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村上春樹の新刊は、私の部屋でNetflixに負けかけている


村上春樹の新刊を、発売日に買った。
ファンというほどではない。ただ、三年ぶりの新刊と聞くと、少し気になった。
書店では『夏帆』が平積みされていた。
手に取り、中身をちらっと見る。
二千八百六十円。

一瞬、手が止まった。
文庫本なら何冊か買える。食事にもなる。

発売日に来たのだから、そのまま買えばいいのだが、二千八百六十円には、いったん考えさせる力があった。

少し離れたところから、視線を感じた。
同じ本を見ていたのかもしれない。
あるいは、値段が思っていたより高くて、買うのをためらっている派閥だったのかもしれない。

もっとも、私もついさっきまで、その派閥にいた。
誕生日が近かった。
軽い誕生日プレゼントにすればいい。
そう決めて、本をレジへ持っていった。

家に帰って開くと、特典のステッカーが挟まっていた。
そんなものが付くとは知らなかった。

発売日に村上春樹を買いに来ておきながら、私はその程度の客だった。
読み始めた。

第二章「武蔵境のありくい」。
四十一ページまで読んだところで、トイレに立った。

用を済ませ、ふと携帯をいじった。
そういえば、『ガス人間』が面白いと聞いていた。
Netflixはしばらく開いていなかった。
久しぶりにアプリを開き、検索してみた。
一本だけ見るつもりだった。
気づけば六話。
警視総監の話まで見ていた。
『夏帆』には、四十一ページにしおりが挟まったままだった。
さすがに続きを読もうと思った。


ところが、今度は芥川賞の発表があった。
書店へ行くと、『文藝春秋』が並んでいた。
買った。


芥川賞を読むつもりでページをめくっていた。
見覚えのある文字が出てきた。

「文藝春秋SDGsエッセイ大賞2026 大募集!」


昨年の応募は、28,000点以上。
去年、その中に私の原稿もあった。
グランプリに選ばれ、『文藝春秋』に載った。
次の年の募集ページを、芥川賞を読もうと買った号で見つけた。

机の上には『夏帆』と『文藝春秋』。
スマホを開けば、『ガス人間』の続きが待っている。


『夏帆』のしおりは、まだ四十一ページに挟まっている。

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