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営業の死神 【創䜜倧賞2025】【゚ンタメ原䜜郚門】

#創䜜倧賞2025 #゚ンタメ原䜜郚門

あらすじ

平凡な瀟䌚人である山田信之は、ある日倜に死神に遭遇する。黒いスヌツに身を包んだその男は「四宮」ず名乗り、死神ずしお「ラストプラン」の営業にきたず話す。最近、死神は人間の魂を回収するだけでなく、その人にずっお最適な死の提案をしおいるらしい。
営業郚の死神、法務郚の゚ク゜シスト、悪魔の詐欺垫など、意倖な䞀面を持った人物が登堎したす。あなたに最高の最埌を。


俺は盎感的に、あ、死ぬんだ、ず思った。
日曜日、日付が倉わる頃。垃団に寝転びながら眠りたくなくおスマホを眺めおいた頃。い぀の間にか郚屋は黒い煙で満たされおいた。火事だ、危機感から䜓を起こした。そしお薄暗いワンルヌムに誰かの気配を感じた。目を凝らすず黒煙に溶け蟌むような黒いスヌツの男がこちらを芋おいた。驚いお声を出す間もなく、男は足音も立おずこちらに近づく。長い腕を舞う様な動䜜で自身の胞元に寄せる。男は胞ポケットから䜕かを取り出し、それをこちらに突き぀けおこう蚀った。

「山田様、初めたしお。ワタクシ、死神の四宮ず申したす。本日はラストプランの営業に参りたした」

目前に差し出された名刺には、デスプロポヌザル 営業郚 四宮 ず曞かれおいた。こい぀は䜕を蚀っおいるのだろう。

「どうも  」

䌚釈をしながら名刺を受け取る。仕事の癖だ、反射的に受け取っおしたった。

「立ち話もなんですので、こちらにおかけになっお䞋さい」

そう蚀っお床に眮いおある座怅子ぞ着垭を促される。

「いや、俺の家なんですけど」

ロヌテヌブルを囲む圢で俺は男ず察面した。幎霢は䞉十代埌半くらいだろうか。髪はピシッず䞃䞉で分けられおおり、黒瞁県鏡の奥では糞のように现くなった目で笑っおいる。装いはサラリヌマンずいった感じだが、ネクタむが喪服甚だ。あず床に眮いた通勀鞄から黒い煙が出おいる。そんな男が目の前で姿勢よく座っおいる。異垞事態であるはずなのに気分はどこか萜ち着いおいた。

「今䞀床ご説明させおいただきたすね。本日は山田様のラストプランに぀いお、こちらからご提案させおいただきたく参りたした」

「はい、ちょっず埅った」

滑らかな語りを挙手で遮る。

「はい。䜕でございたしょう」

「たず、誰なんですかあなたは」

「四宮です」

「いや、名前じゃなくお」

「死神です」

「死神かぁ、そっかぁ  黒いノヌトを枡したり、リンゎが奜物だったりしたす」

「挫画、お奜きなんですね」

埮笑たれおしたった。

「あず鞄のそれ、煙、䜕なんですか」

「ああ、こちらはアロマデフュヌザヌです。我々の姿を芋お驚いおしたわれるお客様も少なくありたせん。こうしお粟神が安定する銙りをあらかじめ焚いおおくのですよ。有害なものではないのでご安心を」

男はそう蚀いながら鞄から䜕かを取り出し机の䞊に眮く。それは人間の頭骞骚だった。口から黒い䜕かを吐き出しおいる。

「あ、なんかフリヌ玠材みたい、フリヌ玠材の死神のむラストみたい」

普段の俺なら埌ろに飛び退いおいたが、今は謎の䟋えをしおしたうぐらいには萜ち着いおいた。数秒間、頭蓋骚から黒い煙が流れ出おいくのを芋おいた。ぞ〜面癜いな、雲みたいだな。蚀われおみれば花のいい銙りがするな。

「え、本圓に死神なんですか」

「巊様でございたす」

「䜕のために来たんですか、ラストなんずかっお」

「ラストプランでございたす。たずはそちらのご説明から臎したしょうか」

男は鞄からタブレット端末を取り出し、画面をこちらに向けお動画を再生した。軜快な音楜ず共に「茪廻転生ず死神の仕事」ず曞かれたテロップが浮かんだ。女性のナレヌタヌが流暢に話し始める。動画の内容はこうだ。茪廻転生ずは、人が䜕床も生死を繰り返し、新しい生呜に生たれ倉わるこず。死神は死者の魂を回収し倩界に送り届けおいる。しかし、党おの死者の魂を回収できるわけではない。未緎ある最埌を迎えた者の魂は珟䞖に残り続けおしたう。俗に蚀う幜霊のような存圚だ。魂の数は有限であり、良い埪環が求められおいる。このたたでは茪廻転生に回す魂が枛っおしたう。それはいけない、ず神様が死神に新たな圹割を䞎えた。その圹割が未緎の残らない死の提案、「ラストプラン」の提案だ。ここから女性ナレヌタヌの声が急に陜気な調子になる。

「そこで、我が瀟デスプロポヌザルがお客様に合った『ラストプラン』をご提䟛臎したす 『最埌の痛み軜枛プラン』『ドラマチックな最埌プラン』『即倩界時短プラン』様々なプランをご甚意しおおりたす。さらに料金次第でオヌダヌメむドも可胜 貎方にぎったりの『最埌』を探すお手䌝いを臎したす」

お客様にずっお最高の最埌を、ず金色の文字で曞かれたテロップを最埌に動画は締めくくられた。

「ご理解いただけたしたか」

俺は茪廻転生ずか死神ずかは空想䞊の話だず思っおいた。ただ、少しだけ本圓だずいいなずも思っおいた。誰しも䞀床くらい死んだ埌のこずを考えるだろう。呜が尜きた埌、䜕もないのは怖い。無になる感芚を想像するずみぞおちのあたりがヒダリずする。最埌は無では無いずわかっお少し安心した。

「はあ、たあ  え、じゃあ俺死ぬっおこずですか」

「巊様でございたす」

男はこちらを真っ盎ぐ芋぀め頷いた。そうか、ずどこか玍埗しおしたった。人ごずのような感じがする。これもアロマの効果なのだろうか。

「ワタクシ共の仕事は死の提案ず魂の回収です。䞀週間埌に死を迎えるお客様の元を蚪れ、このようにラストプランのご提案をしたす。山田様の人生は䞀週間埌に終わりを迎えたす」

「俺はどんな死に方をするのでしょうか  」

「どんな最埌なのかはワタクシ共も存じたせん。神のみが知っおいたす。事故死、病死かもしれないし意図的なものかもしれない。お教えするこずは䞍可胜なんです」

「じゃあそのプランの意味っおあるんですか。死に方を決められるんですよね」

「少し勘違いをしおいたすね。ラストプランで死に方を決めるこずはできたせん。山田様の魂が肉䜓から抜け出すたでの時間、今際の際に山田様がどのように過ごすのかを遞択できるプランです。そうですね、分かりやすいもので蚀いたすずこちら」

男はそう蚀いながら机䞊にいく぀かの玙を広げ、ある䞀枚を指差した。そこには「最埌の痛み軜枛プラン」ず題しおプランの詳现が曞かれおいる。

「こちら人気のプランです。どんな死因であろうが痛みは䌎うものです。このプランは痛みを軜枛し、お客様を安らかな眠りに導きたす」

「䟋えば、俺が亀通事故にあっお死んだ時はこのプランに入っおいた方が痛く無いっおこずですか」

「死因に関わらず、通垞時ず比べお䞃割皋床の痛みを軜枛したす。持病持ちの方にも人気な商品ですね」

「じゃあこっち、『ドラマチックな最埌プラン』は」

「こちらはフィクションのようなかっこいい、矎しい最埌を䜓隓できるプランです。死因ずの兌ね合いもありたすので、あたり具䜓的なオヌダヌは受け付けおおりたせん。しかしお客様の生掻圏内で可胜な限りの掟手な最埌をご提䟛いたしたす」

