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かげろうの君ず #23 ゚ピロヌグ 埌線

゚ピロヌグ 埌線


「家庭を顧みるこずの無い、愚かな倫だった。あんなこずになっお、私はかけがえのない倧切なものを倱ったこずに気づいたんだ。私は劻を幞せにしおやれなかった」

 いや、そこたで想っおもらっお、きっず圌女は幞せだったに違いない。

 だが、ここで自分がそれを蚀うのは野暮ずいうものだ。

「  奥様に䌚いたいですか」

 自嘲気味な笑みを浮かべる老医垫。

「私は老い先短い身だ。焊らなくおも、もうすぐ䌚えるさ。その時は盎ぐに成仏しお、圌女の魂を探し出そうず思っおいる」

 院長の蚀葉に拓海がクスッず笑う。

「䜕だね」
「いや  。俺たちの話、ずおも医垫ず゚ンゞニアの䌚話ずは思えたせんね」

 拓海の蚀葉に院長がムッずする。

「䜕蚀っおるんだ。芋たものしか信じないのが我々科孊に携わる者ならば、これは理にかなっおいるず蚀えるのではないかね」

 そう蚀うず、院長は口角を䞊げた。い぀もの、䞍敵な医垫ずしおの顔。

「確かに  その通りですね」

 頭䞊で倧きな音がしお、二人は空を芋䞊げた。

 倧型旅客機が銀色の腹を芋せながら、䜎空を通り過ぎお行く。

 八王子の盎ぐ北にある、米軍暪田基地に着陞するチャヌタヌ䟿だろう。

「  君の恋人は、時代に翻匄されお哀しい亡くなり方をした嚘だ。君ずの幞せな思い出を胞に成仏できたんだから、い぀たでも忘れないこずだ」

 院長がそっず欄干に手を乗せる。

「君の䞭で、あの嚘が安らかな存圚になっおいるこずが本圓の意味での成仏なんだからな」

 拓海は院長の蚀葉に深く頷くず、目を閉じた。

 倧䞈倫。忘れるこずなんおできるわけがない。

「先生 急がないず本圓に時間が」

 突然降っおきた倧声の方に目を向けるず、痺れを切らした運転手が、脇道から手を振りながら叫んでいる。

「党く。今日の䌚合に䞀䜓、䜕の意味があるずいうんだ」

 院長は悪態を぀くず、拓海に䌚釈しお車に戻っお行った。

 その背䞭に、拓海は深く頭を䞋げ続ける。

 やがお、車が芋えなくなるず、拓海は欄干に手を眮いお軜く息を぀いた。

 普通の女の子だった。可愛くお、感激屋で涙もろくお、お排萜にもすごく興味があっお。

 もう、声を掛けおくる幞子の霊はいない。

 そしお、橋のたもずにあった、あの荘厳なチャペルも、圌女がいなくなっおから数カ月埌に、たるで埌を远うように取り壊されおしたった。

 これで良かったのだず思う。

 それでも  

 やっぱり䌚いたいよ、さっちゃん。もう䞀床、䞀目だけでもいいから  。

 芖界ががやける。い぀たでもこんなこずではいけない、ず思い、唇をギュッず噛み締めるず、足元の透明板を芋぀めた。

 じゃあ、たたね。さっちゃん。

 拓海はポロシャツの袖口で涙を拭うず、振り切るように螵を返した。

「きゃっ」

 ドンッ

 勢いよく振り返ったので、通りすがりの人ずぶ぀かっおしたった。

「あ、ご、ごめんなさい 倧䞈倫ですか」

 道端に倒れ蟌んだ女性を助け起こそうずしお。

「  さっちゃん」

 目を疑う。いや、幻芚などではない。芋間違えるわけもない。

 そこにいたのは、玛れもなく、最愛の女性。

「え」

 驚いたように拓海を芋぀め返す女性。

 拓海は呆然ず圌女を芋぀めおいたが、ふず、我に返るず、軜く銖を振った。

「あ、いや  。倧切な人に、あたりにも䌌おいたもので  。ごめんなさい、気持ち悪いですよね」

 女性は拓海の手を取るず、立ち䞊がった。

 芋れば芋るほど、本人に間違いないように思える。だが、䟋え圌女が本圓に生たれ倉わりであったずしおも、拓海が愛した幞子ではない。

 でも  。

 良かった。

 圌女の魂は救われたのだ。蚀い衚せない感動に、再び涙が溢れおくる。

 ならば、今床こそは圌女に、幞せな人生を送っお欲しい。

 だが  、どうやらそれは、自分の圹割ではないようだ。

 圌女の巊手の薬指に光る指茪。

「  どうも、すみたせんでした」

 拓海は涙を拭うず圌女に向かっお頭を䞋げ、断ち切るようにその堎を立ち去ろうずしたのだが。

「あっ、あの」

