Appleの発表会は、なぜ一晩で世界中のメディアを動かせるのか。iPhone Duoから考える「発表を広告に変える」設計
※本記事は2026年9月時点のApple、Nintendoの公式情報、報道記事、市場調査会社などの公開情報のみをもとに、マーケティング視点で個人的に考察したものです。企業の内部情報は使用していません。また、事実と私自身の仮説・考察は可能な限り分けて記載します。
2026年9月10日午前2時(日本時間)、Appleの新製品発表イベントが行われました。
今回、最も大きなニュースになったのは、Apple初の折りたたみiPhone「iPhone Duo」です。
開くと7.6インチ、閉じると5.4インチ。A20 Proを搭載し、複数アプリを同時に使える新しいiOS体験にも対応。価格は米国で1,999ドルから。10月16日に予約注文を開始し、10月23日に発売されます。Appleは同時にiPhone 18 Pro/Pro Max、Apple Watch Series 12/Ultra 4、AirPods 5なども発表しました。
発表直後からReuters、APをはじめ、世界中の一般メディア、経済メディア、テクノロジーメディアが一斉にこのニュースを報じました。
ただ、ここで一つ面白いことがあります。
折りたたみスマートフォンそのものは、まったく新しくありません。
Samsungは2019年にGalaxy Foldを発売し、その後Huaweiなど複数社が参入。2026年7月にもSamsungはGalaxy Z Fold8を発表しており、すでに何世代も商品を改良してきました。
それでも、
Appleが折りたたみiPhoneを発表すると、改めて世界中で「折りたたみスマートフォン」がニュースになる。
なぜなのでしょうか。
今回はiPhone Duoそのものの商品レビューではなく、
Appleはなぜ、新商品を発表するだけで世界中のメディアと顧客を同時に動かせるのか。
そして、
普通の企業は、そのAppleのマーケティングから何を学べるのか。
という視点で考えてみたいと思います。
Appleの発表会が注目されるのは、発表会の演出がうまいからだけではない
Apple Eventというと、
美しい映像。
洗練されたプレゼンテーション。
細部まで作り込まれた商品紹介。
などに目が行きます。
もちろん、それもAppleの強さです。
ただ私は、それだけではApple Eventの大きさを説明できないと思っています。
そもそもAppleには、
発表前から、その発表を見る理由を持つ人が世界中に大量に存在する。
ここが大きい。
その背景には、大きく4つの資産があると思います。
巨大な顧客基盤。
強い顧客ロイヤルティ。
何度も新しい顧客体験を提示してきたブランドの歴史。
そして、その期待を増幅する情報発信の仕組み。
この4つが循環しているから、
「Appleが何を発表するのか」自体がコンテンツになる。
私はそう考えています。
まずAppleは、現在でも世界最大級のスマートフォンブランド
Appleの発表が巨大なニュースになる理由として、まず無視できないのが単純な顧客規模です。
Counterpoint Researchによると、2025年通年の世界スマートフォン出荷台数でAppleは20%のシェアを獲得し、世界1位でした。
直近の2026年Q2でもAppleは21%。Samsungの23%に次ぐ世界2位です。つまり現在でも、世界で出荷されるスマートフォンのおよそ5台に1台がiPhoneという規模です。
しかもプレミアム市場ではさらに強い。
600ドル以上のプレミアムスマートフォン市場では、2025年上期にAppleが62%を占めています。
2026年Q2には、世界スマートフォン市場の売上高の49%をAppleが占めたというCounterpointの集計もあります。
つまりAppleの新製品発表は、一部のガジェット好きだけに関係するニュースではありません。
世界中の非常に多くの人にとって、
「自分が次に買う可能性のあるデバイスが発表される日」
でもあります。
これだけでも、ほかの多くの企業とはスタート地点が違います。
では、なぜこれほど大きな顧客基盤を作れたのか
ここはAppleブランドそのものの話になります。
Appleは2026年1月、世界で稼働しているApple製デバイスが25億台を超えたと発表しています。
