【知財経営・マーケティング・ブランディング】売れる営業ほど会社を弱くする──その矛盾が利益を奪い続ける理由
売れる営業ほど会社を弱くする──その矛盾が利益を奪い続ける理由
目次
なぜ「優秀な営業」が会社を弱くするのか
本当の問題は「営業力」ではない
知的財産として営業力を会社に残す
「特許・秘密・ブランド」を使い分ける
今日から始められる5つの取り組み
まとめ──売れる人を増やすのではなく、売れる会社をつくる
1.なぜ「優秀な営業」が会社を弱くするのか
「うちの会社は営業のAさんがいれば大丈夫」。
一見すると、頼もしい話です。
しかし、経営の視点から見ると、少し危険です。
Aさんだけが、お客様の本当の悩みを知っている。
Aさんだけが、どの順番で商品を説明すれば売れるのか知っている。
Aさんだけが、値引きしてよい限界を知っている。
Aさんだけが、重要な顧客との人間関係を持っている。
この状態では、会社が強いのではありません。
「Aさん個人が強い」のです。
そのため、Aさんが退職したり、病気になったり、別の会社に移ったりすると、売上だけでなく、顧客情報、営業ノウハウ、提案方法まで一緒に失われることがあります。
つまり、売れる営業がいることと、売れる会社であることは別問題です。
2.本当の問題は「営業力」ではない
ここで重要になるのが「知的財産」です。
知的財産というと、特許や商標を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし会社には、もっと幅広い「目に見えにくい強み」があります。
たとえば、
・お客様が購入を決める理由
・営業担当者が使っている提案資料
・成約率の高い説明の順番
・顧客ごとのニーズや対応履歴
・商品の開発ノウハウ
・会社独自のサービス方法
・会社名や商品名、ロゴなどのブランド
こうしたものも会社の重要な資産です。
中小企業庁も、知的資産には人材、技術、ノウハウ、顧客情報、取引先との人脈、知的財産権などが含まれると説明しています。さらに、知的資産を活用して業績向上につなげる経営を「知的資産経営」としています。
つまり、優秀な営業担当者の「頭の中」にあるものを、できるだけ会社の仕組みに変えていくことが重要です。
3.知的財産として営業力を会社に残す
まず行いたいのは、「営業担当者が何を知っているのか」を見えるようにすることです。
例えば、トップ営業に次の質問をします。
「なぜ、このお客様は買ってくれたのですか?」
「最初に何を聞きましたか?」
「どんな説明をすると反応が変わりましたか?」
「競合ではなく、なぜ自社を選んでもらえたのですか?」
「失注するときには、どんな共通点がありますか?」
こうして得られた情報を、営業マニュアル、提案書、研修教材、顧客対応ルールなどに整理します。
大切なのは、単に「マニュアルを作る」ことではありません。
個人の経験を、会社が何度でも使える資産に変えることです。
そして、その情報の中には、外部に知られたくない重要な情報が含まれることがあります。
経済産業省によれば、不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるには、原則として「有用性」「秘密管理性」「非公知性」の3つの要件を満たす必要があります。単に「社内では秘密だと思っている」だけでは十分とは限りません。
そのため、重要な営業ノウハウについては、情報の範囲を決め、アクセスできる人を限定する、秘密であることを分かるように表示する、社内ルールを整える、といった管理が必要です。経済産業省も「営業秘密管理指針」を公表しています。
4.「特許・秘密・ブランド」を使い分ける
営業力を会社の資産にするとき、すべてを特許にする必要はありません。
むしろ、何を公開し、何を秘密にし、何をブランドとして育てるのかを考えることが重要です。
例えば、新しい技術や仕組みであれば、特許による保護を検討できます。
一方、営業の成功パターンや顧客対応のノウハウなど、公開したくない情報は、条件を満たすなら営業秘密として管理する方法があります。
また、商品名、サービス名、会社名など、お客様に覚えてもらいたいものは商標によってブランドを守ることを検討できます。
特に特許では、出願した内容は原則として出願日から1年6か月後に公開されます。そのため、「特許にするのが正解」とは限らず、秘密として守る方がよい技術もあります。
ここに知財戦略の面白さがあります。
守る方法を一つに決めるのではなく、会社の利益につながる方法を選ぶのです。
5.今日から始められる5つの取り組み
まず、自社の「トップ営業しか知らないこと」を10個書き出してください。
次に、それぞれについて、
「会社の共有資産にできるか」
「外部に知られてはいけないか」
「特許などの権利を検討すべきか」
「ブランドとして育てるべきか」
を考えます。
そして、重要なものから次の仕組みに変えていきます。
①個人の経験 → 営業ノウハウとして整理する
②営業ノウハウ → マニュアル・教育・仕組みにする
③重要情報 → 秘密管理のルールをつくる
④技術・仕組み → 特許などの権利化を検討する
⑤商品名・サービス名 → ブランドとして管理する
これを営業部だけで行うのではなく、経営者、営業、開発、総務・法務、知財担当などが一緒に考えることが重要です。
特許庁も、知財部門と経営層が連携し、知財を企業価値向上につなげる「知財経営」の実践を紹介しています。
6.まとめ──売れる人を増やすのではなく、売れる会社をつくる
優秀な営業担当者は、会社にとって大切な存在です。
しかし、本当に強い会社は、
「この人がいないと売れない会社」
ではありません。
「この人が持っている強みを、会社全体で再現できる会社」です。
営業担当者が身につけた経験。
顧客との信頼関係。
売れる提案方法。
商品を選ばれる理由。
開発された技術。
会社や商品への信用。
これらは、すべて会社の「見えない財産」になり得ます。
だからこそ、知的財産は「特許を取る仕事」だけではありません。
営業の強さを、会社の強さへ変える。
これも知財を経営に活かす重要な仕事です。
「売れる営業」を育てるだけでなく、
「売れる営業がいなくなっても強い会社」をつくる。
そこまで考えて初めて、営業力は一時的な売上ではなく、将来の利益を生み続ける会社の資産になります。
※本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案について法的判断を示すものではありません。営業秘密該当性や特許・商標による保護の可否は、具体的な情報の内容、管理状況、出願内容などによって異なります。
