あの夏の記憶|短編小説| 短編動画|MiniMaxH3|DomoAI|PR
※本作の動画は、DomoAI Creative Partner Programの活動の一環として制作しています。

その年の夏休み、僕は父の田舎へ行くことになっていた。
遠方ということもあって、帰省することは滅多にない。
だから、今年はそういう年なのだろうと思っていたのだけれど、出発はずいぶん急だった。
数日後の予定だったはずが、夕方になって突然「今から行く」と言われ、慌ただしく荷物をまとめて家を出た。
どうしてそんなに急ぐのか、理由は教えてもらえなかった。
車に揺られているうちに、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。
*
目が覚めたときには、もう祖母の家に着いていた。
懐かしいような、でもほとんど知らないような家だった。
小さい頃に一度来たきりだと聞いている。
覚えていないのも当然だ。
祖母はそんな僕に向かって、にこにこと笑いながら言った。
「今日は夏祭りがあるから、行っといで」
そう言って渡された小さなお小遣いを握りしめ、僕は教えられた神社へ向かった。
迷うことはなかった。
浴衣姿のカップルも、子どもの手を引く親子連れも、同じくらいの年頃の子たちも、みんな同じ方向へ歩いていたからだ。
やがて、神社の境内へ続く石段が見えてきた。
その途中で、不意に声をかけられた。
「おまつり、いくの?」
振り向くと、白い髪の少年が立っていた。
僕より少し年下に見える。
淡い色の浴衣を着て、頭には狐の面をのせていた。
誰だろう、と思った。
でも次の瞬間には、その少年は当たり前みたいに僕の手を取っていて、僕もなぜかそれを振り払えなかった。
「こっち」
引かれるままに石段を上る。
境内には夜店が並び、祭囃子が響いていた。
提灯の明かりが揺れ、焼きそばや綿菓子の匂いが混ざり合って、むっとするほど夏だった。
少年は、物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回していた。
夜店を覗き込んでは足を止め、また思い出したように僕の手を引く。
その横顔は無邪気で、さっきまで知らない相手だったことが不思議なくらい、僕は自然にその隣にいた。
鳥居が見えるところまで来た、そのときだった。
突然、音が消えた。
祭囃子も、人の笑い声も、足音さえも。
何もかもがすっと遠のいて、目の前の景色が墨に溶かしたみたいに黒く滲んだ。
夜店は変わらず並んでいる。
人も大勢いる。
祭りの景色は、そこにある。
――なのに、違った。
人々はみな、面で顔を隠していた。
狐。
翁。
般若。
見たこともない、白い面。
さっきまで笑っていたはずの顔が、ひとつ残らず覆い隠されている。
息が詰まった。
胸の奥を、黒い水みたいな不安がじわじわと満たしていく。
おそるおそる隣を見る。
白髪の少年もまた、面で顔を覆っていた。
「お祭りだよ」
面の奥から、さっきと変わらない声がした。
「いこうよ」
冷えた指先が、僕の手を引く。
その瞬間。
周囲の人々が、一斉にこちらを振り向いた。
だめだ。
理由はわからない。
ただ、自分の中の何かが、はっきりと告げていた。
この鳥居をくぐってはいけない。
声を出してはいけない気がした。
僕は黙ったまま、つながれた手を強く握り返した。
そして今度は、自分のほうへ、その手を引いた。
一歩。
引き返すように足を踏み出す。
すると再び、墨を流したみたいに景色が塗り替わった。
次の瞬間、祭囃子が戻っていた。
夜店の明かり。
行き交う人々。
笑い声。
何もかも、元通りだった。
白髪の少年も面をつけていない。
さっきまでのことが、まるで嘘みたいに、きょとんとした顔で僕を見上げていた。
そのとき、ひゅう、と細い音が夜空へ昇った。
花火だった。
ぱっと大輪の光が開き、赤や青や金の色が少年の頬を染める。
僕もつられて空を見上げた。
とても綺麗だった。
もう一度、隣を見たとき――
そこに少年はいなかった。
代わりに、僕の手の中にだけ、誰かの手を握っていた感触が残っていた。
身体を揺さぶられて、僕は目を覚ました。
「起きた? 着いたよ」
母の声だった。
目を開けると、そこは車の中だった。
窓の外はすっかり明るい。
夕方に出発したはずなのに、いつの間にか朝になっている。
夢だったのか。
そう思った。
けれど、妙に現実味のある夢だった。
祖母の顔も。
知らないはずの家も。
神社の石段も。
夜店の匂いも。
あまりにはっきりしていた。
「早く降りて」
母は、切羽詰まった声でそう言った。
車を降りた僕は、その場で足を止めた。
そこは、祖母の家ではなかった。
白い壁の、大きな建物。
――病院だった。
父は車を駐車場へ回し、母は僕の手を引いて受付のほうへ急ぐ。
ほどなくして父も合流し、三人で無言のまま廊下を進んだ。
その途中で、僕はようやく思い出した。
父には兄がいること。
祖母の家で、その夫婦が一緒に暮らしていること。
二人の間には、子どもが一人いること。
僕と年の近い、いとこ。
その子は身体が弱く、生まれてからほとんどを病院で過ごしているのだと、昔に聞いたことがある。
僕があまり祖母の家へ行かなかったのは、きっとそのためだった。
個室の前で、両親の足が止まった。
閉じた扉の向こうから、誰かの嗚咽が聞こえる。
昨日、急いで家を出た理由を、僕はそのときようやく理解した。
母がそっと扉を開ける。
白いシーツ。
窓辺の淡い光。
静まり返った室内。
ベッドのそばまで入ったところで、僕の視線は、そこに置かれた小さな手に吸い寄せられた。
細くて、白い手だった。
その手を見た瞬間、胸の奥で何かが静かにほどけた。
僕は、その手を知っている。
昨夜。
夏祭りの中で僕の手を引き。
そして最後に、僕が引き返した――
あの手だった。