また米国の調査ではありますが、CIRPによると2026年Q1にiPhoneを購入した人の87%が、それ以前もiPhoneユーザーでした。
もちろん、これだけを見て「Appleには熱狂的なファンが多い」と単純に結論づけることはできません。
OSやデータ、アプリ、周辺機器などを含むエコシステムによるスイッチングコストもあります。
ただ少なくとも、
Appleには巨大で、継続性の高い顧客基盤がある。
これは事実としてかなり強い。
そして私は、その顧客基盤ができた理由を、単に「デザインがいいから」だけで説明するのも違うと思っています。
Appleのブランドは、
先進的な商品体験を何度も提示してきたこと。
ハードウェアとソフトウェアを一体で設計してきたこと。
直感的で洗練されたデザインを一貫して提供してきたこと。
それを何十年も積み重ねてきたこと。
によって作られているのではないでしょうか。
Kantar BrandZの2025年ランキングでは、Appleは4年連続で世界で最も価値の高いブランドと評価され、ブランド価値は約1.3兆ドル。Interbrandの2025年ランキングでも世界1位でした。評価方法はそれぞれ異なりますが、現在でも世界有数のブランド資産を持つ企業であることは共通しています。
Appleは「いつも世界初の会社」ではない
ここはAppleについて考えるうえで、とても重要だと思っています。
Appleには、
「誰も見たことのないものを最初に作る会社」
というイメージがあります。
ただ、歴史を見ると必ずしもそうではありません。
MP3プレーヤーはiPod以前からありました。
スマートフォンはiPhone以前からありました。
スマートウォッチもApple Watch以前からありました。
今回の折りたたみスマートフォンも、Appleが最初ではありません。
では、なぜAppleは今でも、
「新しいものを作る会社」
という印象を持たれるのでしょうか。
私は、
すでに存在している技術やカテゴリーも含めて、「普通の人が使いたくなる体験」へ再定義することを何度も成功させてきたから
だと思っています。
Macintosh、iMac、iPod、iPhone、Apple Watch
Appleは2026年に創業50周年を迎えました。
Apple自身も50年を振り返る中で、Apple II、Macintosh、iPod、iPhone、iPad、Apple Watchなどについて、強力なテクノロジーと直感的なデザインを組み合わせてきた歴史として紹介しています。
例えばMacintosh。
1984年当時、コンピュータを専門家だけのものではなく、より直感的に人が操作できるパーソナルな道具として提示しました。
1998年のiMacも象徴的です。
当時のPCには機械的な工業製品の印象が強かった中で、半透明の筐体や大胆なカラーリングを持つiMacは、コンピュータそのものの見え方を大きく変えました。
そして2001年のiPod。
MP3プレーヤー自体をAppleが発明したわけではありません。
しかしAppleは、
「1,000曲をポケットに」
という一瞬で理解できる顧客価値へ変換しました。
さらに、ハードウェアだけではなく、iTunes、Auto-Sync、UIまで一つの体験として設計しました。
2007年のiPhoneも同じです。
スマートフォン自体はすでに存在していました。
それでもAppleは、
電話。
iPod。
インターネット端末。
を一台へ統合し、大型のマルチタッチディスプレイを中心とした新しいUIを提示しました。
Apple Watchも世界初のスマートウォッチではありません。
ただAppleはDigital Crownなど新しい操作方法と、美しいハードウェア、ソフトウェア、ヘルスケアを一体化し、「腕につけるコンピュータ」をAppleらしい体験として提示しました。
つまりAppleは、
何でも世界で最初に発明してきた会社というより、テクノロジーを「人が欲しくなる完成された体験」へ翻訳することを何度も成功させてきた会社
と考える方が近いと思います。
そして、その積み重ねがブランドになります。
商品がブランドを作り、ブランドが次の商品を大きくする
ここがマーケティングとして非常に面白いところです。
最初は、
良い商品を作る。
新しい体験を作る。
美しいデザインを作る。
というところから始まる。
それを何度も成功させることで、
「Appleは次の体験を見せてくれる会社」
という期待が顧客側に蓄積される。
すると次の商品は、