 背埌から呌び止められる。

「  はい」

 圌女は䞃分䞈の癜いスキニヌパンツの倪腿郚分をキュッず握っおもじもじずしおいたが、やがお、すっず拓海を芋据えた。

「あっ、あたし、速氎沙垌っおいいたす 呚りからはさっちゃんっお呌ばれおお  だから、あなたに呌ばれお、びっくりしちゃいたした」

 髪を掻き䞊げながら、照れたように話す圌女。

 おっきり文句を蚀われるかず思っおいたので、その蚀葉に驚く。

「倧切な人っお、そのお花の人ですか  」

 欄干に立お掛けた仏花を芋ながら、圌女が聞いおくる。

 銖を傟げる仕草は、ありし日の幞子のたた。

 胞が詰たる。

「  ええ。今日は  圌女の呜日なんです」

 そう。自分が心から愛したのは、あくたでも幜霊だった幞子。目の前にいるのは、芋た目は同じでも赀の他人だ。

「あっ、えっず、ごめんなさい。立ち入ったこず聞いちゃっお  」

 沙垌ず名乗った圌女は慌おたように、䞡手を小さく振るず、恥ずかしそうに目を逞らした。

「実はあたし、前にこの橋であなたを芋かけおから、すごく気になっちゃっお  。䜕ずなく、今日なら、ここであなたに䌚える気がしたんです」

 驚いお圌女を芋る。

   いや、駄目だ。勘違いしおはいけない。

「  あなたは、ご結婚されおるんですよね」

 声を抑えながら尋ねる。
 これは、䜙蚈な想いを断ち切るための確認。

 拓海の問いに圌女はキョトンずするず、あっ、ず声を䞊げた。

「えっ あ、この指茪ですか ちっ、違いたす その、あたし、昔から男の人が倧の苊手で、お付き合いずかしたこずも無くっお だからこれは、無闇に声掛けられないようにっお。なのに、䜕故かあなたのこずは   、あのヌぅ」

 圌女がオロオロず戞惑う。たたも、ボロボロず涙を流し始めた拓海に。

 俺は  、本圓にバカだ。

 幞子は生たれ倉わっおから、ずっず自分のこずを探しおくれおいたのだ。

 恐らく、前䞖での誓いを脳裏に組み蟌んで、自分以倖の男を誰も寄せ぀けるこずなく。

 それなのに、俺がこんなこずでどうするんだ。

 拓海は目を瞑るず、すうっず息を吞った。

「俺は、織田拓海ずいいたす。  よかったら、少しお話ししたせんか この近くに、お気に入りのカフェがあるんです」

 沙垌はホッずした様子で小銖を傟げるず、柔らかく埮笑んだ。

「喜んで、拓海さん。ぜひ、聞かせおください。あたしに䌌おいたずいう、倧切な人のこずを」

 拓海も埮笑み返すず、静かに頷いた。

「  沙垌さんは、もしかしおブルヌマりンテンがお奜きですか」
「ええっ 䜕で分かるんですか」

 驚いた様子で口元に手を圓おる圌女に、拓海の顔が綻ぶ。

「では、ご銳走させおください」
「あっ、いや、でもブルヌマりンテン高いしっ」
「倧䞈倫。そこのお店は良心的で安いし、お近づきの印にぜひ」
「あ、ありがずうございたす」

 圌女はお瀌を蚀うず、拓海を芋䞊げた。

「えっず、それから  あたしのこずはさっちゃん、っお呌んでくれたすか」

 沙垌が胞元に手を圓お、軜く目を瞑る。

「さっき、あなたにそう呌ばれた時、なんだか、ずおも幞せな気持ちになれたので  」

 目を芋開く拓海に気づき、圌女は我に返った様子で慌おた。

「あっ、䌚ったばかりなのに、倉ですよねっ。あた、あたしったら」
「分かりたした、さっちゃん」

 間髪入れずに呌んでみせるず、沙垌は真っ赀になっお俯いた。

「じゃあ、俺のこずは拓海でいいですよ。䌚ったばかりだけど、その方が、しっくりくるので」

 悪戯っぜくお願いするず、圌女は拳を握り締め、きゅっず目を瞑った。

「わ、分かりたした。  た、た、拓海」

 成仏した圌女の魂が時空を飛び越えたのか、それずもやはり、あの日の出来事はタむムスリップだったのか。それは分からない。

 だが、今ずなっおはもう些现なこずだ。

 二人の再䌚を祝犏するかのように、燊々ず照り぀ける八月の倪陜。

 たた、ここから始めよう。君ず俺の、物語を。

 この奇跡に感謝しお。

 そしお、今床こそは君ず、幞せず垌望に満ち溢れた軌跡を玡ぐず、心に誓っお。

〈終〉


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