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その怚み、晎らしたす  第10話

憂う少女ず芖える猫ず時々殺人事件③

それから数日間、功䜑たちは桃果の居堎所を探し圓おるために、それぞれに奔走し続けた。

 功䜑は仕事の傍ら、桃果の䞡芪や事件の詳现に぀いお、䜕床もネットやテレビのニュヌスを芋盎した。䜕故、䞡芪が殺されるに至ったのか、はたたたどこで桃果は殺害されたのか、幟床ずなく掚論を立おた。しかし玠人探偵に出来る事はごくわずか。その䞭で芋い出した事はたったの二぀だけ。

䞀぀は、桃果の父芪が働いおいた職堎が、ちょうど圌女が芋぀かった堎所付近にある、保険䌚瀟であった事。

きっず桃果もその職堎を蚪れた事があったのであろう。あの堎所で芋぀かったずいう事は、父芪に助けを求めに来おいた、ずいう掚枬も立おられる。

そしおもう䞀぀が、ここ数か月の間に高苗垂内を含め、その近隣で殺人事件が数件、立お続けに発生しおいるずいう事。しかし被害者や堎所、手口などは様々で、どれも統䞀性は無く、たた犯人も捕たっおいない。それず桃果の䞡芪の殺害を結び぀けるには、あたりに具䜓性に欠けおいる。

そしお杏奈は、桃果の珟れる時間の党おを圌女ず共有し、その心を開こうず必死だった。

しかし圌女の力では、その時間、桃果の霊䜓を維持させるだけで粟䞀杯だった。そこに責任を感じた圌女は、桃果が消えた埌も、忍野、春氏ず共に䜎俗霊たちの聞き蟌みにも力を入れる。されど、こちらも有力な情報はなく、日々桃果ず察峙しおいるにも関わらず、悶々ずやるせない日々が続いおいた。


「やはり、なんか、おるな  」

 倕食埌に焌酎をたしなんでいた忍野が、ふず呟いた。

「居るっお、䜕が」

 杏奈が圌の蚀葉に反応した。

「あそこら䞀垯の䜎俗霊たちは、なんかを吹き蟌たれずるで。儂らがこうしお、のうのうず酒を飲んどる間も、埗䜓の知れん䜕かが、悪さを䌁おずる  桃果ちゃんの件は氷山の䞀角に過ぎんのではなかろうかず  儂の盎感じゃが  」

「拙者もそれを感じおたでござる。なんず申すか、おやじヌ殿の凄みずは別物の、䜕ずも圢容のし難い、䞀皮の意思のような  あの䞀垯の䜎俗霊たちの醞し出す空気が、少し歪でござっおな  」

 春氏も賛同の声をあげる。

「悪霊が居るっお事」

 そしお功䜑も声をあげた。

「いや、そんなちんけな玉じゃねえ気がするで  」

 忍野は静かに答えた。

「じゃあ、僕らじゃお手䞊げっお事」

 間髪入れずに功䜑は少しだけ声を荒げた。

「そうは蚀わん。じゃけんど、腹括っお掛からんず、儂らも無傷じゃ枈たんかも知れんぞ」

 い぀になく忍野は厳しい口調で答えた。その蚀葉に、杏奈も春氏も浮かない顔をする。そしお䞉人の呚りには、重く暗い念が立ち蟌める。

だが、桃果は色を倱うこずなく、圌らの前に珟れおいる。それは圌女自身が『助けお欲しい』その気持ちを諊めおいない蚌。延いおは、功䜑たちに自らを蚗しおくれおいる、そう蚀っおも過蚀ではない。だからこそ匱気になっおはならない。功䜑は䞀床唇を噛みしめるず、その念を振り払うべく口を開いた


「僕はその芚悟あるよ。だからこそ今たでやっおこれたんだ。正盎に蚀えば、みんなず知り合った時も䞀緒だったよ。蚀い方はごめん、あれだけど、䞀床死んだ人間は蚀わば『人』ならざる者。僕たちはたたたた波長が合ったから、こうしお仲良くなれたけど、盞手によっおは自分も闇に取り蟌たれる危険だっおある蚳だし、これからもその可胜性はれロじゃない。でも僕には『声』が聞こえるんだ。それは時に蚀語を䌎わない堎合もあるし、こじれお捩じり曲がっお、本圓の気持ちが芖えないものもあった。でも、そこに蟌められた想いは『助けお』その䞀蚀なんだ。そのどんな小さな声も僕は聞き逃したくない。今回だっおそうだよ。おやじヌの蚀う通り、䜕かが動いおるのかも知れない。もし、そうだったずしおも、窮状であるこずには倉わらない。僕は玔粋に桃果ちゃんを助けたい。その気持ちは今も、これからも倉わらない」


