で蚀うより䜕倍にもなるはず  。オレはそう信じたい。




 フェスの䌚堎は、か぀おオレがバむトしおいたこずもあるラむブハりス『グレヌトワヌルド』。オレたちのほかにも十組ほどが出挔し、春の倜を楜したせるこずになっおいる。

「  ずいぶんな倧荷物ね、セナ。いったい䜕が入っおるの」

 䌚堎で合流するず麗華さんに早速指摘された。しかし事前の打ち合わせ通り、セナがぶりっこ颚ふうに頌み蟌む。

「今倜、レむさたたちのうちにお泊たりするための荷物 どうせ今倜も打ち䞊げで飲むんでしょ だったらその足で泊たらせおヌ。おねがヌい」

「ええっ 聞いおないけどヌ   たぁ、いっか。寝るずころはあるし」
 麗華さんの返事を聞いたオレたちは目配せをし、小さくうなずき合った。そこぞ、さくらさんも合流する。

「こんばんは。遅くなっおすみたせん  」

「倧䞈倫よ。あたしたちも今぀いたずころだから」

「ほんず よかった  。途䞭でおなかが痛くなっちゃっお、䌑んでたものだから  」
 さくらさんはうっすら汗をかきながら、ただ痛むのか胃のあたりをさすった。

「もしかしお、緊匵しおるの 盞倉わらずね」

「こればっかりは癖みたいなものだから  。でも、始たれば倚分倧䞈倫  」
 そう蚀っおさくらさんは荷ほどきを始めた。

「ええず、私たちの出番は最埌  だったよね」

「そうよ。画材のセットず片付けがあるから無理を承知でお願いしたんだけど、かえっおプレッシャヌかけちゃったかな」

「    」
 そうだ、ず蚀わんばかりにさくらさんが俯う぀むいた。それを芋たリオンが苛立った様子で圌女に蚀い攟぀。

「そういう顔、するなよなぁ  。せっかくの音楜祭なんだから楜しもうぜ。なぁ」

「え あ、はい  。じゃあなくお、ええず  」

「あヌ、さくらさん。顔が真っ赀ヌ」
 セナの指摘でその顔はたすたす赀くなった。

「もう   セナちゃん。揶揄わないでよぉ  。私は肌が癜いから皮膚の䞋の血管が芋えやすいの  」

「䞋手な蚀い蚳ヌ」
 セナはくすくすず笑った。

「  そんなこず蚀っおないで、準備したしょう」
 さくらさんは自分から話題をそらせるかのように動き始めた。




 前のバンドの挔奏が終わり、いよいよオレたちがトリのバンドずしおステヌゞに立぀。さくらさんのラむブ・ペむントの準備が出来るたでの間、この店のオヌナヌが自慢のピアノを披露する。この頃はオヌナヌのピアノ挔奏も人氣で、味を占めたオヌナヌは単独ラむブを真面目に考えおいるようだ。

 画材の準備のどさくさに玛れ、オレの方もこっそりドラムセットの裏に゚レキをスタンバむさせる。誰も、氣付いおいない。少なくずも麗華さんはい぀も通り、ステヌゞ脇で喉を最したり楜譜のチェックをしたりしおいおステヌゞの方は芋おいない。

よし  。あずは、オレの心の準備だけ  。

 䜕床も、呌吞を敎える。芚悟を決めたずは蚀え、やっぱりその瞬間のこずを思うず緊匵する。正盎、ラむブよりも。

でも、オレは決めたんだ  。今日の日のためにいろいろ準備しおきたんじゃないか  。

 ステヌゞからオッケヌのサむンが出る。いよいよ、出番だ。リヌダヌの拓海さんから䞀同に向けお手話が送られる。

 ――六人になっお初めおのラむブだ。新曲も、初めお披露する。どんな反応があるか分からないけど、ずにかく、フェスのラストにふさわしい挔奏をしようぜ。

 党員で、頷く。

 ――さくら。うたくやろうなんお思うな。普段通り、感じたたたに筆を動かせ。分かっおるな

 さくらさんぞのアドバむスは麗華さんを通しお圌女に䌝えられる。圌女は少し震えながら小さく頷いた。

「よヌし それじゃあ行こうぜ」
 最埌は智さんが号什をかけ、党員でステヌゞに飛び出す。ず、そのずき拓海さんに肩を぀かたれた。

 ――健闘を祈るぜ  。
 䞀瞬、䜕のこずか分からなかったが、りむンクたで送られたらさすがに氣付く。

もしかしお、拓海さんにバレおる  
 ドキリずしおいるず、軜く背䞭を叩かれた。
やっぱり、バレおるずしか  。

 こうなったらたすたす芚悟を決めねばなるたい。しかしその前にこのラむブを成功させよう。ドラムの前に座り、氣持ちを敎える。

 マむクを持った麗華さんが矎しい声でアナりンスする。

「䌚堎の皆様。本日は『サザン×ビヌビヌ』の挔奏を聎きに来おくださりありがずうございたす。本日はあたしたちが最埌の挔奏者ずなりたす。六人で立぀初めおの舞台。あたしたちも今日を楜しみに準備しおきたした。是非最埌たで楜しんでいっおください。それでは早速新曲から歌いたす。  『透明な季節』」




日だたりの空の䞋で
柔らかな颚が 頬をなでるたび
思い出すんだ 君のぬくもり
手を䌞ばせば 届きそうなのに

きみは、颚みたいに去っお行く  
同じ景色が芋たかっただけなのに  

ああ、透明の颚ず共に君は
君だけの道、歩き続ける
僕の知らない䞖界に行っちゃう君を
芋守るこずしか出来なかった  



倕焌け空の䞋で
心、穏やかになる 君を想うたび
瀺しおくれた 君の蚀の葉こず は
目を閉じれば オレンゞの光

君にも届いおいるのかな  
倕日が優しく降り泚ぐ䞖界  

ああ、オレンゞの倕日ず共に
僕だけの道、歩き続ける
決しお亀わるこずのない道を
僕は歩き続ける  

君の思い出を胞に、歩き続けおいく  




 ドラムを叩きながら麗華さんの矎声に酔いしれる。やっぱり圌女の歌声はオレの魂を震わせる。そのすべおが愛おしく感じられるほどに。

 次いで、サザンクロスやブラックボックスの曲も披露する。その間、オレらの脇ではさくらさんがダむナミックに絵を描いおいる。この䜍眮から絵を芋るこずは出来ないが、迷いのない動きを芋るに぀け、オレたちの曲から玠盎にむンスピレヌションを受け取り、神が乗り移ったかのように筆を動かしおいるのだろう。

 オレずさくらさんがこんなふうに党力投球できるのはひずえに麗華さんを想うがゆえ。奜きな理由を蚀葉で説明するのは難しい。だけど少なくずもオレは、䞀緒に居るこずでいろんな意味で刺激を受けられるこずに喜びを感じるし、オレの蚀葉や行動で麗華さんが笑顔になった瞬間が䜕よりも至犏なのだ。




 ラストに短い新曲を匟き、予定しおいたすべおの挔奏を終えた。本来ならばここで撀収し、フェスは閉挔ずなる。だが、オレの闘いはここからが本番だ。

 怅子から立ち䞊がり、゚レキを手に取る。麗華さんが挚拶の蚀葉を今にも発しようず、マむクを握り盎しおいるのが芋える。

埅っお、麗華さん。ただ、終わりにしないで  

 そんな想いを背䞭に向けお飛ばしたずき、麗華さんの声を消すかのようにアコギの音がゞャカゞャカず鳎った。拓海さんだった。

 目が合うず、拓海さんは顎で麗華さんを指し、オレがこれからやろうずしおいるこずを促しおくれた。

「え、なに  」
 䜕が起きおいるのか分からない麗華さんは、拓海さんずオレを亀互に芋お動揺しおいる。拓海さんが挔奏をやめ、頷くのを合図に今床はオレが゚レキを鳎らし始める。

「麗華さん。聎いおいおください。オレの、歌ず挔奏を  」

 マむクは芁らない。゚レキの音にかき消されおも構わない。オレはオレの想いを、この声に乗せお歌う。




聎かせおよ、その声を
僕が眠りに萜ちるたで
どんな悪倢も消えるから
君は僕の倩䜿さた

ありふれたフレヌズ
「愛しおる」しか蚀えない僕をゆるしお
どんな蚀葉を䞊べおも
奜きな気持ち 䌝えきれない

二人の声を重ねお
奏でよう 最高のハヌモニヌ
䞖界に䞀぀しかない和音コヌド
響かせお、和・茪
いた、螊り出す



聎かせるよ、この音を
君が目芚める頃に匟こう
そっず、小鳥がさえずるように
君は僕の倩䜿さた

たったの、四文字
「倧奜き」さえも
目を芋お蚀えない僕をゆるしお
君があたりにキレむでさ
たぶしすぎお クラクラしちゃう

二぀の音を重ねお
奏でよう 最高のハヌモニヌ
䞖界に二぀ずない和音コヌド
響かせお今、
ここから始たる、僕らのストヌリヌ

ナヌトピアなんか、なくたっお構わない
君の歌声さえあれば
和、茪、わ、平和な䞖界

愛する君に捧ぐ歌
たずえ思い、届かなくおも
僕は君を愛しおる  



 恥をかなぐり捚おお党力で歌った。持おる技のすべおを泚いでずにかく匟いた。䞀瞬の静寂。蚀うなら、今しかない。

「麗華さん。これが今のオレの想いです。答えを聞かせおくれたせんか  」

 䌚堎が䞀氣に沞いた。しかし誰もが麗華さんの返事を聞きたいのだろう、すぐに静たりかえる。

 麗華さんがオレに向き盎った。たくさんの芖線がオレたちに集たっおいるのを感じる。だけどオレの目は麗華さんしか芋えない。

 圌女は、困ったような、恥ずかしいような、今にも抱きしめたくなるような目でオレを芋おいる。たるで時が止たったかのように感じるほど、埅っおいるこの時間が長く感じる。

「ナヌゞン  」
 ようやく麗華さんが声を発した。固唟をのんで埅぀。

「  ナヌゞン。あなたの歌。あなたの挔奏。ずおも玠晎らしかったわ。過去最高に良かった。今日のフェスの挔奏よりもずっずずっず玠敵だったわ」

「ありがずうございたす  」
 その目を芋぀めたたた瀌を蚀うが、萜ち着かない。麗華さんは発する蚀葉を暡玢するかのように、たた少し黙り蟌んだ。

 呚りの空氣が、ただかただか、ず苛立ち始める。オレもそわそわし始め、䞀歩、圌女に歩み寄る。それをみお、麗華さんが口を開く。

「  ごめんなさい。やっぱり、受け入れられないわ。あたしには  あたしには既に倧切な人がいるから  。これからもメンバヌずしお楜しくやっおいくんじゃ、ダメ  」

 期埅倀マックスの䌚堎から倧きなため息が挏れた。いや、誰よりも倧きなため息を぀いたのはオレだったに違いない。でも  やるだけやっおこの結果なら、悔いはない。悔いはないけど、このたた舞台を降りるのは栌奜悪い。オレぱレキをその堎に䞋ろし、拓海さんを匕っ匵り出しお麗華さんの暪に立たせた。

「  麗華さん。それがオレぞの答えなら、倧切な人ず  拓海さんずちゃんず仲良くやっおくださいよ でなきゃ、オレが麗華さんの蚀葉、受け入れられないから」

「うん、分かっおる  」
 その返事には芚悟を感じた。圌女は拓海さんず芋぀め合ったあずで肩を抱かれた。ちょっず申し蚳なさそうな、寂しそうな、だけど嬉しそうな顔で。

 こうなるこずはある皋床予想しおいた。ならばオレはせめお堂々ずステヌゞを降りよう。そう思った矢先、智さんが぀か぀かずオレのそばにやっおきお足䞋に眮いおあった゚レキをひっ぀かんだ。

「  よくやった。最高だよ、ナヌゞン。これは僕からのプレれントだ。䞀緒に歌っおくれ。このクレむゞヌな女に向かっお蚀い攟っおやろうぜ」

 蚀うが早いかギタヌがかき鳎らされる。
このむントロは『クレむゞヌ・ラブ』  



クレむゞヌ、クレむゞヌ
今すぐお前を远っかけお
飛び蟌みたいぜ宇宙そらの海
クレむゞヌ、クレむゞヌ
鏡に映るのは誰
狂喜乱舞しすぎお

本圓の俺、芋倱っおる
ああ、党郚お前のせいだ  





 『クレむゞヌ・ラブ』の䜜詞䜜曲は拓海さんだず聞いおいるが、実は智さんの想いも倚分に含たれおいるずオレは思っおいる。そのくらい、今の圌の歌いっぷりには想いが乗っおいる。オレず同じく麗華さんを奜いおいる、智さんの想いが。

「♪ああ、党郚お前のせいだヌ、お前のせいなんだ  」
 智さんが匟く゚レキに合わせお䞀緒に歌う。別に慰め合いたいわけじゃない。オレたちはただ、くすぶる想いをこの歌に蟌めたいだけ。それだけのこずなんだ  。

ありがずう、智さん  。
 歌い終わったオレは心の䞭でそう蚀いながら頭を䞋げた。智さんは力匷くオレの肩を叩き、䜕床も䜕床も頷いた。




 フェスが終わっおお客さんが垰ったあずは、恒䟋の打ち䞊げだ。みんな慣れた手぀きで勝手にお酒を酌み亀わし、氣付けば呚りのバンド仲間の倚くができあがっおいた。オレに声をかけおくる人も少しは居たが、あんな颚にしお倧勢の前で倱恋したショックは盞圓なものに違いないず察しおくれる人が倧半で、きょうだいさえもオレから離れたずころで過ごしおいた。

 攟っおおいおくれるのは有り難かった。だけどそのうちに、本圓に倱恋したんだずいう想いがじわじわず身にしみおきお胞が苊しくなった。

 おれは䞀旊楜屋に戻り、喧噪から離れた。するずあずからすぐに智さんがやっおきた。
「  盞圓、堪こたえおるみたいだな」

「  この想いをどこかにぶ぀けたい氣分っす」

「僕のギタヌで良ければ貞すぜ 倖で歌っおこいよ。少しは氣が晎れるかもしれない」
 智さんはそう蚀っおアコギを差し出した。
「誰かが捜しに来おも、僕が適圓に話しおおいおやる」

「    」
 差し出されたギタヌを受け取る。ネック越しに、智さんの枩かい想いが䌝わっおくる氣がした。

「  じゃあ、ちょっず歌っおきたす」
 智さんの優しさに感謝しながらオレはラむブハりスの倖に出た。



24悠斗

 舞に半ば、無理やり誘われおやっおきた倜の音楜祭。しかしやっおきおみれば、ステヌゞ䞊のミュヌゞシャンよりも、芳客垭偎の人間暡様に興味がいっおしたった。

たさか、ここに䞀同が䌚するなんお。運呜ずはたさにこのこずだな  。

 そう。䌚堎内には舞の父・野䞊路教のがみみちたか氏、そしおさくらの父・氎沢庞平みずさわようぞい氏の姿があったのだ。これだけの人数が集たる䌚堎で知人ず遭遇する確率は䜎いはずだが、少なくずもおれは圌らを芋぀けおしたった。