発表する前から注目される。
発表するとコアユーザーが反応する。
メディアが記事を書く。
SNSで拡散される。
カジュアルな顧客まで知る。
その結果、Appleブランドの「先進的な会社」という認識がさらに強くなる。
つまり、
商品がブランドを作り、ブランドが次の商品を増幅する。
Appleは、この循環を何十年も続けてきたのだと思います。
だから、「Appleが参入する」こと自体がニュースになる
今回のiPhone Duoは、まさにその象徴です。
Samsungは2019年からフォルダブル(折りたたみ)スマートフォンを販売しています。2026年7月にもGalaxy Z Fold8を発売し、商品そのものも進化を続けています。
にもかかわらずAppleが参入すると、
「折りたたみスマートフォン市場がこれからどうなるのか」
というカテゴリー全体のニュースになります。
IDCはApple参入によって、2026年のフォルダブル市場が成長へ転じると予測し、Appleが2027年までに世界フォルダブル市場の約40%を占める可能性まで示しています。
これはかなり象徴的です。
もちろん、
Samsungの新商品よりAppleの方が何倍報道された、
といった定量的なメディア露出比較をここでしているわけではありません。
ただ報道の「意味」が違う。
Samsungの場合は、
「新しいGalaxy Z Foldが発売された」
という商品ニュースになりやすい。
Appleの場合は、
「Appleがフォルダブル(折りたたみ)へ参入した。これで市場そのものが変わるのではないか」
という産業ニュースにまでなる。
Appleにとってのブランド資産とは、
単にロゴの認知度が高いことではありません。
「この会社が次に何をするのかを見る価値がある」と、顧客だけでなくメディアや業界からも思われていること。
これは非常に大きな資産だと思います。
「コアユーザー → メディア → カジュアル層」という自己増幅構造
そして、ここからApple Eventの強さにつながります。
私はAppleの発表会には、大きく3つの層が同時に動く構造があると思っています。
1. プロダクトへのエンゲージメントが高い顧客が直接見る
AppleやiPhoneへの関与度が高い人は、Apple Eventそのものを見ます。
新しいデザインはどうなったのか。
どんな機能が追加されたのか。
価格はいくらなのか。
いつ買えるのか。
をリアルタイムで確認する。
そして、
X。
YouTube。
ブログ。
ニュースへのコメント。
友人との会話。
などで発信する。
つまりAppleは、発表直後から、
顧客自身による大量の情報発信
を得ることができます。
2. メディアが「次の業界変化」を探しながら見る
Apple Eventを見ているのはAppleファンだけではありません。
テクノロジーメディア。
一般ニュース。
経済メディア。
投資メディア。
通信会社。
小売。
競合企業。
まで注目しています。
なぜなら、
Appleの発表が、その後の市場そのものを動かす可能性がある
からです。
今回のiPhone Duoも、単なる新しいiPhoneとしてだけではなく、
「Apple参入によってフォルダブル市場がどう変わるか」
という市場ニュースとして報じられています。
だからメディア側にも、
「今回Appleは何を発表するのか」
を見る理由があります。
3. それを見たカジュアル層がAppleを再認識する
そして、最も人数が多いのはおそらくここです。
多くの人は、午前2時からApple Eventをリアルタイムで見るわけではありません。
朝起きる。
ニュースアプリを見る。
テレビを見る。
Xを開く。
YouTubeを見る。
そこで、
「Apple、初の折りたたみiPhone発表」
というニュースを知る。
このとき、単に、
「新しいスマートフォンが出た」
だけでは終わらないのではないかと思います。
Appleについてもともと持っていた、
「先進的な会社」
「デザインが洗練されている会社」
「高品質なデバイスを作る会社」
「次のデジタル体験を見せてくれるブランド」
といったイメージが再び呼び起こされる。
もちろん、すべての人がAppleを「技術的に最先端の会社」と評価しているわけではありません。
例えば近年の生成AIでは、Appleはむしろ競合に遅れているという評価もあります。
それでも、
新しいテクノロジーを、一般の人が使いたくなる製品へ仕上げるブランド
