娘と僕の、共同ミッション。
「〇〇ちゃん」
「ん?」
ある日の朝。
僕は声をひそめて娘に語り掛ける。
「今日ね、ママの誕生日なんだ」
「うん」
僕の声に耳をそばだて、小さな体をさらに小さくしながら話を聞く。
「だから、今日の帰り、みんなでケーキ、買いに行かない?」
こくこくこくこく。
うなづく娘。
首がもげそうだ。
「ケーキを選ぶの、パパといっしょにお願いね?」
こくこくこくこく。
これは娘との共同ミッション。
妻にはまだ秘密。
「ママには、しーっだよ」
人差し指を立てて秘密のポーズ。
(しーっ)
ケーキがうれしかったのか、娘の口元が緩んでいる。
仕事の帰り道、家族三人でケーキ屋さんに行った。
はじめて来るケーキ屋さん。
車を降りた娘は、まっすぐ店へ向かった。
娘の足取りは軽やかだ。
店内に他のお客さんはいなく、娘は一目散にショーウインドウに駆け寄る。
色とりどりのケーキを見つめ、小さな手にぎゅっと力が入る。
「おっきいのください!」
娘の声が響き渡る。
娘よ、そのホールケーキはさすがに食べきれない。
小さいのをひとつずつ選ぼうと提案。
「じゃあ、チョコレートのください!」
大好きなチョコレートケーキを選び、「はやくかえろう!」と僕の手を引っ張る。
娘はチョコレートケーキに夢中。
その横で、妻の大好きなショートケーキを選ぶ。
僕は違う種類のチョコレートケーキをひとつ。
娘はキッチンが気になるようで、「ジャムおじさんいるのー?」と聞いた。
すると、お店の方が親切に、キッチンにいらっしゃったパティシエさんを呼んできてくださった。
少しだけ照れくさそうに、ひょこっと出てきてくださったパティシエさん。
「ジャムおじさーん!」と、娘もにんまり。
「お忙しい中、ありがとうございます」と言うと、「いえいえ!はじめて言われました!」とやさしく返してくださった。
買ったケーキを落とさないように持つ娘。
お気に入りのお店がまたひとつ増えた。
帰ってきてケーキをお皿に並べ、「いただきます!」をしそうな娘。
でも、まずは。
「ハッピバースデー、トューユー」
僕と娘の歌声。
「ありがとう!」
妻が笑って拍手する。
三人で食卓を囲み、それぞれが選んだケーキを堪能した。
チョコレートケーキを口いっぱいに頬張ったまま、娘が聞く。
「〇〇ちゃんのたんじょうびはー?」
「もうちょっと先だよ」
今日の共同ミッションは、無事コンプリート。

