鎌倉にもアルプスがあるそうだ|鎌倉・逗子
私は北アルプスとか南アルプスという表現は嫌いだ。本家アルプスに申し訳ない。それに飛騨山脈と赤石山脈という立派な名前があるではないか。
鎌倉アルプス? 不遜の極みだ。しかし、そんな大きな名前を背負って大丈夫か? 厚顔無恥って言われないか? 好き嫌いを通り越して、ちょっと興味があった。

山に行きたい、でも遠いのは嫌だ
今から10年前の秋、2016年10月だった。20年ぶりに会う仲間と横浜で飲んでいた。そのうちのひとりは、海外旅行好きのアクティブな主婦だ。最近は登山にはまっているそうだ。20年前、4人でアメリカ西海岸をレンタカーで旅したときの仲間だった。
「こんど、みんなで山に行きたいね」との申し出に、正直面倒だと思いつつ、近くなら行ってもいいかと思った。横須賀在住の山男が、それなら「鎌倉アルプス」がいいんじゃないかと提案した。
と、いうわけで11月3日、北鎌倉駅で集合することになった。アルプスに相応しい恰好で.……そんなわけない。
情緒あふれる北鎌倉駅からスタート
横須賀線の鎌倉駅はいかにも観光地といった貫禄のある駅だが、となりの北鎌倉駅はまるでローカル線の小さな駅のような風情がある。珍しくなった構内踏切が残っている。

この駅は円覚寺の参道に面していて、景観にも配慮されていると聞く。そのために懐かしい風情が今でも残ってる。私は、皆と合流する前にひとりでこの駅を撮影していた。
今日の面子は、私の鉄道趣味を理解してくれる仲間ではない。
さて、仲間と合流して建長寺に向かう。ここが鎌倉アルプスと言われる天園ハイキングコースの入口だ。お寺の裏手から山を登り鎌倉最高峰の大平山の山頂を目指す。

気軽に登れる山道という事で、この日はハイカーで賑わっていた。最初は馬鹿にしていたが、本格的な山道の雰囲気もある。鎖場の写真を切り取れば、ロッククライミングしているようにも見えないこともない。

稜線に立って下界を見下ろしてみる。鬱蒼とした森林の向こうに山寺や相模湾が見え、反対側には横浜の高層ビルも遠くに見えた。
揺れるススキの向こうに広がる景色を眺めていると、ここは山なんだと実感することができる。

ん……何か違和感のある、だけど既聴感のあるメロディが聞こえてきた。
「左を見ちゃいけない」と山男に言われた。
すぐ横に住宅街が広がっていた。音の主は灯油の移動販売車だった。
見たいものだけを見て、感じたいものだけを感じて、ここはアルプスと納得して下山した。

下山すると瑞泉寺に出た。山男は「もう動けない」と、道端にしゃがみ込んでしまった。さすがアルプス、簡単な山ではない...…?

そんな鎌倉アルプスであった。私は面白がって、アルプス、アルプスと連呼しているが、天園ハイキングコースという名称の方が一般的だ。そして天園って、天国を連想させて素敵な名前だと思う。
漁村の雰囲気が漂う逗子
瑞泉寺を拝観して、まるで天国にいるような癒しを感じた。しかし現世の人間なので腹が減ってきた。漁村の雰囲気を味わいたかったので、逗子方面に向かった。

私は逗子とか葉山という言葉に憧れている。御用邸があるからかもしれないが、別荘地のような響きを感じるのだ。どうせご飯を食べるなら逗子がよかった。
小坪漁港の街を歩いていると、まるで瀬戸内海の小さな港町を旅しているような気がしてきた。遠くに行くだけが旅でない。鎌倉が人気がある理由がわかった。

三浦半島全般的に言えるのだが、来るたびに旅情を感じてしまうのだ。京浜急行や横須賀線に乗っていると、トンネルや海が連続して見えて、長距離列車で旅をしている気持ちになってしまう。
三多摩地区の、代わり映えのしないただの田舎の出身者には、この情緒ある光景に憧れてしまう。ただ、坂が多いから住むのはちょっと...…。
屋外のテーブルに座り、小春日和の日差しを受けながら海の幸を食べる。これは旅だなぁ...…。

皆も癒されているかと思いきや、それぞれ自分の近況を一方的に語っていた。ペットや家族の写真をスマホで見せて、まるで20年間言えなかったことを一気に吐き出している感じだった。
お寺から海に沈む夕日を見て
バスで鎌倉駅に向かい、いったん同窓会はお開きになった。帰ろうと駅に向かったら、「小町通りに寄って行こう」と誘われた。人混みは嫌いなのでお断りしたところ、それならばお寺に行こうと言われた。
実は先週も外国人を連れて鎌倉を案内していた。鎌倉を訪問するのは先方の希望だったが、鎌倉について詳しくない私は、鶴岡八幡宮だけを参拝して終わらせてしまった。

今日はハイキングコースを巡り、漁村の雰囲気を堪能し、色々なお寺を見てきたが、鎌倉がこんなにも豊かな顔を持っているとは思ってもいなかった。そしてちょっと名残惜しくなった。最後にもうひとつ加えても良いかな。
案内されるがままに苔寺と言われている妙法寺にやってきた。夕方でひとけもなく、山寺ならではの静けさに包まれていた。木々に囲まれた山道には苔がむしていた。苔寺と言われている所以である。鎌倉駅から歩いていけるところに、こんな静かなところがあったとは。

ちなみに、案内してくれた人は、20年前の若い頃は海外旅行にしか興味がなかった。国内旅行には全く関心がなく、お寺に行きたいと言われたときには正直驚いた。
年齢を重ねたからなのか、それとも主婦となって、遠くに行けなくなったからなのかわからない。落ち着いたのかなと思っていたが、相変わらずのマシンガントーク炸裂で、彼氏の話が旦那の話に、親の話が子供の話に変わっただけだった。

参道の階段を下りてゆくと海が見えた。夕日が海に落ちて、静かな山寺が赤く染まった。この人たちとグランドキャニオンやモニュメントバレーで沈む夕日を見たことを思い出していた。
20年前の若かった頃に戻ったような気がした。
私たちは鎌倉駅のホームから電車に乗り、それぞれが帰る方面に散っていった。その瞬間から、明日からの仕事の段取りを考え始めていた。
いいなと思ったら応援しよう!
話にお付き合い頂いてありがとうございます。
いただいたチップは、旅の振興や歴史的建造物の保存のための寄付などに活用させていただきます。