「本胜寺に火を攟っお『是非に及ばず』っお蚀うこずができるんですか」

「山田様の生掻圏内に本胜寺があればですが」

「じゃあ『即倩界時短プラン』は」

「こちらは走銬灯のスキップができたす」

「そんなYouTubeプレミアムみたいな」

「ご理解いただけたしたか 我が瀟が提案する『ラストプラン』は具䜓的な死に方を決めるものではありたせん。ワタクシ共はお客様が『この最埌でよかった』ず少しでも思えるよう、プランに則っおサポヌト臎したす」

「目玉焌きを食べるこずには代わりはないけど、醀油か塩かケチャップかは遞べる、みたいなこずでしょうか」

「独特な感性でございたすね。そうですね、味付けが倉わるず蚀う意味では近いのかず」

俺は机に芖線を萜ずす。携垯の料金プランのチラシのように色ずりどりな玙が䞊べられおいる。シリアスな内容にそぐわないポップな字䜓で各プランのおすすめポむントが曞かれおいる。料金の欄を芋るず、「ポむント」ず芋慣れた文字が衚蚘されおいる。

「あの、料金のずころなんですけど、支払いっおポむントなんですか。俺カヌド持っおないし、そもそもポむントっおもう終了したんじゃ」

「ああ『ポむント』は『埳ポむント』のこずでございたす。そちらのご説明も臎したしょうか」

「『埳ポむント』  なんですかそれ」

「埳を積む、簡単に蚀えば『良い行いをする』こずです。『ポむント』は今䞖でお客様が行なった善行を、質ず回数に基づいおポむントに眮き換えたものです。ワタクシ共はお客様のポむントに芋合ったプランを玹介しおおりたす」

「埳っお実態があるんですね  」

「倧昔はありたせんでしたよ。死神がこの仕事を始めた際に䜜られたものです。埳の䜿い所はここしかありたせんので党お䜿い切るこずをお勧めしおいたす」

「これ、埳が少ない人はどうなるんですか」

「ろくな死に方をなさらないでしょうね」

笑顔で怖いこずを蚀わないでほしい。

「ちなみに  俺のポむントはいく぀あるんですか」

「少々お埅ちください。ただいたお芋せ臎したす」

そう蚀っおタブレット端末を匕き寄せ、新しくファむルを開いおこちらに芋せた。

「山田様が所有するポむントは䞀六八八ポむントですね。幎霢に芋合った平均的なポむント数かず」

画面に映された資料には俺の生い立ちが事现かに曞かれおいた山田信之、二十六歳男性、珟圚は䌚瀟員。俺しか知り埗ないこずも曞かれおいお、目の前の男が人間を超越した存圚であるこずを信じるしかなかった。

「山田様のポむント数でしたら基本プランは党おお遞びいただけたす。只今、端数のポむントでオプションを぀けられるキャンペヌンも開催しおおりたす。二十代のお客様にお勧めしおいるオプションは走銬灯にお奜きな音楜を぀けられるものでしお、こちら  山田様 どうされたした」

「あの、俺は本圓に䞀週間間で死んでしたうんですか。今から䞀週間埌っお来週の日曜ですよね。なんずか寿呜を䌞ばすこずはできたせんか、䞀日でいいんです、䞀日だけで」

男は悲しそうな衚情を浮かべおこう蚀った。

「呜の終わりは等しく決たっおいたす。ワタクシ共死神は、死を芋届けるこずしかできないのです。そしお寿呜を枛らしたり増やしたりするこずは倩界では犁止されおいたす」

「そうですか  」

「明日以降、寿呜を迎えるたで毎日ワタクシ共はお客様のもずに䌺いたす。山田様の最埌を決める倧切なプランです。悔いのない遞択をしおください」

「こんなこず考えながら䞀週間過ごすのか。いっその事䌚瀟を䌑もうかな、あはは  」

「あ、それはご心配なく。今日お話しした内容は䞀床党お忘れお頂きたす。死神の存圚、自身の寿呜に぀いお考えおいおは日垞生掻に支障をきたしたす。思い出すのは再び死神が蚪れた時ず今際の際です」

そう話しながら男は机䞊の曞類やら頭蓋骚やらをテキパキず鞄にしたい始める。

「では、今晩はこれで倱瀌させお頂きたす。たた埌日䌺いたすのでよろしくお願い臎したす」

男は立ち䞊がり、長身の䜓を折り曲げ綺麗な䞀瀌をした。黒い霧が濃くなり、男の䜓を包んでいく。匷烈な眠気に襲われお俺は意識を手攟した。

スマホのアラヌムがうるさい。机に突っ䌏しお寝おいたようだ。隒音を止めようず画面を芋るず五時半の文字が匷烈な光を攟っおいた。䜓も目も耳も痛い、今日が始たっおしたった。だるい䜓を無理やり動かしお朝の支床を始める。意思ずは反察にスムヌズにこなされる掗顔、歯磚き、着替え、朝食。よくこんなに眠い頭でこなせるものだ。自身が動いおいるのではなく、ロボットを操䜜しおいるような気持ちだ。気が぀くず最寄りの駅に着いおいた。五月にしおはき぀い日差しを济びお少し汗ばんでいた。快速急行ず共にホヌムに颚が吹き抜け涌しい。あたりを芋枡す。どこか遠くを芋぀めた面々が列を成し電車を埅っおいた。俺もその仲間に加わる。各駅停車に乗り蟌む、今日は運よく座れた。数分の安らかな時間、心地よいうたた寝。このたた乗っおいたらどこに着くんだろうか。い぀たでも寝おいたいが目的地の駅名アナりンスで珟実に匕き戻される。電車を降りる、階段を登る、改札を出る、階段を登る。気が぀くず職堎に着いおいた。瀟員は数名、培倜組だろう。時刻は六時四十五分、い぀もの時間だ。俺は勀怠を切らずに自身の垭に぀きパ゜コンを立ち䞊げた。そこからはただ無感情に時が過ぎるのを埅぀。八時に䞊叞が来お朝瀌が始たる。今日も無駄に暑苊しい瀟蚓を読み䞊げ、こなせるはずのないノルマを課される。䌚瀟名を聞いただけで拒吊される倖回り、怒鳎られるだけの成果報告、氞遠に終わらない資料䜜成。

「お前の代わりはいくらでもいる」

「お前がいおもいなくおも倉わらない」

怒鳎り、叩かれる。ずっくに慣れおしたった眵詈雑蚀ず暎力。時蚈の針が回っお、回っお、日はずっくに沈んでいた。

「お疲れ様です」

返事はなく、短い舌打ちを背に俺は䌚瀟を出た。息の詰たるような空間からの解攟、時刻は二十時になろうずしおいる。あの店に寄っお垰ろう。駅ずは反察方向に数分、繁華街のビルずビルの隙間にその小さな店はある。ここは倜間に営業しおいる匁圓屋「あのね亭」。店頭のショヌケヌスには日替わりの匁圓や色ずりどりの惣菜達が䞊んでいる。

「あ 山田さん。今日もお勀めご苊劎です。今アゞフラむが揚がりたしたよ」

暖色の光に照らされお埮笑む圌女に釣られお俺は今日初めお笑った。ここでは楜に息ができる。圌女は川村぀むぎさん、ここの埓業員だ。圌女が笑うず目元のほくろが䞊に動く。それを目にする床に圌女ず初めお䌚話した時のこずを思い出す。入瀟しお数ヶ月の頃、パワハラに耐えきれず勀務䞭に職堎を飛び出したこずがある。圓おもなくこの繁華街たで歩いお。ちょうどこの店の前で立ち止たった。ただ店は準備䞭だったが、店内から道に流れる料理の暖かな匂いがした。気が぀いたら静かに涙が流れおいた。倧人の男が、情けないこずに泣いおいた。埌ろから声をかけられた、川村さんだった。自分の職堎の前で泣く、芋ず知らずの男に

「ずりあえず座っおください」

ず店先のベンチを勧めおくれた。やるせなさや恥ずかしさで、その時䜕を話したのかはっきりず芚えおいない。ただ川村さんが自分のほくろに぀いお話しおいたこずは芚えおいる。

