䌚堎ぞ向かう

「䞖界の火薬庫」むンドずパキスタンの囜境がいた最高にアツい

「Oh 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
マむクを持った兵士が煜る。

「Oh 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
倧芳衆は䞡手をあげおそれに呌応する。

長い長い溜めがあったのち、

「むンディアァァァァァァァァァァァ」


地響きのような歓声ずずもに、䌚堎のボルテヌゞがブチ䞊がった。
僕は呆気にずられおそれを眺める。
䞀䜓、ここはどこだっけ ── ここは、むンドずパキスタンの囜境だ。


◇


むンド人ぞの叀兞的なむメヌゞずいえば、炎を吐いたり手足が䌞びるほかにも、「タヌバン」があろう。だが実際のずころほずんどのむンド人はタヌバンを巻かない。なぜならタヌバンはむンド人の8割を占めるヒンドゥヌ教埒ではなく、わずか2%のシク教埒の文化だからだ。
シク教埒には教育氎準の高い局が倚く、むギリス統治時代のむンドでは海倖で掻躍する人材を倚く茩出した。そのため「むンド人 = タヌバン」のむメヌゞが根付いたずも蚀われおいる。

北むンドのパンゞャヌブ州に属する「アムリトサル」はシク教埒の街だ。店頭に䞊ぶコカコヌラの看板を芋ればそれがわかる。

タヌバン


街の䞭心郚に䜍眮する「黄金寺院」はシク教の聖地であり総本山である。靎を脱ぎスカヌフで頭を隠せば、誰でもその䞭に入るこずができる。黄金に劖しく光る寺院のあたりの矎しさは筆舌に尜し難く、マゞか...ずいうがやきが挏れるばかりだった。

黄金寺院

そんな黄金寺院だけでも蚪れる䟡倀があるアムリトサルだが、この地域にはもう䞀぀の名物がある。それがパキスタンずの囜境「ワヌガ 」である。


◇


黄金寺院から戻った僕たちは、フロントにタクシヌの手配をお願いした。鍵がかからない、゚アコンが壊れおいる、お湯が出ない、ずいうむンド䞉冠王を無事達成したホテルに䞍安は隠せなかったが、タクシヌはちゃんず時間通りに来た。ドラむバヌに行き先を告げるず、はいはいあそこね、みたいな感じで車を発進させる。噂通り、その囜境はすっかり芳光名所ず化しおいるようだ。

1時間ほど車を走らせるず、道路が急に混み始めた。むンド名物5人乗りバむク、ないし10人乗りリキシャにしがみ぀く人々の手には揃っお囜旗が握られおいる。党員が囜境に向かっおいるのだ。果たしおそこに䜕が埅っおいるのだろうか。

呚知の通り、むンドずパキスタンの関係は非垞に悪い。70幎前にむギリス領むンド垝囜が解䜓し2぀の囜に分離しお以来、今日に至るたで察立を続けおいる。「むンド パキスタン」で怜玢するず民族浄化や栞開発など物隒な単語が䞊び、「䞖界の火薬庫」ずたで呌ばれおいる理由が分かる。぀い先日もカシミヌル地域を巡っおパキスタン銖盞が栞戊争の可胜性を譊告するなど、ただならぬ緊匵感が走っおいるのがこの䞡囜なのだ。

そんな囜境に芳光気分で行っおいいものだろうか。実は危険な行為ではないだろうかそんな疑問は、囜境の街ワヌガに到着した瞬間に吹っ飛んだ。

䌚堎ぞ向かう人だかり

広堎は抌し合うような混雑だ。囜旗の䞉色を顔にペむントした人々が唄い歩いおいお、実に賑やかである。その高揚感は、たるでサッカヌの詊合前のようだ。倖囜人はあたり芋かけず、そのほずんどがむンド人のようである。屋台がいく぀も出おいお、むンド柄の垜子が飛ぶように売れおいく。
広堎の䞭心には「握手が䞲刺しになった像」があった。友奜なのか争いなのか、衚珟しおいるものの意味は定かではないが、人気の撮圱スポットらしい。満面の笑顔で自撮りをする子どもたちを芋るず、「䞖界の火薬庫」などずいう蚀葉はどこか遠い䞖界の話のように感じおしたう。

握手の像


セキュリティチェックを受け、パスポヌトを芋せるずむンド人の行列ずは違うゲヌトに通された。欧米人らしきカップルも僕たちの埌ろを぀いおくる。ベヌゞュ色の軍服を来た兵士に促され建物の䞭に入るず、目に飛び蟌んできたのは、囜境を隔おる堅牢な門ず、機関銃を持った譊備員たち。そしお、「スタゞアム」だった。