という期待は強く残っている。
今回のフォルダブルも、技術そのものは新しくありません。
それでもニュースを見たカジュアル層には、
「Appleもついに折りたたみを出した」
「いよいよ折りたたみスマホが普通になるのかもしれない」
「Appleが作るとどうなるのだろう」
という新しい関心が生まれる。
つまりApple Eventは、
商品の認知だけでなく、「Appleは次の体験を作るブランドである」というブランド認識そのものを再強化する場
にもなっています。
このループが、次のApple Eventをさらに大きくする
構造として見ると、
コアユーザーが見る。
→コアユーザーが発信する。
→メディアが報じる。
→SNSでさらに広がる。
→カジュアル層がAppleを再認識する。
→「やはりAppleの次の商品は見ておこう」という期待が蓄積される。
→次回のApple Eventがさらに注目される。
という循環になっています。
私はこれを、
Apple Eventの自己増幅するマーケティングループ
と考えています。
Appleは毎回ゼロから認知を買っているわけではありません。
過去の商品。
過去の発表会。
過去に蓄積された顧客体験。
過去の報道。
が、次の発表会のメディア価値になります。
これは長期間ブランドを育ててきた企業にしか作れない、非常に大きなマーケティング資産です。
Apple Eventは「商品説明会」ではなく、巨大な情報解禁日
そして、ここから今回私が一番注目したい「発表の設計」に入ります。
Apple Eventを見ると、もちろん商品説明をしています。
機能。
デザイン。
カメラ。
チップ。
AI。
価格。
発売日。
ただ私は、Apple Eventを単なる商品説明会として見ると、本質を見誤ると思っています。
Appleが作っているのは、
世界中が同じ瞬間にAppleについて語り始める日
です。
イベントが始まる。
Appleが新商品を発表する。
公式サイトが更新される。
Newsroomに詳細情報が出る。
メディアが記事を書く。
SNSで感想が広がる。
YouTubeで解説動画が作られる。
検索が増える。
顧客が商品ページを見る。
価格を確認する。
予約開始日を確認する。
発売日を待つ。
企業側から見ると別々の施策ですが、顧客から見れば、
一つの連続したApple体験
です。
Appleは発表会を、
「イベントを実施した日」
ではなく、
PR、SNS、Web、動画、検索、EC、予約、店頭までを一気に動かす巨大な情報解禁日
として使っているように見えます。
新商品だけでなく、「価格」と「次の行動」まで同時に見せる
今回のiPhone Duoで、私が非常にきれいだと思ったのがここです。
商品を発表する。
同時に価格も明らかになる。
そして、
9月9日 発表。
10月16日 予約開始。
10月23日 発売。
という次の行動まで示されています。
発表から予約開始まで約5週間。
予約開始から発売まで1週間です。
この約1か月半は、
単なる「発売待ちの期間」ではありません。
むしろAppleにとって、
顧客とメディアが商品について考え、話し、期待を高める期間
として機能しているように見えます。
発表から発売までを、一種の「お祭り」にしている
世の中では多くの企業が新商品発表会を行います。
ただ、その役割はさまざまです。
商品コンセプトだけを発表する会。
広告タレントやインフルエンサーを招き、その出演者をフックにメディア露出を取る会。
発売当日に話題を最大化する会。
企業のビジョンを伝える会。
どれが正しいという話ではありません。
ただAppleの設計は非常にシンプルです。
商品を発表する。
価格を知る。
メディアが解説する。
顧客が比較・検討する。
SNSで議論が続く。
予約開始を迎える。
そして発売日を迎える。
という時間軸がはっきりしています。
発表時点ですべてを売る必要はありません。
むしろ、
「これ欲しいかもしれない」
と思わせてから、
調べる時間を作る。
他の商品と比べる時間を作る。
レビューや解説を見る時間を作る。
友人と話す時間を作る。
SNSで議論する時間を作る。
その熱量が十分に高まったところで予約を開始する。
そして予約開始のニュースでもう一度山を作り、その1週間後に発売する。
私は、
発表 → 検討 → 予約 → 発売
という期間全体が、一種のお祭りとして設計されているように感じます。
