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「治せる老化を、放置するな」――リスク因子としての「老化」

「老化が治るとしたら、私たちの未来はどう変わるのか」

これまでのnoteでは、「老化は治る」とするジェロサイエンスの世界観を紹介してきました。
今回は、もしその仮説が現実になったら、私たちの生活や社会がどうなるか。

そして、その未来はどこまで確からしいのか。
期待と限界の両面から、解説していきます。


■ その高血圧、老化が原因かもしれない

「血圧が、少し高いですね」
健康診断で、そんな言葉を耳にしたこともあるでしょう。

自分自身に問題がなくとも。
家族や友人、テレビや週刊誌などで。

「高血圧」という病気は、それだけ身近なもの。

しかしながら、この高血圧。
別名、サイレントキラーとも呼ばれ、甘くみてはいけません。

私たちが気付かぬうちに、水面下で血管にダメージを与え続けているのです。
そして、いよいよという段階で、脳や心臓に大きなトラブルを引き起こす訳です。

この様な、将来の病気を引き起こすリスクを高める要素は、専門的に『リスク因子』と呼ばれています。

「高血圧は、心筋梗塞や脳卒中のリスク因子」
「塩分過多や肥満、喫煙は、高血圧のリスク因子」

という具合です。

「老化は治る」とするジェロサイエンスに、このリスク因子という考え方を当てはめてみると――

「老化は、高血圧のリスク因子」
とも言えるのではないでしょうか。

■ 老化は、病気の「原因」へ

この考え方は、なにも高血圧に限りません。
実は、医学の歴史における一大転換点は、既に起きています。

2019年、WHO(世界保健機関)で国際疾病分類第11版「ICD-11」が採択されました。その中には、

XT9T = Ageing-related(老化関連)

という拡張コードが登場するのです。

病気そのものを意味するメインコードではありません。
そうではなく、様々な病気の原因を意味する、コーザルコード(Causal Code)の区分に登録されています。

すなわち――

Ageing-related Hypertension(加齢に伴って発症した高血圧)
という表現が、医学の世界において市民権を得たことを意味しています。

そうであるならば、高血圧の原因である「老化」に対しても、治療法が期待されるのは自然な流れです。

塩分過多に対しては、食事の工夫が。
喫煙に対しては、禁煙の指導が。

では、老化に対しては、どのような取り組みが良いのでしょうか。

この問いに、真正面から向き合っているのが、ジェロサイエンスという学問なのです。

■ 老化は、二重の意味で、特別なリスク因子

改めて、「老化」をリスク因子として評価してみましょう。
他のリスク因子と比較して、二重の意味で特別であることが分かります。

一つは、そのカバー範囲の広さ。
老化が関係しない臓器はありません。心臓や腎臓、脳や骨など、さまざまな病気に影響しています。

もう一つは、そのインパクトの大きさ。
喫煙によって、肺がんのリスクは約5倍程度に高まるとされていますが。
老化による影響は、それ以上であることは、直感的にも明らかです。

これを、真正面から裏付けるデータが存在します。

■ 92疾患、51.3%の衝撃

公衆衛生の領域では、GBD(Global Burden of Disease)と呼ばれる世界規模のデータが整備されています。

そこでは、病気や早すぎる死によってどれくらい「健康な年月」が失われたのか、そして、その原因が何で、どれくらい関連が深いのか、などを調べることが出来ます。

例えば、私個人に当てはめた場合――

「統計データによると、失われる健康寿命を10年として。そのうちの4年分は、高血圧によるもの。2年分は喫煙によるもの。そうすると、生活習慣で6年分、6割がたは改善できる可能性があるのだな。」

「同じリスクといっても、高血圧は、関連する病気の種類は少ないけど、一つ一つのインパクトが大きいのか。確かに、心筋梗塞とか脳卒中とかは致命的になり得るしな。一方で、喫煙は、こんなにもカバー範囲が広いのか。他にも、PM2.5とかも、世界的にはこんなに有害なのだな。」

などと解釈できる訳です。

ここに、「老化」を「リスク因子」として評価する動きが重なります。

2019年、医学界における一流雑誌『Lancet Public Health』に、GBDのデータを用いた論文が掲載されました。

25歳以上の成人を対象に、「失われた健康寿命」の51.3%に「老化」が関係していると記載があります。そして、関連する疾患数――92疾患。

■ 専門性を超えて

現代医学は、細かく分類し、その特定の領域での専門性を高めることで発展してきました。
多くの命が救われてきたからこそ、次の課題が現れます。

それは、身体の仕組み、病気の不具合は、単一の専門性だけでは解決しきれないこと。

心臓のことを考えると、血圧は出来るだけ下げたい。
でも、血圧を下げ過ぎると、脳や腎臓には良くない。
現実的な落としどころ、バランスはどうだろうか。

と言った具体に。

この様に、単一臓器での部分最適ではなく、身体全体での最適化を目指すのが、老年医学として発展してきました。

これに加えて、ジェロサイエンスが照らすものは――老化そのものを治療出来たとしたら、心臓にも腎臓にも、ありとあらゆる臓器にとって、良いだろう、という可能性です。

なればこそ、ジェロサイエンスがますます発展するこれからの時代、患者の方も、医師も、ジェロサイエンスを無視することは出来ないと思うのです。

■ 治せる老化を、放置するな

ジェロサイエンスが、人類の全てを救うとは言えません。
老化には、「治せる老化」と「治せない老化」があると考えています。

ですが、「治せる老化」の範囲は、今後ますます広がる一方です。少なくとも、今より後退することはないと考えます。

そうであるならば。

「治せる老化」はさっさと治しておく。
これこそが、最も合理的な選択になるのではないでしょうか。

医療現場においては――

内科領域で、全体最適の結果、使用する薬剤を減らしたり。
外科領域で、手術が可能な状態にまで、予備能力を回復させたり。

社会生活においては――

個人個人は、キャリア選択や生命保険などのライフプランが変わったり。
社会全体は、公共サービスや新しい市場の整備がなされたり。

世界は、このような方向性に進んでいくと考えています。

今回の記事は以上です。
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どうぞよろしくお願いします。

銀座アイグラッドクリニック
院長 乾 雅人


主な参考文献

  • World Health Organization. ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics; XT9T Ageing-related.

  • Chang AY, et al. Measuring population ageing: an analysis of the Global Burden of Disease Study 2017. Lancet Public Health. 2019;4:e159-e167. DOI: 10.1016/S2468-2667(19)30019-2

  • Tchkonia T, et al. NIA Translational Geroscience Network: An infrastructure to facilitate geroscience-guided clinical trials. J Am Geriatr Soc. 2024;72:1605-1607. DOI: 10.1111/jgs.18901


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