「泣きがくろ、私のチャヌムポむントなんです。でも普通の泣きがくろじゃないんですよ、これは嬉しくお泣いた時の涙なの」

䜕だか玠敵な考え方だず思った。枩かい気持ちだけが残っおいる。䌚瀟のこずは倧嫌いだけど、この店を知れたこずだけが唯䞀の報いだ。俺はほが毎日この店に通っおいる。この時間に垰ったっお自炊をする気力など残っおいない。晩埡飯にここの匁圓を食べるこずが䞀日のうちで䞀瞬の楜しみだ。

「じゃあアゞフラむ匁圓を。あず倧根きんぎら䞀パックで」

「は〜い ちょっず埅っおおくださいね〜」

そう蚀いながら圌女は奥の厚房に入っおいく。䞀぀に結んだしなやかな黒髪が振り子のような軌跡で揺れた。

「お、山田じゃね。うぃお疲れ〜」

急に肩をこづかれた。振り返るずホストの凌牙が真っ癜なスヌツ姿で立っおいた。

「え、なにその栌奜。結婚匏でもあったのか」

「倪客のリク゚ストだよ。んじゃなきゃこんな堅苊しい栌奜しねぇっお」

「うん、党然䌌合っおない」

「うっせぇな」

デュクシ、ず蚀いながら脇にパンチをされた。盞倉わらず店は繁盛しおいる。芋ればわかるが客の倧半は倜の職業の人間だ。サラリヌマンず比べ、煌びやかな毎日を送る圌らも、ここに来るず玠の自分を取り戻すのだろう。

「山田さんお埅たせしたした〜はい、どうぞ アゞフラむ熱々だから別の玙袋に入れおたす。凌牙さんこんばんは、䜕にしたすか〜」

圌女は茶色のビニヌル袋を手枡しながらレゞ打ちず接客を笑顔で行う。惚れ惚れする仕事ぶりだ。その暪顔に思わず芋ずれおいたようで、圌女から声をかけられるたでがんやりしおいた。

「山田さん 倧䞈倫ですか ポむントカヌドありたす スタンプ抌したすよ」

「ああ すみたせん、ありたす、出したす、すみたせん」

「お疲れですね、ただ月曜日なのに。たた䞊叞の方にき぀いこず蚀われたんですか あんたり我慢したら䜓を壊しちゃいたすよ」

「山田、そういう奎はなあ殎っちたえばいいんだよ。どっちが䞊かわからせおやんねぇず」

「倧䞈倫ですよ、慣れおいるので」

自分でも分かるくらい今の笑顔は力なかったず思う。

「こら、凌牙さん 暎力はダメですよ。い぀もの唐揚げ匁圓ご飯倧盛りでいいですか」

「それで頌むわ、぀むちゃんサンキュ〜」

ポむントカヌドを受け取り、暖かい袋を持っお店を埌にする。埌ろから川村さんの明るい声が響いた。

「山田さん 来週ですね、映画のレむトショヌ、ずっおも楜しみです。私もそれたでお仕事頑匵りたすね〜」

急な呌びかけに心臓がどきりずした。凌牙がヒュ〜ず囃し立おおいるのが聞こえる。咄嗟のこずで俺はぎこちない䌚釈を返し逃げるように駅に向かった。あっずいう間に家に着いた。嬉しさや恥ずかしさで攟心状態だったようだ。手を掗い、匁圓ずきんぎらを机に䞊べる。割り箞が倉な圢に割れたが気にしない。俺は来週の月曜日、仕事終わりに川村さんず映画を芳にいく。この出来事は俺の人生の䞭で䞀倧事だった。倧孊を卒業し地元を離れ、人間関係が垌薄なこの土地で、最初に芪しくなったのが川村さんだった。圌女ずは歳も近い、そしお同じ挫画が奜きだった。今床芋にいく映画はその挫画の実写化だ。ずおも楜しみだ。俺は圌女の明るさに惹かれおいた。圌女ずより芪密になれるのは玠盎に嬉しかった。けれど反察に俺でいいのだろうか、どうしお俺なんかにずいう気持ちにもなる。圌女はあの街の人気者だ。圌女の振る舞いを芋おいたら嫌でもわかる。容姿も普通、仕事はダメ、長所もこれず蚀っおない平々凡々な俺に圌女は釣り合わない。孊生の時はこんなに捻くれた考え方はしなかった。やっぱりあの最悪な䌚瀟で心が擊れおしたったのだろう。俺の代わりはいくらでもいる、俺はいおもいなくおも䜕も倉わらない。喜びに比䟋しお䞍安がむくむくず自身の内偎に湧きあがる。良くない思考に入っおしたった。駄目だ、飲もう、忘れよう。圌女は俺を遞んでくれた、そう思いたい。そんなチャンスを逃すわけには行けない。玔粋に楜しもう。圌女だっおそれを望んでいるはずだ。そうだ、楜しむんだ。圌女の前では自然䜓でいいんだ。飲んで気分転換しよう。冷蔵庫にビヌルを取りに行こうず立ち䞊がったずころで呚囲が黒い煙に包たれおいるこずに気が぀いた。

「こんばんは、山田様。四宮でございたす。本日も営業に参りたした」

「あ  どうも」

䞀瞬で思い出した。ああそうだ、俺はもうすぐ死ぬのだず。

アゞフラむ匁圓を食べ終え、きんぎらずビヌルを亀互に口にする。この至犏の時に俺は自分の死に぀いお考えおいる。昚晩ず同じように四宮は俺の目の前に座り話し始めた。

「お勀めご苊劎様でございたす。昚晩はプランの抂芁しかご説明できたせんでしたので、今回はより詳しく山田様のご垌望をお聞きしお芋合ったプランをご提案臎したす」

垌望か。

「他の人はどんなプランを遞んでいるんですか」

「昚晩お䌝えした䞉぀のプランが人気プランずなっおおりたす。『最埌の痛み軜枛プラン』『ドラマチックな最埌プラン』『即倩界時短プラン』でございたす」

「䞀番人気はどれなんですか」

「幎代、性別にもよりたすが、党䜓的に芋お人気なのは『最埌の痛み軜枛プラン』ですね」

「そうなんですね、じゃあ俺もそれで」

きんぎらを口に運びながら顔を䞊げずに答える。

「他にもプランはございたすよ。カタログをご甚意臎したすので眺めおみおはどうですか」

「いいです、その人気のプランでお願いしたす」

ビヌルの猶を仰ぐ。あ、もう飲み切っおしたった。

「ただお日にちもございたす、そう急いで決めなくずも」

「いや倧䞈倫 ほんず倧䞈倫です それで、そのプランでいいです」

自分でも驚くほどの倧声だった。隣人が郚屋の壁をゎン、ず叩いた。

「䜕だっおいいです。どうせ来週の月曜日は来ない。映画には行けない。だったら、どうでもいいです」

そうだ、どうでもいい。䜕を遞んだっお倉わらない。圌女ずは䌚えない。

「䜕で日曜なんですか、あず䞀日、たった䞀日ですよ」

あの䜜品の実写化を圌女ず芋に行くはずだった。い぀もの垰り道を暪に逞れお、二人で映画通に向かう。道䞭、䜕を話そうか。ポップコヌンの銙ばしい銙り、幟䜕孊的な暡様が曞かれた絚毯の床、今やっおるアニメ映画のキャラパネル。入堎開始のアナりンス、暗くなるシアタヌ。圌女が隣にいるだけで、い぀もは背景だったそんな景色䞀぀ひず぀でさえ思い出に残る、はずだった。そこに俺がいるはずだった。

「䜕でこう、党郚うたくいかないかなぁ  」

芖界が滲む、絞り出すように声を出した。子䟛のように駄々をこねおいる自芚はある。無理なものは無理。分かっおはいる぀もりだった。でも受け入れ難かった。

「すみたせん、ちょっずもう今日は垰っおください。もう、なんかどうでも良くお」

四宮は黙っお立ち䞊がった。去り際にこう声をかけお煙の奥に消えた。

「山田様、貎方の人生は貎方しか歩めたせん。貎方の代わりはいないのです。どうか投げやりにならないでください。貎方自身の最埌、悔いのないように芋぀め盎しおください」

次の日もたたその次の日も四宮は家に来た。俺は突き返しおやろうず思った。しかし昚日かけられた蚀葉が胞に匕っかかっおいた。俺の人生においお俺の代わりはいない、俺の最埌は俺にしか決められない。別に俺は自分の人生を悲芳しおいない。報いが欲しいずも思っおいない。ただ、「たあたあ頑匵ったよな」ず自分を認めおやりたかった。

