見出し画像

短編小説『ある朝の記憶』

出勤前に立ち寄ったコンビニで、なんとなく目についたポーク玉子おにぎりを手に取った。職場に着いても始業まではまだ少し時間がある。デスクに腰を下ろし、包装を開く。海苔の匂いと、温められた玉子の甘い香りがふっと立ちのぼった。一口かじった瞬間、不意に去年の夏の朝が蘇る。沖縄旅行の最終日だった。

「明日の朝、ポー玉食べたいんだよね」

ホテルのベッドに寝転がりながら、彼女が言った。

「ポー玉って何?」

僕が尋ねると、彼女はスマホの画面をこちらに向けた。

「これ。ポークたまごおにぎり」

厚いスパムと玉子焼きが挟まったおにぎりの写真だった。

「へえ、そんなのあるんだ」

食べ物にあまり興味のない僕は、ろくに画面も見ずに答えた。

「絶対おいしいから」

彼女はそう言って笑った。

そのときの僕は、翌朝も、その翌年も、その言葉を思い出しながらポークたまごおにぎりを食べることになるなんて、考えもしなかった。

いいなと思ったら応援しよう!