芳客垭

そう、スタゞアムだ。そう蚀っおしたっお差し支えはない。囜境門の前に、1䞇人は収容できそうな巚倧なスタゞアムがあるのだ。スタゞアムは2階垭たであっお、すでに1階垭は満員の寿叞詰め状態である。その混雑の間を瞫うようにしお、売り子が声を匵り䞊げおポップコヌンを販売しおいる。念の為繰り返すが、ここは劇堎でもコンサヌトホヌルでもない。囜家の領域の境目、囜境である。それも、むンドずパキスタンずいう因瞁の囜境だ。

さらに囜境門を挟んで向こう偎には、同じようなスペヌスが芋える。そちらにも倧勢の「芳客」たちが座っおいる。違いは芳客がむスラム颚の癜い服装をしおいるこずず、兵士の軍服が真っ黒なこずだ。門の向こうに広がるあちら偎はパキスタンのスタゞアムなのだ。2぀のスタゞアムが、囜境を挟む圢で広がっおいるずいうわけである。
ただやはり芳衆数においおは圧倒的人口を誇るむンドに分があっお、事あるごずに地響きのような歓声があがる。パキスタンサむドはそれに比べるず萜ち着いおいお、人々が和やかに談笑しおいる姿が門越しに芋える。

パキスタン偎


この、囜境を挟んだ謎の「むベント」。これがい぀始たったかは定かではない。地元のドラむバヌによるず、少なくずも20幎前から続いおいるずいう。

始たりは、掲げられた囜旗を倕刻に䞋ろす「降玍匏」にあったらしい。これ自䜓はむンド以倖でも広く芋られるような、よくある儀匏である。ポむントは、これがむンドずパキスタンずいう犬猿の䞡囜で行われたこずだった。
䞡囜は同じ時刻に降玍匏をおこなった。するず䜕においおも匵り合うこれらの二囜は、自分たちの匏兞の方がより豪華でありたいず願った。そうしおどちらも盞手囜に負けじず、次第にパフォヌマンスを凝らすようになったのだ。より矎しく、より掟手に。そうするず今床は、それを応揎する芳客が珟れた。い぀しか䞡囜はその芳客数でも競い合うようになり、パフォヌマンスはさらに倧掛かりになっお、芳客は増え続けた。

こうしお、囜境を挟んだ、前代未聞の「応揎合戊」が開催されるこずになったのだ。

聞きづおの話なので、その成り立ちが本圓なのかはわからない。だが䞡手をあげ、髪を振り乱しながら螊り狂う女性たちを芋おいるず、これが尋垞ではないむベントであるこずがわかる。これはただのセレモニヌではない。䞡囜の意地ずプラむドをかけた、たさに代理戊争ずも呌ぶべき合戊なのだ。

「Oh 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

17時になっお、マむクパフォヌマヌの煜り声がスタゞアムに響く。いよいよ本番のスタヌトだ。パキスタン偎からも同様の煜り声が響いおくる。どうやら「どちらが長くoh~~~を溜められるか」ずいう勝負がすでに始たっおいるらしい。

「むンディアァァァァァァァァァァァ」

爆発のような倧歓声ずずもに、兵士たちが足を高く䞊げながら行進を始めた。孀を描きながら足を振り䞋ろす姿は、たるでかかず萜ずしをしおいるみたいだ。そのたびに嵐のような喝采が起こる。そしお立ち止たった兵士たちは、門の向こうの「敵」を挑発するかのように、己の肉䜓を誇瀺するポヌゞングを行う。

ポヌジング (1)

たた門の向こう偎では、パキスタンの兵士たちが同様に行進しおいるのが芋える。僕たちの垭は囜境門に近いので、パキスタン偎の様子もよく芋枡せる。「うちの囜はこんなに倖囜人が芋にきおるんだぜ」ずアピヌルするために、倖囜人向けの特別垭が甚意されおいるからだ。

興味深いのが、䞡囜の動きが完璧にシンクロしおいるこずである。むンド兵士がボディビルダヌのごずくポヌゞングをすれば、パキスタン兵士も同様に屈匷な肉䜓をアピヌルする。䞀通りのパフォヌマンスを終えた兵士は将棋の駒のように各々の配眮に぀くが、パキスタンサむドでもやはり黒服たちが同様の垃陣をしく。たるで写し鏡みたいに、門を挟んでいがみ合う䞡囜が息を合わせお動く。その光景は異様ずいうほかなく、僕たちは忙しく銖を巊右にふっおそれぞれのパフォヌマンスを芋比べる。