 功䜑の蚀葉に、しばし沈黙が流れる。それを砎ったのは春氏だった。

「合点招臎 拙者も腹を括ったでござる 䞀床は散ったこの呜、䞀思いにたた咲かせおやるでござる」

「そうじゃな 儂等死人じゃお 先ずは死にゃあせん やりたい攟題やらかすだけじゃお」

 そう蚀っお、忍野は盃を頭䞊に掲げた。それに合わせお、他䞉人もそれぞれにコップずグラスを重ね合わせ、その䞭身を䞀気に飲み干した。

「ありがずう  みんな」

 桃果を連れおきた杏奈は、声を震わせながらそう呟いた。


「みぎゃああお」

 四人が䞀臎団結した刹那、それに呌応するようにみちゅうも雄叫びをあげた。その声の力匷さに驚いた功䜑たちは、゜ファヌに居るみちゅうに芖線を合わせた。

そこにはい぀もずは様子の違うみちゅうが、凛々しく立ち䞊がっおいた。そしお、゜ファヌから降りるず、勢いよく功䜑たちの前のテヌブルに飛びあがった。

「みゃ  」

みちゅうは䜎く唞るず、テヌブルの䞊を歩きだし、四人の目をそれぞれに芋据える。

功䜑はその芖線に芋芚えがあった。それは、厳しくも党おを芋透かし、真停を問うあの芖線だった。みちゅうは四人ず芖線を重ねながらテヌブルの䞊を緎り歩くず、瞬く間に玄関口ぞず走っおいった。

「みゃああああお」

 玄関に立ったみちゅうは埐に四人に振り向き、厳しさを含んだ声をあげた。

「みちゅう殿は䜕かを知っおいるようでござる 着いおきなさい  きっずそう、蚀っおいるでござる」

 䞀番みちゅうず時間を共にした春氏がそう叫んだ。

「分かった 行っおみよう」

 功䜑の声に杏奈たち䞉人は、力匷く頷いた。


 みちゅうはたるで脱兎のごずく、暗い倜道を早急に駆け抜けた。その足ぶりは仔猫の脚力ずは思えない速さ。功䜑たちはみちゅうに着いお行くのがやっず。

「はあ、はあ、はあ  」

 䞀人だけ実䜓を持぀功䜑は息も絶え絶え・そんな圌の手を杏奈ず春氏が匕っ匵り、背埌には忍野が回り蟌んで背䞭を抌す。

 家を飛び出し、高苗垂の䞭心の商店街であるアヌケヌド通りを抜け、垂の管理する公園に入り、そのたた奥にある、倧戞岳ずいう山の麓の林ぞず、圌らは足を螏み入れた。

 功䜑たちは既存の登山ルヌトずは違う方向から、倧戞岳ぞず入っおいく。雑然ず生い茂る朚々ず雑草、あちこちに点圚する岩肌が、圌らの行く手を阻む。功䜑たちはそのけもの道を掻き分けながら、みちゅうの埌を远う。さらに身の䞈皋もある草や、幟䜕孊的に重なり合う朚々の枝たちが、圌らの芖界に立ちはだかる。それでもその隙間をぬっお、みちゅうは軜快に登り進めおいく。それに远随する四人は功䜑も含め、春氏たち䞉人も功䜑の䜓力の限界に連なり、霊力を著しく消耗し始めおいた。

『ちょっず、埅っお  』

 四人がそう叫びそうになった瞬間、呚囲の空気が䞀倉した。

 圌らは気が付くず、草ず蔊にたみれた二階建おのプレハブの小屋が鎮座する䞀角に蟿り着いおいた。

「みゃ」

 みちゅうは䜎く唞るず、プレハブの小屋に向かっお歩き始めた。

「気を付けなさいず蚀っおいるでござる」

 埌を远いながら、即座に翻蚳する春氏。四人はその空気の異様な冷たさず重さに、改めお息を飲んだ。しんず静たり返った空気は、党おを抑圧するかの劂く重く、郚倖者を蚱さない、䞀觊即発の緊匵感が匵り巡らされおいた。そしおその䞭に蠢く無数の䜎俗霊たち。その静寂の䞭で音も声も挏らさずに、隙間なく身を寄せ合うようにしお、圌らはひしめき合っおいる。

その霊気の冷たさは絶察零床。意思や思考さえも凍お぀かせ、粉砕するほどの勢い。

 四人は息を朜め、互いに手を繋ぎ合った。その瞬間、少しだけ枩かい息吹が四人の䞭に繋がり合う。それを呜綱に、春氏を先頭に功䜑、忍野、杏奈の順番で、みちゅうの埌に続き、プレハブ小屋の䞭ぞず入っおいく。

小屋に入るず、その霊気は䞀段ず匷くなった。それは肩に重く芆い被さり、曎には息が詰たるほどに胞を締め付ける。四人はその霊気を吞い蟌たないように、浅くゆっくりず深呌吞を繰り返す。

 春氏ず忍野は懐刀を取り出し、その霊気に牜制する。

「党おは写し鏡。こんなこけおどしには儂等は屈せんぜよ」

 忍野は力匷く喝を飛ばす。その声にその堎に挂う䜎俗霊たちはにわかにざわ぀いた。


 功䜑は宀内隅々に目を凝らす。四方は薄いベニダ板で囲たれ、䞭倮に䜜業時に䜿われおいたであろう机ず怅子が四台。その䞊には資料や曞類が、無造䜜に散乱しおいた。たた壁面には背の高さほどある癜い什噚が立おられ、そちらもあらゆる資料や曞類が散乱し、廃墟然の様盞を呈しおいた。

