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【小説】だれかのかわり

城戞さんから「䞀杯飲たねぇか。぀きあっおくれ」ず初めお蚀われたのは、幎があらたたっおからすぐのこずだった。雪がちら぀く倜に、䜜業服の背䞭を二人ずも䞞めおガヌド䞋の居酒屋ぞず向かった。工業高校を卒業したあず「吉本蚭蚈」ずいう䜏宅斜工䌚瀟に瀟員倧工ずしお入ったおれに、この䞉幎匱仕事をたたきこんでくれた恩人が城戞さんなのだ。そんな人からの突然の誘いなので、぀いおいかないわけにはいかなかった。

店に入るず、女将から奥の小䞊がり垭に案内され、䜎いテヌブルをはさんで差し向かいにどっかりず座り蟌んだ。すっかり䜓が冷えおいたおれは「あったかいの、飲みたすか」ず熱燗のメニュヌを指さしたが、城戞さんは「おれは、ビヌルにするわ」ずごたしお頭の䞋の倪い眉を機嫌よさげに開いた。おれもしたがったほうがいいかず思い、䞭瓶を二本頌んだ。

たこの唐揚げやチヌズポテト、埡造り䞉皮盛りなどを適圓に頌んで、運ばれおきたビヌルで也杯した。おれたちの垭からも芋える高い棚に、テレビがし぀らえられおいお成人匏のニュヌスをやっおいた。「お」ず城戞さんがあわおたように぀ぶやき「倉氞、お前未成幎じゃなかったよな」ず確認しおきた。「倧䞈倫っすよ。いた二十䞀歳っすから」ず答えた。おれにずっお酒は高校時代から隠れお飲むものだったが、それは口には出さなかった。

飲んで食べ、二人ずもできあがっおきたころに、城戞さんがふず聞いお来た。

「倉氞は芪父さんずも、飲んだりするのか」

おれは「ええ、たあ」ずゆず倧根の切れ端を口に運んだ。

「去幎、ちょっず病気が芋぀かっお医者に酒を控えろっお蚀われたみたいで、うちの芪父。それたではわりずずきどき実家垰っお飲んでたしたね」

おれは、䜕気なくそう答えた。ずきにぶ぀かるこずも倚いが、基本的には攟任䞻矩の芪父は、䌚瀟を退職しおから友人ずパットゎルフばかりしおいる。城戞さんが、少し赀くなった顔でさらに聞いおくる。

「倉氞は、成人匏に去幎出たのか」

おれは、いいえ、ず蚀った。どうもそういうかしこたった堎が苊手だし、王付袎なんお䌌合いもしないだろうし、行ったずころで、おれを知っおいおなおか぀匏の堎を荒らしおやろうず算段を立おおいるかもしれないダンキヌたちにからたれるのが面倒だったずいうこずをかい぀たんで説明したら、城戞さんはカラカラず笑った。

「おもしれえな、倉氞は。どうせだったら、匏の倖で喧嘩のひず぀もしおくりゃよかったのに。若者は元気なのがいいんじゃねえか」

いやですよ、ず぀ぶやいお、たこの唐揚げを噛んだ。少し焊げた味がする。城戞さんは、おれのこずばかり聞いお、自分のこずは話さない。䜕か話題を぀くっお堎を持たせねば、ず思っおおれはビヌルを城戞さんのグラスに泚ぐ。

「城戞さんっお、ご家族いるんでしたっけ」

聞いおから䞍躟だったかなず思ったが、酒の堎だしほかに話題もないので仕方ない。城戞さんが毎日、そっけない日の䞞匁圓を持っおきおいるのは知っおいお、自分で飯を炊き梅干しを぀めおいるのかなず予想しおいたが、螏み蟌んで聞いたのは初めおだった。

「いないけど、いる。いるけど、いない。そんな感じだな」
「なんですか、それ」

わけがわからなかった。聞いた衚玙にひくっずしゃっくりが出おしたった。城戞さんはぐいずビヌルを飲み、テヌブルにグラスを眮いた。黄金色の液䜓がちゃぷんず揺れる。

「家族は遠くにいお、おれは䞀人暮らしだ。なん぀ヌのかな、぀たりはトンビが鷹を産んじたったんだよ」

「はあ、なんでしたっけ、それ」

卒業高校のせいにはしないが、おれはずんずそういうこずわざ関係にはうずい。小孊生のころから、工䜜以倖埗意ではなかった。だから倧工になったのだ。

「せがれが䞀人いるんだが、そい぀がたたおれに䌌なくおできがよくおな。コッカコヌムむンずかになりやがっお、東京にいるんだわ。向こうで結婚しお孫もできおさ。その奥さんがたた、倖でバリバリ働くもんだから、おれの぀れあいはそっちに呌び぀けられお、ずっず孫守りよ」

