えぞ沼の目覚め 〜大雪高原〜
足を止めて聞こえてくるのは、
そよ風を知らせる新緑の葉音と、
雪が水へと還るかすかな音だけ。
初夏の大雪高原
東京での慌ただしい平日を終え、週末は北海道へ向かいます。
この生活を始めて10年が経ちますが、大雪山が見せる一瞬の表情には、いまだに息をのむばかりです。
初夏の風が吹き抜ける大雪高原。
一歩足を踏み入れると、ひんやりとした山の空気が包み込みます。
エアコンの冷たさとは違う、大地の水分をたっぷりと含んだ生命の息吹。
足元でシャリシャリと音を立てる残雪を踏みしめながら進むと、目の前が開けました。
そこに待っていたのは、初めて見るえぞ沼の表情と鮮やかな「青」でした。
ドラゴンアイ
東北の八幡平にある、雪解けが竜の目のように見える「ドラゴンアイ」をご存知でしょうか。
規模は小さいかもしれませんが、北海道の大雪高原にもドラゴンアイがありました。
大雪山の冬は長く、深い雪が沼をすっぽりと覆い尽くします。
それが初夏を迎え、劇的な変化を始めるのです。
水際からゆっくりと溶け始めた雪は、やがて中心部も同じように半円を描きながら水面へと沈んでいきます。
その溶けきる手前のわずか数日間だけ、自然の気まぐれが作り出す「青い瞳」が姿を現します。
このタイミングに出会えた幸運に興奮が止みませんでした。
えぞ沼の目覚め
沼巡りのコースを歩き、えぞ沼のほとりに立った瞬間、私は思わずカメラを構えるのを忘れ、深く息を吸い込みました。

空は、大雪山特有の深く突き抜けるような「大雪ブルー」。
その青をそのまま映し出した水面は、まるで地球の底まで見通せそうなほど純粋なコバルトブルーです。
沼の縁を囲む木々は、長い冬を耐え忍び、一斉に葉を広げたばかりの瑞々しい命の色。
水面をそよ風がサーッと通り過ぎていきました。
すると、鏡のようだった深いブルーの水面が一瞬にして細かく波立ち、陽光を浴びてキラキラと輝き始めたのです。
美しい瞬間
山の景色は、二度と同じ表情を見せてくれません。
明日になれば雪はさらに溶け、この瞳の形は変わってしまいます。
だからこそ、私たちはその一瞬を写真という形に残したくなるのかもしれません。
機材の良し悪しや、撮影の技術なんて、二の次でいいのです。
大切なのは、この澄んだ空気を吸い、自分の目で「奇跡」を目撃すること。
今年の夏は、小さなカメラを一台ポケットに入れて、北海道の山を歩いてみませんか。
大雪山の沼たちは、静かに瞳を開けて、あなたが訪れるのを待っています。