 蚀うたでもなく、圌らの目的は嚘だろう。面ず向かっお話したいのか、ただ姿を芋たかったのかは分からない。しかし、その目的なくしおここに来るずは思えなかった。

 かく蚀うおれも、生きおいたら同幎代だったはずの嚘ず舞ずを重ね合わせながらここに来おいる。

もし、五歳で溺死した愛菜が生きお隣にいたなら  。おれはどんな颚に声をかけただろうか  。どんな颚に接しただろうか  。

 隣にいる舞に、亡き嚘にかけおやりたかった蚀葉をかけおみようか  。ふずそんな衝動に駆られたが、すぐにやめた。舞は、愛菜ではない。おれの嚘でもない。たしおや同情心から䞊っ面だけ繕った蚀葉を発したっお、舞の心は癒やされないどころか、傷぀けおしたう可胜性すらある。それだけは避けなければならなかった。

 舞は玔粋にラむブを楜しんでいる。圌女の笑顔を消すようなこずは蚀いたくないので、父芪が䌚堎に居るこずは黙っおおこう。

「あっ、サザン×だっ」
 お目圓おのバンドが登堎し、舞のテンションが最高朮に達した。麗華さんの短い挚拶のあずですぐに曲の挔奏が始たる。

 おれよりも幎䞊の䞉人組「サザンクロス」ず、舞よりも幎䞋の䞉きょうだい「ブラックボックス」による異色のバンド。芪子みたいな六人だが、ひずたび挔奏が始たれば幎霢差は䞀切感じられない。もうずっず長くバンドを組んでいるかのように息の合った挔奏は聎く者の心を捉えおやたない。

 幎長者が若者をリヌドし、若者が幎長者の創䜜意欲を刺激しお生み出されたであろう音楜は、これたでの圌らのいいずころを残し぀぀も今たでずは党く異なる雰囲氣を醞し出しおいる。

やっぱり奜きだな、圌らの䜜る音楜が  。

 こんな幎になっおも心が躍るこずっおあるんだな、ず我ながら驚く。今日は舞の誘いでやっおきたが、機䌚があれば自分から積極的にこういう堎に足を運んでみるのもいいかもしれない。




 軜快な音楜ず歌が鳎り響く䞭、ステヌゞの端ではさくらが熱心に筆を動かし、絵を仕䞊げおいく。それはたさに芞術的で、おれなんかにはおよそ理解できないような絵だったが、たぶたを閉じお音楜を聎いおみれば確かに、さくらが描いおいるような色が右ぞ巊ぞ動いおいるような氣がした。

 䜕色か、ず蚀われおもうたく答えられない。蚀語胜力れロのおれが敢えお蚀葉にするならそれは、光の色  。そう、すべおの色が混じり合った、癜色のような、オレンゞ色のような、黄色のような  そんな色がカンバスを芆い尜くしおいる。

 圌らの挔奏が終盀を迎える頃、カンバスには花びらのような点が無数に散らされた。おれにはそれが、圌女の名ず同じ「さくら」に芋えた。

「さくらさんの絵、桜吹雪が舞っおるみたい。綺麗  」
 隣にいる舞がぜ぀りず぀ぶやいた。

「ああ、おれも同じこずを思った」

「すごいなぁ、こんなに倧勢の前で、䞋曞きもなしに絵を描くなんお  。口では恥ずかしいようなこず蚀っおたけど、めちゃくちゃ堂々ず描けおるじゃん  」

「そうできるのはきっず、䞀緒に居る圌らのお陰だろう」

「  ですね」
 舞はそういうなり、䜕かを考えるかのように胞の前に手を眮いた。

 そのうちに、最埌の曲が終わった。倧歓声に応えるように麗華さんが手を振る。それを芋お肩の荷物をしょい盎す。ず、アンコヌルでもないのにギタヌの音が鳎った。おれも呚りの客も䞀斉にステヌゞに泚目する。

「えっ、ナヌゞンさん、゚レキを  」
 舞が぀ぶやくのず同時に匟き語りが始たった。正盎、歌声はほずんど聞こえない。でも、おそらく圌はおれたちに向けお歌っおいるのではない。その目の向く先の、「圌女」にだけ䌝える぀もりで歌っおいるのだ、きっず。

 麗華さんはナヌゞンに向き盎り、熱心に圌の匟き語りを聞いた。曲が終わり、ナヌゞンが蚀う。答えを聞かせおくれたせんか、ず。

「うそっ   この堎で告癜  」
 舞は驚きず同時に口元を抌さえた。呚囲もざわ぀くが、それは䞀瞬のこずですぐにしんず静たりかえった。

 麗華さんの答えは「ノヌ」だった。ここに集った聎衆のほずんどは昔から圌らを知っおいるに違いない。麗華さんの答えを聞いおも反発する動きは芋られなかった。ただ静かに、萜胆しただけ。しかし、かえっおそれが重苊しい空氣を䜜り出したように感じた。

 いや、そう感じたのはおれだけじゃなかったようだ。すぐさた智節さんが゚レキを匟き始め、この重苊しい空氣を綺麗さっぱり吹き飛ばしおくれた。沈んだ䌚堎は再び掻氣を取り戻し、盛り䞊がったたた終挔した。




 ラむブが終わり、客が垰り支床を始める。おれも今床こそ垰路に぀こうず倖に足を向ける。

「舞、どうした  」
 しかし、舞の足は動かなかった。ずっずその堎に立ったたた、ステヌゞを泚芖しおいる。

「舞  」
 䜕床か呌びかけおようやくその顔がこちらに向く。

「悠斗さん、わたし  ちゃんず䌝えおみたす。圭二郎に、わたしの正盎な想いを。ナヌゞンさんのように」
 舞が芋おいたのは、ステヌゞから去るナヌゞンだったず知る。

「ようやく心が決たったんだな  」

「はい。  あの、すぐに枈むのでここで埅っおいおくれたせんか」

「え、今すぐ䌝えるのか  」

「はい  。ナヌゞンさんからもらった勇氣がしがたないうちに  」
 その決意は本物のようだ。おれは舞の決断を歓迎し、蚀われたずおり埅぀こずにした。

 舞の姿が芋えなくなったずころで、運良くずいうか悪くず蚀うか、おれのそばをニむニむが  舞の父芪が通りかかった。おれに氣付くず声をかけられる。

「なんだ、ナりナりも来おたのか  。ひずりか  」

「いいえ  。舞ず䞀緒です。今は別行動ですが」

「そうか  」

「そういうニむニむはお䞀人で」

「いや  。実は氎沢みずさわ先茩ず䞀緒でな  。今、嚘さんのずころに行っおる」

「なるほど  」
 短い蚀葉を亀わし終え、互いに黙り蟌む。
「  埅ちたすか、䞀緒に」
 誰を、ずは蚀わなかった。でも、ニむニむにはちゃんず䌝わったようだ。

「  ああ、埅぀よ。次に䌚ったずきはちゃんず舞の話を聞こうず  。そういう心づもりでいたからな。䞇が䞀、あい぀が話したがらなくおも次の機䌚を埅぀」

 ニむニむはそう蚀うず、おれの目線の先を芋た。舞の姿は芋えなかったが、そのうちに戻っおくるであろう嚘をしっかりずその目で捉えようずしおいるように思えた。



25舞

 ナヌゞンさんの告癜に衝撃を受けた。あれだけの人数を前にしお匕き語りをした䞊に、レむカの想いを聞き届け、倱恋したあずも堂々たる態床でステヌゞに立ち続けた  。あれこそわたしの理想ずする男性像だず蚀っおも過蚀ではなかった。ず同時に、想いを告げるこずすら出来なかった自分の小ささを改めお思い知った。

 たさか、自分の告癜シヌンを芋せるためにラむブに招埅したわけではあるたい。しかし結果的に、圌の誘いでこのラむブに足を運んだこずでわたしの人生芳はたるっず倉わっおしたった。

もう、逃げない  。

 悠斗さんを誘ったのも、自分ひずりで行動する勇氣がもおなかったから。でも、今のわたしなら動ける、ひずりで。

 ラむブ終了を埅っお悠斗さんにその旚を䌝えたわたしは、垰路に぀く芳客に玛れお䌚堎の倖に出、時間を確認した埌、圭二郎に電話をかけた。

この時間なら、詊合は終わっおるはず  。

 䞇が䞀、電話に出なくおも構わない。留守電に、話があるず䞀蚀残しおかけ盎せばいいのだから。

 ためらいは䞀切なかった。呌び出しのコヌル音の長さも氣にならなかった。

 十回ほどのコヌル音の埌、電話が繋がる。
『  もしもし』

 久しぶりに聞く、圭二郎の声。぀かの間、安心するが、すぐに緊匵感が襲う。深く息を吞い蟌み、意を決する。

「  ごめんね、急に電話をかけたりしお。今、話せる」

『ああ  。今日は詊合が早く終わったから話せるよ。今、家に向かっおる途䞭』

「良かった  。今日は投げたの」

『いいや  。婚玄発衚しおから浮かれおるっお蚀われお、圓面は登板なしだ。そんな぀もり、ないんだけどな  』

「    」
 圭二郎の぀ぶやきをどう受け止めおいいか分からず、しばし黙る。

『  で、話っお』
 黙っおいたら催促された。  もう䞀床、息を深く吞い蟌む。

「  婚玄、おめでずう。発衚があっおからすぐに蚀えればよかったんだけど、時間が空いちゃっおごめん  」

『ああ  。  それだけ   じゃないんだろうな、電話しおきたっおこずはきっず』

 圭二郎がわたしの蚀葉を埅っおいる氣がした。
頑匵れ、わたし  
 䜕床も぀ばを飲み蟌み、胞を抌さえながら蚀葉を喉の奥から匕っ匵り出す。

「わたし  。わたしね  。本圓は圭二郎のこず  。ずっずずっず、奜きだったんだよ  。だけど  。奜きすぎおそんなこず、面ず向かっお蚀えなくお  。だから、こんなこずになっお  。自分が蚱せなかったの  。埌悔しおも、しきれなかったの  。この先、どう生きおいけばいいかも分からなくなっお、幎始から仕事も䌑んで、自分ず向き合う時間を䜜っおようやく  。ようやく今、想いを䌝えられたの  。今曎だけど、わたしが奜きだったこず、知っお欲しかった  。うん、それだけ  」

『  埅っお。電話を切るな』
 通話を終えようずしたたさにそのずき、圭二郎がそう蚀った。もう䞀床電話を耳に抌し圓おるず、圭二郎は慌おお蚀葉を継ぐ。

『  謝らなきゃいけないのは俺の方だ。舞の氣持ち、知っおいながら黙っおおごめん』

「えっ   ど、どういうこず  」
 意倖な蚀葉に戞惑い、心臓が激しく脈打぀。圭二郎は続ける。

『俺のこず、奜きなんだろうなっおずっず思っおた。んで、俺のほうも、そんな舞のこずを氣にかけおた。だけど  。だけどこの先のこずを考えたずき、舞は俺ず䞀緒にいない方がいいず思った。だからずっず  黙っおた。ごめん  』

「なによ、それ  。䞀緒にいない方がいいっお、どういうこずっ ちゃんず説明しおよ」

『うヌん、ず  』
 歯切れの悪い返事のあずで、圭二郎はゆっくりず理由わけを話し始める。

『ほら  。うちの䞡芪っお、䞡方野球人だろ 匕退した今も、少幎少女の野球チヌムを䞻宰しおる。それも、かなりガチなや぀。寝おも芚めおも野球のこずしか考えおないような我が家に、舞を巻き蟌みたくなかったんだ。  わかるかな』

「  ぜんっぜん、わかんない」

『  そうか。じゃあ、はっきり蚀わせおもらうよ。舞は、野球、向いおない。仕事を䌑んでるんだったら、そのたた野球から離れた方がいい』

「  䜕、蚀っおるの」
 混乱しお頭が真っ癜になる。圭二郎の蚀葉が、凊理されないたた脳内でぐるぐるする。圭二郎は続ける。

『舞が野球をしおきたのは  俺が蚀うのもなんだけど、俺のそばにいたかったから  だろう 野球が奜きだからじゃなくお、俺が奜きだから野球しおきた。そうなんだろう』

「そんなこずは  」

『芋おたら分かるよ。うちの母芪がそうだったから分かる。散々、その逞話を聞かされお育っおるし。舞も䞀緒だなっお、ずっず思っおた』

 圭二郎の䞡芪は幌なじみで、母芪の方はずっず、父芪を远いかけるように高校たで同じ野球郚に所属しおいたず聞いおいる。

「だったら、なんでわたしには野球をやめろっお  」

『だから、だよ。将来、そうなるっお分かるから。  俺も、舞が奜きだからさ。舞にはもっず自由に生きお欲しいんだ。野球にずらわれず、もっず自由に』

「  なんで圭二郎にそんなこずを蚀われなきゃいけないのよ」

『  翌ず䞀緒に音楜聎いおるずきの、舞の暪顔が奜きだった。野球しおるずきよりも、そっちの方がずっずキラキラしおた。氣付いおなかったず思うけど。ほんずだよ』

「  なんでここでお兄ちゃんが出おくるわけ 嘘よ、そんなの」
 自分で蚀っおおきながら、「その蚀葉が嘘だ」ず本圓の自分が叫んだ。心ず蚀葉の矛盟に勝手に涙がこがれ、嗚咜おえ぀が挏れる。

『  ほら。本圓は舞だっお思っおたんだろ 翌みたいに、野球以倖のこずもしおみたかったっお。  舞はお父さん思いだから蚀えなかったんだよな。俺もそうだったから分かるよ』

「  うぅっ」

『ごめん  。舞を振った俺に、今曎慰める資栌もないよな。ホントにごめん』

「  䜕床も謝らないで 悪いのは  悪いのは  」

『悪いのは俺だ。舞は悪くない。悪く、ないんだ  』

「  銬鹿ッ」

『なんずでも蚀えよ。それで氣が枈むのなら  』

「優しすぎるのよ、圭二郎は  」
 銬鹿なのはわたしの方なのに   圭二郎に優しくされるたび、自分がどんどん惚めになっおいく氣がしお嫌になる。
「嫌いだっお蚀っおくれたらどんなによかったか  」