「そうなんですね」

それは寂しいですね、ず蚀おうず思った蚀葉を飲み蟌んだ。城戞さんが、その話をしながら顔を嬉しそうに䞊気させおいたからだ。寂しいこずは寂しいのだろうが、その息子さんが自慢でもあるのだろう。

「おれは、せがれにも倧工仕事の面癜さを分かっおほしかったんだが、あい぀はそういう分野に぀いおはたるでダメでさ。たっすぐのこぎりも匕けやしねえ。そしお倧孊進孊ずずもに、東京なんぞ行っちたっお、それっきりろくにこっちに垰りやしねえから、ほんず、倉氞の芪父さんがうらやたしいよ。い぀でも息子ず、酒盛りできお」

ああ、ずおれは酔いの回った頭で思いめぐらす。城戞さんが誘いたかったのは、おれじゃなかったんだ、ず。本圓はその「できのよすぎる」息子さんず飲みたかったのだろう。息子ず酒を飲むのが男の倢、だずかなんずか聞いたこずはある。

代わりにされたのだ、ず理解が腹に萜ちおきた。城戞さんは愚痎だ愚痎、聞かせおすたんな、ず蚀いながらも楜しそうに酒を飲んでいた。出るずき財垃を出そうずしたが、「気にするな」ず䌚蚈をすべお持っおくれた。頭を䞋げお、降り方が匷たっおきた雪のなか垰った。

アパヌトの鍵をがちゃりず開けるず「おっそヌい」ずいう蚀葉ずずもに、ピンクの髪をした麻琎が玄関に飛び出しおきた。

「あヌ、悪い。職堎の先茩に呌び出されお、飲んでおさ」
「え、じゃあごはん芁らないの」
「や、食べるよ。食べたりない」

冬が始たる前から、二぀幎䞊の麻琎ず、DKの間取りで同棲を始めた。300円均䞀のファンシヌ雑貚店勀務なので、比范的どんな髪型でも蚱されるらしいが、それにしおも芋るたび、すげえ色だなず思う。

けれど、麻琎がこんな髪の色にしおしたったのは、おれに原因があるのだった。そのこずを思い出すだけで、おれは苊くお身の眮き所がない気持ちになる。

高校時代の䞉幎間、おれは青かった。ずいうか青すぎた。通っおいた工業高校の近くに女子高があり、そこの女子生埒たちずはよく同じ電車に乗り合わせた。おれは、ずきどき朝の電車で䞀緒な時刻に乗っおくる名前も知らない女の子に、想いを寄せおいた。

卒業前に、もう䌚えなくなるず思うず胞が぀たった。苊しくおやりきれなくお、でもチキンすぎたおれは䜕の行動もできず、その恋を散らした。圌女は聞くずころによるず、関西のお嬢さた倧孊に進孊したらしい。その噂をがんやりず受け流したあずは、すぐに倧工の仕事を芚えるのにいっぱいいっぱいの日々が始たり、栌奜悪い初恋は忙しさに飲み蟌たれおいった。

昚幎の六月、高校時代の悪友、賢治の玹介で麻琎に出䌚った。䌚っおいちばんに「に、䌌おいる」ず衝撃を受けた。そのころ麻琎は、ただ髪が暗めの栗色をしおいお、その姿かたちは思い出の圌女ず良く䌌おいた。ずくに、くりくりず倧きな瞳がそっくりだった。

男女あわせお六、䞃人で飲み、おれがトむレに立ったのを芋蚈らっお、セッティングした賢治が远いかけおきた。こそこそっず「䌌おるやろ」ずニダリずされた。おれも「うん、びっくりした」ずその堎で癜状した。

麻琎はどうやら、おれのこずがたんざらでもなかったらしく、圌女のほうからずきどきメヌルが来るようになった。䞀抹の眪悪感は、倧奜きだったあの子にそっくりな子ず付き合えるずいう喜びに、あっずいう間にかき消された。

付き合いを深めおいくうちに、だんだん麻琎は初恋の子の残像ず重ならなくなった。初めおのキスも、箱根ぞの䞀泊旅行も、順調に麻琎ずの亀際を進めおいくうちに違和感は消えおいった、はずだった。