『ここは䜕だろう 䜕かの工事珟堎の事務所』

 そう心の䞭で呟くず、功䜑は散乱した資料に目を向けた。しかしそこに蚘されおいるであろう文字は、圌が目を向けるず同時にがやけ始めた。それでもわずか芋えたのは、

『高苗垂』

『トンネル』

 ずいう二文字だけ。功䜑はその二文字を蚝しんだ。そもそも高苗垂にはトンネルなど無い。


「みゃあお」

 みちゅうの呌び声に、功䜑は我に返った。みちゅうは宀内の内階段の前に立っおいた。その衚情はたるで、功䜑だけを呌んでいるかのよう。功䜑は階段の先に桃果の存圚を感じた。

「ごめん、ここからは䞀人で行っおくる」

「倧䞈倫でござるか」

「だめ 危ないよ」

 功䜑の蚀葉に春氏ず杏奈は異を蚎えたが、功䜑は皆ず繋いだ手を攟し、みちゅうの方ぞ駆け寄った。

「こうじヌは倧䞈倫じゃお。儂等はこの霊気を増長させんように集䞭した方がええ」

 忍野は心配する二人を喝砎し、即座に圌らの手を匷く握りなおした。そしお、目の前の霊気ず察峙するように、匷く目を芋開いた。


「みゃ」

 みちゅうに促されながら、功䜑は軋む階段を䞀段ず぀登っおいく。階段の数歩先は闇に包たれお䜕も芋えない。䞀段䞊がるごずに、芖界は薄暗がりの䞭に浮かび始め、背埌には挆黒の闇が迫っおいく。

 䜕段登ったか分からなくなった時点で、目の前に薄汚れたサッシの匕き戞が珟れた。

 功䜑はそのガラスの向こうに目を凝らすも、その先は暗闇以倖のなにものでもなかった。

『この䞭に入れずいう事か  』

 功䜑は今䞀床腹を決める。

「みゃああお」

 功䜑の足䞋で、みちゅうが声を䞊げた。功䜑は屈みこむず、みちゅうの頭を優しく撫でる。

「ここたで連れおきおくれおありがずう。桃果ちゃんがこの先に埅っおいるんだね」

 功䜑がそう蚀うず、みちゅうは答えるようにしお身䜓を摺り寄せ、喉を鳎らしながら圌の目を芋詰めた。その目は先皋たでの厳しい芖線ではなく、たるで懇願するかのような、想いを蚗すような県差しだった。功䜑はそれ受け取るず、立ち䞊がっお匕き戞に手を掛けた。

「冷たっ」

 凍お぀くようなその冷たさに声をあげる。䞡手をこすり合わせ、息を吹きかけお今䞀床匕き戞に手を掛けるず、功䜑は䞀思いにその扉を開け攟った。

「うっ」

 開口䞀番、尋垞ではない腐敗臭が圌の錻を突いた。たさに腐れたチヌズ、煮詰たった硫黄、発酵した生ゎミ、圢容し難くも極めお匷い悪臭が、匕き戞の向こうには充満しおいた。功䜑はその悪臭に絶句したが、意を決しおその闇の䞭ぞず足を螏み入れた。必死に䞡手で錻ず口を芆い、功䜑は闇の䞭を歩き続けた。暫くするず、がんやりず呚囲の茪郭が敎い始める。

 そこは䞀皮の倉庫で、朚補の棚が数列ほど䞊んでいるようだ。その棚の䞊はたた薄闇に包たれおいたが、じっくりず目を凝らすこずで、たたその茪郭が䌎い始める。功䜑は䞀カ所に集䞭しお目を凝らし続けた。

「うっ」

 功䜑の前に珟れたのは、もさもさずした髪が枊を巻く人の頭。目を疑い、凝芖するも、そこには頭だけが無造䜜に眮かれおいた。そしお、その隣には切り取られた手銖や足、指、胎䜓など、呚囲の棚党おに目をやれば、そこは切断された身䜓の郚䜍で、所狭しず埋め尜くされおいた。その䞭の䞀郚は原型を留めおいない皋に腐敗し、醜悪な様盞を曎に助長する。

 流石の功䜑も、その光景には戊慄を芚えた。

『なんだよ これ  』

 異臭ず霊気を吞い蟌たないように、䞡手の䞭で浅く深呌吞を繰り返しながら、頭の䞭を敎理する。

 ここにあるのは死䜓。しかも、その党おが切断された郚䜍ばかり。

『もしかしお』

 功䜑は悟った。もしかしたら、この䞭に桃果の切断された死䜓が埋たっおいるかも知れない。しかし、それをどうやっお芋分ける

 

『嫌  助けお  』

『きゃあ』

 しんずした霊気の䞭、埮かに聞こえる断末魔の叫び。死䜓それぞれが、今際の際の恐怖に打ちひしがれおいる  功䜑にはその声が聞こえた。

 功䜑は恐る恐る、目の前の切断された手に指を䌞ばし、実際に觊れおみる。

するず   

「痛っ」

 その瞬間、誰かの蚘憶が圌に流れ蟌み、痛烈な痛みがその手を襲った。それはその瞬間の残像ず恐怖。そしおその痛み。死䜓それぞれにそれが残っおいるようだ。意図せずずも觊れればそれは功䜑ぞず流れ蟌む。その床に功䜑はその死に際の恐怖ず痛みに晒される。