『  舞ず䞀緒に過ごした時間、楜しかったよ。これからは、それぞれの道を歩んでいこう。俺は舞が遞ぶ新しい人生を応揎するよ』

「新しい人生なんお  。圭二郎のいない人生なんお  」

『俺はいなくならないよ。思い出になるだけ。んヌ、螏み぀けおくれおもいいよ。それで舞が前に進めるなら』

「  やっぱり、銬鹿だよ。圭二郎は」

『そうだよ。今頃、氣付いた』

「  銬鹿ッ。前から知っおた」

『  なら、もっず賢い男ず幞せになれ。もし、いい盞手が芋぀かったら教えおくれよ。お祝い、送るから』

「  そんな人いないし、芋぀かったずしおも教えない」

『  た、どっちでもいいけど』
 そう蚀った圭二郎はどこか、楜しそうだった。
『今、どこから掛けおるの 倖 さっきからうっすら音楜が聞こえるんだけど』

「  ラむブハりスの前。さっきたでラむブ聎いおた」
 
『ふぅヌん  。なら、心配なさそうだな』
 圭二郎は笑った。
『元氣でな  。氣が向いたら、今日みたいに連絡くれよ。埅っおるから』

「はぁっ   これから結婚するっお男に、氣軜に連絡できるわけないじゃない」

『倧䞈倫だよ。婚玄者はそう蚀うの、氣にするタむプじゃないから』

「  そんなこず蚀っおるず、婚玄砎棄されるよ」
 冗談で蚀ったのに、圭二郎は力なく笑うだけだった。
「本圓に、倧䞈倫  」

『  あヌ、そろそろ電話を切らないず』
 わたしの問いには答えおもらえなかった。
『電話をくれおありがずう。嬉しかった。それじゃあたた  』
 電話は向こうから切れた。

 急に呚囲の音が聞こえる。止たっおいた時が動き出したかのように。
これで  よかった  のかな。よかったんだよね  

 もし、倱恋したこずを匕きずっおひずり、悶々しおいたら圭二郎の真の想いを聞くこずは出来なかっただろう。仮に今のが圭二郎の優しさから出た嘘だったずしおも、圌の口からわたしの幞せを案じる蚀葉が聞けただけで充分だった。

悠斗さんのずころに戻ろう。すぐ戻るっお蚀ったのに長話をしおしたった  。
 そう。今のわたしには家族がいる。倱恋したわたしを支えおくれる家族が。




 ラむブを聎きに来た人の倚くは既に垰宅したようで、人氣はほずんどなかった。わたしはスマホを鞄にしたい、ラむブハりスの䞭に戻ろうずした。そのずき、店の䞭から二人の男性が姿を珟した。䞀人は悠斗さん。もう䞀人は  。

「お父さん  」



26さくら

 六人の挔奏や歌を聎きながら、無我倢䞭で描いた。正盎、自分でも䜕を描いたのか分からない。できあがった絵を芋おようやく、ああ、圌らの音楜からこんなむンスピレヌションを受けたんだ、ず分かった。よく描けた、ず実感が湧いおきたのは、すべおが終了し、お客さんがひずり残らずいなくなったあずのこずだ。

 機嫌のいいラむブハりスのオヌナヌが、打ち䞊げの前にピアノを䞀曲披露する。ず、そこぞなぜか、ゆうび奏瀟の西森有理沙瀟長が珟れお華麗にピアノを匟いた。

「ちっ、勝手なこずを  」

「あら、いいじゃないの。同じピアニスト同士、仲良くしたしょうよ」

 どうやら二人は砕けた口調で話が出来る間柄らしい。しかし犬猿の仲なのか、オヌナヌの䞊機嫌はどこかぞ行っおしたったようだ。顔をしかめたたた問いかける。

「ふんっ  。なんだっお今日はフェスに来たんだ 招埅はしおねえはずだぜ」

「ゆうび奏瀟うちの所属のアヌティストが出挔するんですもの。そりゃあ来るわよ。それに  」

 キョロキョロず蟺りを芋回す瀟長の目が私を捉えた。慌おお目をそらすが、遅い。瀟長に手招きされ、仕方なくビクビクしながら歩み寄る。

「今日はこの子の絵がどのくらい進化したか、この目で確かめたくおね。それでやっおきたずいうわけ。ねぇ、さくらさん」

「そう蚀われたしおも  」
 次のアルバムのゞャケット絵を描くこずは蚱可しおもらったものの、こうしたむベントで描いた絵を、今埌も圌らの音楜ず組み合わせお䜿甚するのかどうかは決たっおいない。しかし  。

今日、芋に来たっおこずはもしかしお、でき次第では継続しお絵を採甚しおもらえるっおこず   たさか、そんなこずはないよね  

 期埅しすぎるずそれが叶わなかったずきのショックが倧きいから、䜙蚈なこずは考えないようにする。ずころが、瀟長の口から思いがけな蚀葉が飛び出す。

「あなたの絵、氣にいったわ。今日の絵を次のアルバムのゞャケットに䜿いたいんだけど、どうかしら もちろん、麗華たちにも聞いおみないずいけないけれど」

「ええっ それは本圓ですか すごく、嬉しいです   あ、ありがずうございたす  」
 倢のような話に、䜕床も䜕床も勢いよく頭を䞋げた。

「ちょっずヌ。倧袈裟じゃなヌい その䜍にしおおかないず  」
 心配した瀟長の蚀うずおり、貧血を起こしたのかクラクラしおきた。よろけお膝を折る。

「おいおい、倧䞈倫かよ  」
 そんな私を支えるようにしお声を掛けおくれたのはリオンくんだった。

「倧䞈倫、ありがずう  」
 すぐに顔を䞊げるず、そばにいたセナちゃんず目が合った。

「よかったね、さくらさん。瀟長のお県鏡にかなっお。  ああ、実は今の話、ちょっず聞いちゃった。アタシもあの絵、すごく玠敵だなっお思っおたんだ。六人の音楜がぎゅっず詰たっおるっお蚀うか。うヌん、蚀葉にするず陳腐だなぁ  。ずにかく、あの絵を芋たらアタシたちの音楜のむメヌゞが湧いおくる。そんな感じがしたよ」

 セナちゃんの蚀葉が玠盎に嬉しかった。絵の感想をもらえるこずが、画家ずしお䜕よりも喜ばしいこずなのだ。リオンくんも頷く。

「おれも思った。っお蚀うか、おれたちの音楜っおああいう色なんだな。自分たちだけでは氣付かないこずを氣付かせおもらったよ」

「そう蚀っおもらえお、私も嬉しい」
 玠盎な氣持ちを䌝えるず、リオンくんずセナちゃんは互いに顔を芋合わせお、䜕かを䌁むように笑った。

「  そんなさくらさんに、おれたちから䟋の曲をプレれントしたいんだけど、聞いおくれる」

「䟋の曲っお  この前、未完成だっお蚀っお聞かせおくれた、あの  」
 二週間ほど前の緎習で集たったずき、二人で䜜っおるずころだず蚀っお聞かせおくれた曲があった。そのずきはタむトルも決たっおいなかった。

「そう、あの曲。完成したんだ」

「なあに あなたたち、この子のために曲を甚意しおきたの なかなかやるじゃなヌい せっかくだから私にも聞かせお頂戎。いい曲だったらアルバムに収録したしょう」

 私のための曲だそうだが、そばにいた瀟長の方がノリノリで聞く䜓制を敎え始めた。オヌナヌも二人にピアノを指し瀺す。

「なんだか分からないが、お前らのこずだからピアノを匟きながら歌うんだろう だったらこい぀を䜿え。そしおこの䌚堎の音響を最倧限、掻かせ。なんず蚀っおも今日は春の倜祭スプリング・ナむトフェスだからな 倜が明けるたでどんちゃん隒ぎしようぜ」

「それは最高 オヌナヌ、さっすがヌ」
「じゃあ、有り難くここで匟かせおもらうね」

 二人は喜びながらピアノの前に立った。急にドキドキしおきた私に向かっおセナちゃんが蚀う。

「さくらさんのために  。『カラフルワヌルド』」




色のない䞖界じゃ、もう
生きられないっお、ひずり
うずくたっおる 君

そうさ、誰もが、ふさいでる
ずざされた光、さがす勇氣もなくお
゚スケヌプ 誰かに壊される前に  

色を぀けよう 癜ず黒の䞖界に
取り戻すんだ、䞃぀の光
悲しみの涙さえも カラフルに染めお 
あぁ  



色のある䞖界っお、じゃあ
どんなずころっお、ふたり
想像しおる、僕ら

そうさ、誰もが笑っおる
あふれ出す光に、手を䌞ばしながら
ゞョむフル みんなで䞀緒に、さあ

描こう、僕らのニュヌワヌルド
境界線を越えおこう
すべおはひず぀の、光だったず
カラフルなキャンバス

倧切な蚀葉ほど
すぐに忘れおしたうけれど
心に刻む、君ず䞀緒に䜜る未来

色を぀けよう 癜ず黒の䞖界に
取り戻すんだ、䞃぀の光
描こう、僕らの䞉千䞖界ニュヌワヌルド
この玠晎らしき䞖界で生きるすべおの人に幞さきわい、あれ



「ああ  」
 思わず涙がこがれた。たるで私の人生を歌にしたような䞀番ず、圌らに出䌚っお道が開けた今を歌った二番、そしおこの先の明るい未来を圷圿ずさせるようなラストに  。

「どうだった」

「    」
 感想を蚀わなきゃ、ず思えば思うほどに蚀葉が出おこない。私は感想を求める二人に、ただただ頷くこずしか出来なかった。

「ああ、いいよ。蚀葉は、いらない。そのくらい感動させられたっおこずだもんな」
 リオンくんが私の想いを察しおくれた。さっきず同じく頷くず、圌は嬉しそうに笑った。

「実を蚀うず、おれは蚀葉で感想をもらうより涙で返しおくれた方が嬉しいんだ。自分の挔奏で盞手を魅了できたっお実感できるから」

「リオンはそう蚀うけど、さくらさんが感動しおるのはアタシが歌った歌詞の方じゃない ねえ、そうでしょう」

どちらも玠晎らしかったわ  。
 心の䞭では断蚀できるのに、どうしおも声にならなかった。

「ああ  。リオンずセナ、二人だけでデビュヌさせおいたらきっず人氣が出おいたでしょうに、惜しいこずをしたわ」
 黙るだけの私ず違い、瀟長は玠盎な感想を口にした。
「今からでも遅くはないわ。別枠で、二人だけでやっおみない」

「いいや。セナず二人じゃ、心蚱ないから  」

「うん。アタシも同じ。瀟長の蚀葉は有り難いんですが、その話は無しで」
 私ならきっずすぐに受けおしたうような䟝頌にもかかわらず、二人はあっさり断った。

「二人っお  すごいね  」
 自分軞がしっかりしおいるこず、そしお芪よりも幎䞊の瀟長に察しおはっきりものが蚀えるこず  。諞々のこずに私はすっかり感心しおしたった。
「私より若いのに、堂々ずしおいお本圓にすごい  」

「幎霢は関係ないよ。なぁ、セナ」

「そうだよ。アタシたちのこず、すごいっお耒めおくれるけど、さくらさんの絵だっおすごいよ 自信を持っおいいず思う」

「いやいや  。私の絵なんお  」
 みんなが『いい』ず蚀っおくれる絵を吊定しようず銖を暪に振ったずき、突然目の前に長身の男性がすっず珟れた。私は目を䞞くしお固たった。

「さくら  」
「お父さん  」
 お客さんは党員出お行ったはずなのに、いったいどこから入ったのだろう  

 父を間近で芋るのは十数幎ぶりだった。雰囲氣は昔のたただったが、顔に深く刻たれたしわを芋るに぀け、幎月の経過を感じずにはいられなかった。

 声を掛けおきたのは向こうなのに、そのあずの蚀葉はなかなか出おこなかった。しばらくの間、氣たずい空氣のたた芋぀め合う。

 ほんの少し前たで近くにいたはずの瀟長やセナちゃんたちは、私たちに氣を遣ったのか、氣付けばいなくなっおいた。

 呚囲では宎䌚が始たったのか、わいわいず隒ぐ声が遠くの方から聞こえ始める。だが、私ず父のいる空間はなぜか時が止たったかのように静かで、声を掛けおくる人間もいなかった。

 いったい、䜕を話せばいいのか  。父は䜕を蚀う぀もりでここたでやっおきたのか  。睚み付けおいるず、ようやく父が口を開く。

「  元氣そうで、よかった」

「麗華ちゃんのおかげでなんずかやっおたす」
 淡々ず事実だけを述べるず、再び沈黙の時がやっおきた。

 ここたで沈黙が続くず、「麗華ちゃんから䌚うように蚀われたので仕方なくやっおきたんでしょう」ず蚀いたくなっおしたう。本圓に䌚いたくおやっおきたなら話したいこずは山ほどあるはずだし、どんどん話しおもいいはずだ。

これ以䞊黙っおいる぀もりなら、垰っおもらおう  。
 そう思ったずき、再び父の口が動く。

「  いい絵を描くようになった。俺がそばにいたずきよりもずっずいい絵だ。さくらの進化した姿が芋られお、俺は嬉しいよ」

「  それで」

「それで、っお  。その顔は俺を恚んでるっお顔だな  」

「そうだね、恚んでる」

「寂しい思いをさせたなら悪かったよ  」

「寂しかったわけじゃない。そんなわけ、ないでしょう  」

「じゃあ  。今曎ふらりずやっおきお、自分の描いた絵を耒めた俺に怒っおるのか」

「    」
 私は返事をしなかった。

 耒めお欲しかったのは事実。だけどそれは、今じゃない。自分の描く絵に自信が持おなかった、倚感な時期に耒めお欲しかった  。

 もちろん、今曎そんなこずを蚀ったずころで時は巻き戻らないし、あのずき掛けお欲しかった蚀葉を今聞いたっお䜕の感動もない  。

 そんな想いが䌝わっおしたったのか、父が劙なこずを蚀い出す。
「俺は  ずっずさくらを想っおいたよ。どこにいおもずっず  」

「なら、どうしお䞀床も連絡しおくれなかったの 私の描いた絵を、たくさん描いた絵を芋お欲しかったのに  」

「芋お欲しかった、か  。さくらは俺に耒められるために絵を描いおきたのか   お前は自分で思っおいるよりずっずうたく描けおいる。だから自信を持お。誰よりも、自分の絵を自分で耒めろ。そうしたらもっずいい絵が描けるようになる」

「自分の絵を自分で耒める そんな自惚うぬれたこず  」

「自惚れなんかじゃない。自分が自分の䞀番のファンでなくおどうする」

「自分が自分の䞀番のファン   なんなの、それ」
 それじゃあたるでナルシストじゃない。思わず錻で笑ったが、父は真剣な顔で続ける。

「䜕も可笑しくはない。プロならみんな、自分が䞀番優れおるずいう自負を持っおるもんだよ。自分がいいず思えなければ、他の人が芋たずきにいいず思えるはず、ないだろう   さくらに足りないものは、自分の䜜品ぞの愛だ。そしおそれを知っおもらうために俺は、さくらから離れた。俺がずっずそばにいたら、さくらは俺の評䟡だけを氣にしお描き続けおしたうず知っおいたから」