Appleは、自分たちが「どれくらい注目されるブランドなのか」を理解している
ここは私自身の仮説ですが、非常に重要だと思っています。
もし誰にも注目されていない商品なら、発表から予約開始まで5週間空ければ、単純に忘れられてしまう可能性があります。
逆に情報を出し続けすぎれば、顧客は疲れてしまう。
だから、
どれくらい情報を出すのか。
どれくらい間隔を空けるのか。
いつ次のニュースを作るのか。
は、
自分たちの商品が顧客からどれくらい注目されるのか
を理解していないと設計できません。
Appleは長年の製品発売を通じて、
コアユーザーはどれくらい情報を追うのか。
発表後に何を調べるのか。
どんな情報がSNSで語られるのか。
メディアは何をニュースにするのか。
どれくらいの期間なら話題が持続するのか。
ということについて、非常に高い解像度を持っているのではないかと思います。
また長年、世界中のメディアに新製品を報じられ続けてきた企業です。
公開情報だけからメディアとの具体的な関係性までは分かりません。
ただ少なくとも、
「この情報をこのタイミングで出せば、メディアや顧客がこう動く」
という知見は、膨大に蓄積されているはずです。
だからこそ、
情報を詰め込みすぎない。
でも間を空けすぎない。
顧客が自分で調べる余白も残す。
メディアが解説する余白も残す。
そして次の行動タイミングを明確にする。
という、とてもきれいなスケジュールを作れるのではないでしょうか。
マーケティングでは「何を出すか」と同じくらい、「いつ出すか」が重要
これはAppleだけの話ではありません。
新商品のマーケティングでは、
何を発表するのか。
どんな広告を作るのか。
どんなPRをするのか。
に目が行きがちです。
でも実際には、
いつ情報を出すのか。
その情報を受け取った顧客に、次に何をしてもらうのか。
次の情報までどれくらい時間を空けるのか。
も戦略です。
私は新商品のプロモーションを考えるとき、
「発売日に何をするか」
から考えるより、
顧客の感情をいつ一番大きく動かしたいのか
を先に考えます。
そのピークから逆算して、
発表。
理解。
興味。
比較。
購入意向。
予約
発売。
を設計する。
Apple Eventは、それを非常に大きな規模で実行している事例だと思います。
Appleが作っているのは、「広告枠」ではなく「ニュースになる時間」
通常、新商品を発売するときは、
広告でリーチを買う。
PR会社へメディア露出を依頼する。
SNSで投稿する。
インフルエンサーへ依頼する。
という形で考えます。
Appleも当然、広告を使います。
でもApple Eventにはもう一つの特徴があります。
発表会そのものが、メディアがAppleについて記事を書く理由になっている。
企業が広告費を使って、
「新しいiPhoneが出ました」
と伝えるだけではない。
メディア自身が、
「Appleは何を発表したのか」
を解説する。
さらに、
Samsungと何が違うのか。
本当に折りたたむ必要があるのか。
2,000ドルの価値があるのか。
フォルダブル市場はどう変わるのか。
まで議論する。
これは、別記事でPRについて書いたときにも感じたことですが、
企業が情報を発信するだけではなく、「第三者がその商品について語りたくなる状況」を作る
ことは非常に強いマーケティングです。
Appleは発表会によって、
世界中がAppleについて語る時間そのものを作っている。
私はここがApple Eventの本質的な強さの一つだと思っています。
そして面白いのは、「良い評価」だけを作る必要がないこと
今回のiPhone Duoも、反応はすべて肯定的というわけではありません。
価格が高い。
本当に折りたたむ必要があるのか。
Samsungより遅れている。
折り目や耐久性はどうなのか。
といった議論も当然あります。実際、報道でもAppleがフォルダブル市場へ遅れて参入したことや、約2,000ドルという価格への懐疑的な視点が出ています。
でも、マーケティングとして見ると、
全員に、
「素晴らしい商品です」
と言わせる必要はありません。
高い。
欲しい。
いらない。
面白い。
Samsungの方がいい。
Appleだから期待する。
そうした議論も含めて、
社会のアジェンダに商品が載っていること
が重要です。
話題になる。
比較される。
検索される。
解説される。
その過程で認知と理解が広がっていきます。
