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大山崎山荘美術館でモネ《睡蓮》を見たあと、私が欲しくなったのは1客のコーヒーカップだった

 「モネを見に行こう」
 夏休み、家族4人でアサヒグループ大山崎山荘美術館へ。
 絵画が好きな娘と、建築や造形が好きな息子。親としては「子どもたちに本物のアートを」と言いたいところだが、私にはもうひとつ目的があった。
 美術館という名の別荘で、おいしいコーヒーを飲みたい。
 できれば限定ケーキも。
 ところが、この日いちばん心に残ったのは、モネでもケーキでもない。喫茶室のコーヒーカップだった。


1|地中の静寂から、庭のうさぎへ

アサヒグループ大山崎山荘美術館の入口手前にあるトンネル「琅玕洞(ろうかんどう)」
撮影:IRIE ART LOG

 本館「大山崎山荘」から地下へ続く通路を進む。
 ひんやりしたコンクリートの空気が、夏の湿った肌をさらりとなでる。
 安藤忠雄氏設計の展示室「地中の宝石箱」。
 そこに、モネの《睡蓮》が浮かんでいる。

モネの《睡蓮》が展示される「地中の宝石箱」(地中館)。手前の池にも睡蓮が浮かぶ

 地下は、静かで、時間の流れまでゆっくりになる。
 大山崎山荘美術館所蔵のモネ全8点は、第1期と第2期に分けて展示され、10年ぶりにすべての作品を見る機会が設けられている。
 けれど、階段を上って庭園へ出た瞬間、身体は一気にほどける。
 光。
 風。
 濃い緑の匂い。
 そして芝生の向こうには、バリー・フラナガンのうさぎ。

バリー・フラナガン《ボールをつかむ鉤爪の上の野兎》1989/90年

 モネの静けさのあとに、こちらは芝生で思いきり身体を伸ばしている。
 いいなあ。
 スニーカーだし、私も走りたい。
 46歳なので、走らないけれど。

2|「あれ、このカップ、好きだ」

 庭を歩き終え、いよいよ喫茶室へ。

喫茶室のベランダから遠くを眺める息子

 しかし、展覧会限定の特製スイーツ「ガトー・ヴェール・ヴェール」は、15時の時点ですでに売り切れ。
 無念。
 で、コーヒーとショートブレッドを注文した。

喫茶室でいただいた コーヒー(ホット)¥650(税込)​と、WALKER'Sショートブレッド(40g) ¥350(税込)​

 そして、カップを口元へ運んだ瞬間だった。
 「……あれ?」
 唇に触れる縁(ふち)が、すっとなじむ。
 厚すぎない。
 薄すぎない。
 右手に持った重さとバランスも、ちょうどいい。私は100円ショップのマグカップも使うし、高級食器を使う機会もゼロではない。
 だからこそ、この感覚には驚いた。
 「これ、好きだ」
 頭で考えるより先に、身体がそう言っている。
 丁寧にカップの底を返す。
 そこには、
 WEDGWOOD CORNUCOPIA
 の文字。
 ……ウェッジウッド!?

3|美術館から、暮らしへ持ち帰るもの

 この日、展示室で河井寬次郎と濱田庄司の作品も見た。
 ※この展示は、9月6日をもって終了しています。

本館の廊下と睡蓮の池。この奥で「共鳴 河井寬次郎×濱田庄司 ―山本爲三郎コレクションより」が開催されていた

 展示された器を見たあとだったからだろうか。ウェッジウッドのカップの重さや、唇に触れる感触が、妙に気になった。
 アートは、目で見るものだけではない。
 手で感じる。
 唇で感じる。
 そして「傍にいてくれたら、ステキだな」と思う。

大山崎山荘美術館の庭園池に浮かぶ睡蓮

 美術館を出るころには、私はもう決めていた。
 「いつか、あのカップを我が家に迎えよう」
 モネの《睡蓮》は持って帰れない。
 安藤忠雄氏の地中館も、庭のウサギも持って帰れない。
 でも、あそこで感じた「心地よさ」なら、暮らしの中へ持ち帰ることができる。
 この日、大山崎山荘美術館から私が持ち帰ったのは、1客のコーヒーカップへの宿題だった。
 ……次こそは、限定ケーキも食べたい。
 そして、いつかあのカップで。


【展覧会インフォメーション】

開館30周年記念・没後100年 クロード・モネ展
2026年3月20日(金・祝)〜2027年4月11日(日)
※第1期:2026年3月20日〜9月6日
※第2期:2026年9月19日〜2027年4月11日

会場: アサヒグループ大山崎山荘美術館
開館時間: 10:00〜17:00(最終入館16:30)
入館料: 一般1,500円/高大生700円/中学生以下無料


次回の予告

次回は、京都dddギャラリーで開催中の第253回企画展「アラン・キッチング:活版印刷の生ける遺産」を訪れます。(毎週水曜更新)

※掲載画像の転載・二次利用はご遠慮ください。
取材・文・写真:入江玄(#IRIE_ART_LOG)


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