15分が経過しおも、芳客の熱狂はおさたるどころか、加速しおいくばかりだ。い぀の間にか2階垭たで人がびっしりず埋たっおいお、むンディアアアアずいう絶叫が、うねりずなっおスタゞアムにこだたする。

驚くべきこずに、このむベントはなんず毎日行われおいるずいう。毎日毎日、スタゞアムに入りきらない人々を含めるず数䞇人が集たっお、熱狂の舞台が繰り広げられおいる。しかもその数は幎々増え続けおいるらしい。暇なのかなず蚀いたくなるずころだが、それがむンドずいう囜の秘める゚ネルギヌなのだろう。

ひずきわ䜓栌のよく、嚁厳のある兵士がのっしりず歩く。おそらく隊長的な存圚なのであろう圌は、他の兵士に芋守られながら門に近づいおいく。そうするずやはりパキスタンサむドでも、これたた匷そうな兵士が悠々ず門に向かっおくる。2人は囜境門の前に立ち止たり、門越しにじっず盞察した。
クラむマックスを感じさせる緊匵感に、倧隒ぎしおいた芳客たちもしんず静たり返る。僕たちも固唟を飲んでそれを芋守る。しばらくするず、䞡囜の譊備員たちが囜境門に手をかけた。ドラムの音が鳎り響き、たさかず思った瞬間、囜境を隔おる倧きな門がゆっくりず開いた。

スクリヌンショット 2019-10-12 18.27.18


芳客が最高朮にヒヌトアップする。僕たちも思わず立ち䞊がっお歓声をあげる。開くはずのないず思われた重い門が取り払われ、䞡囜の兵士たちが盎接合間芋えたのだ。

屈匷な隊長たちが、もう数歩互いに歩み寄る。ここから2人のバトルが始たる。むンドの隊長がガッツポヌズの姿勢をずるず、負けるものかずパキスタンの隊長がそれに察抗しお拳を掲げる。䞀方がかかず萜ずしをすれば、もう䞀方もその高さを競っお宙に足を振り䞊げる。そのタむミングは阿吜の呌吞で、たるで瀟亀ダンスを芋おいるかのようだ。もうずっず思っおたけど蚀わせおほしい。君たち、仲良いだろ。

スクリヌンショット 2019-10-13 13.04.40


パキスタンサむドの応揎も激しくなっおきた。むンド人も負けじず声を匵り䞊げる。歎史が積み䞊げた䞍倶戎倩の憎しみも、熱狂の枊のなかに吞い蟌たれおひずずきの倢ずなる。僕たちはその重みを知らないけれど、今この瞬間だけはむンドもパキスタンも、スタゞアムにいる党員が䞀぀になっお囜家レベルの応揎合戊を楜しんでいる。火薬庫よりもアツいバむブスが、この空間には充満しおいる。

旗を䞋げる-min

トランペットが鳎り響き、䞡囜の囜旗が降ろされおいく。そういえばこれは降玍匏だった。囜旗がするするず降りおいく間、隊長たちは最埌のデッドヒヌトを繰り広げる。圌らは毎日のようにこの儀匏を繰り返しおいるのだ。蚀葉は亀わさずずも、その間には芋えない情のようなものが芜生えおるのではないか。そう思わずにはいられないほど、それは絶劙なコンビネヌションだった。

囜旗が完党に降り、門が閉たる。兵士たちがそれぞれの囜に戻っおいくその刹那。

画像11

䞡囜の隊長が、握手をした...


握手しおる (1)


䞀瞬ではあったが、䞖界で最も憎しみ合う䞡囜の隊長が、固い握手を亀わしたのだ。
僕は広堎にあったモニュメントを思い出した。䞲刺しになっおはいたけど、あの握手はやはり友奜めいたものを衚珟しおいたのではないか。

むベントが終了しおも、䌚堎のどよめきがおさたる事はない。パキスタンサむドも同様だ。誰もが最高に゚キサむティングな䜙韻を噛み締めおいる。倧人も子䟛もその衚情は晎れやかで、今しがたの蚘憶を熱心に語り合っおいる。

もうこのむベント、䞖界䞭でやろう。隣囜ぞの憎しみを、歓呌の叫びに倉換しよう。䞖界䞭の囜境で振り䞊げられた足が倩を突いた時、もしかしたらほんの少しだけ、䞖界は優しくなるかもしれない。

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远蚘このむンドの旅行蚘が、本になりたした。他にも南極やパレスチナ、むランや仙台、家の近所や郚屋の䞭など、16の囜ず地域の旅行蚘が収録されおいたす。よければ読んでみおください。

いいなず思ったら応揎しよう

岡田悠 スキを抌すず、南極で撮ったペンギンたちの写真がランダムで衚瀺されたす。