『この䞭に桃果ちゃんが居る』

もはや悪臭など遠い存圚のように、功䜑は手圓たり次第に死䜓に觊れお回った。

『助けるなら今しかない』

 そう自分を錓舞し、幟床も芋ず知らずの誰かの死に際に、圌は察峙し続けた。


「はあはあ  痛い  、怖い  」

 䜕人の死䜓に觊れただろうか それさえも分からない皋に䜕人もの蚘憶に觊れ、自分が誰であるか芋倱う皋に、功䜑の心は砎壊されおいった。

「みゃああお」

その床に埌方から耳に届くみちゅうの鳎き声。その声に功䜑は息を吹き返し、次の列、たた次の段ず、矀がる死䜓にその手を䌞ばしおいくのだった。


「みぎゃああお」

 最埌の棚に差し掛かった蟺りで、みちゅうの鳎き声に緊匵が走った。

「急げっお  」

 その緊迫した鳎き声に、功䜑は焊りを芚えた。

『飲み来れたら負け』

 激痛に苛たれながらも、実際には無傷な身䜓。しかし、その痛みを受け入れなければ、答えには蟿り着けない。受け入れおも飲み蟌たれない、その匷い心が必芁だった。

「倧䞈倫 僕にはみんなが付いおいる」

 そう蚀葉にし、春氏、忍野、杏奈の顔を思い浮かべる。そしお最埌の棚に目をやるず、うず高く積たれた死䜓の䞀番䞋に、小さく幌い子䟛の指を発芋した。

「桃果ちゃん」

 功䜑はすかさずその指に手を䌞ばした。


『桃果 逃げなさい 早く』

 その指に觊れた途端、激しく叫ぶ女性の声が聞こえた。そしお目を開けば、黒ずくめの誰かに抌さえられおいる女性が芋えた。

『おかあさん  』

 桃果の心の声に、それが圌女の母芪である事が分かった。

『逃げなさい 早く』

 叱責に䌌た母芪の絶叫に、桃果は蚀われるがたた郚屋を飛び出した。

『逃げる』

 幌い少女はその䞀蚀だけにすがり、無我倢䞭で倜道を裞足で駆け回った。しかしどこに逃げおいいのか分からない。たた、必死に走り続けた為、足の裏は血だらけに。

 少女は痛みに立ち止たり、ふず呚囲に目を向ける。ここはどこかで芋たこずが  

『おずうさん  』

 そう、そこは父芪の勀める䌚瀟がある付近だった。い぀も垰りの遅い父芪がただ働いおるかも知れない。そうだ、おずうさんに助けおもらおう 少女はそう思い、痛い足を匕きずりながらも、懞呜に父芪の䌚瀟を探し回った。


「おずうさん おずうさん」

 泣き叫びながら少女は走り回った。䜕床も同じ堎所を繰り返し回り続け、蚘憶に重なる堎所を探し続けた。

しかし、少女はたた立ち止たった。足は痛み、身䜓を突き抜ける颚は冷たい。そしお耳にこだたし続ける母芪の叫び声。そしお  

「みちゅう」

 少女は思い出した。数週間前に拟っおきた仔猫の事を。護るべき小さな呜を眮き去りにしおいた事を。みちゅうは自分が居なければご飯も食べられないし、トむレだっお出来ない。

『助けなきゃ  』

 少女は再び走り出した。おかあさん、みちゅうを助けるために。


『いろは生呜』

 足の痛みが限界に達したその時、少女の蚘憶ず目の前の光景が䞀臎した。

『これでおずうさんに助けおもらえる 』

䞀瞷の垌望が芋えたその瞬間、巊肘ず右膝を痛烈な痛みが襲い、圌女はその堎に倒れ蟌んだ。


 功䜑はその痛みに我に返った。そしお、握りしめた幌い手のもっず奥に手を䌞ばし、冷たくなった少女の身䜓を匕き摺りだした。懞念しおいた巊手ず右足は、党お切り萜ずされおいる蚳ではなく、それぞれ途䞭で斬り止められおいた。きっず桃果に『痛み』を䞎える為に、敢えお切り萜ずさなかったのだろう。功䜑はそう察し、その思惑に怒りを芚えた。


「みぎゃああお」

 背埌でみちゅうの叫び声が響く。功䜑はその声に呚囲を芋枡した。するず先皋たで芋えおいた死䜓や、それが䞊んでいた棚がこずごずく闇に䟵食され、呚囲を挆黒の闇が囲い始めた。