「なんなの、それ  」
 あたりにも予想倖な蚀葉に思考胜力が䜎䞋したのか、さっきず同じ台詞を口にしおいた。しかし今床は笑い飛ばすこずが出来なかった。盎前にしおいた、リオンくんずセナちゃんのやりずりがたさに、父の蚀葉そのたただったからだ。

 振り返っおみれば確かに父は野球人の自分に誇りを持っおいた。そしお、私が関心を瀺そうが瀺すたいがい぀も野球の話をしおいた。あのずきは単なる「野球銬鹿」なのだず思っおいたが、実は父は、自分の䞖界を倧切にしおいただけなのではないか 誰からの評䟡も氣にせずに、自分には野球しかないのだずある皮、決め぀けおここたで生きおきたのではないか 

 父をそのように芋るこずが出来たずき、自分がなぜこんなにも小さくなっお生きおいるかが分かった。

 私は絵を描くこずが奜きだけれど、䞀床たりずも自分を喜ばせるために描いたこずがなかった。私の描く絵は珟実にある静物や颚景がほずんど。粟密に写し取るこずこそが芞術だずさえ思っおいたし、「写真みたい」ず蚀われるこずを目指しおすらいた。珟物に忠実に描くこずは私にずっお、テストで癟点を取るのず同矩だったのだ。

 そんな私に倉化をもたらしおくれたのが、麗華ちゃんをはじめずするミュヌゞシャンたち。圌らの積極的な働きかけがなかったら、私は今も倉わらず、売れない画家でいたこずだろう。自分の殻を砎り、倧勢の前で䞋曞き無しで抜象画を描こうなどずは思わなかったこずだろう。

麗華ちゃんは分かっおいたのかもしれない  。私が自分の描く絵に自信がもおるようになれば、玠晎らしい画家になれる、っお  。

 人から、䞀回でも倚く「いい」ず蚀っおもらうこずでしか、自分の絵の䟡倀を知るこずは出来ないず思っおいた。でも、圌らはそう蚀っおくれるだけじゃなく、描き手である私を「絵の才胜がある」ず評し、自信を぀けさせようずした。そんなふうに蚀えるのは、圌ら自身が、自分の䜜る音楜を自ら「最高」ず評䟡しおきたからに違いない。

やっぱり、姉匟きょうだいっお䌌るものなのかな。たさか、お父さんたで同じ考え方だったなんお  。

 先日、麗華ちゃんに蚀われた蚀葉――思うずころがあるなら面ず向かっお蚀いなさい――が、急によみがえった。

理由はどうであれ、お父さんの方からやっおきおくれたんだ。この機䌚を逃しおはいけない  。今蚀わずしお、い぀蚀うずいうの  

 私は意を決した。

「子䟛の頃、家にほずんどいなかったお父さんの氣を匕くために、必死に描いた。芋せれば必ず耒めおくれたよね。それが嬉しかったから私は描き続けおきたの  。なのにお父さんは、そんな私を眮いおあっさり出お行っおしたった  。あのずき感じた虚しさは、お父さんには分からないでしょうね  。そう、お父さんの蚀うずおり、私はずっずずっず、お父さんに耒めおもらうために描いおきた。そういう描き方しか出来なかった  」

「  さくらが俺のために描いおくれた絵、今でも倧切にずっおあるよ。もちろん、さくらがどんな思いでいたのかも分かっおいた぀もりだ。でもな、さくら。芪子ずいえども、それぞれが独立した人間だ。俺には俺の人生が、お前にはお前の人生がある。小さい頃は䟝存しなければ生きおいけなかったかもしれない。だけど、成長するず共に子䟛は、芪を喜ばせるためではなく、自分を喜ばせるために生きおいいのだず孊ばなければならない。  俺の姉ちゃんを、麗華䌯母さんを芋お芋ろ。党力で自分のために生きおるだろう そしお幞せそうだろう そりゃあ、こういう䞖界で生き続けるために苊劎もしおきたずは思うけど、今も珟圹で居続けられる背景にはそういう生き様があるからだず俺は思うよ」

「そうだね  」

「  今のさくらさんの絵には愛が乗っかっおる。奜きだよ、おれは」
 唐突に、リオンくんの声が聞こえた。同時に、止たっおいた時が動き始め、呚囲の音も耳に届き始める。

「  聞いおたの 私たちの話を」

「聞いおたっお蚀うか、聞こえちゃったっお蚀うか  」
 圌は右手に持っおいるグラスを掲げた。どうやら私にドリンクを枡そうずしお䌚話を耳にしおしたったようだ。

 リオンくんは既にお酒が入っおいるのか、自分の思いを淡々ず語り始める。

「正盎に蚀うず、さくらさんの絵  。最初に芋たずきは奜きじゃなかったんだ  。そりゃあ、うたいなずは思ったんだけど、それだけっお蚀うか。ああ倚分みんな、ミュヌゞシャンだから感芚的にそう感じおたず思う。だからっお蚀うのも倉だけど、盎感を掻かしお描けばきっずいい絵を描くだろう、ずも思った。それで兄ちゃんも麗華姉さんもあんな颚に提案したんだず思っおる。で、実際、その通りになった」

 リオンくんは自身の顔の前でもう䞀床グラスを掲げ、私に差し出した。
「自分でも、今日の絵はよく描けたず思うだろう」

「ええ、そうね。倚分、䞀番の出来」

「やっぱり。おれが芋おきた䞭でも䞀番いいず思ったもん。  しらふで描けたっおのも自信になったんじゃない」

「  そういえば」
 蚀われお氣が぀いた。䞀杯匕っかけなければ自由な発想で描けなかった私が、今日はアルコヌルの力なしで過去最高の絵を描きあげた。

「  もう、描けるよ。さくらさんは自分だけの絵が描ける」

「  リオンくんたちのお陰よ。あなたたちの音楜が私に力をくれたの」

「それじゃあ  」
 リオンくんは自分の手に持っおいたカクテルグラスを傟けお䞀口飲んだ。
「  これからも䞀緒にやろうよ」

「えっ」

「䞀人の䞖界に戻らないでさ、おれたちの音楜聎きながら絵を描いおよ。おれ、これからもさくらさんの描く絵を間近で芋たいんだ」

 たさかそんなふうに蚀っおもらえるずは倢にも思っおいなかった。あたりにも突然のこずに頭が真っ癜になる。だが、そばにいた父は喜んでいる。

「良かったじゃないか、さくら。そうだよ。画家だからっおひずりで郚屋にこもっお描く必芁はない。これからは、自分が心地よく描ける環境で、自分のために描いたらいいじゃないか」

出来るだろうか、私にそんなこずが  。

 思考の癖で、぀いそんなこずを思っおしたう。が、目の前にいるリオンくんの熱い芖線が、自己吊定しようずする私をどこかぞ远いやった。盎埌に自信がムクムクず湧いおくる。

「  ありがずう、リオンくん。私も、䞀緒に掻動したい。あなたたちの音楜からたくさんの刺激をもらいたい。聎けば聎くほどむメヌゞが湧いおくる、玠晎らしい音楜をこの先も聎かせおくれる」

「もちろんっ」

 リオンくんは満面の笑みを浮かべるず、飲み干したグラスを私に抌し぀けおピアノの元に走っお行った。そしお笑顔のたた自由に匟き始める。

「  芋お芋ろ、さくら。あの子、お前の返事を聞いおあんなに喜んでる。お前が自信を持っお描けば呚りにもいい圱響を䞎えられる。あれが䜕よりの蚌拠だ」

 そう蚀われお、嬉しいやら恥ずかしいやら、耇雑な氣持ちになる。黙っおいるず、父が急に頭を垂れた。

「俺はいい父芪じゃなかった。それは認めざるを埗ない。そのせいでさくらに嫌われたずしおも仕方がないずも思う。でも  。俺は自分の人生を党うしたかったし、さくらにも同じように生きお欲しいず思った。それだけは分かっお欲しい」

「今なら、分かる。受け入れられるわ」

「よかった  。分かっおもらえお」

「でも  。だからっおずっず連絡しおこないのは違うんじゃないかな。自分の人生を党うしながらも、私を陰ながら支えるこずは出来たはずよ」
 思っおいたこずを玠盎に䌝えるず、父も「そうだな」ず玠盎に認めた。

「ずっず、音沙汰なしで悪かった。  これからはちゃんず連絡する。さくらが䌚いたいず蚀えばすぐに䌚うようにもする」

「これから   じゃあ、過去のこずは氎に流せ、ず」

「  俺は、今からさくらず新たな関係性を築きたい。っお蚀うか、それしか出来ないからな。それで蚱しおくれないか」

「    」
 少し考えおから返事をする。
「  すぐには無理。時間が必芁よ」

「ああ、それで構わない。そう蚀っおくれただけでも有り難いよ」

「  䌚えたのが今日で良かった」
 これが、フェスの前だったらきっずこんなふうには話せなかっただろう。たた、フェスよりあずでもきっず今みたいにうたくは話せなかっただろう。

「ああ、俺も今日フェスに来れお良かった。本圓に良かった  」
 父はそう蚀っお右手を差し出した。
「頑匵れよ。画家ずしおのお前をこれからも応揎しおいる」

「ありがずう  。お父さんに胞を匵っおみせられるような絵が描けるように頑匵る」
 そう蚀いながら私は、差し出された手を握り返した。


27悠斗

 店を閉めたいからず、半匷制的に远い出されたタむミングで舞ず出くわしたのはきっず偶然なんかじゃない。ニむニむず舞はきっず、ここで芋たみえる運呜だったのだ。

 目的を果たせたのだろう、舞の顔は、吹っ切れたように芋えた。そのせいか、父芪ず察面しおも逃げの姿勢を芋せるこずなくじっずこちらを芋据えおいる。それを受けおニむニむも察峙する。

「  話せるか」

「うん」

「それじゃあ、どこか、店に入っおゆっくり  」

「ここで話そう」
 舞は今の氣持ちが、勇氣が、消えないうちに決着を぀けたいに違いない。半ば睚み付けるようにしお父芪に蚀い攟った。

「  わかった」
 ニむニむは嚘の蚀葉を聞き入れ、ネオンが光るラむブハりスの壁に凭もたれた。話があるず蚀っお声を掛けたのはニむニむだったが、先に口を開いたのは舞の方だ。

「  わたし、今の仕事を蟞める。野球から、離れる。今、そう決めた」

「  そうか」
 ニむニむは静かに受け止めただけだった。

「  反察、しないんだ」

「  悩み抜いお決めたんだろう だったら、おれから蚀うこずは䜕もないよ」

「  本圓に 蚀いたいこずがあるなら蚀っおよ。わたしは平氣だから。お父さんがどう思っおいるか、ちゃんず聞きたい。  話し合うためにここたで来たんでしょう」

「    」
 たさか、舞の方から父芪の意芋を求めるずは思わなかった。ニむニむも驚いた衚情で舞を芋぀めおいたが、やがお蚀葉を発する。

「ああ  。それじゃあ蚀うよ。  おれは、舞は野球が奜きなんだずずっず思っおた。だから瀟䌚人になっおも続けたいんだず  。でも、あれからよくよく考えおみたんだ。舞の人間関係に぀いおも思い巡らせおみたんだ」

「人間関係  」

「  氞江先茩の勧めで、祐茔に䌚った。祐茔の劻はるやたにも䌚った。二人に䌚っお、互いの子䟛の思い出話をしながら、舞が䜕に思い悩んでいるかを探った。  そこでおれなりの解にたどり着いた。舞が野球を続けおきた理由ず、䌑んでいる理由はおそらく  」

「その二人に䌚ったなら、お父さんの予想はきっず圓たっおる」

「じゃあ、やっぱりそうなのか  」
 父芪の蚀葉に、舞は静かに頷いた。

 ニむニむが䌚ったずいう二人は、舞の倱恋盞手の䞡芪で、ニむニむずは同じ高校の野球郚だったず聞いおいる。

「  おれが浅はかだった。祐茔ず春山の銎れ初めを知っおいながら、あい぀らの子䟛ず舞ずを匕き合わせ、野球を通しお芪睊を深めさせおしたった。おれがもっず舞の氣持ちに寄り添っおいればこんなこずにはならなかったはず  。本圓に申し蚳なかった」

 ニむニむは深々ず頭を䞋げた。しかし舞は小さくため息を぀いただけで、感情的になるこずはなかった。

「  どこたで話を聞いたのかは知らないけど、わたしはちゃんず圭二郎ず話を぀けたし、これからもあい぀ずの関係は倉わらない。出䌚わなければよかった、ずも思っおない。だから、お父さんが謝る必芁はないよ」

「いいや  。圭二郎のこずは抜きにしおもおれは謝らなくちゃいけない。知らなかったずは蚀え、悩んでいる舞の氣持ちを無芖しお『早く身を固めお欲しい』などず蚀っおしたった。本圓なら、舞が元氣でいおくれるだけでいいはずなのに  。  おれは、おれは舞がめぐちゃんのように、結婚しお子䟛をもうければ幞せになれるず  勝手に思い蟌んでは抌し぀けようずしたんだ。幞せの圢は人それぞれなのに  」

「お父さん  」

「今、子䟛ず関わる仕事をしおいるせいもあるだろうな  。今おれは、ナりナりず氞江先茩ず䞉人で䜓操クラブをやっおるんだけど、幌皚園児や赀ちゃんをみるず、぀い自分の孫のように思っおしたうんだ。そしお、舞の赀ん坊の頃を思い出しおは、そろそろ結婚しお子䟛の顔を芋せおくれおもいいよなぁ、なんお思っおしたう  。ああ、そうだ。党郚、おれの我が儘。我が儘なんだ  」

 ニむニむの氣持ちが、おれには手に取るように分かる。おれも党く同じ思いで日々を過ごしおいるからだ。笑顔で走り回る幌子おさなごはかわいい。芋おいるず぀い、埮笑んでしたう。そんな幌子が自分の孫だったらどんなにかわいいだろう  。おれだっおそう思わずにはいられない。

 子䟛の前では䞍噚甚な発蚀しか出来ないニむニむを芋おいられずに、倖野から少しだけ発蚀する。

「ニむニむ、自分を責めないでください。そう思うのはごく自然なこずです。ただ、舞にそれを抌し぀けるのではなく、そう思った自分を自分で認めればよかっただけのこずです」

「    」

「そうだよ、お父さん」
 う぀むく父芪に向かっお舞が蚀う。
「わたしが圭二郎ず出䌚えたのは間違いなくお父さんのお陰。結果は残念だったけど、圌に本圓の氣持ちを䌝えたこずで知らなかった自分を発芋するこずが出来た。だから、これで良かったの  」

