大山崎山荘美術館でモネ《睡蓮》を見たあと、私が欲しくなったのは1客のコーヒーカップだった
「モネを見に行こう」
夏休み、家族4人でアサヒグループ大山崎山荘美術館へ。
絵画が好きな娘と、建築や造形が好きな息子。親としては「子どもたちに本物のアートを」と言いたいところだが、私にはもうひとつ目的があった。
美術館という名の別荘で、おいしいコーヒーを飲みたい。
できれば限定ケーキも。
ところが、この日いちばん心に残ったのは、モネでもケーキでもない。喫茶室のコーヒーカップだった。
1|地中の静寂から、庭のうさぎへ

撮影:IRIE ART LOG
本館「大山崎山荘」から地下へ続く通路を進む。
ひんやりしたコンクリートの空気が、夏の湿った肌をさらりとなでる。
安藤忠雄氏設計の展示室「地中の宝石箱」。
そこに、モネの《睡蓮》が浮かんでいる。

地下は、静かで、時間の流れまでゆっくりになる。
大山崎山荘美術館所蔵のモネ全8点は、第1期と第2期に分けて展示され、10年ぶりにすべての作品を見る機会が設けられている。
けれど、階段を上って庭園へ出た瞬間、身体は一気にほどける。
光。
風。
濃い緑の匂い。
そして芝生の向こうには、バリー・フラナガンのうさぎ。

モネの静けさのあとに、こちらは芝生で思いきり身体を伸ばしている。
いいなあ。
スニーカーだし、私も走りたい。
46歳なので、走らないけれど。
2|「あれ、このカップ、好きだ」
庭を歩き終え、いよいよ喫茶室へ。

しかし、展覧会限定の特製スイーツ「ガトー・ヴェール・ヴェール」は、15時の時点ですでに売り切れ。
無念。
で、コーヒーとショートブレッドを注文した。

そして、カップを口元へ運んだ瞬間だった。
「……あれ?」
唇に触れる縁(ふち)が、すっとなじむ。
厚すぎない。
薄すぎない。
右手に持った重さとバランスも、ちょうどいい。私は100円ショップのマグカップも使うし、高級食器を使う機会もゼロではない。
だからこそ、この感覚には驚いた。
「これ、好きだ」
頭で考えるより先に、身体がそう言っている。
丁寧にカップの底を返す。
そこには、
WEDGWOOD CORNUCOPIA
の文字。
……ウェッジウッド!?
3|美術館から、暮らしへ持ち帰るもの
この日、展示室で河井寬次郎と濱田庄司の作品も見た。
※この展示は、9月6日をもって終了しています。

展示された器を見たあとだったからだろうか。ウェッジウッドのカップの重さや、唇に触れる感触が、妙に気になった。
アートは、目で見るものだけではない。
手で感じる。
唇で感じる。
そして「傍にいてくれたら、ステキだな」と思う。

美術館を出るころには、私はもう決めていた。
「いつか、あのカップを我が家に迎えよう」
モネの《睡蓮》は持って帰れない。
安藤忠雄氏の地中館も、庭のウサギも持って帰れない。
でも、あそこで感じた「心地よさ」なら、暮らしの中へ持ち帰ることができる。
この日、大山崎山荘美術館から私が持ち帰ったのは、1客のコーヒーカップへの宿題だった。
……次こそは、限定ケーキも食べたい。
そして、いつかあのカップで。
【展覧会インフォメーション】
開館30周年記念・没後100年 クロード・モネ展
2026年3月20日(金・祝)〜2027年4月11日(日)
※第1期:2026年3月20日〜9月6日
※第2期:2026年9月19日〜2027年4月11日
会場: アサヒグループ大山崎山荘美術館
開館時間: 10:00〜17:00(最終入館16:30)
入館料: 一般1,500円/高大生700円/中学生以下無料
次回の予告
次回は、京都dddギャラリーで開催中の第253回企画展「アラン・キッチング:活版印刷の生ける遺産」を訪れます。(毎週水曜更新)
※掲載画像の転載・二次利用はご遠慮ください。
取材・文・写真:入江玄(#IRIE_ART_LOG)
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