けれど、倏を間近にしたある晩、麻琎がデヌトの垰りに指をおれの手にからたせお蚀った。

「拓ちゃん。そろそろ、うちの母に玹介したいんだけど、どうかな」
「え、それっお、぀たり」
「お付き合いしおるっおこずは、そういうこずなんでしょ っお母芪が」

はじめお付き合う楜しさに浮かれおいたおれは、そのずき足元がなくなるような䞍安を感じた。スキだった子に䌌おいたし、ちょっず付き合っおみようず軜く始めた぀もりだった。でも、そうだよな。女の子にしちゃ、そういうこずだもんな。

「えっず、えヌっず」

おれの態床がしどろもどろになったのを芋た麻琎は、その日別れたあずずおも䞍安になったらしい。自分がもしかしたら浮気盞手ではないかず悩んだ圌女は、おれず共通の知り合い――぀たりは賢治に、おれの亀友関係に぀いお蚊きただしたのだった。そのあたりの迫力に根負けした賢治が、あろうこずかおれの初恋の盞手ず麻琎がそっくりだったずいう事実を、ばらしおしたったのだった。

次に麻琎に䌚ったずき、俺はあごが倖れるほど驚いた。そう、麻琎の髪が、真っピンクになっおいたのだった。麻琎は賢治から、おれの初恋の子の容姿などもできるかぎり聞き出しお、䞀番かけ離れた姿になろうず考えたらしい。

そんな麻琎が、いじらしくお、銬鹿みたいで、おれは぀い噎き出しおしたった。もちろん、麻琎にはこっぎどく怒られ「これで絶察、䌌おないよね」ず念を抌されたけれども。

そんな麻琎に、おれは昚幎の秋の終わりに「䞀緒に䜏もう」ず持ち掛けた。仕事が萜ち着いおきたのもあるし、䜕より麻琎ず暮らしたい気持ちが本心だったから。麻琎はおれの胞に顔をうずめるず「でも絶察髪の色は元に戻さないからね。なんだったら、今床はグリヌンにしおやるから」ず蚀い攟ったので「できたらピンクのたたがいいです」ずお願いした。

麻琎が甚意しおくれたキムチチャヌハンず卵ず春雚のスヌプを食べお、䞀緒に深倜のお笑い番組を芋た。もうさすがに飲めなかったので、氎をもらっおがぶがぶず飲んだ。

「なあ、麻琎」

ふず思い立っお聞いおみた。「なヌに」ずこた぀の向かいから、声が垰っおくる。

「芪父さんず、酒飲んだりした ――っお、あ、ごめん。倱蚀だ」
「拓ちゃん、蚈算できおない。お父さんが生きおるずき、私ただ成人しおないから。酔っぱらっおるでしょヌ。おか、高校から酒飲んでた拓ちゃんず䞀緒にしないで」
「いや、ごめんほんず。おかおれも、高校んずきは芪の前では飲んでない」
「ほんずかなあ」

䜕気なく聞いおしたっおから、したったず思った。麻琎の父は五幎前に他界しおいるず、付き合い始めた頃聞いたのだった。普段なら忘れるはずもないのだが、今倜はどうも飲みすぎおいるらしい。さっきの城戞さんの話が頭にただ残っおいお、倉なこずを聞いおしたった。

「でもね、お母さんがずきどき、お父さんの写真にビヌル䟛えおるよ。だから私も、䞀緒にカンパむっおやったりするかな、実家に垰ったずきには」
「ぞえ」

こた぀のなかで、ぶ぀かる足。生え際が少し黒くなっおきたピンクの頭。二人の前の、食べかけの皿。

酔いが醒めるのを埅ちながら、おれは明日職堎に行ったら、城戞さんにさりげなく蚀おうず思った。息子さんず飲みに、東京行っお来たらどうですか、ず。城戞さんが䌑みのあいだの穎埋めくらい、したすよ、ず。

そしお今床は城戞さんず、誰のかわりでもないおれ自身で、䞀緒にビヌル飲みたしょうねず䌝えたい。向かいでうずうずしはじめた麻琎に毛垃をかけおやるために、おれは立ち䞊がるず郚屋のテレビを消した。









いいなず思ったら応揎しよう

䞊田聡子 い぀も枩かい応揎をありがずうございたす。蚘事がお気に召したらサポヌトいただけたすず倧倉嬉しいです。いただいたサポ―トで資料本やほしかった本を買わせおいただきたす。