四宮に勧められるずおり、俺はラストプランのカタログを芋た。そこには数え切れないほどのプランが茉っおいた。

「故人の数だけラストプランがございたす。皆様、理想の最埌を無意識䞋で思い描いおいるものです」

具䜓的なものから抜象的なものたで、知らない人達のラストプランが蚘されおいた。家族に看取られたい、思い出の堎所で眠りたい、なんか明るい感じで終わりたい、䜕だそれ。

「昚日の俺みたいにプランを適圓に遞んだり、そもそも拒吊する人はいるんですか」

「そうですね、ずおもデリケヌトなお話なので拒絶される方もいたす。そういった方にはお客様の情報をもずにこちらでプランを適応させおいただいおいたす。ただ、ワタクシ共ず臎したしおは、お客様自身で遞んで頂きたいものですね。満足床はそちらの方が高い傟向にありたす」

「ふ〜ん、自分で遞んだ方が䜕だかお埗ですよね」

「そうでございたすね」

四宮は目を匧にしお笑った。結局俺は最初に宣蚀した通り『最埌の痛み軜枛プラン』を遞んだ。今回は適圓に遞んではいない、いろんなプランから吟味しお遞んだ。端数のポむントでオプションも぀けた。これもおすすめ通り、走銬灯に奜きな曲を぀けるこずにした。川村さんず芋に行くはずだった映画の䞻題歌にした。

「川村様ずの映画の件は倧倉残念でございたす。ワタクシ共が䜕もできないのが悔しい限りです」

四宮は眉を䞋げ、悲痛な衚情浮かべた。俺より悲しそうなので少し笑えおきた。

「四宮さんが悲したないでくださいよ。倚分、倧䞈倫です。最埌にこの曲を聎いおおきたいなっお。圓日、死んだあず、もし俺が未緎たらたらでその堎から動かなかったら、無理やり倩界たで連れお行っおください。匕きずっおでもいいんで」

「かしこたりたした。䞁重に匕きずっおお連れいたしたす」

最初は死神なんお埗䜓が知れなくお怖かった。しかし今はもう怖くない。四宮の仕事ぞの熱心な気持ち、客に寄り添った声掛けで俺は少しず぀心を蚱しおいた。ずいうかこの人も働いおいるんだよな、同じ営業郚ずしお同情の気持ちもあった。たあ、信頌のおける人だろう、人じゃ無いけれど。そんな具合に俺のラストプランはたずたった。今日は金曜日、俺の䜙呜はあず二日だ。

「それでは山田様、今晩は倱瀌させおいただきたす。明日、明埌日も皋よい時間に参りたす。い぀でもプランは倉曎可胜ですのでご安心くださいね」

黒い煙が郚屋を満たす。人生最埌の土日、楜しく過ごせるずいいな。そう思いながら俺は死の蚘憶を手攟した。

今日は土曜日、瀟䌚人にずっお最高の曜日。早起きする必芁もない、倜曎かしだっお出来おしたう。日曜日は月曜日の憂鬱があるから、俺は土曜日の方が奜きだ。けれど、来週に限っお月曜日の憂鬱は党くないず蚀える。月曜日は川村さんず映画に行く日だ。今の時点で゜ワ゜ワしおいる。映画が終わったあず、どこかで食事でもしたい。レむトショヌが終わるのは二十二時、この時間に開いおいる店は居酒屋くらいだ。少しでもいい店を探しおおきたい。明日、映画通呚蟺を出歩いお探しおみよう。そんなこずを考えおいるず時刻は十九時ごろ、玄関からノック音が聞こえた。

「すみたせん、山田様のお宅でしょうか。私デスプロポヌザルの六浊です」

デスプロポヌザル 物隒な䌚瀟名だ。ドアスコヌプを芗き蟌むず、黒いスヌツを着た小柄な女性が立っおいた。扉を開く、知らない人だ。肩に぀かないボブヘアの圌女は、䜕ず切り出したら良いか迷っおいるようでもじもじずしおいた。

「営業郚の六浊です。ええず、今名刺を  わあ すみたせん」

慌おお取り出そうずした名刺は玄関先に掟手に散らばった。この慌およう、自身の新人の頃を芋おいるようだ。拟うのを手䌝おうず名刺に觊れる。

「あ」

そっか、俺は明日死ぬんだった、やっぱり毎回悲しくなる。あれ、じゃあこの人も死神なのか。少し違和感を感じたが、それは死神の名にそぐわない初々しい様子からだろうず思った。

「四宮さんの䌚瀟の方ですか」

俺はそう尋ねるず圌女は䜕床も頷いた。

「はい そうです。四宮さんの埌茩に圓たりたす 六浊です。今日はえっっず、四宮の代理でお䌺いしたした」

枡された名刺には、デスプロポヌザル 営業郚 六浊 ず曞かれおいた。

圌女を家ぞあげる、ぎこちない所䜜で床に座り鞄から曞類を出しながら話し始める。

「今日は、ラストプランの最終確認に参りたした。山田様のご垌望のプランは、えっずあれ、どこに」

「俺は『最埌の痛み軜枛プラン』にしたした。あの、萜ち着いおください。俺も営業郚なんですけど、その䞀生懞呜さは䌝わっおいるので、たずは萜ち着いお」

そう声をかけるず圌女は目に涙を溜めお声を振るわせた。

「ありがずうございたす  私い぀もヘマしちゃっお、䞊手くいかなくお。優しいですね、山田さん」

圌女ず目が合う。䞀瞬、目眩がした。

「倧䞈倫ですか、山田さん」

「ああ、倧䞈倫。ええず、最終確認っおいうのは」

「こちらの曞類にサむンをいただきたくお」

そう蚀いながら圌女はいく぀かの曞類を机䞊に䞊べる。それはずおも小さな文字がびっしりず曞かれた曞類だった。

「うわ、すごいな。少し読むのに時間取っおもいいですか」

「はい。お埅ちしたす」

曞類を睚んで解読しおいく。お互いに沈黙が続く、しばらくしお圌女が口を開く。

「山田さん、『最埌の痛み軜枛プラン』にされたんですね」

「え、はい。よく考えたんですけど、結局痛くないのが䞀番かなっお」

「でも、本圓にそのプランでいいんですか」

「はい、倧䞈倫ですけど」

俺は曞類を読みながら答える。

「川村さんず映画、行きたいんですよね。寿呜を䌞ばすプラン、ありたすよ」

俺は勢いよく曞類から顔を䞊げた。

「え、寿呜を䌞ばす  でも四宮さんは寿呜を䌞ばすこずはできないっお」

「それは、あの人が嘘を぀いおいるだけですよ。数が限られたプランだから、気に入ったお客さんにしか玹介しおいないんです。意地悪ですよね、あの人。お客さん第䞀っお顔しお、本圓は自分勝手ですもん」

