【滋賀】「触って、寝そべって、いいの?」大人にこそ行ってほしい滋賀県立美術館「ためして、みる展」で五感をひらく贅沢な時間
さわって、照らして、ねそべって。日常のタブーを剥ぎ取った先に出会う、剥き出しのアート体験。
【約1,400文字、写真15枚|読了目安:約3分】
「静かに、離れて」の約束を忘れる、滋賀県立美術館のへんてこな実験室
想像してほしい。もしも美術館の展示室で、カチリと照明のスイッチを消してしまったら。あるいは、歴史ある作品をこの手で触ってしまったら。
「静かに、触らず、離れて見る」
それがこの世界の、破ってはいけない暗黙の約束だったはずだ。
滋賀県立美術館の「ためして、みる展」は、大人が身につけてきた「行儀の良さ」という窮屈な衣服を、一枚ずつ脱がされていくへんてこな実験室。
日々の役割に追われ、すっかり固くなってしまった身体が、ゆっくりと、しかし確実にほどけていく。

撮影:IRIE ART LOG
1|空間の体験|真っ暗な展示室で懐中電灯を握る、本能が目覚める五感アート
完璧に調光され、埃ひとつない空間に作品が静かに鎮座している。それが私たちの知る美術館の、少し張り詰めた皮膚の感覚だ。
しかし、ここにはそんなすました空気はない。

渡された懐中電灯を握りしめ、一歩、真っ暗な展示室へ足を踏み入れる。
ライトの光線を壁に向けてみる。角喜代則《森の妖精》の、ざらついた表面がぎょっとするほど鮮烈に浮かび上がった。

こちらの展示室は、なんだか薄暗い(「トライ7:光を変えて見る」)。
ボタンを押す。
自分の指先ひとつで、美術品が全く違う表情を見せるという事実に、背筋が心地よく粟立つ。

手元のボタンで光の加減を操作できる

2|作品の鑑賞|畳に寝転ぶ贅沢。双眼鏡でのぞく新しいアートの視点
美術館の床に座り込む。それだけで、なんだか悪いことをしているような、妙な罪悪感がある。ましてや、寝転ぶなんて。
けれど、展示室の真ん中には、畳が堂々と敷かれている。

展示室に突如現れる、い草の匂いがしそうな畳
周囲の目なんて気にするのはやめだ。ごろん、と仰向けになってみる。
背中から伝わる久しぶりの畳、反対側を見上げると、まるで違う作品に惹き寄せられる。

屏風に描かれた、どこか湿った空気。寝そべった身体に染み込んでくるのだが、それが後ろでひゅっと飛ばされる。
大人になってから、こんな風に床から世界を見上げたことがあっただろうか。
起き上がり、今度は双眼鏡で覗き込む。

肉眼で眺めたうえで、レンズの円の中に世界を閉じ込めてみる。
するとどうだ。狭められた細部は、細胞のように熱量をもって生々しく動くではないか(動きはしません)。

離れて全体を見る視線と、細部にまで迫る視線。その二つの間を行き来するたび、私の身体の距離感はぐにゃりと心地よく狂わされていく。
3|思考の深まり|初体験、額縁の重みに触れる。鑑賞者から表現の共犯者へ
美術館が引くロープは、お互いのための結界だ。私たちはいつも、その境界線の外側から、神聖なものを拝むようにしてアートを眺めてきた。
ところが、ここでは椅子に座って本物の作品を、額縁ごともつことが許されている。(「トライ6:座ってじっくり見る」)

美術館に飾られる額縁の重みにビビる
※このコーナーには、触ってダメなものもあります
ずっしりとした、確かな質量。ガラス越しでは決して分からなかった、額縁の後ろ側の構造。手のひらの皮膚を通して、アートの「血通い」が流れ込んでくるようだ。
中身を全部バラして、構造をパズルのように紐解いてみるコーナーもある。

奥には本物のマルセル・デュシャン!
一瞬、「あ、戻せなくなった」と焦るけれど、その困惑すらも、この展示が仕掛けた大人のための遊び心なのだ(ちがうか)。
最後に、写真を撮ろうと「とらいさん」が手をあげている。

ぜひ今井祝雄の彫刻《ヴォワイアン》と同じ椅子に腰を掛けてほしい。

彫刻と同じ並びで椅子に座り、記念撮影できる!
彼らと同じ方向を見つめ、同じ空間の空気を吸う。その時、あなたはただの「見物人」であることをやめ、この奇妙な表現の一部、いわば共犯者になるはずだ。
「ぜったいに やっちゃ ダメ」という禁止の壁を超えるたび、私はアートを、あるいは自分自身の瑞々しい身体の感覚を、少しずつ取り戻していく。

アンディ・ウォーホルに奥村土牛、壁の奥にはマーク・ロスコもあるんですよ👀✨️
あなたも、滋賀の静かな緑の中で、「とらいさん」と一緒に身体を揺らしてみてはどうだろう。
たまには日常の荷物を下ろして、へんてこな、けれど愛おしい自分に出会うのも、悪くない。
インフォメーション
企画展「ためして、みる展 さわって 照らして ねそべって!? アートを楽しむ 10 のトライ」
会期: 2026年4月17日(金)~6月21日(日)
会場: 滋賀県立美術館 展示室3(滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1)
開場時間: 9:30~17:00(入場は16:30まで)
休館日: 毎週月曜日
観覧料: 一般 950円、高大生 600円、小中生 400円(※未就学児は無料)
おしゃべりのすすめ(美術館公式より)
小さなお子さんがいる、障害があるなど、何らかの理由で来館を迷っている方へ
滋賀県立美術館では、展示室でもしーんと静かにする必要はなく、おしゃべりしながら過ごしていただけます。また、目が見えない、見えづらいなどの理由でサポートや展示解説をご希望される場合や、その他、ご来館にあたっての不安をあらかじめお伝えいただいた際には、事前の情報提供や当日のサポートのご希望に、可能な範囲で対応します。
この展覧会では、驚いた声も、楽し気なおしゃべりも、大切なBGM。
誰もが肩の力を抜いて、美術館へ身も心も動かしに行きましょう♫
【次回の予告】
来週は京都・松尾大社へ。 昭和の作庭家・重森三玲が刻んだ「永遠のモダン」にひたります。
(毎週水曜更新)
※この記事は、美術館の特別な許可を得て取材・撮影したものです。
※掲載画像の転載・二次利用はご遠慮ください。
取材・文・写真:入江玄(IRIE ART LOG)
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援をお願いします! いただいたチップは、全額を取材の費用にあてさせていただきます。