愛すべき道民の生態〜“春の大型連休”編
世は、春の大型連休中である。
この時期になると、娯楽の無い北海道の年寄り……矍鑠(かくしゃく)たる道内の年配者は、“国家機密レベルの隠密行動”を開始する。
朝も早よから“人知れず”、“コソコソと”、“秘密裏に”、家族にすら行き先を告げぬまま、山へと向かう。
要は、“山菜採り”である。
“作戦”は、前夜から始まっている。
夕方の気象情報で翌日の好天を確信した瞬間、寝室にせんべい布団を“緊急配備”。寝酒という名の燃料をグビリと煽り、とっとと意識を“シャットダウン”する。
草木も眠る丑三つ時……。
むっくりと起き出し、ゴソゴソ……と、冷蔵庫の食い物を漁る。行動様式は、ヒトというよりゴキブ……(以下、自主規制)に極めて近い。その音で、家族も叩き起こされる。
フルアーマー(防寒着)を“装着”し、型落ちのSUVに乗り込み、“戦地”へと急行する。
行き先は、墓場まで持っていくのがこの世界の“鉄則”である。
手帳にはいつも、“旅立ち”とメモしてある。
熊除けの鈴、爆竹、携帯ラジオ、そして心の拠り所である経典(?)を装備。
その出立ちは、最早“特殊部隊”か、はたまた只の“不審者”か。
重装備の重みに膝を笑わせながら、林道の入り口に到達する。
ん……?何やら、何奴かの気配が……。
「むっ、あれは……!?」
同型のSUVが駐車されている。先を越された……!
よし、何奴かがあの斜面を制圧したなら、こちらは沢へと向かうしかあるまい。 いい歳掻っ払ったド田舎者共……歴戦道民たちの、不毛極まる意地の張り合いである。
ヒグマの恐怖と戦い、家族の食卓分と、僅かな保存分の行者ニンニクを“命懸け”で採取。
日が高く昇る頃、泥だらけの体で“凱旋”の途に就く。
50km先の自宅を目指し、アクセルを踏む足にも力が入る。
……が、ここで残酷な現実が、この道民を待ち受けている。
帰路、近所のスーパーに立ち寄ると、そこには『行者ニンニク(栽培)一束398円』という無慈悲なポップが踊っている。
「栽培……、398円とな……」
疲労と共に、激しい徒労感に襲われる。
さらに、帰宅後の下処理という名の地獄が待っている。
指先を真っ黒にし、悪戦苦闘した果てに、
「来年は絶対に自粛すんべ……」
……などと、心に固く誓うのだ。
しかしこの道民、昼間に惰眠を貪り、夕方が来ると、止せばいいのにまたテレビの気象情報をチェックしている。
翌日の好天を確信した瞬間、例によって例のごとく、寝室にせんべい布団を敷き、寝酒を飲(や)り、日暮れと共に床に就く。
で、家族の迷惑を顧みずド深夜に起き出し、ゴソゴソと食い物を漁り、タラの芽を求めて50km離れた『オレのヤマ』へ“逆戻り”する……。
……かくして、この無限ループに耐え、性懲りも無く山へ向かう変態性……情熱がなければ、“春の大型連休中の道民”という重責は、務まらないのであった(!?)
私有地への立ち入りをせず
野生動物の出没に十分注意し
必要最小限度の採集に留めるべし。
〜後記〜
あ、この文章、秋の連休のときにでも、“きのこ狩り”でそのまま使い回せるな……(←いや、なんでもございません……)。