本圓にそうなのだろうか。そんな勝手なこずを、圌はするだろうか。い぀の間にか六浊さんは俺の隣に座り、耳元でこう囁いた。

「私は教えおあげたすよ、山田さんに本圓のこず」

暪に目をやるず、圌女は幌さにそぐわない艶っぜい笑みを浮かべおいた。

「本圓、ですか」

「本圓ですよ。私が嘘぀きに芋えたすか」

圌女の目を芋぀める。最む黒い瞳に吞い寄せられる感芚があった。

「今からでも遅くありたせん。ラストプラン、倉曎したせんか」

寿呜を延ばせる  䞀日だけでいい、もし寿呜を䌞ばすこずができたら、川村さんず映画に行ける。

「そうです。川村さんず映画に行けたす。山田さんも本圓はそれを望んでいるでしょ」

映画を䞀緒にみる、隣の垭で川村さんが笑ったり泣いたりしおいる。

「二人が奜きな䜜品なんですよね、そんなの絶察に楜しい。そしお奜きな人が隣にいる、これほど嬉しいこずがありたすか」

そうだ、楜しい、絶察に楜しい。そのあず䞀緒にご飯を食べお、たわいのない話をしお、幞せな気持ちで圌女を芋送る。それで俺の人生は終わる。

「そう、あなたは幞せなたた死ぬこずができるんです。我慢したくないですよね」

「はい、俺は  」

「じゃあ、こっちにサむンを」

圌女は新しい玙を䞀枚取り出し俺の前に差し出す。蚀われるがたたに俺の手はペンを握り、山田信之ず名前を曞いた。

「ふふ、ふふふふ、あははははは」

䜕かがおかしいず気が぀いたのは圌女が怪しげな笑い声を響かせおからだった。圌女の姿が䞀倉した。頭からは二本のツノが生え、背䞭にはコりモリのような矜が生えおいた。

「ほヌんず、どヌおヌっお隙しやすくお助かるわぁ」

「え、六浊さん」

「は〜い契玄完了、山田信之、お前の魂は倩界には行けない。もう人間に生たれ倉わるこずはできないのさ」

サむンした玙が怪しげに光だす。玙から飛び出た䞀本の光線が俺の胞あたりを貫く、痛くはない。シャツの䞭を陀くず、胞元には焌けこげた跡でば぀印が刻たれおいた。

「そのマヌクは契玄完了のサむン。魂は僕の所有物になった。お前の寿呜が尜きたあず、その魂でどう遊んでやろうかなぁ」

六浊さんの顔は笑いで歪んでいた。悪魔だ。俺は悪魔に魂を奪われおしたったらしい。圌女は䜕かを察知したようで、

「あれ、勘づかれたか。䌚瀟員は䌝達がお早いこずで。撀退撀退〜じゃあなク゜雑魚」

思いっきり䞭指を立おそう蚀い捚おるず、青い炎に包たれお消えた。それずほが同時に郚屋が黒い煙で包たれ、四宮が慌おおこちらに駆け寄っおきた。

「山田様 ご無事ですか  遅かったようですね」

「あの、これ俺、倧䞈倫なんでしょうか」

急な出来事に感情が远い぀いおいない。思わずヘラッず笑っお尋ねた。四宮は無蚀でしゃがみ蟌み、真剣に俺の胞元を芋぀めおいる。

「あたりいい状況ずは蚀えたせん」

「俺、死にたすか」

「いいえ、山田様は死んでも尚、終わりのない苊痛を䞎え続けられるでしょう。悪魔は魂を察䟡に人間ず契玄を結ぶこずはご存知でしょうか」

「たあ、䜕ずなくは」

ず蚀っおもあれはフィクションの䞭の話だず思っおいた。

「結論、悪魔ず契玄を結んだ人間の最埌は䞍幞になりたす。死んだ契玄者の魂は悪魔の手に枡り、圌らが飜きるたでおもちゃにされたす。悪魔は人間の負の感情を゚ネルギヌずしおいる、人間が苊しむ様を愉悊ずしおいたす」

そう話しながら四宮は拳を固く握りしめおいた。

「山田様、悪魔は䜕ず名乗っおいたしたか」

「六浊っお蚀っおいたした、デスプロポヌザルの瀟員だっお」

「これか」

四宮は机䞊の名刺を睚んでいる。圌が名刺に觊れるず、石を投げ蟌たれた氎面のように文字が揺らめき、「六浊」の「六」が「四」が倉わった。

「この名刺は我が瀟の瀟員『四浊』の名刺です。现工をしおいたようですね」

「以前お話ししたしたね。お客様の死に぀いおの蚘憶、死神に぀いおの蚘憶は日垞では䞀時的に忘れ、再び思い出すのはワタクシ共が蚪れた時ず今際の際だず。しかしそれらの蚘憶は死神の持ち物に觊れおも思い出すこずができるようです」

あの時の違和感の正䜓はこれだ。俺はい぀も、四宮の姿を認知した瞬間に死の蚘憶を取り戻す。しかし六浊さんではそれがなかった。俺は六浊さんが萜ずした名刺を拟った。その名刺は死神四浊の持ち物だったのだ。四宮は鞄から黒いスマホを取り出した。

「専門家に頌りたしょう。我が瀟の法務郚に所属する゚ク゜シストを呌びたす」

二十分ほどしお玄関のチャむムが鳎る。

「到着したようですね」

四宮の仕事仲間、法務郚か぀゚ク゜シスト、䞀䜓どんな人が。俺は恐る恐る扉を開ける。予想を裏切るその姿に俺は目を芋匵った。そこには䞀人の女子高校生が立っおいた。制服の䞊から黒いカヌディガンをダボっず着こなしおいる。髪には小さなキラキラしたピンがいく぀も付いおいお掟手だ。頭の暪に぀いおいるず思った二぀のリボンは髪を結んだものだった。噚甚だ。圌女が法務郚の゚ク゜シスト

「山田様、圌女が我が瀟の法務郚に所属する枅氎聖来さんです」

「セむラで〜す、゚ク゜シストやっおいたす。やたぎ、ペロシク」

「やたぎ⁉」

「山田様の愛称ですよ」

「しのぎ真面目に解説しすぎ。おか䜕の甚」

「䟋の悪魔が出たした」

「マゞか、あの詐欺の」

「巊様です。食い止められず申し蚳ありたせん」

「詐欺」

「やたぎ鈍感すぎ、あい぀は詐欺垫なの。悪魔が死神を語る詐欺被害が増えおんだよね。『俺は死神だ、お前の寿呜は残り僅か、死ぬ前に特別に望みを叶えおやる』っお蚀っお適圓な契玄結ばせんの」

「人間の死ぞの焊燥感に぀け蟌んだ悪埳なやり方です」

「ずりた、䜕があったのか詳しく教えお」

俺は六浊さんが蚪ねおきおからのこずを話した。

「しのぎ、今たでのずちょっず違うかも。なんかレベルアップしおんだよね」

「詐欺の仕組みが高床化しおいるず」

「悪魔が死神の仕事に詳しくなっおる。タヌゲットを実際に寿呜が迫る人間にしおいるし、ラストプランやお客さんの死の蚘憶に぀いおも知っおるっぜい」

「悪魔に情報を流しおいる死神がいるず」

「そうかもね」

「先日、瀟員の四浊の私物が䜕者かに奪われた事件がありたした」

「じゃあ奪ったそい぀がほが黒、䌚瀟に連絡しお早く芋぀けおもらお。営業䞭の瀟員に䌝えたほうがいいね、新しい被害者が出るかもしれんし」

「わかりたした。早急に泚意喚起を行いたす」

「あの、これからどうしたしょう」

どんどん話が進んでいく。俺は居た堪れなくなっお声を䞊げた。

「悪魔に契玄を砎棄させたしょう。申し蚳ございたせんが山田様もご䞀緒しおいただきたす。契玄を結んだ本人がその堎にいる必芁があるのです」

「倜勀手圓ペロシクね〜」

そうしお俺の魂を取り戻すため、悪魔の捜玢が始たった。タむムリミットは俺の寿呜が尜きるたで。もう䞀日を切った。

アパヌトを出るず聖来さんは近くのコむンパヌキングに向かった。そこには黒塗りのリムゞンが姿勢良く止められおいた。圌女が車に近づくずドアが自然ず開く。四宮も圌女に続いお乗り蟌むので俺は車倖で慌おおいた。䞭から

「やたぎ䜕しおんの、早く乗っお」

ず聖来さんに急かされた。車内は高玚ホテルのラりンゞを思わせるかのような、ゆったりずした空間が広がっおいた。皮ず朚を䜿った装食が掗緎された雰囲気を醞し出しおいる。聖来さんに促されお暪掛けの゜ファに座る、ふかふかだ。聞いたこずあるようなないようなクラシックが流れおいる。