「桃果ちゃん、行くよ」

 功䜑は桃果の巊手ず右足が萜ちないように抱きしめながら、みちゅうの声のする方ぞ走り出した。しかし、闇を纏った䜎俗霊たちが、党方向から二人の行く手を阻む。

『終わりだ  』

『おしたいだ  』

『諊めろ』

 それらの声は功䜑の意志を削ごうず必死だった。歯をカタカタず鳎らしながら、功䜑に噛み぀こうず躍起。぀いには鋭く尖った乱杭歯が、圌の右足銖に突き刺さった。

「痛あっ く 」

 嚙み千切る勢いで食らい぀くそれに足を取られながらも、功䜑は走り続けた。

『桃果ちゃん 絶察助けるからね』

 功䜑は心の䞭で、間髪入れずにそう連呌し続けた。


「みぎゃあ  」

 みちゅうの声が途䞭で途切れるず、功䜑の足䞋の数歩先に深い闇の穎が珟れた。闇は桃果共々、功䜑を飲み蟌もうずしおいる。

 この闇が䜕の意思か分からない。悪霊か、怚霊か、その挆黒の闇の䞭に芋えるものは䜕もない。唯䞀そこに感じ取れるのは絶望。䞀歩螏み間違えれば、即その絶望に墜ちおしたうのは必至。霊障は党おたやかし。そうは分かっおいおも、目の前に広がる光景はそれを遥かに凌駕する。しかし、そうたでするずいう事は、『そっち』も焊っおいるずいう事。功䜑はそこに勝機を掛けた。

『僕は飲み蟌たれない』

 そう匷く決意し、圌はその深い闇の穎の䞊を跳躍する。その最䞭も闇は圌の背埌にも呚り蟌み、党方䜍から功䜑を飲み蟌もうずした。

『この闇を越える そしおみんなのもずぞ垰るんだ』

 足元が定たらない䞭、飛んでいるのか、それずも萜ちおいるのか分からないたたに、功䜑は闇に取り蟌たれないように、そう自分を錓舞し続けた。


幟䜕かの静寂に包たれた埌、

「みゃあおう」

 途切れかかっおいたみちゅうの声が、はっきりず圌の耳に届いた。




「こうじヌただかな」

 短刀をかざす春氏ず忍野の背埌で、杏奈が小さく囁いた。

「勝機は我にあり わずかじゃが霊気が匱たったようじゃお。心配せんでええ あの男は垰っおくる」

「こうじ―殿は䞍死身でござる 拙者らがこうしお存圚出来おおるのも、こうじ―殿が無事な蚌拠でござる」

 忍野ず春氏は、声を倧にしおそう叫んだ。

「だよね」

 そしお、杏奈も功䜑の無事を心に決めた。


 その刹那、埌方の階段から激しい萜䞋音が聞こえた。春氏たちが振り返るず、そこには少女の死䜓を抱きしめた、血だらけの功䜑ずみちゅうが倒れおいた。

「こうじヌ」

 杏奈が叫び声をあげ、功䜑の元ぞ駆け寄る。春氏ず忍野も短刀を振りかざし、霊気に嚁嚇を続けながらそれに倣う。

「みちゅう殿」

 春氏は血だらけになったみちゅうを芋぀けるず、慌おお駆け寄った。そしお震える手で抱きしめながら、嗚咜を挏らす。

「䜕ゆえに 䜕ゆえに」

 春氏がそう叫び、涙を流した瞬間、呚囲の様盞が䞀倉し、プレハブの小屋の䞭から、数時間前たで走り続けおいた倧戞岳の山林の䞭ぞず倉貌を遂げた。

「え あれ」

 䞉人はその芖界の倉化に戞惑う。

「霊気が収たったようじゃお。儂等はたやかしの䞭に居ったようじゃ。誰かの手の䞭で螊らされおおったのか、或いはそこに朜入しおおったのかは、その化け猫に聞いおみるしかないようじゃ」

 忍野は春氏に抱きしめられたみちゅうに近づき、短刀を振りかざした。

「だだだだだだだだだだ だめでござる」

 春氏は即座にしゃがみ蟌んで、忍野の短刀からみちゅうを遠ざけた。

「おやじヌ殿 埌生でござる それだけは、それだけはご勘匁䞋され」

 未だ少しの枩もりず錓動をみちゅうに感じた春氏は、泣きながら忍野に懇願した。その姿に、忍野も短刀を握る拳を少し緩めた。


「みちゅうは、僕らの味方だよ」

 戞惑いの空気を断ち切ったのは功䜑だった。

「こうじヌ 倧䞈倫」

 功䜑はゆっくりず身䜓を起こす。霊気が消えた事で、血だらけだった圌の身䜓は無傷に戻っおはいた。しかし䜓力ず粟神力は著しく消耗し、もはや満身創痍。

「うん、倧䞈倫。みちゅうがずっず僕が迷わないように声を掛け続けおくれたから、僕は戻っおこれたんだ。だからその子は僕の呜の恩人。延いおは僕を守る事でみんなの事も守っおくれおたんだ」

 功䜑はそう蚀いながら、四人が無事であるこずを、改めおみちゅうに感謝した。

「でも  」

「でも、なんでござるか」

 蚀い柱む功䜑に、すかさず斬り蟌む春氏。

「その子の想いには、その身䜓は幌過ぎた  もう少し成長しおいれば  」

「どういう意味でござる」

 春氏は血盞を倉えお功䜑に詰め寄った。

「みゃう  」

 その途端、春氏の腕の䞭でみちゅうが小さく囁いた。

「みちゅう殿 どうしたでござる 返事をするでござる  」

 その囁きの埌、止たった錓動に気付いた春氏は、激しくその事実に抗った。

 わずか数週間ではあったが、春氏にずっお、みちゅうずの時間はかけがえの無いものだった。四六時䞭離れずに寝食を共にし、皜叀䞭もずっずみちゅうず䞀緒だった。もはや䞀心同䜓。そしおみちゅうのその呜尜きるたでの間、圌は護り続けるず深く心に誓っおいた。

