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「俺」と「あいつ」と「ガンズ・アンド・ローゼズ」

ハタチの記憶

高校卒業後、俺は語学系の専門学校に通っていた。女子のほうが多く、1年のクラスは25人中、男は6人。その中に「あいつ」がいた。あいつは少しイキったタイプで、最初は俺のことを見下しているようにも見えた。俺も気が合うとは思わなかった。

ところが、時間が経つにつれてクラスの男は学校に来なくなり、最後には俺とあいつだけが残った。そうなると自然につるむようになる。

共通していたのは、ビルボードのチャートを賑わせるような洋楽が好きだったこと。ただ、音楽の聴き方はまるで違った。あいつはハードロック好きで、「ノリがいい」という理由で曲を好きになるタイプだった。20歳の俺は、コアなロックファンを気取っていて、「ノリがいい」なんて理由で音楽を評価するのは、しょうもないことだと思っていた。いま思うとどっちがしょうもないのやら。

ある日、奴のアパートに遊びに行った時、「姉ちゃんに録ってもらったんだ」と1本のテープをかけた。ハードロックだった。最初はあまり興味を惹かれない。「この男が気に入るんだから、大したもんじゃないだろう」と思っていた。

ところが、あいつの部屋へ行くたびに、そのテープが流れる。何度も聴かされるうちに、俺も少しずつ曲を覚えていった。バンド名も何度か聞いたのだが、そのたびに忘れてしまい、また尋ねる。

「ガンズ・アンド・ローゼズ」

ちゃんと名前を覚えたのは、最初に聴かされてから2、3か月は経っていたと思う。

カミングアウト

夏のある日、いつもの放課後のディスクユニオン通いでレコードを物色していた。その時にあいつの部屋で流れていたガンズ・アンド・ローゼスのアルバム "Appetite For Destruction" が目に入った。

Guns N' Roses / Appetite for destruction (1987)

俺はあいつに感想を聞かれたときに「ん~、カッコいいけど、俺の好みじゃないな」と言ったことがあった。

だけど店を出た俺の手には、"Appetite For Destruction" のLPが入った袋があった。あんなことを言った手前、いまさら「買った」なんて言うのは20歳の俺のプライドが許さなかった。だからしばらくは録音したテープを通学中にこっそり聴いていた。

それから数か月、あいつの誕生日に、LPに入っていたタトゥーシールをささやかなプレゼントとしてあげた。奴はその時に俺が "Appetite For Destruction" のLPを持っていることを知った。

「持ってたんだ?なんだ、言えよぉ」

そんな反応だった。
次にあいつの部屋を訪れたときには、タトゥーシールはCDラジカセに貼ってあった。

無駄なプライド

その年の12月にガンズが来日する。その話であいつとクラスの女友達どもがライヴを見に行こうと盛り上がっていた。傍から見るととても楽しそうだった。しばらくしてから思い出したようにあいつに声をかけられた。

「姉ちゃんにチケット取ってもらうんだけど、ついでに取ろうか?」

俺は反応しかけたが、「ついで」という言い方が気に入らなかった。奴は別に悪気があったわけではなく、「一緒に取ろうか」ぐらいの気持ちで言ったと思うが、当時の俺はいちいちそういう言葉尻を気にするようなタイプだった。きっと最初に「一緒に行く?」と誘われたら喜んで行っていただろう。しかし俺は

「いや、1月にイギー・ポップ見に行くからいいよ」

と答えた。
あの頃の俺は、とにかく面倒くさい奴だった。どうでもいいプライドばかりが先に立って、損をしていたのだと思う。LPを買ったことを素直に言っていれば、「思い出したような誘われ方」ではなかったかもしれないし、危険な雰囲気を纏った初期のガンズを見ることだってできたかもしれない。あいつは最初から、そんなこと気にもしていなかっただろうし。

そんなあいつは、いまどうしているのだろう。疎遠になってしまったのでわからないが、相変わらず「ノリがいいね」なんて言いながら音楽を聴いているのだろうか。俺は相変わらず面倒くさいやつだが。

そういえば数年後、"Appetite For Destruction" のLPに付いていたタトゥー・シールがコレクターズ・アイテムになっていると知った。あいつにあげちゃったのは、ちょっと失敗したかなとは思った。

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