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東京は、世界でいちばん世界を旅できる街になった。

世界を旅すればするほど、不思議なことに東京が面白くなってきた。

仕事も兼ねて66カ国を旅してきた。旅を重ねるほど、「次はどこへ行こう」と考えるだけでなく、「東京にも、あの料理を出す店があるだろうか」と探すことが増えた。

きっかけは、いつも帰国後だった。

旅先で感動した料理は、妙に記憶に残る。市場で食べた一杯の麺、地元の人で賑わう食堂の煮込み、小さなバルで出会った郷土料理。帰りの飛行機で「あれをもう一度食べたい」と思ったことは、一度や二度ではない。

帰国すると、その料理を東京で探す。

けれど30年前、20年前は、期待どおりだったことはあまりなかった。

もちろん、昔から素晴らしい外国料理の老舗はたくさんあった。それでも現地で食べたあとでは、「ちょっと違うな」と感じることも多かった。

それは、僕が30年前、アメリカ留学中に食べた和食とどこか似ていた。寿司も天ぷらもある。見た目もそれらしい。でも、日本人が食べると何かが違う。そんな感覚だった。

ただ、それは料理だけの問題ではない。

旅先には、その国の空気があり、街の匂いがあり、聞き慣れない言葉が飛び交い、そこで暮らす人たちがいる。僕たちは料理だけを食べているのではなく、その国の文化まで一緒に味わっている。

だから、日本でまったく同じ感動を再現することはできない。それは今でも変わらない。

ところが、この数年で「あれ?」と思うことが増えた。

海外で心を動かされた料理を東京で探すと、「これ、本当に東京なのか」と驚く店に出会うようになった。味だけではない。店内を飛び交う言葉や、そこに集まる人たちまで、現地の記憶を呼び戻してくれる。

旅を懐かしむためではなく、旅の続きを楽しむために通いたくなる。そんな店が、確実に増えている。

最近、「海外旅行は高くなった」とよく言われる。航空券もホテルも値上がりし、以前ほど気軽には行きにくくなった。

だから東京で代用しよう、という話ではない。

東京そのものが、この30年でまったく違う街になったのだ。

僕がアメリカへ留学していた1995年ごろ、日本に暮らす外国人は約136万人だった。2025年末には、初めて400万人を超えた。

日本に暮らす外国人が増えたことで、日本人の好みに合わせすぎなくても店が成り立つようになった。母国の味を求める人が日常的に食べに来る。現地の料理を知る旅行者も、海外で本場を経験した日本人も来る。中途半端では通用しない。

インターネットの影響も大きい。

以前は現地へ行かなければわからなかった料理を、今では動画やレシピを通して日々学べる。現地で何が流行り、どんな店に人が集まっているのかまで、東京にいながら見ることができる。

しかも、その情報に触れているのは料理人だけではない。

客もInstagramで現地のレストランを見て、YouTubeで作り方を知り、Googleマップで地元の人の評価まで読んでいる。作り手だけが「本場」を知っていた時代ではなくなった。作る側と食べる側の距離が縮まったことで、東京の外国料理も大きく変わったのだと思う。

さらに面白いのは、「中華料理」「インド料理」という大きなくくりではなく、地域ごとの料理まで楽しめるようになったことだ。

湖南料理、雲南料理、浙江料理。パンジャーブ料理、南インド料理、ハイデラバード料理。一つの国の中にも、まったく異なる食文化がある。その違いを、東京にいながら味わえる。

以前なら現地へ行かなければ出会えなかった料理が、東京で普通に食べられるようになった。

東京に世界中の料理が集まったのではない。

世界中の「今」が、東京に集まるようになった。

この変化に気づいてから、旅の楽しみ方も変わった。

海外で感動した料理を東京でもう一度食べ、料理人と話し、その土地の歴史や文化を知る。すると、旅のときには気づかなかった背景まで見えてくる。次にその国を訪れたときには、以前とは違う景色が見えるはずだ。

逆に、東京で食べた料理から旅が始まることもある。

ミャンマー料理店でラペットゥ、いわゆるティーリーフサラダを食べたとき、「この料理が生まれた国を見てみたい」と思った。それがきっかけで、実際にミャンマーへ行った。

旅先で食べた料理を東京で探すこともあれば、東京で出会った料理から次の旅先が決まることもある。

昔は、旅は飛行機に乗ってから始まり、帰国したら終わるものだと思っていた。今は、東京から始まる旅もあれば、帰国してから続いていく旅もある。

だから僕にとって東京は、海外旅行の代わりではない。

旅の続きを楽しめる街であり、次の旅が始まる街でもある。

東京は、世界でいちばん世界を旅できる街になった。


P.S.

食べログマガジンで月1回、「旅する東京」という連載を書いている。

そこで紹介しているのは、単に美味しい店ではない。その一軒を入口に、その国の歴史や文化を知り、いつか現地へ行ってみたくなる。そんな店を紹介している。


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