原研哉『DRAW』原画展|京都dddギャラリーで体験する「思考の立ち読み」|IRIE ART LOG
【約900文字、写真8枚|読了目安:約2分】
京都・四条烏丸。湿り気を帯びた街の匂いを背に、COCON烏丸の3階へ上がる。
ガラスの扉を開けた瞬間、私は「鑑賞者」という上着を脱ぎ捨て、一人の「読者」に、なりおおせる。
耳をかすめるのは、原研哉さんの声。それは、主人のいない書斎でつけっぱなしにされたラジオのように、心地よい密度でそこに在る。
視線の先には、波打つようにうねる細長いパネル。開かれた思考の断片。私は今、巨大な「本」のお腹の中に迷い込んでしまったのだ。

1, 「立ち読み」それは、音と歩調のシンクロ

波打つパネルに沿って、ゆっくりと、自分の身体を運んでみる。
ページをめくる代わりに、自分の足で次の行を、次の線をたぐり寄せる。書店では許されない、この「歩く立ち読み」のなんと軽やかなこと。

会場を満たす原さんの声は、言葉というよりは、上質な紙が擦れる音に近い。モノクロームの空間に、思考の粒がしんしんと降り積もる。
ここは、完成された「正解」を陳列する場所ではない。原研哉という一人の人間が、今この瞬間も鉛筆を動かし、微笑みながら書き足している――そんな優しい気配が、書斎の残り香のように漂っているのだ。

2, 本質を捕まえる手つき

ふと、見慣れた「無印良品」の文字に足が止まる。私たちの生活に溶け込んだあの清潔な静寂は、ここが源流だったのか。
丁寧に、けれど執拗に重ねられた鉛筆の黒鉛が、指先にまで移りそうなほどに。

大仏を、掃除している。
添えられた「気持ちいいのはなぜだろう。」という言葉。筆圧に迷いは感じられないが、その視点の跳躍には驚かされる。
デザインが「形」として固まる前の、ぷくぷくとした呼吸。それは長大な絵巻物のようでもあり、あるいは子供の頃に夢中になった漫画のようでもある。
大人の顔をして、私たちはその「動く思考」にワクワクさせられてしまうのだ。
3, 日常へ持ち帰るもの

展示の終わり、不思議な静けさが胸に落ちる。いつもなら「帰りに何か買って帰ろうかな」と物欲が顔を出すのに、今日は少し様子が違う。
本質を捕まえようとする線の執念が、私の懐にまで乗り移っている。

「そもそも、耳ってこんな形だったか」
見終わったあと、四条烏丸の景色は、さっきまでとは少し違って見える。道ゆく人の耳のカーブ、街路樹の揺れ、誰かが提げている無印良品の紙袋。
すべてが、まだ描かれる前の「デザインの種」を孕んでいるように思えてくる。
今日は、冬に使ったコートを無印の紙袋に詰めて、クリーニングに出そう。紙袋のガサつく音と、独特の匂い。そんな清々しい再体験を、私は持ち帰った。
【展覧会情報】
原画展 DRAW―原研哉は描いている
会期:2026年4月4日(土)〜6月3日(水)
会場:京都dddギャラリー(COCON烏丸3F)
時間:11:00〜19:00(土日祝は18:00まで)
休館日:月曜日(※5/4は開館)、4/30、5/7
入場料:無料
【次回予告】
次回は「ガウディ没後100年公式事業 NAKED meets ガウディ展」を訪れます。
(毎週水曜更新)
※掲載画像の転載・二次利用はご遠慮ください。
取材・文・写真:入江玄(IRIE ART LOG)
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