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夏の京都旅 ariko(料理家)

小説家、エッセイスト、画家、音楽家、研究者、俳優、伝統文化の担い手など、各界でご活躍中の多彩な方々を筆者に迎え「思い出の旅」や「旅の楽しさ・すばらしさ」についてご寄稿いただきます。笑いあり、共感あり、旅好き必読のエッセイ連載です。(ひととき2026年8月号「そして旅へ」より)

 京都旅というと街が桜色に染まる春や紅葉燃える秋を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。酷暑で知られる夏の京都で観光するのはなかなかハードだが、私にとっての京都はずっと夏のイメージだった。というのも私の母は京都で生まれ育った。結婚を機に東京に移り住んだので、里帰りをするのはいつも子どもたちが夏休みの時期だったのだ。

 呉服屋を営む母の実家があったのは烏丸御池だったので、都ホテルのガーデンプールで遊んだ帰りに寄ったイノダコーヒーのフルーツパフェ、夕方に馴染なじみの仕出し屋から届けられるガラスの器に涼しげに盛り付けられたハモの落とし、母の同級生である二条駿河屋さんの竹筒に入った水羊羹など、子ども心に京都に来ると美味しいものが食べられるとワクワクしていたものだ。祇園祭の宵山の提灯ちょうちんや暗い山腹に赤々とともる五山の送り火とともに、子どもの頃から食いしん坊だった私の思い出はいつも美味おいしいものと結びついている。

 15年ほど前に母が亡くなって以来、すっかり京都から足が遠のいてしまっていたのだが、女友だちとの旅をきっかけに京都との縁が復活。やっぱり京都は楽しくて美味しい。それまでのブランクを埋めるかのように足繁く通うようになった。もちろん東寺のライトアップされた夜桜や出町柳駅から叡山えいざん電車に揺られて訪れた修学院離宮の紅葉も素晴らしかったのだが、昨年久しぶりに訪れた夏の京都がやっぱりしっくりきた。仲よしのうつわ屋さんと一緒に鴨川沿いのアートスペースで行ったイベントに料理で参加したのだが、準備のための買い出しの時から暑すぎた。買い出しに来た八百一からの帰り道、陽炎かげろうが揺れる昼下がりに大きな荷物を抱えて歩いているだけで頭がくらくらする。たまらず飛び込んだのは大きな暖簾のれんがたなびく京菓子の大極殿本舗だ。お目当ての琥珀こはく流しはガラスのうつわに浮かんだみずみずしい寒天が見るからに涼しげ。ちゅるんと蜜ごとすくって口に運べば、火照ほてった身体にスーッと染み入り、大袈裟おおげさでなく生き返った心持ちがした。目の前にある坪庭の鮮やかな緑や金魚が泳ぐ大きな水鉢にも癒やされる。まばゆいいほどの日差しとひっそりとした室内の薄暗さのコントラストが京都の夏ならではの風景だ。そのしつらえでひんやり涼しげに感じさせる京都の夏の暮らし。何を食べるかはもちろん大切なのだが、夏ならではの空気感を楽しむのが大人ならではのたしなみ(十分大人だけど)。古い京町家を上手にリノベーションしたレストランやカフェ、ブーランジェリーなどがそこかしこにでき、散歩しているだけでも楽しい。以前は一見さんお断りのお店もたくさんあったが今はどこもウエルカムなのもうれしい限りだ。昔ながらの居酒屋さんやあっさり美味しい京中華などはもちろん、朝採れの京野菜を使った地産地消のレストランなど行きたい店のリストは増えるばかり。久しぶりに川床にも行ってみたいし……。二泊三日くらいでは全然時間が足りない。たまにはゆったり夏の京都を満喫したいがやっぱりあれもこれもと欲張ってしまいそうだ。

ariko(ありこ)
雑誌の編集ライターを経て、現在は料理家として活動。日々の食卓の様子や美味しいもの情報などをポストするインスタグラムのフォロワー数は24万人を超える。「arikoの食卓」シリーズを始め、多くのレシピ本とともに、『添乗員ariko まだまだ日本のおいしい旅』(講談社)などの著書がある。

著者の近刊
添乗員ariko まだまだ日本のおいしい旅

出典:ひととき2026年8月号

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