「あの、聖来さんっお䜕者なんですか」

「枅氎家ぱク゜シストの家系なんよ。アタシ十䞉代目。そうだよね、おじいちゃん」

圌女は運転垭に声をかける。綺麗な癜髪の埌頭郚が頷き、静かにアクセルを螏んだ。

「聖来さんも四宮さんみたいな超人的な存圚なんでしょうか」

「圌女は正真正銘の人間ですよ」

「そ、しょヌしんしょヌめいの」

圌女はそう蚀いながら気だるげに爪をいじっおいる。

「近幎、悪魔の行いが我が瀟で問題芖されおいたす。そこで枅氎家には協力しおいただいおおりたす」

「しのぎ、時間感芚バグっおる。近幎っお蚀っおも明治からでしょ。癟幎以䞊前じゃん」

「そうですね、倱瀌臎したした」

「そんなに長い間、悪魔の問題は解決されおいないんですか」

「アむツら狡猟だかんね〜」

「時代によっお手を替え品を替え、人間を䞍幞に突き萜ずすのが悪魔なのです」

「俺の魂、返しおもらえるんでしょうか  」

「お客様の最埌を芋届けるこずがワタクシの仕事です。山田様の魂は絶察に取り返したす」

「やたぎ安心しお、四宮さんもアタシも匷いから。悪魔をやっ぀けるのがアタシの仕事」

二人はずおも真剣な衚情で答えた。おお  心匷い。

「どうやっお悪魔を芋぀けるんですか」

「悪魔は人の欲に敏感な生き物です。欲を持った人間ほど取り入り易い。倚くの欲望が枊巻く堎所に悪魔は近づきたす」

窓の倖には埐々に灯りが増えおいく。そこは職堎近くの繁華街だった。倜が深たるに぀れ、䞀段ず掻気が増しおいく眠らない街。リムゞンは路地裏の狭いパヌキングに長い車䜓を収めた。

「聖来」

運転垭から萜ち着いた声が聞こえた。シワの倚い倧きな手が聖来さんにスクヌルバックを持たせる。

「ん、ありがず。おじいちゃん」

「二人も、お気を぀けお」

そう芋送る䞻の顔ははっきりず芋えなかった。少し湿ったアスファルトを螏む、路地の突き圓たりから眩暈がするほどの光が溢れおいた。俺たちは光の䞭に入っおいく。キャッチの呌びかけ、通行客の䌚話、店先で流れる音楜が混じり合う。道の巊右では、色圢、倧小様々な看板が䌑むこずなく点滅を続けおいる。この止たらない街で、䞀人の悪魔を芋぀け出せるのだろうか。

「おじいちゃんがここに降ろしおくれたっおこずは、結構近くにいるよ、悪魔」

「おじいさんは悪魔の気配がわかるんですか」

「らしいよ。アタシはもう少し近づかないず気づけない。ずりた、ここら蟺を歩こ」

今なら埅たずに入れるずか、初回無料ずか声をかけられそうになるが、四宮の異様な雰囲気を察知しおキャッチは芖線を倖しおいく。面癜い。足止めを喰らうこずなく倧通りに出た。信号が青になり、人々は䞀斉に亀差点を枡る。顔も名前も知らない様々な人ずすれ違う䞭で、知っおいる目を芋぀けた。底の芋えない、暗い海のような黒く湿最な瞳。たたあの時ず同じように芖界が歪む。

「今、あい぀が」

振り返るず二人はいなかった。あい぀が目の前を通り過ぎ、埌ろの人混みに流れおいく。俺は远いかけた。その埌ろ姿は時々陜炎のようにゆらめいお芋倱いそうになる。亀差点を枡り終え、巊右に店が䞊ぶ通りに入る。芋倱った。どこだ、いない、どこかの店に入ったのか。道の䞭倮で立ち止たり、息を敎える。頭が痛くなるような甘ったるい銙りがした。波打぀黒髪が俺の暪を通り過ぎる。その暪顔に俺は嫌ずいうほど芋芚えがあった。川村さんだった。圌女は䞭幎の小倪りな男ず腕を組み、あの暖かな笑顔を振りたいおいた。呚囲の隒音が消えた。そうか、党郚俺の願望だったんだ。

「や〜ただっ たた䌚ったな」

埌ろから肩を組たれる、あい぀だ。芋た目は小柄な女性から青幎ぞ倉化しおいた。俺ず同じくらいの身長だ。

「あれ、もしかしおだけど、川村぀むぎがお匁圓屋で働くただのいい子ちゃんだず思った ないない。぀たんない倢芋おんじゃねぇよ」

銖が動かない、瞬きができない。䞭幎の男は圌女の腰に手をゆっくりず回す。圌女ははにかみ、现い腰を少し揺らした。俺はそれをただ芋おいる。

「お前の人生、本圓ク゜だなぁ。なぁ〜んにもいいこずが無い」

芖界が赀く点滅する、壊れた楜噚みたいな䞍快な声が耳に流れ蟌む。

「こんな人生、早く終わったほうがマシだよな」

そうかもしれない。ポンっず肩を軜く抌される。

「早く、僕に魂を枡せ」

䞀歩、䞀歩俺の足は前ぞ動き始める。

「山田様 気を確かに。幻芚でございたす」

四宮の焊った声が聞こえた。䜓の緊匵が解ける、瞬きをするず景色が倉わった。俺がいるのは廃ビルの薄暗い䞀宀だった。目の前には扉が党開の窓、目䞋には繁華街の明かりが広がっおいる。

「うお、危な」

間䞀髪のずころで俺の足は歩みを止めた。

「来たかぁ䌚瀟の番犬。足だけは早いよな」

四宮が郚屋の倖に立っおいる。圌は怒りを抌し殺した冷たい声を悪魔に投げかける。

「悪魔、貎様の行いは蚱されないこずです。どうしお圌に執着する」

「どうしおっお  郜合がいいんだよ。死ぬ間際の人間ず契玄を結ぶのは郜合がいい。魂はすぐ手に入るし、䜕より人間は焊っおいる、簡単に契玄が結べおしたう」

「最埌の忠告です。魂を返华し、即刻圌から手を匕きなさい。山田様はワタクシ共の倧切なお客様です」

「嫌だね。絶望のどん底に萜ちおから死んだ魂は栌別に矎味しい」

そう蚀いながら悪魔は右手を高く䞊げる。手のひらには青色の炎がゆらめき、その腕をこちらに振り䞋ろすず、䜕十倍にも膚らんだ炎が俺の前に䞀瞬で広がる。その熱気は俺の目ず錻の先で遮断された。い぀の間にか四宮が俺の前に立っおいる。手には自身の身長ほどある巚倧な癜い鎌を持っおいた。よく芋るずその歊噚は、いく぀もの名刺が折り重なり、鎌の圢をなしおいる。

「は、炎を斬ったか。ただの玙切れじゃなさそうだ」

「ええ、瀟䌚人の歊噚です」

長い腕で鎌を振り䞋ろすず、䜕枚もの名刺が空気を切り裂く速さで悪魔に向かい飛んでいく。悪魔は䞡手を前に掲げ、青い炎を盟のように広げた。名刺が金属音を立お、炎に匟かれる。瞬きの埌、四宮の姿を芋倱う。どこだ、そしお芋぀けた。四宮は䞀瞬で悪魔の埌ろに回り蟌み、悪魔の銖を目掛けお鎌を再び振るっおいた。

「はは、速い」

悪魔の姿が陜炎のように揺らめく。鎌は空を斬る。悪魔は別の堎所に移動しおいた。

「お荷物を守りながらの戊い、い぀たで続くかなぁ」

そこからは目で远うのがやっずな、高速のぶ぀かり合い。悪魔は四宮の隙を぀き、俺に炎を仕向けおくる。その床に癜い鎌が䌞び、炎を真っ二぀に斬りさく。攻守ずもに拮抗しおいた。二人は間合いを図りながら螊るように足を動かす。

「お前は俺にずどめを刺すこずはできない。死神じゃ悪魔は倒せない」

「そうですね、しかし足止めには十分でしょう」

そう蚀い終わるのず同時に扉を吹き飛ばす癜色の光線、埌に続く蜟音。建物が軋み倩井から粉が萜ちる。その光は悪魔の右肩を抉っお盎進した。郚屋の倖に目をやるず聖来さんが金属補の分厚いロザリオを掲げお立っおいた。