発表会の数時間前にはNintendo Directもあった
今回もう一つ面白かったのが、Apple Eventの少し前にNintendo Directが配信されていたことです。
Nintendo Direct 9.9.2026は約45分間で、Nintendo Switch 2向けにこの冬発売予定のタイトルを中心に情報を発信。その後Nintendo Treehouse: Liveで実際のゲームプレイも見せる構成になっていました。
AppleとNintendo。
業界も商品も違います。
でもマーケティングとして見ると、共通するところがあります。
企業自身が「発表するためのメディア」を持っている。
Nintendoはゲームメディアへ情報を渡すだけではありません。
Nintendo Directをファン自身が見る。
SNSで盛り上がる。
ゲームメディアが個別タイトルを記事にする。
さらにTreehouseで詳しく見る。
Appleも同じです。
Apple Eventを顧客が直接見る。
メディアも見る。
その内容を各メディアが記事にする。
SNSで広がる。
公式サイトで深く理解する。
つまり、
自社の情報解禁そのものを、待たれるコンテンツにしている。
これは両社に共通する非常に大きな強みです。
ただしAppleとNintendoでは、広がり方が少し違う
Nintendo Directは、
ゲームが好きな人。
Nintendoが好きな人。
Switch 2を持っている、あるいは購入を検討している人。
といった、比較的エンゲージメントの高いファンが直接見るところから始まります。
そこからSNSやゲームメディアへ広がっていく。
つまり、
ファンコミュニティを起点に外へ拡散する構造
が強い。
一方Apple Eventは、
Appleファン。
スマートフォンユーザー。
テクノロジーメディア。
一般ニュース。
経済メディア。
投資家。
通信会社。
小売。
競合企業。
まで同時に動く。
つまりApple Eventは、
コアファン向けの自社メディアでありながら、一般社会へ情報を流す巨大な情報インフラにもなっている。
どちらが優れているという話ではありません。
重要なのは両社とも、
「発表」自体を企業のマーケティング資産にしていること
だと思います。
普通の企業は、Apple Eventの何を真似すればいいのか
当然ながら、
「自社でもAppleのような発表会を開催しよう」
という話ではありません。
Appleには、
世界最大級の顧客基盤。
強いブランド。
膨大なメディア注目。
何十年も積み重ねてきた発表会への期待。
があります。
普通の企業が同じ会場、同じ映像、同じ演出を真似しても、同じ結果にはなりません。
でも、
設計思想はかなり真似できる。
私はそう思います。
私なら、新商品の情報解禁を7つに分けて設計する
もし新商品のマーケティングについて相談されたら、私は最初から、
「発表会をやりましょう」
とは考えません。
まず、以下を整理します。
1. Goal|何を達成したいのか
発売初月に何個売りたいのか。
売上はいくら必要なのか。
予約をどれくらい取りたいのか。
ブランド認知を変えたいのか。
まず事業成果を決めます。
2. Audience|誰を動かすのか
コアユーザー。
ライトユーザー。
休眠顧客。
新規顧客。
メディア。
業界関係者。
それぞれ、持っている情報も関心も違います。
3. Customer Change|どんな感情変化を作るのか
知らない。
→知る。
→気になる。
→理解する。
→自分に必要だと思う。
→欲しい。
→買う。
どのタイミングで、どの変化を作るのかを決めます。
4. Peak|一番大きな山をどこに置くのか
発表日。
予約開始日。
発売日。
イベント。
すべてを同じ強さにする必要はありません。
顧客の感情を最も大きく動かすタイミング
を決めます。
5. Attention|顧客とメディアの「注目の持続時間」を考える
ここはAppleからかなり学べると思います。
自社の商品について、
発表したらどれくらい話題が続くのか。
顧客は何日くらい調べるのか。
メディアは何回ニュースにしてくれるのか。
次の情報までどれくらい空けても興味が持続するのか。
を考える。
Appleには5週間待たせても話題を維持できるブランド力があります。
普通の商品なら、もっと短くした方がよいかもしれない。
つまり、
情報解禁スケジュールは、自社のブランド力や顧客エンゲージメントに合わせて設計する。
