Frelsun《フレルスン》③
《3》
遺構の奥。
焚き火の揺れる炎が二人を照らしていた。
ハヴェヤは、熊を解体した際に見つけた金属の粒を見つめている。
「“弾丸”と言ってね。
拳銃からそれを打ち出すんだ」
串に刺した熊肉を炙りながら、フェネシュが言った。
この小さな金属が、どういう理屈であの威力になるのか――
ハヴェヤには理解できない。
ただ、熊を一瞬で倒したのは事実だ。
「これが矢の役目ってことか……。
威力は比べものにならないけど」
ハヴェヤは弾丸をまじまじと見つめ、小さく呟く。
フェネシュは肉の焼け具合を確かめていた。
「そろそろいいかな」
フェネシュは串を一本、ハヴェヤへ渡す。
ハヴェヤは脂の滲む肉を頬張った。
「やっぱり熊は少し硬いな」
独特の臭みもある。
集落でも熊は貴重な肉だったが、人気はなかった。
「贅沢は言えないけど、確かにちょっとアレだよねぇ」
フェネシュも肉を齧りながら、眉間に皺を寄せる。
地下で暮らす集落の生活は豊かとは言えない。
日中は外に出られるが、遠くへ行けば日の入りのリスクが増える。
狩りの時間も限られ、成果は少ない。
農作物も育ててはいるが、昼だけの管理では動物の食害を防げず、
実りは乏しい。
そんな暮らしを思い出しながら、ハヴェヤは肉を貪った。
「これも食べるといい」
フェネシュは袋から赤い果実を取り出した。
「リンゴか?」
ハヴェヤは驚いた。
「リンゴを知ってるんだ?
それは驚きだね」
フェネシュは興味深そうに言う。
「あぁ……食べたことはないが、
集落にある“ブックオ”で見たことがある」
“ブックオ”――旧世界の書物。
そのほとんどは朽ちて読めないが、稀に出土する。
「“ブックオ”があったのか。珍しいな。
そこにリンゴが書かれていたのか?」
フェネシュも旅の中でほとんど見たことがないという。
見たものは画像ばかりで、文字は読めなかったと。
「あぁ。俺の集落の“ブックオ”は文字も書いてあって……
カルザ、長老は旧世界の植物の書物だって言ってたよ」
ハヴェヤは手渡されたリンゴを見つめながら答えた。
「そうか。
それはぜひ見てみたいな。
……って、ハヴェヤはもう戻れないか」
フェネシュは笑った。
ハヴェヤはその果実にかぶりついた。
果汁が一気に広がり、甘酸っぱさが口の中を満たす。
「すごいな……」
圧倒的な味わいに、ハヴェヤはしばらく動きを止めた。
「美味しいかい?」
フェネシュは、そんなハヴェヤを見て嬉しそうに笑った。
翌朝、二人は遺構の入り口に立っていた。
「フェネシュ、どこへ向かうんだ?」
ハヴェヤにとっては、目的のない旅だ。
どこに何があるのかも、何をしたいのかもない。
フェネシュはハヴェヤを見つめる。
「ハヴェヤは、どうしたいんだい?」
ハヴェヤはフェネシュを見返し、その言葉を何度も頭の中でなぞった。
「わからない……。
集落には戻れない。
今の俺には、それしかない……」
いくら考えても、それ以外が出てこない。
自分には目的がない――そう思いながら拳を握りしめた。
「……じゃあ、ハヴェヤの目的を探すために、
色々と歩いてみようか」
フェネシュは少し穏やかな表情で言った。
ハヴェヤは再び拳を握りしめ、
「あぁ」
と力強く答えた。
その返事を聞き、フェネシュは南の方を指さす。
「私が進んできた道を戻ることもできるが、
それじゃ私が面白くない。
ただ、こちらへ向かうとハヴェヤの集落に戻ることになる」
そう言って、フェネシュは腕を振り、東の方角を指した。
「こっちは私もまだ行ったことがない。
何があるのか、人がいるのか、遺構があるのかもわからない。
行ってみるかい?」
無邪気な笑顔だった。
ハヴェヤはその笑顔に応えるように、
「あぁ、行ってみよう」
と答えた。
「おや、案外即決だね」
フェネシュは少し揶揄うように笑う。
「フェネシュも居るからな」
根拠はない。
ただ、一人ではなく二人だ。
それだけで、ハヴェヤは前へ進める気がした。
「よし、じゃあさっさと進もうか」
フェネシュは踵を返し、指さした東へ歩き出した。
まるで先陣を切るような軽い足取りだった。
「いや〜……思った以上に鬱蒼としてるね」
遺構を出てしばらく歩いたところで、フェネシュが口を開いた。
目の前には植物が生い茂り、行く手を遮っている。
樹木は高くそびえ、陽の光はほとんど届かない。
「集落があるかもしれないな……」
ハヴェヤは地面を慎重に見ながら進む。
「ん?そうなのかい?」
フェネシュはハヴェヤの様子を見て問いかけた。
気づけば、フェネシュはハヴェヤの後ろを歩いている。
「あぁ。誰かが踏んだ跡がいくつかある。
大勢ってわけじゃなさそうだ」
ハヴェヤは弓を片手に、足跡を確かめる。
「歩いてきた方角は分かるかい?」
フェネシュも後ろから覗き込む。
確かに、植物が不自然に折れている箇所がいくつか見える。
「あっちだな。
ただ、戻っている様子がどこにもない」
ハヴェヤは森の奥を指さした。
その先には、暗く淀んだ森が続いている。
「ふむ……狩りなら同じところを戻るよねぇ」
フェネシュは首を傾げる。
「あぁ。目印らしきものもないからな。
普通は通ったところを折り返す」
二人は足跡の進む方向を見つめた。
奥は、わずかに明るくなっているようにも見える。
「どっちに行く?」
ハヴェヤは判断をフェネシュに委ねた。
「そうだねぇ……進んだ方向のほうが良い気がするよ」
フェネシュは迷いなく、足跡の先を見据えた。
「分かった」
ハヴェヤは矢を一本つがえ、慎重に歩き始めた。
足跡は、少しずつはっきりとした形を残し始めた。
「これは……走っているのかな?」
その足跡を見て、フェネシュは口を開く。
「あぁ、かなり急いでいるようだな。
追われている感じでは無さそうだが」
ハヴェヤもフェネシュの意見に同意する。
歩幅は広がり、大地を蹴る力も上がっている。
その足取りに合わせるかのように二人の歩むスピードも
少し速足になる。
しばらく進むと森が途絶える場所に出た。
そこには川が流れており、その川を遡るように目線を動かすと
滝が見えた。
「滝だ」
感動するような声色でフェネシュが口を開く。
「あれが滝か……」
ハヴェヤは初めて見る滝の迫力に圧倒されていた。
滝の高低差は20mほど、滝つぼには激しく水しぶきが飛び散り
辺りを威嚇するかのような威容を誇っている。
「フェネシュ!」
ハヴェヤは弓を番え、フェネシュに声をあげる。
その視線の先は滝つぼの少し手前に置かれている。
「人だねぇ」
フェネシュはのんびりとした口調で返した。
フェネシュ

