逆転の創作、そこからの気付き
「男女逆転もの漫画」で思い浮かぶ作品は?
…読者の皆様の頭の中にも、
いくつかの作品が思い浮かぶかと思います。
本記事では、次の4つの漫画を軸に、
男女逆転ものについて考察します。
◆①1953年~『リボンの騎士』(手塚治虫さん)
◆②1972年~『ベルサイユのばら』(池田理代子さん)
◆③1987年~『らんま1/2』(高橋留美子さん)
◆④2004年~『大奥』(よしながふみさん)
1つ目の手塚治虫さんの
『リボンの騎士』は異色の作品です。
1953年に連載開始。1967年にアニメ開始。
読者層を少女に想定した娯楽雑誌は
明治時代の後期からすでに創刊されていました。
ただ、現在でイメージされるような
「少女漫画」ジャンルが確立するには、
1960年代頃まで待たなければなりません。
それまでの少女向け娯楽雑誌と言えば
「生活記事」「バレエ・宝塚」「少女小説」
などが基本だからです。
戦後の貸本漫画では「生活漫画」が主流。
…手塚さんはここに新風を巻き起こします。
『リボンの騎士』の主人公はサファイヤ王女。
いわゆる男装の麗人だったのです。
「宝塚歌劇団」の影響があると言われています。
※注:手塚さんは5歳の頃に宝塚市に転居している
言わば「戦う少女」のファンタジーなのです。
変身、コスプレ、ツンデレ。
月に代わっておしおきよ、とか、
あなたのことが心配じゃないんだからね!とか、
現代の作品につながるような要素が
多分に含まれている作品です。
(どれだけ時代を先んじているんだ、手塚さん)
生活漫画が少女向け漫画の主流だった時代に、
手塚さんは『リボンの騎士』によって
ファンタジー要素を注入したのでした。
…さて、1960年代に入ると、
週刊少年漫画雑誌と同様に、
週刊少女漫画雑誌が創刊されます。
読者層が増える。
ビジネスとしても成長していく。
そんな中、有名な「トキワ荘」に
居住していた水野英子さんは、
「女手塚」の異名を取っていました。
映画的な技法の少女漫画の基本形を確立する。
これにより、どうなったか?
…それまでは男性漫画家が少女向け漫画を
描くことも多かったのですが、
女性ならではの感性で少女向け漫画を描く
女性漫画家が急増していったのです。
特に、昭和24年(1949年)頃の生まれの
女性漫画家の一群のことを、
「24年組」と総称することがあります。
※注:トキワ荘と対比させて大泉サロンという
用語が使われることがありますが、
トキワ荘グループが意識的に集まったのに比べ、
「大泉サロンなどは(主観的に)無かった」と
当事者の方が告白したりもしています。
里中満智子さん、萩尾望都さん、竹宮惠子さん、
他にも多数の著名な方々が
漫画の世界に飛び込んでくる…。
彼女たちが特に活躍した1970年代に、
「内面表現」が洗練されていきます。
「そもそも、少年漫画と少女漫画は
どう違うんでしょうか?
目がキラキラとか、花をバックに描くとか…?」
色々ありますが、一番の違いは
「内面の掘り下げとその表現法」です。
少年漫画に比べて深いんです。
いわゆる「フキダシ」の『外』に
一人称(内面)の文章を書く手法が増えます。
これは丸フキダシで書かれる
キャラの「心の中の声」とは似て非なるもの。
いわば「小説の地の文」です。
漫「画」なのに文章が多いのが特徴。
ちなみに、さくらももこさんなど
女性漫画家には、エッセイの名手として
活躍される方も多いですよね。
漫画の中に文章を入れ込んで、
内面の言葉を表現することに長けていたのです。
話を戻します。
このような漫画表現上の洗練・発展の中で、
2つ目の池田理代子さんの
『ベルサイユのばら』の連載が始まります。
1972年~。
略称「ベルばら」です。フランス革命が舞台。
男装の麗人オスカルが活躍する物語。
1974年に宝塚歌劇団が初演して大ヒットし、
1979年にはアニメ化もされていく…。
当時(1970年代)としてはまだ珍しい、
「女性が社会の第一線で戦う姿」を
真正面から描いていきます。
さらに「人生を自分で選択する」行動。
これは当時の読者、特に
女性層には衝撃的だったのではないでしょうか?
…さて、ここまでの二作、
『リボンの騎士』『ベルサイユのばら』は、
どちらも「男装の麗人」をメインに据えて
「女性が男性に扮して戦う」物語でした。
しかし3つ目の『らんま1/2』は
この構造からはみ出していきます。
主人公の乱馬は、男性から女性に、
女性から男性に代わるという設定。
男装でも女装でもありません。
男と女「そのもの」なのです。
高橋留美子さんが1987年から
週刊少年サンデーで連載開始。
…「少年漫画」として描くんです。
ラブコメを基調とする彼女の作風のキャラは、
現代の「萌え」の原型、とも言われています。
ジャンプは「友情・努力・勝利」。
マガジンは「ちょいワル劇画調」。
そんな作風の漫画が多かったので、
サンデーはあえて別路線、
「ラブコメ路線」で勝負します。
あだち充さんの『タッチ』もサンデーですね。
…見方を変えれば、綿々と続いてきた
女性漫画家による漫画表現の蓄積が、
男性漫画家ひしめく少年漫画の舞台でも
十分に通用することを世に知らしめたと言える。
後に『鋼の錬金術師』の荒川弘さんも、
『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴さんも、
「少年漫画を描く女性漫画家」です。
高橋さんが切り拓いた道に続く…。
話を戻して、最後の4つ目に行きます。
よしながふみさんの『大奥』。
「男女逆転」の大奥ものです。
この作品の凄い所は、史実に即しながらも
「もし女性だったら…」という
IF設定を成り立たせている点でしょう。
100%創作のファンタジーではない。
史実を創作を交えて捉え直して描き直す。
※注:歴史改変SFと位置づけられます。
女性が将軍。大奥で将軍に仕えるのは男性…。
奇想天外の設定の上の重厚なストーリー!
作者のよしながふみさんは
『ベルばら』や『SLAM DUNK』にはまり、
同人誌づくりから活躍した方です。
2004年から『大奥』の連載を開始し、
明治維新までを描いて2021年に完結。
「男性社会の中で女性が
男装して活躍する話」ではありません。
無理に男装するのではなく、
自然と上位に立つんです。
疫病で男性が少なくなった日本で、
女性が(江戸時代の)社会の
「中心」となって活躍していく物語…。
2023年には森下佳子さんの脚本にて
NHKでドラマ化、話題になりました。
最後にまとめます。
本記事では男女逆転漫画を4つ取り上げて、
その連綿たる歴史の一端を書いてみました。
漫画は、本来、みんなのものです。
性差などで分け隔てのないもの。
しかし現代に至るまでに
多くの漫画家たちによって試行錯誤、
実験やバッシングが重ねられてきました。
優れた「男女逆転」の物語は、
少年漫画/少女漫画という壁を越え、
表現の幅や性別についての思考を
一歩一歩広げてきたように思われるのです。
皆様の印象に残っている漫画は何ですか?
◆本記事は以前に書いた記事のリライトです↓
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