「知らなかった自分  」
 ニむニむの問いに、舞は恥ずかしそうに目を泳がせたあず、ラむブハりスに目をやった。

「今日ここに来お、そしお圭二郎に指摘されおはっきり分かった。わたし、音楜が奜き。自分でもやっおみたい。お兄ちゃんのように、圢だけでも  。今はそんな氣持ちなの」

「  そうか。舞も、音楜を」

「意倖でしょう 驚いたでしょう」

「いいや  。い぀か翌のように、楜噚を匟きたいず蚀い出すんじゃないかず思っおたよ。でも、舞は優しい子だからい぀もおれのキャッチボヌルに付き合っおくれたっけな  。それが嬉しくお、こっちからはなかなか蚀い出せなかった  」

「なによぉ  。みんな、わたしが音楜に興味あるっお知っおお蚀っおくれないなんお、いじわるヌ」
 舞は怒るような仕草を芋せたが、すぐに矛を収めた。

「  わたしだっお、お父さんず同じ垞識にずらわれおたよ。圭二郎の婚玄発衚を聞いたずき、悲しみず同時に湧いおきたのは結婚が遠のいたこずに察する焊りの氣持ちだった  。そのくらい、圭二郎のいる生掻が圓たり前だったんだよね。でも、日垞が壊れた瞬間に、自分の思い描いおいた人生が癜玙になっおしたった。野球を続ける自分がむメヌゞできなくなった、っお蚀った方が正しいかな。  圭二郎の蚀うずおり、わたしは圭二郎ありきで野球をしおた。だから、今回のこずは起こるべくしお起きたず思っおる。本圓の自分は䜕が奜きで、この先どう生きおいきたいのか、芋぀め盎すきっかけになったから」
 
 穏やかな衚情で圌女はおれに向き盎る。
「  悠斗さん。わたしの我が儘に付き合っおくれおありがずうございたした。お陰でサザン×のラむブに来るこずが出来たし、前進するこずが出来たした。本圓に感謝しおいたす」
 舞は深々ず頭を䞋げた。

「おれは䜕もしおないよ。ほんのちょっず、舞の手助けをしただけ。でも、そう蚀っおくれお嬉しいよ」
 たるで嚘に埮笑みかけられたかのように感じお心が枩かくなった。その想いが䌝わったはずはないが、舞が思いがけないこずを蚀い始める。

「あの、悠斗さんに䞀぀、聞きたいこずがあるんです。教えおもらえたせんか」

「おれに答えられるこずであれば」

「ええず  。悠斗さんの家で厄介になるず決めた日、枩泉に行きたしたよね あのずき、聞いちゃったんです。悠斗さんずお兄ちゃんが、わたしを家に眮こうず決めた理由に぀いお話しおいるのを  。亡くなった嚘さんが生きおいたらわたしず同じくらいの幎霢だったから氣にかけおくれた、ず蚀うのは本圓ですか  」

「  聞いおたのか。あの話を」

 うっかりしおいた。家族だけだったから぀い氣が緩み、翌の䜕氣ない問いかけにありのたたの返答をしおしたった。

「  ああ、本圓だよ。だけど、それはおれが埌からずっお぀けた理由に過ぎない。おれが舞に手を差し䌞べたのは単玔に、救いたかったから。人を救うのに理由が必芁か いらないだろう」

 嘘を぀いおも仕方がないので、思っおいるこずをそのたた䌝えた。それを聞いお最初に反応したのはニむニむだ。

「  ふっ。ナりナりらしい答えだな。舞、圌の蚀っおいるこずはおそらく本圓だよ。おれも舞ず党く同じ疑問を持ったが、同様の答えだった。あのずきは玍埗できずに䞍満を挏らしおしたったが、今はすべおナりナりの蚀うずおりだったず断蚀できる。人にはそれぞれ、圹割がある。そしお芪であるおれに出来るのは芋守るこずだけ。そうするこずしか出来ない自分を過小評䟡するんじゃなくお、それがおれの圹目なんだず、今は認めるこずが出来るよ。舞が、自分で人生を遞び取る力を持っおいるこずも分かった。だからおれはここで舞の蚀葉を聞き、背䞭を抌す。それが父芪ずしお、おれに出来る唯䞀䞔぀最善の行為だ」

「ふふっ  。お父さん、かっこいいこず蚀うじゃん」
 そう蚀っお舞は父芪の腕を぀぀いた。
「この間は鈍感な野球人なんお倧嫌いっお蚀っちゃったけど、やっぱりわたし、お父さんのこずが奜き。わたしは野球をやめるけど、お父さんにはこれからも野球奜きでいお欲しいな」

「ああ  」
 ニむニむは照れくさそうに錻の䞋をこすった。
「盎接携わるこずはないかもしれないが、おれは野球をしおきた自分が奜きだし、誇りに思っおいるからな。舞に蚀われなくたっお、おれはこれからも野球を奜きでいるよ」

「それでこそお父さん。  そうだ。明日ずか、時間ある 久しぶりにキャッチボヌルしようよ」

「おう  。おれはい぀でも受けお立぀ぜ。氞江先茩に頌んでどこかのグラりンドを貞しおもらうのもアリだな」

「そんなこず出来るの さすがヌ」
 埮笑み合う二人を芋お、この問題も解決したず確信した。

「  舞がうちに来おるっお話したずき、ニむニむはおれに嫉劬したけど、なんだかんだ蚀っおおれはやっぱり他人。父芪ずは違うっおこずをたざたざず芋せ぀けられたしたよ」

 冗談めかしお蚀うず、舞に声を掛けられる。
「  悠斗さんにもいるじゃないですか、たなちゃんが。いい父嚘おやこだずわたしは思いたすよ」

「あヌ  。そう蚀っおくれるのは嬉しいけど、たなは翌ずめぐの子であっお  」

「もう  隠さなくおいいです。たなちゃんは、悠斗さんが若い頃に亡くした嚘さんの生たれ倉わりなんでしょう それもあのずき聞いちゃったし、たなちゃん本人にも確認しおるので」

「えっ」
 予想倖の発蚀に再び戞惑う。たなには事実を䌝えおきた぀もりだが、ただ理解できる幎霢だずは思っおいなかったからだ。
「たなは、なんお  」

「確認した、ず蚀っおも聞いたのは悠斗さんず過去にしたやりずりだけで、特別なこずは䜕も。わたしが感じたのは、今のたなちゃんも悠斗さんが倧奜きだし、悠斗さんずいられる今を党力で楜しんでいるず蚀うこずです。だから悠斗さんが父やわたしを矚む必芁はこれっぜっちもないず思いたすよ。悠斗さん自身も、その頃の悲しみや぀らさはずっくに乗り越えおいるんでしょう」

 舞の蚀葉を聞いお、寝付いおいるであろうたなの寝顔が脳裏に浮かんだ。そう、真っ先に思い浮かぶのは、愛菜ではなく、たな、、なのだ。

「ああ、そうだな  。乗り越えたからこそ今を党力で楜しめおる、ずも蚀えるかもしれない。血は繋がっおないけど、おれはたなを実の子のように思っおいるし、次に生たれおくる子も同じように育おる぀もりだよ」

「あっ、その話なんですが  」
 舞はそう蚀った埌でチラリず父芪に目をやった。
「埌で、ご盞談したいこずがありたす」

「なんだよ。ナりナりには蚀えるのに、父芪のおれには蚀えないっおのか」

「関係が近すぎお蚀えないこずもあるの もう、分かっおよね タむミングを芋蚈らっお必ず蚀うから、ちょっず埅っおお」

 䞍満を挏らした父芪に、今の舞は臆するこずなく「埅お」ず蚀い攟った。その様子がたるで犬のし぀けのようで笑いそうになったが、なんずか堪える。
 
「  分かった。垰りしなに、ゆっくり聞こう」

「ありがずうございたす。  あ、あずもう䞀぀。サザン×の皆さんに䞀蚀ご挚拶しおから垰りたいんですが、構いたせんか」

「構わないよ。おれは党然急いでないから」

「よかった  。それじゃあ、もう少しだけ時間をください」
 舞はぺこりず頭を䞋げ、ラむブハりスの入り口に向かったが、そこは既に鍵が掛けられおいお入るこずが出来なかった。

「そういえばさっき、これから身内だけで宎䌚するから出お行っお欲しいっお蚀われお远い出されたんだよな、おれたち」

「ええ  」

「そうなの   裏口から入れたり、しないかなぁ  」
 ちょっず芋おきたす。舞はそう蚀っお店の裏に回った。
 


28ナヌゞン

 ラむブハりスの倖は盞も倉わらず、無機質なビル矀ず無感情の人々しか存圚しなかった。そこに䞀歩螏み出しただけで、揺さぶられおいたオレの感情はすぐに沈静化する。

䜕やっおんだか、オレは  。かっこわりいな  。

 冷静になっおみるず、自分の行動が子䟛じみおいたように思え、萜ち蟌みそうになる。しかし、智ずもさんから借り受けたアコギだけはオレの倧胆な行動を耒め称えおくれた。

 智さんがオレをラむバルず認めおくれたお陰でドラムの技術は向䞊したし、特別な環境で告癜するずいう経隓も出来た。それに぀いおは良かったず思う。だけど、さっき゚レキを党力で匟いおみお感じたのは、やっぱりオレはドラムじゃなくお゚レキが奜きだっおこず。ステヌゞの䞀番埌ろからバンドをサポヌトするんじゃなくお、ギタリストずしお拓海さんや智さんず䞀緒にサむドで匟きたい。今はそんな氣持ちでいっぱいなのだ。

 裏口のドアに凭もたれ、匊を䞀本ず぀鳎らす。智さんの自慢のアコギ、ハミングバヌドのきらびやかな音が、東京の喧噪を打ち消すように響く。

 芋䞊げた空には薄雲ず、その圱からチラリずのぞく星。そしお東の空から昇っおきた月があった。ぜろんぜろんず匊を぀た匟く。思い぀くたた、今の氣持ちを、節を぀けお぀ぶやくように歌う。




颚の䞭を歩いおた
ホントの自分、さがしたくお

芋䞊げた空、高く飛ぶ鳥のように
飛べない僕は
亀差点を ふらふら、ふらり

぀いおは消える信号機
誰もいない道で立ち止たっおる

泣くこずが出来たなら
悲しみさえも癒えるだろう
孀独を噛みしめながら、ひずり
のがる月を芋る



雚の䞭を歩いおた
ホントの自分、芋぀けたくお

濡らした傘、
たるで この心のように
しずくが䌝぀たう
亀差点で ふらふら、ふらり

消えたたたの街灯の
䞋でひずりきりで泣きじゃくっおる

笑うこずが出来たら
悲しみさえも癒えるだろう
孀独を噛みしめながら、ひずり
君を思い出す

思い出を消せたなら
きっず次ぞ進めるだろう
だけど今はこの時間ずきを、
僕だけの時間ずきを、あぁ  



 他人だれかのためではない。自分を癒やすために、慰めるために匟く。今たでこんなふうに匟いたり歌ったりしたこずはなかったが、たるでサザンクロスのようだず感じお少しだけ誇らしくなる。倱恋したこずはもちろん蟛い。だけどオレはこれを糧に、絶察に成長しおみせる  。憧れのサザンクロスに少しでも近づくために  。

「ナヌゞンさん  」
 感傷に浞っおいるず、突然声を掛けられた。

「舞さん  」
 お客さんは党員、ずいぶん前に店から出おいる。だから、オレが招埅した舞さんも圓然垰宅の途に぀いおいるはずだった。
「店の裏口に回ったりしお。忘れ物でもしたんっすか」

「いいえ  。今日、招埅しおいただいたお瀌が蚀いたいず思ったんだけど、入り口が閉たっちゃっおお  。もしかしたら、裏からは入れたりしないかなぁ、なんお」

「ああ  。だけど、今は䞭で打ち䞊げやっおる最䞭で  。みんなお酒が入っちゃっおるから、挚拶なら日を改めた方がいいかもしれたせん」

「そうなんだ  。酒盛りが始たっちゃっおるなら仕方がないね」
 舞さんは残念がったが、すぐに立ち去ろうずはしなかった。

「あの  。ただ、䜕か  」

「  ナヌゞンさんは参加しないの っお、出来ない理由があるからここにいるのかな」
 舞さんはオレの前にしゃがみ蟌んだ。
「あ、ごめんなさい。今の匟き語り、聎いちゃっお  。声を掛けちゃいけないず思ったんだけど、なんお蚀うか  すごく良かったから、぀い  」

「あヌ  」
 誰かが聎いおるなんお思いもしなかった。急に恥ずかしくなる。
「即興なんでなんずも蚀えないですけど、良かったっお蚀っおもらえおちょっぎり嬉しいです」

「今の、即興なの やっぱりギタリストっおすごいね  。うん、本圓にすごい」
 舞さんは力匷く頷いたかず思うず、オレの顔をじっず芋぀めた。

「ここでナヌゞンさんにだけ䌚えたのもきっず䜕かの瞁  。えっず、わたしね、ナヌゞンさんのお陰で倱恋した幌なじみに、ずっず奜きでしたっお䌝えるこずが出来たの。さっきの告癜、すごく勇氣をもらえた。だから、お瀌を蚀わせおください。本圓にありがずうございたした」

 オレの倧倱恋が、たさかこんな圢で誰かに勇氣を䞎えるなんお思いもしなかった。だけど、萜ち蟌んでいた舞さんをラむブに招埅したのはオレ自身。きっずどのような圢であれ、そのずきから舞さんには䜕かしらの圱響を䞎えるこずが運呜づけられおいたに違いない。

「自分で蚀っずいおなんですけど、ラむブを聎きに来お本圓に人生が開けたみたいですね」

「そうなの。自分でもビックリよ。なにせ、思い人だけじゃなく、父ずもちゃんず話しお和解できたんだもの。あヌ、そうそう。なぜか父も䌚堎に来おいおね  。もう、運呜ずしか思えなかったよ」

「よかったですね。声を掛けた甲斐がありたした」

「良かったなんおもんじゃないわ。本圓に  ここから人生が倉わろうずしおいる」
 舞さんは䞀床芖線を倖し、再びオレず目を合わせるず、驚くべきこずを口にする。
「  ナヌゞンさん。わたしに  ギタヌを  教えおくれたせんか   あなたから、教わりたいんです」

「オレからギタヌを どうしたんっすか、いきなり  」

「今も蚀ったけど、ナヌゞンさんの告癜する姿、本圓に栌奜良かった。゚レキの挔奏も玠晎らしかった。あれを芋お、わたしもあんな颚に匟けたらどんなにいいかず  。そ、そりゃあ、いきなりあのレベルで匟けるずは思っおないよ でも、ずにかくかっこいいなっお思っちゃっお  」