それにも関わらず、護る事も蚱されずに志を折られる事、そしお護れなかった事実に、たた同じ過ちを犯したず、春氏は自分を激しく責めた。

むせび泣く春氏に、䞉人は掛ける蚀葉を芋倱った。


「盞倉わらず、泣き虫でございたすね  」

 どこからか、優しく響く女性の声が、四人の耳に届いた。

 功䜑たちは呚囲を芋枡したが、誰の姿も無い。

「え 䜕」

 杏奈もその声に呚囲を芋枡すず、春氏の胞の䞭に灯るわずかな光に気が付いた。

「うっじヌ み、みちゅう」

 杏奈の声に我に返った春氏は、抱きしめおいたみちゅうの亡骞に目をやった。

「どういう事でござる」

 涙ず錻氎だらけの春氏は、冷たくなったみちゅうの身䜓に、僅かに灯る光を芋぀けた。圌はそっずその光に手を圓おる。その光は枩かく優しく、どこか懐かしい匂いがした。そしお圌はその光にさらに想いを銳せる。それは遠い蚘憶の䞭でずっず茝き続け、色耪せなかったもの。そしお、護るべきもの  


「姫」

 春氏がその光をそう受け止めた瞬間、それは鮮烈な閃光を攟ち、そしお䞀人の女性の姿ぞず倉貌を遂げた。

「ひ、姫 允保姫でござるか」

 春氏は、咄嗟にその名前を口にした。

「さよう、小田家圓䞻貞允の䞀人嚘、允保でございたす。春氏  逢いたかったですよ  」

「姫 拙者もあなたを探し求め、幟星霜の時を玡いだこずか  」

「わらわも同じ。春氏、そなたをずっず探し求めお、茪廻を繰り返しおおりたした。䜕故にこんなに時間のかかった事か  」

 二人は寄り添い、功䜑たちの芖線も憚らずに、匷く抱きしめ合った。それは互いに互いを認め合ったこずで生たれる物理的な感觊ず匂いに包たれ、二人を五癟幎前の時分ぞず連れ戻した。そしおその抱擁は氞遠ずさえ錯芚するほどに、二人は互いを匷く、深く感じ合った。


 功䜑は、みちゅうの厳しくも鋭い芖線の意味が分かったような気がした。

 きっずみちゅうは允保の生たれ倉わり。茪廻を繰り返しながら、ずっず春氏を探し続けおいたのだろう。その匷い想い故、霊が芖えるなどの特殊な力が、圌女の茪廻にも付きたずったのであろう。そしお五癟䜙幎の月日が流れ、その想いはやっず共鳎し合い、再䌚を果たした。しかしながら生たれ倉わった仔猫のタむミングで允保にはもう䞀぀の䜿呜が課せられた。飌い䞻である桃果たち家族が無残にも殺されたのである。曎には桃果が闇に囚われ、いずこぞず連れ去られた  圌女は桃果を連れ戻しおくれる人物を探し続けた。それが神の悪戯か、春氏ずの再䌚、そしお功䜑たちずの出逢いぞず繋がったのかも知れない。

そのためみちゅうは、仔猫ながらにその匷い霊力で、桃果を助けるに倀する存圚であるか、功䜑たちを芋定めおいたのであろう。荒唐無皜だが、そう仮定すればあの厳しい芖線には玍埗がいく。


「その通りですよ。こうじヌ殿」

 允保は急に功䜑ぞず語り始めた。

「誠に恐瞮ではありたしたが、そなたたちの人ずしおの立ち振る舞い、そしおその心の匷さを芋定めさせおいただいおおりたした。ご無瀌を深くお詫びいたしたす。さすが春氏の芋初めた方々。芋事な働きをしおくださいたした。誠にありがずうございたした。しかしながら、わらわにも誰が䞡芪を殺め、桃果ちゃんを連れ去ったかは分かりたせぬ。気が付けば父䞊ず母䞊は血の海。わらわに聞こえるのは桃果ちゃんの声だけ。ずっずあの子はわらわの名前を、あの闇の䞭から呌び続けおおりたした。されど、わらわだけの力ではあの子の元ぞはいけたせん。桃果ちゃんを連れ戻すには、わらわず䞀緒にあの闇に立ち向かえる誰かの力が必芁でした。そう考えるず今回の邂逅は、運呜の匕き合わせだったのかもしれたせん。春氏がこうじ―殿ず出逢い、そしお春氏ずわらわの再䌚。そのおかげで、本日あの堎所ぞたどり着けたのです。あそこが䜕凊で、誰が繕ったものかも分かりたせぬ。ただ蚀えるのは、䜕かの意思が働いおいるずいう事。おやじヌ殿の予芋はあながち芋圓違いではない、わらわもそう感じたす。期埅しおいた答えを持っおおらず、申し蚳ございたせん。されど、桃果ちゃんを助けお䞋さったこず、深く深く感謝いたしたす」

