エイブラハム・ウォールド:「弾痕が多い場所」を補強してはならない。生存者バイアスの罠
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「大学を中退して起業し、世界的な大富豪になったIT社長」
「毎日サプリメントを飲むだけで、10キロのダイエットに成功した人」
私たちは日常的に、メディアやSNSを通じてこうした「成功した人」の華やかなストーリーを目にしています。それを見ると、「自分も大学を辞めて起業すれば成功できるのではないか」「このサプリを買えば痩せるのではないか」と錯覚してしまいます。
しかし、その背後には「大学を中退して起業し、苦労して消えていった無数の人々」が存在していることを、私たちはつい忘れてしまいます。
目に見えるデータ(成功者の声)だけを信じることが、いかに致命的な判断ミスを招くか。
これは、第二次世界大戦中のアメリカ軍で起きた、数学と論理による極めて美しい「常識の逆転劇」の物語です。
軍からの至上命題「爆撃機の生還率を上げよ」
第二次世界大戦の真っ只中、アメリカ軍は深刻な悩みを抱えていました。
ヨーロッパ戦線に投入した自軍の爆撃機が、敵の猛烈な対空砲火に晒され、次々と撃墜されていたのです。
被害を減らすため、軍の上層部は「機体を覆う装甲(鉄板)を厚くして、防御力を高める」という方針を打ち出します。しかし、機体全体を分厚い鉄板で覆ってしまえば、重すぎて空を飛ぶことができません。
「防御力を上げるために、装甲を厚くする場所を限定しなければならない。それは一体どこか?」
軍はこの問題を解決するため、無事に基地へ「帰還できた爆撃機」を徹底的に調べ上げ、機体のどこに弾痕(銃弾が当たった穴)が集中しているかを精密にデータ化しました。
その結果、「主翼」と「胴体の中央部分」に、無数の弾痕が集中していることが判明したのです。
常識的な結論と、ひとりの数学者の異論
データを見た軍の上層部たちは深くうなずき、直ちにこう命令を下しました。
「データは嘘をつかない。弾痕が最も集中している『主翼』と『胴体部分』の装甲を分厚く補強しろ!」
被弾しやすい場所の防御力を高める。誰がどう見ても論理的で、極めて常識的な判断です。
しかし、軍の統計学研究部門に所属していた一人の天才数学者、エイブラハム・ウォールドがこれに待ったをかけます。彼は軍の決定に真っ向から反対し、上層部たちが耳を疑うような「真逆の提案」をしたのです。
彼は、軍の集めたデータの中に隠されていた「恐るべき死角」を見抜いていました。
ウォールドが主張した、機体を補強すべき「本当の場所」とは一体どこだったのでしょうか?
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