 蚀いながら舞さんの顔はどんどん赀くなっおいった。
「  正盎な話、ドラム叩いおるずきよりも最埌の゚レキ匟いおるずきの方が断然かっこよかった  です」

 ゚レキを匟いおるずきの方が断然、栌奜よかった  。

 自分だけでなく、倖からもそう芋えおいたならやっぱりそうなんだ、ず確信する。サザン×結成に圓たり、ドラマヌずしお頑匵っおきたけど、きっず今が朮時なんだろう。

ギタリストに、戻ろう  。

 そう決めたら、なんだか肩の荷がすっず䞋りた氣がした。どうやら、思っおいた以䞊に氣負っおいたようだ。

「ありがずう、舞さん。そう蚀っおくれお。実はオレも悩んでたんです。このたたドラマヌを続けお埌悔しないだろうかっお。でも、今の䞀蚀で螏ん切りが぀いた。オレ、たた゚レキがやりたいっお仲間に蚀っおみたす。もしかしたら別々のバンドに戻るかもしれないけど、それならそれでもいい。オレは、゚レキが匟きたいから」

「えっ。そしたらサザン×、なくなっちゃうの」

「それは分かりたせんが、オレ、麗華さんに近づきたいあたり、ちょっぎり無理しおたみたいです。でも、舞さんず同じで、奜きな氣持ちをぶ぀けおあんな颚にフラれたお陰で逆に吹っ切れたっお蚀うか、自分の氣持ちに正盎になろうず思えたんです」

「わぁ  。はっきりずそう蚀えるナヌゞンさん、かっこいいなぁ」

「えぇっ   舞さん、さっきからオレのこず栌奜いいっお、そればっかり  。そんなに耒められたら照れるじゃないですか  」

「嫌だったらやめるけど、栌奜いいのは事実だもの。  わたしだっお、自分が思ったこずは正盎に蚀おうっお決めたからね。それで蚀っおるだけよ」
 にっこりず埮笑みかけられ、たすたす困惑した。

思い人ず決別したばかりだず聞いたけど、もしかしお舞さん、オレに惚れちゃったのかな  。

 たさか、ず思い぀぀も、耒め殺しされお悪い氣はしないし、䜕よりも舞さんのサバサバした振る舞いは話しおいお氣が楜なのは確かだ。

たぁ、いいや  。きっず、なるようになる。

 この先のこずなんお誰にも分からない。オレに出来るのは、拓海さんや悠斗さんが蚀っおいたように、今日が最期だず思っお党力で日々を生きるこず。その結果、誰かを奜きになったり、氣が合わなくなっお別れたりするこずもあるだろうけど、「今、ここ」を生きおいれば決しお埌悔するこずはない。

 オレの返事を埅぀舞さんがこちらをじっず芋おいる。オレはその目を芋぀め返した。

「舞さんの想い、受け取りたした。ラむブが終わった埌は少し䌑みがあるので、その間にギタヌの基瀎をお教えしたしょう。蚀っずきたすけど、オレのレッスンは厳しいっすよ」

「いいの ほんずうに やったぁ ありがずう、ナヌゞンさん」
 握手を求めた舞さんは満面の笑みを浮かべた。
「あの  。ただしばらくは悠斗さんの家で厄介になる予定ですので  。連絡、埅っおたす」

 舞さんはすっず立ち䞊がるず、深く䞀瀌をしお去っお行った。

「さぁおず  。オレもみんなず合流するか  」
 䞀晩䞭、歌い通さなければ収たらないず思っおいた悲しみは、案倖あっさり収束しおしたった。きっず舞さんがたくさん耒めおくれたお陰に違いない。

戻ったら、智さんに瀌を蚀おう。拓海さんにも。それから、麗華さんにも  。
 よし、ず氣合いを入れお立ち䞊がり、ギタヌをひっさげ店の䞭に戻る。




 楜屋には誰もおらず、宎䌚が未だ盛り䞊がっおいるこずを知る。そのたた店内に向かうず、バヌカりンタヌ前の怅子にセナず䞊んで腰掛ける智さんを芋぀けた。

「よう、ナヌゞン。案倖早く戻っおきたな。発散は出来たか」

「おかげさたで。なぜか裏口に回っおきた舞さんに声を掛けられお、お互いの話をしおいるうちに氣が晎れたした」

「そうか。よかったな  」

「それはそうず  。酔っ払ったセナにくっ付かれおたすけど  」

「ああ  。ちょうど困っおいたずころだ。なんずかしおくれないか  」

「なんずかっお  。そんなの、自分で解決しおくださいよ。倧人なんだから。それずもあれですか、実幎霢に察しお粟神幎霢はずっず幌いんですか」

「    」

 セナの、オレの効の氣持ちに応えようずしない男を芋おいたら黙っおいられなかった。自分でもビックリだが、さっきの告癜劇を経隓したこずで劙な床胞が぀いたのかもしれない。オレはさらに責め立おる。

「智さんだっお、目の前で麗華さんにフラれたも同然じゃないですか。なのにこの先も未緎がたしく片思いを続ける぀もりなんですか。それ、はっきり蚀っおダサいっすよ」

「  お前に僕の䜕が分かる」

「分かりたせん。だけど、劙なこだわりは捚おた方がいいです。いい女は麗華さん以倖にもきっずたくさんいたすから」

「    」
 今の台詞を麗華さんが聞いおいないこずを祈るばかりだが、オレの芋える範囲に圌女の姿を確認するこずは出来なかった。

「もし、このたた麗華さんを思い続けるずいうなら、オレはセナにあなたを諊めさせたす。未来ある効を䞍幞にさせたくはありたせんから」

「お兄ちゃん  」

 䞀氣にたくし立おおしたったが、その間、智さんは䞀床も口を挟たなかった。怖じ氣づいおいるのか、それずも反論の文蚀を考えおいるのか  。

「ありがずう、お兄ちゃん  。兄さたが迷っおいるなら、アタシがなんずかする。自分の力で  」

 しびれを切らしお動き出したのはセナの方だった。効は勢いよく立ち䞊がったかず思うずピアノに駆け寄り、スタンドマむクを怅子のそばに寄せた。オレも智さんもそちらに身䜓を向け、泚目する。

「  お兄ちゃんの想いはレむさたに届かなかったけど、アタシの思いは兄さたに届けおみせる  」

 そう蚀っお匟き語り始めたのは、オレが先ほど麗華さんに向けお披露した「二人のハヌモニヌ」だった。 ※ 曲が聎きたい方は以前投皿したこちらの蚘事ぞ。236



聎かせおよ、その声を
僕が眠りに萜ちるたで
どんな悪倢も消えるから
君は僕の倩䜿さた

ありふれたフレヌズ
「愛しおる」しか蚀えない僕をゆるしお
どんな蚀葉を䞊べおも
奜きな気持ち 䌝えきれない

二人の声を重ねお
奏でよう 最高のハヌモニヌ
䞖界に䞀぀しかない和音コヌド
響かせお、和・茪
いた、螊り出す  



 䞀番が終わる頃にはおそらく、ホヌルにいた党員がセナの匟き語りに酔いしれおいた。盛り䞊がりが最高朮に達し、みな酒を片手に、歌詞の通り本圓に螊り始める。

 二番が始たり、蟺りがさながらダンスホヌルず化したずき、智さんが動いた。

「  貞せ」

 ずっずオレが持っおいた自分のギタヌを奪い取った智さんは、すぐにストラップを肩から掛け、ゞャカゞャカっず音を鳎らした。そしお、通しでは䞀回しか聎いたこずがないはずの「二人のハヌモニヌ」を匟き始める。



二぀の音を重ねお
奏でよう 最高のハヌモニヌ
䞖界に二぀ずない和音コヌド
響かせお今、
ここから始たる、僕らのストヌリヌ  



 たさに、歌詞さながらの光景が目の前で展開しおいた。セナのそばに歩み寄った智さんが目配せをする。盎埌、セナは半泣き状態になっお歌えなくなる。

「  ったく。困った二人だ」
 芋かねたオレはマむクを握り、最埌の歌詞を歌う。



ナヌトピアなんか、なくたっお構わない
君の歌声さえあれば
和、茪、わ、平和な䞖界

愛する君に捧ぐ歌
たずえ思い、届かなくおも
僕は君を愛しおる  



 挔奏が終わるず、聎いおいた仲間たちが倧歓声をあげた。ただ、事情を知らない圌らは、これがただのセッションだず思っおいるはず。しかし、これはマゞな告癜だ。本番は、ここから  。

 仲間たちが再びそれぞれに宎䌚を始めたずき、セナが怅子から立ち䞊がった。芋぀め合う圢になった二人はしばらくの間黙り蟌んでいたが、やがおセナが䞀歩前に出お想いを盎接䌝える。

「  今の挔奏、今の歌がレむさたに負けおるずは思わない。ちゃんず、認めおくれたからこそのセッションだったず思いたい  。兄さた、どうかアタシの想いに応えおください  。お願いしたす  」
 セナは床に぀くくらい頭を䞋げお懇願した。それを芋た智さんは力なく笑う。

「  たさか、ナヌゞンに続いおセナにたで心を揺さぶられるずはな。参った、完敗だよ」
 圌は䞇歳をするように䞡手を挙げた。

「  ナヌゞンの蚀うずおりだ。僕は、セナを愛せない理由をレむちゃんぞの片思いずいう圢で抌し通しおいたに過ぎない。セナが嫌いで拒んでいたわけじゃなく、単玔に自信がなかった  。若い子からの求愛を自分の䞭でうたく消化できなったし、揺れ動く自分の氣持ちを自分で受け入れられなかった、それだけのこずだったんだ  。っお、党郚蚀い蚳だよな」

 智さんは䜕床も目を泳がせた埌、ようやく呌吞を敎えおセナの目を芋た。

「今、セッションしたのが僕の答えだ。  ♪二぀の音を重ねお奏でよう、最高のハヌモニヌ。䞖界に二぀ずない和音コヌド。響かせお今、ここから始たる、僕らのストヌリヌ。  歌詞、あっおるかな こんな僕でもいいっお蚀うなら  䞀緒に和音を響かせよう」

 差し出された手を、セナが䞡手で包み蟌む。
「っおこずは兄さた、アタシのこず  」

「  ♪たったの四文字『倧奜き』さえも、目を芋お蚀えない僕を蚱しお」

 智さんは問いの答えを歌で返した。ずるい、ずるすぎる  。でも、これが圌なりの粟䞀杯の愛情衚珟なのだろう。セナも分かっおいるようだ。䞍噚甚な智さんの答えを聞いお目ず顔を赀くしおいる。

「  セナのや぀、良かったな。兄ちゃん、倧掻躍じゃん」
 遠巻きに芋おいたであろうリオンが近くにやっおきた。
「以倖ず倱恋、匕きずっおなさそうで安心したよ」

「匕きずったっお仕方ないし、あれだけバッサリ切られたら、かえっお氣持ちがいいくらいだ」

「確かに  。だけど、あれはマゞでおれも惚れちゃいそうになるくらい栌奜良かったよ」

「お前に奜かれおも嬉しくはないね  。残念だけど、オレの告癜する姿を芋お栌奜いいっお蚀っおくれた女性がいるからな。どうせ受けるならオレはそっちにするよ」

「えっ なにそれ。もう次の恋愛、考えおるのかよ 前向きすぎだろ」
 冗談亀じりで蚀ったのに、リオンが本氣にしおいるのが面癜くお笑う。

「人生は短いんだ、萜ち蟌んでる暇なんおないんだよ。  ですよね、智さん」
 話題を振るず、智さんは「勘匁しおくれ  」ず蚀っお肩をすくめた。

「若いのず䞀緒にいれば䜕かず刺激がもらえるだろうず蚀ったのは僕だが、これほどたでずはな  。特にナヌゞンの積極的な姿勢には孊ぶずころが倚かったよ。本圓にありがずう」

「いいえ。お瀌を蚀うのはこちらの方です。智さんが背䞭を抌しおくれたからドラムの腕を䞊げるこずが出来たし、麗華さんに歌を聎いおもらうこずも出来たした。本圓に感謝です。ただ  」

 ここで䞀呌吞を眮き、さっき決意したこずを告げる。

「これを機に、゚レキに戻ろうず思っおたす。サザン×にギタリストが倚すぎるず蚀われお転向したけど、やっぱりオレぱレキギタリストずしお生きおいきたいんです」

「ああ、そうしおくれ。最初から無理をしおいるんじゃないかず心配しおいたんだ」
 吊定的な発蚀が出おくるず予想しおいたのに、智さんはあっさり受け入れおくれた䞊に、こう続ける。
「お前がどの楜噚を担圓しようが、サザン×はこれからも六人でやっおいく。倧䞈倫。なんずかなるさ」

「  智さんからそんな前向きな発蚀が聞けるなんお」

「ふっ  。これも君たち、若者ず䞀緒にやっおきたお陰だよ。これからも高めあっお行こう。そしおい぀の日にか、䞖界埁服を果たそう」
 智さんは今床はオレに手を差し出した。

「兄さた。それを蚀うなら、䞖界埁服ずいう名の䞖界平和、でしょう」

 セナに寄り添われた智さんは戞惑いを芋せながらも「そうだな。僕らの音楜で䞖界䞭を愛で䞀杯にするんだったな」ず自分の発蚀を蚂正した。





最終章玄11,000字

29さくら

 季節は巡り、暑い倏がやっおきた。幌い頃から郚屋の䞭で絵を描いおきた私は真倏の日差しが倧の苊手だったが、今幎は頻繁に癜い肌をさらしおいる。

 事の発端は、舞さんのお父さんがこの春から父の運営する野球チヌムのコヌチを務めはじめたこず。舞さん自身は野球から離れる決意をしたが、たるで遞手亀代するかのように和解したお父さんの方が野球を再開するず蚀う流れになった。それを機に、同じく父ず和解した私に舞さんから声がかかり、床々詊合を芋に行くようになったず蚀うわけだ。

 そんな私の行動を芋お喜んでいるのは䌯母の麗華ちゃん。父ず䌚うようになったこずはもちろん、ブラックボックスの䞉人ず䞀緒に出かける機䌚が増えたこずで衚情が明るくなったず䌚うたびに蚀われおいる。「もしかしお、恋しおるんじゃない」ずも。


◇◇◇

 秋に発売を予定しおいるアルバムの最終打ち合わせのため、この頃は連日、ゆうび奏瀟に足を運んでいる。私は完党、仕事モヌドで来おいるが、麗華ちゃんには仕事ずプラむベヌトの境界線がないらしい。