ことが重要です。
6. Synchronization|すべての施策を同期させる
PR。
広告。
SNS。
インフルエンサー。
イベント。
Web。
EC。
店頭。
を別々に考えない。
情報解禁日から逆算して、
どこで何を出すのか。
誰に何を語ってもらうのか。
次の顧客行動へどうつなぐのか。
を一つのスケジュールにします。
実行は分担する。でも戦略の軸は分散させない。
ここは非常に重要だと思っています。
7. Action & After|発表後に何をしてもらい、熱量をどう維持するのか
発表を見た。それで終わりではありません。
検索する。
公式サイトを見る。
動画を見る。
レビューを読む。
店舗で触る。
予約する。
購入する。
という次の行動を用意する。
さらに、
発表。
予約開始。
発売。
レビュー解禁。
キャンペーン。
など、複数の山を作る。
発表で作った熱量を、購入まで運ぶ。
ここまでが、新商品マーケティングだと思っています。
発表会の目的は、「発表すること」ではない
Apple Eventを見ていると、
美しい映像。
新しいデバイス。
演出。
プレゼンテーション。
に目が行きます。
でもマーケティングとして本当に学ぶべきなのは、
イベントそのものではなく、イベントを起点に何が起きるように作られているのか
だと思います。
コアユーザーが見る。
メディアが記事を書く。
SNSで会話が生まれる。
カジュアル層が知る。
検索する。
商品を理解する。
欲しくなる。
比較する。
予約する。
発売を待つ。
購入する。
そして、その経験がまたAppleブランドへの期待になる。
発表という一点から、
顧客行動とブランド形成が連鎖している。
だからApple Eventは、単なる新商品発表会ではありません。
世界規模のマーケティング装置
になっているのだと思います。
情報は「出す」のではなく、「顧客を動かす」ために設計する
今回Appleは、初めて折りたたみiPhoneを発表しました。
でも折りたたみスマートフォンをAppleが発明したわけではありません。
競合企業は、何年も前から商品を販売しています。
それでも、
「Appleが参入した」
というだけで、カテゴリーそのものが改めてニュースになる。
その背景には、
巨大な顧客基盤。
強いブランド。
何度も新しい体験を提示してきた歴史。
コアユーザー。
メディアからの注目。
そして、それらを理解したうえで設計された情報解禁スケジュール。
があります。
Appleが優れているのは、
単に「注目されるブランドだから」ではないと思います。
自分たちがどれくらい注目されるのかを理解し、その注目を顧客の感情と行動へ変換する設計が非常にうまい。
そこまで含めてAppleのマーケティングなのではないでしょうか。
発表する。
話題になる。
少し待たせる。
調べてもらう。
考えてもらう。
メディアにも語ってもらう。
予約開始でもう一度盛り上げる。
発売日にもう一度ピークを作る。
そして、また次のApple Eventを待ってもらう。
私はApple Eventから学ぶべきなのは、豪華な発表会の作り方ではないと思っています。
情報を「出す」のではなく、「顧客を動かす」ために設計すること。
そして、
発表を「ニュース」で終わらせず、「顧客行動」へ変えること。
さらに、
発表から発売までの時間そのものを、顧客と一緒にブランドを盛り上げる期間へ変えること。
ここに、Appleの発表会が一晩で世界中のメディアを動かし、その先で多くの顧客まで動かせる理由があるのではないでしょうか。
マーケティング戦略・プロモーション設計について
新商品を発売するが、何からマーケティングを考えればよいか分からない。
発表、PR、広告、SNS、インフルエンサー、イベントなどを、どう一つの戦略としてつなげればよいか分からない。
あるいは、
「そもそも何がマーケティング上の課題なのか、まだ整理できていない」
という段階でも大丈夫です。
私は、事業や商品、お客様の状況を伺いながら課題を整理し、マーケティング戦略、プロモーション、KPI、予算、スケジュール、実行計画までを一緒に考える仕事をしています。
まずは30分程度、オンラインで気軽にお話しできればと思っています。発注を前提にしていただく必要もありません。
ご相談はこちらのLinkedInのDMから、「マーケティングについて少し相談したい」と一言いただくだけでも大丈夫です。
お気軽にご連絡くださいね。

