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京都・ウサギノネドコで出会う「陶の虫たち」。忙しない日常を忘れて、呼吸をひそめる理科室へ

【京都・西大路御池】ウサギノネドコ京都店
奥村巴菜 個展「陶の虫たち」訪問記


【約800文字、写真10枚|読了目安:約2分】


 のれんをくぐると、そこは湿り気のある理科室のようだった。
 繊細なガラスや標本に囲まれた土間は、ひんやりと心地よい。
 時間を止められた標本たちの、寝息が聞こえてきそうな沈黙。ミセからギャラリーへ。私の静かな呼吸が、作品にあたる。




1|京都の隠れ家「ウサギノネドコ」で、大人の呼吸を縛る標本たちの静寂

 地下鉄「西大路御池駅」から2分ほど歩いたところにある、京町家の端正な佇まい。その小窓からのぞくのは、科学チックな鉱物の欠片や、時間を止められた生物たちだ。
 引き戸を開け、土間へ一歩足を踏み入れた瞬間、私は無意識に鞄を持ち直していた。お行儀のいい大人を気取っていても、身体は正直だ。

ウサギノネドコ京都店 前面道路より 
撮影:IRIE ART LOG

 ひんやりとした土間、秘密の洞穴のような心地よさ。ここは何度も通った、大好きなウサギノネドコの店内である。
 けれど、いつ来ても肩に微かな力が入る。棚に並ぶのは、触れればパリンと砕けそうな、世界の壊れものばかりだからだ。
 家事や仕事に追われ、がさつに擦り減った日常のままでは、危うい。

ウサギノネドコ京都店 店内の様子

 入りすぎた力を抜くように、そっと深く息を吐き出す。
 ふー、すっと見上げれば、欄間にかけられたガラス作家・佐々木類さんの作品に、また視線が吸い寄せられた。
 透明な硝子のなかに、植物が繰り返した呼吸そのものが固定されている。

佐々木類《Subtle Intimacy》(部分) 2013年 瀬戸内国際芸術祭展示作品

 ダミアン・ハーストが提示する、あの触れば指の切れそうな冷徹なホルマリン漬けとは、まるで違う。
 この欄間からは、かつてそこにあった「命の温かさ」と、いま通り抜けたような「涼やかな風」を感じるのだ。

 あー、気持ちいいー🎐

 もちろん、すべてはピクリとも動いてはいないのだけれど。


2|2階のギャラリーへ:手びねりの歪みが放つ、ゾクッとする「命の気配」

 ミセの心地よい緊張感を身体に残したまま、階段を上がって2階のギャラリーへ向かう。
 陶芸作家・奥村巴菜さんの造形作品「陶虫(とうちゅう)」と対峙した瞬間、思わず心の中で呟いた。
 
(でかっ……!)

ウサギノネドコ京都店 ギャラリー
奥村巴菜「陶の虫たち」展示風景

 勝手に手のひらサイズの昆虫を想像していたのだから、現金なものである。
 奥村巴菜《テツビンツノゼミ》がひとたび鳴き始めれば、鉄瓶を沸かしたような音がするのだろうか。それとも、小枝で鉄を連続して叩くような音だろうか。
 粘土を紐状にして積み上げる「手びねり」という技法で作られたその背は、無骨で硬質だ。

奥村巴菜《テツビンツノゼミ》

 目の前にいるのは、現実の構造をベースにしながらも、作家の瑞々しい想像力で肥大化したクリーチャーたち。
 もしも今、これがカサリとでも動いたら、私は確実にやられる。

奥村巴菜《テングビワハゴロモ様とヤモリ》

 落とせば粉々に壊れてしまう陶器への緊張感。それは、生身の昆虫を手に乗せたとき、力を入れすぎれば潰してしまうという、あの加害の恐怖と完全にベクトルが一致する。

 壊れやすいものほど、どうしてこうも人を惹きつけるのだろう。

ウサギノネドコ京都店 ギャラリー
奥村巴菜「陶の虫たち」展示風景

 じっと見つめていると、不思議なことに、その異形たちがだんだんと愛らしく思えてくる。

 実際のセミは苦手なのに、ヤモリは大好きな自分。
 人間の好き嫌いなんて、つくづく身勝手で曖昧なものだ。私はしばらく、硬い土に宿った命の温もりに包まれていた。


インフォメーション

奥村巴菜 個展「陶の虫たち」
期間
:2026年4月24日(金)〜6月16日(火)
場所:ウサギノネドコ京都店 ギャラリー(カフェ2階)
住所:京都市中京区西ノ京南原町37
休業日:水・木(※祝日は営業)
営業時間
 ミセ:11:30〜17:30(土日祝 11:00〜18:00)
 ギャラリー・カフェ:12:00〜18:00 L.O.17:00(土日祝 11:30〜18:30 L.O.17:30

個展特設ページ(ウサギノネドコ公式):

奥村巴菜さん note:


おまけ

 ギャラリーを出た後も、指先から肩にかけて昆虫と対峙したときのあの特有の強張りが残っていた。
 もう一度1階のミセに戻り、買う気も無いのに隅々まで空間を巡ってしまう。

ウサギノネドコ京都店 店内奥の様子

 青々と茂る奥のお庭のシダ植物の陰から、いまにも何かが這い出してきそうな気配を感じた。

ウサギノネドコ京都店 庭

 忙しない日々のなかで、何かに心を奪われる時間は、贅沢なものかもしれない。
 たとえ、それがキッチンで唐突に出会った虫であっても。

 いや、やっぱりそれは困るな。


【次回の予告】

来週は、琵琶湖の風に誘われて滋賀県立美術館「ためして、みる展」へ。 「さわって 照らして ねそべって!?」 なんて言われたら、じっとしていられない。アートを全身で体験してきます。
(毎週水曜更新)

※掲載画像の転載・二次利用はご遠慮ください。

取材・文・写真:入江玄(IRIE ART LOG)


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