「あたしにはこっそり教えお頂戎よ。ねぇ、どっちが奜きなの やっぱり、ナヌゞン」

 二人きりになったタむミングで麗華ちゃんが突然、そんなこずを耳打ちしおきた。少し離れたずころにはナヌゞンさんずリオンくんがいる。

「どっちっおいうこずもないけど、二人ずもいい人だから、そういう意味ではどっちも奜きだよ」

 圓たり障りのない返答をするず、麗華ちゃんは぀たらなそうな顔をした。圌女がナヌゞンさんの告癜にオヌケヌしなかった理由の䞀぀には、私ず圌ずを結ばせようずする意図があったからだず私は考えおいる。しかし、残念ながら麗華ちゃんの思い通りにはさせない。ナヌゞンさんがいた氣にかけおいる人物を知っおいる私が、圌に思いを寄せるこずなどあり埗ないからだ。

「私のこずより自分の恋人を倧事にしたらどう   ほら、拓海さんがじっず芋おるよ」

 そう蚀っお指さすず、拓海さんは嬉しそうにこちらぞやっおきた。しかし、甚事があるのは私の方らしい。麗華ちゃんには芋えないように口元を半分手で隠す。

 ――お前は麗華の蚀葉を玠盎に受け取った方がいいぜ。ほら、お前ず話したくおうずうずしおるや぀があそこにいる。行っおこいよ。

 唇の動きから、そんなようなこずを蚀っおいるのが分かった。戞惑う私の背䞭を抌した拓海さんは麗華ちゃんをぐっず抱き寄せる。たるで、俺たちは倧䞈倫だから䜙蚈な心配をするな、ずでも蚀うかのように。

「さっきから䜕をこそこそ話しおたんだよ もしかしお、おれらの悪口」
 二人の元に合流するず、真っ先にリオンくんが口を開いた。私は適圓な嘘を぀く。

「ううん  。セナちゃんず智節さんは仲良しね、っお。そういう恋愛話を  」

「あヌ、あの二人か。  ったく、セナのや぀、党員での緎習だっお蚀っおるのに兄さんず二人きりになりたがるんだぜ バンド内恋愛はこれだから困るよな」

「バンド内恋愛なんお、ざらにある話だろ そんなこずを蚀ったら拓海さんず麗華さんがそうだし、お前だっお  」

 ナヌゞンさんの顎が私ずリオンくんを亀互に指した。
「お、おれが、誰ず恋愛するっお  」

「この䞭ではひずりしかいないだろ ねぇ、さくらさん」

「えっ うわぁっ」
 ナヌゞンさんが面癜がっお私ずリオンくんをくっ぀けた。

「お䌌合いだず思うけど」

「な、䜕がお䌌合い、だよ 元はず蚀えば、さくらさんは兄ちゃんずくっ付く予定だったはず  」

「予定 麗華さんの思い぀きで匕き合わせられたオレらだぜ さくらさんはオレを経由しお、リオンず芪しくなる運呜だったずオレは思うけど」

「    」
 顔を芋合わせた私たちは顔を赀くした。そこぞ、ナヌゞンさんがダメ抌しの䞀蚀を加える。

「さくらさん。リオンのこず、どう思いたすか 頌りないかもしれないけど、いいや぀なんです、これでも。どうか仲良くしおやっおくれたせんか」

「リオンくんは党然頌りなくなんかないよ。いい人だっお蚀うのも知っおる。でも  私、圌より十歳も䞊だし  」

「さくらさんたでそんなこずを  。だから、幎霢は関係ないんですっおば。セナず智さん、芋たら分かるでしょ。いく぀離れおるず思っおるんですか。正盎、芪以䞊ですよ でも、めちゃくちゃ仲良くしおる。幎霢差があるから付き合えないっお蚀うのは理由にならないです」

「    」
 ナヌゞンさんの蚀うこずは正しい。私は、自分が圌にふさわしい人間だず蚀い切る自信がないために、幎霢差を匕き合いに出したに過ぎない。

 もじもじしおいるず、ナヌゞンさんがリオンくんに䜕やら耳打ちをした。やりずりがあった埌でリオンくんに手招きされ、私たちは䞊階の音楜スタゞオに向かう。

 そこでは先客のセナちゃんず智節さんが熱心に緎習しおいた。が、リオンくんが目で合図をするず、双子の姉であるセナちゃんは䜕かを察したようだ。

「頑匵っおね」
 そう蚀っお、智節さんず共に郚屋から出お行った。二人きりになり郚屋がしんず静たりかえる。居心地を悪くしおいるず、リオンくんが電子鍵盀キヌボヌドの前に立った。

「  蚀葉で䌝えるの、苊手なんだ。だから、おれの埗意な電子鍵盀こい぀で䌝えるよ」

 戞惑う私の前でリオンくんが電子鍵盀キヌボヌドを匟き始める。そのむントロは、私のために䜜っおくれたずいう「カラフルワヌルド」。圌は、歌う代わりに䞻旋埋を奏でた。頭の䞭で歌詞を思い浮かべながら聎くず、たるでリオンくんが歌っおいるみたいで䞍思議な感芚になる。い぀しか脳内がカラフルな色で満たされた。

「  セナちゃんの歌がないバヌゞョンも玠敵。すごく良かったわ」
 挔奏が終わっお感想を䌝えるず、リオンくんは錻の䞋をこすった。

「  もっず、聎きたい」

「ええ。䜕曲でも。あヌ、でもその前にスケッチブックを甚意したいな。むメヌゞがどんどん湧いおきおるの」
 私の返答を聎いたリオンくんはにんたりず笑った。

「  やっぱりおれ、さくらさんの創䜜意欲を刺激できるこずに喜びを感じるんだよなぁ。うヌん、なんだろう。蚀葉ではうたく䌝えられないんだけど  」

「私も倚分、同じ氣持ち。いわゆる、恋愛の『奜き』ずは違うっお蚀うか  」

「そうそう   実を蚀うずおれ、セナず智節兄さんみたいにベタベタする恋愛っお苊手でさ。䞀緒にいお心地いいずか、高め合えるのがおれの理想の関係。恋愛に限らず」

「分かる分かる」
 意気投合した私たちは笑い合った。

「そういうこずなら私たち、同じ志を持぀パヌトナヌっおこずでどうかな」

「おっ それ、いいじゃん そうだよ、おれたち、同志でいいんだよ」

「うん。それなら氣も楜だしね」

「うん、うん じゃ、そういうこずでこれからもよろしく」
 リオンくんが右手を差し出す。私はその手を握り返しお埮笑んだ。



30舞

「  ぀いに、野䞊センパむの実の嚘がうちの店に来るずは」
 ワラむバの店䞻、倧接理人さんはそう蚀うなりわたしの顔をのぞき蟌んだ。

「  息子の方もだけど、嚘さんもセンパむに䌌おなくおホッずしたよ。䌌おたらマゞでやりにくいもんな」

「理人さん、顔が䌌おるか䌌おないかは関係ないですよ。舞ちゃんはずっず野球をしおきおるので本圓に元氣いっぱいの女の子。なので、きっずすぐに人氣者になれるず思うんです」

「確かに、めぐっちずは別の意味で玠敵な女性だずは思うけど  」

「そこをなんずか  」

「お願いしたす」

 わたしずめぐちゃんはそろっお頭を䞋げた。倧接さんはしかし、即決はせずに「うヌん  」ず唞っおしたった。

 考え蟌むのも無理はない。めぐちゃんが産䌑・育䌑を取埗する間、圌女の埓姉のわたしを代わりに雇っお欲しいず頌み蟌んでいるのだから。

 めぐちゃんずわたしずは、たるでタむプが違う。癒やし系の圌女に察し、わたしは元氣系。盞談事を持っおくるようなお客さんから話し盞手になるよう求められた堎合、察応できるのだろうか  ず思うのは圓然のこずだろう。

 しかし、タむプが違うのは癟も承知でこちらも頌み蟌んでいる。そしおわたしにはめぐちゃんにはない特技がある。これを売り蟌むしかない。

「倧接さん。このお店は幎䞭、野球䞭継を流しおいるんですよね 氞江さんのファンクラブ䌚員向けに開かれたスペヌスもある。わたしならそういった人たちに、父から聞いた話をするこずが出来るし、今掻躍しおいるプロ遞手の話題にもなんなく぀いお行けたす。独り身なのでラストたで働けたすし、わたしならこのお店を、これたでよりもっず元氣にするこずが出来たす」

「なあるほど。そっち方面に振るっお手があったか」

「もし、芋蟌みがないようならすぐに切っおもらっおもいいです。でも、そうならないようにわたし、䞀生懞呜働きたすので、どうか雇っおもらえないでしょうか  」

 お願いしたすず、もう䞀床頭を䞋げる。するず倧接さんは「頭を䞊げおよ」ず蚀っお溜め息を぀いた。

「オヌケヌ。そこたで蚀うなら採甚するよ。っお蚀うか、最初から話は受ける぀もりだったけど、そっちがどのくらい本氣かどうか詊させおもらっただけ。だいたい、断ったらセンパむになんお蚀われるか分かったもんじゃないし  」

「それじゃあ  」

「すぐにめぐっちの代わりに入っお。店のこずはやりながら芚えればいい。そこら蟺の喫茶店ず違っお、昌時・晩飯時にどっず混むような店でもないから、氣楜にやっおくれればいいよ。あヌ、だけど料理は䜜れるようにしおおいお。䞀応、今は飯のうたい店っおこずになっおるから」

「料理  」
 鈎宮家に居候の間だいぶ芚えはしたものの、めぐちゃんず比べられたら絶察に勝ち目がない  。おどおどしおいるず、めぐちゃんに励たされる。

「倧䞈倫だよ、舞ちゃん。うちに来おすぐのずきからずいぶん腕を䞊げたず思うよ。だから自信を持っお」

「う、うん  」

「私の代わり、っお思わないで。舞ちゃんは舞ちゃんのやり方でやればいいの。でしょう」
 私より幎䞋のめぐちゃんだが、粟神幎霢はずっず䞊のように感じた。

「そうだね  。自分で蚀ったんだもんね。わたしはわたしの個性を出しお頑匵っおみる」


◇◇◇

 勀めおいた䌚瀟を蟞めたわたしは、もうしばらくの間、鈎宮家でお䞖話になるこずにした。䞀番の理由は、間近でめぐちゃんがお母さんになっおいく様子をじっくり芋たかったから。そしお出産を芋届けお新生児のいる生掻を共にしおみたかったから。

 自分でもそんなふうに思えるようになるなんお  ずビックリしおいるが、それもこれもこの家の人たちの優しさず穏やかな暮らしのお陰だろう。

 めぐちゃんの代理ずしお「喫茶ワラむバ」で働くこずを提案したのもわたしからだ。圌女の圹に立ちたいず思ったのはもちろんのこず、「普通じゃない」その店のこずを知りたいず思ったのだ。

 働き始めお分かったのは、店䞻の理人さんの噚がずにかく倧きいこず。理人さん曰く、おおらかな人間になれた䞀番の芁因はわたしの父にあるそうだ。珟に父の話をするずきの理人さんは、䜕かに぀けお拝むポヌズをする。どうやら圌の䞭で父は、神にも匹敵する存圚らしい。


◇◇◇

 ワラむバでの仕事に慣れ始めた頃、なじみの顔がやっおきた。

「いらっしゃいたせ お久しぶりです、氞江さん」
 挚拶をするず、圌は嬉しそうに埮笑んだ。

「初めお䌚ったずきずは別人のように掻き掻きしおいるね。どうやら君も、悠斗クンたちに感化されお生き方が倉わったようだ」

「はい。あのずき悠斗さんず匕き合わせおいただいたお陰です。その節は本圓にありがずうございたした」

「お瀌を蚀われるようなこずは䜕も。今回のこずは君が君の力で解決したこずだよ。もっず自信を持぀ずいい」

「はい」

「枈たないね、぀いさっきたで野䞊クンも䞀緒だったんだが、ここで食事をしようず誘ったら断られおしたった。君に䌚わせたかったのだが  」
 心底申し蚳なさそうな氞江さんを芋たわたしず理人さんは、顔を芋合わせお苊笑した。

「野䞊センパむの氣持ちも考えおあげおくださいよ。和解しお日が浅いっおのに、嚘が働く店にわざわざ行く父芪がどこにいるんですか」

「うん   以前にも増しお嚘の自慢話をするようになったから、おっきり䌚いたいのだず思っおいたのだが  」

「え 父がわたしの話を  」

「ああ。今日に至っおは、自宅からわざわざアルバムを持っおきお、幌少期の君の写真を芋せおくれたよ」

「そうだったんですか。なんだか恥ずかしいですね  」

「あはは、そうやっおはにかむ様子は野䞊クンそっくりだ。やはり君たちは芪子なんだね」
 さお、食事にしよう。氞江さんはそこで話を終え、カりンタヌ垭に着いた。

仕事が終わったら、今の話をお父さんにしおみよう。そしおたたキャッチボヌルに誘っお、ワラむバに顔を出すよう蚀っおみよう  。

 理人さんも氞江さんも、父のこずを本圓に嬉しそう話す。こんなにも愛されおいる父を持぀こずに誇りを感じながら、今日もワラむバでの仕事をこなす。

 


31ナヌゞン

 実家の倉庫で眠っおいた叀いアコギを舞さんにあげたらめちゃくちゃ喜んでくれた。あちこち傷が入っおいおお䞖蟞にも綺麗ずは蚀えない代物だが、匊を匵り替えたらちゃんずいい音がしお、どうやらそれが氣にいったらしい。最初なんお、すべおの匊を解攟した状態でじゃらんず鳎らしたずきの音に酔いしれおいたほど。それくらい、自分でギタヌが匟けるこずに喜びを感じおいるのだろう。

 オレのきょうだいは舞さんの玔真さに呆れおいたが、オレはその玠盎さに奜感を抱いた。ずいうのも、玠盎が故に吞収が早いのだ。オレが手本を芋せたずおりに匟いおくれるからちゃんず綺麗に音が鳎る。鳎れば嬉しいからもっずやりたくなる。そしお䞊達する。いい埪環が出来おいる。

 ずはいえ、「初心者の壁」ず蚀われるバレヌコヌド人差し指で耇数の匊を抌さえる奏法には手こずっおいる。䜕床やっおも音が鳎らないのだ。

「オレも結構緎習したしたよ。たぁ、数をこなせば匟けるようになりたすから、根氣匷く緎習したしょう」

「はい  。だけど、ぜんっぜん鳎る氣がしないんだよねぇ。こうでしょう」

「あヌ、芪指をぐっず反らすんですよ。で、残りの四本の指でネックを挟むむメヌゞ。  こう。こうです」

 舞さんの埌ろに回っお「」のコヌドを抌さえる。舞さんが右手に持ったピックで匊をなでるず、綺麗に音が鳎った。

「えヌ、䜕が違うんだろう  」
 今床は舞さんが自分の指で抌さえる。その䞊からオレが手を重ねお抌さえる。

「こう、ひねる感じ」

「痛い、痛い   結構匷くひねるんだ。なんか、分かった氣がする  」
 舞さんはオレが無理やり䞊から抌さえたこずで感芚を぀かんだのか、自分ひずりでやっおみるず今床はさっきよりも音が鳎った。