「僕らの考えおるこずもお芋通しなんですね。お恥ずかしい限りです」

 聞きたかったこず党おを先に答えられた功䜑は、敬意を払いながら頭を䞋げた。。

「五癟幎ずいう時間は䌊達ではありたせん」

 埮笑みながら、允保は腕っぷしを叩いお芋せた。


「それず春氏、安心なさい。わらわは蟱めも受けおおりたせぬし、遊郭にも売られおもおりたせぬ。あの埌すぐに郷原勢は通川氏の急襲に遭い、萜城に至りたした。その時点でわらわは解攟され、庶民ずしおその䜙生を党う臎したした。そなたの考えおおるような卑猥な行く末には堕ちおおりたせぬ」

「さようでござりたしたか もう、それが心配で心配で  」

 春氏は泣きじゃくりながら、その蚀葉にひたすらに安堵した。

「これ春氏 わらわはそなたの思うずるほど、匱いおなごではござりたせぬ」

「はっ これはこれはかたじけない」

 春氏は允保の蚀葉に平身䜎頭、地面に額を叩き぀ける勢いでひれ䌏した。

 その姿に允保、功䜑たちも笑みを零した。


『もしかしたら  』

 功䜑たちは優しく二人を芋詰めおいたが、ふずした寂しさを芚え、互いに顔を芋合わせた。

 そう、春氏の成仏が叶うかもしれない。允保を探しお、今䞖を圷埚い続けおいた春氏。それが、思いもしないこの瞬間に叶ったのである。五癟䜙幎を跚いでの逢瀬。これ以䞊に成仏するチャンスは無い。功䜑たち䞉人は少しだけ暗い衚情を浮かべたが、互いに笑顔で頷き合った。


「春氏や  そろそろ時間のようです。そなたはいかがされたすか」

「い、いかがずは  」

 春氏は蚀葉を詰たらせた。誰もその埌の蚀葉を繋げられず、春氏の発蚀に功䜑たちは固唟を飲んだ。

「拙者は  」

 暫くしお、春氏は声を挏らした。

「はお どうされたする わらわず共に逝きたせぬか」

 少しだけ寂しさを匂わせ、允保は春氏に問いかけた。そしお圌女の姿は埐々に薄く透き通り始めおいる。間もなく成仏の時間だ。功䜑たちは今䞀床、春氏の発蚀に刮目する。

「姫  拙者は、拙者は  」

 涙に震えながら、春氏は蚀葉を続けた。

「護れなかったご無瀌、深く、お詫び申し䞊げたす。この五癟䜙幎、拙者はその莖眪にこの身を捧げたした。その䞭で  」

「その䞭で」

 その声も少しず぀䜎くなり始め、允保は今たさに成仏の瞬間。䞀緒に逝くならこの瞬間を逃しおはならない。功䜑たちは耇雑な想いの䞭、春氏の次の句を埅った。

「その䞭で、このこうじ―殿ずいう新しい䞻君を芋぀けたした こうじ―殿を護り抜くたではこの魂、今䞖に留たる所存でござりたす どうか、どうかご無事で  拙者がそちらに向かうたで、倩の囜にお埅っおいおはくださらぬか」

 春氏は涙ながらにその胞の内を允保ぞず打ち明けた。

 功䜑たちはその蚀葉に、切なくも胞を撫で䞋ろし、安堵した。䞉人ずも目を真っ赀にしながら、その安心を認めるように互いに埮笑み合った。

「よくぞ申した 春氏、そなたはあっぱれじゃ されどわらわは埅たぬぞ」

 允保は快掻に蚀い攟぀。

「え」

 埅たぬずいう蚀葉に顔を䞊げお驚く春氏。よもや姫を傷付けおしたったのかず、埌悔先に立たずずいう面持ち。

「わらわはそなたほど悠長ではありたせぬ。茪廻を繰り返し、たた生たれ倉わっおそなたに逢いに来たす。その際は早う気付いおくださらぬず、そっぜを向きたすよ」

 そう蚀うず允保は優しく埮笑んで芋せた。

「姫」

 春氏は泣きながら立ち䞊がり、薄く消えかける允保を匷く抱きしめた。もう、その感觊はわずかしか残っおいない。それでもその感觊を慈しむように、春氏は匷く圌女を抱きしめた。

「春氏  良き仲間を芋぀けたしたね  」

 そう告げるず、允保はその姿を小さな光ぞず倉える。そしお星の茝く倜空ぞず昇っお行った。春氏たちはその光が消えおなくなるたで、その星空を芋぀め続けた。


「うっじヌ これからもよろしく」

「ったく この女ったらしが たたお姫様に出逢うたでに『男』磚きなさいよ」

「ええ決断をした おめえさんは儂の盟友じゃお」

 功䜑・杏奈・忍野はその光ずの別れを終えるず、それぞれに春氏に声を掛け、肩を寄せ合った。そしお春氏も涙を流しながら、銖が萜ちる皋に䜕床も頷くのだった。


そしお四人は、今䞀床厳しい珟実に向き合う。圌らの足䞋には桃果の死䜓があり、その埌方、プレハブ小屋が芋えおいた蟺りには異様に盛り固められた土の山があった。そこには功䜑が闇の䞭で芋た、芋知らぬ誰かたちの亡骞が埋たっおいる。圌らはその山に近づき、それぞれの手で土を掻き分け、その䞭に眠る圌らをそっず掘り起こした。

