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【空海弘法大師】四国遍路の歴史 空海とめぐる八十八の霊場

空海生誕1250年を記念した特別展が東京国立博物館で開催されています。香川の豪族に生まれ、四国八十八ヶ所を開創したという伝承のある空海ですが、空海とお遍路のつながりの実際のところはどうなのでしょうか。
書籍『空海に秘められた古寺の謎 弘法大師と辿る高野山と真言宗』(山折哲雄編)より

 四国にある空海ゆかりの八十八の寺院を四国八十八ヶ所はちじゅうはちかしょといい、四国八十八ヶ所を巡礼することを四国遍路へんろという。巡礼者は空海と二人連れであることを意味する「同行二人どうぎょうににん」と書かれた菅笠すげがさをかぶり、詣でた寺院(札所ふだしょ)には氏名を記した御札おふだを順次奉納してゆく。一番の霊山寺りょうぜんじから八十八番の大窪寺おおくぼじまで、八十八ヶ所をすべて巡ると行程は一四〇〇キロになり、歩いて回ると二カ月はかかる。現在ではバスや車を利用した巡礼が増えたが、昔ながらに徒歩を選ぶ巡礼者もあとを絶たない。

 このような四国遍路の習俗はいつからみられるようになったのか。

 空海が厄年やくどしの四十二歳のときに四国八十八ヶ所を開創したという伝承があるが、実際にはこの時期の空海は京都を本拠に密教布教にはげんでおり、空海開創説は俗説にすぎない。また、空海は四国出身で、青年期には四国で修行にはげんだことは明らかだが、じつは、そのことが四国遍路のルーツと直接結びついているわけではない。

 四国遍路に関する最古級の記録とされるのは、平安時代末期の十二世紀後半に後白河ごしらかわ法皇が撰した『梁塵秘抄りょうじんひしょう』に収められている歌だ。

「我等が修行せしやうは 忍辱袈裟にんにくけさをば肩に掛け 又おいを負ひ 衣はいつとなくしほたれて 四国の辺地へちをぞ常に踏む」

 四国の海岸沿いを行脚する修行者の姿が詠まれているが、注目すべきは「辺地」という言葉だ。仏教民俗学者の五来重ごらいしげる氏によれば、「辺地」は正しくは「辺路へじ」と書かれるべきもので、海辺を廻る路をさし、これが「遍路」のルーツだという。そして古来日本には、四国にかぎらず海に接する島や半島に「辺路」が存在し、その辺路をめぐり歩くことを修行とする原始信仰があったという。有名なのは熊野三山を結ぶ「大辺路おおへじ」で、熊野三山信仰が確立される以前に、紀伊の地では辺路修行が行われていた。四方を海に囲まれた四国も同様で、空海出生以前の四国において海岸線を周遊する辺路修行の伝統がすでにあったはずだと、五来氏は説いている。

 辺路修行としての四国回遊は、いつから空海を追慕する「遍路」となったのか。

 平安時代から鎌倉時代にかけての史料には四国遍路と直接関わるものはみられないが、時宗じしゅうの開祖となった一遍いっぺん(一二三九~一二八九)が、廻国修行のなかで四国を行脚あんぎゃしていたことは注目される。一遍は伊予いよ国(愛媛県)菅生すごうの岩屋に参籠さんろうしているが、『一遍聖絵ひじりえ』によればここを空海修行の古跡とする伝承があったらしく(のちに札所第四十五番の岩屋寺となる)、一遍の遊行ゆぎょうには弘法大師信仰を背景とした四国遍路の原形をしのばせるものがある。

岩屋寺 空海は菅生の岩屋で神通力を備えた法華仙人という女性に出会ったという伝承がある(愛媛県上浮穴郡久万高原町)

 とはいえ、空海の名は当時はまだ僧侶や貴族たちのあいだでしか知られていなかった。ようやく辺路修行と弘法大師信仰とが融合して「四国遍路」が誕生したのは、十六世紀はじめごろのことといわれている。庶民にも大師信仰が浸透していたこの時期には、巡礼者の姿には行者や僧侶だけでなく在家ざいけ信者も混じるようになり、八十八ヶ所の霊場もおおよそこの時期には確立している。

 江戸時代に入ると巡礼の案内書が刊行され、遍路宿や道標が整備され、四国遍路は庶民のあいだでも広く行われるようになる。江戸後期には物見遊山ものみゆさん的な色合いも帯びるようになった。現代に息づく遍路風俗は、この時代にほぼ完成したのである。

編集=山折哲雄

──空海の故郷・讃岐や高野山にとどまらず、留学先の中国、そして伝説として伝わる全国のゆかりの古寺・霊場にもふれる本著『空海に秘められた古寺の謎 弘法大師と辿る高野山と真言宗』をぜひご一読ください。

<本書の目次>
第1章 空海の生涯I――生誕から入唐まで
コラム1・密教修法のシステム

第2章 空海の生涯II――帰朝から高野山入定まで
コラム2・真言宗のその後

第3章 高野山を歩く
金剛峯寺/奥の院/壇上伽藍/慈尊院/丹生津比売神社 ほか
コラム3・高野聖

第4章 空海ゆかりの古寺
東寺/神護寺/乙訓寺/善通寺/四国霊場 ほか
コラム4・四国遍路の歴史

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