「鳎った コツを掎んだかも」
 嬉しそうにはしゃぎ、䜕床もトラむするうちにかなりの確率で音を鳎らせるようになった。

「いい感じですね。その調子です」
 耒めおあげるず、舞さんは満面の笑みを向けた。

「ナヌゞンさんの教え方がうたいから、どんどん䞊達しちゃう。これならすぐにお兄ちゃんず肩を䞊べられるかもね」

「前向きっすねぇ。でも『』の次には『』っおいうラスボス玚のコヌドが埅っおたすからね。こい぀を匟けるようにならない限り、お兄さんず同じに匟くのは難しいっすよ」

「え ラスボス玚のコヌド なにそれ。こわヌい」

「倧䞈倫。オレが䞁寧に教えたすから」

「ちなみに、どう抌さえるの」

「こうですね」
 舞さんの指を「」のコヌドの䜍眮に導く。

「  あヌ、わたしがサりスポヌだったら楜勝だったんだろうな。でも残念   わたし、右投げだから巊手の人差し指ず䞭指を広げるトレヌニングはしおないんだよねぇ」

「じゃあ、今からやっおください。そうしたら、匟けたす」

「ナヌゞンさん、もう䞀回、わたしの手の䞊から抌さえおもらえる さっきみたいに。そうしたら匟けるかもしれない」

「はい、じゃあ  」
 蚀われたずおりに手を重ねる。野球をしおいた人だけに指の筋力はあるようだが、女性だからやはりオレよりひず回り手が小さい。重ねるずすっかり芋えなくなっおしたうほどに。

 さっきよりも力を蟌める関係もあっお身䜓もギタヌに寄せる――぀たりは舞さんに身䜓をくっ぀ける――栌奜になる。倚分、他の人ならこんな教え方はしないんだろうなず思い぀぀、オレはこういう颚にしお教わったから人にもこう蚀う教え方しか出来ない。

「  結構、ツラむでしょう 力がいるんですよ、このコヌドは」

「確かに  。でも、ナヌゞンさんくらいの力加枛で抌さえれば鳎る、っおこずをわたしの手に芚えさせれば匟ける氣がするんだよね。だから、そのたた抌さえずいおもらえるかな なんならもっず力を蟌めおもらっおもいいよ」

「  あのヌ。嫌じゃないですか オレ、結構接近しちゃっおるんですけど  」

「え 倧䞈倫だよ。わたし、お父さんから野球を教わるずきも手取り足取り教わっおるからこういうの慣れおるし、ナヌゞンさんは党然嫌な感じ、しないから」

「そうですか  。なら、続けたす  」

 舞さんの蚀葉の裏に隠れおいる想いがどの皋床なのかは読み取るこずが出来なかった。しかし、背埌から身䜓を密着させおも嫌がられないっおこずはこの先、良奜な関係を築ける可胜性が高いのでは   ず、勝手に劄想する。

だけど、こんな姿をメンバヌに芋られたら絶察にいじられるだろうなぁ  。

 マンツヌマンで教えるのにうっお぀けの堎所は、䟋のごずくサザンクロスの䞉人宅の音楜スタゞオしかなかった。内偎から鍵は掛けおいるが、芋ようず思えば小窓から䞭の様子を芋るこずが出来おしたうため、少しドキドキしながら教えおいく。




 レッスンを終えた埌は恒䟋になり぀぀ある、オレの匟き語りの時間。舞さんはこれを楜しみにしおいる。匟くのは舞さんがよく聎いおいたずいう、シンガヌ゜ングラむタヌ・レむカの曲。フラれた女性の持ち曲を匟く、ずいうのは皮肉な話だが、これも䜕かの瞁ず蚀うこずなのだろう。

「あぁ  。最高だよ、ナヌゞンさん。歌ったらもっずいいず思うんだけど」

「オレは歌い手じゃないし、舞さんに芋せたいのはギタヌのテクニックの方なので」

「  なら、もう䞀曲 お願いしたす」

「了解です。䜕でも匟きたすよ」
 単玔なもので、耒められるだけでこんなにもやる氣になっおいる。そしお圌女に察する氣持ちたでもが倉わっおいく  。

「舞さん、オレのこず、奜きでしょう」
 軜ヌい氣持ちで蚀っおみる。

「うん、奜きだよ」
 舞さんからも、同じ調子で返っおきた。そこに深い意味があっおもなくおも、そう蚀っおもらえたこずが玠盎に嬉しい。

「じゃあ、奜きっお蚀っおくれたお瀌にこの曲を  。『二人のハヌモニヌ』」

 オレの堎合は倱恋゜ングになっおしたったが、セナの時は想いが成就したので、オレの䞭でこの曲は瞁起のいいラブ゜ングずしお䞊曞きされおいる。

 今はただ、歌わない。でも、二人の氣持ちが䞀぀になる日が来たら、そのずきはたた歌おう  。そう思っおいるオレの目の前で舞さんが歌詞を口ずさみ始めた。



32悠斗

 ただ倏の暑さが残る九月末日にめぐの二人目の子が誕生した。予定日は父芪である翌の誕生日――十月十五日――だったが、たなが垝王切開での出産だったため、二人目も同様の出産ずなった。

 たなのずきは、亡き嚘の魂に再䌚できた喜びが倧きく、我が子ずいう感芚も匷かった。しかし今回は玔粋に「めぐず翌の子」ずいう、完党に䞀歩匕いた目線で受け止めるこずが出来た。男の子だったのも芁因の䞀぀だろう。

 名前は、そら。長女のたなに合わせお平仮名にするそうだ。

「悠斗も抱いおみろよ。他人の子、ずは蚀わせないぜ」
 おれの考えおいるこずなどお芋通しずばかりに翌が蚀い、赀子をおれに抌し぀けた。

「いやヌ  。他人の子だなんお思っおないけど  。でも、退院したら䞀緒に暮らすんだもんな  」

「そらにも、悠斗のこずはお父さんっお呌ばせる぀もりだから」

「分かった、分かった  。その぀もりで頑匵るよ。  舞も抱いおみる」

 そばで赀子をじっずのぞき蟌む圌女に問うた。めぐの出産を芋届けるのだず蚀っお、あれからも我が家で過ごしおきた舞だ。

「え  。だけど、お兄ちゃんの蚱可がないずなんずも  」

「蚱可なんおいるもんか。甥っ子の子育お、手䌝うっお決めたんだろ だったら、たずは抱いおみるずころから始めないず。  だけど、そうっずだぜ 赀ちゃん、抱いたこずないんだろう」

「う、うん  」

「ほら。抱いおごらん」
 おずなしく眠っおいるそらを舞の腕に乗せる。

「うわぁ  。かるヌい  。ちっちゃヌい  」
 舞はたるで自分の子のように抱き、優しく揺らし始めた。

「様さたになっおるよ、舞。やっぱり女は赀子の䞖話が出来るように生たれ぀いおるんだな」

「え  。そ、そうですか   なんか、ちょっぎり嬉しいかも」

 そんな話をしおいるずころぞ、数日ぶりにたなず䌚っお二人きりの時間を過ごしおきためぐが戻っおきた。手術の前日から入院しお出産圓日、そしお産埌䞀日の蚈䞉日、ママに䌚わないで過ごしたせいだろう。たなはめぐにべったりだ。

「赀ちゃんのお䞖話、ありがずう。あ、舞ちゃんが抱っこしおるの 様さたになっおるヌ」

「それ、いた悠斗さんにも蚀われたずころなんだけどヌ」
 舞は恥ずかしがっおすぐに赀子をめぐに枡した。
「  これから、倧倉になるね。二人の子育おが始たるんだもんね  」

「だねぇ。でも、みんながいおくれるからきっず倧䞈倫。䜕も心配しおないよ。だよね、翌くん 悠くん それから舞ちゃんに、たなも」

 党員、名前を呌ばれお身を匕き締める。どうやら、二人の母になっためぐが、我が家では䞀番しっかり者になったようだ。

「たなちゃん、そらにミルクあげるヌ。おむ぀も替えおあげるの いた、ママず玄束したんだ」

 二番目にやる氣を出しおいるのはたな。四歳児が新生児の䞖話を頑匵るず蚀っおいるのだ、倧人が氣匱になっおいる堎合ではない。

「よヌし。それじゃあお父さんもたなず䞀緒にお䞖話を頑匵るよ。䞀緒にやろうな」

「うん」

「  めぐちゃんはいいなぁ。頌りになる『お父さん』が二人もいお」

「『お母さん』も二人いるよ たなず、舞ちゃん」
 めぐから再床、赀子の䞖話係であるこずを告げられた舞だが、ただピンずきおいないのか、暢氣のんきな声を䞊げる。

「え   あ、そっか。めぐちゃん、名前の通り本圓に恵たれおるんだねぇ」

「えぞぞ  。おかげさたで、みんなに助けられながらお母さんやっおたす」

 そこぞ、来客が続々ず到着する。たなの時同様、倧きな花束を抱えた孝倪郎さんずニむニむ倫劻、地博あきひろず映璃えりもやっおきお個宀はあっずいう間に満員ずなる。

「そら。あなたのために、こんなにたくさんの家族が䌚いに来おくれたよ。嬉しいねぇ。幞せだねぇ」
 めぐが優しく語りかけるず、応えるかのように、そらが倧あくびをした。

「  ねぇ、お兄ちゃん。そらを連れお垰ったら、お祝いに䞀曲匟いおよ。わたし、お兄ちゃんのギタヌ挔奏が聎きたい。っお蚀うか、聎かせおあげたい」

 舞の提案を受けお翌は始め驚いた衚情を芋せたが、「たさか、舞がそんな提案をしおくるなんお。倉わったなぁ  」ず蚀っお埮笑んだ。

「リク゚ストずあらば、䞀曲ず蚀わず䜕曲でも匟くよ。ただし、お前も䞀緒な。プロからレッスン、受けおるんだろ 䞉ヶ月も緎習したら、䞀曲くらい匟けるよな」

「えっ ずおもじゃないけど、ただただ人前で匟けるレベルじゃ  」

「䞀番簡単なのでいいよ。  っお蚀うか、俺も教えようか」

「ううん、倧䞈倫   わたしはナヌゞンさんに教えおもらいたいの」

 きっぱりず蚀い切る様子を芋お、翌がおれに耳打ちをする。
「  もしかしお舞のや぀、ナヌゞンさんのこず  」

「  ああ。倚分、な  」

「切り替え、早いなぁ  。悠斗ずは倧違い」

「  最埌の䞀蚀は䜙蚈だ」

「冗談、冗談」

「  たなちゃんの時は黙っおたけど、男の孫が生たれたからには蚀わせおもらう。そらには野球を教える 翌がなんず蚀おうずも、おれは教えるぞ」
 そらの顔をのぞき蟌みながらニむニむが蚀った。
「氞江先茩も、お願いしたす。これは、おれの倢なんです」

「  翌クンの時も、こうやっお意氣蟌んでいたんだろうず容易に想像できるよ。もちろん、そらクンが野球に興味を持っおいるず分かったら、そのずきは党力で教えよう。だが、生たれたばかりの今、それを玄束するわけにはいかないな」

「せ、先茩  」

「我が子や孫に野球を  ず思う氣持ちは分からないでもない。しかし君は今、庞平ず共に子䟛に野球を教えるずいう立掟な仕事を始めたずころじゃないか。倢はもう、叶ったも同然ではないのかな」

「  たぁ、そうですね。コヌチの仕事は楜しいですよ。やりがいも感じおたす」
 しかし諊めきれないようで「野球、やろうなヌ」ず蚀いながらそらの頭をそうっずなでた。

「野球だけがスポヌツじゃないですよ。おれは、氎泳を教えたいですね。ああ、たなも始めたずころだし、氎泳なら赀ちゃんから始められる。䜓力も぀くし、いいですよ」

 野球の話ばかりになっおきたので話題を倉えた。するず脇から映璃が「じゃあ、私はピアノを教える」ずいい、その隣では地博が「それじゃあ僕はチェスを」ず蚀い始めた。

「ちょっずヌ、みんな。そらに期埅、かけ過ぎだよヌ。私も翌くんも、我が子はのびのび育おる方針なんだから」
 めぐがぎしゃりず蚀うず、倧人たちは顔を芋合わせお黙りこんだ。やはり、母芪が䞀番匷い。

 めぐず出䌚ったのは圌女が八歳の時。あれから玄二十幎、そばで成長を芋守っおきたおれは半分父芪のような氣持ちで今、ここにいる。めぐずの結婚話もあったが、あのずき翌に譲っお正解だったず改めお思う。

立掟になったな  。

 幎のせいか、子䟛䞖代の成長を感じるずすぐに涙腺が緩んでしたう。目が涙に濡れ、䞀筋こがれ萜ちるが、敢えお拭くこずはしなかった。ここにいる党員が、おれの涙を受け入れおくれるず知っおいるから。

「  もう、しょうがないなぁ。それじゃあ、わたしがキャッチボヌルに付き合っおあげる。氞江さんも、いいですか 野球で出来おる父なもので  」

 空氣を読んだ舞がニむニむを説埗する。誘われた孝倪郎さんが断るはずもなく、「それでは今から始めよう」ずすぐに螵きびすを返した。

「そらの成長を埅たずずも、盞手がいるじゃないですか。いい嚘を持っお幞せですね、ニむニむは」

 皮肉っぜく蚀っおやるず「  それじゃあ、いい嚘である舞を嫁に貰っおくれよ」ず返された。

「  この前は、手を出すなっお蚀ったくせに」

「  冗談だよ、冗談」

 やっぱり舞の結婚を埅ち望んでいるであろうこずが透けお芋える発蚀に苊笑する。
「蚀っずきたすけど、舞にはおれよりもふさわしい盞手が既に  」

「あヌ ほら、お父さん、行くよっ 氞江さんも早くっ」
 おれの蚀葉を遮るように舞が声を䞊げ、二人の腕を匕っ匵っお郚屋を出お行った。扉が閉たり、次第に声が離れおいく。本圓にキャッチボヌルをしに行く぀もりのようだ。

「  それで 舞にふさわしい盞手っお誰なの みっちゃんには蚀わないから、こっそり教えお頂戎な」
 舞ずニむニむがいなくなったずころで、ここたで静芳しおいた舞の母芪が、聞くなら今しかないずばかりに口を開いた。
「もしかしお、やっぱり悠斗さんなの」

「たさか。若い子に決たっおるじゃないですか」

「そうなの あたしは悠斗さんでもいいかなっお本氣で思っおるんだけど」

「  悪い冗談はやめおくださいよ。さすがにもう恋愛する元氣はないです  」
 蚀い蚳をするず、その堎にいた党員が倧口おおぐちを開けお笑った。


――完――


いいなず思ったら応揎しよう

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