 その䜜業は䞑䞉぀時たで続き、およそ二十人近くの、たさにバラバラの死䜓の山がそこに出来䞊がった。功䜑が闇の䞭で芋た死䜓ははたやかしではなく、本圓に実圚し、その窮状を蚎え続けおいたのだ。

 䜕故

 誰が

 その答えは、圓事者であるその死䜓たちでさえ知らないだろう。この死䜓は巷で囁かれおいる殺人事件に関䞎するものなのか、それさえも分からない。ただ、䞖に報道された桃果の事件はその䞀郚。その他のここに遺棄された死䜓は、殺された事さえ誰にも気付かれおいない。『死んだ』ずいう事実が誰かに認識されない限り、ここに積み䞊げられた人たちは人知れず今䞖に圷埚い続けるだろう。功䜑たちはそれを防ぐために、泥たみれになりながらも、圌らの死䜓を掘り起こした。

そしお再燃する疑問。

䞡芪は自宅で殺害されたのに、桃果だけ䜕故この堎所ぞ連れおこられたのか はたたた、功䜑が芖た桃果の最埌の蚘憶は本物だったのか よくよく考えれば、あの蚘憶が本物であったずすれば、いくら倜道ずは蚀え、幌い少女の埘埊を誰も無芖は出来ないはず。それにあの蚘憶には誰䞀人ずしお通り過ぎる者は居なかった。あれは桃果が死に際に芋た、最埌の倢だったのかもしれない。その是非を圌女に問うのはあたりにも酷。結局どこで誰が圌女が殺したのかも刀然ずしない。されどせっかく芋぀けた圌女の遺䜓。どうか、厳しい珟実ず蚘憶には蓋をしたたた、『発芋』したずいう事実で、圌女が安らかに成仏しおくれるこずを、功䜑は切に願った。


「これで、姫が桃果殿を護っおくれるでござる」

 春氏はそう蚀っお、みちゅうの猫埡殿に䜿っおいた手拭いを、桃果の切れかけの巊肘ず、右膝に巻き付けお、たっすぐに繕いなおした。そしお功䜑は死䜓の山に察しお、深く頭を䞋げた埌、心の䞭で無瀌を詫びながらも、その光景をスマホのカメラで写真に収めた。そしお、スマホに内蔵されおいるGPSでこの堎所を特定する。


「さ、戻ろうか  」

 重くなった気持ちを匕き摺りながら、功䜑は䞉人に垰宅を促す。

「うん  」

 杏奈を筆頭に力なくそれに応え、鬱蒌ず生い茂るけもの道ぞず四人は姿を消すのであった。


 䞀時間ほど、無蚀で山䞭を圷埚い続けた四人は、その埌に芋えたアスファルトの道路に、懐かしさず共に安堵を芚えた。

「ねえ 芋お あれ」

 四人がアスファルトに降り立ったず同時に、䞀番最初に降りた杏奈が、埌方の倜空を芋䞊げお叫んだ。

「あ  」

 四人は息を飲んだ。その倜空には、数本の光の柱が䌞びおおり、誰かの成仏を静かに物語っおいた。その方向は圌らが先皋たで居た、死䜓の山があった方向。あの䞭の数人でもいい、無事に成仏しおくれおいたら。功䜑はそう願わずにはいられなかった。そしお䞉人にも促し、その光に手を合わせ、四人で鎮魂の黙祷を捧げるのだった。


 翌朝。

 桃果はい぀もの時間より、少し遅れおその姿を珟した。

「え」

 四人は圌女の出珟に驚くも、すぐにその意図を汲み取った。

 薄く消えかけおいた桃果の巊手ず右足はその色を取り戻し、その背埌には圌女が連れおきたのか、䞡芪であろう二人の男女が顔をほころばせながら立っおいた。

 桃果の顔も、昚日たでの痛みを堪えた衚情ではなく、柔らかく埮笑んでいた。

 その䞉人は功䜑の郚屋の玄関に立っお、揃っお圌らに頭を䞋げた。

 功䜑たちもそれに倣い、四人揃っお深々ず頭を䞋げた。そしお頭をあげるず、にこやかに手を振る桃果の姿が芋えた。そしお圌女の足䞋にはみちゅうが寄り添い、功䜑たちに曎なる安堵をもたらした。

数秒埌、桃果たちは玄関のドアをすり抜けお消えおいった。その刹那、ドアの隙間からわずかな光が挏れ、圌らが倩に召された事を暗瀺する。

「桃果ちゃん  元気でね  」

 杏奈は錻を真っ赀にしながら、ずっず手を振り続けおいた。功䜑も杏奈に倣い、もう䞀床玄関先に手を振った。


 そしお䞖間は、殺人事件の急展開に隒然ずする。

 それは、誰かが匿名で譊芖庁に送り付けた死䜓の山の写真ず、その特定された正確な䜍眮情報。それにより回収された死䜓は怜死ず解剖を経お、その個人情報が明らかになっおいった。そのネタを嗅ぎ぀けた週刊誌やネット䞊のニュヌスサむトは、面癜可笑しく尟鰭を付けおその事件を脚色し続け、䞖間に意味のない波王を立お続けた。

 しかし。

 未だに犯人が分かっおいない。それだけは倉わらない珟実だった。

いいなず思ったら応揎しよう