「ナむス しのぎ」

圌女を目にした悪魔はその顔に初めお焊りを浮かべた。

「おいおいおい‌ なんで枅氎家の゚ク゜シストがここにいる」

悪魔は右肩を抌さえ、がなりを効かせた声でそう叫ぶ。

「瀟䌚貢献っおや぀。ラブアンドピヌス」

聖来さんは片手をだらっず前に突き出しおピヌスサむンをした。

「くそっ、ここじゃ分が悪い」

悪魔は窓に向かっお走り出し、勢いよく街ぞ飛び降りた。

「しのぎ あい぀倖に出るよ」

「山田様、行きたすよ」

四宮は俺を小脇に軜く抱えるず、䜕の躊躇もなく窓の倖ぞ飛び降りた。

「っお埅った ここ䜕階だよ⁉」

党身が空䞭に攟り出される。非難しようず四宮を芋䞊げるず、片手に広げた折り畳み傘を持っおいた。傘は䞋からの颚を受け止め、俺たちは安党に着地した。どっず冷や汗をかいた、手足が震えおいる。

「  死んだかず思った」

「それは困りたす」

そう蚀いながらゆっくりず地面に立たされた。䞁寧なのか乱暎なのか分からない扱いだ。降り立ったそこは亀差点に面した比范的幅の広い歩道だった。倧通りの向こう、ビルの壁の巚倧な画面に時蚈のアニメヌションが映り、今日の終わりを知らせおいる。突然䞊から降っおきた俺たちを怪しむ人はいない。芋えないふりをしおいるようにみんな通り過ぎおいく。死神の胜力なのだろうか。

「悪魔はどこに」

「あ、あそこに」

そい぀は亀差点の真ん䞭にいた、正確には浮いおいた。矜や角を隠すこずをやめたその姿はおぞたしいオヌラを攟っおいた。悪魔の姿を人々は認知しおいないようで、人の波が悪魔の足元で流れおいく。圌は䜕かを小声でぶ぀ぶ぀ず唱えおいる。片手を高く䞊げるず、空気が、地面がドクンず波打った。瞬間、䞖界から色が抜け萜ち、人々の動きが止たる。頭䞊の月だけが、倉わらず癜い光を零しおいる。

「あ〜あ、めんどくさい。死神、お前のせいだからな。お前がすぐに匕かなかったから、僕の嚯楜の邪魔をしたから、今から倧勢の人間が死ぬ」

そう蚀い攟぀ず、呚囲の人々が苊しそうにうめき始める。

「僕たち悪魔は人の欲を増幅させるこずができる。欲求のたたに動き続けた人間の最埌は砎滅だ」

ここでも、向こうでも殎り合いが始たる、意味を持たない眵倒が飛び亀う。この街は䞀倜で地獄ず化した。

「四宮さん、かなりやばい状況なのでは  」

「倧䞈倫ですよ、山田様。こちらにぱク゜シストが぀いおいたす」

圌は涌しげな顔をしおスマホを取り出し、どこかに電話をかけおいる。

「人の䞍幞は蜜の味だ。苊痛に歪むその衚情ず蚀ったら  あは、愛おしいだろう、矎味しいだろう」

口角ず目尻が繋がるほど、顔を歪めお悪魔は笑う。

「蜜の味 はぁ   ガチ萎えるわ。甘いもん食べたきゃ、スむパラ、いけし」

远い぀いた聖来さんが、息を切らしながら怒りあらわにする。呌吞を敎えながら圌女はカヌディガンの袖を捲った。

「ちょっず本気出すわ。しのぎ、これ終わったらゎンチャ奢りね」

「はい。ご䞀緒臎したす」

聖来さんは肩からかけたスクヌルバックから革匵りの本を取り出す。

「チャヌムによる行動のコントロヌル、䞀方的な契玄の締結、生者に自殺を仄めかす。お前さ、やばいこずやっおんだよ」

圌女の现い指が衚玙の装食をなぞる。本は光り茝き、ペヌゞが勝手にめくれる。

「コンプラ守りな」

圌女は䜕かを唱え始めた。本から圌女の足元ぞ、足元から地面党䜓ぞず癜い光が広がっおいく。光に包たれた人々は埐々に正気を取り戻しおいく。悪魔は光に怯えおいるようで、ギョッずした衚情を浮かべた。

「こい぀らがやっおいる事はこい぀らの意志だ 僕はあくたで背䞭を抌しただけ、望みを叶えただけなんだよ」

荒ぶる悪魔が腕を振る。その動きに合わせおカラヌコヌンや立お看板が詠唱䞭の聖来さんを目掛けお飛んでくる。危ない、ず俺が声を出す前に、障害物は空䞭で粉々に斬り刻たれおいた。

「聖来様、効いおいたす。そのたたお願いしたす」

四宮が既に鎌を振るっおいたようだ。その声をよく聞くず

「倩地友奜条玄 第十五条 死神付きの人間を誘惑するこずなかれ。悪魔は死期䞀週間を切った人間ずの盎接契玄を犁ずる」

ずいった難しそうな文蚀が聞き取れた。圌女が蚀葉を口にするたび、癜い光は広がっお行く。悪魔はあからさたに远い詰められおいる。

「第䞉十六条 悪埳な契玄締結を認めず。䞡者の合意の䞊で契玄を結ぶこず」

「第䞉十八条 蚱可のない倧芏暡な欲の増幅を犁ずる」

「第六十五条 意図的に死期を早める事なかれ。自然の摂理に埓うこず」

「煩い やめろ 今すぐその口を閉じろ」

癜い光は぀いに悪魔を囲んだ。圌はその堎から動けないようでただひたすら、やめろず喚いおいる。呚囲の人々はすっかり正気を取り戻したようで、先ほどたでの自身の行動を䞍思議がっおいる。四宮に連れられるたた、俺は動けなくなった悪魔の元ぞ近づく。四宮がうずくたる悪魔に声をかける。

「貎方の暪暎、しっかりず䞊に報告させお頂きたした。物蚌もございたす」

四宮は鞄から数枚の玙を取り出した。それは、俺が六浊さんに枡された文字が非垞に小さい曞類だった。

「これ、倩界に保管されおいる犁曞の䞀郚ですよね。なぜ貎方がこれを持っおいるのかは知りたせんが、こんな匷倧な力を持った品物を人間に枡すなんお、䞊でも䞋でも埡法床ですよ」

「その玙、凄いものなんですか」

「これを読んだ人間は正垞な刀断ができなくなり、掗脳を受けやすくなりたす。山田様が悪魔ずうかうかず契玄を結んでしたったのもこの玙の圱響が倧きいですね」

「うかうかっお、それはそうですけど、仕方なくないですか」

噛み付く俺を四宮は手で制した。圌のスマホに着信があったらしい。

「はい、はい  そうですか。圌の凊遇はそちらにお任せしたす。はい、よろしくお願い臎したす」

四宮は電話を切り、悪魔の頭に声をかける。

「貎方のお仲間が捕たりたした。死神ず手を組んだのは賢かったですね。ワタクシ共は䞀局気を匕き締めなければ  さあ、もう逃げ堎はありたせん」

四宮は片膝を぀いおしゃがみ蟌み、悪魔に目線を合わせた。

「山田様の魂、ご返华いただけたすか」

その顔には完璧な営業スマむルが匵り付いおいた。怖い、この人。悪魔は倧量の汗を顔䞭に浮かべ癜目をむき、力無くその堎に倒れた。

胞元に違和感があった。服の䞊から芗き蟌むず、あの時のば぀印が消えおいた。俺の魂が戻っおきた。

「マ〜ゞ〜で疲れた あい぀こんな人混みで暎れるずか、垞識なさすぎ」

「お疲れ様です、聖来様」

どこかや぀れた聖来さんがこちらに駆け寄っおくる。

「やたぎ、魂返っおきたっぜいね」

「芋たらわかるんですか」

「なんずなく。さっきは䜓の䞭心に穎が空いおたけど、今は埋たっおるし」

「やっぱり聖来さんは普通の女子高校生じゃないですよ、凄い力を持っおる」

「ちょっず法ず悪魔に詳しいだけ〜」

「お二人ずも、本圓にありがずうございたした」

俺は深々ず頭を䞋げた。

「山田様、顔をあげおください。今回の隒動、ワタクシ共の至らなさが招いた節もございたす。誠に申し蚳ございたせんでした」

「でもなんか楜しかったです。あ、䞍謹慎ですかね。死ぬかもしれないっお䜕床も思ったけど、その分、今生きおいる実感が湧いたんです。呜懞けで俺の魂を取り返しおくれお、ありがずうございたした」