あとがき|30秒の映像から「異説」をつくるまで
YouTube Shortで制作した30秒のショート動画『あの夏の記憶』から、短編小説へと物語を広げました。
もともとの映像は、白髪の少年との夏祭りの記憶を、どこか懐かしく、少し不思議なものとして描いたものです。
今回そこへ追加したのが、小説の中で描いた「境界が揺らぐ瞬間」でした。
祭囃子が消えること。
同じ祭りのはずなのに、人々が面で顔を隠していること。
少年自身も狐面で顔を覆っていること。
そして、少年に引かれていた手を、今度は主人公のほうから握り返し、こちら側へ引き戻すこと。
怪異そのものを強く見せるというより、
「綺麗だった記憶の中に、あとからひとつだけ違和感が残る」
そんな感覚を目指しています。
既存の30秒動画は壊さず、「異界」だけを追加する
今回の方針は、最初から全編を作り直すことではありませんでした。
既存の30秒映像を土台として残し、鳥居の手前で一瞬だけ現れる「異界」の場面だけを追加する。
最終版は約37秒です。
つまり、元の作品の流れや白髪の少年の印象をできるだけ維持したまま、物語上どうしても必要になった数秒だけを増築する形にしました。

最初の動画生成では、必要な要素が一度に揃わなかった
異界の追加シーンには、短い時間の中でいくつもの条件があります。
少年の狐面は顔を覆っている。
背景の人々も面をつけている。
その人々が一斉にこちらを見る。
主人公は少年の手を掴み返す。
そして、墨が画面全体を流れ、元の世界へ戻る。
最初は、これらをひとつの動画生成だけで成立させようとしていました。
ところが実際には、背景の群衆が薄くなったり、狐面の位置が意図どおりにならなかったり、墨が「世界を塗り替えるもの」ではなく、少年にまとわりつく黒い帯や物体のように解釈されたりしました。
短いクリップだから簡単、というわけではありません。
むしろ、元映像との接続まで含めて考えると、数秒の中に守るべき条件が集中していました。
そこで、動画を何度も一発生成し続けるのではなく、まず「何を固定したいのか」を静止画に分解することにしました。
3枚の参照画像に役割を分ける
最終的に用意した参照画像は3枚です。
1枚目は、先ほどの「通常世界」の基準画像。
2枚目は、通常の祭りが異界へ変わる途中を示す「遷移ブリッジ」。
3枚目は、主人公の手が画面へ入り、少年の手を掴む瞬間です。
それぞれに別の仕事を持たせました。
1|通常世界
開始と終了の基準です。
怪異へ入る前と、異界から戻ったあとを同じ画へ戻すことで、「別の場所へ移動した」のではなく、同じ場所が一瞬だけ裏返ったように見せます。
2|異界への遷移ブリッジ
通常世界の構図を残しながら、低彩度の水墨画のような世界へ変化させました。
少年は狐面で顔を覆い、背景の人々も面をつけています。
この画像は、生成時には元映像と左右が逆になりました。
ただ、画質や人物の造形、通常世界と異界が半分ずつ混ざっている感じは、その画像がいちばん良かった。
そこで再生成はせず、画像そのものを左右反転して元映像の向きへ合わせ、鏡文字になった「祭」の文字だけを修正しています。
反転した結果、異界側では浴衣が右前になりました。
通常なら直すところですが、今回は「彼岸側だけ、ほんの少し世界の理屈が反転している」と考え、そのまま残しました。

3|手を掴み返す
もう1枚は、主人公の一人称視点で、少年の手を掴む瞬間です。
ここで大切なのは、主人公がただ誘いに応じて手を取るのではないこと。
それまで少年に引かれていた主人公が、今度は自分の側へ引き戻そうとする。
その方向が読める構図を優先しました。
そして、この「手」は動画の演出だけではなく、小説の終盤にもつながっています。
病室で主人公が少年を認識する手がかりも、顔ではなく手です。

