「話を聞いていない」を分解するー「集中力がない」の前に、どの過程で情報が落ちているのか?
「この子、集団になると全然話を聞かないんです」
療育の現場だけでなく、保育士や先生からも、よく聞く言葉です。
周りに子どもがいると指示が通らない。
先生が話していても、別のところを見ている。
何度声をかけても動かない。
そこで、
「集中力がないのかな?」
と考えることがあります。
でも、少し条件を変えてみるとどうでしょう。
1対1で、静かな場所で話しかけると、指示はよく入る。
さて、この子は本当に「集中力がない」のでしょうか?
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集団ではできない。でも、1対1ならできる
集団の場には、たくさんの情報があります。
* 他の子どもの声
* 周囲の会話
* おもちゃや教材
* 人の動き
* 視覚的な刺激
* 先生からの言葉
1対1の静かな環境と比べれば、子どもが処理しなければならない情報は大きく変わります。
実際、子どもは大人よりも、騒音のある環境で話し言葉を処理することに困難を示しやすいことが研究されています。
2022年の系統的レビュー・メタ分析では、6〜18歳を対象とした31研究が検討され、背景雑音が子どもの音声知覚・聴取理解・聴覚的ワーキングメモリに関わる課題の正確性を低下させることが報告されています。影響の大きさは、信号対雑音比などの条件によって異なりました。
また、2025年の系統的レビュー・メタ分析では、5〜13歳の正常聴力児を対象に、騒音が聴取努力に与える影響が検討されています。複数の測定方法のうち、一部では騒音による聴取努力の増加が確認されましたが、測定方法によって結果は一致しておらず、単純に「騒音がある=聴取努力が増える」とは言えません。
だから、
「集団で聞けない」
↓
「集中力がない」
と、すぐに結論づける必要はありません。
むしろ、
「1対1ではできるのに、集団になると何が変わっているんだろう?」
と考えてみる。
ここから、見立てが変わってきます。
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「聞く」は、一つの能力ではない
「話を聞く」と一言で言っても、実際にはいくつもの過程が関係しています。
例えば、
声や音を捉える
↓
必要な情報に注意を向ける
↓
話を聞き続ける
↓
聞いた情報を一時的に保持する
↓
言葉の意味を理解する
↓
状況と照らし合わせる
↓
何をするか決める
↓
行動する
というように考えることができます。
ただし、これは、
「脳の中で必ずこの順番に処理されている」
という意味ではありません。
実際の認知過程はもっと複雑で、それぞれが相互に影響しています。
ここでは、
「話を聞いていない」という一つの行動を、どの過程でつまずいている可能性があるのか考えるための臨床的な整理枠
として捉えます。
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例えば、「名前を呼べば振り向く」のに……
こんな子がいます。
「○○くん」
と呼ぶと、こちらを向く。
だから、
「ちゃんと話を聞いている」
と思う。
ところが、
「○○くん、赤いブロックを取って、箱に入れて、それから先生のところに持ってきて」
と伝えると、途中で別のことを始めてしまう。
このとき、
「注意できていない」
と一括りにするのは、少し早いかもしれません。
名前を呼ばれたことに気づくことと、
話を聞き続けること。
聞いた情報を保持すること。
その内容を理解すること。
実際に行動へ移すこと。
これらは同じではないからです。
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「聞いたのに忘れる」こともある
例えば、
「片付けて、手を洗って、椅子に座ってね」
と伝える。
子どもは「分かった」と答える。
でも、片付けが終わったところで別のものに気を取られ、次に何をするのか分からなくなる。
こんな場面もあります。
ここでは、
「聞いていない」
というより、
「聞いた情報を、行動が終わるまで保持できたのか?」
という視点が出てきます。
7〜11歳の子ども42名を対象とした研究では、言語性ワーキングメモリと、現実場面に近い指示遂行課題との関連が報告されています。
ただし、
「指示を忘れる=ワーキングメモリが弱い」
と決めることもできません。
指示の長さ。
言語理解。
注意。
課題への興味。
環境。
さまざまな要因が関係する可能性があります。
ワーキングメモリと聴覚処理の関係についても、研究では関連が示される一方、関連が一貫しない知見もあり、単純な一対一の関係として扱うことには注意が必要です。
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「分かった」と「動ける」も違う
もう一つ、現場で気になるのが、
「分かったと言ったのに、どうして動かないの?」
という場面です。
これも、
「話を聞いていない」
だけでは説明できません。
聞いた。
理解した。
今の状況と照らし合わせた。
何をするか決めた。
行動を始めた。
それぞれの段階で、別の難しさがある可能性があります。
だから、
「分かった?」
と聞いて、
「分かった」
と答えたことだけでは、その子が実際に何を理解し、どこまで行動につなげられるのかまでは分かりません。
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「話を聞いていない」を、もう少し細かく見る
ここまで考えると、
「話を聞いていない」
という一つの言葉の中に、いろいろな可能性があることが分かります。
例えば、
集団で聞けない
→ 周囲の音や視覚刺激など、環境条件はどうなっている?
名前には反応するけれど、話を聞き続けられない
→ 注意を向けることと、注意を保つことを分けて考えられないか?