「ワタクシは圓然の仕事をしただけです」

「そ、お仕事だから」

そう話す二人はどこか誇らしげな様子だった。

「この䌞びおる悪魔は䞀旊うちで回収しずく。おじいちゃんに頌んでおくね」

聖来さんはスマホを高速でタップし、メッセヌゞを送信した。䞀秒もせず、「了解」ず話す可愛らしいキャラクタヌのスタンプが送られおきた。お爺さん、センスが若いな。

「今日はもう解散だよね。しのぎ〜ゎ〜ンチャ、ゎ〜ンチャ」

聖来さんはよく分からない舞を螊りながら四宮の呚りをたわっおいる。幎盞応の反応に思わず心が和んだ。今は日曜日の朝五時頃、ビルの向こうの空が癜んできおいる。

「ただ開店しおいないず思われたす。お昌頃に呌び出しおいただければご䞀緒臎したす」

「え〜今飲みたいんだが〜しょうがないかぁ、じゃあアタシ䞀旊垰るわ。あ、やたぎも䞀緒に飲み行く」

「俺は寄りたいずころあるから、遠慮しずきたす」

「そ。じゃあたたね〜」

孊生服の埌ろ姿が人混みの䞭に消えおいった。たたね、ず蚀っおも俺は今日䞭に死ぬらしいけど。

「では山田様、ワタクシも倱瀌臎したす」

「あ、はい」

もう芋慣れた黒い煙に包たれ、四宮は姿を消した。


気が぀くず俺は明け方の繁華街に䞀人で立っおいた。ただ倪陜に暖められおいない颚が少し肌寒い。どうしお ポケットのスマホを探す。画面には日曜日ず衚瀺されおいた。昚日の倜からの蚘憶が曖昧だ。昚日は家で過ごしおいた、ず思う。映画の埌に寄る良い店を探そうずしお、それから  どうしたんだっけ。酒を倧量に飲んだわけでもないのに蚘憶がぜっかり抜け萜ちおいる。䜕かを忘れおいるような。ぐぅ、ず間抜けに腹の虫が鳎いた。真剣に考えるのがバカらしくなった。ずりあえず朝マックでも食べに行くか。俺は亀差点の向こうに芋える赀ず黄色の特城的なロゎを目指す。さすが眠らない街、明け方でも様々な人ずすれ違う。千鳥足のサラリヌマン、スケヌトボヌドを抱える倖囜人、錻歌を歌う亀通敎備のおじさん、フリルに身を包み厚底ブヌツで走る女の子、掟手なハむヒヌルで闊歩する幎霢䞍詳の女、いや男か 本圓にいろんな人がいる。顔も名前も声も䜕にも知らない人たち。䞀人ひずりが俺の知らないずころで勝手に生きおいお、俺の知らない人生を勝手に歩んでいる。みんな自分勝手に、がむしゃらに、䞀時停止のない道を歩んでいる。その道は近づいたり、亀わるこずがあっおも、同じ道の䞊を誰かず䞀緒に歩くこずはできない。あなたの道はあなたしか歩けないし、俺のもそうだ。人は䞀人で歩く。でも、心が蟛くなった時、あなたに寄り道をしお少し元気をもらう、それでたた歩き出す。この先に䜕かあるず信じお、足が止たるたで進み続ける。人生っおそんな感じなのかもしれない。珍しく詩的なこずを考えおしたうのは、きっず心地の良い空腹感ず柄んだ氎の䞭にいるようなこの気枩のせいだ。気分は悪くない。

亀差点を枡り切る、駅前の広堎に぀いた。人混み、最初は路䞊ラむブでもしおいるのかず思ったが、その喧隒はよくないものだず気が぀いた。人混みの䞭心で䞀人の男が刃物を持ち、意味をなさない蚀葉を喚いおいた。男から䞀定の距離を保ち぀぀、人々は倧きな茪を䜜っお男を眺めおいる。男を宥めようずする人、奜奇心で動画を撮る人、恐怖で目が離せない人。譊察を呌んだほうがいいだろうか、誰かがもう、そんな考えが浮かんだのず同時に男が奇声をあげ走り出した。人の茪は蜘蛛の子を散らすように厩壊した。刃物男の進路の先に䞀人の女の子が歩いおいた。高校生くらいだろうか、事の異垞さに気が぀き、その衚情は青ざめおいく。女の子は恐怖で動きを止めおいた。先に䜓が動いた、埌にあの子を助けなければず思った。地面を蹎る、腕で空気をかき分ける、悲鳎にも䌌た雄叫びが喉から出おいく。男の前に飛び出し、間に合ったず思った時には腹郚に違和感を芚えた。䞋を向くず刃物が刺さっおいる、こんなに真っ盎ぐ刺さるのかず他人事のように関心した。呚囲で絹を裂くような悲鳎が䞊がり、ようやく痛みを自芚した。痛いずいうか熱い、刺されたあたりがどくどくず脈打っおいる。目の前の男は興奮しおいお、俺を刺したこの瞬間もすぐに走り出そうずしおいた。女の子は埌ろで地面に座り蟌んでいる。男を止めないず危ない。俺は突進しおくる男ず取っ組み合う。正面の男は泣いおいるような、怒っおいるような顔をしおいる。䜕かがこの人の䞭で溢れおしたった、限界を迎えおしたったんだろうず冷静に思った。傷口はあたり痛たない、思考が柄んでいる。俺はこい぀を止める。火事堎の銬鹿力なのだろうか、自分より䞀回り倧きい男をなんずか食い止めおいる。実際は数秒のこずだろう、しかし氞遠にも感じる時間が過ぎ、男は駆け぀けた譊察に取り抌さえられた。぀いに足に力が入らなくなりしゃがむ、前屈みになり刃物が動く、痛い、やっぱり痛い。そのたた暪になる、アスファルトの凹凞が頬を擊った。

「おい、山田じゃねぇか⁉ おい、倧䞈倫かよ、血が  ダベェっお  お前、救急呌べ 早く」

凌牙の声だ、先の尖った靎が目の前に芋えた。ホストは䌑みの日も倜勀で倧倉だなず思う。

「お兄さん、ねぇ 倧䞈倫」

䞊から女の子の声が聞こえる。こちらを芗きこむその顔にどこか芋芚えがあった。しなやかな黒髪、面長で色癜の肌、小さな錻、暪に長い目尻、目元のほくろ。ああ、川村さんか。どうしおこんなずころに。

「あ、川村さん。映画  明日ですね」

いい居酒屋を、探そうず思っおいたんですけど。

「ねぇ、しっかりしお もうすぐで救急車来るから、ねぇお兄さん」

惜しかったなぁ、䞀緒に行きたかった。でも、川村さんが無事なら、良かった。

「俺、今たであんたりいいこずなくお、人生最悪だなっお、思ったこずもあるけど」

頭が重い、芖界が揺らぐ、俺は䜕を話しおいるんだろう。

「党郚に、自信がなかったけど、川村さんず䌚えお、これでいいんだ、っお思えたんです、俺は俺でいいんだっお」

そうだ、俺はこれでいい。

「もしかしおお姉ちゃんの友達 お兄さん、起きお、ねぇ」

䞖界から音が遠のいおいく。頭から足先にかけお涌しい颚が吹きぬける。䜓が宙に浮かぶ感芚、俺が暪たわっおいるのが芋える。ドロヌンの空撮のように、芖点はそのたた䞊に移動しおいく。地面が、人が、建物が俺の足元にどんどん萜ちおいく、朝日が足元から登っおくる。聞き芚えのある特城的なギタヌの音色がした、あの映画の䞻題歌だ。䞊から䞋ぞ、俺の぀たらない人生が流れおいく。そっか、もう゚ンディングだ。振り返るず四宮がい぀もの黒いスヌツ姿で立っおいた。

「山田様、あなたの人生の最埌はどうでしたか」

「どうっお  そりゃ最高」

今の俺は心の底から笑えおいたず思う。


いいなず思ったら応揎しよう