元動画も、5秒だけ切り出して参照にした
静止画だけでなく、元の30秒映像から白髪の少年を追う部分も参照にしています。
ただし、そのまま長く渡したわけではありません。
動画参照には15秒までという制限がありましたが、今回はさらに短く、約5秒まで切りました。
理由は、元映像の後半にある「少年が振り返る動き」を新しい生成へ持ち込みたくなかったからです。
最後が後ろ姿のまま終わる位置まで削り、
少年の同一性
浴衣の揺れ
カメラが少年を追う感覚
祭りの空気
アニメーションのリズム
だけを参照させました。
構図やエンディングの動作まで動画参照へ任せず、開始と終了は静止画側で固定する役割分担です。
Omni Referenceでは、開始と終了を同じ画像へ戻す
追加シーンでは、開始画像と終了画像に同じ「通常世界」の画像を指定しました。
設計上の流れは、
通常世界 → 異界 → 手を掴む → 通常世界
です。
異界へ入る時と戻る時には、薄い墨が画面全体を流れるように指定しました。
ここでいう墨は、煙でも、生き物でも、少年にまとわりつく何かでもありません。
水に溶いた墨が紙へ広がるように、世界そのものを書き換える境界として使いたかったものです。
また、異界では狐面が少年の顔を覆い、元の世界へ戻れば、通常世界の参照どおり頭の上へ戻る。
面の位置も、世界が切り替わったことを示すサインとして扱いました。
でも、最後は「生成だけ」で完成させなかった
ここが今回の最終工程で、当初の予定から変わったところです。
異界の場面を詰めていく途中で、生成に使えるクレジットにも限りが出てきました。
意図した条件がすべて揃うまで、同じ数秒を何度も生成し直し続けることはできません。
そこで、生成で全部を解決することをやめました。
生成した異界素材の中から、使える瞬間だけを残す。
不要な動きや意図から外れた部分は切る。
必要な尺だけを細かく分割し、前後をつなぎ直す。
最終的な異界の場面は、CapCut上でかなり細かく切って再構成しています。
これは「生成が成功した一本をそのまま挿入した」のではなく、
生成した素材を、編集素材として使った
という方が近いです。
今回の完成版を見ると、追加した異界はひと続きの映像に見えますが、その裏側では、生成結果の中から物語に必要な部分だけを選び、タイミングを詰めて接続しています。
クレジットが足りないから妥協した、というよりも、途中から「もう一度ガチャを回す」より「手元にある良い部分を編集で成立させる」ほうが作品として確実だと判断しました。


音が消える時間も、編集でつくる
追加シーンの音声は生成していません。
完成版では、異界へ入るところで、それまで聞こえていた祭りの音を落としています。
異界の中心部分は、ほぼ無音。
そして元の世界へ戻ると、祭りの気配と花火の音が戻る。
小説の、
「突然、音が消えた。」
という一文を、映像でもそのまま境界にしました。
声を新しく生成しなかったのは、少年の声質まで別の生成へ委ねるより、映像と静寂だけで成立させるほうが今回の場面には合っていたからです。
結果的に、怪異を説明する台詞を足さず、音が消えること自体を違和感として残せたと思います。
生成と編集、どちらを主役にするか
今回いちばん実感したのは、生成AI動画では「一回の生成で完成形を出すこと」だけが正解ではない、ということでした。
人物の一貫性。
元映像とのつながり。
手の向き。
面の位置。
群衆の存在。
世界が切り替わるタイミング。
短い場面でも、守りたいものはたくさんあります。
そのすべてを毎回プロンプトだけで解決しようとすると、生成回数もクレジットも増えていきます。
今回は、
参照画像で固定するところは固定する。
動画参照は役割を絞る。
生成で取れた良い部分は残す。
足りないところは編集でつなぐ。
という形に落ち着きました。
DomoAI / Seedance 2.5で素材を作り、最後はCapCutで作品として組み直す。
「AIに一本の完成動画を出してもらう」というより、AIを素材制作の工程へ組み込み、人間側で最終的な意味とリズムを決める制作になりました。
小説から増えた数秒の異界が、元の30秒の記憶を少しだけ違って見せてくれたなら、今回の追加制作は成功だったと思います。
制作
動画生成:DomoAI / Seedance 2.5
動画編集:CapCut
小説・構成・編集:夏目羊
※本作はDomoAI Creative Partner Programの活動の一環として制作しています。

おまけ
普段、GPTで使い放題(5時間制限はありますが)してる習慣が禍いし、前半でクレジット配分ミス。
後半、わずかな生成ミスも許されない残高に…。
ギリギリまで設計してから回しました…😇

また、次の更新で
お会いできると嬉しいです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
\\\٩( 'ω' )و ////
↓↓↓夏目羊活動まとめ↓↓↓
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