短い指示ならできるけれど、長い指示になると難しい
→ 情報量や保持、言語理解などの負荷はどうなっている?
最後まで聞いているように見えるのに、行動すると忘れる
→ 聞いた情報を保持しながら行動することに負荷はないか?
「分かった」と言うけれど行動が始まらない
→ 理解した後の判断や行動開始に、別の難しさはないか?
同じ、
「話を聞いていない」
という相談でも、見ているものは変わってきます。
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だから、「どの過程で情報が落ちているのか?」
僕が「話を聞いていない」という相談を受けたときに考えたいのは、
「この子は、どの過程で情報が落ちてしまっているのか?」
ということです。
聞こえていないのか。
必要な音に注意を向けられていないのか。
注意を保てないのか。
聞いた情報を保持することが難しいのか。
言葉の意味を理解することが難しいのか。
状況に合わせて判断することが難しいのか。
それとも、分かっていても行動を始めることが難しいのか。
もちろん、実際には一つだけとは限りません。
複数の要因が重なっていることもあります。
だからこそ、
「この子は集中力がない」
「この子は話を聞く気がない」
という一言で終わらせない。
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見立てが変われば、次の一手も変わる
ここまで来ると、ようやく支援の話ができます。
でも、ここで具体的な支援方法を先に決めてしまうと、また同じことが起こります。
「話を聞かない子には、こうする」
という一つの方法を当てはめる。
そうではなく、
「この子は、どの過程で情報が落ちているのか?」
を考える。
その答えによって、必要な支援は変わります。
環境を変えることが必要な子もいる。
情報量を調整することが必要な子もいる。
注意の向け方を考える必要がある子もいる。
言葉そのものの理解を確認する必要がある子もいる。
そして、聞いた後の行動まで見なければならない子もいる。
つまり、
支援方法を決める前に、まず見立てる。
この順番が大切なのだと思います。
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「何回言ったら分かるの?」の前に
「何回言ったら分かるの?」
そう言いたくなる場面は、現場にはあります。
でも、その前に一度だけ、
「この子は、どの過程で情報が落ちているんだろう?」
と考えてみる。
すると、
「話を聞かせる方法」を探すのではなく、
「この子のどこでつまずいているのかを探す」
という視点に変わります。
そして、その見立てができて初めて、
「では、どこから支援すれば、この子が次の一歩を自分でできるようになるだろう?」
という問いにつながっていきます。
今回の記事では、あえて具体的な支援方法までは詳しく扱いませんでした。
なぜなら、
見立てが変われば、選ぶ支援も変わるからです。
まずは、
「話を聞いていない」を、一つの能力の問題として見ない。
そこから始めてみてください。
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この記事の位置づけ
今回の記事で渡したいのは、「指示が入らない子への必勝法」ではありません。
むしろ、
「指示が入らない」という困りごとを、もう一度分解して見るための視点
です。
次に必要になるのは、
「では、実際の子どもを見たとき、どうやってその過程を切り分けるのか?」
ということ。
ここから先は、かなり臨床的な話になります。
では、実際の子どもをどう見る?
ここまで、「話を聞いていない」という一つのふるまいを、いくつかの認知過程に分けて考えてきました。
でも、実際の現場では、
「この子は、どこで難しくなっているんだろう?」
をどう確かめればいいのでしょう。
そこで次に見るのが、
できる時と、できない時の条件の違いです。
集団では難しい。でも、1対1なら聞ける。
言葉だけでは動かない。でも、実物を見ると動ける。
そんな条件差から見立てをつくり、支援によって確かめていくところまで、もう少し臨床的に考えました。
「話を聞けない子」って、本当に聞けない?
――できる条件から、子どもの見立てを考え直す

子どもの見立てだけでなく、現場の問題も同じです
「話を聞いていない」を分解すると、次に見るものが変わります。
これは事業所の問題でも同じだと思っています。
「支援がバラバラ」
「会議が機能しない」
「職員が育たない」
そう見える現象を、そのまま原因だと決めず、一度分解してみる。
そのためのオンライン相談をβ版で始めました。

参考文献
Schiller, I. S., Remacle, A., Durieux, N., & Morsomme, D. (2022).
Effects of Noise and a Speaker’s Impaired Voice Quality on Spoken Language Processing in School-Aged Children: A Systematic Review and Meta-Analysis.
Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 65(1), 169–199.
PubMed
Spoorthi, G. N., Uppunda, A. K., Kalaiah, M. K., & Shastri, U. (2025).
The effect of noise on listening effort in children as measured using different methods: a systematic review and meta-analyses.
European Archives of Oto-Rhino-Laryngology, 282, 2855–2886.
PubMed
Magimairaj, B. M., & Nagaraj, N. K. (2018).
Working Memory and Auditory Processing in School-Age Children.
Language, Speech, and Hearing Services in Schools, 49(3), 409–423.
PubMed
Jaroslawska, A. J., Gathercole, S. E., Logie, M. R., & Holmes, J. (2016).
Following instructions in a virtual school: Does working memory play a role?
Memory & Cognition, 44, 580–589.
PubMed
